(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】物品搬送設備
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20231129BHJP
【FI】
G05D1/02 X
G05D1/02 G
(21)【出願番号】P 2020137365
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2022-11-17
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 洋
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/111193(WO,A1)
【文献】特開2009-242063(JP,A)
【文献】特開2009-023769(JP,A)
【文献】特開2010-282419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路に沿って走行して物品を搬送する搬送車と、前記搬送車が備える走行部の走行作動を制御する制御部と、を備えた物品搬送設備であって、
前記制御部は、前記搬送車の走行速度を変化させる場合に、前記搬送車の現在位置よりも前記走行経路の下流側の目標位置で前記搬送車の走行速度が目標速度となるように、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンに従って基準速度指令を生成すると共に、設定期間における前記基準速度指令の移動平均により得られる移動平均指令を生成し、当該移動平均指令に基づいて前記走行部の走行作動を制御し、
前記制御部は、前記時間変化パターンに規定された時間を、前記設定期間が長くなるに従って早める、物品搬送設備。
【請求項2】
前記制御部は、前記設定期間の長さを前記搬送車が走行する前記走行経路の形状に応じて変更する、
請求項1に記載の物品搬送設備。
【請求項3】
前記制御部は、前記搬送車が前記走行経路における曲線区間を走行する場合は前記走行経路における直線区間を走行する場合よりも前記設定期間の長さを短くする、請求項1又は2に記載の物品搬送設備。
【請求項4】
前記制御部は、前記設定期間の長さを変更する場合には、前記搬送車が変更前の前記設定期間の長さ以上等速で走行している状態で、前記設定期間の長さを変更する、請求項1から3のいずれか一項に記載の物品搬送設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行経路に沿って走行して物品を搬送する搬送車と、搬送車が備える走行部の走行作動を制御する制御部と、を備えた物品搬送設備に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような物品搬送設備の一例が、特開2010-282569号公報(特許文献1)に開示されている。以下、背景技術の説明において括弧内に示す符号は特許文献1のものである。特許文献1の物品搬送設備は、軌道(2)に沿って走行する搬送車(3)と、搬送車(3)の走行作動を制御する走行制御部(59)と、を備えている。走行制御部(59)は、特許文献1の
図5に示されるような速度パターンを発生させる速度パターン発生部(62)を備えており、走行制御部(59)は、当該速度パターンに従って搬送車(3)の走行作動を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、搬送車の走行速度を変化させる場合には、搬送車の走行加速度の変化によって、搬送車や搬送車により搬送される物品に走行方向の力が作用して振動が発生し得る。例えば特許文献1の
図5に示される減速開始地点では、搬送車の走行加速度が急激に変化しやすく、搬送車や搬送車により搬送される物品に比較的大きな振動が発生し得る。しかしながら、特許文献1にはこのような振動に考慮すべき旨の記載はない。
【0005】
そこで、搬送車の走行速度を変化させる場合に、搬送車や搬送車により搬送される物品に発生し得る振動の低減を図ることができる技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る物品搬送設備は、走行経路に沿って走行して物品を搬送する搬送車と、前記搬送車が備える走行部の走行作動を制御する制御部と、を備えた物品搬送設備であって、前記制御部は、前記搬送車の走行速度を変化させる場合に、前記搬送車の現在位置よりも前記走行経路の下流側の目標位置で前記搬送車の走行速度が目標速度となるように、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンに従って基準速度指令を生成すると共に、設定期間における前記基準速度指令の移動平均により得られる移動平均指令を生成し、当該移動平均指令に基づいて前記走行部の走行作動を制御し、前記制御部は、前記時間変化パターンに規定された時間を、前記設定期間が長くなるに従って早める。
【0007】
本構成では、搬送車の走行速度を目標速度に向けて変化させる場合に、基準速度指令の移動平均により得られる移動平均指令に基づいて走行部の走行作動が制御される。そのため、基準速度指令をそのまま用いて走行部の走行作動を制御する場合に比べて、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車の走行速度を変化させることができる。よって、搬送車の走行速度を変化させる場合に、搬送車や搬送車により搬送される物品に発生し得る振動の低減を図ることができる。また、移動平均指令に基づき走行部の走行作動を制御する場合には、基準速度指令をそのまま用いて走行部の走行作動を制御する場合に比べて、搬送車を減速させる際の搬送車の走行速度が目標速度に到達するまでの搬送車の走行距離(減速必要距離)が長くなり、この減速必要距離は、設定期間が長くなるに従って長くなる。目標速度がゼロである場合(すなわち、搬送車を目標位置で停止させる場合)には、この減速必要距離は、搬送車が停止するまでに必要となる走行距離(停止必要距離)となる。本構成によれば、この点を考慮して、時間変化パターンに規定された時間を、設定期間が長くなるに従って早めることができるため、設定期間の長さにかかわらず、搬送車を目標位置或いはその近傍で目標速度まで減速させること(例えば、停止させること)ができる。
【0008】
なお、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車の走行速度を変化させるために、躍度(走行加速度の変化率)を考慮した計算によって、走行加速度が滑らかに変化するような走行速度の時間変化パターンを導出することも考えられる。しかしながら、このような手法では、目標速度が変化した場合の対応が困難となり得る。これに対して、本構成では、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンを用いつつ、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車の走行速度を変化させることができるため、目標速度が変化した場合にも対応しやすい。
【0012】
物品搬送設備の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】基準速度指令と移動平均指令との間での停止必要距離の違いを示す図
【
図6】走行速度の時間変化パターンに規定される時間を早めた場合の停止必要距離を示す図
【
図7】基準速度指令及び移動平均指令の別例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
物品搬送設備の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、物品搬送設備100は、走行経路40に沿って走行して物品2を搬送する搬送車1を備えている。ここで、走行経路40の長手方向(走行経路40が延びる方向)を経路長手方向Xとし、走行経路40の幅方向を経路幅方向Yとする。経路幅方向Yは、経路長手方向X及び鉛直方向Zの双方に直交する方向である。経路長手方向Xにおける搬送車1の進行方向前方側を下流側X1とし、経路長手方向Xにおける搬送車1の進行方向後方側を上流側X2とする。
【0015】
本実施形態では、物品搬送設備100は、走行経路40に沿って配置された走行レール41(ここでは、経路幅方向Yに間隔を空けて配置された一対の走行レール41)を備えており、搬送車1は、走行レール41に沿って走行する。
図1に示す例では、搬送車1は、天井に沿って形成された走行経路40に沿って走行する天井搬送車であり、走行レール41は、例えば、天井から吊り下げ支持される。なお、搬送車1は、天井搬送車以外の搬送車であってもよい。天井搬送車以外の搬送車として、床に沿って形成された走行経路に沿って走行する搬送車を例示することができる。この場合の走行経路は、走行レールによって形成されるものであっても、仮想的に設定されるものであってもよい。また、物品2の種類はこれに限定されないが、物品2は、例えば、半導体ウェハを収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)とされる。
【0016】
図1に示すように、搬送車1は走行部10を備えている。走行部10は、走行レール41(ここでは、一対の走行レール41)に沿って走行する。走行部10は、走行レール41の走行面を転動する車輪11と、車輪11を回転させる駆動部M(例えば、サーボモータ等の電動モータ)と、を備えている。車輪11が駆動部Mにより回転駆動されることで、走行部10が走行レール41に沿って走行する。詳細は省略するが、走行部10は、走行レール41の案内面を転動する案内輪を備えており、走行部10は、案内輪が走行レール41の案内面に接触案内された状態で、走行レール41に沿って走行する。
図1に示す例では、搬送車1は、走行部10を経路長手方向Xに並ぶように一対備えている。
【0017】
図1に示すように、搬送車1は、走行部10に連結された本体部20を備えている。
図1に示す例では、本体部20は、走行部10に対して鉛直方向Zの下側に配置された状態で、走行部10に支持されている。詳細は省略するが、本体部20は、物品2を支持する支持部を備えており、物品2は、本体部20に支持された状態で、搬送車1により搬送される。
【0018】
図2に示すように、物品搬送設備100は、制御部30を備えている。制御部30は、CPU等の演算処理装置を備えると共にメモリ等の周辺回路を備え、これらのハードウェアと、演算処理装置等のハードウェア上で実行されるプログラムとの協働により、制御部30の各機能が実現される。制御部30は、搬送車1に設けられても、搬送車1とは独立に設けられてもよい。また、制御部30が互いに通信可能に分離された複数のハードウェアを備える場合、一部のハードウェアが搬送車1に設けられ、残りのハードウェアが搬送車1とは独立に設けられてもよい。
【0019】
制御部30は、走行部10の走行作動を制御する。具体的には、制御部30は、駆動部Mの駆動を制御することで、走行部10の走行作動を制御する。以下、本実施形態の制御部30による走行部10の制御(走行作動の制御)について説明するが、上述したように、
図1に示す例では、搬送車1は、経路長手方向Xに並ぶ2つの走行部10を備えている。この場合、これら2つの走行部10が同様に制御される構成とし、或いは、一方の走行部10である第1走行部が、以下に説明するように制御され、他方の走行部10である第2走行部が、第1走行部の走行に従動して走行するように制御される構成とすることができる。後者の場合、制御部30は、例えば、第1走行部の走行に従動して第2走行部が走行するように、第2走行部における駆動部Mによる車輪11の駆動トルクを制御する。制御部30が、第2走行部における駆動部Mによる車輪11の駆動トルクがゼロとなるように制御(トルクフリー制御)することで、第1走行部の走行に従動するように第2走行部を走行させてもよい。
【0020】
例えば、物品2の搬送元又は搬送先に対応する停止位置に搬送車1を停止させる場合や、走行経路40の下流側X1に存在する別の搬送車1との車間距離を維持する制御を行う場合に、或いは、平面視(鉛直方向Zに沿う方向視)で直線状に形成された直線区間から平面視で曲線状に形成された曲線区間に搬送車1が進入する際の減速を行う場合に、制御部30は、搬送車1の現在位置よりも走行経路40の下流側X1の目標位置で搬送車1の走行速度が目標速度となるように、搬送車1の走行速度を変化させる。制御部30は、このように搬送車1の走行速度を変化させる場合に、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンに従って基準速度指令を生成する。制御部30は、設定時間毎(演算周期毎)の基準速度指令を生成する。なお、走行速度の時間変化パターンは、搬送車1の現在位置よりも走行経路40の下流側X1の目標位置で搬送車1の走行速度が目標速度となるように設定される。
図2に示すように、本実施形態では、制御部30は、基準速度指令を生成する基準速度指令生成部31を備えている。
【0021】
そして、制御部30は、設定期間(移動平均時間)における基準速度指令の移動平均により得られる移動平均指令を生成し、当該移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御する。移動平均指令(移動平均処理後の速度指令)は、設定期間における基準速度指令の時系列データに基づき生成される。本実施形態では、移動平均を、重みづけのない単純移動平均としているが、これに限らず、重みづけを行う加重移動平均等とすることもできる。
図2に示すように、本実施形態では、制御部30は、移動平均指令を生成する移動平均指令生成部32を備えており、移動平均指令生成部32は、基準速度指令生成部31から入力される基準速度指令に基づき移動平均指令を生成する。なお、基準速度指令生成部31と移動平均指令生成部32とは、少なくとも論理的に区別され、物理的には必ずしも区別される必要はない。
【0022】
駆動部Mは、車輪11を回転させるモータ部と、制御部30から入力される駆動指令に追従するようにフィードバック制御によりモータ部を駆動するアンプ部と、を備えている。駆動部Mは、搬送車1の走行速度が制御部30から入力される駆動指令に応じた走行速度となるように、車輪11を回転させる。本実施形態では、制御部30又は駆動部Mが移動平均指令に基づき位置指令を生成し、駆動部Mのアンプ部が、当該位置指令に基づく位置制御により、駆動部Mのモータ部を駆動する。位置指令は、例えば、移動平均指令を積分して生成される。なお、駆動部Mのアンプ部が、移動平均指令に基づく速度制御により、駆動部Mのモータ部を駆動する構成とすることもできる。
【0023】
図3に、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンの一例(言い換えれば、基準速度指令の一例)を示す。この走行速度の時間変化パターンは、搬送車1の現在位置よりも走行経路40の下流側X1の目標位置で搬送車1の走行速度を目標速度(速度変化終了速度Ve)とするためのパターンである。ここでの目標位置は、時刻t2での走行経路40上の搬送車1の位置である。この走行速度の時間変化パターンは、一定速度(速度変化開始速度Vs)で走行している搬送車1の走行速度を、時刻t1から時刻t2までの間で、速度変化開始速度Vsから速度変化終了速度Veまで一定の変化率で変化(ここでは、低下)させるためのパターンである。
図3に、走行速度と共に、走行速度の変化率(時間に対する変化率)である走行加速度を示すように、
図3に示す走行速度の時間変化パターンでは、時刻t1及び時刻t2において走行加速度がステップ状に変化する。
【0024】
図4に、基準速度指令の生成元となる走行速度の時間変化パターンが
図3に示すパターンである場合の移動平均指令(移動平均処理後の速度指令)を、当該移動平均指令の変化率(時間に対する変化率)と共に実線で示す。なお、
図4には、
図3に示す2つのグラフを破線で示している。
図4から明らかなように、移動平均指令(
図4において実線で示す速度指令)に基づいて走行部10の走行作動を制御する場合には、基準速度指令(
図4において破線で示す速度指令)をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御する場合に比べて、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車1の走行速度を変化させることができる。
【0025】
なお、
図4に示す例では、基準速度指令(破線で示す速度指令)が時刻t2において速度変化終了速度Veに到達しているのに対して、移動平均指令(実線で示す速度指令)は時刻t2より後の時刻t3において速度変化終了速度Veに到達している。そのため、移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御する場合には、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御する場合に比べて、搬送車1の走行速度が速度変化終了速度Veに到達する時刻が遅れ、この遅れ時間(時刻t2と時刻t3との時間差)は、設定期間(移動平均時間)に等しくなる。
【0026】
上記の遅れ時間の存在によって、
図5に示すように、移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御する場合には、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御する場合に比べて、搬送車1の走行速度が速度変化終了速度Veに到達するまでの搬送車1の走行距離が長くなる。設定期間(移動平均時間)をTとして、走行距離の増大量は、(Vs-Ve)×T/2で表される。なお、
図5では、速度変化終了速度Veがゼロである場合(すなわち、目標速度がゼロである場合)を想定しており、
図5には、
図4に示す移動平均指令のグラフと、当該移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御した場合の搬送車1の走行距離のグラフとを実線で示すと共に、
図3に示す基準速度指令のグラフと、当該基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御した場合の搬送車1の走行距離のグラフとを破線で示している。なお、搬送車1の走行距離のグラフは、各時点での、基準となる位置からの走行経路40に沿った走行距離(言い換えれば、経路長手方向Xの位置)を表している。
図5に示すように、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御した場合の停止必要距離(搬送車1が停止するまでに必要となる走行距離)が第1距離D1となっているのに対して、移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御した場合の停止必要距離は、第1距離D1より長い第2距離D2となっている。
【0027】
速度変化終了速度Veがゼロである場合、設定期間(移動平均時間)をTとして、第1距離D1と第2距離D2との差は、Vs×T/2で表される。よって、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御する場合に比べてVs×T/2で表される距離だけ上流側X2の位置で、速度変化開始速度Vsからの減速を開始すれば、言い換えれば、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御する場合に比べてT/2で表される時間だけ早く速度変化開始速度Vsからの減速を開始すれば、移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御した場合の停止必要距離を、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御した場合の停止必要距離と等しくすることができる。
【0028】
図6では、基準速度指令の生成に用いられる走行速度の時間変化パターンに規定された時間を、
図5の場合と比べて設定期間(移動平均時間)の半分の時間だけ早めた場合の、移動平均指令のグラフと、当該移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御した場合の搬送車1の走行距離のグラフとを実線で示している。
図5に示す例では時刻t1において速度変化開始速度Vsからの減速が開始されているのに対して、
図6に示す例では、上記のように走行速度の時間変化パターンに規定された時間を早めた結果、時刻t1より設定期間の半分の時間だけ前の時刻t0において速度変化開始速度Vsからの減速が開始されている。これにより、
図6では、移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御した場合の停止必要距離が、
図5での基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御した場合の停止必要距離と同様に、第1距離D1となっている。なお、
図6では、時刻t2より設定期間の半分の時間だけ後の時刻t4において、移動平均指令が速度変化終了速度Veに到達している。目標速度がゼロである場合(すなわち、搬送車1を目標位置で停止させる場合)に限らず、搬送車1の走行速度をゼロより大きい目標速度まで低下させる場合にも、基準速度指令の生成に用いられる走行速度の時間変化パターンに規定された時間を、設定期間に応じた時間(例えば、設定期間の半分の時間)早めることで、搬送車1の走行速度が目標速度に到達するまでの搬送車1の走行距離を、基準速度指令をそのまま用いて走行部10の走行作動を制御する場合の走行距離に近づけること(例えば、同一或いは同程度とすること)ができる。
【0029】
以上のことから、例えば、制御部30が、走行速度の時間変化パターンに規定された時間を、設定期間が長くなるに従って早める構成とすると好適である。この場合、走行速度の時間変化パターンに規定された時間を早めない場合を基準とした、走行速度の時間変化パターンに規定された時間の前倒し時間を、例えば、
図6に示す例と同様に設定期間の半分の時間とすることができる。
【0030】
なお、ここでは走行速度の時間変化パターンが
図3に示されるパターンである場合について説明したが、当然ながら、走行速度の時間変化パターンとしてあらゆるパターンを採用することができる。走行速度の時間変化パターンの
図3とは異なる例の1つを、
図7に示す。
【0031】
図7では、走行速度の時間変化パターンを破線で示し、当該パターンに基づき生成される移動平均指令を実線で示している。
図7では、
図3とは異なり、搬送車1の走行速度を、速度変化開始速度Vsから速度変化終了速度Veに二段階で減速する場合を示している。具体的には、
図7に示す走行速度の時間変化パターンは、時刻t10から時刻t11の間に走行速度を速度変化開始速度Vsから中間速度Vtまで低下させ、時刻t11から時刻t12の間は走行速度を中間速度Vtに維持し、時刻t12から時刻t13の間に走行速度を中間速度Vtから速度変化終了速度Veまで低下させ、時刻t13から時刻t14の間は走行速度を速度変化終了速度Veに維持し、時刻t14において走行速度をゼロまでステップ的に低下させるパターンとなっている。時刻t12は、例えば、目標停止位置に対して上流側X2に設けられた被検出体(例えば、停止ゾーンを示す帯状部材)を搬送車1が検出した時刻とされ、時刻t14は、目標停止位置に設けられた被検出体(例えば、光反射板)を搬送車1が検出した時刻とされる。走行速度の時間変化パターンが
図7に示されるパターンである場合にも、移動平均指令に基づいて走行部10の走行作動を制御することで、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車1の走行速度を変化させることができる。
【0032】
ところで、走行経路40上の搬送車1の位置や搬送車1の走行状態等によって、最適な設定期間(移動平均時間)の長さが異なる場合がある。例えば、走行経路40における平面視で曲線状に形成された曲線区間を搬送車1が走行する場合に、設定期間の長さを短くすること(設定期間の長さをゼロとすること、すなわち、基準速度指令をそのまま用いることを含む)が好ましい場合がある。但し、設定期間の長さを単に変更すると、設定期間の長さの変更前後で移動平均指令が不連続となることによって搬送車1や搬送車1により搬送される物品2が振動するおそれがある。そこで、設定期間の長さの変更前後での移動平均指令の連続性を保つために、制御部30が、設定期間の長さを変更する場合には、搬送車1が変更前の設定期間の長さ以上等速で走行している状態で、設定期間の長さを変更する(設定期間の長さをゼロとする変更を含む)構成とすると好適である。なお、制御部30が搬送車1の走行中に設定期間の長さを変更しない構成としてもよい。
【0033】
本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0034】
〔上記実施形態の概要〕以下、上記において説明した物品搬送設備の概要について説明する。
【0035】
走行経路に沿って走行して物品を搬送する搬送車と、前記搬送車が備える走行部の走行作動を制御する制御部と、を備えた物品搬送設備であって、前記制御部は、前記搬送車の走行速度を変化させる場合に、前記搬送車の現在位置よりも前記走行経路の下流側の目標位置で前記搬送車の走行速度が目標速度となるように、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンに従って基準速度指令を生成すると共に、設定期間における前記基準速度指令の移動平均により得られる移動平均指令を生成し、当該移動平均指令に基づいて前記走行部の走行作動を制御する。
【0036】
本構成では、搬送車の走行速度を目標速度に向けて変化させる場合に、基準速度指令の移動平均により得られる移動平均指令に基づいて走行部の走行作動が制御される。そのため、基準速度指令をそのまま用いて走行部の走行作動を制御する場合に比べて、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車の走行速度を変化させることができる。よって、搬送車の走行速度を変化させる場合に、搬送車や搬送車により搬送される物品に発生し得る振動の低減を図ることができる。
【0037】
なお、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車の走行速度を変化させるために、躍度(走行加速度の変化率)を考慮した計算によって、走行加速度が滑らかに変化するような走行速度の時間変化パターンを導出することも考えられる。しかしながら、このような手法では、目標速度が変化した場合の対応が困難となり得る。これに対して、本構成では、走行加速度がステップ状に変化するような走行速度の時間変化パターンを用いつつ、走行加速度の変化が滑らかになるように搬送車の走行速度を変化させることができるため、目標速度が変化した場合にも対応しやすい。
【0038】
ここで、前記制御部は、前記時間変化パターンに規定された時間を、前記設定期間が長くなるに従って早めると好適である。
【0039】
移動平均指令に基づき走行部の走行作動を制御する場合には、基準速度指令をそのまま用いて走行部の走行作動を制御する場合に比べて、搬送車を減速させる際の搬送車の走行速度が目標速度に到達するまでの搬送車の走行距離(減速必要距離)が長くなり、この減速必要距離は、設定期間が長くなるに従って長くなる。目標速度がゼロである場合(すなわち、搬送車を目標位置で停止させる場合)には、この減速必要距離は、搬送車が停止するまでに必要となる走行距離(停止必要距離)となる。本構成によれば、この点を考慮して、時間変化パターンに規定された時間を、設定期間が長くなるに従って早めることができるため、設定期間の長さにかかわらず、搬送車を目標位置或いはその近傍で目標速度まで減速させること(例えば、停止させること)ができる。
【0040】
また、前記制御部は、前記設定期間の長さを変更する場合には、前記搬送車が変更前の前記設定期間の長さ以上等速で走行している状態で、前記設定期間の長さを変更すると好適である。
【0041】
例えば、走行経路における平面視で曲線状に形成された曲線区間を搬送車が走行する場合に、設定期間の長さを短くすること(設定期間の長さをゼロとすること、すなわち、基準速度指令をそのまま用いることを含む)が好ましい場合がある。本構成によれば、このように走行経路上の搬送車の位置や搬送車の走行状態等によって最適な設定期間の長さが異なる場合に、設定期間の長さの変更前後での移動平均指令の連続性を保ちつつ、設定期間の長さを変更することができる。よって、設定期間の長さの変更時に搬送車や搬送車により搬送される物品が振動することを抑制できる。
【0042】
本開示に係る物品搬送設備は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
【符号の説明】
【0043】
1:搬送車
2:物品
10:走行部
30:制御部
40:走行経路
100:物品搬送設備
X1:下流側