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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019223515
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021092674
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】八木 昌隆
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-215224(JP,A)
【文献】特開2007-304406(JP,A)
【文献】特開2013-218357(JP,A)
【文献】特開2004-093913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に形成されたトナー像をニップ部へ運搬する定着ベルトと、
前記定着ベルトにより前記トナー像が前記ニップ部へ運搬される前に、トナー像のトナーを熱溶融させるための加熱手段と、
前記定着ベルトの外側で定着ベルトとの間に前記ニップ部を形成する加圧ローラと、
前記ニップ部を形成するように、前記定着ベルトを内側から支持する定着部材と、
を備え、
前記加熱手段により前記トナーを事前に熱溶融させた状態で、前記定着ベルトによりニップ部へ運搬されたトナー像を、前記ニップ部を通過する用紙に転写し定着させる定着装置であって、
前記加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、
前記第1の断熱層の熱伝導率は前記第1の金属軸より低く、
前記第1の断熱層は樹脂からなり、かつ、第1の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高いことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
表面に形成されたトナー像をニップ部へ運搬する定着ベルトと、
前記定着ベルトにより前記トナー像が前記ニップ部へ運搬される前に、トナー像のトナーを熱溶融させるための加熱手段と、
前記定着ベルトの外側で定着ベルトとの間に前記ニップ部を形成する加圧ローラと、
前記ニップ部を形成するように、前記定着ベルトを内側から支持する定着部材と、
を備え、
前記加熱手段により前記トナーを事前に熱溶融させた状態で、前記定着ベルトによりニップ部へ運搬されたトナー像を、前記ニップ部を通過する用紙に転写し定着させる定着装置であって、
前記加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、
前記第1の断熱層の熱伝導率は前記第1の金属軸より低く、かつ、
前記第1の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高く、
前記定着部材は定着ローラであり、
該定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、
前記第2の断熱層の熱伝導率は、前記第2の金属軸より低く、
前記第2の断熱層は樹脂からなり、かつ、第2の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高いことを特徴とする定着装置。
【請求項3】
表面に形成されたトナー像をニップ部へ運搬する定着ベルトと、
前記定着ベルトにより前記トナー像が前記ニップ部へ運搬される前に、トナー像のトナーを熱溶融させるための加熱手段と、
前記定着ベルトの外側で定着ベルトとの間に前記ニップ部を形成する加圧ローラと、
前記ニップ部を形成するように、前記定着ベルトを内側から支持する定着部材と、
を備え、
前記加熱手段により前記トナーを事前に熱溶融させた状態で、前記定着ベルトによりニップ部へ運搬されたトナー像を、前記ニップ部を通過する用紙に転写し定着させる定着装置であって、
前記加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、
前記第1の断熱層の熱伝導率は前記第1の金属軸より低く、かつ、
前記第1の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高く、
前記定着部材は定着ローラであり、
該定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、
前記第2の断熱層の熱伝導率は、前記第2の金属軸より低く、
前記第2の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高く、かつ、
前記定着ローラは、前記第2の断熱層とは別に、最外周面として、第2の断熱層よりも高摩擦な表層を有していることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
前記定着部材は定着ローラであり、
該定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、
前記第2の断熱層の熱伝導率は、前記第2の金属軸より低く、かつ、
前記第2の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高い請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着部材は定着パッド部材であり、
前記定着パッド部材の加熱ローラ側に局部的な凸部が形成されている請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記定着ベルトに内側から接して定着ベルトを駆動する駆動ローラを備えている請求項1乃至請求項のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記駆動ローラは前記定着部材を構成する定着ローラである請求項に記載の定着装置。
【請求項8】
前記第1の断熱層は樹脂からなる請求項2または請求項3に記載の定着装置。
【請求項9】
前記第2の断熱層は樹脂からなる請求項3に記載の定着装置。
【請求項10】
前記樹脂は、
[PPS(ポリフェニレンスルファイド)]、
[LCP(液晶ポリマー)]、
[PSU(ホリサルンホン)]、
[PES(ポリエーテルサルホン)]、
[PAR(非晶ポリアリレート)]のうちの少なくともいずれかを含む樹脂である請求項または請求項2または請求項8または請求項9に記載の定着装置。
【請求項11】
前記定着ローラは、前記第2の断熱層とは別に、最外周面として、第2の断熱層よりも高摩擦な表層を有している請求項2または請求項に記載の定着装置。
【請求項12】
前記加圧ローラは、前記第1の断熱層とは別に、最外周面にフッ素層を有している請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の定着装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれかに記載された定着装置と、
トナー画像を前記定着装置における定着ベルトの表面に形成する画像形成手段と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられる定着装置、特に、定着ベルトの表面に形成されたトナー像のトナーを事前に溶融させた状態で、用紙に転写し定着させる形式(以下、転写同時定着形式ともいう)の定着装置、及びこの定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような転写同時定着形式の定着装置は既に公知であるが(例えば特許文献1及び2)、その一例を図12を参照して説明する。
【0003】
図12の例では、定着ベルト101の表面にトナー像102が形成される。この例では、中間転写ベルト103に公知の方法で転写されたトナー像を、定着ベルト101の表面に転写することで、定着ベルト101の表面にトナー像102を形成する場合を示している。
【0004】
定着ベルト101は駆動ローラ104の駆動により、駆動ローラ104と定着ローラ105の間を矢印X方向に走行している。定着ベルト101を挟んで定着ローラ105の反対側には加圧ローラ106が定着ベルト101と加圧接触状態で配置されており、加圧ローラ106と定着ベルト101との間にニップ部107が形成されている。なお、定着ベルト101を定着ローラ105でなく定着パッド部材で内側から支持する構成のものも存在する。
【0005】
定着ベルト101の表面に転写されたトナー像102のトナーは、ニップ部107に到達するまでにヒータ108により事前に溶融される。そして、溶融されたトナーが、ニップ部107においてニップ部107を通過する用紙Pに付着して定着される。
【0006】
図12に例示した転写同時定着形式の定着装置は、一般的な定着装置、換言すればトナー像を事前に用紙に転写しておき、用紙が定着装置を通過するときにトナーを加熱溶融しトナー像を定着させる形式(以下、事前転写定着方式ともいう)の定着装置と同様に、定着ベルト101と加圧ローラ106との間にニップ部107を形成し、このニップ部107に用紙を通過させる。
【0007】
このため、従来では、転写同時定着形式の定着装置の加圧ローラ106として、事前転写定着方式の定着装置と同じ加圧ローラが用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-212839号公報
【文献】特開2004-145260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、転写同時定着形式の定着装置の加圧ローラ106として、事前転写定着方式の定着装置と同じ加圧ローラ106を用いた場合、次のような課題があった。
【0010】
即ち、事前転写定着方式の定着装置で用いられる加圧ローラは、図13及び図14に示されるように、金属軸106aの外周面に弾性層106bを有しており、この弾性層106bがニップ荷重で潰されて、定着ベルト101との間に広いニップ幅Wを形成する構成となっている。これは、矢印Y方向に津足される用紙Pと定着ベルト101との接触長さ乃至接触時間を確保して、トナーを溶融定着させるのに十分な熱量を定着ベルト101から用紙Pへ付与するためである。なお、図13は定着ベルト101を定着ローラ105により内側から支持してニップ部107を形成するタイプの定着装置であり、図14は定着ベルト101を定着パッド部材109により内側から支持してニップ部107を形成するタイプの定着装置である。図14において、符号110は定着パッド部材109を背後から支持する固定部材である。
【0011】
しかしながら、転写同時定着形式の定着装置では、定着ベルト101の表面に形成されたトナー像102のトナーは用紙Pへの転写定着前に事前に溶融されているため、用紙Pへの熱量の供給は少なくて良く、このためニップ幅Wも狭くて良い。用紙Pへの過度の熱量の供給は印字品質の低下を招き、またエネルギの無駄ともなる。
【0012】
ニップ幅Wが広がらないようにするため、例えば図15に示すように、定着パッド部材109の加圧ローラ106側の先端を局部的な凸部109aにすること等が考えられるが、対抗する加圧ローラ106の弾性層106aが柔らかすぎると弾性層106aが潰れてしまい、結果的にニップ幅Wが広がってしまう。
【0013】
また、加熱ローラ106を金属軸106aの表面を露出させた硬質のものに構成することで、ニップ幅Wを狭くすることが考えられるが、熱伝導率が高すぎるため、定着ベルト101の熱が金属軸106aに伝熱して用紙Pへ供給する熱量が不足し、定着不良を生じる恐れがある。
【0014】
この発明はこのような技術的背景に鑑みてなされたものであって、ニップ幅の広がりを防止しながらニップ部を通過する用紙へ適度な熱量を供給できる、転写同時定着形式の定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は以下の手段によって達成される。
(1)表面に形成されたトナー像をニップ部へ運搬する定着ベルトと、前記定着ベルトにより前記トナー像が前記ニップ部へ運搬される前に、トナー像のトナーを熱溶融させるための加熱手段と、前記定着ベルトの外側で定着ベルトとの間に前記ニップ部を形成する加圧ローラと、前記ニップ部を形成するように、前記定着ベルトを内側から支持する定着部材と、を備え、前記加熱手段により前記トナーを事前に熱溶融させた状態で、前記定着ベルトによりニップ部へ運搬されたトナー像を、前記ニップ部を通過する用紙に転写し定着させる定着装置であって、前記加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、前記第1の断熱層の熱伝導率は前記第1の金属軸より低く、前記第1の断熱層は樹脂からなり、かつ、第1の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高いことを特徴とする定着装置。
(2)表面に形成されたトナー像をニップ部へ運搬する定着ベルトと、前記定着ベルトにより前記トナー像が前記ニップ部へ運搬される前に、トナー像のトナーを熱溶融させるための加熱手段と、前記定着ベルトの外側で定着ベルトとの間に前記ニップ部を形成する加圧ローラと、前記ニップ部を形成するように、前記定着ベルトを内側から支持する定着部材と、を備え、前記加熱手段により前記トナーを事前に熱溶融させた状態で、前記定着ベルトによりニップ部へ運搬されたトナー像を、前記ニップ部を通過する用紙に転写し定着させる定着装置であって、前記加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、前記第1の断熱層の熱伝導率は前記第1の金属軸より低く、かつ、前記第1の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高く、前記定着部材は定着ローラであり、該定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、前記第2の断熱層の熱伝導率は、前記第2の金属軸より低く、前記第2の断熱層は樹脂からなり、かつ、第2の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高いことを特徴とする定着装置。
(3)表面に形成されたトナー像をニップ部へ運搬する定着ベルトと、前記定着ベルトにより前記トナー像が前記ニップ部へ運搬される前に、トナー像のトナーを熱溶融させるための加熱手段と、前記定着ベルトの外側で定着ベルトとの間に前記ニップ部を形成する加圧ローラと、前記ニップ部を形成するように、前記定着ベルトを内側から支持する定着部材と、を備え、前記加熱手段により前記トナーを事前に熱溶融させた状態で、前記定着ベルトによりニップ部へ運搬されたトナー像を、前記ニップ部を通過する用紙に転写し定着させる定着装置であって、前記加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、前記第1の断熱層の熱伝導率は前記第1の金属軸より低く、かつ、前記第1の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高く、前記定着部材は定着ローラであり、該定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、前記第2の断熱層の熱伝導率は、前記第2の金属軸より低く、前記第2の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高く、かつ、前記定着ローラは、前記第2の断熱層とは別に、最外周面として、第2の断熱層よりも高摩擦な表層を有していることを特徴とする定着装置。
)前記定着部材は定着ローラであり、該定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、前記第2の断熱層の熱伝導率は、前記第2の金属軸より低く、かつ、前記第2の断熱層の硬度は前記定着ベルトの硬度より高い前項1に記載の定着装置。
)前記定着部材は定着パッド部材であり、前記定着パッド部材の加熱ローラ側に局部的な凸部が形成されている前項1に記載の定着装置。
)前記定着ベルトに内側から接して定着ベルトを駆動する駆動ローラを備えている前項1乃至前項のいずれかに記載の定着装置。
)前記駆動ローラは前記定着部材を構成する定着ローラである前項に記載の定着装置。
)前記第1の断熱層は樹脂からなる前項2または前項3に記載の定着装置。
)前記第2の断熱層は樹脂からなる前項3に記載の定着装置。
10)前記樹脂は、[PPS(ポリフェニレンスルファイド)]、[LCP(液晶ポリマー)]、[PSU(ホリサルンホン)]、[PES(ポリエーテルサルホン)]、[PAR(非晶ポリアリレート)]のうちの少なくともいずれかを含む樹脂である前項または前項2または前項8または前項9に記載の定着装置。
11)前記定着ローラは、前記第2の断熱層とは別に、最外周面として、第2の断熱層よりも高摩擦な表層を有している前項2または前項に記載の定着装置。
12)前記加圧ローラは、前記第1の断熱層とは別に、最外周面にフッ素層を有している前項1乃至前項11のいずれかに記載の定着装置。
13)前項1乃至前項12のいずれかに記載された定着装置と、トナー画像を前記定着装置における定着ベルトの表面に形成する画像形成手段と、を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0016】
前項(1)に記載の発明によれば、定着ベルトの外側で定着ベルトとの間にニップ部を形成する加圧ローラは、第1の金属軸の外周面に第1の断熱層を有する構成となっており、第1の断熱層の熱伝導率は第1の金属軸より低いから、定着ベルトの熱の第1の金属軸への伝熱を抑制でき、用紙へ供給する熱量が不足して定着不良が生じるのを防止できる。また、第1の断熱層の硬度は定着ベルトの硬度より高いから、第1の断熱層がニップ荷重で潰れることはなく、このため狭いニップ幅を実現することができ、用紙への過度の熱量の供給による品質劣化やエネルギの損失の発生をも防止でき、良好な転写同時定着を行うことができる。
また、第1の断熱層を樹脂によって形成することができる。
【0017】
前項(2)または(3)または(4)に記載の発明によれば、定着部材は定着ローラであり、この定着ローラは、第2の金属軸の外周面に第2の断熱層を有する構成となっており、第2の断熱層の熱伝導率は第2の金属軸より低いから、定着ベルトの熱の第2の金属軸への伝熱を抑制でき、用紙へ供給する熱量をさらに確保し易くなる。また、第2の断熱層の硬度は定着ベルトの硬度より高いから、第1の断熱層がニップ荷重で潰れることはなく、さらに狭いニップ幅を実現することができる。
【0018】
前項()に記載の発明によれば、定着部材は定着パッド部材であり、定着パッド部材の加熱ローラ側の形状は局部的な凸部形状であるから、ニップ荷重によるパッド部材の潰れを抑制でき、狭いニップ幅を実現することができる。
【0019】
前項()に記載の発明によれば、定着ベルトに内側から接する駆動ローラにより定着ベルトを駆動することができる。
【0020】
前項()に記載の発明によれば、定着部材を構成する定着ローラによって定着ベルトを駆動することができる。
【0021】
前項()に記載の発明によれば、第1の断熱層を樹脂によって形成することができる。
【0022】
前項()に記載の発明によれば、第2の断熱層を樹脂によって形成することができる。
【0023】
前項(10)に記載の発明によれば、[PPS(ポリフェニレンスルファイド)]、[LCP(液晶ポリマー)]、[PSU(ホリサルンホン)]、[PES(ポリエーテルサルホン)] 、[PAR(非晶ポリアリレート)]のうちの少なくともいずれかを含む樹脂によって、第1の断熱層や第2の断熱層が形成されるから、第1の断熱層や第2の断熱層の熱伝導率を第1の金属軸や第2の金属軸より低く、かつ、第1の断熱層や第2の断熱層の硬度を定着ベルトの硬度より高くすることが容易となる。
【0024】
前項(11)に記載の発明によれば、定着ローラは、第2の断熱層とは別に、最外周面として、第2の断熱層よりも高摩擦な表層を有しているから、定着ローラと定着ベルトとの間のすべりを抑制でき、定着ローラを定着ベルトの駆動に用いる場合も、大きな駆動力を定着ベルトに付与することができる。
【0025】
前項(12)に記載の発明によれば、加圧ローラは、第1の断熱層とは別に、最外周面にフッ素層を有しているから、用紙に転写同時定着されたトナーや用紙との離型性を良くすることができる。
【0026】
前項(13)に記載の発明によれば、前項(1)乃至(12)のいずれかに記載された定着装置と、トナー画像を定着装置における定着ベルトの表面に形成する画像形成手段と、を備えた画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の一実施形態に係る定着装置を、その一部を断面で示す正面図である。
図2】この発明の他の実施形態に係る定着装置を、その一部を断面で示す正面図である。
図3】この発明のさらに他の実施形態に係る定着装置を示す正面図である。
図4】この発明のさらに他の実施形態に係る定着装置を示す正面図である。
図5】この発明のさらに他の実施形態に係る定着装置を、その一部を断面で示す正面図である。
図6】この発明のさらに他の実施形態に係る定着装置を示す正面図である。
図7】各エンプラ材料の物性を示す表である。
図8】同じく、各エンプラ材料の物性を示す表である。
図9】各エンプラ材料の耐熱性を比較するための表である。
図10】各エンプラ材料の成型性や吸水性特性等を比較するための表である。
図11】この発明のさらに他の実施形態に係る画像形成装置における定着装置を示す正面図である。
図12】転写同時定着形式の定着装置の一例を説明するための図である。
図13】事前転写定着方式の定着装置の一例を示す正面図である。
図14】事前転写定着方式の定着装置の他の例を示す正面図である。
図15】事前転写定着方式の定着装置のさらに他の例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は、この発明の一実施形態に係る画像形成装置における定着装置を、その一部を断面で示す正面図である。画像形成装置1は、転写同時定着形式の定着装置2と画像形成部3を備えている。
[第1の実施形態]
定着装置2は、定着ベルト21と、加圧ローラ22と、定着部材としての定着パッド部材23と、加熱ローラ24等から構成されている。定着ベルト21は、相互に離間して配置された定着パッド部材23と加熱ローラ24との間に張架されている。
【0030】
定着パッド部材23は液晶ポリマー製であり、定着ベルト21の張力やニップ荷重によって定着パッド部材23が曲がらないように、背面をコの字形状の板金製固定部材25で支持されている。
【0031】
加圧ローラ22は、定着ベルト21を挟んで定着パッド部材23と加圧状態に対向配置されており、同図に矢印Aで示す方向に走行するよう駆動装置31によって駆動される。加圧ローラ22は、図1に一部を拡大して断面図で示すように、この実施形態では、外径22mmの中実鋼材からなる金属軸(第1の金属軸に相当)22aの外周面に、厚さ4mmのPPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂層からなる断熱層(第1の断熱層に相当)22bが形成されてなる。この加圧ローラ22は、定着ベルト21との間にニップ部4を形成するものであり、ニップ部4にニップ荷重与えるため、定着パッド部材23側に約200Nで押圧されている。
【0032】
定着ベルト21は、この実施形態では図1に一部を拡大して断面図で示すように、外径80mmで厚さ100μmのPI(ポリイミド樹脂)からなる基材21a上に弾性層21bとして厚さ300μmのシリコーンゴム層が形成され、さらにその上に厚さ15μmのフッ素層21cが形成されたものが使用されている。
【0033】
また、定着パッド部材23の加圧ローラ22側の先端部には、矢印Cで示す通紙方向の中央部において、加圧ローラ22の長さ範囲に渡る部分が加圧ローラ22側に突出する局部的な凸部23aとなっている。さらに、凸部23aの先端は半径1mmの曲率を有している。このように、定着パッド部材23の加圧ローラ22側の先端部を凸部形状とし曲率を持たせることで、ニップ部4の通紙方向の長さであるニップ幅Wを極めて狭く設定することができる。この実施形態では、ニップ幅Wは、定着ベルト21の弾性層21bの潰れも合わさって、約0.5mmとなる。
【0034】
加熱ローラ24は、外径30mm、厚さ300μmのアルミニウム材24aの内部にハロゲンヒータ等からなるヒータ24bが配置されており、定着ベルト21の表面を120℃程度に加熱できるようになっている。ヒータ24bは定着ベルト21を加熱して定着ベルト21の表面に形成されたトナー像5のトナーを溶融する役割を果たす。なお、加熱ローラ24に内蔵されたヒーター24bではなく、定着ベルト21の表面に形成されたトナー像5を外方からヒーター等で加熱してトナーを溶融させても良い。
【0035】
定着ベルト21は図1に矢印Bで示す方向に回転走行している。この実施形態では、駆動装置31によって回転駆動される加圧ローラ22との摩擦力が定着ベルト21に付与されることにより、定着ベルト21が従動走行し、加熱ローラ24が従動回転するようになっている。
【0036】
画像形成装置1のプリント時には、画像形成部3で作成された画像に基づいて、定着ベルト21にトナー像5が形成される。定着ベルト21へのトナー像5の形成方法は、限定されないが、一例としては図12に示したように、画像形成部3の転写ベルト103に形成したトナー像を定着ベルト21に転写する方法を挙げることができる。
【0037】
定着ベルト21に形成されたトナー像5のトナーは、加熱ローラ24によって加熱された定着ベルト21上で、ニップ部4に到達する前に溶融する。トナーが溶融したトナー像5は、ニップ部4へと運搬され、図1の点線矢印Cで示す方向にニップ部4を通過する用紙Pに転写され同時に定着される。
【0038】
転写同時定着形式の定着装置2では、定着ベルト21の表面に形成されたトナー像5のトナーは用紙Pへの転写定着前に事前に溶融されているため、事前転写定着方式の定着装置のような用紙Pへの大きな熱供給はエネルギの無駄となる。このためニップ幅Wは狭くて良い。
【0039】
ニップ幅Wを狭くする構成として、ニップ部4を形成する加圧ローラ22の表面が、ニップ荷重によって、潰れ変形しないことが前提となる。従って、加圧ローラ22の表面材料がゴムのような柔らかい材料であってはならない。
【0040】
一方、定着ベルト21はニップ部4において用紙凸凹に追従するために、表面にシリコーンゴム層のような柔らかい弾性層21bを有している。このため、定着ベルト21の弾性層21bは潰れ変形するが、加圧ローラ22の表面は潰れ変形しない、という関係にすることが必要である。従って、加圧ローラ22の表面は少なくとも定着ベルト21の硬度よりも硬くなければならない。
【0041】
つまり、定着ベルト21の表面の硬度<加圧ローラ22の硬度、の関係を満たさなければならない。この設定にしておけば、ニップ荷重を調整することにより、定着ベルト21の弾性層21bは潰れ変形するが、加圧ローラ22の表面はほとんど変形しない設定が可能になる。
【0042】
なお、定着ベルト21の弾性層21bの厚さが薄いので、表面の硬度は[アスカーマイクロゴム硬度計MD-1型]での測定が望ましい。
【0043】
また、加圧ローラ22の表面を単に硬くするだけなら、加圧ローラ22の金属軸22aの表面を剥き出しにしたままでも良いことになるが、それでは熱伝導率が高すぎて、定着ベルト21の熱が加圧ローラ22の軸芯部へ伝熱してしまう。
【0044】
従って、加圧ローラ22の表面はその熱伝導率が、少なくとも芯金材料である金属軸22aの熱伝導率よりも小さい材料でなくては意味がない。
【0045】
つまり、加圧ローラ22の金属軸22aの材料の熱伝導率>加圧ローラ表面の断熱層22bの熱伝導率、の関係を満たす必要がある。
【0046】
上述した硬度及び熱伝導率の関係は、以下に説明する他の実施形態においても同様である。
【0047】
硬度及び熱伝導率の関係を満たす加圧ローラ22の表面の断熱層22bとして、この実施形態では、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂層を用いている。断熱層22bを構成する樹脂層については後述する。
[第2の実施形態]
この発明の他の実施形態に係る定着装置を図2に示す。この定着装置は、図1に示した第1の実施形態に係る定着装置2のうち、定着部材としての定着パッド部材23に代えて定着ローラ26を用いている。定着ローラ26以外の構成は図1の第1の実施形態と同じである。
【0048】
定着ローラ26は、外径22mmの中実鋼材からなる金属軸(第2の金属軸に相当)26aの外周面に、厚さ4mmのPPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂層からなる断熱層(第2の断熱層に相当)26bが形成されている。
【0049】
それぞれ同一材料からなる硬い断熱層22b、26bを有する加圧ローラ22と定着ローラ26によってニップ部4が形成されるが、ニップ幅Wはこのようなローラ対であっても、ニップ荷重200Nによって、定着ベルト21の弾性層21bが潰れて0.5mm程度になる。
【0050】
ニップ荷重(200N)による定着ローラ26の金属軸26aの曲がりを補正するために、定着ローラ26の断熱層26bの表面は0.05mm程度のクラウン形状、換言すれば、端部直径より中央部直径が0.05mm程度大きい形状、にするのが望ましい。
[第3の実施形態]
この実施形態は、定着ベルト21の駆動に関する構成を示すものである。
【0051】
図1に示した第1の実施形態では、駆動装置31による加圧ローラ22の回転駆動により定着ベルトに摩擦力を付与して定着ベルトを従動走行させる構成とした。ただし、この方法による定着ベルト21の従動走行は、定着ベルト21の内部の摩擦抵抗が大きく、ベルトスリップのリスクが伴う。
【0052】
定着ベルト21の他の駆動方法として、図3に示すように、加熱ローラ24を駆動装置32により強制駆動して駆動ローラとしての機能を持たせ、定着ベルト21に駆動力を付与しても良い。この場合は、加圧ローラ22の駆動による場合よりも安定した定着ベルト21の回転走行が得られる。
【0053】
また、図4に示すように、駆動装置32による加熱ローラ24の回転駆動と同時に、加圧ローラ22も駆動装置31により回転駆動して、定着ベルト21にニップ部4の両側において駆動力を付与しても良い。この場合は、様々な用紙の通紙が容易になる。
【0054】
また、定着部材として定着ローラ26を用いる場合は、図5に示すように、定着ローラ26を駆動装置33により回転駆動して駆動ローラとしての機能を持たせ、定着ベルト21に駆動力を付与しても良い。定着ローラ26を定着ベルト21の走行の駆動源とする構成の場合、定着ベルト21へ大きな駆動力を付与するために、図5に定着ローラ26の一部を拡大して示すように、定着ローラ26の最表層に高摩擦層26cを有することが望ましい。高摩擦層26cの一例としては、厚さ300μm程度の薄いエポキシ樹脂層等を挙示できる。
【0055】
なお、定着ローラ26を駆動ローラとして用いない場合であっても、最表層に高摩擦層26cを形成しても良い。
【0056】
定着ローラ26により定着ベルト21を駆動する場合、図6に示すように、加圧ローラ22も駆動装置31により回転駆動して、定着ベルト21をニップ部4の両側から駆動しても良い。この場合、より一層多彩な用紙の通紙が可能になる。
[第4の実施形態]
この実施形態では、加圧ローラ22の断熱層22bの材料について説明する。
【0057】
断熱層22bの具体的な材料としては、樹脂材料、セラミックス材料、ガラス材料などが望ましい。特に、コストの低さ、良好な成型性、熱伝導率の低さなどの点から、樹脂材料、特にエンジニアリングプラスチック(以下、エンプラとも記す)が最も望ましい。
【0058】
エンプラとは、周知のように、熱に弱いプラスチックの性質を改善した耐熱性の高い合成樹脂で、高耐熱性と同時に機械的強度も向上させた樹脂材料の総称である。より高機能な材料を、特にスーパーエンプラとも呼ぶ。エンプラは、使用温度や強度の点で、金属部品と汎用プラスチック部品の中間的/補完的な位置にあり、軽量化や低コスト化を実現している。
【0059】
断熱層22bに必要とされる機能は、a)高硬度、b)断熱性、c)耐熱性、の3点である。硬度と断熱性が必要なことは前述の通りである。耐熱性に関しては、従来の定着装置よりも20℃程度低い定着温度に設定できるものの、小サイズ通紙時の加圧ローラ22の端部温度170℃程度には耐える必要がある。従って、高温時であっても形状が変化しない耐熱性が必要になる。
【0060】
そこで、まず、a)硬度をエンプラ材料間で比較する。各エンプラ材料の物性を図7及び図8の表に示す。比較に用いたエンプラ材料は、[PPS(ポリフェニレンスルファイド)]、[PA9T(ポリアミド9T)]、[PA46(ポリアミド46)]、[PAR(非晶ポリアリレート)]、[LCP(液晶ポリマー)]、[PSU(ホリサルンホン)]、[PES(ポリエーテルサルホン)]、[PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)]、[PEI(ポリエーテルイミド)]、[PAI(ポリアミドイミド)]、[TPI(熱可塑性ポリイミド)]、さらにフッ素系樹脂として、[PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)]、[FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)]、[PFA(ポリテトラフルオロエチレン)]、[PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)]、[ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)]、[ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)]、[PVDF(ポリビニリデンフルオライド)]、[PVF(ポリフッ化ビニル)]である。
【0061】
ここでは、硬度を特に曲げ弾性率で比較する。各表に示す上記の機械的強度の物性値から、エンプラ材料であっても、図8の表に示すフッ素系樹脂は、機械的強度(曲げ弾性率で比較して)が小さいことが分かる。仮にフッ素系樹脂層で構成した断熱層22bの厚さを2mm以上にすると、フッ素系樹脂層が潰れてニップ幅Wを広げてしまい、定着ベルト21の弾性層21bの潰れ分と合算するとニップ幅Wが1mmを超えてしまう。
【0062】
次に、c)耐熱性をエンプラ材料間で比較する。比較に用いたエンプラ材料は、図7の表に示したものと同じである。耐熱性は、荷重たわみ温度で評価した。その結果を図9の表に示す。
【0063】
なお、「荷重たわみ温度」とは、合成樹脂の耐熱性を評価する試験法の1つであり、熱変形温度とも呼ばれる。試験法規格に決められた荷重を与えた状態で、試料の温度を上げていき、たわみの大きさが一定の値になる温度を示す。試験法は ASTM D648、JIS 7191 などで定められている。はりに定荷重を加えて変位が一定値になる温度を求めるが 曲げ弾性率が 2,514 kgf/cm2 =0.25 GPa または 10,000 kgf/cm2=1GPaになる温度で表す。
【0064】
図9の表の結果から、耐熱性能に関しては、[PA材(PA9T、PA46)]と[PEEK]材が、やや劣っている。
【0065】
さらに、各エンプラ材料について、図10に示す特性比較表から、[成形性]や[吸水性]などを比較すると、[PEEK]、[PEI]、[PAI]、[TPI]は成形性で致命的な欠点[×](ハッチングで示す)があり、採用することは難しい。
【0066】
以上の結果、以下の5種類(各表において太枠で示す)が望ましい材料である、といえる。
[PPS(ポリフェニレンスルファイド)]
[LCP(液晶ポリマー)]
[PSU(ホリサルンホン)]
[PES(ポリエーテルサルホン)]
[PAR(非晶ポリアリレート)]。
【0067】
なお、断熱層2bは各樹脂単位で構成されても良いし、複数の樹脂を含んで構成されても良い。
【0068】
また、上記材料の強度を一層高めるために、ガラスファイバーを含有する材料が好ましい。コストと強度性能から、PPS(GF40%含有)材料が、最も好ましいと考えられる。
【0069】
なお、定着部材を定着ローラ26で構成する場合、定着ローラ26の金属軸26aの外周面に被覆される断熱層26bも、加圧ローラ22の断熱層22bと同じであり、上記5種類の樹脂の少なくともいずれかを含む構成とするのが望ましく、上記材料の強度を一層高めるために、ガラスファイバーを含有する材料が好ましく、コストと強度性能から、PPS(GF40%含有)材料が、最も好ましい。
[第5の実施形態]
この実施形態では、図11に示すように、加圧ローラ22の断熱層22bのさらに外側つまり最外周面に、用紙Pに定着したトナー及び用紙Pとの離型を容易にするために、フッ素層22cが形成されている。フッ素層22cは硬度が低いため、厚くし過ぎると潰れてニップ幅Wを広げてしまうので、フッ素層22cを形成する場合の厚さは20μm以下とするのが望ましい。
【0070】
フッ素層22c以外の他の構成は、図1に示した構成と同じである。
【符号の説明】
【0071】
1 画像形成装置
2 定着装置
3 画像形成部
4 ニップ部
5 トナー像
21 定着ベルト
22 加圧ローラ
22a 金属軸
22b 断熱層
22c フッ素層
23 定着パッド部材(定着部材)
23a 凸部
24 加熱ローラ
24b ヒータ
25 固定部材
26 定着ローラ
26a 金属軸
26b 断熱層
26c 高摩擦層
31~33 駆動装置
W ニップ幅
P 用紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15