(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】光変調器および光変調器の制御方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20231129BHJP
H04B 10/516 20130101ALI20231129BHJP
H04B 10/079 20130101ALI20231129BHJP
【FI】
G02F1/01 B
H04B10/516
H04B10/079 190
(21)【出願番号】P 2020006613
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】黄 国秀
(72)【発明者】
【氏名】中島 久雄
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-114499(JP,A)
【文献】特開2012-247712(JP,A)
【文献】特開2019-074612(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0171971(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108833019(CN,A)
【文献】国際公開第2016/152128(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マッハツェンダ変調器と、
前記マッハツェンダ変調器のバイアスを制御するバイアス制御部と、を備え、
前記マッハツェンダ変調器は、
入力光を分岐して第1の光パスおよび第2の光パスに導く入力光回路と、
前記第1の光パス上に形成される第1のマッハツェンダ干渉計と、
前記第2の光パス上に形成される第2のマッハツェンダ干渉計と、
前記第1の光パスと前記第2の光パスとの間の位相差を調整する移相器と、
前記第1のマッハツェンダ干渉計の出力光および前記第2のマッハツェンダ干渉計の出力光を合波して光信号を出力する出力光回路と、を備え、
前記バイアス制御部は、
前記第1のマッハツェンダ干渉計の動作点を制御する第1のバイアス信号を出力する第1のバイアス部と、
前記第2のマッハツェンダ干渉計の動作点を制御する第2のバイアス信号を出力する第2のバイアス部と、
前記移相器の移相量を制御する、低周波信号が重畳された第3のバイアス信号を出力する第3のバイアス部と、
前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分
が最小化されるように前記第1のバイアス信号を制御し、その後、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分が最小化されるように前記第2のバイアス信号を制御し、さらにその後、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分に基づいて、前記第3のバイアス信号を制御する制御部と、を備え、
前記第1のバイアス信号および前記第2のバイアス信号には、前記低周波信号は重畳されない
ことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1のバイアス信号および前記第2のバイアス信号を制御した後、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分を大きくするように、前記第3のバイアス信号を制御する
ことを特徴とする請求項
1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記制御部は、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分が最大化されるように前記第3のバイアス信号を制御する
ことを特徴とする請求項
2に記載の光変調器。
【請求項4】
前記マッハツェンダ変調器の出力光の強度が、前記第3のバイアス信号の電圧に対して所定の周期で変化する構成において、前記低周波信号の振幅は、前記周期に対応する電圧の2分の1に設定される
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1つに記載の光変調器。
【請求項5】
前記制御部は、前記第3のバイアス信号の電圧を変化させながら前記マッハツェンダ変調器の出力光の強度が最大になる第1の電圧値および前記マッハツェンダ変調器の出力光の強度が最小になる第2の電圧値を取得し、
前記低周波信号の振幅として前記第1の電圧値と前記第2の電圧値との差分が設定される
ことを特徴とする請求項
4に記載の光変調器。
【請求項6】
入力光を分岐して第1の光パスおよび第2の光パスに導く入力光回路と、前記第1の光パス上に形成される第1のマッハツェンダ干渉計と、前記第2の光パス上に形成される第2のマッハツェンダ干渉計と、前記第1の光パスと前記第2の光パスとの間の位相差を調整する移相器と、前記第1のマッハツェンダ干渉計の出力光および前記第2のマッハツェンダ干渉計の出力光を合波して光信号を出力する出力光回路と、を備えるマッハツェンダ変調器を制御する方法であって、
低周波信号が重畳された位相バイアス信号を前記移相器に印加しながら前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分をモニタし、
前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分が最小化されるように前記第1のマッハツェンダ干渉計の動作点を制御する、前記低周波信号が重畳されていない第1のバイアス信号を制御し、
前記第1のバイアス信号の制御が終了した後に、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分が最小化されるように前記第2のマッハツェンダ干渉計の動作点を制御する、前記低周波信号が重畳されていない第2のバイアス信号を制御し、
前記第2のバイアス信号の制御が終了した後に、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分が最大化されるように前記位相バイアス信号を制御する
ことを特徴とする光変調器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器および光変調器の制御方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
光変調器は、光伝送システムの高速化または大容量化を実現するためのキーデバイスの1つである。特に、マッハツェンダ変調器は、所望の変調方式に応じた変調光信号を生成できるので、広く実用化されている。
【0003】
図1は、マッハツェンダ変調器の一例を示す。この実施例では、マッハツェンダ変調器は、IQ変調器として動作する。すなわち、マッハツェンダ変調器は、Iアーム光パスおよびQアーム光パスから構成される。Iアーム光パス上には、マッハツェンダ干渉計MZM_Iが設けられている。Qアーム光パス上には、マッハツェンダ干渉計MZM_Qが設けられている。さらに、マッハツェンダ変調器は、移相器11を備える。移相器11は、Iアーム光パスを介して伝搬する光の位相とQアーム光パスを介して伝搬する光の位相との差分が所定の目標値となるように、Iアーム光パスを介して伝搬する光またはQアーム光パスを介して伝搬する光の少なくとも一方の位相を調整する。
図1に示す例では、移相器11は、Qアーム光パス上に設けられ、Qアーム光パスを介して伝搬する光の位相を調整する。位相差の目標値は、例えば、π/2である。なお、以下の記載において、π/2は、「π/2+2nπ(nは、任意の整数)」を含むものとする。
【0004】
マッハツェンダ変調器は、光源(LD)100により生成される連続光を変調して変調光信号を生成する。すなわち、光源100により生成される連続光は、分岐されてIアーム光パスおよびQアーム光パスに導かれる。そうすると、マッハツェンダ干渉計MZM_Iは、データIで連続光を変調して光信号Iを生成する。マッハツェンダ干渉計MZM_Qは、データQで連続光を変調して光信号Qを生成する。そして、マッハツェンダ変調器は、光信号Iおよび光信号Qを合波して変調光信号を生成する。
【0005】
ここで、品質のよい変調光信号を生成するために、マッハツェンダ変調器のバイアス制御が行われる。Iアームバイアス制御およびQアームバイアス制御は、それぞれNull点を設定する。すなわち、Iアームバイアス制御は、マッハツェンダ干渉計MZM_Iから出力される光のパワーを最小化する。Qアームバイアス制御は、マッハツェンダ干渉計MZM_Qから出力される光のパワーを最小化する。また、位相バイアス制御は、Iアーム光パスとQアーム光パスとの間の位相差を目標値(ここでは、π/2)に制御する。
【0006】
なお、マッハツェンダ変調器のバイアス制御については、例えば、特許文献1~5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2017/082349
【文献】WO2014/034047
【文献】特開2019-074612号公報
【文献】特開2017-116746号公報
【文献】特開2017-188829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術で
図1に示す3つのバイアスを制御する場合、好適な状態が得られるまでに要する時間が長くなることがある。そして、バイアス制御に要する時間が長くなると、通信システムの運用効率が悪くなる。例えば、通信システムの障害等に起因して通信機器の再起動が行われる場合、光変調器のバイアス制御が行われる。この場合、バイアス制御に要する時間が長いと、障害の影響が大きくなるおそれがある。
【0009】
本発明の1つの側面に係わる目的は、光変調器のバイアス制御に要する時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様の光変調器は、マッハツェンダ変調器および前記マッハツェンダ変調器のバイアスを制御するバイアス制御部を備える。前記マッハツェンダ変調器は、入力光を分岐して第1の光パスおよび第2の光パスに導く入力光回路と、前記第1の光パス上に形成される第1のマッハツェンダ干渉計と、前記第2の光パス上に形成される第2のマッハツェンダ干渉計と、前記第1の光パスと前記第2の光パスとの間の位相差を調整する移相器と、前記第1のマッハツェンダ干渉計の出力光および前記第2のマッハツェンダ干渉計の出力光を合波して光信号を出力する出力光回路と、を備える。前記バイアス制御部は、前記第1のマッハツェンダ干渉計の動作点を制御する第1のバイアス信号を出力する第1のバイアス部と、前記第2のマッハツェンダ干渉計の動作点を制御する第2のバイアス信号を出力する第2のバイアス部と、前記移相器の移相量を制御する、低周波信号が重畳された第3のバイアス信号を出力する第3のバイアス部と、前記光信号に含まれる前記低周波信号の周波数成分に基づいて、前記第1のバイアス信号、前記第2のバイアス信号、および前記第3のバイアス信号を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
上述の態様によれば、光変調器のバイアス制御に要する時間が短くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】マッハツェンダ変調器の一例を示す図である。
【
図2】マッハツェンダ変調器のバイアス制御の一例を示す図である。
【
図3】マッハツェンダ変調器のバイアス制御の他の例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係わる光変調器の一例を示す図である。
【
図5】マッハツェンダ変調器の特性を示す図である。
【
図6】位相バイアスとAC成分の振幅との関係を説明する図である。
【
図7】位相バイアスとAC成分の振幅との関係を模式的に示す図である。
【
図8】バイアス制御部の構成の一例を示す図である。
【
図9】バイアスを制御する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】低周波信号の振幅を決定する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11】I/Qバイアスを制御する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図12】位相バイアスを制御する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図13】低周波信号の振幅がπより小さく、且つ、位相バイアスが適切なときの出力光に含まれるAC成分を説明する図である。
【
図14】低周波信号の振幅がπより小さく、且つ、位相バイアスが適切でないときの出力光に含まれるAC成分を説明する図である。
【
図15】低周波信号の振幅がπより大きく、且つ、位相バイアスが適切なときの出力光に含まれるAC成分を説明する図である。
【
図16】低周波信号の振幅がπより大きく、且つ、位相バイアスが適切でないときの出力光に含まれるAC成分を説明する図である。
【
図17】光変調器の構成のバリエーションを示す図である。
【
図18】光変調器の構成の他のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2は、マッハツェンダ変調器のバイアス制御の一例を示す。
図2に示す例では、各バイアス信号に重畳される低周波信号の周波数が互いに異なる。すなわち、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点を制御するバイアス信号は低周波数信号F1で変調され、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点を制御するバイアス信号は低周波数信号F2で変調され、移相器11の移相量を制御するバイアス信号は低周波数信号F3で変調される。この場合、マッハツェンダ変調器は、出力光から各低周波数信号F1、F2、F3を抽出するためのバンドパスフィルタを備える。そして、バイアス制御部は、出力光から抽出される低周波数信号F1、F2、F3を利用して、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点、および移相器11の移相量をそれぞれ制御する。
【0014】
ただし、この構成では、出力光から低周波数信号を抽出するためのバンドパスフィルタの個数が多くなる。よって、光変調器のサイズが大きくなり、また、光変調器のコストが高くなる。
【0015】
図3は、マッハツェンダ変調器のバイアス制御の他の例を示す。
図3に示す例では、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点を制御するバイアス信号およびマッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点を制御するバイアス信号は、同じ周波数の低周波信号で変調される。この構成においては、
図2に示す構成と比較してバンドパスフィルタの個数が少なくなる。ただし、この構成では、移相器11の移相量が目標値に調整されていないときは、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qに与えられる1組の低周波信号が干渉するので、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qの動作点の調整が困難である。加えて、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qの動作点を調整すると、移相器11の目標移相量が変化する。したがって、この構成では、バイアス制御に要する時間が長くなる。
【0016】
図4は、本発明の実施形態に係わる光変調器の一例を示す。本発明の実施形態に係わる光変調器1は、マッハツェンダ変調器10、光カプラ12、受光器13、AC成分検出部14、およびバイアス制御部20を備える。なお、光変調器1は、
図4に示していない他の要素を備えてもよい。
【0017】
マッハツェンダ変調器10は、入力光回路10a、マッハツェンダ干渉計MZM_I、マッハツェンダ干渉計MZM_Q、移相器11、出力光回路10bを備える。そして、光源(LD)100により生成される連続光がマッハツェンダ変調器10に入力される。
【0018】
入力光回路10aは、光源100により生成される連続光を分岐してIアーム光パスおよびQアーム光パスに導く。入力光回路10aは、例えば、光導波路により構成される。また、Iアーム光パスおよびQアーム光パスも、それぞれ光導波路で構成される。
【0019】
マッハツェンダ干渉計MZM_Iは、Iアーム光パス上に設けられる。マッハツェンダ干渉計MZM_Qは、Qアーム光パス上に設けられる。各マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qは、それぞれ光導波路で構成される。また、各マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qは、バイアス信号を受信する電極およびデータ信号を受信する電極を備える。バイアス信号は、バイアス制御部20により生成される。データ信号は、不図示のデータ信号生成回路により生成される。
【0020】
移相器11は、バイアス制御部20により生成される位相バイアス信号に応じて、Iアーム光パスとQアーム光パスとの間の位相差を調整する。すなわち、移相器11は、Iアーム光パスを介して出力光回路10bに到着する光の位相とQアーム光パスを介して出力光回路10bに到着する光の位相との差分が所定の目標値となるように、Iアーム光パスを介して伝搬する光またはQアーム光パスを介して伝搬する光の少なくとも一方の位相を調整する。
図4に示す実施例では、移相器11は、Qアーム光パス上に設けられ、Qアーム光パスを介して伝搬する光の位相を調整する。目標値は、例えば、π/2である。
【0021】
出力光回路10bは、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光およびマッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光を合波して光信号を出力する。出力光回路10bは、例えば、光導波路により構成される。
【0022】
光カプラ(CLP)12は、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号を分岐して受光器(PD)13に導く。すなわち、光カプラ13は、光スプリッタとして使用される。受光器13は、受信光信号を電気信号に変換する。すなわち、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号を表す電気信号が生成される。AC成分検出部14は、受光器13の出力信号のAC成分を検出する。すなわち、AC成分検出部14は、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号に含まれるAC成分を検出する。
【0023】
バイアス制御部20は、AC成分検出部14により検出されるAC成分を利用してマッハツェンダ変調器10のバイアス制御を行う。すなわち、バイアス制御部20は、各マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qの動作点を最適化し、また、移相器11の移相量を最適化する。
【0024】
上記構成の光変調器1において、光源100により生成される連続光は、分岐されてIアーム光パスおよびQアーム光パスに導かれる。そうすると、マッハツェンダ干渉計MZM_Iは、データ信号Iで連続光を変調して光信号Iを生成する。マッハツェンダ干渉計MZM_Qは、データ信号Qで連続光を変調して光信号Qを生成する。そして、マッハツェンダ変調器10は、光信号Iおよび光信号Qを合波して変調光信号を生成する。
【0025】
ここで、品質のよい変調光信号を生成するために、光変調器1は、バイアス信号の初期設定を行う。具体的には、Iアームバイアス制御、Qアームバイアス制御、および位相バイアス制御が行われる。Iアームバイアス制御は、データ信号Iが与えられていないときに、マッハツェンダ干渉計MZM_Iから出力される光のパワーを最小化する。Qアームバイアス制御は、データ信号Qが与えられていないときに、マッハツェンダ干渉計MZM_Qから出力される光のパワーを最小化する。位相バイアス制御は、Iアーム光パスとQアーム光パスとの間の位相差を目標値(ここでは、π/2)に制御する。以下、バイアス制御について記載する。
【0026】
バイアス制御部20は、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点を調整するためのIアームバイアス信号、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点を調整するためのQアームバイアス信号、および移相器11の移相量を調整するための位相バイアス信号を生成する。ここで、Iアームバイアス信号およびQアームバイアス信号は、それぞれ直流電圧信号である。一方、位相バイアス信号は、直流電圧信号を所定の周波数の変調信号で変調することにより得られる。この変調信号の周波数は、データ信号Iまたはデータ信号Qのシンボルレートと比較して十分に低速である。したがって、以下の記載では、この変調信号を「低周波信号」と呼ぶことがある。
【0027】
低周波信号の振幅は、特に限定されるものではないが、「π(又は、Vπ)」に設定されることが好ましい。ここで、マッハツェンダ変調器10の出力光の強度は、
図5に示すように、位相バイアス信号の電圧に対して周期的に変化する。そして、出力光の強度を1周期だけ変化させる電圧変化量は「2π(または、2Vπ)」と定義される。この場合、「π(または、Vπ)」は、マッハツェンダ変調器10の出力光の強度を最小値から最大値まで変化させる電圧、または、マッハツェンダ変調器10の出力光の強度を最大値から最小値まで変化させる電圧に相当する。
【0028】
なお、低周波信号の波形は、特に限定されるものではない。例えば、低周波信号は、サイン波であってもよいし、パルス波であってもよいし、ランプ波であってもよい。ランプ波は、直線的に電圧が上昇する区間および直線的に電圧が低下する区間が交互に繰り返される信号を表す。
【0029】
バイアス制御部20は、バイアス制御の開始時に、Iアームバイアス信号、Qアームバイアス信号、および位相バイアス信号をマッハツェンダ変調器10に与える。また、光源100により生成される連続光がマッハツェンダ変調器10に入力される。ただし、データ信号Iおよびデータ信号Qは、マッハツェンダ変調器10に与えられない。
【0030】
この場合、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号は、低周波信号の周波数成分を含む。この光信号は、光カプラ12により分岐され、受光器13により電気信号に変換される。また、AC成分検出部14は、受光器13の出力信号に含まれるAC成分を検出する。このとき、AC成分検出部14は、低周波信号の周波数成分を検出する。すなわち、AC成分検出部14は、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号に含まれる低周波信号の周波数成分を検出する。そして、AC成分検出部14は、低周波信号の周波数成分を表すモニタ信号を出力する。モニタ信号は、AC成分検出部14において検出される低周波信号の周波数成分の振幅または強度を表してもよい。
【0031】
バイアス制御部20は、AC成分検出部14から出力されるモニタ信号に基づいてマッハツェンダ変調器10のバイアスを制御する。即ち、バイアス制御部20は、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号に含まれる低周波信号の周波数成分に基づいて、Iアームバイアス、Qアームバイアス、および位相バイアスを制御する。
【0032】
この場合、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光の振幅AIおよびマッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光の振幅AQは、(1)式で表される。
【0033】
【0034】
PIは、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光のパワーを表す。PQは、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光のパワーを表す。φIは、Iアーム光パスにおいて発生する位相変化量を表す。φQは、Qアーム光パスにおいて発生する位相変化量を表す。そして、Φは、移相器11による移相量を表す。
【0035】
また、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号のパワーPoutは、(2)式で表される。
【0036】
【0037】
移相量Φは、位相バイアス信号により制御される。Φ0は、位相バイアス信号の直流電圧を表す。f(t)は、低周波信号を表す。低周波信号の振幅は、例えば、πである。したがって、移相器11の移相量は、Φ0±π/2の範囲内で変動する。即ち、移相器11の移相量の最大値および最小値は、それぞれΦ0+π/2およびΦ0-π/2である。
【0038】
マッハツェンダ変調器10から出力される光信号は、上述のように、光カプラ12により分岐され、受光器13により電気信号に変換される。そして、AC成分検出部14は、受光器13の出力信号に含まれるAC成分を検出する。したがって、AC成分検出部14により検出されるAC成分EAC(すなわち、マッハツェンダ変調器10から出力される光信号に含まれる低周波信号の周波数成分)は、(3)式で表される。
【0039】
【数3】
なお、E(cos(Φ+Δφ))は、平均値を表す。即ち、E(cos(Φ+Δφ))は、Φ
0およびΔφの大きさによって変化する。
【0040】
バイアス制御部20は、AC成分検出部14により検出されるAC成分EACに基づいてバイアス制御を行う。具体的には、下記の手順でバイアス制御が行われる。
【0041】
バイアス制御部20は、Iアームバイアス信号の電圧値を調整してマッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点をNull点に設定する。すなわち、バイアス制御部20は、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光のパワーを小さくする。好ましくは、バイアス制御部20は、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光のパワーを最小化する。なお、Iアームバイアスの調整時には、Qアームバイアスは固定される。また、Iアームバイアスを調整することでマッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光のパワーを最小化しても、そのパワーはゼロにはならないものとする。
【0042】
ここで、AC成分EACの振幅は、(3)式に示すように、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光のパワーPIとマッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光のパワーPQとの積の平方根に比例する。よって、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの出力光のパワーを小さくすると、AC成分EACの振幅も小さくなる。したがって、バイアス制御部20は、AC成分EACの振幅が最小化されるように、Iアームバイアス信号の電圧値を調整する。この結果、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点がNull点に設定される。
【0043】
続いて、バイアス制御部20は、Qアームバイアス信号の電圧を調整してマッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点をNull点に設定する。即ち、バイアス制御部20は、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光のパワーを小さくする。好ましくは、バイアス制御部20は、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光のパワーを最小化する。なお、Qアームバイアスの調整時には、Iアームバイアスは既に最適化されている。また、Qアームバイアスを調整することでマッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光のパワーを最小化しても、そのパワーはゼロにはならないものとする。
【0044】
ここで、AC成分EACの振幅は、(3)式に示すように、パワーPIとパワーPQとの積の平方根に比例する。よって、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの出力光のパワーを小さくすると、AC成分EACの振幅も小さくなる。したがって、バイアス制御部20は、AC成分EACの振幅が最小化されるように、Qアームバイアス信号の電圧値を調整する。この結果、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点もNull点に設定される。
【0045】
このように、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qの動作点がそれぞれNull点に設定される。なお、この実施例では、マッハツェンダ干渉計MZM_Iのバイアスが調整された後にマッハツェンダ干渉計MZM_Qのバイアスが調整されるが、本発明はこの手順に限定されるものではない。すなわち、バイアス制御部20は、マッハツェンダ干渉計MZM_Qのバイアスを調整した後にマッハツェンダ干渉計MZM_Iのバイアスを調整してもよい。
【0046】
この後、バイアス制御部20は、位相バイアス信号の直流電圧値を調整して移相器11の移相量を最適化する。即ち、Iアーム光パスとQアーム光パスとの間の位相差がπ/2になるように、移相器11の移相量が制御される。なお、位相バイアスの調整時には、IアームバイアスおよびQアームバイアスは固定される。すなわち、位相バイアスの調整時には、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qの動作点は、それぞれNull点に固定されている。
【0047】
ここで、IアームバイアスおよびQアームバイアスの調整が終了した後は、PIおよびPQが固定値になるので、AC成分EACは(4)式で表される。
【0048】
【数4】
そうすると、AC成分E
ACの振幅は、cos(Φ+Δφ)の最大値とcos(Φ+Δφ)の最小値との差分で決まる。
【0049】
図6は、位相バイアスとAC成分E
ACの振幅との関係を説明する図である。ここで、
図6(a)に示す例では、移相器11の移相量は最適化されていない。即ち、Φ
0+Δφはπ/2ではない。一例として、Φ
0+Δφはπ/4に設定されている。この場合、AC成分E
ACの振幅は、A1に比例する。
【0050】
これに対して、
図6(b)に示す例では、移相器11の移相量は最適化されている。具体的には、Φ
0+Δφは、π/2である。この場合、AC成分E
ACの振幅は、A2に比例する。なお、A2は、A1より大きく、最大振幅である。
【0051】
図6(c)に示す例では、Φ
0+Δφはゼロである。この場合、AC成分E
ACの振幅は、A3に比例する。A3は、最小振幅である。すなわち、Φ
0+Δφがゼロとなったとき、AC成分E
ACの振幅が最小になる。
【0052】
図7は、位相バイアスとAC成分E
ACの振幅との関係を模式的に示す。
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)は、それぞれ
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)に対応する。なお、位相バイアス信号Φは、電圧Φ
0を中心として振幅Vπで振動する。また、
図7に示すEは、AC成分E
ACの平均値であり、(3)式の右辺の括弧内の第2項、又は、(4)式の右辺の第2項に相当する。
【0053】
このように、Φ0+Δφがπ/2となるように移相器11の移相量が最適化されると、AC成分EACの振幅が最大化される。換言すれば、AC成分EACの振幅が最大化されるように移相器11の移相量を調整すれば、Φ0+Δφがπ/2になる。したがって、バイアス制御部20は、AC成分EACの振幅が最大化されるように、位相バイアス信号の中心電圧(上述の例では、Φ0に対応する電圧)を調整する。この結果、Iアーム光パスとQアーム光パスとの位相差がπ/2に設定される。
【0054】
図8は、バイアス制御部20の構成の一例を示す。バイアス制御部20は、Iアームバイアス部21、Qアームバイアス部22、位相バイアス部23、および制御部25を備える。なお、バイアス制御部20は、
図8に示してない他の要素を備えてもよい。
【0055】
Iアームバイアス部21は、制御部25から与えられる直流電圧指令値に対応するIアームバイアス信号を生成する。即ちち、Iアームバイアス信号は、直流電圧信号である。Qアームバイアス部21は、制御部25から与えられる直流電圧指令値に対応するQアームバイアス信号を生成する。即ち、Qアームバイアス信号も、直流電圧信号である。
【0056】
位相バイアス部23は、制御部25から与えられる直流電圧指令値に対応する位相バイアス信号を生成する。ただし、位相バイアス部23は、バイアス変調部24を備える。バイアス変調部24は、直流電圧指令値に対応する直流電圧信号を所定の周波数の低周波信号で変調する。すなわち、直流電圧指令値に対応する直流電圧信号に低周波信号が重畳される。低周波信号の振幅は、制御部25により指定される。
【0057】
バイアス変調部24が低周波信号を生成する回路を備えるときは、制御部25からバイアス変調部24に振幅指示が与えられる。そして、バイアス変調部24は、振幅指示が表す振幅を有する低周波信号を生成し、その低周波信号で直流電圧信号を変調する。また、制御部25からバイアス変調部24に低周波信号が与えられるときは、バイアス変調部24は、その低周波信号で直流電圧信号を変調する。
【0058】
制御部25は、AC成分検出部14により検出されるAC成分EAC(即ち、マッハツェンダ変調器10の出力光に含まれる低周波信号の周波数成分)の振幅を表すモニタ信号に基づいて、Iアームバイアス信号の電圧、Qアームバイアス信号の電圧、および位相バイアス信号の中心電圧を調整する。
【0059】
また、制御部25は、振幅決定部25aを備える。振幅決定部25aは、低周波信号の振幅を決定する。ここで、この実施例では、低周波信号の振幅は、マッハツェンダ変調器10のVπに相当する。よって、振幅決定部25aは、マッハツェンダ変調器10のVπを特定する。
【0060】
例えば、振幅決定部25aは、位相バイアス信号の中心電圧をスイープ(又は、スキャン)しながらマッハツェンダ変調器10の出力光のパワーをモニタする。ここで、マッハツェンダ変調器10の出力光のパワーは、
図5に示すように、位相バイアスに対して周期的に変化する。よって、振幅決定部25aは、マッハツェンダ変調器10の出力光のパワーが最小になるときの位相バイアス信号の中心電圧およびマッハツェンダ変調器10の出力光のパワーが最大になるときの位相バイアス信号の中心電圧を検出する。そして、振幅決定部25aは、これら2つの電圧値の差分を計算することで低周波信号の振幅を決定する。
図5においては、V1およびV2が検出される。この場合、V2-V1が「π(又は、Vπ)」に相当する。よって、振幅決定部25aは、V2-V1を計算することで低周波信号の振幅を決定する。なお、マッハツェンダ変調器10のVπが既知である場合は、振幅決定部25aは、その値を低周波信号の振幅として使用してもよい。
【0061】
制御部25は、例えば、プロセッサおよびメモリを含むプロセッサシステムにより実現される。この場合、プロセッサは、メモリに格納されているバイアス制御プログラムを実行することにより、マッハツェンダ変調器10のバイアスを制御する。或いは、制御部25は、デジタル信号処理回路等のハードウェア回路で実現してもよい。
【0062】
図9は、バイアスを制御する方法の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、例えば、光変調器10を含む通信機器がデータ通信を開始または再開する前にデバイス制御部20により実行される。
【0063】
S1において、振幅決定部25aは、位相バイアス信号に重畳される低周波信号の振幅を決定する。S2において、制御部25は、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点およびマッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点をそれぞれ制御する。S3において、制御部25は、移相器11の移相量を調整する。なお、S2~S3により、マッハツェンダ変調器10のバイアスが最適化される。そして、光変調器1は、マッハツェンダ変調器10のバイアスが最適化された状態でデータ通信を開始または再開する。すなわち、光変調器1は、データ信号Iおよびデータ信号Qで連続光を変調し、変調光信号を出力する。
【0064】
図10は、低周波信号の振幅を決定する方法の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、
図9に示すS1に対応する。
【0065】
S11において、振幅決定部25aは、Iアームバイアス信号の電圧およびQアームバイアス信号の電圧を任意の固定値に設定する。このとき、制御部25からIアームバイアス部21およびQアームバイアス部22にそれぞれ直流電圧指令値が与えられ、バイアス制御部20は、Iアームバイアス信号およびQアームバイアス信号を出力する。これにより、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MAM_Qは、所定の状態に保持される。
【0066】
S12において、振幅決定部25aは、位相バイアスをスイープしながらマッハツェンダ変調器10の出力光のパワーをモニタする。このとき、振幅決定部25aは、位相バイアス信号の中心電圧をΔVずつ変化させる指示を位相バイアス部23に与える。そして、振幅決定部25aは、電圧値を変化させる毎にマッハツェンダ変調器10の出力光のパワーを検出する。検出したパワー値は、不図示のメモリに保存される。
【0067】
S13において、振幅決定部25aは、最小パワーが得られる電圧値および最大パワーが得られる電圧値を特定する。
図5に示す例では、最大パワーが得られる電圧値V1および最小パワーが得られる電圧値V2が特定される。
【0068】
S14において、振幅決定部25aは、S13で特定した2つの電圧値の差分を計算する。
図5に示す例では、V2-V1が計算される。そして、振幅決定部25aは、この計算結果を、低周波信号の振幅を表す振幅値として不図示のメモリに保存する。
【0069】
図11は、I/Qバイアスを制御する方法の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、
図9に示すS2に対応する。
【0070】
S21において、制御部25は、Iアームバイアス信号の電圧、Qアームバイアス信号の電圧、および位相バイアス信号の中心電圧をそれぞれ任意の固定値に設定する。このとき、制御部25からIアームバイアス部21、Qアームバイアス部22、および位相バイアス部23にそれぞれ直流電圧指令値が与えられ、バイアス制御部20は、Iアームバイアス信号、Qアームバイアス信号、および位相バイアス信号を出力する。
【0071】
S22において、制御部25は、S14で計算した振幅値をバイアス変調部24に通知する。そうすると、バイアス変調部24は、この通知に基づいて低周波信号を生成する。そして、バイアス変調部24は、この低周波信号で、位相バイアス部23により生成される直流電圧信号を変調する。この結果、位相バイアス信号の電圧は、振幅πで振動することになる。
【0072】
S23において、制御部25は、Qアームバイアス信号の電圧を固定しながら、AC成分検出部14により検出されるAC成分が小さくなるようにIアームバイアス信号の電圧を調整する。好ましくは、制御部25は、AC成分検出部14により検出されるAC成分が最小になるようにIアームバイアス信号の電圧を調整する。そして、制御部25は、AC成分が最小になったときのIアームバイアス信号の電圧値を、不図示のメモリに保存する。
【0073】
S24において、制御部25は、AC成分検出部14により検出されるAC成分が小さくなるようにQアームバイアス信号の電圧を調整する。好ましくは、制御部25は、AC成分検出部14により検出されるAC成分が最小になるようにQアームバイアス信号の電圧を調整する。このとき、Iアームバイアス信号の電圧は、S23で調整された状態に保持されていることが好ましい。そして、制御部25は、AC成分が最小になったときのQアームバイアス信号の電圧値を、不図示のメモリに保存する。
【0074】
なお、
図11に示す例では、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点が調整され、その後にマッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点が調整されるが、本発明のこの手順に限定されるものではない。すなわち、制御部25は、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点を調整し、その後にマッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点を調整してもよい。
【0075】
図12は、位相バイアスを制御する方法の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、
図9に示すS3に対応する。
【0076】
S31において、制御部25は、S23~S24の処理の結果を利用して、マッハツェンダ干渉計MZM_IおよびMZM_Qの動作点を設定する。このとき、バイアス制御部20は、S23で取得した電圧値を有するIアームバイアス信号を出力し、S24で取得した電圧値を有するQアームバイアス信号を出力する。この結果、マッハツェンダ干渉計MZM_I、MZM_Qの動作点がそれぞれNull点に設定される。
【0077】
S32において、制御部25は、S14で計算した振幅値をバイアス変調部24に通知する。そうすると、バイアス変調部24は、この通知に基づいて低周波信号を生成する。そして、バイアス変調部24は、位相バイアス部23により生成される直流電圧信号を低周波信号で変調する。この結果、位相バイアス信号の電圧は、振幅πで振動することになる。
【0078】
S33において、制御部25は、AC成分検出部14により検出されるAC成分が大きくなるように位相バイアス信号の中心電圧を調整する。好ましくは、制御部25は、AC成分検出部14により検出されるAC成分が最大になるように位相バイアス信号の中心電圧を調整する。この結果、移相器11の移相量が調整され、Iアーム光パスとQアーム光パスとの間の位相差がπ/2に設定される。
【0079】
上述したように、本発明の実施形態に係わるバイアス制御においては、Iアームバイアス信号およびQアームバイアス信号を変調することなく、位相バイアス信号のみが変調される。よって、
図2または
図3に示す構成と比較して、低周波信号の周波数成分を検出するための回路を小さくできる。加えて、I/Qバイアスの調整および位相バイアスの調整は、互いに独立している。すなわち、位相バイアスの調整が行われた後に、I/Qバイアスの再調整を行う必要はない。したがって、バイアス制御に要する時間が短くなる。
【0080】
次に、低周波信号の振幅をπ(または、Vπ)に設定することが好ましい理由を説明する。
【0081】
図13~
図14は、低周波信号の振幅がπより小さいときの出力光に含まれるAC成分を説明する図である。この例では、低周波信号の振幅はφ3である。φ3は、πよりも小さい。
【0082】
図13においては、マッハツェンダ変調器10の位相バイアスが適切に調整されているものとする。即ち、Φ
0+Δφは、
図13(a)に示すように、目標値(この例では、π/2)に調整されている。この場合、位相バイアス信号の電圧は、「π/2-φ3/2」から「π/2+φ3/2」の範囲で変動する。そして、Φ
0+Δφがπ/2に調整されているときに、振幅φ3の低周波信号が重畳された位相バイアス信号が移相器11に与えられると、
図13(b)に示すように、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅はA4である。
【0083】
図14においては、マッハツェンダ変調器10の位相バイアスが適切に調整されていない。即ち、Φ
0+Δφは、
図14(a)に示すように、目標値(この例では、π/2)からずれている。また、
図14(b)に示すように、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅はA5である。
【0084】
ここで、低周波信号の振幅φ3がπよりも小さいときは、Φ0+Δφがπ/2からずれた場合であっても、位相バイアスに対して出力光強度が線形に変化する線形領域内で低周波信号が振動することがある。そして、この場合、振幅A5は、位相バイアスが適切に調整されているときに検出される振幅A4とほぼ同じである。すなわち、Φ0+Δφがπ/2からずれているときに検出される振幅A5と、位相バイアスが適切に調整されているときに検出される振幅A4との差分は小さい。したがって、低周波信号の振幅がπであるケースと比較して、低周波信号の振幅がπより小さいケースでは、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅に基づいて位相バイアスを最適化する際の調整感度が低くなる。換言すれば、低周波信号の振幅をπに設定すれば、バイアス電圧の調整感度が高くなる。
【0085】
図15~
図16は、低周波信号の振幅がπより大きいときの出力光に含まれるAC成分を説明する図である。この例では、低周波信号の振幅はφ4である。φ4は、πよりも大きい。
【0086】
図15においては、マッハツェンダ変調器10の位相バイアスが適切に調整されているものとする。即ち、Φ
0+Δφは、
図15(a)に示すように、目標値(この例では、π/2)に調整されている。この場合、位相バイアス信号の電圧は、「π/2-φ4/2」から「π/2+φ4/2」の範囲で変動する。そして、Φ
0+Δφがπ/2に調整されているときに、振幅φ4の低周波信号が重畳された位相バイアス信号が移相器11に与えられると、
図15(b)に示すように、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅はA6である。
【0087】
図16においては、マッハツェンダ変調器10の位相バイアスが適切に調整されていない。即ち、Φ
0+Δφは、
図16(a)に示すように、目標値(この例では、π/2)からずれている。また、
図16(b)に示すように、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅はA7である。
【0088】
ここで、低周波信号の振幅φ4がπよりも大きいときは、Φ
0+Δφがπ/2からずれた場合であっても、最大光強度が現れる電圧V1および最小光強度が現れる電圧V2が低周波信号の電圧範囲に含まれることになる。すなわち、低周波信号の振幅φ4がπよりも大きいときは、Φ
0+Δφがπ/2に一致しているか否かにかかわらず、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅は実質的に一定である。
図15~
図16に示す例では、A6=A7である。よって、低周波信号の振幅がπより大きいケースでは、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅に基づいて位相バイアスを最適化することは困難である。或いは、低周波信号の振幅がπであるケースと比較して、低周波信号の振幅がπより大きいケースでは、AC成分検出部14により検出される低周波信号の周波数成分の振幅に基づいて位相バイアスを最適化する際の調整感度が低くなる。換言すれば、低周波信号の振幅をπに設定すれば、バイアス電圧の調整感度が高くなる。
【0089】
<バリエーション>
図17に示す例では、受光器(PD)13とAC成分検出部14との間にコンデンサCが設けられる。このコンデンサCは、受光器13の出力信号からDC成分を除去する。したがって、AC成分検出部14は、マッハツェンダ変調器10の出力光に含まれるAC成分(即ち、低周波信号の周波数成分)を容易に抽出できる。
【0090】
図18に示す例では、受光器(PD)13の出力側にバンドパスフィルタ(BPF)15が設けられる。BPF15の通過帯の中心周波数は、位相バイアス信号に重畳される低周波信号の周波数と実質的に同じである。すなわち、低周波信号の周期がTである場合、BPF15の通過帯の中心周波数は1/Tである。
【0091】
なお、I/Qアームバイアスの調整時には、位相差Δφが変化する。このため、I/Qアームバイアスの調整時には、Φ0+Δφがゼロまたはπになる可能性がある。そして、Φ0+Δφがゼロまたはπになると、マッハツェンダ変調器10の出力光が、低周波信号の2倍の周波数のAC成分を含むことになる。よって、BPF15は、低周波信号の周波数およびその2倍の周波数を含む通過帯域を備えることが好ましい。なお、BPF15の通過帯域の幅が狭いときは、位相バイアスの調整後に、再度、I/Qバイアスの調整および位相バイアスの調整を実行すればよい。
【0092】
図9~
図12に示すバイアス制御は、例えば、光変調器1の初期設定時に行われる。あるいは、このバイアス制御は、光変調器1の再起動時に実行される。この後、光変調器1は、マッハツェンダ干渉計MZM_Iの動作点、マッハツェンダ干渉計MZM_Qの動作点、および移相器11の移相量を動的にまたは適応的に調整してもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 光変調器
10 マッハツェンダ変調器
11 移相器
14 AC成分検出部
15 バンドパスフィルタ(BPF)
20 バイアス制御部
21 Iアームバイアス部
22 Qアームバイアス部
23 位相バイアス部
24 バイアス制御部
25 制御部
25a 振幅決定部