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  • 特許-不織布構造体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】不織布構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/018 20120101AFI20231129BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20231129BHJP
   D04H 3/105 20120101ALI20231129BHJP
   D06C 15/06 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
D04H3/018
B32B5/26
D04H3/105
D06C15/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020549138
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037019
(87)【国際公開番号】W WO2020066913
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018178696
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】奥山 幸成
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英夫
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-284859(JP,A)
【文献】特開2001-248056(JP,A)
【文献】特開2007-083923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
B32B 1/00 - 43/00
D06C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維不織布を主な構成材とする不織布構造体であって、目付が500~2000g/m、フラジール通気度が0~20cc/cm・秒、見掛け密度が0.74~1.3g/cmである不織布構造体。
【請求項2】
2枚以上の不織布を積層した不織布構造体であって、その表面の平滑化率が40%以上である請求項1に記載の不織布構造体。
【請求項3】
少なくとも片側表面付近に複合繊維からなる不織布を配した請求項1または2に記載の不織布構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布構造体の少なくとも片側表面および/または表面付近に、無機繊維の束を熱成型樹脂で包埋したテープ状のシート構造物を設置し、その後、プレス加工処理により成形加工することにより得られる不織布構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布構造体をプレス加工処理することにより得られる3次元構造成型体。
【請求項6】
目付が250g/cm以上の長繊維不織布を少なくとも2枚以上積層し、機械交絡後、加熱温度140~255℃、プレス圧力0.1~5MPaの条件でプレス加工処理することを特徴とする不織布構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れ、機械的強度特性に優れた、長繊維不織布を主な構成材料とする不織布構造体に関するものである。成形性と機械的強度特性に優れた不織布構造体は、工業資材用途、建材用途、自動車用途などに好適に用いられる。 特に、自動車のアンダーカバーやダッシュサイレンサーなどの軽量で成形後の剛性に優れた成形体に利用する場合に、その凸凹状の突起などの成形型の形状に成形しやすく、吸音性能やクッション性能を付与でき、軽量であることから好適に使用でき、自動車の軽量化による省エネに貢献することが可能である。
【背景技術】
【0002】
従来知られている成形性に優れた不織布は、主に短繊維より形成されており、熱接着性繊維を多く使用したものである。そのため、耐熱性やコスト面で課題があった。 また、成形性に優れた不織布は、概して剛性に劣るため目付を大きくする必要があるというものであった。 引張強度や引裂き強度などの機械的強度の高い不織布は、繊維の交絡が高いものであり、成形性(熱時の伸び率)に劣るものであった。 これら課題を改善し、成形性に優れ、機械的強度特性に優れた不織布を得るため、以下の方法が提案されている。
【0003】
特許文献1にはスパンボンド法による長繊維不織布をニードルパンチ法で加工された高目付で嵩高の不織布に代わり、低目付で厚みが低いにも関わらず、伸張性および成形性に優れた不織布が開示されている。しかし、機械的強度特性に優れた不織布を得ることは困難なものであった。また、不織布層内での層間剥離を防ぐためには長時間の予熱が必要であると考えられるものであった。
【0004】
特許文献2および3には、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレングリコール、アジピン酸テレフタル酸、イソフタル酸などの共重合ポリエステルからなる複合繊維の繊維ウェブをニードルパンチ処理して三次元交絡させた緻密な自動車装備材用半製品の製造法が提案されている。この方法であれば、加熱および圧縮成型する際に加熱温度の範囲が広くなることが開示されているが、具体的な剛性については明記されていない。また、特殊な成分を用いることが必要となり、汎用樹脂を用いたものに比べ、コスト優位性が低下したものであった。また、自動車で汎用品として用いられる樹脂であるポリプロピレンなどとの接着が容易ではないという問題も予想されるものであった。
【0005】
芯鞘型複合繊維や熱接着性繊維を用いた短繊維不織布は高い成形性を期待できるが、繊維に捲縮があるため、不織布中の繊維の変形自由度が高くなり、不織布の機械的強度を上げ難いものである。そのため、不織布を構成する繊維における熱接着成分の量を一定以上含有させることが必要になり、耐熱性が劣るものとなる。前記の短繊維不織布でも機械的強度に優れた不織布を得ることはできるが、そのためには不織布の目付を非常に大きいものとする必要があった。
【0006】
また、吸音材用途に、熱成型性短繊維不織布が使われているが、熱接着性繊維を含有させると不織布の持つ優れたクッション性が低下するため、前記用途には好ましくないものとなる。不織布の充填密度を下げることでクッション性を維持することは可能であるが、その場合機械的強度が低下してしまう。
【0007】
上述の如く、成形性に優れ、機械的強度特性に優れた不織布構造体は提案されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国公開特許公報「特開平3-241054号」
【文献】日本国特許第631841号
【文献】日本国公開特許公報「特開2018-9256号」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の課題を背景になされたもので、成形性に優れ、機械的強度特性に優れた、長繊維不織布を主な構成材料とする不織布構造体およびその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。即ち本発明は以下のとおりである。(1)長繊維不織布を主な構成材とする不織布構造体であって、目付が250~2000g/m、フラジール通気度が0~20cc/cm・秒、見掛け密度が0.5~1.3g/cmである不織布構造体。(2)2枚以上の不織布を積層した不織布構造体であって、その表面の平滑化率が40%以上である(1)に記載の不織布構造体。(3)少なくとも片側表面付近に複合繊維からなる不織布を配した(1)または(2)に記載の不織布構造体。(4)(1)~(3)のいずれか1つに記載の不織布構造体の少なくとも片側表面および/または表面付近に、無機繊維の束を熱成型樹脂で包埋したテープ状のシート構造物を設置し、その後、プレス加工処理により成形加工することにより得られる不織布構造体。(5)(1)~(4)のいずれか1つに記載の不織布構造体をプレス加工処理することにより得られる3次元構造成型体。(6)目付が200g/cm以上の長繊維不織布を少なくとも2枚以上積層し、機械交絡後、加熱温度140~255℃、プレス圧力0.1~5MPaの条件でプレス加工処理することを特徴とする不織布構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、成形性に優れ、機械的強度特性に優れた不織布構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】三点曲げ試験の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。 本発明の不織布構造体の目付は、最終製品に必要な機械的強度特性を考慮し設定するが、250~2000g/mであり、好ましくは500~1750g/mであり、より好ましくは1000~1500g/mである。目付が250g/m未満であると、軽量にはなるが機械的強度特性、なかでも剛性が低くなる。一方、目付が2000g/mを超えると、従来の不織布構造体との差が小さくなる。
【0014】
本発明の不織布構造体は、主な構成材が長繊維不織布である。主な構成材である長繊維不織布の不織布構造体に対する質量分率は好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。長繊維不織布の質量分率が25質量%未満であると、長繊維による剛性向上の効果が出にくくなる。すなわち、捲縮の無い長繊維は、不織布中で折り曲り点が少ない状態で緩みや撓みなく配置されることが多く、その結果繊維一本一本の強度が不織布の機械的強度特性に直接寄与する。そのため、高い剛性を持つ不織布を得ることができる。長繊維不織布は構成繊維が厚み方向ではなく、二次元面内方向に主に配列していることにより、剛性や初期モジュラスと言った機械的強度特性を高くすることが容易になると考えられる。
【0015】
本発明の不織布構造体の主な構成材として用いる長繊維不織布は、単層で用いても良いが、不織布構造体の中に2層以上積層されていることが好ましい。単層で長繊維不織布を成形して用いる際には、層内の層間剥離を防止するために厚み方向に配列された繊維を多くした長繊維不織布を使用する必要がある。また、単層で長繊維不織布を用いる場合、繊維の拘束点の数が多くなり成形性が低下する可能性がある。その対策として、複数の長繊維不織布を予めゆるく繊維交絡をしておき、その後に積層し、機械交絡等で1層に仕上げることがあげられる。これにより適度な繊維拘束を持たせて層間剥離を防止しつつ、高い成形性を得ることが容易となる。単層当たりの目付が小さいほど、繊維が面内方向に配列されることにより、剛性等の機械的強度特性を高くすることが可能となる。
【0016】
構成材に用いる長繊維不織布を構成する樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく、なかでも汎用熱可塑性樹脂で安価なポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。ポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート(PCHT)、ポリトリメチオレンテレフタレート(PTT)などのホモポリエステルおよびそれらの共重合ポリエステルなどが例示できる。また、ポリオレフィン系樹脂としてポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などが例示できる。 また、通常使用される添加剤、例えば、塗料、顔料、艶消剤、制電剤、難燃剤、強化粒子を含んでも良い。また、本発明の目的を損なわない範囲での少量の他のポリマー、例えばポリアミド系樹脂、オレフィン系樹脂などを混合することも可能である。繊維接着性を高めるために、ポリエステル系樹脂として、酸成分にイソフタル酸を4~12モル%共重合した共重合ポリエステルや、グリコール成分にネオペンチルグリコールエチレンオキサイドを10~60モル%共重合した共重合ポリエステルを用いることも好ましい実施形態である。
【0017】
構成材に用いる長繊維不織布の製造方法は、長繊維不織布が繊維が面内方向(2次元面方向)に配列され、剛性等の機械的強度特性を高くすることが容易であることからスパンボンド法が好ましい。 また、長繊維不織布を構成する繊維として、芯鞘型やサイドバイサイド型の複合繊維を用いることが好ましい。特には、PP/PET、共重合PET/PET、PBT/PETの組み合わせが好ましい。これらの複合繊維を用いた長繊維不織布を不織布構造体の少なくとも片側表面付近に配することも好ましい。なお、ここで言う「表面付近」とは、不織布構造体の厚みを100%とした場合、複合繊維を用いた長繊維不織布が表面から少なくとも片側の0~25%の範囲に存在することを意味するものである。 長繊維不織布の表面にフィルム貼り付けたり、樹脂含浸を行う場合は、フィルムや含浸樹脂素材との接着性が高い素材を鞘成分とすることが好ましい。不織布構造体の表面に複合化される不織布としては、不織布構造体の剛性等機械的強度特性を高くするために繊維弾性率の高い長繊維不織布を用いることも特に好ましい。
【0018】
不織布構造体を構成する繊維の繊度は特に限定されないが、生産性および機械的強度特性を得やすいことから、好ましくは1~10dtexであり、より好ましくは2.5~7dtexである。
【0019】
また、成形を効率良く行うため、不織布構造体を構成する繊維の繊維表面を低摩擦化処理することも好ましい形態の一つである。低摩擦化処理としては油剤による処理が好ましい形態のひとつである。油剤としてはポリエステルポリエーテルブロック共重合体を使用した変性ポリエステル系の樹脂や、シリコーン系高分子として、アミノ変性オルガノポリシロキサンやエポキシ変性オルガノポリシロキサンなどの変性シリコーンとこれらと反応性の硬化剤などを主体としたものなどがある。繊維表面への油剤の付与方法も特に限定はなく、スプレー法、ディップ法等を用いることができる。
【0020】
不織布構造体を構成する繊維として、結晶化率の低い繊維を用いることも好ましい。低結晶化率の繊維よりなる不織布は成形性が良く、さらに熱処理により繊維同士の接着性を高くすることが容易である。不織布の製造方法としてスパンボンド法を用いる場合は、使用する樹脂が配向結晶化により安定なフィラメントを得られる条件より低い紡糸速度で繊維化し、シート化する方法を用いることができる。ポリエステル系樹脂を使用する場合、紡糸速度としては好ましくは3,500m/min以下、より好ましくは2,000~3,300m/minである。使用する樹脂により紡糸速度は適宜変更する必要がある。短繊維を用いる場合も未延伸糸のステープル繊維が複数社より販売されており、それを用いても良い。これらの結晶化率の低い繊維を用いた不織布を不織布構造体
の少なくとも片側表面付近に配することも好ましい。
【0021】
本発明の不織布構造体は、加熱プレス加工して製造することにより、フラジール通気度が0~20cc/cm・秒であり、好ましくは0.01~15cc/cm・秒である。フラジール通気度が20cc/cm・秒を超えると不織布構造体を構成する繊維の接着が弱く、高い剛性を得ることが難しくなる。
【0022】
本発明の不織布構造体は、見掛け密度が0.5~1.3g/cmと高密度である。見掛け密度は、好ましくは0.6~1.2g/cmであり、より好ましくは0.8~1.1g/cmである。見掛け密度が0.5g/cm未満であると高い剛性を得ることが難しくなる。一方、1.3g/cmを超えると成形性が低下したり、不織布構造体が脆性破壊や座屈しやすくなる。また、見掛け密度を大きくするための加熱プレス加工の熱処理時間が長くなり、加工コストが上がってしまう。
【0023】
本発明の不織布構造体は、機械交絡加工後に加熱プレス加工により少なくともその表面の平滑化率が40%以上のものであることが好ましい。表面の平滑化率が40%以上であると、例えばフェンダーライナーやアンダーカバーとして用いた場合に土などの汚れや雪の付着や侵入を小さくすることが可能である。また、表面の平滑化率が40%以上であると音波の透過時にエネルギー損失が大きくなり、吸音率を高くすることが可能となる。一方、表面の平滑化率が40%未満であると、十分な曲げ剛性を得ることが難しくなる。
【0024】
不織布構造体を構成する不織布の積層構成としては、単一成分繊維からなる長繊維不織布と芯鞘型繊維からなる不織布の2層以上の不織布を積層させることが好ましく、単一成分繊維からなる長繊維不織布を芯鞘型繊維からなる不織布で挟んだ3層の不織布を積層させることも好ましい。
【0025】
本発明の不織布構造体の実施形態としては、例えば単一成分繊維からなる長繊維不織布を芯鞘型繊維からなる不織布で挟むかたちで積層した後、ウォーターパンチ法やニードルパンチ法で芯鞘型繊維からなる不織布側から水流やニードルを貫入させ交絡させる。長繊維不織布は不織布中の繊維の自由度が小さいために、ニードルパンチ加工後であっても剥離等の問題が起こりやすい。そのため、ニードルパンチのペネ数や針深は使用するニードルの種類、得たい機械的強度特性や各層の目付により適宜設定する。少なくとも片側に芯鞘型繊維からなる不織布を用いて、中間層に単一成分繊維からなる長繊維不織布が存在すると、一回の熱成型で表層部分の剛性が高くなり、内層に柔軟な繊維構造体の複合構造を形成することが可能であり、柔軟な内層によりタッピング音を小さくしつつ、高い剛性の表層により摩耗などを抑制することが可能となる。
【0026】
本発明の不織布構造体は、その製造時に不織布の片側表面および/または表面付近に無機繊維の束を熱成型樹脂で包埋したテープ状のシート構造物(たとえば、東洋紡株式会社製クイックフォーム(登録商標)としてPPとガラス繊維からなるテープが供給されている)を設置して、その後にプレス加工して製造することも好ましい形態の一つである。成形加工を行うことでテープ状の構造物が溶融一体化し、たとえば自動車フェンダーカバーやアンダーカバーに用いた際に、タイヤなどで跳ね上がった小石などにより生じる摩耗やクラックなどの問題を予防することも可能となる。
【0027】
本発明の不織布構造体の製造時の加熱プレス加工について説明する。単板シートのプレス成型でもよいし、長尺反の製造が可能な加熱金属プレスロール(たとえば由利ロール株式会社カレンダー加工設備など)の間を通したり、高温メタルベルトプレス機を用いても良い。加熱温度140~255℃、プレス圧力0.1~5MPaの条件で加熱プレス加工することが好ましい。なお、加熱プレス加工は1回の加工で不織布構造体を製造してもよいが、複数回の加工を実施してもよい。 また、不織布構造体を作成した後に、再度プレス機やコールドプレス成型により三次元成型して3次元構造成型体とすることも好ましい。
【実施例
【0028】
以下に本発明の実施例を示す。本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0029】
<目付> 試料(不織布)を20cm角に切り出してその質量を測定し、1mあたりの質量に換算して目付(g/m)とした。
【0030】
<見掛け密度> 厚みは、JIS L1913(2010)6.1.1に準拠し、試料(不織布)を20g/cmの荷重下で測定した。見掛け密度は上記で測定した目付を厚みで割って求めた。 見掛け密度=A/B(g/cm) A:目付(g/m) B:厚み(cm)
【0031】
<表面の平滑化率> 資料の表面の走査型顕微鏡写真を倍率300倍で撮影し、写真を10倍に拡大コピーしたうえで写真部の質量を測定した。次に、非平滑部をカッターにより切り落としてのち、その質量を測定した。元の質量に対する切り抜き後の質量の比率により測定を行った。切断以外の方法として平滑部を色マジックで塗り、その面積を画像解析などにより測定して比率を決めても良い。測定値のばらつきが大きいので、3箇所の平均値を5%刻みで表示する。
【0032】
<剥離> 不織布構造体を5cm幅で30cmの長さに切り出して、手で長手方向を90度前後まで折り曲げる動作を20回繰り返して、剥離が生じるかどうかを目視で評価した。
【0033】
<フラジール通気度> JIS L1096(2010)8.26.1 A法(フラジール形法)に準拠して測定する。不織布構造体の中間部の繊維密度が小さい場合は、パッキンなどの固定部分の面内に空気が流れて過大評価になる可能性があるので、サンプル端部を溶融したパラフィンなどで含浸封止しておくことも場合により必要となる。
【0034】
<曲げ剛性> JIS K7017(1999)に準拠して三点曲げ試験(図1参照)を行った。評価用試料片を幅22mm×長さ6cmの大きさに採取し、支持幅は試料片厚みの16倍、圧子半径5mm、速度は試料片厚みの半分/分で測定した。
【0035】
(実施例1) 繊度が5.0dtexのポリエチレンテレフタレート長繊維からなる目付250g/mのニードルパンチで機械交絡した長繊維不織布(東洋紡株式会社製ボランス(登録商標))を4枚積層し、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数38本/cm、針深10mmでニードルパンチ加工を行い、積層不織布を得た。得られた積層不織布の見掛け密度は0.09g/cmであった。 その後、得られた積層不織布をメタルベルトプレス機(KBKスチールプロダクツ株式会社製)により加熱温度190℃、プレス圧力0.1MPaでプレス加工を行った。得られた不織布構造体の見掛け密度は0.76g/cmであった。得られた不織布構造体の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた不織布構造体の表面を250℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、成形性は良好であった。
【0036】
(実施例2) 繊度が5.0dtexのポリエチレンテレフタレート長繊維からなる目付が250g/mのニードルパンチで機械交絡した長繊維不織布(東洋紡株式会社製ボランス(登録商標))を2枚積層し、その両面に、繊度が6.6dtexの鞘成分がポリプロピレン、芯成分がポリエチレンテレフタレートの芯鞘型複合繊維(ポリプロピレン成分質量比率30%)よりなる目付が250g/mの短繊維不織布を2枚の前記長繊維不織布を積層した不織布を挟むように積層し、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数38本/cm、針深10mmでニードルパンチ加工を行い、積層不織布を得た。得られた積層不織布の見掛け密度は0.23g/cmであった。 その後、得られた積層不織布をメタルベルトプレス機(KBKスチールプロダクツ株式会社製)により加熱温度190℃、プレス圧力0.1MPaでプレス加工を行った。得られた不織布構造体の見掛け密度は0.74g/cmであった。得られた不織布構造体の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた不織布構造体の表面を220℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、成形性は良好であった。
【0037】
(実施例3) 繊度が5.0dtexのポリエチレンテレフタレート長繊維からなる目付が250g/mのニードルパンチで機械交絡した長繊維不織布(東洋紡株式会社製ボランス(登録商標))を2枚積層し、その両面に、繊度が5.0dtexの鞘成分がポリプロピレン、芯成分がポリエチレンテレフタレートの芯鞘型複合繊維(ポリプロピレン成分質量比率30%)よりなる目付が250g/mの長繊維不織布を2枚の前記長繊維不織布を積層した不織布を挟むように積層し、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数38本/cm、針深10mmでニードルパンチ加工を行い、積層不織布を得た。得られた積層不織布の見掛け密度は0.23g/cmであった。 その後、得られた積層不織布をメタルベルトプレス機(KBKスチールプロダクツ株式会社製)により加熱温度190℃、プレス圧力0.1MPaでプレス加工を行った。得られた不織布構造体の見掛け密度は0.90g/cmであった。得られた不織布構造体の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた不織布構造体の表面を220℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、成形性は良好であった。
【0038】
(比較例1) 繊度が5.0dtexのポリエチレンテレフタレート長繊維からなる目付が500g/mのニードルパンチで機械交絡した長繊維不織布(東洋紡株式会社製ボランス(登録商標))を、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数38本/cm、針深10mmでさらにニードルパンチ加工を行い見掛け密度の高い不織布を得た。得られた長繊維不織布の見掛け密度は0.19g/cmであった。 その後、得られた不織布をメタルベルトプレス機(KBKスチールプロダクツ株式会社製)により加熱温度190℃、プレス圧力0.1MPaでプレス加工を行った。得られた不織布の見掛け密度は0.40g/cmであった。得られた不織布構造体は毛羽のあるものであった。得られた不織布構造体の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた不織布構造体の表面を250℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、成形性は良好であった。
【0039】
(比較例2) 繊度が3.0dtexのポリエチレンテレフタレート長繊維からなる目付が100g/mの熱接着長繊維不織布(東洋紡株式会社製エクーレ(登録商標))を10層積層して、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数38本/cm、針深10mmでニードルパンチ加工を行い、積層不織布を得た。得られた積層不織布の見掛け密度は0.22g/cmであった。 その後、得られた積層不織布をメタルベルトプレス機(KBKスチールプロダクツ株式会社製)により加熱温度190℃、プレス圧力0.1MPaでプレス加工を行った。得られた不織布構造体の見掛け密度は0.66g/cmであった。得られた不織布構造体の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた不織布構造体の表面を250℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、剥離が発生した。
【0040】
(比較例3) 繊度が
5.0dtexのポリエチレンテレフタレート長繊維からなる目付が250g/mのニードルパンチで機械交絡した長繊維不織布(東洋紡株式会社製ボランス(登録商標))を4層積層して、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数38本/cm、針深10mmでさらにニードルパンチ加工を行い、積層不織布を得た。得られた積層不織布の見掛け密度は0.22g/cmであった。 その後、得られた積層不織布をプレーンロールプレス機により加熱温度190℃、圧力80kN/cmでプレス加工を行った。得られた不織布構造体の見掛け密度は0.66g/cmであった。得られた不織布構造体は若干のソリが認められた。また、折り曲げると中央付近で層間剥離を生じるものであった。得られた不織布構造体の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた不織布構造体の表面を250℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、皺が発生した。
【0041】
(従来例) MFR20の汎用PP樹脂を加熱温度200℃で熱成形して1.8mmの平板を作成した。剛体であることから吸音性をほとんど確認できなかった。得られた平板の各種物性を表1に記載した。 さらに、得られた平板の表面を250℃で45秒間遠赤外線加熱処理を行った後、φ50mm、深さ50mmの円柱型によりコールドプレス成形を行った結果、成形性は良好であった。
【0042】
【表1】
【0043】
以上のように、本発明により、長繊維不織布を主体として構成され高い成形性と曲げ剛性に優れた不織布構造体およびその製造方法を提供することが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により得られる不織布構造体は、軽量な建築材や工業資材、また自動車のアンダーカバー、フェンダーライナー、フードサイレンサー、トノボードなどの自動車構造体や基材、吸音材などとして有効に活用することが可能であり、産業界への寄与大である。
図1