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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両用トランスファ装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/344 20060101AFI20231129BHJP
   F16D 3/12 20060101ALI20231129BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60K17/344 B
F16D3/12 A
F16D11/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019152318
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021030849
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐山 啓
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-201131(JP,U)
【文献】実開昭60-126756(JP,U)
【文献】実開昭60-23321(JP,U)
【文献】特開2018-149838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/344
F16D 3/12
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から主駆動輪に動力を伝達する二輪駆動と、前記駆動源から前記主駆動輪および副駆動輪に動力を伝達する四輪駆動に切換え可能な車両用トランスファ装置であって、
外周部に第1の外周スプラインが形成される第1の動力伝達部材と、
外周部に第2の外周スプラインが形成され、前記第1の動力伝達部材と同軸上に設けられた第2の動力伝達部材と、
第1の内周スプラインを有して前記第1の動力伝達部材と前記第2の動力伝達部材の軸方向に移動自在に設けられ、二輪駆動時には前記第1の内周スプラインが前記第2の外周スプラインのみに嵌合することにより、前記第1の動力伝達部材から前記第2の動力伝達部材への動力の伝達を遮断し、四輪駆動時には前記第1の内周スプラインが前記第1の外周スプラインと前記第2の外周スプラインに嵌合することにより、前記第1の動力伝達部材から前記第2の動力伝達部材に動力を伝達するシフトスリーブとを備え、
前記第2の動力伝達部材に、前記駆動源の変動を吸収するダンパ部材が設置されており、
車両の前後方向に延び、前記第1の動力伝達部材と一体で回転して前記駆動源から伝達された動力を前記第1の動力伝達部材に伝達する入力軸と、
前記入力軸と相対回転自在に設けられ、前記副駆動輪に動力を伝達する出力部材とを備えており、
前記ダンパ部材は、前記第2の動力伝達部材と前記出力部材の間に設けられ、前記第2の動力伝達部材と一体で回転し、
前記出力部材の外周面に、第3の外周スプラインが形成されており、
前記第2の動力伝達部材の内周面に、前記第3の外周スプラインに嵌合し、前記第2の動力伝達部材と前記出力部材の相対回転を第1の所定角度に規制する第2の内周スプラインが形成されており、
前記ダンパ部材の内周面に、前記第3の外周スプラインに嵌合し、前記ダンパ部材と前記出力部材の相対回転を前記第1の所定角度よりも小さい第2の所定角度に規制する第3の内周スプラインが形成されており、
前記入力軸の径方向で前記第2の動力伝達部材と前記出力部材との間に、前記出力部材と相対回転自在な円筒部材が設置されていることを特徴とする車両用トランスファ装置。
【請求項2】
前記第1の動力伝達部材は、前記駆動源に連絡されており、
前記第2の動力伝達部材は、前記ダンパ部材を介して前記副駆動輪に連絡されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用トランスファ装置。
【請求項3】
前記円筒部材は、前記入力軸の軸方向で前記第2の動力伝達部材の前記第2の外周スプラインと重なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用トランスファ装置。
【請求項4】
前記出力部材と前記入力軸の間に、前記出力部材を前記入力軸に相対回転自在に支持する複数の軸受が設けられており、
前記入力軸の後端部に締結部材が締結されており、
前記入力軸の軸方向中央部に前記入力軸の周方向に延びる第1の段部が形成されており、
前記出力部材は、前記ダンパ部材の後端部と前記入力軸の軸方向で重なる位置に形成され、前記出力部材の外周面において周方向に延びる第2の段部と、前記出力部材の内周面において周方向に延び、前記複数の軸受の少なくとも1つの軸受の軸方向一端部に当接する第3の段部と、前記少なくとも1つの軸受の軸方向他端部に当接する第1のクリップ部材とを有し、
前記入力軸の軸方向において前記複数の軸受が複数のスペーサを介して前記第1の段部と前記締結部材に挟持されることにより、前記出力部材が前記入力軸の軸方向に位置決めされて前記入力軸の軸方向に移動不能となっており、
前記出力部材の外周部に前記円筒部材の前端部が当接する第2のクリップ部材が取付けられており、
前記入力軸の軸方向で前記円筒部材と前記第2の動力伝達部材と前記ダンパ部材とが前記第2のクリップ部材と前記第2の段部とに挟持されることにより、前記ダンパ部材が前記出力部材に対して前記入力軸の軸方向に移動不能であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用トランスファ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用トランスファ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源から伝達される動力を前輪に伝達する二輪駆動と、前輪および後輪に伝達する四輪駆動とに切換えるトランスファが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このトランスファは、エンジンから動力が伝達される動力伝達軸にスプライン嵌合されたインナハブと、インナハブの外周部にインナハブと同軸上に設けられ、外周面に動力伝達歯を有するアウタハブとを有するクラッチハブを備えている。
【0004】
動力伝達軸と同軸上には、動力伝達歯を有するアウトプットギヤを有し、後輪に動力を伝達する動力出力軸が設けられている。
【0005】
アウトプットギヤの動力伝達歯には二駆-四駆切換用のシフトスリーブが常時噛み合っており、四輪駆動時には二駆-四駆切換用のシフトスリーブがアウトプットギヤの動力伝達歯とアウタハブの動力伝達歯の両方に噛み合うことにより、動力伝達軸から動力出力軸に動力を伝達可能となっている。
【0006】
インナハブとアウタハブの間には、インナハブとアウタハブを周方向に回転可能に結合する緩衝部材が介装されている。インナハブとアウタハブの間にエンジンのトルク変動等に起因する回転変動が発生すると、緩衝部材が弾性変形することにより、動力伝達軸の回転変動を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭60-23321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来のトランスファにあっては、緩衝部材がアウトプットギヤよりも動力伝達経路上で上流側に設けられている。
【0009】
このため、二輪駆動から四輪駆動への切換え時に、アウタハブの動力伝達歯とアウトプットギヤの動力伝達歯の嵌合ができない同期待ち状態において、二駆-四駆切換用のシフトスリーブからアウタハブにスラスト荷重が加わる。
【0010】
このため、緩衝部材にスラスト荷重が入力されて緩衝部材がスラスト方向に変形し、緩衝部材の耐久性が低下するおそれがある。
【0011】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、同期待ち状態においてシフトスリーブからダンパ部材にスラスト荷重が入力されることを防止でき、ダンパ部材の耐久性が低下することを防止できる車両用トランスファ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、駆動源から主駆動輪に動力を伝達する二輪駆動と、前記駆動源から前記主駆動輪および副駆動輪に動力を伝達する四輪駆動に切換え可能な車両用トランスファ装置であって、外周部に第1の外周スプラインが形成される第1の動力伝達部材と、外周部に第2の外周スプラインが形成され、前記第1の動力伝達部材と同軸上に設けられた第2の動力伝達部材と、第1の内周スプラインを有して前記第1の動力伝達部材と前記第2の動力伝達部材の軸方向に移動自在に設けられ、二輪駆動時には前記第1の内周スプラインが前記第2の外周スプラインのみに嵌合することにより、前記第1の動力伝達部材から前記第2の動力伝達部材への動力の伝達を遮断し、四輪駆動時には前記第1の内周スプラインが前記第1の外周スプラインと前記第2の外周スプラインに嵌合することにより、前記第1の動力伝達部材から前記第2の動力伝達部材に動力を伝達するシフトスリーブとを備え、前記第2の動力伝達部材に、前記駆動源の変動を吸収するダンパ部材が設置されており、車両の前後方向に延び、前記第1の動力伝達部材と一体で回転して前記駆動源から伝達された動力を前記第1の動力伝達部材に伝達する入力軸と、前記入力軸と相対回転自在に設けられ、前記副駆動輪に動力を伝達する出力部材とを備えており、前記ダンパ部材は、前記第2の動力伝達部材と前記出力部材の間に設けられ、前記第2の動力伝達部材と一体で回転し、前記出力部材の外周面に、第3の外周スプラインが形成されており、前記第2の動力伝達部材の内周面に、前記第3の外周スプラインに嵌合し、前記第2の動力伝達部材と前記出力部材の相対回転を第1の所定角度に規制する第2の内周スプラインが形成されており、前記ダンパ部材の内周面に、前記第3の外周スプラインに嵌合し、前記ダンパ部材と前記出力部材の相対回転を前記第1の所定角度よりも小さい第2の所定角度に規制する第3の内周スプラインが形成されており、前記入力軸の径方向で前記第2の動力伝達部材と前記出力部材との間に、前記出力部材と相対回転自在な円筒部材が設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように上記の本発明によれば、同期待ち状態においてシフトスリーブからダンパ部材にスラスト荷重が入力されることを防止でき、ダンパ部材の耐久性が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置を搭載した車両の平面図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置の分解斜視図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置の平面図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置の右側面図である。
図5図5は、図3のV-V方向矢視断面図である。
図6図6は、図4のVI-VI方向矢視断面図である。
図7図7は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置を構成するサークリップ、円筒部材、ドッグ、ダンパ部材および出力部材の分解斜視図である。
図8図8は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置の四輪駆動時の動力伝達経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施の形態に係る車両用トランスファ装置は、駆動源から主駆動輪に動力を伝達する二輪駆動と、駆動源から主駆動輪および副駆動輪に動力を伝達する四輪駆動に切換え可能な車両用トランスファ装置であって、外周部に第1の外周スプラインが形成される第1の動力伝達部材と、外周部に第2の外周スプラインが形成され、第1の動力伝達部材と同軸上に設けられた第2の動力伝達部材と、第1の動力伝達部材と第2の動力伝達部材の軸方向に移動自在に設けられ、二輪駆動時には第2の外周スプラインのみに嵌合することにより、第1の動力伝達部材から第2の動力伝達部材への動力の伝達を遮断し、四輪駆動時には第1の外周スプラインと第2の外周スプラインに嵌合することにより、第1の動力伝達部材から第2の動力伝達部材に動力を伝達するシフトスリーブとを備え、第2の動力伝達部材に、駆動源の変動を吸収するダンパ部材が設置されている。
【0016】
これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用トランスファ装置は、同期待ち状態においてシフトスリーブからダンパ部材にスラスト荷重が入力されることを防止でき、ダンパ部材の耐久性が低下することを防止できる。
【実施例
【0017】
以下、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置について、図面を用いて説明する。
【0018】
図1から図8は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置を示す図である。図1から図8において、上下前後左右方向は、車両用トランスファ装置を備えた車両の進行する方向を前、後退する方向を後とした場合に、車両の幅方向が左右方向、車両の高さ方向が上下方向である。
【0019】
まず、構成を説明する。
図1に示すように、車両1は、エンジン2と、動力伝達機構10と、左右の前輪8L、8Rと、左右の後輪9L、9Rとを含んで構成されている。本実施例の前輪8L、8Rは、本発明の主駆動輪を構成し、後輪9L、9Rは、本発明の副駆動輪を構成する。
【0020】
車両1は、車両前部に配置したエンジン2から出力された動力によって左右の前輪8L、8Rおよび左右の後輪9L、9Rを駆動する。
【0021】
エンジン2は、例えば、図示しないピストンが気筒を2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う4サイクルエンジンであって、車両1の前後軸に対して横置き配置されている。
【0022】
ピストンは、図示しないコネクティングロッドおよびクランク軸と連結されており、エンジン2の動力がクランク軸から動力伝達機構10のトランスミッション3に出力される。本実施例のエンジン2、本発明の駆動源を構成する。
【0023】
動力伝達機構10は、トランスミッション3と、フロントディファレンシャル4と、車両用トランスファ装置(以下、トランスファ装置という)5と、左右のフロントドライブ軸6L、6Rと、左右のリヤドライブ軸7L、7Rと、プロペラ軸11と、リヤディファレンシャル12とを含んで構成されている。
【0024】
トランスミッション3は、変速機構31と、インプット軸32と、カウンタ軸33と、ファイナルドライブギヤ34と、リバース軸35と、これらの構成要素を収容する変速機ケース36とを含んで構成されている。
【0025】
変速機構31は、インプット軸32に設けられた複数の入力ギヤと、カウンタ軸33に設けられた入力ギヤに噛み合う複数のカウンタギヤと、リバース軸35に設けられたリバースギヤとによって構成されている。
【0026】
インプット軸32、カウンタ軸33およびリバース軸35は、変速機ケース36に回転自在に支持されている。
【0027】
変速機構31は、インプット軸32に入力されたエンジン2の動力を入力ギヤおよびカウンタギヤを介して変速し、カウンタ軸33のファイナルドライブギヤ34を介してフロントディファレンシャル4に出力する。
【0028】
フロントディファレンシャル4は、ファイナルドライブギヤ34に噛み合うファイナルドリブンギヤ37と、外周部にファイナルドリブンギヤ37が取付けられ、ファイナルドリブンギヤ37と一体で回転するデフケース38を有する。
【0029】
フロントディファレンシャル4は、デフケース38に固定されるピニオン軸40と、 ピニオン軸40に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ39A、39Bと、ピニオンギヤ39A、39Bに噛み合い、ピニオンギヤ39A、39Bから伝達される動力を左右のフロントドライブ軸6L、6Rを介して前輪8L、8Rに分配する一対のサイドギヤ40A、40Bとを有する。
【0030】
フロントドライブ軸6Lは、サイドギヤ40Aに連結されおり、サイドギヤ40Aと一体で回転する。サイドギヤ40Bにはインタミ軸41(図2参照)が連結されており、インタミ軸41は、サイドギヤ40Bと一体で回転する。
【0031】
フロントドライブ軸6Rは、インタミ軸41に連結されており、フロントドライブ軸6Rは、インタミ軸41と一体で回転する。
【0032】
図2から図4に示すように、トランスファ装置5は、トランスファケース45および切換機構ケース46を備えている。切換機構ケース46は、ボルト47によってトランスファケース45に取付けられており、トランスファケース45は、ボルト48によって変速機ケース36に取付けられている。
【0033】
図6に示すように、インタミ軸41は、トランスファケース45に挿通されて車幅方向に延びている。
【0034】
トランスファケース45には中空形状のリダクションドライブ軸51が収容されており、リダクションドライブ軸51は、玉軸受52A、52Bを介してトランスファケース45に回転自在に支持されている。
【0035】
リダクションドライブ軸51の内部にはインタミ軸41が挿通されており、インタミ軸41は、玉軸受52Cを介してトランスファケース45に回転自在に支持されている。
【0036】
リダクションドライブ軸51の左端部にはデフケース38の外周部がスプライン嵌合される嵌合部51Aが設けられており、リダクションドライブ軸51は、デフケース38と一体で回転する。
【0037】
リダクションドライブ軸51の軸方向の中央部にはリダクションドライブギヤ51Bが設けられており、リダクションドライブギヤ51Bは、リダクションドライブ軸51と一体で回転する。
【0038】
トランスファケース45にはリダクションドリブン軸53とベベルギヤ54が収容されている。リダクションドリブン軸53は、円錐ころ軸受55A、55Bによってトランスファケース45に回転自在に支持されている。
【0039】
リダクションドリブン軸53にはリダクションドリブンギヤ53Aが設けられており、リダクションドリブンギヤ53Aは、リダクションドリブン軸53と一体で回転する。
【0040】
リダクションドリブンギヤ53Aは、リダクションドライブギヤ51Bに噛み合っており、リダクションドリブンギヤ53Aにはリダクションドライブギヤ51Bから動力が伝達される。
【0041】
ベベルギヤ54は、リダクションドリブン軸53にスプライン嵌合されており、リダクションドリブン軸53と一体で回転する。
【0042】
トランスファケース45にはトランスファピニオン軸56が収容されており、トランスファピニオン軸56は、スラスト玉軸受57を介してトランスファケース45に回転自在に支持されている。
【0043】
トランスファピニオン軸56は、リダクションドリブン軸53の軸方向と直交しており、車両1の前後方向に延びている。トランスファピニオン軸56の前端部にトランスファピニオンギヤ56Aが設けられており、トランスファピニオンギヤ56Aは、ベベルギヤ54に噛み合っている。本実施例のトランスファピニオン軸56は、本発明の入力軸を構成する。
【0044】
図5に示すように、スラスト玉軸受57に対してトランスファピニオンギヤ56Aと反対側にはドッグ58が設けられている。ドッグ58は、トランスファピニオン軸56の外周面にスプライン嵌合されており、トランスファピニオン軸56と一体で回転する。
【0045】
ドッグ58の外周面には外周スプライン58aが形成されている。トランスファピニオン軸56の外周部にはハブ59が設けられている。ハブ59は、トランスファピニオン軸56の軸方向で前後方向の隙間を介してドッグ58に対向しており、ドッグ58と同軸上に設けられている。
【0046】
図7に示すように、ハブ59は、円筒状の大径部59Aと、大径部よりも小径の円筒状の小径部59Bとを有する。小径部59Bの外周部には外周スプライン59aが形成されており、小径部59Bの内周部には内周スプライン59bが形成されている。
【0047】
図6に示すように、ドッグ58とハブ59の外周部にはシフトスリーブ60(図2参照)が設けられている。シフトスリーブ60の内周面には内周スプライン60aが形成されており、内周スプライン60aは、ハブ59の外周スプライン59aと常時、噛み合っている。
【0048】
図2に示すように、シフトスリーブ60は、シフトフォーク61に取付けられている。シフトフォーク61は、シフト軸62に取付けられており、シフト軸62は、軸方向に移動自在となるようにトランスファケース45に摺動自在に設けられている。
【0049】
トランスファケース45の上部には電動アクチュエータ63が設けられている(図5参照)。電動アクチュエータ63は、例えば、電動モータから構成されている。電動アクチュエータ63は、先端部にピニオンギヤ63aを有するモータ軸63Aを備えている。シフト軸62の軸方向にはラック歯62aが形成されており(図8参照)、ラック歯62aにはピニオンギヤ63aが噛み合っている。
【0050】
電動アクチュエータ63によってピニオンギヤ63aが回転されると、シフト軸62は、軸方向に進退自在となっており、シフトスリーブ60は、トランスファピニオン軸56の軸方向に移動自在となっている。
【0051】
図5に示すように、トランスファピニオン軸56の外周部には中空形状の出力部材64が設けられている。図7に示すように、出力部材64は、小径の円筒部65と、円筒部65の後端から径方向外方に突出する筒状のフランジ部66とを有する。換言すれば、円筒部65は、フランジ部66から出力部材64の軸方向に向かってフランジ部66から離れる方向に延びている。
【0052】
出力部材64の内周部、ドッグ58の内周部およびハブ59の内周部にはトランスファピニオン軸56が挿通されている。ここで、トランスファピニオン軸56、ドッグ58、ハブ59および出力部材64は、軸方向が平行となるように設置されている。
【0053】
円筒部65の外周面には外周スプライン65aが形成されており、外周スプライン65aは、ハブ59の内周スプライン59bに嵌合している。
【0054】
出力部材64とトランスファピニオン軸56の間には一対の玉軸受67A、67Bが設けられている。出力部材64は、玉軸受67A、67Bを介してトランスファピニオン軸56に回転自在に支持されており、トランスファピニオン軸56と相対回転する。本実施例の玉軸受67A、67Bは、本発明の軸受を構成する。
【0055】
出力部材64の外周スプライン65aとハブ59の内周スプライン59bは、周方向に隙間が形成されており、ハブ59と出力部材64の相対回転は、外周スプライン65aとハブ59の内周スプライン59bの周方向の隙間によって第1の所定角度θ1に規制される。
【0056】
ドッグ58、ハブ59、出力部材64は、切換機構ケース46に収容されており、シフト軸62は、トランスファケース45から切換機構ケース46に突出している。
【0057】
図1に示すように、出力部材64にはプロペラ軸11の前端部が連結されており、プロペラ軸11は、出力部材64と一体で回転する。プロペラ軸11の途中にはビスカスカップリング81が設けられている。
【0058】
プロペラ軸11の後端部にリヤディファレンシャル12が設けられており、リヤディファレンシャル12は、プロペラ軸11から伝達された動力をリヤドライブ軸7L、7Rを介して後輪9L、9Rに分配する。
【0059】
電動アクチュエータ63によってシフトスリーブ60がトランスファピニオンギヤ56Aから離れる方向に移動されると、図6に示すように、シフトスリーブ60の内周スプライン60aは、ハブ59の外周スプライン59aのみに嵌合される。
【0060】
このとき、ドッグ58からハブ59への動力の伝達が遮断され、エンジン2の動力は、プロペラ軸11に伝達されない。
【0061】
具体的には、フロントディファレンシャル4によって分配される一方の動力は、フロントドライブ軸6Lから前輪8Lに伝達され、フロントディファレンシャル4によって分配される他方の動力は、インタミ軸41からフロントドライブ軸6Rを介して前輪8Rに伝達される。
【0062】
また、デフケース38からリダクションドライブ軸51に伝達される動力は、リダクションドライブギヤ51Bからリダクションドリブンギヤ53A、リダクションドリブン軸53、ベベルギヤ54、トランスファピニオンギヤ56A、トランスファピニオン軸56を介してドッグ58に伝達される。
【0063】
シフトスリーブ60の内周スプライン60aがハブ59の外周スプライン59aのみに嵌合された状態では、ドッグ58からハブ59への動力の伝達が遮断され、エンジン2の動力が、プロペラ軸11に伝達されない。この状態では、ハブ59から出力部材64を介してプロペラ軸11に動力が伝達されないので、車両1は、二輪駆動で走行する。
【0064】
一方、電動アクチュエータ63によってシフトスリーブ60がトランスファピニオンギヤ56A側に移動されると、シフトスリーブ60の内周スプライン60aは、ドッグ58の外周スプライン58aおよびハブ59の外周スプライン59aに嵌合される(図5参照)。
【0065】
このとき、エンジン2の動力が、ドッグ58からハブ59、出力部材64、プロペラ軸11、リヤディファレンシャル12、リヤドライブ軸7L、7Rを介して後輪9L、9Rに伝達される。これにより、車両1は、四輪駆動で走行する。
【0066】
本実施例のドッグ58、ハブ59およびシフトスリーブ60は、二輪駆動と四輪駆動の切換えを行う切換機構を構成している。
【0067】
図6において、ハブ59と出力部材64の間にはエンジン2の回転やトルクの変動を吸収するダンパ部材68が設置されている。本実施例のトランスファ装置5は、ドッグ58がエンジン2に連絡されており、ハブ59は、ダンパ部材68を介して後輪9L、9Rに連絡されている。換言すれば、ダンパ部材68は、ドッグ58よりもエンジン2の動力伝達経路上において下流側に設置されている。
【0068】
図7に示すように、ダンパ部材68は、アウタリング68Aと、インナリング68Bと、アウタリング68Aとインナリング68Bの間に設けられ、アウタリング68Aとインナリング68Bに圧着されたゴム等の弾性体68Cとから構成されている。
【0069】
インナリング68Bは、弾性体68Cの前端から前方に突出する環状突部68aを有し、環状突部68aの内周面には内周スプライン68sが形成されている。
【0070】
図5に示すように、アウタリング68Aは、ハブ59の大径部59Aの内周面に圧入されており、ダンパ部材68は、ハブ59と一体で回転する。
【0071】
ダンパ部材68の内周スプライン68sは、出力部材64の外周スプライン65aに嵌合されている。ダンパ部材68の内周スプライン68sと出力部材64の外周スプライン65aは、周方向に隙間が形成されている。
【0072】
この隙間は、出力部材64の外周スプライン65aとハブ59の内周スプライン59bの周方向の隙間よりも小さく形成されている。
【0073】
これにより、ダンパ部材68と出力部材64の相対回転は、出力部材64の外周スプライン65aとダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sの周方向の隙間によって第1の所定角度θ1よりも小さい第2の所定角度θ2に規制される。
【0074】
ダンパ部材68のインナリング68Bの内周面と出力部材64の円筒部65の間には微小な隙間が形成されており、オイルが通過可能となっている。
【0075】
ハブ59と出力部材64との間であって、ハブ59と出力部材64の前端には、円筒部材69が、出力部材64と相対回転自在に設置されており、円筒部材69は、出力部材64に対してハブ59の偏心を防止している。円筒部材69は、トランスファピニオン軸56の軸方向でハブ59の内周スプライン59bと重なっている。
【0076】
本実施例のドッグ58は、本発明の第1の動力伝達部材を構成し、ハブ59は、本発明の第2の動力伝達部材を構成する。ドッグ58の外周スプライン58aは、本発明の第1の外周スプラインを構成し、ハブ59の外周スプライン59aは、本発明の第2の外周スプラインを構成する。
【0077】
出力部材64の外周スプライン65aは、本発明の第3の外周スプラインを構成し、シフトスリーブ60の内周スプライン60aは、本発明の第1の内周スプラインを構成する。ハブ59の内周スプライン59bは、本発明の第2の内周スプラインを構成し、ダンパ部材68の内周スプライン68sは、本発明の第3の内周スプラインを構成する。
【0078】
トランスファピニオン軸56の軸方向の中央部にはナット70が締結されている。ナット70は、ドッグ58の後端部に当接しており、トランスファピニオンギヤ56Aは、スラスト玉軸受57のインナレース57Aの前端部に当接している。
【0079】
トランスファピニオン軸56は、ナット70とトランスファピニオンギヤ56Aがスラスト玉軸受57およびドッグ58を挟持することにより、軸方向に位置決めされてトランスファケース45に取付けられ、ドッグ58と一体で回転する。
【0080】
トランスファピニオン軸56の軸方向中央部にトランスファピニオン軸56の外周面において周方向に延びる段部56aが形成されており、段部56aには玉軸受67Bのインナレース67cの前端部が当接している。
【0081】
出力部材64の円筒部65とフランジ部66の連絡部には出力部材64の外周面において周方向に延びる段部64aが形成されており、段部64aは、ダンパ部材68の後端部とトランスファピニオン軸56の軸方向で重なる位置に設けられている。段部64aにはダンパ部材68の後端部が当接している。また、ハブ59とダンパ部材68とを相対回転させるために、ハブ59の大径部59Aと小径部59Bの連絡部とダンパ部材68との間に軸方向の隙間が形成されている。
【0082】
出力部材64の円筒部65には出力部材64の内周面において周方向に延びる段部65bが形成されており、段部65bには玉軸受67Aのアウタレース67bの前端部(軸受の軸方向一端部)が当接している。出力部材64のフランジ部66の内周面にはサークリップ74が設けられており、サークリップ74は、玉軸受67Aのアウタレース67bの後端部(軸受の軸方向他端部)に当接している。
【0083】
すなわち、玉軸受67Aは、アウタレース67bがトランスファピニオン軸56の軸方向で段部65bとサークリップ74に挟持されることにより、トランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされ、トランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっている。
【0084】
なお、出力部材64において、玉軸受67Aのアウタレース67bの後端部(軸受の軸方向他端部)に段部65bを形成し、玉軸受67Aのアウタレース67bの前端部(軸受の軸方向一端部)にサークリップ74を設けてもよい。
【0085】
本実施例の段部56aは、本発明の第1の段部を構成し、段部64aは、本発明の第2の段部を構成する。段部65bは、本発明の第3の段部を構成し、サークリップ74は、本発明の第1のクリップ部材を構成する。
【0086】
トランスファピニオン軸56の後端部にナット71が締結されている。ナット71と玉軸受67Aのインナレース67aの間にはスペーサ72が介装されており、玉軸受67Aのインナレース67aと玉軸受67Bのインナレース67cの間にはスペーサ73が介装されている。本実施例のナット71は、本発明の締結部材を構成する。
【0087】
玉軸受67Bのインナレース67cの前端部は、段部56aに当接しており、玉軸受67Bのインナレース67cの後端部は、スペーサ73に当接している。
【0088】
このため、トランスファピニオン軸56の後端部にナット71が締結されると、トランスファピニオン軸56の軸方向において玉軸受67A、67Bがスペーサ72、73を介して段部56aとナット71に挟持される。
【0089】
これにより、出力部材64がトランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされ、トランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となる。
【0090】
ダンパ部材68のインナリング68Bの後端部は、出力部材64の段部64aに当接しており、ダンパ部材68のインナリング68Bの前端部は、ハブ59の大径部59Aと小径部59Bの連絡部に当接している。
【0091】
出力部材64の前端部の外周面にはサークリップ77が設けられており、サークリップ77には円筒部材69の前端部が当接している。円筒部材69の後端部は、ハブ59の内周スプライン59bに当接している。本実施例のサークリップ77は、本発明の第2のクリップ部材を構成する。
【0092】
これにより、トランスファピニオン軸56の軸方向で円筒部材69とハブ59とダンパ部材68とがサークリップ77と段部64aとに挟持されることにより、ダンパ部材68は、出力部材64に対してトランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされてトランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっている。
【0093】
ハブ59の外周部にはリング部材78が設けられている。リング部材78は、出力部材64のフランジ部66の内周部に圧入されており、出力部材64と一体で回転する。
【0094】
リング部材78の外周部にはオイルシール75が設けられており、オイルシール75は、トランスファピニオン軸56の軸方向、すなわち、出力部材64の軸方向でダンパ部材68に重なっている。換言すれば、オイルシール75は、トランスファピニオン軸56の軸方向と直交する方向でダンパ部材68と並んで設置されている。
【0095】
本実施例の玉軸受67Aは、出力部材64のフランジ部66側に位置しており、玉軸受67Bは、円筒部65の突出方向先端部(前端部)側に位置している。オイルシール75は、トランスファピニオン軸56の軸方向で玉軸受67Aの後端部と玉軸受67Bの前端部の間に設置されており、トランスファピニオン軸56の軸方向で玉軸受67Aに重なっている。
【0096】
具体的には、図5に示すように、オイルシール75は、玉軸受67Aの後端部と玉軸受67Bの前端部とをトランスファピニオン軸56の軸方向で結んだ範囲L内に設置されている。
【0097】
オイルシール75の内周面は、リング部材78に密着しており、オイルシール75の外周面は、切換機構ケース46に密着している。このため、オイルシール75によって切換機構ケース46と出力部材64のフランジ部66との間の開口が閉塞され、切換機構ケース46の内部がオイルシール75によって密閉される。したがって、切換機構ケース46の内部からオイルが漏出することを防止できる。
【0098】
オイルシール75の内径は、ハブ59、ダンパ部材68、円筒部材69およびリング部材78の外径よりも大径に形成されている。ダンパ部材68は、トランスファピニオン軸56の軸方向でオイルシール75、リング部材78およびハブ59の大径部59Aに重なっている。
【0099】
スペーサ72の外周部にはオイルシール79が設けられている。オイルシール79の内周面は、スペーサ72に密着しており、オイルシール79の外周面は、出力部材64のフランジ部66に密着している。
【0100】
これにより、切換機構ケース46の内部がオイルシール79によって密閉され、出力部材64とスペーサ72の間から切換機構ケース46の内部からオイルが漏出することを防止できる。
【0101】
トランスファピニオン軸56の内部には潤滑用のオイルが流れるオイル通路56Bが形成されている。オイル通路56Bの前端部は開口しており、オイル通路56Bの後端部は、開口端から玉軸受67Aまで延びている。
【0102】
トランスファピニオン軸56には放射孔56Cが形成されており、放射孔56Cは、オイル通路56Bから放射方向(径方向)に延び、延びる方向の端部が開口している。
【0103】
オイル通路56Bの開口端にはベベルギヤ54によって掻き上げられたオイルが導入され、オイル通路56Bを流れるオイルは、トランスファピニオン軸56の回転による遠心力によって放射孔56Cから外方に吐出される。
【0104】
ここで、図5にトランスファケース45に貯留されるオイルO1の油面と切換機構ケース46に貯留されるオイルO2の油面を示す。
【0105】
スペーサ73には貫通孔73aが形成されており、放射孔56Cから外方に吐出されるオイルは、スペーサ73の貫通孔73aを通って玉軸受67Aと玉軸受67Bの間の空間に導入される。これにより、玉軸受67Aと玉軸受67Bがオイルによって潤滑される。
【0106】
出力部材64の円筒部65には貫通孔65cが形成されており、玉軸受67Aと玉軸受67Bの間の空間に導入されるオイルは、貫通孔65cから吐出され、ダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sと出力部材64の外周スプライン65aを潤滑する。
【0107】
出力部材64とフランジ部66とリング部材78の間の空間にはオイル溜まり76が形成されている。具体的には、リング部材78は、オイル溜まり76の外周部に設けられており、出力部材64とフランジ部66の空間を外方から囲むことで、オイル溜まり76内にオイルが一時的に貯留される。
【0108】
内周スプライン68sと外周スプライン65aを潤滑したオイルは、出力部材64の円筒部65とダンパ部材68のインナリング68Bの間の隙間を通ってダンパ部材68と出力部材64のフランジ部66の間のオイル溜まり76に一時的に貯留される。
【0109】
一方、貫通孔65cから吐出されたオイルは、ハブ59の内周スプライン59bと出力部材64の外周スプライン65aを潤滑した後、出力部材64と円筒部材69の間の隙間を通過し、ドッグ58とハブ59の間の隙間を通って径方向外方に吐出される。
【0110】
ドッグ58とハブ59の間の隙間から径方向外方に吐出されたオイルは、ドッグ58の外周スプライン58aおよびハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aとを潤滑する。
また、オイル溜まり76に多くのオイルを貯留できるので、ダンパ部材68のインナリング68Bと出力部材64の嵌合面、ハブ59の内周スプライン59bと出力部材64の外周スプライン65a、円筒部材69と出力部材64の嵌合面の潤滑性能を向上できる。
【0111】
次に、作用を説明する。
車両1の二輪駆動時にはシフトスリーブ60の内周スプライン60aがハブ59の外周スプライン59aのみに噛み合っている(図6参照)。
【0112】
二輪駆動から四輪駆動に切換えるには、電動アクチュエータ63によってシフト軸62が軸方向前方に駆動するようにシフト軸62を駆動し、シフトスリーブ60を前側に移動させる。
【0113】
ドッグ58とハブ59が同期されると、シフトスリーブ60の内周スプライン60aがドッグ58の外周スプライン58aに噛み合い、ドッグ58とハブ59がシフトスリーブ60を介して連結される。
【0114】
このとき、エンジン2の動力がトランスミッション3およびフロントディファレンシャル4のデフケース38を介してリダクションドライブ軸51に伝達された後、リダクションドライブギヤ51B、リダクションドリブンギヤ53A、リダクションドリブン軸53、ベベルギヤ54、トランスファピニオン軸56、ドッグ58を介してハブ59に伝達される。
【0115】
エンジン2の動力は、ハブ59から出力部材64、プロペラ軸11、リヤディファレンシャル12に伝達された後、リヤディファレンシャル12によってリヤドライブ軸7L、7Rに分配された後、後輪9L、9Rに伝達される。図8において、四輪駆動時のトランスファ装置5における動力伝達経路82、83を矢印で示す。
【0116】
次に、本実施例のトランスファ装置5の効果を説明する。
本実施例のトランスファ装置5は、外周部に外周スプライン58aが形成され、エンジン2から動力が伝達されるドッグ58と、外周部に外周スプライン59aが形成され、ドッグ58と同軸上に設けられたハブ59とを有する。
【0117】
トランスファ装置5は、ドッグ58とハブ59の軸方向に移動自在に設けられ、二輪駆動時には内周スプライン60aがハブ59の外周スプライン59aのみに嵌合することにより、ドッグ58からハブ59への動力の伝達を遮断するシフトスリーブ60を有する。
【0118】
トランスファ装置5は、四輪駆動時にシフトスリーブ60の内周スプライン60aがドッグ58の外周スプライン58aとハブ59の外周スプライン59aに嵌合することにより、ドッグ58からハブ59に動力を伝達する。
【0119】
これに加えて、ハブ59に、エンジン2のトルク変動や回転変動を吸収するダンパ部材68が設置されている。
【0120】
このように、本実施例のトランスファ装置5は、ドッグ58側ではなく、二輪駆動時および四輪駆動時のいずれの場合でもシフトスリーブ60の内周スプライン60aと嵌合するハブ59側にダンパ部材68を設けている。
【0121】
これにより、シフトスリーブ60の内周スプライン60aとドッグ58の外周スプライン58aが噛み合わない同期待ち状態において、前方に移動するシフトスリーブ60からドッグ58にスラスト荷重が掛かることを防止できる。
【0122】
このため、ダンパ部材68の弾性体68Cがスラスト方向に変形することを防止でき、ダンパ部材68の耐久性が低下することを防止できる。
【0123】
また、四輪駆動時にエンジン2の回転変動やトルク変動がハブ59に入力された場合に、ダンパ部材68によってエンジン2の回転変動やトルク変動を吸収できる。
【0124】
このため、ドッグ58の外周スプライン58aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aや、ハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aの接触時の衝撃を緩和できる
【0125】
この結果、ドッグ58の外周スプライン58aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aの歯打ち音や、ハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aの歯打ち音を低減できる。
【0126】
また、本実施例のトランスファ装置5によれば、ドッグ58は、エンジン2に連絡されており、ハブ59は、ダンパ部材68を介して後輪9L、9Rに連絡されている。
【0127】
これにより、二輪駆動時に後輪9L、9Rの回転変動やトルク変動がプロペラ軸11を介して出力部材64に入力された場合に、後輪9L、9Rの回転変動やトルク変動をダンパ部材68によって吸収できる。
【0128】
このため、二輪駆動時にハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aの接触時の衝撃を緩和でき、ハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aの歯打ち音を低減できる。
【0129】
また、本実施例のトランスファ装置5は、車両1の前後方向に延び、ドッグ58と一体で回転してエンジン2から伝達された動力をドッグ58に伝達するトランスファピニオン軸56と、トランスファピニオン軸56と相対回転自在に設けられ、後輪9L、9Rに動力を伝達する出力部材64とを備えている。
【0130】
ダンパ部材68は、ハブ59と出力部材64の間に設けられ、ハブ59と一体で回転する。
【0131】
出力部材64の外周面に、外周スプライン65aが形成されており、ハブ59の内周面に、外周スプライン65aに嵌合し、ハブ59と出力部材64の相対回転を第1の所定角度θ1に規制する内周スプライン59bが形成されている。
【0132】
ダンパ部材68の内周面、すなわち、インナリング68Bの環状突部68aの内周面に、出力部材64の外周スプライン65aに嵌合し、ダンパ部材68と出力部材64の相対回転を第1の所定角度θ1よりも小さい第2の所定角度θ2に規制する内周スプライン68sが形成されている。
【0133】
これに加えて、ハブ59と出力部材64との間に出力部材64と相対回転自在な円筒部材69が設置されている。
【0134】
このように、ハブ59の内周スプライン59bと出力部材64の外周スプライン65aによってハブ59と出力部材64の相対回転を第1の所定角度θ1に規制し、出力部材64の外周スプライン65aとダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sによって出力部材64とダンパ部材68の相対回転を第1の所定角度θ1よりも小さい第2の所定角度θ2に規制している。
【0135】
これにより、四輪駆動時にエンジン2の回転変動やトルク変動がハブ59に入力され、ハブ59と出力部材64が相対回転した場合に、ダンパ部材68の弾性体68Cが弾性変形することにより、エンジン2の回転変動やトルク変動を吸収できる。
【0136】
このとき、ハブ59からダンパ部材68を介して出力部材64に動力が伝達される。図8において、ダンパ部材68を通して動力が伝達される動力伝達経路83を破線の矢印で示す。
【0137】
また、本実施例のトランスファ装置5は、ハブ59と出力部材64との間に出力部材64と相対回転自在な円筒部材69が設置されているので、回転中心であるトランスファピニオン軸56に相対回転自在に設けられた出力部材64に対し、ハブ59が径方向に偏心することを防止できる。
【0138】
このため、ダンパ部材68の弾性体68Cの径方向の厚さを弾性体68Cの周方向に亙って均一にでき、弾性体68Cが偏って変形することを防止できる。この結果、ダンパ部材68の耐久性が低下することを防止できる。
【0139】
これに加えて、ダンパ部材68の弾性体68Cの径方向の厚さを弾性体68Cの周方向に亙って均一にできるので、ドッグ58とハブ59の軸心が径方向にずれることを防止でき、ドッグ58の外周スプライン58aとハブ59の外周スプライン59aが径方向にずれることを防止できる。
【0140】
このため、二輪駆動から四輪駆動への切換え時にシフトスリーブ60の内周スプライン60aをドッグ58の外周スプライン58aに円滑に噛み合わせることができる。この結果、二輪駆動から四輪駆動への切換え性能が低下することを防止できる。
【0141】
また、本実施例のトランスファ装置5によれば、出力部材64に対して、ハブ59が径方向に偏心することを防止する円筒部材69は、トランスファピニオン軸56の軸方向でハブ59の外周スプライン59aと重なっている。
【0142】
これにより、ドッグ58の外周スプライン58aとハブ59の外周スプライン59aが径方向にずれることをより効果的に防止できる。
【0143】
また、本実施例のトランスファ装置5によれば、出力部材64とトランスファピニオン軸56の間に、出力部材64をトランスファピニオン軸56に相対回転自在に支持する玉軸受67A、67Bが設けられている。
【0144】
トランスファピニオン軸56の後端部にナット71が締結されている。また、トランスファピニオン軸56の軸方向中央部にはトランスファピニオン軸56の周方向に延びる段部56aが形成されている。
【0145】
出力部材64は、出力部材64の周方向に延び、ダンパ部材68の後端部とトランスファピニオン軸56の軸方向で重なる位置に形成された段部64aと、出力部材64の周方向に延び、玉軸受67Aのアウタレース67bの前端部に当接する段部65bと、玉軸受67Aの後端部に当接するサークリップ74とを有する。
【0146】
トランスファピニオン軸56の軸方向において玉軸受67A、67Bがスペーサ72、73を介して段部56aとナット71に挟持されることにより、出力部材64がトランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされてトランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっている。
【0147】
これに加えて、出力部材64の外周部に円筒部材69の前端部が当接するサークリップ77が取付けられており、トランスファピニオン軸56の軸方向で円筒部材69とハブ59とダンパ部材68とがサークリップ77と段部64aとに挟持されることにより、ダンパ部材68が出力部材64に対してトランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっている。
【0148】
このように、出力部材64がトランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされてトランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっているとともに、ダンパ部材68が出力部材64に対してトランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっているので、ナット71をトランスファピニオン軸56に締め付けるときの荷重がダンパ部材68に加わることを防止できる。
【0149】
このため、ドッグ58、ハブ59および出力部材64等をトランスファピニオン軸56に組み付けるときに、ナット71の締め付け荷重によってダンパ部材68の耐久性が低下することを防止できる。
【0150】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0151】
1...車両、2...エンジン(駆動源)、5...トランスファ装置(車両用トランスファ装置)、8L,8R...前輪(主駆動輪)、9L,9R...後輪(副駆動輪)、56...トランスファピニオン軸(入力軸)、56a...段部(第1の段部)、58...ドッグ(第1の動力伝達部材)、58a...外周スプライン(第1の外周スプライン)、59...ハブ(第2の動力伝達部材)、59a...外周スプライン(第2の外周スプライン)、59b...内周スプライン(第2の内周スプライン)、60...シフトスリーブ、60a...内周スプライン(第1の内周スプライン)、64...出力部材、64a...段部(第2の段部)、65a...外周スプライン(第3の外周スプライン)、65b...段部(第3の段部)、67A,67B...玉軸受(軸受)、68...ダンパ部材、68s...内周スプライン(第3の内周スプライン)、71...ナット(締結部材)、72,73...スペーサ、74...サークリップ(第1のクリップ部材)、77...サークリップ(第2のクリップ部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8