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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】エンジンのシリンダブロック構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/00 20060101AFI20231129BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20231129BHJP
   F01M 13/00 20060101ALI20231129BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20231129BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F02F1/00 S
F02F7/00 301F
F01M13/00 Z
F02F1/10 D
F01P3/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019214217
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021085356
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 翔
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-138177(JP,A)
【文献】特開平10-274096(JP,A)
【文献】特開平05-202728(JP,A)
【文献】実開昭62-061958(JP,U)
【文献】特開2004-270535(JP,A)
【文献】特開2004-044695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00- 1/42
F02F 7/00
F01M 13/00
F01P 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の気筒列方向に沿って並んで配置される複数の気筒およびクランク軸を有するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの上部に連結されるシリンダヘッドと、を有し、
前記シリンダブロックが、
前記気筒列方向に延びる側壁と、
前記側壁の上部に所定間隔で形成され、前記シリンダヘッドを連結するためのヘッドボルトが締結される複数のヘッドボルト締結孔と、
前記シリンダブロックの下部に前記気筒列方向に沿って並んで形成され、前記クランク軸のジャーナル部を支持する複数のクランク軸支持壁と、
前記クランク軸支持壁に形成され、ベアリングキャップを固定するためのベアリングキャップボルトが締結される複数のベアリングキャップボルト締結孔と、を有するエンジンのシリンダブロック構造であって、
前記側壁に、前記気筒列方向で中央部に位置する前記ヘッドボルト締結孔の下端と、前記ベアリングキャップボルト締結孔の上端との間を連絡するリブが設けられ、
前記気筒列方向の一方の端部に位置する前記クランク軸支持壁の上方の外壁面における、前記ヘッドボルト締結孔の下端と前記ベアリングキャップボルト締結孔の上端との間の部位に、前記気筒列方向の他方側に窪む窪み部が設けられ
前記窪み部は、前記窪み部の前記気筒列方向の他方側の端部が、前記ヘッドボルト締結孔の前記気筒列方向の他方側の端部と前記ベアリングキャップボルト締結孔の前記気筒列方向の他方側の端部とを結ぶ直線の位置よりも前記気筒列方向の他方側に位置するように形成されていることを特徴とするエンジンのシリンダブロック構造。
【請求項2】
前記側壁に、ブローバイガスが通過するブローバイガス室が形成され、
前記リブは、前記ブローバイガス室に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのシリンダブロック構造。
【請求項3】
前記側壁に、冷却水が通過する冷却水室が形成され、
前記リブは、前記冷却水室に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのシリンダブロック構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダブロック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダブロックのヘッドボルトとベアリングキャップを繋ぐ構造が気筒列方向の端部と中央部とで同一構造である場合、クランク軸の端部のジャーナル部の方が中央部のジャーナル部よりも強くヘッドボルトにより引っ張り上げられる。このため、ジャーナル部の同軸度が低下し、クランク軸のフリクションが増加してしまう。
【0003】
従来のエンジンのシリンダブロック構造として特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、複数のシリンダボアを有し、クランクジャーナル受け部の両側がスカート部により覆われた内燃機関において、少なくとも一方の側のスカート部の肉厚をシリンダボアの並び方向に関して両端部よりも中央部で厚く設定することが記載されている。特許文献1に記載の発明によれば、クランクジャーナル受け部の同軸度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-106037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように、スカート部の肉厚を厚く設定することによってクランクジャーナル受け部の同軸度を向上させる手法にあっては、肉厚を厚く設定するスカート部の範囲を広くする必要がある。このため、肉厚の増大によってシリンダブロックの重量が大きく増加してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、シリンダブロックの重量を増加させることなくクランク軸のジャーナル部の同軸度を向上させることができ、クランク軸のフリクションを低減することができるエンジンのシリンダブロック構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の気筒列方向に沿って並んで配置される複数の気筒およびクランク軸を有するシリンダブロックと、前記シリンダブロックの上部に連結されるシリンダヘッドと、を有し、前記シリンダブロックが、前記気筒列方向に延びる側壁と、前記側壁の上部に所定間隔で形成され、前記シリンダヘッドを連結するためのヘッドボルトが締結される複数のヘッドボルト締結孔と、前記シリンダブロックの下部に前記気筒列方向に沿って並んで形成され、前記クランク軸のジャーナル部を支持する複数のクランク軸支持壁と、前記クランク軸支持壁に形成され、ベアリングキャップを固定するためのベアリングキャップボルトが締結される複数のベアリングキャップボルト締結孔と、を有するエンジンのシリンダブロック構造であって、前記側壁に、前記気筒列方向で中央部に位置する前記ヘッドボルト締結孔の下端と、前記ベアリングキャップボルト締結孔の上端との間を連絡するリブが設けられ、前記気筒列方向の一方の端部に位置する前記クランク軸支持壁の上方の外壁面における、前記ヘッドボルト締結孔の下端と前記ベアリングキャップボルト締結孔の上端との間の部位に、前記気筒列方向の他方側に窪む窪み部が設けられ、前記窪み部は、前記窪み部の前記気筒列方向の他方側の端部が、前記ヘッドボルト締結孔の前記気筒列方向の他方側の端部と前記ベアリングキャップボルト締結孔の前記気筒列方向の他方側の端部とを結ぶ直線の位置よりも前記気筒列方向の他方側に位置するように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように上記の本発明によれば、シリンダブロックの重量を増加させることなくクランク軸のジャーナル部の同軸度を向上させることができ、クランク軸のフリクションを低減することができるエンジンのシリンダブロック構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンの斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンの平面図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンのシリンダブロックの平面図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンのシリンダブロックの底面図である。
図5図5は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンのシリンダブロックの背面図である。
図6図6は、図2に示すエンジンのVI-VI方向の矢視断面図である。
図7図7は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンのシリンダブロックの正面図である。
図8図8は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を備えるエンジンのシリンダブロックの左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係るエンジンのシリンダブロック構造は、所定の気筒列方向に沿って並んで配置される複数の気筒およびクランク軸を有するシリンダブロックと、シリンダブロックの上部に連結されるシリンダヘッドと、を有し、シリンダブロックが、気筒列方向に延びる側壁と、側壁の上部に所定間隔で形成され、シリンダヘッドを連結するためのヘッドボルトが締結される複数のヘッドボルト締結孔と、シリンダブロックの下部に気筒列方向に沿って並んで形成され、クランク軸のジャーナル部を支持する複数のクランク軸支持壁と、クランク軸支持壁に形成され、ベアリングキャップを固定するためのベアリングキャップボルトが締結される複数のベアリングキャップボルト締結孔と、を有するエンジンのシリンダブロック構造であって、側壁に、気筒列方向で中央部に位置するヘッドボルト締結孔の下端と、ベアリングキャップボルト締結孔の上端との間を連絡するリブが設けられ、気筒列方向の一方の端部に位置するクランク軸支持壁の上方の外壁面における、ヘッドボルト締結孔の下端とベアリングキャップボルト締結孔の上端との間の部位に、気筒列方向の他方側に窪む窪み部が設けられていることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るエンジンのシリンダブロック構造は、シリンダブロックの重量を増加させることなくクランク軸のジャーナル部の同軸度を向上させることができ、クランク軸のフリクションを低減することができる。
【実施例
【0011】
以下、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造について、図面を用いて説明する。図1から図8は、本発明の一実施例に係るエンジンのシリンダブロック構造を示す図である。図1から図8において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態のエンジンの上下前後左右方向とし、前後方向に対して直交する方向が左右方向、エンジンの高さ方向が上下方向である。
【0012】
まず、構成を説明する。図1において、エンジン1はエンジン本体1Aを備えている。エンジン本体1Aは、シリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に連結されたシリンダヘッド2とを備えている。エンジン本体1Aは、シリンダヘッド2の上部に設けられた図示しないヘッドカバーと、シリンダブロック3の下部に連結された図示しないオイルパンとを備えている。
【0013】
図3において、シリンダブロック3には、図示しないピストンを上下動自在に収容する複数(3つ)の気筒7が形成されている。図3図4において、シリンダブロック3には、ピストンの上下運動を回転運動に変換するクランク軸11が収容されており、クランク軸11は左右方向に延びている。気筒7は、クランク軸11の延伸する左右方向(以下、気筒列方向ともいう)に並んで配置されている。
【0014】
図3において、シリンダブロック3は、気筒列方向に延びる側壁3A、3Bを有している。側壁3Aは、シリンダブロック3の後面、つまり後側の側面を構成している。側壁3Bは、シリンダブロック3の前面、つまり前側の側面を構成している。
【0015】
図3図6において、シリンダブロック3は、複数のヘッドボルト締結孔10Aを有している。ヘッドボルト締結孔10Aは、側壁3A、3Bの上部に所定間隔で形成されている。ヘッドボルト締結孔10Aには、シリンダヘッド2を連結するためのヘッドボルト10(図2参照)が締結される。
【0016】
図4図6において、シリンダブロック3は、複数(本実施例では4つ)のクランク軸支持壁12を有している。クランク軸支持壁12は、シリンダブロック3の下部に気筒列方向に沿って並んで形成されている。クランク軸支持壁12は、クランク軸11のジャーナル部11Aを支持している。
【0017】
図6において、シリンダブロック3は、複数(本実施例では8つ)のベアリングキャップボルト締結孔14Aを有している。本実施例では、シリンダブロック3内の気筒7の前側に4つのベアリングキャップボルト締結孔14Aが気筒列方向に並んで形成されている。また、シリンダブロック3内の気筒7の後側に4つのベアリングキャップボルト締結孔14Aが気筒列方向に並んで形成されている。ベアリングキャップボルト締結孔14Aは、クランク軸支持壁12に形成されている。ベアリングキャップボルト締結孔14Aには、ベアリングキャップ13を固定するためのベアリングキャップボルト14が締結される。
【0018】
図1図5において、側壁3Aには、ブローバイガスが通過するブローバイガス室19が形成されている。ブローバイガス室19は、側壁3Aの表面から突出する壁部19Aと、この壁部19Aに装着される図示しない蓋部材とによって囲まれた空間である。ブローバイガス室19には、図5に矢印で示すようにブローバイガスが通過する。ブローバイガス室19にはリブ15が設けられている。リブ15は上下方向に延びている。ブローバイガス室19内でブローバイガスがリブ15に衝突することにより、ブローバイガス中のオイル分が分離される。
【0019】
図6において、リブ15は、気筒列方向で中央部に位置するヘッドボルト締結孔10Aの下端と、ベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間を連絡している。
【0020】
図7において、側壁3Bには、冷却水が通過する冷却水室20が形成されている。冷却水室20は、側壁3Bの表面から突出する壁部20Aと、この壁部20Aに装着される図示しない蓋部材とによって囲まれた空間である。冷却水室20にはリブ16が設けられている。リブ16は上下方向に延びている。
【0021】
リブ16は、気筒列方向で中央部に位置するヘッドボルト締結孔10Aの下端と、ベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間を連絡している。
【0022】
図1図8において、シリンダブロック3は外壁面3Cを有している。外壁面3Cは、シリンダブロック3の左側の側壁を構成しており、気筒列方向の一方の端部(左端部)に位置するクランク軸支持壁12の上方に配置されている。ここで、外壁面3Cの表面は、左端部のクランク軸支持壁12の表面よりも気筒列方向の他方側(右方側)に偏倚している。
【0023】
外壁面3Cには窪み部17が形成されている。窪み部17は、外壁面3Cから気筒列方向の他方側(右方側)に窪んでいる。窪み部17は、外壁面3Cにおけるヘッドボルト締結孔10Aの下端とベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間の部位に配置されている。
【0024】
以上説明したように、本実施例では、側壁3Aに、気筒列方向で中央部に位置するヘッドボルト締結孔10Aの下端と、ベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間を連絡するリブ15が設けられている。また、側壁3Bに、気筒列方向で中央部に位置するヘッドボルト締結孔10Aの下端と、ベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間を連絡するリブ16が設けられている。
【0025】
また、気筒列方向の一方の端部に位置するクランク軸支持壁12の上方の外壁面3Cにおける、ヘッドボルト締結孔10Aの下端とベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間の部位に、気筒列方向の他方側に窪む窪み部17が設けられている。
【0026】
これにより、リブ15、16によって、ヘッドボルト10締結時に、気筒列方向中央部に位置するベアリングキャップボルト締結孔14Aをシリンダヘッド2側に引き上げる力が増加する。一方で、窪み部17によって、ヘッドボルト10締結時に、気筒列方向の端部に位置するベアリングキャップボルト締結孔14Aをシリンダヘッド2側に引き上げる力が減少する。
【0027】
このように、ベアリングキャップボルト締結孔14Aをシリンダヘッド2側に引き上げる力を、気筒列方向の中央部において増加させ、気筒列方向の端部において減少させることにより、クランク軸11の端部と中央部とで、ジャーナル部11Aをヘッドボルトにより引っ張り上げる力を均一化することができる。
【0028】
このため、クランク軸11のジャーナル部11Aの気筒列方向に沿う方向の同軸度を向上させることができる。
【0029】
さらに、リブと窪み部17をヘッドボルト締結孔10Aの下端とベアリングキャップボルト締結孔14Aの上端との間に配置することは、シリンダブロック3の重量を増加させることはないので、シリンダブロック3の重量を増加させることなく、クランク軸11のジャーナル部11Aの同軸度を向上させることができる。
【0030】
この結果、シリンダブロック3の重量を増加させることなくクランク軸11のジャーナル部11Aの同軸度を向上させることができ、クランク軸11のフリクションを低減することができる。
【0031】
また、本実施例では、側壁3Aに、ブローバイガスが通過するブローバイガス室19が形成され、リブ15は、ブローバイガス室19に設けられている。
【0032】
これにより、ブローバイガスをリブ15に衝突させて、ブローバイガスからオイルを分離させることができ、ブローバイガスの気液分離性能を向上させることができる。
【0033】
また、本実施例では、側壁3Aに、冷却水が通過する冷却水室20が形成され、リブ16は、冷却水室20に設けられている。
【0034】
これにより、リブ16によって冷却水の流れが気筒7から離れるように整流され、気筒7を冷やしすぎないようにすることができる。
【0035】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0036】
1...エンジン、2...シリンダヘッド、3...シリンダブロック、3A,3B...側壁、3C...外壁面、7...気筒、10...ヘッドボルト、10A...ヘッドボルト締結孔、11...クランク軸、11A...ジャーナル部、12...クランク軸支持壁、13...ベアリングキャップ、14...ベアリングキャップボルト、14A...ベアリングキャップボルト締結孔、15,16...リブ、17...窪み部、19...ブローバイガス室、20...冷却水室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8