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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20231129BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20231129BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20231129BHJP
   B60L 1/00 20060101ALN20231129BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20231129BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H02J7/00 302C
H02J7/00 302B
H02J7/10 P
H02J7/10 H
H02J7/34 G
B60L1/00 L
B60L3/00 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020007470
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114869
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馴松 智洋
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-082275(JP,A)
【文献】特開2018-082699(JP,A)
【文献】特開2020-137247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/10
H02J 7/34
B60L 1/00
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転可能な車両に搭載された電源システムであって、
第1バッテリーと、
前記第1バッテリーをバックアップするための第2バッテリーと、
前記第1バッテリーに接続される車載機器である第1負荷と、
1スイッチを介して前記第1バッテリーに接続され、かつ、第2スイッチを介して前記第2バッテリーに接続される第2負荷と、
前記第2バッテリーを充放電可能に前記第1バッテリー及び前記第1負荷と接続するDCDCコンバーターと、
前記第1バッテリーと、前記第1負荷と、前記DCDCコンバーターとに接続される発電機と、
記第1スイッチを閉成かつ前記第2スイッチを開放する第1モード、前記第1条件が成立した場合、前記第1スイッチを開放かつ前記第2スイッチを閉成する第2モードとを切り替え可能な接続切り替え部と、
記第2バッテリーの状態を検出する検出部と、
前記接続切り替え部を制御すると共に、前記第2バッテリーの劣化診断を行う制御部とを備え、
前記第1負荷と、前記第2負荷と、前記発電機と、前記接続切り替え部と、前記検出部と、前記制御部とが通信線を介して接続されており、
前記制御部は、
車両の手動運転中、かつ、前記接続切り替え部が前記第1モードにあり、
前記接続切り替え部、前記発電機、前記第1負荷及び前記第2負荷が正常に動作しており、前記通信線を介した通信が正常に行われており、過去に前記第2バッテリーの劣化判定がなされておらず、
前記第2バッテリーの温度が第1温度以上であり、
前記第2バッテリーの蓄電率が第1蓄電率以上であり、
前記第1負荷及び前記第2負荷が前記第2バッテリーの劣化診断に必要な電力消費を伴う動作状態になっている
場合に、前記接続切り替え部を前記第1モードから前記第2モードへと切り替え、
車両の手動運転中かつ、前記接続切り替え部が前記第2モードにある場合、前記検出部で検出される流出電流が第1電流以上であれば、前記DCDCコンバーターによる充放電によって前記第2バッテリーの劣化を診断する処理を実行し、前記検出部で検出される流出電流が前記第1電流未満であれば、前記DCDCコンバーターを介して前記第2バッテリーを充電する処理を実行する、
電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のバッテリーを冗長的に備えた車両用の電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
メインバッテリーとバックアップ用のサブバッテリーとを用いて電源を冗長構成にした車両用の電源システムにおいては、サブバッテリーが必要な場面でバックアップ電力を出力することができず、所定の運転モードへの移行が禁止されることが頻繁に起こらないように(例えば、特許文献1を参照)、サブバッテリーの状態を精度よく管理することが望ましい。
【0003】
特許文献2に、メインバッテリーとバックアップバッテリーとを用いて電源を冗長構成にした車両用の電源システムが開示されている。この電源システムでは、バックアップバッテリーを車載機器などの負荷から切り離した状態でDCDCコンバーターを用いた充放電制御を行い、バックアップバッテリーの状態を診断する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献3に、高圧バッテリーと低圧バッテリーとを備えた車両用の電源システムが開示されている。この電源システムでは、低圧バッテリーから高圧バッテリーへ電流を流したときに得られる電流-電圧特性に基づいて、低圧バッテリーの劣化を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-088334号公報
【文献】特開2019-146305号公報
【文献】特開2018-194477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の電源システムでは、車両の走行時(電源オン時)にバックアップバッテリーを負荷から切り離した状態で、バックアップバッテリーについて規定の充放電制御を行って電流-電圧特性を導出し、バックアップバッテリーの劣化を診断している。また、特許文献3に記載の電源システムでは、イグニッションのオンが指示された後の車両が作動する前の状態で、低圧バッテリーについて規定の充放電制御を行って電流-電圧特性を導出し、低圧バッテリーの劣化を診断している。
【0007】
このように、特許文献2及び特許文献3に記載の電源システムでは、負荷が切り離された状態で、予め規定された電流及び電圧に従ってバッテリーの電流-電圧特性を導出しているため、車両の走行時において実際に負荷に供給される電流及び電圧に基づいてバッテリーの劣化を診断することができない。
【0008】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、車両の走行時において実際に負荷に供給される電流及び電圧に基づいてバッテリーの劣化診断が可能な電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一態様は、自動運転可能な車両に搭載された電源システムであって、第1バッテリーと、第1バッテリーをバックアップするための第2バッテリーと、第1バッテリーに接続される第1負荷と、第1スイッチを介して第1バッテリーに接続され、かつ、第2スイッチを介して第2バッテリーに接続される第2負荷と、第2バッテリーを充放電可能に第1バッテリー及び第1負荷と接続するDCDCコンバーターと、第1バッテリーと、第1負荷と、DCDCコンバーターとに接続される発電機と、第1スイッチを閉成かつ第2スイッチを開放する第1モードと、第1スイッチを開放かつ第2スイッチを閉成する第2モードとを切り替え可能な接続切り替え部と、第2バッテリーの状態を検出する検出部と、接続切り替え部を制御すると共に、第2バッテリーの劣化診断を行う制御部とを備え、第1負荷と、第2負荷と、発電機と、接続切り替え部と、検出部と、制御部とが通信線を介して接続されており、制御部は、車両の手動運転中、かつ、接続切り替え部が第1モードにあり、接続切り替え部、発電機、第1負荷及び第2負荷が正常に動作しており、通信線を介した通信が正常に行われており、過去に第2バッテリーの劣化判定がなされておらず、第2バッテリーの温度が第1温度以上であり、第2バッテリーの蓄電率が第1蓄電率以上であり、第1負荷及び第2負荷が第2バッテリーの劣化診断に必要な電力消費を伴う動作状態になっている場合に、接続切り替え部を第1モードから第2モードへと切り替え、車両の手動運転中かつ、接続切り替え部が第2モードにある場合、検出部で検出される流出電流が第1電流以上であれば、DCDCコンバーターによる充放電によって第2バッテリーの劣化を診断する処理を実行し、検出部で検出される流出電流が第1電流未満であれば、DCDCコンバーターを介して第2バッテリーを充電する処理を実行する。
【発明の効果】
【0010】
上記電源システムによれば、車両の走行時において実際に負荷に供給される電流及び電圧に基づいてバッテリーの劣化診断を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る電源システムの概略構成を示す図
図2】DCDCコンバーターの構成例を示す図
図3A】接続切り替え部が行うバッテリー劣化診断制御を説明するフローチャート
図3B】接続切り替え部が行うバッテリー劣化診断制御を説明するフローチャート
図4】第1モードにおける第1スイッチ及び第2スイッチの状態を示す図
図5】第2モードにおける第1スイッチ及び第2スイッチの状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
本実施形態に係る電源システムは、メインバッテリーから負荷に電源供給する手動運転時において、負荷が一定量の電流を消費する動作状態になった場合、負荷への電源供給元をバックアップ用のサブバッテリーに切り替え、サブバッテリーから負荷に電源供給をしている間にサブバッテリーの電流及び電圧を測定して電流-電圧特性を導出し、サブバッテリーの劣化診断を実施する。以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
<構成>
図1は、本開示の一実施形態に係る電源システム1の概略構成を示す図である。図1に例示した電源システム1は、第1バッテリー11と、第2バッテリー12と、第1負荷21と、第2負荷22と、接続切り替え部30と、発電機40と、検出部60と、制御部70と、を備えている。
【0014】
第1バッテリー11、第1負荷21、接続切り替え部30、及び発電機40は、第1電力線51で相互に接続されている。第2バッテリー12及び接続切り替え部30は、第2電力線52で接続されている。第2負荷22及び接続切り替え部30は、第3電力線53で接続されている。また、第1負荷21、第2負荷22、接続切り替え部30、発電機40、検出部60、及び制御部70は、CAN(Controller Area Network)などの車内ネットワークの通信線100を介して、通信可能に相互接続されている。
【0015】
本実施形態に係る電源システム1は、冗長的な電源構成を必要とする設備装置に搭載することが可能である。以下の実施形態では、手動運転と自動運転とを切り替え可能な車両に電源システム1が搭載される場合を一例に説明する。
【0016】
発電機40は、例えばオルタネーターやDCDCコンバーターなど、所定の電力を出力することができる機器である。この発電機40が出力する電力は、第1バッテリー11や第1負荷21などに供給される。発電機40は、通信線100を介して制御部70によって制御される。
【0017】
第1バッテリー11は、例えば鉛蓄電池やリチウムイオン電池などの、充放電可能に構成された二次電池である。第1バッテリー11は、発電機40が出力する電力を蓄えたり、自らが蓄えている電力を第1負荷21及び接続切り替え部30に放出したりする。この第1バッテリー11は、車両の走行に専ら利用されるメインバッテリーとして設けられている。なお、バッテリーに代えてキャパシタを用いてもよい。
【0018】
第2バッテリー12は、例えば鉛蓄電池やリチウムイオン電池などの、充放電可能に構成された二次電池である。第2バッテリー12は、発電機40が出力する電力や第1バッテリー11の電力を接続切り替え部30を介して蓄えたり、自らが蓄えている電力を接続切り替え部30を介して第2負荷22などに放出(供給)したりする。この第2バッテリー12は、第1バッテリー11をバックアップするためのサブバッテリーとして冗長的に設けられている。
【0019】
第1負荷21は、電力を消費する車載機器である。この第1負荷21は、発電機40が出力する電力及び/又は第1バッテリー11に蓄えられた電力で動作するように構成されている。第1負荷21の動作状態は、通信線100を介して制御部70に通知される。
【0020】
第2負荷22は、電力を消費する車載機器であって、車両の自動運転中に第1負荷21よりも安定的な電力供給が要求される機器とすることができる。より具体的には、第2負荷22は、第1バッテリー11による電源が失陥した場合でも第2バッテリー12から所定の期間かつ所定の電流による電力供給を必要とする車両の安全走行に関わる重要負荷であり、例えば自動運転において緊急時に車両を安全に退避行動させるための重要な機能を担う負荷とすることができる。この第2負荷22は、手動運転時には原則、発電機40が出力する電力及び/又は第1バッテリー11に蓄えられた電力で動作し、手動運転時であっても第1条件(後述する)を満たしたときや自動運転時には、第1バッテリー11に蓄えられた電力及び/又は第2バッテリー12に蓄えられた電力で動作するように構成されている。第2負荷22の動作状態は、通信線100を介して制御部70に通知される。
【0021】
第1負荷21及び第2負荷22としては、エアーコンディショナー、シートヒーター、ステアリングヒーター、及びランプなどを例示できる。これらの負荷は、ユーザーの操作で作動し、作動後は一定時間安定した電流消費が見込めるため、第2バッテリー12の劣化診断の利用に適している。
【0022】
接続切り替え部30は、第1スイッチ31、第2スイッチ32、及びDCDCコンバーター33を、構成に含んでいる。これらの構成は、通信線100を介して制御部70によって制御される。
【0023】
第1スイッチ31は、第1電力線51と第3電力線53との間に配置され、車両の運転状態に基づいて開閉可能に構成されている。この第1スイッチ31は、車両が手動運転で走行しているときは、原則閉成して第1電力線51と第3電力線53とを接続しており、車両が手動運転で走行していて第1条件を満たしたときや車両が自動運転で走行しているときは、開放して第1電力線51と第3電力線53とを切り離す。この第1スイッチ31には、例えば、ノーマリーオン型の半導体リレーや励磁式のメカニカルリレーなどを用いることができる。
【0024】
第2スイッチ32は、第2電力線52と第3電力線53との間に配置され、車両の運転状態に基づいて開閉可能に構成されている。この第2スイッチ32は、車両が手動運転で走行しているときは、原則開放して第2電力線52と第3電力線53とを切り離しており、車両が手動運転で走行していて第1条件を満たしたときや自動運転で走行しているときは、閉成して第2電力線52と第3電力線53とを接続する。この第2スイッチ32には、例えば、ノーマリーオフ型の半導体リレーや励磁式のメカニカルリレーなどを用いることができる。
【0025】
DCDCコンバーター33は、入力された電圧を予め定めた電圧に変換して出力する電圧変換器である。このDCDCコンバーター33は、1次側が第1電力線51に接続されており、2次側が第2電力線52に接続されている。このDCDCコンバーター33は、例えば、1次側の電圧を降圧して2次側に出力する降圧機能と、2次側の電圧を昇圧して1次側に出力する昇圧機能とを兼ね備えた、昇降圧型のDCDCコンバーターとすることができる。
【0026】
昇降圧型のDCDCコンバーターの一例を、図2に示す。図2に例示するDCDCコンバーターは、1次側端子と2次側端子との間に、直列に接続されたスイッチング素子M1、インダクタL、及びスイッチング素子M3が挿入されている。スイッチング素子M1とインダクタLとの間はスイッチング素子M2で接地され、インダクタLとスイッチング素子M3との間はスイッチング素子M4で接地されている。また、1次側端子及び2次側端子には、それぞれ平滑用のコンデンサC1及びC2が接地されている。スイッチング素子M1~M4には、例えば、電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用することができる。スイッチング素子M1~M4は、制御部70によってゲート電圧が制御され、オンオフ動作を行う。
【0027】
検出部60は、第2バッテリー12の各種状態を検出する。各種状態としては、電圧及び電流を例示でき、さらに温度を含めてもよい。この検出部60には、第2バッテリー12の電圧、電流、及び温度を各種のセンサーを用いて監視する監視ECU(Electronic Control Unit)などの一部又は全部を含むことができる。
【0028】
制御部70は、第1負荷21、第2負荷22、及び第2バッテリー12の状態に基づいて、接続切り替え部30の各構成を制御することができる。この制御部70は、典型的にはCPU(Central Processing Unit)、メモリ、及び入出力インタフェースなどを含んだECUとして構成され得る。この制御部70には、第1スイッチ31及び第2スイッチ32のオンオフの制御やDCDCコンバーター33の出力電圧を制御する電源ECUなどの一部又は全部を含むことができる。
【0029】
<制御>
次に、図3A図3B図4、及び図5をさらに参照して、本実施形態に係る電源システム1が実行する制御を説明する。図3A及び図3Bは、電源システム1の制御部70が手動運転時に行う第2バッテリー12の劣化診断制御の処理手順を説明するフローチャートである。図3Aの処理と図3Bの処理とは、結合子X及びYでそれぞれ結ばれる。図4は、バッテリー劣化診断を実施しない「第1モード」における第1スイッチ31及び第2スイッチ32の状態を示す図である。図5は、バッテリー劣化診断を実施する「第2モード」における第1スイッチ31及び第2スイッチ32の状態を示す図である。
【0030】
図3A及び図3Bに例示するバッテリー劣化診断制御は、車両の電源がオン状態になると開始され、手動運転による走行が行われている間は電源がオフ状態になるまで繰り返し実行される。なお、このバッテリー劣化診断制御は、手動運転による走行から自動運転による走行に切り替えられた時点で終了する。
【0031】
ステップS301:制御部70は、第1スイッチ31を閉成し、かつ、第2スイッチ32を開放して、電源システム1の電源供給状態を「第1モード(図4)」に設定する。第1モードが設定されると、ステップS302に処理が進む。
【0032】
この第1モードでは、第1バッテリー11から第2負荷22へは、DCDCコンバーター33を介さずに電力供給できるため(図4の実線矢印)、DCDCコンバーター33での電力消費を抑制できる。また、第2バッテリー12が第2負荷22から切り離されて第2バッテリー12から第2負荷22へ電流が流れないため、第2バッテリー12の放電を抑制できる。また、第2バッテリー12は、DCDCコンバーター33を介して第1バッテリー11及び発電機40に接続されているため、第1バッテリー11の電力や発電機40の発電電力で充電することが可能となる。
【0033】
ステップS302:制御部70は、予め定めた許可条件が成立するか否かを判断する。この許可条件とは、電源システム1が、バッテリーの劣化を正しく診断できる状態になっているか否かを示す条件であり、一例として以下の6つの条件を示せる。
(1)接続切り替え部30が正常に動作している
(2)発電機40が正常に動作している
(3)第1負荷21が正常に動作している
(4)第2負荷22が正常に動作している
(5)通信線100を介した通信が正常に行われている
(6)過去にバッテリーの劣化判定がなされていない
【0034】
条件(1)~(4)は、バッテリー劣化診断に関わる各機能部が正常に動作していなければ正しい診断ができないため、それぞれ判定される。条件(5)は、バッテリー劣化診断に関わる各機能部が正常に動作していても、各機能部間で情報が正確に送受信できなければ正しい診断ができないため、判定される。条件(6)は、過去に実施したバッテリー劣化診断においてバッテリーが劣化しているとすでに判定されていれば、診断を繰り返して行う必要がないため、判定される。これらの条件(1)~(6)は、1つでも欠けていると正しいバッテリー劣化診断ができないため、全てが満たされていると判定されることで、許可条件が成立したと判断される。
【0035】
許可条件が成立する場合には(S302、はい)、ステップS303に処理が進む。一方、許可条件が成立しない場合には(S302、いいえ)、許可条件が成立するまで引き続きステップS302の判断が実施される。
【0036】
ステップS303:制御部70は、第2バッテリー12の温度が第1温度以上であるか否かを判断する。この判断は、車両の電源オンの直後など第2バッテリー12が冷えているときには、第2バッテリー12の温度が車両制御に好適な温度に上昇するまで待つために行われる。よって、第1温度は、例えば、第2バッテリー12を自動運転時における第1バッテリー11のバックアップ用として実際に使用する場面において推定される所定の温度に設定される。
【0037】
第2バッテリー12の温度が第1温度以上である場合には(S303、はい)、ステップS304に処理が進む。一方、第2バッテリー12の温度が第1温度未満である場合には(S303、いいえ)、第2バッテリー12の温度が第1温度以上になるまで引き続きステップS303の判断が実施される。
【0038】
ステップS304:制御部70は、第2バッテリー12の蓄電率(SOC:State Of Charge)が第1蓄電率以上であるか否かを判断する。この判断は、第2バッテリー12の状態を第1バッテリー11のバックアップ用として実際に使用する状態に揃えるために行われる。よって、第1蓄電率は、例えば、第2バッテリー12を自動運転時における第1バッテリー11のバックアップ用として実際に使用するために要求される所定の蓄電率に設定される。
【0039】
第2バッテリー12の蓄電率が第1蓄電率以上である場合には(S304、はい)、ステップS306に処理が進む。一方、第2バッテリー12の蓄電率が第1蓄電率未満である場合には(S304、いいえ)、ステップS305に処理が進む。
【0040】
ステップS305:制御部70は、DCDCコンバーター33を制御して、第2バッテリー12を第1蓄電率になるまで充電する。第2バッテリー12の蓄電率が第1蓄電率になると、ステップS306に処理が進む。
【0041】
ステップS306:制御部70は、予め定めた切り替え条件が成立するか否かを判断する。この切り替え条件とは、電源システム1が、後述する第2モードに切り替えて第2バッテリー12の劣化診断のための情報を取得できる状態になっているか否かを示す条件であり、一例として以下の2つの条件を示せる。
(1)第1負荷21が第1動作状態になっている
(2)第2負荷22が第2動作状態になっている
【0042】
条件(1)及び(2)は、例えば、第1負荷21及び第2負荷22が正常に動作していても電流を消費する動作を行っていなければ、すなわち後述する第2モードにおいて第2バッテリー12から第1負荷21及び第2負荷22へ十分な電力供給(放電)が見込めなければ、第2バッテリー12の劣化診断に必要な精度の高い情報を取得できないため、それぞれ判定される。よって、第1動作状態及び第2動作状態とは、それぞれ負荷に応じた十分な電流の消費を伴う動作とすることができる。
【0043】
切り替え条件が成立する場合には(S306、はい)、ステップS307に処理が進む。一方、切り替え条件が成立しない場合には(S306、いいえ)、切り替え条件が成立するまで引き続きステップS306の判断が実施される。
【0044】
上述した許可条件(ステップS302)、第2バッテリー12の温度条件(ステップS303)、第2バッテリー12の蓄電率条件(ステップS304)、及び切り替え条件(ステップS306)は、請求項の「第1条件」に該当する。なお、ステップS302、S303、S304、及びS306の処理の順番は、図3Aに示す順番に限定されるものではなく、前後しても構わない。
【0045】
ステップS307:制御部70は、第1スイッチ31を開放し、かつ、第2スイッチ32を閉成して、電源システム1の電源供給状態を「第2モード(図5)」に設定する。第2モードが設定されると、ステップS308に処理が進む。
【0046】
この第2モードでは、第2バッテリー12から第2負荷22へ電力供給され、また第2バッテリー12からDCDCコンバーター33を介して第1負荷21へ電力供給できる状態になる(図5の実線矢印)。第2バッテリー12から第1負荷21への給電は、制御部70が、通信線100を介した制御によって、発電機40の出力電圧を第2バッテリー12の電圧未満に低下させることで可能である。なお、この発電機40の出力電圧は、予め定められた車両の動作が保証される電圧まで低下させることができる。
【0047】
ステップS308:制御部70は、第2モードに設定してから第1時間が経過したか否かを判断する。この判断は、第1モードから第2モードへの切り替えが完了するまで待機するために行われる。よって、第1時間は、発電機40の出力電圧を所定の値まで低下させるために要する時間や、第1スイッチ31及び第2スイッチ32を切り替えるために要する時間に基づいて、適切に設定される。
【0048】
第2モードに設定してから第1時間が経過した場合には(S308、はい)、ステップS309に処理が進む。一方、第2モードに設定してから第1時間が経過していない場合には(S308、いいえ)、第1時間が経過するまで引き続きステップS308の判断が実施される。
【0049】
ステップS309:制御部70は、第2バッテリー12から第1負荷21及び第2負荷22に流出する電流である第2バッテリー12の流出電流が、第1電流以上であるか否かを判断する。この判断は、バッテリー劣化診断を正確に行えるだけの十分な電流が第2バッテリー12から流れ出ているか否かを判断するために行われる。よって、第1電流は、バッテリー劣化診断を正確に行うために必要とされる所定の電流に設定される。
【0050】
第2バッテリー12の流出電流が第1電流以上である場合には(S309、はい)、ステップS312に処理が進む。一方、第2バッテリー12の流出電流が第1電流未満である場合には(S309、いいえ)、ステップS310に処理が進む。
【0051】
ステップS310:制御部70は、DCDCコンバーター33を制御して、第2バッテリー12の追加充電を開始する。第2バッテリー12の充電が開始されると、ステップS311に処理が進む。
【0052】
ステップS311:制御部70は、追加充電によって、第2バッテリー12の流出電流が第1電流以上になったか否かを判断する。この判断は、上述したステップS309の判断と同様である。
【0053】
追加充電を行って第2バッテリー12の流出電流が第1電流以上になった場合には(S311、はい)、ステップS312に処理が進む。一方、追加充電を行っても第2バッテリー12の流出電流が第1電流未満である場合には(S311、いいえ)、第2バッテリー12の状態が劣化を正確に判断できない状態にあると判断して、本バッテリー劣化診断制御を終了する。なお、第2バッテリー12の状態が劣化を正確に判断できない状態にあると判断した場合には、その旨をユーザーなどに通知するようにしてもよい。
【0054】
ステップS312:制御部70は、第2バッテリー12の電流及び電圧を取得する。第2バッテリー12の電流及び電圧は、検出部60を介して取得することができる。この取得された電流及び電圧は、一組にして制御部70が有するメモリ(図示せず)などに記録される。第2バッテリー12の電流及び電圧の組が取得されると、ステップS313に処理が進む。
【0055】
ステップS313:制御部70は、第2バッテリー12の電流及び電圧の組を最初に取得してから、第2時間以上連続して電流及び電圧の組を取得したか否かを判断する。この判断は、バッテリーの劣化を正しく診断するのに十分な数の電流及び電圧の組を取得するために行われる。よって、第2時間は、第2バッテリー12を自動運転時においてバックアップ電源として実際に使用したことを想定し、第2バッテリー12から第2負荷22へ実際に電力供給(放電)される時間以上に設定することができる。
【0056】
第2バッテリー12の電流及び電圧の組を第2時間以上連続して取得した場合には(S313、はい)、ステップS314に処理が進む。一方、第2バッテリー12の電流及び電圧の組を第2時間以上連続して取得していない場合には(S313、いいえ)、ステップS309に処理が進む。
【0057】
ステップS314:制御部70は、第2バッテリー12の劣化診断を実施する。この劣化診断は、次のようにして行われる。まず、第2時間分取得した第2バッテリー12の複数の電流及び電圧の組に基づいて、第2バッテリー12の電流-電圧特性が導出される。この導出された電流-電圧特性の傾きから、第2バッテリー12の内部抵抗値が算出される。そして、この算出した内部抵抗値から第2バッテリー12の劣化度合いが判断される。なお、劣化度合いの判断には、第2バッテリー12の使用が開始されてから経過した日数などが考慮されてもよい。第2バッテリー12の劣化診断が終了すると、ステップS301に処理が戻り、電源システム1の電源供給状態が再び第1モードに設定される。
【0058】
なお、ステップS314の診断によって判明した第2バッテリー12の劣化状態をユーザーなどに通知するようにしてもよい。また、ステップS314からステップS301に戻る処理は、一定時間の経過を待ってから行うようにしてもよいし、車両のイグニッションがオンされる毎に行うようにしてもよい。また、ステップS314の診断によって第2バッテリー12がある基準を超えて劣化していると判断された場合には、ステップS314からステップS301に戻らずに、本バッテリー劣化診断制御を終了してもよい。
【0059】
[作用・効果]
上述した実施形態に係る電源システム1によれば、手動運転時においては、原則、電源システム1の電源供給状態を、第1スイッチ31を閉成かつ第2スイッチ32を開放した第1モードに設定して、第1バッテリー11から第2負荷22に電力を直接供給し、第2バッテリー12を第2負荷22から切り離した状態にしておく。そして、電源システム1が第2バッテリー12の劣化診断が可能な条件を満たす状態になった場合には、第1スイッチ31を開放かつ第2スイッチ32を閉成する第2モードに設定して、バッテリー劣化診断を実施する。
【0060】
このようなモードの切り替え制御によって、車両の実走行時において第2バッテリー12から第1負荷21及び第2負荷22に電流を流している状態で、第2バッテリー12の電流-電圧特性を導出することができる。このため、車両の走行時において実際に負荷に供給される電流及び電圧に基づいて、第2バッテリー12の劣化診断を好適に実施することができる。
【0061】
また、本実施形態に係る電源システム1によれば、第1負荷21及び第2負荷22がそれぞれ第2バッテリー12から十分な放電が見込める動作状態になってから、第2モードを設定する。これにより、第2バッテリー12からの不必要な放電の抑制と、十分な放電による検知精度の向上とを、両立させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る電源システム1によれば、車両の手動運転時に第2バッテリー12の劣化を診断することができるので、第2バッテリー12の劣化によって自動運転に移行できない場合には、自動運転の指示がある前に移行禁止制御を行ったり、自動運転の不可通知を行ったりすることができる。よって、車両の自動運転時に第2バッテリー12の劣化を診断する技術と比べて、一旦手動運転から自動運転に移行した後に直ぐに手動運転に戻されてしまうといったことを回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示の電源システムは、複数のバッテリーを冗長的に備えた車両などに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 電源システム
11 第1バッテリー
12 第2バッテリー
21 第1負荷
22 第2負荷
30 接続切り替え部
31 第1スイッチ
32 第2スイッチ
33 DCDCコンバーター
40 発電機
51~53 電力線
60 検出部
70 制御部
100 通信線
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5