IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産トーソク株式会社の特許一覧

特許7392362モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置
<>
  • 特許-モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置 図1
  • 特許-モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置 図2
  • 特許-モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置 図3
  • 特許-モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20231129BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20231129BHJP
   H02P 29/60 20160101ALI20231129BHJP
【FI】
H02P27/08
B60W10/30 900
H02P29/60
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019180048
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021058003
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】小林 喜幸
(72)【発明者】
【氏名】白井 康弘
(72)【発明者】
【氏名】初田 匡之
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-213594(JP,A)
【文献】特開2004-068732(JP,A)
【文献】特開2017-189051(JP,A)
【文献】実開平07-010502(JP,U)
【文献】特開2004-028332(JP,A)
【文献】特開2010-035281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0303636(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
B60W 10/30
H02P 29/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータを駆動させるための駆動信号を前記モータに出力する駆動部と、
初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータに基づいて前記駆動信号のデューティ比を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記3つの制御パラメータのそれぞれが所定の値である通常制御モードと、前記3つの制御パラメータの少なくとも1つが前記通常制御モードよりも小さい値である極低温制御モードとを有し、
前記制御部は、外部から入力される作動指令信号のデューティ比が第1範囲内に含まれる場合に前記通常制御モードに切り替わり、前記作動指令信号のデューティ比が第2範囲内に含まれる場合に前記極低温制御モードに切り替わる、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、外部から入力される環境温度信号に基づいて環境温度が閾値以下か否かを判定し、前記環境温度が前記閾値を超える場合に前記通常制御モードに切り替わり、前記環境温度が前記閾値以下の場合に前記極低温制御モードに切り替わる、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
環境温度を検出し、前記環境温度を示す環境温度信号を前記制御部に出力するセンサをさらに備え、
前記制御部は、前記センサから入力される前記環境温度信号に基づいて前記環境温度が閾値以下か否かを判定し、前記環境温度が前記閾値を超える場合に前記通常制御モードに切り替わり、前記環境温度が前記閾値以下の場合に前記極低温制御モードに切り替わる、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記極低温制御モードにおいて、前記3つの制御パラメータのうち、前記初期デューティ比と前記目標デューティ比との2つが前記通常制御モードよりも小さい値である、請求項1~のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記極低温制御モードにおいて、前記3つの制御パラメータの全てが前記通常制御モードよりも小さい値である、請求項1~のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記極低温制御モードにおける前記初期デューティ比と前記目標デューティ比との差分の絶対値は、前記通常制御モードにおける前記初期デューティ比と前記目標デューティ比との差分の絶対値よりも小さい、請求項1~のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
シャフトを有するモータと、
前記シャフトの軸方向一方側に位置し、前記モータによって前記シャフトを介して駆動されオイルを吐出するポンプと、
前記モータを駆動する請求項1~のいずれか一項に記載のモータ駆動装置と、を備える、電動オイルポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、変速機の内部に備えられた機械式オイルポンプと、エンジンの駆動と無関係に作動可能な電動式オイルポンプとを備える。このようなハイブリッド車両において、エンジンが駆動していない状況下では、電動式オイルポンプによって変速機に必要な油圧が供給される。
【0003】
特許文献1には、変速機の油温が所定の基準温度以下の極低温状態である場合の電動オイルポンプにおけるモータ駆動装置の制御方法が開示される。この制御方法は、変速機の油温を測定し、変速機の油温が所定の基準温度以下の極低温状態である場合に、電動オイルポンプの回転数が目標回転数になるようにデューティ制御を行い、デューティ制御後には、目標回転数を維持するためのフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-122310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、-10℃以下の極低温の状態では、オイルの粘度は常温状態と比較して極端に高くなる。このため、特許文献1に記載のモータ駆動装置では、オイルの粘度が高い状態で電動オイルポンプの回転数が目標回転数になるようにデューティ制御を行う場合、モータの負荷トルクが増大し、その結果、モータ駆動装置からモータへ出力される出力電流値が上昇する。モータ駆動装置には、出力電流値が上限値を超えた場合にモータへの電流供給を停止させるフェールセーフ機能が設けられる。そのため、上記のようにオイルの粘度が高いことに起因してモータ駆動装置の出力電流値が上昇すると、フェールセーフ機能が働き、モータを駆動できなくなり、必要な油圧を供給できなくなる可能性がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて、極低温状態でもモータを安定して回転させることができるモータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のモータ駆動装置における一つの態様は、モータを駆動するモータ駆動装置であって、前記モータを駆動させるための駆動信号を前記モータに出力する駆動部と、初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータに基づいて前記駆動信号のデューティ比を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記3つの制御パラメータのそれぞれが所定の値である通常制御モードと、前記3つの制御パラメータの少なくとも1つが前記通常制御モードよりも小さい値である極低温制御モードとを有する。
【0008】
本発明の電動オイルポンプ装置における一つの態様は、シャフトを有するモータと、前記シャフトの軸方向一方側に位置し、前記モータによって前記シャフトを介して駆動されオイルを吐出するポンプと、前記モータを駆動する上記モータ駆動装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記態様によれば、極低温状態でもモータを安定して回転させることができるモータ駆動装置及び電動オイルポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態におけるモータ駆動装置を備える電動オイルポンプ装置を模式的に示す回路ブロック図である。
図2図2は、初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータに関する説明図である。
図3図3は、本実施形態におけるモータ駆動装置の第1変形例を示す図である。
図4図4は、本実施形態におけるモータ駆動装置の第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるモータ駆動装置10を備える電動オイルポンプ装置100を模式的に示す回路ブロック図である。図1に示すように、電動オイルポンプ装置100は、モータ駆動装置10と、電動オイルポンプ40とを備える。電動オイルポンプ40は、モータ20と、ポンプ30とを備える。電動オイルポンプ装置100は、例えばハイブリッド車両に搭載されるトランスミッションにオイルを供給する装置である。
【0012】
モータ駆動装置10は、電動オイルポンプ40のモータ20を駆動する装置である。モータ20は、例えば三相ブラシレスDCモータである。モータ20は、回転可能に支持されたシャフト21と、シャフト21の回転位置を検出する位置センサ22とを有する。また、図1では図示を省略するが、モータ20は、U相コイルと、V相コイルと、W相コイルと、を含むステータを有する。位置センサ22は、シャフト21の回転位置を検出し、その検出結果を示すシャフト位置信号PSをモータ駆動装置10に出力する。位置センサ22として、例えば、ホールセンサ、エンコーダ、或いはレゾルバなどを使用できる。
【0013】
ポンプ30は、モータ20のシャフト21の軸方向一方側に位置し、モータ20によってシャフト21を介して駆動されオイルFを吐出する。ポンプ30は、オイル吸入口31及びオイル吐出口32を有する。オイルFは、オイル吸入口31からポンプ30の内部に吸入された後、オイル吐出口32から不図示のトランスミッション側に吐出される。このように、ポンプ30とモータ20とが接続されることにより、電動オイルポンプ40が構成される。
【0014】
モータ駆動装置10は、電源回路11と、インバータ回路12(駆動部)と、制御部13と、記憶部14とを備える。モータ駆動装置10は、モータ20と、外部電源であるバッテリ200と、外部温度センサ300とにそれぞれ電気的に接続される。なお、バッテリ200及び外部温度センサ300は、本実施形態の電動オイルポンプ装置100の構成要素ではない。外部温度センサ300は、環境温度を検出し、環境温度を示す環境温度信号TSをモータ駆動装置10に出力する。
【0015】
電源回路11は、第1入力端子11aと、第2入力端子11bと、第1出力端子11cと、第2出力端子11dと、を有する。
電源回路11の第1入力端子11aは、バッテリ200の正極端子と電気的に接続される。電源回路11の第2入力端子11bは、バッテリ200の負極端子と電気的に接続される。電源回路11の第1出力端子11cは、インバータ回路12の第1入力端子12aと電気的に接続される。電源回路11の第2出力端子11dは、インバータ回路12の第2入力端子12bと電気的に接続される。
【0016】
電源回路11は、バッテリ200から入力される直流電圧Viを、モータ20の駆動に必要な電圧値を有する直流電圧Voに変換してインバータ回路12に出力する。バッテリ200から入力される直流電圧Viは、第1入力端子11aと第2入力端子11bとの間に印加される電圧である。電源回路11から出力される直流電圧Voは、第1出力端子11cと第2出力端子11dとの間に発生する電圧である。
【0017】
電源回路11は、インバータ回路12に流れる電流値、すなわちモータ駆動装置10からモータ20へ出力される出力電流値を計測し、出力電流値が上限値を超えた場合にインバータ回路12への電圧出力を停止することにより、インバータ回路12によるモータ20への電流供給を停止させるフェールセーフ機能を有する。
なお、図1では図示を省略するが、電源回路11は、制御部13及び記憶部14を動作させるために必要な電源電圧も生成し、生成した電源電圧を制御部13及び記憶部14に出力する。
【0018】
インバータ回路12は、モータ20を駆動させるための駆動信号をモータ20に出力する駆動回路である。具体的には、インバータ回路12は、モータ20のU相コイル(図示省略)にパルス幅変調された駆動信号DSuを出力する。また、インバータ回路12は、モータ20のV相コイル(図示省略)にパルス幅変調された駆動信号DSvを出力する。さらに、インバータ回路12は、モータ20のW相コイル(図示省略)にパルス幅変調された駆動信号DSwを出力する。
【0019】
インバータ回路12は、第1入力端子12aと、第2入力端子12bと、第1スイッチング素子SW1と、第2スイッチング素子SW2と、第3スイッチング素子SW3と、第4スイッチング素子SW4と、第5スイッチング素子SW5と、第6スイッチング素子SW6とを有する。
【0020】
インバータ回路12の第1入力端子12aは、電源回路11の第1出力端子11cと電気的に接続される。インバータ回路12の第2入力端子12bは、電源回路11の第2出力端子11dと電気的に接続される。第1入力端子12aと第2入力端子12bとの間に、電源回路11から出力される直流電圧Voが印加される。
【0021】
第1スイッチング素子SW1から第6スイッチング素子SW6は、例えばMOS-FETなどの大電力用パワートランジスタである。第1スイッチング素子SW1と第4スイッチング素子SW4とは、直列に接続される。第2スイッチング素子SW2と第5スイッチング素子SW5とは、直列に接続される。第3スイッチング素子SW3と第6スイッチング素子SW6とは、直列に接続される。
【0022】
第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2と、第3スイッチング素子SW3とのそれぞれの一端は、第1入力端子12aと電気的に接続される。第4スイッチング素子SW4、第5スイッチング素子SW5と、第6スイッチング素子SW6とのそれぞれの一端は、第2入力端子12bと電気的に接続される。
【0023】
モータ20のU相コイルは、第1スイッチング素子SW1と第4スイッチング素子SW4との間に電気的に接続される。モータ20のV相コイルは、第2スイッチング素子SW2と第5スイッチング素子SW5との間に電気的に接続される。モータ20のW相コイルは、第3スイッチング素子SW3と第6スイッチング素子SW6との間に電気的に接続される。
【0024】
第1スイッチング素子SW1から第6スイッチング素子SW6のオン/オフ状態は、後述の制御部13から入力される制御信号によって制御される。第1スイッチング素子SW1から第6スイッチング素子SW6のオン/オフ状態が制御されることにより、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比が制御される。駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を制御することにより、モータ20の回転数の制御が可能となる。
【0025】
制御部13は、インバータ回路12と、記憶部14と、モータ20の位置センサ22と、外部温度センサ300とのそれぞれに電気的に接続される。制御部13は、位置センサ22から入力されるシャフト位置信号PSと、外部温度センサ300から入力される環境温度信号TSとに基づいて、第1スイッチング素子SW1から第6スイッチング素子SW6のオン/オフ状態を制御するための制御信号を生成し、生成した制御信号を各スイッチング素子に出力する。つまり、制御部13は、第1スイッチング素子SW1から第6スイッチング素子SW6のオン/オフ状態を制御することにより、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を制御する。これにより、制御部13は、モータ20の回転数を制御できる。
【0026】
このように本実施形態において制御部13は、駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を変えることでモータ20の回転数を制御するPWM制御によって、モータ20を制御する。具体的に、制御部13は、駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を大きくすることで、モータ20の回転数を大きくできる。一方、制御部13は、駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を小さくすることで、モータ20の回転数を小さくできる。本実施形態の制御部13によって調整される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比の範囲内において、デューティ比の値とモータ20の回転数とは、例えば、比例する。
【0027】
詳細は後述するが、制御部13は、初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータに基づいて駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を制御する。また、制御部13は、上記3つの制御パラメータのそれぞれが所定の値である通常制御モードと、上記3つの制御パラメータの少なくとも1つが通常制御モードよりも小さい値である極低温制御モードとを有する。
本実施形態において制御部13は、外部から入力される環境温度信号TSに基づいて環境温度が閾値以下か否かを判定し、環境温度が閾値を超える場合に通常制御モードに切り替わり、環境温度が閾値以下の場合に極低温制御モードに切り替わる。閾値は、例えば-10℃である。
このような制御部13は、CPU(Central Processing Unit)などのマイクロコンピュータによって実現できる。
【0028】
記憶部14は、ROM及びRAM等を有する半導体メモリである。記憶部14は、通常制御モード用の初期デューティ比X1、デューティ比増大速度X2、及び目標デューティ比X3の3つの制御パラメータを予め記憶すると共に、極低温制御モード用の初期デューティ比Y1、デューティ比増大速度Y2、及び目標デューティ比Y3の3つの制御パラメータを予め記憶する。
【0029】
図2に示すように、本実施形態では、記憶部14には、通常制御モード用の初期デューティ比X1として「10%」が記憶され、通常制御モード用の目標デューティ比X3として「20%」が記憶される。通常制御モード用のデューティ比増大速度X2は、下記(1)式で表される。なお、ΔT1は、デューティ比が、初期デューティ比X1から目標デューティ比X3に達するまでの時間である。
X2=(X3-X1)/ΔT1 …(1)
【0030】
また、記憶部14には、極低温制御モード用の初期デューティ比Y1として「8%」が記憶され、極低温制御モード用の目標デューティ比Y3として「15%」が記憶される。極低温制御モード用のデューティ比増大速度Y2は、下記(2)式で表される。なお、ΔT2は、デューティ比が、初期デューティ比Y1から目標デューティ比Y3に達するまでの時間である。
Y2=(Y3-Y1)/ΔT2 …(2)
【0031】
本実施形態において、通常制御モードにおける初期デューティ比X1と目標デューティ比X3との差分の絶対値は、「10%」である。また、極低温制御モードにおける初期デューティ比Y1と目標デューティ比Y3との差分の絶対値は、「7%」である。
【0032】
上記のように、本実施形態では、極低温制御モードにおいて、3つの制御パラメータ、すなわち初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の全てが通常制御モードよりも小さい値である。また、極低温制御モードにおける初期デューティ比Y1と目標デューティ比Y3との差分の絶対値は、通常制御モードにおける初期デューティ比X1と目標デューティ比X3との差分の絶対値よりも小さい。
【0033】
以下、上記のように構成されたモータ駆動装置10の動作について説明する。
バッテリ200からモータ駆動装置10に直流電圧Viが入力されると、電源回路11は、インバータ回路12に直流電圧Voを出力すると共に、電源電圧を制御部13及び記憶部14に出力する。
【0034】
制御部13は、電源回路11から電源電圧の供給を受けると起動し、外部温度センサ300から入力される環境温度信号TSに基づいて環境温度が閾値(-10℃)以下か否かを判定する。環境温度が閾値を超える場合、制御部13は通常制御モードとなり、記憶部14から通常温度制御モード用の初期デューティ比X1、デューティ比増大速度X2、及び目標デューティ比X3を読み出す。
【0035】
そして、制御部13は、通常温度制御モード用の初期デューティ比X1、デューティ比増大速度X2、及び目標デューティ比X3に基づいて、インバータ回路12の各スイッチング素子のオン/オフ状態を制御することにより、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を制御する。これにより、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比は、図2に示す通常制御モード時のパターンのように変化する。
【0036】
一方、環境温度が閾値以下の場合、制御部13は極低温制御モードとなり、記憶部14から極低温制御モード用の初期デューティ比Y1、デューティ比増大速度Y2、及び目標デューティ比Y3を読み出す。
【0037】
そして、制御部13は、極低温制御モード用の初期デューティ比Y1、デューティ比増大速度Y2、及び目標デューティ比Y3に基づいて、インバータ回路12の各スイッチング素子のオン/オフ状態を制御することにより、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を制御する。これにより、インバータ12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比は、図2に示す極低温制御モード時のパターンのように変化する。
【0038】
ここで、例えば-10℃以下の極低温の状態では、オイルFの粘度は常温状態と比較して極端に高くなる。オイルFの粘度が高くなると、ポンプ30がオイルFから受ける粘性抵抗が大きくなり、ポンプ30を回転させるために必要なモータ20のトルクが増大する。そのため、極低温状態において、仮に、常温状態、すなわちオイルFの粘度が比較的低い状態を前提として決定された通常温度制御モード用の初期デューティ比X1、デューティ比増大速度X2、及び目標デューティ比X3に基づいて、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を制御すると、モータ20の負荷トルクが極端に増大する可能性がある。その結果、インバータ回路12からモータ20へ出力される出力電流値が上昇し、予め決められた出力電流値の上限値を超える可能性がある。出力電流値が上限値を超えることにより、電源回路11のフェールセーフ機能が働き、モータ20を駆動できなくなる可能性がある。
【0039】
一方、本実施形態では、制御部13は、通常制御モードと、極低温制御モードと、を有しており、極低温制御モードにおいては、初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータの少なくとも1つが通常制御モードよりも小さい値である。そのため、極低温制御モードにおいては、通常制御モードに比べて、各駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を小さくしやすい。極低温制御モードにおける駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比が通常制御モードよりも小さくしやすくなることにより、制御部13を極低温制御モードとすることで、通常制御モードに比べてモータ20の回転数を低くしやすい。モータ20の回転数が低くなると、ポンプ30の回転数も低くなる。ここで、粘性抵抗は速度に比例するため、ポンプ30の回転数が低くなるほど、オイルFから受ける粘性抵抗は小さくなる。したがって、オイルFの粘度が比較的高い場合であっても、ポンプ30が受ける粘性抵抗を小さくでき、モータ20の負荷トルクが増大することを抑制できる。そのため、例えば、環境温度が-10℃以下の極低温の状態において、制御部13を極低温制御モードとすることで、オイルFの粘度が比較的高くなっている場合であっても、モータ20の負荷トルクが増大することを抑制でき、インバータ回路12からモータ20へ出力される出力電流値が上昇することを抑制できる。出力電流値の上昇が抑制されることにより、電源回路11のフェールセーフ機能が働くことを抑制でき、モータ20を駆動できなくなることを抑制できる。したがって、本実施形態によれば、極低温状態でもモータ20を安定して回転させることができ、油圧を供給することが可能となる。
【0040】
本実施形態では、初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータが、通常制御モード用と極低温制御モード用に分けて用意されており、これらの制御パラメータを環境温度に応じて選択可能である。
【0041】
具体的に本実施形態では、制御部13は、外部から入力される環境温度信号TSに基づいて環境温度が閾値以下か否かを判定し、環境温度が閾値を超える場合に通常制御モードに切り替わり、環境温度が閾値以下の場合に極低温制御モードに切り替わる。そのため、環境温度が比較的高くオイルFの粘度が比較的低い場合には、通常制御モードによってモータ20の回転数を好適に高くして、ポンプ30によって好適にオイルFを送ることができる。一方、環境温度が比較的低くオイルFの粘度が比較的高い場合には、極低温制御モードによってモータ20の回転数を抑え、モータ20の負荷トルクが増大することを抑制できる。このように、本実施形態では、環境温度に応じて通常制御モードと極低温制御モードとを切り替えることにより、極低温状態においても、負荷トルクの増大、つまり出力電流値の上昇を抑制でき、モータ20の回転を停止させることなく、円滑で安定したモータ制御が可能となる。
【0042】
本実施形態では、極低温制御モードにおいて、初期デューティ比、デューティ比増大速度、及び目標デューティ比の3つの制御パラメータの3つの制御パラメータの全てが通常制御モードよりも小さい値である。そのため、図2に示すように、仮に同じ時刻に各モードを開始した場合、いずれの時刻においても、極低温制御モードにおける駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を、通常制御モードにおける駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比よりも小さくできる。極低温制御モードにおける駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比を通常制御モードよりも小さくすることにより、極低温制御モードによってモータ20を制御する期間の全体において、モータ20の回転数を、通常制御モードによってモータ20を制御する場合よりも小さくできる。したがって、モータ20の負荷トルクが増大することをより好適に抑制できる。
【0043】
具体的に、本実施形態では、環境温度が-10℃より大きい場合には、オイルFの粘度が比較的低い状態を前提として決定された通常温度制御モード用の初期デューティ比X1、デューティ比増大速度X2、及び目標デューティ比X3に基づいて、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比が制御される。一方、環境温度が-10℃以下の場合には、オイルFの粘度が比較的高い状態を前提として決定された極低温制御モード用の初期デューティ比Y1、デューティ比増大速度Y2、及び目標デューティ比Y3に基づいて、インバータ回路12からモータ20に出力される駆動信号DSu、駆動信号DSv及び駆動信号DSwのデューティ比が制御される。
【0044】
なお、上記実施形態では、極低温制御モード用の3つの制御パラメータの全てが通常制御モードよりも小さい値である場合を例示したが、極低温制御モード用の3つの制御パラメータの少なくとも1つが通常制御モードよりも小さい値であれば、負荷トルクの増大(つまり出力電流値の上昇)を抑制できるという効果を得ることができる。しかしながら、この効果を最大化するために、極低温制御モード用の3つの制御パラメータの全てが通常制御モードよりも小さい値であることが好ましい。
【0045】
例えば、図2に示す一点鎖線のように、極低温制御モード用の初期デューティ比Y1を通常制御モードと同じ値(10%)にし、デューティ比増大速度Y2と目標デューティ比Y3(17%)とを通常制御モードよりも小さい値にしてもよい。或いは、極低温制御モードにおいて、3つの制御パラメータのうち、初期デューティ比と目標デューティ比との2つが通常制御モードよりも小さい値であってもよい。この場合であっても、負荷トルクの増大、つまり出力電流値の上昇を抑制できるという効果を得ることができる。
【0046】
上記実施形態では、極低温制御モードにおける初期デューティ比Y1と目標デューティ比Y3との差分の絶対値が、通常制御モードにおける初期デューティ比X1と目標デューティ比X3との差分の絶対値よりも小さい場合を例示した。これにより、モータ20が駆動したときから回転が収束するまでの駆動信号のデューティ比の差をより小さくすることができる。その結果、通常制御モードの出力電流値の上昇よりも、極低温制御モードの出力電流値の上昇の方が抑制できる効果を得ることが可能となる。
【0047】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態に限定されず、本明細書において説明した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
例えば、上記実施形態では、外部温度センサ300から環境温度の情報をモータ駆動装置10の制御部13に供給する構成を例示したが、図3に示すモータ駆動装置10Aのように、モータ駆動装置が温度センサ15をさらに備える構成を採用してもよい。
【0048】
温度センサ15は、環境温度を検出し、環境温度を示す環境温度信号TSを制御部13に出力する。温度センサ15としては、環境温度に相関関係のある信号を出力できさえすれば、どのようなセンサを使用してもよい。この場合の制御部13は、温度センサ15から入力される環境温度信号TSに基づいて環境温度が閾値以下か否かを判定し、環境温度が閾値を超える場合に通常制御モードに切り替わり、環境温度が前記閾値以下の場合に極低温制御モードに切り替わる。
このような構成を採用することにより、温度検出も含めて全てモータ駆動装置自身で完結することができる。
【0049】
また、図4に示すモータ駆動装置10Bのように、外部の上位制御装置400から入力される作動指令信号DSに応じて制御モードが切り替わる構成を採用してもよい。この場合、制御部13は、上位制御装置400から入力される作動指令信号DSのデューティ比が第1範囲内に含まれる場合に通常制御モードに切り替わり、作動指令信号DSのデューティ比が第2範囲内に含まれる場合に極低温制御モードに切り替わる。
このような構成を採用することにより、モータ駆動装置側で環境温度を把握する必要がなく、装置コストを削減することができ、且つモータ駆動装置の軽量化と小型化することが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
10、10A、10B…モータ駆動装置、11…電源回路、12…インバータ回路(駆動部)、13…制御部、14…記憶部、15…温度センサ(センサ)、20…モータ、30…ポンプ、40…電動オイルポンプ、100…電動オイルポンプ装置、200…バッテリ、300…外部温度センサ、400…上位制御装置
図1
図2
図3
図4