(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20231129BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61M1/36 100
A61M1/16 111
(21)【出願番号】P 2019171556
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩司
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-000168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器と、
前記血液浄化器の上流側と接続される動脈側ラインと、
前記動脈側ラインに設けられ、液体を送液するポンプと、
を備える血液浄化装置であって、
前記動脈側ラインを構成するチューブから受ける荷重を検出する荷重検出部と、
所定のタイミングで前記ポンプを停止させた状態において前記荷重検出部により検出される検出値を実測基準値として生成する基準値生成部と、
前記ポンプが回転している状態における前記検出値の時間経過による変化量及び前記実測基準値に基づいて、基準値を更新する基準値更新部と、
前記検出値が、前記基準値に基づいて設定される前記チューブの閉塞の有無を判定するための所定の判定範囲を外れる場合に、前記チューブが閉塞していると判定する閉塞判定部と、
を備える血液浄化装置。
【請求項2】
前記基準値更新部は、所定の時間毎に基準値を繰り返し更新し、直近に更新された基準値及び前記所定の時間の経過による前記検出値の直近の変化量に基づいて、基準値を更新する請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記基準値更新部は、前記検出値の前記直近の変化量が予め設定された変化範囲を外れる場合に、直近に更新された基準値及び所定の設定変化量に基づいて、基準値を更新する請求
項2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記設定変化量は、時間経過につれて、又は前記基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定される請求項3に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記基準値更新部は、前記所定のタイミング以外で前記ポンプが停止した状態においては、直近の基準値を基準値とする請求項
2~4のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記基準値更新部は、前記ポンプが前記動脈側ラインの上流側へ向けて液体を送液するよう駆動される場合は、直近の基準値を基準値とする請求項
2~5のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記判定範囲の大きさは、時間経過につれて、又は前記基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定される請求項1~6のいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項8】
ユニット本体と、
前記ユニット本体を開閉する蓋部と、を更に備え、
前記荷重検出部は、前記ユニット本体に配置されるフォースセンサを有し、前記蓋部の閉鎖時に前記蓋部が前記チューブを前記フォースセンサに押さえ付けることで、前記フォースセンサが前記チューブから受ける荷重を検出し、
前記蓋部の閉鎖時に前記荷重検出部により検出された検出値が予め設定された範囲を外れると判定された場合に、判定結果を報知する報知制御部と、を更に備える請求項1~7のいずれかに記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブの閉塞を判定する閉塞判定部を備える血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療等の血液浄化療法では、プライミング工程、脱血工程、治療工程及び返血工程等があり、これらの工程を円滑に行うために使用する血液回路を構成するチューブに閉塞が生じていないか検知する必要がある。
閉塞の発生原因としては、例えば、血液回路を患者に接続して脱血工程や治療工程に入った際の鉗子の外し忘れやクランプの解除忘れ、脱血工程及び治療工程中における穿刺針の血管壁への張り付きや血管状態の不良による血流量不足による脱血不良、また、返血工程における血栓による穿刺針の詰まり等である。
【0003】
このような閉塞の発生を検知するため、従来、液体が流通するチューブと、チューブから受ける荷重を検出する荷重検出部と、荷重検出部により検出された検出値に基づいてチューブの閉塞を判定する閉塞判定部と、を備える血液浄化装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の血液浄化装置においては、透析等の血液浄化治療を行う場合に、チューブに液体を流通させることで、チューブが液体や温度変化によりなじんでチューブの状態が変化することがある。そのため、治療工程が長くなる等の使用条件の変化や、室温等の使用環境の変化により、チューブの閉塞の判定が精度よく行われないことがあった。従って、長時間の治療を行う場合であっても、チューブの閉塞の判定を精度よく行えることが望まれる。
【0006】
従って、本発明は、使用条件や使用環境によらず、チューブの閉塞の判定を精度よく行える血液浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、血液浄化器と、前記血液浄化器の上流側と接続される動脈側ラインと、前記動脈側ラインに設けられ、液体を送液するポンプと、を備える血液浄化装置であって、前記動脈側ラインを構成するチューブから受ける荷重を検出する荷重検出部と、所定のタイミングで前記ポンプを停止させた状態において前記荷重検出部により検出される検出値を実測基準値として生成する基準値生成部と、前記検出値の時間経過による変化量及び前記実測基準値に基づいて、基準値を更新する基準値更新部と、前記検出値が、前記基準値に基づいて設定される前記チューブの閉塞の有無を判定するための所定の判定範囲を外れる場合に、前記チューブが閉塞していると判定する閉塞判定部と、を備える血液浄化装置に関する。
【0008】
また、前記基準値更新部は、所定の時間毎に基準値を繰り返し更新し、直近に更新された基準値及び前記所定の時間の経過による前記検出値の直近の変化量に基づいて、基準値を更新することが好ましい。
【0009】
また、前記基準値更新部は、前記検出値の前記直近の変化量が設定された変化範囲を外れる場合に、直近に更新された基準値及び所定の設定変化量に基づいて、基準値を更新することが好ましい。
【0010】
また、前記設定変化量は、時間経過につれて、又は前記基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定されることが好ましい。
【0011】
また、前記基準値更新部は、前記所定のタイミング以外で前記ポンプが停止した状態においては、直近の基準値を基準値とすることが好ましい。
【0012】
また、基準値更新部は、前記ポンプが前記動脈側ラインの上流側へ向けて液体を送液するよう駆動される場合は、直近の基準値を基準値とすることが好ましい。
【0013】
また、前記判定範囲の大きさは、時間経過につれて、又は前記基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定されることが好ましい。
【0014】
また、血液浄化装置は、ユニット本体と、前記ユニット本体を開閉する蓋部と、を更に備え、前記荷重検出部は、前記ユニット本体に配置されるフォースセンサを有し、前記蓋部の閉鎖時に前記蓋部が前記チューブを前記フォースセンサに押さえ付けることで、前記フォースセンサが前記チューブから受ける荷重を検出し、前記蓋部の閉鎖時に前記荷重検出部により検出された検出値が予め設定された範囲を外れると判定された場合に、判定結果を報知する報知制御部と、を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定のタイミングで生成される実測基準値及びチューブのなじみに起因する検出値の変化量に基づいて基準値を更新するので、使用条件や使用環境によらずチューブの閉塞判定の精度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置の全体構成を示す図である。
【
図2】クランプユニットの構成を示す正面図である。
【
図4】クランプユニットの閉鎖状態を示す斜視図である。
【
図8】実施例1における基準値、検出値及び閉塞判定値の時間経過の推移を示すグラフイメージである。
【
図9】実施例2における基準値、検出値及び閉塞判定値の時間経過の推移を示すグラフイメージである。
【
図10】実施例3における実測基準値と検出値の変化量との関係を示すグラフイメージである。
【
図11】実施例1と実施例4における閉塞判定値の推移を比較するためのグラフイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の血液浄化装置の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の血液浄化装置は、腎不全患者や薬物中毒患者の血液を浄化すると共に、血液中の余分な水分を除去し、必要に応じて血液中に水分を補充(補液)する。
【0018】
まず、本実施形態の血液浄化装置1の全体構成につき、
図1を参照しながら説明する。血液浄化装置1は、血液浄化器としてのダイアライザ10と、血液回路20と、透析液回路30と、補充液ライン38と、コンソール100と、を備える。コンソール100には、操作パネル70、クランプユニット60、血液回路20の一部、透析液回路30の一部、温度調節部としてのヒータ40、薬液ポンプ231、補液ポンプ39、及び制御装置50が配置されている。
【0019】
ダイアライザ10は、筒状に形成された容器本体11と、この容器本体11の内部に収容された透析膜(図示せず)と、を備え、容器本体11の内部は、透析膜により血液側流路と透析液側流路とに区画される(いずれも図示せず)。容器本体11には、血液側流路に連通する血液導入口111及び血液導出口112と、透析液側流路に連通する透析液導入口113及び透析液導出口114と、が形成される。
【0020】
血液回路20は、動脈側ライン21と、静脈側ライン22と、薬剤ライン23と、オーバーフローライン24と、を備える。動脈側ライン21、静脈側ライン22、薬剤ライン23及びオーバーフローライン24は、いずれも液体が流通可能な可撓性を有するチューブを主体として構成される。
【0021】
本実施形態においては、動脈側ライン21、静脈側ライン22、薬剤ライン23及びオーバーフローライン24を構成するチューブは、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、シリコン(Si)等の可撓性のチューブで形成される。チューブとしては、例えば、外径が5.5mm、内径が3.3mmのもの等が用いられる。チューブの硬度は、例えば、50~85程度(JIS K7215)のもの等が用いられる。
【0022】
動脈側ライン21は、一端側が対象者(透析患者)の動脈に接続され、他端側がダイアライザ10の血液導入口111に接続される。動脈側ライン21の途中には、コンソール100が配置される。コンソール100において、動脈側ライン21が通る部分には、クランプユニット60及び血液ポンプ212が配置される。クランプユニット60における動脈側ライン21が通る部分には、動脈側クランプ部(クランプ部)65、荷重検出部66、及び動脈側気泡センサ(気泡検知部)67が配置される。クランプユニット60の詳細については後述する。
【0023】
血液ポンプ212は、動脈側ライン21におけるクランプユニット60よりも下流側に配置される。血液ポンプ212は、動脈側ライン21を構成するチューブをローラでしごくことにより、動脈側ライン21の内部の血液やプライミング液等の液体を送り出す。
【0024】
静脈側ライン22は、一端側がダイアライザ10の血液導出口112に接続され、他端側が対象者(透析患者)の静脈に接続される。静脈側ライン22の途中には、静脈側チャンバ222及びコンソール100が配置される。コンソール100において、静脈側ライン22が通る部分には、クランプユニット60が配置される。クランプユニット60における静脈側ライン22が通る部分には、静脈側クランプ部69及び静脈側気泡センサ68が配置される。クランプユニット60の詳細については後述する。
【0025】
静脈側チャンバ222は、静脈側ライン22におけるダイアライザ10とコンソール100との間に配置される。静脈側チャンバ222は、所定量(例えば、20ml)の血液を貯留する。
【0026】
薬剤ライン23は、血液透析中に必要な薬剤を動脈側ライン21に供給する。薬剤ライン23は、一端側(基端側)が薬剤を送り出す薬液ポンプ231に接続され、他端側(先端側)が動脈側ライン21における血液ポンプ212とダイアライザ10との間に接続される。
【0027】
オーバーフローライン24は、一端側(基端側)が静脈側チャンバ222に接続される。オーバーフローライン24は、プライミング工程において静脈側ライン22を流通する生理食塩液、空気等を外部に排出する。オーバーフローライン24には、オーバーフロークランプ241が配置される。オーバーフロークランプ241は、オーバーフローライン24の流路を開閉する。
【0028】
以上の血液回路20によれば、対象者(透析患者)の動脈から取り出された血液は、血液ポンプ212により動脈側ライン21を流通してダイアライザ10の血液側流路に導入される。ダイアライザ10に導入された血液は、透析膜を介して後述する透析液回路30を流通する透析液により浄化される。ダイアライザ10において浄化された血液は、静脈側ライン22を流通して対象者の静脈に返血される。
【0029】
透析液回路30は、本実施形態では、いわゆる密閉容量制御方式の透析液回路30により構成される。この透析液回路30は、透析液チャンバ31と、透析液供給ライン32と、透析液導入ライン33と、透析液導出ライン34と、排液ライン35と、バイパスライン36と、除水/逆ろ過ポンプ37と、を備える。
【0030】
透析液チャンバ31は、一定容量(例えば、300ml~500ml)の透析液を収容可能な硬質の容器311と、この容器311の内部を区画する軟質の隔膜(ダイアフラム)312と、を備える。透析液チャンバ31の内部は、隔膜312により送液収容部313及び排液収容部314に区画される。
【0031】
透析液供給ライン32は、基端側が透析液供給装置(図示せず)に接続され、先端側が透析液チャンバ31に接続される。透析液供給ライン32は、透析液チャンバ31の送液収容部313に透析液を供給する。
【0032】
透析液導入ライン33は、透析液チャンバ31とダイアライザ10の透析液導入口113とを接続し、透析液チャンバ31の送液収容部313に収容された透析液をダイアライザ10の透析液側流路に導入する。
【0033】
透析液導出ライン34は、ダイアライザ10の透析液導出口114と透析液チャンバ31とを接続し、ダイアライザ10から排出された透析液を透析液チャンバ31の排液収容部314に導出する。
排液ライン35は、基端側が透析液チャンバ31に接続され、排液収容部314に収容された透析液の排液を排出する。
【0034】
バイパスライン36は、透析液導出ライン34と排液ライン35とを接続する。
除水/逆ろ過ポンプ37は、バイパスライン36に配置される。除水/逆ろ過ポンプ37は、バイパスライン36の内部の透析液を排液ライン35側に流通させる方向(除水方向)及び透析液導出ライン34側に流通させる方向(逆ろ過方向)に送液可能に駆動するポンプにより構成される。
【0035】
ヒータ40は、透析液回路30を流通する透析液を所定の温度に加温する。
【0036】
補充液ライン38は、透析液を血液回路20に直接供給するためのラインである。
図1に示すように、補充液ライン38の上流側は、透析液回路30の透析液導入ライン33における透析液チャンバ31とダイアライザ10の透析液導入口113との間に接続されている。補充液ライン38には、補充液用クランプ381が設けられている。
図1の実線で示すように、補充液ライン38の下流側が、動脈側ライン21における血液ポンプ212とダイアライザ10との間に接続される場合は、前希釈方式の血液濾過透析となる。また、
図1の破線で示すように、補充液ライン38の下流側が、静脈側ライン22における静脈側チャンバ222に接続される場合は、後希釈方式の血液濾過透析となる。
【0037】
クランプユニット60について説明する。
クランプユニット60は、
図1に示すように、ユニット化されて構成されており、コンソール100に取り付けられる。クランプユニット60は、動脈側ライン21を構成するチューブ、及び静脈側ライン22を構成するチューブをクランプして保持する。クランプユニット60には、幅方向Hの一方側において、動脈側ライン21を構成するチューブが上下方向に亘って配置され、幅方向Hの他方側において、静脈側ライン22を構成するチューブが上下方向に亘って配置される。
【0038】
クランプユニット60は、
図2~
図4に示すように、ユニット本体61と、ユニット本体61を開閉する蓋部62と、ヒンジ部63と、開閉レバー641と、開閉係合部642と、を備える。クランプユニット60は、ユニット本体61の内面に動脈側ライン21を構成するチューブ及び静脈側ライン22を構成するチューブを配置した状態で、ユニット本体61の内面側に蓋部62の内面を押し付けることで、動脈側ライン21を構成するチューブ及び静脈側ライン22を構成するチューブを固定する。
【0039】
蓋部62の内面は、動脈側ライン21を構成するチューブ及び静脈側ライン22を構成するチューブを一定の力で固定するチューブ固定部を構成する。蓋部62の内面を構成する部材において、少なくともチューブを押圧する部分の材料としては、例えば、樹脂材料が用いられ、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、ASA樹脂(ABS樹脂のブタジエンに代替し、アクリルゴムを重合させたもの)、ポリプロピレン等の合成樹脂等が用いられる。これにより、蓋部62の内面は、動脈側ライン21を構成するチューブ及び静脈側ライン22を構成するチューブを、十分に保持すると共につぶし過ぎないような適切な保持力で固定できる。
【0040】
ヒンジ部63は、
図2に示すように、蓋部62の閉鎖時に、クランプユニット60の幅方向Hの他方側の端部に配置され、蓋部62をユニット本体61に対して回動可能に接続する。
【0041】
開閉レバー641は、蓋部62の閉鎖時に、蓋部62の幅方向Hの一方側の端部に設けられる。開閉係合部642は、
図3に示すように、蓋部62の閉鎖時に、開閉レバー641に係合可能に、ユニット本体61の内面の幅方向Hの一方側の端部に設けられる。開閉レバー641を操作することで、ユニット本体61と蓋部62との開閉が行われる。
【0042】
ユニット本体61の内面には、
図3に示すように、本体側動脈側チューブ配置部611(チューブ配置部)と、本体側静脈側チューブ配置部612(チューブ配置部)と、が形成されている。本体側動脈側チューブ配置部611及び本体側静脈側チューブ配置部612は、ユニット本体61の内面において、ユニット本体61の幅方向Hに離間して配置され、直線状に延びる。本体側静脈側チューブ配置部612は、本体側動脈側チューブ配置部611よりも幅方向Hにおけるヒンジ部63側に配置される。
【0043】
また、蓋部62の内面には、
図3に示すように、蓋部62の閉鎖時に、本体側動脈側チューブ配置部611に対向して配置される蓋部側動脈側チューブ配置部621と、本体側静脈側チューブ配置部612に対向して配置される蓋部側静脈側チューブ配置部622と、が形成されている。蓋部側動脈側チューブ配置部621及び蓋部側静脈側チューブ配置部622は、蓋部62の内面において、蓋部62の幅方向Hに離間して配置され、直線状に延びる。蓋部側静脈側チューブ配置部622は、蓋部側動脈側チューブ配置部621よりも幅方向Hのヒンジ部63側に配置される。
【0044】
蓋部62の閉鎖時において、本体側動脈側チューブ配置部611と蓋部側動脈側チューブ配置部621との間には、動脈側ライン21を構成するチューブが配置され、本体側静脈側チューブ配置部612と蓋部側静脈側チューブ配置部622との間には、静脈側ライン22を構成するチューブが配置される。
【0045】
ここで、まず、本体側動脈側チューブ配置部611及び蓋部側動脈側チューブ配置部621に設けられる構成について説明する。
図3及び
図5に示すように、蓋部62の閉鎖時において、本体側動脈側チューブ配置部611及び蓋部側動脈側チューブ配置部621に沿って、動脈側上流チューブ押さえ部601、動脈側クランプ部65、荷重検出部66、動脈側気泡センサ67及び動脈側下流チューブ押さえ部602が配置される。本実施形態においては、動脈側上流チューブ押さえ部601、動脈側クランプ部65、荷重検出部66、動脈側気泡センサ67及び動脈側下流チューブ押さえ部602は、クランプユニット60において、上流側から下流側(
図1及び
図3における下方側から上方側)に向かって、この順に並んで配置されている。
【0046】
本体側動脈側チューブ配置部611は、
図3に示すように、ユニット本体61の内面に配置される。本体側動脈側チューブ配置部611には、動脈側ライン21を構成するチューブを流通する液体の上流側から下流側(
図3の下方側から上方側)に向かって順に、動脈側上流チューブ押さえ部601の収容凹部601a、動脈側クランプ部65の動脈側可動クランプ部651、荷重検出部66のフォースセンサへ荷重を与える軸661(フォースセンサ自体は不図示、以降はフォースセンサ661と記載)に荷重を伝達する荷重受け部662、動脈側気泡センサ67の超音波発振部671が内部に収容された動脈側気泡センサ受け部材672、動脈側下流チューブ押さえ部602の収容凹部602aが並んで配置される。
【0047】
蓋部側動脈側チューブ配置部621は、蓋部62の内面に配置され、蓋部62の閉鎖時に本体側動脈側チューブ配置部611に対向して配置される。蓋部側動脈側チューブ配置部621には、動脈側ライン21を構成するチューブを流通する液体の上流側から下流側(
図3の下方側から上方側)に向かって順に、動脈側上流チューブ押さえ部601の押さえ凸部601b、動脈側クランプ部65の動脈側クランプ受け部652、荷重検出部66の荷重押さえ部663、動脈側気泡センサ67の超音波受信部673が内部に収容された動脈側気泡センサ押さえ部材674、動脈側下流チューブ押さえ部602の押さえ凸部602bが並んで配置されている。
【0048】
動脈側上流チューブ押さえ部601の押さえ凸部601bは、蓋部62の閉鎖時に、ユニット本体61に配置される収容凹部601aに対向して配置され、クランプユニット60における動脈側ライン21を流通する液体の上流側(
図3における下方側)において、動脈側ライン21を構成するチューブを押さえる。
【0049】
動脈側クランプ受け部652は、蓋部62の閉鎖時において、ユニット本体61に配置される動脈側可動クランプ部651に対向して配置される。動脈側クランプ受け部652及び動脈側可動クランプ部651は、動脈側クランプ部65を構成し、動脈側ライン21を構成するチューブを挟んで保持する。
【0050】
動脈側クランプ部65は、
図3及び
図5に示すように、ユニット本体61に配置される動脈側可動クランプ部651と、ユニット本体61に配置され動脈側可動クランプ部651を駆動するソレノイド653と、蓋部62に配置される動脈側クランプ受け部652と、を有する。動脈側クランプ受け部652は、蓋部62の内面から突出して形成され、幅方向Hに延びる。
【0051】
動脈側可動クランプ部651は、
図5に示すように、先端が幅方向Hに延びる平面状に形成されると共にチューブ配置部が延びる方向に切断した断面において先端側の幅が狭い台形状に形成される。動脈側可動クランプ部651の後端には、ソレノイド653の出力軸653aが、進退可能に接続されている。動脈側可動クランプ部651は、ソレノイド653の出力軸653aの進退により、動脈側ライン21を構成するチューブを、動脈側可動クランプ部651の先端及び動脈側クランプ受け部652の先端で挟み込んでクランプし、又は、動脈側ライン21を開閉する。
【0052】
以上のように構成される動脈側クランプ部65は、血液浄化装置1の通常動作時に、動脈側可動クランプ部651及び動脈側クランプ受け部652により、ユニット本体61と蓋部62との間に配置される動脈側ライン21を構成するチューブをクランプする。
また、動脈側クランプ部65は、プライミング液として透析液や逆ろ過透析液を用いたプライミング及び返血工程で開閉される。動脈側クランプ部65は、動脈側可動クランプ部651を進退させて、動脈側ライン21を構成するチューブを押し潰して閉状態又は開放して開状態とし、動脈側ライン21の流路を開閉することで、動脈側気泡センサ67よりも上流側において、チューブの内部を流通する液体の送液を流通/停止させる。
【0053】
荷重押さえ部663は、
図3、
図5及び
図6に示すように、蓋部62の閉鎖時に、ユニット本体61に配置される荷重受け部662に対向して配置され、動脈側ライン21を構成するチューブを押さえる。ユニット本体61に配置される荷重受け部662の内部には、荷重検出部66が配置される。なお、荷重押さえ部663は、チューブの径を変更した場合に、荷重検出部66から出力される電圧値が同程度の電圧値を得られるように、高さ調整を可能な構成としてもよいし、高さが異なる荷重押さえ部に交換可能な構成としてもよい。
【0054】
荷重検出部66は、動脈側ライン21を構成するチューブから受ける荷重を検出し、電圧値として出力可能である。荷重検出部66は、荷重受け部662と、フォースセンサ661と、を有する。ここで検出値としての電圧値は、例えば、100ミリ秒毎に検出され、1秒間における10個の移動平均を取って、算出される。
【0055】
荷重受け部662は、蓋部62の閉鎖時に、荷重押さえ部663に押さえられた動脈側ライン21を構成するチューブからの圧力を受ける。
フォースセンサ661は、ユニット本体61において、荷重受け部662の内部側に配置される。フォースセンサ661は、荷重受け部662に作用するチューブからの圧力によりチューブの径方向に荷重受け部662が移動することで、荷重受け部662を介して、チューブからの圧力による荷重を検出する。これにより、フォースセンサ661は、動脈側ライン21を構成するチューブの圧力による荷重を電圧として出力する。
【0056】
以上のように構成される荷重検出部66は、蓋部62の閉鎖時に、蓋部62が動脈側ライン21を構成するチューブをフォースセンサ661側に押さえ付けることで、フォースセンサ661がチューブからの圧力による荷重を検出して、荷重を電圧値として出力する。荷重検出部66により検出された検出値は、後述する制御装置50の閉塞判定部513に送信されて、閉塞判定部513により、チューブが閉塞しているか否かが判定される。チューブが閉塞する場合としては、例えば、血液回路を患者に接続して治療工程に入った際の鉗子の外し忘れやクランプの解除忘れ、脱血工程及び治療工程中における穿刺針の血管壁への張り付きや血管状態の不良による血流量不足による脱血不良、また、返血工程における血栓による穿刺針の詰まり等を挙げることができる。
【0057】
動脈側気泡センサ押さえ部材674は、蓋部62の閉鎖時において、ユニット本体61に配置される動脈側気泡センサ受け部材672に対向して配置され、動脈側ライン21を構成するチューブを押さえる。動脈側気泡センサ押さえ部材674の内部には、超音波受信部673が配置される。動脈側気泡センサ受け部材672の内部には、超音波発振部671が配置される。超音波受信部673及び超音波発振部671は、動脈側気泡センサ67を構成する。動脈側気泡センサ67は、動脈側ライン21の内部を流通する液体中に含まれる気泡の有無を検知するセンサである。なお、超音波受信部673を動脈側気泡センサ受け部材672の内部に配置すると共に、超音波発振部671を動脈側気泡センサ押さえ部材674の内部に配置するように構成してもよい。
【0058】
図4に示すように、蓋部62の閉鎖時に、動脈側気泡センサ押さえ部材674(
図3参照)は、動脈側ライン21を構成するチューブを動脈側気泡センサ受け部材672側に押し当てる。超音波発振部671は、超音波受信部673から発生される超音波が動脈側ライン21を構成するチューブ内に流れる液体に照射されることで、液体と気泡の透過率の差を検出して気泡の有無を検知する。
【0059】
動脈側下流チューブ押さえ部602の押さえ凸部602bは、蓋部62の閉鎖時において、ユニット本体61に配置される収容凹部602aに対向して配置され、クランプユニット60における動脈側ライン21を流通する液体の下流側(
図3における上方側)において、動脈側ライン21を構成するチューブを押さえる。
【0060】
次に、蓋部62の閉鎖時に、本体側静脈側チューブ配置部612及び蓋部側静脈側チューブ配置部622に設けられる構成について説明する。
図3に示すように、蓋部62の閉鎖時において、本体側静脈側チューブ配置部612及び蓋部側静脈側チューブ配置部622に沿って、静脈側上流チューブ押さえ部603、静脈側気泡センサ68、静脈側クランプ部69及び静脈側下流チューブ押さえ部604が配置される。本実施形態においては、静脈側上流チューブ押さえ部603、静脈側気泡センサ68、静脈側クランプ部69及び静脈側下流チューブ押さえ部604は、クランプユニット60において、上流側から下流側(
図1及び
図3における上方側から下方側)に向かって、この順に並んで配置されている。
【0061】
本体側静脈側チューブ配置部612は、
図3に示すように、ユニット本体61の内面に配置される。本体側静脈側チューブ配置部612には、静脈側ライン22を構成するチューブを流通する液体の上流側から下流側(
図3の上方側から下方側)に向かって順に、静脈側上流チューブ押さえ部603の収容凹部603a、静脈側気泡センサ68の超音波発振部681が内部に収容された静脈側気泡センサ受け部材682、静脈側クランプ部69の静脈側可動クランプ部691、静脈側下流チューブ押さえ部604の収容凹部604aが並んで配置される。
【0062】
蓋部側静脈側チューブ配置部622は、蓋部62の内面に配置され、蓋部62の閉鎖時に本体側静脈側チューブ配置部612に対向して配置される。蓋部側静脈側チューブ配置部622には、静脈側ライン22を構成するチューブを流通する液体の上流側から下流側(
図3の上方側から下方側)に向かって順に、静脈側上流チューブ押さえ部603の押さえ凸部603b、静脈側気泡センサ68の超音波受信部683が内部に収容された静脈側気泡センサ押さえ部材684、静脈側クランプ部69の静脈側クランプ受け部692、静脈側下流チューブ押さえ部604の押さえ凸部604bが並んで配置されている。
【0063】
静脈側上流チューブ押さえ部603の押さえ凸部603bは、蓋部62の閉鎖時に、ユニット本体61に配置される収容凹部603aに対向して配置され、クランプユニット60における静脈側ライン22を流通する液体の上流側(
図3における上方側)において、静脈側ライン22を構成するチューブを押さえる。
【0064】
静脈側気泡センサ押さえ部材684は、蓋部62の閉鎖時において、ユニット本体61に配置される静脈側気泡センサ受け部材682に対向して配置され、静脈側ライン22を構成するチューブを押さえる。静脈側気泡センサ押さえ部材684の内部には、超音波受信部683が配置される。静脈側気泡センサ受け部材682の内部には、超音波発振部681が配置される。超音波受信部683及び超音波発振部681は、静脈側気泡センサ68を構成する。静脈側気泡センサ68は、静脈側ライン22の内部を流通する液体中に含まれる気泡の有無を検知するセンサである。なお、超音波受信部683を静脈側気泡センサ受け部材682の内部に配置すると共に、超音波発振部681を静脈側気泡センサ受け部材684の内部に配置するように構成してもよい。
【0065】
図4に示すように、蓋部62の閉鎖時に、静脈側気泡センサ押さえ部材684(
図3参照)は、静脈側ライン22を構成するチューブを静脈側気泡センサ受け部材682側に押し当てる。超音波発振部681は、超音波受信部683から発生される超音波が静脈側ライン22を構成するチューブ内に流れる液体に照射されることで、液体と気泡の透過率の差を検出して気泡の有無を検知する。
【0066】
静脈側クランプ受け部692は、蓋部62の閉鎖時において、ユニット本体61に配置される静脈側可動クランプ部691に対向して配置される。静脈側クランプ受け部692及び静脈側可動クランプ部691は、静脈側クランプ部69を構成し、静脈側ライン22を構成するチューブを挟んで保持する。
【0067】
静脈側クランプ部69は、
図3及び
図6に示すように、ユニット本体61に配置される静脈側可動クランプ部691と、ユニット本体61に配置され静脈側可動クランプ部691を駆動するソレノイド693と、蓋部62に配置される静脈側クランプ受け部692と、を有する。静脈側クランプ受け部692は、蓋部62の内面から突出して形成され、幅方向Hに延びる。
【0068】
静脈側可動クランプ部691は、先端が幅方向Hに延びる平面状に形成されると共にチューブ配置部が延びる方向に切断した断面において先端側の幅が狭い台形状に形成される。静脈側可動クランプ部691の後端には、ソレノイド693の出力軸693aが、進退可能に接続されている。静脈側可動クランプ部691は、ソレノイド693の出力軸693aの進退により、静脈側ライン22を構成するチューブを、静脈側可動クランプ部691の先端及び静脈側クランプ受け部692の先端で挟み込んでクランプし、又は、静脈側ライン22を開閉する。
【0069】
以上のように構成される静脈側クランプ部69は、血液浄化装置1の通常動作時に、静脈側可動クランプ部691及び静脈側クランプ受け部692により、ユニット本体61と蓋部62との間に配置される静脈側ライン22を構成するチューブをクランプする。
また、静脈側クランプ部69は、静脈側気泡センサ68又は動脈側気泡センサ67による気泡の検出結果に応じて制御される。静脈側クランプ部69は、静脈側気泡センサ68又は動脈側気泡センサ67により気泡が所定量よりも多く検出された場合に、静脈側可動クランプ部691を進出させて、静脈側ライン22を構成するチューブを押し潰して、静脈側ライン22の流路を閉鎖することで、静脈側気泡センサ68よりも上流側において、チューブの内部を流通する液体の送液を停止させる。
【0070】
静脈側下流チューブ押さえ部604の押さえ凸部604bは、蓋部62の閉鎖時において、ユニット本体61に配置される収容凹部604aに対向して配置され、クランプユニット60における静脈側ライン22を流通する液体の下流側(
図3における下方側)において、静脈側ライン22を構成するチューブを押さえる。
【0071】
以上のように構成されるクランプユニット60は、動脈側ライン21を構成するチューブ及び静脈側ライン22を構成するチューブをユニット本体61に配置した状態で、蓋部62を閉鎖するだけで、クランプユニット60においてチューブを確実にクランプすることができる。
【0072】
制御装置50は、情報処理装置(コンピュータ)により構成されており、制御プログラムを実行することにより、血液浄化装置1の動作を制御する。制御装置50は、以下に説明する各工程の制御プログラムを実行することにより、血液浄化装置1の動作を制御して運転する。具体的には、制御装置50は、血液回路20及び透析液回路30に配置された各種のポンプやクランプ、並びにヒータ40等の動作を制御して、血液浄化装置1により行われる各種工程(プライミング工程、脱血工程、治療工程、補液工程、返血工程等)を実行する。本実施形態の血液浄化装置1の各種工程において、例えば、プライミング工程、脱血工程、治療工程、返血工程は、この順に実行され、これらの全工程の実行時間は、4時間から5時間程度要する。また、長時間透析や、夜間に睡眠時間を利用して行われるオーバーナイト透析治療では、全工程の実行時間は、7時間から8時間程度要する。
【0073】
プライミング工程は、血液回路20やダイアライザ10を洗浄し清浄化する準備工程である。
脱血工程は、穿刺後に患者の血液を血液回路20に充填させて体外循環させる工程である。
治療工程は、脱血工程に続いて行われ、血液を透析して浄化する工程である。
補液工程は、透析治療中において血圧低下時等に行う急速補液を行う工程である。
返血工程は、血液回路20内の血液を患者の体内に戻す工程である。
【0074】
ここで、本実施形態においては、制御装置50は、チューブの使用の経過時間に応じて基準電圧(基準値)を更新し、閉塞が発生したことによりチューブ内の圧力が陽圧の場合はチューブが膨張し、陰圧の場合はチューブが収縮して検出値が閉塞の有無を判定するための所定の判定範囲を外れる場合に警報を報知するように構成される。
以上の機能を実現するために、制御装置50は、
図7に示すように、制御部51と、記憶部52と、を備える。制御部51は、基準値生成部511と、基準値更新部512と、閉塞判定部513と、報知制御部514と、を備える。記憶部52は、血液浄化装置1の各種制御の制御プログラム等を記憶している。
【0075】
基準値生成部511は、所定のタイミングで血液ポンプ212が停止された状態で、荷重検出部66により検出された検出値としての電圧であると共に、チューブが閉塞していない状態の電圧を実測基準値として生成する。この場合、検出値と実測基準値は等しくなる。ここで、所定のタイミングとは、具体的には、動脈側ライン21を組み立てた際や、プライミング工程の開始時、プライミング工程の終了時、脱血工程開始時や、治療工程開始時、治療工程開始から例えば1時間毎等、所定の時間経過毎である。動脈側ライン21を組み立てるとは、より具体的には、動脈側ライン21をクランプユニット60にセットして蓋部62を開状態から閉状態にした時である。実測基準値は、チューブの閉塞を判定するための基準値を算出するためのものである。基準値とは、例えば血液ポンプ212が回転している時において、チューブ内に圧力をかけていないと推定される(その時に血液ポンプ212を停止した際に得られると推定される)電圧(検出値)であると共に、チューブが閉塞していないと推定される状態での電圧である。なぜなら、血液ポンプ212が回転している状態では、患者の血管状態や穿刺針の太さ、血液ポンプ212の流量設定によってチューブ内の圧力状態はそれぞれ異なるため、血液ポンプ212が回転している状態での電圧を、閉塞を判定するための実測基準値とすることはできない。しかしながら、血液浄化装置1の各種工程を実施するにあたって、血液ポンプ212を停止して実測基準値を頻繁に測定することは困難であるため、本実施形態においては、所定のタイミングで血液ポンプ212を停止して、あるいは停止しているタイミングで実測基準値を生成するものとした。また、実測基準値を生成するために血液ポンプ212を停止させる時間は数秒程度でよいので、血液浄化装置1の各種工程の実施にほとんど影響を与えないで実測基準値を生成することができる。また、所定のタイミングで血液ポンプ212を停止させる制御は、制御装置50で自動的に行ってもよいし、操作パネル70によりユーザが操作して実施してもよい。
【0076】
基準値更新部512は、荷重検出部66により検出される電圧の時間経過による変化量及び実測基準値に基づいて、基準値を算出して更新する。更に詳しくは、例えば1分毎等の所定の時間毎に基準値を繰り返し算出して更新する。具体的には、治療工程において1時間毎に実測基準値を生成して、1分毎に基準値を更新する場合、基準値生成部511により次の実測基準値を生成するまで、59個の基準値が算出されて更新される。例えば、所定の時間毎の定期的な処理は制御装置50のタイマー機能を用いて実施される。
それぞれの基準値を基準値(0)、基準値(1)、・・・、基準値(N)とし、基準値(N)の算出時に検出される検出値を検出値(N)すると、1分経過による直近の検出値の変化量は、{検出値(N)-検出値(N-1)}となり、基準値(N)は次の式1で表すことができる。
【0077】
基準値(N)=基準値(N-1)+{検出値(N)-検出値(N-1)}・・・式1
【0078】
このように基準値更新部512により、基準値を実測に基づいて設定し、チューブのなじみに起因する基準値の変化量を検出値の変化量に基づいて算出することで、基準値を精度よく更新することができる。ここで、治療工程中に血液ポンプ212を停止すると治療の効率が悪くなるため、1時間毎に数秒間ずつであったとしても、治療工程中は血液ポンプ212を停止させて実測基準値を生成しないことが好ましい。つまり、治療工程開始時に基準値生成部511が実測基準値を生成し、治療工程が終了するまで基準値更新部512が基準値を更新する。
また、実測基準値の生成は、30分毎や2時間毎など、基準値の更新は30秒毎や2分毎、3分毎などでもよく、適宜変更が可能である。
【0079】
また、基準値(N)を算出して更新する際に、血液ポンプ212の運転開始直後や、基準値を実測する目的以外(所定のタイミング以外)で警報が発生する等、何らかの理由で血液ポンプ212が停止し、あるいは、閉塞が発生する等して、式1における検出値の変化量={検出値(N)‐検出値(N-1)}が予め設定された変化範囲を外れる場合に、検出値の変化量に代えて所定の設定変化量(検出値の変化量が正の変化の場合は正の値、検出値の変化量が負の変化の場合は負の値)を用いて、基準値(N)を算出して更新してもよい(式2参照)。ここで設定変化量とは、チューブのなじみにより変化すると想定される量であり、使用するチューブを用いた実験により適切な値を算出することができ、その値を予め設定しておき、記憶部52に記憶しておいてもよいし、直近の検出値の変化量を設定変化量として用いてもよい。これにより、基準値がチューブのなじみ以外による要因で不正確な値に更新されてしまうことを低減することができる。
【0080】
基準値(N)=基準値(N-1)+設定変化量・・・式2
【0081】
また、所定のタイミング以外で血液ポンプ212が停止した状態においては、直近の基準値(N-1)を基準値(N)とする、つまり、基準値を更新しないようにしてもよいし、タイマー機能を一時的にストップして更新しないようにし、血液ポンプ212が動作したときにタイマー機能をスタートしてもよい。また、返血工程において、血液ポンプ212が逆回転して動脈側ライン21の上流側へ向けて液体(血液)を送液するよう駆動されている場合にも、同様に、基準値を更新しないようにしてもよい。これにより、基準値がチューブのなじみ以外による要因で不正確な値に更新されてしまうことを低減することができる(式3参照)。
【0082】
基準値(N)=基準値(N-1)・・・式3
【0083】
ここで、チューブが時間経過によってなじむことにより、基準値はだんだんと下がって行くと共に、検出値の変化量も小さくなる傾向があることが確認された(後述の実施例参照)。よって、前述の設定変化量も、時間経過につれて、又は基準値が小さくなるにつれて、小さくなるよう設定することが好ましい。これにより、基準値を更に精度よく更新することができる。
【0084】
閉塞判定部513は、基準値更新部512により更新された基準値(N)に基づいて、チューブの閉塞の有無を判定するための所定の判定範囲を設定すると共に、荷重検出部66により検出された検出値が所定の判定範囲を外れる場合に、チューブが閉塞していると判定する。具体例を挙げると、判定範囲の大きさを一定として基準値(N)から±0.5Vで設定すると、脱血を行う脱血工程及び治療工程において閉塞を判定する場合、例えば、基準値(N)が2.0Vの場合に、判定範囲の下限(閉塞判定値)は、1.5Vとなる。よって、検出値が1.5Vを1~10秒間の中で適宜設定(例えば3秒)し、その時間以上継続して下回った場合に、チューブが閉塞していると判定する。また、返血工程において閉塞を判定する場合、基準値(N)が2.0Vの場合に、判定範囲の上限(閉塞判定値)は2.5Vとなる。よって、検出値が2.5Vを1~3秒間の中で適宜設定(例えば1秒)し、その時間以上継続して上回った場合に、チューブが閉塞していると判定する。閉塞判定値が基準値より高くなる場合(チューブ内は陽圧)は、基準値よりも低くなる場合(チューブ内は陰圧)に比べて検出値の変化が急激であるため、具体例で示したように、判定にかかる時間は、チューブ内が陰圧となる場合よりも陽圧となる場合の方を短く設定することが好ましい。また、判定範囲を、基準値(N)から+0.6V、-0.3Vのように設定してもよく、所定の判定範囲は、使用する電圧レベルや、使用するチューブなどの使用条件にて実験(例えば、後述の実施例3参照)することにより適切に設定することができる。
【0085】
ここで、前述したように、チューブが時間経過によってなじむことにより、基準値はだんだんと下がって行くと共に、検出値の変化量も小さくなる傾向があることが確認されている(後述の実施例3参照)。よって、前述の判定範囲の大きさも、時間経過につれて、又は基準値が小さくなるにつれて、小さくなるよう設定することが好ましい。これにより、更に閉塞の判定を精度よく行うことができる。
【0086】
報知制御部514は、閉塞判定部513により、チューブが閉塞していると判定された場合に、例えば表示画面や表示灯やスピーカ等の報知部を動作して、判定結果を報知するよう制御する。
【0087】
また、報知制御部514は、蓋部62の閉鎖時に荷重検出部66により検出された検出値が予め設定された範囲を外れると判定された場合に、例えば表示画面や表示灯やスピーカ等の報知部を動作して、判定結果を報知するよう制御する。これにより、閉塞判定時だけでなく、チューブの異常時(チューブの硬度や径、肉厚が適切でない場合やチューブが変形している場合、適切に蓋部62が適切に閉鎖できていない場合)にも、判定結果が報知されるため、適切な状態のチューブを使用でき、荷重検出部66により検出される検出値を精度よく得ることができる。
【0088】
次に、クランプユニット60により、動脈側ライン21を構成するチューブをクランプして、荷重検出部66による検出を行うこと及び動脈側気泡センサ67による検知を行うことの利点について説明する。
【0089】
本実施形態においては、クランプユニット60における本体側動脈側チューブ配置部611と蓋部側動脈側チューブ配置部621とに挟まれる部分において、動脈側ライン21が通る部分には、動脈側クランプ部65、荷重検出部66及び動脈側気泡センサ67が並んで配置されている。医療従事者がクランプユニット60にチューブをクランプさせる場合に、蓋部62を閉鎖するだけで、動脈側クランプ部65においてチューブを固定することができる。よって、医療従事者は、動脈側気泡センサ67による気泡の有無を検知や、荷重検出部66によるチューブの荷重の検出を行うためのセッティングを簡単に行うことができる。また、動脈側クランプ部65、荷重検出部66及び動脈側気泡センサ67が並んで配置されているため、荷重検出部66によるチューブの荷重の検出や、動脈側気泡センサ67による気泡の有無の検知を、動脈側クランプ部65においてチューブを固定した近くで、精度よく行うことができる。
【0090】
ここで、前述のようにチューブが柔らかいほど、荷重検出部66により検出される出力電圧は、安定するまでの時間が短い。そのため、荷重検出部66によるチューブの荷重の検出に使用されるチューブは、出力電圧の安定までの時間を速くするために、柔らかいものが好ましい。
【0091】
その一方で、本実施形態では、クランプユニット60において荷重検出部66及び動脈側気泡センサ67が並んで配置されており、荷重検出部66と動脈側気泡センサ67との間の距離が短くなりがちである。ここで、荷重検出部66及び動脈側気泡センサ67が並んで配置されているため、チューブが柔らか過ぎる場合に、チューブが閉塞した際にチューブが潰れて、荷重検出部66によりチューブの荷重を検出してチューブの閉塞が判定される前に、動脈側気泡センサ67において、チューブに気泡が存在しないにもかかわらず気泡が存在するという誤検知がなされる場合があることが確認された。より具体的には、チューブの硬度が低い場合に、透析治療で36℃の血液等が流れると、チューブに流れる血液等の温度が高いため、チューブが更に柔らかくなってしまう。その時にチューブの閉塞が発生した場合、チューブ内が陰圧となると、チューブが潰れてしまう状況が確認された。ここで、超音波方式の気泡センサは、チューブにセンサ信号を伝達する部分を密着させてチューブを介して超音波を送受信しているため、チューブが潰れてしまうと、気泡センサとチューブとの間に隙間が発生して超音波を受信できなくなる。この状態は、気泡が入った場合に受信電圧が得られない状態と同じ状態であるため、動脈側気泡センサ67において、誤検知となる。そのため、動脈側気泡センサ67による気泡の有無の検知に使用されるチューブは、長時間の透析治療においても誤検知がないように、ある程度、潰れにくい硬いものが好ましい。
【0092】
そこで、本実施形態においては、クランプユニット60を構成して、荷重検出部66及び動脈側気泡センサ67を並んで配置した場合には、荷重検出部66による検出及び動脈側気泡センサ67による検知を精度よく安定して行えるように、チューブの硬度を選定する必要がある。ここで、動脈側気泡センサ67による気泡の有無の検知を行う部分と、荷重検出部66によるチューブの荷重の検出を行う部分とにおいて、異なる材質のチューブを使用することも可能ではあるが、異なる材質のチューブを使用するとコストが上昇することになり、実用的ではない。
【0093】
そのため、本実施形態においては、動脈側気泡センサ67と荷重検出部66とが並んで配置されるクランプユニット60を使用する場合には、荷重検出部66によるチューブの荷重の検出と動脈側気泡センサ67による気泡の検知を精度よく行うために、荷重検出部66による荷重の検出にはチューブの硬度が小さいことが好ましい点と、チューブの硬度が小さすぎると、動脈側気泡センサ67による気泡の検出に誤検出の可能性がある点とを考慮して、チューブの硬度をある程度高くする。これにより、動脈側気泡センサ67と荷重検出部66とが並んで近くに配置されていても、荷重検出部66による荷重の検出を精度よく行えると共に、動脈側気泡センサ67において気泡の検出を精度よく行える。
【0094】
例えば、このような観点からチューブの硬度を選定する場合に、チューブの材質にポリ塩化ビニル(PVC)を使用した場合に、実験により、例えば、チューブの径の内径が、3.3~4.7mm、肉厚が、0.9~1.3mm、JIS硬度が、67~73が好ましいことを得た。本実施形態においては、チューブとして、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)で形成され、内径が、3.3mm、JIS硬度が、70程度、肉厚が、1.1mmのものを使用した。
【0095】
以上説明した本実施形態の血液浄化装置1によれば、以下のような効果を奏する。
【0096】
(1)血液浄化装置1を、動脈側ライン21のうち血液ポンプ212の上流側に設けられ、該動脈側ライン21を構成するチューブから受ける荷重を検出する荷重検出部66と、所定のタイミングで血液ポンプ212を停止させた状態において荷重検出部66により検出される検出値を実測基準値として生成する基準値生成部511と、荷重検出部66により検出される検出値の時間経過による変化量及び実測基準値に基づいて、基準値を更新する基準値更新部512と、荷重検出部66により検出される検出値が、基準値に基づいて設定されるチューブの閉塞の有無を判定するための所定の判定範囲を外れる場合に、チューブが閉塞していると判定する閉塞判定部513と、を含んで構成した。これにより、経過時間と共にチューブが液体や温度変化によりなじんでくることで、荷重検出部66で検出された出力電圧値が変化しても、チューブの閉塞を精度よく判定することができる。従って、長時間の透析治療を行う場合であっても、チューブの閉塞の判定を精度よく行うことができる。所定のタイミングで実測基準値を生成して基準値を更新するので、使用条件や使用環境に応じた基準値とすることができ、精度を保つことができる。また、チューブのなじみに起因する検出値の変化量に応じて、基準値の変化量を算出するので、精度よく基準値を更新することができる。よって、治療工程が長時間に亘る場合であっても、また、血液浄化装置の設置環境の温度によらず、検出値の変化に追従して基準値を設定でき、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0097】
(2)基準値更新部512を、所定の時間毎に基準値を繰り返し更新し、直近に更新された基準値(N-1)及び所定の時間の経過による検出値の直近の変化量に基づいて、基準値(N)を更新するものとした。これにより、チューブのなじみに起因する直近の検出値の変化量に応じて、基準値の変化量を算出するので、精度よく基準値を更新することができ、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0098】
(3)基準値更新部512を、検出値の直近の変化量が設定された変化範囲を外れる場合に、直近に更新された基準値及び設定変化量に基づいて、基準値を更新するものとした。これにより、基準値がチューブのなじみ以外による要因で不正確な値に更新されてしまうことを低減することができ、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0099】
(4)基準値更新部512において、設定変化量を、時間経過につれて、又は基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定した。これにより、基準値を更に精度よく更新することができ、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0100】
(5)基準値更新部512を、所定のタイミング以外で血液ポンプ212が停止した状態においては、直近の基準値を基準値とするものとした。これにより、基準値がチューブのなじみ以外による要因で不正確な値に更新されてしまうことを低減することができ、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0101】
(6)基準値更新部512を、血液ポンプ212が動脈側ライン21の上流側へ向けて液体を送液するよう駆動される場合は、直近の基準値(N-1)を基準値(N)とするものとした。基準値がチューブのなじみ以外による要因で不正確な値に更新されてしまうことを低減することができ、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0102】
(7)報知制御部514を、蓋部62の閉鎖時に荷重検出部66により検出された検出値が予め設定された範囲を外れると判定された場合に、判定結果を報知するように構成した。これにより、チューブが異常の場合に、報知されるため、適切な状態のチューブを使用でき、荷重検出部66により検出される検出値を精度よく得ることができ、閉塞判定の精度を向上させることができる。
【0103】
(8)閉塞判定部513における判定範囲の大きさを、時間経過につれて、又は基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定した。これにより、更に閉塞判定の精度を向上させることができる。
【実施例】
【0104】
(実施例1)
次に、本発明の血液浄化装置1を用いて、実施例1において、基準値更新部512により算出され更新される基準値、荷重検出部66で検出された検出値及び閉塞判定部513で用いられる判定範囲の下限となる閉塞判定値の時間経過の推移を確認した結果について説明する。
【0105】
血液回路20を組み立てると共に、荷重検出部66を動脈側ライン21の上流側に設置した。荷重検出部66に動脈側ライン21を設置直後に、プライミング工程を実施した。その後、動脈側ライン21の上流側の先端に穿刺針18Gを装着して、治療工程を開始(血液ポンプ212を回転)して250mL/minで37℃の水を4時間通水させた。その場合の、基準値、検出値及び閉塞判定値の時間経過の推移を
図8に示す。実施例1では、治療工程開始から1時間、2時間及び3時間後に数秒間、血液ポンプ212を停止した。ここで本実施例では、治療工程開始時に実測基準値を生成しただけで、4時間経過までの例えば1時間、2時間及び3時間後等に実測基準値を生成して基準値の更新には使用していない。
治療工程開始から1分間は、血液ポンプ212の設定流量を徐々に250mL/minまで上げて行くため、検出値の変化(低下)は大きくなる。実施例1では、このように検出値の変化量が想定される範囲を外れる場合に、検出値の変化量に代えて所定の設定変化量を用いて基準値を算出して更新した。その後、直近の基準値及び直近の検出値の変化量に基づいて、繰り返し基準値を算出して更新した。
図8によれば、経過時間が60分(1時間)近傍の基準値は、滑らかに推移しており、経過時間が60分の基準値と血液ポンプ212を停止した時の検出値がほぼ同じ値となっている。よって、治療工程開始時の実測基準値を用い通水開始初期の基準値について、適切な値に更新できたことが確認された。また、経過時間が120分近傍及び180分近傍においても、基準値は滑らかに推移しており、4時間に亘って途中で実測基準値を生成することなく適切に基準値を更新できることが確認された。このように、治療工程開始時の実測基準値に基づいて4時間の間、基準値を更新するので、基準値を予め実験して記憶する必要なく、長時間の血液浄化治療においても、基準値を精度よく更新できることが確認できた。尚、
図8において、閉塞が発生した場合は図示しないが、検出値が閉塞判定値(基準値よりも低い値)よりも十分に低い値となるため、適切な閉塞の判定が可能である。
また、基準値の更新が1分毎であるため、数秒間の血液ポンプ212の停止による検出値の変化は、基準値の更新にほとんど影響していないことが確認できた。実施例1では、閉塞判定値(基準値よりも低い値)は、基準値から一定の値を減じた値を用いた。尚、返血工程において、血液ポンプ212が逆回転して動脈側ライン21の上流側へ向けて液体(血液)を送液するよう駆動されている場合に、閉塞が発生した場合についても図示しないが、検出値が閉塞判定値(基準値よりも高い値)よりも十分に高い値となるため、また返血中の基準値は更新しないように設定しているため、適切な閉塞の判定が可能である。
【0106】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様に基準値、検出値及び判定範囲の下限となる閉塞判定値の時間経過の推移を確認した結果について説明する。
【0107】
血液回路20を組み立てると共に、荷重検出部66を動脈側ライン21の上流側に設置した。荷重検出部66に動脈側ライン21を設置してから12時間後に、実施例1と同様の条件で37℃の水を4時間通水させた。その場合の、基準値、検出値及び閉塞判定値の時間経過の推移を
図9に示す。また、実施例1と同様に、透析工程開始から1時間、2時間及び3時間後に数秒間、血液ポンプ212を停止させたときの検出値と基準値を比較し、適切に基準値を更新できることが確認された。ここで本実施例においても、治療工程開始時に実測基準値を生成しただけで、4時間経過までの期間において実測基準値を生成して基準値の更新には使用していない。
治療工程開始から1時間程度が経過するまでは、実施例1と比較して、検出量の変化量が小さい値となった。このような場合でも、1分毎の検出値の変化量に基づいて、基準値を算出して更新しているので、基準値は経過時間の4時間に亘って滑らかに推移する結果となり、適切に更新されていることが確認された。
このように、チューブのなじみの状態が異なる等、使用状況が異なっていても、本発明によれば、適切に基準値を更新できることが確認された。
【0108】
(実施例3)
実施例3では、実測基準値と検出値の変化量との関係について調べた実験結果について説明する。
チューブから受ける荷重を検出する荷重検出部66により検出される検出値(実測基準値)について、チューブのなじみ具合等に応じて小さく出力される状態から大きく出力される状態まで変更させながら、閉塞前後の検出値の変化量を測定し、実測基準値と閉塞した場合の検出値の変化量との関係をプロットした結果を
図10に示す。
閉塞の状態は、圧力計をチューブに接続し、血液ポンプ212を停止した状態の閉塞実施前の0mmHg(実測基準値)から血液ポンプ212を回転させた状態で-100mmHg毎に-600mmHgまでチューブ内の圧力が陰圧となるように閉塞することによって変化させた。
血液回路20を組み立てると共に、荷重検出部66を動脈側ライン21の上流側に設置した。プライミング後にそれぞれの検出値(実測基準値)の状態において、37℃の水を通水させた状態から血液ポンプ212を停止した閉塞実施前の0mmHg(実測基準値)と、血液ポンプ212を200mL/minで回転した状態で閉塞実施後(各圧力)の検出値の変化量を測定した。
それぞれの圧力において、線形近似(R
2は0.515~0.772)を行ったところ、チューブ内が同じ圧力の場合においても、実測基準値が大きいほどチューブが閉塞した場合の検出値の変化量が大きくなり、実測基準値が小さいほど検出値の変化量が小さくなることが確認された。これにより、基準値が小さくなるにつれて、検出量の変化量が小さくなることが確認された。よって、閉塞を判定する判定範囲の大きさについて、時間が経過するにつれて、又は基準値が小さくなるにつれて、小さくなるように設定することで閉塞の判定精度を向上させることができることが確認された。
【0109】
(実施例4)
実施例3で得られた結果により、一例としてチューブ内の圧力が-400mmHgにおける線形近似の変化量を基準値から減じることにより判定範囲の下限である閉塞判定値とした場合を実施例4とした。実施例1と同様の条件で基準値、検出値及び実施例4の閉塞判定値の時間経過の推移を
図11に示した。また、
図11には、比較のために閉塞判定値が一定(つまり、基準値からの変化量が一定)に設定された実施例1の場合についても示した。
実施例4と実施例1を比較すると、治療工程開始時は、閉塞判定値はほぼ同じ値である。それに対して、治療工程の経過時間の中盤から終盤にかけて、実施例4の閉塞判定値と基準値との差は小さくなっているが、実施例1の閉塞判定値と基準値との差は一定であるので、実施例4の場合の方が、閉塞の判定を感度よく、また、精度よく行うことができる。よって、時間が経過するにつれて、また、基準値が小さくなるにつれて、判定範囲の大きさ(基準値と閉塞判定値との差の絶対値)が小さくなるように設定することで、閉塞判定の精度を向上させることができることが確認された。
【0110】
以上、本発明の血液浄化装置の好ましい一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 血液浄化装置
10 血液浄化器
21 動脈側ライン
22 静脈側ライン
61 ユニット本体
62 蓋部
66 荷重検出部
212 血液ポンプ(ポンプ)
511 基準値生成部
512 基準値更新部
513 閉塞判定部
514 報知制御部
661 フォースセンサ