(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】制御装置、及び、断線検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20231129BHJP
G01R 31/50 20200101ALI20231129BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20231129BHJP
【FI】
H02P29/024
G01R31/50
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2020022323
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】湊 雄一朗
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-153949(JP,A)
【文献】特開2005-170605(JP,A)
【文献】特開平03-013487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
G01R 31/50
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機を制御する制御装置であって、
前記電動機の回転速度を測定する回転速度センサーと、
前記電動機の回転速度指令値と前記回転速度センサーから取得した前記電動機の実際の回転速度である実測回転速度とに基づいて、前記電動機に供給する電力量を制御する電力制御部と、
前記電動機に供給される電流量を座標変換してd軸電流値を算出する座標変換部と、
前記回転速度指令値が0でなく、かつ、前記実測回転速度が所定の回転速度以下であれば、前記回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定する断線判定モードに移行するモード移行部と、
前記モード移行部が前記断線判定モードに移行した後に前記d軸電流値が所定の閾値を超えた場合に、前記回転速度センサーに断線が生じたと判定する断線判定部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記モード移行部は、前記断線判定モードに移行してから第1時間が経過した場合に、当該断線判定モードを終了する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記断線判定部は、前記モード移行部が前記断線判定モードに移行後は第2時間毎に前記d軸電流値が所定の閾値を超えているか否かを判定する、請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記回転速度指令値に基づいて前記閾値を決定する閾値決定部をさらに備える、請求項1~3のいずれかに記載の制御装置。
【請求項5】
前記閾値決定部は、前記回転速度指令値と前記閾値の最適値との関係を表す情報と、現在の回転速度指令値と、に基づいて前記閾値を決定する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
電動機の回転速度を測定する回転速度センサーと、前記電動機の回転速度指令値と前記回転速度センサーから取得した前記電動機の実際の回転速度である実測回転速度とに基づいて、前記電動機に供給する電力量を制御する電力制御部と、を有する制御装置における前記回転速度センサーの断線検出方法であって、
前記回転速度センサーから前記実測回転速度を取得するステップと、
前記電動機に供給される電流量を座標変換してd軸電流値を算出するステップと、
前記回転速度指令値が0でなく、かつ、前記実測回転速度が所定の回転速度以下であれば、前記回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定する断線判定モードに移行するステップと、
前記断線判定モードに移行した後に前記d軸電流値が所定の閾値を超えた場合に、前記回転速度センサーに断線が生じたと判定するステップと、
を備える断線検出方法。
【請求項7】
前記断線判定モードに移行してから第1時間が経過した場合に、当該断線判定モードを終了するステップをさらに備える、請求項6に記載の断線検出方法。
【請求項8】
前記判定するステップは、前記断線判定モードに移行後は第2時間毎に前記d軸電流値が所定の閾値を超えているか否かを判定するステップを含む、請求項6又は7に記載の断線検出方法。
【請求項9】
前記回転速度指令値に基づいて前記閾値を決定するステップをさらに備える、請求項6~8のいずれかに記載の断線検出方法。
【請求項10】
前記閾値を決定するステップは、前記回転速度指令値と前記閾値の最適値との関係を表す情報と、現在の前記回転速度指令値と、に基づいて前記閾値を決定するステップを含む、請求項9に記載の断線検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータなどの電動機の制御装置、及び、当該制御装置に備わる回転速度センサーの断線を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどの電動機の制御装置は、電動機の回転速度をエンコーダなどのセンサーで測定し、電動機の回転速度の指令値と、センサーで測定した回転速度の実測値と、に基づいて電動機を制御する。従って、電動機を適切に制御するためには、回転速度を測定するセンサーが正常に動作し、センサーから制御装置に回転速度の測定結果が確実に入力される必要がある。
【0003】
センサーから制御装置に回転速度の測定結果が入力されなくなった場合、センサーによる回転速度の実測値は0となる。従って、センサーにより測定される回転速度が0か否かによりセンサーの異常を判定する場合、例えば、電動機の回転が停止して回転速度の実測値が0となっているのか、又は、センサーの異常により回転速度の実測値が0となっているのか判別できない。
【0004】
回転速度を測定するセンサーに異常が生じたことを適切に検出するために、励磁電流方向電圧(d軸電圧とも呼ばれる)の指示値Vd
*と、トルク電流方向電圧(q軸電圧とも呼ばれる)の指示値Vq
*とを用い、tan-1(Vq
*/Vd
*)との式から算出される値が一定時間内に所定値以上変化したか否か、又は、この算出値が所定値から外れたか否かに基づいて、当該センサーが断線したか否かを判定する技術が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、検証の結果、tan-1(Vq
*/Vd
*)との式から算出された値を用いた方法であっても、適切にセンサーの断線が判定されない場合があることが判明した。具体的には、tan-1(Vq
*/Vd
*)との式から算出される値が、電動機の動作開始時においてもセンサーの断線が生じたときに算出される値と類似した値となることが判明した。その結果、電動機の動作開始時において、実際には断線が生じていないのにセンサーに断線が生じたと判定される可能性があることが判明した。
【0007】
また、「tan-1(アークタンジェント)」のような複雑な演算を必要とする算出式を電動機の制御装置で用いた場合、アークタンジェントを用いた演算の実行時に制御装置に過大な負荷がかかるため、高速にセンサーの断線を判定できない。
【0008】
本発明の目的は、電動機の制御装置において、電動機の回転速度を測定するセンサーの断線が生じたか否かを、制御装置に過大な負荷をかけることなく高速かつ確実に判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る制御装置は、電動機を制御する制御装置である。制御装置は、回転速度センサーと、電力制御部と、座標変換部と、モード移行部と、断線判定部と、を備える。回転速度センサーは、電動機の回転速度を測定する。電力制御部は、電動機の回転速度指令値と実測回転速度とに基づいて、電動機に供給する電力量を制御する。実測回転速度は、回転速度センサーから取得した電動機の実際の回転速度である。
座標変換部は、電動機に供給される電流量を座標変換してd軸電流値を算出する。モード移行部は、回転速度指令値が0でなく、かつ、実測回転速度が所定の回転速度以下であれば、断線判定モードに移行する。断線判定モードは、回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定するモードである。断線判定部は、モード移行部が断線判定モードに移行した後にd軸電流値が所定の閾値を超えた場合に、回転速度センサーに断線が生じたと判定する。
【0010】
上記の制御装置では、断線判定部が、電動機への回転速度の指令値である回転速度指令値が0でなく、かつ、電動機の実際の回転速度に対応する実測回転速度が所定の回転速度以下である状態となった後に、回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定している。
回転速度指令値が0でなくかつ実測回転速度が所定の回転速度以下となる場合は、回転速度センサーに異常が発生している可能性が高い場合であるので、回転速度指令値が0でなくかつ実測回転速度が所定の回転数以下となった後に回転速度センサーの断線の判定をすることで、回転速度センサーの断線の誤検出が発生することを抑制できる。
また、回転速度センサーの断線を、d軸電流値が所定の閾値を超えたかどうか、すなわち、d軸電流値の大小で判定することにより、回転速度センサーの断線判定を複雑な演算により実行する必要がなくなるので、制御装置に過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサーの断線を判定できる。
【0011】
モード移行部は、断線判定モードに移行してから第1時間が経過した場合に、当該断線判定モードを終了してもよい。これにより、回転速度センサーの断線の誤検知を抑制できる。
【0012】
断線判定部は、モード移行部が断線判定モードに移行後は第2時間毎にd軸電流値が所定の閾値を超えているか否かを判定してもよい。これにより、高速に回転速度センサーの断線を検知できる。
【0013】
上記の制御装置は、閾値決定部をさらに備えてもよい。閾値決定部は、回転速度指令値に基づいて閾値を決定する。これにより、指定された回転速度指令値に対して適切な閾値を選択できるので、回転速度センサーの断線を適切に判定できる。
【0014】
閾値決定部は、回転速度指令値と閾値の最適値との関係を表す情報と、現在の回転速度指令値と、に基づいて閾値を決定してもよい。これにより、指定された回転速度指令値に対して最適な閾値を選択できるので、回転速度センサーの断線を適切に判定できる。
【0015】
本発明の他の見地に係る断線検出方法は、回転速度センサーと、電力制御部と、を有する制御装置における回転速度センサーの断線検出方法である。回転速度センサーは、電動機の回転速度を測定する。電力制御部は、電動機の回転速度指令値と実測回転速度とに基づいて、電動機に供給する電力量を制御する。実測回転速度は、回転速度センサーから取得した電動機の実際の回転速度である。回転速度センサーの断線検出方法は、以下のステップを備える。
◎回転速度センサーから実測回転速度を取得するステップ。
◎電動機に供給される電流量を座標変換してd軸電流値を算出するステップ。
◎回転速度指令値が0でなく、かつ、実測回転速度が所定の回転速度以下であれば、回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定する断線判定モードに移行するステップ。
◎断線判定モードに移行した後にd軸電流値が所定の閾値を超えた場合に、回転速度センサーに断線が生じたと判定するステップ。
【0016】
上記の断線検出方法では、電動機への回転速度の指令値である回転速度指令値が0でなく、かつ、電動機の実際の回転速度に対応する実測回転速度が所定の回転速度以下である状態となった後に、回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定している。
回転速度指令値が0でなくかつ実測回転速度が所定の回転速度以下となる場合は、回転速度センサーに異常が発生している可能性が高い場合であるので、回転速度指令値が0でなくかつ実測回転速度が所定の回転速度以下となった後に回転速度センサーの断線の判定をすることで、回転速度センサーの断線の誤検出が発生することを抑制できる。
また、回転速度センサーの断線を、d軸電流値が所定の閾値を超えたかどうか、すなわち、d軸電流値の大小で判定することにより、回転速度センサーの断線判定を複雑な演算により実行する必要がなくなるので、制御装置に過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサーの断線を判定できる。
【0017】
上記の断線検出方法は、断線判定モードに移行してから第1時間が経過した場合に、当該断線判定モードを終了するステップをさらに備えてもよい。これにより、回転速度センサーの断線の誤検知を抑制できる。
【0018】
回転速度センサーの断線を判定するステップは、断線判定モードに移行後は第2時間毎にd軸電流値が所定の閾値を超えているか否かを判定するステップを含んでもよい。これにより、高速に回転速度センサーの断線を検知できる。
【0019】
上記の断線検出方法は、回転速度指令値に基づいて閾値を決定するステップをさらに備えてもよい。これにより、指定された回転速度指令値に対して適切な閾値を選択できるので、回転速度センサーの断線を適切に判定できる。
【0020】
閾値を決定するステップは、回転速度指令値と閾値の最適値との関係を表す情報と、現在の回転速度指令値と、に基づいて閾値を決定するステップを含んでもよい。これにより、指定された回転速度指令値に対して最適な閾値を選択できるので、回転速度センサーの断線を適切に判定できる。
【発明の効果】
【0021】
電動機を制御する制御装置において、電動機の回転速度を測定する回転速度センサーの断線の誤検出を抑制しつつ、制御装置に過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサーの断線を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図5A】段差衝突の際のd軸電流値の挙動のシミュレーション結果を示す図。
【
図5B】回転速度センサーの断線の際のd軸電流値の挙動のシミュレーション結果を示す図。
【
図6】回転速度指令値とd軸電流値との関係を示す図。
【
図7A】電動機の回転開始から回転速度センサーが断線して所定の時間経過後までの従来の断線判定基準値の挙動を示す図。
【
図7B】電動機の回転開始から回転速度センサーが断線して所定の時間経過後までのd軸電流値の挙動を示す図。
【
図8】回転速度センサーの断線検出方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.第1実施形態
(1)制御装置の概略
以下、第1実施形態に係る制御装置53a、53b(
図2)を説明する。第1実施形態に係る制御装置53a、53bは、「ベクトル制御」により、永久磁石同期モータなどの三相交流により動作する電動機33a、33bを制御する装置である。ベクトル制御を採用する制御装置53a、53bは、「d軸電流」及び「q軸電流」とのd-q座標に定義される直流電流を座標変換して、電動機33a、33bを駆動する三相交流を制御する。すなわち、ベクトル制御を採用する制御装置53a、53bは、直流電流であるd軸電流及びq軸電流を調整することにより、電動機33a、33bを動作させる三相交流電力を制御する。
【0024】
ベクトル制御で用いられるd-q座標において、d軸は電動機の回転子(ロータ)の磁束の向き(N極の向き)と平行な方向に定められた軸であり、q軸はd軸とは垂直な方向(すなわち、回転子の磁束の向きとは垂直な方向)に定められた軸である。d軸電流は、電動機33a、33bの回転子の磁束の向きに対する三相交流出力の位相差に依存する電流であり、q軸電流は、電動機33a、33bの回転子(出力回転軸)が発生するトルクに依存する電流である。
【0025】
また、第1実施形態に係る制御装置53a、53bは、電動機33a、33bの回転速度を測定する回転速度センサー35a、35bと接続され、回転速度センサー35a、35bにより測定された電動機33a、33bの実際の回転速度(実測回転速度と呼ぶ)と、電動機33a、33bの回転速度の指令値(回転速度指令値と呼ぶ)と、の差分に基づいて、上記q軸電流を調整する。これにより、制御装置53a、53bは、電動機33a、33bを、回転速度指令値で示された回転速度で回転させるよう制御できる。
【0026】
以下に説明する第1実施形態において、制御装置53a、53bは、走行台車100が有する電動機33a、33bの制御に用いられる。この電動機33a、33bのそれぞれの出力回転軸には走行車輪31a、31bが接続されているので、制御装置53a、53bにより電動機33a、33bの回転を制御することで、走行台車100の走行を制御できる。なお、「出力回転軸」とは、電動機33a、33bの回転子の回転に従って回転する軸のことを言い、以下の説明でも同様の意味で用いられる。
【0027】
(2)走行台車
以下、
図1を用いて、制御装置53a、53bは、が使用される走行台車100の構成を説明する。
図1は、走行台車の構成を示す図である。走行台車100は、本体1と、一対の走行部3a、3bと、制御部5と、を備える。
本体1は、走行台車100の本体を構成する筐体である。
図1に示す走行台車100の本体1は、円柱形状を有している。しかし、これに限られず、本体1の形状は任意とできる。なお、本体1には、走行台車100を操作する操作装置(図示せず)が設けられてもよい。
【0028】
一対の走行部3a、3bは、それぞれ、本体1において、前進方向(
図1)に垂直な幅方向の左右側に設けられる。具体的には、走行部3aが前進方向に対して本体1の左側に設けられ、走行部3bが前進方向に対して本体1の右側に設けられる。すなわち、走行台車100は、二輪差動型の走行台車である。
【0029】
一対の走行部3a、3bは、それぞれ、走行車輪31a、31bと、各走行車輪31a、31bに対応して設けられた電動機33a、33bと、を有している。すなわち、走行部3a、3bは、対応する走行車輪31a、31bを独立して回転させることができる。なお、各走行車輪31a、31bは、公知の減速機構を介して、電動機33a、33bの出力回転軸に接続されている。
【0030】
上記の構成を有する一対の走行部3a、3bを有する走行台車100は、走行車輪31a、31bを同一の回転速度にて回転することにより、走行台車100を直進させることができる。一方、走行車輪31a、31bの回転方向を同一としつつ回転速度を異ならせることにより、走行台車100を直進又は後進させながらその方位(姿勢)を変化できる。さらに、走行車輪31a、31bを互いに逆方向に同一の回転速度にて回転させることにより、走行台車100をその場で回転させることができる。
【0031】
本実施形態において、電動機33a、33bは、例えば、三相交流を動力源として回転子(出力回転軸)を回転させる三相同期モータである。具体的には、電動機33a、33bは、例えば、SPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)である。SPMモータは、回転子の表面に永久磁石を貼り合わせた構成の回転界磁形式の同期モータである。
【0032】
また、一対の走行部3a、3bは、電動機33aの出力回転軸に接続された回転速度センサー35a、及び、電動機33bの出力回転軸に接続された回転速度センサー35bをさらに有している。回転速度センサー35a、35bは、対応する電動機33aの出力回転軸の回転速度を測定するセンサーである。回転速度センサー35a、35bは、例えば、電動機33a、33bの出力回転軸が回転するときに、当該回転に従ってパルス信号を出力するインクリメンタル型のエンコーダである。
【0033】
回転速度センサー35a、35bがインクリメンタル型のエンコーダである場合、電動機33a、33bの出力回転軸の回転速度は、対応する回転速度センサー35a、35bから出力される単位時間あたりのパルス数から算出できる。
【0034】
制御部5は、CPU、ストレージとしての記憶装置(RAM、ROM、HDD、SSDなど)、及び各種インターフェースなどを備えるコンピュータにより構成されるコンピュータシステムあり、走行台車100の各種制御を実行する。具体的には、制御部5は、電動機33a、33bの回転速度を制御して、走行台車100の走行を制御する。
制御部5による上記の制御機能の一部又は全部は、記憶装置に記憶された所定のプログラムを実行することで実現されてもよいし、SoC(System on Chip)などのハードウェアによっても実現されてもよい。制御部5の具体的な構成については、後ほど詳しく説明する。
【0035】
走行台車100は、さらに、補助輪7を備えてもよい。
図1に示すように、補助輪7は、本体1の前後左右に合計4つ設けられる。補助輪7は、走行台車100の走行に従って回転する従動輪である。本体1の前後左右に補助輪7を設けることで、走行台車100を安定させることができる。
【0036】
(3)制御部の具体的構成
次に、
図2を用いて、制御部5の具体的構成を説明する。
図2は、制御部の具体的構成を示す図である。上記のように、制御部5は、走行台車100の走行を制御する機能を有している。この機能を実現するために、制御部5は、上位コントローラ51と、制御装置53a、53bと、を有している。
なお、本実施形態において、制御部5において、上位コントローラ51及び制御装置53a、53bは、それぞれ、個別のコンピュータシステムにより構成される。しかし、これに限られず、以下に説明する上位コントローラ51及び制御装置53a、53bの機能を、1つのコンピュータシステムで実現してもよい。
【0037】
上位コントローラ51は、制御装置53a、53bに対して走行台車100の走行に関する指令を出力する。具体的には、上位コントローラ51は、例えば、本体1に設けた操作装置によるユーザの操作を受け付け、当該ユーザの操作に基づいて電動機33a、33bの回転速度の指令値(回転速度指令値と呼ぶ)を算出し、対応する制御装置53a、53bに出力する。これにより、本体1に設けられた操作装置を用いて走行台車100を操作できる。
【0038】
その他、上位コントローラ51は、例えば、無線コントローラなどの本体1に設けられていない操作装置からユーザの操作を受け付け、当該ユーザの操作に基づいて回転速度指令値を算出し、対応する制御装置53a、53bに出力してもよい。これにより、無線コントローラなどを用いて走行台車100を操作できる。
【0039】
また、上位コントローラ51には、各種センサー55が接続されていてもよい。この場合、上位コントローラ51は、回転速度センサー35a、35bから入力した実測回転速度、及び/又は、各種センサー55から入力した情報に基づいて、回転速度指令値を算出し対応する制御装置53a、53bに出力してもよい。
【0040】
具体的には、例えば、各種センサー55としてレーザレンジファインダ(LRF)などの走行台車100の周囲の地図情報を取得できるセンサーを上位コントローラ51に接続できる。この場合、上位コントローラ51は、例えば、各種センサー55にて取得した地図情報(ローカルマップ)と、走行環境全体を表す地図情報(グローバルマップ)と、予め取得したグローバルマップ上の走行経路データと、必要に応じて回転速度センサー35a、35bから入力した実測回転速度と、に基づいて、走行経路データに示された走行経路を自律的に再現するための回転速度指令値を算出し、対応する制御装置53a、53bに出力できる。
【0041】
制御装置53a、53bは、それぞれ、対応する電動機33a、33bを制御する。具体的には、制御装置53a、53bは、対応する電動機33a、33bの回転速度指令値を上位コントローラ51から入力し、当該回転速度指令値と、対応する回転速度センサー35a、35bから入力した実測回転速度と、に基づいて、対応する電動機33a、33bに供給する電力量を制御する。
【0042】
また、本実施形態において、制御装置53a、53bは互いに接続され、一方の制御装置53a、53bにおいて対応する回転速度センサー35a、35bの断線を検出した時には、他方の制御装置53a、53bにその旨を通知可能となっている。これにより、一方の制御装置53a、53bの対応する回転速度センサー35a、35bにて断線があった場合に、他方の制御装置53a、53bにより制御される電動機33a、33bを即時に停止できる。なお、制御装置53a、53bの具体的な構成は、後ほど詳しく説明する。
【0043】
(4)制御装置の具体的構成
(4-1)全体構成
次に、
図3を用いて、第1実施形態に係る制御装置53a、53bの具体的構成を説明する。まずは、制御装置53a、53bの全体構成を説明する。
図3は、制御装置の全体構成を示す図である。なお、制御装置53a、53bは同一の構成を有するので、以下の説明では、制御装置53aを例にとって制御装置53a、53bの構成を説明する。
図3に示すように、制御装置53aは、電力制御部531と、第1座標変換部533(座標変換部の一例)と、断線検出部535と、を有する。
【0044】
電力制御部531は、電動機33aの回転速度指令値(以下、回転速度指令値ω*と定義する)と、実測回転速度(以下、実測回転速度ωと定義する。実測回転速度ωは、電動機33aの出力回転軸の角速度と定義する)とに基づいて、電動機33aに供給する電力量を制御する。実測回転速度ωは、回転速度センサー35aから取得した電動機33aの実際の回転速度である。実測回転速度ωは、具体的には、回転速度センサー35aから出力された単位時間あたりのパルス数を、電動機33aの出力回転軸の回転速度に変換することで算出される。この変換は、後述する角度変換部531iにより実行される。
本実施形態において、電力制御部531は、ベクトル制御を用いて電動機33aに供給する電力量を算出する。電力制御部531のより具体的な構成は、後ほど説明する。
【0045】
第1座標変換部533は、電動機33aに供給される電流量を座標変換して、d軸電流値(以下、d軸電流値idと定義する)及びq軸電流値(以下、q軸電流値iqと定義する)を算出する。具体的には、第1座標変換部533は、例えば、電動機33aに供給される三相電流(u相電流iu、v相電流iv、w相電流iw)のうちu相電流iuとv相電流ivを入力し、クラーク(Clarke)変換により三相電流(三次元の電流値)をα-β座標上の二次元の電流値に変換し、さらに当該二次元の電流値をパーク(Park)変換によりd-q座標上のq軸電流値iqとd軸電流値idに変換する。
第1座標変換部533は、上記の座標変換を実行するために、角度変換部531iから電動機33aの回転子(出力回転軸)の回転角度θを入力する。
【0046】
なお、電動機33aに供給される電流量は、電力制御部531の駆動部531h(後述)と電動機33aとを接続する配線に設けられた電流検出器533aにより測定され、第1座標変換部533に入力される。電流検出器533aは、例えば、上記配線に電流が流れることにより発生する磁界を検出することで電流量を測定するセンサー(例えば、ホール素子など)、シャント抵抗などの上記配線に流れる電流を電圧に変換する素子などである。
また、三相電流のうちw相電流iwは、iu+iv+iw=0との式から算出できる。
【0047】
第1座標変換部533の上記機能は、制御部5を構成するコンピュータシステムの記憶装置に記憶され当該コンピュータシステムにより実行されるプログラムにより実現されてもよいし、回路などのハードウェアにより実現されてもよい。
【0048】
断線検出部535は、回転速度センサー35aの断線を検出する。具体的には、断線検出部535は、上位コントローラ51から入力した回転速度指令値ω*が0ではなく、かつ、角度変換部531iから入力した実測回転速度ωが所定の回転速度以下である場合に、第1座標変換部533から入力したd軸電流値idが所定の閾値以上であれば、回転速度センサー35aに断線が生じたと判定する。
【0049】
また、断線検出部535は、回転速度センサー35aに断線が生じたか否かの判定結果を、他方の制御装置53bの断線検出部535に出力する。なお、後述するように、回転速度センサー35aに断線が生じた場合には、電動機33aはその断線に応じて回転を停止する。
【0050】
その一方で、他方の回転速度センサー35bに断線が生じたと判定されて他方の制御装置53bから回転速度センサー35bが断線したとの判定結果が送信されてくると、断線検出部535は、電動機33aの回転を停止させるために、例えば、電力制御部531の速度制御部531b(後述)に対して、q軸電流指示値iq
*(後述)を加速時のq軸電流iqとは逆方向の電流とする指令(回転停止指令と呼ぶ)を出力する。
その他、電動機33aに回転を停止させるブレーキが設けられている場合には、断線検出部535は、電力制御部531の速度制御部531bに対して、電動機33aの励磁を停止し(サーボオフ)、当該ブレーキを用いて減速するよう指令してもよい。
【0051】
上記の機能を有することで、断線検出部535は、回転速度センサー35a、35bの断線の誤検出を抑制しつつ、制御装置53a、53bに過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサー35a、35bの断線を判定できる。断線検出部535の具体的な機能ブロック構成は、後ほど詳しく説明する。
【0052】
(4-2)電力制御部の具体的構成
次に、
図3を用いて、電動機33aに供給する電力量をベクトル制御により制御する電力制御部531の具体的構成を説明する。なお、以下に説明する電力制御部531の構成の一部は、制御部5(制御装置53a)の記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムにより実現され、他の一部はハードウェアにより実現される。具体的には、例えば、電力制御部531の駆動部531hはハードウェアにより実現される一方、電力制御部531の他の構成はコンピュータプログラムにより実現される。
【0053】
電力制御部531は、第1差分算出部531aを有する。第1差分算出部531aは、上位コントローラ51から入力した回転速度指令値ω*と、角度変換部531iから入力した実測回転速度ωと、の差分ω*-ωを算出する。
電力制御部531は、速度制御部531bを有する。速度制御部531bは、第1差分算出部531aにて算出された差分ω*-ωに基づいて、q軸電流指示値iq
*を算出する。q軸電流指示値iq
*は、電動機33aの出力回転軸が出力するトルクを制御する指示値である。また、差分ω*-ωに基づいて算出されるので、q軸電流指示値iq
*は、電動機33aの回転速度を回転速度指令値ω*に近づけるための指示値である。
【0054】
電力制御部531は、第2差分算出部531cを有する。第2差分算出部531cは、速度制御部531bから入力したq軸電流指示値iq
*と、第1座標変換部533から入力したq軸電流値iqと、の差分iq
*-iqを算出する。
電力制御部531は、第3差分算出部531dを有する。第3差分算出部531dは、d軸電流指示値id
*と、第1座標変換部533から入力したd軸電流値idと、の差分id
*-idを算出する。d軸電流指示値id
*は、電動機33aに供給する三相電流の位相と電動機33aの回転子の位相との位相差に関する指示値である。本実施形態では、d軸電流指示値id
*は0に設定される。
【0055】
電力制御部531は、q軸電流制御部531eを有する。q軸電流制御部531eは、第2差分算出部531cにて算出された差分iq
*-iqに基づいて、q軸電圧指示値Vq
*を算出する。差分iq
*-iqに基づいて算出されるので、q軸電圧指示値Vq
*は、q軸電流指示値iq
*に対応した三相交流電力を電動機33aに出力するための指示値である。q軸電流制御部531eは、例えば、差分iq
*-iqを入力としたPI制御により、q軸電圧指示値Vq
*を算出する。
【0056】
電力制御部531は、d軸電流制御部531fを有する。d軸電流制御部531fは、第3差分算出部531dにて算出された差分id
*-idに基づいて、d軸電圧指示値Vd
*を算出する。差分id
*-idに基づいて算出されるので、d軸電圧指示値Vd
*は、d軸電流指示値id
*に対応した三相交流電力を電動機33aに出力するための指示値である。d軸電流制御部531fは、例えば、差分id
*-idを入力としたPI制御により、d軸電圧指示値Vd
*を算出する。
【0057】
電力制御部531は、第2座標変換部531gを有する。第2座標変換部531gは、q軸電流制御部531eから入力したq軸電圧指示値Vq
*と、d軸電流制御部531fから入力したd軸電圧指示値Vd
*と、のd-q座標上の二次元の電圧指示値を座標変換して、三相交流電力を出力する駆動部531hに入力する三相交流電圧の指示値(u相電圧指示値Vu
*、v相電圧指示値Vv
*、w相電圧指示値Vw
*)を算出する。
【0058】
具体的には、第2座標変換部531gは、例えば、q軸電圧指示値Vq
*とd軸電圧指示値Vd
*とのd-q座標上の二次元の電圧指示値を逆パーク変換によりα-β座標上の二次元の電圧指示値に変換し、さらにα-β座標上の二次元の電圧指示値を空間ベクトル変換により三相交流電圧の指示値(u相電圧指示値Vu
*、v相電圧指示値Vv
*、w相電圧指示値Vw
*)に変換する。
第2座標変換部531gは、上記の座標変換を実行するために、角度変換部531iから電動機33aの回転子(出力回転軸)の回転角度θを入力する。
【0059】
電力制御部531は、駆動部531hを有する。駆動部531hは、第2座標変換部531gから入力した三相交流電圧の指示値(u相電圧指示値Vu
*、v相電圧指示値Vv
*、w相電圧指示値Vw
*)に基づいて、三相交流電力を発生させ、電動機33aに供給する。
具体的には、駆動部531hは、三相交流電圧の指示値(u相電圧指示値Vu
*、v相電圧指示値Vv
*、w相電圧指示値Vw
*)に基づいて、三相交流電圧(u相電圧指示値Vu、v相電圧指示値Vv、w相電圧指示値Vw)を発生させ、電動機33aに出力する。
【0060】
駆動部531hは、例えば、三相交流電圧の指示値(u相電圧指示値Vu
*、v相電圧指示値Vv
*、w相電圧指示値Vw
*)に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行い、三相交流電圧を発生させるインバーターである。
【0061】
電力制御部531は、角度変換部531iを有する。角度変換部531iは、回転速度センサー35aから出力される信号に基づいて、電動機33aの回転子(出力回転軸)の回転角度θと実測回転速度ωとを算出する。
回転速度センサー35aがインクリメンタル型のエンコーダである場合、角度変換部531iは、例えば、回転速度センサー35aから出力されたパルス数と、電動機33aの回転子(出力回転軸)の1回転あたりのパルス数と、に基づいて回転角度θを算出できる。一方、例えば、回転速度センサー35aから単位時間あたりに出力されたパルス数に基づいて、実測回転速度ωを算出できる。
【0062】
上記の構成を有する電力制御部531においては、回転速度指令値ω*と実測回転速度ωとの差分ω*-ωから電動機33aのトルクに依存するq軸電流指示値iq*が算出され、さらにq軸電流指示値iq*とq軸電流値iqとの差分(iq*-iq)が座標変換されて三相交流電力が発生し、発生した三相交流電力が電動機33aに供給される。すなわち、電力制御部531は、回転速度指令値ω*と実測回転速度ωとの差分に基づいて電動機33aに供給する三相交流の電力量を制御することで、走行台車100を上位コントローラ51から指令された速度で走行できる。
【0063】
(4-3)断線検出部の具体的構成
次に、
図4を用いて、断線検出部535の具体的な機能ブロック構成を説明する。
図4は、断線検出部の機能ブロック構成を示す図である。なお、以下に示す断線検出部535の各機能ブロックにより実現される機能の一部又は全部は、制御部5(制御装置53a)を構成するコンピュータシステムの記憶装置に記憶され、当該コンピュータシステムで実行されるプログラムにより実現されてもよいし、ハードウェア的に実現されてもよい。
図4に示すように、断線検出部535は、モード移行部535aと、断線判定部535bと、を機能ブロックとして有する。
【0064】
モード移行部535aは、上位コントローラ51から入力した回転速度指令値ω*と、角度変換部531iから入力した実測回転速度ωと、に基づいて、断線判定モードに移行するか否かを決定する。断線判定モードは、断線判定部535bに対して、回転速度センサー35aに断線が生じたか否かを判定させるモードである。
本実施形態において、モード移行部535aは、回転速度指令値ω*が0でなく(すなわち、上位コントローラ51から電動機33aの回転停止が指令されておらず)、かつ、実測回転速度ωが所定の回転速度以下である場合に、断線判定モードに移行する。
【0065】
断線判定モードに移行するか否かの基準の1つである、実測回転速度ωが所定の回転速度以下であるとの条件において、「所定の回転速度」は、例えば、回転速度センサー35aの分解能と、回転速度センサー35aが出力する信号のサンプリング周期と、に基づいて決定される。
具体的には、「所定の回転速度」は、例えば、回転速度センサー35aにて検出できる実測回転速度ωの下限値と、上位コントローラ51から指令される回転速度指令値ω*の下限値の間の値として設定されるのが好ましい。
【0066】
より具体的には、例えば、上位コントローラ51から出力される回転速度指令値ω*の値が数百rpm~数千rpmの範囲となる場合、上記の「所定の回転速度」は100rpm以下とできる。本実施形態では、「所定の回転速度」を10rpmとしている。
【0067】
上記の断線判定モードに移行する条件、すなわち、回転速度指令値ω*が0でなく、かつ、実測回転速度ωが所定の回転速度以下であるとの条件は、電動機33aの停止が指令されていないにも拘わらず実際の回転速度が電動機33aの停止を示していることを意味している。すなわち、上記の条件に当てはまる場合には、回転速度センサー35aに異常が発生している可能性が高い。
従って、回転速度指令値ω*が0でなく、かつ、実測回転速度ωが所定の回転速度以下となって回転速度センサー35aに異常が発生している可能性が高い場合に断線判定モードに移行して、その移行後に回転速度センサー35aの断線の判定をすることで、回転速度センサー35aの断線の誤検出が発生することを抑制できる。
【0068】
また、本実施形態において、モード移行部535aは、断線判定モードに移行してからの経過時間を計数し、断線判定モードに移行してから第1時間が経過した場合に、現在移行中の断線判定モードを終了する。断線判定モードを終了する第1時間は、例えば、40msと設定できる。このように、断線判定モードの継続時間を第1時間に限定することにより、回転速度センサー35aの断線の誤検知を抑制できる。
【0069】
さらに、モード移行部535aは、断線判定モードに移行してから第1時間が経過する前であっても、回転速度指令値ω*が0でなく、かつ、実測回転速度ωが所定の回転速度以下との条件を満たさなくなった場合、すなわち、回転速度指令値ω*が0であるか、又は、実測回転速度ωが所定の回転速度よりも大きくなった場合には、断線判定モードを終了する。
【0070】
言い換えると、電動機33aが上位コントローラ51からの指令どおり停止しているか、又は、回転速度センサー35aが正常に動作しており実測回転速度ωが適切に算出されていると考えられる場合には、第1時間の経過前であっても、断線判定モードを終了する。これにより、回転速度センサー35aの断線の誤検知を抑制できる。
【0071】
断線判定部535bは、モード移行部535aが断線判定モードに移行した後に、第1座標変換部533にて算出されたd軸電流値idを入力し、当該d軸電流値idの値を監視する。断線判定部535bは、断線判定モードの移行後に第1座標変換部533から入力したd軸電流値idが所定の閾値を超えていた場合に、回転速度センサー35aに断線が生じたと判定する。
【0072】
断線判定部535bは、回転速度センサー35aに断線が生じたと判定した場合、この断線判定結果を、他方の制御装置53bの断線検出部535に出力する。これにより、回転速度センサー35aに断線が生じたときに、速やかに他方の電動機33bの回転を停止できる。
【0073】
本実施形態において、断線判定部535bは、モード移行部535aが断線判定モードに移行後は第2時間毎にd軸電流値idを監視し、d軸電流値idが所定の閾値を超えているか否かを判定する。すなわち、断線判定部535bは、断線判定モードの移行後に第2時間周期でd軸電流値idが所定の閾値を超えているか否かを判定する。なお、d軸電流値idを監視する周期である第2時間は、例えば、1msと設定できる。これにより、断線判定部535bは、高速に回転速度センサー35aの断線を検知できる。
【0074】
図4に示すように、断線検出部535は、回転停止指令部535cを有している。回転停止指令部535cは、他方の制御装置53bから他方の回転速度センサー35bが断線したとの判定結果を受信したときに及び/又は自身の断線判定部535bが断線を判定したときに、電力制御部531の速度制御部531bに対して、回転停止指令を出力する。
これにより、自身又は他方の回転速度センサー35bで断線が発生した場合に、速やかに制御装置53aが制御する電動機33aの回転を停止できる。
【0075】
また、本実施形態において、断線検出部535は、閾値決定部535dをさらに有する。閾値決定部535dは、上位コントローラ51が現在出力している回転速度指令値ω*に基づいて、断線判定部535bがd軸電流値idと比較する閾値を決定する。
後述するように、回転速度センサー35aが断線する直前の回転速度指令値ω*と、回転速度センサー35aが断線したときのd軸電流値idとの間には相関関係があることが判明している。従って、閾値決定部535dが、現在の回転速度指令値ω*(断線直前の回転速度指令値ω*)に基づいて、回転速度センサー35aの断線判定に用いる所定の閾値を決定することで、回転速度センサー35aの断線を適切に判定できる。
【0076】
本実施形態において、閾値決定部535dは、予め取得した最適閾値情報TIと、現在の回転速度指令値ω*と、に基づいて所定の閾値を決定している。最適閾値情報TIは、回転速度指令値ω*と閾値の最適値(最適閾値)との関係を表す情報である。この最適閾値情報TIに基づいて回転速度センサー35aの断線判定に用いる閾値を決定することで、指定された回転速度指令値ω*に対して最適な閾値を選択できるので、回転速度センサー35aの断線を適切に判定できる。
【0077】
最適閾値情報TIは、例えば、複数の回転速度指令値ω*と各回転速度指令値ω*に対して最適な閾値とを関連付けて記憶するテーブルであってもよいし、回転速度指令値ω*と最適な閾値との関係を表した式であってもよい。
なお、最適閾値情報TIが上記のテーブルで表される場合には、当該テーブルに存在しない回転速度指令値ω*に対する最適閾値は、例えば、当該回転速度指令値ω*に近い2つの回転速度指令値ω*とそれに対応する2つの最適閾値とをテーブルから選択し、2つの回転速度指令値ω*とそれに対応する2つの最適閾値とを用いた線形補間により算出できる。
最適閾値情報TIの具体的な例については、後ほど詳しく説明する。
【0078】
本実施形態において、断線検出部535は、記憶部535eをさらに有する。記憶部535eは、制御部5(制御装置53a)を構成するコンピュータシステムの記憶装置に設けられた記憶領域の一部であり、断線検出部535で用いられる各種情報を記憶する。具体的には、記憶部535eは、上記の最適閾値情報TIを記憶する。
【0079】
上記の構成を機能ブロックとして有することで、断線検出部535は、回転速度センサー35aの断線の誤検出を抑制しつつ、制御装置53a、53bに過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサー35aの断線を判定し、断線判定後速やかに電動機33a、33bの回転を停止できる。
【0080】
(5)シミュレーション及び検証実験
(5-1)d軸電流値の挙動
第1実施形態に係る回転速度センサー35a、35bの断線判定の原理と効果を確認するために、上記の構成を有する走行台車100及び制御装置53a、53bをモデル化したシミュレーションと、実際の走行台車100及び制御装置53a、53bを用いた検証実験を行った。以下、そのシミュレーションと検証実験の結果を説明する。
回転速度センサー35a、35bの断線が発生した場合、回転速度センサー35a、35bから信号が即時に出力されなくなるので、角度変換部531iは0である実測回転速度ωを即時に算出する。断線以外に、実測回転速度ωが即時に0となる場合としては、走行台車100が段差に差し掛かり、走行車輪31a、31bがその段差を乗り越え始める場合(段差衝突の発生)がある。また、上記のように実測回転速度ωが即時に0となる場合においては、d軸電流値idに変化が発生する可能性が考えられる。
【0081】
従って、以下のシミュレーション及び検証実験では、回転速度センサー35a、35bに断線が生じた直後のd軸電流値idの挙動と、走行車輪31a、31bが段差に衝突した直後のd軸電流値idの挙動とを比較して、d軸電流値idのどの要素によって回転速度センサー35a、35bの断線と段差衝突の発生とを区別できるかを検証した。
【0082】
シミュレーションは、走行台車100の機械構成をモデル化したメカモデルシミュレータと、制御装置53a、53bの制御構成をモデル化したモータモデルシミュレータと、を連携させた連成解析により実行した。シミュレーションでは、回転速度センサー35a、35bの断線の発生を、実測回転速度ωを瞬時に0とすることで実現した。d軸電流値idは、第1座標変換部533により算出される理論値とする。
一方、実証実験では、走行台車100の走行車輪31a、31bを実際に回転させて急激に走行車輪31a、31bの回転を停止させて段差に衝突した状況を実現した。また、回転速度センサー35a、35bの断線の発生を、回転速度センサー35a、35bと制御装置53a、53b(角度変換部531i)との間の配線を実際に切断して通信不可能とすることで実現した。d軸電流値idは、第1座標変換部533から出力されるd軸電流値idを実測して得た。
【0083】
以下、上記のシミュレーション及び実証実験の結果を説明する。なお、上記のシミュレーションと実証実験ではほぼ同様の結果が得られているので、以下、シミュレーションによる結果について詳しく説明する。
まず、
図5Aを用いて、走行車輪31a、31bが段差に衝突した際のd軸電流値i
dの挙動のシミュレーション結果を説明する。
図5Aは、段差衝突の際のd軸電流値の挙動のシミュレーション結果を示す図である。
図5Aにおいて、d軸電流値i
dの変動は実線で表され、回転速度指令値ω
*の変動は二点鎖線で表され、実測回転速度ωの変動は一点鎖線で表されている。
図5Aに示すように、段差に衝突した場合、d軸電流値i
dは、段差衝突が発生した後も大きく変動することなく、最終的には0近傍に収束する。なお、段差衝突が発生する前の期間にd軸電流値i
dが周期的に変動しているが、これは、電動機33a、33bの回転子の回転の位相と、電動機33a、33bに供給する三相交流の位相とが実際には若干ずれていることに起因する。
【0084】
次に、
図5Bを用いて、回転速度センサー35a、35bが断線した際のd軸電流値i
dの挙動のシミュレーション結果を説明する。
図5Bは、回転速度センサーの断線の際のd軸電流値の挙動のシミュレーション結果を示す図である。
図5Bにおいて、d軸電流値i
dの変動は実線で表され、回転速度指令値ω
*の変動は二点鎖線で表され、実測回転速度ωの変動は一点鎖線で表されている。
図5Bに示すように、回転速度センサー35a、35bに断線が生じた場合のd軸電流値i
dの挙動は、段差衝突が発生した場合とは大きく異なることが分かる。すなわち、回転速度センサー35a、35bに断線が生じた場合、d軸電流値i
dは、実測回転速度ωが0になった直後から大きく振動し、所定の時間の経過後に0近傍に収束する。言い換えると、回転速度センサー35a、35bに断線が生じた直後のd軸電流値i
dは、段差衝突の直後のd軸電流値i
dよりも顕著に大きくなる。
【0085】
上記のように同じように実測回転速度ωが0となる状況下で、段差衝突が発生した場合と回転速度センサー35a、35bの断線の場合とでd軸電流値i
dの挙動が異なるのは、d軸電流値i
dが電動機33a、33bに供給される三相交流の位相とこれら電動機の回転子の位相との差に依存する電流であるとの特性に起因して生じる、以下の理由からである。
図5Aに示すように、段差衝突が発生した場合、段差衝突の発生直後に実測回転速度ωは即時に0とならず、また、走行車輪31a、31bも走行面との滑りにより若干回転する。なぜなら、回転速度センサー35a、35bに断線が生じていない限り電動機33a、33bの回転子の位相を把握することができ(回転角度θを出力できる)、第1座標変換部533及び第2座標変換部531gが座標変換機能を実現できるので、電動機33a、33bに対して適切な三相交流を生成することができるからである。
【0086】
また、交流電流(u相電流iu、v相電流iv、w相電流iw)から直流電流(q軸電流iq、d軸電流id)への座標変換が比較的適切に行われ、q軸電流iq、d軸電流idが適切な値に変換される。
【0087】
その一方で、
図5Bに示すように、回転速度センサー35a、35bの断線の場合、断線の直後に実測回転速度ωは即時に0となる。また、回転速度センサー35a、35bから信号が出力されなくなるので、角度変換部531iで算出される回転角度θも所定値で固定される(あるいは、0となる)。その結果、回転速度指令値ω
*が0ではないが実測回転速度ωが0となった(回転角度θが固定された)状態になり、第1座標変換部533及び第2座標変換部531gが座標変換機能を実現できないので、電動機33a、33bに対して適切な三相交流を生成することができない。
【0088】
上記の場合、電動機33a、33bには直流的な電圧が供給されることに起因して電動機33a、33bのインピーダンスが小さくなる結果、電動機33a、33bに大きな電流が供給される。また、回転速度センサー35a、35bに断線が生じて電動機33a、33bの回転子の位相が把握できなくなると、交流電流(u相電流iu、v相電流iv、w相電流iw)から直流電流(q軸電流iq、d軸電流id)への座標変換の変換則が不適切となり、q軸電流iq、d軸電流idが適切な値に変換されなくなる。
【0089】
以上の結果から、回転速度センサー35a、35bの断線は、d軸電流値idの大きさの比較のみで複雑な演算を行うことなく、実測回転速度ωが0となる他の要因(段差衝突など)と区別できることが分かる。
【0090】
(5-2)最適閾値
また、段差衝突によるd軸電流値i
dの挙動と回転速度センサー35a、35bの断線によるd軸電流値i
dの挙動が異なる現象の電動機33a、33bの回転速度に対する依存性について検証した。その結果を
図6に示す。
図6では、段差衝突または断線が発生する直前の回転速度指令値ω
*と、段差衝突または断線が発生したときのd軸電流値i
dの大きさと、の関係を示している。
図6は、回転速度指令値とd軸電流値との関係を示す図である。
図6に示すように、回転速度センサー35a、35bの断線によるd軸電流値i
dの大きさが段差衝突によるd軸電流値i
dよりも大きくなる現象は、いずれの回転速度指令値ω
*においても見られる。
【0091】
その一方で、回転速度センサー35a、35bの断線によるd軸電流値id、及び、段差衝突によるd軸電流値idのいずれも、回転速度指令値ω*が大きくなるに従ってリニアに増加する傾向が見られる。従って、回転速度センサー35a、35bの断線判定をd軸電流値idの大小の比較により行うには、大小の比較の基準となる閾値を回転速度指令値ω*によって変更することが好ましい。
【0092】
具体的には、
図6の一点鎖線で示すように、各回転速度指令値ω
*に対して、当該各回転速度指令値ω
*におけるセンサー断線によるd軸電流値i
dと、段差衝突によるd軸電流値i
dとの間の電流値を閾値とすれば、任意の回転速度指令値ω
*においてd軸電流値i
dが閾値以上であるか否かにより、回転速度センサー35a、35bが断線したか否かを判定できる。上記の各回転速度指令値ω
*に対して定める最適な閾値を「最適閾値」と呼ぶ。
従って、複数の回転速度指令値ω
*と、複数の回転速度指令値ω
*のそれぞれに対する最適閾値と、を関連付けて最適閾値情報TIとして記録することで、最適閾値情報TIと上位コントローラ51から出力される現在の回転速度指令値ω
*とに基づいて、任意の回転速度指令値ω
*に対する最適閾値を決定できる。
【0093】
図6に示すように、最適閾値は、センサー断線によるd軸電流値i
dの平均値、及び、段差衝突によるd軸電流値i
dの平均値からは十分に離れた値とすることが好ましい。具体的には、最適閾値は、段差衝突によるd軸電流値i
dが取りうる値の標準偏差の3倍に相当する値よりも大きく、かつ、センサー断線によるd軸電流値i
dが取りうる値の標準偏差の3倍に相当する値よりも小さい値の範囲内で設定することが好ましい。
【0094】
(5-3)従来の断線判定方法との比較例
次に、d軸電流値i
dの大小の比較による本実施形態に係る断線判定方法と、従来技術における断線判定方法との比較をシミュレーションにより実行した。以下のシミュレーションでは、tan
-1(V
q
*/V
d
*)(V
q
*:q軸電圧指示値、V
d
*:d軸電圧指示値)との式から算出される従来の断線判定方法で用いられる基準値(断線判定基準値と呼ぶ)の挙動と、d軸電流値i
dの挙動とを比較した。
図7Aに、電動機33a、33bの回転開始から回転速度センサー35a、35bが断線して所定の時間経過後までの従来の断線判定基準値の挙動を示し、
図7Bに、電動機33a、33bの回転開始から回転速度センサー35a、35bが断線して所定の時間経過後までのd軸電流値の挙動を示す。
図7A及び
図7Bでは、上図が実測回転速度ωの変動を示し、下図が断線判定基準値の変動(
図7A)又はd軸電流値idの変動(
図7B)を示す。
【0095】
図7Aに示すように、従来の断線判定基準値については、回転速度センサー35a、35bの断線が発生した後だけでなく、走行台車100の走行開始の初期段階においても大きな値を示す。つまり、従来の断線判定方法では、回転速度センサー35a、35bの断線が発生していない場合にも断線判定基準値の値が大きくなり、回転速度センサー35a、35bの断線の誤検知が生じる可能性が極めて高い。
【0096】
その一方、
図7Bに示すように、d軸電流値i
dについては、走行台車100の走行開始の初期段階において若干大きく変動する場合もあるが、その変動幅は回転速度センサー35a、35bの断線が発生した場合の変動幅よりも十分に小さい。つまり、本実施形態に係るd軸電流値i
dの大小に基づく断線判定方法では、回転速度センサー35a、35bの断線が発生している場合としていない場合とを区別可能であるので、回転速度センサー35a、35bの断線の誤検知が生じる可能性は極めて低い。
【0097】
(6)回転速度センサーの断線検出方法
以下、
図8を用いて、第1実施形態の制御装置53a、53bで実行される回転速度センサー35a、35bの断線検出方法(断線検出プロセス)を説明する。
図8は、回転速度センサーの断線検出方法を示すフローチャートである。以下では、制御装置53aにおいて実行される回転速度センサー35aの断線検出方法の例を説明する。制御装置53bにおいても同様の断線検出方法が実行される。
なお、
図8に示す回転速度センサーの断線検出プロセスは、制御装置53aにおいて電動機33aの制御が実行されているときに、電動機33aの制御プロセスと並列して実行されてもよいし、制御プロセスの所定のタイミングで実行されてもよい。
【0098】
回転速度センサーの断線検出プロセスが開始されると、まず、回転速度センサー35aの断線判定を実行する断線判定モードに移行するか否かが決定される。
具体的には、ステップS1において、モード移行部535aが、上位コントローラ51から回転速度指令値ω*を取得する。また、ステップS2において、モード移行部535aが、角度変換部531iから実測回転速度ωを取得する。
【0099】
回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωを取得後、ステップS3において、モード移行部535aは、取得した回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωが断線判定モードへの移行条件を満たしているか否かを判定する。
回転速度指令値ω*が0であるか、又は、実測回転速度ωが所定の回転速度よりも大きい回転速度である場合(ステップS3で「No」)、モード移行部535aは、取得した回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωが断線判定モードへの移行条件を満たしていないと判定する。この場合、断線検出プロセスはステップS1に戻り、回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωが断線判定モードへの移行条件を満たすまで待機する。
【0100】
一方、回転速度指令値ω*が0でなく、かつ、実測回転速度ωが所定の回転速度以下である場合(ステップS3で「Yes」)、モード移行部535aは、取得した回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωが断線判定モードへの移行条件を満たしていると判定し、断線判定モードへ移行する。
【0101】
断線判定モードへ移行後、回転速度センサー35aの断線判定が実行される。
具体的には、ステップS4において、閾値決定部535dが、記憶部535eに記憶されている最適閾値情報TIと、ステップS1で取得した現在の回転速度指令値ω*とに基づいて、上記にて説明した閾値の決定方法により、現在の回転速度指令値ω*に対して最適な閾値を決定する。
閾値を決定後、ステップS5において、断線判定部535bが、第1座標変換部533から現在のd軸電流値idを取得する。その後、ステップS6において、断線判定部535bが、ステップS5にて取得したd軸電流値idがステップS4で決定した閾値を超えているか否かを判定する。
【0102】
d軸電流値idが閾値よりも大きい場合(ステップS6で「Yes」)、断線判定部535bは、回転速度センサー35aに断線が発生していると判定する。この場合、断線検出プロセスは、ステップS7に進む。
一方、d軸電流値idが閾値以下である場合(ステップS6で「No」)、断線判定部535bは、回転速度センサー35aに断線が発生していないと判定する。この場合、断線検出プロセスは、ステップS9に進む。
【0103】
ステップS6において回転速度センサー35aに断線が発生していると判定された場合、ステップS7において、断線判定部535bは、他方の制御装置53bに、回転速度センサー35aに断線が発生したとの判定結果を送信する。
その結果、ステップS8において、他方の制御装置53bの断線検出部535が回転停止指令を出力し、当該他方の制御装置53bにより制御されている電動機33bが回転を停止する。その後、断線検出プロセスは、ステップS11に進み断線判定モードを終了し、回転速度センサー35aの断線検出を終了する。
【0104】
一方、ステップS6において回転速度センサー35aに断線が発生していないと判定された場合、ステップS9において、断線判定部535bは、ステップS4を実行してから第2時間が経過したか否かを判定する。ステップS4を実行してから第2時間が経過していない場合(ステップS9で「No」)、断線判定部535bは、ステップS4を実行してから第2時間が経過するまで待機する。
一方、ステップS4を実行してから第2時間が経過した場合(ステップS9で「Yes」)、ステップS10において、断線判定モードに移行してから第1時間が経過したか否かを判定する。
【0105】
ステップS4を実行してから第2時間が経過しており(ステップS9で「Yes」)、かつ、断線判定モードに移行してから第1時間が経過していない場合(ステップS10で「No」)、断線検出プロセスは、ステップS4に戻る。すなわち、閾値決定部535dが閾値を決定し、その後、断線判定部535bがd軸電流値idを取得して、取得したd軸電流値idが閾値を超えているか否かを判定する。
上記のようにして、断線判定部535bは、断線判定モードに移行後第1時間が経過していない時間内に、第2時間毎にd軸電流値idが閾値を超えているか否かを判定できる。その結果、高速に回転速度センサー35aの断線を検知できる。
【0106】
なお、断線判定モードに移行してから第1時間内にd軸電流値idが閾値を超えているか否かを第2時間毎に判定する間、上記のステップS1~S3と同様のプロセスが実行される。すなわち、断線判定モードに移行してから第1時間内においても、回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωが断線判定モードに移行できる条件を満たしているか否かが判定される。
断線判定モードに移行してから第1時間内において、回転速度指令値ω*及び実測回転速度ωが断線判定モードに移行できる条件を満たさなくなった場合には、当該条件を満たさなくなった時点で、d軸電流値idが閾値を超えているか否かの判定が停止される。
【0107】
一方、断線判定モードに移行してから第1時間が経過している場合(ステップS10で「Yes」)、ステップS11において、モード移行部535aが現在の断線判定モードを終了する。その後、断線検出プロセスが終了する。
上記のようにして、モード移行部535aは、断線判定モードに移行してから第1時間が経過した場合には、当該断線判定モードを終了できる。その結果、回転速度センサー35aの断線の誤検知を抑制できる。
【0108】
なお、断線判定モードに移行してから第1時間が経過して断線判定モードが一旦終了した後に、再度、断線検出プロセスが起動されて、上記のステップS1~S11の実行が開始されてもよい。
また、回転速度センサー35aの断線が発生した後に、当該回転速度センサー35aの交換等がなされて上記断線状態が解消した後に、再度、断線検出プロセスが起動されて、上記のステップS1~S11の実行が開始されてもよい。
【0109】
まとめると、上記の断線検出方法では、回転速度指令値ω*が0でなく、かつ、実測回転速度ωが所定の回転速度以下である状態となった後に、d軸電流値idが所定の閾値を超えたか否かにより、回転速度センサー35a、35bに断線が生じたか否かを判定している。
回転速度指令値ω*が0でなくかつ実測回転速度ωが所定の回転速度以下となる場合は、回転速度センサー35a、35bに異常が発生している可能性が高い場合であるので、回転速度指令値ω*が0でなくかつ実測回転速度ωが所定の回転速度以下となった後に回転速度センサーの断線の判定をすることで、回転速度センサー35a、35bの断線の誤検出が発生することを抑制できる。
また、回転速度センサー35a、35bの断線を、d軸電流値idが所定の閾値を超えたかどうか、すなわち、d軸電流値idの大小で判定することにより、回転速度センサー35a、35bの断線判定を複雑な演算により実行する必要がなくなるので、制御装置53a、53bに過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサー35a、35bの断線を判定できる。
【0110】
(7)変形例
上記の実施形態においては、電動機33a、33b毎にそれぞれ制御装置53a、53bが設けられ、これら2つの制御装置53a、53bが互いに通信して互いの回転速度センサー35a、35bの状態をやりとりしていた。これに限られず、変形例として、
図9に示すように、1つの制御装置53’により2つの電動機33a、33bを制御してもよい。
図9は、制御部の構成の変形例を示す図である。
この制御装置53’は、例えば、第1実施形態の各制御装置53a、53bに備わっていた駆動部531hを電動機33a、33b毎に2つ有し、他の構成要素を2つの電動機33a、33bで共有する。この場合、制御装置53’には、一方の電動機の制御指令が上位コントローラ51から送信された後に、他方の電動機の制御指令が上位コントローラ51から送信される。
【0111】
制御装置53’は、上位コントローラ51から送信された電動機の制御指令がいずれの電動機に対する制御指令であるかを判断し、当該制御指令を情報処理(座標変換等)して対応する電動機に対する三相交流電圧の指示値を算出し、対応する電動機33a、33bの駆動部531hに出力する。
【0112】
この制御装置53’においては、各電動機33a、33bの回転速度センサー35a、35bが共通の角度変換部531iに接続され、各電動機33a、33bの電流検出器533aが共通の第1座標変換部533に接続される。
また、共通の角度変換部531iが各電動機33a、33bの回転角度θ及び実測回転速度ωを算出し、共通の第1座標変換部533が各電動機の交流電流の座標変換を実行する。
【0113】
このように、2つの電動機33a、33bを1つの制御装置53’により制御することにより、一方の電動機の回転速度センサーで断線が発生したときに即座に他方の電動機を停止させる等の処理を実行できる。
具体的には、共通の断線検出部535が、2つの電動機33a、33bの断線を判断して、一方の電動機の回転速度センサーで断線が発生したときには即座に他方の電動機を停止させる等の処理を実行できる。
【0114】
(8)第1実施形態の特徴
第1実施形態は下記のようにも説明できる。
制御装置(例えば、制御装置53a、53b)は、回転速度センサー(例えば、35a、35b)と、電力制御部(例えば、電力制御部531)と、座標変換部(例えば、第1座標変換部533)と、モード移行部(例えば、モード移行部535a)と、断線判定部(例えば、断線判定部535b)と、を備える。回転速度センサーは、電動機(例えば、電動機33a、33b)の回転速度を測定する。電力制御部は、電動機の回転速度指令値(例えば、回転速度指令値ω*)と実測回転速度(例えば、実測回転速度ω)とに基づいて、電動機に供給する電力量を制御する。
【0115】
座標変換部は、電動機に供給される電流量を座標変換してd軸電流値(例えば、d軸電流値id)を算出する。モード移行部は、回転速度指令値が0でなく、かつ、実測回転速度が所定の回転速度以下であれば、回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定する断線判定モードに移行する。断線判定部は、モード移行部が断線判定モードに移行した後にd軸電流値が所定の閾値を超えた場合に、回転速度センサーに断線が生じたと判定する。
【0116】
上記の制御装置では、断線判定部が、電動機への回転速度の指令値である回転速度指令値が0でなく、かつ、電動機の実際の回転速度に対応する実測回転速度が所定の回転速度以下である状態となった後に、回転速度センサーに断線が生じたか否かを判定している。
回転速度指令値が0でなくかつ実測回転速度が所定の回転速度以下となる場合は、回転速度センサーに異常が発生している可能性が高い場合であるので、回転速度指令値が0でなくかつ実測回転速度が所定の回転数以下となった後に回転速度センサーの断線の判定をすることで、回転速度センサーの断線の誤検出が発生することを抑制できる。
【0117】
また、回転速度センサーの断線を、d軸電流値が所定の閾値を超えたかどうか、すなわち、d軸電流値の大小で判定することにより、回転速度センサーの断線判定を複雑な演算により実行する必要がなくなるので、制御装置に過大な負荷をかけることなく高速に回転速度センサーの断線を判定できる。
【0118】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(A)上記の第1実施形態にて説明した
図8に示すフローチャートの各ステップの順序及び/又は処理内容は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更できる。
(B)上記の第1実施形態で説明した断線検出技術は、電動機33a、33bが三相同期モータであれば、上記のSPMモータ以外を用いた場合にも適用できる。例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)モータを電動機33a、33bとした場合にも、上記の断線検出技術を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、モータなどの電動機の制御装置に備わる回転速度センサーの断線の検出に広く適用できる。
【符号の説明】
【0120】
100 走行台車
1 本体
3a、3b 走行部
31a、31b 走行車輪
33a、33b電動機
35a、35b回転速度センサー
5 制御部
51 上位コントローラ
53a、53b制御装置
53’ 制御装置
531 電力制御部
531a 第1差分算出部
531b 速度制御部
531c 第2差分算出部
531d 第3差分算出部
531e q軸電流制御部
531f d軸電流制御部
531g 第2座標変換部
531h 駆動部
531i 角度変換部
533 第1座標変換部
533a 電流検出器
535 断線検出部
535a モード移行部
535b 断線判定部
535c 回転停止指令部
535d 閾値決定部
535e 記憶部
55 各種センサー
7 補助輪
TI 最適閾値情報
θ 回転角度
ω 実測回転速度
ω* 回転速度指令値