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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】フッ素系繊維から成る抄紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/12 20060101AFI20231129BHJP
   D04H 1/4318 20120101ALI20231129BHJP
【FI】
D21H13/12
D04H1/4318
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019146075
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021025175
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 元樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 大
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-049387(JP,A)
【文献】特開2005-273100(JP,A)
【文献】特開2002-155457(JP,A)
【文献】特開2011-179126(JP,A)
【文献】特開平03-097993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 13/12
D04H 1/4318
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙を構成する繊維が融点の異なる2種類以上のフッ素系繊維のみから成り、その少なくとも一部が融着していることを特徴とする抄紙。
【請求項2】
フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維を含む請求項1記載の抄紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系繊維から成る抄紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙は、幅広い分野でニーズがあり、フィルターやセパレーター、さらには電気絶縁部材など様々なものに用いられる。それぞれの用途によって、求められる厚みや耐熱性や緻密性は様々である。このため、抄紙製造条件の最適化はもちろんのこと、使用する繊維の素材としての特性、物性の最適化も重要となる。
【0003】
近年、ノートPC、スマートフォン、タブレットなどの普及が進み、これらがIT社会化に大きな貢献をしてきた。このため、ノートPC、スマートフォン、タブレットなどの電子デバイスに使用されているリチウムイオン電池の高度化、より安全で高い性能が期待される全固体二次電池の開発が望まれている。この状況の中、電子デバイスに使用される抄紙等の絶縁紙あるいは絶縁シートの性能も高度化が求められる。絶縁部材は、その使用環境によって求められる耐熱性や厚みは異なるが、全固体二次電池をはじめとした高機能二次電池では、使用環境温度が200℃を超えることもあり、絶縁部材にもそのような耐熱性が求められる。また、厚みに関しては、50μmより薄厚(厚みが薄いこと)なものが求められる。このような問題を解決するために常時使用温度が200℃を超えるフッ素系繊維の抄紙が望まれているが、フッ素系繊維の抄紙においては50μmより薄厚なものは得られていない。
【0004】
フッ素系繊維の抄紙の技術としては、ポリビニルピロリドンなどの自己接着機能を有する物質とフッ素繊維を混合してフッ素繊維混抄紙を得て、その後、自己接着機能物資を除去する方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1の実施例2において、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体から成り、繊維径が10μmのフッ素繊維90wt%とポリビニルピロリドン10wt%を分散混合して得たフッ素繊維混抄紙を90℃以上の熱水に通して、フッ素繊維抄紙を得ている。しかしながら、厚みが110μmと記載されており、電子デバイス用の絶縁部材に適さない。また、繊維径が10μmのフッ素繊維を用いているが、自己接着機能を有する物質を使用するため、これ以上の薄厚化が困難であると考えられる。
【0005】
他の技術としては、ポリテトラフルオロエチレンの水性ディスパージョンをマトリックス成分に分散させ、口金より紡出して得た未延伸ポリテトラフルオロエチレン系重合体繊維を加熱焼結する方法が知られている(特許文献2参照)。特許文献2の実施例1において、未延伸ポリテトラフルオロエチレン系重合体繊維を水に分散して得た抄紙原料を湿式抄紙して得た抄紙シートを400℃で4分間加熱処理して焼結させ、更に325℃で24時間熱処理させ、該焼結シートを縦および横方向に各々延伸倍率が1:3となるように延伸してフッ素繊維シートを得ていることが記載されている。しかしながら、厚みが87μmと記載されており、電子デバイス用の絶縁部材に適さない。また、未延伸ポリテトラフルオロエチレン系重合体繊維を用いているため、繊維径を小さくすることが難しく、これ以上の薄厚化が困難であると考えられる。
【0006】
薄厚抄紙を得るためには、抄紙の原料である繊維の繊維径を小さくする、かつ繊維径の小さい原料を用いて抄紙にする手法が重要と考える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭63-165598号公報
【文献】特開平3-130496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、摩擦特性、耐候性に優れるというフッ素系繊維の素材としての特性を維持しつつ、薄厚化させ、電子デバイス用の絶縁部材に適したフッ素系繊維から成る抄紙を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明のフッ素系繊維から成る抄紙は、抄紙を構成する繊維が融点の異なる2種類以上のフッ素系繊維のみから成り、その少なくとも一部が融着していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフッ素系繊維から成る抄紙は、融点の異なる2種類以上のフッ素系繊維のみから成り、その少なくとも一部が融着しているため、フッ素系繊維の素材としての特性を維持しつつ、薄厚化することができ、電子デバイス用の絶縁部材に適したフッ素系繊維から成る抄紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<フッ素系繊維>
本発明におけるフッ素系繊維としては、重合体の繰り返し構造単位の90%以上が、主鎖または側鎖にフッ素原子を1個以上含むモノマーで構成された繊維であれば、いずれのものでも使用することができるが、フッ素原子数の多いモノマーで構成された繊維ほど好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点327℃)、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体(FEP、融点275℃)、4フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点310℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点156~178℃)、エチレン-4フッ化エチレン共重合体(ETFE、融点270℃)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE、融点220~245℃)の繊維が挙げられる。これらのフッ素系繊維のうち、少なくとも融点の異なる2種類のフッ素系繊維(以下、融点が高いフッ素系繊維をフッ素系繊維A、融点が低いフッ素系繊維をフッ素系繊維Bということがある)によって本発明の抄紙は構成される。中でも、フッ素系繊維AにはPTFE、フッ素系繊維BにはPTFEに近い融点をもつPFAが好ましい。なお、本発明で用いるフッ素系繊維は、3種以上を混合して使用することもできる。また、フッ素系繊維中にセルロースおよびそれらの炭化物を1~25%含んでいても構わない。
【0012】
本発明におけるフッ素系繊維の繊維径としては、フッ素系繊維Aおよびフッ素系繊維Bのいずれも1.5μm以上20μm以下が好ましい。この範囲内であれば、繊維径は、フッ素系繊維Aとフッ素系繊維Bは異なっていても構わない。1.5μm以上であることで繊維同士が絡み易くなりすぎず均一に分散しやすくなる。20μm以下であることで繊維が硬くなったりしすぎず、繊維同士の絡合力を優れた範囲に維持することができる。その結果、十分な紙力が得られ、破れ難い抄紙とすることができる。
【0013】
また、フッ素系繊維の繊維長としては、フッ素系繊維Aおよびフッ素系繊維Bのいずれも0.5mm以上15mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以上~8mm以下である。この範囲内であれば、繊維長は、フッ素系繊維Aとフッ素系繊維Bは異なっていても構わない。0.5mm以上とすることで、繊維同士の絡合により抄紙の強度を高くすることができる。また15mm以下とすることで、繊維同士の絡合がダマになるなどしてムラ等が生じるのを防ぐことができる。
【0014】
本発明におけるフッ素系繊維A及びBの断面形状は特に限定されるものではなく、断面については丸型、β型、C型、三角、扁平、ドックボーン型、多葉型等、いずれの形状であってもよい。また、中空形状であってもよい。断面形状は、フッ素系繊維Aとフッ素系繊維Bは異なっていても構わない。
【0015】
さらに、フッ素系繊維Aおよびフッ素系繊維Bのいずれも、フィブリル化したフッ素系繊維であってもよい。ここで、フィブリル化とはたて方向に繊維が2本以上に裂け、それぞれがもとの繊維よりも細い状態となったり、繊維表面に毛羽立ち部分を有したりすることをいう。フィブリル化することで、繊維同士の絡合性が向上し、紙力が向上するため、抄紙時の工程通過性に優れた抄紙を得ることができる。フッ素系繊維をフィブリル化させる手段としては、例えば、ナイヤガラビーター、ホモジナイザー、ディスクリファイナー、ライカイ機、すり棒とすり鉢等が挙げられる。
【0016】
<フッ素系繊維から成る抄紙>
フッ素系繊維Bの混率は、抄紙中で10%以上90%以下であることが好ましく、15%以上80%以下であることがより好ましく、20%以上70%以下であることがさらに好ましい。フッ素系繊維Bの混率を上記範囲とすることで、引張強度および引き裂き強度に優れた抄紙を得ることができる。フッ素系繊維Bの混率が10%未満の場合、熱接着部分の割合が不十分で、抄紙としての引張強度および引き裂き強度が弱くなる。逆に、フッ素系繊維Bの混率が90%を超えた場合、抄紙がフィルムライクとなり、引き裂き強度が極端に低下する。
【0017】
ここでフッ素系繊維Bの割合は、加熱・加圧処理前のサンプルのタテ×ヨコ5cm角のサンプルを採取して各繊維に分別した後各繊維を100℃のオーブンで乾燥させた後、重量を測定してその比率から質量%として算出する。
【0018】
後述する抄紙工程においては、加工張力がかかるため、加工張力による抄紙の変形および破断を防止するために、フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素繊維を併用し、繊維同士の絡み合いで加工張力に耐えうる最低限の紙力を付与することが望ましい。マトリックス成分を含むフッ素繊維とは、後述するマトリックス紡糸法にて得られるフッ素系繊維延伸糸の中間体であり、焼成工程を経ていないフッ素繊維である。焼成工程を経ていないため、マトリックス成分が繊維中に残存している。フッ素系繊維をフィブリル化させる手段としては、前述のとおり、ナイヤガラビーター、ホモジナイザー、ディスクリファイナー、ライカイ機、すり棒とすり鉢等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
フィブリル化の度合いは、JIS P 8121-2(2012)に準拠したカナディアンフリーネステスターの濾水度で確認することができ、濾水度が10~900cmであることが好ましく、10~600cmであることがより好ましく、10~300cmであることがより好ましい。フィブリル化の度合いが少ない、つまり、濾水度が大きすぎる場合には、フィブリルによる絡み合いが少なくなり、ドライウェブの紙力が低下する。一方、フィブリル化の度合いが大きい、つまり、濾水度が小さすぎる場合には、フィブリル化工程の効率が低下するとともに、抄紙時の脱水工程の負荷が増大してしまう。
【0020】
フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の混率は、抄紙中で0~50%であることが好ましく、5~40%であることがより好ましく、10~30%であることがさらに好ましい。フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の混率を上記範囲とすることで、適度なドライウェブの紙力を付与することができる。フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の混率が上記範囲よりも大きい場合、ドライウェブの紙力は十分なものの、後述する加熱・加圧処理後のペーパーとしての力学物性が低下するため好ましくない。
【0021】
ここでフィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の割合は、加熱・加圧処理前のサンプルの場合、タテ×ヨコ5cm角のサンプルを採取して各繊維に分別した後各繊維を100℃のオーブンで乾燥させた後、重量を測定してその比率から質量%として算出する。
【0022】
次に、本発明のフッ素系繊維から成る抄紙を製造する方法について、その一例を説明する。
【0023】
<フッ素系繊維の製造方法>
フッ素系繊維の製造方法には、スプリット剥離法、ペースト押出法、溶融紡糸法、マトリックス紡糸法(エマルジョン法ともいう)などが知られている。
【0024】
スプリット剥離法とはフッ素系樹脂の粉末をシリンダ圧縮せしめた後、焼結、スプリット剥離させた後、延伸する製法である。
【0025】
ペースト押出法とは、フッ素系樹脂の粉末ワックス状潤滑剤と混練し、棒状もしくはフィルム状に成形した後、該潤滑剤を除去し、延伸、焼成(焼成しない場合もある) する製法である。しかしながら、これら2つの製法では、どうしてもその製法上細く切り裂いて得られる最終繊維状物の断面は扁平形状であり、しかもランダムで均一性に劣り、抄紙加工後に引き裂き強力などにバラツキが生じるという欠点があった。
【0026】
また、溶融紡糸法とは、フッ素系樹脂の粉末を融点以上の温度で加熱し、溶融させた樹脂を口金より紡出させ、繊維化させる製法である。この製法は、口金より紡出させることで均一性が高いフッ素系繊維が得られるが、融点が高く、融点を超えても流動性をほとんど示さないPTFEなどには適用できない。
【0027】
これらのことから、本発明のいうフッ素系繊維は、マトリックス紡糸法の実施が好ましい。マトリックス紡糸法とは、ビスコースなどをマトリックスとしてフッ素系樹脂の水分散液との混合液を口金より凝固浴中に吐出して繊維化し、次いで精錬した後、焼成を行う。フッ素系樹脂の融点以上で焼成することで、マトリックスポリマーの大部分を焼成飛散させながら、フッ素系樹脂を溶融し、粒子間を融着することで、初めてその後の延伸性が付与される。焼成後、未延伸糸は直接1STEPもしくは2STEPに分けて延伸されることで、フッ素系繊維延伸糸を得ることができる。この延伸工程時に強度が発現する。その後、得られたフッ素系繊維延伸糸を所定の繊維長にカットすることで、本発明で使用するフッ素系繊維を得ることができる。この製法は、口金より紡出させることで均一性が高いフッ素系繊維が得られる。また、口金設計や紡糸・延伸条件を変更することで、繊維径を小さくすることができ、抄紙の薄厚化に適する製法である。
【0028】
紡糸原液において、フッ素系樹脂の割合が75~93質量%が好ましく、その際、マトリックス成分の割合を7~25質量%とすることが好ましい。紡糸原液において、フッ素系樹脂の割合が75質量%以上であると、焼成工程においてフッ素系樹脂粒子間の融着が進み、糸切れが発生しにくくなり、工程安定性が高いフッ素系繊維が得られる。一方、フッ素系樹脂の割合が93質量%以下であると紡糸工程において、糸切れが発生しにくくなる。マトリックス成分は、ビスコース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロースが用いられるが、本発明では、ビスコースを用いることが好ましい。凝固浴は、無機鉱酸および/または無機塩の水溶液が用いられるが、本発明では硫酸-硫酸ソーダの混合水溶液を用いることが好ましい。
【0029】
フィブリル化したパルプ含有フッ素系繊維は、マトリックス紡糸法にて繊維化し、焼成を行う前のものを用い、ナイヤガラビーター、ホモジナイザー、ディスクリファイナー、ライカイ機、すり棒とすり鉢、ウォータージェットパンチ等の機械作用でフィブリル化させたものである。マトリックス紡糸法のマトリックス樹脂としては、ビスコースなどのセルロース系をはじめとしたフィブリル化しやすいものが好ましい。
【0030】
<フッ素系繊維から成る抄紙>
フッ素系繊維Aとフッ素系繊維B(必要により、さらにフィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維)をそれぞれ水中に分散させる。また、フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維を同時に含む場合には、フィブリル化させたいフッ素系繊維原料を水中に分散させ、ナイヤガラビーター、ホモジナイザー、ディスクリファイナー、ライカイ機などの機械処理を施す。さらに、それらの分散液を所定の割合で混合し、抄紙用分散液とする。
【0031】
抄紙用分散液全重量に対するフッ素系繊維A、フッ素系繊維Bおよびフィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の合計量としては、0.05~5質量%が好ましい。合計量が0.05質量%よりも小さい場合には、生産効率が低下するとともに、脱水工程の負荷が増大してしまう。逆に、5質量%を超えると繊維の分散状態が悪化し、均一な抄紙を得ることが困難となる。
【0032】
分散液は、予めフッ素系繊維Aの分散液、フッ素系繊維Bの分散液およびフィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の分散液を別々に調整した後、それらを混合してもよいし、フッ素系繊維Aとフッ素系繊維Bを直接同一のタンクに混合分散させた後、別途フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維を含む分散液を混合して調整してもよい。それぞれの繊維の分散液を別々に調整して混合する方法は、それぞれの繊維の形状・特性等に合わせて攪拌時間を別個に制御できる点で好ましく、2種類以上のフッ素系繊維を含む分散液を調整した後に、フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維を含む分散液を混合する方法は工程簡略の点で好ましい。
【0033】
抄紙用分散液には、水分散性を向上するためにカチオン系、アニオン系、ノニオン系などの界面活性剤などからなる分散剤や油剤、分散液の粘度を増加させて抄紙用分散液の凝集を防止する粘剤、さらに泡の発生を抑制する消泡剤等を添加してもよい。
【0034】
上記のように準備した抄紙用分散液を、丸網式、長網式、傾斜網式などの抄紙機または手漉き抄紙機を用いて抄紙し、これをヤンキードライヤーやロータリードライヤー等で乾燥し、ドライウェブとする。その後、これに加熱・加圧処理を施し、湿式抄紙を得る。なお、本発明においては加熱及び加圧を同時に行うことを加熱・加圧処理と言い、乾燥などの加熱のみで加圧を行わない処理とは区別する。また、ドライウェブとは、湿式抄造した抄紙のうちこの加熱・加圧処理を施していないものを言う。
【0035】
加熱・加圧処理する手段としては、加熱及び加圧を同時に行うことができればいかなる手段でも良いが、例えば、平板等での熱プレス、カレンダーなどを採用することができる。なかでも、連続して加工することができるカレンダーが好ましい。カレンダーのロールは、金属-金属ロール、金属-紙ロール、金属-ゴムロール等の組み合わせを使用することができる。
【0036】
加熱・加圧処理の温度条件は、フッ素系繊維Bの融点以上フッ素系繊維Aの融点以下の温度がよい。処理温度がフッ素系繊維Bの融点よりも低いと、フッ素系繊維Aおよびフッ素系繊維Bが熱融着せず、力学物性に優れた抄紙を得ることができない。一方、フッ素系繊維Aの融点を超えると、ドライウェブが軟らかくなりすぎて、カレンダーのロールや熱プレスの板等の加熱加圧装置に貼りついてしまい、安定して量産加工ができない。また、抄紙としても、表面が荒れたものになる。さらに、急激な温度変化は抄紙の収縮が大きくなり、安定して量産加工ができない。徐々に温度上昇するプロセスが好ましい。また、加熱・加圧処理としてカレンダー加工を採用した場合の圧力としては、98~7000N/cmが好ましい。98N/cm以上とすることで繊維間の空隙を潰すことができる。一方、7000N/cm以下とすることで、加熱・加圧処理工程における湿式不織布の破れ等を防ぎ、安定して処理を施すことができる。工程速度としては、1~30m/minが好ましく、より好ましくは2~20m/minである。1m/min以上とすることで、良好な作業効率を得ることができる。一方、30m/min以下とすることで、抄紙の内部の繊維にも熱を伝導させ、繊維の熱融着の実効を得ることができる。
【0037】
かくして、融点の異なる2種類以上のフッ素系繊維の少なくとも一部が融着している本発明の抄紙を得ることができる。
【実施例
【0038】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0039】
[測定・評価方法]
(1)繊維径
カット前のフッ素系繊維延伸糸からサンプルをランダムに抜き取り下記の通り包埋法により断面写真を撮影する。撮影画像からランダムに30個を選択し、繊維の輪郭線を平行線と見なし、平行線間距離を測定した。なお、観察した繊維は円形である。円形ではない場合は、繊維の輪郭線に外接する最も小さい長方形または正方形を仮定し、長辺の長さと短辺の長さの平均値(正方形の場合は1辺の長さに相当)を二次粒子径とする。
【0040】
<包埋法>
サンプル糸を成形枠にやや張力を加え粘着テープで固定する。200℃で加熱してパラフィンとステアリン酸の混合物を溶融させる。130℃になったらエチルセルロースを少量ずつ加え、攪拌しながら1時間保温して泡を抜く。100℃まで落とした後、成形枠に流し込む。冷却・固化させた後、適当な大きさのブロックに切り分ける。ミクロトームを用いて、ブロックから切片(厚さ7μm程度)を切り出し、スライドグラスの上に載せる。このとき、スライドグラス上にアルブメンを薄く塗り延ばしておく(アルブメンは卵の白身とグリセリン等量、防腐剤としてサリチル酸ソーダ1wt%添加したもの)。70℃に保った乾燥機に20分放置して熱処理を行い乾燥させた後、酢酸イソアミル浴に約1時間浸し、脱包埋を行ない、その後風乾する。スライドグラスの上に流動パラフィンを一滴つけ、空気が入らないようにカバーグラスを静かに載せ、顕微鏡を用いて写真を撮影する。
【0041】
(2)融点
JIS K7121(2012) 4.2(2)に準拠した方法で測定した値である。窒素気流下10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度の値をいう融点とする。なお、ガラス転移温度、融点とも、上記条件で測定したファーストランの測定値とする。
【0042】
(3)目付
JIS P8124(2011)に準拠し、20cm×20cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表した。
【0043】
(4)厚さ
JIS P8118(2014)に準拠し、20cm×20cmの試験片を採取し、試料の異なる10か所について、厚さ測定機を用いて、直径16mmの加圧子による100kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定し、平均値を算出した。
【0044】
(5)引き裂き強度
JIS P8116(2000)に準拠した条件で測定した。得られたサンプルは手漉きサンプルであり、繊維配向性は低いことから、タテ方向の引き裂き強度のみ測定した。
【0045】
(6)繊維の融着
KEYENCE社の走査型電子顕微鏡VE-9800装置を用いて、加熱加圧後のサンプルから、20cm×20cmの試験片を採取し、試料の異なる10か所において断面観察を100倍率で行い、融着の有無を測定した。
【0046】
(7)透気度
JIS-P8117(2009)に準拠した条件で測定した。5cm×5cmの試験片を採取し、試料の異なる3か所について、測定し、平均値を算出した。ただし、透気度が著しく悪く測定困難な試料については、測定不可と記載し、抄紙ではなく、空隙がないフィルムと判断した。
【0047】
(8)濾水度
JIS P 8121-2(2012)に準拠したカナディアンフリーネステスターを用いて測定した。
【0048】
[製造方法・製造装置]
《手抄きの抄紙機》
底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ30cm×30cm、高さ40cmの手すき抄紙機(熊谷理機工業製)を用いた。
【0049】
《回転型乾燥機》
手すき抄紙した後の乾燥には回転型乾燥機(熊谷理機工業製ROTARY DRYER DR-200)を用いた。
【0050】
《加熱・加圧》
鉄ロールとペーパーロールとからなる油圧式3本ロールカレンダー加工機(由利ロール製、型式IH式H3RCM)を使用して加熱・加圧を施した。
【0051】
[実施例1]
ビスコース50質量%と濃度60%のPTFE水分散液50%を混合した後、10Torrの減圧下で脱泡して、ビスコースに対するPTFE樹脂含有量は87.0%である原液を得た。この原液を複数の吐出孔を有する口金より凝固浴に吐出した。
凝固浴は硫酸濃度10.0%、硫酸ソーダ濃度11.0%の混合水溶液であり、温度は10℃であった。次いで凝固した未焼成糸を温度80℃の温水で洗浄した後、濃度0.12%の苛性ソーダ水溶液を入れたアルカリ浴中に導いて精錬し、酸成分を完全に除去した。その後、アルカリ浴から導かれた未焼成糸をニップローラで絞った後、4%のリラックスを与えながら280℃~350℃の温度で徐々に昇温した焼成ローラを用いて焼成を行い30m/分の速度で引き取り、未延伸糸を得た。次いで未延伸糸を350℃の温度で熱延伸し、丸断面形状のPTFE延伸糸を得た。得られたPTFE延伸糸は6mmにカットし、フッ素系繊維Aを得た。フッ素系繊維Bは、FEP水分散液を使用して、焼成温度を230℃~300℃に変更する以外はフッ素系繊維Aと同様の手法にて得た。
【0052】
フッ素系繊維A:PTFE繊維70質量部を水に分散し、繊維の濃度が0.10質量%となる分散液を作製した。次いで、フッ素系繊維B:FEP繊維30質量部を水に分散し、繊維の濃度が0.15質量%となる分散液を作製した。ナイヤガラビーターで20分叩解した混合液を作製した。ナイヤガラビーター後の繊維は、手抄き作業をするためのウェブ強度を有していた。これらを混合して、さらに水を加え、PTFE繊維70質量部、FEP繊維30質量部を0.07質量%の分散液とした。この分散液を用いて手抄きの抄紙機で湿紙を作製した。ローラーで脱水して得られたウェブを、回転型乾燥機を用いて110℃で70秒間乾燥してドライウェブを得たあと、続いて鉄ロール表面温度220℃、線圧490N/cm、ロール回転速度3m/分で片面を加熱・加圧処理を施した後、鉄ロール表面温度250℃、線圧490N/cm、ロール回転速度3m/分で他方の面を加熱・加圧して、抄紙を得た。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、フッ素系繊維B:FEP繊維の一部が融着していた。
【0053】
得られた抄紙は目付け40g/m、厚み21.2μmであった。また、透気度も優れており、抄紙としての機能を有していた。
【0054】
[実施例2]
フッ素系繊維Bは、PFA水分散液を使用、焼成温度を230℃~300℃に変更する以外、実施例1のフッ素系繊維Aと同様の手法にて得た。
【0055】
実施例1において、フッ素系繊維B:FEP繊維をPFA繊維に変更し、PTFE繊維:PFA繊維の割合を70:30とし、鉄ロール表面温度を250→270℃に変更した以外は、同様の手順で抄紙を作製した。ナイヤガラビーター後の繊維は、それぞれわずかに繊維表面がフィブリル化し、手抄き作業をするためのウェブ強度を有していた。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、フッ素系繊維B:PFA繊維の一部が融着していた。
【0056】
得られた抄紙は目付け40g/m、厚み20.2μmであった。また、透気度も優れており、抄紙としての機能を有していた。
【0057】
[実施例3]
実施例1において、フッ素系繊維A:PTFE繊維をPFA繊維に、フッ素系繊維B:PFA繊維をFEP繊維に変更し、PFA繊維:FEP繊維の割合を70:30とし、鉄ロール表面温度を220→250℃に変更した以外は、同様の手順で抄紙を作製した。ナイヤガラビーター後の繊維は、それぞれわずかに繊維表面がフィブリル化し、手抄き作業をするためのウェブ強度を有していた。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、フッ素系繊維B:FEP繊維の一部が融着していた。
【0058】
得られた抄紙は目付け41g/m、厚み27.3μmであった。透気度も優れており、抄紙としての機能を有していた。
【0059】
[実施例4]
実施例2において、フッ素系繊維Aおよびフッ素繊維Bに加え、フッ素系繊維Aの製造工程において、マトリックス紡糸法にて繊維化し、焼成を行う前のものを用い、ナイヤガラビーターで処理したフィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維も用いた。PTFE繊維:PFA繊維:フィブリル化したマトリックス成分を含むフッ素系繊維の割合を40:30:30とした以外は、同様の手順で抄紙を作製した。なお、フィブリル化したフッ素系繊維の濾水度は657cmであり、ドライウェブの強度は大幅に改善し、取り扱いも容易なレベルであった。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、フッ素系繊維B:PFA繊維の一部が融着していた。
【0060】
得られた抄紙は目付け40g/m、厚み21.0μmであった。透気度も優れており、抄紙としての機能を有していた。
【0061】
[実施例5]
実施例4において、フッ素系繊維Aおよびフッ素繊維Bの繊維径を3μm、19μmと変更した以外、同様の手順で抄紙を作製した。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、フッ素系繊維B:PFA繊維の一部が融着していた。
【0062】
得られた抄紙は目付け41g/m、厚み11.4μmであった。透気度も優れており、抄紙としての機能を有していた。
【0063】
[比較例1]
実施例1において、PTFE繊維の割合を100し、鉄ロール表面温度を300℃に変更した以外は、同様の手順で抄紙を作製した。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、PTFE繊維が膜化して融着していた。
【0064】
得られた抄紙は目付け45g/m、厚み14.1μmであった。しかし、透気度が測定困難であり、抄紙としての機能を有していなかった。
【0065】
[比較例2]
実施例1において、PTFE繊維の繊維径を20μmに変更した以外は、同様の手順で抄紙を作製した。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、PTFE繊維が膜化して融着していた。
【0066】
得られた抄紙は目付け41g/m、厚み58.2μmであった。しかし、透気度が測定困難であり、抄紙としての機能を有していなかった。
【0067】
[比較例3]
実施例3において、PFA繊維の割合を100し、鉄ロール表面温度を270℃に変更した以外は、同様の手順で抄紙を作製した。また、加熱加圧後のサンプルの断面を観察すると、PFA繊維が膜化して融着していた。
【0068】
得られた抄紙は目付け41g/m、厚み18.9μmであった。しかし、透気度が測定困難であり、抄紙としての機能を有していなかった。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1~5、および比較例1~3で作製したフッ素系繊維から成る抄紙については、上述の(3)目付、(4)厚さ、(5)引き裂き強度、(6)透気度の評価を行い、結果を表1に示した。その結果、本発明におけるフッ素系繊維から成る抄紙は、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、摩擦特性、耐候性に優れるというフッ素系繊維の素材としての特性を維持しつつ、薄厚化させ、電子デバイス用の絶縁部材に適したフッ素系繊維から成る抄紙であることが明確であった。