IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許7392657ポリイミド樹脂組成物及びポリイミドフィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20231129BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231129BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08G73/10
C08K5/353
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020560034
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047728
(87)【国際公開番号】W WO2020121949
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018233831
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 洋平
(72)【発明者】
【氏名】関口 慎司
(72)【発明者】
【氏名】高田 貴文
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-209309(JP,A)
【文献】特開2016-222797(JP,A)
【文献】特表2014-524512(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0106212(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L79、C08G73、C08K5/353
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂と、少なくとも2つのオキサゾリル基を有する架橋剤とを含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位A及びジアミンに由来する構成単位Bを有し、
構成単位Aが、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)を含み、
構成単位Bが、下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)と、下記式(b-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2)と、下記式(b-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-3)とを含み、
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率が85モル%以上であり、
構成単位B中における構成単位(B-1)の比率が20~75モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-2)の比率が1~25モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-3)の比率が20~75モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-1)~(B-3)の合計の比率が90モル%以上である、ポリイミド樹脂組成物。
【化1】

(式(b-1)中、
Xは単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、下記式(b-1-i)で表される基、又は下記式(b-1-ii)で表される基であり、
pは0~2の整数であり、
m1は0~4の整数であり、
m2は0~4の整数である。
【化2】

[式(b-1-i)中、m3は0~5の整数であり、式(b-1-ii)中、m4は0~5の整数である。]
ただし、
m1+m2+m3+m4は1以上であり、
pが0の場合、m1は1~4の整数であり、
pが2の場合、2つのX及び2つのm2~m4のそれぞれは独立して選択される;
式(b-2)中、
1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは正の整数である。)
【請求項2】
構成単位(B-1)が、下記式(b-11)で表される化合物に由来する構成単位(B-11)である、請求項1に記載のポリイミド樹脂組成物。
【化3】
【請求項3】
前記架橋剤が、少なくとも2つのオキサゾリル基が結合した芳香環又は芳香族複素環を含む化合物である、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、少なくとも2つのオキサゾリル基が結合したベンゼン環を含む化合物である、請求項3に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋剤が、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンである、請求項4に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
構成単位Aが、下記式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)を更に含む、請求項1~のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物。
【化4】
【請求項7】
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率が85~99モル%であり、
構成単位A中における構成単位(A-2)の比率が1~15モル%である、請求項に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物及び有機溶媒を含むポリアミドワニス。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物中の前記ポリイミド樹脂が前記架橋剤により架橋されてなるポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂組成物及びポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、優れた機械的特性及び耐熱性を有することから、電気・電子部品等の分野において様々な利用が検討されている。例えば、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置に用いられるガラス基板を、デバイスの軽量化やフレキシブル化を目的として、プラスチック基板へ代替することが望まれており、当該プラスチック基板として適するポリイミドフィルムの研究が進められている。このような用途のポリイミドフィルムには無色透明性が求められる。
【0003】
上記用途に適したポリイミドフィルムとして、ポリイミド樹脂に架橋剤を添加して製造されたポリイミドフィルムが提案されている。特許文献1には、カルボキシル基を有するポリイミド樹脂と少なくとも2つのオキサゾリル基を有する架橋剤とを含むポリイミド樹脂組成物が開示され、当該ポリイミド樹脂組成物によって、良好な透明性と高硬度を有する膜の形成が可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-222797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
画像表示装置において、表示素子から発せられる光がプラスチック基板を通って出射されるような場合、プラスチック基板には無色透明性が要求され、さらに、位相差フィルムや偏光板を光が通過する場合(例えば、液晶ディスプレイ、タッチパネルなど)は、無色透明性に加えて、光学的等方性が高いことも要求される。しかし、特許文献1には、光学的等方性について何ら記載されていない。
【0006】
さらに、ポリイミドフィルムが基板として適するためには、耐薬品性(耐溶剤性や耐酸性)も求められる。例えば、ポリイミドフィルムの上に別の樹脂層(例えば、カラーフィルター、レジスト)を形成するために当該樹脂層形成用のワニスをポリイミドフィルムに塗布する場合、ポリイミドフィルムには当該ワニス中に含まれる溶剤に対する耐性が求められる。ポリイミドフィルムの耐溶剤性が不十分であると、フィルムの溶解や膨潤により、基板として意味をなさなくなるおそれがある。
また、ポリイミドフィルムをITO(Indium Tin Oxide)膜形成用の基板として用いた場合、ポリイミドフィルムにはITO膜のエッチングに用いられる酸に対する耐性が求められる。ポリイミドフィルムの耐酸性が不十分であると、フィルムが黄変して無色透明性が損なわれるおそれがある。
特許文献1では、溶剤(N,N-ジメチルアセトアミド)に対する耐性は評価されているが、耐酸性は評価されていない。
【0007】
また、ポリイミド樹脂と架橋剤とを含むポリイミド樹脂組成物は、ポリイミド樹脂と架橋剤との組み合わせによっては、常温で保存しても架橋によるゲル化が進行することがあり、その場合、長期保存に適さない。
さらに、ポリイミド樹脂組成物は、ポリイミド樹脂組成物の塗布等に使用した配管や装置に使用する洗浄液(例えば、東京応化工業株式会社製の「OK73シンナー」等)に対する溶解性も求められる。洗浄液に対する溶解性が低いと、洗浄液による配管や装置の洗浄が不十分になるおそれがある。
特許文献1には、ポリイミド樹脂組成物の保存安定性や洗浄性について何ら記載されていない。
【0008】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、無色透明性、光学的等方性、及び耐薬品性(耐溶剤性及び耐酸性)に優れるフィルムの形成が可能であって、保存安定性及び洗浄性に優れるポリイミド樹脂組成物を提供すること、並びに前記ポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂が架橋剤により架橋されてなるポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の構成単位の組み合わせを含むポリイミド樹脂と特定の架橋剤とを含むポリイミド樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の[1]~[11]に関する。
[1]
ポリイミド樹脂と、少なくとも2つのオキサゾリル基を有する架橋剤とを含むポリイミド樹脂組成物であって、
前記ポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位A及びジアミンに由来する構成単位Bを有し、
構成単位Aが、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)を含み、
構成単位Bが、下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)と、下記式(b-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2)と、下記式(b-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-3)とを含む、ポリイミド樹脂組成物。
【化1】

(式(b-1)中、
Xは単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、下記式(b-1-i)で表される基、又は下記式(b-1-ii)で表される基であり、
pは0~2の整数であり、
m1は0~4の整数であり、
m2は0~4の整数である。
【化2】

[式(b-1-i)中、m3は0~5の整数であり、式(b-1-ii)中、m4は0~5の整数である。]
ただし、
m1+m2+m3+m4は1以上であり、
pが0の場合、m1は1~4の整数であり、
pが2の場合、2つのX及び2つのm2~m4のそれぞれは独立して選択される;
式(b-2)中、
1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは正の整数である。)
【0011】
[2]
構成単位(B-1)が、下記式(b-11)で表される化合物に由来する構成単位(B-11)である、上記[1]に記載のポリイミド樹脂組成物。
【化3】

[3]
前記架橋剤が、少なくとも2つのオキサゾリル基が結合した芳香環又は芳香族複素環を含む化合物である、上記[1]又は[2]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[4]
前記架橋剤が、少なくとも2つのオキサゾリル基が結合したベンゼン環を含む化合物である、上記[3]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[5]
前記架橋剤が、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンである、上記[4]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[6]
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率が50モル%以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物。
[7]
構成単位B中における構成単位(B-1)の比率が20~75モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-2)の比率が1~25モル%であり、
構成単位B中における構成単位(B-3)の比率が20~75モル%である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物。
[8]
構成単位Aが、下記式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)を更に含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物。
【化4】

[9]
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率が50~99モル%であり、
構成単位A中における構成単位(A-2)の比率が1~50モル%である、上記[8]に記載のポリイミド樹脂組成物。
[10]
上記[1]~[9]のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物及び有機溶媒を含むポリアミドワニス。
[11]
上記[1]~[9]のいずれかに記載のポリイミド樹脂組成物中の前記ポリイミド樹脂が前記架橋剤により架橋されてなるポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミド樹脂組成物は保存安定性及び洗浄性に優れており、無色透明性、光学的等方性、及び耐薬品性(耐溶剤性及び耐酸性)に優れるフィルムを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ポリイミド樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂組成物はポリイミド樹脂と架橋剤とを含む。以下、本発明におけるポリイミド樹脂及び架橋剤について説明する。
【0014】
<ポリイミド樹脂>
本発明において、ポリイミド樹脂はテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位A及びジアミンに由来する構成単位Bを有し、構成単位Aが下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)を含み、構成単位Bが下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)と、下記式(b-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2)と、下記式(b-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-3)とを含む。
【化5】
【0015】
式(b-1)中、
Xは単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、下記式(b-1-i)で表される基、又は下記式(b-1-ii)で表される基であり、
pは0~2の整数であり、
m1は0~4の整数であり、
m2は0~4の整数である。
【化6】

(式(b-1-i)中、m3は0~5の整数であり、式(b-1-ii)中、m4は0~5の整数である。)
ただし、
m1+m2+m3+m4は1以上であり、
pが0の場合、m1は1~4の整数であり、
pが2の場合、2つのX及び2つのm2~m4のそれぞれは独立して選択される。
【0016】
式(b-2)中、
1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは正の整数である。
【0017】
(構成単位A)
構成単位Aは、ポリイミド樹脂に占めるテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位であって、下記式(a-1)で表される化合物に由来する構成単位(A-1)を含む。
【化7】
【0018】
式(a-1)で表される化合物は、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。
構成単位Aが構成単位(A-1)を含むことによって、フィルムの無色透明性及び光学的等方性を向上させることができる。
【0019】
構成単位A中における構成単位(A-1)の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは85モル%以上である。構成単位(A-1)の比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Aは構成単位(A-1)のみからなっていてもよい。
【0020】
構成単位Aは、構成単位(A-1)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を与えるテトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物;1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物及びノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン-5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物(ただし、式(a-1)で表される化合物を除く);並びに1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環を1つ以上含むテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂環式テトラカルボン酸二無水物とは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないテトラカルボン酸二無水物を意味し、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは芳香環も脂環も含まないテトラカルボン酸二無水物を意味する。
構成単位Aに任意に含まれる構成単位(即ち、構成単位(A-1)以外の構成単位)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0021】
構成単位Aに任意に含まれる構成単位を与えるテトラカルボン酸二無水物として上述した例示化合物の中でも、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物が好ましい。即ち、本発明の一態様のポリイミド樹脂組成物においては、ポリイミド樹脂の構成単位Aが下記式(a-2)で表される化合物に由来する構成単位(A-2)を更に含む。
【化8】
【0022】
構成単位Aが構成単位(A-2)を含むことによって、フィルムの光学的等方性をより一層向上させることができる。
【0023】
構成単位Aが構成単位(A-1)及び構成単位(A-2)を含む場合、構成単位A中における構成単位(A-1)の比率は、好ましくは50~99モル%であり、より好ましくは50~95モル%であり、更に好ましくは70~95モル%であり、特に好ましくは85~95モル%であり、構成単位A中における構成単位(A-2)の比率は、好ましくは1~50モル%であり、より好ましくは5~50モル%であり、更に好ましくは5~30モル%であり、特に好ましくは5~15モル%である。
構成単位A中における構成単位(A-1)と構成単位(A-2)の合計の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは99モル%以上である。構成単位(A-1)と構成単位(A-2)の合計の比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Aは構成単位(A-1)と構成単位(A-2)とのみからなっていてもよい。
【0024】
(構成単位B)
構成単位Bは、ポリイミド樹脂に占めるジアミンに由来する構成単位であって、下記式(b-1)で表される化合物に由来する構成単位(B-1)と、下記式(b-2)で表される化合物に由来する構成単位(B-2)と、下記式(b-3)で表される化合物に由来する構成単位(B-3)とを含む。
【化9】
【0025】
式(b-1)中、
Xは単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、下記式(b-1-i)で表される基、又は下記式(b-1-ii)で表される基であり、
pは0~2の整数であり、
m1は0~4の整数であり、
m2は0~4の整数である。
【化10】

(式(b-1-i)中、m3は0~5の整数であり、式(b-1-ii)中、m4は0~5の整数である。)
ただし、
m1+m2+m3+m4は1以上であり、
pが0の場合、m1は1~4の整数であり、
pが2の場合、2つのX及び2つのm2~m4のそれぞれは独立して選択される。
【0026】
式(b-2)中、
1~R4は、それぞれ独立して、一価の脂肪族基又は一価の芳香族基であり、
1及びZ2は、それぞれ独立して、二価の脂肪族基又は二価の芳香族基であり、
rは正の整数である。
【0027】
式(b-1)で表される化合物の具体例としては、下記式(b-11)~(b-17)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
【化11】
【0029】
上記化合物の中でも式(b-11)で表される化合物が好ましく、下記式(b-111)で表される化合物、即ち、3,5-ジアミノ安息香酸がより好ましい。
【化12】
【0030】
構成単位(B-1)は、ポリイミド樹脂にカルボキシル基を与える構成単位である。ポリイミド樹脂がカルボキシル基を有することによって、後述する架橋剤を介したポリイミド樹脂同士の架橋が可能となる。構成単位Bが構成単位(B-1)を含むことによって、フィルムの耐薬品性を向上させることができる。
【0031】
式(b-2)におけるR1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に一価の脂肪族基又は一価の芳香族基を示し、これらはフッ素原子で置換されていてもよい。一価の脂肪族基としては、一価の飽和炭化水素基又は一価の不飽和炭化水素基が挙げられる。一価の飽和炭化水素基としては炭素数1~22のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が例示できる。一価の不飽和炭化水素基としては炭素数2~22のアルケニル基が挙げられ、例えば、ビニル基、プロペニル基が例示できる。一価の芳香族基としては、炭素数6~24のアリール基、アラルキル基等が例示できる。R1、R2、R3及びR4としては、特に、メチル基又はフェニル基が好ましい。
また、Z1及びZ2は、それぞれ独立に二価の脂肪族基又は二価の芳香族基を示し、これらの基はフッ素原子で置換されていてもよく、酸素原子を含んでいてもよい。エーテル結合として酸素原子を含んでいる場合、以下に示す炭素数は、脂肪族基又は芳香族基に含まれる全ての炭素数のことをいう。二価の脂肪族基としては、二価の飽和炭化水素基又は二価の不飽和炭化水素基が挙げられる。二価の飽和炭化水素基としては炭素数1~22のアルキレン基、アルキレンオキシ基、エーテル結合を有する飽和炭化水素基が挙げられ、アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が例示でき、アルキレンオキシ基としては、例えば、プロピレンオキシ基、トリメチレンオキシ基等が例示できる。二価の不飽和炭化水素基としては、炭素数2~22の不飽和炭素水素基が挙げられ、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、末端に不飽和二重結合を有するアルキレン基が例示できる。二価の芳香族基としては炭素数6~24のフェニレン基、アルキル基で置換されたフェニレン基、アラルキレン基等が例示できる。Z1及びZ2としては、特に、プロピレン基、フェニレン基、アラルキレン基が好ましい。
また、rは正の整数を示し、10~10,000の整数であることが好ましい。
【0032】
以上のように、式(b-2)で表される化合物のなかでも、下記式(b-21)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【化13】

(式(b-21)中、m及びnはそれぞれ独立に1以上の整数を示し、mとnとの和は10~10,000の整数である。)
【0034】
m及びnの和(m+n)は好ましくは10~1,000、より好ましくは10~500、より好ましくは10~100、更に好ましくは10~50である。
m/nの比は、好ましくは5/95~50/50、より好ましくは10/90~40/60、更に好ましくは20/80~30/70である。
【0035】
式(b-2)で表される化合物としては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,2,2-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(3-アミノブチル)-1,1,2,2-テトラメチルジシロキサン、ビス(4-アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(4-アミノフェニル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェノキシ-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(4-アミノブチル)ジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシ-1,3-ビス(4-アミノブチル)ジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(4-アミノフェニル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(4-アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(5-アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(2-アミノエチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(4-アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(5-アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサプロピル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン等が挙げられる。上記の化合物は単独で用いてもよく、又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。
式(b-2)で表される化合物の市販品として入手できるものとしては、信越化学工業株式会社製の「X-22-9409」、「X-22-1660B」、「X-22-161A」、「X-22-161B」等が挙げられる。
【0036】
構成単位Bが構成単位(B-2)を含むことによって、フィルムの無色透明性及び光学的等方性、並びにポリイミド樹脂組成物の洗浄性を向上させることができる。
【0037】
式(b-3)で表される化合物は、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビストリフルオロメチルジフェニルエーテルである。
構成単位Bが構成単位(B-3)を含むことによって、フィルムの光学的等方性、並びにポリイミド樹脂組成物の保存安定性及び洗浄性を向上させることができる。
【0038】
構成単位B中における構成単位(B-1)の比率は、好ましくは20~75モル%であり、より好ましくは25~70モル%であり、更に好ましくは30~60モル%である。
構成単位B中における構成単位(B-2)の比率は、好ましくは1~25モル%であり、より好ましくは2~20モル%であり、更に好ましくは3~15モル%である。
構成単位B中における構成単位(B-3)の比率は、好ましくは20~75モル%であり、より好ましくは25~70モル%であり、更に好ましくは30~60モル%である。
構成単位B中における構成単位(B-1)~(B-3)の合計の比率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは99モル%以上である。構成単位(B-1)~(B-3)の合計の比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。構成単位Bは構成単位(B-1)と構成単位(B-2)と構成単位(B-3)とのみからなっていてもよい。
【0039】
構成単位Bは構成単位(B-1)~(B-3)以外の構成単位を含んでもよい。そのような構成単位を与えるジアミンとしては、特に限定されないが、1,4-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-5-アミン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、及び9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン(ただし、式(b-1)で表される化合物、式(b-2)で表される化合物、及び式(b-3)で表される化合物を除く);1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジアミン;並びにエチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン(ただし、式(b-2)で表される化合物を除く)が挙げられる。
なお、本明細書において、芳香族ジアミンとは芳香環を1つ以上含むジアミンを意味し、脂環式ジアミンとは脂環を1つ以上含み、かつ芳香環を含まないジアミンを意味し、脂肪族ジアミンとは芳香環も脂環も含まないジアミンを意味する。
構成単位Bに任意に含まれる構成単位(即ち、構成単位(B-1)~(B-3)以外の構成単位)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0040】
本発明において、ポリイミド樹脂の数平均分子量は、得られるポリイミドフィルムの機械的強度の観点から、好ましくは5,000~100,000である。なお、ポリイミド樹脂の数平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。
【0041】
<ポリイミド樹脂の製造方法>
本発明において、ポリイミド樹脂は、上述の構成単位(A-1)を与える化合物を含むテトラカルボン酸成分と、上述の構成単位(B-1)を与える化合物、上述の構成単位(B-2)を与える化合物、及び上述の構成単位(B-3)を与える化合物を含むジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。
【0042】
構成単位(A-1)を与える化合物としては、式(a-1)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a-1)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸(即ち、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸)、及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A-1)を与える化合物としては、式(a-1)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
【0043】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物を、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは85モル%以上含む。構成単位(A-1)を与える化合物の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A-1)を与える化合物のみからなっていてもよい。
【0044】
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物、並びにそれらの誘導体(テトラカルボン酸、テトラカルボン酸のアルキルエステル等)が挙げられる。
テトラカルボン酸成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(A-1)を与える化合物以外の化合物)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0045】
テトラカルボン酸成分に任意に含まれる化合物としては、構成単位(A-2)を与える化合物が好ましい。
構成単位(A-2)を与える化合物としては、式(a-2)で表される化合物が挙げられるが、それに限られず、同じ構成単位を与える範囲でその誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(a-2)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対応するテトラカルボン酸、及び当該テトラカルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。構成単位(A-2)を与える化合物としては、式(a-2)で表される化合物(即ち、二無水物)が好ましい。
【0046】
テトラカルボン酸成分が構成単位(A-1)を与える化合物及び構成単位(A-2)を与える化合物を含む場合、テトラカルボン酸成分は構成単位(A-1)を与える化合物を、好ましくは50~99モル%含み、より好ましくは50~95モル%含み、更に好ましくは70~95モル%含み、特に好ましくは85~95モル%含み、構成単位(A-2)を与える化合物を、好ましくは1~50モル%含み、より好ましくは5~50モル%含み、更に好ましくは5~30モル%含み、特に好ましくは5~15モル%含む。
テトラカルボン酸成分は、構成単位(A-1)を与える化合物と構成単位(A-2)を与える化合物を合計で、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含み、特に好ましくは99モル%以上含む。構成単位(A-1)を与える化合物と構成単位(A-2)を与える化合物の合計の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。テトラカルボン酸成分は構成単位(A-1)を与える化合物と構成単位(A-2)を与える化合物とのみからなっていてもよい。
【0047】
構成単位(B-1)を与える化合物、構成単位(B-2)を与える化合物、及び構成単位(B-3)を与える化合物としては、それぞれ式(b-1)で表される化合物、式(b-2)で表される化合物、及び式(b-3)で表される化合物が挙げられるが、それらに限られず、同じ構成単位を与える範囲でそれらの誘導体であってもよい。当該誘導体としては、式(b-1)~(b-3)で表されるジアミンに対応するジイソシアネートが挙げられる。
構成単位(B-1)を与える化合物、構成単位(B-2)を与える化合物、及び構成単位(B-3)を与える化合物としては、それぞれ式(b-1)で表される化合物(即ち、ジアミン)、式(b-2)で表される化合物(即ち、ジアミン)、及び式(b-3)で表される化合物(即ち、ジアミン)が好ましい。
【0048】
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物を、好ましくは20~75モル%含み、より好ましくは25~70モル%含み、更に好ましくは30~60モル%含む。
ジアミン成分は、構成単位(B-2)を与える化合物を、好ましくは1~25モル%含み、より好ましくは2~20モル%含み、更に好ましくは3~15モル%含む。
ジアミン成分は、構成単位(B-3)を与える化合物を、好ましくは20~75モル%含み、より好ましくは25~70モル%含み、更に好ましくは30~60モル%含む。
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物、構成単位(B-2)を与える化合物、及び構成単位(B-3)を与える化合物を合計で、好ましくは50モル%以上含み、より好ましくは70モル%以上含み、更に好ましくは90モル%以上含み、特に好ましくは99モル%以上含む。構成単位(B-1)を与える化合物、構成単位(B-2)を与える化合物、及び構成単位(B-3)を与える化合物の合計の含有比率の上限値は特に限定されず、即ち、100モル%である。ジアミン成分は構成単位(B-1)を与える化合物と構成単位(B-2)を与える化合物と構成単位(B-3)を与える化合物とのみからなっていてもよい。
【0049】
ジアミン成分は、構成単位(B-1)を与える化合物、構成単位(B-2)を与える化合物、及び構成単位(B-3)を与える化合物以外の化合物を含んでもよく、当該化合物としては、上述の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、及び脂肪族ジアミン、並びにそれらの誘導体(ジイソシアネート等)が挙げられる。
ジアミン成分に任意に含まれる化合物(即ち、構成単位(B-1)を与える化合物、構成単位(B-2)を与える化合物、及び構成単位(B-3)を与える化合物以外の化合物)は、1種でもよいし、2種以上であってもよい。
【0050】
本発明において、ポリイミド樹脂の製造に用いるテトラカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0051】
また、本発明において、ポリイミド樹脂の製造には、前述のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分の他に、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、テトラカルボン酸成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.06モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0052】
前述のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的な反応方法としては、(1)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、室温(約20℃)~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(2)ジアミン成分及び反応溶剤を反応器に仕込んで溶解させた後、テトラカルボン酸成分を仕込み、必要に応じて室温(約20℃)~80℃で0.5~30時間撹拌し、その後に昇温してイミド化反応を行う方法、(3)テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、及び反応溶剤を反応器に仕込み、直ちに昇温してイミド化反応を行う方法等が挙げられる。
【0053】
ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤は、イミド化反応を阻害せず、生成するポリイミドを溶解できるものであればよい。例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤等が挙げられる。
【0054】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ピコリン、ピリジン等のアミン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0055】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
また、カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記反応溶剤の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましい。また、上記の反応溶剤は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0056】
イミド化反応では、ディーンスターク装置などを用いて、製造時に生成する水を除去しながら反応を行うことが好ましい。このような操作を行うことで、重合度及びイミド化率をより上昇させることができる。
【0057】
上記のイミド化反応においては、公知のイミド化触媒を用いることができる。イミド化触媒としては、塩基触媒又は酸触媒が挙げられる。
塩基触媒としては、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α-ピコリン、β-ピコリン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、イミダゾール、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の有機塩基触媒、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基触媒が挙げられる。
また、酸触媒としては、クロトン酸、アクリル酸、トランス-3-ヘキセノイック酸、桂皮酸、安息香酸、メチル安息香酸、オキシ安息香酸、テレフタル酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。上記のイミド化触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、取り扱い性の観点から、塩基触媒を用いることが好ましく、有機塩基触媒を用いることがより好ましく、トリエチルアミンを用いることが更に好ましく、トリエチルアミンとトリエチレンジアミンを組み合わせて用いること特に好ましい。
【0058】
イミド化反応の温度は、反応率及びゲル化等の抑制の観点から、好ましくは120~250℃、より好ましくは160~200℃である。また、反応時間は、生成水の留出開始後、好ましくは0.5~10時間である。
【0059】
<架橋剤>
本発明において、架橋剤は少なくとも2つのオキサゾリル基を有する。即ち、本発明における架橋剤は、分子内に2以上のオキサゾリル基(オキサゾリン環)を有する多官能オキサゾリン化合物である。
オキサゾリル基はカルボキシル基との反応性を有しており、カルボキシル基とオキサゾリル基とが反応すると、以下に示すようにアミドエステル結合が形成される。この反応は、80℃以上に加熱すると特に進行しやすい。
【0060】
【化14】
【0061】
本発明のポリイミド樹脂組成物に含まれるポリイミド樹脂はカルボキシル基を有することから、本発明のポリイミド樹脂組成物を加熱すると、架橋剤を介してポリイミド樹脂同士が架橋して、架橋ポリイミド樹脂が形成される。このような理由から、フィルムの耐薬品性が向上する。
【0062】
架橋剤は、分子内に2以上のオキサゾリル基を有する多官能オキサゾリン化合物であれば特に限定されず、その具体例としては、1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン、1,4-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、株式会社日本触媒製のK-2010E、K-2020E、K-2030E、2,6-ビス(4-イソプロピル-2-オキサゾリン-2-イル)ピリジン、2,6-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン-2-イル)ピリジン、2,2’-イソプロピリデンビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2’-イソプロピリデンビス(4-ターシャルブチル-2-オキサゾリン)などが挙げられる。
架橋剤は、好ましくは少なくとも2つのオキサゾリル基が結合した芳香環又は芳香族複素環を含む化合物であり、より好ましくは少なくとも2つのオキサゾリル基が結合したベンゼン環又はピリジン環を含む化合物であり、更に好ましくは少なくとも2つのオキサゾリル基が結合したベンゼン環を含む化合物であり、特に好ましくは1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼンである。
架橋剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、架橋剤中のオキサゾリル基とポリイミド樹脂中のカルボキシル基とのモル比(オキサゾリル基/カルボキシル基)が1/4~1/0.5の範囲となるような比率で、ポリイミド樹脂と架橋剤とを含むことが好ましい。前記モル比は、より好ましくは1/4~1/1であり、更に好ましくは1/2~1/1であり、より更に好ましくは1/2~1/1.5であり、より更に好ましくは1/2~1/1.7である。
なお、上記のモル比は、架橋剤に含まれるオキサゾリル基と、ポリイミド樹脂の製造に用いる構成単位(B-1)を与える化合物に含まれるカルボキシル基とのモル比を意味し、架橋剤の添加量と構成単位(B-1)を与える化合物の添加量に基づいて計算される。
【0064】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物は、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
本発明のポリイミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0065】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、無色透明性、光学的等方性、及び耐薬品性に優れるフィルムを形成することができる。本発明のポリイミド樹脂組成物を用いて形成することができるフィルムの好適な物性値は以下の通りである。
全光線透過率は、厚さ10μmのフィルムとした際に、好ましくは88%以上であり、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは91%以上である。
イエローインデックス(YI)は、厚さ10μmのフィルムとした際に、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.3以下であり、更に好ましくは2.0以下である。
は、厚さ10μmのフィルムとした際に、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.2以下であり、更に好ましくは1.0以下である。
ヘイズは、厚さ10μmのフィルムとした際に、好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、更に好ましくは0.6%以下である。
厚み位相差(Rth)の絶対値は、厚さ10μmのフィルムとした際に、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは90nm以下であり、更に好ましく60nm以下である。
混酸ΔYIは、厚さ10μmのフィルムとした際に、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.3以下であり、更に好ましくは1.2以下である。
なお、混酸ΔYIは、それぞれ、リン酸、硝酸及び酢酸の混合物にポリイミドフィルムを浸漬した際の、浸漬前後でのYIの差を意味し、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。ΔYIが小さいほど、耐酸性に優れることを意味する。本発明のポリイミド樹脂組成物を用いることで、耐薬品性に優れるフィルムを形成することができ、酸に対しても優れた耐性を示す。特に混酸(例えば、リン酸を50~97質量%、硝酸を1~20質量%、酢酸を1~10質量%、及び水を1~20質量%の混合溶液、好ましくはリン酸を63~87質量%、硝酸を5~15質量%、酢酸を3~7質量%、及び水を5~15質量%の混合溶液)に対して優れた耐性を示す。
【0066】
本発明のポリイミド樹脂組成物を用いて形成することができるフィルムは機械的特性及び耐熱性も良好であり、以下のような好適な物性値を有する。
引張弾性率は、好ましくは2.0GPa以上であり、より好ましくは2.5GPa以上であり、更に好ましくは2.7GPa以上である。
引張強度は、好ましくは60MPa以上であり、より好ましくは70MPa以上であり、更に好ましくは80MPa以上である。
引張破断伸び率は、好ましくは5.0%以上であり、より好ましくは6.0%以上であり、更に好ましくは7.5%以上である。
ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは230℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、更に好ましくは290℃以上である。
なお、本発明における上述の物性値は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0067】
[ポリイミドワニス]
本発明のポリイミド樹脂組成物の好適な一態様として、上述のポリイミド樹脂及び上述の架橋剤に加えて、有機溶媒を更に含み、当該ポリイミド樹脂が当該有機溶媒に溶解しているポリイミド樹脂組成物(以後、“ポリイミドワニス”とも呼称する)が挙げられる。
すなわち、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミド樹脂組成物及び有機溶媒を含む。
【0068】
有機溶媒はポリイミド樹脂が溶解するものであればよく、特に限定されないが、ポリイミド樹脂の製造に用いられる反応溶剤として上述した化合物を、単独又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
有機溶媒としては、例えば、非プロトン性溶剤、フェノール系溶剤、エーテル系溶剤、カーボネート系溶剤等が挙げられる。
【0069】
非プロトン性溶剤の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶剤、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶剤、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含リン系アミド系溶剤、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ピコリン、ピリジン等のアミン系溶剤、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0070】
フェノール系溶剤の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等が挙げられる。
エーテル系溶剤の具体例としては、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられる。
また、カーボネート系溶剤の具体的な例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
上記有機溶媒の中でも、アミド系溶剤又はラクトン系溶剤が好ましく、洗浄性の観点から、ラクトン系溶剤がより好ましい。ラクトン系溶剤のなかでもγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンが好ましく、γ-ブチロラクトンがより好ましい。
【0071】
有機溶媒にラクトン系溶剤を用いる場合、ポリイミドワニスに含まれる有機溶媒中のラクトン系溶剤の比率は70~100質量%が好ましく、80~100質量%以上がより好ましく、90~100質量%が更に好ましく、ラクトン系溶剤のみからなっていてもよい。
ラクトン系溶剤は吸湿率が低いため、フィルム塗布時にワニスが環境中の水分を吸湿することなく、ポリイミドの析出による白化や膜面表面の荒れが起こりにくく、好ましい。また、環境中の湿度のコントロールが不要となるなど、プロセス性を良好にすることができるため、好ましい。
なお、上記の有機溶媒は単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0072】
ポリイミドワニスは、重合法により得られるポリイミド樹脂が反応溶剤に溶解した溶液そのものに対して架橋剤を添加したものであってもよいし、又は当該溶液に対して希釈溶剤及び架橋剤を添加したものであってもよい。
【0073】
上述のポリイミド樹脂は溶媒溶解性を有しており、しかも、室温では架橋剤との架橋反応がほとんど進行しない。そのため、室温で安定なポリイミドワニスとすることができる。ポリイミドワニスは、ポリイミド樹脂を1~40質量%含むことが好ましく、2~40質量%含むことがより好ましい。
なかでも安定かつ高濃度で保存でき、フィルム形成も良好である点から、5~40質量%含むことが更に好ましく、10~30質量%含むことがより更に好ましく、15~25質量%含むことがより更に好ましい。ポリイミドワニスの粘度は1~200Pa・sが好ましく、2~100Pa・sがより好ましい。ポリイミドワニスの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定された値である。
【0074】
また、フィルム塗布に際してはポリイミドワニス中のポリイミド樹脂の濃度をより低くすることも好ましく、前記有機溶媒で希釈して用いることも好ましい。装置の洗浄性を高める観点からは、フィルム塗布時に用いるポリイミドワニスは、ポリイミド樹脂を1~10質量%含むことが更に好ましく、2~8質量%含むことがより更に好ましく、4~7質量%含むことがより更に好ましい。またその際の粘度は0.1~15Pa・sが好ましく、1~10Pa・sがより好ましく、2~5Pa・sがさらに好ましい。ポリイミドワニスをこのような範囲のポリイミド樹脂濃度または粘度とすることで、洗浄液によるフィルム塗布に用いる装置内部のワニスの置換が容易になり洗浄性が良好となる。
【0075】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド樹脂組成物中に含まれる上述のポリイミド樹脂が上述の架橋剤により架橋されてなる。即ち、本発明のポリイミドフィルムは、架橋剤を介したポリイミド樹脂同士の架橋物である架橋ポリイミド樹脂を含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、無色透明性、光学的等方性、及び耐薬品性に優れる。本発明のポリイミドフィルムが有する好適な物性値は上述の通りである。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法には、ポリイミド樹脂と架橋剤との架橋反応が進行する温度(好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは150℃以上)で加熱する工程を含めば、特に制限はない。例えば、上述のポリイミドワニスを、ガラス板、金属板、プラスチックなどの平滑な支持体上に塗布、又はフィルム状に成形した後、加熱する方法が挙げられる。この加熱処理により、ポリイミドワニス中のポリイミド樹脂と架橋剤との架橋反応を進行させながら、ポリイミドワニス中に含まれる反応溶剤や希釈溶剤等の有機溶媒を除去することができる。
【0076】
塗布方法としては、スピンコート、スリットコート、ブレードコート等の公知の塗布方法が挙げられる。
加熱処理としては、60~150℃の温度で有機溶媒を蒸発させタックフリーにした後、用いた有機溶媒の沸点以上の温度(特に限定されないが、好ましくは200~500℃)で乾燥することが好ましい。また、空気雰囲気下又は窒素雰囲気下で乾燥することが好ましい。乾燥雰囲気の圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。
支持体上に製膜されたポリイミドフィルムを支持体から剥離する方法は特に限定されないが、レーザーリフトオフ法や、剥離用犠牲層を使用する方法(支持体の表面に予め離形剤を塗布しておく方法)が挙げられる。
【0077】
本発明のポリイミドフィルムの厚みは用途等に応じて適宜選択することができるが、好ましくは1~250μm、より好ましくは5~100μm、更に好ましくは10~80μmの範囲である。厚みが1~250μmであることで、自立膜としての実用的な使用が可能となる。
ポリイミドフィルムの厚みは、ポリイミドワニスの固形分濃度や粘度を調整することにより、容易に制御することができる。
【0078】
本発明のポリイミドフィルムは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。本発明のポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイやOLEDディスプレイ等の画像表示装置の基板として、特に好適に用いられる。
【実施例
【0079】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0080】
実施例及び比較例において、各物性は以下に示す方法によって測定した。
(1)固形分濃度
ポリイミド樹脂溶液及びポリイミドワニスの固形分濃度の測定は、アズワン株式会社製の小型電気炉「MMF-1」で試料を320℃×120minで加熱し、加熱前後の試料の質量差から算出した。
(2)フィルム厚さ
フィルム厚さは、株式会社ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
(3)引張強度、引張弾性率、引張破断伸び率
引張強度、引張弾性率、及び引張破断伸び率は、JIS K7127:1999に準拠し、東洋精機株式会社製の引張試験機「ストログラフVG-1E」を用いて測定した。チャック間距離は50mm、試験片サイズは10mm×70mm、試験速度は20mm/minとした。
(4)ガラス転移温度(Tg)
株式会社日立ハイテクサイエンス製の熱機械的分析装置「TMA/SS6100」を用いて、引張モードで試料サイズ2mm×20mm、荷重0.1N、昇温速度10℃/minの条件で、残留応力を取り除くのに十分な温度まで昇温して残留応力を取り除き、その後室温まで冷却した。その後、前記残留応力を取り除くための処理と同じ条件で試験片伸びの測定の測定を行い、伸びの変曲点が見られたところをガラス転移温度として求めた。
(5)全光線透過率、イエローインデックス(YI)、b、ヘイズ
全光線透過率、YI、b、及びヘイズはJIS K7105:1981に準拠し、日本電色工業株式会社製の色彩・濁度同時測定器「COH400」を用いて測定した。
(6)厚み位相差(Rth)
厚み位相差(Rth)は、日本分光株式会社製のエリプソメーター「M-220」を用いて測定した。測定波長590nmにおける、厚み位相差の値を測定した。なおRthは、ポリイミドフィルムの面内の屈折率のうち最大のものをnx、最小のものをnyとし、厚み方向の屈折率をnzとし、フィルムの厚みをdとしたとき、下記式によって表されるものである。
Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d
(7)耐溶剤性
ガラス板上に製膜したポリイミドフィルムに、室温で溶剤を滴下し、フィルム表面に変化がないかを確認した。なお、溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を使用した。
耐溶剤性の評価基準は、以下の通りとした。
A:フィルム表面に変化がなかった。
B:フィルム表面にわずかにクラックが入った。
C:フィルム表面にクラックが入った、又はフィルム表面が溶解した。
(8)耐酸性(混酸ΔYI)
ガラス板上に製膜したポリイミドフィルムを40℃に温めた混酸(H3PO4(70質量%)+HNO3(10質量%)+CH3COOH(5質量%)+H2O(15質量%)の混合溶液)に4分間浸漬した後、水洗した。水洗後、水分をふき取り、ホットプレートにて240℃で50分加熱して、乾燥した。試験前後でYIを測定し、その変化(ΔYI)を求めた。なお、ここでのYI測定は、ガラス板にポリイミドフィルムを製膜した状態(ガラス板+ポリイミドフィルムの状態)で行った。
(9)保存安定性
ポリイミドワニスを室温(23℃)で1週間保管し、ワニスにHazeが出てくるかどうかを目視で確認した。1週間保管した後、Hazeが出なかったものをA、Hazeが出てきたものをCと評価した。具体的には、(5)ヘイズと同様の評価方法で5%未満となったものをHazeが出なかったものとしてA、(5)ヘイズと同様の評価方法で5%以上となったものをHazeが出てきたものとしてCとした。
(10)洗浄性
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)とを、PGME/PGMEAの質量比が7/3の混合比となるように混合して、PGME/PGMEA混合液を調製した。ポリイミドワニスを前記PGME/PGMEA混合液と混合し、室温で均一に混ざるかどうかを確認した。均一に混ざらない場合、析出物が生じて混合液が白濁するため、(5)ヘイズと同様の評価方法で混合液のHazeを測定することで洗浄性を評価した。
洗浄性の評価基準は、以下の通りとした。
A:ポリイミドワニスとPGME/PGMEA混合液が均一に混合した。Hazeが1%以下であった。
C:ポリイミドワニスとPGME/PGMEA混合液が均一に混合せず、析出物が生じた。Hazeが1%より大きいものであった。
【0081】
実施例及び比較例にて使用したテトラカルボン酸成分、ジアミン成分、架橋剤の略号は以下の通りである。
<テトラカルボン酸成分>
HPMDA:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(三菱ガス化学株式会社製;式(a-1)で表される化合物)
6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(ダイキン工業株式会社製;式(a-2)で表される化合物)
<ジアミン成分>
3,5-DABA:3,5-ジアミノ安息香酸(日本純良薬品株式会社製;式(b-1)で表される化合物)
X-22-9409:両末端アミノ変性シリコーンオイル「X-22-9409」(信越化学工業株式会社製;式(b-2)で表される化合物)
6FODA:4,4’-ジアミノ-2,2’-ビストリフルオロメチルジフェニルエーテル(ChinaTech Chemical (Tianjin) Co., Ltd.製;式(b-3)で表される化合物)
HFBAPP:2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン(セイカ株式会社製)
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(セイカ株式会社製)
<架橋剤>
1,3-PBO:1,3-ビス(4,5-ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン(三國製薬工業株式会社製)
【0082】
<実施例1>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、3,5-DABAを8.518g(0.056モル)と、X-22-9409を13.709g(0.010モル)と、6FODAを18.833g(0.056モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を66.873g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを27.333g(0.122モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を16.718gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.617g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を172.409g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(1)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(1)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを3.784g(0.0175モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.6質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0083】
<実施例2>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、3,5-DABAを8.173g(0.054モル)と、X-22-9409を13.155g(0.010モル)と、6FODAを18.071g(0.054モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を66.699g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを23.605g(0.105モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を8.338gとを一括で添加した後、10分間撹拌を続けた後、6FDAを5.211g(0.012モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を8.338gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.617g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を172.626g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20.0質量%のポリイミド樹脂溶液(2)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(2)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを3.655g(0.0169モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.6質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0084】
<比較例1>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、3,5-DABAを28.625g(0.188モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を84.928g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを42.149g(0.188モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を21.232gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.951g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を149.840g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(3)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(3)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを12.704g(0.059モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.6質量%のポリイミドワニスを得た。その後、ポリイミドワニスを室温静置したところ、ポリイミドワニス中に白色の析出物が生じ、ポリイミドワニスの流動性がなくなった。そのため、フィルム化が困難であった。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
【0085】
<比較例2>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、6FODAを41.034g(0.122モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を82.073g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを27.361g(0.122モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を20.518gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.617g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を153.408g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(4)を得た。
このポリイミド樹脂溶液(4)に架橋剤1,3-PBOを添加せず、そのままポリイミドワニスとして用いた。即ち、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニス(ポリイミド樹脂溶液(4))をスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0086】
<比較例3>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、TFMBを24.160g(0.075モル)と、3,5-DABAを11.478g(0.075モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を83.318g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを33.794g(0.151モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を20.830gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.763g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を151.852g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(5)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(5)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを5.069g(0.023モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.5質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0087】
<比較例4>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、6FODAを24.894g(0.074モル)と、3,5-DABAを11.266g(0.074モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を83.198g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを33.172g(0.148モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を20.800gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.749g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を152.002g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(6)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(6)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを5.000g(0.023モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.5質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0088】
<比較例5>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、3,5-DABAを6.994g(0.046モル)と、X-22-9409を13.688g(0.010モル)と、HFBAPPを23.951g(0.046モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を65.994g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを22.861g(0.102モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を16.498gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.516gと、テトラエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)を0.057g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を173.51g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(7)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(7)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを3.784g(0.0175モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.6質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0089】
<比較例6>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、3,5-DABAを8.640g(0.057モル)と、X-22-9409を13.906g(0.010モル)と、TFMBを18.861g(0.056モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を66.934g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを27.724g(0.124モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を16.734gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.625g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を172.332g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(8)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(8)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを3.853g(0.0178モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.6質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0090】
<比較例7>
ステンレス製半月型撹拌翼、窒素導入管、冷却管を取り付けたディーンスターク、温度計、ガラス製エンドキャップを備えた1Lの5つ口丸底フラスコに、3,5-DABAを8.183g(0.054モル)と、X-22-9409を13.859g(0.010モル)と、TFMBを17.224g(0.054モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を66.721g投入し、系内温度70℃、窒素雰囲気下、回転数200rpmで撹拌して溶液を得た。
この溶液に、HPMDAを23.733g(0.106モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を8.340gとを一括で添加した後、10分間撹拌を続けた後、6FDAを5.239g(0.012モル)と、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を8.340gとを一括で添加した後、イミド化触媒としてトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を0.595g投入し、マントルヒーターで加熱し、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して約5時間還流した。
その後、γ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)を172.598g添加して、反応系内温度を120℃まで冷却した後、更に約3時間撹拌して均一化して、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液(9)を得た。
続いて、ポリイミド樹脂溶液(9)を200g中に、架橋剤として1,3-PBOを3.650g(0.0169モル)添加し、室温で1時間撹拌後、架橋剤とポリイミド樹脂とを含む固形分濃度19.6質量%のポリイミドワニスを得た。なお、1,3-PBOの添加量と3,5-DABAの添加量に基づいて計算されるオキサゾリル基/カルボキシル基のモル比は、1/2である。
続いて、ガラス板上へ、得られたポリイミドワニスをスピンコートにより塗布し、ホットプレートで80℃、20分間保持し、その後、空気雰囲気下、熱風乾燥機中260℃で30分加熱し溶媒を蒸発させ、フィルムを得た。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示されるように、実施例1及び2のポリイミドフィルムは、いずれも無色透明性、光学的等方性、及び耐薬品性(耐溶剤性及び耐酸性)に優れており、実施例1及び2のポリイミドワニスは保存安定性及び洗浄性に優れていた。
一方、比較例1では、ポリイミド樹脂溶液に架橋剤を添加して1時間撹拌することでポリイミドワニスを得たが、その後、当該ポリイミドワニスを室温静置したところ、ポリイミドワニス中に白色の析出物が生じ、ポリイミドワニスの流動性がなくなった。つまり、比較例1のポリイミドワニスは保存安定性及び洗浄性に劣っていた。
比較例2のポリイミドフィルムは、耐溶剤性に劣っていた。また、混酸ΔYIの値が1.57と大きく、耐酸性にも劣っていた。
比較例3のポリイミドフィルムは、光学的等方性に劣っていた。また、比較例3のポリイミドワニスは洗浄性に劣っていた。
比較例4のポリイミドワニスは洗浄性に劣っていた。
比較例5のポリイミドフィルムは、耐溶剤性が良好でなかった。また、比較例5のポリイミドワニスは洗浄性に劣っていた。
比較例6のポリイミドワニスは、保存安定性及び洗浄性に劣っていた。
比較例7のポリイミドワニスは、洗浄性に劣っていた。