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  • 特許-光触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/02 20060101AFI20231129BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20231129BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20231129BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B01J23/02 M
B01J23/755 M
B01J35/02 J
C01B3/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020032998
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133330
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130638
【弁理士】
【氏名又は名称】野末 貴弘
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】新見 秀明
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/016527(WO,A1)
【文献】特開平10-314600(JP,A)
【文献】特開2011-006292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(CaMg)TiO3を含む酸化物を備え、
前記(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)は、0より大きく、0.7以下であり、
前記酸化物には、CaTiO 3 の結晶相とMgTiO 3 の結晶相が混在していることを特徴とする光触媒。
【請求項2】
前記モル量の比Mg/(Ca+Mg)は、0.3以上0.7以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記モル量の比Mg/(Ca+Mg)は、0.37以上0.7以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記モル量の比Mg/(Ca+Mg)は、0.43以上0.63以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光エネルギーを用いて水を分解し、水素を得るために用いられる光触媒の研究が進められている。光触媒は、より多くの水素を得るために、水の分解活性が高いことが好ましい。
【0003】
特許文献1には、CaTiO3で表されるペロブスカイト型酸化物のCaの一部をSrで置換し、Ca1-xSrxTiO3とした光触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-56080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の光触媒は、CaとSrが相互に固溶した状態となり、十分な触媒活性が得られない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、活性が高い光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光触媒は、(CaMg)TiO3を含む酸化物を備え、
前記(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)は、0より大きく、0.7以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光触媒は活性が高い。したがって、本発明の光触媒を用いて水の分解を行ったときに、より多くの水素を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における光触媒の結晶構造を模式的に示す図である。
図2】光触媒の活性を評価するために用いた装置の構成を模式的に示す図である。
図3】(CaMg)TiO3を含む酸化物を備えた光触媒において、(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)と、混合ガス中の水素の含有割合との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0011】
本発明の光触媒は、(CaMg)TiO3を含む酸化物を備え、(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)は、0より大きく、0.7以下である。酸化物には、CaTiO3の結晶相とMgTiO3の結晶相が混在しており、CaTiO3とMgTiO3の固溶体は存在しない。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態における光触媒の結晶構造を模式的に示す図である。図1において、「A」で表される結晶相は、CaTiO3の結晶相であり、「B」で表される結晶相は、MgTiO3の結晶相であり、「C」で表される結晶相は、MgTi23の結晶相である。図1に示すように、一実施形態における光触媒には、CaTiO3の結晶相とMgTiO3の結晶相が混在しており、さらに少量のMgTi23の結晶相が存在する。ただし、MgTi23の結晶相は存在しない場合もある。
【0013】
(実施例)
TiO2、CaCO3、および、MgCO3の原料粉を所望の組成比で調合し、ボールミルで5時間撹拌乾燥し、1100℃で仮焼してセラミック粉体を得た。得られたセラミック粉体を硝酸Ni水溶液に浸漬し、撹拌しながら150℃のホットプレートで蒸発乾燥させた。その後、大気中500℃で熱処理することによって硝酸を揮発させた後、水素中800℃で還元して、Niを1重量%担持させた(CaMg)TiO3粉からなる光触媒を作製した。Niは、助触媒として機能する。ただし、助触媒がNiに限定されることはなく、PtやPdなどを用いることもできる。
【0014】
作製した光触媒の活性を、以下の方法により評価した。
【0015】
図2は、光触媒の活性を評価するために用いた装置の構成を模式的に示す図である。シャーレ21に、作製した光触媒の粉体0.3gと純水1gを混合して得られるスラリーを入れた。そして、そのシャーレ21を密封容器22内に入れた後、石英ガラスからなる蓋23をして密封した。なお、石英ガラスからなる蓋23は、紫外線を透過させる。
【0016】
続いて、1リットルのアルゴンガスを満たしたパック24から、送風ポンプ25を用いて、アルゴンガスを送出させて、1cc/分の量のアルゴンガスを循環させた。すなわち、パック24内のアルゴンガスを、密封容器22内を通過して、再びパック24内へと戻るように循環させた。なお、アルゴンガスは、水の分解により発生した水素が酸素等と反応することを抑制するために、密封容器22内に導入させた。
【0017】
続いて、石英ガラスからなる蓋23を介して、シャーレ21内のスラリーに紫外線を照射した。スラリーに紫外線を照射することによって水の分解が生じ、水素が発生する。この状態を1時間継続し、1時間後の混合ガス中の水素の含有割合をガスクロマトグラフィーにより求めた。混合ガス中の水素の含有割合は、アルゴンと水素の混合ガス中の水素の含有割合を意味する。
【0018】
なお、紫外線の照射源として、200Wの水銀キセノンランプを用いた。この水銀キセノンランプは、4cm□の範囲に均一に紫外線を照射することができるので、平面視で直径が3cmの円形のシャーレ21の全体に紫外線を照射することが可能である。
【0019】
ここでは、光触媒の(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)を変更したときの水素の発生量を調べた。(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)と、混合ガス中の水素の含有割合との関係を表1に示す。また、(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)を横軸に、混合ガス中の水素の含有割合を縦軸にとったグラフを図3に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
図3に示すように、CaとMgの合計モル量に対するMgのモル量が0より大きく、かつ、0.7以下の範囲では、混合ガス中の水素の割合が0.005%より多くなった。一方、CaTiO3で表されるペロブスカイト型酸化物のCaの一部をSrで置換し、Ca1-xSrxTiO3とした特許文献1に記載の光触媒を用いた場合、混合ガス中の水素の割合は0.005%未満となる。
【0022】
すなわち、(CaMg)TiO3を含む酸化物を備え、(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)が0より大きく、0.7以下である本発明の光触媒は、触媒活性が高く、水の分解により発生する水素の量が多い。
【0023】
ここで、光触媒を用いた水の分解反応について簡単に説明する。光触媒にバンドギャップ以上のエネルギーの光が照射されると、価電子帯の電子が伝導帯へと励起される。励起された電子は、水を還元して水素を生成し、価電子帯に形成されたホールは、水を酸化して酸素を生成する。ただし、形成された電子とホールが引き合って再結合すると、水の分解は行われない。
【0024】
ここで、MgTiO3とCaTiO3は、バンド構造が若干異なるため、界面でバンドが歪んでいると推定される。このバンドの歪みにより、形成された電子とホールが再結合されにくく、水の分解により水素が生成されやすくなると考えられる。
【0025】
なお、MgTiO3単相およびCaTiO3単相では触媒活性が低い。すなわち、本発明の光触媒のように、(CaMg)TiO3を含む酸化物を備え、CaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比Mg/(Ca+Mg)が0より大きく、0.7以下であるという条件が触媒活性を向上させるために重要である。
【0026】
また、上記モル量の比Mg/(Ca+Mg)が0.3以上0.7以下である場合には、混合ガス中の水素の含有割合が0.009%以上とさらに高くなった。したがって、本発明における光触媒は、上記モル量の比Mg/(Ca+Mg)が0.3以上0.7以下であることが好ましい。
【0027】
また、図3に示すように、(CaMg)TiO3に含まれるCaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の比を0から増加していくと、混合ガス中の水素の含有割合が増加するが、Mgのモル量の割合が0.37の前後において、水素の含有割合の増加量が大きく変化している。すなわち、CaとMgの合計モル量に対するMgのモル量の割合が0.37以上になると、混合ガス中の水素の含有割合が急激に増加する。したがって、本発明における光触媒は、上記モル量の比Mg/(Ca+Mg)が0.37以上0.7以下であることがより好ましい。
【0028】
また、図3に示すように、CaとMgの合計モル量に対するMgのモル量が0.43以上0.63以下の場合には、混合ガス中の水素の含有割合が0.016%以上とさらに高くなった。したがって、本発明における光触媒は、上記モル量の比Mg/(Ca+Mg)が0.43以上0.63以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
21 シャーレ
22 密封容器
23 蓋
24 パック
25 送風ポンプ
図1
図2
図3