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特許7392473目的成分の抽出方法、抽出装置、製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】目的成分の抽出方法、抽出装置、製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/02 20060101AFI20231129BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20231129BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20231129BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20231129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C12P5/02
C12P7/22
C12P1/02 Z
C12P1/04 Z
C12M1/00 C
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019566485
(86)(22)【出願日】2019-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2019001140
(87)【国際公開番号】W WO2019142832
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018008273
(32)【優先日】2018-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 賢
(72)【発明者】
【氏名】中島 亜弓
(72)【発明者】
【氏名】新田 暢久
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-049484(JP,A)
【文献】特開2006-075679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0181438(US,A1)
【文献】特開2017-121247(JP,A)
【文献】J. Chem. Eng. Jpn,1985年,Vol.18, No.2,pp.125-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合流部、流通部及び送出部を有する流路を用いて、微生物及び目的成分を含む第一液から、前記目的成分が移行可能であって且つ前記第一液と相分離可能な第二液へと、前記目的成分を抽出する抽出方法であって、
前記抽出方法が、
前記合流部に前記第一液を供給する工程と、
前記合流部に前記第二液を供給する工程と、
前記合流部に供給された前記第一液及び前記第二液を、前記第一液の相と前記第二液の相とが分離した状態で、前記流通部に流通させる工程と、
前記流通部を流通した前記第一液及び前記第二液を、前記送出部から送出させる工程と、
前記送出部から送出された前記第一液及び前記第二液を、回収器に回収する工程と、を含み、
前記流通部において、前記第一液及び前記第二液が、流通方向において前記第一液の相及び前記第二液の相が交互に並んだスラグ流を形成する、抽出方法。
【請求項2】
前記微生物が、前記目的成分の生成能を有する、請求項1に記載の抽出方法。
【請求項3】
前記微生物が、遺伝子組換え微生物である、請求項1又は2に記載の抽出方法。
【請求項4】
前記第一液が、前記微生物及び前記目的成分を含む培養液であり、前記第二液が有機溶媒を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項5】
前記目的成分が、疎水性物質である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項6】
前記目的成分が、イソプレノイド化合物又はバニロイド化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項7】
前記微生物が、細菌又は酵母である、請求項1~6のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項8】
前記細菌が、コリネバクテリウム属細菌、パントエア属細菌、バシラス属細菌、エシェリヒア属細菌、及びエンテロバクター属細菌からなる群より選ばれる、請求項7に記載の抽出方法。
【請求項9】
前記合流部に供給される前記第一液における前記目的成分の濃度が、0.1g/L以上500g/L以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項10】
前記合流部に供給される前記第一液の乾燥微生物重量が、0.1g/L以上500g/L以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項11】
前記流通部の内径が、0.25mm以上10.0mm以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項12】
前記流通部における前記第一液及び前記第二液の温度が、10℃以上90℃以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項13】
前記第一液が、水を含み、
前記第二液が、目的成分を溶解でき且つ水と相分離可能な有機溶媒を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の抽出方法。
【請求項14】
微生物を含む第一液を収納した第一容器において、前記微生物に目的成分を生成させる工程と、
前記第一容器から、合流部、流通部及び送出部を有する流路の前記合流部に、前記第一液を供給する工程と、
前記合流部に、前記目的成分が移行可能であって且つ前記第一液と相分離可能な第二液を供給する工程と、
前記合流部に供給された前記第一液及び前記第二液を、前記第一液の相と前記第二液の相とが分離した状態で、前記流通部に流通させる工程と、
前記流通部を流通した前記第一液及び前記第二液を、前記送出部から送出する工程と、
前記送出部から送出された前記第一液及び前記第二液を、回収器に回収する工程と、を含み、
前記流通部において、前記第一液及び前記第二液が、流通方向において前記第一液の相及び前記第二液の相が交互に並んだスラグ流を形成する、目的成分の製造方法。
【請求項15】
前記回収器に回収された前記第一液を、前記第一容器に戻す工程を含む、請求項14に記載の目的成分の製造方法。
【請求項16】
前記回収器に回収された前記第二液を、前記合流部に戻す工程を含む、請求項14又は15に記載の目的成分の製造方法。
【請求項17】
前記目的成分が、前記微生物による前記目的成分の生成を阻害する性質を有する、請求項1416のいずれか一項に記載の目的成分の製造方法。
【請求項18】
前記第一液が、水を含み、
前記第二液が、目的成分を溶解でき且つ水と相分離可能な有機溶媒を含む、請求項1417のいずれか一項に記載の目的成分の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物及び目的成分を含む液体からの前記目的成分の抽出方法及び抽出装置に関する。また、本発明は、微生物によって目的成分を製造する製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ある目的成分を製造する際、微生物を用いた製造方法が採用されることがある。このような製造方法では、一般に、微生物を含む培養液中で、微生物に目的成分を生成させる。そして、必要に応じて殺菌し、微生物を分離した後で、目的成分を培養液から取り出す。目的成分を培養液から取り出す方法としては、抽出法が用いられることがある。
【0003】
他方、非特許文献1~8のような技術は、公知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kai Wang, Guangsheng Luo 「Microflow extraction: A review of recent development」 Chemical Engineering Science (2017) 169, p.18-33
【文献】Mercedes C. Morales, Jeffrey D. Zahn 「Droplet enhanced microfluidic-based DNA purification from bacterial lysates via phenol extraction」 Microfluid Nanofluid (2010) 9, p.1041-1049
【文献】Ki-Hwan Nam, Woo-Jin Chang, Hyejin Hong, Sang-Min Lim, Dong-Il Kim, Yoon-Mo Koo1 「Continuous-Flow Fractionation of Animal Cells in Microfluidic Device Using Aqueous Two-Phase Extraction」 Biomedical Microdevices (2005)7:3, p.189-195
【文献】Masatoshi Tsukamoto, Shu Taira, Shohei Yamamura, Yasutaka Morita, Naoki Nagatani, Yuzuru Takamura, Eiichi Tamiya 「Cell separation by an aqueous two-phase system in a microfluidic device」 The Royal Society of Chemistry (2009) 134, p.1994-1998
【文献】Najla Ben Akacha, Mohamed Gargouri 「Microbial and enzymatic technologies used for the production of natural aroma compounds: Synthesis, recovery modeling, and bioprocesses」 food and bioproducts processing (2015) 94, p.675-706
【文献】Hendrik Schewe, Marco Antonio Mirata and Jens Schrader 「Bioprocess Engineering for Microbial Synthesis and Conversion of Isoprenoids」 Adv Biochem Eng Biotechnol (2015) 148, p.251-286
【文献】Arjan S. Heeres, Carolina S.F. Picone, Luuk A.M. van der Wielen, Rosiane L. Cunha, and Maria C. Cuellar 「Microbial advanced biofuels production: overcoming emulsification challenges for large-scale operation」 Trends in Biotechnology, April 2014, Vol. 32, No. 4, p.221-229
【文献】Jovan Jovanovic, Evgeny V. Rebrov, T.A.(Xander)Nijhuis, M.T.Kreutzer, Volker Hessel, and Jaap C. Schouten 「Liquid-Liquid Flow in a Capillary Microreactor: Hydrodynamic Flow Patterns and Extraction Performance」 Industrial & Engineering Chemistry Research, 2012, 51, p.1015-1026
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養液からの微生物の分離には、大きな手間及び時間を要する。よって、微生物の分離と目的成分の抽出とを別々の工程で行うと、コストが大きくなる傾向がある。そこで、本発明者は、微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に行うべく、検討を行った。
【0006】
本発明者は、培養液と抽出溶媒とを容器中に入れ、撹拌することで、微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に行うことを試みた。しかし、多くの実験においては、撹拌によって懸濁が生じ、微生物の分離を行うことができなかった。また、一部の実験では、撹拌後に容器を静置することで微生物を含む培養液と微生物を含まない抽出液とを分離することができた。しかし、この分離には数分間以上の静置を要し、短時間での実施は達成できなかった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、微生物の分離と目的成分の抽出とを、同時に行うことができる抽出方法及び抽出装置;並びに、微生物の分離と目的成分の抽出とを、同時に行いながら、目的成分を製造できる製造方法及び製造装置;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕 合流部、流通部及び送出部を有する流路を用いて、微生物及び目的成分を含む第一液から、前記目的成分が移行可能であって且つ前記第一液と相分離可能な第二液へと、前記目的成分を抽出する抽出方法であって、
前記抽出方法が、
前記合流部に前記第一液を供給する工程と、
前記合流部に前記第二液を供給する工程と、
前記合流部に供給された前記第一液及び前記第二液を、前記第一液の相と前記第二液の相とが分離した状態で、前記流通部に流通させる工程と、
前記流通部を流通した前記第一液及び前記第二液を、前記送出部から送出させる工程と、
前記送出部から送出された前記第一液及び前記第二液を、回収器に回収する工程と、を含む、抽出方法。
〔2〕 前記流通部において、前記第一液及び前記第二液が、流通方向において前記第一液の相及び前記第二液の相が交互に並んだスラグ流を形成する、〔1〕に記載の抽出方法。
〔3〕 前記微生物が、前記目的成分の生成能を有する、〔1〕又は〔2〕に記載の抽出方法。
〔4〕 前記微生物が、遺伝子組換え微生物である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔5〕 前記第一液が、前記微生物及び前記目的成分を含む培養液であり、前記第二液が有機溶媒を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔6〕 前記目的成分が、疎水性物質である、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔7〕 前記目的成分が、イソプレノイド化合物又はバニロイド化合物である、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔8〕 前記微生物が、細菌又は酵母である、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔9〕 前記細菌が、コリネバクテリウム属細菌、パントエア属細菌、バシラス属細菌、エシェリヒア属細菌、及びエンテロバクター属細菌からなる群より選ばれる、〔8〕に記載の抽出方法。
〔10〕 前記合流部に供給される前記第一液における前記目的成分の濃度が、0.1g/L以上500g/L以下である、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔11〕 前記合流部に供給される前記第一液の乾燥微生物重量が、0.1g/L以上500g/L以下である、〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔12〕 前記流通部の内径が、0.25mm以上10.0mm以下である、〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔13〕 前記流通部における前記第一液及び前記第二液の温度が、10℃以上90℃以下である、〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の抽出方法。
〔14〕 微生物及び目的成分を含む第一液から、前記目的成分が移行可能であって且つ前記第一液と相分離可能な第二液へと、前記目的成分を抽出するための抽出装置であって、
前記第一液を供給できる第一供給部と;
前記第二液を供給できる第二供給部と;
前記第一液及び前記第二液を供給されることができる合流部、前記合流部に供給された前記第一液及び前記第二液が流通できる流通部、並びに、前記流通部を流通した前記第一液及び前記第二液を送出できる送出部、を有する流路と;
前記送出部から送出された前記第一液及び前記第二液を回収できる回収器と、を備え;
前記第一液の相及び前記第二液の相が分離した状態で前記第一液及び前記第二液が前記流通部を流通できる、抽出装置。
〔15〕 微生物を含む第一液を収納した第一容器において、前記微生物に目的成分を生成させる工程と、
前記第一容器から、合流部、流通部及び送出部を有する流路の前記合流部に、前記第一液を供給する工程と、
前記合流部に、前記目的成分が移行可能であって且つ前記第一液と相分離可能な第二液を供給する工程と、
前記合流部に供給された前記第一液及び前記第二液を、前記第一液の相と前記第二液の相とが分離した状態で、前記流通部に流通させる工程と、
前記流通部を流通した前記第一液及び前記第二液を、前記送出部から送出する工程と、
前記送出部から送出された前記第一液及び前記第二液を、回収器に回収する工程と、を含む、目的成分の製造方法。
〔16〕 前記回収器に回収された前記第一液を、前記第一容器に戻す工程を含む、〔15〕に記載の目的成分の製造方法。
〔17〕 前記回収器に回収された前記第二液を、前記合流部に戻す工程を含む、〔15〕又は〔16〕に記載の目的成分の製造方法。
〔18〕 前記目的成分が、前記微生物による前記目的成分の生成を阻害する性質を有する、〔15〕~〔17〕のいずれか一項に記載の目的成分の製造方法。
〔19〕 微生物を含む第一液を収納し、前記微生物に目的成分を生成させることができる第一容器と、
前記第一容器に収納された前記第一液を供給できる第一供給部と、
前記目的成分が移行可能であって且つ前記第一液と相分離可能な第二液を供給できる第二供給部と、
前記第一液及び前記第二液を供給されることができる合流部、前記合流部に供給された前記第一液及び前記第二液が流通できる流通部、並びに、前記流通部を流通した前記第一液及び前記第二液を送出できる送出部、を有する流路と;
前記送出部から送出された前記第一液及び前記第二液を回収できる回収器と、を備え;
前記第一液の相及び前記第二液の相が分離した状態で前記第一液及び前記第二液が前記流通部を流通できる、目的成分の製造装置。
〔20〕 前記回収器に回収された前記第一液を、前記第一容器に戻すことができる第一循環部を備える、〔19〕記載の目的成分の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微生物の分離と目的成分の抽出とを、同時に行うことができる抽出方法及び抽出装置;並びに、微生物の分離と目的成分の抽出とを、同時に行いながら、目的成分を製造できる製造方法及び製造装置;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第一実施形態に係る抽出装置を模式的に示す概要図である。
図2図2は、本発明の第一実施形態において用いる抽出管の断面を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第一液及び第二液によって形成されるスラグ流の一例を示すため、流通部を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本発明の第二実施形態に係る製造装置を模式的に示す概要図である。
図5図5は、本発明の実施例59で第一液及び第二液を回収した直後の回収器を撮影した写真を示す。
図6図6は、本発明の実施例65で第一液及び第二液を回収した直後の回収器を撮影した写真を示す。
図7図7は、本発明の実施例73で第一液及び第二液を回収した直後の回収器を撮影した写真を示す。
図8図8は、比較例4において撹拌を終えた直後の時点でのチューブ容器を撮影した写真を示す。
図9図9は、比較例4において撹拌後20分の時点でのチューブ容器を撮影した写真を示す。
図10図10は、比較例4において撹拌後1時間の時点でのチューブ容器を撮影した写真を示す。
図11図11は、比較例4において撹拌後24時間の時点でのチューブ容器を撮影した写真を示す。
図12図12は、比較例5において撹拌後60時間の時点でのチューブ容器を撮影した写真を示す。
図13図13は、本発明の実施例74で測定されたミリスチン酸イソプロピル中のリナロール濃度を示すグラフである。
図14図14は、本発明の実施例74及び比較例13における、培養液に含まれるリナロールと、ミリスチン酸イソプロピルに含まれるリナロールとの合計生成量を示すグラフである。
図15図15は、本発明の実施例74及び比較例13における、培養開始後24.5時間の時点での培養液中の有機酸濃度を示すグラフである。
図16図16は、本発明の実施例75で測定されたミリスチン酸イソプロピル中のリナロール濃度を示すグラフである。
図17図17は、本発明の実施例75及び比較例14~16における、培養液中のリナロール濃度を示すグラフである。
図18図18は、本発明の実施例75及び比較例14~16における、培養液に含まれるリナロールと、ミリスチン酸イソプロピルに含まれるリナロールとの合計生成量を示すグラフである。
図19図19は、本発明の実施例75及び比較例14~16における、培養開始後43時間の時点での培養液中の有機酸濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0012】
[1.第一実施形態]
本発明の抽出方法では、微生物及び目的成分を含む第一液から、目的成分が移行可能な第二液へと、目的成分を抽出する。また、第二液としては、適切な条件において、第一液と相分離可能な液を用いる。通常、第一液は、第一溶媒を含み、また、第二液は、第二溶媒を含む。そして、第一溶媒と第二溶媒との組み合わせが、適切な条件で相分離できる組み合わせであることにより、第一液と第二液との相分離が可能となる。通常は、第一溶媒として水を用い、第二溶媒として水と相分離可能な有機溶媒を用いることが多いが、第一溶媒と第二溶媒との組み合わせは、これに限定されない。
以下、図面を示して、抽出方法に係る一実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の第一実施形態に係る抽出装置100を模式的に示す概要図である。
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る抽出装置100は、第一液10から第二液20へと目的成分(図示せず)を抽出するための装置であって、第一容器110と、第一供給部120と、第二容器130と、第二供給部140と、内部に流路(図2参照)を有する抽出管150と、回収器160とを備える。
【0014】
第一容器110は、抽出管150内の流路に供給される第一液10を収納した容器である。第一容器110に収納された第一液10は、目的成分を抽出される前の原液である。この第一液10は、微生物、目的成分及び第一溶媒を含む。
【0015】
第一容器110は、少なくとも100リットルの容量を有してもよい。一部の実施態様において、容器は、少なくとも1000リットル、少なくとも10,000リットル、少なくとも50,000リットル、少なくとも100,000リットル、少なくとも250,000リットルの容量を有する。
【0016】
微生物の種類は、制限されない。また、微生物は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0017】
第一容器110に収納された第一液10における微生物の濃度は、特段の制限は無い。好適な範囲を挙げると、この第一液10の乾燥微生物重量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上、特に好ましくは5g/L以上であり、通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下、より好ましくは200g/L以下である。微生物の濃度が前記下限値以上であることにより、微生物を分離できるという効果を有効に活用できる。また、微生物の濃度が前記上限値以下であることにより、微生物の分離を円滑に行うことができる。
【0018】
第一液10における微生物の濃度は、通常、O.D.値によっても表すことができる。例えば、第一容器110に収納された第一液10のO.D.600nmは、好ましくは0.028以上、より好ましくは2.8以上、特に好ましくは28.3以上であり、好ましくは1415以下、より好ましくは840以下、特に好ましくは560以下である。また、例えば、第一容器110に収納された第一液10のO.D.562nmは、好ましくは0.03以上、より好ましくは3以上、特に好ましくは30以上であり、好ましくは1500以下、より好ましくは900以下、特に好ましくは600以下である。第一液10のO.D.値が前記下限値以上であることにより、微生物を分離できるという効果を有効に活用できる。また、微生物の濃度が前記上限値以下であることにより、微生物の分離を円滑に行うことができる。
【0019】
O.D.600nmは、測定装置として分光光度計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製「HITACHI U-2900」)を用いて、測定波長600nmで測定できる。また、O.D.562nmは、前記の測定装置を用いて、測定波長562nmで測定できる。
【0020】
目的成分の種類は、制限されない。また、目的成分は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0021】
第一容器110に収納された第一液10における目的成分の濃度は、特段の制限は無い。好適な範囲を挙げると、この目的成分の濃度は、通常0.1g/L以上、好ましくは0.3g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上であり、通常500g/L以下、好ましくは50g/L以下、更に好ましくは30g/L以下、特に好ましくは20g/L以下である。目的成分の濃度が前記下限値以上であることにより、目的成分の抽出を円滑に行うことができる。また、目的成分の濃度が前記上限値以下であることによっても、目的成分の抽出を円滑に行うことができる。
【0022】
第一液10における目的成分の濃度は、ガスクロマトグラフィー(以下、適宜「GC」ということがある。)によって測定できる。
【0023】
第一溶液10は、通常、第一溶媒を含む。第一溶媒は、第二溶液20に含まれる第二溶媒と相分離可能なものが好ましい。また、第一溶媒は、目的成分の溶解度が低いものが好ましい。第一溶媒の種類は、目的成分及び第二溶媒の種類に応じて、適切なものを選択することが好ましい。好適な第一溶媒の例としては、水等の水系溶媒が挙げられる。また、第一溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0024】
第一液10のpHは、適切な範囲に調整してもよい。第一液10のpHを適切に調整することにより、微生物を殺菌したり、微生物を培養したりできる。また、微生物を培養した液によっては、微生物、微生物が生産する界面活性物質、培養時に使用する消泡剤等の成分が界面活性剤のように機能することで、第一液10と第二液20との相分離が妨げられることがあり得るが、pHを適切に調整することにより、界面活性剤のような機能を抑制することができる。第一液10の具体的なpHは、通常1.0以上、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上であり、通常10.0以下、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.0以下である。
【0025】
第一液10は、微生物の分離と目的成分の抽出とを著しく妨げない範囲であれば、必要に応じて、微生物、目的成分及び第一溶媒以外に任意の成分を含んでいてもよい。
【0026】
第一供給部120は、第一容器110に収納された第一液10を抽出管150内の流路(図2参照)に供給できるように設けられた装置である。本実施形態では、第一供給部120が、第一容器110及び抽出管150に接続された第一供給路としての第一供給管121と、この第一供給管121に設けられた第一流量調整部としての第一送液ポンプ122とを備えた例を示す。この第一供給部120は、第一容器110に収納された第一液10を、第一供給管121を通して抽出管150内の流路へと供給できるように設けられている。また、この第一供給部120は、第一供給管121を通して供給する第一液10の流量を、第一送液ポンプ122によって調整できるように設けられている。
【0027】
第二容器130は、抽出管150内の流路に供給される第二液20を収納している容器である。第二容器130に収納された第二液20としては、第一液10に含まれる目的成分を抽出するために、目的成分が移行可能であって、且つ、第一液10と相分離可能な液体を用いる。
【0028】
第二液20に目的成分が移行可能である、とは、第一液10と第二液20とを抽出管150内の流路に流通させた場合に、第一液10に含まれていた目的成分が第二液20へと移行できることを意味する。通常は、第二液20に含まれる第二溶媒に目的成分が溶解されることで、前記の移行が行われる。
【0029】
第二液20が第一液10と相分離可能である、とは、第一液10と第二液20とを抽出管150内の流路に流通させた場合に、第一液10の相と第二液20の相とが分離できることを意味する。第一液10の相と第二液の相とが分離できる限り、第一液10の相に第二溶媒の一部が混入してもよく、第二液20の相に第一溶媒の一部が混入してもよい。ただし、微生物の分離と目的成分の抽出とを効率良く行うためには、前記のような混入は小さいことが好ましい。
【0030】
第二液20は、通常、第二溶媒を含む。第二溶媒としては、目的成分の溶解度が高いものが好ましい。また、第二溶媒としては、第一液10に含まれる第一溶媒と相分離可能なものが好ましい。第二溶媒の種類は、第一液10に含まれる目的成分及び第一溶媒の種類に応じて、適切なものを選択することが好ましい。例えば、第一溶媒が水である場合、好適な第二溶媒としては、水と相分離可能な有機溶媒が挙げられる。
【0031】
前記の有機溶媒としては、例えば、メチル-ターシャリー-ブチルエーテル等のエーテル溶媒;ミリスチン酸イソプロピル、酢酸エチル等のエステル溶媒;ケトン溶媒;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒;植物油;などが挙げられる。
【0032】
第一溶媒が水である場合について、以下、好ましい第二溶媒の例を挙げる。
例えば、目的成分がリナロール等のイソプレノイド化合物を含む場合、第二溶媒としては、ミリスチン酸イソプロピル、酢酸エチル、メチル-ターシャリー-ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、植物油等が挙げられる。
例えば、目的成分がバニリン等の芳香族化合物を含む場合、第二溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、ヘプタン、植物油等が挙げられる。
また、第二溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0033】
第二液20は、微生物の分離と目的成分の抽出とを著しく妨げない範囲であれば、必要に応じて、第二溶媒以外に任意の成分を含んでいてもよい。
【0034】
第二供給部140は、第二容器130に収納された第二液20を抽出管150内の流路(図2参照)に供給できるように設けられた装置である。本実施形態では、第二供給部140が、第二容器130及び抽出管150に接続された第二供給路としての第二供給管141と、この第二供給管141に設けられた第二流量調整部としての第二送液ポンプ142とを備えた例を示す。この第二供給部140は、第二容器130に収納された第二液20を、第二供給管141を通して抽出管150内の流路へと供給できるように設けられている。また、この第二供給部140は、第二供給管141を通して供給する第二液20の流量を、第二送液ポンプ142によって調整できるように設けられている。
【0035】
抽出管150は、当該抽出管150内に流路を有する部材である。本実施形態では、抽出管150の上流端部に設けられたT字型ミキサー部151と、このT字型ミキサー部151の下流に接続された管部152とを備えた抽出管150を例に挙げて説明する。
【0036】
図2は、本発明の第一実施形態において用いる抽出管150の断面を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、抽出管150内には、第一液10及び第二液20が流通するための流路170が形成されている。この流路170は、上流から順に、合流部171、流通部172及び送出部173を有する。本実施形態では、抽出管150のミキサー部151に合流部171が形成され、管部152に流通部172及び送出部173が形成された例を示す。
【0037】
合流部171は、第一供給部120から第一液10を供給されることができるように設けられている。さらに、合流部171は、第二供給部140から第二液20を供給されることができるように設けられている。よって、合流部171は、当該合流部171に供給された第一液10及び第二液20が合流して、共通の流通部172を流通できるように設けられている。通常、合流部171は、当該合流部171に供給された第一液10及び第二液20が直ぐ流通部172を流通できるように、流通部172の上流側端部に設けられる。
【0038】
流通部172は、合流部171に供給された第一液10及び第二液20が流通できるように、合流部171に接続して設けられている。第一液10及び第二液20が共通の流通部172を流通するので、この流通部172を流通する期間に、第一液10から第二液20への目的成分の抽出ができる。さらに、この流通部172は、第一液10と第二液20とが、第一液10の相及び第二液20の相が分離した状態で当該流通部172を流通できるように設けられている。
【0039】
流通部172の寸法は、第一液10の相及び第二液20の相が分離した状態での流通が可能となるように設定される。中でも、第一液10の相と第二液20の相との相界面の流量当たりの広さを大きくして、第一液10から第二液20への目的成分の移行を促進する観点では、流通部172の断面積は小さいことが好ましい。流通部172の断面積とは、流路170の流通方向に対して垂直な平面で切った断面積をいう。
【0040】
流通部172の具体的な断面積は、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、更に好ましくは10mm以下である。流通部172の断面積が、前記の上限以下であることにより、適切な条件において第一液10及び第二液20にスラグ流を形成させることができる。また、流量当たりの相界面の広さを大きくして、目的成分の抽出率を高めることができる。さらに、流通部172の断面積は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1.0mm以上である。流通部172の断面積が、前記の下限値以上であることにより、回収器160での第一液10と第二液20との分離を速やかに進行させることができる。また、流通部172を流通する液量を大きくできるので、目的成分の抽出量を大きくすることができる。
【0041】
流通部172の断面積は、流通方向において均一でもよく、不均一でもよい。例えば、流通部172において第一液10及び第二液20がスラグ流を形成する場合、断面積が不均一な流通部172では、断面積が変化する部分において、第一液の相(図3の相30を参照。)同士の合一並びに第二液の相(図3の相40を参照。)同士の合一を可能にできることがある。
【0042】
流通部172の内径は、好ましくは0.25mm以上、好ましくは1.5mm以上であり、2.0mm以上であってもよい。また、流通部172の内径は、好ましくは10.0mm以下、より好ましくは8.0mm以下であり、7.0mm以下であってもよい。流通部172の内径が前記の範囲にある場合、微生物の分離と目的成分の抽出とを円滑に行い易い。
【0043】
流通部172の壁面172Sの素材は、任意である。例えば、ガラス;ステンレス等の合金;などの無機材料を用いてもよい。また、例えば、樹脂等の有機材料を用いてもよい。具体的な素材は、流通部172を流通する第一液10と第二液20とが相の分離を生じることができるように、適切な種類の素材を選択して用いることが望ましい。
【0044】
流通部172の壁面172Sは、突起及び窪みが無い滑らかな面となっていることが好ましい。これにより、突起又は窪みによる乱流の発生を抑制できる。よって、第一液10及び第二液20の流れを安定にできるので、第一液10の相と第二液20の相とを分離させた状態を安定して維持することができる。
【0045】
送出部173は、流通部172を流通した第一液10及び第二液20を送出できるように設けられた出口であり、流通部172の下流側端部に設けられている。
【0046】
回収器160は、図1に示すように、抽出管150の送出部173を通って送出された第一液10及び第二液20を回収できるように設けられた容器である。本実施形態では、回収器160内に抽出管150の送出部173が設けられた例を示す。
【0047】
上述した抽出装置100を用いることにより、抽出管150内の流路170を用いて、第一液10から第二液20へと目的成分を抽出する抽出方法を行うことができる。この抽出方法は、
(1)流路170の合流部171に第一液10を供給する工程と、
(2)流路170の合流部171に第二液20を供給する工程と、
(3)合流部171に供給された第一液10及び第二液20を、第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態で、流通部172に流通させる工程と、
(4)流通部172を流通した第一液10及び第二液20を、送出部173から送出させる工程と、
(5)送出部173から送出された第一液10及び第二液20を、回収器160に回収する工程と、
を含む。
【0048】
合流部171に第一液10を供給する工程では、第一供給部120によって、第一容器110に収納された第一液10を、抽出管150内の流路170の合流部171に供給する。具体的には、第一送液ポンプ122を作動させて、第一容器110から第一液10を取り出す。そして、取り出した第一液10を、第一供給管121を通して、合流部171へと供給する。第一送液ポンプ122の出力は、通常、流通部172における第一液10の線速、流通量、流通時間を所望の範囲に収められるように調整される。
【0049】
合流部171に第二液20を供給する工程では、第二供給部140によって、第二容器130に収納された第二液20を、抽出管150内の流路170の合流部171に供給する。具体的には、第二送液ポンプ142を作動させて、第二容器130から第二液20を取り出す。そして、取り出した第二液20を、第二供給管141を通して、合流部171へと供給する。第二送液ポンプ142の出力は、通常、流通部172における第二液20の線速、流通量、流通時間を所望の範囲に収められるように調整される。
【0050】
合流部171に第一液10及び第二液20が供給されると、これらの第一液10及び第二液20は、合流する。合流した後、第一液10及び第二液20を、流通部172に流通させる工程が行われる。この工程では、第一液10と第二液20とを、懸濁させず、第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態で、流通部172に流通させる。この流通の際、第一液10の相と第二液20の相との界面を通して、目的成分が第一液10から第二液20へと移行する。また、第一液10に含まれる微生物は、第一液10の相と第二液20の相との界面を通ることができないので、第一液10の相に留められる。よって、第二液20の相は、微生物の取り込みを抑制しながら、目的成分を選択的に取り込むことができる。このように微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に進行させられるので、流通部172を通る流通によって、第二溶媒及び目的成分を含む抽出液として第二液20を得ることができる。
【0051】
回収器160に回収された後に第一液10の相と第二液20の相との分離を円滑に行うため、通常は、送出部173から送出される時点において、第一液10の相と第二液20の相とが分離していることが求められる。よって、流通部172の流通方向の全体において、第一液10の相と第二液20の相とが分離していることが望ましい。ここで、流通部172の流通方向の全体とは、流路170における合流部171から送出部173までの範囲をいう。
【0052】
第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態での第一液10及び第二液20が形成する流れとしては、例えば、層流、環状流、スラグ流などが挙げられる。これらの流れのタイプは、ある実施形態においては、流通部172の長さL、並びに、第一液10のウェーバー数と第二液20のウェーバー数との関係によって決定されうる。前記のウェーバー数Weとは、式「We=d×D×V/σ」で表される無次元数である。前記の式において、「d」は液体の密度を表し、「D」は流通部172の内径を表し、「V」は液体の線速を表し、「σ」は液体の表面張力を表す。第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態であれば、第一液10の相から第二液20の相への目的成分の移行が可能であるので、具体的な流れのタイプは、任意である。中でも、第一液10から第二液20への目的成分の移行を促進する観点では、スラグ流が好ましい。
【0053】
図3は、第一液10及び第二液20によって形成されるスラグ流の一例を示すため、流通部172を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、スラグ流とは、矢印A1で示す流通方向において第一液の相30と第二液の相40とが交互に並んだ流れを表す。スラグ流では、これらの相30及び相40が、それぞれ流通部172を栓のように塞ぐ程度に大きく形成されることで、第一液の相30と第二液の相40とが交互に並ぶことができる。
【0054】
スラグ流が形成されている場合、第一液の相30では、通常、矢印A10で示すように循環流が生じる。また、第二液の相40では、通常、矢印A20で示すように循環流が生じる。スラグ流においては、これらの循環流の作用により、第一液の相30から第二液の相40への目的成分の移行を効率的に行うことが可能である。
【0055】
流通部172を流通する途中で、第一液10の複数の相30同士が、合一してもよい。また、流通部172を流通する途中で、第二液20の複数の相40同士が、合一してもよい。例えば、流通部172に、当該拡径部の上流よりも大きい断面積を有する適切な拡径部(図示せず。)が形成されている場合、この拡径部において前記の合一を生じさせることができる。
【0056】
流通部172を流通する第一液10及び第二液20の流通条件は、第一液の相30と第二液の相40とが分離したスラグ流等の状態が得られる範囲で、設定できる。具体的な条件は、第一液10の組成、第二液20の組成、流通部172の壁面172Sの素材、流通部172の寸法等の要素に応じて、適切に設定することが望ましい。
【0057】
一般的には、第一液10から第二液20への目的成分の移行を促進して高い抽出率を達成する観点では、第一液10及び第二液20の線速は速いことが好ましい。ここで、線速とは、流通方向への単位時間当たりの移動距離を表す。また、同じく高い抽出率を達成する観点では、第一液10及び第二液20の流通時間は長いことが好ましい。ここで、流通時間とは、流通部172の流通開始から流通終了までにかかる時間を表す。ただし、第一液10と第二液20との組み合わせが、相の分離が解消され易い組み合わせである場合、線速及び流通時間の上限は適切に設定することが望ましい。上限を適切に設定することにより、第一液10と第二液20との乳化等による中間相の発生を、効果的に抑制できる。よって、回収器160で抽出液として得られる第二液20の量を多くできるので、分離性を高めることができる。
【0058】
流通部172における第一液10及び第二液20の具体的な線速は、通常1mm/秒以上、好ましくは5mm/秒以上、より好ましくは10mm/秒以上である。線速が前記下限値以上であることにより、目的成分の抽出率を効果的に高めることができる。線速の上限は、第一液10の組成、第二液20の組成、流通部172の壁面172Sの素材、流通部172の寸法等の要素によって異なるが、例えば、2000mm/秒以下、1500mm/秒以下、1000mm/秒以下、600mm/秒以下、400mm/秒以下、200mm/秒以下、100mm/秒以下、50mm/秒以下、などでありうる。
【0059】
流通部172における第一液10及び第二液20の具体的な流通時間は、通常0.1秒以上、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1秒以上、更に好ましくは2秒以上である。流通時間が前記下限値以上であることにより、目的成分の抽出率を効果的に高めることができる。流通時間の上限は、第一液10の組成、第二液20の組成、流通部172の壁面172Sの素材、流通部172の寸法等の要素によって異なるが、例えば、1000秒以下、500秒以下、300秒以下、200秒以下、150秒以下、100秒以下、50秒以下、などでありうる。
【0060】
ある実施形態において、安定したスラグ流を形成する観点では、パラメータ「(L/S)×V」は、好ましくは1.3×10(s-1)以下、より好ましくは1.2×10(s-1)以下である。ここで、Sは、流通部172の断面積を表し、Lは、流通部172の長さを表し、Vは、流通部172における第一液10及び第二液20の線速を表す。
【0061】
流通部172を流通する第一液10の量と第二液20の量とは、同じでもよく、異なっていてもよい。よって、流通部172へ供給される第一液10の単位時間当たりの量と、流通部172へ供給される第二液20の単位時間当たりの量とは、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0062】
スラグ流が形成されている場合、流通部172における各第一液の相30の長さL30は、通常1mm以上、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上である。第一液の相30の長さL30が前記下限値以上であることにより、回収器160での第一液10と第二液20との分離を速やかに進行させることができる。また、第一液の相30の長さL30の上限は、通常5cm以下、好ましくは2cm以下、より好ましくは1cm以下である。第一液の相30の長さL30が前記上限値以下であることにより、第一液10から第二液20への目的成分の移行を促進できる。
【0063】
スラグ流が形成されている場合、流通部172における各第二液の相40の長さL40は、第一液の相30の長さL30の範囲として上述したのと同じ範囲に収まることが好ましい。これにより、第一液の相30の長さL30に関して説明したのと同じ利点を得ることができる。
【0064】
流通部172における第一液10及び第二液20の温度は、限定されない。第一液10から第二液20への目的成分の移行速度を速めて速やかな抽出を達成する観点では、第一液10及び第二液20の温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上である。また、微生物のより安定した分離を達成する観点では、第一液10及び第二液20の温度は、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下、中でも好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下である。
【0065】
第一液10及び第二液20が流路170の流通部172を流通した後で、それら流通部172を流通した第一液10及び第二液20を送出部173から送出させる工程を行う。第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態で流通部172を流通するので、通常、送出部173を通って送出される際にも、第一液10の相と第二液20の相は分離している。
【0066】
その後、送出部173から送出された第一液10及び第二液20を、図1に示すように、回収器160に回収する工程を行う。共通の回収器160に回収された第一液10と第二液20とは、速やかに相分離を生じる。よって、回収器160内には、第一溶媒及び微生物を含む第一液10の相と、第二溶媒及び目的成分を含む抽出液としての第二液20の相とが得られる。相分離を生じているので、第二液20の相を取り出すことは容易である。
【0067】
前記の回収器160内において、第一液10の相には、第二溶媒が含まれることがあり得る。このように第一液10の相に第二溶媒が含まれると、その分だけ第二液20の相の量が少なくなり、抽出液として得られる第二液20の量が少なくなりうる。よって、上述した抽出方法では、第一液10の相に第二溶媒が混入し難い条件を採用することが好ましい。
【0068】
前記の抽出方法での抽出率は、通常10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは60%以上である。抽出率は、下記の方法によって測定できる。
回収器160に回収された第二液20における目的成分の濃度を測定する。この濃度の測定は、ガスクロマトグラフィーによって行うことができる。この濃度に、回収器160に回収された第二液20の量を掛け算して、目的成分の抽出量を得る。この抽出量を、抽出前の第一液に含まれていた目的成分の量で割算して、抽出率が求められる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る抽出方法によれば、微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に行って、目的成分を含み且つ微生物を含まない第二液20を抽出液として得ることができる。この抽出方法によれば、抽出工程の前に第一液10から微生物を分離する工程を別途行う必要が、無い。よって、本実施形態に係る抽出方法は、短時間での実施が可能である。また、本実施形態に係る抽出方法は、微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に行えるので、工程数を減らして操作を簡便にすることができる。
【0070】
さらに、本実施形態に係る抽出方法では、第一液10及び第二液20が流路170の流通部172を流通する短時間で、目的成分の抽出及び微生物の分離を行うことができる。第一液10及び第二液20が流通部172を流通する時間は、抽出のために第一液10と第二液20とが接触する抽出時間である。上述した実施形態に係る抽出方法では、この抽出時間を、精密にコントロールできる。例えば、流路170に供給する第一液10の流量、流路170の流通部172の長さ、などの要素を調整することにより、抽出時間を精密にコントロールできる。
【0071】
上述した実施形態に係る抽出方法は、変更して実施してもよい。
例えば、上述した抽出装置100に、回収器160に回収された第一液10を第一容器110へと戻すことができる第一循環部(図示せず)を設けてもよい。これにより、回収器160に回収された第一液10を第一容器110へ戻して、再び目的成分の抽出に用いることができる。よって、抽出率を高めて、抽出できずに第一液10に残る目的成分を減らすことができる。
【0072】
例えば、上述した抽出装置100に、回収器160に回収された第二液20を第二容器130へと戻すことができる第二循環部(図示せず)を設けてもよい。これにより、回収器160に回収された第二液20を第二容器130へ戻して、再び目的成分の抽出に用いることができる。よって、抽出に用いる第二液20の量を少なくできる。
【0073】
[2.第二実施形態]
上述した抽出方法は、微生物を用いた目的成分の製造方法に適用することができる。この製造方法では、培養液としての第一液において微生物を培養して目的成分を生成させ、その生成した目的成分を第二液によって抽出して、目的成分を含む抽出液を得る。以下、図面を示して、この目的成分の製造方法に係る一実施形態を説明する。
【0074】
図4は、本発明の第二実施形態に係る製造装置200を模式的に示す概要図である。図4において、第一実施形態で説明した抽出装置100と同じ部位には、第一実施形態と同じ符号を付して示す。
【0075】
図4に示すように、本発明の第二実施形態に係る製造装置200は、第一容器110と、第一供給部120と、第二容器130と、第二供給部140と、内部に流路170(図2参照)を有する抽出管150と、回収器160と、第一循環部280と、第二循環部290と備える。
【0076】
第一容器110、第一供給部120、第二容器130、第二供給部140、抽出管150、回収器160、及び、抽出管150内の流路170は、第一実施形態で説明したものと同じである。
【0077】
ただし、第一容器110は、当該第一容器110に収納された第一液10が含む微生物に目的成分を生成させることができるようにするため、温度、雰囲気等の培養条件を適切な範囲に設定可能に設けられていることが望ましい。培養によって第一容器110内の第一液10の微生物及び目的成分の量は、変化しうる。この場合でも、第一液10が第一供給部120によって流路170に供給される時点では、その供給される第一液10における微生物及び目的成分の濃度は、第一実施形態で説明した範囲に収まることが望ましい。
【0078】
第一循環部280は、回収器160に回収された第一液10を第一容器110に戻すことができるように設けられた装置である。本実施形態では、第一循環部280が、回収器160及び第一容器110に接続された第一循環路としての第一循環管281と、この第一循環管281に設けられた第一循環量調整部としての第一循環ポンプ282とを備えた例を示す。この第一循環部280は、回収器160に回収された第一液10を、第一循環管281を通して第一容器110へと戻すことができるように設けられている。また、この第一循環部280は、第一循環管281を通して戻される第一液10の流量を、第一循環ポンプ282によって調整できるように設けられている。
【0079】
第二循環部290は、回収器160に回収された第二液20を第二容器130に戻すことができるように設けられた装置である。本実施形態では、第二循環部290が、回収器160及び第二容器130に接続された第二循環路としての第二循環管291と、この第二循環管291に設けられた第二循環量調整部としての第二循環ポンプ292とを備えた例を示す。この第二循環部290は、回収器160に回収された第二液20を、第二循環管291を通して第二容器130へと戻すことができるように設けられている。また、この第二循環部290は、第二循環管291を通して戻される第二液20の流量を、第二循環ポンプ292によって調整できるように設けられている。
【0080】
上述した製造装置200を用いることにより、微生物の培養によって目的成分を製造する製造方法を行うことができる。この製造方法は、
(6)第一容器110において、微生物に目的成分を生成させる工程と、
(7)第一容器110から、抽出管150内の流路170の合流部171に、第一液10を供給する工程と、
(8)合流部171に、第二液20を供給する工程と、
(9)合流部171に供給された第一液10及び第二液20を、第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態で、流通部172に流通させる工程と、
(10)流通部172を流通した第一液10及び第二液20を、送出部173から送出する工程と、
(11)送出部173から送出された第一液10及び第二液20を、回収器160に回収する工程と、
を含む。
【0081】
上述した製造方法では、第一容器110に、微生物及び第一溶媒を含む培養液としての第一液10を収納する。そして、第一容器110において、第一液10に含まれる微生物を培養する。この培養により、微生物に目的成分を生成させる工程が行われて、微生物、目的成分及び第一溶媒を含む第一液10が用意される。
【0082】
その後、第一容器110から、流路170の合流部171に、第一液10を供給する工程を行う。第一実施形態と同じく、第一液10は、第一送液ポンプ122によって、第一供給管121を通して、合流部171へと供給される。
【0083】
また、第二容器130から、流路170の合流部171に、第二溶媒を含む第二液20を供給する工程を行う。第一実施形態と同じく、第二液20は、第二送液ポンプ142によって、第二供給管141を通じて、合流部171へと供給される。
【0084】
合流部171に第一液10及び第二液20が供給されると、これらの第一液10及び第二液20は、合流する。そして、合流した第一液10及び第二液20に、第一液10の相と第二液20の相とが分離した状態で、流通部172に流通させる工程が行われる。第一液10及び第二液20が流通部172を流通する際、第一実施形態と同じく、目的成分は、第一液10から第二液20へと移行するが、微生物は、第一液10の相に留められる。よって、微生物の分離と目的成分の抽出とが同時に進行して、第二溶媒及び目的成分を含む抽出液として第二液20が得られる。第一液10及び第二液20を流通部172に流通させる際の流通条件は、第一実施形態と同じに設定することが好ましい。これにより、第一実施形態で説明した利点を得ることができる。
【0085】
第一液10及び第二液20が流路170の流通部172を流通した後で、第一実施形態と同じく、それら流通部172を流通した第一液10及び第二液20を送出部173から送出させる工程を行う。
【0086】
その後、第一実施形態と同じく、送出部173から送出された第一液10及び第二液20を、回収器160に回収する工程を行う。共通の回収器160に回収された第一液10と第二液20とは、速やかに、第一溶媒及び微生物を含む第一液10の相と、第二溶媒及び目的成分を含む第二液20の相とに分かれる。よって、第二液20の相から、目的成分を含み且つ微生物を含まない第二液20を抽出液として得ることができる。
このように、本実施形態に係る製造方法では、微生物によって目的成分を生成させた後、微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に行なうことができるので、目的成分の効率の良い製造が可能である。
【0087】
また、上述した製造方法は、必要に応じて、
(12)回収器160に回収された第一液10を、第一容器110に戻す工程
を含んでいてもよい。
本実施形態に示す例では、第一循環ポンプ282を作動させて、回収器160から第一液10を取り出す。そして、取り出した第一液10を、第一循環管281を通して、第一容器110へと戻す。第一容器110に戻された第一液10は、第一容器110において微生物の培養に用いられる。その後、その第一液10は、第一供給部120によって再び流路170の合流部171に供給される。このような工程を行うことにより、微生物の培養による目的物の生成と、この目的物の抽出とを、継続的に行うことができる。この際、上述した製造方法では、短時間で目的成分の抽出を行うことができるので、培養槽として機能する第一容器110の外部に第一液10が循環する時間を短くできる。したがって、酸素欠乏による微生物への負荷を小さくできる。
【0088】
また、前記のように回収器160に回収された第一液10を第一容器110に戻す工程を行うと、微生物の培養を継続しながら目的成分の抽出を行う場合に、第一容器110に収納された第一液10における目的成分の濃度を低くすることができる。このように第一液10における目的成分の濃度を低くできることは、目的成分が、微生物による当該目的成分の生成を阻害する性質を有する場合に、有用である。例えば、目的成分が微生物の培養を阻害する性質を有する場合、第一液10における目的成分の濃度が育成阻害濃度より高くなると、微生物の培養が停止することがある。これに対し、第一液10における目的成分の濃度を育成阻害濃度以下に維持することで、目的成分の継続的な製造を可能にできる。
【0089】
さらに、上述した製造方法は、必要に応じて、
(13)回収器160に回収された第二液20を、第二容器130に戻す工程
を含んでいてもよい。
本実施形態に示す例では、第二循環ポンプ292を作動させて、回収器160から第二液20を取り出す。そして、取り出した第二液20を、第二循環管291を通して、第二容器130へと戻す。第二容器130に戻された第二液20は、第二供給部140によって再び流路170の合流部171に供給される。このような工程を行うことにより、回収器160に回収された第二液20を、合流部171に戻して、再び目的成分の抽出に用いることができる。よって、抽出に用いる第二液20の量を少なくできる。また、流路170への流通回数が1回で抽出率が低い流通条件であっても、流路170への流通回数を2回以上にすることにより、抽出率を高めることが可能である。
【0090】
以上のように、本実施形態に係る製造方法では、微生物の培養によって目的成分を生成させた後に、微生物の分離と目的成分の抽出とを、同時に行うことができる。よって、この製造方法では、微生物の分離と目的成分の抽出とを別々の工程で行う必要が無いので、目的成分の回収を短時間で実施することができる。また、工程数を減らすことができるので、装置を小型化することが可能である。
【0091】
また、従来のバッチ式の培養方法では、培養が完了した後で、第一液10の全量に、微生物の分離及び目的成分の抽出の処理を行うことが一般的であった。これに対し、本実施形態に係る製造方法では、第一容器110中で微生物の培養を行いながら、第一液10から目的成分の抽出を行うことが可能である。よって、本実施形態に係る製造方法は、第一液10の全量に対して一度に処理を行う必要が無い。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、設備の小型化を達成することができる。
【0092】
さらに、本実施形態に係る製造方法では、抽出のために流路170内で第一液10と第二液20とが接触する時間を、精密にコントロールできる。よって、流路170内での第一液10と第二液20との接触時間を、短い時間に調整できる。また、本実施形態に係る製造方法では、回収器160に回収された第一液10の相と第二液20の相とは、速やかに分離できる。よって、回収器160内での第一液10と第二液20との接触時間も、短い時間に調整できる。したがって、第二液20に含まれる成分が微生物に対して接触する時間を、短くすることが可能である。そのため、微生物に対して有害な種類の溶媒であっても、第二溶媒として使用可能である。よって、本実施形態に係る製造方法では、抽出液の溶媒の選択の幅を広げることが可能である。
【0093】
上述した実施形態に係る目的成分の製造方法は、変更して実施してもよい。
例えば、第一液10及び第二液20は、必要に応じて、追加及び抜き出しを行ってもよい。具体例を挙げると、回収器160に回収された第二液20を抜き出し、蒸留等の分離方法によって、第二溶媒と目的成分とを分離してもよい。また、こうして目的成分から分離された第二溶媒を、第二容器130に第二液20として追加してもよい。このような分離によれば、第二溶媒の溶媒再生を行うことが可能である。よって、溶媒を繰り返し使用できるので、溶媒使用量を抑制することができる。
【0094】
[3.目的成分]
目的成分の種類は、任意である。ただし、第二実施形態で説明したように微生物の培養による目的成分の製造に適用する観点からは、目的成分は、微生物によって生成可能なものが好ましい。
【0095】
さらに、多くの種類の微生物が水を含む培養液で培養されることから、抽出を円滑に行うためには、目的成分は疎水性物質が好ましい。疎水性物質とは、水を含む第一液から第二液への抽出が可能な程度に、水に対して低い溶解度を有する物質をいう。水に対する疎水性物質の常温での溶解度は、好ましくは10g/kg以下、より好ましくは5g/kg以下、1g/kg以下、又は0.1g/kg以下である。
【0096】
疎水性物質としては、例えば、メタン等の飽和炭化水素;エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブテン、イソプレン等の不飽和炭化水素;ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、バニリン、オイゲノール、アネトール、トリメチルピラジン等の芳香族化合物;セラミド等の脂質化合物;ノナラクトン、デカラクトン等のラクトン化合物;酢酸イソペンチル、乳酸メンチル、コハク酸モノメンチル等の有機酸エステル化合物;キシリトール、アラビトール等の糖アルコール化合物が挙げられる。
【0097】
好ましい実施形態では、疎水性物質は、イソプレノイド化合物であってもよい。イソプレノイド化合物は、分子式(Cを有する1以上のイソプレン単位を含む。イソプレン単位の前駆体は、イソペンテニルピロリン酸、またはジメチルアリルピロリン酸である。イソプレノイド化合物は、テルペンまたはテルペノイドとも呼ばれる。テルペンとテルペノイドとの相違は、テルペンが炭化水素であるのに対し、テルペノイドはさらなる官能基を含む点にある。テルペンは、分子中のイソプレン単位数により分類することができる〔例えば、ヘミテルペン(C5)、モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、セステルテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、セスカルテルペン(C35)、テトラテルペン(C40)、ポリテルペン、ノルイソプレノイド〕。モノテルペンまたはモノテルペノイドとしては、例えば、ピネン、ネロール、シトラール、カンファー、メントール、リモネン、およびリナロールが挙げられる。セスキテルペンまたはセスキテルペノイドとしては、例えば、ヌートカトン、バレンセン、ネロリドール、およびファルネソールが挙げられる。ジテルペンまたはジテルペノイドとしては、例えば、フィトール、およびビタミンA1が挙げられる。スクアレンはトリテルペンの例であり、カロテン(プロビタミンA1)はテトラテルペンである(Nature Chemical Biology 2,674~681(2006);Nature Chemical Biology 5,283~291(2009);Nature Reviews Microbiology 3,937~947(2005);Adv Biochem Eng Biotechmol(DOI:10.1007/10_2014_288)。
【0098】
別の好ましい実施形態では、疎水性物質は、バニロイド化合物であってもよい。バニロイド化合物は、バニリル基を含む化合物である。バニロイド化合物としては、例えば、バニリン、バニリン酸、カプサイシン、バニリルマンデル酸が挙げられる。
【0099】
[4.微生物]
微生物の種類は、任意である。ただし、第二実施形態で説明したように微生物の培養による目的成分の製造に適用する観点からは、微生物は、目的成分の生成能を有することが好ましい。
【0100】
微生物としては、例えば、原核生物である細菌、および真核生物である真菌(例、出芽酵母、分裂酵母等の酵母)が挙げられる。細菌は、グラム陽性菌であってもグラム陰性菌であってもよい。
【0101】
グラム陽性細菌としては、例えば、バシラス(Bacillus)属細菌、リステリア(Listeria)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、およびストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌が挙げられ、バシラス(Bacillus)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌が好ましい。バシラス(Bacillus)属細菌としては、枯草菌(Bacillus subtilis)が好ましい。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌としては、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)が好ましい。
【0102】
グラム陰性細菌としては、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、ビブリオ(Vivrio)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌、およびエンテロバクター(Enterobacter)属細菌が挙げられ、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌が好ましい。エシェリヒア(Escherichia)属細菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が好ましい。パントエア(Pantoea)属細菌としては、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)が好ましい。エンテロバクター(Enterobacter)属細菌としては、エンテロバクター・アエロゲネス(Engerobacter aerogenes)が好ましい。
【0103】
真菌としては、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、フザリウム(Fusarium)属、およびムコール(Mucor)属の微生物が挙げられ、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、およびヤロウイア(Yarrowia)属、またはトリコデルマ(Trichoderma)属の微生物が好ましい。サッカロミセス(Saccharomyces)属の微生物としては、サッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属の微生物としては、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が好ましい。ヤロウイア(Yarrowia)属の微生物としては、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)が好ましい。トリコデルマ(Trichoderma)属の微生物としては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)が好ましい。
【0104】
微生物は、遺伝子組換え微生物であっても、または非遺伝子組換え微生物であってもよいが、多量の目的成分を得るためには、遺伝子組換え微生物が好ましい。このような遺伝子組換え微生物は、目的成分の生成に関与する1以上の遺伝子の改変を有する。このような遺伝子組換え微生物としては、例えば、目的成分の生成に関与する1以上の異種(heterologous)遺伝子(すなわち、微生物に固有(inherent)でない遺伝子)を含む微生物、目的成分の生成に関与する1以上の同種(homologous)遺伝子(すなわち、微生物に固有である遺伝子)の改変(例、ゲノムDNAのコーディング領域または非コーディング領域における1以上のヌクレオチド残基の欠失、置換、付加、挿入)を有する微生物、および目的成分の生成に関与する1以上の異種遺伝子を含み、かつ目的成分の生成に関与する1以上の同種遺伝子の改変を有する微生物が挙げられる。このような微生物の作製は、当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。例えば、目的成分の生成に関与する1以上の同種遺伝子を含む微生物の作製は、発現ベクター(例、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、人工染色体)を用いる方法(例、コンピテント細胞法、エレクトロポレーション法)、およびゲノム編集技術(例、CRISPR/Casシステム)により行うことができる。発現ベクターが微生物のゲノムDNAと相同組換えを生じる組込み型(integrative)ベクターである場合、同種遺伝子および必要なエレメント(例、プロモーター)を含む発現単位は、形質転換により、微生物のゲノムDNAに組み込まれることができる。一方、発現ベクターが微生物のゲノムDNAと相同組換えを生じない非組込み型ベクターである場合、上記発現単位は、形質転換により、微生物のゲノムDNAに組み込まれず、微生物内において、発現ベクターの状態のまま、ゲノムDNAから独立して存在できる。目的成分の生成に関与する1以上の同種遺伝子の改変を有する微生物の作製は、例えば、ゲノム編集技術により行うことができる。
【0105】
目的成分がリナノール等のイソプレノイド化合物である場合、微生物は、イソプレノイド化合物の生合成に関与する1以上の酵素をコードする遺伝子を含む遺伝子組換え微生物であることが好ましい。実施例で用いられた遺伝子組換え微生物であるPantoea ananatis SWITCH―PphoCΔgcd/AaLINS-ispA株(Patent WO2017/051928)は、このような酵素をコードする遺伝子を含む。イソプレノイド化合物の生合成に関与する1以上の酵素としては、例えば、MEP経路に関与する1以上の酵素、MVA経路に関与する1以上の酵素、イソペンテニル二リン酸デルタイソメラーゼ、ゲラニル二リン酸シンターゼ、ファルネシル二リン酸シンターゼ、及び目的イソプレノイド化合物の生合成に関与する1以上の酵素(例、リナロールシンターゼ、イソプレンシンターゼ、リモネンシンターゼ、ミルセンシンターゼ、アモルファジエンシンターゼ、ファルネセンシンターゼ)が挙げられる。MEP経路に関与する1以上の酵素としては、例えば、1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸シンターゼ、1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸リダクトイソメラーゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールシンターゼ、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ、2-C-メチル―D-エリスリトール-2,4-シクロニリン酸シンターゼ、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-(E)-ブテニル-4-ニリン酸シンターゼ、4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニル二リン酸レダクターゼが挙げられる(例、Kuzuyama TおよびSeto H,Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.88,41-52(2012);Grawert T et al.,Cell Mol Life Sci.68,3797-3814(2011)を参照)。MVA経路に関与する1以上の酵素としては、例えば、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ、アセチル-CoA-C-アセチルトランスフェラーゼ、ヒドロキシメチルグルタリル-CoAシンターゼ、ヒドロキシメチルグルタリル-CoAリダクターゼ、アセチル-CoA-アセチルトランスフェラーゼ/ヒドロキシメチルグルタリル-CoAリダクターゼが挙げられる(例、Kuzuyama TおよびSeto H, Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.88,41-52(2012);Miziorko HM,Arch Biochem Biophys.505,131-143(2011)を参照)。
【0106】
目的成分がバニリン等のバニロイド化合物である場合、微生物は、バニロイド化合物の生合成に関与する1以上の酵素をコードする遺伝子を含む遺伝子組換え微生物であることが好ましい。実施例で用いられた遺伝子組換えコリネバクテリウム・グルタミカムは、このような酵素をコードする遺伝子を含む。バニロイド化合物の生合成に関与する1以上の酵素としては、例えば、芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase)が挙げられる。
【0107】
微生物による目的成分の生成は、適切な培養液中で微生物を培養することで行うことができる。
【0108】
培養液は、微生物の増殖、および微生物による目的成分の生成に必要な成分を含む必要がある。したがって、培養液は、炭素源および窒素源を含むことが好ましい。炭素源としては、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類等の炭水化物;ショ糖を加水分解した転化糖;グリセロール;メタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸塩;コーン油、パーム油、大豆油等のオイル;アセテート;動物油脂;動物オイル;飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等の脂肪酸;脂質;リン脂質;グリセロ脂質;モノグリセライド、ジグリセライド、トリグリセライド等のグリセリン脂肪酸エステル;微生物性タンパク質、植物性タンパク質等のポリペプチド;加水分解されたバイオマス炭素源等の再生可能な炭素源;酵母エキス;又はこれらを組み合わせたものが挙げられる。窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水が挙げられる。培養液はまた、有機微量栄養源として、ビタミンB1、L-ホモセリンなどの要求物質または酵母エキスを適量含んでいてもよい。培養液はさらに、無機微量栄養源として、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオンを適量含んでいてもよい。
【0109】
微生物の培養条件としては、標準的な培養条件を用いることができる。培養温度としては、20℃~40℃であり得、pHが、約4.5~約9.5であり得る。
【0110】
また、微生物の種類に応じて好気性、無酸素性、又は嫌気性条件下で培養を行ってもよい。微生物の培養期間は、適宜設定することができる。
【0111】
培養液において微生物を上記のとおり培養することで、微生物および目的成分を含む培養液を第一液として得ることができる。本発明の方法によれば、このような多種多様な成分に加えて、微生物および目的成分を含む培養液から、目的成分を効率的に抽出または製造することができる。また、炭素源および窒素源として疎水性物質を含まない培養液を用いることで、培養液から目的成分をより効率的に抽出または製造することができる。
【実施例
【0112】
以下、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例には限定されない。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中において行った。
【0113】
[製造例1:リナロールを含む培養液の用意]
遺伝子組換え微生物であるPantoea ananatis SWITCH―PphoCΔgcd/AaLINS-ispA株(Patent WO2017/051928)を培養して、リナロールを生成した。培地は表1のものを用いて培養し、30時間培養を行った。培養温度は培養7時間までは34℃、それ以降は30℃とし、アンモニアガスを用いて培養pHを6.8に制御した。300mL/分の条件で通気を行い、植菌前の培養開始時の溶存酸素濃度を21%、飽和亜硫酸ナトリウム溶液中の溶存酸素濃度を0%とし、ガルバニ式センサー(エイブル株式会社)を用いて培養液中の溶存酸素が5%以上になるように撹拌制御を行った。
【0114】
【表1】
【0115】
A区とB区を0.15L調整後(pH無調整)、120℃、20minで加熱滅菌を行った。放冷後A区とB区を1:1で混合し、カナマイシン(100mg/L)を添加し、培地として使用した。
【0116】
培養開始後、適宜サンプリングし、O.D.値とリナロールの分析を実施した。リナロール濃度はガスクロマトグラフGC-2025AF(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。O.D.値は分光光度計(HITACHI U-2900)によって600nmで測定した。P. ananatisの乾燥微生物重量(g/L)はO.D.600nmの値に0.287を掛けて求めることが出来る。リナロール標準液は試薬リナロール(和光純薬工業株式会社製)を用いて調製した。測定用のサンプルは適宜エタノール(和光純薬工業株式会社製)で希釈した。
【0117】
30時間培養し、培養を終えた。培養終了時の培養液中リナロール濃度は0.9g/L、O.D.600nmは23.5、つまり乾燥微生物重量は6.74g/Lであった。
【0118】
[製造例2:バニリンを含むpH3.0の殺菌ブロスの用意]
バニリン酸を含む培養液を用いて、遺伝子組換え微生物である、Gordonia effusa 由来aromatic carboxylic acid reductase遺伝子を導入したコリネバクテリウムグルタミカムを培養し、バニリン培養液を作成した。培地は表2のものを用いて培養した。
【0119】
【表2】
【0120】
A区、B区、C区を滅菌後、80.0:5.7:4.5の割合で混合し培地を調整した。pHは7.2。
【0121】
C区の液を適宜フィードし、培養して、バニリンを含む培養液を得た。培養終了時の培養液中のバニリン濃度は9.4g/L、O.D.562nmは3.15であった。Corynebacterium glutamicumの乾燥微生物重量はO.D.562nmに30.1をかけて求めることが出来る。よってこの時の乾燥微生物重量は94.9g/Lであった。
【0122】
前記の培養液のpHを、98%硫酸を用いて3.0に調整し、更に80℃程度に加温して殺菌して、バニリンを含むpH3.0の殺菌ブロスを得た。得られた殺菌ブロス中のバニリン濃度は9.3g/L、O.D.562nmは31.0、乾燥微生物重量は93g/Lであった。
【0123】
[製造例3:バニリンを含むpH6.0の殺菌ブロスの用意]
製造例2で製造した殺菌ブロスのpHを、濃度29%のNaOH水溶液を用いて6.0に調整して、バニリンを含むpH6.0の殺菌ブロスを得た。得られた殺菌ブロス中のバニリン濃度は9.1g/L、O.D.562nmは3.04、乾燥微生物重量は91.5g/Lであった。
【0124】
[製造例4:バニリンを含むpH3.0の殺菌ブロスの用意]
バニリン酸を含む培養液を用いて、遺伝子組換え微生物である、Gordonia effusa 由来aromatic carboxylic acid reductase遺伝子を導入したコリネバクテリウムグルタミカムを培養し、バニリン培養液を作成した。培地は表3のものを用いて培養した。
【0125】
【表3】
【0126】
A区、B区、C区を滅菌後、80.8:6.3:4.6の割合で混合し培地を調整した。pHは7.2。
【0127】
C区の液を適宜フィードし、培養して、バニリンを含む培養液を得た。培養終了時の培養液中のバニリン濃度は10.0g/L、O.D.562nmは3.11であった。Corynebacterium glutamicumの乾燥微生物重量はO.D.562nmに30.1をかけて求めることが出来る。よってこの時の乾燥微生物重量は93.8g/Lであった。
【0128】
前記の培養液のpHを、98%硫酸を用いて3.0に調整し、更に80℃程度に加温して殺菌して、バニリンを含むpH3.0の殺菌ブロスを得た。得られた殺菌ブロス中のバニリン濃度は9.8g/L、O.D.562nmは3.05、乾燥微生物重量は92g/Lであった。
【0129】
[製造例5:バニリンを含むpH6.0の殺菌ブロスの用意]
製造例4で製造した殺菌ブロスのpHを、濃度29%のNaOH水溶液を用いて6.0に調整して、バニリンを含むpH6.0の殺菌ブロスを得た。得られた殺菌ブロス中のバニリン濃度は9.6g/L、O.D.562nmは2.99、乾燥微生物重量は90g/Lであった。
【0130】
[実施例1~9]
(流路の用意)
第一供給口(内径1.59mm)、第二供給口(内径1.59mm)及び送出口(内径2.18mm)を有するT字型マイクロミキサを用意した。また、表4に示す長さのステンレス製チューブ(SUS316製、内径2.18mm)を用意した。マイクロミキサの送出口にチューブを接続して、図2に示すように、内部に流路170を有する抽出管150を用意した。この抽出管150内の流路170では、T型マイクロミキサ内の部分が合流部171に相当し、チューブ内の部分が流通部172に相当する。また、流通部172の形状は、一定の内径を有する円柱状であった。
【0131】
(抽出操作)
マイクロミキサの第一供給口に、製造例1で製造した培養液を第一液として定量で連続供給した。同時に、マイクロミキサの第二供給口に、ミリスチン酸イソプロピルを第二液として定量で連続供給した。供給された培養液とミリスチン酸イソプロピルは、マイクロミキサ内の合流部で合流し、チューブ内の流通部を流通した後、回収器に流入した。回収器に流入した第一液及び第二液は、第一液の相と第二液の相とに迅速に分離した。このように回収器において迅速な相分離が得られたことから、チューブ内の流通部において第一液の相と第二液の相とが分離していたことが確認された。近い流量を採用した後述する実施例10~23でスラグ流が確認されていることから、発明者は、実施例1~9でも、チューブ内の流通部でスラグ流が形成されていると判断した。前記の操作は、流路の温度は常温、実験環境の雰囲気は常圧の環境で行った。
【0132】
[実施例10~23]
(流路の用意)
第一供給口(内径1.59mm)、第二供給口(内径1.59mm)及び送出口(内径1.59mm)を有するT字型マイクロミキサを用意した。また、表4に示す長さのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体製チューブ(PFA製、内径1.59mm)を用意した。マイクロミキサの送出口にチューブを接続して、図2に示すように、内部に流路170を有する抽出管150を用意した。この抽出管150内の流路170では、T型マイクロミキサ内の部分が合流部171に相当し、チューブ内の部分が流通部172に相当する。また、流通部172の形状は、一定の内径を有する円柱状であった。
【0133】
マイクロミキサの第一供給口に、製造例2で製造したpH3.0の殺菌ブロスを第一液として定量で連続供給した。同時に、マイクロミキサの第二供給口に、トルエンを第二液として定量で連続供給した。供給された殺菌ブロスとトルエンは、マイクロミキサ内の合流部で合流し、チューブ内の流通部を流通した後、回収器に流入した。チューブ内の流通部を第一液及び第二液が流通する様子を目視することで、スラグ流が形成されていることが確認した。回収器に流入した第一液及び第二液は、第一液の相と第二液の相とに迅速に分離した。前記の操作は、流路の温度は常温、実験環境の雰囲気は常圧の環境で行った。
【0134】
[実施例24~38]
(流路の用意)
第一供給口(内径1.59mm)、第二供給口(内径1.59mm)及び送出口(内径2.18mm)を有するT字型マイクロミキサを用意した。また、表4に示す長さのステンレス製チューブ(SUS316製、内径2.18mm)を用意した。マイクロミキサの送出口にチューブを接続して、図2に示すように、内部に流路170を有する抽出管150を用意した。この抽出管150内の流路170では、T型マイクロミキサ内の部分が合流部171に相当し、チューブ内の部分が流通部172に相当する。また、流通部172の形状は、一定の内径を有する円柱状であった。
【0135】
マイクロミキサの第一供給口に、製造例3で製造したpH6.0の殺菌ブロスを第一液として定量で連続供給した。同時に、マイクロミキサの第二供給口に、トルエンを第二液として定量で連続供給した。供給された殺菌ブロスとトルエンは、マイクロミキサ内の合流部で合流し、チューブ内の流通部を流通した後、回収器に流入した。回収器に流入した第一液及び第二液は、第一液の相と第二液の相とに迅速に分離した。このように回収器において迅速な相分離が得られたことから、チューブ内の流通部において第一液の相と第二液の相とが分離していたことが確認された。近い流量を採用した前記の実施例10~23でスラグ流が確認されていることから、発明者は、実施例24~38でも、チューブ内の流通部でスラグ流が形成されていると判断した。前記の操作は、流路の温度は常温、実験環境の雰囲気は常圧の環境で行った。
【0136】
[実施例39~73]
(流路の用意)
第一供給口(内径6.35mm)、第二供給口(内径6.35mm)及び送出口(内径6.35mm)を有するT字型マイクロミキサを用意した。また、表5に示す長さのステンレス製チューブ(SUS316製、内径6.35mm)を用意した。マイクロミキサの送出口にチューブを接続して、図2に示すように、内部に流路170を有する抽出管150を用意した。この抽出管150内の流路170では、T型マイクロミキサ内の部分が合流部171に相当し、チューブ内の部分が流通部172に相当する。また、流通部172の形状は、一定の内径を有する円柱状であった。
【0137】
内部を流通する液体を加温可能な加温用配管(SUS316製、内径2.18mm)、および、加温後の配管内液温を直接測定できる測温部を備える給液管を用意した。この給液管を、マイクロミキサの第一供給口及び第二供給口にそれぞれ接続した。さらに、マイクロミキサ、及び、流通部としてのチューブを、チューブの出口付近を除いて全て恒温槽に浸した。そして、マイクロミキサに供給されてから回収器に流入するまでの期間において、第一液及び第二液の液温を表5に示す抽出温度に調整できるように、加温用配管及び恒温槽の温度を設定した。
【0138】
前記のように設定された温度条件下において、第一液及び第二液の流通を実施した。すなわち、マイクロミキサの第一供給口に、製造例5で製造したpH6.0の殺菌ブロスを第一液として定量で連続供給した。同時に、マイクロミキサの第二供給口に、トルエンを第二液として定量で連続供給した。供給された殺菌ブロスとトルエンは、マイクロミキサ内の合流部で合流し、チューブ内の流通部を流通した後、回収器に流入した。回収器に流入した第一液及び第二液は、第一液の相と第二液の相とに迅速に分離した。このように回収器において迅速な相分離が得られたことから、チューブ内の流通部において第一液の相と第二液の相とが分離していたことが確認された。近い流量を採用した前記の実施例10~23でスラグ流が確認されていることから、発明者は、実施例39~73でも、チューブ内の流通部でスラグ流が形成されていると判断した。
【0139】
[比較例1及び2]
殺菌ブロス及びトルエンの抽出条件を表6に示すように変更したこと以外は、実施例10~23と同じ操作を行った。比較例1及び2では、回収器において第一液と第二液とが相の分離を生じなかった。回収器において相の分離が生じなかったことから、発明者は、比較例1及び2では、チューブ内の流通部において第一液の相と第二液の相との分離が損なわれていたと判断した。
【0140】
[比較例3]
殺菌ブロス及びトルエンの抽出条件を表6に示すように変更したこと以外は、実施例24~38と同じ操作を行った。比較例3では、回収器において第一液と第二液とが相の分離を生じなかった。回収器において相の分離が生じなかったことから、発明者は、比較例3では、チューブ内の流通部において第一液の相と第二液の相との分離が損なわれていたと判断した。
【0141】
[比較例4]
15mL容積のポリプロピレン製のチューブ容器に、製造例1で製造したリナロールを含む培養液4mLと、ミリスチン酸イソプロピル4mLとを仕込んで密栓した。その後、手で激しく撹拌した。
【0142】
[比較例5~8]
15mL容積のポリプロピレン製のチューブ容器に、製造例2で製造したバニリンを含むpH3.0の殺菌ブロス3mLと、表6に示す種類の第二液3mLとを仕込んで密栓した。その後、手で激しく撹拌した。
【0143】
[比較例9~12]
15mL容積のポリプロピレン製のチューブ容器に、製造例3で製造したバニリンを含むpH6.0の殺菌ブロス3mLと、表6に示す種類の第二液3mLとを仕込んで密栓した。その後、手で激しく撹拌した。
【0144】
[実施例1~73及び比較例1~12の分離性の評価]
実施例1~73及び比較例1~3では、回収器に第一液及び第二液が流入した直後において、第一液(培養液又は殺菌ブロス)と第二液(ミリスチン酸イソプロピル又はトルエン)とがどのように分離するかを目視で観察した。そして、観察の結果を、下記の基準で評価した。
「5」:第一液の相と第二液の相とが、迅速に分離する(図6参照)。
「4」:第一液の相と第二液の相とが、迅速に分離する。ただし、第二液の一部が第一液の相に混入した(図7参照)。
「3」:第一液の相と第二液の相とが、迅速に分離する。ただし、第二液の大部分が第一液の相に混入した(図5参照)。
「2」:第一液の相と第二液の相とは、時間が経過した後で分離する。
「1」:第一液の相と第二液の相とに、相分離を生じない。
【0145】
また、比較例4~12では、いずれも、撹拌直後には第一液の相と第二液の相との迅速な分離は観察されなかった。そこで、チューブを静置し、観察を続けた。そして、この観察の結果を、下記の基準で判定した。
「3’」:容器を数分間静置した後で、第一液の相と第二液の相とが、分離する。ただし、第二液の大部分が第一液の相に混入した。
「2」:第一液の相と第二液の相とは、時間が経過した後で分離する(図8図11参照)。
「1」:第一液の相と第二液の相とに、相分離を生じない(図12参照)。
【0146】
[実施例1~73及び比較例1~12の抽出率の測定]
回収器又はチューブ容器内の第二液を採取し、ガスクロマトグラフィーによって第二液に含まれる目的成分(リナロール又はバニリン)の濃度を測定した。測定された濃度に、第二液の流量を掛け算して、第二液に移った目的成分の量を求め、これを抽出量とした。他方、抽出前の原液(リナロールを含む培養液、バニリンを含むpH3.0の殺菌ブロス、又は、バニリンを含むpH6.0の殺菌ブロス)の目的成分の濃度と流量とを掛け算して、原液に含まれていた目的成分の総量を求めた。そして、この目的成分の総量で抽出量を割算して、抽出率を計算した。
【0147】
[実施例1~73及び比較例1~12の結果]
実施例1~73及び比較例1~12の結果を、下記の表4~表6に示す。抽出率が15%以上で、かつ、分離性の評価で「3」~「5」の結果が得られている場合に、微生物の分離と目的成分の抽出とを同時に行うという課題が解決できたと判断できる。
表6において、比較例4~12はバッチ方式であるので、供給量の欄の値はチューブへの仕込み量[mL]を表し、流通時間は撹拌時間を表す。また、下記の表において、略称の意味は、下記の通りである。
IPM:ミリスチン酸イソプロピル。
Tr:トルエン。
SUS:ステンレス。
PFA:テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体。
PP:ポリプロピレン。
【0148】
【表4】
【0149】
【表5】
【0150】
【表6】
【0151】
また、図5図6及び図7に、実施例59、実施例65及び実施例73で第一液及び第二液を回収した直後の回収器を撮影した写真を示す。
さらに、図8図9図10及び図11に、比較例4において撹拌を終えた直後の時点、撹拌後20分の時点、撹拌後1時間の時点、及び、撹拌後24時間の時点それぞれでのチューブ容器を撮影した写真を示す。
また、図12に、比較例5において撹拌後60時間の時点でのチューブ容器を撮影した写真を示す。
なお、これらの図5図12において、破線は、第一液と第二液との間での混入が全く生じないと仮定した場合の第一液の相と第二液の相との間の界面位置を表す。
【0152】
表6から分かるように、比較例4~12のようなバッチ方式の抽出操作では、撹拌によって第一液及び第二液が懸濁し、乳化することがあった。このように乳化した場合、乳化状態が安定して、静置しても第一液と第二液とが分離しないことが多い。また、分離する場合でも、通常は、長時間の静置が求められる。
これに対し、表4及び表5から分かるように、実施例1~73では、流路の流通によって第一液から第二液への目的成分(リナロール及びバニリン)の抽出が達成された。また、実施例1~73では、回収器に回収された第一液と第二液とが、数秒程度の短時間で相分離を生じた。前記のいずれの実施例でも、相分離によって生じた上澄み相として、第二液の相が得られた。図5図7から分かるように、この上澄み相中には、微生物は含まれていなかった。
以上の結果から、バッチ方式の抽出操作では目的成分の抽出及び微生物の分離が難しい系であっても、本発明によれば、目的成分の抽出及び微生物の分離を同時に行うことが可能であることが確認された。
【0153】
[実施例74]
(74-1.発酵条件)
Pantoea ananatis SWITCH―PphoCΔgcd/AaLINS-ispA株(国際公開第2017/051928号)のジャー培養を行った。ジャー培養には1L容積の発酵槽としてのジャーファーメンター(エイブル株式会社)を使用した。グルコース培地は表7に示す組成になるように調整した。
【0154】
前培養としてカナマイシン(50mg/L)を含むLBプレートに株を塗布し、34℃にて16時間培養を実施した。続いて、以下に記載のグルコース培地(表7)300mLを1L容積のジャーファーメンターに投入後、充分に増殖したプレート1枚分の菌体を接種し、培養を開始した。培養温度は培養11時間までは34℃、それ以降は30℃とし、アンモニアガスを用いて培養pHを6.8に制御した。300mL/分の条件で通気を行い、植菌前の培養開始時の溶存酸素濃度を21%、飽和亜硫酸ナトリウム溶液中の溶存酸素濃度を0%とし、ガルバニ式センサー(エイブル株式会社)を用いて培養液中の溶存酸素が5%以上になるように撹拌制御を行った。培地中のグルコース濃度が10-50g/Lの範囲になるよう1.7mL/hrで表8に示すフィード培地を添加しながら39.5時間培養を行った。
【0155】
【表7】
【0156】
A区とB区を0.15L調整後(pH無調整)、120℃、20minで加熱滅菌を行った。放冷後A区とB区を1:1で混合し、カナマイシン(終濃度100mg/L)を添加した。
【0157】
【表8】
【0158】
培地1L調整後(pH無調整)、120℃、20minで加熱滅菌を行った。
【0159】
培養開始後、適宜サンプリングし、リナロールのGC分析を実施した。リナロール標準液は試薬リナロール(和光純薬工業株式会社製)を用いて調製した。測定用のサンプルは適宜エタノール(和光純薬工業株式会社製)で希釈した。
【0160】
GC分析は、HP-INNOWAXカラムを用いて、注入口温度250℃、検出器温度250℃、スプリット比10で実施した。カラムは50℃から5℃/分で昇温し、230℃に到達後4分間保持した。定量は、エタノール100%でリナロール標準液を調製し、標準液から検量線を作成して、リナロール濃度を求めた。また、各サンプルは標準液の濃度範囲に入るように100%エタノールで適宜希釈した。
【0161】
(74-2.製造装置の説明)
図4に示すように、第一容器110と、第一供給部120と、第二容器130と、第二供給部140と、内部に流路170(図2参照)を有する抽出管150と、回収器160と、第一循環部280と、第二循環部290と備える製造装置200を用意した。
第一容器110としては、ジャーファーメンターを用いた。
第一供給部120は、第一供給管121としてのPFAチューブ(内径1.59mm)と、第一送液ポンプ122としてのプランジャポンプとを用いて、第一容器110内の第一液10を抽出管150のT字型ミキサ151に供給できるように設けた。
第二容器130としては、第二液20としてミリスチン酸イソプロピルを収納した容器を用いた。
第二供給部140は、第二供給管141としてのPFAチューブ(内径1.59mm)と、第二送液ポンプ142としてのプランジャポンプとを用いて、第二容器130内の第二液20を抽出管150のT字型ミキサ151に供給できるように設けた。
抽出管150は、T字型ミキサー151に、管部152としてのPFAチューブ(内径1.59mm)を接続した部材を用いた。抽出管150内の流路170は、図2に示すように、T字型ミキサー151内の部分が合流部171に相当し、管部152内の部分が流通部172に相当する。
回収器160は、管部152の出口に、流路170から送出される第一液10及び第二液20を回収できるように設けた。
第一循環部280は、第一循環管281としての配管と、第一循環ポンプ282としてのポンプとを用いて、回収器160内の第一液10を第一容器110としてのジャーファーメンターに戻せるように設けた。
第二循環部290は、第二循環管291としての配管と、第二循環ポンプ292としてのポンプとを用いて、回収器160内の第二液20を第二容器130に戻せるように設けた。
【0162】
(74-3.リナロールの製造操作)
上述した発酵条件で、ジャーファーメンター内で、微生物の培養を行った。
【0163】
リナロールが生成しはじめる培養開始後13.5時間の時点からポンプを作動させ、培養開始後24.5時間の時点までの11時間、以下に説明する抽出操作を行った。
ジャーファーメンターから第一液として培養液(ジャーファーメンター内で30℃)を2.5mL/minで引き抜き、抽出管のT字型ミキサ内の合流部へ供給した。また、同時に、第二容器から第二液としてミリスチン酸イソプロピル(常温)を2.5mL/minで引き抜き、抽出管のT字型ミキサ内の合流部へ供給した。
培養液及びミリスチン酸イソプロピルは、合流部で合流した後、PFAチューブ内の流通部をスラグ流を形成して流通した。流通部での培養液及びミリスチン酸イソプロピルの線速は0.04m/s、流通時間は24秒であった。また、流通部の温度は特に制御しなかった。
その後、培養液及びミリスチン酸イソプロピルは、回収器で回収された。回収器内では、培養液が下部に、ミリスチン酸イソプロピルが上部に、迅速に相分離した。回収器では、温度は制御しなかった。
培養液が循環できるように、回収器の下部から培養液を引き出し、ジャーファーメンターに戻した。また、ミリスチン酸イソプロピルが循環できるように、回収器の上部からミリスチン酸イソプロピルを引き出し、第二容器に戻した。
【0164】
前記の抽出操作では、回収器での滞留時間を短くして酸欠を回避するために、回収器からジャーファーメンターに戻す培養液の流量を目視にて常時微調整を実施した。培養液がジャーファーメンター外を循環する時間は、配管容積と流量から試算したところ、4分であった。
【0165】
また、前記の抽出操作において、ミリスチン酸イソプロピルの量は200mLであった。このミリスチン酸イソプロピルは、培養開始後19時間の時点で新品200mLと交換し、合計400mLを使用した。
【0166】
(74-4.評価)
1.分離性の評価:
回収器に回収された培養液及びミリスチン酸イソプロピルを目視で観察して、培養液の相とミリスチン酸イソプロピルの相とに迅速に分離するかを調べた。
【0167】
2.リナロール抽出量の測定:
培養液及びミリスチン酸イソプロピルを、それぞれ、経時でサンプリングした。サンプリングした培養液及びミリスチン酸イソプロピルそれぞれのリナロール濃度を、ガスクロマトグラフィーによって測定した。こうして求めた濃度から、培養液及びミリスチン酸イソプロピルそれぞれに含まれるリナロールの量を算出した。
【0168】
3.有機酸濃度の測定:
ジャーファーメンターの外部を循環している期間の酸欠状態が微生物に及ぼす影響を評価するため、抽出操作を終了した時点(培養開始後24.5時間の時点)での培養液の有機酸濃度を測定した。有機酸濃度は、Prominence有機酸分析システム(島津製作所)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。微生物が酸欠になっている場合には、微生物の代謝経路に影響を及ぼし、酢酸及び乳酸の蓄積が増加する。
【0169】
[比較例13]
抽出操作を行わなかったこと以外は、実施例74と同じ操作により、培養によるリナロールの製造を行った。培養期間中、実施例74と同じ方法により、培養液を経時でサンプリングし、培養液に含まれるリナロールの量を求めた。また、実施例74と同じ方法により、培養開始後24.5時間の時点での培養液の有機酸濃度を測定した。
【0170】
[実施例74及び比較例13の結果]
1.分離性の結果:
実施例74においては、微生物を含む培養液の相と、微生物を含まないミリスチン酸イソプロピルの相とが、回収器に回収後の数秒以内に分離した。よって、実施例74では、微生物とリナロールとを短時間で分離できることが確認できた。
【0171】
2.リナロール抽出量の結果:
実施例74で測定されたミリスチン酸イソプロピル中のリナロール濃度を、図13に示す。図13に示すように、抽出操作の開始後、ミリスチン酸イソプロピルのリナロール濃度の上昇がみられる。よって、実施例74では、培養液からミリスチン酸イソプロピルへの抽出を行いながら、培養を継続できることが確認できた。
【0172】
実施例74及び比較例13における、培養液に含まれるリナロールと、ミリスチン酸イソプロピルに含まれるリナロールとの合計生成量を、図14に示す。図14に示すように、比較例13に比較して、実施例74では、より多くのリナロールが生成している。培養開始後24.5時間の時点でのリナロールの合計生成量は、実施例74では0.4g、比較例13では0.28gであった。また、分析の結果、比較例13に比べて、実施例74では、ジャーファーメンター中の培養液のリナロール濃度が抑制できたことが判明している。よって、実施例74では、リナロールによる生育阻害を回避しながら、微生物にリナロールを生産させることが可能であったことが分かる。
【0173】
3.有機酸濃度の結果:
実施例74及び比較例13における、培養開始後24.5時間の時点での培養液中の有機酸濃度を、図15に示す。図15に示すように、実施例74では、培養液中に酢酸及び乳酸の顕著な蓄積は見られない。よって、実施例74では、酸欠が生じていないことが示唆された。
【0174】
[実施例75]
(75-1.発酵条件)
Pantoea ananatis SWITCH―PphoCΔgcd/AaLINS-ispA株(国際公開第2017/051928号)を用いてジャー培養を行った。ジャー培養には1L容積の発酵槽としてのジャーファーメンター(エイブル株式会社)を使用した。グルコース培地は表9に示す組成になるように調整した。
【0175】
前培養としてカナマイシン(50mg/L)を含むLBプレートにイソプレン生成微生物SWITCH―PphoCΔgcd/AaLINS-ispA株を塗布し、34℃にて16時間培養を実施した。続いて、以下に記載のグルコース培地(表9)300mLを1L容積のジャーファーメンターに投入後、充分に増殖したプレート1枚分の菌体を接種し、培養を開始した。培養温度は培養11時間までは34℃、それ以降は30℃とし、アンモニアガスを用いて培養pHを6.8に制御した。300mL/分の条件で通気を行い、植菌前の培養開始時の溶存酸素濃度を21%、飽和亜硫酸ナトリウム溶液中の溶存酸素濃度を0%とし、ガルバニ式センサー(エイブル株式会社)を用いて培養液中の溶存酸素が5%以上になるように撹拌制御を行った。培地中のグルコース濃度が10-50g/Lの範囲になるよう1.9mL/hrで表10に示すフィード培地を添加した。
【0176】
【表9】
【0177】
A区とB区を0.135L調整後(pH無調整)、120℃、20minで加熱滅菌を行った。放冷後A区とB区を1:1で混合し、カナマイシン(終濃度100mg/L)を添加した。実施例75では、培養開始直前に超純水30mL添加し、培地として使用した。
【0178】
【表10】
【0179】
培地1L調整後(pH無調整)、120℃、20minで加熱滅菌を行った。
【0180】
培養開始後、適宜サンプリングし、O.D.値とリナロールのGC分析を実施した。リナロール標準液は試薬リナロール(和光純薬工業株式会社製)を用いて調製した。測定用のサンプルは適宜エタノール(和光純薬工業株式会社製)で希釈した。
【0181】
GC分析、有機酸分析は、実施例74と同様の方法で実施した。
【0182】
(75-2.製造装置の説明)
実施例74と同じ製造装置を使用した。
【0183】
(75-3.リナロールの製造操作)
上述した発酵条件で、ジャーファーメンター内で、微生物の培養を行った。
【0184】
リナロールが生成しはじめる培養開始後15時間の時点からポンプを作動させ、培養開始後43時間の時点までの28時間、以下に説明する抽出操作を行った。
ジャーファーメンターから第一液として培養液(ジャーファーメンター内で30℃)を2.5mL/minで引き抜き、抽出管のT字型ミキサ内の合流部へ供給した。また、同時に、第二容器から第二液としてミリスチン酸イソプロピル(室温、制御無し)を2.5mL/minで引き抜き、抽出管のT字型ミキサ内の合流部へ供給した。
培養液及びミリスチン酸イソプロピルは、合流部で合流した後、PFAチューブ内の流通部をスラグ流を形成して流通した。流通部での培養液及びミリスチン酸イソプロピルの線速は0.04m/s、流通時間は24秒であった。また、流通部の温度は特に制御しなかった。
その後、培養液及びミリスチン酸イソプロピルは、回収器で回収された。回収器内では、培養液が下部に、ミリスチン酸イソプロピルが上部に、迅速に相分離した。回収器では、温度は制御しなかった。
培養液が循環できるように、回収器の下部から培養液を引き出し、ジャーファーメンターに戻した。また、ミリスチン酸イソプロピルが循環できるように、回収器の上部からミリスチン酸イソプロピルを引き出し、第二容器に戻した。
【0185】
前記の抽出操作では、回収器での滞留時間を短くして酸欠を回避するために、回収器からジャーファーメンターに戻す培養液の流量を目視にて常時微調整を実施した。培養液がジャーファーメンター外を循環する時間は、配管容積と流量から試算したところ、4分であった。
【0186】
また、前記の抽出操作において、ミリスチン酸イソプロピルの量は100mLであった。このミリスチン酸イソプロピルは、培養開始後21時間、27時間、33時間及び39時間の時点で新品100mLと交換し、合計500mLを使用した。
【0187】
(75-4.評価)
実施例74と同じ方法で、分離性の評価、リナロール抽出量の測定、及び、有機酸濃度の測定を行った。有機酸濃度は、抽出操作を終了した時点(培養開始後43時間の時点)での培養液の有機酸濃度を測定した。
【0188】
[比較例14]
A区とB区とを混合して得た培地に、培養開始直前に、超純水30mLの代わりに、ミリスチン酸イソプロピル30mL(10vol%)を入れた。また、抽出操作を行わなかった。以上の事項以外は、実施例75と同じ操作により、培養によるリナロールの製造を行った。培養期間中、実施例75と同じ方法により、培養液を経時でサンプリングし、培養液に含まれるリナロールの量を求めた。また、実施例75と同じ方法により、培養開始後43時間の時点での培養液の有機酸濃度を測定した。
【0189】
[比較例15]
A区とB区とを混合して得た培地に、培養開始直前に、超純水30mLの代わりに、ミリスチン酸イソプロピル6mL(2vol%)及び超純水24mLを入れた。また、抽出操作を行わなかった。以上の事項以外は、実施例75と同じ操作により、培養によるリナロールの製造を行った。培養期間中、実施例75と同じ方法により、培養液を経時でサンプリングし、培養液に含まれるリナロールの量を求めた。また、実施例75と同じ方法により、培養開始後43時間の時点での培養液の有機酸濃度を測定した。
【0190】
[比較例16]
A区とB区とを混合して得た培地に、培養開始直前に、超純水30mLの代わりに、ミリスチン酸イソプロピル1.5mL(0.5vol%)及び超純水28.5mLを入れた。また、抽出操作を行わなかった。以上の事項以外は、実施例75と同じ操作により、培養によるリナロールの製造を行った。しかし、培養途中に発泡が激しくなったため、培養開始後39時間の時点で、培養を終了した。培養期間中、実施例75と同じ方法により、培養液を経時でサンプリングし、培養液に含まれるリナロールの量を求めた。また、実施例75と同じ方法により、培養開始後39時間の時点での培養液の有機酸濃度を測定した。
【0191】
[実施例75及び比較例14~16の結果]
1.分離性の結果:
実施例75においては、微生物を含む培養液の相と、微生物を含まないミリスチン酸イソプロピルの相とが、回収器に回収後の数秒以内に分離した。よって、実施例75では、微生物とリナロールとを短時間で分離できることが確認できた。
【0192】
2.リナロール抽出量の結果:
実施例75で測定されたミリスチン酸イソプロピル中のリナロール濃度を、図16に示す。図16に示すように、抽出操作の開始後、ミリスチン酸イソプロピルのリナロール濃度の上昇がみられる。よって、実施例75では、培養液からミリスチン酸イソプロピルへの抽出を行いながら、培養を継続できることが確認できた。
【0193】
実施例75及び比較例14~16における、培養液中のリナロール濃度を、図17に示す。図17に示すように、実施例75では、ジャーファーメンター中の培養液のリナロール濃度が抑制できた。図16に示すように、ミリスチン酸イソプロピルのリナロール濃度が増加していることから考えると、実施例75では、生育阻害を回避しながら、微生物にリナロールを生産させることが可能であったことが分かる。
【0194】
実施例75及び比較例14~16における、培養液に含まれるリナロールと、ミリスチン酸イソプロピルに含まれるリナロールとの合計生成量を、図18に示す。図18に示すように、実施例75では、培養終了時点までに多くのリナロールを製造できたことが分かる。培養終了時点でのリナロールの合計生産量は、実施例75では1.1g、比較例14では1.4g、比較例15では0.9g、比較例16では0.4gであった。
【0195】
3.有機酸濃度の結果:
実施例75及び比較例14~15における培養開始後43時間の時点での培養液中の有機酸濃度、並びに、比較例16における培養開始後39時間の時点での培養液中の有機酸濃度を、図19に示す。図19に示すように、実施例75では、培養液中に乳酸及び酢酸の顕著な蓄積は見られない。よって、実施例75では、酸欠が生じていないことが示唆された。
【0196】
4.検討:
実施例75において、培養開始後43時間の時点での培養液中のミリスチン酸イソプロピル濃度を確認したところ、0.2重量%であった。これは、比較例14~16のバッチ二相発酵での培養液中のミリスチン酸イソプロピル濃度と比べて、低濃度である。このような低濃度では、ミリスチン酸イソプロピルによるジャーファーメンター中での生育阻害の緩和効果は期待できない。よって、実施例75でリナロール生産が継続されたのは、ジャーファーメンター外での抽出による効果であると言える。
【0197】
[参考例1]
実施例75において、抽出操作の停止後、更にジャーファーメンター内で培養を継続した。その結果、培養液のO.D.600nmは低下し、培養を終了した68.5hrでは33.6であった。
【符号の説明】
【0198】
10 第一液
20 第二液
30 第一液の相
40 第二液の相
100 抽出装置
110 第一容器
120 第一供給部
121 第一供給管
122 第一送液ポンプ
130 第二容器
140 第二供給部
141 第二供給管
142 第二送液ポンプ
150 抽出管
151 T字型ミキサー部
152 管部
160 回収器
170 流路
171 合流部
172 流通部
173 送出部
200 製造装置
280 第一循環部
281 第一循環管
282 第一循環ポンプ
290 第二循環部
291 第二循環管
292 第二循環ポンプ
図1
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