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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両用ドア構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
B60J5/00 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020108586
(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022006392
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金澤 淳平
(72)【発明者】
【氏名】土屋 和秀
(72)【発明者】
【氏名】平田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】カムレッシュ クマール シャルマ
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特許第5909220(JP,B2)
【文献】特開2006-77490(JP,A)
【文献】特開2010-132057(JP,A)
【文献】特開2014-28533(JP,A)
【文献】実開昭63-83365(JP,U)
【文献】再公表特許第2011/155438(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/195315(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/258935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタパネル(11)と縦壁部(122、124)、平面部(123)からなる段差部(12A)を有するインナパネル(12)とから構成されるドア本体(1)と、
前記アウタパネルのハンドル保持部(110)に取り付けられ、前記ハンドル保持部に保持され、操作可能なハンドル(2)と、
前記ドア本体内で前記インナパネルに設置され、車体側のストライカに噛合し、前記ドア本体を閉じた状態でドアをロックするラッチ機構(3)と、
前記ドア本体内で上端が前記ハンドルに接続され、下端が前記ラッチ機構に接続され、前記ハンドルの操作により上下方向に移動し、この上下方向の移動によって、前記ラッチ機構のロックを操作する接続ロッド(4)と、
前記ラッチ機構の下方で、前記インナパネルの前部と後部との間に配置されるドアビーム部材(7)と、
前記ドアビーム部材の前端部を前記インナパネルの前部に固定する前側保持ブラケット(5)と、
前記ドアビーム部材の後端部を前記インナパネルの後部に固定する後側保持ブラケット(6)とを備え、
前記後側保持ブラケット(6)の後側部(61)が前記インナパネルの前記平面部に固定され、
前記後側保持ブラケットの前側部(62)が前記平面部から前記インナパネルの内周上に突出されるように形成される車両用ドア構造において、
前記後側保持ブラケット(6)は、
前記前側部に形成され、前記ドアビーム部材の後端部を保持するドアビーム部材保持部(622)と、
前記後側部の上下に設けられ、前記後側保持ブラケットを前記インナパネルに接合するための複数の固定点(611)と、
前記前側部と前記後側部との間に前記後側部の複数の前記固定点を結ぶ仮想線に平行して上下方向に延び、前記前側部が変形可能となる変形容易部(63)と、
前記前側部の上端部に形成されて当該上端部から車体幅方向内側に前記ラッチ機構に向けて延び、前記ラッチ機構のロック状態における前記接続ロッドの下端に対して下方で近接しかつ前記接続ロッドの下方で重ならない車体幅方向外側に隣接して配置されるロッド受け部(64)と、
を備える、
ことを特徴とする車両用ドア構造。
【請求項2】
前記変形容易部(63)は、前記前側部と前記後側部との間で少なくとも前記ドアビーム部材保持部(622)の上下の位置に前記後側部の複数の前記固定点を結ぶ仮想線に沿って、前記前側部が前記後側部に対して車体幅方向外側に突出する段差形状に形成され、前記前側部と前記インナパネルとの間に所定の隙間を有する段差形状が形成されている請求項1に記載の車両用ドア構造。
【請求項3】
前記後側保持ブラケットは補強部材(8)を介して前記インナパネルに設置され、前記補強部材(8)は前記インナパネルの前記平面部(123)の形状に対応する補強平面部(81)と、前記インナパネルの前記縦壁部(124)の形状に対応する補強縦壁部(82)と、前記補強平面部(81)と前記補強縦壁部(82)との間に設けられる屈曲部(83)とを有し、前記補強平面部(81)が前記後側保持ブラケットの前記後側部の各前記固定点で前記インナパネルの前記平面部(123)と接合され、前記補強平面部に対して前記補強縦壁部(82)が前記屈曲部(83)で車体幅方向内側に屈曲されて前記インナパネルの前記縦壁部(124)に沿って接合される請求項1又は2に記載の車両用ドア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア構造に関し、特に、車両の外部からドアに衝撃荷重を受けたときに、ドアの変形により生じることがあるラッチ機構のドア開動作の作動を規制する車両用ドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用ドア構造が特許文献1により提案されている。この文献1の車両用ドア構造は、車両の外部からドア本体に衝撃荷重が入力されたときに、ロッドの変位を規制する規制部材を備えている。この規制部材により、ドア本体に衝撃荷重が入力された場合でも、ロッドが下方に変位するのを規制して、ドア本体と車体との係合が解除されるのを防止する。
【0003】
この車両用ドア構造において規制部材は、ドア本体の幅方向においてロッド(例えば、実施形態におけるロッド12)の下端部(例えば、実施形態における下端部12b)の直下を跨るように配置され、ロッドの下端部よりもドア本体の幅方向の一方側において、ドアアウタパネルに接続される接続部(例えば、実施形態における接続部51)と、ロッドの下端部よりもドア本体の幅方向の他方側において、ロッドの下端部の最下点よりも上方に位置する変位規制部(例えば、実施形態における変位規制部53)とを備え、変位規制部よりも下方に剥離部(例えば、実施形態における剥離部59)を有している。
【0004】
この規制部材では、変位規制部よりも下方に剥離部を有していることで、車両の外部からドア本体に衝撃荷重が入力され、ドアアウタパネルの変形に対応して接続部が移動すると、変位規制部よりも下方がドア本体のドアインナパネルから剥離して容易に移動する。これにより、ロッドの下端部の下方には、変位規制部が配置されるので、ロッドの下方への変位を規制することができる。したがって、車両の外部からドア本体に衝撃荷重を受けても、ドア本体が開状態となるのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5909220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように上記従来の車両用ドア構造は、車両の外部からドア本体に衝撃荷重が入力されたときに、規制部材の変位規制部をロッドの変位方向に変形させるようにしている。しかしながら、このような構造では、ロッドの変位量に対して変位規制部の位置が不正確になりやすく、ロッドと変位規制部との間の上下方向のクリアランスを十分に詰めることができず、ドア本体の開放を許してしまうおそれがある。
【0007】
本発明はこのような従来の問題を解決するものであり、この種の車両用ドア構造において、車両の側面衝突(以下、側突という。)時など車両の外部からドア本体に衝撃荷重を受けて、ドア本体が変形した場合に、ラッチ機構の解除(ラッチ機構によるドア開動作の作動)を規制して、ドア本体の開放を防止すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、
アウタパネル(11)と縦壁部(122、124)、平面部(123)からなる段差部(12A)とを有するインナパネル(12)とから構成されるドア本体(1)と、
前記アウタパネルのハンドル保持部(110)に取り付けられ、前記ハンドル保持部に保持され、操作可能なハンドル(2)と、
前記ドア本体内で前記インナパネルに設置され、車体側のストライカに噛合し、前記ドア本体を閉じた状態でドアをロックするラッチ機構(3)と、
前記ドア本体内で上端が前記ハンドルに接続され、下端が前記ラッチ機構に接続され、前記ハンドルの操作により上下方向に移動し、この上下方向の移動によって、前記ラッチ機構のロックを操作する接続ロッド(4)と、
前記ラッチ機構の下方で、前記インナパネルの前部と後部との間に配置されるドアビーム部材(7)と、
前記ドアビーム部材の前端部を前記インナパネルの前部に固定する前側保持ブラケット(5)と、
前記ドアビーム部材の後端部を前記インナパネルの後部に固定する後側保持ブラケット(6)とを備え、
前記後側保持ブラケット(6)の後側部(61)が前記インナパネルの前記平面部に固定され、
前記後側保持ブラケットの前側部(62)が前記平面部から前記インナパネルの内周上に突出されるように形成される車両用ドア構造において、
前記後側保持ブラケット(6)は、
前記前側部に形成され、前記ドアビーム部材の後端部を保持するドアビーム部材保持部(622)と、
前記後側部の上下に設けられ、前記後側保持ブラケットを前記インナパネルに接合するための複数の固定点(611)と、
前記前側部と前記後側部との間に前記後側部の複数の前記固定点を結ぶ仮想線に平行して上下方向に延び、前記前側部が変形可能となる変形容易部(63)と、
前記前側部の上端部に形成されて当該上端部から車体幅方向内側に前記ラッチ機構に向けて延び、前記ラッチ機構のロック状態における前記接続ロッドの下端に対して下方で近接しかつ前記接続ロッドの下方で重ならない車体幅方向外側に隣接して配置されるロッド受け部(64)と、
を備える、
ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用ドア構造によれば、車両の側突時など車両の外部からドア本体に衝撃荷重を受けて、ドア本体が変形した場合に、ラッチ機構の解除を規制して、ドア本体の開放を防止することができる、という本発明独自の格別な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)本発明の一実施の形態に係る車両用ドア構造の全体構成を示すドア本体のアウタパネル側の側面図(b)同車両用ドア構造の全体構成を示すドア本体のインナパネル側の側面図
図2】同車両用ドア構造の要部の構成を示す一部断面正面図
図3】同車両用ドア構造の要部の構成を示す側面図
図4】同車両用ドア構造の要部の構成を示す平面図
図5】同車両用ドア構造の要部の構成を示す側面図
図6】同車両用ドア構造の要部の構成を示す平面図
図7】同車両用ドア構造の要部の構成を示す斜視図
図8】(a)同車両用ドア構造の側突前の状態を示す斜視図(b)同車両用ドア構造の側突時の動作を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る車両用ドア構造は、ドア本体1内で上端がハンドル2に接続され、下端がラッチ機構3に接続され、ハンドル2の操作により上下方向に移動して、ラッチ機構3のロックを操作する接続ロッド4が、側突時に、下方へ移動するのを規制するドア開放防止構造を備える。このドア開放防止構造は、ラッチ機構3の下方でインナパネル12後部の平面部123に固定され、ドアビーム部材7を保持する後側保持ブラケット6を用いて構成される。後側保持ブラケット6は、図3に示すように、前側部62にドアビーム部材保持部622、後側部61の上下に複数の固定点611、前側部62と後側部61との間に変形容易部63、前側部62の上端部にロッド受け部64を備える。通常、ロッド受け部64は、図2図4に示すように、ラッチ機構3のロック状態における接続ロッド4の下端に対して下方で近接しかつ接続ロッド4の下方で重ならない車体幅方向外側に隣接して配置される。そして、側突時に、後側保持ブラケット6の前側部62が変形容易部63を起点に変形することにより、ロッド受け部64が接続ロッド4の下側に移動して、このロッド受け部64により接続ロッド4を受ける。このようにして車両の側突時など車両の外部からドア本体1に衝撃荷重を受けて、ドア本体1が変形した場合に、ラッチ機構3の解除を規制して、ドア本体1の開放を防止する。
【0012】
図1図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る車両用ドア構造は、ドア本体1と、ハンドル2と、ラッチ機構3と、接続ロッド4と、ドアビーム部材7と、前側保持ブラケット5及び後側保持ブラケット6とを備えて構成される。
【0013】
ドア本体1はアウタパネル11と縦壁部122、124、平面部123からなる段差部12Aとを有するインナパネル12とから構成される。
【0014】
ハンドル2はアウタパネル11のハンドル保持部110に取り付けられ、ハンドル保持部110に保持され、操作可能になっている。
【0015】
ラッチ機構3はドア本体1内でインナパネル12に設置され、車体側のストライカ(図示省略)に噛合し、ドア本体1を車体ドア枠B1に閉じた状態でドア本体1をロックする。
【0016】
接続ロッド4は、ドア本体1内で上端がハンドル2に接続され、下端がラッチ機構3に接続され、ハンドル2の操作により上下方向に移動し、この上下方向の移動によって、ラッチ機構3のロックを操作する。この場合、接続ロッド4は、ハンドル2の操作により下方に移動されると、ラッチ機構3のロック(ドア本体1と車体ドア枠B1とのロック)を解除する。
【0017】
ドアビーム部材7は、ラッチ機構3の下方で、インナパネル12の前部と後部との間に配置される。
【0018】
前側保持ブラケット5は、ドアビーム部材7の前端部をインナパネル12の前部に固定する。後側保持ブラケット6は、ドアビーム部材7の後端部をインナパネル12の後部に固定する。このドア構造では、後側保持ブラケット6の後側部61がインナパネル12の平面部123に固定され、後側保持ブラケット6の前側部62が平面部123からインナパネル12の内周上に突出されるように形成される。しかしてドアビーム部材7は、ラッチ機構3の下方で、前端部がインナパネル12の前部に前側保持ブラケット5を介して固定され、後端部がインナパネル12の後部に後側保持ブラケット6を介して固定されて、インナパネル12の前部、後部間に架け渡し配置される。
【0019】
そして、この車両用ドア構造では、後側保持ブラケット6は、図3に示すように、ドアビーム部材保持部622と、複数の固定点611と、変形容易部63と、ロッド受け部64とを備えて構成される。
【0020】
ドアビーム部材保持部622は前側部62に形成され、ドアビーム部材7の後端部を保持する。
【0021】
複数の固定点611は後側部61の上下に設けられ、後側保持ブラケット62をインナパネル12に接合する。
【0022】
変形容易部63は前側部62と後側部61との間に後側部61の複数の固定点611を結ぶ仮想線に平行して上下方向に延び、前側部62が変形可能となる。この変形容易部63は前側部62を変形させるきっかけとなるように変形を容易にしてある。
【0023】
ロッド受け部64は前側部62の上端部に形成され、この上端部から車体幅方向内側にラッチ機構3に向けて延び、ラッチ機構3のロック状態における接続ロッド4の下端に対して下方で近接しかつ接続ロッド4の下方で重ならない車体幅方向外側に隣接して配置される。
【0024】
このようにして、ドア本体1に衝撃荷重を受けたときに、後側保持ブラケット6の前側部62の変形により、ロッド受け部64が接続ロッド4の下側に移動して、このロッド受け部64により接続ロッド4の下方への移動を規制する。
【0025】
一般の車両用ドア構造においては、側突によりドア本体の中央部などに車体内側方向の衝撃荷重が加えられた場合、アウタパネルが変形してハンドル保持部が歪むことで、ハンドルがドア本体の開放操作方向となる外側に動き、接続ロッドが下方に押されることがある。このような場合、接続ロッドの下方への移動により、ラッチ機構のロックが解除され、ドア本体が開放されることが起こることがある。これに対して、この車両用ドア構造では、後側保持ブラケット6の後側部61と前側部62との間の変形容易部63と前側部62上端のロッド受け部64とにより、接続ロッド4の下方への移動を規制することができる。すなわち、変形容易部63は後側保持ブラケット6の後側部61と前側部62との間に後側部61の複数の固定点611を結ぶ仮想線に平行して上下方向に延びている。ロッド受け部64は前側部62の上端部から車体幅方向内側にラッチ機構3に向けて延び、通常時は、接続ロッド4の下端に対して下方で近接しかつ接続ロッド4の下端に対して下方に重ならない車体幅方向外側に隣接する位置に配置される。しかしてドア本体1に車体内側方向の衝撃荷重が加えられて、これがドアビーム部材7に入力されると、変形容易部63を起点に、前側部62が車体幅方向内側に変形し移動する。この前側部62の変形、移動により、ロッド受け部64が通常時の位置から、車体幅方向内側へラッチ機構3に向けて移動し、接続ロッド4の下端に対して下方で近接しかつ接続ロッド4の下端に対して下方に重なる位置へ移動される。このロッド受け部64が接続ロッド4の下端の下側に移動することで、このロッド受け部64の干渉により接続ロッド4の下方への移動が規制される。なお、後側保持ブラケット6に車体内側方向への荷重が直接加えられない場合でも、側突時に、ロッド受け部64は接続ロッド4の下端の下側に移動され、接続ロッド4の移動が阻止される。したがって、ラッチ機構3のロック解除が防止され、車体ドア枠B1からのドア本体1の開放を防ぐことができる。また、この車両用ドア構造のドア開放防止構造によると、ラッチ機構3によりドア本体1が閉状態にロックされた状態での接続ロッド4の下端とロッド受け部64との間の上下方向のクリアランスを小さくすることができ、接続ロッド4の下端の下方への移動に対して遊びを削減することができる。これにより、このドア開放防止構造による動作をタイムラグをより少なくしかつ確実に実行させることができる。
【0026】
この車両用ドア構造において、後側保持ブラケット6の変形容易部63は、図5図6に示すように、前側部62と後側部61との間で少なくともドアビーム部材保持部622の上下の位置に後側部61の複数の固定点611を結ぶ仮想線に沿って、前側部62が後側部61に対して車体幅方向外側に突出する段差形状に形成され、前側部62とインナパネル12との間に所定の隙間を有する段差形状が形成されている。
【0027】
若干補足すると、変形容易部63は、図5に示すように、後側部61と前側部62との間に少なくともドアビーム部材保持部622の上下の位置に後側部61の複数の固定点611を結ぶ仮想線に沿って曲面形状の回り込み部を形成して設けられる。この変形容易部63が段差部となって、図6に示すように、前側部62は後側部61に対して車体幅方向外側に突出する段差形状を呈し、前側部62とインナパネル12との間に所定のクリアランスを有している。
【0028】
このように後側保持ブラケット6の上下方向に延びる変形容易部63に曲面形状の回り込み部を形成し、この変形容易部63を段差部としてある。このようにしたことで、後側保持ブラケット6を車体幅方向以外の方向へ変形させようとする荷重に対してこの後側保持ブラケット6の剛性を高め、ドア本体1の側突時に前側部62を車体内側へ確実に変形させることができる。これにより、ロッド受け部64を接続ロッド4の下端の下方へ確実に移動することができる。また、変形容易部63を段差部とし、前側部62を後側部61に対して車体幅方向外側に突出する段差形状にして、前側部62とインナパネル12との間に所定のクリアランスを確保している。このようにしたことで、ドア本体1の変形時に、後側保持ブラケット6とインナパネル12との干渉を低減することができる。これにより、側突時に後側保持ブラケット6の車体幅方向内側への変形を確実に生じさせることができる。さらに、変形容易部63をドアビーム部材保持部622の上下の位置で曲面形状の回り込み部にすることにより、前側部62の上部、下部をそれぞれ後側部61に対して車体幅方向外側に突出する段差形状にしてある。このようにしたことで、前側部62のドアビーム部材保持部622に固定されるドアビーム部材7の後端部に上下少なくとも一方の変形容易部63から延びる延長線が一部重なる構成となる。これにより、ドアビーム部材7が保持される前側部62の剛性が後側部61に対して相対的に高くなる。この前側部62と後側部61との剛性差により、側突による衝撃荷重のドアビーム部材7への入力によって生じる、変形容易部63を起点とする前側部62の車体幅方向内側への変形を発生させやすくすることができる。
【0029】
この車両用ドア構造において、後側保持ブラケット6は補強部材8を介してインナパネル12に設置される。補強部材8は、図7に示すように、インナパネル12の平面部123の形状に対応する補強平面部81と、インナパネル12の縦壁部124の形状に対応する補強縦壁部82と、補強平面部81と補強縦壁部82との間に設けられる屈曲部83とを有する。この補強部材8は、図2に示すように、補強平面部81が後側保持ブラケット6の後側部61の各固定点611でインナパネル12の平面部123と接合され、補強平面部81に対して補強縦壁部82が屈曲部83で車体幅方向内側に屈曲されてインナパネル12の縦壁部124に沿って接合される。この場合、補強部材8の屈曲部83と後側保持ブラケット6の変形容易部63は側面視で一致し、後側保持ブラケット6の前側部62の車体幅方向内側への変形に際して対応する。
【0030】
この補強部材8によって、後側保持ブラケット6の固定点611が接合されるインナパネル12の平面部123の車体幅方向内側への変形を抑え、前側部62に設けられたロッド受け部64の車体幅方向内側への移動、変形を確実に発生させることができる。
【0031】
また、この実施の形態の説明で用いる図は、この車両用ドア構造の各部を、それぞれの一例として、より具体的に示している。
【0032】
図1に示すように、ドア本体1は車両のリア側のサイドドア用で、車体の外側に配設されるアウタパネル11と車室側に配設されるインナパネル12とにより形成される。アウタパネル11の後部側で窓枠の下にハンドル保持部110が設けられる。
【0033】
ドア操作用のハンドル2はアウタパネル11のハンドル保持部110に取り付けられ、ハンドル2の裏面にハンドル2の操作により上下方向に揺動する揺動アーム21(図2参照)が設けられる。揺動アーム21の先端にはハンドル2の操作をラッチ機構3に伝達する接続ロッド4の上端部が接続される。接続ロッド4の下端部はアウタパネル11側へ折り曲げられて、ラッチ機構3に作動連結されるレバー31(図2参照)に接続される。
【0034】
ラッチ機構3はドア本体1内でインナパネル12に取付金具を介して設置される。このラッチ機構3は周知のもので、ラッチ機構3の一部をなす噛合部(図示省略)が設けられ、車体ドア枠B1にはラッチ機構3の噛合部に噛合されるストライカ(図示省略)が取り付けられる。
【0035】
接続ロッド4はドア本体1内で、上端部がハンドル2裏面の揺動アーム21の先端に接続され、下端部はアウタパネル11側に折り曲げられて、ラッチ機構3の一部をなすレバー31に接続される。この接続ロッド4は、ハンドル2の開操作により、下方に変位されて、ラッチ機構3を作動させ、ドア本体1と車体ドア枠B1とのロックを解除する。
【0036】
ドアビーム部材7は、断面が円形のビーム(パイプ)からなる。このドアビーム部材7は、ラッチ機構3の下方で、前端部がインナパネル12の前部に前側保持ブラケット5を介して固定され、後端部がインナパネル12の後部に後側保持ブラケット6を介して固定されて、インナパネル12の前部、後部間に設置される。
【0037】
この車両用ドア構造においては、図2に示すように、インナパネル12の後部はインナパネル12外周のアウタパネル11との接合フランジ121からインナパネル12の内周内側方向へ斜め上方に延びる複数の段差部12Aからなる。接合フランジ121側から順に第1縦壁部122、第1平面部123、第2縦壁部124、第2平面部125になっている。この場合、第1縦壁部122はインナパネル12の外周の接合フランジ121からインナパネル12の内周内側方向へ斜め上方に延びる。第1平面部123は第1縦壁部122から接合フランジ121と並列的に垂直方向に立ち上げられる。第2縦壁部124は第1平面部123からインナパネル12の内周内側方向へ斜め上方に延びる。第2平面部125は第2縦壁部124から接合フランジ121と並列的に垂直方向に立ち上げられる。なお、接続ロッド4の下端は上面視でインナパネル12の後部の第2縦壁部124上で第1平面部123寄りの位置に配置される。
後側保持ブラケット6は、このインナパネル12の後部に、補強部材8を介して、取り付けられる。
【0038】
図5に示すように、後側保持ブラケット6は、インナパネル12の第1平面部123の所定の範囲の形状に対応する帯状の後側部61と、この後側部61の前縁部から前側へ所定幅まで延出される前側部62とを備える。そして、後側部61に複数の固定点611が設けられる。後側部61と前側部62との間でドアビーム部材保持部622の上下に変形容易部63が設けられる。前側部62の上下方向中間部にドアビーム部材保持部622、上端部にロッド受け部64が、それぞれ、設けられる。
【0039】
この場合、後側保持ブラケット6は後側部61、前側部62を含む全体として、上部及び下部がそれぞれ、平板状に形成され、上下方向中間部は断面略M字形に形成されて中間部に断面半円形の溝が設けられる。そして、上部及び下部の前後方向中間部に車体幅方向外側に向けて凸の曲面状の回り込み部(R又は稜線)が形成されて段差部が設けられる。この段差部を境に後側一方が後側部61、前側他方が前側部62をなす。後側部61の上部、下部に複数の固定点601が設けられる。前側部62の上端部にこの上端部62から車体幅方向内側に向けて延びる平板部が一体に形成される。このようにして後側部61が固定部に、後側部61と前側部62との間の段差部が変形容易部63に、後側部61の上部、下部に対して前側部62の上部、下部が車体幅方向外側に向けて突出する段差形状部になっている。そして、前側部62の上端部の平板部がロッド受け部64、前側部中間の溝がドアビーム部材保持部622になっている。なお、ロッド受け部64で接続ロッド4を受けたときにこのロッド受け部64が変形してドア本体1が開放されないように、後側保持ブラケット6の板厚は最適にしてある。
【0040】
図7に示すように、補強部材8は、インナパネル12の第1平面部123の形状に対応する補強平面部81と、補強平面部81に対して屈曲部83を介して屈曲され、インナパネル12の第2縦壁部124の形状に対応する補強縦壁部82とからなる。また、この補強部材8には補強平面部81側から車体幅方向内側に向けてビード形状84が追加的に付けられる。この補強部材8は補強平面部81が後側保持ブラケット6の後側部61の各固定点611でインナパネル12の第1平面部123に共止めされる。そして、屈曲部83がインナパネル12の第1平面部123と第2縦壁部124との間の角部に沿って屈曲されて補強縦壁部82はインナパネル12の第2縦壁部124に沿って接合される。この補強部材8は、後側保持ブラケット6の板厚の最適化に伴い、この後側保持ブラケット6とインナパネル12との溶接が破損しないように、インナパネル12に接合される。
【0041】
かくして、図2に示すように、後側保持ブラケット6は後側部61が上下の複数の固定点611をインナパネル12後部の第1平面部123に補強部材8の補強平面部81を介して固定され、前側部62は第1平面部123(補強平面部81)に沿って立ち上げられる。そして、ロッド受け部64が前側部62の上端部からラッチ機構3方向に延び、ドア本体1の閉状態の接続ロッド4の下端に対して下方で近接しかつ下方で重ならない車体幅方向外側の位置に配置される。
【0042】
図8にドア本体1に衝撃荷重を受けたときの後側保持ブラケット6上端部のロッド受け部64の動作例を示している。図8(a)はドア本体1に衝撃荷重を受ける前の後側保持ブラケット6及びロッド受け部64の状態を示している。図8(a)に示すように、ドア本体1に衝撃荷重を受ける前は、後側保持ブラケット6は変形前で、ロッド受け部64が前側部62の上端部から車体幅方向内側へラッチ機構3に向けて延び、ドア本体1の閉状態の接続ロッド4の下端に対して下方で近接しかつ上面視で下方で重ならない車体幅方向外側の位置に配置される。これがロッド受け部64の通常時の位置となる。
【0043】
図8(b)にドア本体1に衝撃荷重を受けた後の後側保持ブラケット6及びロッド受け部64の状態を示している。図8(b)に示すように、ドア本体1に衝撃荷重を受けると、後側保持ブラケット6の前側部62の変形により、ロッド受け部64が接続ロッド4の下側に移動して、接続ロッド4の下方への移動を規制する。
【0044】
既述のとおり、この後側保持ブラケット6には後側部61と前側部62との間に後側部61の複数の固定点611を結ぶ仮想線に平行して上下方向に延びる変形容易部63が設けられている。これにより、ドア本体1内のドアビーム部材7に入力される車体内側方向の衝撃荷重によって、変形容易部63を起点として、前側部62の上部が車体内側方向に変形し移動する。この前側部62上部の変形、移動により、前側部62上端部のロッド受け部64が通常時の位置から車体幅方向内側へラッチ機構3に向けて移動して、接続ロッド4の下端の下方に近接し、上面視で接続ロッド4の下端に重なる位置へ移動する。このロッド受け部64により接続ロッド4の下方への移動が規制される。
【0045】
例えば、側突によりドア本体1の中央部などに車体内側方向の衝撃荷重が加えられて、アウタパネル11が変形してハンドル保持部110が歪み、ハンドル2がドア本体1の開放操作方向となる外側に動いて、接続ロッド4が下方に押された、とする。これに対して、後側保持ブラケット6は、衝撃荷重により、前側部62上部が、変形容易部63を起点として、車体内側方向に変形し移動する。この前側部62上部の変形、移動とともに、前側部62上端部のロッド受け部64が通常時の位置から車体幅方向内側へラッチ機構3に向けて移動して、接続ロッド4が下方へ移動する前に又は移動と同時に、接続ロッド4の下端直下へ移動する。接続ロッド4は後側保持ブラケット6の固定点611に近い位置でロッド受け部64により受けられ、下方への移動が規制される。この場合、側突時の衝撃荷重が後側保持ブラケット6に直接加えられなくても、前側部62上端部が車体幅方向内側へ移動して、ロッド受け部64が接続ロッド4の下端の直下に移動し、接続ロッド4の下方への移動が阻止される。したがって、ラッチ機構3の解除が防止され、ドア本体1の開放を防ぐ。また、この構造によると、ラッチ機構3によりドア本体1が閉状態にロックされる状態での接続ロッド4の下端とロッド受け部64との間の上下方向のクリアランスを可及的に小さくすることができ、接続ロッド4の下端の下方への移動に対して遊びを削減できる。これにより、このドア開放防止構造による動作をタイムラグをより少なくしかつ確実に作動させることができる。
【0046】
以上説明したように、この車両用ドア構造によれば、既述のとおり、車両の側突時など車両の外部からドア本体1に衝撃荷重を受けて、ドア本体1が変形した場合に、ラッチ機構3の解除を規制して、ドア本体1の開放を防止することができる。そして、さらに次のような利点を有する。
(1)この構造では、インナパネル12後部の第1平面部123に固定され、ドアビーム部材7を保持する後側保持ブラケット6の前側部62の上端にロッド受け部64を設けた。そして、側突時の衝撃荷重で直接押される前側部62の変形、移動により、ロッド受け部64が接続ロッド4の下に入り、このロッド受け部64で接続ロッド4を受けるようにした。このようにしてロッド受け部64が後側保持ブラケット6の固定点611に近い位置で接続ロッド4を受けるので、この前側部62及びロッド受け部64の動作精度を向上させることができる。また、ロッド受け部64が後側保持ブラケット6の一部に一体に形成されるので、ロッド受け部64を低コストに設けることができる。
(2)この構造では、ロッド受け部64で接続ロッド4を受けたときにこのロッド受け部64が変形してドア本体1が開放されないように、後側保持ブラケット6の板厚を最適にした。この後側保持ブラケット6の板厚の最適化に伴い、インナパネル12の後部に補強部材8を設け、後側保持ブラケット6をこの補強部材8を介してインナパネル12に取り付けた。このようにして後側保持ブラケット6とインナパネル12との板厚差を減らすことで、後側保持ブラケット6とインナパネル12との溶接部分の破損を抑えることができる。
(3)この構造では、補強部材8をインナパネル12後部の平面部123に溶接により固定した。これにより、補強部材8の脱落を防ぐことができる。また、この補強部材8に衝突侵入方向にビード形状84を追加した。これにより、補強部材8の変形を防ぎ、後側保持ブラケット6のロッド受け部64を接続ロッド4の下に確実に潜り込ませることができる。
(4)この構造では、後側保持ブラケット6の取付位置周辺を補強し、後側保持ブラケット6の特定の箇所に剛性を持たせてもよい。このようにして、側突時に、ドア本体1の板厚が薄い部分からの変形を誘発し、後側保持ブラケット6及びロッド受け部64それ自体の変形を抑えることで、ロッド受け部64で接続ロッド4の下端をより確実に受けることができる。
【0047】
なお、この実施の形態では、後側保持ブラケットの上部及び下部の前後方向中間部に車体幅方向外側に向けて凸の曲面状の回り込み部が付けられて段差部が設けられているが、上部、上下方向中間部(ドアビーム部材保持部)、及び下部の前後方向中間部に車体幅方向外側に向けて凸の曲面状の回り込み部が連続的に付けられて段差部が設けられてもよい。このようにして後側部と前側部との間の変形容易部を段差部とし、後側部の上部、上下方向中間部、及び下部に対して前側部の上部、上下方向中間部、及び下部を車体幅方向外側に向けて突出する段差形状部としてもよい。このようにしても上記実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0048】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0049】
B1 車体ドア枠
1 ドア本体
11 アウタパネル
110 ハンドル保持部
12 インナパネル
12A 段差部
121 接合フランジ
123 平面部(第1平面部)
124 縦壁部(第2縦壁部)
2 ハンドル
3 ラッチ機構
4 接続ロッド
5 前側保持ブラケット
6 後側保持ブラケット
61 後側部
611 固定点
62 前側部
622 ドアビーム部材保持部
63 変形容易部
64 ロッド受け部
7 ドアビーム部材
8 補強部材
81 補強平面部
82 補強縦壁部
83 屈曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8