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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】光モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/022 20210101AFI20231129BHJP
   H01L 23/38 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H01S5/022
H01L23/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020071636
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021168361
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】白地 央樹
(72)【発明者】
【氏名】京野 孝史
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】古川 将人
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-014351(JP,A)
【文献】特開2018-195752(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159827(WO,A1)
【文献】特開2017-079285(JP,A)
【文献】国際公開第2005/071733(WO,A1)
【文献】特開2019-140390(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0141531(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0337319(US,A1)
【文献】特開2001-215372(JP,A)
【文献】特開2008-177401(JP,A)
【文献】特開2016-046481(JP,A)
【文献】特開2001-339116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 23/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板と、
前記支持板上に配置される第1接合材と、
前記第1接合材上に配置され、前記第1接合材により前記支持板と接合される電子冷却モジュールと、
前記電子冷却モジュール上に配置される第2接合材と、
光を形成するように構成され、前記第2接合材上に配置され、前記第2接合材により前記電子冷却モジュールと接合される光形成部と、を備え、
前記光形成部は、
第1の波長の光を出射する第1半導体発光素子と、
前記第1の波長と異なる第2の波長の光を出射する第2半導体発光素子と、
前記第1半導体発光素子から出射された前記第1の波長の光と前記第2半導体発光素子から出射された前記第2の波長の光とを合波するフィルタと、
前記第2接合材と接触して配置され、前記第1半導体発光素子、前記第2半導体発光素子および前記フィルタを搭載するベース部と、を含み、
前記電子冷却モジュールは、
前記第1接合材と接触して配置される放熱板と、
前記第2接合材と接触して配置される吸熱板と、
前記放熱板および前記吸熱板を接続する複数の半導体柱と、を含み、
前記放熱板の線膨張係数は、4.0×10-6/K以上8.0×10-6/K以下であり、
前記支持板の材質は、SiCであり、
前記支持板の線膨張係数をCとし、前記放熱板の線膨張係数をCとすると、
前記支持板の線膨張係数と前記放熱板の線膨張係数との関係は、C<0.5×Cである、光モジュール。
【請求項2】
支持板と、
前記支持板上に配置される第1接合材と、
前記第1接合材上に配置され、前記第1接合材により前記支持板と接合される電子冷却モジュールと、
前記電子冷却モジュール上に配置される第2接合材と、
光を形成するように構成され、前記第2接合材上に配置され、前記第2接合材により前記電子冷却モジュールと接合される光形成部と、を備え、
前記光形成部は、
第1の波長の光を出射する第1半導体発光素子と、
前記第1の波長と異なる第2の波長の光を出射する第2半導体発光素子と、
前記第1半導体発光素子から出射された前記第1の波長の光と前記第2半導体発光素子から出射された前記第2の波長の光とを合波するフィルタと、
前記第2接合材と接触して配置され、前記第1半導体発光素子、前記第2半導体発光素子および前記フィルタを搭載するベース部と、を含み、
前記電子冷却モジュールは、
前記第1接合材と接触して配置される放熱板と、
前記第2接合材と接触して配置される吸熱板と、
前記放熱板および前記吸熱板を接続する複数の半導体柱と、を含み、
前記放熱板の線膨張係数は、4.0×10 -6 /K以上8.0×10 -6 /K以下であり、
前記支持板の材質は、ニッケル鋼であり、
前記支持板の線膨張係数をC とし、前記放熱板の線膨張係数をC とすると、
前記支持板の線膨張係数と前記放熱板の線膨張係数との関係は、C <0.5×C である、光モジュール。
【請求項3】
前記支持板の線膨張係数と前記放熱板の線膨張係数との関係は、0.1×C<Cである、請求項1または請求項2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記第1接合材は、樹脂製のバインダーに銀粒子を分散させた銀ペーストである、請求項1または請求項2に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記放熱板の材質は、アルミナである、請求項1または請求項2に記載の光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パッケージ内にレーザ素子を配置したレーザモジュールが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、放熱板を含む半導体モジュールが知られている(例えば、特許文献2参照)。このようなモジュールは、光を出射する光モジュールとして、種々の光源に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-7854号公報
【文献】特開2018-182287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような光モジュールについては、低温から高温といった広い温度範囲の環境下で用いられる場合がある。光モジュールは、1つのパッケージ内に複数の半導体発光素子を配置し、複数の半導体発光素子から出射される光を合波して出力する場合がある。このような光モジュールについて、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることが望まれる。
【0005】
そこで、広い温度範囲内で合波された光の光軸が高精度に一致した光モジュールを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った光モジュールは、支持板と、支持板上に配置される第1接合材と、第1接合材上に配置され、第1接合材により支持板と接合される電子冷却モジュールと、電子冷却モジュール上に配置される第2接合材と、光を形成するように構成され、第2接合材上に配置され、第2接合材により電子冷却モジュールと接合される光形成部と、を備える。光形成部は、第1の波長の光を出射する第1半導体発光素子と、第1の波長と異なる第2の波長の光を出射する第2半導体発光素子と、第1半導体発光素子から出射された第1の波長の光と第2半導体発光素子から出射された第2の波長の光とを合波するフィルタと、第2接合材と接触して配置され、第1半導体発光素子、第2半導体発光素子およびフィルタを搭載するベース部と、を含む。電子冷却モジュールは、第1接合材と接触して配置される放熱板と、第2接合材と接触して配置される吸熱板と、放熱板および吸熱板を接続する複数の半導体柱と、を含む。放熱板の線膨張係数は、4.0×10-6/K以上8.0×10-6/K以下である。支持板の線膨張係数をCとし、放熱板の線膨張係数をCとすると、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との関係は、C<Cである。
【発明の効果】
【0007】
上記光モジュールによれば、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1に係る光モジュールの構造を示す外観斜視図である。
図2図2は、図1に示す光モジュールのキャップを取り外した状態を示す外観斜視図である。
図3図3は、図2に示すキャップを取り外した状態における光モジュールの平面図である。
図4図4は、図2に示すキャップを取り外した状態における光モジュールの側面図である。
図5図5は、図2に示すキャップを取り外した状態における光モジュールの側面図である。
図6図6は、支持板の線膨張係数が5.2×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。
図7図7は、支持板の線膨張係数が10.0×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。
図8図8は、支持板の線膨張係数が3.7×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。
図9図9は、支持板の線膨張係数が1.0×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。
図10図10は、支持板の線膨張係数が0.1×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。光モジュールは、支持板と、支持板上に配置される第1接合材と、第1接合材上に配置され、第1接合材により支持板と接合される電子冷却モジュールと、電子冷却モジュール上に配置される第2接合材と、光を形成するように構成され、第2接合材上に配置され、第2接合材により電子冷却モジュールと接合される光形成部と、を備える。光形成部は、第1の波長の光を出射する第1半導体発光素子と、第1の波長と異なる第2の波長の光を出射する第2半導体発光素子と、第1半導体発光素子から出射された第1の波長の光と第2半導体発光素子から出射された第2の波長の光とを合波するフィルタと、第2接合材と接触して配置され、第1半導体発光素子、第2半導体発光素子およびフィルタを搭載するベース部と、を含む。電子冷却モジュールは、第1接合材と接触して配置される放熱板と、第2接合材と接触して配置される吸熱板と、放熱板および吸熱板を接続する複数の半導体柱と、を含む。放熱板の線膨張係数は、4.0×10-6/K以上8.0×10-6/K以下である。支持板の線膨張係数をCとし、放熱板の線膨張係数をCとすると、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との関係は、C<Cである。
【0010】
光モジュールは、支持板上に電子冷却モジュール(以下、TEC(Thermo-Electric Cooler)と称する場合もある。)が搭載され、TEC上に光形成部が搭載されて構成される。光形成部に含まれるベース部上に、第1半導体発光素子と、第2半導体発光素子と、第1半導体発光素子から出射された第1の波長の光と第2半導体発光素子から出射された第2の波長の光とを合波するフィルタとが搭載される。TECによりベース部の温度を調整して、光形成部の温度が一定に保たれる。本発明者らは、複数の光を合波して出力する光モジュールにおいて、ある温度、例えば、室温で複数の半導体発光素子から出射される光の光軸を合わせて合波して出力した場合でも、環境温度に変化があれば、合波された複数の光の光軸の高精度な一致が困難であることに着目した。具体的には、例えば、光モジュールが設置される環境温度が高温になった場合には、光モジュールを構成する各部材が熱膨張する。そして、各部材間の線膨張係数の相違に起因して光モジュール全体の反りが発生し、例えば、室温の状態で複数の光の光軸を合わせていたとしても、この反りの影響で結果として合波される複数の光の光軸がずれることとなる。ここで、本発明者らは鋭意検討を行い、光モジュールを構成する各部材の線膨張係数をそれぞれできるだけ揃えて温度変化時における光モジュール全体の反りの量の低減を図るのではなく、光軸のずれに起因するベース部の反りの調整に着目し、広い温度範囲内においても、合波される光の光軸を高精度に一致させることを実現した。
【0011】
本開示の光モジュールにおいて、所定の温度、例えば、室温で第1半導体発光素子から出射される第1の波長の光の光軸と、第2半導体発光素子から出射される第2の波長の光の光軸とが一致するよう調整する。ここで、放熱板の線膨張係数は、4.0×10-6/K以上8.0×10-6/K以下である。よって、光モジュールが配置される環境温度が大きく変化したとしても、放熱板の温度変化に対する反りをある範囲内に抑えることができる。また、支持板の線膨張係数をCとし、放熱板の線膨張係数をCとすると、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との関係は、C<Cである。すなわち、支持板の線膨張係数を放熱板の線膨張係数よりも小さくする。温度変化時において、放熱板および支持板は温度変化に起因してそれぞれ反ろうとするが、放熱板は第1接合材により支持板に接合されているため、支持板の線膨張係数に基づいて反る支持板の影響により、放熱板の反りの量を低減することができる。よって、温度変化時において、放熱板を含むTECに第2接合剤を介して接合されるベース部の反りを抑制することができる。したがって、ベース部に搭載される第1半導体発光素子、第2半導体発光素子およびフィルタの相対的な位置関係が変化することに起因する光軸のずれを抑制することができる。その結果、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0012】
上記光モジュールにおいて、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との関係は、C<0.7×Cであってもよい。このようにすることにより、広い温度範囲内で合波される光の光軸をより高精度に一致させることができる。
【0013】
上記光モジュールにおいて、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との関係は、C<0.5×Cであってもよい。広い温度範囲内で合波される光の光軸をさらに高精度に一致させることができる。
【0014】
上記光モジュールにおいて、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との関係は、0.1×C<C<0.5×Cであってもよい。このようにすることにより、広い温度範囲内で合波される光の光軸をさらに高精度に一致させることができる。
【0015】
上記光モジュールにおいて、第1接合材は、樹脂製のバインダーに銀粒子を分散させた銀ペーストであってもよい。銀ペーストは、硬化温度が比較的低いため、硬化時における熱応力の発生を低減することができる。また、銀ペーストはある程度弾性を有するため、温度変化時において、支持板の線膨張係数と放熱板の線膨張係数との差に起因して生ずる放熱板の反りを、銀ペースト自体の変形により許容することができる。よって、光モジュールの信頼性を向上させることができる。
【0016】
上記光モジュールにおいて、支持板の材質は、SiCまたはコバールであってもよい。放熱板の材質は、アルミナであってもよい。支持板の材質および放熱板の材質をこのようにすることにより、より確実に、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の光モジュールの一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0018】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る光モジュールについて説明する。図1は、実施の形態1に係る光モジュールの構造を示す外観斜視図である。図2は、図1に示す光モジュールのキャップを取り外した状態を示す外観斜視図である。図3は、図2に示すキャップを取り外した状態における光モジュールの平面図である。図3は、図2に示す光モジュールを支持板の厚さ方向に見た図である。図4および図5は、図2に示すキャップを取り外した状態における光モジュールの側面図である。図4は、X方向に見た場合の側面図である。図5は、Y方向に見た場合の側面図である。なお、図3において、光軸は、破線で示される。
【0019】
図1図5を参照して、実施の形態1における光モジュール10は、平板状の形状を有する支持板11と、支持板11の一方の面12A上に配置され、光を形成するように構成される光形成ユニットとしての光形成部13と、光形成部13を覆うように支持板11の一方の面12A上に接触して配置されるキャップ14と、支持板11の他方の面12B側から一方の面12A側まで貫通し、一方の面12A側および他方の面12B側の両側に突出する複数のリードピン16とを備える。支持板11とキャップ14とは、例えば、溶接されることにより気密状態とされている。すなわち、光形成部13は、支持板11とキャップ14とによりハーメチックシールされている。支持板11とキャップ14とにより取り囲まれる空間には、例えば乾燥空気等の水分が低減(除去)された気体が封入されている。キャップ14には、光形成部13からの光を透過するガラス製のAR(Anti Reflection)コートが施された出射窓15が形成されている。なお、平面的に見て(Z方向に見た場合に)、支持板11は、四隅の角が丸められた長方形形状である。キャップ14についても、平面的に見て四隅の角が丸められた長方形形状である。
【0020】
光形成部13は、ベース部として板状の形状を有するベース板20を含む。ベース板20は、支持板11の厚さ方向に見て、長方形を有する一方の面21Aと、一方の面21Aの厚さ方向の反対側に位置する他方の面21Bとを有する。ベース板20の長辺が延びる方向は、支持板11の長辺が延びる方向と同じである(X方向)。ベース板20の短辺が延びる方向は、支持板11の短辺が延びる方向と同じである(Y方向)。面21Aは、チップ搭載領域22と、ベース領域23とを含む。チップ搭載領域22の厚さは、ベース領域23に比べて大きくなっている。ベース板20の材質としては、例えば鉄や銅が選択される。
【0021】
チップ搭載領域22上には、平板状の第1サブマウント31、同じく平板状の第2サブマウント32、同じく平板状の第3サブマウント33がそれぞれ形成されている。第1サブマウント31上には、第1半導体発光素子としての第1半導体レーザである赤色レーザダイオード41が配置されている。第2サブマウント32上には、第2半導体発光素子としての第2半導体レーザである緑色レーザダイオード42が配置されている。第3サブマウント33上には、第3半導体発光素子としての第3半導体レーザである青色レーザダイオード43が配置されている。赤色の光は、第1の波長の光である。緑色の光は、第1の波長と異なる第2の波長の光である。青色の光は、第1の波長および第2の波長とそれぞれ異なる第3の波長の光である。赤色レーザダイオード41から出射される赤色の光と、緑色レーザダイオード42から出射される緑色の光と、青色レーザダイオード43から出射される青色の光とは、出射方向がそれぞれY方向であって平行である。なお、チップ搭載領域22上には、光形成部13の温度を測定するサーミスタ17が搭載されている。サーミスタ17は、第3サブマウント33の横に青色レーザダイオード43と間隔をあけて取り付けられている。
【0022】
ベース領域23には、それぞれレンズ面を有する第1レンズ51、第2レンズ52および第3レンズ53が配置されている。すなわち、ベース板20には、第1レンズ51、第2レンズ52および第3レンズ53が搭載されている。第1レンズ51、第2レンズ52、第3レンズ53の中心軸、すなわちそれぞれのレンズ面の光軸は、それぞれ赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43の光軸に一致するように調整されている。光軸の調整、すなわち、光軸を合わせて第1レンズ51、第2レンズ52および第3レンズ53がベース領域23に取り付けられる工程は、所定の温度、例えば、25℃といった室温の時において行われる。
【0023】
第1レンズ51、第2レンズ52および第3レンズ53は、それぞれ赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43から出射される光のスポットサイズを変更する。第1レンズ51、第2レンズ52および第3レンズ53はそれぞれ、例えば紫外線硬化接着剤によってベース領域23にそれぞれ接着される。
【0024】
ベース領域23には、第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63が配置されている。第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63はそれぞれ、例えば紫外線硬化接着剤によってベース領域23にそれぞれ接着される。第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63は、例えば波長選択性フィルタである。また、第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63は、誘電体多層膜フィルタである。具体的には、第1フィルタ61は、赤色の光を反射する。第2フィルタ62は、赤色の光を透過し、緑色の光を反射する。第3フィルタ63は、赤色の光および緑色の光を透過し、青色の光を反射する。第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63の主面は、それぞれ赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43から出射される光の出射方向に傾斜している。具体的には、第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63の主面は、それぞれ赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43から出射される光の出射方向に対して45°傾斜している。その結果、第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63は、赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43から出射される光を合波する。
【0025】
光モジュール10は、光形成部13の温度を調整するTEC70を含む。TEC70は、光形成部13と支持板11との間に配置される。TEC70は、ペルチェモジュール(ペルチェ素子)であり、放熱板71と、吸熱板72と、放熱板71および吸熱板72を接続する複数の柱状の半導体柱73と、を含む。複数の半導体柱73は、放熱板71と吸熱板72との間にそれぞれ間隔をあけて並べて配置される、TEC70によりベース板20の温度を調整して、光形成部13の温度が一定、具体的には、例えば35℃に保たれる。
【0026】
光モジュール10は、支持板11上に配置される第1接合材81を含む。支持板11とTEC70とは、第1接合材81により接合される。第1接合材81は、支持板11とTEC70との間に配置される。TEC70に含まれる放熱板71は、第1接合材81と接触して配置される。第1接合材81としては、例えば樹脂製のバインダー中に銀粒子を分散させた銀ペーストが用いられる。銀ペーストは、比較的低温、例えば100℃程度で硬化させることができる。
【0027】
光モジュール10は、TEC70上に配置される第2接合材82を含む。TEC70とベース板20とは、第2接合材82により接合される。第2接合材82は、TEC70とベース板20との間に配置される。TEC70に含まれる吸熱板72は、第2接合材82と接触して配置される。第2接合材82としても第1接合材81と同様に、例えば、銀ペーストが用いられる。
【0028】
TEC70に電流を供給して電流を流すことにより、吸熱板72と接合されるベース板20の熱が支持板11側へと移動し、ベース板20が冷却される。その結果、赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43の温度上昇を抑制することができる。すなわち、このTEC70を設けることにより、赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43の温度を調整し、出力を安定化できる。
【0029】
ここで、放熱板71の線膨張係数は、4.0×10-6/K以上8.0×10-6/K以下である。また、支持板11の線膨張係数をCとし、放熱板71の線膨張係数をCとすると、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、C<Cである。具体的には、例えば、支持板11の材質は、コバールである。コバールの線膨張係数は、5.2×10-6/Kである。放熱板71の材質は、アルミナ(Al)である。アルミナの線膨張係数は、7.7×10-6/Kである。なお、吸熱板72の材質も、アルミナである。すなわち、TEC70を構成する板状の部材の材質は、アルミナである。また、半導体柱73の材質として、例えばBiTeが挙げられる。
【0030】
上記光モジュール10においては、光モジュール10が配置される環境温度が大きく変化したとしても、放熱板71の温度変化に対する反りをある範囲内に抑えることができる。また、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、C<Cである。温度変化時において、放熱板71および支持板11は温度変化に起因して反ろうとするが、放熱板71は第1接合材81により支持板11に接合されているため、支持板11の線膨張係数に基づいて反る支持板11の影響により、放熱板71の反りの量を低減することができる。よって、温度変化時において、放熱板71を含むTEC70に第2接合材82を介して接合されるベース板20の反りを抑制することができる。したがって、ベース板20に搭載される赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42、青色レーザダイオード43、第1レンズ51、第2レンズ52、第3レンズ53、第1フィルタ61、第2フィルタ62および第3フィルタ63の相対的な位置関係が変化することに起因する光軸のずれを抑制することができる。その結果、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0031】
図6は、支持板11の線膨張係数が5.2×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。図6において、縦軸は、垂直方向の相対的な角度のずれ(deg)を示し、横軸は、環境温度(℃)を示す。以下、図7図8図9および図10に示す場合も同様である。図6に示す場合においては、放熱板71の材質をアルミナとし、支持板11の材質をコバールとしている。この場合、支持板11の線膨張係数をCとし、放熱板71の線膨張係数をCとすると、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、C<Cである。具体的には、C=0.675×Cである。図6は、図2に示すキャップを取り除いた状態の光モジュールの各部材を有限要素法により小領域に分割し、光軸のずれをCAE(Computer Aided Engineering)解析により測った結果を示している。以下、図7図10に示す場合も同様である。R-Gで示す線で、緑色レーザダイオード42により出射される光の光軸に対する赤色レーザダイオード41により出射される光の光軸のずれを示す。B-Gで示す線で、緑色レーザダイオード42により出射される光の光軸に対する青色レーザダイオード43により出射される光の光軸のずれを示す。光軸のずれは、垂直方向、すなわち、Z方向における相対的な光軸の角度のずれとして示している。図7は、支持板11の線膨張係数が10.0×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。すなわち、図7に示す場合においては、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、C>Cである。具体的には、C=1.3×Cである。いずれも25℃において光軸が一致するように調整している。
【0032】
CAEでは、光形成部13にTEC70の動作を模擬した温度分布を与え、環境温度が-40℃から85℃までの変形を有限要素法により解析している。この時の光形成部13の温度は35℃である。有限要素法により求めた光形成部13の各素子の変形量を光学解析に反映させて光軸のずれを評価している。
【0033】
まず図7を参照して、環境温度が高くなるにつれ、または環境温度が低くなるにつれ、R-Gで示す線およびB-Gで示す線で示すように、光軸のずれが大きくなっていることが把握できる。これに対し、図6を参照して、環境温度が高くなるにつれ、または環境温度が低くなるにつれ、光軸はずれていくが、図7に示す場合と比較して、光軸のずれは小さくなっている。よって、上記光モジュール10によると、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0034】
本実施形態においては、第1接合材81は、樹脂製のバインダーに銀粒子を分散させた銀ペーストである。銀ペーストは、硬化温度が比較的低いため、硬化時における熱応力の発生を低減することができる。また、銀ペーストはある程度弾性を有するため、温度変化時において、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との差に起因して生ずる放熱板71の反りを、銀ペースト自体の変形により許容することができる。よって、このような光モジュール10は、信頼性を向上させることができる。
【0035】
(実施の形態2)
なお、上記の実施の形態において、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、C<0.7×Cとしてもよい。図8は、支持板11の線膨張係数が3.7×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。SiCの線膨張係数は、例えば3.7×10-6/Kである。支持板11の材質として、例えばSiCを用いると、C<0.7×Cの関係を満たす。具体的には、C=0.48×Cである。
【0036】
図8を参照して、環境温度が高くなるにつれ、または環境温度が低くなるにつれ、光軸はずれていくが、図6に示す場合と比較して、光軸のずれは小さくなっている。よって、C<0.7×Cの関係を具備するよう構成することにより、より確実に、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。また、実施の形態1および実施の形態2によると、支持板11の材質をSiCまたはコバールとし、放熱板71の材質をアルミナとすることにより、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0037】
(実施の形態3)
なお、上記の実施の形態において、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、C<0.5×Cとしてもよい。図9は、支持板11の線膨張係数が1.0×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。ここで、ニッケル鋼の線膨張係数は、例えば0.9×10-6/Kである。支持板11の材質としてニッケル鋼を用いると、C<0.5×Cの関係を満たす。具体的には、C=0.13×Cである。
【0038】
図9を参照して、環境温度が高くなるにつれ、または環境温度が低くなるにつれ、光軸はずれていくが、図8に示す場合と比較して、光軸のずれは極めて小さくなっている。よって、C<0.5×Cの関係を具備するよう構成することにより、さらに確実に、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0039】
(実施の形態4)
なお、上記の実施の形態において、支持板11の線膨張係数と放熱板71の線膨張係数との関係は、0.1×C<C<0.5×Cとしてもよい。図10は、支持板11の線膨張係数が0.1×10-6/Kである場合の光軸のずれを示すグラフである。ここで、石英ガラスの線膨張係数は、例えば0.5×10-6/Kである。支持板11の材質として石英ガラスを用いると、0.1×C<C<0.5×Cの関係を満たす。具体的には、C=0.013×Cである。
【0040】
図10を参照して、環境温度が高くなるにつれ、または環境温度が低くなるにつれ、光軸はずれていくが、図8に示す場合と比較して、光軸のずれは小さくなっている。この場合、R-Gで示す線およびB-Gで示す線で示すように、光軸のずれの傾向が図8および図9に示す場合と比較して、逆転している。支持板11の線膨張係数が放熱板71の線膨張係数の10%以下となれば、反りが逆方向に生じるようになる。このように、0.1×C<C<0.5×Cの関係を具備するよう構成することにより、より確実に、広い温度範囲内で合波される光の光軸を高精度に一致させることができる。
【0041】
(他の実施の形態)
なお、上記の実施の形態においては、光モジュール10は、赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43を含む構成としたが、これに限らず、いずれか2色、すなわち、赤色レーザダイオード41、緑色レーザダイオード42および青色レーザダイオード43のうちの少なくともいずれか2つを含む構成であればよい。
【0042】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示の光モジュールは、広い温度範囲内で合波された光の光軸の高精度の一致が求められる場合に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0044】
10 光モジュール
11 支持板
12A,12B,21A,21B 面
13 光形成部
14 キャップ
15 出射窓
16 リードピン
17 サーミスタ
20 ベース板
22 チップ搭載領域
23 ベース領域
31 第1サブマウント
32 第2サブマウント
33 第3サブマウント
41 赤色レーザダイオード
42 緑色レーザダイオード
43 青色レーザダイオード
51 第1レンズ
52 第2レンズ
53 第3レンズ
61 第1フィルタ
62 第2フィルタ
63 第3フィルタ
70 TEC
71 放熱板
72 吸熱板
73 半導体柱
81 第1接合材
82 第2接合材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10