(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231129BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2020088709
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 昌和
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-043025(JP,A)
【文献】特開2001-178147(JP,A)
【文献】特開2009-284747(JP,A)
【文献】特開平10-117490(JP,A)
【文献】特開2007-135285(JP,A)
【文献】特開平10-323078(JP,A)
【文献】特開2013-172492(JP,A)
【文献】特開2001-211654(JP,A)
【文献】特開2017-200337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 6/00,27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を出力する電源部と、前記電源部からの直流電圧を平滑化する主回路コンデンサと、互いに直列に接続される上アーム素子および下アーム素子を含み、前記上アーム素子と前記下アーム素子との接続点がモータに接続されているスイッチング素子部と、前記下アーム素子がオンしている状態で充電されるブートストラップコンデンサと、を含むインバータ回路部と、
前記下アーム素子のデューティ比を制御する制御部と、を備え、
前記下アーム素子がオフしている状態で、前記ブートストラップコンデンサに充電された電圧により前記上アーム素子がオンされるように構成されており、
前記制御部は、前記インバータ回路部から前記モータへの出力が停止された状態で前記モータの回転が停止されずに一定時間継続されるフリーラン状態において、前記ブートストラップコンデンサの充電中に、第1のデューティ比により前記下アーム素子をオンオフさせることにより前記ブートストラップコンデンサを充電する制御を行うとともに、前記主回路コンデンサの電圧に基づいて、前記下アーム素子のデューティ比を前記第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、前記主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながら前記ブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている、インバータ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記フリーラン状態における前記ブートストラップコンデンサの充電中において、前記主回路コンデンサの電圧に基づいて、前記下アーム素子のデューティ比を前記第1のデューティ比から前記第1のデューティ比よりも小さい前記第2のデューティ比に低下させることによって、前記主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながら前記ブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記フリーラン状態における前記ブートストラップコンデンサの充電中において、前記下アーム素子のデューティ比を前記第1のデューティ比から前記第2のデューティ比に低下させた場合に、予め設定された前記ブートストラップコンデンサの充電時間を長くする制御を行うように構成されている、請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記フリーラン状態における前記ブートストラップコンデンサの充電中において、前記第1のデューティ比により前記下アーム素子をオンオフさせることによって前記主回路コンデンサの電圧が第1しきい電圧以上になった場合に、前記ブートストラップコンデンサの充電時における前記下アーム素子のデューティ比を、前記第1のデューティ比から前記第2のデューティ比に変化させることによって、前記主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながら前記ブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記フリーラン状態における前記ブートストラップコンデンサの充電中において、前記主回路コンデンサの電圧が前記第1しきい電圧以上の状態から前記第1しきい電圧よりも低い状態に変化した場合に、前記下アーム素子のデューティ比を、前記第2のデューティ比から前記第1のデューティ比に戻す制御を行うように構成されている、請求項4に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記インバータ回路部は、前記主回路コンデンサの電圧値を検出する電圧検出部をさらに含み、
前記制御部は、前記フリーラン状態における前記ブートストラップコンデンサの充電中において、前記電圧検出部により検出された前記主回路コンデンサの電圧値に基づいて、前記下アーム素子のデューティ比を前記第1のデューティ比から前記第2のデューティ比に変化させることによって、前記主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながら前記ブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記インバータ回路部は、前記スイッチング素子部と前記モータとの間を流れる電流値を検出する電流検出部をさらに含み、
前記制御部は、
前記下アーム素子のオンオフ制御が停止している状態から、前記下アーム素子をデューティ比が1の状態でオンさせることにより、前記ブートストラップコンデンサの初期充電を行う制御と、
前記初期充電中に前記電流検出部により過電流が流れていることが検知されたことに基づいて、前記下アーム素子のデューティ比を1から前記第1のデューティ比に低下させて前記ブートストラップコンデンサを充電する制御と、
前記主回路コンデンサの電圧に基づいて、前記下アーム素子のデューティ比を前記第1のデューティ比から前記第2のデューティ比に変化させることによって、前記主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながら前記ブートストラップコンデンサを充電する制御と、を行うように構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記スイッチング素子部は、複数相の前記上アーム素子と複数相の前記下アーム素子とを含み、
前記ブートストラップコンデンサは、前記複数相の上アーム素子の各々に対応して複数設けられており、
前記制御部は、前記フリーラン状態における前記複数相のブートストラップコンデンサの充電中において、前記主回路コンデンサの電圧に基づいて、前記複数相の下アーム素子の各々のデューティ比を一律に前記第1のデューティ比から前記第2のデューティ比に変化させて、前記複数のブートストラップコンデンサの各々を充電する制御を行うように構成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インバータ装置に関し、特に、ブートストラップコンデンサを備えるインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブートストラップコンデンサを備えるインバータ装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載のモータ駆動装置には、モータ駆動用直流電源と、上段スイッチング素子と、下段スイッチング素子とが設けられている。また、上段スイッチング素子と下段スイッチング素子との接続点がモータへの出力端となっている。また、上記モータ駆動装置には、上段スイッチング素子のエミッタに所定の電圧を加えて上段スイッチング素子をオンさせるためのブートストラップコンデンサが設けられている。ブートストラップコンデンサには、モータの回転動作前に下段スイッチング素子をオンさせることにより充電が行われる。また、上記特許文献1には明記されていないが、上記モータ駆動装置に記載のような従来のモータ駆動装置には、モータ駆動用直流電源の電圧を平滑化するための主回路コンデンサが設けられていると考えられる。
【0004】
ここで、モータがフリーラン状態(モータ駆動装置からモータへの出力が停止しているにも関わらずモータの回転が継続されている状態)である間に、モータ駆動装置の再起動を行うためにブートストラップコンデンサの充電を行う場合がある。この場合、下段スイッチング素子をオンさせることによってブートストラップコンデンサの充電を行う際に、モータからの逆起電圧に起因して、モータ駆動装置(モータと下段スイッチング素子との間)に過電流が流れる場合がある。これに対し、上記特許文献1には明記されていないが、下段スイッチング素子のデューティ比を低下させることにより、過電流の発生を抑制する制御が行われる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているような従来のモータ駆動装置(インバータ装置)では、下段スイッチング素子のデューティ比を低下させて下段スイッチング素子を充電する場合、下段スイッチング素子がオフの期間中にモータから主回路コンデンサに回生電流が流れるため、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるという問題点が生じる場合がある。なお、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなると、主回路コンデンサが破損する場合や、主回路コンデンサの過電圧を防止するためにモータ駆動装置自体が強制停止される場合がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、モータのフリーラン中にブートストラップコンデンサを充電する場合に、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを抑制することが可能なインバータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面によるインバータ装置は、直流電圧を出力する電源部と、電源部からの直流電圧を平滑化する主回路コンデンサと、互いに直列に接続される上アーム素子および下アーム素子を含み、上アーム素子と下アーム素子との接続点がモータに接続されているスイッチング素子部と、下アーム素子がオンしている状態で充電されるブートストラップコンデンサと、を含むインバータ回路部と、下アーム素子のデューティ比を制御する制御部と、を備え、下アーム素子がオフしている状態で、ブートストラップコンデンサに充電された電圧により上アーム素子がオンされるように構成されており、制御部は、インバータ回路部からモータへの出力が停止された状態でモータの回転が停止されずに一定時間継続されるフリーラン状態において、ブートストラップコンデンサの充電中に、第1のデューティ比により下アーム素子をオンオフさせることによりブートストラップコンデンサを充電する制御を行うとともに、主回路コンデンサの電圧に基づいて、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている。
【0009】
この発明の一の局面によるインバータ装置では、上記のように、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサの充電中に、主回路コンデンサの電圧に基づいて、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサを充電する制御が行われる。ここで、第2のデューティ比の方が第1のデューティ比よりも小さい場合は、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させる(低下させる)ことによって、インバータ回路部に流れる電流値が大きくなるのを抑制することができる。これにより、モータのフリーラン中にブートストラップコンデンサを充電する場合に、主回路コンデンサの電圧に基づいて主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御が行われることによって、インバータ回路部に流れる電流値が大きくなるのを抑制することができるとともに、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを容易に抑制することができる。また、第2のデューティ比の方が第1のデューティ比よりも大きい場合は、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させる(増加させる)ことによって、ブートストラップコンデンサの充電に要する時間を短くすることができる。これにより、モータのフリーラン中にブートストラップコンデンサを充電する場合に、主回路コンデンサの電圧に基づいて主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御が行われることによって、ブートストラップコンデンサの充電に要する時間を短くすることができるとともに、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを容易に抑制することができる。
【0010】
また、上記一の局面によるインバータ装置において、好ましくは、制御部は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサの充電中において、主回路コンデンサの電圧に基づいて、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第1のデューティ比よりも小さい第2のデューティ比に低下させることによって、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている。ここで、ブートストラップコンデンサの充電中において下アーム素子がオンオフしているうちのオン期間では、モータと下アーム素子との間に短絡電流が流れる。この短絡電流に起因してモータのコイルにエネルギーが蓄えられる。また、下アーム素子がオンしている状態からオフされると、モータのコイルに蓄えられた(回生)エネルギーが主回路コンデンサに放出されるため、主回路コンデンサの電圧値が高くなる。ここで、モータと下アーム素子との間の短絡電流は、下アーム素子のデューティ比が大きい(下アーム素子がオンしている時間が長い)ほど大きくなる。また、モータのコイルに蓄えられるエネルギーは、モータと下アーム素子との間の電流値の2乗に依存する。したがって、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に低下させる(下アーム素子のオフ期間を長くする)ことによって、モータからの回生電流が主回路コンデンサに流れることによって主回路コンデンサの電圧が上昇する時間が長くなる場合でも、主回路コンデンサの電圧上昇に起因するモータのコイルに蓄えられるエネルギーが大幅に小さくなるので、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。
【0011】
また、この場合、好ましくは、制御部は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサの充電中において、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に低下させた場合に、予め設定されたブートストラップコンデンサの充電時間を長くする制御を行うように構成されている。このように構成すれば、下アーム素子のデューティ比を低下させた分ブートストラップコンデンサの充電効率が低下する一方で、予め設定されたブートストラップコンデンサの充電時間を長くする制御が行われることによって、ブートストラップコンデンサが満充電にならないうちに充電期間が終了するのを抑制することができる。
【0012】
また、上記一の局面によるインバータ装置では、好ましくは、制御部は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサの充電中において、第1のデューティ比により下アーム素子をオンオフさせることによって主回路コンデンサの電圧が第1しきい電圧以上になった場合に、ブートストラップコンデンサの充電時における下アーム素子のデューティ比を、第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、第1しきい電圧と主回路コンデンサの電圧値との比較を行うだけで下アーム素子のデューティ比の制御を行うことができるので、たとえば主回路コンデンサの電圧値の変化率を算出して、算出した変化率に基づいて下アーム素子のデューティ比の制御を行う場合等に比べて、制御部による制御を簡易にする(制御負荷を軽減する)ことができる。
【0013】
また、この場合、好ましくは、制御部は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサの充電中において、主回路コンデンサの電圧が第1しきい電圧以上の状態から第1しきい電圧よりも低い状態に変化した場合に、下アーム素子のデューティ比を、第2のデューティ比から第1のデューティ比に戻す制御を行うように構成されている。このように構成すれば、主回路コンデンサの電圧が元の状態に戻ったことに併せて、下アーム素子のデューティ比を元の状態に戻すことができる。これにより、第1のデューティ比の方が大きい場合は、ブートストラップコンデンサの充電をより速やかに行うことができる。また、第1のデューティ比の方が小さい場合は、インバータ回路部に流れる電流値を低下させることができる。
【0014】
また、上記一の局面によるインバータ装置では、好ましくは、インバータ回路部は、主回路コンデンサの電圧値を検出する電圧検出部をさらに含み、制御部は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサの充電中において、電圧検出部により検出された主回路コンデンサの電圧値に基づいて、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサを充電する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、電圧検出部の検出値に基づいて下アーム素子のデューティ比の制御を行うことができるので、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を正確に行うことができる。
【0015】
また、上記一の局面によるインバータ装置では、好ましくは、インバータ回路部は、スイッチング素子部とモータとの間を流れる電流値を検出する電流検出部をさらに含み、制御部は、下アーム素子のオンオフ制御が停止している状態から、下アーム素子をデューティ比が1の状態でオンさせることにより、ブートストラップコンデンサの初期充電を行う制御と、初期充電中に電流検出部により過電流が流れていることが検知されたことに基づいて、下アーム素子のデューティ比を1から第1のデューティ比に低下させてブートストラップコンデンサを充電する制御と、主回路コンデンサの電圧に基づいて、下アーム素子のデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサの電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサを充電する制御と、を行うように構成されている。このように構成すれば、電流検出部の検出値に基づいて下アーム素子のデューティ比を低下させることによりスイッチング素子部とモータとの間を流れる電流が過電流になるのを抑制しながら、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。
【0016】
また、上記一の局面によるインバータ装置では、好ましくは、スイッチング素子部は、複数相の上アーム素子と複数相の下アーム素子とを含み、ブートストラップコンデンサは、複数相の上アーム素子の各々に対応して複数設けられており、制御部は、フリーラン状態における複数相のブートストラップコンデンサの充電中において、主回路コンデンサの電圧に基づいて、複数相の下アーム素子の各々のデューティ比を一律に第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させて、複数のブートストラップコンデンサの各々を充電する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、複数相に対応するインバータ装置において、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。また、複数相の下アーム素子の各々のデューティ比を一律に第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、複数相のブートストラップコンデンサの充電状態が互いに異なる状態になるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記のように、モータのフリーラン中にブートストラップコンデンサを充電する場合に、主回路コンデンサの電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態によるインバータ装置の構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態によるインバータ装置におけるブートストラップコンデンサの充電方法を説明するための図である。
【
図3】第1および第2実施形態による下アーム素子がオンの場合にモータから流れる電流を示した図である。
【
図4】第1および第2実施形態による下アーム素子がオフの場合にモータから流れる電流を示した図である。
【
図5】第1および第2実施形態によるモータの逆起電圧により形成されるチョッパ回路を模式的に表した図である。
【
図6】第1および第2実施形態による主回路コンデンサの電圧値が第2しきい電圧以上になった場合の下アーム素子の動作を説明するための図である。
【
図7】第1および第2実施形態による主回路コンデンサの電圧値が第1しきい電圧よりも小さくなった場合の下アーム素子の動作を説明するための図である。
【
図8】第2実施形態によるインバータ装置の構成を示す図である。
【
図9】第2実施形態によるインバータ装置におけるブートストラップコンデンサの充電方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1~
図7を参照して、第1実施形態によるインバータ装置100の構成について説明する。
【0021】
(インバータ装置の構成)
図1に示すように、インバータ装置100は、インバータ回路部10を備える。インバータ回路部10は、直流電圧を出力する電源部1を含む。電源部1は、3相出力の交流電源1aと、交流電源1aからの交流電圧を直流電圧に変換する整流部1bと、を含む。
【0022】
インバータ回路部10は、電源部1からの直流電圧を平滑化する主回路コンデンサ2を含む。主回路コンデンサ2は、電源部1からの直流電圧により充電されている。また、インバータ回路部10は、主回路コンデンサ2の電圧値Edcを検出する電圧検出部2aを含む。
【0023】
インバータ回路部10は、スイッチング素子部3を含む。スイッチング素子部3は、互いに直列に接続される上アーム素子3aおよび下アーム素子3bを含む。上アーム素子3aおよび下アーム素子3bの各々は、複数相(R相、S相、およびT相)ごとに設けられている。なお、上アーム素子3aおよび下アーム素子3bは、バイポーラトランジスタである。
【0024】
また、3つの上アーム素子3aの各々には上側ダイオード素子3cが並列に接続されている。また、3つの下アーム素子3bの各々には下側ダイオード素子3dが並列に接続されている。なお、上側ダイオード素子3cのアノード側が上アーム素子3aのエミッタ側に接続されている。また、下側ダイオード素子3dのアノード側が下アーム素子3bのエミッタ側に接続されている。
【0025】
また、上アーム素子3aと下アーム素子3bとの接続点Aがモータ101に接続されている。すなわち、相ごとに設けられた3つの接続点Aの各々が、モータ101に接続されている。
【0026】
また、インバータ回路部10は、下アーム素子3bがオンしている状態で充電されるブートストラップコンデンサ4を含む。ブートストラップコンデンサ4は、正側が上アーム素子3aのベース側に接続されている。また、ブートストラップコンデンサ4は、負側が上アーム素子3aのエミッタ側に接続されている。これにより、下アーム素子3bがオフしている状態で、ブートストラップコンデンサ4に充電された電圧により上アーム素子3aがオンされる。具体的には、ブートストラップコンデンサ4は、上アーム素子3aのベースおよびエミッタに所定の電圧を印加することにより上アーム素子3aをオン状態にする。
【0027】
なお、下アーム素子3bがオンしているとともに上アーム素子3aがオフしている状態で、後述する電源6aと、ブートストラップコンデンサ4と、下アーム素子3bとにより閉回路が構成されることにより、ブートストラップコンデンサ4が電源6aにより充電される。
【0028】
インバータ回路部10は、上アーム素子3aのベース駆動部5aと、下アーム素子3bのベース駆動部5bとを含む。ブートストラップコンデンサ4の正側は、ベース駆動部5aに接続されている。ベース駆動部5aは、3相の上アーム素子3aの各々に対応して設けられている。また、ベース駆動部5bは、3相の下アーム素子3bの各々に対応して設けられている。また、ベース駆動部5aおよびベース駆動部5bの各々は、後述する制御部8により動作(開閉)が制御されている。なお、
図1では、簡略化して、制御部8から1つの相のベース駆動部5aおよびベース駆動部5bに信号を送信しているように図示しているが、実際は3相それぞれのベース駆動部5aおよびベース駆動部5bに信号を送信している。
【0029】
また、インバータ回路部10には、1つのベース電圧用の電源6aが設けられている。電源6aは、各相のベース駆動部5aおよび各相のベース駆動部5bに入力されている。そして、後述する制御部8により動作(開閉)されたベース駆動部5aおよびベース駆動部5bを介して、電源6aの電圧が上アーム素子3aおよび下アーム素子3bのベースに入力される。なお、電源6aと各相のベース駆動部5aの各々との間には、アノード側が電源6aに接続されているダイオード6bが設けられている。
【0030】
インバータ回路部10は、スイッチング素子部3とモータ101との間を流れる電流値を検出する電流検出部7を含む。電流検出部7は、3つの接続点Aとモータ101との間のそれぞれの電流値を検出するように構成されている。なお、電流検出部7は、3つの接続点Aのうちの2つとモータ101との間のそれぞれの電流値を検出するように構成されていてもよい。なぜならば、3相の交流電流値の合計は常に0になるので、3相のうちの1相の電流値は直接計測しなくても、残りの2相の検出値から検知(算出)することが可能であるからである。
【0031】
また、インバータ装置100は、上アーム素子3aおよび下アーム素子3bのデューティ比を制御する制御部8を備える。具体的には、制御部8は、ベース駆動部5aおよびベース駆動部5bの各々にパルス信号を送信することにより、上アーム素子3aおよび下アーム素子3bのオンオフを制御(デューティ比を制御)するように構成されている。
【0032】
(インバータ装置の再始動に関する制御)
ここで、
図2~
図7を参照して、インバータ装置100の再始動に関する制御について説明する。
【0033】
まず、インバータ装置100によりモータ101が正常に運転されている場合(
図2の最初の状態「運転」を参照)は、主回路コンデンサ2の電圧値Edcは一定である。ここで、所定のアラーム要因等が生じたことに基づいて、インバータ装置100が停止(
図2の状態「停止」を参照)したとする。所定のアラーム要因等が生じる場合とは、たとえば主回路コンデンサ2の電圧値Edcが低下した場合である。この場合、インバータ回路部10(インバータ装置100)からモータ101への出力が停止される。この際、モータ101は、モータ101の回転が停止されずに一定時間継続される(
図2の状態「停止」におけるモータ速度を参照)フリーラン状態となる。フリーラン状態とは、慣性力や外力だけでモータ101が回転している状態を意味する。フリーラン状態には、ファンやポンプが外力によって回されている状況や、運転中に瞬時停電が発生して出力が遮断された状態で発生する。また、インバータ装置100が停止している間は、ブートストラップコンデンサ4の充電が低下する。
【0034】
次に、アラーム要因等が解除され正常に運転可能になった場合、運転の指令があれば、モータ101がフリーラン状態であるか否かに関わらず、インバータ装置100は運転を再開する。具体的には、インバータ装置100に備わる瞬時停電復帰等の機能により、停電直後にトリップレスで動作を再開する。トリップレスとは、異常電圧によって緊急停止要の状態とならないことを意味する。
【0035】
インバータ装置100の再始動の際には、まず、制御部8は、フリーラン状態において、ブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行う。以下に、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電について詳細に説明する。なお、ブートストラップコンデンサ4の充電中において、3相の下アーム素子3bのオンオフ状態は互いに同一である。すなわち、ブートストラップコンデンサ4の充電中において、3相の下アーム素子3bのデューティ比(オンオフ)は、制御部8により一律に制御される。
【0036】
具体的には、制御部8は、下アーム素子3bのオンオフ制御が停止している状態(オフ状態が維持されている状態)から、下アーム素子3bをデューティ比が1の状態でオンさせることにより、ブートストラップコンデンサ4を初期充電(
図2の状態「ブートストラップ充電待ち」の期間T1を参照)する制御を行うように構成されている。これにより、ブートストラップコンデンサ4の充電が増加する。なお、
図2の状態「ブートストラップ充電待ち」の期間の間は、3つの上アーム素子3aは、オフ状態が維持される。
【0037】
ここで、3相の下アーム素子3bがオン状態になると、モータ101のR相、S相、およびT相が互いに短絡状態になり、モータ101と下アーム素子3bとの間に大きな電流(過電流)(
図3の破線矢印参照)が流れる。なお、この電流は、モータ101がフリーラン状態において回転しているために発生する誘導起電力に起因して流れる。また、この電流は、RST相間の短絡電流である。なお、
図3は、説明に不要な素子等は、簡略化のため図示を省略している。
【0038】
この場合、インバータ回路部10に過剰に大きい電流(
図2の期間T1の出力電流を参照)が発生する。そして、制御部8は、この初期充電中に電流検出部7により過電流が流れていることが検知されたことに基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を1から第1のデューティ比(たとえば0.5)に低下させてブートストラップコンデンサ4を充電する制御(
図2の状態「ブートストラップ充電待ち」の期間T2を参照)を行うように構成されている。なお、制御部8は、電流検出部7により検出された電流値がI1以上になった場合に、下アーム素子3bのデューティ比を1から第1のデューティ比に低下させる制御を行う。
【0039】
ここで、下アーム素子3bが第1のデューティ比でオンオフされることにより、下アーム素子3bがオフにされる期間が生じる。下アーム素子3bがオフの状態(
図4の状態)では、モータ101からの回生電流が、上アーム素子3aと並列に接続される上側ダイオード素子3cを通り、主回路コンデンサ2に流れる。これにより、主回路コンデンサ2の電圧値Edcが上昇する。なお、期間T2の間は、下アーム素子3bが1よりも小さいデューティ比によりオンオフされるので、インバータ回路部10には、I1よりも小さい電流値I2の電流が流れる。
【0040】
また、下アーム素子3bがオンしている状態(
図3の状態)では、モータ101とインバータ回路部10との間で昇圧チョッパ回路(
図5参照)が構成される。ここで、
図5のEおよびLは、それぞれ、モータ101の逆起電圧およびモータ101内のインダクタンスを表している。また、
図5のTRおよびDは、それぞれ、下アーム素子3bおよび上側ダイオード素子3cを表している。また、
図5のCは主回路コンデンサ2を表している。
【0041】
図5に示すように、TR(下アーム素子3b)がオンしている間、E、L、TRの経路で電流が流れる。その後、TRがオフすると、Lに溜められたエネルギーが放出され、Cに充電がなされる。この時にCに発生する電圧は、EとLの電圧が加算されるため、Eよりも大きくなる。また、Lに溜められるエネルギーは、TR(下アーム素子3b)がオンしている間にLに流れる電流値の2乗に依存する。
【0042】
ここで、第1実施形態では、
図2に示すように、制御部8は、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比(たとえば0.25)に低下させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御(
図2の状態「ブートストラップ充電待ち」の期間T3を参照)を行うように構成されている。すなわち、下アーム素子3bのデューティ比を低下させることにより、主回路コンデンサ2の電圧値Edcの上昇に起因するL(
図5参照)に流れる電流値が低下(I2からI3に低下)するとともにLに溜められるエネルギーが低下する。一方で、下アーム素子3bのデューティ比を低下させることにより主回路コンデンサ2にモータ101からの電流が流れる時間が増加するが、Lに溜められるエネルギーが低下する分、主回路コンデンサ2の電圧値Edcの上昇が抑制される。これは、Lに溜められるエネルギーがLに流れる電流値の2乗に依存することにより、電流値の大きさがエネルギーに及ぼす影響が大きいことに起因する。なお、第1のデューティ比および第2のデューティ比の各々は、予め設定された値である。
【0043】
具体的には、制御部8は、第1のデューティ比により下アーム素子3bをオンオフさせることによって主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上になった場合に、ブートストラップコンデンサ4の充電時における下アーム素子3bのデューティ比を、第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化(低下)させる制御を行うように構成されている。第1しきい電圧E1は、予め設定された値である。たとえば、第1しきい電圧E1は、400V程度である。
【0044】
詳細には、制御部8は、電圧検出部2aにより検出された主回路コンデンサ2の電圧値Edcに基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化(低下)させる制御を行うように構成されている。すなわち、制御部8は、電圧検出部2aにより検出された電圧値Edcと第1しきい電圧E1との比較を行い、電圧値Edcが第1しきい電圧E1以上になった場合に、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化(低下)させる制御を行う。
【0045】
なお、仮に、
図6に示すように、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、主回路コンデンサ2の電圧が第2しきい電圧E2以上になった場合は、インバータ回路部10が強制停止状態にされる。この場合、下アーム素子3bは、オフ状態に固定される。第2しきい電圧E2は、第1しきい電圧E1よりも大きい。具体的には、第2しきい値は、たとえば420V程度である。また、第2しきい電圧E2は、予め設定された値である。なお、主回路コンデンサ2は、第2しきい電圧E2よりも大きい耐圧(たとえば450V程度)を有する。
【0046】
また、第1実施形態では、
図7に示すように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上の状態から第1しきい電圧E1よりも低い状態に変化した場合に、下アーム素子3bのデューティ比を、第2のデューティ比から第1のデューティ比に戻す制御を行うように構成されている。具体的には、
図7の期間T4の間は、主回路コンデンサ2の電圧(Edc)が第1しきい電圧E1以上であるので、下アーム素子3bは第2のデューティ比でオンオフされる。また、
図7の期間T5の間は、主回路コンデンサ2の電圧(Edc)が第1しきい電圧E1よりも小さいので、下アーム素子3bは第1のデューティ比でオンオフされる。なお、主回路コンデンサ2の電圧(Edc)が第1しきい電圧E1よりも小さくなった後に再び第1しきい電圧以上になった場合は、下アーム素子3bのデューティ比は第1のデューティ比から再び第2のデューティ比に変更される。
【0047】
また、第1実施形態では、
図2に示すように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に低下させた場合に、予め設定されたブートストラップコンデンサ4の充電時間を長くする制御を行うように構成されている。具体的には、予め、下アーム素子3bのデューティ比が1のままの状態でブートストラップコンデンサ4の充電が行われた場合に充電に要する時間に対応して、充電時間が設定されている。そして、制御部8は、下アーム素子3bのデューティ比が第1のデューティ比および第2のデューティ比に変更された場合に、変更されたデューティ比に対応して充電時間を長くする制御を行う。
【0048】
たとえば、予め設定された充電時間が10秒であるとして、下アーム素子3bのデューティ比が1の状態での充電が1秒行われたとする。その後、デューティ比が0.5に変更された場合、デューティ比が1の状態で残り9秒充電に要するので、9秒の2倍(1/0.5=2)の18秒が残りの充電時間となる。また、デューティ比が0.25に変更された場合は、上記と同じ考え方で、デューティ比が1の場合と0.5の場合のそれぞれにおいて充電された時間に基づく残りの充電容量から、充電に要する時間が算出される。たとえば、デューティ比が1の場合において1秒充電され、デューティ比が0.5の場合において8秒充電された後は、満充電の半分が充電されている状態なので、デューティ比が0.25に変更された場合、20秒(10×1/2×1/0.25=20)が残りの充電時間となる。
【0049】
そして、ブートストラップコンデンサ4の充電が完了した後(算出された充電時間が経過した後)は、モータ101の正常運転(
図2の状態「ブートストラップ充電待ち」の後の状態「運転」を参照)が再開される。
【0050】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0051】
第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中に、第1のデューティ比により下アーム素子3bをオンオフさせることによりブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うとともに、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。これにより、モータ101のフリーラン中にブートストラップコンデンサ4を充電する場合に、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御が行われることによって、インバータ回路部10に流れる電流値が大きくなるのを抑制することができるとともに、主回路コンデンサ2の電圧が過剰に大きくなるのを容易に抑制することができる。
【0052】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第1のデューティ比よりも小さい第2のデューティ比に低下させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。ここで、ブートストラップコンデンサ4の充電中において下アーム素子3bがオンオフしているうちのオン期間では、モータ101と下アーム素子3bとの間に短絡電流が流れる。この短絡電流に起因してモータ101のコイルにエネルギーが蓄えられる。また、下アーム素子3bがオンしている状態からオフされると、モータ101のコイルに蓄えられた(回生)エネルギーが主回路コンデンサ2に放出されるため、主回路コンデンサ2の電圧値Edcが高くなる。ここで、モータ101と下アーム素子3bとの間の短絡電流は、下アーム素子3bのデューティ比が大きい(下アーム素子3bがオンしている時間が長い)ほど大きくなる。また、モータ101のコイルに蓄えられるエネルギーは、モータ101と下アーム素子3bとの間の電流値の2乗に依存する。したがって、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に低下させる(下アーム素子3bのオフ期間を長くする)ことによって、モータ101からの回生電流が主回路コンデンサ2に流れることによって主回路コンデンサ2の電圧が上昇する時間が長くなる場合でも、主回路コンデンサ2の電圧上昇に起因するモータ101のコイルに蓄えられるエネルギーが大幅に小さくなるので、主回路コンデンサ2の電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。
【0053】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に低下させた場合に、予め設定されたブートストラップコンデンサ4の充電時間を長くする制御を行うように構成されている。これにより、下アーム素子3bのデューティ比を低下させた分、ブートストラップコンデンサ4の充電効率が低下する一方で、予め設定されたブートストラップコンデンサ4の充電時間を長くする制御が行われることによって、ブートストラップコンデンサ4が満充電にならないうちに充電期間が終了するのを抑制することができる。
【0054】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、第1のデューティ比により下アーム素子3bをオンオフさせることによって主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上になった場合に、ブートストラップコンデンサ4の充電時における下アーム素子3bのデューティ比を、第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。これにより、第1しきい電圧E1と主回路コンデンサ2の電圧値Edcとの比較を行うだけで下アーム素子3bのデューティ比の制御を行うことができるので、たとえば主回路コンデンサ2の電圧値Edcの変化率を算出して、算出した変化率に基づいて下アーム素子3bのデューティ比の制御を行う場合等に比べて、制御部8による制御を簡易にする(制御負荷を軽減する)ことができる。
【0055】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上の状態から第1しきい電圧E1よりも低い状態に変化した場合に、下アーム素子3bのデューティ比を、第2のデューティ比から第1のデューティ比に戻す(増加させる)制御を行うように構成されている。これにより、主回路コンデンサ2の電圧が元の状態に戻ったことに併せて、下アーム素子3bのデューティ比を元の状態に戻すことができる。これにより、ブートストラップコンデンサ4の充電をより速やかに行うことができる。
【0056】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、電圧検出部2aにより検出された主回路コンデンサ2の電圧値Edcに基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。これにより、電圧検出部2aの検出値に基づいて下アーム素子3bのデューティ比の制御を行うことができるので、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御をより正確に行うことができる。
【0057】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、下アーム素子3bをデューティ比が1の状態でオンさせることにより、ブートストラップコンデンサ4の初期充電を行う制御を行うように構成されている。また、制御部8は、初期充電中に電流検出部7により過電流が流れていることが検知されたことに基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を1から第1のデューティ比に低下させてブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。また、制御部8は、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。これにより、電流検出部7の検出値に基づいて下アーム素子3bのデューティ比を低下させることによりスイッチング素子部3とモータ101との間を流れる電流が過電流になるのを抑制しながら、主回路コンデンサ2の電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。
【0058】
また、第1実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態における複数相のブートストラップコンデンサ4の充電中において、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、複数相の下アーム素子3bの各々のデューティ比を一律に第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させて、複数のブートストラップコンデンサ4の各々を充電する制御を行うように構成されている。これにより、複数相に対応するインバータ装置100において、主回路コンデンサ2の電圧が過剰に大きくなるのを抑制することができる。また、複数相の下アーム素子3bの各々のデューティ比を一律に第1のデューティ比から第2のデューティ比に変化させることによって、複数相のブートストラップコンデンサ4の充電状態が互いに異なる状態になるのを抑制することができる。
【0059】
[第2実施形態]
次に、
図8および
図9を参照して、第2実施形態によるインバータ装置200の構成について説明する。第2実施形態のインバータ装置200では、主回路コンデンサ2の電圧値Edcが第1しきい電圧E1以上になった場合に下アーム素子3bのデューティ比を低下させる上記第1実施形態とは異なり、電圧値Edcが第1しきい電圧E1以上になった場合に下アーム素子3bのデューティ比を増加させる。なお、上記第1実施形態と同様の構成は、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。
【0060】
(インバータ装置の構成)
図8に示すように、インバータ装置200は、上アーム素子3aおよび下アーム素子3bのデューティ比を制御する制御部18を備える。
【0061】
(インバータ装置の再始動に関する制御)
図9を参照して、インバータ装置200の再始動に関する制御について説明する。
【0062】
第2実施形態では、
図9に示すように、制御部18は、第1のデューティ比(たとえば0.5)により下アーム素子3bをオンオフさせることによって主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上になった場合に、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比(たとえば0.75)に増加させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御(
図9の状態「ブートストラップ充電待ち」の期間T13を参照)を行うように構成されている。
【0063】
この場合、下アーム素子3bのデューティ比を増加させることにより、主回路コンデンサ2の電圧値Edcの上昇に起因するL(
図5参照)に流れる電流値が増加(I2からI13に増加)するとともにLに溜められるエネルギーが増加する。一方で、下アーム素子3bのデューティ比を増加させることにより主回路コンデンサ2にモータ101からの電流が流れる時間が減少する。すなわち、主回路コンデンサ2にモータ101からの電流が流れる時間が減少することの方が、Lに溜められるエネルギーが増加することよりも、主回路コンデンサ2の電圧値Edcに与える影響が大きいことに起因して、下アーム素子3bのデューティ比を第2のデューティ比に増加させることにより主回路コンデンサ2の電圧値Edcの上昇が抑制される。
【0064】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0065】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0066】
第2実施形態では、上記のように、制御部18は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中に、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比から第2のデューティ比に増加させることによって、主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御を行いながらブートストラップコンデンサ4を充電する制御を行うように構成されている。これにより、モータ101のフリーラン中にブートストラップコンデンサを充電する場合に、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて主回路コンデンサ2の電圧の上昇を抑制する制御が行われることによって、ブートストラップコンデンサ4の充電に要する時間を短くすることができるとともに、主回路コンデンサ2の電圧が過剰に大きくなるのを容易に抑制することができる。
【0067】
また、第2実施形態では、上記のように、制御部8は、フリーラン状態におけるブートストラップコンデンサ4の充電中において、主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上の状態から第1しきい電圧E1よりも低い状態に変化した場合に、下アーム素子3bのデューティ比を、第2のデューティ比から第1のデューティ比に戻す(低下させる)制御を行うように構成されている。これにより、主回路コンデンサ2の電圧が元の状態に戻ったことに併せて、下アーム素子3bのデューティ比を元の状態に戻すことができる。これにより、ブートストラップコンデンサ4の充電をより速やかに行うことができる。これにより、インバータ回路部10に流れる電流値を低下させることができる。
【0068】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0069】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0070】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、主回路コンデンサ2の電圧値Edcが第1しきい電圧E1以上になった場合に下アーム素子3bのデューティ比を変化させる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、主回路コンデンサ2の電圧値Edcの上昇率に基づいて下アーム素子3bのデューティ比を変化させてもよい。
【0071】
また、上記第1および第2実施形態では、ブートストラップコンデンサ4の初期充電時に下アーム素子3bのデューティ比を1にする制御が行われる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、初期充電時から下アーム素子3bのデューティ比を第1のデューティ比(1よりも小さいデューティ比)にしてもよい。
【0072】
また、上記第1および第2実施形態では、インバータ装置100(200)が、3相の交流電流に対応する構成である例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、インバータ装置が、単相の交流電流に対応する構成であってもよい。また、インバータ装置が、3相以上の複数相(たとえば6相)の交流電流に対応する構成であってもよい。
【0073】
また、上記第1および第2実施形態では、下アーム素子3bのデューティ比を低下させた場合に、ブートストラップコンデンサ4の充電時間を長くする制御が行われる例を示したが、本発明はこれに限られない。下アーム素子3bのデューティ比が変化した場合でも、ブートストラップコンデンサ4の充電時間を、予め設定された充電時間のまま変化させずに維持してもよい。
【0074】
また、上記第1および第2実施形態では、主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上の状態から第1しきい電圧E1よりも低い状態に変化した場合に、下アーム素子3bのデューティ比を、第2のデューティ比から第1のデューティ比に戻す制御が行われる例を示したが、本発明はこれに限られない。主回路コンデンサ2の電圧が第1しきい電圧E1以上になった場合は、主回路コンデンサ2の充電が完了するまで、下アーム素子3bのデューティ比を第2のデューティ比のまま維持してもよい。
【0075】
また、上記第1および第2実施形態では、上アーム素子3aおよび下アーム素子3bの各々がバイポーラトランジスタである例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、上アーム素子3aおよび下アーム素子3bの各々が、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)またはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0076】
また、上記第1および第2実施形態では、主回路コンデンサ2の電圧に基づいて、下アーム素子3bのデューティ比を、予め設定された値に変更する例を示したが、本発明はこれに限られない。下アーム素子3bのデューティ比の変化量を電流値等に基づき算出し、随時変化させてもよい。この場合、下アーム素子3bのデューティ比の増加および減少の両方を行うことを可能に制御部を構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 電源部
2 主回路コンデンサ
2a 電圧検出部
3 スイッチング素子部
3a 上アーム素子
3b 下アーム素子
4 ブートストラップコンデンサ
7 電流検出部
8、18 制御部
10 インバータ回路部
100、200 インバータ装置
101 モータ
A 接続点
E1 第1しきい電圧
Edc 電圧値(主回路コンデンサの電圧値)