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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/22 20060101AFI20231129BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20231129BHJP
   H02K 1/16 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H02K21/22 M
H02K21/14 M
H02K1/16 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019192980
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021069191
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 勇生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122242(JP,A)
【文献】特開2002-233122(JP,A)
【文献】特開2013-251977(JP,A)
【文献】特開2011-050246(JP,A)
【文献】特開2014-108026(JP,A)
【文献】特開平11-146586(JP,A)
【文献】特開2007-016780(JP,A)
【文献】特開2018-046703(JP,A)
【文献】国際公開第2003/052901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/22
H02K 21/14
H02K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する磁石(21,83)を有する回転子(20,80)と、
円筒状の固定子コア(31,91)と、該固定子コアから前記回転子に向かって径方向に突出し、周方向に所定間隔で設けられたティース(32,92)と、周方向に隣り合う前記ティース間に配置された固定子巻線(33)と、を有する固定子(30,90)と、を備える回転電機(10,70)において、
周方向に隣り合う一対の前記磁極で挟まれた領域のうち、前記各ティースの前記回転子側の周面と、前記固定子において前記回転子とは反対側の周面とで挟まれた領域を磁極対応領域とし、
前記磁極対応領域の周方向長さ寸法をWsとし、
前記磁極対応領域のうち、前記磁石の磁束が到達しないと想定される領域である無効磁束領域の周方向長さ寸法をWivとし、
前記磁石の1磁極における磁束量をφとし、
前記磁極対応領域に含まれる前記各ティースのうち、前記固定子巻線に通電された場合に1磁極として機能するティースの合計幅寸法をWaとする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×ティースの磁束密度」とされており、
前記回転子(20)は、表面磁石型の回転子であり、
前記磁石(21)は、q軸上に設定される配向中心(CP)を中心として磁化容易軸が円弧状に配向されており、
前記ティース(32)のうち前記回転子に対向する周面と前記配向中心とのq軸上における径方向の距離寸法をrとする場合、「Wiv=2×r」である回転電機。
【請求項2】
前記ティースの飽和磁束密度をBsとする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×Bs」とされている請求項に記載の回転電機。
【請求項3】
磁化力5000A/mにおける前記ティースの磁束密度をB50とする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×B50」とされている請求項に記載の回転電機。
【請求項4】
前記ティースの幅寸法(Wteeth)が前記固定子巻線の1相あたりの周方向の幅寸法よりも大きい請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記固定子コアの厚さ寸法をtsとし、前記磁石の厚さ寸法をtmとし、前記磁石の残留磁束密度をBrとする場合、「ts×固定子コアの磁束密度≧tm×Br」とされている請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記固定子巻線は、カーボンナノチューブ繊維で構成されている請求項1~のいずれか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に見られるように、回転電機は、回転子と、固定子とを備えている。回転子は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する磁石を有している。固定子は、円筒状の固定子コアと、固定子コアから回転子に向かって径方向に突出し、周方向に所定間隔で設けられたティースと、周方向に隣り合うティース間に配置された固定子巻線とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-63281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば大トルクの回転電機を実現すべく磁束量が大きい磁石が用いられると、固定子において磁気飽和が発生し得る。この場合、回転電機のトルクを向上させることができなくなり得る。このため、回転電機のトルクを向上させることについては、未だ改善の余地があると考えられる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、トルクを向上させることができる回転電機を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【0007】
手段1は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する磁石を有する回転子と、
円筒状の固定子コアと、該固定子コアから前記回転子に向かって径方向に突出し、周方向に所定間隔で設けられたティースと、周方向に隣り合う前記ティース間に配置された固定子巻線と、を有する固定子と、
を備える回転電機において、
周方向に隣り合う一対の前記磁極で挟まれた領域のうち、前記各ティースの前記回転子側の周面と、前記固定子において前記回転子とは反対側の周面とで挟まれた領域を磁極対応領域とし、
前記磁極対応領域の周方向長さ寸法をWsとし、
前記磁極対応領域のうち、前記磁石の磁束が到達しないと想定される領域である無効磁束領域の周方向長さ寸法をWivとし、
前記磁石の1磁極における磁束量をφとし、
前記磁極対応領域に含まれる前記各ティースのうち、前記固定子巻線に通電された場合に1磁極として機能するティースの合計幅寸法をWaとする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×ティースの磁束密度」とされている。
【0008】
手段1では、周方向に隣り合う一対の磁極で挟まれた領域のうち、各ティースの回転子側の周面と、固定子において回転子とは反対側の周面とで挟まれた領域が磁極対応領域とされている。ここで、磁極対応領域に含まれる各ティースのうち、磁気飽和の発生に関わるティースは、固定子巻線に通電された場合に1磁極として機能するティースである。また、磁極対応領域には、磁石磁束が到達しない部分がある。
【0009】
これらの点に鑑み、手段1では、磁極対応領域のうち、磁石の磁束が到達しないと想定される部分が無効磁束領域とされている。そして、磁極対応領域に含まれる各ティースのうち、固定子巻線に通電された場合に1磁極として機能するティースの合計幅寸法をWaとし、無効磁束領域の周方向長さ寸法をWivとし、磁極対応領域の周方向長さ寸法をWsとする場合、「Ws-Wiv≧Wa」とされている。これにより、磁極対応領域のうち無効磁束領域を除いた有効磁束領域に1磁極として機能するティースが含まれるようにする。
【0010】
また、手段1では、「φ≦Wa×ティースの磁束密度」とされている。つまり、有効磁束領域に含まれかつ1磁極として機能するティースに、磁石磁束によって磁気飽和が発生しないような設計とされている。
【0011】
以上説明した手段1によれば、固定子のティースにおいて磁気飽和が発生することを抑制でき、ひいては回転電機のトルクを向上させることができる。
【0012】
回転子が表面磁石型のものである場合、手段1は手段2のように具体化される。手段2では、前記磁石は、q軸上に設定される配向中心を中心として磁化容易軸が円弧状に配向されており、
前記ティースのうち前記回転子に対向する周面と前記配向中心とのq軸上における径方向の距離寸法をrとする場合、「Wiv=2×r」である。
【0013】
回転子が、回転子コアに磁石が埋め込まれた埋込磁石型のものである場合、手段1は手段3のように具体化される。手段3では、前記各磁極を形成する前記磁石は、d軸に対して線対称となる状態で配置されており、
前記磁石の前記固定子側の磁束作用面のうち前記回転子コアに当接する面においてd軸から最も離れた位置と、前記回転子の軸心とを通る仮想線が、前記磁極対応領域のうち径方向において前記回転子側の端と交わる位置を基準点とし、
前記基準点とq軸との周方向長さ寸法をLrとする場合、「Wiv=2×Lr」である。
【0014】
「φ≦Wa×ティースの磁束密度」における磁束密度は、手段4又は手段5のように具体化される。手段4では、前記ティースの飽和磁束密度をBsとする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×Bs」とされている。また、手段5では、磁化力5000A/mにおける前記ティースの磁束密度をB50とする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×B50」とされている。
【0015】
手段6では、手段1~5のいずれか1つにおいて、前記ティースの幅寸法が前記固定子巻線の1相あたりの周方向の幅寸法よりも大きい。
【0016】
手段6によれば、磁石磁束が通る磁気回路のうち、ティースにおける磁路の断面積を大きくできる。このため、ティースにおける磁気飽和の発生を的確に抑制できる。
【0017】
手段7では、手段1~6のいずれか1つにおいて、前記固定子コアの厚さ寸法をtsとし、前記磁石の厚さ寸法をtmとし、前記磁石の残留磁束密度をBrとする場合、「ts×ティースの磁束密度≧tm×Br」とされている。
【0018】
手段7によれば、固定子コアにおける磁気飽和の発生を抑制できる。
【0019】
手段8は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する磁石を有する回転子と、
円筒状の固定子コアと、該固定子コアの前記回転子側に設けられた固定子巻線と、を有する固定子と、
を備える回転電機において、
前記固定子コアから前記回転子に向かって径方向に突出するティースが設けられておらず、
前記固定子コアの厚さ寸法をtsとし、前記磁石の厚さ寸法をtmとし、前記磁石の残留磁束密度をBrとする場合、「ts×ティースの磁束密度≧tm×Br」とされている。
【0020】
手段8によれば、固定子コアにおいて磁気飽和が発生することを抑制でき、ひいては回転電機のトルクを向上させることができる。
【0021】
手段9では、手段8において、前記固定子コアの厚さ寸法が、前記固定子巻線の1相あたりの厚さ寸法よりも大きい。
【0022】
手段9によれば、磁石磁束が通る磁気回路のうち、固定子コアにおける磁路の断面積を大きくでき、固定子コアにおける磁気飽和の発生を的確に抑制できる。また、回転子と固定子との間のエアギャップを小さくできる。以上説明した手段9によれば、回転電機のトルクをより向上させることができる。
【0023】
「ts×ティースの磁束密度≧tm×Br」における磁束密度は、手段10又は手段11のように具体化される。手段10では、前記固定子コアの飽和磁束密度をBsとする場合、「ts×Bs≧tm×Br」とされている。また、手段11では、磁化力5000A/mにおける前記固定子コアの磁束密度をB50とする場合、「ts×B50≧tm×Br」とされている。
【0024】
手段12では、手段1~11のいずれか1つにおいて、前記固定子巻線は、カーボンナノチューブ繊維で構成されている。
【0025】
手段12によれば、固定子巻線に大電流を流すことができ、回転電機のトルクをより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係るアウタロータ式SPMの縦断面図。
図2】回転子及び固定子の横断面図。
図3】固定子巻線を構成する各相導線の電気的な接続関係を示す図。
図4】固定子巻線とインバータとの電気的な接続関係を示す図。
図5】第2実施形態に係る回転子及び固定子の横断面図。
図6】第3実施形態に係る回転子及び固定子の横断面図。
図7】第4実施形態に係るインナロータ式IPMの縦断面図。
図8】回転子及び固定子の横断面図。
図9】回転子のうち磁石部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では電動機としての回転電機を具体化しており、その回転電機は、例えば車両動力源として用いられる。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0028】
(第1実施形態)
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る回転電機10は、アウタロータ式(外転式)の表面磁石型回転電機(SPMモータ)である。図1は、回転電機10の回転軸11に沿う方向での縦断面図であり、図2は、回転軸11に直交する方向での回転子20及び固定子30の横断面図である。以下の記載では、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
【0029】
なお、図2等では、図示の都合上、切断面を示すハッチングを省略している部材もある。また、図2では、便宜上、回転子20と固定子30との間のエアギャップを大きめに示している。
【0030】
回転電機10は、回転軸11に固定された回転子20と、回転子20の径方向内側に対向配置された固定子30と、ハウジング40と、軸受41とを備えている。回転子20及び固定子30は同軸に配置されている。回転子20の内周面と固定子30の外周面との間には所定のエアギャップが形成されている。ハウジング40には軸受41が設けられ、軸受41により回転軸11が回転自在に支持されている。
【0031】
図2に示すように、回転子20は、円筒状の磁石21を備えている。磁石21は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を有している。本実施形態に係る磁石21は、残留磁束密度Br=1.0[T]、固有保磁力Hcj=400[kA/m]以上の永久磁石である。磁石21は、例えば、粒状の磁性材料を焼結して成型固化した焼結磁石であり、例えばネオジム磁石等の希土類磁石である。
【0032】
磁石21は、極異方性磁石である。磁石21は、d軸側では磁化容易軸の向きがd軸に平行な方向に近い向きとなり、q軸側では磁化容易軸の向きがq軸に直交する方向に近い向きとなっている。そして、この磁化容易軸の向きに応じて円弧状の磁石磁路が形成されている。具体的には、磁石21は、q軸上に設定される配向中心CPを中心として磁化容易軸が円弧状に配向されている。本実施形態では、磁石21の内周面とq軸との交点が配向中心CPとされている。
【0033】
固定子30は、円筒状の固定子コア31と、固定子コア31から径方向外側に向かって径方向に突出し、周方向に等間隔で設けられたティース32と、周方向に隣り合うティース32間に配置された固定子巻線33とを備えている。
【0034】
固定子コア31及びティース32は、軟磁性材料で構成され、具体的には複数の電磁鋼板が積層されて構成されている。電磁鋼板は、例えば鉄に数%程度(例えば3%)の珪素を添加した珪素鋼板である。周方向に隣り合うティース32の間には、スロットが形成されている。スロットには、固定子巻線33が配置されている。本実施形態において、固定子巻線33は、3相のものである。固定子巻線33は、U相導線34U、V相導線34V及びW相導線34Wを備えている。各相導線34U,34V,34Wのコイルサイド35は、回転子20の軸心Oを中心とする同一の円上に配置されている。
【0035】
図3に、周方向に並べて配置された各相導線34U,34V,34Wを示す。図3は、周方向を直線状に展開して示した各相導線34U,34V,34Wの配置図である。
【0036】
本実施形態において、固定子巻線33は、各相m(mは2以上の整数)対ずつの導線を用いて相ごとの巻線を構成している。各相導線34U,34V,34Wのコイルサイド35の総数は、一相あたりの対数mを用いて、極対ごとに2×3×m個となる。m=2の場合において、例えば、8極対(16極)とするとき、各相導線34U,34V,34Wのコイルサイド35の総数は、2×3×2×8=96個となり、96個のコイルサイド35が周方向に並んで配置される。
【0037】
各導線は、固定子巻線33の周方向に所定の配置パターンで配置されるように、例えば折り曲げ形成されている。図3に示すように、固定子巻線33では、各相導線34U,34V,34Wのうち軸方向に直線状に延びる直線部によりコイルサイド35が形成され、軸方向においてコイルサイドよりも両外側に突出するターン部によりコイルエンド36,37が形成されている。各相導線は、直線部とターン部とが交互に繰り返されることにより、波巻きの一連の導線として構成されている。直線部は、磁石21に対して径方向に対向する位置に配置されており、磁石21の軸方向外側となる位置において所定間隔を隔てて配置される同相の直線部同士が、ターン部により互いに接続されている。
【0038】
本実施形態では、固定子巻線33が分布巻きにより円環状に巻回形成されている。この場合、コイルサイド35では、相ごとに、磁石21の1極対に対応する間隔で周方向に一対の直線部が配置され、コイルエンド36,37では、相ごとの各直線部がターン部により互いに接続されている。1極対に対応して対となる各直線部は、それぞれ電流の向きが互いに逆になるものとなっている。また、一方のコイルエンド36と他方のコイルエンド37とでは、ターン部により接続される一対の直線部の組み合わせがそれぞれ相違しており、そのコイルエンド36,37での接続が周方向に繰り返されることにより、固定子巻線33が略円筒状に形成されている。
【0039】
図4に示すように、各相導線34U,34V,34Wには、回転電機10が備えるインバータ50が電気的に接続されている。インバータ50には、直流電源54と平滑用のコンデンサ55とが並列に接続されている。直流電源54は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。インバータ50は、上アームスイッチ51及び下アームスイッチ52の直列接続体を3相分備えている。各相において、上アームスイッチ51の高電位側端子は直流電源54の正極端子に接続され、下アームスイッチ52の低電位側端子は直流電源54の負極端子(グランド)に接続されている。各相において、上アームスイッチ51と下アームスイッチ52との間の中間接続点には、導線が電気的に接続されている。各相導線34U,34V,34Wは星形結線されている。
【0040】
制御装置60から出力される駆動信号がドライブ回路53に送信される。ドライブ回路53は、受信した駆動信号に基づいて、各スイッチ51,52をオンオフする。これにより、各相導線34U,34V,34Wには、電気角で位相が120度ずれた電流が流れる。
【0041】
先の図2の説明に戻り、1つのティース32の周方向の幅寸法Wteethは、各相導線34U,34V,34Wの1つ分の周方向の幅寸法よりも大きくされている。特に本実施形態では、1つのティース32の周方向の幅寸法Wteethは、各相導線34U,34V,34Wの2つ分(一対分)の周方向の幅寸法よりも大きくされている。これにより、磁石21の磁束が通る磁気回路のうち、ティース32における磁路の断面積を大きくできる。その結果、ティース32における磁気飽和の発生を的確に抑制する。
【0042】
本実施形態において、各相導線34U,34V,34Wは、カーボンナノチューブ繊維で構成されている。このため、各相導線34U,34V,34Wが例えば銅線で構成されている場合と比較して、各相導線34U,34V,34Wに大電流を流すことができる。これにより、回転電機10のトルクを向上させることができる。
【0043】
本実施形態において、周方向に隣り合う一対のq軸(又はd軸)で挟まれた領域のうち、各ティース32の外周面に接する外接円としての仮想円と、固定子コア31の内周面とで挟まれた領域が磁極対応領域とされている。この磁極対応領域のうち、径方向外側の端の周方向長さ寸法をWsとする。具体的には、Wsは、この仮想円のうち、周方向に隣り合う一対のq軸で挟まれた円弧の長さ寸法である。本実施形態では、磁極対応領域に6つ分に相当するティース32が存在する。上記仮想円の外心は、軸心Oと一致する。
【0044】
固定子30の外周面と配向中心CPとのq軸上における径方向の距離寸法をaとする。磁極対応領域のうち、各q軸から周方向においてaだけ離れた位置までの領域が無効磁束領域とされている。無効磁束領域は、磁石21の磁束が到達しないと想定される領域である。無効磁束領域のうち、径方向外側の端の周方向長さ寸法をWivとする場合、「Wiv=2×a」である。具体的には、Wivは、上記仮想円のうち、無効磁束領域に含まれる円弧の長さ寸法である。
【0045】
磁極対応領域のうち無効磁束領域を除いた領域が有効磁束領域とされている。有効磁束領域のうち、径方向外側の端の周方向長さ寸法をWefとする場合、「Wef=Ws-Wiv=Ws-2a」である。
【0046】
磁石21の1磁極における磁束量をφとする。1磁極における磁石21の内周面の周方向長さ寸法をWmとし、磁石21の残留磁束密度をBrとする場合、1磁極における磁石21の磁束量φは「φ=Wm×Br」で表される。本実施形態では、「Wm>Ws」である。
【0047】
各相において位相が120度ずれた相電流が流れると、磁極対応領域の2相分の部分が1磁極として機能する。図2には、この部分の周方向長さ寸法をWn(<Ws)で示す。磁極対応領域に含まれるティース32のうち、Wnにて規定される領域に含まれる2相分のティース32が励磁される。Wnにて規定される領域に含まれる2相分のティース32(4つ分に相当するティース32)の合計幅寸法をWaとする場合、「Wa=Wteeth/2+Wteeth+Wteeth+Wteeth+Wteeth/2=4×Wteeth」となる。
【0048】
本実施形態において、固定子コア31及びティース32の飽和磁束密度をBsとする場合、「Ws-2×a≧Wa」及び「φ≦Wa×Bs」となるように各ティース32の幅寸法が設定されている。「Ws-2×a≧Wa」とされることにより、有効磁束領域に1磁極として機能するティース32が含まれるようにする。また、「φ≦Wa×Bs」とされることにより、有効磁束領域に含まれかつ1磁極として機能するティース32に、磁石21の磁束によって磁気飽和が発生しないようにすることができる。これにより、ティース32において磁気飽和が発生することを抑制でき、ひいては回転電機10のトルクを向上させることができる。なお、「φ=Wa×Bs」とされる場合、回転電機10のトルクを向上させつつ、回転子20及び固定子30の体格を小さくすることができる。
【0049】
本実施形態において、固定子コア31の径方向の厚さ寸法をtsとし、磁石21の径方向の厚さ寸法をtmとする場合、「ts×Bs≧tm×Br」とされている。これにより、固定子コア31における磁気飽和の発生を的確に抑制することができ、ひいては回転電機10のトルク向上効果を高めることができる。
【0050】
(第1実施形態の変形例)
・磁化力5000A/mにおける固定子コア31及びティース32の磁束密度をB50とする場合、「Ws-Wiv≧Wa」及び「φ≦Wa×B50」とされていてもよい。なお、「B50」は、一般的に「Bs」より0.1[T]ほど小さい値である。
【0051】
・「ts×B50≧tm×Br」とされていてもよい。
【0052】
(第2実施形態)
本実施形態では、図5に示すように、磁石21の配向中心CPが、q軸上において磁石21の内周面と固定子30の外周面との間に位置している。図5において、先の図2に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0053】
本実施形態において、固定子30の外周面と配向中心CPとのq軸上における径方向の距離寸法をbとすると、「Wiv=2×b」である。また、本実施形態では、「Ws-2×b≧Wa」及び「φ≦Wa×Bs」となるように各ティース32の幅寸法が設定されている。
【0054】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0055】
(第3実施形態)
本実施形態では、図6に示すように、固定子30にティースが設けられていない。図6において、先の図2に示した構成と同一の構成又は対応する構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0056】
本実施形態では、「ts×Bs≧tm×Br」となるように固定子コア31の径方向の厚さ寸法tsが設定されている。これにより、固定子コア31において磁気飽和が発生することを抑制でき、ひいては回転電機のトルクを向上させることができる。なお、「ts×Bs=tm×Br」とされる場合、回転電機のトルクを向上させつつ、回転子20及び固定子30の体格を小さくすることができる。
【0057】
また、本実施形態では、各相導線34U,34V,34Wの断面形状が扁平矩形状とされている。そして、固定子コア31の径方向の厚さ寸法tsが、各相導線34U,34V,34Wの径方向の厚さ寸法よりも大きくされている。これにより、磁石21の磁束が通る磁気回路のうち、固定子コア31における磁路の断面積を大きくでき、固定子コア31における磁気飽和の発生を的確に抑制できる。また、エアギャップを小さくできる。その結果、回転電機のトルクをより向上させることができる。
【0058】
なお、「ts×Bs≧tm×Br」に代えて、「ts×B50≧tm×Br」とされていてもよい。
【0059】
(第4実施形態)
図7及び図8に示すように、本実施形態に係る回転電機70は、インナロータ式(内転式)の埋込磁石型回転電機(IPMモータ)である。図7は、回転電機70の回転軸71に沿う方向での縦断面図であり、図8は、回転軸71に直交する方向での回転子80及び固定子90の横断面図である。なお、図8等では、図示の都合上、切断面を示すハッチングを省略している部材もある。
【0060】
回転電機70は、回転軸71に固定された回転子80と、回転子80の径方向外側に対向配置された固定子90と、ハウジング100と、軸受101とを備えている。回転子80及び固定子90は同軸に配置されている。回転子80の外周面と固定子90の内周面との間には所定のエアギャップが形成されている。ハウジング100には軸受101が設けられ、軸受101により回転軸71が回転自在に支持されている。
【0061】
図8に示すように、回転子80は、回転軸71に内周面が固定される中空円筒状の回転子コア81を有している。回転子コア81は、軟磁性材料で構成され、具体的には複数の電磁鋼板が積層されることで略円筒状に形成されている。回転子コア81には、周方向に配列された複数の磁石収容孔82が形成されており、各磁石収容孔82には、それぞれ磁石83が埋設されている。磁石83は、第1実施形態と同様に、残留磁束密度Br=1.0[T]、固有保磁力Hcj=400[kA/m]以上の永久磁石である。磁石83は、例えば、粒状の磁性材料を焼結して成型固化した焼結磁石であり、例えばネオジム磁石等の希土類磁石である。
【0062】
回転子コア81において固定子90の内周面と対向する外周面の付近には、軸方向に貫通する複数の磁石収容孔82が周方向に所定距離を隔てて設けられている。各磁石収容孔82は、2個で一対をなし、その一対の磁石収容孔82により、径方向外側に向かうにつれて磁石収容孔82同士の対向間距離が大きくなる略V字状に形成されている。また、各磁石収容孔82と固定子90との離間距離で言えば、各磁石収容孔82は、d軸に向かうにつれて固定子90との離間距離が大きくなるように設けられている。一対の磁石収容孔82は、d軸を対称の軸とする対称形となっている。回転子コア81には、例えば、合計8対の磁石収容孔82が周方向に等間隔に設けられている。
【0063】
本実施形態では、一対の磁石収容孔82には、それぞれ複数の磁石83が組み合わされた磁石アセンブリにより1つの磁極が形成されている。この場合、各磁石アセンブリによって、周方向に極性が交互に異なる複数の磁極が形成されている。1つの磁極を形成する一対の磁石83は、d軸に対して線対称となる状態で配置されている。磁石83は、パラレル配向がなされたものである。
【0064】
固定子90は、円筒状の固定子コア91と、固定子コア91から径方向内側に向かって径方向に突出し、周方向に所定間隔で設けられたティース92と、周方向に隣り合うティース92間に配置された固定子巻線33とを備えている。固定子コア91及びティース92は、複数の電磁鋼板が積層されて構成されている。なお、本実施形態の固定子巻線33は、第1実施形態と同様に波巻にて構成され、また、カーボンナノチューブ繊維で構成されている。ただし、対数mは1である。なお、固定子巻線33についての詳細な説明を省略する。
【0065】
本実施形態において、周方向に隣り合う一対のq軸(又はd軸)で挟まれた領域のうち、各ティース92の内周面に接する内接円としての仮想円と、固定子コア91の外周面とで挟まれた領域が磁極対応領域とされている。この磁極対応領域のうち、径方向内側の端の周方向長さ寸法をWsとする。具体的には、Wsは、この仮想円のうち、周方向に隣り合う一対のq軸で挟まれた円弧の長さ寸法である。本実施形態では、磁極対応領域に3つ分に相当するティース92が存在する。上記仮想円の内心は、軸心Oと一致する。
【0066】
本実施形態において、磁石83の固定子90側の磁束作用面83aのうち回転子コア81に当接する面においてd軸から最も離れた位置P1と、回転子80の軸心Oとを通る直線を仮想線K(一点鎖線にて表記)とする。仮想線Kが、磁極対応領域の上記仮想円と交わる位置を基準点P2とする。また、上記仮想円のうち、基準点P2からq軸までの長さ寸法をLrとする。磁極対応領域のうち、各q軸から周方向においてLrだけ離れた位置までの領域が無効磁束領域とされている。無効磁束領域のうち、径方向内側の端の周方向長さ寸法をWivとする場合、「Wiv=2×Lr」である。具体的には、Wivは、上記仮想円のうち、無効磁束領域に含まれる円弧の長さ寸法である。なお、この場合の有効磁束領域の周方向長さ寸法Wefは、「Wef=Ws-Wiv=Ws-2Lr」である。
【0067】
図9に示すように、磁石83の磁束作用面83aのうち、回転子コア81に当接する面の長さ寸法をLAとする。この場合、1磁極における磁石83の周方向幅寸法Wmは「Wm=2×LA」となり、1磁極における磁石83の磁束量φは「φ=2×LA×Br」で表される。
【0068】
各相において位相が120度ずれた相電流が流れると、磁極対応領域の2相分の部分が1磁極として機能する。詳しくは、磁極対応領域に含まれる3つのティース92のうち、2つのティース92が励磁される。この場合、励磁される2相分のティース92の合計幅寸法をWaは、「Wa=2×Wteeth」となる。
【0069】
本実施形態において、固定子コア91及びティース92の飽和磁束密度をBsとする場合、「Ws-2×Lr≧Wa」及び「φ≦Wa×Bs」となるように各ティース92の幅寸法が設定されている。また、固定子コア91の径方向の厚さ寸法をtsとし、磁石83の厚さ寸法をtmとする場合、「ts×Bs≧tm×Br」とされている。これにより、ティース92及び固定子コア91における磁気飽和の発生を的確に抑制することができ、ひいては回転電機70のトルク向上効果を高めることができる。
【0070】
(第4実施形態の変形例)
・「Ws-2×LA≧Wa」及び「φ≦Wa×B50」とされていてもよい。
【0071】
・「ts×B50≧tm×Br」とされていてもよい。
【0072】
・インナロータ式の回転電機に代えて、アウタロータ式の回転電機が用いられてもよい。
【0073】
(その他の実施形態)
・第1~第3実施形態において、アウタロータ式の回転電機に代えて、インナロータ式の回転電機が用いられてもよい。
【0074】
・固定子巻線としては、カーボンナノチューブ繊維で構成されたものに限らず、例えば銅線で構成されたものであってもよい。また、固定子巻線としては、分布巻で構成されたものに限らず、集中巻で構成されたものであってもよい。
【0075】
・この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【符号の説明】
【0076】
10…回転電機、20…回転子、21…磁石、30…固定子、31…固定子コア、32ティース、33…固定子巻線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9