(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】バッター用油脂処理澱粉、バッター粉、およびバッター用油脂処理澱粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20231129BHJP
A23L 5/10 20160101ALN20231129BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
(21)【出願番号】P 2019149906
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】池島 和也
(72)【発明者】
【氏名】桑谷 紀子
(72)【発明者】
【氏名】玉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】須田 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩義
(72)【発明者】
【氏名】白井 まり子
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/049076(WO,A1)
【文献】特表2014-511671(JP,A)
【文献】特開2004-113236(JP,A)
【文献】特開昭61-285956(JP,A)
【文献】特開2012-029602(JP,A)
【文献】特開平01-320962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0272871(US,A1)
【文献】工業化学雑誌 ,60(8),1957年,pp.1051-1053
【文献】独立行政法人農畜産業振興機構ウェブサイトに掲載された記事“トウモロコシの種類、製品の特性と用途”(最終更新日2012年10月10日),2012年,[オンライン],[検索日:2023年 5月22日],URL,https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000210.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハムカツ製造用のバッター用油脂処理澱粉であって、
油脂処理された植物由来澱粉からなり、
タンパク質含量が0.10~0.50質量%であ
り、
膨潤度が1.5mL以上2.5mL未満であり、
前記植物由来澱粉が由来する植物がエンドウ豆であり、
前記植物由来澱粉がリン酸架橋澱粉であり、
前記油脂がサフラワー油である、バッター用油脂処理澱粉。
【請求項2】
前記タンパク質含量が0.18~0.30質量%である、請求項1に記載のバッター用油脂処理澱粉。
【請求項3】
前記バッター用油脂処理澱粉のアミロース含量が23~50質量%である、請求項1または2に記載のバッター用油脂処理澱粉。
【請求項4】
前記バッター用油脂処理澱粉の油脂含量が0.01~1.50質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバッター用油脂処理澱粉。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のバッター用油脂処理澱粉を含むバッター粉。
【請求項6】
増粘剤を含む、
請求項5に記載のバッター粉。
【請求項7】
ハムカツ製造用のバッター用油脂処理澱粉の製造方法であって、
タンパク質含量が0.18~0.50質量%である植物由来精製澱粉をリン酸架橋処理に付して前記植物由来精製澱粉の加工澱粉を得ること
、および
前記加工澱粉と
サフラワー油とを混合して加熱処理することを含
み、
前記植物由来澱粉が由来する植物がエンドウ豆であり、
前記リン酸架橋処理が原料の植物由来澱粉の質量に対して0.2質量%以上0.5質量%以下のトリメタリン酸ナトリウムを用いて行なわれる、前記製造方法。
【請求項8】
前記植物由来精製澱粉のタンパク質含量が0.30~0.50質量%である、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記植物由来精製澱粉のアミロース含量が23~50質量%である、
請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッター用油脂処理澱粉、バッター粉、およびバッター用油脂処理澱粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ、唐揚げ、天ぷらなどの揚げ物用衣生地として用いられるバッターは、元来、薄力粉および卵を混合して調製することができる。近年、水を添加してバッター液とすることができるバッター粉も市販されており、材料としては、薄力粉や卵粉末のほか、食感や揚げ物種と衣との結着性の改善を目的として、澱粉や増粘剤が用いられている。
【0003】
また、薄力粉などの小麦粉を用いず、澱粉をベースとしたバッター粉において油脂処理澱粉を用いる提案が複数なされてきている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、揚げ物種と衣との結着性を向上させることができるバッター用油脂処理澱粉を提供することである。本発明はまた、揚げ物種と衣との結着性を向上させることができるバッター用油脂処理澱粉の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決のための鋭意検討を行ない、植物を原料として単離精製され、任意で加工処理された植物由来澱粉をバッター粉として用いる際の、植物由来澱粉におけるタンパク質含量が揚げ物種と衣との結着性に影響を与えることを見出した。そしてこの知見に基づきさらに検討を重ね、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[15]を提供するものである。
【0007】
[1]バッター用油脂処理澱粉であって、
油脂処理された植物由来澱粉からなり、
タンパク質含量が0.10~0.50質量%である、バッター用油脂処理澱粉。
[2]上記タンパク質含量が0.18~0.30質量%である、[1]に記載のバッター用油脂処理澱粉。
[3]上記バッター用油脂処理澱粉のアミロース含量が23~50質量%である、[1]または[2]に記載のバッター用油脂処理澱粉。
[4]上記バッター用油脂処理澱粉の油脂含量が0.01~1.50質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載のバッター用油脂処理澱粉。
[5]上記植物由来澱粉がリン酸架橋澱粉である、[1]~[4]のいずれかに記載のバッター用油脂処理澱粉。
[6]上記植物由来澱粉が由来する植物がマメ類である、[1]~[5]のいずれかに記載のバッター用油脂処理澱粉。
[7]上記マメ類がエンドウ豆である、[6]に記載のバッター用油脂処理澱粉。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のバッター用油脂処理澱粉を含むバッター粉。
[9]増粘剤を含む、[8]に記載のバッター粉。
【0008】
[10]バッター用油脂処理澱粉の製造方法であって、
タンパク質含量が0.18~0.50質量%である植物由来精製澱粉と油脂とを混合して加熱処理することを含む、上記製造方法。
[11]バッター用油脂処理澱粉の製造方法であって、
タンパク質含量が0.18~0.50質量%である植物由来精製澱粉をリン酸架橋処理に付して上記植物由来精製澱粉の加工澱粉を得ること
上記加工澱粉と油脂とを混合して加熱処理することを含む、上記製造方法。
[12]上記植物由来精製澱粉のタンパク質含量が0.30~0.50質量%である、[10]または[11]に記載の製造方法。
[13]上記植物由来精製澱粉のアミロース含量が23~50質量%である、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]上記植物由来精製澱粉が由来する植物がマメ類である、[10]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]上記マメ類がエンドウ豆である、[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、揚げ物種と衣との結着性を向上させることができるバッター用油脂処理澱粉が提供される。本発明はまた、揚げ物種と衣との結着性を向上させることができるバッター用油脂処理澱粉の製造方法を提供する。本発明のバッター用油脂処理澱粉を用いてバッター粉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例においてエンドウ澱粉(リン酸架橋+油脂処理)を用いて製造したフライについて、半分に切断した断面を撮影した写真である。
【
図2】実施例においてK-1澱粉を用いて製造したフライについて、半分に切断した断面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<<バッター用油脂処理澱粉>>
本発明のバッター用油脂処理澱粉は油脂処理された植物由来澱粉からなり、タンパク質含量が0.10~0.50質量%である。
バッターとは料理に用いられる衣用生地を意味し、本明細書においては特に揚げ物用衣生地を意味する。揚げ物用衣生地は通常、流動性を有するペースト状である。バッターは揚げ物用種表面に付着させて、そのまま揚げて、単独で揚げ物の衣とすることができる。この場合の揚げ物の例としては、例えば唐揚げ、天ぷらなどが挙げられる。または、バッターは、揚げ物用種表面に付着させた状態でその表面にさらにパン粉などの別の食感を与える材料を付着させ、揚げ物の衣となっていてもよい。この場合の揚げ物の例としては、とんかつやハムカツなどのフライなどが挙げられる。本発明のバッター用油脂処理澱粉はいずれの揚げ物製造のためのバッターの成分として用いてもよいが、特に後者の、フライなどの揚げ物製造のためのバッターに用いられることが好ましい。
【0013】
なお、本明細書において、バッター液は、水分を含むバッターを意味する。バッター液は、通常、そのまま揚げ物用種に付着させることができる。バッター粉は、水などの液体が添加されていないバッター液調製のための粉または粉状製品である。バッター粉は、水などの液体を加えてバッター液とした後に揚げ物用種に付着させることができる。またはバッター粉は、揚げ物用種に直接付着させて、揚げ物用種から浸み出す水分と混合して揚げ物用種表面でバッターとなっていてもよい。
【0014】
本明細書において、揚げ物用種とは、バッターを付着させた後に揚げる種であり、通常食材である。揚げ物用種としては、肉類、魚介類、植物(穀類、野菜、海藻など)などが挙げられる。これらは、加工品(ハムや干物など)であってもよく、混合物であってもよい。また、例えば、揚げ物用種は調理品(コロッケの中身など)であってもよい。
本発明のバッター用油脂処理澱粉はいずれの揚げ物用種を調理する際のバッターの材料として用いてもよいが、特に肉類の揚げ物製造のためのバッターに用いられることが好ましい。本発明のバッター用油脂処理澱粉は、ハムカツ製造に用いられる場合、特に良好な結着性を与える。
【0015】
<タンパク質含量>
本発明のバッター用油脂処理澱粉はタンパク質含量が0.10~0.50質量%である。本明細書においてタンパク質含量はケルダール法により測定および計算された値を意味する。ケルダール法は窒素含有量を湿式分解により測定する方法であるが、そこからタンパク質含量に換算する。このときの換算係数としては6.25を用いる。
【0016】
本発明者らは、タンパク質含量が0.10~0.50質量%である油脂処理澱粉を用いると、これを含むバッターを用いた衣の揚げ物種との結着性がよく揚げたあとに剥がれにくいことを見出した。上記タンパク質含量は0.18~0.30質量%であることが好ましい。
【0017】
<植物由来澱粉>
本発明のバッター用油脂処理澱粉は植物由来澱粉を油脂処理したものである。
植物由来澱粉は、植物中に存在する澱粉を単離精製して得られる未加工の植物由来精製澱粉またはこの植物由来精製澱粉を加工して得られる加工澱粉を意味する。
【0018】
植物由来精製澱粉として具体的には、コメ澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、マメ澱粉等を用いることができる。これらのうち、マメ澱粉が好ましい。
【0019】
マメとしては、例えば、エンドウ豆、インゲン豆、そら豆、レンズ豆、キマメ、アズキ、ササゲ、ベニバナインゲン、緑豆などが挙げられる。マメ澱粉としては、特にエンドウ澱粉(Pea Starch)を用いることが好ましい。エンドウ澱粉は他の澱粉種と比較して澱粉自体の色が白く、トウモロコシ澱粉の穀物臭のような特異な臭いがほとんど無く、食品の色や風味を損なわないからである。また、Starch 2013, 65, 947-953にも記載されているように、エンドウ澱粉は、エンドウ豆からタンパク質を抽出する際の副産物であり、その他の澱粉種よりも安価に入手できるからである。ここで、エンドウは、アミロース含量が後述する所望の範囲内である観点から、SBE1遺伝子欠失突然変異のシワエンドウではなく、通常のエンドウが好ましい。
【0020】
植物由来澱粉は、上述のように植物由来精製澱粉を加工したものであってもよい。植物由来精製澱粉の加工やその加工の程度により、バッター用油脂処理澱粉の膨潤度を調整することができる。
加工は化学的処理を含むことが好ましい。化学的処理としては、架橋処理、エステル化処理、エーテル化処理、酸化処理、アルカリ処理、酵素処理、漂白処理などが挙げられる。これらの加工を2つ以上組み合わせて行なってもよい。上記の化学的処理に加えて、加熱、乾燥などの物理的処理を行なってもよい。
【0021】
化学的処理としては、特に架橋処理を含む処理が好ましい。このような処理としては、例えば、リン酸架橋、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋、アセチル化リン酸架橋、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋、エピクロロヒドリン架橋を挙げることができる。中でも、リン酸架橋、アセチル化アジピン酸架橋およびエピクロロヒドリン架橋から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸架橋であることがより好ましい。
【0022】
リン酸架橋は例えば、澱粉をトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンで処理することで得ることができる。この処理により澱粉がリン酸エステル化して架橋する。リン酸架橋をトリメタリン酸ナトリウムを用いて行なう際、トリメタリン酸ナトリウムは原料の植物由来澱粉の質量に対して0.1質量%超0.7質量%以下添加することが好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下添加することがより好ましい。
【0023】
<油脂処理>
本発明のバッター用油脂処理澱粉は油脂処理された植物由来澱粉からなる。
本発明のバッター用油脂処理澱粉は植物由来澱粉を油脂処理することにより得ることができるが、このとき、原料の植物由来澱粉のタンパク質含量は0.18~0.50質量%であることが好ましく、0.30~0.50質量%であることが好ましい。上述のタンパク質含量の油脂処理澱粉を得るためである。
【0024】
油脂処理に用いられる油脂としては、サフラワー油、コーン油、エゴマ油、大豆油、綿実油、菜種油、オリーブ油、胡麻油、コメ油、ヤシ油、亜麻仁油、シソ油などの植物性油脂、イワシ油、ニシン油、たら肝油などの動物性油脂が挙げられる。これらのうち、植物性油脂が好ましく、サフラワー油、コーン油、エゴマ油がより好ましい。油脂は、不飽和脂肪酸を含むものであることが好ましい。
【0025】
植物由来澱粉に対する油脂の添加量は特に限定されないが、0.01~1.0質量%であればよく、0.05~0.5質量%であることが好ましい。0.01質量%以上の添加量で揚げ物種と衣との間で十分な結着性を得ることができる。また、1.0質量%以下の添加量とすることで油脂処理澱粉が集まって固まることを防止できる。
【0026】
油脂処理とは、澱粉粒子表面の少なくとも一部に油脂を付着させる処理であり、油脂処理澱粉とは、このような処理を行なって、原料の植物由来澱粉の表面物性を変化させたものである。具体的には澱粉に油脂を添加して混合し、常温以上の温度で加熱処理する。加熱処理により、澱粉と油脂とを単に混合しただけのものとは異なる特性を有する澱粉が得られる。
【0027】
油脂処理において、植物由来澱粉は予め乾燥しておくことが好ましい。乾燥させることによって、油脂を澱粉粒子表面に付着させやすくするためである。乾燥により植物由来澱粉の含水率は例えば、7質量%以下、好ましくは5質量%以下となっていればよい。
【0028】
植物由来澱粉への油脂の添加の方法は、材料を均一に分散混合できる方法であれば、特に限定されない。例えば、植物由来澱粉に予め油脂を添加し、その後混合してもよく、または特許第3975417号に記載のように植物由来澱粉を気流中に分散させた状態で油脂をスプレー噴霧してもよい。混合された植物由来澱粉と油脂とは、その後撹拌することが好ましい。添加および撹拌は常温以上の温度で行なうことが好ましい。このときの温度としては下記の加熱処理時の温度範囲であればよい。
【0029】
混合された植物由来澱粉と油脂とは、その後一定時間加熱処理して熟成することが好ましい。加熱は30℃~150℃程度で行なうことが好ましく、70℃~150℃程度で行なうことがより好ましい。30℃程度以上で必要時間処理することにより、澱粉を熟成させることができる。また、処理を150℃以下とすることにより、植物由来澱粉の熱による分解を防止することができる。加熱時間は加熱温度によって調整すればよく、特に限定されないが、1~700時間程度であればよく、1~10時間程度であることが好ましく、2~7時間程度であることがより好ましい。
【0030】
<アミロース含量>
本発明のバッター用油脂処理澱粉のアミロース含量は23~50質量%であることが好ましく、25~47質量%であることがより好ましい。
本明細書において、アミロース含量は、デンプンハンドブック(二国二郎編集、朝倉書店)第214頁に記載の「ヨウ素呈色比色法」により測定したアミロース含量を意味する。
【0031】
<膨潤度>
「膨潤度」とは澱粉の膨潤抑制の程度を示す指標であり、具体的には、以下の手順で測定した沈降量を膨潤度とすることができる。澱粉を無水換算で150mg精秤し、試験管に移す。下記の試験用液15mLを正確に加え、よく振とう分散させ、直ちに沸騰水浴中に入れて、加熱する。5分間加熱後、急冷し室温程度にした後、再度振とう均一化する。10mLメスシリンダーに試験管内溶液を10mL移し、20℃で18時間静置する。沈降した量(mL)を測定する。試験用液の調製方法:塩化亜鉛300g,塩化アンモニウム780g,イオン交換水1875gを加温溶解後、溶液を冷却し、19ボーメ(15℃)に合わせる。この液10mLを取り、ブロムフェノールブルー液を2滴加える。0.1N-HClで滴定し、溶液の色が紫から黄色に変わる点を終点として塩酸度(塩酸度=HClのファクター×滴定に要したmL数)を求める。塩酸度が3.9±0.1になるようにアンモニア水、塩酸を用いて調整する。調整後、再度塩酸度を確認して、ろ過して試験用液とする。本発明のバッター用油脂処理澱粉の膨潤度は特に限定されないが、例えば、本発明のバッター用油脂処理澱粉1.5mL~10mLであればよく、2.0mL~8.5mLであることが好ましい。
タンパク質含量が0.10~0.50質量%の本発明のバッター用油脂処理澱粉は、膨潤度が1.5mL以上2.5mL未満であっても、衣と揚げ物種との結着性のよい揚げ物を製造できるバッターの材料として用いることができる。
【0032】
<粘度>
本発明のバッター用油脂処理澱粉は、水を溶媒として約30質量%の懸濁液(ペースト)としたとき(油脂処理澱粉の2.2倍量の水と添加したとき)に、2000~3000mPa・s程度の粘度を与え得るものであることが好ましい。ただし、バッターとしての使用時の粘度はさらに後述の増粘剤などで調整することもできる。
【0033】
本発明において試料(上記ペースト)の粘度はB型粘度計を用いて測定したものとする。
具体的には、10℃~15℃とした試料を200mLのトールビーカーに投入し、B型粘度計のロータNo.3、設定回転30rpmにセットし、測定を行なう。測定開始3分後のダイヤルの目盛を読み取った値とする。
【0034】
<<バッター粉>>
本発明のバッター用油脂処理澱粉を用いてバッター粉を製造することができる。すなわち、バッター粉は油脂処理澱粉を含む。バッター粉は油脂処理澱粉を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことがさらに好ましい。バッター粉は油脂処理澱粉のみからなるものであってもよく、油脂処理澱粉に加えて添加剤を含んでいてもよい。バッター粉は、タンパク質含量が0.10~0.70質量%であることが好ましく、0.18~0.50質量%であることがより好ましい。
【0035】
添加剤の具体例としては、乾燥卵白、乾燥卵黄、大豆蛋白、カゼイン、アミノ酸類、糖類(単糖、二糖類、オリゴ糖、澱粉分解物、還元澱粉分解物など)、増粘剤(グアガム、キサンタンガムなど)、膨張剤(ベーキングパウダー、重炭酸ソーダなど)、油脂類(大豆油、マーガリンなど)、乳化剤(レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、シュガーエステルなど)、色素(クチナシ色素、β-カロテン、エンチイエローなど)、調味料(みりん、醤油、食塩、グルタミン酸ソーダ、核酸系調味料など)、香辛料(こしょうなど)、穀物粉(小麦粉、米粉、トウモロコシ粉など)、油脂処理澱粉以外の澱粉などが挙げられる。
バッター粉は、添加剤として、増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤の添加量は油脂処理澱粉の質量に対して0.15~0.35質量%であることが好ましく、0.20~0.30質量%であることがより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、実施例中、「%」との記載は「質量%」を示す。
【0037】
<使用澱粉>
以下実施例においては、植物由来精製澱粉として、エンドウ澱粉、コーンスターチハイアミロース澱粉、タピオカ澱粉を用いた。表に記載のとおり、油脂処理およびリン酸架橋を下記手順で行なった。コーンスターチについては、リン酸架橋澱粉としては、既知の方法でリン酸架橋した澱粉、具体的には16w/w%スラリー(95℃、20分撹拌後、50℃に冷却)の粘度(B型粘度計で測定)が1545mpa・sであるリン酸架橋澱粉を使用した。タピオカ澱粉については粘度の異なるタピオカ由来リン酸架橋澱粉3種(表1、3参照)を用いた。なお、表1に記載の粘度は澱粉濃度8%の溶液についてB型粘度計で測定したものである。さらに、市販の油脂処理澱粉としてアセチル化澱粉(NIPPNタイランド社製、K-1;原料植物:タピオカ)を用いた。
【0038】
(リン酸架橋)
1)原料澱粉を水に溶かして、41w/w%スラリーにする。
2)得られたスラリーを一定温度40℃に保つ。
3)塩化カルシウム(対澱粉質量比で0.2%)、塩化ナトリウム(対澱粉質量比で1.0%)を上記スラリーに入れる。
4)上記スラリーに3%苛性ソーダ水溶液を加え、pHを11.5まで上昇させる。
5)リン酸架橋剤である、トリメタリン酸ナトリウム(対澱粉質量比0.3%)を添加する。
6)温度を40℃、pHを11.5±0.3で維持しながら、4時間撹拌する。
7)4時間後、7%塩酸水溶液でpHを4.0まで下げる。
8)ろ過、脱水、および乾燥を行なってリン酸架橋澱粉を得る。
【0039】
[油脂処理]
1)被処理澱粉(未加工澱粉、リン酸架橋澱粉、または市販澱粉)を含水率4%以下まで60℃で予備乾燥させる。
2)予備乾燥後、被処理澱粉にサフラワー油(ジー・エス・エル・ジャパン株式会社製)を対被処理澱粉質量比で0.14%添加してよく混ぜる。
3)蒸気で120℃まで昇温させて、昇温後2~4時間撹拌しながら保持した後、油脂処理澱粉を得る。
【0040】
<タンパク質含量の測定>
得られた澱粉について、タンパク質含量およびアミロース含量を以下の方法で測定した。
1)澱粉を約0.5g秤量して、所定の分解チューブに入れる。
2)濃硫酸を15mLチューブに入れる。
3)分解助剤を1個(主成分は硫酸銅)入れる。
4)15mLを超えない量の濃過酸化水素水を、中の状態を見ながら少しずつ入れていく。
5)澱粉固形分が概ね分解したら、420℃の保温装置にセットして1時間程度静置する。
6)分解終了後、アクタック株式会社製のスーパーケルという分析装置で、測定する(この時の測定値は窒素量)。
7)窒素量が出たら、タンパク換算係数を乗じてタンパク質含量を計算する。
【0041】
<アミロース含量の測定>
得られた澱粉について、アミロース含量をデンプンハンドブック(二国二郎編集、朝倉書店)第214頁に記載の「ヨウ素呈色比色法」により測定した。
各澱粉のタンパク質含量およびアミロース含量の測定結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
<膨潤度の測定>
油脂処理のみ、またはリン酸架橋および油脂処理を行なったエンドウ澱粉につき、以下の手順で膨潤度を測定した。
上記澱粉を無水換算で150mg精秤し、試験管に移した。下記の試験用液15mLを正確に加え、よく振とう分散させ、直ちに沸騰水浴中に入れて、加熱した。5分間加熱後、急冷し室温程度にした後、再度振とう均一化した。10mLメスシリンダーに試験管内溶液を10mL移し、20℃で18時間静置した。沈降した量(mL)を測定して、膨潤度とした。測定は3試料で行い、平均値を求めた。
【0044】
試験用液の調製方法:塩化亜鉛300g,塩化アンモニウム780g,イオン交換水1875gを加温溶解後、溶液を冷却し、19ボーメ(15℃)に合わせる。この液10mLを取り、ブロムフェノールブルー液を2滴加える。0.1N-HClで滴定し、溶液の色が紫から黄色に変わる点を終点として塩酸度(塩酸度=HClのファクター×滴定に要したmL数)を求める。塩酸度が3.9±0.1になるようにアンモニア水、塩酸を用いて調整する。調整後、再度塩酸度を確認して、ろ過して試験用液とする。
リン酸架橋および油脂処理を行なったエンドウ澱粉の結果を表2に示す。なお、表2中、水分は、電子水分計(株)長計量器製作所 MC-30MB)を用いて測定した。
油脂処理のみを行ったエンドウ澱粉の膨潤度は、10.0mLであった。
【0045】
【0046】
<バッターおよびフライの調製>
表1に記載の油脂処理澱粉(エンドウ澱粉については、「油脂処理」の澱粉または「リン酸架橋+油脂処理」の澱粉)を用いて以下の手順でバッター液をそれぞれ作製した。
(バッター液の組成)
・油脂処理澱粉・・・100g
・グアガム・・・0.25g
・キサンタンガム・・・0.25g
・水・・・220g程度(油脂処理澱粉質量に対して2.2倍を目安とし、バッター液の粘度が2000~3000mPa・sに入るように適宜調整した。)
【0047】
上記成分を全てをボールに入れ、ハンドミキサーで約1分、よく混ぜバッター液を得た。
得られたバッター液についてそれぞれ表に記載の温度で粘度を測定した。
粘度は以下の手順で測定した。
1)バッター液を10℃~15℃になるように冷蔵庫に入れて冷却した。
2)冷却後のバッター液を200mLのトールビーカーに投入した。
3)B型粘度計のロータNo.3、設定回転30rpmにセットし、スイッチを入れて測定開始した。
4)測定開始3分後のダイヤルの目盛を読み取った。
【0048】
これらのバッター液を、それぞれ、ハム(厚さ1mm以上2mm未満の市販品)の表裏にバッター液を万遍なく付けた。バッターを付けた表面にパン粉を万遍なくまぶし、180℃で2分揚げて、フライ(油ちょう)を得た。
【0049】
得られたフライについて、結着性と食感を以下の基準で評価した。
(結着性)
油をよくきり、10分間クッキングペーパー上にて室温で静置して、10分後、2等分になるように中心部を包丁でカットした。このカット後の断面部をおおよそ6等分し、結着している箇所を数えた。
10点:結着数「6」(全て結着)
8点:結着数「5」
6点:結着数「4」
4点:結着数「3」
2点:結着数「2」
0点:結着数「1」または「0」
【0050】
(食感)
サクサク感、内側の糊状感(揚げ物種と衣との間のベタベタ感)、および穀物臭の有無から総合評価して、A(良好)、B(AとCの間)、C(不良)で比較評価した。
【0051】
評価結果を表3に示す。なお、表3中の各油脂処理澱粉は表1中の油脂処理澱粉に対応する。
また、エンドウ澱粉(リン酸架橋+油脂処理)およびK-1それぞれを用いて製造したフライを半分に切断した断面を撮影した写真を
図1、2に示す。
【0052】
【0053】
表3および
図1,2からわかるように、タンパク質含量が0.10~0.50質量%である油脂処理澱粉を用いて良好な結着性のフライが得られた。また、得られたフライの食感も良好であった。