(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】炭素繊維をリサイクルする方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20231129BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20231129BHJP
B09B 3/50 20220101ALI20231129BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20231129BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
B09B3/40
B09B3/50
C08J11/12
C08J11/10
(21)【出願番号】P 2020194000
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦山 裕司
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172799(JP,A)
【文献】特開平11-290822(JP,A)
【文献】特開2005-307121(JP,A)
【文献】特開2009-138143(JP,A)
【文献】特開2001-347523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0283348(US,A1)
【文献】米国特許第10829611(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第103897213(CN,A)
【文献】特開平06-256561(JP,A)
【文献】特開2015-199827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/00-17/04
B09B 1/00- 5/00
C08J 11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維をリサイクルする方法であって、
炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程、
炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理及び紫外線照射処理の少なくとも一方の処理を行う工程、及び
前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも炭素繊維に第一の液体を噴射し、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも一部を、第二の液体に浸漬させる工程を有し、
前記浸漬させる工程を、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程の前及び同時の少なくとも一方で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一の液体を、炭素繊維強化樹脂成形品に対して噴射する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の液体を、炭素繊維強化樹脂成形品から引き出した炭素繊維に対して噴射する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の液体を噴射する際のノズル圧力が1MPa以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一の液体が、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第二の液体が、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、及びエステル系溶媒から選択される少なくとも1種の有機溶媒である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の液体の温度が0~100℃である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第二の液体の温度が0~100℃である、請求項2又は7に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱処理が、400℃以上の温度で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱する処理である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱処理が、空気を遮断した状態で行われる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維をリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、軽量かつ高剛性であり、高圧水素に耐え得る材料である。そのため、燃料電池(FC)車の水素タンク等の炭素繊維強化樹脂成形品に用いられている。また、炭素繊維強化樹脂成形品は、タンク以外にも、スポーツ・レジャー用品や航空宇宙用構成部品等の幅広い分野にわたって使用されている。しかしながら、炭素繊維強化樹脂に含まれる炭素繊維は、高価であり、また、製造時CO2発生量が多く且つ廃棄処理が困難であるため環境負荷が高い。そこで、使用済みの炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を回収し、リサイクルする方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、強化部品から樹脂を分離しながら強化繊維を繰り出すアンワインディング段階と、繰り出された強化繊維をサイジング液に通過させて強化繊維にサイジング液をコートするサイジング段階と、サイジング液がコートされた強化繊維をマンドレルに巻き取るワインディング段階とを含んでなる、強化繊維回収方法を開示している。さらに、特許文献1は、アンワインディング段階として、膨潤液に強化部品を浸漬することにより強化部品の樹脂を膨潤させる膨潤段階と、強化部品から強化繊維を繰り出しながら溶解液に通過させ、強化繊維に含浸された樹脂を溶解させる溶解段階と、樹脂が溶解した強化繊維を中間ワインダーを介して巻き取る中間ワインディング段階とを含む態様を開示している。特許文献1は、強化繊維として炭素繊維を開示している。
【0004】
特許文献2は、炭素材料/酸無水物硬化エポキシ樹脂複合材料の分離方法であり、アルカリ金属化合物と有機溶媒を含む処理液を用いて、樹脂硬化物を溶解及び/又は分解することにより、炭素材料と、樹脂硬化物の溶液及び/又は分解生成物とに分離する炭素材料/酸無水物硬化エポキシ樹脂複合材料の分離方法を開示している。特許文献2は、炭素材料として炭素繊維を開示している。
【0005】
特許文献3は、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなる繊維強化樹脂製品の廃棄物から強化繊維を分離するにあたり、繊維強化樹脂製品の廃棄物を高温のエチレングリコール又はトリエチレングリコールと接触させることにより樹脂を溶解して強化繊維を分離し、分離した強化繊維からエチレングリコール又はトリエチレングリコールを水洗によって除去するようにした、強化繊維の分離方法を開示している。特許文献3は、強化繊維として炭素繊維を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-104847号公報
【文献】特開2005-255835号公報
【文献】特開2008-13614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に開示されるように、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を回収する方法が従来から検討されている。前述のように特許文献1では膨潤段階と、溶解段階とを設けることが提案されており、特許文献2ではアルカリ金属化合物と有機溶媒を含む処理液を用いて、樹脂硬化物を溶解及び/又は分解することが提案されており、特許文献3では高温のエチレングリコール又はトリエチレングリコールと接触させることが提案されていた。
【0008】
すなわち、従来検討されていたのは、炭素繊維強化樹脂成形品又は成形品から繰り出された炭素繊維と接触させる、液体の種類や液体の温度についての検討にとどまっていた。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1~3で開示されている方法に従って炭素繊維を回収した場合であっても、回収された炭素繊維に、樹脂又は樹脂に由来する成分の一部が未だ残存し、付着している場合があることが分かった。樹脂又は樹脂に由来する成分が残存する炭素繊維は、再利用に適さない物であった。
【0010】
そこで、本開示の目的は、再利用に適した炭素繊維を効率的に得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、以下の方法であれば、再利用に適した炭素繊維を効率的に得ることができることを見出し、本開示に至った。
【0012】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0013】
(1) 炭素繊維をリサイクルする方法であって、
炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程、
炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理及び紫外線照射処理の少なくとも一方の処理を行う工程、及び
前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも炭素繊維に第一の液体を噴射し、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程を含む、方法。
(2) 前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも一部を、第二の液体に浸漬させる工程を有し、
前記浸漬させる工程を、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程の前及び同時の少なくとも一方で行う、(1)に記載の方法。
(3) 前記第一の液体を、炭素繊維強化樹脂成形品に対して噴射する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記第一の液体を、炭素繊維強化樹脂成形品から引き出した炭素繊維に対して噴射する、(1)又は(2)に記載の方法。
(5) 前記第一の液体を噴射する際のノズル圧力が1MPa以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6) 前記第一の液体が、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7) 前記第二の液体が、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体である、(2)に記載の方法。
(8) 前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、及びエステル系溶媒から選択される少なくとも1種の有機溶媒である、(6)又は(7)に記載の方法。
(9) 前記第一の液体の温度が0~100℃である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10) 前記第二の液体の温度が0~100℃である、(2)又は(7)に記載の方法。
(11) 前記加熱処理が、400℃以上の温度で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱する処理である、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12) 前記加熱処理が、空気を遮断した状態で行われる、(1)~(11)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、再利用に適した炭素繊維を効率的に得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図2】炭素繊維強化樹脂成形品としてのタンク100の構成例を示す模式的断面図である。
【
図3】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【
図5】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【
図6】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【
図7】本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態は、炭素繊維をリサイクルする方法であって、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程、炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理及び紫外線照射処理の少なくとも一方の処理を行う工程、及び前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも炭素繊維に第一の液体を噴射し、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程を含む方法である。以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態によれば、樹脂又は樹脂に由来する成分が炭素繊維に残存することを抑制することができる。本実施形態における除去工程では、第一の液体の噴射を行うこと、すなわち第一の液体に圧力をかけて炭素繊維と接触させることにより、その圧力を利用して炭素繊維に付着する、処理後の樹脂を除去することができる。このため、従来の方法と比べて、リサイクルされた炭素繊維に残存する樹脂又は樹脂に由来する成分を顕著に少なくすることができる。炭素繊維に樹脂又は樹脂に由来成分が残存していると、再利用する際に、炭素繊維を、新たな樹脂組成物とを混合すると、新たな樹脂組成物と炭素繊維との間に、樹脂又は樹脂に由来成分が存在することになり、高性能の炭素繊維強化樹脂成形品として再生することが困難となる。一方で、本実施形態でリサイクルされる炭素繊維は、樹脂又は樹脂に由来する成分の残存が抑制されているため、本実施形態でリサイクルされた炭素繊維は、高品質な炭素繊維として、各種用途に再利用することができる。すなわち、本実施形態でリサイクルされた炭素繊維を用いて、高性能の炭素繊維強化樹脂成形品を再度製造することが可能である。
【0018】
炭素繊維強化樹脂成形品は、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する。炭素繊維強化樹脂成形品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タンク等が挙げられる。タンクとしては、例えば、水素を貯蔵するための水素タンクが挙げられる。以下の例では、炭素繊維強化樹脂成形品としてタンクを例に挙げて説明するが、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお、本実施形態は、炭素繊維をリサイクルする方法に関するものであるが、炭素繊維をリサイクルする方法は、炭素繊維を製造する方法を意味するものとして把握されるべきである。
【0019】
図1に、本実施形態に係る方法のフローチャートを示す。
図1に示すように、本実施形態は、成形品用意工程、処理工程、及び除去工程を必須の工程として含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0020】
(成形品用意工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成形品を用意する工程を含む。
【0021】
上述の通り、炭素繊維強化樹脂成形品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タンク等が挙げられる。本工程で用意される炭素繊維強化樹脂成形品としては例えば、製造後、各用途に使用され、その後回収されたもの、製造段階での不良品等が挙げられる。
【0022】
図2は、タンク100の構成例を示す断面図である。
図2は、タンク100の中心軸に平行でかつ中心軸を通る面で切断された断面図を示している。タンク100の中心軸は、略円筒状を有するタンク本体の円の中心を通る軸と一致する。タンク100は、例えば、圧縮水素等の気体を充填するために用いることができる。例えば、タンク100は、圧縮水素が充填された状態で、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車に搭載される。
【0023】
タンク100は、ライナー10(ナイロン樹脂製)と、外殻としての炭素繊維強化樹脂層20と、バルブ側口金30と、エンド側口金40と、バルブ50と、を備える。また、ライナー10と炭素繊維強化樹脂層20の間には、保護層60が配置されている。ライナー10は、内部に水素が充填される空間を備える中空形状とされ、水素が外部に漏れないように内部空間を密閉するガスバリア性を有する。
【0024】
炭素繊維強化樹脂層20は、ライナー10及び保護層60の外側を覆うように形成された樹脂層である。炭素繊維強化樹脂層20は、保護層60の外側表面を覆うように形成されている。保護層60は、炭素繊維強化樹脂層20の内側表面を覆うように形成されており、また、口金30、40の一部を覆うように形成されている。炭素繊維強化樹脂層は、主にライナー10を補強する機能を有する(補強層)。ライナー10は、保護層60の内側表面を覆うように形成されている。
【0025】
図2において、バルブ側口金30は、略円筒状を成し、ライナー10と保護層60との間に嵌入されて、固定されている。バルブ側口金30の略円柱状の開口が、タンク100の開口として機能する。本実施形態において、バルブ側口金30は、例えば、ステンレスから形成できるが、アルミニウム等の他の金属から成るものであってもよいし、樹脂製であってもよい。バルブ50は、円柱状の部分に、雄ねじが形成されており、バルブ側口金30の内側面に形成されている雌ねじに螺合されることにより、バルブ50によって、バルブ側口金30の開口が閉じられる。エンド側口金40は、例えばアルミニウムから成り得、一部分が外部に露出した状態で組み立てられ、タンク内部の熱を、外部に導く働きをする。
【0026】
炭素繊維強化樹脂層は、炭素繊維及び樹脂(マトリックス樹脂)を含む。
【0027】
樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、当該技術分野において従来知られているものを使用することができる。エポキシ樹脂としては、制限されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、直鎖型であっても分岐型であってもよい。樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0028】
炭素繊維は、当該技術分野において従来知られている方法により調製することができる。炭素繊維としては、炭素を主成分とする材料であればよく、例えば、アクリルを原料とする炭素繊維、ピッチを原料とする炭素繊維、及びポリビニルアルコールを原料とする炭素繊維等がある。中でも、ポリアクリロニトリル繊維を原料として製造されるPAN系炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、炭素繊維強化樹脂層の強度、タンクの強度をより高めることができる連続繊維であることが好ましい。不連続繊維と連続繊維とでは、連続繊維の方が一般にリサイクルすることが難しいため、この観点からも本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維が連続繊維である炭素繊維強化樹脂成形品に対して実施することが好ましい。
【0029】
炭素繊維強化樹脂層は、例えば、フィラメントワインディング法により形成することができる。フィラメントワインディング成形品は、炭素繊維束を必要に応じて複数本引き揃え、マトリックス樹脂を含浸させて、回転する基体や金型に適宜の厚さまでテンションを掛けながら適宜の角度で巻き付けることにより製造することができる。
【0030】
(処理工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維強化樹脂成形品に加熱処理及び紫外線照射処理の少なくとも一方の処理を行う工程を含む。
【0031】
処理工程により、通常は炭素繊維強化樹脂成形品中の樹脂の軟化、劣化及び分解の少なくとも一つが行われる。本実施形態において、「樹脂の軟化」とは樹脂が柔らかくなることを意味し、樹脂の強度が低下することも含む。また、「樹脂の劣化」とは樹脂を構成する主鎖の一部が切断され分子量が低下する、樹脂の一部が、熱、紫外線、酸素等によって別の物質に変化する等、処理前と比べ樹脂が化学的に変化していることを意味する。なお、「樹脂の劣化」とは、後述の「樹脂の分解」と比べて変化の程度が低く、処理前と比べると分子量の低下等がみられるが、処理後の樹脂が全体としては樹脂である状態、言い換えると高分子である状態を維持していることを意味する。「樹脂の分解」とは、樹脂の煤化及び/又はガス化等により炭化物となる等、もはや樹脂ではない状態まで、化学的に変化していることを意味する。本実施形態において「処理後の樹脂」とは、樹脂が軟化したもの、樹脂が劣化したもの、樹脂が分解したものを包含する概念である。
【0032】
なお、処理工程では、樹脂の軟化、劣化、又は分解が起きてもよいが、複数が同時に起こってもよい。例えば、樹脂の一部が軟化し、一部が劣化してもよく、樹脂の一部が劣化し、一部が分解してもよく、一部が軟化し、一部が劣化し、一部が分解してもよい。
【0033】
本実施形態では、炭素繊維強化樹脂成形品の破砕や粉砕は通常行わない。本実施形態は、破砕、粉砕等の工程を行う必要がないため、炭素繊維強化樹脂成形品に含まれる炭素繊維が連続繊維である場合には、リサイクルされる炭素繊維を、再利用に適した連続繊維として得ることができる。炭素繊維強化樹脂成形品として、タンクの筒状部分のみを用いてもよい。炭素繊維強化樹脂成形品中の金属部品等は、処理工程前に取り外してもよいし、処理工程後に取り外してもよい。
【0034】
加熱処理は、例えば、熱処理チャンバー内で行うことができる。炭素繊維強化樹脂成形品を熱処理チャンバー内で加熱して、炭素繊維強化樹脂成形品のマトリックス樹脂を処理する。熱処理チャンバーは、加熱炉であってもよく、炭化乾留炉であってもよく、また、加熱媒体を内部に導入及び/又は排出可能に構成された空間を有する加熱装置であってもよい。
【0035】
加熱処理には、主に樹脂の分解を目的とする高温加熱処理、主に樹脂の軟化、劣化を目的とする低温加熱処理が挙げられる。なお、「高温」及び「低温」とは、樹脂の種類によっても熱特性が異なるため、明確に定義されるわけではないが、以下の説明では便宜上「低温」とは400℃未満を意味し、「高温」とは400℃以上を意味するものとする。
【0036】
加熱処理が、400℃以上の温度で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱する処理、すなわち高温加熱処理であることが、本実施形態の好適態様の一つである。高温加熱処理としては、例えば400~650℃の温度で、炭素繊維強化樹脂成形品を処理する方法が挙げられる。高温加熱処理としては、例えば特開2015-199827号公報に熱分解工程として開示されている処理が挙げられる。具体例としては、樹脂を分解(炭化)するための炭化乾留炉を用いて、高温加熱処理を行うことができる。炭化乾留炉は通常、本体部と、本体部の内側に配置される炭化乾留室と、炭化乾留室の下側に配置される燃焼室とを備え、これらはいずれも耐熱性の材料、通常は金属で形成されている。炭化乾留室に、炭素繊維強化樹脂成形品を収容し、燃焼室で燃料及び、熱処理中に炭素繊維強化樹脂成形品を構成する樹脂の一部が分解することにより生じた炭化水素等のガス(分解ガス)を燃焼することにより、炭素繊維強化樹脂成形品を高温加熱処理することができる。
【0037】
高温加熱処理を行う場合には、加熱処理の温度は、好ましくは400~650℃であり、より好ましくは400~500℃である。前記範囲では、樹脂の分解が速やかに進み、且つ炭素繊維の損傷を抑制することができる。
【0038】
高温加熱処理は、炭素繊維の分解、損傷を抑制する観点から、空気を遮断した雰囲気にて行うことが好ましい。空気を遮断する方法としては、例えば過熱水蒸気を供給する方法が好ましい。過熱水蒸気を、炭素繊維強化樹脂成形品が収容されている炭化乾留室等に供給することにより、空気を遮断することができる。過熱水蒸気の温度は、通常は100~700℃であり、好ましくは400~650℃であり、より好ましくは400~500℃である。空気を遮断する方法としては、過熱水蒸気を供給する方法以外にも、窒素等の不活性ガスを供給する方法、過熱水蒸気及び不活性ガスを供給する方法を採用してもよい。
【0039】
高温加熱処理の時間(加熱時間)は、特に制限されるものではなく、加熱温度や樹脂等に応じて適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、30分~10時間であり、好ましくは2~5時間である。
【0040】
高温加熱処理における樹脂の分解度合いは、加熱処理の温度と加熱処理の時間で制御することができる。加熱処理の温度が高すぎると、炭素繊維が脆くなる傾向があり、加熱処理の温度が低すぎると、処理後の樹脂の残量が多くなる傾向がある。加熱処理の時間が長すぎると、炭素繊維が脆くなる傾向があり、加熱処理の時間が短すぎると、処理後の樹脂の残量が多くなる傾向がある。高温加熱処理により樹脂の一部が分解し、処理後には、処理後の樹脂である樹脂の残渣が、炭素繊維に付着している。炭素繊維に付着する処理後の樹脂の量は、処理前の樹脂の質量を100質量%としたとき、5~15質量%であることが好ましく、7~13質量%であることがより好ましい。言い換えると、高温加熱処理によって、処理前の樹脂の85~95質量%が分解されることが好ましく、87~93質量%が分解されることがより好ましい。
【0041】
高温加熱処理後の炭素繊維には、処理後の樹脂(樹脂の残渣)が付着している。この樹脂の残渣のため、炭素繊維は束状の形態を保ち得る。もし、この残渣が残ったまま回収した炭素繊維を、再利用する際に新たな樹脂組成物と混合すると、樹脂組成物と炭素繊維の間に残渣が残るため、密着性が低くなり、十分な物性を有する炭素繊維強化樹脂として再生できず、再利用に不適である。本実施形態において、この樹脂の残渣は、後述の除去工程により除去される。
【0042】
加熱処理が、400℃未満の温度で炭素繊維強化樹脂成形品を加熱する処理、すなわち低温加熱処理であることが、本実施形態の好適態様の一つである。低温加熱処理としては、例えば樹脂のガラス転移温度以上400℃未満の温度で、炭素繊維強化樹脂成形品を処理する方法が挙げられる。加熱温度が樹脂のガラス転移温度以上であることにより、樹脂を十分に軟化させることができ、樹脂の除去が可能になる。また、任意の工程ではあるが、連続炭素繊維の引き出しが容易になる。加熱温度は、例えば、375℃以下、350℃以下、又は325℃以下である。加熱温度は、例えば、200℃以上、225℃以上、250℃以上、又は275℃以上である。
【0043】
低温加熱処理における加熱温度は、例えば樹脂のガラス転移温度以上かつ分解開始温度未満である。加熱温度が樹脂の分解開始温度未満である場合、炭素繊維の劣化をさらに効率的に抑制しながら樹脂を軟化させることができる。また、樹脂は軟化されるため、炭素繊維強化樹脂成形品からの連続炭素繊維の引き出すことも可能である。分解開始温度は、例えばTG-DTA(熱重量示差熱分析装置)により測定することができる。
【0044】
低温加熱処理における加熱温度の別の例としては、樹脂の分解開始温度以上かつ400℃未満である。加熱温度が樹脂の分解開始温度以上である場合、樹脂を十分に軟化させることができ、且つ樹脂を劣化させること、樹脂を部分的に分解させることも可能となる。また、炭素繊維強化樹脂成形品から連続炭素繊維の引き出しがさらに容易になる。具体的には、樹脂の分解開始温度以上かつ400℃未満で成形品を加熱することにより、炭素繊維の劣化を抑制しつつ、樹脂の強度を低下させることができる。この際、樹脂の部分的な分解は生じていてもよい。加熱処理後に引き出し工程を行う際に、樹脂の強度が低下しており、容易に炭素繊維を引き出すことができる。
【0045】
一例として、エポキシ樹脂のガラス転移温度は100℃から200℃程度であり、エポキシ樹脂の分解開始温度は240℃から300℃程度である。分解開始温度以上で加熱すると、樹脂は柔らかくなるとともに、部分的な分解が起こり、樹脂の強度が低下する。
【0046】
低温加熱処理を行う際の加熱方法は、特に制限されるものではない。加熱方法として、例えば、大気中での加熱を挙げることができる。大気中での加熱処理は、簡便に行うことができ、また、コストの面でも有利である。特に、低温加熱処理は、大気等の酸素が存在する状況下でも、炭素繊維の劣化を抑制することができるため好ましい。また、低温加熱処理は、空気を遮断した状態で行ってもよい。空気を遮断した状態での加熱処理は、例えば過熱水蒸気を用いて行うことができる。過熱水蒸気を用いることにより、炭素繊維の分解・損傷を効果的に抑制することができる。例えば、加熱は、常圧反応容器に常圧過熱水蒸気を導入して行うことができる。また、加熱は、特に制限されるものではないが、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0047】
低温加熱処理(加熱時間)の時間は、特に制限されるものではなく、加熱温度や樹脂等に応じて適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、30分~10時間であり、好ましくは2~5時間である。
【0048】
加熱における樹脂の軟化度合いは、加熱温度と加熱時間で適宜調整することができる。
【0049】
紫外線照射処理は、例えば、紫外線照射装置内で行うことができる。紫外線照射装置内で、炭素繊維強化樹脂成形品に対して紫外線を照射することにより、炭素繊維強化樹脂成形品のマトリックス樹脂を処理することができる。紫外線照射装置としては、紫外線を照射できればよく、光源としては、例えば超高圧水銀UVランプ、高圧水銀UVランプ、メタルハライドUVランプ、低圧水銀UVランプ、LEDを用いることができる。
【0050】
紫外線照射によって、樹脂の軟化、劣化、分解等が起こることにより、樹脂の分子量低下、融点低下、強度低下等が起きる。
紫外線照射を行う際のUV照度(UV強度)としては、好ましくは50~1000mW/cm2であり、より好ましくは200~500mW/cm2である。また、UV露光量(積算光量)としては、好ましくは100~2,000mJ/cm2であり、より好ましくは500~1,000mJ/cm2である。前記範囲内では、樹脂の処理が速やかに進み、且つ炭素繊維の損傷を抑制することができる。
【0051】
本実施形態に係る処理工程では、加熱処理及び紫外線照射処理の少なくとも一方の処理を行う。具体的には加熱処理を行ってもよく、紫外線照射処理を行ってもよく、加熱処理及び紫外線照射処理を行ってもよい。加熱処理を行う場合には、高温加熱処理を行ってもよく、低温加熱処理を行ってもよく、高温加熱処理及び低温加熱処理を行ってもよい。処理工程において、複数の処理を行う場合には、その順序については特に制限はない。処理工程としては、実施が容易な加熱処理を行うことが好ましい態様の一つである。
【0052】
(除去工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも炭素繊維に第一の液体を噴射し、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程を含む。
【0053】
前記処理工程が行われた炭素繊維強化樹脂成形品、すなわち前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品は、炭素繊維に、樹脂の残渣等の処理後の樹脂が付着している。処理後の樹脂は、除去工程により除去される。本実施形態では、処理後の樹脂の除去を行うが、除去工程では、第一の液体を、炭素繊維強化樹脂成形品に対して噴射してもよく、第一の液体を、炭素繊維強化樹脂成形品から引き出した炭素繊維に対して噴射してもよい。
【0054】
従来の方法では、炭素繊維に付着している樹脂等の除去を目的として、液体と接触させることは行われていたが、本実施形態に係る除去工程では、第一の液体の噴射を行うこと、すなわち第一の液体に圧力をかけて炭素繊維と接触させることにより、その圧力を利用して炭素繊維に付着している処理後の樹脂を除去することができる。第一の液体を噴射する際に用いる噴射装置としては特に制限はなく、例えば後述の圧力でノズルから第一の液体を噴射することが可能な装置、例えば、高圧洗浄装置等を用いることができる。
【0055】
第一の液体としては特に制限はないが、酸性溶液、有機溶媒、過酸化水素水、及びイオン液体から選択される少なくとも1種の液体を用いることが好ましい。これらの液体を用いることにより、圧力による処理後の樹脂の除去だけでなく、例えば、処理後の樹脂を溶解させたり、処理後の樹脂を膨潤させたりすることが可能となり、より効率的に処理後の樹脂を除去することができる。
【0056】
酸性溶液としては例えば、リン酸や硫酸が挙げられる。酸性溶液としては、特開2020-37638号公報に記載されるような、硫酸を含む溶液(例えば、90質量%以上の濃度)、特開2020-50704号公報に記載されるような、リン酸を含む溶液等が挙げられる。
【0057】
有機溶媒としては例えば、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、及びエステル系溶媒から選択される少なくとも1種の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。脂肪族炭化水素系溶媒としては例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンが挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンが挙げられる。2種以上の有機溶媒としては、石油ベンジン、リグロイン等が挙げられる。
【0058】
有機溶媒には、分解触媒が含まれていてもよい。分解触媒としては。例えば、特開2020-45407号公報に記載されるような、アルカリ金属化合物が挙げられる。
【0059】
イオン液体としては例えば、カチオンが、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、ピロリジニウム系、第4級アンモニウム系、及び第4級ホスホニウム系から選択される少なくとも1種のカチオンである、イオン液体が挙げられる。
【0060】
噴射する際の第一の液体の温度(液温)としては、好ましくは0~100℃であり、より好ましくは20~50℃である。前記範囲内では、好適に処理後の樹脂を溶解させたり、処理後の樹脂を膨潤させたりすることができるため好ましい。なお、ある実施態様においては、第一の液体の温度は80~200℃であってもよい。
【0061】
前記第一の液体を噴射する際のノズル圧力は、好ましくは1MPa以上であり、より好ましくは5MPa以上であり、特に好ましくは8MPa以上であり、最も好ましくは10MPa以上である。前記圧力であれば、炭素繊維に付着している処理後の樹脂を効率的に除去できるため好ましい。また、ノズル圧力は、好ましくは30MPa以下であり、より好ましくは25MPa以下であり、特に好ましくは22MPa以下であり、最も好ましくは20MPa以下である。前記圧力であれば、炭素繊維を第一の液体で傷つけることが抑制されるため好ましい。第一の液体を噴射する際のノズルと、噴射対象、例えば炭素繊維強化樹脂成形品、炭素繊維強化樹脂成形品から引き出した炭素繊維、までの距離は、好ましくは10~200cmであり、より好ましくは30~100cmである。
【0062】
第一の液体の噴射は、ノズル、炭素繊維強化樹脂成形品、炭素繊維強化樹脂成形品から引き出された炭素繊維を適宜動かすことにより、炭素繊維の全体に第一の液体を噴射することが好ましい。
【0063】
任意のある部分に対する第一の液体の噴射時間としては、炭素繊維に付着している処理後の樹脂の量、処理後の樹脂の炭素繊維に対する付着強度によっても異なるが、好ましくは10~300秒であり、より好ましくは30~100秒である。炭素繊維強化樹脂成形品全体、或いは炭素繊維強化樹脂成形品から引き出された炭素繊維全体に、第一の液体を噴射する時間(合計噴射時間)としては、炭素繊維強化樹脂成形品のサイズ、炭素繊維強化樹脂成形品に使用される炭素繊維の量、処理後の樹脂の量、処理後の樹脂の炭素繊維に対する付着強度によっても異なるが、好ましくは0.5~5時間であり、より好ましくは1~3時間である。
【0064】
本実施形態は、前述の成形品用意工程、処理工程、及び除去工程を含むが、さらに任意の工程を有していてもよい。任意の工程としては、前記処理工程で得られた処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも一部を、第二の液体に浸漬させる工程(浸漬工程)、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を引き出す工程、除去工程により得られた樹脂が除去された炭素繊維にサイジング剤を付着させる工程、樹脂が除去された炭素繊維を巻き取る工程が挙げられる。以下、任意の工程について説明する。
【0065】
(浸漬工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品の少なくとも一部を、第二の液体に浸漬させる工程を含んでいてもよい。前記浸漬させる工程は、前記処理後の樹脂を炭素繊維から除去する工程、すなわち、除去工程の前及び同時の少なくとも一方で行うことが好ましい。すなわち、本実施形態に係るリサイクル方法が浸漬工程を含む場合には、成形品用意工程、処理工程、浸漬工程、除去工程の順に行われる方法であってもよく、成形品用意工程、処理工程、(浸漬工程+除去工程)の順に行われる方法であってもよく、成形品用意工程、処理工程、浸漬工程、(浸漬工程+除去工程)の順に行われる方法であってもよい。なお、(浸漬工程+除去工程)とは、浸漬工程と除去工程とを同時に行うことを意味する。
【0066】
前記処理工程が行われた炭素繊維強化樹脂成形品、すなわち前記処理後の炭素繊維強化樹脂成形品は、炭素繊維に、樹脂の残渣等の処理後の樹脂が付着している。処理後の樹脂は、前述の除去工程により除去される。浸漬工程を行うことにより、除去工程において、処理後の樹脂がより容易に炭素繊維から除去することが可能になる。浸漬工程を行うことにより、処理後の樹脂と、炭素繊維との界面に第二の液体が侵入し、樹脂の付着力を弱めることができる。また、第二の液体の種類、処理後の樹脂の状態によっては、浸漬工程を行うことにより、処理後の樹脂を膨張させたり、処理後の樹脂の一部を溶解させたりすることができる。このため除去工程において、より容易に処理後の樹脂を炭素繊維から除去できる。
【0067】
浸漬工程では、炭素繊維強化樹脂成形品を第二の液体に浸漬してもよく、炭素繊維強化樹脂成形品から引き出した炭素繊維を第二の液体に浸漬してもよい。炭素繊維強化樹脂成形品を第二の液体に浸漬する場合には、炭素繊維強化樹脂成形品全体を、第二の液体に浸漬してもよく、炭素繊維強化樹脂成形品の一部を第二の液体に浸漬してもよい。炭素繊維強化樹脂成形品の一部を第二の液体に浸漬する場合には、炭素繊維強化樹脂成形品を動かし、継時的に見た時に炭素繊維強化樹脂成形品の全体を、第二の液体に浸漬することが好ましい。
【0068】
第二の液体としては特に制限はないが、前述の第一の液体として記載した液体を用いることができる。第一の液体と、第二の液体とは、同種の液体であってもよく、別種の液体であってもよい。浸漬工程と除去工程とを同時に行う場合には、第一の液体と第二の液体とは、同種の液体であることが好ましい。
【0069】
第二の液体の温度(液温)としては、好ましくは0~100℃であり、より好ましくは20~50℃である。前記範囲内では、好適に処理後の樹脂を溶解させたり、処理後の樹脂を膨潤させたりすることができるため好ましい。なお、ある実施態様においては、第二の液体の温度は80~200℃であってもよい。
【0070】
任意のある部分の第二の液体への浸漬時間としては、炭素繊維に付着している処理後の樹脂の量、処理後の樹脂の炭素繊維に対する付着強度によっても異なるが、好ましくは10~300秒であり、より好ましくは30~100秒である。炭素繊維強化樹脂成形品全体、或いは炭素繊維強化樹脂成形品から引き出された炭素繊維全体を、第二の液体に浸漬する時間(合計浸漬時間)としては、炭素繊維強化樹脂成形品のサイズ、炭素繊維強化樹脂成形品に使用される炭素繊維の量、処理後の樹脂の量、処理後の樹脂の炭素繊維に対する付着強度によっても異なるが、好ましくは0.5~5時間であり、より好ましくは1~3時間である。
【0071】
(炭素繊維を引き出す工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を引き出す工程を含んでいてもよい。前記炭素繊維を引き出す工程は、任意のタイミングで行うことができ、例えば処理工程の後、除去工程や、浸漬工程の前に行ってもよく、浸漬工程の後、除去工程の前に行ってもよく、除去工程の後に行ってよい。
【0072】
本実施形態において、「炭素繊維を引き出す」とは、炭素繊維強化樹脂成形品から炭素繊維を連続した状態で引き出すことを意味し、炭素繊維を成形品から引き剥がす概念も含む。炭素繊維を炭素繊維強化樹脂成形品から引き出す際に、刃状の治具を用いて引き剥がしてもよい。
【0073】
炭素繊維を引き出す方法は、特に制限されるものではなく、例えば、巻き取りローラーに炭素繊維を繋ぎ、該ローラーを回転させることにより引き出すことができる。
【0074】
(サイジング剤付与工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、除去工程により得られた樹脂が除去された炭素繊維にサイジング剤を付着させる工程を含んでいてもよい。
【0075】
除去工程後の炭素繊維は、処理後の樹脂が実質的に全て除去されており、炭素繊維の束が解れて単繊維の形態になっている。この炭素繊維にサイジング剤を付与することにより、炭素繊維束をボビンとして巻き取ることができ、また、炭素繊維の毛羽立ち・単繊維の絡まりの発生を抑制することができる。
【0076】
サイジング剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレンやポリプロピレン)、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、又はポリオレフィン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。サイジング剤としてエポキシ樹脂を用いることで、炭素繊維とエポキシ樹脂の接着性を向上することができる。サイジング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
炭素繊維へのサイジング剤の付与は、サイジング剤を炭素繊維に接触させることにより行われる。サイジング剤の付与方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ディッピング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法等が挙げられる。これらの中でも、ディッピング法が好ましい。具体的には、サイジング剤は、サイジング浴内に配置されたサイジング剤に浸漬するように炭素繊維をローターで搬送することにより炭素繊維に付与することができる。サイジング剤は、水、又はアセトン等の有機溶剤に分散又は溶解させ、分散液又は溶液として使用することが好ましい。サイジング剤の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加してもよい。
【0078】
炭素繊維へのサイジング剤の付着量としては、炭素繊維とサイジング剤との合計量を100質量部とした場合、例えば、0.1~10質量部である。付着量がこの範囲にあれば、適度な炭素繊維の収束性が得られ、炭素繊維の充分な耐擦過性が得られて機械的摩擦等による毛羽の発生が抑制される。
【0079】
(炭素繊維を巻き取る工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、除去工程により得られた樹脂が除去された炭素繊維を巻き取る工程を含んでいてもよい。炭素繊維を巻き取る工程は、除去工程の後に行うことが可能であり、サイジング剤付与工程を含む場合には、サイジング剤付与工程の後に行うことができる。
【0080】
一実施形態において、炭素繊維は、上流で引き出されながら下流で巻き取られ、引き出された後であって巻き取られる前に、サイジング剤付与工程を行うことができる。浸漬工程、除去工程は、引き出された後に行うことも、引き出される前に行うこともできる。
【0081】
以上の工程を有する炭素繊維のリサイクル方法では、リサイクルされた炭素繊維に、樹脂又は樹脂に由来する成分が残存することを抑制することができる。すなわち、以上の工程を有する炭素繊維のリサイクル方法は、再利用に適した炭素繊維を効率的に得ることができる。以下の
図3~7において、本実施形態の例を説明する。なお、以下の
図3~7で示す本実施形態の例では、全て、成形品用意工程及びサイジング剤付与工程は図示していない。各実施形態の処理工程に供される炭素繊維強化樹脂成形品は、成形品用意工程により用意されたものである。また、各実施形態の例において、任意にサイジング剤付与工程を行ってもよい。
【0082】
図3は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図3に示す実施形態では、処理工程を行った後に、浸漬工程を行い、次いで除去工程が行われる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品200を、熱処理チャンバー等の熱処理や紫外線処理が可能な処理装置210に収容し、処理を行う。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220全体を、第二の液体230に浸漬する。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220に対して噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から第一の液体250を噴射し、処理後の樹脂を炭素繊維から除去する。除去工程では、図示はしていないが、例えば第一の液体を噴出するノズルの位置や、炭素繊維強化樹脂成形品を動かすことにより、炭素繊維全体に第一の液体を噴出する。また、ノズルは複数設けてもよい。各工程間の炭素繊維強化樹脂成形品の搬送方法としては特に制限はなく、例えば浮力で回転しながら推進する、浮力推進搬送が挙げられる。また、図示してはいないが、除去工程の後、炭素繊維の引き出し工程、巻き取り工程を行うことが好ましく、サイジング剤付与工程を、引き出し工程の後、巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維や、サイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0083】
図4は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図4に示す実施形態では、処理工程を行った後に、浸漬工程と除去工程とが同時に行われる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品200を、熱処理チャンバー等の熱処理や紫外線処理が可能な処理装置210に収容し、処理を行う。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220を、鉛直方向で50%以上、好ましくは50~90%の深さまで第二の溶液230に浸漬し、処理後の炭素繊維強化樹脂成形品を、成形品の略中心を通る略水平軸260回りに回転可能になるように支持する。処理後の炭素繊維強化樹脂成形品を略水平軸回りに回転させることにより、継時的に見た時に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品全体が第二の溶液に浸漬された状態で、噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から第一の液体250を噴射し、処理後の樹脂を炭素繊維から除去する。図示はしていないが、除去工程では、例えば第一の液体を噴出するノズルの位置を動かすことにより、炭素繊維全体に第一の液体を噴出する。また、ノズルは複数設けてもよい。第一の液体と、第二の液体とは同種の液体であることが好ましい。また、図示はしていないが、第二の液体の一部を回収し、噴射装置に供給し、第一の液体として噴射するように構成することも好ましい。この時、回収された第二の液体は濾過等を行い、精製した後に、噴射装置に供給することが好ましい。各工程間の炭素繊維強化樹脂成形品の搬送方法としては特に制限はなく、例えば成形品に芯棒を通し、回転しながら前進するヘリカル搬送が挙げられる。また、図示してはいないが、除去工程の後、炭素繊維の引き出し工程、巻き取り工程を行うことが好ましく、サイジング剤付与工程を、引き出し工程の後、巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維や、サイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0084】
図5は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図5に示す実施形態では、処理工程を行った後に、浸漬工程を行い、次いで浸漬工程と除去工程とが同時に行われる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品200を、熱処理チャンバー等の熱処理や紫外線処理が可能な処理装置210に収容し、処理を行う。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220全体を、第二の液体230に浸漬する。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220を、鉛直方向で50%以上、好ましくは50~90%の深さまで第二の溶液に浸漬し、処理後の炭素繊維強化樹脂成形品を、成形品の略中心を通る略水平軸260回りに回転可能になるように支持する。処理後の炭素繊維強化樹脂成形品を略水平軸回りに回転させることにより、継時的に見た時に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品全体が第二の溶液に浸漬された状態で、噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から第一の液体250を噴射し、処理後の樹脂を炭素繊維から除去する。図示はしていないが、除去工程では、例えば第一の液体を噴出するノズルの位置を動かすことにより、炭素繊維全体に第一の液体を噴出する。また、ノズルは複数設けてもよい。浸漬工程と除去工程とを同時に行う際の第一の液体と、第二の液体とは同種の液体であることが好ましい。また、図示はしていないが、第二の液体の一部を回収し、噴射装置に供給し、第一の液体として噴射するように構成することも好ましい。この時、回収された第二の液体は濾過等を行い、精製した後に、噴射装置に供給することが好ましい。各工程間の炭素繊維強化樹脂成形品の搬送方法としては特に制限はなく、例えば浮力搬送およびヘリカル搬送が挙げられる。また、図示してはいないが、除去工程の後、炭素繊維の引き出し工程、巻き取り工程を行うことが好ましく、サイジング剤付与工程を、引き出し工程の後、巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維や、サイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0085】
図6は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図6に示す実施形態では、処理工程を行った後に、浸漬工程を行い、炭素繊維を引き出す工程を行い、次いで除去工程が行われる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品200を、熱処理チャンバー等の熱処理や紫外線処理が可能な処理装置210に収容し、処理を行う。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220全体を、第二の液体230に浸漬する。次に、浸漬されている炭素繊維強化樹脂成形品220から炭素繊維を引き出す。次に引き出された炭素繊維に対して噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から第一の液体250を噴射し、処理後の樹脂を炭素繊維から除去する。ノズルは複数設けてもよい。第一の液体を噴射した後、すなわち、除去工程の後は、巻き取り工程により炭素繊維を巻き取ることができる。各工程間の炭素繊維強化樹脂成形品、炭素繊維の搬送方法としては特に制限はなく、例えばガイドローラー、巻き取りローラー、マンドレルローラーが挙げられる。また、図示してはいないが、サイジング剤付与工程を、除去工程の後、巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維や、サイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0086】
図7は、本実施形態の一態様を説明するための模式図である。
図7に示す実施形態では、処理工程を行った後に、炭素繊維を引き出す工程を行い、浸漬工程を行い、次いで除去工程が行われる。具体的には、炭素繊維強化樹脂成形品200を、熱処理チャンバー等の熱処理や紫外線処理が可能な処理装置210に収容し、処理を行う。次に処理後の炭素繊維強化樹脂成形品220から炭素繊維を引き出す。次に引き出された炭素繊維を、第二の液体230に浸漬する。次に引き出された炭素繊維に対して噴射装置(不図示)に接続されたノズル240から第一の液体250を噴射し、処理後の樹脂を炭素繊維から除去する。ノズルは複数設けてもよい。第一の液体を噴射した後、すなわち、除去工程の後は、巻き取り工程により炭素繊維を巻き取ることができる。各工程間の炭素繊維強化樹脂成形品、炭素繊維の搬送方法としては特に制限はなく、例えばガイドローラー、巻き取りローラー、マンドレルローラーが挙げられる。また、図示してはいないが、サイジング剤付与工程を、除去工程の後、巻き取り工程の前に行うことが好ましい。また、除去工程後の炭素繊維や、サイジング剤付与工程後の炭素繊維を乾燥する工程を行ってもよい。
【0087】
以上説明した本実施形態の炭素繊維のリサイクル方法によれば、再利用に適した炭素繊維を効率的に得ることができる。また、炭素繊維が連続繊維である場合でもリサイクルが可能であるため、得られた炭素繊維は、幅広い用途に適用可能である。
【0088】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0089】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
10 ライナー
20 炭素繊維強化樹脂層
30 バルブ側口金
40 エンド側口金
50 バルブ
60 保護層
100 タンク
200 炭素繊維強化樹脂成形品
210 処理装置
220 処理後の炭素繊維強化樹脂成形品
230 第二の液体
240 ノズル
250 第一の液体
260 略水平軸