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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ベルト余寿命診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/023 20190101AFI20231129BHJP
   F16H 7/00 20060101ALI20231129BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01M13/023
F16H7/00 A
F16H7/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020157764
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051339
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 与史也
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172455(JP,A)
【文献】特開昭60-093131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0076442(US,A1)
【文献】特開2007-239802(JP,A)
【文献】特開2011-256927(JP,A)
【文献】特開2018-071630(JP,A)
【文献】国際公開第2000/034685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 61/00-79/00
F16H 7/00-7/24
G01M 13/00-13/045、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるベルトの余寿命を診断するベルト余寿命診断装置であって、
前記エンジンの回転数と前記エンジンの負荷率または燃料噴射率とからなる運転ポイントについての頻度分布に基づいて、前記ベルトの前記余寿命を診断する
ベルト余寿命診断装置。
【請求項2】
請求項1記載のベルト余寿命診断装置であって、
前記頻度分布と、前記ベルトの劣化度合い毎に定められる複数の判定用マップと、に基づいて、前記ベルトの前記劣化度合いを設定し、設定した前記劣化度合いに基づいて前記余寿命を診断する
ベルト余寿命診断装置。
【請求項3】
請求項2記載のベルト余寿命診断装置であって、
複数の前記判定用マップのうち前記劣化度合いの高い前記判定用マップは、前記劣化度合いが低い前記判定用マップに比して、前記ベルトに共振が生じる前記エンジンの運転領域である共振領域内の前記運転ポイントの頻度が高い
ベルト余寿命診断装置。
【請求項4】
請求項1記載のベルト余寿命診断装置であって、
前記頻度分布において、前記運転ポイントが前記ベルトに共振が生じる共振領域内となる頻度が高いときには、低いときに比して前記余寿命を短く診断する
ベルト余寿命診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト余寿命診断装置に関し、詳しくは、エンジンにより駆動されるベルトの余寿命を診断するベルト余寿命診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のベルト余寿命診断装置としては、ベルト(Vリブドベルト)の寿命を診断するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ベルトは、圧縮ゴム層と、接着ゴム層と、ゴム引き帆布と、が積層されて構成されている。圧縮ゴム層は、プーリ等の動力伝達部材に圧接されている。接着ゴム層は、圧縮ゴム層に接している。ゴム引き帆布は、接着ゴム層に接している。この装置では、ベルトの有限要素モデルと使用条件とから、弾性解析プログラムを用いて接着ゴム層に発生するひずみ量を推定し、推定したひずみ量に基づいて、ベルトの余寿命を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-54403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のベルト余寿命診断装置では、弾性解析プログラムを用いて推定したひずみ量を用いることから、推定したひずみ量と実際のひずみ量との誤差が大きくなることがある。推定したひずみ量と実際のひずみ量との誤差が大きくなると、ベルトの余寿命を精度よく診断することができない。
【0005】
本発明のベルト余寿命診断装置は、ベルトの余寿命を精度よく診断することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のベルト余寿命診断装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のベルト余寿命診断装置は、
エンジンにより駆動されるベルトの余寿命を診断するベルト余寿命診断装置であって、
前記エンジンの回転数と前記エンジンの負荷率または燃料噴射率とからなる運転ポイントについての頻度分布に基づいて、前記ベルトの前記余寿命を診断する
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のベルト余寿命診断装置では、エンジンの回転数とエンジンの負荷率または燃料噴射率とからなる運転ポイントについての頻度分布に基づいて、ベルトの余寿命を診断する。この結果、弾性解析プログラムを用いて推定したひずみ量を用いるものに比して、ベルトの余寿命を精度よく診断できる。
【0009】
こうした本発明のベルト余寿命診断装置において、前記頻度分布と、前記ベルトの劣化度合い毎に定められる複数の判定用頻度分布と、に基づいて、前記ベルトの前記劣化度合いを設定し、設定した前記劣化度合いに基づいて前記余寿命を診断してもよい。こうすれば、より適正に、ベルトの余寿命を診断できる。
【0010】
この場合において、複数の前記判定用頻度分布のうち前記劣化度合いの高い前記判定用頻度分布を、前記劣化度合いが低い前記判定用頻度分布に比して、前記ベルトに共振が生じる前記エンジンの運領域である共振領域内の前記運転ポイントの頻度が高くしてもよいし、複数の前記判定用頻度分布のうち前記劣化度合いの高い前記判定用頻度分布を、前記劣化度合いが低い前記判定用頻度分布に比して、前記エンジンをアイドル運転する際のアイドル運転ポイントの頻度を高くしてもよい。こうすれば、複数の判定用頻度分布をより適正なものとすることができ、ベルトの余寿命をより精度よく診断できる。
【0011】
また、本発明のベルト余寿命診断装置において、前記頻度分布において、前記運転ポイントが前記ベルトに共振が生じる共振領域内となる頻度が高いときには、低いときに比して前記余寿命を短く診断してもよい。こうすれば、より適正に、ベルトの余寿命を診断できる。
【0012】
さらに、本発明のベルト余寿命診断装置において、前記頻度分布において、前記運転ポイントが前記エンジンをアイドル運転する際のアイドル運転ポイントとなる頻度が高いときには、低いときに比して前記余寿命を短く診断してもよい。こうすれば、より適正に、ベルトの余寿命を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例としてのベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1の構成の概略を示す構成図である。
図2】自動車10の構成の概略を示す構成図である。
図3】VリブドベルトBvの構成の概略を示す構成図である。
図4】自動車10のECU70により実行されるマップ作成ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】頻度マップMapの一例を示す説明図である。
図6】管理センタ90のコンピュータ92により実行されるベルト余寿命診断ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図7】VリブドベルトBvの劣化が速い場合の判定用マップPj1の一例を示す説明図である。
図8】VリブドベルトBvの劣化が遅い場合の判定用マップPj2の一例を示す説明図である。
図9】VリブドベルトBvの劣化が判定用マップPj2より速く判定用マップPj1より遅い場合の判定用マップPj3の一例を示す説明図である。
図10】VリブドベルトBvの劣化が判定用マップPj2より速く判定用マップPj1より遅い場合の判定用マップPj4の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1の構成の概略を示す構成図である。図2は、自動車10の構成の概略を示す構成図である。図3は、VリブドベルトBvの構成の概略を示す構成図である。車両診断システム1は、自動車10と、管理センタ90とを備える。
【0016】
自動車10は、エンジン12と、変速機50と、車両全体の制御を行なう電子制御ユニット(以下、「ECU」という)70とを備える。
【0017】
エンジン12は、ガソリンや軽油などの燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン12は、エアクリーナ22により清浄された空気を吸気管23に吸入してスロットルバルブ24を通過させると共に吸気管23のスロットルバルブ24よりも下流側で燃料噴射弁26から燃料を噴射し、空気と燃料とを混合する。そして、この混合気を吸気バルブ28を介して燃焼室29に吸入し、点火プラグ30による電気火花によって爆発燃焼させる。そして、爆発燃焼によるエネルギにより押し下げられるピストン32の往復運動をクランクシャフト14の回転運動に変換する。燃焼室29から排気バルブ33を介して排気管34に排出される排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する触媒(三元触媒)を有する浄化装置35,36を介して外気に排出される。
【0018】
クランクシャフト14は、先端にクランクシャフトプーリPcが取り付けられている。クランクシャフトプーリPcは、外周にVリブドベルトBvが取り付けられている。VリブドベルトBvは、エンジン12の図示しない補機類(冷却系のウォータポンプやオルタネータなど)を駆動するプーリP1~P5が取り付けられており、クランクシャフト14、即ち、エンジン12により駆動される。エンジン12からの動力は、クランクシャフト14、クランクシャフトプーリPc、VリブドベルトBv、プーリP1~P5を介してエンジン12の補機類に伝達される。
【0019】
エンジン12とVリブドベルトBvとクランクシャフトプーリPcとエンジン12の補機類とプーリP1~P5とは、エンジン12を収納する図示しないエンジンコンパートメント内に収容されている。
【0020】
変速機50は、エンジン12のクランクシャフト14に接続されると共にデファレンシャルギヤ52を介して駆動輪54a,54bに接続される。
【0021】
ECU70は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUに加えて、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、データを不揮発的に記憶する不揮発性メモリ72、入出力ポートを備える。
【0022】
ECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。ECU70に入力される信号としては、例えば、エンジン12のクランクシャフト14の回転位置を検出するクランクポジションセンサ14aからのクランク角θcrや、エンジン12の冷却水の温度を検出する水温センサ15からの冷却水温Twを挙げることができる。スロットルバルブ24のポジションを検出するスロットルポジションセンサ24aからのスロットル開度THや、吸気バルブ28を開閉するインテークカムシャフトや排気バルブ33を開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ16からのカム角θci,θcoも挙げることができる。吸気管23に取り付けられたエアフローメータ23aからの吸入空気量Qaや、吸気管23に取り付けられた温度センサ23bからの吸気温Ta、排気管34の浄化装置35よりも上流側に取り付けられた空燃比センサ37からの空燃比AF、排気管34の浄化装置35と浄化装置36との間に取り付けられた酸素センサ38からの酸素信号O2も挙げることができる。イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号IGや、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPも挙げることができる。アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車両が出荷されてからの走行距離を積算するオドメータ87からの総走行距離Dt、車速センサ88からの車速Vも挙げることができる。
【0023】
ECU70からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。ECU70から出力される信号としては、例えば、スロットルバルブ24のポジションを調節するスロットルモータ24bへの制御信号や、燃料噴射弁26への制御信号、点火プラグ30への制御信号を挙げることができる。また、変速機50への制御信号も挙げることができる。
【0024】
ECU70は、クランクポジションセンサ14aからのクランク角θcrに基づいてエンジン12の回転数Neを演算している。また、ECU70は、エアフローメータ23aからの吸入空気量Qaとエンジン12の回転数Neとに基づいて負荷率(エンジン12の1サイクル当たりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の割合)KLを演算している。
【0025】
ECU70は、専用通信装置(DCM)89を介して、管理センタ90と通信により各種データをやりとりする。
【0026】
自動車10では、ECU70は、アクセル開度Accや車速Vに基づいて変速機50の目標変速段Gs*を設定し、変速機50の変速段Gsが目標変速段Gs*となるように変速機50を制御する。また、アクセル開度Accや車速V、変速機50の変速段Gsに基づいてエンジン12の目標トルクTe*を設定し、設定した目標トルクTe*に基づいて、スロットルバルブ24の開度を制御する吸入空気量制御や、燃料噴射弁26からの燃料噴射量を制御する燃料噴射制御、点火プラグ30の点火時期を制御する点火制御などを行なう。
【0027】
管理センタ90は、管理サーバとなるコンピュータ92と、記憶装置94と、通信装置96とを備える。コンピュータ92は、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートなどを有する。記憶装置94は、例えば、ハードディスクやSSDなどとして構成されている。通信装置96は、自動車10のDCM89との通信を行なう。コンピュータ92と、記憶装置94と、通信装置96とは、互いに信号線を介して接続されている。
【0028】
次に、こうして構成された実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1の動作、特に、VリブドベルトBvの余寿命を診断する際の動作について説明する。図4は、自動車10のECU70により実行されるマップ作成ルーチンの一例を示すフローチャートである。マップ作成ルーチンは、自動車10の使用が開始されたとき(例えば、自動車10が工場から出荷されてシステムが起動されたときや、ユーザが自動車10を購入して最初にシステムが起動されたときなど)から繰り返し実行される。
【0029】
マップ作成ルーチンが実行されると、ECU70のCPUは、エンジン12の回転数Neと負荷率KLとを入力して不揮発性メモリ72に保存する処理を実行する(ステップS100)。そして、マップ作成ルーチンの実行を開始してからの走行距離Dが所定距離Drefを超えているか否かを判定する(ステップS110)。所定距離Drefは、VリブドベルトBvの余寿命を診断するか否かを判定するための閾値であり、例えば、一般的な自動車の1か月の走行距離の平均値として予め定めた値(1000km、1500km、2000kmなど)を挙げることができる。
【0030】
走行距離Dが所定距離Dref以下であるときには、ステップS100へ戻り、走行距離Dが所定距離Drefを超えるまで、ステップS100、S110を繰り返す。したがって、ECU70は、走行距離Dが所定距離Drefを超えるまで、ステップS100で入力したエンジン12の回転数Neや負荷率KLを消去せずに不揮発性メモリ72に蓄積する。
【0031】
ステップS110で走行距離Dが所定距離Drefを超えたときには、不揮発性メモリ72に記憶しているエンジン12の回転数Neや負荷率KLを用いて、頻度マップMapを作成して管理センタ90に送信する(ステップS120)。頻度マップMapは、自動車10が所定距離Drefを走行する期間における、エンジン12の回転数Neと負荷率KLとからなる運転ポイントPoの頻度分布である。
【0032】
頻度マップMapは、以下の方法で作成される。最初に、エンジン12を運転している最中にエンジン12が取り得る回転数Neの範囲として予め定めた範囲Rneおよび負荷率KLの範囲として予め定めた範囲Rklを、所定回転数dN(例えば、200rpm、400rpm、600rpm毎など)毎、所定率dKL(例えば、4%、5%、6%など)毎に、複数の運転領域Aoに区分けする。そして、不揮発性メモリ72に保存されている回転数Ne、負荷率KLのデータから、各運転領域Aoに含まれる運転ポイントPo(回転数Neおよび負荷率KL)でのエンジン12の運転頻度(運転回数)Feoを導出して、頻度マップMapを作成する。図5は、頻度マップMapの一例を示す説明図である。頻度マップMapでは、運転頻度Feoの高い運転領域Aoは、低い運転領域Aoに比して、濃く表示している。
【0033】
こうして頻度マップMapを作成して管理センタ90に送信すると、不揮発性メモリ72に記憶しているエンジン12の回転数Neや負荷率KLのデータを消去して(ステップS130)、走行距離Dを値0にリセットして(ステップS140)、マップ作成ルーチンを終了する。
【0034】
図4のマップ作成ルーチンは繰り返し実行されることから、自動車10が所定距離Drefを走行する毎に、頻度マップMapを作成して管理センタ90に送信し、不揮発性メモリ72に記憶しているエンジン12の回転数Neや負荷率KLのデータを消去する。したがって、エンジン12の回転数Neや負荷率KLのデータを所定距離Drefを走行する毎に消去せずに保持するものに比して、不揮発性メモリ72の記憶容量の低減を図っている。
【0035】
通信装置96を介して頻度マップMapを受信した管理センタ90のコンピュータ92は、以下の処理を実行する。図6は、管理センタ90のコンピュータ92により実行されるベルト余寿命診断ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0036】
ベルト余寿命診断ルーチンが実行されると、管理センタ90のコンピュータ92は、頻度マップMapと総走行距離Dtとを入力する処理を実行する(ステップS200)。総走行距離Dtは、自動車10のオドメータ87により検出されたものをDCM89、通信装置96を介して入力している。
【0037】
そして、頻度マップMapの形状および濃淡と判定用マップ(判定用頻度分布)Pj1~Pj4の形状および濃淡とを比較して、VリブドベルトBvの劣化度合いとしての劣化速度Rdを判定する(ステップS210)。判定用マップPj1~Pj4は、VリブドベルトBvの劣化速度に応じた運転ポイントPoの頻度分布として、実験や解析などで予め定めたものである。
【0038】
図7は、判定用マップPj1の一例を示す説明図である。図8は、判定用マップPj2の一例を示す説明図である。図9は、判定用マップPj3の一例を示す説明図である。図10は、判定用マップPj4の一例を示す説明図である。図7図10で、VリブドベルトBvに共振が生じる中回転数、中負荷率の運転領域としての共振領域を破線で示している。エンジン12をアイドル運転する際のアイドル運転ポイントの周辺の運転領域としてのアイドル運転領域を一転鎖線で示している。判定用マップPj1~Pj4では、運転頻度Feoの高い運転領域Aoは、低い運転領域Aoに比して、濃くなるように記載されている。
【0039】
判定用マップPj1は、図7に示すように、共振領域内の運転ポイントPoでの運転頻度Feo、アイドル運転領域での運転頻度Feo、共振領域外およびアイドル運転領域外の運転領域(図では高回転高負荷領域)での運転頻度Feoが高くなっている。判定用マップPj2は、図8に示すように、共振領域内の運転ポイントPoでの運転頻度Feo、アイドル運転領域での運転頻度Feoが高くなっている。判定用マップPj3は、図9に示すように、アイドル運転領域での運転頻度Feoが高くなっている。判定用マップPj4は、図10に示すように、共振領域外、アイドル運転領域外の運転頻度Feoでの運転頻度Feo(図では高回転高負荷領域)が高くなっている。共振領域内の運転ポイントPoでのエンジン12の運転頻度Feoが高いときには低いときに比して、VリブドベルトBvの振動が大きくなって発熱する機会が多く、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)が大きくなると考えられる。また、エンジン12をアイドル運転しているときには、車両を停止しているときが多く、走行風が少なくことから、エンジン12が収納されているエンジンコンパートメント内から熱が逃げず、エンジンコンパートメント内が高温となり、VリブドベルトBvが高温になって劣化が進みやすい。そのため、アイドル運転領域でのエンジン12の運転頻度Feoが高いときに低いときに比してVリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)が大きくなると考えられる。したがって、判定用マップPj1~Pj4は、この順で、劣化速度が速く(劣化度合いが高く)なっており、劣化速度を反映した適正なものとなっている。
【0040】
ステップS210の頻度マップMapの形状および濃淡と判定用マップPj1~Pj4の形状および濃淡との比較は、頻度マップMapと判定用マップPj1~Pj4とをそれぞれ画像とみなして、人工知能(AI)による画像認識処理を用いて行なわれる。
【0041】
人工知能(AI)による画像認識処理では、最初に、頻度マップMapを画像としてノイズ除去や背景除去などの前処理を施して、AIによる画像認識を実行する。AIによる画像認識では、最初に、濃淡で示した運転頻度Feoの画像から、画像としての特徴(例えば、図5において比較的低い回転数Neと比較的低い負荷率KLに濃い領域が存在するなど)を抽出する。そして、抽出した特徴と、AIが学習している判定用マップPj1~Pj4の特徴と、を比較する。
【0042】
判定用マップPj1の特徴としては、図7に示すように、3つの楕円が間隔をもって配置されており、各楕円の中央部はその周辺部に比して濃くなっているなどを挙げることができる。判定用マップPj2の特徴としては、図8に示すように、横長の2つの楕円が間隔をもって配置されており、各楕円の中央部はその周辺部に比して濃くなっているなどを挙げることができる。判定用マップPj3の特徴としては、図9に示すように、左下に1つの楕円があり、楕円の中央部はその周辺部に比して濃くなっているなどを挙げることができる。判定用マップPj4の特徴としては、図10に示すように、横長の1つの楕円が右上に配置されており、楕円の中央部はその周辺部に比して濃くなっているなどを挙げることができる。
【0043】
頻度マップMapの特徴と、判定用マップPj1~Pj4のいずれかの特徴とが一致したときには、VリブドベルトBvの劣化速度Rdは、一致した判定用マップに対応する劣化速度と判定する。頻度マップMapは、実際にエンジン12を運転ポイントPoで運転した運転頻度Feoを用いて設定されているから、解析プログラムなどを用いて劣化速度を判定するものに比して、VリブドベルトBvの劣化速度、即ち、劣化度合いをより精度よく判定できる。
【0044】
こうして劣化速度Rdを判定すると、劣化速度Rdに基づいて走行可能総距離Dabを設定する(ステップS220)。走行可能総距離Dabは、VリブドベルトBvが寿命を迎えるまでに走行可能な距離として、予め実験や解析などにより定められている。走行可能総距離Dabは、劣化速度Rdが速いときには遅いときに比して長くなるように設定されている。
【0045】
こうして走行可能総距離Dabを設定すると、走行可能総距離DabからステップS200で入力した総走行距離Dtを減じた値(=Dab-Dt)、即ち、現時点からVリブドベルトBvが寿命を迎えるまでに走行可能な距離をVリブドベルトBvの余寿命LTに設定して(ステップS230)、ベルト余寿命診断ルーチンを終了する。こうして、実際のエンジン12の運転ポイントPoの頻度分布を用いてVリブドベルトBvの余寿命LTを診断するから、より精度よくVリブドベルトBvの余寿命LTを診断できる。
【0046】
また、頻度マップMapと、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)毎に予め定められる判定用マップPj1~Pj4と、に基づいて、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定し、設定した劣化速度(劣化度合い)Rdに基づいてVリブドベルトBvの余寿命LTを設定するから、より適正に、VリブドベルトBvの余寿命を診断できる。
【0047】
管理センタ90は、こうしてVリブドベルトBvの余寿命LTを診断してからの自動車10の走行距離が余寿命LTに達したときには、VリブドベルトBvが寿命を迎えると判断して、自動車20にVリブドベルトBvの交換を促す情報を送信する。VリブドベルトBvの交換を促す情報を受信した自動車20では、図示しない車室内のディスプレイにVリブドベルトBvの交換を促す情報を表示することで、ユーザにVリブドベルトBvの交換を促すことができる。
【0048】
以上説明した実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1によれば、エンジン12の回転数Neと負荷率KLとからなる運転ポイントPoについての頻度分布である頻度マップMapに基づいて、VリブドベルトBvの劣化度合いことにより、VリブドベルトBvの余寿命を精度よく診断することができる。
【0049】
また、頻度マップMapと、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)毎に定められる判定用マップPj1~Pj4と、に基づいて、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定し、設定した劣化速度(劣化度合い)Rdに基づいてVリブドベルトBvの余寿命を診断してもよい。こうすれば、より適正に、VリブドベルトBvの余寿命を診断できる。
【0050】
さらに、判定用マップPj1~Pj4のうち劣化度合いの高い判定用マップを、劣化度合いが低い判定用マップに比して、VリブドベルトBvに共振が生じるエンジン12の運転領域である共振領域内の運転ポイントPoでの運転頻度Feoを高くする。こうすれば、判定用マップPj1~Pj4をより適正なものとすることができる。
【0051】
そして、判定用マップPj1~Pj4のうち劣化度合いの高い判定用マップを、劣化度合いが低い判定用マップに比して、アイドル運転領域での運転頻度Feoを高くする。こうすれば、判定用マップPj1~Pj4をより適正なものとすることができる。
【0052】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、図4に例示したマップ作成ルーチンにおいて、エンジン12の回転数Neと負荷率KLとからなる運転ポイントPoについての頻度分布としての頻度マップMapを作成している。しかしながら、ステップS100で入力したエンジン12の回転数Ne、負荷率KLがエンジン12をアイドル運転する際の回転数Nidlおよび値0の負荷率Kidl(=0)であるときには、エンジン12の回転数Ne、負荷率KLと共に車速センサ88からの車速Vを入力して不揮発性メモリ72に記憶し、ステップS120の処理と共に、車速Vが所定車速Vref以上である回数N1(頻度)と車速Vが所定車速Vref未満である回数N2(頻度)とを計測して、回数N1、N2を管理センタ90に送信してもよい。所定車速Vrefは、アクセルペダル83がオフされて車両が減速中などエンジンコンパートメント内の新気が入り込み、VリブドベルトBv周囲の雰囲気温度が下がる程度の車速(例えば、数10km/hなど)に設定される。この場合、回数N1が回数N2以上のときには、VリブドベルトBvの温度が下がり、回数N1が回数N2未満のときに比して、VリブドベルトBvの余寿命が長くなると考えられる。そのため、図6のベルト余寿命診断ルーチンでは、ステップS230において、回数N1が回数N2未満であるときには、走行可能総距離Dabから総走行距離Dtを減じたものを余寿命LTに設定し、回数N1が回数N2以上であるときには、走行可能総距離Dabから総走行距離Dtに所定距離Dnを加えたものを余寿命LTに設定してもよい。
【0053】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、図4に例示したマップ作成ルーチンでは、ステップS100で回転数Ne、負荷率KLを入力して不揮発性メモリ72に保存し、ステップS120で回転数Ne、負荷率KLを用いて頻度マップMapを作成して管理センタ90に送信している。しかしながら、負荷率KLに代えて、燃料噴射率を用いても構わない。
【0054】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、頻度マップMapの形状および濃淡と、VリブドベルトBvの劣化度合い毎に定められる判定用マップPj1~Pj4の形状および濃淡と、に基づいて、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定している。しかしながら、頻度マップMapと判定用マップPj1~Pj4とを用いてVリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定すればよいから、例えば、頻度マップMapおよび判定用マップPj1~Pj4の濃淡を考慮せずに頻度マップMapの形状と判定用マップPj1~Pj4の形状とに基づいて、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定してもよいし、頻度マップMapおよび判定用マップPj1~Pj4の形状を考慮せずに頻度マップMapの濃淡と判定用マップPj1~Pj4の濃淡とに基づいて、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定してもよい。
【0055】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、頻度マップMapの形状および濃淡と、VリブドベルトBvの劣化度合い毎に定められる判定用マップPj1~Pj4の形状および濃淡と、に基づいて、VリブドベルトBvの劣化速度(劣化度合い)Rdを設定し、設定した劣化速度(劣化度合い)Rdに基づいてVリブドベルトBvの余寿命を診断している。しかしながら、判定用マップPj1~Pj4を用いずに、頻度マップMapのみを用いて、VリブドベルトBvの余寿命を診断してもいい。この場合、頻度マップMapにおいて、運転ポイントPoがVリブドベルトBvに共振が生じる共振領域内となる運転頻度Feoが高いときには、低いときに比して余寿命LTを短く設定し、運転ポイントPoがエンジン12をアイドル運転する際のアイドル運転ポイントとなる運転頻度Feoが高いときには、低いときに比して余寿命LTを短く設定すればよい。
【0056】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、図4に例示したマップ作成ルーチンを自動車10のECU70で実行している。しかしながら、マップ作成ルーチンの一部または全てを管理センタ90のコンピュータ92で実行してもよい。
【0057】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、図6に例示したベルト余寿命診断ルーチンを管理センタ90のコンピュータ92で実行している。しかしながら、ベルト余寿命診断ルーチンの一部または全てを自動車10のECU70で実行してもよい。
【0058】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、VリブドベルトBvの余寿命を診断している。しかしながら、診断対象は、VリブドベルトBvに限定されるものではなく、エンジン12により駆動されるベルトであれば、如何なるものを診断対象としても構わない。
【0059】
実施例のベルト余寿命診断装置を備える車両診断システム1では、本発明を、エンジン12の動力で走行する自動車10を備えるシステムに適用している。しかしながら、自動車10を、エンジン12からの動力とモータからの動力とにより走行可能なハイブリッド自動車としても構わない。また、自動車10に代えて、列車や建設機械など自動車とは異なる車両に適用しても構わない。さらに、本発明は、エンジン12を搭載した車両に適用されるものに限定されるものではなく、車両とは異なる装置、例えば、エンジン12を搭載し発電設備などに設置されたエンジン装置としてもよい。
【0060】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、自動車10のECU70と管理センタ90のコンピュータ92とが「ベルト余寿命診断装置」に相当する。
【0061】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、ベルト余寿命診断装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 車両診断システム、10 自動車、12 エンジン、14 クランクシャフト、14a クランクポジションセンサ、15 水温センサ、16 カムポジションセンサ、22 エアクリーナ、23 吸気管、23a エアフローメータ、23b 温度センサ、24 スロットルバルブ、24a スロットルポジションセンサ、24b スロットルモータ、26 燃料噴射弁、28 吸気バルブ、29 燃焼室、30 点火プラグ、32 ピストン、33 排気バルブ、34 排気管、35,36 浄化装置、37 空燃比センサ、38 酸素センサ、50 変速機、52 デファレンシャルギヤ、54a 駆動輪、70 電子制御ユニット(ECU)、72 不揮発性メモリ、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 管理センタ、92 コンピュータ、94 記憶装置、Bv Vリブドベルト、P1~P5 プーリ、Pc クランクシャフトプーリ。
図1
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