(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】重荷重用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20231129BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231129BHJP
B60C 11/14 20060101ALI20231129BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20231129BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231129BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20231129BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60C11/00 H
B60C1/00 A
B60C11/00 D
B60C11/14 A
C08L9/00
C08L101/00
C08L91/00
C08K3/26
(21)【出願番号】P 2019182372
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】河西 勇輝
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-530004(JP,A)
【文献】特開2009-190437(JP,A)
【文献】特開2008-149934(JP,A)
【文献】特開2003-192844(JP,A)
【文献】特開2018-104652(JP,A)
【文献】特開2018-119025(JP,A)
【文献】特開平09-031250(JP,A)
【文献】特開2007-169500(JP,A)
【文献】特開2019-151743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 11/00
B60C 11/14
C08L 9/00
C08L 91/00
C08L 101/00
C08K 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、
tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が下記式(1)を満たし、
JIS B0601:2001に準拠する摩耗後の表面粗さが5.5
μm以上であるトレッドを有する、
重荷重用タイヤ。
0.035 ≧ -20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ / そのピークの半値幅 ≧ 0.021 (1)
【請求項2】
イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、
前記樹脂が、α-ピネン単位含有率65~100質量%、β-ピネン単位含有率0~35質量%及びリモネン単位含有率10質量%以下のテルペン系樹脂であり、
tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が下記式(1)を満たし、
JIS B0601:2001に準拠する摩耗後の表面粗さが5.5μm以上であるトレッドを有する、
重荷重用タイヤ。
-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ / そのピークの半値幅 ≧ 0.021 (1)
【請求項3】
イソプレン系ゴム及びブタジエンゴムを含有するゴム成分と、樹脂と、シリカとを含み、
シリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、5~45質量部であり、
tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が下記式(1)を満たし、
JIS B0601:2001に準拠する摩耗後の表面粗さが5.5μm以上であるトレッドを有する、
重荷重用タイヤ。
-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ / そのピークの半値幅 ≧ 0.021 (1)
【請求項4】
前記式(1)の値が0.022以上である請求項1
~3のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項5】
前記式(1)の値が0.023以上である請求項1
~3のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項6】
前記式(1)の値が0.024以上である請求項1
~3のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項7】
前記表面粗さが6.0
μm以上である請求項1~
6のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項8】
前記表面粗さが6.5
μm以上である請求項1~
6のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項9】
前記トレッドが卵殻粉を含む請求項1~8のいずれかに記載の重荷重用タイヤ。
【請求項10】
前記卵殻粉の平均粒子径が70μm以上である請求項9記載の重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤに要求される重要な性能として、氷上性能、摩耗性能等があり、これらを両立することが望まれている。例えば、氷上性能を向上する場合、卵殻粉を添加する等の手法が従来から提案されているが、摩耗性能が悪くなる傾向あり、一般に氷上性能、摩耗性能の両立は難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記課題を解決し、氷上性能、摩耗性能の総合性能が改善された重荷重用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、
tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が下記式(1)を満たし、
摩耗後の表面粗さが5.5以上であるトレッドを有する、
重荷重用タイヤに関する。
-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ / そのピークの半値幅 ≧ 0.021 (1)
【0005】
前記式(1)の値が0.022以上であることが好ましく、0.023以上であることがより好ましく、0.024以上であることが更に好ましい。
【0006】
前記表面粗さが6.0以上であることが好ましく、6.5以上であることがより好ましい。
【0007】
前記樹脂が、テルペン系樹脂であることが好ましく、α-ピネン単位含有率65~100質量%、β-ピネン単位含有率0~35質量%及びリモネン単位含有率10質量%以下のテルペン系樹脂であることがより好ましい。
【0008】
前記トレッドが卵殻粉を含むことが好ましい。
【0009】
前記卵殻粉の平均粒子径が70μm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が前記式(1)を満たし、前記表面粗さが5.5以上であるトレッドを有する、重荷重用タイヤであるので、氷上性能、摩耗性能の総合性能が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ゴム組成物のtanδの温度分布曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の重荷重用タイヤは、トレッドを有し、該トレッドが、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が下記式(1)を満たし、摩耗後の表面粗さが5.5以上である。
-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ / そのピークの半値幅 ≧ 0.021 (1)
【0013】
「-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ(tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内の最大tanδ値)」/「半値幅(該最大tanδ値の1/2のtanδ値になる高温側の温度-該最大tanδ値の1/2のtanδ値になる低温側の温度(FWHM))」(単位:1/℃)が下限以上、かつ、前記表面粗さが下限以上であると、良好な氷上性能、摩耗性能の総合性能が得られる。
【0014】
該重荷重用タイヤで前述の効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下の作用効果により奏するものと推察される。
前記表面粗さは、摩耗後(好ましくはトレッドから切り出したゴム片に特定の摩耗処理を施した後)の表面粗さ(好ましくはランボーン摩耗試験後のサンプルの表面粗さ)であり、摩耗処理を施すことにより、氷上路面を重荷重用タイヤが走行する際のトレッド表面を好適に再現できる。そして、前記表面粗さを5.5以上とすることにより、良好な氷上性能が得られる。従来の技術では、前記表面粗さは3程度であるため、従来のトレッド表面よりも非常に粗いため、より良好な氷上性能が得られる。
しかしながら、前記表面粗さを5.5以上とすることにより、良好な氷上性能が得られるものの、摩耗性能が悪化するという問題が生じることが判明した。
この点について鋭意検討した結果、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含むトレッドにおいて、前記表面粗さを5.5以上とすると共に、前記式(1)を満たすことにより、良好な氷上性能、摩耗性能の総合性能が得られることが判明した。
これは、以下のように推測される。
前記式(1)を満たす場合、ピーク位置のtanδが比較的高い、tanδの温度分布曲線の波形が比較的シャープになる、等の物性を有しているため、高いtanδピークにより氷上性能が向上する、シャープな波形により氷上性能、摩耗性能が改善される、等の作用効果が得られるためと推察される。
従って、前記重荷重用タイヤでは、氷上性能、摩耗性能の総合性能が改善されるものと推察される。
以上の通り、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が前記式(1)を満たし、前記表面粗さが5.5以上であるトレッドを有する、重荷重用タイヤは、良好な氷上性能、摩耗性能の総合性能が得られる。このように、本発明は、前記式(1)、前記表面粗さのパラメーターを満たすトレッドを備えたタイヤの構成にすることにより、氷上性能、摩耗性能の総合性能という課題(目的)を解決するものである。すなわち、当該パラメーターは課題(目的)を規定したものではなく、本願の課題は、氷上性能、摩耗性能の総合性能であり、そのための解決手段として前記式(1)、前記表面粗さのパラメーターを組み合わせる構成にしたものである。つまり、2つのパラメーターを同時に満たすことが必須の構成要件である。
【0015】
前記式(1)を満たすトレッドゴムの作製には、tanδを変化させることができる種々の手法が使用できる。例えば、前記式(1)を満足させる手法として、ゴム成分と相溶性の高い樹脂を配合する方法、フィラーを増減する方法等が挙げられる。例えば、フィラーを増量することにより、前記式(1)の値は低くなる。
【0016】
なかでも、ゴム成分と相溶性の高い樹脂を配合することにより、ピーク位置のtanδが高くなり、tanδの温度分布曲線の波形がシャープになり(半値幅が小さくなり)、前記式(1)の値を増大できる。
【0017】
ゴム成分、特にイソプレン系ゴム及びブタジエンゴムと相溶性の高い樹脂として、テルペン系樹脂、特に、α-ピネン単位含有率65~100質量%、β-ピネン単位含有率0~35質量%及びリモネン単位含有率10質量%以下のテルペン系樹脂が好適に使用できる。この場合、ピーク位置のtanδが高くなり、tanδの温度分布曲線の波形がシャープになり(半値幅が小さくなり)、前記式(1)の値を増大でき、氷上性能、摩耗性能の総合性能が顕著に改善されるものと推察される。
【0018】
前記表面粗さを満たすトレッドゴムの作製には、表面粗さを変化させることができる種々の手法が使用できる。例えば、前記表面粗さを満足させる手法として、表面粗化材を配合する方法等が挙げられる。
ここで、配合する表面粗化材の平均粒子径が大きいほど、前記表面粗さを増大できる。また、表面粗化材の配合量が多いほど、前記表面粗さを増大できる。
【0019】
表面粗化材のなかでも、卵殻粉、特に、平均粒子径が70μm以上の卵殻粉が好適に使用できる。この場合、前記表面粗さを増大でき、氷上性能が顕著に改善されるものと推察される。
【0020】
tanδの温度分布曲線における「-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ / そのピークの半値幅」(前記式(1)の値)は、前記式(1)の通り、0.021以上であり、好ましくは0.022以上、より好ましくは0.023以上、更に好ましくは0.024以上、特に好ましくは0.025以上、最も好ましくは0.027以上、より最も好ましくは0.028以上、更に最も好ましくは0.029以上、特に最も好ましくは0.030以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは0.060以下、より好ましくは0.055以下、更に好ましくは0.050以下、特に好ましくは0.045以下、最も好ましくは0.035以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0021】
tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδは、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.70以上、更に好ましくは0.80以上であり、上限は特に限定されず、tanδは大きいほど望ましい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0022】
前記ピークの半値幅は、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下、更に好ましくは20℃以下であり、下限は特に限定されず、半値幅は小さいほど望ましい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0023】
前記tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ、前記ピークの半値幅を満たすゴム組成物は、例えば、式(1)を満たすための手法と同様の手法等を用いることで作製可能である。
【0024】
なお、tanδの温度分布曲線は、複数のピークトップが存在してもよく、その場合、少なくとも1つのピーク(曲線)について、該ピーク位置のtanδ/該ピークを含む曲線の半値幅が上記範囲内となればよい。また、少なくとも1つのピーク(曲線)について、該ピーク位置のtanδ、該ピークを含む曲線の半値幅が上記範囲内であることが好適である。
【0025】
ここで、tanδの温度分散カーブは、後述の実施例の方法で測定可能であり、得られた曲線を用いて、前記ピーク位置のtanδ、半値幅を測定できる。
【0026】
前記表面粗さ(Ra)は、5.5以上であり、好ましくは6.0以上、より好ましくは6.5以上、更に好ましくは7.0以上、特に好ましくは8.0以上、最も好ましくは9.0以上、より最も好ましくは10以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下、特に好ましくは14以下、最も好ましくは12以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0027】
前記表面粗さは、摩耗後の表面粗さであり、具体的には、トレッドから切り出したゴム片を、ランボーン摩耗試験機を用いて、摩耗処理した後の摩耗面の表面粗さである。摩耗処理の条件は、実施例に記載の条件である。なお、該表面粗さは、JIS B0601:2001の附属書1(参考)に準拠して測定した十点平均粗さ(RzJIS)であり、測定条件は、実施例に記載の条件である。
【0028】
次に、前記トレッドを作製するためのゴム組成物について説明する。
該ゴム組成物は、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴム(BR)と、樹脂とを含む。
【0029】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましく10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0031】
ブタジエンゴム(BR)としては特に限定されず、例えば、高シス含量のBR、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)等、タイヤ工業において一般的なものが挙げられる。BRは、市販品としては、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
BRのシス含量は、良好な氷雪上性能、耐摩耗性等の観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
なお、本明細書において、シス含量(シス-1,4-結合量)は、赤外吸収スペクトル分析や、NMR分析により測定されるシグナル強度から算出される値である。
【0033】
前記ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましく10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0034】
前記ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム及びBRの合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0035】
イソプレン系ゴム、BR以外に使用可能なゴム成分としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ゴム成分(イソプレン系ゴム、BRも含む)は、非変性ゴムでもよいし、変性ゴムでもよい。
変性ゴムとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するゴムであればよく、例えば、ゴムの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ゴム(末端に上記官能基を有する末端変性ゴム)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ゴムや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ゴム(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ゴム)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ゴム等が挙げられる。
【0037】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0038】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、テルペン系樹脂、クマロン系樹脂、スチレン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、p-t-ブチルフェノールアセチレン樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、樹脂は、水添されていてもよい。なかでも、イソプレン系ゴム、BRと相溶性の高い樹脂、具体的には、テルペン系樹脂、クマロン系樹脂、スチレン系樹脂が好ましく、テルペン系樹脂がより好ましい。
【0039】
上記樹脂の軟化点は、-30℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、60℃以上が更に好ましく、80℃以上が特に好ましく、100℃以上が最も好ましい。また、上記軟化点は、200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0040】
上記樹脂としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、JXTGエネルギー(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0041】
テルペン系樹脂としては、テルペン化合物に由来する単位を有する樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリテルペン(テルペン化合物を重合して得られる樹脂)、テルペン芳香族樹脂(テルペン化合物と芳香族化合物とを共重合して得られる樹脂)、芳香族変性テルペン樹脂(テルペン樹脂を芳香族化合物で変性して得られる樹脂)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリテルペンが好ましい。
【0042】
上記テルペン化合物は、(C5H8)nの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C10H16)、セスキテルペン(C15H24)、ジテルペン(C20H32)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。上記テルペン化合物としてはまた、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸などの樹脂酸(ロジン酸)なども挙げられる。すなわち、上記テルペン系樹脂には、松脂を加工することにより得られるロジン酸を主成分とするロジン系樹脂も含まれる。なお、ロジン系樹脂としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)の他、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などの変性ロジン樹脂、ロジングリセリンエステルなどのロジンエステル、ロジン樹脂を不均化することによって得られる不均化ロジン樹脂などが挙げられる。
【0043】
上記芳香族化合物としては、芳香環を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、不飽和炭化水素基含有フェノールなどのフェノール化合物;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール、不飽和炭化水素基含有ナフトールなどのナフトール化合物;スチレン、アルキルスチレン、アルコキシスチレン、不飽和炭化水素基含有スチレンなどのスチレン誘導体などが挙げられる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。
【0044】
テルペン系樹脂のなかでも、α-ピネン単位含有率65~100質量%、β-ピネン単位含有率0~35質量%及びリモネン単位含有率10質量%以下のテルペン系樹脂(α-ピネン系樹脂)が好ましい。
テルペン系樹脂は、イソプレン系ゴム、BRと相溶性が高いが、テルペン系樹脂の中でも、α-ピネン単位含有率が高いテルペン系樹脂(α-ピネン系樹脂)は、リニアの構造を有するため、ポリマーとの接触面積が大きく、その結果、ゴム成分と樹脂の相溶性がより良好となり、ピーク位置のtanδがより高くなり、tanδの温度分布曲線の波形がよりシャープになり(半値幅がより小さくなり)、前記式(1)の値をより増大でき、氷上性能、摩耗性能の総合性能がより改善される。
また、α-ピネン系樹脂の軟化点や分子量(数平均分子量(Mn)、z平均分子量(Mz)、重量平均分子量(Mw)等)を下記所定の範囲内にコントロールすることで、ゴム成分との相溶性が更に向上し、前記式(1)の値をより増大でき、氷上性能、摩耗性能の総合性能がより改善される。
【0045】
前記α-ピネン系樹脂は、軟化点が60~150℃であることが好ましい。下限は、70℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、110℃以上が更に好ましい。上限は、140℃以下が好ましく、135℃以下がより好ましい。下限以上にすることで、良好な摩耗性能が得られる傾向があり、上限以下にすることで、良好な加工性が得られる傾向がある。
【0046】
α-ピネン系樹脂は、数平均分子量(Mn)が500~775であることが好ましい。下限は、580以上がより好ましく、620以上が更に好ましい。上限は、765以下がより好ましく、755以下が更に好ましい。上記範囲とすることで、良好な氷上性能及び摩耗性能の総合性能等が得られる傾向がある。
【0047】
α-ピネン系樹脂は、z平均分子量(Mz)が1300~1600であることが好ましい。下限は、1310以上がより好ましく、1320以上が更に好ましい。上限は、1570以下がより好ましく、1550以下が更に好ましい。上記範囲とすることで、良好な氷上性能及び摩耗性能の総合性能等が得られる傾向がある。
【0048】
α-ピネン系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が800~1100であることが好ましい。上記範囲とすることで、良好な氷上性能及び摩耗性能の総合性能等が得られる傾向がある。
【0049】
α-ピネン系樹脂は、分子量分布(Mw/Mn)が1.30~1.70であることが好ましい。上記範囲とすることで、良好な氷上性能及び摩耗性能の総合性能等が得られる傾向がある。
【0050】
なお、Mn、Mw、Mzは、ASTM D5296(公開日2005年)に記載されているゲル浸透/サイズ排除クロマトグラフィー(GPC-SEC)を用いて測定する値である。
【0051】
α-ピネン系樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が25~90℃であることが好ましい。下限は、35℃以上がより好ましく、38℃以上が更に好ましい。上限は、85℃以下がより好ましく、81℃以下が更に好ましい。上記範囲とすることで、良好な氷上性能及び摩耗性能の総合性能等が得られる傾向がある。
なお、Tgは、TA Instrumentsの示差走査熱量計SC Q2000を用いて、ASTM D 6604(公開日2013年)に従って測定する値である。
【0052】
前記α-ピネン系樹脂は、リモネン単位含有率(α-ピネン系樹脂100質量%中のリモネン単位の含有率)が10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0質量%である。上記範囲とすることで、良好な氷上性能及び摩耗性能の総合性能等が得られる傾向がある。
【0053】
前記α-ピネン系樹脂は、1種のテルペン(テルペンモノマー)が重合された単独重合体、2種以上のテルペンが重合体された共重合体、1種以上のテルペンと1種以上のテルペン以外の他のモノマーとの共重合体のいずれでもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記α-ピネン系樹脂は、氷上性能及び摩耗性能の総合性能等の観点から、テルペン単位含有率(α-ピネン系樹脂100質量%中のテルペン単位の含有率)が80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。この場合、α-ピネン系樹脂は、テルペンのみを構成単位とする単独重合体又は共重合体のいずれでもよい。
【0055】
前記α-ピネン系樹脂は、α-ピネン単位を有する重合体、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位を有する重合体を好適に使用できる。具体的に、α-ピネンの単独重合体、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位を有する共重合体等が挙げられる。
【0056】
前記α-ピネン系樹脂において、α-ピネン単位含有率(α-ピネン系樹脂100質量%中のα-ピネン単位の含有率)は、氷上性能及び摩耗性能の総合性能等の観点から、65~100質量%の範囲内が好適である。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上で、100質量%でもよい。
【0057】
α-ピネン系樹脂において、β-ピネン単位含有率(α-ピネン系樹脂100質量%中のβ-ピネン単位の含有率)は、氷上性能及び摩耗性能の総合性能等の観点から、0~35質量%の範囲内が好適である。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下で、0質量%でもよい。
【0058】
前記α-ピネン系樹脂において、α-ピネン単位及びβ-ピネン単位の合計含有率(α-ピネン系樹脂100質量%中のα-ピネン単位及びβ-ピネン単位の合計含有率)は、氷上性能及び摩耗性能の総合性能等の観点から、80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0059】
前記α-ピネン系樹脂は、例えば、ルイス酸触媒を用い、1種又は2種以上のテルペンモノマー等をカチオン重合し、合成できる。
ルイス酸触媒としては特に限定されず、BF3、BBr3、AlF3、AlBr3、TiCl4、TiBr4、TiL4、FeCl3、FeCl2、SnCl4、WCl6、MoCl5、ZrCl4、SbCl3、SbCl5、TeCl2及びZnCl2等の金属ハライド;Et3Al、Et2AlCl3、EtAlCl2、Et3Al2Cl3、(i-Bu)3Al、(i-Bu)2AlCl、(i-Bu)AlCl2、Me4Sn、Et4Sn、Bu4Sn、Bu3SnCl等の金属アルキル化合物;Al(OR)3-xClx、Ti(OR)4-yCly(Rはアルキル基又はアリール基を表し、xは1又は2の整数を表し、yは1~3の整数を表す。)等の金属アルコキシ化合物;等が挙げられる。また、(i)AlCl3と、トリメチルアミン等のアルキル第3級アミンとの組み合わせ;(ii)AlCl3と、トリアルキルシリコンハロゲン化物、低級ジアルキルフェニルシリコンハロゲン化物、ヘキサアルキルジシロキサン等の有機ケイ素化合物との組み合わせ;(iii)AlCl3と、塩化トリメチルゲルマニウム、トリエチルゲルマニウムエトキシド等の有機ハロゲン化ゲルマニウムとの組み合わせ;(iv)炭素数1~18の低級アルキル基;等も挙げられる。
【0060】
カチオン重合を溶液重合により実施する場合、使用可能な溶媒としては、テルペンモノマーが重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が使用可能である。具体的には、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、n-プロピルクロライド、1-クロロ-n-ブタン、2-クロロ-n-ブタン等);芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、ナフサ等);脂肪族炭化水素系溶媒(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等)が挙げられる。重合反応は、例えば、-120~100℃、-80~80℃、5~50℃等の温度範囲で実施できる。
【0061】
樹脂(好ましくはテルペン系樹脂、より好ましくはα-ピネン系樹脂)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、特に好ましくは8質量部以上、最も好ましくは12質量部以上、より最も好ましくは15質量部以上である。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは40質量部以下、最も好ましくは30質量部以下、より最も好ましくは25質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0062】
前記ゴム組成物は、前記表面粗さを満足させるために、表面粗化材を配合することが好ましい。
表面粗化材としては特に限定されないが、卵殻粉、短繊維、酸化亜鉛ウィスカ、脱殻粉、シラス粒状物、粉砕胡桃、火山灰、鉄微粒子等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、卵殻粉が好ましい。卵殻粉は、卵殻を粉砕することで得られるものであり、その主成分は炭酸カルシウムである。
【0063】
表面粗化材(好ましくは卵殻粉)の平均粒子径は、好ましくは50μm以上、より好ましくは70μm以上、更に好ましくは90μm以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下、特に好ましくは120μm以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、表面粗化材(卵殻粉)の平均粒子径は、粒度分布測定器を用いて測定される。
【0064】
卵殻粉としては、例えば、(株)グリーンテクノ21、キューピー(株)等の製品を使用できる。
【0065】
卵殻粉の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、氷上性能の観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、特に好ましくは10質量部以上であり、また、摩耗性能の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0066】
前記ゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
カーボンブラックとしては特に限定されず、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF及びECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FT及びMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPC及びCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイトなどをあげることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
良好な氷上性能、摩耗性能が得られるという理由から、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上であり、また、好ましくは200m2/g以下、より好ましくは150m2/g以下である。同様の理由から、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、好ましくは50ml/100g以上、より好ましくは80ml/100g以上であり、また、好ましくは200ml/100g以下、より好ましくは150ml/100g以下である。
また、良好な氷上性能、摩耗性能が得られるという理由から、N2SAが100~120m2/gのカーボンブラックと、N2SAが135~155m2/gのカーボンブラックとを併用することも好ましい。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、ASTM D4820-93に従って測定され、DBP吸収量は、ASTM D2414-93に従って測定される。
【0068】
カーボンブラックとしては特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上、最も好ましくは40質量部以上である。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内にすることで、良好な氷上性能、摩耗性能が得られる傾向がある。
【0070】
前記ゴム組成物は、シリカを含むことが好ましい。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0071】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは40m2/g以上、より好ましくは70m2/g以上、更に好ましくは110m2/g以上である。下限以上にすることで、良好な氷上性能、摩耗性能が得られる傾向がある。また、シリカのN2SAは、好ましくは220m2/g以下、より好ましくは200m2/g以下である。上限以下にすることで、良好な分散性が得られ、良好な摩耗性能が得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0072】
シリカとしては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0073】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。下限以上にすることで、良好な氷上性能、摩耗性能が得られる傾向がある。該含有量は、好ましくは45質量部以下、より好ましくは35質量部以下、更に好ましくは25質量部以下である。上限以下にすることで、良好な分散性が得られ、良好な摩耗性能が得られる傾向がある。
【0074】
前記ゴム組成物は、シリカと共にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより良好に得られるという理由から、スルフィド系、メルカプト系が好ましい。
【0075】
シランカップリング剤としては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0076】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。3質量部以上であると、添加による効果が得られる傾向がある。また、上記含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましい。25質量部以下であると、配合量に見合った効果が得られ、良好な混練時の加工性が得られる傾向がある。
【0077】
フィラー(カーボンブラック、シリカ等)の合計含有量は、氷上性能、摩耗性能の総合性能が顕著に改善されるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上であり、好ましくは110質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。
【0078】
前記ゴム組成物は、オイルを含むことが好ましい。
【0079】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより良好に得られるという理由から、アロマ系プロセスオイルが好ましい。
【0080】
オイルとしては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0081】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、氷上性能等の観点から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。摩耗性能の観点から、上限は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
なお、オイルの含有量には、ゴム(油展ゴム)に含まれるオイルの量も含まれる。
【0082】
前記ゴム組成物は、液状ポリマーを含有してもよい。
上記液状ポリマー(液状ジエン系重合体)とは、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体である。
液状ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、1.0×103以上であることが好ましく、3.0×103以上であることがより好ましく、5.0×103以上であることが更に好ましく、1.0×104以上であることが特に好ましく、2.0×104以上であることが最も好ましく、2.0×105以下であることが好ましく、1.0×105以下であることがより好ましく、5.0×104以下であることが更に好ましく、3.5×104以下であることが特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0083】
液状ジエン系重合体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、スチレン、ファルネセン及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の(共)重合体を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。なかでも、液状SBR、液状IRが好ましく、液状IRがより好ましい。
また、液状ジエン系重合体は、水添されていてもよい。
【0084】
上記液状ポリマーとしては、例えば、CRAY VALLEY社、(株)クラレ等の製品を使用できる。
【0085】
液状ポリマー(液状ジエン系重合体)の含有量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは55質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは45質量部以下である。上記範囲内にすることで、前記効果がより好適に得られる傾向がある。
【0086】
上記ゴム組成物は、ワックスを含んでもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0087】
ワックスとしては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0088】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0089】
上記ゴム組成物は、老化防止剤を含んでもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましい。
【0090】
老化防止剤としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0091】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0092】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0093】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0094】
上記ゴム組成物は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0095】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0096】
上記ゴム組成物は硫黄を含有してもよい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
硫黄としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0098】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0099】
前記ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。
【0100】
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤の併用がより好ましい。
【0101】
加硫促進剤としては、例えば、川口化学(株)、大内新興化学(株)、三新化学工業(株)製等の製品を使用できる。
【0102】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0103】
上記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物;等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0104】
上記ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0105】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは80~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。加硫時間は、通常5~15分である。
【0106】
前記ゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド)に好適に使用できるが、他の部材、例えば、サイドウォール、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックス、ビードエイペックス、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等や、ランフラットタイヤのサイド補強層に用いてもよい。
【0107】
前記重荷重用タイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(特に、トレッド(キャップトレッド))の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0108】
なお、上記重荷重用タイヤのタイヤ部材(例えば、トレッド)は、少なくとも一部が上記ゴム組成物で構成されていればよく、全部が上記ゴム組成物で構成されていてもよい。
【0109】
本明細書における重荷重用タイヤとは、耐久性に特に優れたタイヤであり、トラック・バス用タイヤ、重機等の産業用車両に使用される産業用タイヤ等が挙げられる。重荷重用タイヤでは、通常、ケース、ブレーカーに使用されるコードが共にスチールコードであるオールスチールタイヤが使用される。
【0110】
前記重荷重用タイヤは、氷上性能、摩耗性能の総合性能が良好であるため、冬用重荷重用タイヤ(重荷重用スタッドレスタイヤ、重荷重用スノータイヤ、重荷重用スタッドタイヤ等)として好適に使用できる。
【実施例】
【0111】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0112】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
NR:RSS#3
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:98質量%)
カーボンブラック1:三菱ケミカル(株)製のシーストN220(N2SA:111m2/g、DBP吸収量:115ml/100g)
カーボンブラック2:三菱ケミカル(株)製(N2SA:145m2/g、DBP吸収量:132ml/100g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウラトシルVN3(N2SA:175m2/g)
卵殻粉:(株)グリーンテクノ21製の卵殻粉(平均粒子径:100μm)
β-ピネン樹脂:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンPX1150N(β-ピネン樹脂、軟化点:115℃、Tg:65℃)
α-ピネン樹脂1:α-ピネンホモポリマー(軟化点130℃、Mn742g/mol、Mz1538g/mol、Mw1055g/mol、Mw/Mn1.42、Tg81℃、リモネン単位含有率0質量%)
α-ピネン樹脂2:ピネンポリマー(α-ピネン90質量%、β-ピネン10質量%、軟化点130℃、Mn657g/mol、Mz1332g/mol、Mw917g/mol、Mw/Mn1.40、Tg80℃、リモネン単位含有率0質量%)
テルペンスチレン樹脂:Arizona chemical社製のSYLVATRAXX6720(テルペンスチレン樹脂、軟化点:118℃)
テルペンフェノール樹脂:Arizona chemical社製のSYLVARES TP115(テルペンフェノール樹脂、軟化点:115℃)
α-メチルスチレン樹脂:Arizona chemical社製のSYLVARES SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
水添テルペン樹脂:ヤスハラケミカル(株)製のクリアロンP125(水素添加されたテルペン樹脂、水添率:100モル%、軟化点:125℃)
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエースワックス
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C
ステアリン酸:日油(株)製の桐
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi-69
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S(アロマ系プロセスオイル)
5%オイル硫黄:細井化学工業(株)製のHK200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
一次促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(加硫促進剤、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
二次促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(加硫促進剤、ジフェニルグアニジン)
【0113】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で10分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0114】
また、得られた未加硫ゴム組成物をキャップトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃の条件下で10分間プレス加硫して試験用タイヤ(冬用重荷重用タイヤ、サイズ:11R22.5)を得た。
【0115】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤについて下記により評価した。結果を表1に示す。
【0116】
<tanδの温度分布曲線>
各試験用タイヤから切り出したトレッドゴム(加硫後)について、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%及び昇温速度2℃/minの条件下で、-120℃から70℃までの温度範囲で、tanδの温度分布曲線を測定した。そして、得られたtanδの温度分布曲線を基に、-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ、半値幅、ピーク位置のtanδ/半値幅を測定した。なお、
図1に、代表例として、あるゴム組成物のtanδの温度分布曲線を示し、該ゴム組成物のピーク位置のtanδ、半値幅を記載した。
【0117】
<表面粗さ>
各試験用タイヤから切り出したトレッドゴム(トレッドから切り出したゴム片、加硫後)について、ランボーン摩耗試験機を用いて、摩耗処理を行った。
まず、トレッドから切り出したゴム片を、両面粘着テープを使用して、173mmの直径及び22mmの幅を有する大型のLambournタイプ車輪(鉄製)に接着させた。次に、研磨性紙ヤスリ表面(3M(登録商標)248D Three-M-Ite樹脂ボンドPSAロール)を、49mmの直径、及び8.5mmの幅を有する小さい方の車輪(鉄製)に接着させた。ランボーン摩耗試験機による摩耗処理は、温度20℃、垂直荷重3kg、スリップ率40%、滑り角度10%および時間8分間の条件下で、車輪を回転(砥石ドラム径:175mm、サンプル径:49mm、サンプル速度:50m/min、スリップ率:40%)させることにより行った。
そして、該処理を行った後のゴムの摩耗面の表面粗さは、キーエンス社製のレーザー顕微鏡VK9500を用いて観察した。一方向にステージを移動し、更にその画像を連結することで、幅1.28mm、長さ10.1mmの領域について高さ情報を得た。対物レンズは10倍を用いた。それぞれのデータ点数は432点と3865点であった。そして、JIS B0601:2001の附属書1(参考)に準拠し、十点平均粗さを測定した。
【0118】
<氷上性能>
試験用タイヤを用いて、下記の条件で氷上での実車性能を評価した。試験場所は、住友ゴム工業株式会社の北海道名寄テストコースで行い、気温は0~-5℃であった。試験用タイヤを国産トラックに装着し、時速30km/hでロックブレーキを踏み停止させるまでに要した氷上の停止距離を測定した。比較例4をリファレンスとして、下記式から算出した。指数が大きいほど、氷上性能に優れることを示す。指数が85以上の場合に良好であると判断した。
(氷上性能)=(比較例4の制動停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0119】
<摩耗性能>
加硫ゴム組成物について、(株)岩本製作所製のランボーン摩耗試験機を用い、表面回転速度50m/分、付加荷重3.0kg、落砂量15g/分でスリップ率20%の条件下にて、摩耗量を測定し、該摩耗量の逆数を算出した。比較例4の摩耗量の逆数を100とし、他の配合の摩耗量の逆数を指数で表した。指数が大きいほど、摩耗性能に優れることを示す。指数が100以上の場合に良好であると判断した。
【0120】
【0121】
表1から、イソプレン系ゴムと、ブタジエンゴムと、樹脂とを含み、tanδの温度分布曲線における-20℃~-70℃の範囲内のピーク位置のtanδ及びそのピークの半値幅が前記式(1)を満たし、前記表面粗さが5.5以上であるトレッドを有する実施例のタイヤは、氷上性能、摩耗性能の総合性能(氷上性能、摩耗性能の2つの指数の総和で表す)が改善されることが分かった。