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  • 特許-保湿ティシュペーパーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】保湿ティシュペーパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20231129BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A47K10/16 D
D21H27/00 F
A47K10/16 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019239458
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021106786
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】清水 遥絵
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-208819(JP,A)
【文献】特開2019-118709(JP,A)
【文献】特開2018-102858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保湿剤が添加された保湿ティシュペーパーの製造方法であって、
抄紙工程で製造された原紙に前記保湿剤を塗布する工程を含む塗工工程と、
前記保湿剤が塗布された保湿原紙の前記保湿剤を馴染ませて浸透させるエージングを行うエージング工程と、
前記エージングを行った前記保湿原紙を、所望の幅に切断し折り畳んで保湿ティシュペーパーとする製品化工程と、を備え、
前記原紙の表面のハンドフィール値HFb1と、前記製品化工程で製造された保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1との差ΔHFab1(=HFa1-HFb1)が、3.0以上となるように管理する
ことを特徴とする保湿ティシュペーパーの製造方法。
【請求項2】
前記原紙の前記表面のハンドフィール値HFb1と、前記原紙の裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)が、7~17である
ことを特徴とする請求項1に記載された保湿ティシュペーパーの製造方法。
【請求項3】
前記保湿ティシュペーパーの前記表面のハンドフィール値HFa1と前記保湿ティシュペーパーの裏面のハンドフィール値HFa2との差ΔHFa12(=HFa1-HFa2)を、前記原紙の前記表面のハンドフィール値HFb1と前記原紙の前記裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)以下とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された保湿ティシュペーパーの製造方法。
【請求項4】
前記保湿ティシュペーパーの前記表面のハンドフィールの値HFa1が77以上であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載された保湿ティシュペーパーの製造方法。
【請求項5】
前記保湿ティシュペーパーの密度が0.26(g/cm)以下である
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載された保湿ティシュペーパーの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、原紙に保湿剤を塗布されてなる保湿ティシュペーパーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ティシュペーパー等において、紙に薬剤を添加することで、肌触りを向上させるようにする技術が開発されている。「しっとり感」や「滑らかさ」といった「肌触り」を向上させた高機能性のものが開発されている。
例えば特許文献1には、2プライのシートからなり、ローション薬液を塗布されてなるローションティッシュペーパーにおいて、坪量,紙厚を数値的に規定すると共に、ティッシュソフトネス測定装置TSAで測定して得られる滑らかさTS750,柔らかさTS7,しっかり感Dを数値的に規定することにより、滑らかさ、しっとり感、柔らかさ、ボリューム感、しっかり感、加工適性の何れも良好にしようとする発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-33751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1も、「しっとり感」を含む「肌触り」の向上を目的としているが、近年、ティシュペーパー類において、「肌触り」の中でも「しっとり感」は「保湿感」とも呼ばれ、このような「しっとり感」を向上させたいという要望が高まっている。紙に保湿剤が添加された保湿ティシュペーパーの場合、保湿剤が「しっとり感」の向上に寄与するが、しっとり感をより向上させるためのさらなる技術開発が要望されている。
【0005】
本件は、このような課題に着目して創案されたもので、しっとり感を向上させることができるようにした保湿ティシュペーパーの製造方法を提供することを目的の1つとしている。なお、本目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用および効果であって、従来の技術では得られない作用および効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件にかかる保湿ティシュペーパーの製造方法は、保湿剤が添加された保湿ティシュペーパーの製造方法であって、抄紙工程で製造された原紙に保湿剤を塗布する工程を含む塗工工程と、前記保湿剤が塗布された保湿原紙の前記保湿剤を馴染ませるエージングを行うエージング工程と、前記エージングを行った前記保湿原紙を、所望の幅に切断し折り畳んで保湿ティシュペーパーとする製品化工程と、を備え、前記原紙の表面のハンドフィール値HFb1と、製品化工程で製造された保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1との差ΔHFab1(=HFa1-HFb1)が、3.0以上となるように管理することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本件によれば、しっとり感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る保湿ティシュペーパーの製造方法のフローチャートである。
図2】一実施形態に係る保湿ティシュペーパーの製造方法のうち塗工工程を行う装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る保湿ティシュペーパー(以下、単に「ティシュペーパー」ともいう)及びその製造方法の実施形態について説明する。
【0010】
(保湿ティシュペーパーの製造方法及び各工程)
本実施形態に係る保湿ティシュペーパーの製造方法は、図1に示すように、抄紙工程S10、塗工工程S20、エージング工程S30、およびカートン充填工程(製品化工程)S40の4つの工程を含む。
抄紙工程S10では、抄紙原料としてのパルプスラリーを抄紙して原反ロールを製造する。
塗工工程S20では、原反ロールから巻き出された原紙の面に保湿剤を塗布する。
エージング工程S30では、保湿剤を塗布された原紙が巻き取られた原反ロール(保湿原紙)を所定の保管環境で所定時間だけ保管して、紙に保湿剤を馴染ませる。
カートン充填工程(製品化工程)S40では、エージング後の原反ロールから巻き出された保湿原紙を裁断して折り畳んでカートンに充填して、製品とする。
以下、さらに詳細に説明する。
【0011】
抄紙工程では、抄紙装置(抄紙手段)を用いて、抄紙原料としてのパルプスラリーを抄紙して複数の第1次原反ロールを製造する。
抄紙原料としてのパルプスラリーに含まれるパルプ成分としては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては、例えば、広葉樹パルプ(広葉樹クラフトパルプ(LKP))、針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプ(NKP))、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)のような化学パルプが挙げられる。また、木材パルプとしては、例えば、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)のような半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)のような機械パルプが挙げられる。非木材パルプとしては、例えば、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麻、麦わら、バガスのような非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。脱墨パルプとしては、例えば、古紙を原料とし、脱墨することで得られるパルプが挙げられる。なお、パルプ成分には、上記のパルプのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。パルプ成分としては、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。中でも、パルプ成分としては、針葉樹パルプと広葉樹パルプとを併用することが好ましく、針葉樹クラフトパルプ(NKP)と広葉樹クラフトパルプ(LKP)とを併用することがより好ましい。
【0012】
本実施形態では、パルプスラリーは、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)70質量%と、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)30質量%との混合物を用意し、この混合物0.1質量部に対して水99.9質量部を添加し調製したものである。ただし、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)との混合比率(質量%の比率)は、20:80~80:20の範囲で調整することができる。
【0013】
また、本実施形態では、原反ロールに巻かれた連続シート(原紙)は、上記パルプスラリーを、2層抄きツインワイヤーフォーマーを用いて抄造した後、脱水および乾燥することで得られるものである。
なお、抄紙工程における乾燥工程では、ヤンキードライヤーを用いており、湿紙の一方の面をヤンキードライヤーのロールの表面(周面)に接触させて乾燥させる。
【0014】
図2に本実施形態に係る、保湿ティシュペーパーの製造方法のうち塗工工程を行う塗工装置(塗工手段)1の構成図を示す。塗工装置1は、複数の第1次原反ロールWR1a,WR1b(両者を区別しない場合は、符号WR1で示す)から引き出された(または繰り出された)連続シートW(1プライのティシュペーパー)を重ねるプライ工程を行うプライ部(プライ手段)Rと、プライされた連続シートに対して保湿剤を塗布する塗布工程を行う塗布部(塗布手段)2とを含んで構成される。
【0015】
本実施形態では、塗工工程において、抄紙工程にて抄紙された2本の第1次原反ロールWR1を塗工エリアに移動させ、図2に示すように、塗工装置1にセットする。第1次原反ロールWR1に巻かれた連続シートWは、プライするときに内側になる内側面(すなわち接着面)Fと、外側になる外側面Fとを有する。
【0016】
そして、塗工装置1は、図2に示すように、巻戻しリールRU1aによって第1次原反ロールWR1aから加工速度Vuaで繰り出された1層の連続シートWの内側面Fと、巻戻しリールRU1bによって第1次原反ロールWR1bから加工速度Vubで繰り出された1層の連続シートWの内側面Fと、をプライ部Rにおいて重ね合わせ、第1層Fと第2層Fとを有する2層の積層連続シート(2プライのティシュペーパー)Wを製造する。
【0017】
なお、1層の連続シートWの内側面Fは、抄紙工程の乾燥工程において、ヤンキードライヤーのロール(ヤンキーロール)の周面に接触して乾燥される面であり、ヤンキー面とも呼ばれる。また、このヤンキー面は、ヤンキーロールの周面に接触して乾燥されるため、その反対側の面である裏面(うらめん、非ヤンキー面)に比べて滑らかであり、製品となった時には外側に向けられる。このため、ヤンキー面である内側面Fは、製品基準で表面(おもてめん)と呼ばれる。
【0018】
次に、塗工装置1は、図に示すように、プライされた積層連続シートWに対して、塗布部2において、オフセットグラビア方式を用いて保湿剤を塗布する。このとき、塗工装置1の塗布部2において、プライされた2層の積層連続シートWのうちの一方の連続シートWの外側面F(製品基準で裏面)に保湿剤が塗布される。保湿剤の塗布後、塗工装置1は、巻取りリールRによって、保湿剤が塗布された積層連続シートWを巻き取り、第2次原反ロールWR2を製造する。その後、当該第2次原反ロールWR2は、後述のエージング用カバー部材で覆われることが可能な大きさにカット(軸方向に分割)される。このカットされたロールを、以下「第1ロール(ペーパーロール)」という。
【0019】
なお、2層の積層連続シートWのうちの他方の連続シートWの外側面F(製品基準で裏面)には保湿剤が塗布されないが、保湿剤が塗布された積層連続シートWが巻き取られて、第2次原反ロールWR2となった段階では、他方の連続シートWの外側面F(裏面)は、保湿剤が塗布された一方の連続シートWの外側面F(裏面)に接触する。この外側面F同士の接触により、他方の連続シートWの外側面Fにも保湿剤が速やかに供給されることになる。
また、本実施形態では、保湿剤として、グリセリン85質量%と水15質量%とを含有するものを使用するが、保湿材はこれに限定されるものではない。
【0020】
保湿剤を裏面に塗布する利点として、裏面の方が表面よりも塗布する上での平滑性が良いため、塗布厚のばらつきが少ない点が挙げられる。
また、積層連続シートWの両面(すなわち、2枚の連続シートWの各外側面F)ではなく、積層連続シートWの片面(すなわち、2枚の連続シートWのうちの一方の外側面F)に塗布する利点として、片面からの場合、2プライ分の塗液を一度に塗布するため、塗布量を制御しやすい点が挙げられる。
なお、原紙への保湿剤の供給方法も、オフセットグラビア方式による塗布(塗工)に限定されるものではない。
さらに、ティシュペーパーは、1プライでもよく、3プライ以上でもよい。
また、2プライ以上のティシュペーパーの各原紙は同一構成とする。
【0021】
この他の保湿剤としては、例えば、アロエエキス、延命草エキス、オトギリソウエキス、オオムギエキス、オレンジエキス、海藻エキス、カミツレエキス、キューカンバエキス、コンフリーエキス、ゴボウエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シソエキス、セージエキス、デュークエキス、冬虫夏草エキス、ドクダミエキス、ハタケシメジエキス、ビワエキス、ブドウ葉エキス、フユボダイジュエキス、プルーンエキス、ヘチマエキス、ボタンピエキス、マイカイエキス、モモノハエキス、ユリエキス、リンゴエキス、アーモンド油、オリーブ油、ゴマ油、サフラワー油、ジメチルシリコーン、シリコーン油、変性シリコーン、大豆油、椿油、ヒマシ油、ホホバ油、ミンク油、ヤシ油、ラノリン、アラビノース、ガラクトース、キシロース、グルコース、ショ糖、ソルビトール、フルクトース、マルトース、マルチトール、マンノース、ミツロウ、ヒアルロン酸、プラセンタエキス、ラムノース、キシロビオース、キシロオリゴ糖、チューベローズポリサッカライド、トリサッカライド、トレハロース、可溶性コラーゲン、グリチルリチン、コンドロイチン硫酸、ジグリセリン、スクワラン、セラミド類似化合物、トリグリセリン、尿素、ビタミンCリン酸エステルカルシウム塩、ビタミンE、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ヒノキチオール、流動パラフィン、ワセリン、多価アルコール等が挙げられる。これらの保湿剤の中でも、アロエエキス、延命草エキス、オトギリソウエキス、コンフリーエキス、シソエキス、セージエキス、セラミド類似化合物、ドクダミエキス、ハタケシメジエキス、ビワエキス、フユボダイジュエキス、ボタンピエキス、ヒマシ油、ホホバ油、ラノリン、ヒアルロン酸、プラセンタエキス、ラムノース、キシロオリゴ糖、可溶性コラーゲン、グリセリン、コンドロイチン硫酸、スクワラン、尿素および多価アルコールが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。中でも、保湿剤は、グリセリンを含むことが好ましい。保湿剤には、上記化合物のうちの1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
エージング工程では、保湿剤が塗布された原反ロール(原紙ロール)を、エージングエリアに移動して、その巻き軸が垂直になる姿勢でパレット等に設置し、床面または棚に、所定の保管時間だけ保管する。
エージングエリアの保管環境(即ち、保管温度及び保管湿度)の管理は、湿度調整機能を有するエアコンディショナーを用いて行う。また、原反ロールをフィルムに巻いて、保管することも好ましい。
【0023】
カートン充填工程を行うカートン充填装置(カートン充填手段)は、エージング工程の後の第1ロールから引き出したティシュペーパーを所望の幅(例えば、製品幅)に切断(裁断)し、切断されたティシュペーパーを折り畳み、折り畳まれたティシュペーパーの束をカートンに充填する。当該折り畳む工程は、ロータリー式またはマルチスタンド式のインターフォルダを含む設備において行われる。上述したティシュペーパーの製造方法により製造されたティシュペーパーをカートンに充填することで、保湿剤が添加されたティシュペーパー製品が出来上がる。
【0024】
(保湿ティシュペーパーの特性値)
ところで、本保湿ティシュペーパーでは、ティッシュペーパーの特性を表すパラメータのうち、ハンドフィール値(HF値)、密度及び保湿剤の塗布量の各パラメータに着目し、これらのパラメータを、肌触りのうちの「しっとり感」の向上に寄与する値に設定している。これについて説明する。
【0025】
1プライのティッシュペーパーにおいて、このヤンキーロールに接触して形成された面を表面(おもてめん、ヤンキー面ともいう)とし、その裏側の面を裏面(うらめん、非ヤンキー面ともいう)とする。
【0026】
ハンドフィール値及びその測定方法については後述するが、ハンドフィール値は、一般に、面が滑らかな方が高い値となる。本ティッシュペーパーの原紙は、上記のように、ヤンキードライヤーのヤンキーロールに接触した表面が裏側の面に比べて滑らかな触感になるので、表面は、裏面に比べてハンドフィール値が高くなる。
さらに、原紙に保湿剤を塗布することにより、ハンドフィール値が高くなる。
【0027】
本保湿ティッシュペーパー(保湿剤を塗布された製品としての保湿ティッシュペーパー)の表面のしっとり感を高めるために、保湿剤を塗布される前の1枚の原紙の表面のハンドフィール値HFb1と、製品化工程で製造された製品としての2プライのうちの1プライの保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1との差ΔHFab1(=HFa1-HFb1)が、3.0以上となるようにしている。この差ΔHFab1の操作は、例えばエージング工程の管理条件の変更等によって行うことができる。
【0028】
表面のハンドフィール値が高いほうが、表面のしっとり感が高まると考えられる。ただし、例えば、本実施形態のように、塗工工程において、裏面に保湿剤を塗布すると、塗工直後は、保湿剤を含んだ裏面のハンドフィール値は大きく向上するが、保湿剤を含まない表面のハンドフィール値は向上しない。
【0029】
このため、エージング工程で、保湿剤が表面まで万遍なく浸透するように、保湿剤を馴染ませる処理を行う。このエージング工程で、裏面のハンドフィール値は低下していき、表面のハンドフィール値は上昇していき、保湿剤が表面まで万遍なく浸透すると、製品としての保湿ティシュペーパーにおける表面のハンドフィール値HFa1も裏面のハンドフィール値HFa2も原紙における表面のハンドフィール値HFb1,裏面のハンドフィール値HFb2よりも大きくなる。そこで、差ΔHFab1(=HFa1-HFb1)が、3.0以上となるようにしている。
【0030】
この結果、製品としての保湿ティシュペーパーにおける表面のハンドフィール値HFa1は高くなるが、本実施形態では、製品としての保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1を77以上としている。上記のように、表面のハンドフィール値が高いほうが、表面のしっとり感が高まると考えられるからである。表面のハンドフィール値HFa1は、より好ましくは80以上、さらに好ましくは82以上である。
【0031】
また、保湿剤が表裏間でもまた紙面の広がる方向にも均一に浸透すると、製品としての保湿ティシュペーパーにおける表面のハンドフィール値HFa1の上昇量〔即ち、ΔHFab1(=HFa1-HFb1)〕に比べて、製品としての保湿ティシュペーパーにおける裏面のハンドフィール値HFa2の上昇量、即ち、ΔHFab2(=HFa2-HFb2)の方が大きい傾向にある。
【0032】
したがって、製品としての保湿ティシュペーパーにおいて、その表面のハンドフィール値HFa1とその裏面のハンドフィール値HFa2との差ΔHFa12(=HFa1-HFa2)が、保湿剤を塗布される前の原紙において、その表面のハンドフィール値HFb1とその裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)以下となれば、保湿剤が表裏間でもまた紙面の広がる方向にも均一に浸したものと推定できる。
【0033】
そこで、本実施形態では、製品としての保湿ティシュペーパーにおいて、その表面のハンドフィール値HFa1とその裏面のハンドフィール値HFa2との差ΔHFa12(=HFa1-HFa2)を、保湿剤を塗布される前の原紙において、その表面のハンドフィール値HFb1とその裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)以下としている。この操作は、例えばエージング工程の管理条件の変更等によって行うことができる。
【0034】
また、本実施形態では、保湿剤を塗布される前の原紙において、原紙の表面のハンドフィール値HFb1と、原紙の裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)は、7~17としている。この差ΔHFb12の操作は、例えば抄紙工程の条件の変更等によって行うことができる。
【0035】
また、本保湿ティシュペーパーでは、保湿剤の塗布量を3.0~5.0(g/m)に規定している。保湿剤の塗布量とは、1プライの保湿ティシュペーパーの単位面積あたりに塗布する保湿剤の量である。保湿剤の塗布量を多くするとハンドフィール値HFが高まるために下限値3.0(g/m)を規定している。また、保湿剤の塗布量を過剰に多くすると、接触感が好ましい「しっとり感」から、接触感が好ましくない「べっとり感」を与えるようになったり、紙が切れ易くなったりするおそれが考えられるため、上限値5.0(g/m)を規定している。
【0036】
また、本保湿ティシュペーパーでは、密度を0.26(g/cm )以下としている。密度を小さくすることで紙にふっくら感を与えると同時にしっとり感が高まると考えられるため、このように密度の上限値0.26(g/cm )を規定している。この保湿ティシュペーパーの密度は、0.24(g/cm )以下であることがより好ましい。
【0037】
ここで、ハンドフィール値(HF値)及びその測定方法を説明する。
ハンドフィール値(HF値)は、ティシューソフトネスアナライザー(Emtec Electronic GmbH社製)を用いて、以下の測定方法によって測定することができる。
【0038】
まず、ティシューソフトネスアナライザーのサンプル台に、直径112.8(mm)の円形にカットしたサンプルを設置する。サンプルは2プライの製品の場合、2プライのまま使用する。サンプルを円形にカットする際は、大体円形の中心がティシュ製品の中央部に位置するようにカットする。このサンプルに対し、ブレード付きローターを100(mN)の押し込み圧力をかけて上方から押し込む。その後、ブレード付きローターを回転数が2.0(回転/秒)となるように回転させ、その時の振動周波数を測定する。
また、直径112.8(mm)の円形にカットした別のサンプルに対し、ブレード付きローターを100(mN)と、600(mN)の圧力で押し込んだ際の上下方向の変形変位量を算出する。HF値は、振動周波数と変形変位量から算出される値であり、計算のアルゴリズムはFacialIIを用いることができる。
【0039】
HF値を算出する際は、各水準ごとに10組のサンプルを用意する。10組のサンプルを1組ずつ使用し、表面を1回測定する。このとき、表面とは、製品の外側を向いている面を指し、外側を向いている面であればどちらの面を測定しても構わない。1プライの製品であった場合は、より高いHF値を示した面を表面とする。10組のサンプルすべてを1回ずつ測定し、合計10個の測定データを得て、平均値を算出する。
なお、上記サンプルの測定はISO187に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)で行う。また、測定の際には、付属の説明書に従い標準サンプル(emetec ref.2X(nn.n))で校正し、アルゴリズムをFacialIIに設定する。計算ソフトウェアとしてはemetec measurement system ver.3.22を使用する。
【0040】
なお、密度については、坪量と紙厚とから算出することができる。
坪量は、JIS P8124の規定に従って測定することができる。
紙厚は、ISO187に準拠した環境で、厚さ計を用いて測定することができる。
また、塗布量は、塗布直後のロールから原紙を切り出して坪量を測定し、この測定した坪量から塗布前の原紙の坪量を差し引くことで塗布量を算出することができる。
【0041】
なお、ティッシュペーパーの坪量は、10(g/m2)以上であることが好ましく、13(g/m2)以上であることがより好ましく、15(g/m2)以上であることがさらに好ましい。一般的にティシュペーパーの坪量の上限値は、22(g/m2)程度であることが好ましく、20(g/m2)程度であることがより好ましく、18(g/m2)程度であることがさらに好ましい。なお、本実施形態におけるティッシュペーパーの坪量は、2プライのティッシュペーパーを構成する原紙1枚(1プライ)当たりの坪量を表す。
ティッシュペーパーの原紙の坪量を上記範囲内とすることにより、実用的強度を保持しつつも、滑らかな風合いと、ふっくらとした触感を発揮することができる。
【0042】
(作用及び効果)
本実施形態に係る保湿ティシュペーパー及びその製造方法は、上述のように構成されており、上記のように、保湿剤を塗布される前の1枚の原紙の表面のハンドフィール値HFb1と、製品化工程で製造された製品としての2プライのうちの1プライの保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1との差ΔHFab1(=HFa1-HFb1)を、3.0以上とすることによって、しっとり感を向上させることができると共に、滑らかな風合いや、ふっくらとした触感を発揮させることができるようになれる。
【実施例
【0043】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0044】
実施例1~4及び比較例にかかるティシュペーパーについては、何れも、以下のようにその原紙ウェブを製造されたものである。
まず、パルプ成分(100質量%)のうち、広葉樹クラフトパルプ(以下「LBKP」)が70質量% 、針葉樹クラフトパルプ(以下「NBKP」)が30質量%となるようにパルプスラリーを調製した。さらに、パルプスラリーには、柔軟剤を0.1~1.0質量%(対パルプ成分質量比)及び湿潤紙力剤を0.1~1.0質量%(対パルプ成分質量比)となるように添加した。このように調製したパルプスラリーを、ツインワイヤーヤンキーマシンを用いて抄造しティシュペーパーの原紙ウェブを得た。
得られた原紙ウェブ2本をプライマシンにかけ、巻き解きながら2プライへの重ね合せを行って、重ね合せ後、保湿剤を塗布して再度巻取り、2プライのティシュペーパーの原反ロールを得た。
【0045】
(試験方法)
(ハンドフィール値(HF値))
ハンドフィール値(HF値)は、前述のティシューソフトネスアナライザー(Emtec Electronic GmbH社製)を用いて、前述の測定方法によって測定した。
【0046】
(坪量)
坪量の測定値は、1プライのティシュペーパーの測定値を示している。坪量は、JIS P8124の規定に従って測定した。
【0047】
(紙厚)
厚さの測定値は、2プライのティシュペーパーの測定値を示している。厚さは、ISO187に準拠した環境で、厚さ計(Universal Micrometer(Xill社)(ISO12625-3に準拠))を用いて、測定子を1秒間に2(mm)の速度で下ろした時の値を読み取った。なお、測定は2プライのティシュペーパー10組を1組ずつ測定し、取得した10組の厚さを平均したものを紙厚とした。
【0048】
(密度)
密度は、坪量を紙厚で割って求めた。ただし、演算に用いる坪量及び紙厚には、同一プライ数のものを用いる。
【0049】
(引張強さ)
引張強度の測定値は、2プライのティシュペーパーの測定値であり、乾燥引張強度を示している。引張強度は、JIS P 8113に準拠して測定した。縦方向の引張強度と、横方向の引張強度を各10サンプルずつ測定し、その平均値を算出して引張強度とした。
【0050】
(官能評価)
「しっとり感」の評価は10人の評価者によって5段階評価で行った。「しっとり感」はティシュペーパーを肌に当てて、評価した。
評価結果は、下記の1~5の5段階で表記した。
< しっとり感>
5:きわめて優れている
4:より優れている
3:優れている
2:やや優れている
1:やや劣る
【0051】
以下の表1は、実施例1,2,3,4及び比較例1の各測定値を示している。
【表1】
【0052】
実施例1~4の保湿ティシュペーパーは何れも、原紙の表面のハンドフィール値HFb1と、製品化工程で製造された保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1との差ΔHFab1(=HFa1-HFb1)が、3.0以上である。一方、比較例の保湿ティシュペーパーの差ΔHFab1は3.0未満である。
【0053】
実施例1,2,4及び比較例の製品である保湿ティシュペーパーに用いられる原紙において、その表面のハンドフィール値HFb1と、その裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)が、7~17である。
【0054】
実施例1,2及び比較例の製品である保湿ティシュペーパーは何れも、保湿ティシュペーパーの表面のハンドフィール値HFa1とその裏面のハンドフィール値HFa2との差ΔHFa12(=HFa1-HFa2)が、その原紙の表面のハンドフィール値HFb1と原紙の裏面のハンドフィール値HFb2との差ΔHFb12(=HFb1-HFb2)以下となっている。
【0055】
また、実施例1~4の製品である保湿ティシュペーパーは何れも、表面のハンドフィールの値HFa1は77よりも大きい80以上である。
また、実施例1~4及び比較例の製品である保湿ティシュペーパーは何れも、密度が0.26(g/cm )以下であり、このうち実施例1~4のものは何れも、密度が0.26(g/cm )よりも小さい0.24(g/cm )以下である。
【0056】
実施例2の保湿ティシュペーパーは最高評価値5のしっとり感を有しており、実施例1の保湿ティシュペーパーは次に高い評価値4のしっとり感を有しており、実施例4の保湿ティシュペーパーは次に高い評価値3のしっとり感を有しており、実施例3の保湿ティシュペーパーは次の評価値2のしっとり感を有している。比較例の保湿ティシュペーパーのしっとり感は評価値1(やや劣る)の結果になっている。
したがって、差ΔHFab1の値、差ΔHFbb12の値、表面のハンドフィールの値HFa1の値、及び密度の各パラメータ値に対応した「しっとり感」の向上を確認することができた。
【0057】
(その他)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態等に限られることなく、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲で、適宜の変更や変形が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態に係る保湿ティシュペーパーは、2プライのものであるが、本発明ではこれに限られず、1プライや3プライ以上のものも適用可能である。
上記実施形態では、原紙の裏面に保湿剤を塗布しているが、これに限定されず、原紙の表面に保湿剤を塗布してもよく、原紙の両面に保湿剤を塗布してもよい。
上記実施形態では、ロールを非透水性部材で覆ってエージングをしており、これにより、エージング時間の短縮が促進されると共に保湿剤の揮発が抑制されるが、ロールを非透水性部材で覆うことなくエージングをしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
S10 抄紙工程
S20 塗工工程
S30 エージング工程
S40 カートン充填工程(製品化工程)
R1a,WR1b 第1次原反ロール
R2 第2次原反ロール
U1a,RU1b 巻戻しリール
巻取りリール
プライ部
Ua,VUb 加工速度
連続シート
積層連続シート
積層連続シートの外側面
積層連続シートの内側面
第1層シート
第2層シート
図1
図2