(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】粘り評価方法、表示物及びマップ
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20231129BHJP
G01N 11/14 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01N3/00 K
G01N11/14 A
(21)【出願番号】P 2020033657
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西本 有紀
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-284041(JP,A)
【文献】特開昭63-133042(JP,A)
【文献】特開2000-127657(JP,A)
【文献】特開2011-135820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 - 3/62
G01N 11/00 - 11/16
G01N 19/00 - 19/10
G01N 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器中の米飯内の治具を揺動させたときのせん断ひずみに基づいて、前記米飯の粘りの指標を得る
粘り評価方法であって、
前記治具は軸を有し、前記軸を中心として揺動することを特徴とする粘り評価方法。
【請求項2】
前記治具は羽根部を有することを特徴とする請求項1記載の粘り評価方法。
【請求項3】
前記せん断ひずみの値が1.00~255%であることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の粘り評価方法。
【請求項4】
前記せん断ひずみのうちの所定のせん断ひずみに対応する損失弾性率に基づいて、前記米飯の粘りの指標を得ることを特徴とする請求項1乃至
請求項3のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法。
【請求項5】
前記容器中の米飯は、前記容器に入れられた状態で炊き上げられたものであり、炊き上げ後、当該容器に入れられたままの状態において、前記治具が揺動されることを特徴とする請求項1乃至
請求項4のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法。
【請求項6】
請求項1乃至
請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法によって得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供することを特徴とする表示物。
【請求項7】
請求項6に記載の表示物であって、粘りを評価する対象とした種類の米または米飯を包装する物であることを特徴とする表示物。
【請求項8】
請求項1乃至
請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法によって得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供することを特徴とするマップ。
【請求項9】
請求項1乃至
請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法に基づいて得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供する画像を製造する方法。
【請求項10】
請求項1乃至
請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法に基づいて得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供するマップを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘り評価方法、表示物及びマップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬さ・粘り計を用いて米飯の硬さや粘り等を測定する方法が知られていた(特許文献1の
図3、段落0017)。この硬さ・粘り計は、圧縮プランジャーによって試料を鉛直方向に圧縮するように移動させたのち、圧縮プランジャーを試料から離れる方向に移動させ、移動中の圧縮プランジャーにかかる応力に基づいて、米飯の硬さ、粘りなどを評価していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、米飯の粘りについては、硬さ・粘り計による評価と、パネラーによる官能評価との相関は必ずしも高いものとはいえず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、米飯の粘りについて、パネラーによる官能評価により近い結果が得られる粘り評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、容器中の米飯内の治具を揺動させたときのせん断ひずみに基づいて、前記米飯の粘りの指標を得る粘り評価方法であって、前記治具は軸を有し、前記軸を中心として揺動することを特徴とする粘り評価方法である。
請求項2に係る発明は、前記治具は羽根部を有することを特徴とする請求項1記載の粘り評価方法である。
請求項3に係る発明は、前記せん断ひずみの値が1.00~255%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粘り評価方法である。
請求項4に係る発明は、前記せん断ひずみのうちの所定のせん断ひずみに対応する損失弾性率に基づいて、前記米飯の粘りの指標を得ることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法である。
請求項5に係る発明は、前記容器中の米飯は、前記容器に入れられた状態で炊き上げられたものであり、炊き上げ後、当該容器に入れられたままの状態において、前記治具が揺動されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法である。
請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法によって得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供することを特徴とする表示物である。
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の表示物であって、粘りを評価する対象とした種類の米または米飯を包装する物であることを特徴とする表示物である。
請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法によって得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供することを特徴とするマップである。
請求項9に係る発明は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法に基づいて得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供する画像を製造する方法である。
請求項10に係る発明は、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の粘り評価方法に基づいて得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供するマップを製造する方法である。
また、別発明として、以下のものでもよい。
手段1は、容器中の米飯内の治具を揺動させたときのせん断ひずみに基づいて、前記米飯の粘りの指標を得ることを特徴とする粘り評価方法である。
【0007】
手段2は、前記治具は羽根部を有することを特徴とする手段1記載の粘り評価方法である。
【0008】
手段3は、前記治具は軸を有し、前記軸を中心として揺動することを特徴とする手段1又は手段2のいずれか1項に記載の粘り評価方法である。
【0009】
手段4は、前記せん断ひずみの値が1.00~255%であることを特徴とする手段1乃至手段3のうちいずれかに記載の粘り評価方法である。
【0010】
手段5は、前記せん断ひずみのうちの所定のせん断ひずみに対応する損失弾性率に基づいて、前記米飯の粘りの指標を得ることを特徴とする手段1乃至手段4のうちいずれかに記載の粘り評価方法である。
【0011】
手段6は、前記容器中の米飯は、前記容器に入れられた状態で炊き上げられたものであり、炊き上げ後、当該容器に入れられたままの状態において、前記治具が揺動されることを特徴とする手段1乃至手段5のうちいずれかに記載の粘り評価方法である。
【0012】
手段7は、手段1乃至手段6のうちいずれかに記載の粘り評価方法によって得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供することを特徴とする表示物である。
【0013】
手段8は、手段7に記載の表示物であって、粘りを評価する対象とした種類の米または米飯を包装する物であることを特徴とする表示物である。
【0014】
手段9は、手段1乃至手段6のうちいずれかに記載の粘り評価方法によって得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供することを特徴とするマップである。
【0015】
手段10は、手段1乃至手段6のうちいずれかに記載の粘り評価方法に基づいて得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供する画像を製造する方法である。
【0016】
手段11は、手段1乃至手段6のうちいずれかに記載の粘り評価方法に基づいて得られた前記米飯の粘りの指標に基づいて、基準の粘りとの関係を示す情報を提供するマップを製造する方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、米飯の粘りについて、官能評価との相関が高い評価を得ることができる。また、得られた評価が需要者に対してわかりやすい形で提示される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は金属製容器の斜視図である。(b)は容器ホルダの斜視図である。(c)はレオメータの斜視図である。(d)は羽根型治具の斜視図である。
【
図2】(a)は容器配置部に、容器ホルダと金属製容器を配置した状態における
図1(c)のA-A断面図である。(b)は容器配置部に、容器ホルダと金属製容器が配置され、羽根型治具が下降された状態における
図1(c)のA-A断面図である。(c)は容器ホルダと金属製容器と羽根部のB-B断面図である。
【
図4】(a)は従来例の測定結果を示す図である。(b)は本発明における測定結果を示す図である。
【
図5】(a)は米の特性を示したマップである。(b)はマップ上における表示の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照する等して説明する。なお、本発明は、実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0020】
本実施形態においては、金属製容器10において米の炊き上げを行ったのち、羽根型治具22を備えたレオメータ20により金属製容器10内の米飯の粘弾性を測定し、測定結果にもとづいて米飯の粘りを評価する。レオメータ20はアントンパール社(所在地はオーストリア、以下同様)製で、その型番は「MCR102」である。
【0021】
図1(a)は金属製容器10を示す斜視図である。金属製容器10は、円筒形で、直径が30mm、深さが73mm、厚さが0.1mmである。金属製容器10の上端にはフランジ状に形成された金属製容器フランジ部10aが設けられている。金属製容器フランジ部10aの直径は34mmである。金属製容器10はアントンパール社製で、その型番は「C-CC27/D/AL」である。金属製容器10はアルミニウム製である。
【0022】
以下の条件で炊飯を行った。
金属製容器10に10gの米を投入する。
金属製容器10に常温の水を20ml程度加え、スプーンで10秒かきまぜたのち、水を捨て、洗米する。
上記の洗米作業を4回行う。
【0023】
金属製容器10に常温の水を加え、米10gに対し、水量が13.5gとなるように水量を調整する。なお、洗米工程において、米に水が付着するため、洗米後の金属製容器10に水13.5gを加えた場合には、水量が多い状態となる。そこで、いわゆる風袋引き機能を有する秤を用いて金属製容器10の重さを差し引いた状態の秤を用いて、米10gに対し、水量が13.5gとなるように水量を調整するとよい。
金属製容器10にろ紙で蓋をし、金属製容器10に対してろ紙を輪ゴムで止める。なお、ろ紙を用いるのは、米の加熱時に、水蒸気を通過可能とするためである。
常温で30分間、浸漬する。
【0024】
米の炊き上げにはフードスチーマを使用した。使用したフードスチーマはツインバード工業株式会社製で、その型番は「SP-4138」である。
フードスチーマの蓋を開け、フードスチーマ内に金属製容器10を置き、30分間加熱する。フードスチーマの加熱開始後、約4分半が経過すると、フードスチーマ内に蒸気が充満する。
【0025】
加熱開始から30分が経過した段階で、フードスチーマの加熱を停止し、金属製容器10をフードスチーマ内にそのまま置いて10分間蒸らす。加熱が停止されることで、フードスチーマ内の蒸気は徐々に減少していく。
フードスチーマによる加熱によって、金属製容器10は35分程度蒸気によって覆われる。蒸らしが終了した段階において、金属製容器10内に液体の水は存在せず、米の炊き上げが完了した状態となる。
【0026】
フードスチーマの蓋を開け、金属製容器10を取り出す。
取り出した金属製容器10を冷却器に入れ、5分間送風し、金属製容器10を冷却する。金属製容器10を冷却することで、米飯から発生した蒸気が金属製容器10内で結露して、金属製容器10の内壁や炊き上げが完了した米飯に付着し、試料としての質が低下するという事態の発生を防止することができる。
【0027】
金属製容器10から、輪ゴムとろ紙を取り外す。
金属製容器10にアルミホイルで蓋をする。アルミホイルで蓋をすることで、炊きあがった米飯の上部が米飯の余熱により乾燥し、試料としての質が低下するという事態の発生を防止することができる。
金属製容器10を常温で2時間放置する。
【0028】
上記の試料作製工程を、品種A、品種B、品種C、品種D、品種E、品種Fの6つの品種について行ない、試料A~試料Fを作製した。なお、品種A~品種Fはすべてうるち米である。
【0029】
なお、このようにして作製された試料において、炊き上げられた米飯は金属製容器10内において、金属製容器10の底部からの高さが約50mmの状態となった。また本試料作製工程においては、米飯の撹拌やかきまぜは行わず、炊き上げが行われた米飯が入ったままの金属製容器10をレオメータ20に対して配置し、試料として用いた。
【0030】
上記試料作製工程において、以下のような変更を加えてもよい。
金属製容器10に加える水の量や米の浸漬時間は米の状態や品種に応じて、適宜調整してもよい。例えば、古米の粘りを評価する場合には、浸漬時間を長くしたり、加える水の量を増やしたりしてもよい。
冷却器を用いて冷却を行ったが冷却工程は省いてもよい。
複数個の金属製容器10を1つのフードスチーマによって同時に加熱し、複数の試料を同時に作製してもよい。
【0031】
以上の試料作製工程により作製した各試料に対して、レオメータ20を用いて粘弾性の測定を行い、米飯の粘りを評価した。レオメータ20による粘弾性の測定は、金属製容器10を容器ホルダ12に配置したのち、容器ホルダ12をレオメータ20が有するホルダ配置部24に配置した状態で、レオメータ20に取り付けられた羽根型治具22を揺動させることで行われる。
【0032】
そこで、まず、容器ホルダ12、レオメータ20、羽根型治具22の構造や動作などについて説明をする。
【0033】
図1(b)は、容器ホルダ12の斜視図である。容器ホルダ12の上端にはフランジ状に形成された容器ホルダフランジ部12aが設けられている。また、容器ホルダフランジ部12aの内周には段差部12bが設けられており、段差部12bに金属製容器10の金属製容器フランジ部10aが係合することで、容器ホルダ12内に金属製容器10を安定して配置することができる。なお、
図2(a)に示すように、容器ホルダ12は底がない筒状の形状である。容器ホルダ12は金属製である。容器ホルダ12は、アントンパール社製で、その型番は「H-CC27-D」である。
【0034】
図1(c)は、レオメータ20の斜視図である。レオメータ20は羽根型治具22を着脱可能に取り付け可能である。
図1(c)においては、レオメータ20に羽根型治具22が取り付けられた状態が示されている。また、レオメータ20は、容器ホルダ12を配置可能なホルダ配置部24を有している。ホルダ配置部24は略円筒形であり、容器ホルダ12を配置することができる。
【0035】
図1(d)は羽根型治具22を示す斜視図である。羽根型治具22は、軸部22aと4つの羽根部22cとからなる。また、軸部22aの上端には取り付け部22bが設けられている。
軸部22aの直径は4mmである。軸部22aの上部にはレオメータ20に対して羽根型治具22を固定可能な取り付け部22bが設けられている。軸部22aの下端部には4つの羽根部22cが設けられている。隣り合う羽根部22cの成す角度は90度であり、平面視したときに軸部22aを中心として十字状に視認される。羽根部22cの高さは35mm、幅は7mm、厚さは1mmである。軸部22a、取り付け部22b、羽根部22cはそれぞれ金属製である。羽根型治具22はアントンパール社製で、その型番は「ST14-4V-35/125」である。
【0036】
図2(a)は、金属製容器10が配置された容器ホルダ12がホルダ配置部24に配置された状態におけるA-A断面図である。この状態において、レオメータ20を用いて試料の粘弾性が測定されるが、詳細は後述する。
なお、レオメータ20に対して、金属製容器10と容器ホルダ12は図示しない固定機構によって固定することが可能である。これにより、後述する羽根型治具22の揺動にともなって、金属製容器10と容器ホルダ12が揺動しないように構成されている。
【0037】
羽根型治具22はレオメータ20が有する図示しない駆動機構によって上下方向に移動させることが可能である。
図2(b)は、羽根型治具22を下降させて試料の中に入れた状態におけるA-A断面図である。
【0038】
レオメータ20は、レオメータ20が有する図示しない駆動機構によって、羽根型治具22を正逆方向に所定の角度及び速度で回転させることが可能である。レオメータ20は、試料に挿入された羽根型治具22を最小トルク(回転)5(nNm)、最小トルク(振動)7.5(nNm)、最大トルク200(mNm)、偏向角(設定値)0.5~∞(μrad)、最大角速度314(rad/s)、最大回転速度3000(1/min)で動作させることが可能である。また、試料に挿入された羽根型治具22に応力を加えて周期的に揺動させることができる(
図3を参照)。また、このような揺動に対する応答として発生するひずみに基づいて試料の粘弾性を測定することが可能である。具体的には、レオメータ20によって、試料が所定のせん断ひずみ(%)となるように羽根型治具22に所定のトルクを加えたときの、せん断応力(Pa)、貯蔵弾性率G’(Pa)、損失弾性率G’’(Pa)、損失正接tanδ、を測定することが可能である。また、羽根型治具22の偏向角を測定することが可能である。
【0039】
なお、レオメータ20が有するこのような駆動機構は図示しない制御手段(例えば、マイクロコンピュータ)により制御される。また、レオメータ20は図示しないセンサによって上述した測定データを取得することができる。羽根型治具22の上下方向および回転方向の駆動制御は、レオメータ20に設けた所定のボタンやレオメータ20に接続したパーソナルコンピュータによって制御可能に構成されていてもよい。例えば、試料測定時の羽根型治具22の具体的な動作態様をパーソナルコンピュータによって設定することが可能である。
【0040】
本測定においては、レオメータ20のホルダ配置部24に、金属製容器10が配置された容器ホルダ12が配置された状態としたのち、レオメータ20による駆動制御によって、羽根型治具22を平面視における金属製容器10の中心に対して下方に移動させた。この移動により、羽根型治具22が金属製容器10内の米飯(深さ約50mm)内に、30mm挿入された状態となった。
図2(b)は、この状態を示したA-A断面図である。また、
図2(c)は、
図2(b)のB-B断面図である。羽根型治具22を下方に移動させたことで、
図2(c)に示すように、平面視で円形の米飯の中心に十字型をなす4つの羽根部22cが位置した状態となる。この状態で、羽根型治具22を揺動させることで、試料の粘弾性が測定される。
【0041】
以下に、レオメータ20を用いて試料の粘弾性を測定した試験方法を説明し、その後、試験によって得られた測定結果を示す。
【0042】
本測定においては、予め定められた偏向角に基づいて、羽根型治具22を所定の態様で動作させることで、米飯の特性について測定を行った。以下に、羽根型治具22の動作態様を表1、
図3を参照して説明する。表1は、試料Aにおける羽根型治具22の動作態様を示す表である。
図3は、羽根型治具22の動作態様を示した図である。
【0043】
本測定においては、羽根型治具22の揺動態様が異なる16のポイント(ポイントナンバー「1」からポイントナンバー「16」)を設けた。表1に示すように各ポイントナンバーにおいて、羽根型治具22の偏向角は異なる。
【0044】
【0045】
図3は、ポイントナンバー「1」~ポイントナンバー「3」における羽根型治具22の動作態様を示したグラフである。
図3に示すグラフにおいて、縦軸は、羽根部22cの角度(mrad)を、横軸は羽根部22cが揺動を開始してからの経過時間(秒)を示している。
ポイントナンバー「1」におけるせん断ひずみの値は1.00%であり、羽根型治具22は1.05mradの範囲で、正弦波形状で揺動する。なお、羽根型治具22が正弦波形状で揺動するように羽根型治具22に加わるトルクが制御される。このとき、羽根型治具22に加わったせん断応力に基づいて、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’、損失正接tanδが算出される。なお、せん断ひずみは、偏向角が約105.1mradであるときの値を100%としたときの割合を示す値である。
図3に示すように、ポイントナンバー「1」においては、偏向角を1.05mradとした羽根型治具22の揺動が0.5秒を周期として、10回繰り返される。次いで、ポイントナンバー「2」においては、偏向角を1.68mradとした羽根型治具22の揺動が0.5秒を周期として、10回繰り返される。次いで、ポイントナンバー「3」においては、偏向角を2.67mradとした羽根型治具22の揺動が0.5秒を周期として、10回繰り返される。
以後、同様に、ポイントナンバー「16」まで、偏向角を徐々に大きくしながら、羽根型治具22の揺動が同様に繰り返される。そして、各ポイントナンバーにおいて、羽根型治具22に加わったせん断応力に基づいて、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’、損失正接tanδが算出される。表2は、このようにして得られた試料Aについての測定結果を示している。
【0046】
【0047】
同様の測定を試料B~Fに対して行ない、表3に示すデータが得られた。
表3は、品種A~Fについて、パネラーによる官能評価の値、従来例における硬さ粘り計を用いて算出した粘りを示す値、本発明におけるポイントナンバー「4」(せん断ひずみ4.04%)における損失弾性率G’’の値を示した表である。
また、
図4(a)は、品種A~Fについて、官能評価の値と従来例における硬さ粘り計を用いて算出した粘りを示す値との相関を示す図である。
また、
図4(b)は、官能評価の値と本発明におけるポイントナンバー「4」(せん断ひずみ4.04%)における損失弾性率G’’の値を示した表である。
図4(b)に示すようにポイントナンバー「4」における相関係数は0.89であり、高い相関を示す結果が得られた。
【0048】
【0049】
また、表4は、品種Aについて、従来例を用いた米飯の粘りの評価と官能評価との相関と比べて、本発明を用いた米飯の粘りの評価と官能評価との相関が、せん断ひずみが1.00%~1010%の範囲において、どのような傾向を示したか(具体的には相関が高いか否か)を示した表である。
【0050】
【0051】
表3、
図4、表4に示すように、米飯の粘りについて、せん断ひずみ1.00~255の範囲では、従来例と比較して、官能評価と損失弾性率G’’との相関が高いという結果が得られた。特にせん断ひずみ6.40~64.0の範囲(表中で「◎」となっている範囲)で官能評価と損失弾性率G’’との相関が高いという結果が得られた。
なお、表4のポイントナンバー「1」における測定結果が示すようにポイントナンバー「1」のみで測定を行った場合であっても官能試験と損失弾性率G’’との相関は十分に高い。
【0052】
なお、各品種についてそれぞれ複数の試料を作製して複数回の測定を行い、その平均値を表2に示した。
【0053】
また、羽根部22cの高さを35mm、幅を7mm、厚さを1mmとしたが、各部の寸法はこの寸法に限られるものではない。また、羽根部22cの形状を長方形状としたが、揺動によって、米飯にせん断ひずみを発生させることが可能であればよくその形状は長方形状に限られない。また、複数の羽根部22cの形状が異なるものであってもよい。また、羽根部22cの個数も4つに限られるものではなく、4未満の個数(例えば1つ~3つ)としてもよいし、5以上の個数としてもよい。
【0054】
品種A~F以外の他の品種の米についても同様の測定を行うことが可能である。また、複数の品種の米を所定の割合で配合したいわゆるブレンド米に対しても同様の測定を行うことが可能である。また、同一品種であっても、産地や生産者が異なる米についても同様の測定を行うことが可能である。
【0055】
本発明によれば、米飯の粘りの評価において、従来の方法と比較して、パネラーによる官能評価と高い相関を持つ結果を得ることができる。
【0056】
次いで、このようにして得られた粘りの指標を示すデータの利用方法について説明する。
【0057】
図5(a)は、このような方法によって得られた米飯の粘りの指標を示す値を縦軸とし、硬さを横軸として作成したマップの例を示している。なお、マップ中の縦軸は上に行くほど、粘りが強く、下に行くほど粘りが弱い。また。マップ中の横軸は右に行くほど、硬さが強く、左に行くほど硬さが小さい。
なお、米飯の硬さについては、従来の硬さ・粘り計を用いた値を用いたが、他の方法により計った硬さを用いてもよい。
このようなマップ上に、複数の品種について米の形を模したマークと品種名を、その品種の粘りと硬さに対応する位置に配置する。例えば、「ホワイトクイーン」という品種は、粘りが強く、硬さが強くない位置に配置されている。
なお、本マップ上では、基準米の粘りと硬さを「普通」としている。そして、マップ上においては、「一般的なお米」という表現を用いて、基準米の位置を示している。
なお、図中等において示す品種名である「ホワイトクイーン」、「越乃介」、「北斗七星」、「太陽のひかり」はすべて架空のものである。
【0058】
また、マップ上には、米の用途を示す領域(図中において点線で示した楕円形)を示すとともに領域内に米の用途を表示している。
例えば、マップの左上には、「お弁当やおにぎりに!」という文字が付された楕円形の領域が配置されている。この領域中には「ホワイトクイーン」が含まれている。これにより、需要者は、「ホワイトクイーン」という品種が、お弁当やおにぎりに適した品種であることを知ることができる。
【0059】
このようにして、複数の品種について作成したマップを、ポスター用紙などに印刷して食料品店のお米売り場に掲示してもよい。あるいは、米を包装している袋に印刷したり、袋にシールによって貼り付けたりしてもよい。なお、この場合には、袋に入っている米の品種を、他の品種と異なる色にしてもよい。
例えば、「越乃介」が包装された袋にこのマップを印刷等する場合には、「越乃介」のお米のマークと「越乃介」という文字の色を赤色や太字で印刷し、他の品種については、黒色で印刷するとよい。
図5(b)は、「越乃介」の変更前の表示態様(左側)と変更後の表示態様(右側)を示す図である。このように、包装されている米の品種に対応して、マップ上のその品種の表示態様を他の品種と異なったものとすることで、包装されている米の特性を需要者が認識しやすくなる。
なお、同様のポスターを作成し、「越乃介」の陳列棚に掲示してもよい。この場合も、「越乃介」と他の品種との特性の違いを需要者が認識しやすくなる。なお、マップの画像データをデジタル的に作成するとともに、お米売り場に液晶ディスプレイを備えた端末を設置して、マップを表示するようにしてもよい。
なお、炊き上げ前の米を対象にする例を示したが、炊き上げ後の米飯を対象にして、同様の表示を行うことも可能である。例えば、食料品店のお総菜コーナーに陳列された米飯において同様のマップを印刷やシールの張り付けによって表示するようにしてもよい。あるいは、レトルトごはんの包装において、同様のマップを印刷やシールの張り付けによって作成し、表示するようにしてもよい。
【0060】
なお、近年では、ネットショッピングで米を購入することも可能である。そこで、このような画面上に、マップを表示するように構成してもよい。この場合、例えば、ネットショッピングのトップページには、
図5(a)に示すようなマップを表示し、需要者が特定の品種を選択した場合(例えば、特定の品種の商品の購入画面に移行した場合)には、
図5(b)を参照して上述した「越乃介」のように、選択された特定の品種の表示態様が変更されたマップが表示されるように構成するとよい。これにより、選択した品種の特性を需要者がより理解しやすくなる。
【0061】
なお、マップの画像データの生成においては、予め画像データを作成しておいて、ネットショッピングを提供する会社が管理するサーバに記憶しておき、インターネットなどのネットワークを介して、クライアントのコンピュータに送信し、クライアントのコンピュータにおいて受信された画像データが表示され、需要者がブラウザ上でマップを視認可能となるように構成するとよい。あるいは、クライアント側で動的にマップの画像データを作成するように構成してもよい。
【0062】
マップ上に複数の品種を配置したが、マップ上に1の品種と基準米(「一般的なお米」)のみを配置するようにしてもよい。あるいは、基準米についても配置しなくてもよい。この場合には、マップに表示された粘りについての指標である「もっちり」、「普通」、「あっさり」という文字によって、粘りの指標を需要者が認識することができる。
【0063】
米の品種が同一品種であっても、産地、生産者、圃場等によって異なる食味を呈する米となる場合がある。そこで、米に関する品種以外の情報を付加してマップ上に表示するようにしてもよい。例えば、「○○県産越乃介」や「○○農家自慢の越乃介」といった文字列をお米のマークに付加して表示するとよい。なお、マップ上に配置する米の品種が同一である場合には、品種名をマップの右上などに表示し、各お米のマークについては「○○市産」、「○○町産」といった文字列のみをお米のマークに付加して表示するようにしてもよい。
【0064】
粘りと硬さを示すマップを作成する例を示したが、米飯の特性を示す光沢、旨味、香りなどについても周知の方法に基づいて、測定し、硬さに代えてあるいは加えて2次元あるいは3次元的なマップを作成したりレーダーチャートを作成したりしてもよい。あるいは、粘りのみについて1次元のマップを作成してもよい。
【0065】
このように、紙や袋などの媒体やコンピュータに制御された表示手段において、米の粘りに関するマップを表示して需要者に提示することで、粘りそのものや米飯の用途などを需要者が理解しやすい。特に本評価方法によれば、精度の高い粘りの指標を得ることができるので、このようなマップの提示を行ったときの販売促進の効果は大きい。
【0066】
いずれの実施形態における各技術的事項を他の実施形態に適用して実施例としても良い。
【符号の説明】
【0067】
10 金属製容器
10a 金属製容器フランジ部
12 容器ホルダ
12a 容器ホルダフランジ部
12b 段差部
20 レオメータ
22 羽根型治具
22a 軸部
22b 取り付け部
22c 羽根部
24 ホルダ配置部