(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20231129BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60T8/1755 C
B60T8/26 H
(21)【出願番号】P 2019177548
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】有賀 良旭
(72)【発明者】
【氏名】長屋 淳也
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-217155(JP,A)
【文献】特開2002-120710(JP,A)
【文献】特開2001-018777(JP,A)
【文献】特開2011-240801(JP,A)
【文献】特開2001-114087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両制動時に車両が停止するまでに要する時間である減速時間を推定する停止推定部と、
前記車両の前輪に付与する制動力である前輪制動力と、前記車両の後輪に付与する制動力である後輪制動力と、を制御する制御部と、を備え、
前記車両に付与する制動力を前記前輪制動力と前記後輪制動力とに割り当てることを前後制動力配分とした場合、
前記制御部は、車両制動に伴って前記車両が減速して
、前記車両の車速が所定の判定値以下になっているとき又は前記減速時間が所定の判定時間以下になっているときに、前記車両の停止が予測される時点として前記減速時間に基づく停止予測時点を導出して、前記停止予測時点に達するまでは前記前後制動力配分における前記後輪制動力の比率を減少するように前記前輪制動力および前記後輪制動力を制御する
車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両が停止すると、前記後輪制動力を増大させる
請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が停止した際の揺り戻しを軽減する制動制御装置が知られている。特許文献1に開示されている制動制御装置は、制動力の付与によって車速が低下しているとき、車速の低下に応じて車両に付与する制動力を減少させ、さらに車速が低下してから制動力を増大させることによって車両を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている制動制御装置では、制動力を減少させることによって車両のピッチ角を小さくした状態で車両を停止させるようにしている。この場合、制動力の減少に伴って車両制動の開始時点からの制動距離が長くなる虞がある。このため、制動距離が長くなることを見越して、車両制動を早期に開始することを要する場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の制動制御装置は、車両制動時に車両が停止するまでに要する時間である減速時間を推定する停止推定部と、前記車両の前輪に付与する制動力である前輪制動力と、前記車両の後輪に付与する制動力である後輪制動力と、を制御する制御部と、を備え、前記車両に付与する制動力を前記前輪制動力と前記後輪制動力とに割り当てることを前後制動力配分とした場合、前記制御部は、車両制動に伴って前記車両が減速しているときに、前記車両の停止が予測される時点として前記減速時間に基づく停止予測時点を導出して、前記停止予測時点に達するまでは前記前後制動力配分における前記後輪制動力の比率を減少するように前記前輪制動力および前記後輪制動力を制御することをその要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、車両制動に伴って車両が減速しているときには、前後制動力配分における後輪制動力の比率の減少に伴い、前輪制動力が増大される一方で後輪制動力が減少される。車両の後輪に制動力が付与されると車両のサスペンションのジオメトリによってアンチリフト力が車体に作用するが、こうしたアンチリフト力を前後制動力配分の変更による後輪制動力の減少によって小さくできる。
【0007】
ここで、車両の停止後には、車体の揺り戻しによって、車体の前輪側の沈み込みを解消させるモーメントが作用する。車両の停止時点におけるアンチリフト力が大きいほど、当該モーメントが大きくなりやすい。そして、当該モーメントが大きいほど車体の揺り戻しが大きくなりやすい。
【0008】
上記構成によれば、車両の停止時点でのアンチリフト力を小さくできる。すなわち、車体の前輪側の沈み込みを解消させるモーメントを小さくできる。これによって、車両の停止時における車体の揺り戻しを軽減できる。さらに、アンチリフト力が小さくなるのは前後制動力配分における後輪制動力の比率の減少によるものである。このため、車両が停止する際に制動力の大きさを変更する制御を行っても、当該制御を行わない場合に比して制動距離が長くなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両の制動制御装置の一実施形態と、同制動制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図。
【
図2】同制動制御装置の制御対象である車両を示す模式図。
【
図3】同制動制御装置が車両制動時に実行する揺り戻し抑制制御の処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】同制動制御装置によって揺り戻し抑制制御が実行されることによる車両の挙動を説明するタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両の制動制御装置の一実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、車両90と、車両90の制動制御装置10と、を示している。制動制御装置10は、プロセッサやメモリなどといったハードウェアを備えたマイクロコンピュータとして構成される。
図1には、車両90が前方に備える車輪として前輪81を一つ示している。
図1には、車両90が後方に備える車輪として後輪82を一つ示している。
【0011】
車両90の車輪には、制動機構73の作動によって制動力がそれぞれ付与される。各制動機構73は、ホイールシリンダ74内の液圧が高いほど、車輪と一体回転する回転体76に摩擦材75を押し付ける力が大きくなるように構成されている。各制動機構73は、ホイールシリンダ74内の液圧が高いほど大きな制動力を車輪に付与することができる。
【0012】
車両90は、制動装置70を備えている。制動装置70は、液圧発生装置71と、液圧発生装置71からブレーキ液が供給される制動アクチュエータ72と、を備えている。液圧発生装置71には、ブレーキペダルなどの制動操作部材79が連結されている。そして、液圧発生装置71は、車両90の運転者による制動操作部材79の操作量である制動操作量に応じた液圧を発生させる。制動アクチュエータ72は、各ホイールシリンダ74に接続されている。そのため、制動操作部材79が操作されると、その操作量に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ74に供給される。すなわち、各車輪に制動力が付与される。
【0013】
制動アクチュエータ72は、各車輪に付与する制動力の大きさがそれぞれ異なるように各ホイールシリンダ74の液圧を個別に変更することができる。前輪81に対応して設けられている制動機構73によって前輪81に付与される制動力を前輪制動力という。後輪82に対応して設けられている制動機構73によって後輪82に付与される制動力を後輪制動力という。
【0014】
なお、本実施形態では、前輪81におけるホイールシリンダ74と後輪82におけるホイールシリンダ74とで液圧の上昇幅が等しい場合、前輪制動力の増大量の方が後輪制動力の増大量よりも大きくなる。すなわち、前輪81側の方が、ホイールシリンダ74内の液圧の上昇に対しての制動力の増大量が大きい。
【0015】
以下では、車輪に制動力を付与することによって車両90を減速させることを、車両制動ということもある。また、ホイールシリンダ74内の液圧をWC圧ということもある。また、前輪81に設けられている制動機構73におけるWC圧を前輪WC圧PwcFとして、後輪82に設けられている制動機構73におけるWC圧を後輪WC圧PwcRとする。
【0016】
図2に示すように、車両90は、前輪81用のサスペンションとして前輪サスペンション83を備えている。車両90は、後輪82用のサスペンションとして後輪サスペンション84を備えている。
【0017】
車両制動時には、車両90の車体91における後輪82側が浮き上がることを抑制する力が後輪サスペンション84によって作用する。当該力のことを、アンチリフト力FALという。
図2には、アンチリフト力FALを白抜き矢印で表示している。アンチリフト力FALは、車体91の後輪82側を路面側に変位させる方向に作用する力である。アンチリフト力FALは、後輪制動力が大きいほど大きくなる。
【0018】
また、車両制動時には、車両90の車体91における前輪81側が沈み込むことを抑制する力が前輪サスペンション83によって作用する。当該力のことを、アンチダイブ力という。アンチダイブ力は、車体91の前輪81側を路面から離れる側に変位させる方向に作用する力である。
【0019】
車両90が備える前輪サスペンション83および後輪サスペンション84では、制動時にアンチリフト力FALがアンチダイブ力よりも大きくなるようにサスペンションジオメトリが設定されている。
【0020】
また、車両90は、車両90の状態を検出するための各種センサを備えている。
図1には、各種センサの例として、車輪速センサ61と、前後加速度センサ62と、を示している。車輪速センサ61は、車両90の各車輪における車輪速度を検出するセンサである。前後加速度センサ62は、車両90の前後方向における加速度を検出するセンサである。
【0021】
車輪速センサ61および前後加速度センサ62からの検出信号は、制動制御装置10に入力される。制動制御装置10は、車輪速センサ61からの検出信号に基づいて各車輪の車輪速度を導出する。制動制御装置10は、各車輪の車輪速度に基づいて車両90の車速VSを導出する。制動制御装置10は、前後加速度センサ62からの検出信号に基づいて前後加速度Gxを導出する。
【0022】
図1に示すように、制動制御装置10は、機能部として、車速取得部11と、状態判定部12と、停止推定部13と、制御部14と、を備えている。これらの機能部は、たとえば、制動制御装置10のプロセッサがメモリに記憶されたプログラムを読み出して実行した結果として実現される。なお、実施形態では、制動制御装置10の機能の一部または全部が、専用のハードウェア回路のみによって実現されてもよい。制動制御装置10は、各機能部を用いて揺り戻し抑制制御を実施する。揺り戻し抑制制御は、車両制動の結果として車両90が停止した際に発生する車体91の揺り戻しを抑制するために実施される。
【0023】
車速取得部11は、車輪速センサ61からの検出信号に基づく車速VSを取得する。
状態判定部12は、車両90の車速VSおよび前後加速度Gxに基づいて、車両90の走行状態を判定する。詳しくは後述するが、状態判定部12は、車両制動による減速中の車両90が停止する直前であるか否かの判定を行う。また、状態判定部12は、車両90が停止したか否かの判定も行う。
【0024】
停止推定部13は、減速中の車両90が停止するまでに要する時間を減速時間として推定する。停止推定部13は、たとえば、車速VS、前後加速度Gx、制動操作部材79の操作量および制動操作部材79の操作速度等に基づいて、減速時間を推定する。たとえば、停止推定部13は、車速VSが小さいほど短い時間を減速時間として推定する。停止推定部13は、前後加速度Gxが小さく減速度が大きいほど短い時間を減速時間として推定する。なお、停止推定部13は、車両90が減速しているとき、所定の周期毎に減速時間を更新する。
【0025】
制御部14は、制動装置70を制御することによって車両90の各車輪に制動力を付与する。車両90に付与する制動力を前輪制動力と後輪制動力とに割り当てることを前後制動力配分とすると、制御部14は、前後制動力配分における前輪制動力の比率および後輪制動力の比率を変更することができる。
【0026】
なお、前輪制動力の比率が増大されると、後輪制動力の比率が減少される。この場合には、前輪制動力が増大される一方で、後輪制動力が減少される。反対に、後輪制動力の比率が増大されると、前輪制動力の比率が減少される。この場合には、後輪制動力が増大される一方で、前輪制動力が減少される。
【0027】
図3を用いて、制動制御装置10が実施する揺り戻し抑制制御の処理ルーチンについて説明する。制動制御装置10は、本処理ルーチンを繰り返し実行する。
制動制御装置10は、本処理ルーチンを開始すると、まず、ステップS101において、状態判定部12に停止前条件が成立しているか否かを判定させる。
【0028】
状態判定部12は、車速VSが停止直前判定値Vth以下であるとき、停止前条件が成立していると判定する。状態判定部12は、車速VSが停止直前判定値Vthよりも高いとき、停止前条件が成立していないと判定する。停止直前判定値Vthは、状態判定部12によって設定される。状態判定部12は、車両90が減速中の前後加速度Gxが小さいほど、規定の基準値に対して大きい値となるように停止直前判定値Vthを設定する。換言すれば、状態判定部12は、車両90の減速度が大きいほど大きい値となるように停止直前判定値Vthを設定する。基準値は、たとえば1~5[km/h]程度の値である。停止前条件が成立しているとき、車両90が停止する直前であるといえる。
【0029】
ステップS101の処理において、停止前条件が成立していない場合(S101:NO)、制動制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、停止前条件が成立している場合(S101:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0030】
ステップS102では、制動制御装置10は、車両90が停止するまでに要する時間を停止推定部13に推定させる。すなわち、停止推定部13は、減速時間を推定する。その後、制動制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
【0031】
ステップS103では、制動制御装置10は、制御部14に前後制動力配分の変更を開始させる。
制御部14は、車両90に付与する制動力の大きさを維持した状態で前後制動力配分における後輪側比率が減少するように前輪制動力および後輪制動力を制御する。すなわち、前輪制動力と後輪制動力との和を変更することなく後輪制動力の比率が減少するように、後輪WC圧PwcRを低下させるとともに前輪WC圧PwcFを上昇させる。このとき、制御部14は、減速時間に基づいて、車両の停止が予測される時点として停止予測時点を導出する。制御部14は、停止予測時点において後輪制動力が「0」となるように後輪WC圧PwcRを低下させる。
【0032】
なお、後輪WC圧PwcRの低下によって後輪制動力を減少させたときに減少させた制動力を前輪制動力の増大によって得ようとする場合、前輪制動力を増大させるための前輪WC圧PwcFの上昇幅は、後輪WC圧PwcRの低下幅よりも小さくなる。これは、前輪WC圧PwcFの変更に対する前輪制動力の変化量が、後輪WC圧PwcRの変更に対する後輪制動力の変化量よりも多いためである。
【0033】
ステップS103において前後制動力配分の変更が開始されると、制動制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
ステップS104では、制動制御装置10は、状態判定部12に停止判定が成立しているか否かを判定させる。
【0034】
状態判定部12は、車速VSが「0」になったとき、停止判定が成立していると判定する。停止判定が成立しているとき、車両90が停止しているといえる。また、状態判定部12は、車両90が減速中に車速VSが「0」よりもわずかに大きい値まで低下したときに停止判定が成立していると判定してもよい。
【0035】
ステップS104の処理において、停止判定が成立していない場合(S104:NO)、制動制御装置10は、ステップS104の処理を繰り返し実行する。一方、停止判定が成立している場合(S104:YES)、制動制御装置10は、処理をステップS105に移行する。
【0036】
ステップS105では、制動制御装置10は、制御部14に前後制動力配分の変更を終了させる。その後、制動制御装置10は、処理をステップS106に移行する。
ステップS106では、制動制御装置10は、制御部14に前後制動力配分を復元させる。制御部14は、前後制動力配分の変更を開始した時点の比率となるように前輪制動力および後輪制動力を制御する。この場合、制御部14は、後輪制動力を増大させる一方、前輪制動力を減少させる。その後、制動制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
【0037】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図4に示す例では、タイミングt1において車両制動が開始され、その後、制動力の付与によって車速VSが低下を開始し、タイミングt4において車両90が停止している。
【0038】
タイミングt1において車両制動が開始されると、
図4の(c)に示すように、前輪WC圧PwcFおよび後輪WC圧PwcRが上昇を開始する。
図4の(c)には、前輪WC圧PwcFの推移を二点鎖線で示し、後輪WC圧PwcRの推移を実線で示している。WC圧の上昇によって、車両90に制動力が付与され、
図4の(b)に示すように、前後加速度Gxが負の値となって減速度が増大している。タイミングt1以降では、
図4の(a)に示すように車速VSが低下を開始している。
【0039】
図4の(c)に示すように、前輪WC圧PwcFおよび後輪WC圧PwcRの上昇は、タイミングt1からタイミングt2まで継続される。タイミングt2以降では、前輪WC圧PwcFおよび後輪WC圧PwcRは、一定の値に保持されている。このため、
図4の(b)に示すように、タイミングt2まで減速度が増大し、タイミングt2以降では、減速度が一定に保持されている。
図4の(a)に示すように、車速VSは、タイミングt2以降においても低下し続けている。
【0040】
タイミングt3では、
図4の(a)に示すように、車速VSが停止直前判定値Vthまで低下している。このため、停止前条件が成立していると判定され(S101:YES)、前後制動力配分の変更が開始される(S103)。すなわち、タイミングt3以降では、前後制動力配分における後輪制動力の比率が減少される。具体的には、
図4の(c)に実線で示すように後輪WC圧PwcRの低下が開始されるとともに、二点鎖線で示すように前輪WC圧PwcFの上昇が開始される。また、
図4に示す例では、制御部14によってタイミングt4が停止予測時点として導出される。このため、タイミングt4において後輪制動力が「0」となるように、後輪WC圧PwcRが減少される。換言すれば、停止予測時点に達するまでは、制御部14によって、後輪制動力が減少される一方で前輪制動力が増大される。なお、この際の後輪WC圧PwcRの減少速度および前輪WC圧PwcFの増大速度は、タイミングt3における後輪制動力が大きいほど、すなわちタイミングt3における後輪WC圧PwcRが高いほど高くなる。また、この際の後輪WC圧PwcRの減少速度および前輪WC圧PwcFの増大速度は、タイミングt3からタイミングt4までの期間が短いほど高くなる。
【0041】
タイミングt3以降において前後制動力配分が変更されるが、車両90に付与される制動力、すなわち前輪制動力と後輪制動力との総和は変動していない。このため、
図4の(b)に示すように、減速度は、タイミングt3以降においてもタイミングt3よりも前と同様の値で推移している。
【0042】
タイミングt4において車速VSが「0」になると、停止判定が成立したと判定され(S104:YES)、前後制動力配分の変更が終了される(S105)。タイミングt4時点では、
図4の(c)に示すように、後輪WC圧PwcRが「0」まで低下している。タイミングt4以降では、前後制動力配分が復元される(S106)。すなわち、前後制動力配分がタイミングt3時点における前後制動力配分に戻るように、後輪制動力が増大されるとともに前輪制動力が減少される。具体的には、
図4の(c)に実線で示すように後輪WC圧PwcRの上昇が開始されるとともに、二点鎖線で示すように前輪WC圧PwcFの低下が開始される。そして、タイミングt5において、前後制動力配分の変更が開始されたタイミングt3時点におけるWC圧まで前輪WC圧PwcFおよび後輪WC圧PwcRが戻っている。
【0043】
タイミングt4において車両90が停止したことによって、
図4の(b)に示すように、タイミングt4以降では前後加速度Gxが正の値まで一旦増加している。その後、前後加速度Gxが負の値まで一旦減少したのちに前後加速度Gxが「0」に収束している。すなわち、車体91が前後方向に振られる揺り戻しが発生している。
【0044】
図2を用いて、
図4におけるタイミングt3以降のように前後制動力配分を変更した場合の作用について説明する。
車両制動時には、車体91の前輪81側が沈み込む方向に車両90がピッチング運動を行う。すなわち、車体91のピッチ角が大きくなる。そして、車両90が停止すると、車体91の前輪81側の沈み込みを解消させるモーメントである揺り戻しモーメントMが車両90で発生する。
図2では、車両90における重心Cの周囲に時計回りの矢印として揺り戻しモーメントMを表示している。
【0045】
制動制御装置10が実施する揺り戻し抑制制御では、車両制動に伴って車両90が減速しているときに、車両90が停止する直前であると判定されると、前後制動力配分の変更によって後輪制動力が減少される。これによって、車体91に作用するアンチリフト力FALを小さくすることができる。このように車両90の停止時点でのアンチリフト力FALを小さくすることによって、車両90が停止したときに発生する揺り戻しモーメントMを軽減できる。この結果、車両90の停止時における車体91の揺れ幅を軽減することができ、車両90の停止時における車体91の揺り戻しが継続する時間を短くすることができる。
【0046】
さらに、車両90が停止する際にアンチリフト力が小さくなるのは、前後制動力配分における後輪制動力の比率の減少によるものである。すなわち、前後制動力配分が変更されても、車両90に付与される制動力の大きさは保持される。その結果、車両90の減速度の変化も抑制できる。
【0047】
たとえば、揺り戻しを抑制するために車両が停止する直前に車両の制動力を一時的に減少させる制御を比較例の制御とする。この場合、車両90の運転者による制動操作部材79の操作によって車両制動が行われる際に比較例の制御が実施されたとすると、運転者が想定する制動距離よりも実際の制動距離が長くなる虞がある。この点、制動制御装置10が実施する揺り戻し抑制制御によれば、車両90が停止する直前に前輪制動力および後輪制動力を変更する制御を行っても、当該制御を行わない場合に比して制動距離が長くなることを抑制できる。すなわち、制動距離に影響を与えることなく揺り戻しを軽減することができる。
【0048】
また、制動制御装置10が実施する揺り戻し抑制制御では、車両90が停止すると、後輪制動力が増大される。仮に、車両90の停止後も後輪制動力が減少した状態であると、揺り戻しに伴って後輪82が動く虞があり、揺り戻しの収束が遅くなる虞がある。この点、制動制御装置10によれば、車両90の停止後に後輪制動力を増大させることによって、車両90の停止後に後輪82が動くことを抑制でき、揺り戻しの収束が遅くなることを抑制できる。
【0049】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、
図3のステップS101において、状態判定部12は、車速VSと停止直前判定値Vthとを比較して、停止前条件が成立しているか否かを判定する。停止前条件としては、減速時間が判定時間以下になることを用いることもできる。さらに状態判定部12は、上記条件に加えて、車両90の減速度が規定の閾値以上に大きいとき、車速VSや減速時間にかかわらず停止前条件が不成立であると判定してもよい。これによって、減速度が大きいときには、前後制動力配分の変更が行われなくなる。これは、減速度が大きいときには、停止後の揺り戻しを軽減することよりも速やかな停止が求められている場合があるためである。
【0050】
・上記実施形態では、状態判定部12は、停止直前判定値Vthとして車両90の減速度が大きいほど大きい値を設定した。停止直前判定値Vthとしては、減速度の大きさにかかわらず予め設定した値を用いることもできる。
【0051】
・上記実施形態では、
図3のステップS106において、制御部14は、前後制動力配分を復元している。ステップS106の処理としては、前後制動力配分の復元は必須ではなく、後輪制動力を増大させればよい。車両90の停止後に後輪制動力を増大させる構成であっても、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0052】
・上記実施形態の揺り戻し抑制制御において、前後制動力配分を変更する際の後輪制動力を減少させる速度は、変更することができる。停止予測時点における後輪制動力が「0」となるようにしつつ、減速度の大きさに応じて後輪制動力を減少させる速度を変更してもよい。前輪制動力を増大させる速度についても、後輪制動力を減少させる速度の変更に合わせて変更するとよい。
【0053】
・上記実施形態では、制御部14は、停止予測時点において後輪制動力が「0」となるように前後制動力配分を変更している。停止予測時点における後輪制動力を「0」まで低下させることは必須の要件ではない。後輪制動力を減少させることができれば、アンチリフト力FALを小さくでき、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0054】
・上記実施形態における揺り戻し抑制制御は、車両90の運転者が制動操作部材79を操作したことによる車両制動の際に実施されてもよいし、制動制御装置10または車両90が備える他の制御装置が実施する運転支援における車両制動の際に実施されてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、制動機構73として、前輪WC圧PwcFと後輪WC圧PwcRとで液圧の上昇幅が等しい場合に前輪制動力の増大量の方が後輪制動力の増大量よりも大きくなる特性を有する制動機構を例示している。WC圧と制動力との関係は、必ずしも上記関係を満たしていなくてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、制動装置70としてブレーキ液を用いて車輪に摩擦制動力を付与する制動装置を例示している。制動制御装置10が適用される車両が備える制動装置としては、前輪制動力と後輪制動力とを個別に制御することができればよい。たとえば、モータの駆動によって車輪に摩擦制動力を付与することのできる電動制動装置でもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…制動制御装置、11…車速取得部、12…状態判定部、13…停止推定部、14…制御部、61…車輪速センサ、62…前後加速度センサ、70…制動装置、71…液圧発生装置、72…制動アクチュエータ、73…制動機構、74…ホイールシリンダ、75…摩擦材、76…回転体、79…制動操作部材、81…前輪、82…後輪、83…前輪サスペンション、84…後輪サスペンション、90…車両、91…車体。