(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60K 11/02 20060101AFI20231129BHJP
B60K 6/00 20071001ALI20231129BHJP
B60K 6/22 20071001ALI20231129BHJP
B60K 6/24 20071001ALI20231129BHJP
B60K 6/26 20071001ALI20231129BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20231129BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20231129BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20231129BHJP
【FI】
B60K11/02
B60K6/00
B60K6/22 ZHV
B60K6/24
B60K6/26
B60K6/40
B60K6/48
B60K6/54
(21)【出願番号】P 2020113720
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡士
(72)【発明者】
【氏名】米盛 敬
(72)【発明者】
【氏名】古川 晶博
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-168600(JP,A)
【文献】特開2005-333782(JP,A)
【文献】特開2000-138481(JP,A)
【文献】特開平2-290098(JP,A)
【文献】特開2009-234418(JP,A)
【文献】特開2011-93458(JP,A)
【文献】特開2018-56370(JP,A)
【文献】特開2018-179489(JP,A)
【文献】特開2020-82765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0341334(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00
B60K 6/00
B60K 1/00
B60L 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接配置されたエンジンおよびモータを有した、車両走行用の駆動源である駆動ユニットと、
直流電流を交流電流に変換して前記モータに出力する回路基板を有するとともに、前記駆動ユニットに対して間隔を空けて配置されたインバータと、
前記モータの駆動により生じた熱を放出する第1放熱器と、
前記インバータの駆動により生じた熱を放出する第2放熱器と、
前記第2放熱器に対して付帯して設けられ、前記第2放熱器による放熱を促進させる第2ファンと、
を備え、
前記第1放熱器は、前記モータと前記回路基板との間に配置され、
前記第2放熱器は、前記第1放熱器と前記回路基板との間に配置され、
前記第2ファンは、当該第2ファンと前記第1放熱器との間の領域から空気を取り込み、前記第2放熱器を通り、前記第1放熱器とは反対側に向けて排出するように送風
し、
前記モータ、前記第1放熱器、および前記第2放熱器は、この順に前記車両の前方側から後方側に向けて配置されている、
車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、
前記第2ファンは、前記第1放熱器と前記第2放熱器との間に配置されている、
車両。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両において、
前記第1放熱器に対して付帯して設けられ、前記第1放熱器による放熱を促進させる第1ファンを更に備え、
前記第1ファンは、前記第1放熱器を通り、前記モータおよび前記第2放熱器がそれぞれ設けられた側とは異なる側に向けて排出するように送風する、
車両。
【請求項4】
互いに隣接配置されたエンジンおよびモータを有した、車両走行用の駆動源である駆動ユニットと、
直流電流を交流電流に変換して前記モータに出力する回路基板を有するとともに、前記駆動ユニットに対して間隔を空けて配置されたインバータと、
前記モータの駆動により生じた熱を放出する第1放熱器と、
前記インバータの駆動により生じた熱を放出する第2放熱器と、
を備え、
前記第1放熱器は、前記モータと前記回路基板との間に配置され、
前記第2放熱器は、前記第1放熱器と前記回路基板との間に配置され、
前記第1放熱器と前記第2放熱器との間の領域から、前記第2放熱器を通り、前記第2放熱器に対して前記第1放熱器が設けられた側とは異なる側に空気が流れる空気流通経路が形成されて
おり、
前記モータ、前記第1放熱器、および前記第2放熱器は、この順に前記車両の前方側から後方側に向けて配置されている、
車両。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の車両において、
前記第1放熱器および前記第2放熱器は、上方が閉じられたフロアトンネルの内部空間に収容されており、
前記第1放熱器は、前記フロアトンネルの上部に向けて放熱するように設けられている、
車両。
【請求項6】
請求項5に記載の車両において、
前記駆動ユニットの出力軸に連結され、駆動力を駆動輪に伝達するためのシャフトと、
前記シャフトの周囲を覆うカバー部材と、
を更に備え、
前記第1放熱器は、前記カバー部材の上部に取り付けられており、
前記第2放熱器は、前記車両の上下方向において、前記カバー部材との間に間隔を空け、且つ、前記第1放熱器の排熱部よりも下方に配置されている、
車両。
【請求項7】
請求項6に記載の車両において、
前記インバータは、前記回路基板を収容するインバータケースを更に有し、
前記第2放熱器は、前記インバータケースの内部空間に収容されており、
前記インバータケースは、前記カバー部材との間に間隔を空けた状態で配置されているとともに、前記第1放熱器に向けての空気の取り込み口である開口部を前方側に有し、且つ、前記第2放熱器の熱により昇温された空気を排出する排風口を下方側に有する、
車両。
【請求項8】
請求項7に記載の車両において、
前記回路基板は、前記インバータケースの内部空間において、前記第2放熱器よりも後方側に配設されており、
前記インバータは、前記回路基板から前記第2放熱器へと熱を伝達する伝熱部材を更に有し、
前記回路基板と前記第2放熱器とは、前記伝熱部材により熱結合されている、
車両。
【請求項9】
請求項8に記載の車両において、
前記回路基板は、前記インバータケースの内部空間において、後方側よりも前方側の方が上方となる傾斜姿勢で配設されている、
車両。
【請求項10】
請求項7から請求項9の何れかに記載の車両において、
前記回路基板は、
基板と、当該基板に実装された電気部品と、を有し、
前記電気部品は、前記基板に対して
上向きとなるように実装されている、
車両。
【請求項11】
請求項1から請求項10の何れかに記載の車両において、
前記駆動ユニットには、
前記モータを冷却するためのオイルの経路であるモータ冷却オイル経路が設けられているとともに、
前記モータ冷却オイル経路を流れる前記オイルよりも沸点が低い沸騰冷却用冷媒が循環する循環経路と、前記循環経路の途中に配設され、前記オイルと前記沸騰冷却用冷媒とが熱交換する沸騰部と、前記沸騰冷却用冷媒が凝縮される凝縮部と、を有する沸騰冷却器が取り付けられており、
前記第1放熱器は、前記沸騰冷却器の前記凝縮部である、
車両。
【請求項12】
請求項1から請求項11の何れかに記載の車両において、
前記エンジンは、ロータリーエンジンである、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関し、特に駆動ユニットのモータに接続されたインバータの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減などを目的として、車両走行用の駆動源としてエンジンに加えてモータを備えたハイブリッド型の車両が普及してきている。
【0003】
特許文献1には、走行用の駆動源としてエンジンおよびモータを備えた自動車が開示されている。特許文献1に開示の自動車では、走行用の駆動源として備えるエンジンおよびモータがともにフロントエリアに搭載されている。
【0004】
特許文献1に開示の自動車では、エンジンで走行するエンジン駆動モードと、モータで走行するモータ駆動モードとが切り替え可能となっている。運転者によりモータ駆動モードが選択された場合には、モータの駆動により自動車の走行がなされる。
【0005】
一方、運転者がエンジン駆動モードを選択した場合には、自動車の発進の際にはモータによる駆動アシストがなされ、所定車速以上でエンジンの駆動による自動車の走行がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のようなハイブリッド型の車両においても、車両運動性能の更なる向上が求められている。車両の運動性能を高めようとする場合には、エンジンおよびモータを車両における中央に近い領域に配置することが有効である。このようにエンジンおよびモータを配置することにより、車両が旋回し易くなり車両運動性能の向上を図ることができる。ただし、車両における中央に近い領域には、乗員スペースがあるので、これらを搭載するためのスペースは限られる。よって、車両における中央に近い領域にこれらを搭載するためには、エンジンおよびモータをユニット化して小型化を図ることが必要である。
【0008】
一方、ハイブリッド型の車両では、モータにインバータを接続することが必要となる。即ち、車両においてモータの電源はバッテリであるが、バッテリは直流電流を出力する。これに対して、車両走行用のモータの多くは交流電流により駆動するため、バッテリとモータとの間には、直流電流を交流電流に変換するインバータが介挿される。
【0009】
従来のハイブリッド型の車両においては、インバータをモータの上に固定した構造が採用されたものがある。
【0010】
しかしながら、上述のようにエンジンとモータとをユニット化した駆動ユニットを採用する場合には、駆動ユニットに対して直にインバータを固定することはできるだけ避けることが望ましい。これは、エンジンとモータとを有する駆動ユニットを採用する車両において、仮にインバータをモータの上に固定した場合には、エンジンの駆動時に生じる振動がモータに伝わり、モータからインバータにこの振動が伝わることによりインバータの回路基板がダメージを受け、場合によっては故障の原因となる場合が考えられるからである。このため、エンジンとモータとをユニット化する場合には、駆動ユニットに対して間隔を空けてインバータを配置することが望ましい。
【0011】
一方、モータもインバータも駆動時には熱を発するため、モータやインバータの正常な動作を維持するためには、それぞれについて放熱器から熱を排出して冷却することが必要となる。駆動ユニットに対して間隔を空けてインバータを配置した場合においても、モータとインバータの冷却性能を確保する必要がある。
【0012】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、エンジンおよびモータを有する駆動ユニットを備えながら、駆動ユニットからインバータへの振動の伝達を抑制し、且つ、モータとインバータの冷却性能を確保することができる車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、駆動ユニットにおけるモータと、インバータにおける回路基板を冷却するための放熱器との位置関係と、インバータからの排熱によるモータへの影響とを鋭意検討した。この結果、モータの位置とインバータの放熱器との位置との関係によっては、インバータの放熱器から排出されたインバータの熱が、モータに伝達されてしまいモータの温度が上昇してしまうことがあることを見出した。例えば、車両の停車中などには、放熱器から排出されたインバータの熱が、モータやモータを冷却するための放熱器に伝達され、モータを適温に維持することができなくなる場合がある。
【0014】
以上のように、本発明者等は、インバータ冷却用の放熱器からの排熱がモータに対して影響を及ぼす重要な要因であるとの結論に至ったことから、インバータの放熱器からの排熱がモータおよびモータの放熱器に伝達されないよう、インバータの放熱器からの排熱により温められた空気がモータおよびモータの放熱器とは反対側に向けて流れるように構成した。
【0015】
具体的に、本発明の一態様に係る車両は、互いに隣接配置されたエンジンおよびモータを有した、車両走行用の駆動源である駆動ユニットと、直流電流を交流電流に変換して前記モータに出力する回路基板を有するとともに、前記駆動ユニットに対して間隔を空けて配置されたインバータと、前記モータの駆動により生じた熱を放出する第1放熱器と、前記インバータの駆動により生じた熱を放出する第2放熱器と、前記第2放熱器に対して付帯して設けられ、前記第2放熱器による放熱を促進させる第2ファンと、を備え、前記第1放熱器は、前記モータと前記回路基板との間に配置され、前記第2放熱器は、前記第1放熱器と前記回路基板との間に配置され、前記第2ファンは、当該第2ファンと前記第1放熱器との間の領域から空気を取り込み、前記第2放熱器を通り、前記第1放熱器とは反対側に向けて排出するように送風し、前記モータ、前記第1放熱器、および前記第2放熱器は、この順に前記車両の前方側から後方側に向けて配置されている。
【0016】
上記態様に係る車両では、エンジンとモータとがユニット化されてなる駆動ユニットを備えるので、エンジンとモータとがユニット化されていない場合に比べて駆動源の小型化が可能であり、車両の中央またはその近傍に駆動ユニットを配置することができる。よって、上記態様に係る車両では、車両運動性能の向上を図ることができる。
【0017】
また、上記態様に係る車両では、インバータを駆動ユニットに対して間隔を空けて配置しているので、エンジンの駆動時に発生する振動がインバータに影響を及ぼすのを抑制することができる。
【0018】
また、上記態様に係る車両では、第2放熱器からの排熱が第1放熱器とは反対側に流れるように第2ファンを駆動できるようにしているので、インバータの駆動により発生する熱が第1放熱器およびモータに伝達されるのを抑制することができる。ここで、第2ファンで第2放熱器からの放熱を促進するようにしているので、インバータの温度が不所望に上昇するのも抑制することができる。
【0019】
加えて、上記のような構成を採用することにより、第2放熱器からの排熱が第1放熱器やモータに影響を及ぼし難くできるので、モータとインバータとの間隔を狭くすることもできる。よって、上記態様に係る車両では、インバータとモータとの間の配線長を短くして、インバータとモータとの間での電気抵抗を低く抑えることも可能である。
【0020】
また、第2放熱器に対して第2ファンが付帯してなる構成を採用しているので、車両の停車中にもインバータを確実に冷却することができる。
さらに、本態様に係る車両では、モータ、第1放熱器、および第2放熱器が、この順に車両の前方側から後方側に向けて配置されているので、車両の走行時において、第2放熱器からの排熱が第1放熱器やモータに伝達されるのを抑制することができる。即ち、車両走行時に駆動ユニット周辺を流れる空気や慣性力などにより、第2放熱器から排出された熱が前方側に向けて伝達されるのが抑制される。
【0021】
上記態様に係る車両において、前記第2ファンは、前記第1放熱器と前記第2放熱器との間に配置されている、ことにしてもよい。
【0022】
上記のように、第2ファンを第1放熱器と第2放熱器との間に配置する場合には、第1放熱器と第2放熱器との間の空間を有効に利用することができる。よって、上記構成を採用する場合には、駆動ユニットとその付帯部材を含む全体での小型化を図るのに優位である。
【0023】
上記態様に係る車両において、前記第1放熱器に対して付帯して設けられ、前記第1放熱器による放熱を促進させる第1ファンを更に備え、前記第1ファンは、前記第1放熱器を通り、前記モータおよび前記第2放熱器がそれぞれ設けられた側とは異なる側に向けて排出するように送風する、ことにしてもよい。
【0024】
上記のように、第1放熱器に付帯する第1ファンを備えるようにすれば、第1放熱器からの放熱が促進される。よって、モータを高効率に冷却することができ、モータの性能低下や寿命劣化を抑制することができる。
【0025】
また、上記のように、第1放熱器からの放熱がモータおよび第2放熱器が配された側に向けて排出されないように第1ファンを駆動できるようにしているので、第1放熱器からの放熱によりモータの温度が上昇したり、インバータにおける回路基板の冷却が妨げられたりするのを抑制することができる。
【0026】
また、本発明の別態様に係る車両は、互いに隣接配置されたエンジンおよびモータを有した、車両走行用の駆動源である駆動ユニットと、直流電流を交流電流に変換して前記モータに出力する回路基板を有するとともに、前記駆動ユニットに対して間隔を空けて配置されたインバータと、前記モータの駆動により生じた熱を放出する第1放熱器と、前記インバータの駆動により生じた熱を放出する第2放熱器と、を備え、前記第1放熱器は、前記モータと前記回路基板との間に配置され、前記第2放熱器は、前記第1放熱器と前記回路基板との間に配置され、前記第1放熱器と前記第2放熱器との間の領域から、前記第2放熱器を通り、前記第2放熱器に対して前記第1放熱器が設けられた側とは異なる側に空気が流れる空気流通経路が形成されており、前記モータ、前記第1放熱器、および前記第2放熱器は、この順に前記車両の前方側から後方側に向けて配置されている。
【0027】
上記態様に係る車両では、エンジンとモータとがユニット化されてなる駆動ユニットを備えるので、エンジンとモータとがユニット化されていない場合に比べて駆動源の小型化が可能であり、車両の中央またはその近傍に駆動ユニットを配置することができる。よって、上記態様に係る車両では、車両運動性能の向上を図ることができる。
【0028】
また、上記態様に係る車両では、インバータを駆動ユニットに対して間隔を空けて配置しているので、エンジンの駆動時に発生する振動がインバータに影響を及ぼすのを抑制することができる。
【0029】
さらに、上記態様に係る車両では、第1放熱器と第2放熱器との間の領域から取り込まれ、第2放熱器を通り、第1放熱器が設けられた側とは異なる側に空気が流れる空気流通経路が形成されているので、第2放熱器での放熱を促進するファンの有無にかかわらず、インバータにおける回路基板の熱が第1放熱器およびモータに伝達されるのを抑制することができる。
【0030】
加えて、上記のような構成を採用することにより、第2放熱器からの排熱が第1放熱器やモータに影響を及ぼし難くできるので、モータとインバータとの間隔を狭くすることもできる。よって、上記態様に係る車両では、インバータとモータとの間の配線長を短くして、インバータとモータとの間での電気抵抗を低く抑えることも可能である。
さらに、本態様に係る車両では、モータ、第1放熱器、および第2放熱器が、この順に車両の前方側から後方側に向けて配置されているので、車両の走行時において、第2放熱器からの排熱が第1放熱器やモータに伝達されるのを抑制することができる。即ち、車両走行時に駆動ユニット周辺を流れる空気や慣性力などにより、第2放熱器から排出された熱が前方側に向けて伝達されるのが抑制される。
【0033】
上記態様に係る車両において、前記第1放熱器および前記第2放熱器は、上方が閉じられたフロアトンネルの内部空間に収容されており、前記第1放熱器は、前記フロアトンネルの上部に向けて放熱するように設けられている、ことにしてもよい。
【0034】
上記のように、第1放熱器からの放熱がフロアトンネルの上部に向けて流れるようにすれば、第1放熱器の後方に配置された第2放熱器に向けて熱が伝達されるのを抑制することができる。よって、上記構成を採用する場合には、モータの駆動時に当該モータが発する熱によりインバータにおける回路基板の冷却が損なわれることが抑制される。
【0035】
上記態様に係る車両において、前記駆動ユニットの出力軸に連結され、駆動力を駆動輪に伝達するためのシャフトと、前記シャフトの周囲を覆うカバー部材と、を更に備え、前記第1放熱器は、前記カバー部材の上部に取り付けられており、前記第2放熱器は、前記車両の上下方向において、前記カバー部材との間に間隔を空け、且つ、前記第1放熱器の排熱部よりも下方に配置されている、ことにしてもよい。
【0036】
上記のように、第2放熱器についてはカバー部材と間隙を空けて配置するようにすれば、カバー部材を経由してインバータの熱が第1放熱器やモータに伝達されるのを防ぐことができる。また、第2放熱器を第1放熱器の排熱部(放熱する端部)よりも下方とする構成を採用する場合には、第1放熱器から放出された熱が、第1放熱器の排熱部よりも下方に配置された第2放熱器に取り込まれるのを抑制することができる。よって、インバータにおける回路基板を高効率の冷却することができる。
【0037】
上記態様に係る車両において、前記インバータは、前記回路基板を収容するインバータケースを更に有し、前記第2放熱器は、前記インバータケースの内部空間に収容されており、前記インバータケースは、前記カバー部材との間に間隔を空けた状態で配置されているとともに、前記第2放熱器に向けての空気の取り込み口である開口部を前方側に有し、且つ、前記第2放熱器の熱により昇温された空気を排出する排風口下方側に有する、ことにしてもよい。
【0038】
上記のように、第2放熱器から放出された熱を排風口を通して下方側に排出することとすれば、第1放熱器から上方に向けて放出された熱との分散を図ることができ、第1放熱器および第2放熱器の双方の放熱性能をともに高い状態で維持することが可能となる。
【0039】
上記態様に係る車両において、前記回路基板は、前記インバータケースの内部空間において、前記第2放熱器よりも後方側に配設されており、前記インバータは、前記回路基板から前記第2放熱器へと熱を伝達する伝熱部材を更に有し、前記回路基板と前記第2放熱器とは、前記伝熱部材により熱結合されている、ことにしてもよい。
【0040】
上記のように、第2放熱器と回路基板との間を伝熱部材で接続して、第2放熱器と回路基板とを熱接合することとすれば、インバータの駆動時に回路基板の電気部品が所定以上に温度上昇するのを有効に抑制することができる。よって、インバータにおける回路基板の温度上昇による故障などを抑制することができる。
【0041】
上記態様に係る車両において、前記回路基板は、前記インバータケースの内部空間において、後方側よりも前方側の方が上方となる傾斜姿勢で配設されている、ことにしてもよい。
【0042】
上記のような姿勢で回路基板を配設することとすれば、当該回路基板で発生した熱が確実に第2放熱器側へと移動する。よって、インバータの冷却を行う上でより優位である。
【0043】
上記態様に係る車両において、前記回路基板は、基板と、当該基板に実装された電気部品と、を有し、前記電気部品は、前記基板に対して上向きとなるように実装されている、ことにしてもよい。
【0044】
上記のように、基板に対して電気部品が上向きとなるように実装してなる構成を採用する場合には、第2放熱器から排熱口へと流れる熱が電気部品に対して伝達されるのを抑制することができる。よって、回路基板に含まれる電気部品の温度上昇を抑制することができ、インバータの故障を防ぐのに更に有効である。
【0045】
上記態様に係る車両において、前記駆動ユニットには、前記モータを冷却するためのオイルの経路であるモータ冷却オイル経路が設けられているとともに、前記モータ冷却オイル経路を流れる前記オイルよりも沸点が低い沸騰冷却用冷媒が循環する循環経路と、前記循環経路の途中に配設され、前記オイルと前記沸騰冷却用冷媒とが熱交換する沸騰部と、前記沸騰冷却用冷媒が凝縮される凝縮部と、を有する沸騰冷却器が取り付けられており、前記第1放熱器は、前記沸騰冷却器の前記凝縮部である、ことにしてもよい。
【0046】
上記のように、沸騰冷却器をモータに取り付けることにより、モータの駆動時に発生する熱を効果的に冷却することが可能となる。よって、上記構成を採用する場合には、モータを高出力で駆動したり、長時間継続駆動したりしても、モータを適温に維持することが可能となる。
【0047】
上記態様に係る車両において、前記エンジンは、ロータリーエンジンである、ことにしてもよい。
【0048】
上記のように、エンジンとしてロータリーエンジンを採用する場合には、高回転時に振動が発生するが、駆動ユニットに対して間隔を空けてインバータを配置しているので、エンジンの駆動時に発生する振動に起因するインバータの故障を抑制することができる。
【発明の効果】
【0049】
上記の各態様に係る車両では、エンジンおよびモータを有する駆動ユニットを備えながら、駆動ユニットからインバータへの振動の伝達を抑制し、且つ、モータとインバータの冷却性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】実施形態に係る車両の概略構成を示す模式図である。
【
図2】車両における駆動ユニットの搭載位置を示す模式図である。
【
図6】モータの冷却に係る構成を示す模式図である。
【
図7】駆動ユニットよりも後方の構成を示す斜視図である。
【
図8】インバータの配置形態を示す側面図(一部断面図)である。
【
図11】沸騰冷却器の凝縮部およびインバータの放熱器の冷却構成を示す模式図である。
【
図12】参考例に係る沸騰冷却器の凝縮部およびインバータの放熱器の冷却構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0052】
また、以下の説明で用いる図面において、「F」は車両前方、「R」は車両後方、「U」は車両上方、「L」は車両下方をそれぞれ示す。
【0053】
[実施形態]
1.車両1の概略構成
本実施形態に係る車両1の概略構成について、
図1を用いて説明する。
【0054】
図1に示すように、車両1では、当該車両1を駆動するための駆動ユニット10が、フロントエリア1aにおける後方側部分に搭載されている。駆動ユニット10は、エンジン11~13とモータ14とを有する。駆動ユニット10の詳細な構造については、後述する。
【0055】
駆動ユニット10の出力軸には、プロペラシャフト15が接続されている。プロペラシャフト15は、駆動ユニット10からの駆動力を駆動輪である後輪20,21に伝達するための「シャフト」である。プロペラシャフト15は、車両1の車幅方向中央を後方側に向けて延びている。プロペラシャフト15の後端は、トランスミッション16に接続されている。
【0056】
トランスミッション16には、デファレンシャルギヤ17が接続されている。そして、デファレンシャルギヤ17の車幅方向左右には、ドライブシャフト18,19がそれぞれ接続されている。ドライブシャフト18,19は、それぞれ後輪20,21に接続されている。即ち、本実施形態に係る車両1では、フロントエリア1aに搭載された駆動ユニット10が発生する駆動力により後輪20,21を駆動して走行する。
【0057】
また、車両1においては、前輪22,23のそれぞれに対して、モータ24,25が接続されている。詳細な図示を省略しているが、モータ24,25は、所謂、インホイールモータである。モータ24,25は、車両1の発進時に動力を発生して前輪22,23に伝えるアシストモータとして機能する。また、モータ24,25は、車両1の減速時に発電する回生ブレーキとしても機能する。そして、車両1の減速時にモータ24,25で発生した電力は、キャパシタ28等に充電される。
【0058】
車両1には、バッテリ26およびインバータ27も搭載されている。バッテリ26は、駆動ユニット10のモータ14に対して電力を供給するための蓄電モジュールである。インバータ27は、バッテリ26から供給された直流電流を交流電流に変換する電力変換モジュールである。
【0059】
ここで、本実施形態に係る車両1では、駆動ユニット10の駆動モードとして、エンジン駆動モードとモータ駆動モードとを備える。エンジン駆動モードは、エンジン11~13から出力される駆動力で後輪20,21を駆動して走行するモードである。モータ駆動モードは、モータ14から出力される駆動力で後輪20,21を駆動して走行するモードである。
【0060】
なお、車両1では、エンジン駆動モードで駆動の際にはモータ14は駆動力を発生させず、モータ駆動モードで駆動の際にはエンジン11~13は駆動力を発生させないように構成している。
【0061】
車両1において、エンジン駆動モードとモータ駆動モードとの切替制御は、駆動モード制御部29が行う。駆動モード制御部29は、CPU,ROM,RAM等を有するマイクロプロセッサを備えて構成されている。駆動モード制御部29は、運転者からの指示や、車両1の状況(車速、加減速度、バッテリ残容量)などを基に駆動モードの制御を実行する。
【0062】
2.駆動ユニット10の搭載位置
車両1における駆動ユニット10の搭載位置について、
図2を用いて説明する。
【0063】
上述のように、車両1では、駆動ユニット10がフロントエリア1aの後方側部分に搭載されている。具体的には、駆動ユニット10の重心Ax10が、前輪22,23(
図2では、前輪23のみを図示)の回転中心Ax23よりも後方側に位置するように駆動ユニット10が搭載されている。また、駆動ユニット10は、重心Ax10が前輪22,23の回転中心Ax23よりも下方側に位置するように搭載されている。
【0064】
即ち、車両1においては、重量物である駆動ユニット10をコンパクト化することによって、当該駆動ユニット10をフロントエリア1aの後方側部分であって、ボンネット30を間隔を空けた下方側に搭載されている。これにより、車両1の重心位置Ax1を車両1の長手方向の略中央の低い箇所とすることができる。
【0065】
3.駆動ユニット10およびその周辺の構成
駆動ユニット10の詳細構成およびその周辺の構成について、
図3から
図5を用いて説明する。
【0066】
図3および
図4に示すように、駆動ユニット10が有するエンジン11~13は、一例としてロータリーピストンを有するロータリーエンジンである。車両1において、エンジン11~13としてロータリーエンジンを採用することにより、駆動ユニット10の小型化を図るのに優位である。なお、詳細な図示を省略しているが、駆動ユニット10は、フロントサブフレームに対してマウントを介して固定されている。フロントサブフレームは、フロントエリア1aの下部において、左右に配されたフロントサイドフレームの間に架設された車体の一部である。
【0067】
図4に示すように、エンジン11~13の下方には、オイルパン38が配設されている。オイルパン38は、車両前後方向および車幅方向の寸法に対して、高さ方向の寸法が小さい扁平形状を有する。これにより、駆動ユニット10の高さを低く抑えるのに優位である。
【0068】
上記のように、本実施形態に係る車両1においては、オイルパン38が扁平形状を有するため、エンジンオイルの収容容量が少ない。このため、エンジン11~13を流通したエンジンオイルを集めることが主な機能である。よって、駆動ユニット10の側方には、オイルパン38で集められたエンジンオイルを貯留するためのオイルタンク35が設けられている。
【0069】
図3および
図4に示すように、駆動ユニット10の前方には、ラジエータ31およびオイルクーラ32が配設されている。ラジエータ31は、エンジン11~13の熱により高温となった冷却水を冷却するためのデバイスであり、後方側にラジエータファン31aを有する。
【0070】
オイルクーラ32は、ラジエータ31の後方に配置され、ラジエータ31に沿うように配設されている。オイルクーラ32の平面サイズは、ラジエータ31よりも小型である。
【0071】
エンジン11~13とラジエータ31との間は、配管36,37により接続されている。配管37とエンジン11~13との接続部分には、ウォーターポンプ34が設けられている。
【0072】
オイルクーラ32、エンジン11~13、オイルタンク35、およびオイルパン38の相互間は、配管39~41等で接続されている。配管41とエンジン11~13との接続部分には、オイルポンプ33が設けられている。
【0073】
駆動ユニット10におけるモータ14は、エンジン13の後方に隣接して配置されている。エンジン11~13とモータ14とは出力軸を共有する直結構造となっている。車両1の上下方向および車幅方向において、モータ14の外観サイズは、エンジン11~13よりも小さく形成されている。
【0074】
図3から
図5に示すように、モータ14の側部ハウジング142には、2つの熱交換器42,43が取り付けられている。熱交換器42,43は、ともに車幅方向左側に配置されている。また、熱交換器43は、熱交換器42に対して上方に離間した状態でモータ14の側部ハウジング142に取り付けられている。そして、熱交換器42,43は、モータ14の後部ハウジング141よりも前方に収まるように配置されている。換言すると、熱交換器42および熱交換器43は、車両1の前後方向において、モータ14の側部ハウジング142で収まるように配置されている。
【0075】
また、熱交換器42および熱交換器43のそれぞれは、高さ方向の寸法が長さ方向の寸法および幅方向の寸法に比べて小さい扁平な外観形状を有する。このように、扁平な外観形状を有する熱交換器42および熱交換器43を採用することにより、駆動ユニット10に対して熱交換器42,43が取り付けられてなるセット構成のサイズを小型化するのに優位である。
【0076】
図3から
図5に示すように、モータ14の後部ハウジング141は、後端側の端面がトルクチューブ47で覆われている。トルクチューブ47は、「カバー部材」に該当する。そして、
図5に示すように、モータ14の側部ハウジング142からトルクチューブ47の前方側部分までにかけての領域には、沸騰冷却器44が設けられている。沸騰冷却器44は、沸騰部441、凝縮部442、配管443、および沸騰冷却器ファン444を有する。沸騰冷却器44の配管443には、モータ14の冷却用オイルよりも沸点が低い沸騰冷却用冷媒が充填されている。
【0077】
沸騰部441は、モータ14の側部ハウジング142に取り付けられており、沸騰冷却用冷媒とモータ14の冷却用オイル(モータ冷却オイル)との間で熱交換する部分である。
【0078】
凝縮部442は、「第1放熱器」に該当し、モータ14よりも後方側に配されたトルクチューブ47の前方側部分の上部に取り付けられている。凝縮部442は、沸騰部441での熱交換により沸騰した(蒸発した)沸騰冷却用冷媒を凝縮させる部分である。換言すると、凝縮部442は、モータ14で生じた熱を放熱する部分である。
【0079】
配管443は、沸騰部441と凝縮部442との間での沸騰冷却用冷媒の循環経路である。沸騰冷却器ファン444は、「第1ファン」に該当し、凝縮部442に送風することで沸騰冷却用冷媒の凝縮を促進するための部分である。
【0080】
沸騰冷却器44において、沸騰冷却器ファン444は、凝縮部442の下方に隣接配置されている。そして、沸騰冷却器ファン444からは、上方に向けて送風される。このため、凝縮部442を通り温められた空気は、上方に排出される。
【0081】
沸騰冷却器44の凝縮部442および沸騰冷却器ファン444をモータ14よりも後方のトルクチューブ47に取り付けることにより、凝縮部442を通過して温まった空気が再びモータ14のハウジング141,142に吹きかけられるのを防ぐことができる。よって、モータ14を適温に維持するのに有効である。
【0082】
なお、詳細な図示を省略しているが、モータ14のハウジング141,142内には、モータ14を冷却するためのモータ冷却オイルが通流する経路、および当該経路の切替を行うオイルコントロールバルブが設けられている。
【0083】
4.モータ14の冷却構成
駆動ユニット10におけるモータ14の冷却構成について、
図6を用いて説明する。
【0084】
図6に示すように、モータ14は、ハウジング141,142(
図6では、側部ハウジング142のみを図示)と、ロータ・ステータ143と、オイルパン144とを有する。ハウジング141,142の上部には、モータ冷却オイル経路LN22,LN31,LN32が接続されている。
【0085】
モータ駆動モードの実行時において、モータ冷却オイルは、モータ冷却オイル経路LN22,LN31,LN32の何れかからロータ・ステータ143を冷却してオイルパン144に流れる。オイルパン144で受けられたモータ冷却オイルは、モータ冷却オイル経路LN33を通りモータ14用のオイルポンプ50に送られる。なお、モータ冷却オイル経路LN33には、不レッシャーリリーフバルブ51も接続されている。
【0086】
モータ冷却オイルは、オイルポンプ50からモータ冷却オイル経路LN34を通りオイルコントロールバルブ46に送られる。オイルコントロールバルブ46は、モータ冷却オイルの導出経路をモータ冷却オイル経路LN21またはモータ冷却オイル経路LN22の何れか一方に切り替えるバルブである。
【0087】
モータ冷却オイル経路LN21は、オイルコントロールバルブ45に接続されている。オイルコントロールバルブ45は、モータ冷却オイルの導出経路をモータ冷却オイル経路LN11またはモータ冷却オイル経路LN12の何れか一方に切り替えるバルブである。
【0088】
モータ冷却オイル経路LN11は、熱交換器42を介してモータ冷却オイル経路LN31に接続されている。モータ冷却オイル経路LN12は、熱交換器43を介してモータ冷却オイル経路LN32に接続されている。
【0089】
エンジンオイルの循環経路において、オイルポンプ33から導出されたエンジンオイルは、エンジン冷却オイル経路LN41から熱交換器42を介してエンジン冷却オイル経路LN42へと流れる。熱交換器42を経由してエンジン冷却オイル経路LN42に流れたエンジンオイルは、エキセントリックシャフトへと送られる。そして、ロータを潤滑・冷却する。
【0090】
また、エンジン冷却オイル経路LN42に送られたエンジンオイルの一部は、エンジン11~13の燃焼室に噴射され、ハウジング、アペックスシール、およびサイドシールを潤滑・冷却する。
【0091】
熱交換器42では、モータ冷却オイルとエンジンオイルとの間で熱交換可能となっている。即ち、モータ駆動モードの実行時においては、モータ14で発生した熱をエンジンオイルへと伝達して冷却するとともに、エンジンオイルを昇温することができるようになっている。よって、車両1では、モータ駆動モードの実行時において、エンジンオイルの循環経路を共用してモータ14の冷却ができるとともに、燃料が燃焼室に供給されていない状態でのエンジン11~13の暖気を行うことができる。これより、駆動ユニット10の冷却系統の小型化を図ることができるとともに、エンジン駆動モードに移行した際のエンジン効率の向上を図ることができる。
【0092】
エンジン11~13の冷却水の循環経路において、エンジン11~13の高圧ウォータージャケットから導出された冷却水は、エンジン冷却水系とLN43から熱交換器43を介してエンジン冷却水経路LN44に送られる。熱交換器43を経由してエンジン冷却水経路LN44へと流れた冷却水は、エンジン11~13の低圧ウォータージャケットに導入される。
【0093】
熱交換器43では、モータ冷却オイルとエンジン冷却用の冷却水との間で熱交換可能となっている。これによっても、モータ駆動モードの実行時において、モータ14で発生した熱を冷却水へと伝達して冷却するとともに、冷却水を昇温することができるようになっている。よって、駆動ユニット10の冷却系統の小型化を図ることができるとともに、エンジン駆動モードに移行した際のエンジン効率の向上を図ることができる。なお、熱交換器43でモータ冷却オイルの熱を冷却水に伝達する冷却系統を用いる場合では、熱交換器42でモータ冷却オイルの熱をエンジンオイルに伝達する冷却系統を用いる場合よりも高い冷却性能を得ることができる。これは、冷却水の冷却のためのラジエータ31がオイルクーラ32よりも大型であることに加えて、ラジエータ31にはラジエータファン31aを有することによるものである。
【0094】
モータ14のオイルパン144には、沸騰冷却器44の沸騰部441が配設されている。ここで、
図5を用いて説明したように、沸騰部441は、その外殻がモータ14の側部ハウジング142に取り付けられているが、配管443に充填された沸騰冷却用冷媒がオイルパン144内のモータ冷却オイルと熱交換可能となっている。
【0095】
また、車両1においては、バルブ制御部52およびエンジン水温センサ53も備える。エンジン水温センサ53は、例えば、エンジン13とラジエータ31との間の配管36に設けられている。バルブ制御部52は、CPU、ROM、RAM等を有するマイクロプロセッサを備えて構成されている。バルブ制御部52は、エンジン水温センサ53と信号線SL1で接続され、オイルコントロールバルブ45,46のそれぞれと信号線SL2,SL3で接続され、沸騰冷却器44の沸騰冷却器ファン444と信号線SL4で接続されている。
【0096】
5.バルブ制御部52が実行するモータ14の冷却制御方法
バルブ制御部52は、モータ駆動モードの実行時において(モータ14の駆動力により車両1が走行している場合において)、エンジン水温センサ53からのエンジン水温に関する情報を基に、オイルコントロールバルブ45,46の切替制御および沸騰冷却器ファン444の駆動制御を実行する。具体的には、次のように制御を行う。
【0097】
(1)エンジン水温が第1閾値(例えば、40℃)未満の場合
エンジン水温が第1閾値未満の場合には、バルブ制御部52は、モータ冷却オイル経路LN34とモータ冷却オイル経路LN21とが接続されるようにオイルコントロールバルブ46を切替制御し、モータ冷却オイル経路LN21とモータ冷却オイル経路LN11とが接続されるようにオイルコントロールバルブ45を切替制御する。なお、沸騰冷却器ファン444は停止した状態とする。
【0098】
(2)エンジン水温が第1閾値以上第2閾値(例えば、80℃)未満の場合
エンジン水温が第1閾値以上第2閾値未満の場合には、バルブ制御部52は、モータ冷却オイル経路LN34とモータ冷却オイル経路LN21とが接続されるようにオイルコントロールバルブ46を切替制御し、モータ冷却オイル経路LN21とモータ冷却オイル経路LN12とが接続されるようにオイルコントロールバルブ45を切替制御する。そして、バルブ制御部52は、沸騰冷却器ファン444を駆動させる。
【0099】
(3)エンジン水温が第2閾値以上の場合
エンジン水温が第2閾値以上の場合には、バルブ制御部52は、モータ冷却オイル経路LN34とモータ冷却オイル経路LN22とが接続されるようにオイルコントロールバルブ46を切替制御する。そして、バルブ制御部52は、沸騰冷却器ファン444の駆動状態を維持させる。
【0100】
6.インバータ27の配置
車両1におけるインバータ27の配置形態について、
図7から
図9を用いて説明する。
【0101】
図7に示すように、駆動ユニット10におけるモータ14の後方に設けられたトルクチューブ47は、フロアパネル(車体)におけるフロアトンネル48の内部空間(下方空間)48aに収容されている。フロアトンネル48は、フロントエリア1aと車室を区画するダッシュパネル(図示を省略)の後方に設けられた部位であって、フロアパネルを補強するためとプロペラシャフト15を通すための部位として設けられている。
【0102】
沸騰冷却器44の凝縮部442をはじめとする各部もフロアトンネル48の内部空間48aに収容されている。
【0103】
なお、
図7では、沸騰冷却器44の凝縮部442がフロアトンネル48の内部空間48aに収容されている様子を表すためにフロアトンネル48の譲歩開口部48bが解放された状態で示しているが、実際には、
図8に示すように、上方開口部48bは乗員の操作を受け付ける操作ユニット55でふさがれている。即ち、フロアトンネル48の上方は、閉じられた状態となっている。
【0104】
図8に示すように、インバータ27は、フロアトンネル48の内部空間48aにおいて、トルクチューブ47の上方に配置されている。インバータ27は、トルクチューブ47の上方において、当該トルクチューブ47の長手方向に沿うように配置されている。インバータ27は、前部にターミナル271を有する。
【0105】
ターミナル271には、3本のワイヤーハーネス49が接続されている。3本のワイヤーハーネス49は、それぞれが可撓性を有する接続配線であり、モータ14のターミナル145に電気的に接続されている。ここで、インバータ27は、駆動ユニット10のモータ14に対して、後方側に離間した領域であって、且つ、近傍の領域に配置されている。このため、インバータ27に対して駆動ユニット10の振動が直接伝達されるのが抑制されるとともに、ワイヤーハーネス49の配線長をあまり長くする必要がない。よって、駆動ユニット10の振動に起因するインバータ27の故障等を抑制することができるとともに、インバータ27とモータ14との間での電気抵抗が大きくなるのを抑えることができる。
【0106】
図9に示すように、インバータ27は、フロアトンネル48の内部空間48aにおいて、フロアトンネル48に対してブラケット54を介して取り付けられている。インバータ27とトルクチューブ48の上壁内面48cとの間には隙間G1が空けられ、インバータ27とトルクチューブ47との間には間隔G2が空けられている。
【0107】
なお、トルクチューブ47の内部空間47aには、プロペラシャフト15が収容されている。
【0108】
ここで、駆動ユニット10の駆動時において、駆動ユニット10とともにトルクチューブ47が振動したとしても、インバータ27とトルクチューブ47との間に間隔G2が空けられているので、インバータ27に対して振動が直接伝わることがない。
【0109】
また、上述のように、駆動ユニット10は、フロントサブフレームに取り付けられているのに対して、インバータ27は、フロントサブフレームから離間したフロアトンネル48に取り付けられている。このため、駆動ユニット10の駆動時に振動が発生しても、車体の取付箇所を介しての駆動ユニット10からインバータ27への振動の伝達が抑制される。
【0110】
7.インバータ27の構成
インバータ27の構成について、
図10を用いて説明する。
【0111】
図10に示すように、インバータ27は、上述のターミナル271の他に、インバータケース272、回路基板273、放熱器276、およびファン278を有する。インバータケース271は、前方に前方開口部272bと、下方に排風口272cとを有する。
【0112】
回路基板273は、インバータケース272の内部空間272aに収容されている。回路基板273は、基板274と、当該基板274に実装された複数の電気部品275とを有する。複数の電気部品275は、基板274の上側の面に実装されており、上方を向くように配されている。なお、回路基板273は、インバータケース272の内部空間272aにおいて、上下方向の中央よりも上側に寄った領域に配されている。
【0113】
放熱器276は、インバータケース272の内部空間272aにおいて、回路基板273よりも前方側に配置されている。また、放熱器276は、インバータケース272の下方に設けられた排風口272cよりも前方に配置されている。放熱器276と回路基板273とは、ヒートスプレッダ277で熱結合されており、回路基板273で発生した熱を受けて放熱器276から外部に放熱する。放熱器276は「第2放熱器」に該当し、ヒートスプレッダ277は「伝熱部材」に該当する。
【0114】
なお、インバータケース272の内部空間272aにおいて、回路基板273は、後方側よりも前方側が上方となる傾斜姿勢で配設されている。ヒートスプレッダ277についても同様の傾斜姿勢で配設されている。このような姿勢で回路基板273およびヒートスプレッダ277を配設することにより、回路基板273で生じた熱が高効率に放熱器276へと伝達される。
【0115】
ファン278は、インバータケース272の内部空間272aにおいて、放熱器276よりも前方に配置されている。ファン278は、「第2ファン」に該当し、前方口部272aから取り込んだ空気(Flow1)を、後方に配置された放熱器276に向けて送風する(Flow2)。なお、インバータケース272の前方上部にはターミナル271が配されているので、ファン278には、ターミナル271よりも下方側からより多くの空気が取り込まれる。
【0116】
放熱器276は、ファン278により吹き付けられた空気により放熱が促進される。放熱器276を通り温度が上昇した空気は、排風口272cを通り、インバータケース272の下方へと排出される(Flow3)。そして、インバータケース272の下方へと排出された空気(Flow3)は、インバータ27とトルクチューブ47との間の間隔G2およびトルクチューブ47の側方などに流れる(Flow4)。
【0117】
8.沸騰冷却器44の凝縮部442およびインバータ27の放熱器276の冷却構成
沸騰冷却器44の凝縮部442およびインバータ27の放熱器276の冷却構成について、
図11および
図12を用いて説明する。なお、
図12は参考例を示す模式図であり、インバータの放熱器967に付帯されたファン978が前方に向けて送風する場合を示す。
【0118】
先ず、
図11に示すように、車両1では、フロアトンネル48の内部空間48aにおいて、トルクチューブ47の上に、沸騰冷却器44の凝縮部442および沸騰冷却器ファン444と、インバータ27とが配置されている。車両1の前後方向において、沸騰冷却器44の凝縮部442等と、インバータ27とは、間に間隔G3を空けて配置されている。
【0119】
沸騰冷却器44の沸騰冷却器ファン444は、凝縮部442の下方に隣接して配され、上方に向けて送風するように形成されている(Flow5)。沸騰冷却器ファン444から送り出された空気(Flow5)は、凝縮部442を通り、凝縮部442の熱を奪って排熱部442aからフロアトンネル48の上壁内面48cに向けて流れる。そして、排熱部442aから放出された空気は、上壁内面48cに当たった後、間隔G1を通り、上壁内面48cに沿って後方へと流れる(Flow6)。
【0120】
一方、インバータ27の放熱器276は、車両1の前後方向において、沸騰冷却器44の凝縮部442および沸騰冷却器ファン444に対して、間隔G3を空けて後方に配置されている。そして、放熱器276には、ファン278が間隔G3の下方側から取り込んだ空気(Flow1)が吹き付けられる。そして、上述のように、Flow2、Flow3、Flow4のように流れる。即ち、沸騰冷却器44の凝縮部442から放出された熱と、放熱器276から放出された熱とは、フロアトンネル48における内部空間48aにおいて上下で分散された状態で後方に流れる。
【0121】
なお、本実施形態では、車両1の上下方向において、インバータ27の放熱器276およびファン278は、沸騰冷却器44の凝縮部442における排熱部(上端部)442aよりも下方に配置されている。
【0122】
一方、
図12に示すように、参考例に係る構造では、インバータにおける回路基板973、放熱器976、およびファン978の配置については、上記実施形態と同じであるが、ファン978が後方から空気を吸い込み、前方に向けて空気を送り出す点が異なる。
【0123】
参考例に係る構造では、ファン978を駆動することにより、インバータの後方から空気が取り込まれ(Flow7)、放熱器976を通り(Flow8)、前方側に空いた間隔G3に向けて空気が送り出される(Flow9)。前方に送り出された空気(Flow9)は、沸騰冷却器44の凝縮部442の周囲を通過し、場合によってはモータ14にまで達する場合がある。特に、車両1の停車中においては、フロアトンネル48の内部空間48aを前方から後方に向けて流れる空気の流れが無くなるため、ファン978から吹き出された空気(温められた空気)が、モータ14まで到達し易くなる。このように、インバータの熱により温められた空気が前方に向けて送り出される場合には、インバータの放熱器976から放出された熱がモータ14に直接伝達されたり、沸騰冷却器44の凝縮部442およびその周辺の空気の温度を上昇させ、これによりモータ14の冷却効率が低下したりすることがある。よって、参考例に係る構造では、モータ14を適温に維持し難くなる。
【0124】
[変形例]
上記実施形態では、
図10を用いて説明したように、放熱器276に対して前方側にファン278を配置することとしたが、本発明では、放熱器に対してファンを後方側に配置してもよい。このような配置形態を採用する場合においても、空気の流れを
図10に示すのと同じにすることで、上記同様の効果を得ることができる。即ち、放熱器を通り温められた空気が、当該放熱器よりも後方側(モータおよびモータ冷却用の放熱器が配された側とは異なる側)に流れるようにすればよい。
【0125】
上記実施形態では、放熱器276と回路基板273とをヒートスプレッダ277で熱結合することとしたが、本発明は、他の構成により放熱器と回路基板とを熱結合することも可能である。例えば、回路基板と放熱器とをヒートパイプで熱結合することも可能である。また、フィラーなどを分散させることで熱伝導率を高めたシリコーンゴムシートや高い熱伝導性を有するグラファイトシートなどで放熱器と回路基板とを熱結合することも可能である。
【0126】
上記実施形態では、インバータケース272の下方に排風口272cを空け、当該排風口272cから空気を排出することとしたが、空気の排出経路について、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、インバータケースの後方に排風口を設けることにしてもよい。この場合には、放熱器を通り温められた空気が回路基板に触れないように、回路基板の下方に仕切り板を設けたり、インバータケースの内部空間に放熱器の後端から排風口まで繋がる筒状の空気流通経路を設けたりしてもよい。
【0127】
上記実施形態では、モータ14として交流モータを採用することとしたため、バッテリ26とモータ14との間にインバータ27を設けることとしたが、本発明は、モータの種類に応じて種々の電力変換器を設けることが可能である。例えば、DC-DC変換機(DCチョッパ)などを採用する場合においても、上記実施形態と同様の冷却機構を採用することで、上記同様の効果を得ることができる。
【0128】
上記実施形態では、3つのエンジン11~13と1つのモータ14とで構成された駆動ユニット10を採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、1つのエンジンと1つのモータとで構成される駆動ユニットや、複数のエンジンと複数のモータとで構成される駆動ユニットを採用することもできる。
【0129】
上記実施形態では、エンジン11~13をロータリーエンジンとしたが、本発明は、レシプロエンジンを採用することもできる。なお、ロータリーエンジンを採用する上記実施形態では、駆動ユニット10の小型化を図ることができ、車両1の中央に近い領域に駆動ユニット10を配置するのに優位である。よって、エンジン11~13としてロータリーエンジンを採用する場合には、より高い車両運動性能を実現すのに優位である。
【0130】
上記実施形態では、車両1の一例としてFR車を採用したが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、リヤに駆動ユニットを搭載し、駆動力を後輪に伝達するRR車や、運転席の後部に駆動ユニットを搭載し、駆動力を後輪に伝達するMR車、さらにはフロントエリアの後方側部分に駆動ユニットを搭載し、駆動力を前輪に伝達するFF車を採用することも可能である。
【0131】
また、上記実施形態では、インバータ27において、放熱器276に付帯したファン278を設けることとしたが、本発明は、ファンが必須の構成要件ではない。インバータにおいて、放熱器に対してファンを設けない場合にあっても、インバータケースの前方から放熱器を通り、後方側または下方側に空気が流れる流通経路が形成されていれば、上記同様の効果を得ることができる。なお、車両の停車時においても、インバータの放熱器と沸騰冷却器の凝縮部やモータとの間隔を空けるようにしておけば、インバータで発生した熱がモータに影響し難くすることができる。
【符号の説明】
【0132】
1 車両
10 駆動ユニット
11~13 エンジン
14 モータ
26 バッテリ
27 インバータ
44 沸騰冷却器
47 トルクチューブ
48 フロアトンネル
272 インバータケース
272c 排風口
273 回路基板
276 放熱器(第2放熱器)
277 ヒートスプレッダ(伝熱部材)
278 ファン(第2ファン)
442 凝縮部(第1放熱器)
444 沸騰冷却器ファン(第1ファン)