(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】推力発生装置
(51)【国際特許分類】
B64C 27/605 20060101AFI20231129BHJP
B64C 11/32 20060101ALI20231129BHJP
B64C 11/44 20060101ALI20231129BHJP
B64C 27/68 20060101ALI20231129BHJP
B64D 27/24 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B64C27/605
B64C11/32
B64C11/44
B64C27/68
B64D27/24
(21)【出願番号】P 2020047057
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 浩保
(72)【発明者】
【氏名】郡司 大輔
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0021295(US,A1)
【文献】特開2014-240214(JP,A)
【文献】特表2016-527135(JP,A)
【文献】特開2017-019491(JP,A)
【文献】特表2008-523322(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02244525(GB,A)
【文献】米国特許第05431539(US,A)
【文献】中国特許出願公開第109703752(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/605
B64C 11/32
B64C 11/44
B64C 27/68
B64D 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転翼を回転させて推力を発生させる推力発生モータと、
前記回転翼のピッチ角を変更するピッチ角変更モータと、
前記ピッチ角変更モータに連結された回転伝達部と、
直動軸と第1の運動変換機構を有し、前記第1の運動変換機構が前記回転伝達部と前記直動軸に連結可能であって、前記回転伝達部の回転を前記直動軸の直線運動に変換する、第1の運動変換部と、
前記直動軸の直線運動を回転運動に変換して、前記回転翼のピッチ角を変更する第2の運動変換部とを備え、
前記第2の運動変換部は、
前記推力発生モータによって回転させられるハブと、
前記ハブに取り付けられ、前記回転翼をそれぞれ支持する複数のグリップと、
前記直動軸の直線運動を前記複数のグリップの回転運動に変換する第2の運動変換機構と、
前記第2の運動変換機構より前記ハブの径方向外側に配置されており、前記グリップの内側端部をそれぞれ回転可能に支持する複数の複列アンギュラ玉軸受と、
前記複列アンギュラ玉軸受より前記ハブの径方向外側に配置されており、前記グリップの内側端部がそれぞれ挿入される複数のスラスト軸受とを備え、
前記回転翼の回転時に、前記グリップにかかる遠心力が前記スラスト軸受に与えられるように構成されており、
前記複列アンギュラ玉軸受の外輪の外径は、前記スラスト軸受の外径より大きく、
前記ハブは、各グリップの内側端部と、前記第2の運動変換機構と、各複列アンギュラ玉軸受と、各スラスト軸受を収容するケースを有し、
前記ケースは、外端壁と複数の中空部を有し、各中空部は、同軸の円形孔である小径孔部と大径孔部を有し、前記小径孔部は前記大径孔部より小さい内径を有し、前記大径孔部には前記複列アンギュラ玉軸受が配置され、前記小径孔部には前記スラスト軸受が配置されており、
前記グリップにかかる前記遠心力が前記スラスト軸受に与えられた場合に、前記スラスト軸受は、前記ケースの外端壁の内面に支持される
ことを特徴とする推力発生装置。
【請求項2】
前記第2の運動変換部は、さらに、
前記グリップの内側端部がそれぞれ挿入され、前記複列アンギュラ玉軸受にそれぞれ挿入される複数の筒を備え、
前記グリップの内側端部の外周面は、前記ハブの径方向外側ほど小さい直径を有する部分を有し、
前記筒は、スリーブと、前記スリーブより前記ハブの径方向外側に配置されたフランジを有し、前記スリーブの内周面は、前記ハブの径方向外側ほど小さい直径を有し、
前記スリーブが前記複列アンギュラ玉軸受の内輪に挿入され、前記フランジは前記小径孔部に配置され、
前記グリップにかかる前記遠心力が前記筒の前記スリーブにかかった場合に、前記筒の前記フランジは前記スラスト軸受に前記遠心力を伝達する
ことを特徴とする請求項1に記載の推力発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推力発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧を用いることなく、電動でプロペラ(回転翼)のピッチを変更する技術としては、例えば、特許文献1に開示がある。この技術では、回転主軸が中空状に形成され、この回転主軸内に操作ロッドが軸線方向にのみ移動可能に同心状に配設され、その操作ロッドの下端に固着されたアームが、リンクおよびレバー機構を介して羽根の各支持軸に連結されている。そして、操作ロッドを軸線方向に往復移動させることによって、リンクおよびレバー機構を介して各羽根の取付角度が変化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチコプター、飛行機、回転翼機、飛行可能な自動車などの飛行可能な飛翔体の軽量化のためには、飛翔体に推力を与える推力発生装置が小型で軽量であることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、小型化および軽量化を実現することができる推力発生装置を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る推力発生装置は、複数の回転翼を回転させて推力を発生させる推力発生モータと、前記回転翼のピッチ角を変更するピッチ角変更モータと、前記ピッチ角変更モータに連結された回転伝達部と、直動軸と第1の運動変換機構を有し、前記第1の運動変換機構が前記回転伝達部と前記直動軸に連結可能であって、前記回転伝達部の回転を前記直動軸の直線運動に変換する、第1の運動変換部と、前記直動軸の直線運動を回転運動に変換して、前記回転翼のピッチ角を変更する第2の運動変換部とを備える。前記第2の運動変換部は、前記推力発生モータによって回転させられるハブと、前記ハブに取り付けられ、前記回転翼をそれぞれ支持する複数のグリップと、前記直動軸の直線運動を前記複数のグリップの回転運動に変換する第2の運動変換機構と、前記第2の運動変換機構より前記ハブの径方向外側に配置されており、前記グリップの内側端部をそれぞれ回転可能に支持する複数の複列アンギュラ玉軸受と、前記複列アンギュラ玉軸受より前記ハブの径方向外側に配置されており、前記グリップの内側端部がそれぞれ挿入される複数のスラスト軸受とを備える。前記回転翼の回転時に、前記グリップにかかる遠心力が前記スラスト軸受に与えられるように構成されている。前記複列アンギュラ玉軸受の外輪の外径は、前記スラスト軸受の外径より大きい。前記ハブは、各グリップの内側端部と、前記第2の運動変換機構と、各複列アンギュラ玉軸受と、各スラスト軸受を収容するケースを有する。前記ケースは、外端壁と複数の中空部を有し、各中空部は、同軸の円形孔である小径孔部と大径孔部を有し、前記小径孔部は前記大径孔部より小さい内径を有し、前記大径孔部には前記複列アンギュラ玉軸受が配置され、前記小径孔部には前記スラスト軸受が配置されている。前記グリップにかかる前記遠心力が前記スラスト軸受に与えられた場合に、前記スラスト軸受は、前記ケースの外端壁の内面に支持される。
この態様においては、回転翼の回転時に、回転翼ひいてはグリップにかかる遠心力がスラスト軸受に与えられる。グリップにかかる遠心力がスラスト軸受に与えられた場合に、スラスト軸受は、ケースの外端壁の内面に支持される。ケースの各中空部において、大径孔部にはグリップを回転可能に支持する複列アンギュラ玉軸受が配置され、小径孔部にはスラスト軸受が配置される。したがって、複列アンギュラ玉軸受とスラスト軸受を個別に支持する構造体を設ける場合に比べて、推力発生装置の小型化を図ることができる。
【0007】
好ましくは、前記第2の運動変換部は、さらに、前記グリップの内側端部がそれぞれ挿入され、前記複列アンギュラ玉軸受にそれぞれ挿入される複数の筒を備える。前記グリップの内側端部の外周面は、前記ハブの径方向外側ほど小さい直径を有する部分を有する。前記筒は、スリーブと、前記スリーブより前記ハブの径方向外側に配置されたフランジを有し、前記スリーブの内周面は、前記ハブの径方向外側ほど小さい直径を有する。前記スリーブが前記複列アンギュラ玉軸受の内輪に挿入され、前記フランジは前記小径孔部に配置される。前記グリップにかかる前記遠心力が前記筒の前記スリーブにかかった場合に、前記筒の前記フランジは前記スラスト軸受に前記遠心力を伝達する。
この場合には、回転翼ひいてはグリップにかかる遠心力によって、グリップの内側端部の外周面は筒のスリーブの内周面にフィットする。遠心力が筒にかかった場合に、筒のフランジはスラスト軸受に遠心力を伝達し、スラスト軸受は、ケースの外端壁の内面に支持されるので、筒は遠心力がかかったグリップの抜け止めとして機能する。また、遠心力がある程度、増加すると、グリップの内側端部の外周面が筒のスリーブの内周面にフィットするので、グリップの長手軸線は理想の向きに調整される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、回転翼が取り付けられた実施形態に係る推力発生装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、回転翼が取り付けられた実施形態に係る推力発生装置を示す側面図である。
【
図3】
図3は、回転翼が取り付けられた実施形態に係る推力発生装置を示す側面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る推力発生装置の分解斜視図である。
【
図5】
図5は、他の方向から見た実施形態に係る推力発生装置の分解斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る推力発生装置の平面図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る推力発生装置の回転伝達部と回転直動変換部の平面図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る推力発生装置の回転伝達部と回転直動変換部の斜視図である。
【
図12】
図12は、回転直動変換部の直動伝達軸とボールねじナットの斜視図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る推力発生装置の直動回転変換部の直動体を示す斜視図であり、直動体の位置は
図2の回転翼のピッチ角に対応する。
【
図14】
図14は、直動体を示す斜視図であり、直動体の位置は
図3の回転翼のピッチ角に対応する。
【
図15】
図15は、実施形態に係る推力発生装置のハブの分解斜視図である。
【
図19】
図19は、実施形態に係る推力発生装置のグリップとその付近の断面図である。
【
図22】
図22は、実施形態に係る推力発生装置の他の種類のグリップとその付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0010】
以下の説明では、推力発生装置で駆動される回転翼が3枚の場合を例にとるが、推力発生装置で駆動される回転翼は、必ずしも3枚に限定されることなく、N(Nは正の整数)枚であればよい。
【0011】
図1は、回転翼が取り付けられた実施形態に係る推力発生装置を示す斜視図である。
図2および
図3は、回転翼が取り付けられた実施形態に係る推力発生装置を示す側面図であり、回転翼のピッチ角が異なる。
【0012】
図1から
図3に示すように、推力発生装置1は、複数の回転翼H1~H3を有するロータまたはプロペラRを回転させる。プロペラRは推力発生装置1の真下に配置されている。プロペラRは、グリップP1~P3を有し、グリップP1~P3は、推力発生装置1から水平方向に放射状に延びるように回転翼H1~H3を支持する。
【0013】
推力発生装置1は、上方の装着部1Aを介して飛翔体の機体に装着される。推力発生装置1が装着された飛翔体は、例えば、モータで飛行するマルチコプター、飛行機、回転翼機および飛行機能を備える自動車などの飛行可能な機体または車体である。図示しないが、飛翔体の機体には、プロペラRが取り付けられた複数の推力発生装置1が装着されてよい。
【0014】
推力発生装置1は、推力発生モータ2、ピッチ角変更モータ5A、および運動伝達ユニット6を備える。推力発生モータ2は、プロペラRを回転させて、飛翔体に与えられる推力を発生させる。ピッチ角変更モータ5Aは、回転翼H1~H3のピッチ角θ1~θ3を変更する。回転翼H1~H3のピッチ角θ1~θ3を変更することにより、飛翔体に与えられる推力を変化させることができる。運動伝達ユニット6は、ピッチ角変更モータ5Aの回転運動を回転翼H1~H3に伝達する。
【0015】
図4および
図5は、推力発生装置1の分解斜視図である。
図6は推力発生装置1の平面図であり、
図7は
図6のVII-VII線矢視断面図である。
図4から
図7に示すように、推力発生モータ2は、ステータ2A、ロータ2Bおよびフレーム2Cを備える。ロータ2Bは、径方向内側にロータ軸4および中空部3A,3Cを備える。
【0016】
ステータ2Aは、電磁鋼鈑と巻線により構成され、ロータ2Bの外側に位置する。ステータ2Aは、ステータ2Aの外側に配置されたフレーム2Cの円環部に固定されている。推力発生装置1の装着部1Aは、フレーム2Cの中央に設けることができる。装着部1Aは開口1Bを備え、開口1Bには運動伝達ユニット6が挿入される。装着部1Aは、放射状に延びる複数のスポーク1Cを介して円環部に連結されている。フレーム2Cには内側円筒部1Dが形成されており、内側円筒部1Dは軸受U1を介してロータ軸4を回転自在に支持する。円環部、装着部1A、スポーク1Cおよび内側円筒部1Dを含むフレーム2Cは、例えば、ジュラルミンなどの合金の切削加工で形成することができる。
【0017】
推力発生モータ2のロータ2Bは、放射状に延びる複数のスポーク2Dを介してロータ軸4に連結されている。ロータ2Bは、中心軸線S0(
図2および
図3参照)を中心としてロータ軸4とともに回転する。ロータ2Bとロータ軸4は、軸受U1を介して、フレーム2Cに回転可能に支持されている。
【0018】
中空部3Aは、ロータ2Bとロータ軸4の間に設けられている。中空部3Aには、ピッチ角変更モータ5Aが配置されている。ピッチ角変更モータ5Aはフレーム2Cに固定されている。
【0019】
中空部3Cは、ロータ軸4の中心孔であり、ロータ軸4の軸線方向に沿って延びている。中空部3Cには、運動伝達ユニット6の一部が挿入されている。
【0020】
推力発生モータ2のロータ軸4の下端面には、中空円筒であるエクステンション9が固定され、エクステンション9は、ロータRのハブ10に固定されている。したがって、ハブ10は、中心軸線S0周りに回転可能な状態でフレーム2Cに支持される。ハブ10には、回転翼H1~H3を支持するグリップP1~P3が取り付けられている。このようにして、推力発生モータ2は、回転翼H1~H3を有するプロペラRを回転させる。すなわち、推力発生モータ2が動作して、ロータ2Bが回転すると、ロータ軸4が回転し、中心軸線S0を中心として回転翼H1~H3が回転する。回転翼H1~H3の回転に伴って、飛翔体に与えられる推力が発生する。
【0021】
エクステンション9は、推力発生装置1の軸線方向において、推力発生モータ2と回転翼H1~H3との間の間隔を保つためのスペーサであって、回転翼H1~H3が推力発生モータ2に衝突するのを防止する。エクステンション9の材料は、例えば、ジュラルミンである。
【0022】
回転翼H1~H3のピッチ角を変更するピッチ角変更モータ5Aは、推力発生モータ2のフレーム2Cに固定されており、推力発生モータ2の内部、具体的には、中空部3Aに配置されている。ピッチ角変更モータ5Aの回転軸は、推力発生モータ2のロータ軸4と同様に鉛直方向に延びる。すなわち、ピッチ角変更モータ5Aの回転軸とロータ軸4は平行な異なる軸である。
【0023】
次に、ピッチ角変更モータ5Aの回転運動を回転翼H1~H3に伝達する運動伝達ユニット6を説明する。運動伝達ユニット6は、回転伝達部6A、回転直動変換部7、および直動回転変換部8を備える。
【0024】
回転伝達部6Aは、ピッチ角変更モータ5Aの回転軸の回転を回転直動変換部7のボールねじ軸7Fに伝達する。ボールねじ軸7Fは、推力発生装置1の中心軸線S0に沿って鉛直方向に延び、ロータ軸4の中心孔である中空部3C内に配置されている。したがって、回転伝達部6Aはピッチ角変更モータ5Aの回転運動を中心軸線S0上の軸に伝達する。各回転伝達部は、ピッチ角変更モータの回転軸の回転に伴って回転する回転部材を有する。回転伝達部6Aはフレーム2Cに固定される。
【0025】
回転直動変換部(第1の運動変換部)7は、推力発生装置1の中心軸線S0に沿って鉛直方向に延びる直動伝達軸(直動軸)7Dと、回転伝達部6Aの回転を直動伝達軸7Dの直線運動に変換する運動変換機構を有する。回転直動変換部7の運動変換機構(第1の運動変換機構)は、回転伝達部6Aと直動伝達軸7Dに連結されている。この運動変換機構は、直動伝達軸7Dの上方に同軸に配置されたボールねじ軸7Fを有する。回転直動変換部7の上部は、推力発生モータ2内に収容されているが、回転直動変換部7の下部は、推力発生モータ2から下方に突出する。回転直動変換部7は、フレーム2Cに固定される。
【0026】
直動回転変換部(第2の運動変換部)8は、回転直動変換部7の直動伝達軸7Dの直線運動を回転運動に変換して、回転翼H1~H3のピッチ角を変更する。直動回転変換部8は、推力発生用モータ2の下方に位置する。
【0027】
ピッチ角変更モータ5A、回転伝達部6Aおよび回転直動変換部7は、推力発生モータ2のフレーム2Cに固定される。このため、ロータ軸4が回転しても、ピッチ角変更モータ5A、回転伝達部6Aおよび回転直動変換部7は、ロータ軸4の周りに回転しない。一方、直動回転変換部8は、ロータ軸4に支持される。このため、直動回転変換部8は、ロータ軸4の回転に伴ってロータ軸4の周りに回転する。
【0028】
図8~
図11に示すように、回転直動変換部7のボールねじ軸7Fの上端には、歯車G1が固定されている。回転伝達部6Aは、歯車G2,G3を有しており、歯車G3はピッチ角変更モータ5Aの回転軸に固定され、歯車G2は歯車G3と歯車G1に噛み合わせられている。したがって、回転伝達部6Aにおいて、歯車G3,G2はピッチ角変更モータ5Aの回転運動を歯車G1に固定されたボールねじ軸7Fに伝達することが可能である。歯車G1~G3の材料は、例えば、炭素鋼である。
【0029】
回転直動変換部7は支持部材F1に支持されている。
図4、
図6および
図7に示すように、支持部材F1は、推力発生モータ2のフレーム2Cの装着部1Aの開口1Bの中に配置されている。支持部材F1は、例えば4つのボルトJ1(
図8~
図11参照)によってフレーム2Cに支持されている。ボルトJ1は、例えば、支持部材F1の四隅に配置することができる。また、推力発生モータ2の中空部3Aには、支持部材F3が配置されている。支持部材F3もボルトJ3(
図8、
図9、
図11参照)によってフレーム2Cに支持されている。中空部3A内の支持部材F3にはボルトJ4によってピッチ角変更モータ5Aが固定されている(
図8~
図11参照)。
【0030】
図8~
図11に示すように、支持部材F1には支持部材F2がボルトJ2によって支持されており、支持部材F1と支持部材F2は、回転伝達部6Aの歯車G2を回転可能に支持する。支持部材F1~F3の材料は、例えば、アルミニウム合金である。
【0031】
この実施形態では、回転伝達部6Aにおいて、歯車がピッチ角変更モータ5Aの回転運動を回転直動変換部7のボールねじ軸7Fに伝達する。回転伝達部は、ベルト・プーリ機構またはチェーン・スプロケットを有してもよい。具体的には、ボールねじ軸7Fにプーリを固定し、このプーリとピッチ角変更モータ5Aの回転軸に固定されたプーリにベルトを巻いてもよい。ベルトとしてタイミングベルトを使用してもよい。ボールねじ軸7Fにスプロケットを固定し、このスプロケットとピッチ角変更モータ5Aの回転軸に固定されたスプロケットにチェーンを巻いてもよい。
【0032】
この実施形態では、回転直動変換部7は、運動変換機構としてボールねじを用いて、ボールねじ軸7Fの回転運動を直動伝達軸7Dの直線運動に変換する。運動変換機構は、ボールねじ軸7F、ボールねじナット7Gおよび一対の直動案内部7Eを備える。但し、ボールねじの代わりに、すべりねじ、またはその他の送りねじを用いてもよい。この実施形態では、回転直動変換部7の運動変換機構としてボールねじを用いることにより、すべりねじを用いた場合に比べて、駆動トルクを低減することができ、ピッチ角変更モータ5Aの省電力化を図ることができる。
【0033】
ボールねじ軸7Fは、鉛直方向に延びている。ボールねじ軸7Fは、
図7に示すように、支持部材F1の筒状部分F1aに固定された軸受U2によって回転可能に支持されており、歯車G1の回転に伴ってボールねじ軸7Fの長手軸線を中心にして回転する。
【0034】
図9および
図10に示すように、ボールねじナット7Gは、ボールねじ軸7Fに噛み合わせられている。ボールねじナット7Gも鉛直方向に延びており、ボールねじナット7Gの下方に配置された鉛直方向に延びる直動伝達軸7Dに固定されている。
【0035】
図9から
図11に示すように、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dは、支持部材F1の筒状部分F1aから突出する一対の平行な長尺な板壁である直動案内部7Eに挟まれており、一対の直動案内部7Eによって回転しないように規制されている。ボールねじ軸7Fの回転に伴って、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dは、ボールねじ軸7Fの軸線方向に沿って鉛直方向に直線運動する。直動案内部7Eは、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dの直線運動を許容する。換言すれば、直動案内部7Eは、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dを直線運動するよう案内する。したがって、歯車G1とともにボールねじ軸7Fが回転すると、直動案内部7Eに案内されて、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dが鉛直方向に直線運動する。直動案内部7Eは支持部材F1と一体的に設けることができる。
【0036】
図9および
図10に示すように、直動伝達軸7Dの上部には、鉛直方向に延びる空洞が形成されており、この空洞に、ボールねじ軸7Fに噛み合わせられたボールねじナット7Gが挿入されている。
【0037】
図10および
図11に示すように、直動伝達軸7Dの上部の外周面には、2つの被案内平坦面7Cが形成されている。2つの被案内平坦面7Cは互いに平行である。一方、2つの直動案内部7Eは、それぞれ案内平坦面7E1を有し、これらの案内平坦面7E1は互いに平行である。2つの被案内平坦面7Cは、2つの直動案内部7Eの案内平坦面7E1に対してそれぞれ対向する。但し、被案内平坦面7Cは案内平坦面7E1に接触せず、被案内平坦面7Cと案内平坦面7E1の間には微小なクリアランスが設けられている。
【0038】
図10および
図12に示すように、被案内平坦面7Cの各々には凹部が形成され、凹部には低摩擦材料、例えばフッ素樹脂から形成された摺動部材7Hが嵌め込まれている。摺動部材7Hの一部は凹部から突出し、直動案内部7Eの案内平坦面7E1に摺動可能に接触する。したがって、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dが鉛直方向に直線運動する時、摺動部材7Hは直動案内部7Eとの摩擦を減少させる。摺動部材7Hは凹部に接着剤などで固定してもよい。摩擦をさらに低減するため、被案内平坦面7Cと案内平坦面7E1の間のクリアランスに、グリース等の潤滑剤をコーティングしてもよい。
【0039】
図9から
図12に示すように、ボールねじナット7Gの上端にはフランジ7Aが形成され、直動伝達軸7Dの上端にもフランジ7Bが形成されている。フランジ7A,7Bは、円筒を平行な2つの平面で切り取った形状であり、フランジ7Aは2つの円弧状の突出部分7A1と2つの平面部分7A2を有し、フランジ7Bは2つの円弧状の突出部分7B1と2つの平面部分7B2を有する。
【0040】
フランジ7A,7Bの円弧状の突出部分7A1,7B1は、一対の直動案内部7Eの間から露出している。フランジ7A,7Bの突出部分7A1,7B1はボルトJ5によって固定されており、したがって直動伝達軸7Dはボールねじナット7Gに固定されている。
【0041】
一方、
図10に示すように、フランジ7A,7Bの平面部分7A2,7B2は、2つの直動案内部7Eの案内平坦面7E1にそれぞれ対向する。フランジ7Aの平面部分7A2は、直動案内部7Eの案内平坦面7E1には接触しない。フランジ7Bの平面部分7B2は、被案内平坦面7Cの部分であり、ここに形成された凹部に摺動部材7Hが嵌め込まれている。このように、フランジ7A,7Bに平面部分7A2,7B2を設けることにより、一対の直動案内部7Eの外径を小さくすることができ、ロータ軸4の径の増大を抑制しつつ、回転直動変換部7をロータ軸4内に収納することが可能である。したがって、推力発生装置1のさらなる小型化および軽量化を実現することができる。
【0042】
図7に示すように、直動伝達軸7Dの上部を含む回転直動変換部7の大部分は推力発生モータ2の内部に配置されている一方、直動伝達軸7Dの下部は中空円筒であるエクステンション9の内部空間を貫通し、さらにプロペラRのハブ10の内部に到達する。
【0043】
直動伝達軸7Dの下部は、回転翼H1~H3のピッチ角を変更するために、回転直動変換部7の直線運動を回転運動に変換する直動回転変換部8に連結されている。この実施形態では、直動回転変換部8は、運動変換機構(第2の運動変換機構)としてラックピニオンを用いて、回転直動変換部7の直動伝達軸7Dの直線運動を回転運動に変換する。
【0044】
図4および
図5に示すように、直動回転変換部8は、直動体11、ラックA1~A3、ケース21、支持軸M1~M3、軸受E1~E3、シャフトアダプタD1~D3およびピニオンB1~B3を備える。
【0045】
直動体11は正三角柱の形状を有し、その中央には空洞が形成されている。
図7に示すように、直動伝達軸7Dの下端は、軸受U3の内輪に嵌め込まれており、軸受U3の外輪は直動体11の空洞に嵌め込まれている。したがって、直動体11は直動伝達軸7Dの周りを回転可能であり、直動伝達軸7Dとともに鉛直方向に直線運動する。軸受U3としては、例えば、複列アンギュラ玉軸受を用いることができる。
【0046】
ラックA1~A3は、直動体11の3つのコーナーに固定されており、直動体11とともに直線運動する。ラックA1~A3は、それぞれピニオンB1~B3と噛み合わせられ、ピニオンB1~B3は、直動体11とラックA1~A3の直線運動に伴って、同時に回転運動させられる。
【0047】
支持軸M1~M3は、プロペラRの回転翼H1~H3を支持するグリップP1~P3の延長線上にそれぞれ配置されている。すなわち、支持軸M1~M3は、推力発生装置1から水平方向に放射状に延びるようにグリップP1~P3をそれぞれ支持する。グリップP1と支持軸M1は一体的に設け、グリップP2と支持軸M2は一体的に設け、グリップP3と支持軸M3は一体的に設けることができる。グリップP1~P3と支持軸M1~M3の材料は、例えば、ジュラルミンである。但し、グリップP1~P3と支持軸M1~M3の耐久性を増大させるため、グリップP1~P3と支持軸M1~M3の材料として、例えば、チタンを用いてもよい。
【0048】
支持軸M1~M3は、ケース21に固定された軸受E1~E3によって、支持軸M1~M3の軸回りに回転可能に支持されている。E1~E3としては、例えば、スラスト軸受、好ましくは複列アンギュラ玉軸受を用いることができる。
【0049】
ピニオンB1~B3は、それぞれ支持軸M1~M3の先端に固定されている。したがって、直動体11とラックA1~A3の直線運動に伴って、ピニオンB1~B3が回転すると、支持軸M1~M3もグリップP1~P3とともに回転する。ピニオンB1~B3およびラックA1~A3の材料は、例えば、クロムモリブデン鋼である。
【0050】
ケース21は、プロペラRのハブ10の一部である。ケース21は、直動体11、ラックA1~A3、支持軸M1~M3、軸受E1~E3、シャフトアダプタD1~D3およびピニオンB1~B3を収容する。したがって、ケース21は、直動回転変換部8のケースであるとみなすこともできる。
【0051】
ケース21の上部は、中空円筒であるエクステンション9の下端に固定され、エクステンション9の上端は、推力発生モータ2のロータ軸4に固定されている。したがって、ケース21はロータ2Bとロータ軸4とともに、推力発生装置1の軸線周りに回転する。
【0052】
ケース21に固定された軸受E1~E3は、推力発生装置1の軸線周りの回転時に、回転翼H1~H3にかかる遠心力に対抗して支持軸M1~M3を支持することができる。
【0053】
シャフトアダプタD1~D3は、それぞれ支持軸M1~M3の外側、かつ軸受E1~E3の内側に配置され、それぞれ支持軸M1~M3に支持される。各シャフトアダプタD1~D3の内周面は、径が変化する支持軸M1~M3の外周面にフィットするように形成され、各シャフトアダプタD1~D3の外周面は、円柱形の軸受E1~E3の内周面にフィットするように形成される。シャフトアダプタD1~D3により、各支持軸M1~M3の径の変化に対応しつつ、軸受E1~E3は支持軸M1~M3を支持することができる。ケース21およびシャフトアダプタD1~D3の材料は、例えば、ジュラルミンである。
【0054】
ケース21に収容された、直動体11、ラックA1~A3、支持軸M1~M3、軸受E1~E3、シャフトアダプタD1~D3およびピニオンB1~B3は、ケース21とともに、推力発生装置1の軸線周りに回転する。上記の通り、直動体11は軸受U3の外輪に固定され、軸受U3の内輪に固定された直動伝達軸7Dとは独立して、推力発生装置1の軸線周りに回転することが可能である。
図7に示すように、軸受U3の内輪は、例えば、ナット15によって直動伝達軸7Dの下端に固定することができ、軸受U3の外輪は、例えば、C型留め輪16にて直動体11に固定することができる。
【0055】
図13は、
図2の回転翼のピッチ角に対応した直動体11の位置を示し、
図14は、
図3の回転翼のピッチ角に対応した直動体11の位置を示す。
図13および
図14に示すように、直動回転変換部8は、直動体11の直動方向の移動範囲を制限するため、ベース13、リフトガイドT1~T3およびナットS1~S3を備える。ベース13は、輪郭が直動体11の輪郭と同じ正三角形の板であり、ベース13の中央には、直動伝達軸7Dの下端が通過可能な貫通した開口14が形成されている。ベース13は、鉛直方向に延びる棒である互いに平行なリフトガイドT1~T3を支持する。リフトガイドT1~T3は、ベース13と一体的に設けることができる。
【0056】
正三角柱の形状を有する直動体11は、3つの側面Z1~Z3を有する。側面Z1~Z3には、ラックA1~A3がそれぞれ固定されている。直動体11の中央には、空洞12が形成され、空洞12には、軸受U3(
図7参照)が配置されている。
【0057】
直動体11の3つのコーナーには、開口V1~V3がそれぞれ形成されている。開口V1~V3には、ベース13に固定されたリフトガイドT1~T3がそれぞれ挿入される。リフトガイドT1~T3の下端には、ナットS1~S3がそれぞれ装着される。
【0058】
図15はハブ10の分解斜視図である。
図16はハブ10のケース21の下面図である。
図17は
図16のXVII-XVII線矢視断面図である。ハブ10は、ケース21、外蓋22および中蓋23を備える。ケース21は、収容部21A、開口21B、中空部Q1~Q3および開口K1~K3(
図4および
図5参照)を備える。
【0059】
収容部21Aは、ケース21の中央に形成されており、ラックA1~A3が取り付けられた直動体11をベース13とともに収容する。収容部21Aは、例えば、ケース21内に設けられた中空部または凹部である。収容部21Aの平面形状は、ベース13の平面形状に対応し、ほぼ正三角形にすることができる。開口21Bは、開口21Bを通じて、収容部21AにラックA1~A3が取り付けられた直動体11とベース13を配備するために形成されている。
【0060】
中空部Q1~Q3は、収容部21Aの外側に120度の角間隔をおいて配置され、収容部21Aに連通する。中空部Q1には、支持軸M1、ピニオンB1、軸受E1およびシャフトアダプタD1が配置され、中空部Q2には、支持軸M2、ピニオンB2、軸受E2およびシャフトアダプタD2が配置され、中空部Q3には、支持軸M3、ピニオンB3、軸受E3およびシャフトアダプタD3が配置される。これらの中空部Q1~Q3には、開口21Bと収容部21Aを通じて、ピニオンB1~B3、軸受E1~E3およびシャフトアダプタD1~D3を配備することが可能である。
【0061】
開口K1~K3は、ケース21の外側面に120度の角間隔をおいて形成されており、それぞれ中空部Q1~Q3に連通する。支持軸M1~M3をそれぞれ開口K1~K3に挿入することにより、支持軸M1~M3を収容部21A内に配備することが可能である。
【0062】
中蓋23は、複数のボルトJ7によってケース21に固定される。さらに中蓋23をカバーする外蓋22が中蓋23に固定される。中蓋23の材料は、例えば、ジュラルミンであり、外蓋22の材料は、例えば、樹脂である。
【0063】
中蓋23には、複数の貫通孔23Aが形成されている。リフトガイドT1~T3(
図13および
図14参照)の下端は、中蓋23の貫通孔23Aにそれぞれ挿入されて、中蓋23の外側に突出する。中蓋23の外側において、リフトガイドT1~T3の下端にはナットS1~S3が装着される。これにより、ケース21の収容部21A内にベース13を配置することができる。
【0064】
上記の構成の下、ピッチ角変更モータ5Aが回転すると、回転伝達部6Aにおいて、歯車G3,G2がピッチ角変更モータ5Aの回転運動を歯車G1に伝達する(
図8~
図11参照)。歯車G1は、回転直動変換部7のボールねじ軸7Fに固定されているので、ピッチ角変更モータ5Aの回転運動はボールねじ軸7Fに伝達される。ボールねじ軸7Fが回転すると、ボールねじナット7Gと直動伝達軸7Dは、直動案内部7Eに案内されて、鉛直方向に直線運動する(
図9~
図11参照)。
【0065】
直動伝達軸7Dの直線運動は、直動体11に伝達される。直動伝達軸7Dの直線運動に伴って、直動体11とともに直動体11に固定されたラックA1~A3が鉛直方向に直線運動する。直動体11とともにラックA1~A3が直線運動するとき、リフトガイドT1~T3は、直動体11を案内する(
図13および
図14参照)。直動体11の移動範囲は、ベース13およびナットS1~S3にて制限される。ラックA1~A3には、それぞれピニオンB1~B3が噛み合わせられており、ラックA1~A3が直線運動すると、支持軸M1~M3に固定されたピニオンB1~B3が同時に回転する(
図4および
図5参照)。したがって、ピニオンB1~B3の回転運動に伴って、支持軸M1~M3がそれぞれの軸線周りに回転する。支持軸M1~M3には、回転翼H1~H3を支持するグリップP1~P3が取り付けられており、支持軸M1~M3の回転運動は回転翼H1~H3に伝達される。したがって、回転翼H1~H3のピッチ角が同時に変更される。例えば、直動体11が
図13の位置にあるときは、回転翼H1~H3のピッチ角が
図2に示すように設定され、直動体11が
図14の位置にあるときは、回転翼H1~H3のピッチ角が
図3に示すように設定される。
【0066】
推力発生装置1は、ピッチ角変更モータ5Aの回転角ひいては回転翼H1~H3のピッチ角を変更することにより、飛翔体に与えられる推力を変化させることができる。ピッチ角の変更により推力を変化させることで、推力発生モータ2の回転数を変えて推力を変化させる方法に比べ、推力変化の応答速度を高めることができ、飛翔体の安定性を向上させることが可能である。また、回転翼H1~H3のピッチ角を変更することにより、飛翔体に与えられる推力を変更できるので、回転翼H1~H3を大きくする必要がなく、推力発生モータ2の回転数を過剰に増加させる必要もない。回転翼H1~H3を大きくする必要がないので、飛翔体の大型化および重量増を抑制することができる。また、推力発生モータ2の回転数の増加が抑制されるので、回転数に依存する騒音を抑制することができる。
【0067】
また、推力発生装置1では、回転翼H1~H3のピッチ角を電動で変更することにより、油圧を用いる必要がなくなる。このため、油の給排を制御する油圧制御ユニットおよび回転体に対してオイルシールを行うための複雑な回転シール機構を設ける必要がなくなり、推力発生装置1の大型化を抑制することが可能となるとともに、推力発生装置1の維持および修理を容易にすることができる。
【0068】
この実施形態では、直動回転変換部8の運動変換機構として、ラックピニオンを用いることにより、ラックA1~A3の各々の長手方向を直動体11の直動方向に揃えることが可能であり、ピニオンB1~B3の各々を支持軸と同心に揃えることが可能である。このため、3個のラックピニオンの配置をコンパクトにまとめることができ、ハブ10の大型化を抑制しつつ、直動回転変換部8をハブ10内に収容することが可能である。
【0069】
以下、回転翼H1~H3を支持するグリップP1~P3をハブ10で支持する構造をより詳細に説明する。
【0070】
図18は、グリップP1を支持するハブ10の一部を拡大して示す断面図である。
図19は、グリップP1とその付近の断面図である。
図20は、
図19に示された構成要素の分解斜視図である。
図21は、組み合わせられた
図19に示された構成要素の正面図である。
【0071】
図18に示すように、ハブ10のケース21は、直動伝達軸7Dと、直動伝達軸7Dの直線運動を複数のグリップP1~P3の回転運動に変換する直動回転変換部8の運動変換機構(特に、直動体11、ラックA1~A3、ピニオンB1~B3)を収容する。ケース21は、さらに支持軸M1~M3と、支持軸M1~M3を回転可能に支持する軸受E1~E3を収容する。支持軸M1~M3は、それぞれグリップP1~P3の内側端部とみなすことができる。
【0072】
ハブ10は、ケース21、外蓋22および中蓋23に分解可能であるが、ケース21自体は分割不可能である。ケース21は、グリップP1~P3の外側端部がケース21の外側に配置された状態でグリップP1~P3の内側端部である支持軸M1~M3が挿入可能な複数の開口K1~K3を有する。
【0073】
以下では、グリップP1および回転翼H1を支持する機構を詳述するが、他のグリップP2,P3および回転翼H2~H3を支持する機構もこれと同様である(グリップP1~P3は、同形同大の同じ種類である)。
【0074】
図18~
図21に示すように、支持軸M1の周囲には、ゴム環30、スラストワッシャ31、針状スラスト軸受32、スラストワッシャ33、シャフトアダプタD1、軸受E1、ピニオンB1、C型留め輪34および締結リング35が配置されている。
【0075】
ゴム環30には、支持軸M1が挿入される。
図18に示すように、ゴム環30は、ケース21の中空部Q1の外端壁Q1aの外面とグリップP1の外側端部との間に介在させられ、開口K1を閉塞し、ケース21の内部へのダストの侵入を抑制しつつ、軸受用グリースの飛散を防止する。支持軸M1を含むグリップP1は、ゴム環30に対して回転可能である。
【0076】
針状スラスト軸受32の両端面には、スラストワッシャ31とスラストワッシャ33が接触させられる。スラストワッシャ31とスラストワッシャ33は、軌道輪すなわちリングであって、針状スラスト軸受32の複数のニードルに接触させられる。スラストワッシャ31、針状スラスト軸受32およびスラストワッシャ33には、支持軸M1が挿入される。スラストワッシャ31、針状スラスト軸受32およびスラストワッシャ33の内周面には、支持軸M1は接触せず、支持軸M1を含むグリップP1は、これらに対して回転可能である。
【0077】
シャフトアダプタ(筒)D1には、支持軸M1が挿入され、シャフトアダプタD1は軸受E1に回転可能に挿入される。軸受E1は、例えば、ラジアル軸受、好ましくは複列アンギュラ玉軸受である。シャフトアダプタD1は、グリップP1~P3の長手軸線を含む平面を境界として分割可能であって、2つのセグメントD1a,D1bを有する。セグメントD1a,D1bは組み合わせられて、1つの段付き円筒であるシャフトアダプタD1を構成する。
【0078】
セグメントD1a,D1bから構成されたシャフトアダプタD1は、スリーブ40とフランジ41を有する。フランジ41は、スリーブ40よりハブ10の径方向外側に配置されている。スリーブ40は軸受E1の内輪に挿入される。フランジ41に軸受E1の端面が対向させられる。
【0079】
シャフトアダプタD1のフランジ41の周囲には締結リング35が巻かれている。締結リング35は有端リングであって、弾性復元力によって、フランジ41を拘束し、組み合わせられたセグメントD1a,D1bが分離することを防止する。
【0080】
支持軸M1の端部M1aは、ほぼ楕円柱状に形成されており、ピニオンB1のほぼ楕円柱状の中心孔に挿入されている。したがって、ピニオンB1は支持軸M1に対して回転しない。支持軸M1の端部M1aには、溝M1bが形成されており、溝M1bにはC型留め輪34が嵌め込まれている。C型留め輪34はピニオンB1の軸線方向の移動を規制し、ピニオンB1を支持軸M1の端部M1aに固定する。
【0081】
ケース21の内部において、軸受E1~E3は、直動体11、ラックA1~A3、ピニオンB1~B3よりハブ10の径方向外側に配置され、針状スラスト軸受32は、軸受E1~E3よりハブ10の径方向外側に配置される。
【0082】
グリップP1の外側端部は、2股に分かれており、2つの平行な平板部を有する。図示しないが、これらの平板部の間には、回転翼H1の基部が挟まれる、これらの平板部には、複数の貫通孔が形成され、貫通孔を貫通するボルト36と、ボルト36に噛み合わせられるナット37によって、回転翼H1の基部がグリップP1の外側端部に固定されている。平板部の貫通孔の周囲にはザグリ穴が形成されており、これらのザグリ穴にはワッシャ38が配置されている。ワッシャ38にはボルト36が挿入されている。
【0083】
図17および
図18に示すように、ケース21の中空部Q1は、小径孔部Q1bと大径孔部Q1cを有する。小径孔部Q1bと大径孔部Q1cは同軸の円形孔であり、ハブ10の径方向外側に配置された小径孔部Q1bは、ハブ10の径方向内側に配置された大径孔部Q1cより内径が小さい。小径孔部Q1bと大径孔部Q1cの間には段差壁Q1dが設けられている。
【0084】
スラストワッシャ31、針状スラスト軸受32およびスラストワッシャ33は、ケース21の中空部Q1の小径孔部Q1b内に配置され、スラストワッシャ31が中空部Q1の外端壁Q1aの内面に接触させられる。反対側のスラストワッシャ33には、シャフトアダプタD1のフランジ41が接触させられる。締結リング35とフランジ41も小径孔部Q1b内に配置される。
【0085】
軸受E1の外輪の外径は、針状スラスト軸受32の外径より大きい。シャフトアダプタD1のスリーブ40が挿入された軸受E1は、ケース21の中空部Q1の大径孔部Q1c内に配置され、軸受E1の外輪の端面は中空部Q1の段差壁Q1dに接触させられる。軸受E1の内輪の他端面は、支持軸M1の端部M1aに固定されたピニオンB1の端面に接触させられている。
【0086】
したがって、支持軸M1の軸線方向において、スラストワッシャ31、針状スラスト軸受32、スラストワッシャ33およびシャフトアダプタD1は、ピニオンB1と、ケース21の中空部Q1の外端壁Q1aの内面との間で挟まれている。また、支持軸M1の軸線方向において、軸受E1は、ピニオンB1と、ケース21の中空部Q1の段差壁Q1dとの間で挟まれている。
【0087】
シャフトアダプタD1において、スリーブ40の内周面は、ハブ10の径方向外側ほど小さい直径を有する。一方、支持軸M1の外周面において、シャフトアダプタD1に挿入される部分M1cは、ハブ10の径方向外側ほど小さい直径を有する。
【0088】
したがって、回転翼H1にかかる遠心力によって、ハブ10の径方向外側にグリップP1が引っ張られると、支持軸M1の外周面の部分M1cはシャフトアダプタD1のスリーブ40の内周面にフィットする。このようにして、遠心力がシャフトアダプタD1のスリーブ40にかかった場合に、シャフトアダプタD1のフランジ41は針状スラスト軸受32に遠心力を(針状スラスト軸受32へのスラスト力として)伝達する。遠心力が針状スラスト軸受32に与えられた場合に、スラストワッシャ31がケース21の外端壁Q1aの内面に接触して、針状スラスト軸受32は、ケース21の外端壁Q1aの内面に支持される。このように、回転翼H1の回転時に、グリップP1にかかる遠心力が針状スラスト軸受32に与えられるように構成されている。
【0089】
遠心力がシャフトアダプタD1にかかった場合に、シャフトアダプタD1のフランジ41は針状スラスト軸受32に遠心力を伝達し、針状スラスト軸受32は、ケース21の外端壁Q1aの内面に支持されるので、シャフトアダプタD1は遠心力がかかったグリップP1~P3の抜け止めとして機能する。
【0090】
また、遠心力がある程度、増加すると、支持軸M1の外周面の部分M1cがシャフトアダプタD1のスリーブ40の内周面にフィットするので、グリップP1の長手軸線は理想的な向きに調整される。
【0091】
この実施形態では、ケース21の各中空部Q1において、大径孔部Q1cにはグリップP1~P3を回転可能に支持する複列アンギュラ玉軸受E1~E3が配置され、小径孔部Q1bには針状スラスト軸受32が配置される。したがって、複列アンギュラ玉軸受E1~E3と針状スラスト軸受32を個別に支持する構造体を設ける場合に比べて、推力発生装置1の小型化を図ることができる。
【0092】
この実施形態では、支持軸を含むグリップが回転翼の種類に応じて変更可能である。
図22は、グリップP1~P3と異なる他の種類のグリップP4とその付近の断面図である。
図23は、
図22に示された構成要素の分解斜視図である。
【0093】
ケース21の外側に配置されるグリップP4の外側端部は、グリップP1の外側端部より大きく、回転翼H1~H3より大きくて重い回転翼(図示せず)を支持するのに適する。したがって、推力発生装置が装着される飛翔体の重量、ひいては推力発生装置に要求される推力に応じて、適切な回転翼が選択されると、その回転翼に適するグリップをハブ10に取り付けることが可能である。
【0094】
グリップP4の外側端部は、2股に分かれており、2つの平行な平板部を有する。図示しないが、これらの平板部の間には、回転翼の基部が挟まれる、これらの平板部には、複数の貫通孔が形成され、貫通孔を貫通するボルト36aと、ボルト36aに噛み合わせられるナット37aによって、回転翼の基部がグリップP4の外側端部に固定されている。
【0095】
他方、グリップP4の内側端部である支持軸M1はグリップP1の支持軸M1と同形同大である。したがって、直動体11、ラックA1~A3、ピニオンB1~B3、軸受E1~E3、およびその他の構成要素をハブ10に残した状態で、支持軸を含むグリップが回転翼の種類に応じて変更可能である。グリップが変更可能な一方、ラジアル軸受E1~E3および複雑な直動体11、ラックA1~A3、ピニオンB1~B3、およびその他の構成要素は、変更せずに使用可能であるので、製造コストの増加を最小限にすることができる。
【0096】
この実施形態では、グリップの内側端部である支持軸が挿入され、ラジアル軸受に挿入される各シャフトアダプタは、グリップの長手軸線を含む平面を境界として分割可能である。ハブ10にグリップを組み込む場合には、支持軸M1~M3がケース21の開口K1~K3を通じて挿入されて、ケース21の内部に配置される。ケース21の内部において、軸受E1~E3はグリップP1~P3を回転可能に支持できるように、支持軸M1~M3の周囲に配置される。具体的には、支持軸M1~M3は、シャフトアダプタD1~D3に挿入され、シャフトアダプタD1~D3が軸受E1~E3に挿入される。シャフトアダプタD1~D3の各々は、グリップP1~P3の長手軸線を含む平面を境界として分割可能であって、容易に支持軸M1~M3の周囲に配置し、組み合わせた状態で容易に軸受E1~E3に挿入することが可能である。したがって、ケース21が分割不可能であっても、ケース21の内部において、容易に支持軸M1~M3の周囲に軸受E1~E3を配置することが可能である。よって、各グリップP1~P3を容易に変更することができる。
【0097】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0098】
例えば、上記の実施形態においては、プロペラRは推力発生装置1の真下に配置され、推力発生装置1は飛翔体の機体の下部に装着されるが、プロペラRは推力発生装置1の真上に配置され、推力発生装置1は飛翔体の機体の上部に装着されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 推力発生装置
2 推力発生モータ
R プロペラ
H1~H3 回転翼
P1~P3 グリップ
M1~M3 支持軸
4 ロータ軸
5A ピッチ角変更モータ
6 運動伝達ユニット
6A 回転伝達部
7 回転直動変換部
7D 直動伝達軸
7E 直動案内部
7F ボールねじ軸
7G ボールねじナット
8 直動回転変換部
10 ハブ
11 直動体
A1~A3 ラック
B1~B3 ピニオン
D1~D3 シャフトアダプタ
D1a セグメント
D1b セグメント
40 スリーブ
41 フランジ
E1~E3 軸受
21 ケース
K1~K3 開口
Q1~Q3 中空部
Q1a 外端壁
32 針状スラスト軸受