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特許7392336磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20231129BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
G01N21/64 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019163061
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021042982
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 朋宏
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/119367(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0191139(US,A1)
【文献】米国特許第09897603(US,B1)
【文献】特表2018-514795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0239489(US,A1)
【文献】国際公開第2019/027917(WO,A1)
【文献】特表2009-524067(JP,A)
【文献】国際公開第2022/162466(WO,A2)
【文献】High-resolution magnetic resonance spectroscopy using a solid-state spin sensor,Nature,Macmillan Publishers Limited,2018年03月15日,Vol. 555,doi: 10.1038/nature25781
【文献】Solution nuclear magnetic resonance spectroscopy on a nanostructured diamond chip,Nature Communications,2017年08月04日,8:188,doi: 10.1038/s41467-017-00266-4
【文献】On The Potintial of Dynamic Nuclear Polarization Enhanced Diamonds in Solid-State and Dissolution 13C NMR Spectroscopy,ChemPhysChem,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2016年07月15日,Vol. 17,pp. 2691-2701, S1-S3,doi: 10.1002/cphc.201600301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-G01N 24/14
G01N 21/62-G01N 21/74
G01N 15/00-G01N 15/14
Nature
Wiley Online Library
ACS PUBLICATIONS
APS Journals
Oxford Journals
Scitation
Science Direct
Science
KAKEN
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を保持する試料容器と、欠陥中心を含む複数の粒子と、前記液体試料および前記粒子に磁場を印加する磁場印加装置と、前記液体試料および前記粒子にマイクロ波を照射するマイクロ波源と、前記粒子に励起光を照射する励起光源と、前記粒子から放出される蛍光を検出する光検出器と、を含み、
前記液体試料と前記粒子とが直接または前記粒子の材料以外の異種材料を介在して接触しており、
前記粒子に含まれる前記欠陥中心は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心であり、
前記試料容器の内部に、前記液体試料および前記ダイヤモンド粒子がともに収容される磁気共鳴分光装置。
【請求項2】
前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子の粒径は、1nm以上100nm以下である請求項に記載の磁気共鳴分光装置。
【請求項3】
前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部は、ダイヤモンド以外の異種材料で覆われている請求項または請求項に記載の磁気共鳴分光装置。
【請求項4】
前記異種材料により形成されているフィラメントを有する請求項に記載の磁気共鳴分光装置。
【請求項5】
前記異種材料は、前記試料容器の内部の所定の位置に固定されている請求項に記載の磁気共鳴分光装置。
【請求項6】
前記異種材料は、前記試料容器の外部の所定の位置に固定されている請求項に記載の磁気共鳴分光装置。
【請求項7】
前記磁気共鳴分光装置は、核磁気共鳴分光装置である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の磁気共鳴分光装置。
【請求項8】
試料容器に保持された液体試料と粒子への磁場の印加およびマイクロ波の照射により前記液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を、前記マイクロ波の照射と同時の前記粒子への励起光の照射により前記粒子に含まれる欠陥中心から放出される蛍光として検出することにより、前記物質についての情報を得る磁気共鳴分光の測定方法であって、
前記液体試料と前記粒子とが直接または前記粒子の材料以外の異種材料を介在して接触しており、
前記粒子に含まれる前記欠陥中心は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心であり、
前記試料容器の内部に、前記液体試料および前記ダイヤモンド粒子がともに収容される磁気共鳴分光の測定方法。
【請求項9】
前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子の粒径は、1nm以上100nm以下である請求項に記載の磁気共鳴分光の測定方法。
【請求項10】
前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部は、ダイヤモンド以外の異種材料で覆われる請求項または請求項に記載の磁気共鳴分光の測定方法。
【請求項11】
前記異種材料により形成されているフィラメントを有する請求項10に記載の磁気共鳴分光の測定方法。
【請求項12】
前記異種材料は、前記試料容器の内部の所定の位置に固定される請求項10に記載の磁気共鳴分光の測定方法。
【請求項13】
前記異種材料は、前記試料容器の外部の所定の位置に固定される請求項10に記載の磁気共鳴分光の測定方法。
【請求項14】
前記磁気共鳴分光の測定方法は、核磁気共鳴分光の測定方法である請求項から請求項13のいずれか1項に記載の磁気共鳴分光の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴分光装置などの磁気共鳴分光装置は、物質の構造や物質間・物質内相互作用といった物性情報を非破壊で得られるという特徴を持つ装置であり、その特徴から化学、材料科学、医薬品といった幅広い分野で利用されている。
【0003】
近年、核磁気共鳴信号の検出プローブとして、誘導コイルを用いない方式が提案されている。たとえば、非特許文献1は、核磁気共鳴分光装置の核磁気共鳴信号の検出プローブとしてダイヤモンド中の窒素空孔中心を用いることができることを開示する。また、非特許文献2は、核磁気共鳴信号の検出プローブとして、グレーティング(格子)構造を有する表面近傍に窒素空孔中心が形成されたダイヤモンド基板を用いた核磁気共鳴分光装置を開示する。
さらに、非特許文献3は、ダイヤモンド中のゲルマニウム空孔中心を色中心とするフォトルミネッセンスを開示する。また、非特許文献4は、炭化ケイ素中の原子欠陥が磁場の変化に感応することを開示する。なお、非特許文献5は、窒素空孔中心を含む粒径5nmのダイヤモンドを開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】David R. Glenn, et al., High Resolution Magnetic Resonance Spectroscopy Using Solid-State Spins, Nature volume 555, pages 351-354 (15 March 2018)
【文献】P. Kehayias, et al., Solution nuclear magnetic resonance spectroscopy on a nanostructured diamond chip, Nature Communicationsvolume 8, Article number: 188 (2017)
【文献】T. Iwasaki, M. Hatano, et al., Germanium-Vacancy Single Color Centers in Diamond, Scientific Reports 5, 12882 (2015)
【文献】C. J. Cochrane, P. M. Lenahan, Vectorized magnetometer for space applications using electrical readout of atomic scale defects in silicon carbide, Scientific Reports volume 6, Article number: 37077 (2016)
【文献】S. Sotoma, et al., Enrichment of ODMR-active nitrogen-vacancy centres in five-nanometre-sized detonationsynthesized nanodiamonds: Nanoprobes for temperature, angle and position, Scientific Reportsvolume 8, Article number: 5463 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1および非特許文献2に開示される、核磁気共鳴信号をダイヤモンド中の窒素空孔中心により検出する核磁気共鳴分光装置は、感度が低いという問題があった。
【0006】
そこで、核磁気共鳴信号などの磁気共鳴信号を検出する感度が高い磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、液体試料を保持する試料容器と、欠陥中心を含む複数の粒子と、液体試料および粒子に磁場を印加する磁場印加装置と、粒子から放出される蛍光を検出する光検出器と、を含み、液体試料と粒子とが直接または粒子の材料以外の異種材料を介在して接触している磁気共鳴分光装置に関する。
【0008】
本発明の一態様は、磁場の印加により試料容器に保持された液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を、粒子に含まれる欠陥中心により蛍光として検出することにより、物質についての情報を得る磁気共鳴分光の測定方法であって、液体試料と粒子とが直接または粒子の材料以外の異種材料を介在して接触している磁気共鳴分光の測定方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
上記によれば、磁気共鳴信号を検出する感度が高い磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、磁気共鳴分光装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心の一例を示す概略図である。
図3図3は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心のエネルギー位の一例を示す概略図である。
図4図4は、マイクロ波の周波数と蛍光強度との関係の一例を示すグラフである。
図5図5は、ダイヤモンド材料のグレーティングピッチまたは粒径と所定の円筒領域におけるその表面積との関係の一例を示すグラフである。
図6図6は、試料容器における液体試料とダイヤモンド粒子の配置形態の第1例を示す概略図である。
図7図7は、試料容器における液体試料とダイヤモンド粒子の配置形態の第2例を示す概略図である。
図8図8は、試料容器における液体試料とダイヤモンド粒子の配置形態の第3例を示す概略図である。
図9図9は、試料容器における液体試料とダイヤモンド粒子の配置形態の第4例を示す概略図である。
図10図10は、試料容器における液体試料とダイヤモンド粒子の配置形態の第5例を示す概略図である。
図11図11は、試料容器における液体試料とダイヤモンド粒子の配置形態の第6例を示す概略図である。
図12図12は、磁気共鳴分光装置の別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪基本的構成≫
本発明の一実施形態である磁気共鳴分光装置または磁気共鳴分光の測定方法の基本的構成は、磁場の印加により試料容器に保持された液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を、粒子に含まれる欠陥中心により蛍光として検出することにより、物質についての情報を得るものである。本発明の磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法における特徴のひとつは、液体試料と粒子とが直接または粒子の材料以外の材料を介在して接触していることである。かかる磁気共鳴分光装置および磁気共鳴分光の測定方法は、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い。
【0012】
[粒子に含まれる欠陥中心の種類]
粒子に含まれる欠陥中心は、磁場が印加された液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出できるものであれば特に制限はなく、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心、ダイヤモンド粒子に含まれるゲルマニウム空孔中心、炭化ケイ素粒子中に含まれる欠陥中心など、いずれの色中心であってもよい。粒子に含まれる欠陥中心は、磁場、電場などの物理量を室温(たとえば25℃)で検出する感度が高い観点から、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心とすることができる。
【0013】
≪磁気共鳴分光装置≫
本発明の一実施形態である磁気共鳴分光装置は、液体試料を保持する試料容器と、欠陥中心を含む複数の粒子と、液体試料および粒子に磁場を印加する磁場印加装置と、粒子から放出される蛍光を検出する光検出器と、を含み、液体試料と粒子とが直接または粒子の材料以外の異種材料を介在して接触している。本実施形態の磁気共鳴分光装置は、液体試料に含まれる磁気共鳴信号を発生する物質と粒子に含まれる核磁気共鳴信号を検出する欠陥中心との距離が近いため、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い。
【0014】
<核磁気共鳴分光装置>
本実施形態の磁気共鳴分光装置は、核磁気共鳴分光装置とすることができる。図1に本実施形態の磁気共鳴分光装置100の一例である核磁気共鳴分光装置を示す。この磁気共鳴分光装置100は、液体試料1を保持する試料容器20と、欠陥中心を含む複数の粒子(たとえばダイヤモンド粒子11)と、液体試料1および粒子(ダイヤモンド粒子11)に磁場を印加する磁場印加装置101(たとえば磁石)と、粒子(ダイヤモンド粒子11)から放出される蛍光を検出する光検出器44と、を含み、液体試料1と粒子(たとえばダイヤモンド粒子11)とが直接または粒子の材料以外の異種材料を介在して接触している。このため、本実施形態の磁気共鳴分光装置100は、液体試料1に含まれる核磁気共鳴信号を発生する物質と粒子に含まれる核磁気共鳴信号を検出する欠陥中心(たとえばダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心)との距離が近いため、核磁気共鳴信号を検出する感度が高い。
【0015】
本実施形態の磁気共鳴分光装置100は、試料容器20、ならびに試料容器20の周囲に配設される磁場印加装置101(たとえば磁石)、マイクロ波発生器31、マイクロ波照射用アンテナ32、励起光源41、および光検出器44を含む。試料容器20には測定対象である物質を含む液体試料1および欠陥中心を含む粒子(ダイヤモンド粒子11)が配置される。液体試料1は試料容器20の内部に収容される。欠陥中心を含む粒子(窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11)は、試料容器20の内部に配置されてもよく(図1および図6図10を参照)、試料容器20の外部に配置されてもよい(図11を参照)。
【0016】
ここで、磁場印加装置101である磁石は測定対象である物質を含む液体試料1に磁場を印加する静磁場源である。マイクロ波発生器31およびマイクロ波照射用アンテナ32は、測定対象である物質を含む液体試料1および欠陥中心を含む粒子(窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11)にマイクロ波を照射するマイクロ波源である。励起光源41は、たとえば集光素子42および分岐素子43を介在させて、粒子に含まれる欠陥中心(ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心)を励起する。光検出器44は、たとえば、分岐素子43および集光素子42を介在させて、粒子に含まれる欠陥中心(ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心)からの蛍光を検出する。
【0017】
[磁気共鳴信号の測定原理]
図2に、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心の一例を示す。図2に示すように、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心は、窒素(N)-空孔(V)の形成される方向による感度の極性があるため、液体試料に含まれる物質の磁化ベクトルの特定の方向の成分の強度のみを検出できる。
【0018】
図3に、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心のエネルギー位の一例を示す。図3を参照して、磁場が印加された液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号(磁化ベクトル)の特定の方向(通常は、静磁場H0の印加方向をz軸とし、マイクロ波の
パルスにより液体試料に含まれる物質の磁化ベクトルをz軸から90°傾けたy軸方向)の成分Bの絶対値|B|の大きさに応じて、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心のエネルギー位がゼーマン分裂を引き起こす。すなわち、窒素空孔中心の基底状態および励起状態のそれぞれが磁気量子数msが0、-1、および+1をもつトリプレットで構成
されている。ゼーマン分裂のエネルギー差は2γ|B|である。ここで、γは磁気回転比である。
【0019】
図3中のESRとは電子スピン共鳴を意味しており、マイクロ波による不対電子のms=0からms=-1へまたはms=0からms=+1への励起を意味する。電子が基底状態のms=0の準位にある場合は、波長638nm未満の光で励起されると、高い確率で波長638nmの蛍光を発して基底状態のms=0の準位に戻る。電子が基底状態のms=-1またはms=+1のいずれかの準位にある場合は、波長638nm未満の光で励起されると、高い確率で蛍光を発することなく基底状態のms=0の準位に戻る。ここで、窒素空孔中心の励起には、波長638nm未満の光であれば足りるが、蛍光との分離および励起効率が高い観点から、窒素空孔中心のフォノンサイドバンドの1つである波長532nmの光が好適に用いられる。
【0020】
したがって、マイクロ波をその周波数をスイープしながら照射し、同時に、波長638nm未満の励起光を照射しながら、蛍光強度を測定すると、マイクロ波の周波数が基底状態のms=0とms=-1との間またはms=0とms=+1との間のエネルギー差に一致するときに蛍光強度が低下する。図4に、マイクロ波の周波数と蛍光強度との関係の一例を示す。図3および図4において、Lは基底状態におけるms=-1のときのエネルギー準位を示し、Hは基底状態におけるms=+1のときのエネルギー準位を示す。蛍光強度が低下するときのマイクロ波の周波数差がゼーマン分裂のエネルギー差2γ|B|に相当することから、磁気共鳴信号(磁化ベクトルのy軸方向の成分B)の絶対値が得られる。
【0021】
[ダイヤモンド粒子の粒径]
本実施形態の磁気共鳴分光装置は、磁気共鳴信号の検出感度を高める観点から、磁気共鳴信号の検出プローブとして窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子を用いることができる。窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の粒径は、磁気共鳴信号の検出感度を高める観点から、1nm以上100nm以下とすることができる。このような粒径が1nm以上100nm以下のダイヤモンド粒子は、一般にダイヤモンドナノ粒子と呼ばれる。
【0022】
図5に、ダイヤモンド材料のグレーティング(格子)ピッチまたは粒径と所定の円筒領域におけるその表面積との関係の一例を示す。すなわち、所定の円筒領域内におけるグレーティング加工されたダイヤモンド材料の表面積と、所定の円筒領域内に球体で近似したダイヤモンド粒子を稠密充填したときの表面積との対比を示す。ここで、所定の円筒領域とは、非特許文献1において実施された実験において、顕微鏡で光学系を動かすことなく一度に観察できる領域である半径25μmおよび高さ3μmの円筒領域をいう。円筒領域の高さはグレーティング加工されたダイヤモンド材料のグレーティング深さに合わせて規定したものである。図5において、Iは非特許文献2において実施されたダイヤモンド材料のグレーティングピッチである400nmを示し、IIは非特許文献5において実施されたダイヤモンド材料の粒径である5nmを示す。2つのダイヤモンド材料の窒素空孔中心の密度が同じであれば、ダイヤモンド材料の表面積が大きいほど、液体試料とダイヤモンド材料との接触面積が大きくなり、液体試料に近い距離にあるダイヤモンド材料の窒素空孔中心の数が増加するため、磁気共鳴信号の検出の感度が高くなることが期待できる。
【0023】
図5を参照して、ダイヤモンド材料のグレーティングピッチとダイヤモンド粒子の粒径が同程度のときは、ダイヤモンド粒子を稠密充填した方が、表面積が大きくなり、磁気共鳴信号の検出の感度が高くなることが期待できる。また、ダイヤモンド粒子の粒径は、ダイヤモンド材料のグレーティングピッチに比べて、小さくし易いため、表面積を大きくし易く、磁気共鳴信号の検出の感度が高くし易い。さらに、グレーティング深さを一定にしたままグレーティングピッチを小さくする、すなわちアスペクト比を大きくするほど、グレーティング加工されたダイヤモンド材料への窒素カチオンの打ち込みによる窒素空孔中心の形成が困難となる。これに対して、ダイヤモンド粒子の粒径が小さくなっても、ダイヤモンド粒子への窒素カチオンの打ち込みによる窒素空孔中心の形成は容易である。
【0024】
[窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の形態]
窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の形態は、表面積が大きいものであれば特に制限はなく、球体、多面体、不定形体などいずれの形状であってもよく、また、緻密体であっても、多孔質体であってもよい。
【0025】
また、窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子は、その表面が露出していてもよい(図1および図6を参照)。かかるダイヤモンド粒子は、表面が露出していることから、液体試料と直接接触するため、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が近く、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い。
【0026】
また、窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子は、その表面の少なくとも一部がダイヤモンド以外の異種材料で覆われていてもよい(図7図11を参照)。かかるダイヤモンド粒子は、液体試料と異種材料を介在させて接触するため、異種材料の厚さの分だけダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が遠くなるが、異種材料によりダイヤモンド粒子を保護できる。すなわち、液体試料に対してダイヤモンド粒子の化学的耐性が低い液体試料を用いる場合、その液体試料に対して化学的耐性が高い異種材料でダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部を覆うことにより、ダイヤモンド粒子を保護することができる。さらに、ダイヤモンド粒子の保護を高める観点から、その液体試料に対して化学的耐性が高い異種材料でダイヤモンド粒子の表面の全部を覆うことができる。
【0027】
窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部を覆う異種材料は、窒素空孔中心による磁気共鳴信号の検出、窒素空孔中心に印加する励起光、および窒素空孔中心からの蛍光を阻害せず、かつ、液体試料に対する化学的耐性が高いものであれば特に制限はなく、ガラスなどの透明無機材料、およびアクリル樹脂などの透明有機材料が好適に挙げられる。
【0028】
[窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の配置形態]
図6図11を参照して、試料容器における窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の配置形態の具体例を以下に示す。
【0029】
(第1例)
図6に、試料容器20における液体試料1とダイヤモンド粒子11の配置形態の第1例を示す。図6を参照して、第1例においては、試料容器20の内部に、液体試料1およびダイヤモンド粒子11がともに収容される。ここで、ダイヤモンド粒子11は、その表面が露出している。これにより、ダイヤモンド粒子11は液体試料1と直接接触するため、ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心と液体試料1との距離が近く、液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い。
【0030】
ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心と液体試料1との距離をより近くすることにより、液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度をより高める観点から、ダイヤモンド粒子11は、試料容器20の内部に充填されることができ、さらに稠密充填されることができ、さらに最稠密充填されることができる。ここで、最稠密充填の形態としては、六方最密充填、立方最密充填などがある。
【0031】
液体試料1は、試料容器20の内部に充填されたダイヤモンド粒子11の空隙に配置されることができる。試料容器20の内部において、ダイヤモンド粒子11および液体試料1を上記のように配置することにより、ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心と液体試料1との距離を近づけることにより、液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度を高めることができる。
【0032】
(第2例)
図7に、試料容器20における液体試料1とダイヤモンド粒子11の配置形態の第2例を示す。図7を参照して、第2例においては、第1例と同様に、試料容器20の内部に、液体試料1およびダイヤモンド粒子11がともに収容される。しかしながら、第1例と異なり、ダイヤモンド粒子11は、その表面の少なくとも一部がダイヤモンド以外の異種材料で覆われている。これにより、ダイヤモンド粒子11は、異種材料12を介在させて接触するため、異種材料の厚さの分だけダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が遠くなるが、異種材料によりダイヤモンド粒子を保護できる。表面の少なくとも一部が異種材料に覆われているダイヤモンド粒子11においても、第1例と同様に、ダイヤモンド粒子11を含む異種材料12は、試料容器20の内部に充填されることができ、さらに稠密充填されることができ、さらに最稠密充填されることができる。最稠密充填の形態および液体試料1の配置は、第1例と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0033】
(第3例)
図8に、試料容器20における液体試料1とダイヤモンド粒子11の配置形態の第3例を示す。図8を参照して、第3例においては、第2例と同様に、ダイヤモンド粒子11の表面の少なくとも一部はダイヤモンド以外の異種材料で覆われており、試料容器20の内部に、液体試料1およびダイヤモンド粒子11がともに収容される。ここで、第3例においては、複数のダイヤモンド粒子11の表面の少なくとも一部がダイヤモンド以外の異種材料に覆われている。すなわち、単数の異種材料の中に複数のダイヤモンド粒子11が含まれている。第3例においても、ダイヤモンド粒子11は、異種材料12を介在させて接触するため、異種材料の厚さの分だけダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が遠くなるが、異種材料によりダイヤモンド粒子を保護できる。したがって、第3例においても、第2例と同様に、複数のダイヤモンド粒子11を含む異種材料12は、試料容器20の内部に充填されることができ、さらに稠密充填されることができ、さらに最稠密充填されることができる。最稠密充填の形態および液体試料1の配置は、第2例と同様であるため、ここでは繰り返さない。
【0034】
(第4例)
図9に、試料容器20における液体試料1とダイヤモンド粒子11の配置形態の第4例を示す。図9を参照して、第4例においては、第2例と同様に、ダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部はダイヤモンド以外の異種材料で覆われており、試料容器20の内部に、液体試料1およびダイヤモンド粒子11がともに収容される。ここで、第4例においては、単数または複数のダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部を覆う異種材料によりフィラメント10が形成されている。すなわち、第4例においては、単数または複数のダイヤモンド粒子を含むフィラメント10を有する。第4例においても、ダイヤモンド粒子11は、異種材料12を介在させて接触するため、異種材料の厚さの分だけダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が遠くなるが、異種材料によりダイヤモンド粒子を保護できる。
【0035】
第4例においては、試料容器20の内部に配置された液体試料1中に単数または複数のダイヤモンド粒子を含むフィラメント10が配置されている。フィラメント10は、表面積が大きいことから、液体試料1との接触面積が大きくなり、フィラメント10に含まれるダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心と液体試料1との距離を近づけることができるため、液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い。また、液体試料1の粘度に対応して、ダイヤモンド粒子を含むフィラメント10の粗密を調整することにより、フィラメント10の空隙に液体試料1を十分に浸透させて、フィラメント10に含まれるダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心と液体試料1との距離を近づけることができる。また、単数または複数のダイヤモンド粒子を含むフィラメント10は、厳密な形状の制御が不要であるため、製造が容易である。
【0036】
(第5例)
図10に、試料容器20における液体試料1とダイヤモンド粒子11の配置形態の第5例を示す。図10を参照して、第5例においては、単数または複数のダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部はダイヤモンド以外の異種材料12で覆われている。すなわち、単数の異種材料12中に単数または複数のダイヤモンド粒子11が含まれている。ここで、第5例においては、単数または複数のダイヤモンド粒子11を含む異種材料12は、試料容器20の内部の所定の位置に固定されている。また、試料容器20の内部には液体試料1が収納されている。すなわち、液体試料1とダイヤモンド粒子11とは、ダイヤモンド以外の異種材料を介在させて接触している。
第5例においては、試料容器20の内部の所望の位置に窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11を所望の集積度で配置することができる。これにより、たとえば、図1に示す磁気共鳴分光装置100において、試料容器20内部のマイクロ波照射用アンテナ32に近い部分、および/または、資料測定容器20内部の光学系の焦点部分に、窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11を所望の集積度で配置することにより、液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度を高めることができる。
【0037】
(第6例)
図11に、試料容器20における液体試料1とダイヤモンド粒子11の配置形態の第6例を示す。図11を参照して、第6例においては、単数または複数のダイヤモンド粒子の表面の少なくとも一部はダイヤモンド以外の異種材料12で覆われている。すなわち、単数の異種材料12中に単数または複数のダイヤモンド粒子11が含まれている。ここで、第5例においては、単数または複数のダイヤモンド粒子11を含む異種材料12は、試料容器20の外部の所定の位置に固定されている。また、試料容器20の内部には液体試料1が収納されている。すなわち、液体試料1とダイヤモンド粒子11とは、試料容器20の壁およびダイヤモンド以外の異種材料を介在させて接触している。
【0038】
第6例においては、異種材料12に覆われたダイヤモンド粒子11と液体試料1とが、直接接触させることなくできるだけ近距離に配置されている。すなわち、第6例においては、異種材料12に覆われたダイヤモンド粒子11と液体試料1とが試料容器20の壁により隔てられているため、粘度が高くダイヤモンド粒子の空隙に浸透しない液体試料1についても、液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出することができる。また、試料容器20の内部の洗浄が容易である。
【0039】
<電子スピン共鳴分光装置>
本実施形態の磁気共鳴分光装置は、電子スピン共鳴分光装置とすることもできる。電子スピン共鳴は、後述の共鳴信号の測定原理から明らかなように、磁気共鳴の一種である。図12に本実施形態の磁気共鳴分光装置200の一例である電子スピン共鳴分光装置を示す。この磁気共鳴分光装置200は、磁場中に置かれた液体試料1に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号である電子スピン共鳴信号を、粒子(たとえばダイヤモンド粒子11)に含まれる欠陥中心により検出するものであり、液体試料1と粒子(ダイヤモンド粒子11)とが直接または粒子の材料(ダイヤモンド)以外の異種材料を介在して接触している。このため、本実施形態の磁気共鳴分光装置100は、液体試料1に含まれる電子スピン共鳴信号を発生する物質と粒子に含まれる電子スピン共鳴信号を検出する欠陥中心(たとえばダイヤモンド粒子の窒素空孔中心)との距離が近いため、電子スピン共鳴信号を検出する感度が高い。
【0040】
本実施形態の磁気共鳴分光装置200は、試料容器20、ならびに試料容器20の周囲に配設される磁場印加装置201(たとえば、磁場制御装置201aおよび磁場コイル201b)、マイクロ波発生器31、マイクロ波照射用アンテナ32、励起光源41、および光検出器44を含む。試料容器20には測定対象である物質を含む液体試料1および欠陥中心を含む粒子(ダイヤモンド粒子11)が配置される。液体試料1は試料容器20の内部に収納される。欠陥中心を含む粒子(窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11)は、試料容器20の内部に配置されてもよく、試料容器20の外部に配置されてもよい。
【0041】
ここで、磁場印加装置201である磁場制御装置201aおよび磁場コイル201bは、測定対象である物質を含む液体試料に可変磁場を印加する可変磁場源である。マイクロ波発生器31およびマイクロ波照射用アンテナ32は、測定対象である物質を含む液体試料1および欠陥中心を含む粒子(窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11)にマイクロ波を照射するマイクロ波源である。励起光源41は、たとえば集光素子42および分岐素子43を介在させて、粒子に含まれる欠陥中心(ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心)を励起する。光検出器44は、たとえば、分岐素子43および集光素子42を介在させて、粒子に含まれる欠陥中心(ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心)からの蛍光を検出する。
【0042】
[磁気共鳴信号の測定原理]
図2に示すように、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心は、窒素(N)-空孔(V)の形成される方向による感度の極性があるため、液体試料に含まれる物質に含まれる不対電子のスピンの磁化ベクトルの特定の方向の成分の強度のみを検出できる。
【0043】
不対電子を含む物質は、可変磁場Htの印加により不対電子のエネルギー準位がゼーマン分裂を引き起こす。窒素空孔中心に印加する励起光および窒素空孔中心からの蛍光のエネルギー差がダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心のms=0からms=-1またはms=+1のエネルギー差と一致するとき、不対電子を含む物質からダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心へのエネルギー移動が生じ易くなる(これを共鳴状態と呼ぶ)。したがって、マイクロ波によって不対電子を含む物質を励起すると、不対電子を含む物質がそのエネルギーを失う際にダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心にそのエネルギーが移動し、窒素空孔中心がms=0からms=-1またはms=+1の状態に励起される。前述の通り、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心はms=0では光で励起すると蛍光を発するが、ms=-1またはms=+1では光で励起しても蛍光を発しないため、これを区別することができる。このようにして得た、共鳴状態になる時のマイクロ波周波数ν、磁場強度H(H=B/μ、ここで、B:磁束密度、μ:透磁率)から以下の式
g=0.071449×ν[MHz]/H[mT]
によりg値を求める。g値は物質固有の値であるため、g値から不対電子を含む物質の同定が可能となり、蛍光強度の減少量から不対電子を含む物質の定量が可能となる。したがって、マイクロ波をその周波数をスイープしながら照射し、同時に、波長638nm未満の励起光を照射しながら、蛍光強度を測定するという手順を磁場を変えて繰り返すことにより、液体試料に含まれる物質に含まれる不対電子の電子スピンの磁気共鳴信号(磁化ベクトル)を測定することができる。このように、電子スピン共鳴も磁気共鳴の一種である。
【0044】
電子スピン共鳴分光装置においても、上述の核磁気共鳴分光装置における[ダイヤモンド粒子の粒径]、[窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の形態]、[窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の配置形態]((第1例)~(第6例)の内容を含む。)の内容が当てはまる。
【0045】
≪磁気共鳴分光の測定方法≫
本発明の一実施形態である磁気共鳴分光の測定方法は、磁場の印加により試料容器に保持された液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を、粒子に含まれる欠陥中心により蛍光として検出することにより、物質についての情報を得る磁気共鳴分光の測定方法であって、液体試料と粒子とが直接または粒子の材料以外の異種材料を介在して接触している。本実施形態の磁気共鳴分光の測定方法は、液体試料に含まれる磁気共鳴信号を発生する物質と粒子に含まれる核磁気共鳴信号を検出する欠陥中心との距離が近いため、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い。
【0046】
本実施形態の磁気共鳴分光の測定方法は、上述の磁気共鳴分光装置を用いる磁気共鳴分光の測定(より具体的には、上述の核磁気共鳴分光装置を用いる核磁気共鳴分光の測定、および、上述の電子スピン共鳴分光装置を用いる電子スピン共鳴分光の測定に適用できる。すなわち、本実施形態の磁気共鳴分光の測定方法においても、上述の核磁気共鳴分光装置における[ダイヤモンド粒子の粒径]、[窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の形態]、[窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子の配置形態]((第1例)~(第6例)の内容を含む。)の内容が当てはまる。
【0047】
したがって、本実施形態の磁気共鳴分光の測定方法において、粒子に含まれる前記欠陥中心は、ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心とすることができる。また、窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11の粒径は、1nm以上100nm以下とすることができる。また、窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子11の表面の少なくとも一部は、ダイヤモンド以外の異種材料で覆われることができる。また、異種材料により形成されているフィラメントを有することができる。また、試料容器20の内部に、液体試料1およびダイヤモンド粒子11がともに収容されることができる。また、異種材料は、試料容器20の内部の所定の位置に固定されることができる。また、異種材料は、試料容器20の外部の所定の位置に固定されることができる。
【0048】
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0049】
(第1項)一態様にかかる磁気共鳴分光装置100,200は、液体試料1を保持する試料容器20と、欠陥中心を含む複数の粒子と、前記液体試料1および前記粒子に磁場を印加する磁場印加装置101.201と、前記粒子から放出される蛍光を検出する光検出器44と、を含み、前記液体試料1と前記粒子とが直接または前記粒子の材料以外の異種材料を介在して接触していてよい。これにより、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い磁気共鳴分光装置を提供できる。
【0050】
(第2項)第1項に記載の磁気共鳴分光装置100,200において、前記粒子に含まれる前記欠陥中心は、ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心であってよい。かかる磁気共鳴分光装置は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心により、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0051】
(第3項)第2項に記載の磁気共鳴分光装置100,200において、前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子11の粒径は、1nm以上100nm以下であってよい。かかる磁気共鳴分光装置は、窒素空孔中心を含む粒径が1nm以上100nm以下のダイヤモンド粒子により、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0052】
(第4項)第2項または第3項に記載の磁気共鳴分光装置100,200において、前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子11の表面の少なくとも一部は、ダイヤモンド以外の異種材料12で覆われていてよい。かかる磁気共鳴分光装置は、ダイヤモンド以外の異種材料により、ダイヤモンド粒子を保護できる。
【0053】
(第5項)第4項に記載の磁気共鳴分光装置100,200には、前記異種材料12により形成されているフィラメント10を有してよい。かかる磁気共鳴分光装置は、液体試料の粘度に対応してダイヤモンド粒子を含むフィラメントの粗密を調整することにより、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0054】
(第6項)第2項から第4項のいずれか1項に記載の磁気共鳴分光装置100,200において、試料容器20の内部に、前記液体試料1および前記ダイヤモンド粒子11がともに収容されていてよい。かかる磁気共鳴分光装置は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が近く、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0055】
(第7項)第4項に記載の磁気共鳴分光装置100,200において、前記異種材料12は、試料容器20の内部の所定の位置に固定されていてよい。かかる磁気共鳴分光装置は、試料容器の内部の所望の位置に窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子を所望の集積度で配置することにより、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度を高めることができる。
【0056】
(第8項)第4項に記載の磁気共鳴分光装置100,200において、前記異種材料12は、試料容器20の外部の所定の位置に固定されていてよい。かかる磁気共鳴分光装置は、異種材料に覆われたダイヤモンド粒子と液体試料とが、直接接触させることなくできるだけ近距離に配置されているため、粘度が高くダイヤモンド粒子の空隙に浸透しない液体試料についても、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出することができる。
【0057】
(第9項)第1項から第8項のいずれか1項に記載の磁気共鳴分光装置100,200は、核磁気共鳴分光装置であってよい。かかる磁気共鳴分光装置は、核磁気共鳴分光装置として、核磁気共鳴信号を高感度で検出することができる。
【0058】
(第10項)一態様にかかる磁気共鳴分光の測定方法は、磁場の印加により試料容器に保持された液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を、粒子に含まれる欠陥中心により蛍光として検出することにより、物質についての情報を得る磁気共鳴分光の測定方法であって、前記液体試料と前記粒子とが直接または前記粒子の材料以外の異種材料を介在して接触していてよい。これにより、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度が高い磁気共鳴分光の測定方法を提供できる。
【0059】
(第11項)第10項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記粒子に含まれる前記欠陥中心は、ダイヤモンド粒子11に含まれる窒素空孔中心であってよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心により、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0060】
(第12項)第11項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子11の粒径は、1nm以上100nm以下であってもよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、窒素空孔中心を含む粒径が1nm以上100nm以下のダイヤモンド粒子により、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0061】
(第13項)第11項または第12項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記窒素空孔中心を含む前記ダイヤモンド粒子11の表面の少なくとも一部は、ダイヤモンド以外の異種材料12で覆われてよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、イヤモンド以外の異種材料により、ダイヤモンド粒子を保護できる。
【0062】
(第14項)第13項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記異種材料12により形成されているフィラメント10を有してよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、液体試料の粘度に対応してダイヤモンド粒子を含むフィラメントの粗密を調整することにより、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0063】
(第15項)第11項から第14項のいずれか1項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記試料容器20の内部に、前記液体試料1および前記ダイヤモンド粒子11がともに収容されてよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、ダイヤモンド粒子に含まれる窒素空孔中心と液体試料との距離が近く、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出できる。
【0064】
(第16項)第13項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記異種材料12は、前記試料容器20の内部の所定の位置に固定されてよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、試料容器の内部の所望の位置に窒素空孔中心を含むダイヤモンド粒子を所望の集積度で配置することにより、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を検出する感度を高めることができる。
【0065】
(第17項)第13に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記異種材料12は、前記試料容器20の外部の所定の位置に固定されてよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、異種材料に覆われたダイヤモンド粒子と液体試料とが、直接接触させることなくできるだけ近距離に配置されているため、粘度が高くダイヤモンド粒子の空隙に浸透しない液体試料についても、液体試料に含まれる物質から発生する磁気共鳴信号を高感度で検出することができる。
【0066】
(第18項)第10項から第17項のいずれか1項に記載の磁気共鳴分光の測定方法において、前記磁気共鳴分光の測定方法は、核磁気共鳴分光の測定方法であってよい。かかる磁気共鳴分光の測定方法は、核磁気共鳴分光の測定方法として、核磁気共鳴信号を高感度で検出することができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 液体試料、10 フィラメント、11 ダイヤモンド粒子、12 ダイヤモンド以外の異種材料、20 試料容器、31 マイクロ波発生器、32 マイクロ波照射用アンテナ、41 励起光源、42 集光素子、43 分岐素子、44 光検出器、100,200 磁気共鳴分光装置、101,201 磁場印加装置、201a 磁場制御装置、201b 磁場コイル、H 基底状態におけるms=+1のときのエネルギー準位、L 基底状態におけるms=-1のときのエネルギー準位。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12