(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】中庭付き建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
E04H1/02
(21)【出願番号】P 2020073629
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2023-01-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)展示による公開 平成31年4月27日から、下記住宅展示場において公開 ハウジングステージ新宿(東京都新宿区百人町2-2-32) (2)電気通信回線を通じての公開 平成31年4月18日から、下記ウェブサイトにおいて、上記住宅展示場の紹介として公開 https://www.sekisuihouse.co.jp/liaison/13/3058000030/
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 潤平
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-092422(JP,A)
【文献】特開2012-160280(JP,A)
【文献】特開2007-092277(JP,A)
【文献】特開2018-060752(JP,A)
【文献】特開2002-155636(JP,A)
【文献】特開2000-110370(JP,A)
【文献】米国特許第05553429(US,A)
【文献】プランに役立つ情報紙「あかりのヒミツ」発刊 土井 さやか Interview,2018年02月,インターネット<URL:https://www2.lighting-daiko.co.jp/design/pro_way/vol10.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/00 - 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三階層以上の屋内空間と、前記屋内空間に隣接する三階層以上の吹抜になった中庭と、を具備し、前記屋内空間の各階層に設けられた窓面を通じて前記中庭を鑑賞し得るように構成された中庭付き建物において、
最上階の窓面よりも上方の、前記屋内空間から直接、視認されない位置に、前記中庭を下向きに照らす屋外照明が設置されるとともに、
前記屋内空間の天井灯にはグロアレスダウンライトが採用されており、
夜間における前記中庭の照度が、前記中庭に臨む屋内空間の照度よりも大きくなるように設定されている
ことを特徴とする中庭付き建物。
【請求項2】
請求項1に記載された中庭付き建物において、
前記中庭を挟んで前記屋内空間と相対する位置に、三階層以上の高さに及ぶ視線遮蔽壁が立設されている
ことを特徴とする中庭付き建物。
【請求項3】
請求項2に記載された中庭付き建物において、
前記中庭が二か所に設けられて、
前記屋内空間の中間階および最上階には、前記二か所の中庭と前記視線遮蔽壁とによって囲まれた屋外空間が、前記屋内空間との間に出入可能な窓面を介して延設されている
ことを特徴とする中庭付き建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、中庭付き建物に関し、特に三階層以上の吹抜けになった中庭に対する照明手法に特徴を有する中庭付き建物に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物においては、敷地内に中庭を設けて屋内空間からの開放感を高めることがよく行われる。例えば特許文献1には、建物の母屋部分によって平面視L字形ないしコ字形に囲まれた屋外領域に中庭を設けて、その中庭に面した複数か所の居室から中庭を鑑賞できるようにしたものが開示されている。このような建物においては、中庭と敷地外との境界付近に植栽や壁体を設けて、敷地外から中庭や屋内への視線を遮るようにするのが一般的である。このようにプライバシーに配慮した中庭を備えた建物では、中庭に面する窓の開口面積を大きく取ることで、屋内側からの景観を良好にし、屋内空間と屋外空間との一体感や連続性を高めることができる。
【0003】
さらに、そのような中庭を設けた建物では、夜間も中庭の景観を楽しめるように、中庭の周囲に庭園灯やスポットライト等の屋外照明を設置して、植栽等をライトアップすることも多い。例えば特許文献2には、住宅の外構部分の植栽をライトアップするための様々な照明設備類が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-155873号公報
【文献】特開2012-160280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地価が高い都市部の住宅等にあっては、建物を三階建てにして敷地の有効活用を図るとともに、敷地境界付近に背の高い壁体を設けて、その壁体の内側に中庭を囲い込む形態がよく採用される。このような形態の中庭空間は、水平方向の広がりに対して高さ(深さ)が大きくなるので、屋内から見たときの開放感や屋内外の一体感が得られにくく、また、採光がほぼ中庭の上空からしかとれないため、薄暗くなりがちである。特に夜間は、屋内の照明に照らされた屋内の光景が窓面に映り込むことによって中庭の景観が見えにくくなるため、屋内から中庭を鑑賞して寛ぐ、といった態様での利用が難しくなる。
【0006】
本願が開示する発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、特に三階層以上の吹抜けになった中庭空間を有する中庭付き建物において、屋内外の一体感や連続性を体感しやすい空間構成と、夜間でも屋内から中庭を快適に鑑賞することができる照明手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するために、本願が開示する発明は、三階層以上の屋内空間と、前記屋内空間に隣接する三階層以上の吹抜になった中庭と、を具備し、前記屋内空間の各階層に設けられた窓面を通じて前記中庭を鑑賞し得るように構成された中庭付き建物において、最上階の窓面よりも上方の、前記屋内空間から直接、視認されない位置に、前記中庭を下向きに照らす屋外照明が設置されるとともに、前記屋内空間の天井灯にはグロアレスダウンライトが採用されており、夜間における前記中庭の照度が、前記中庭に臨む屋内空間の照度よりも大きくなるように設定されている、との構成を採用する。
【0008】
さらに、本願が開示する発明は、前述のように構成される中庭付き建物において、前記中庭を挟んで前記屋内空間と相対する位置に、三階層以上の高さに及ぶ視線遮蔽壁が立設されている、との構成を採用する。
【0009】
さらに、本願が開示する発明は、前述のように構成される中庭付き建物において、前記中庭が二か所に設けられて、前記屋内空間の中間階および最上階には、前記二か所の中庭と前記視線遮蔽壁とによって囲まれた屋外空間が、前記屋内空間との間に出入可能な窓面を介して延設されている、との構成を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本願が開示する発明に係る中庭付き建物は、中庭を照らす屋外照明が屋内空間から見えない位置に設置されるとともに、屋内空間の天井灯には眩しさを抑えたグロアレスダウンライトが採用されて、夜間における中庭の照度が屋内空間の照度よりも大きくなるように設定されているので、屋内空間から中庭を見たときに眩しい光源や窓面への映り込みが目に入らず、中庭の景観を快適に鑑賞することができる。これにより、屋内空間から中庭にかけての視覚的な連続性が強調され、屋内外を一体空間として感じることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本願が開示する発明の一実施形態に係る中庭付き建物の一階平面図である。
【
図7】前記中庭付き建物の一階玄関ホールから第一中庭を見たとき(D視点)の視覚的イメージを示す透視図である。
【
図8】前記中庭付き建物の三階リビングから屋外空間側を見たとき(E視点)の視覚的イメージを示す透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1~
図6は、本願が開示する発明にかかる中庭付き建物1の一実施形態を示す。
【0013】
この中庭付き建物1は、略矩形の平面形状を有する三階建ての建物である。南東側および北東側の隅部には、三階層分の吹抜になった平面視矩形の中庭(第一中庭41および第二中庭42)がそれぞれ設けられている。これらの中庭41、42には屋根がなく、地面には土や石が敷かれて、人の目線以上の高さのシンボルツリーを含む大小の樹木やグランドカバー等が植設され、小規模な庭園の景観を形成している。
【0014】
中庭41、42を挟んで屋内空間と相対する東側の壁面は、三階層分の高さを有する視線遮蔽壁43となされている。また、西側の壁面に沿って三階層分を連通するエレベータ44が設置されている。
【0015】
一階の屋内には、玄関ホール11、階段・エレベータホール12、アトリエ13、書斎14、収納室15等が設けられている。玄関ホール11は、南西側の玄関ドア111から出入りできるように設けられ、玄関ドア111から入った正面が大開口の嵌め殺し窓112を介して第一中庭41に面している。
【0016】
アトリエ13は、天井高さ一杯までの高さを有する掃き出し窓131を介して第二中庭42に面している。書斎14は、階段・エレベータホール12の東側に、間仕切り壁121を介して延設されている。書斎14は、間仕切り壁121に直交する二つの壁面に設けられた掃き出し窓141、142を介して、第一中庭41および第二中庭42の両方に面している。
【0017】
二階の屋内には、階段・エレベータホール22、主寝室23、ウォークインクローゼット24、子供部屋25、洗面・浴室26、トイレ27等が設けられている。洗面・浴室26は嵌め殺し窓261を介して第一中庭41に面している。主寝室23は、嵌め殺し窓231を介して第二中庭42に面している。
【0018】
階段・エレベータホール22の東側には、天井までの高さを有する掃き出し窓221を介して、二階ベランダ28が延設されている。二階ベランダ28は、上方が三階の床面によって覆われているが、第一中庭41および第二中庭42の両方に対して開放された屋外空間となっている。
【0019】
三階の屋内には、リビング33、ダイニング34、キッチン35が、階段・エレベータホール32から間仕切り無しで一体的に連続するように設けられている。リビング33は、嵌め殺し窓331を介して第一中庭41に面している。リビング33の西側には屋外空間としての三階ベランダ36が設けられている。ダイニング34は、嵌め殺し窓341を介して第二中庭42に面している。
【0020】
階段・エレベータホール32の東側には、天井までの高さを有する掃き出し窓321を介して、三階バルコニー37が延設されている。三階バルコニー37は、上方に屋根がなく、第一中庭41および第二中庭42の両方に対しても開放された屋外空間となっている。
【0021】
視線遮蔽壁43は、南北方向の壁長全体にわたって三階層分の高さで立設され、これに直交する北側の壁面も三階層分の高さで連続しているが、第一中庭41の南面は二階層分までの高さに抑えられて、第一中庭41の三階部分が南側に開放されている。視線遮蔽壁43の最上部は、三階バルコニー37の上方を東西方向に横切る二本のロジア梁45を介して、階段・エレベータホール32側の建物躯体に連結されている。視線遮蔽壁43の一階部分における書斎14を挟んだ二か所には縦長の通風用スリット431、432が設けられており、三階バルコニー37の上方には矩形の通風用開口433が設けられている。
【0022】
このように構成された中庭付き建物1では、屋内空間の全ての階層における主要な居室から、大開口の窓面を通じて中庭41、42を鑑賞することができる。屋内空間から中庭41、42を見たときに、中庭41、42の背後には視線遮蔽壁43が立設されており、この視線遮蔽壁43が敷地外からの視線を遮って中庭41、42のプライバシーを守るとともに、屋内からは近隣の風景を見えなくする。したがって、建物が密集する都市部においても、近隣を意識することなく屋内から中庭41、42の光景を快適に鑑賞することが可能になる。
【0023】
また、屋内空間から出入可能な窓面を介して連続する屋外空間(二階ベランダ28、三階バルコニー37)が、二か所の中庭41、42に向けて開放された形で設けられているので、これらの屋外空間を通じて屋内にも十分な採光や通風が得られる。これらの屋外空間は、休憩用の椅子やテーブル等を置いて、天気の良い日に自然の光や風を感じながら寛いだり、軽い飲食をしたりするためのスペースとして昼夜を問わずに利用することができる。
【0024】
さらに、本願が開示する発明では、特に夜間における中庭41、42の鑑賞性を高めるため、中庭41、42を照らす屋外照明51が中庭41、42の上部に設置されている。詳細には、中庭41、42に面する三階の窓面よりも上方の、屋内空間から直接、視認されない位置に、各中庭41、42を下向きに照らす屋外照明51がそれぞれ取り付けられている。この屋外照明51としては、例えば照射方向を変えられるユニバーサルダウンライトが好適である。屋外照明51の光源は、白色から昼白色、電球色に相当する色温度の白色光を照射するものが好ましい。また、植栽等を美しく見せるためには、赤色や緑色の波長成分を含んだ高演色性のものを用いることが好ましい。また、省電力の観点から発光ダイオードを光源として用いるものも好ましい。
【0025】
屋外照明51は、適宜の間隔を設けて複数か所に取り付けられてもよく、例えばその一つが中庭41、42の地面(植栽の根元付近)や視線遮蔽壁43の下部を照らし、他の一つが中庭41、42に植設されたシンボルツリーの枝葉部分を照らすように配光されるのも好ましい。このように地面を照らす「地明かり」をしっかりと確保した上で、アクセントになりやすいシンボルツリー等の対象物を浮き上がらせることで、特に屋内側から見たときに、月明かりのように自然な印象の夜景が創出される。
【0026】
一方、屋内空間の天井灯52には、窓面への映り込みを防ぎやすいグロアレスダウンライトが採用されている。グロアレスダウンライトは、天井面からの埋め込み深さを大きくするとともに、反射板の開口縁まわりを鏡面仕上げにすることで側方への拡散光を抑制し、器具をコンパクトに見せて存在感を小さくするように配慮された照明器具である。かかる天井灯52を中庭41、42に臨む窓面から数十cm以上(より好ましくは1m以上)離して取り付けることで、天井灯52と、それに照らされた屋内の家具等が窓面に映り込むのを防ぐことができる。
【0027】
さらに、中庭41、42を照らす屋外照明51および屋内の天井灯52にそれぞれ調光機能を設け、夜間においては中庭41、42の照度が屋内空間の照度よりも大きくなるように、それぞれの照度調節を可能にする。これにより、中庭41、42が屋内から綺麗に見えやすくなって、夜間における中庭41、42の鑑賞性がさらに向上する。なお、中庭41、42に配置される植栽その他の被照射物の高さを大きくすることで、屋内空間の各階層から中庭41、42を見たときに、高さ方向の広範囲が一層、明るくなって、窓面への映り込みをさらに目立たなくすることができる。
【0028】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施の形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない空間構成要素の形態や位置関係等を、前述の作用効果に影響しない範囲内で適宜、改変することが可能である。
【0029】
例えば、本願が開示する発明に係る建物および中庭の階層数は、例示した三階に限定されるものではなく、四階以上であってもよいし、多層階のうちの一部分に適用される形態であってもよい。中庭の形態は、ウッドデッキや透水性ブロック等で地面を覆ったものでもよいし、樹木に替えて人工的なオブジェや噴水等を配したものであってもよい。中庭の平面形状も矩形には限定されないし、屋外居間空間の位置や大きさも、建物全体の規模や敷地形状に応じて、適宜、改変されてよい。また、それに応じて屋外照明の個数を増減してもよいし、屋外照明を、例えば庇やロジア梁の下面に設置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願が開示する発明は、住宅をはじめとする各種建物の中庭周りの空間構成に幅広く応用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 中庭付き建物
11 玄関ホール
111 玄関ドア
112 嵌め殺し窓
12 階段・エレベータホール
121 間仕切り壁
13 アトリエ
131 掃き出し窓
14 書斎
141 掃き出し窓
142 掃き出し窓
15 収納室
22 階段・エレベータホール
221 掃き出し窓
23 主寝室
231 嵌め殺し窓
24 ウォークインクローゼット
25 子供部屋
26 洗面・浴室
261 嵌め殺し窓
27 トイレ
28 二階ベランダ
32 階段・エレベータホール
321 掃き出し窓
33リビング
331 嵌め殺し窓
34ダイニング
341 嵌め殺し窓
35キッチン
36 三階ベランダ
37 三階バルコニー
41 第一中庭41
42 第二中庭42
43 視線遮蔽壁43
431 通風用スリット
432 通風用スリット
433 通風用開口
44 エレベータ
45 ロジア梁
51 屋外照明
52 天井灯