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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】浸透度推定装置及び浸透度推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20231129BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20231129BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20231129BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20231129BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N21/359
G01N21/41 Z
A23L11/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020089588
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183944
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】原 理紗
(72)【発明者】
【氏名】村山 広大
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216886(JP,A)
【文献】特開2003-235544(JP,A)
【文献】特開2005-083804(JP,A)
【文献】特開2004-237496(JP,A)
【文献】特開2019-162052(JP,A)
【文献】特開2008-203156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/02
G01N 21/359
G01N 21/41
A23L 11/00
G01N 35/00-37/00
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬物を浸漬している浸漬液に溶出している前記浸漬物の成分濃度を測定するセンサに接続可能に構成されるインタフェースと、
前記インタフェースから前記成分濃度を取得し、前記成分濃度が所定範囲内である場合、前記浸漬物を前記浸漬液に浸漬する工程を終了させるタイミングであると判定する制御部と
を備える浸透度推定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記浸漬液が前記浸漬物に飽和するまで浸透したときの前記浸漬液の浸透量に対する、前記成分濃度を取得した時点における前記浸漬液の浸透量の割合を表す浸透度を、あらかじめ実施された実験の結果に基づいて定められた関係である前記浸透度と前記成分濃度との関係と、前記成分濃度の測定結果とに基づいて推定し、前記浸透度の推定値が所定範囲内である場合、前記浸漬物を前記浸漬液に浸漬する工程を終了させるタイミングであると判定する、請求項1に記載の浸透度推定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記浸透度の推定値に基づいて、前記浸漬物を加工することによって得られる加工品の品質を推定する、請求項2に記載の浸透度推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記浸透度の推定値に基づいて、浸漬工程より後の工程における前記浸漬物の加工条件を決定する、請求項2又は3に記載の浸透度推定装置。
【請求項5】
前記浸漬物は豆類である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の浸透度推定装置。
【請求項6】
浸漬物を浸漬している浸漬液に溶出している前記浸漬物の成分濃度を測定するセンサから、前記成分濃度の測定結果を取得するステップと、
前記成分濃度が所定範囲内である場合、前記浸漬物を前記浸漬液に浸漬する工程を終了させるタイミングであると判定するステップと
を含む浸透度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浸透度推定装置及び浸透度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、豆類の浸漬処理において、適切な処理時間が存在することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-162052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処理前の豆類の状態によって、豆類への水の浸透度と浸漬時間との関係が異なる。つまり、処理前の豆類の状態によって浸漬処理の適切な処理時間が異なる。処理時間を決定するために、浸漬処理における浸漬物の状態を監視する必要がある。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、浸漬処理における浸漬物の状態を監視できる浸透度推定装置及び浸透度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る浸透度推定装置は、浸漬物を浸漬している浸漬液に溶出している前記浸漬物の成分濃度を測定するセンサに接続可能に構成されるインタフェースと、前記インタフェースから前記成分濃度を取得し、前記成分濃度の測定結果に基づいて前記浸漬物に対する前記浸漬液の浸透度を推定する制御部とを備える。このようにすることで、浸漬物の状態が定量的に評価される。その結果、浸漬処理における浸漬物の状態が監視されやすくなる。
【0007】
一実施形態に係る浸透度推定装置において、前記制御部は、前記浸透度の推定値が所定範囲内である場合、前記浸漬物を前記浸漬液に浸漬する工程を終了させるタイミングであると判定してよい。このようにすることで、定量的な評価に基づいて終了のタイミングが判定される。その結果、浸漬処理を終了するタイミングの推定精度が向上する。
【0008】
一実施形態に係る浸透度推定装置において、前記制御部は、前記浸透度の推定値に基づいて、前記浸漬物を加工することによって得られる加工品の品質を推定してよい。このようにすることで、加工品の品質を考慮して浸漬処理を終了するタイミングが決定される。その結果、浸漬処理を終了するタイミングの推定精度が向上する。
【0009】
一実施形態に係る浸透度推定装置において、前記制御部は、前記浸透度の推定値に基づいて、浸漬工程より後の工程における前記浸漬物の加工条件を決定してよい。このようにすることで、浸漬工程における浸漬物の状態に合わせて加工品の品質を調整することができる。その結果、浸漬処理を終了するタイミングの自由度が増大する。
【0010】
幾つかの実施形態に係る浸透度推定方法は、浸漬物を浸漬している浸漬液に溶出している前記浸漬物の成分濃度を測定するセンサから、前記成分濃度の測定結果を取得するステップと、前記成分濃度の測定結果に基づいて前記浸漬物に対する前記浸漬液の浸透度を推定するステップとを含む。このようにすることで、浸漬物の状態を定量化できる。その結果、浸漬処理における浸漬物の状態が監視されやすくなる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、浸漬処理における浸漬物の状態を監視できる浸透度推定装置及び浸透度推定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】浸漬処理システムの構成例を示す図である。
図2】一実施形態に係る浸透度推定装置の構成例を示す図である。
図3】浸漬時間と浸漬液に溶出した成分の濃度との関係の一例を示すグラフである。
図4】浸漬処理の終了を判定する手順の一例を示すフローチャートである。
図5】浸漬時間と浸漬液の濁度との関係の一例を示すグラフである。
図6】浸漬物の加工条件を決定する手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
豆腐、豆乳又は水煮等の大豆加工品の製造プロセスにおいて、大豆中の成分抽出を容易にしたり食品の食味を良くしたりする目的で、大豆を水に浸漬させる工程が実行される。大豆を水に浸漬させる工程は、浸漬工程とも称される。例えば、豆乳は、大豆を水に浸漬させたのちに、破砕、加水、加熱及び濾過の各工程を実行することによって生産される。このとき、大豆の浸漬時間によって、生産される豆乳の品質が異なることが以下の文献1で報告されている。
文献1:日本食品工業学会誌、第38巻、第9号、770-775、(1991)
【0014】
浸漬工程における品質管理の条件として、浸漬時間、水温、又は大豆の膨潤比等のいくつかの条件が知られている。ここで、比較例として、浸漬時間を5~48時間等の範囲を目安として管理したり、水分吸水量を180~240%等の範囲を目安として管理したりすることが考えられる。その中で実際には、各製造現場での職人の経験則によって浸漬条件が決められている。浸漬終点は、人が大豆を触った感覚(皮の剥かれぐあい若しくは弾力等)、色、大豆を割った中身の芯の有無、又は、大豆の重さ若しくは大きさ等の指標に基づいて判定されている。大豆を触った感覚又は目視による判断は、その指標が人の五感に基づくものであることから、定量的な判断を困難にしている。さらに、大豆の個体差によって、この判断方法は必ずしも全ての大豆に適用できない。また、熟練者が非熟練者に対してこの感覚を伝承することは困難である。
【0015】
ここで、浸漬終点判断に用いられるデータの一例として、浸漬前後の大豆の重さ及び大きさの変化の一例が以下の表1に示される。大豆の大きさの欄における「n=10」という記載は、大豆の大きさが10個の平均として算出されていることを意味する。
【表1】
【0016】
浸漬時間が2時間である場合、浸漬時間が9時間又は24時間である場合と比較して、浸漬前後の膨潤比及び浸漬後の大きさが明らかに小さい。つまり、大豆の中まで水が十分に浸透していないといえる。浸漬時間が2時間の大豆は、その中まで水が十分に浸透していないことによって、十分に磨砕されない。したがって、浸漬時間が2時間の大豆から得られる生豆乳の濁度、脂質濃度及びタンパク質濃度が低くなっている。つまり、生豆乳に入る大豆の成分濃度が低くなっている。
【0017】
一方、浸漬時間が9時間である場合、及び、24時間である場合、浸漬時間が2時間である場合と比較して、浸漬前後の膨潤比及び浸漬後の大きさが明らかに大きい。つまり、大豆の中への水の浸透度が飽和する程度にまで水が十分に浸透しているといえる。
【0018】
ここで、浸漬時間が24時間である場合、浸漬時間が9時間である場合と比較して、大豆から実際に製造した生豆乳の濁度が低くなっている。つまり、浸漬時間として24時間は長すぎるといえる。
【0019】
しかし、浸漬時間が9時間である場合と24時間である場合とで大豆の大きさの差が小さい。したがって、大豆の大きさの見た目に基づいて浸漬時間が適切であるか判断することは難しい。そうすると、大豆の大きさの見た目だけに基づいて浸漬時間を判定する場合、浸漬時間が長すぎる状態を放置してしまうことが起こり得る。
【0020】
浸漬時間が長すぎることによって、生豆乳の脂質又はタンパク質の濃度にあまり差が生じないにもかかわらず濁度が低くなることは、浸漬工程において、脂質又はタンパク質の分散又は凝集の状態が変化することを示しているとみられる。
【0021】
ここで、浸漬工程において大豆を浸漬している水にオリゴ糖等の大豆の成分が溶出することが上述の文献1で報告されている。また、糖が豆乳中の脂質又はタンパク質の分散に寄与することが下記の文献2で報告されている。これらの文献の記載に鑑みると、脂質とタンパク質とは、凝集することによって水から分離して沈殿してしまい、ジュース飲料又はジェラート等の大豆加工製品の形状保持に大きな影響を与える。
文献2:Journal of Agricultural and Food Chemistry. 2008, 56, 2240-2245.
【0022】
以上、比較例として述べてきたような浸漬工程の終了の判断は、以下のような課題を有する。
(1)例えば、人が大豆を触った感覚(皮の剥かれぐあい若しくは弾力等)、大豆を割った中身の芯の有無、又は目視(色等)を人間の五感で確認する場合、浸漬終点を定量的に判断することが難しい。
(2)大豆の重さ又は大きさに基づいて浸漬終点を判断することが難しい。なぜならば、浸漬時間が適している場合と長すぎる場合とで、大豆の膨潤比又は大豆の大きさの差はわずかであるからである。大豆の重さ又は大きさだけを監視する場合、浸漬時間が長すぎる状態となっても浸漬工程を終了できずに放置してしまうことが起こり得る。
(3)上述の(1)又は(2)のいずれの方法で浸漬終点を判断する場合であっても、浸漬終点の判断を誤った結果、製品品質の低下、又は、ロット廃棄が生じるリスクがある。
(4)また、大豆製品の製造にかかる時間が延びてしまうことがある。
(5)他に大豆を割って中身を判断する方法が考えられるが、この方法によれば、大豆製品の原料となる大豆の一部が損失になってしまう。
【0023】
そこで、本開示は、浸漬工程の終了のタイミングの推定精度を向上できる浸透度推定装置10(図1等参照)を備える浸漬処理システムを説明する。
【0024】
(本開示の一実施形態)
図1に示されるように、本開示に係る浸漬処理システムは、浸透度推定装置10と、水槽1とを備える。水槽1は、浸漬物3を浸漬している水である浸漬液2を貯えている。水槽1は、浸漬液2に溶けている成分を検出するセンサ4を更に備える。
【0025】
浸漬物3は、例えば大豆であってよいが、これに限られず、後述するように他の種々の物品であってもよい。浸漬液2は、例えば水であってよいがこれに限られず、他の種々の液体であってもよい。浸漬液2の温度は、常温(例えば摂氏20~25度)であってもよいし、常温より低くても高くてもよい。
【0026】
センサ4は、例えば、近赤外センサ、ラマンセンサ、屈折率計、又はBRIX計等を含んで構成されてよい。近赤外センサ及びラマンセンサは、対象物の分子量に応じた吸収率の違いを検出することによって、糖(炭水化物)、タンパク質又は脂質等の対象物の種類毎の濃度を測定できる。屈折率計及びBRIX計は、濃度を種類別に測定できないものの、浸漬液2の中に溶け出した成分全体を合わせた濃度を測定できる。
【0027】
浸漬処理システムにおいて、センサ4は、水槽1に貯えられている浸漬液2を直接測定できるように設置されてよい。浸漬処理システムは、浸漬液2を水槽1からサンプリングして測定するように構成されてもよい。浸漬液2をサンプリングして測定する方法は、紫外分光法若しくは可視分光法、又はエーテル抽出法等を含んでよい。
【0028】
図2に示されるように、浸透度推定装置10は、制御部20と、インタフェース30と、出力部40とを備える。インタフェース30は、センサ4に接続可能に構成される。インタフェース30は、例えば、LAN(Local Area Network)等の通信インタフェースを備えてよい。インタフェース30は、有線又は無線によってセンサ4と通信可能に接続されてよい。
【0029】
制御部20は、インタフェース30を介して、センサ4の測定データを取得する。制御部20は、浸透度推定装置10の各構成部から情報を取得したり、各構成部を制御したりする。制御部20は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。制御部20は、所定のプログラムを実行することによって、浸透度推定装置10の種々の機能を実現してよい。
【0030】
制御部20は、記憶部を備えてよい。記憶部は、制御部20の動作に用いられる各種情報、又は、制御部20の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部20のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、制御部20と別体で構成されてもよい。
【0031】
出力部40は、制御部20から取得した情報を出力する。出力部40は、直接又は外部装置等を介して、文字、図形、又は画像等の視覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してよい。出力部40は、表示デバイスを備えてもよいし、表示デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。出力部40は、直接又は外部装置等を介して、音声等の聴覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。出力部40は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよいし、音声出力デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。出力部40は、視覚情報又は聴覚情報だけでなく、直接又は外部装置等を介して、ユーザが他の感覚で知覚できる情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。
【0032】
(浸漬工程の終了判定動作)
図3に示されるように、実験の結果、浸漬物3を浸漬液2に浸漬する時間が長くなるほど、浸漬液2に溶け出した浸漬物3の成分濃度が高くなる。また、浸漬液2に溶け出した浸漬物3の成分濃度と浸漬時間との間に比例関係が見られる。浸漬液2の中の浸漬物3の成分濃度は、浸漬物3の成分の溶出量を表す数値である。浸漬物3の成分の溶出は、浸漬液2が浸漬物3に浸潤した結果として生じる。したがって、浸漬液2の中の浸漬物3の成分濃度は、浸漬物3への浸漬液2の浸透度の指標としての性質を有する。つまり、浸漬液2の中の浸漬物3の成分濃度と、浸漬物3への浸漬液2の浸透度との関係をあらかじめ明らかにしておくことによって、浸漬液2の中の浸漬物3の成分濃度の測定結果に基づいて、どのくらいの量の浸漬液2が浸漬物3に浸透しているか推定できる。
【0033】
浸透度推定装置10の制御部20は、浸漬物3への浸漬液2の浸透度と、浸漬液2の中の浸漬物3の成分濃度との関係をあらかじめ取得しておく。制御部20は、各成分の濃度と浸透度との関係を取得してもよい。制御部20は、例えば、浸漬液2の中のタンパク質の濃度と浸透度との関係を取得してもよい。制御部20は、例えば、浸漬液2の中の脂質の濃度と浸透度との関係を取得してもよい。
【0034】
浸透度と成分濃度との関係は、あらかじめ実施された実験の結果に基づいて定められてよい。浸透度と成分濃度との関係は、テーブル又は検量線によって表されてもよいし、関係式によって表されてもよい。浸透度と成分濃度との関係は、浸漬物3の種類に応じて異なる。例えば、浸漬物3が大豆である場合、大豆の品種、産地又は収穫時期等の条件に応じて、浸透度と成分濃度との関係が異なる。したがって、浸透度と成分濃度との関係は、条件毎にあらかじめ準備されてよい。また、浸透度と成分濃度との関係を表すテーブル、検量線又は関係式は、大豆の品種等の条件をパラメータとして含んでもよい。
【0035】
制御部20は、センサ4から浸漬液2の中の浸漬物3の成分濃度の測定結果を取得する。制御部20は、浸透度と成分濃度との関係、及び、センサ4から取得した成分濃度の測定結果に基づいて、浸漬物3への浸漬液2の浸透度を推定できる。制御部20は、浸透度の推定結果が所定範囲に収まる場合に浸漬工程の終了のタイミングが到来したと判定する。所定範囲は、あらかじめ実施された実験の結果に基づいて定められてよい。所定範囲は、浸漬物3の種類に応じて異なる。例えば、浸漬物3が大豆である場合、大豆の品種、産地又は収穫時期等の条件に応じて、浸漬工程の終了のタイミングが適切なタイミングとなる所定範囲が異なる。したがって、所定範囲は、条件毎にあらかじめ準備されてよい。
【0036】
制御部20は、浸透度と成分濃度との関係に基づいて、浸透度が所定範囲に収まる場合の浸漬物3の成分濃度の範囲を算出してもよい。浸透度が所定範囲に収まる場合の浸漬物3の成分濃度の範囲は、目標範囲とも称される。目標範囲は、あらかじめ実施された実験の結果に基づいて定められてよい。
【0037】
制御部20は、浸漬物3の成分濃度の測定結果が目標範囲内の値であるか判定してよい。制御部20は、例えば、浸漬液2の中の脂質濃度が目標範囲内の値であるか判定してよい。制御部20は、例えば、浸漬液2の中のタンパク質濃度が目標範囲内の値であるか判定してよい。制御部20は、浸漬物3の成分濃度の測定結果が目標範囲内の値である場合、浸漬工程の終了のタイミングが到来したと判定してよい。
【0038】
制御部20が浸漬工程の終了のタイミングが到来したと判定した場合、出力部40によって、浸漬工程の作業者又は管理者等に対して判定結果を報知してよい。
【0039】
浸漬処理システムは、浸漬工程の開始及び終了を自動で実行してよい。この場合、制御部20は、浸漬工程の終了のタイミングが到来したと判定したときに、浸漬工程を終了させる制御情報を出力してもよい。
【0040】
<浸透度推定方法のフローチャートの一例>
浸透度推定装置10の制御部20は、図4に例示されるフローチャートの手順を含む浸透度推定方法を実行してもよい。浸透度推定方法は、制御部20等のプロセッサに実行させる浸透度推定プログラムとして実現されてもよい。浸透度推定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0041】
制御部20は、センサ4から濃度測定結果を取得する(ステップS1)。
【0042】
制御部20は、成分濃度が目標範囲内の値であるか判定する(ステップS2)。具体的には、制御部20は、タンパク質又は脂質等の成分毎に成分濃度が目標範囲内の値であるか判定してもよい。制御部20は、浸漬液2の中に溶け出した成分全体の濃度が目標範囲内の値であるか判定してもよい。
【0043】
制御部20は、成分濃度が目標範囲内の値でない場合(ステップS2:NO)、ステップS1の手順に戻る。制御部20は、成分濃度が目標範囲内の値である場合(ステップS2:YES)、浸漬工程の終了のタイミングが到来したと判定し、終了タイミングを報知する(ステップS3)。制御部20は、ステップS3の手順の終了後、図4のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0044】
制御部20は、ステップS2の手順の前に濃度測定結果に基づいて浸透度を推定する手順を実行してもよい。この場合、制御部20は、ステップS2の手順において、浸透度の推定値が所定範囲内であるか判定してもよい。制御部20は、浸透度の推定値が所定範囲内である場合にステップS3の手順に進み、浸漬工程の終了のタイミングが到来したと判定してもよい。
【0045】
以上述べてきた本実施形態に係る浸漬処理システムによれば、浸漬工程の進行度が定量的に評価される。また、浸漬工程の進行度が定量的に評価されることによって、浸漬時間が長すぎる状態で浸漬物3が放置されることなく、浸漬処理が適切な時間で終了される。また、浸漬処理が適切な時間で終了されることによって、浸漬処理後の加工品の品質の安定化、及び、加工品のロット廃棄のリスクの低減が期待される。また、浸漬処理が適切な時間で終了されることによって、浸漬処理で無駄な時間が費やされにくくなる。また、浸漬物3ではなく浸漬液2を用いて浸漬工程の終了のタイミングが判定されることによって、加工品の材料となる浸漬物3の損失が減らされる。
【0046】
(他の実施形態)
浸透度推定装置10の制御部20は、浸漬物3が大豆である場合、浸漬工程及び磨砕工程後に得られる生豆乳又は豆乳の性質と、浸漬液2の浸透度との関係をあらかじめ取得してもよい。また、制御部20は、生豆乳又は豆乳の性質と、浸漬時間との関係をあらかじめ取得してもよい。
【0047】
生豆乳又は豆乳の性質は、例えば生豆乳の濁度として表され得る。制御部20は、図5に示されるように、浸漬時間と生豆乳の濁度との関係をあらかじめ取得してよい。図5によれば、浸漬時間が所定範囲内である場合に濁度が所定値以上となっている。制御部20は、生豆乳の濁度の目標値に基づいて、浸漬時間が適切な時間となる所定範囲を算出してよい。このように、制御部20は、浸透度又は浸漬時間と生豆乳又は豆乳の性質との関係をあらかじめ取得することによって、浸漬工程の後の、大豆を磨砕する工程を実施する前に生豆乳又は豆乳の性質を推定できる。また、制御部20は、最終的に得られる加工品の品質を推定できる。このようにすることで、加工品の品質を考慮して浸漬処理を終了するタイミングが決定される。その結果、浸漬処理を終了するタイミングの推定精度が向上する。
【0048】
また、制御部20は、生豆乳又は豆乳の性質の目標値に合わせて、浸漬処理の終了のタイミングを決定できる。つまり、制御部20は、生豆乳又は豆乳の性質の目標値に合わせて、図4のフローチャートのステップS2の手順において浸漬液2に溶け出した大豆の成分濃度の判定基準となる目標範囲を算出できる。また、制御部20は、生豆乳又は豆乳の性質の目標値に合わせて、図4のフローチャートのステップS2の代替手順において浸透度の推定値の判定基準となる所定範囲を算出できる。
【0049】
制御部20は、浸漬物3を浸漬工程後に更に加工する際の条件を決定してもよい。具体的には、制御部20は、浸漬物3が大豆である場合、浸漬液2の中の大豆の成分濃度に基づいて生豆乳の性質を推定し、生豆乳の性質が所望の性質になるような加工条件を決定する。加工条件は、例えば、大豆を磨砕する工程における添加物の添加量を含んでよい。つまり、制御部20は、浸漬液2の中の大豆の成分濃度に基づいて、磨砕工程等の種々の後工程における添加物の添加量を算出してよい。添加物は、例えば水を含んでよいし、他の成分を含んでもよい。このようにすることで、制御部20は、浸漬工程における浸漬物3の状態に合わせて加工品の品質を調整することができる。その結果、浸漬工程の処理時間が適した時間となる所定範囲が広げられ得る。つまり、浸漬処理を終了するタイミングの自由度が増大する。
【0050】
制御部20は、図6に例示されるフローチャートの手順を含む添加量算出方法を実行してもよい。添加量算出方法は、制御部20等のプロセッサに実行させる添加量算出プログラムとして実現されてもよい。添加量算出プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。ここで、浸漬物3が大豆であるとする。
【0051】
制御部20は、センサ4から浸漬液2の中の大豆成分の濃度測定結果を取得する(ステップS11)。
【0052】
制御部20は、生豆乳の性質を推定する(ステップS12)。具体的には、制御部20は、浸漬液2の中の大豆の成分濃度に基づいて生豆乳の性質を推定する。
【0053】
制御部20は、添加物の添加量を算出する(ステップS13)。
【0054】
後工程の作業者又は装置は、添加物を添加する(ステップS14)。制御部20は、後工程の作業者又は装置に対して、ステップS13の手順で算出した添加物の添加量を出力する。制御部20は、ステップS14の手順の実行後、図6のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0055】
制御部20は、後工程の実施によって得られる加工品の品質に関する情報に基づいて、浸漬液2に溶け出した大豆の成分濃度の判定基準となる目標範囲、又は、浸透度の推定値の判定基準となる所定範囲のうち少なくとも一方を変更してよい。つまり、制御部20は、加工品の品質に関する情報を、浸漬処理の終了のタイミングの判断基準にフィードバックしてよい。
【0056】
本開示に係る浸透度推定装置10が実行する動作及び浸透度推定方法は、浸漬物3が大豆である場合に、大豆の浸漬工程だけでなく種々の製造工程で採用されることができる。種々の製造工程は、例えば、豆乳、豆腐、水煮、若しくは味噌等の食品加工、大豆由来油脂を利用した化粧品、食用油、若しくは燃料、又は、大豆由来タンパク質を利用したプラスチック等素材加工等の製造プロセスを含んでよい。
【0057】
また、本開示に係る浸透度推定装置10が実行する動作及び浸透度推定方法は、大豆だけでなく、浸漬物3の成分が浸漬液2に溶け出す物質を浸漬物3とする浸漬処理で採用されることができる。例えば、小豆若しくはグリンピース等の豆類、白米若しくは玄米等の米類、又は、紙パルプ等の浸漬工程で採用されることが期待される。浸漬物3が豆類である場合、あんこ又は水煮等の加工品の品質が向上し得る。浸漬物3が米類である場合、酒等の加工品の品質が向上し得る。浸漬物3が紙パルプである場合、紙の品質が向上し得る。浸漬物3がカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバである場合、カーボン製品の品質が向上し得る。
【0058】
浸透度推定プログラム、又は、品質管理プログラムは、ネットワークで接続されるコンピュータで実行されてもよい。つまり、浸透度推定装置10は、クラウドコンピューティングで実現されてもよい。
【0059】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 水槽
2 浸漬液
3 浸漬物
4 センサ
10 浸透度推定装置(20:制御部、30:インタフェース30、40:出力部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6