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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】電磁波センサカバー
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20231129BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20231129BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20231129BHJP
   H05B 3/84 20060101ALI20231129BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20231129BHJP
【FI】
G01S7/481 Z
G01S7/497
H05B3/20 309
H05B3/84
G02B1/11
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021027725
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022129146
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里彩
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】深川 鋼司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏明
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165943(JP,A)
【文献】特開2020-176895(JP,A)
【文献】特開2020-005057(JP,A)
【文献】登録実用新案第3117480(JP,U)
【文献】中国実用新案第211826485(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/51
G01S 13/00-13/95
G01S 17/00-17/95
H01Q 1/42
H05B 3/20
H05B 3/84
G02B 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を送信する送信部と受信する受信部とを備える電磁波センサに適用され、かつ前記送信部及び前記受信部を、前記送信部からの前記電磁波の送信方向における前方から覆うカバー本体部を備える電磁波センサカバーにおいて、
前記カバー本体部は、
樹脂材料により形成され、かつ前記送信部からの前記電磁波の透過性を有する基材と、
前記送信方向における前記基材の後面に形成され、かつ前記送信部からの前記電磁波の透過性を有するアンダーコート層と、
前記送信方向における前記アンダーコート層の後面に、銅により帯状に形成され、通電により発熱するとともに、前記アンダーコート層を介して前記基材に密着されたヒータ部と、
前記送信部からの前記電磁波の透過性を有し、かつ前記ヒータ部を覆うSiO2 被膜と
を備える電磁波センサカバー。
【請求項2】
前記SiO2 被膜は、前記ヒータ部に加え、前記アンダーコート層のうち、前記ヒータ部が形成されていない領域を、前記送信方向における後方から覆っている請求項1に記載の電磁波センサカバー。
【請求項3】
前記送信方向における前記SiO2 被膜よりも後方には、前記送信部から送信された前記電磁波の反射を抑制する反射抑制層が形成されている請求項1又は2に記載の電磁波センサカバー。
【請求項4】
前記SiO2 被膜と前記反射抑制層との間には、前記送信部からの前記電磁波の透過性を有し、かつ前記ヒータ部を保護するとともに絶縁する保護膜が、樹脂材料により形成されている請求項3に記載の電磁波センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設置される近赤外線センサは、近赤外線の送信部及び受信部を備える。送信部及び受信部は、同送信部からの電磁波の送信方向における前方から、近赤外線センサカバーのカバー本体部によって覆われる。
【0003】
上記近赤外線センサでは、送信部から近赤外線が車両の外部へ向けて送信される。送信された近赤外線は、カバー本体部を透過した後、車外の先行車両、歩行者等を含む物体に当たり反射される。この反射された近赤外線は、カバー本体部を透過し、受信部で受信される。上記近赤外線センサでは、送信した近赤外線と受信した近赤外線とに基づき、車外の上記物体が認識されるとともに、車両と上記物体との距離、相対速度等が検出される。
【0004】
上記近赤外線センサでは、雪が付着すると、上記認識及び検出を一時的に停止するようにしている。これは、付着した雪が近赤外線の透過を妨げるからである。しかし、近赤外線センサの普及に伴い、降雪時でも上記認識及び検出を行なうことが要望されている。
【0005】
そこで、融雪機能を有する近赤外線センサカバーが種々考えられている。例えば、カバー本体部が、基材、ヒータ部及び保護膜を備える近赤外線センサカバーが知られている。基材は、樹脂材料により形成され、かつ近赤外線の透過性を有する。ヒータ部は、上記送信方向における基材の後面に、銅により帯状に形成され、通電により発熱する。保護膜は、ヒータ部を上記送信方向における後方から覆っている。保護膜は、樹脂材料によって形成され、ヒータ部を保護するとともに絶縁する。
【0006】
上記近赤外線センサカバーによると、ヒータ部が通電により発熱する。そのため、近赤外線センサカバーに雪が付着しても、ヒータ部が発した熱によって雪を融解させ、雪の付着に起因する近赤外線の減衰を抑制することができる。
【0007】
なお、上記のようにヒータ部が設けられることで融雪機能が付与された近赤外線センサカバーとしては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/012579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記近赤外線センサカバーでは、樹脂製の保護膜のバリヤ性が十分高くないため、外部の空気中の水分が保護膜を透湿し、銅の腐食及び銅害を引き起こす懸念がある。
【0010】
銅の腐食は、保護膜を透湿した空気中の水分により、銅がイオン化して酸化することにより起こる。上記銅の腐食はヒータ部の電気抵抗値、ひいては融雪機能に影響を及ぼす。また、銅害は、銅イオンが、保護膜を形成する樹脂中に拡散し、原子間の結合を切断することで、樹脂の酸化劣化を進行させる現象である。銅害が起こると、保護膜のヒータ部等に対する密着力が低下する。保護膜が剥離すると、剥離した箇所に空気が入り込み、近赤外線の透過性、ひいては近赤外線センサの検出性能に影響を及ぼす。
【0011】
こうした問題は、近赤外線センサに限らず、下記電磁波センサカバーであれば、同様に起り得る。電磁波を送信する送信部と受信する受信部とを備える電磁波センサに適用され、かつ送信部及び受信部を、同送信部からの電磁波の送信方向における前方から覆うカバー本体部を備える電磁波センサカバーである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する電磁波センサカバーは、電磁波を送信する送信部と受信する受信部とを備える電磁波センサに適用され、かつ前記送信部及び前記受信部を、前記送信部からの前記電磁波の送信方向における前方から覆うカバー本体部を備える電磁波センサカバーにおいて、前記カバー本体部は、樹脂材料により形成され、かつ前記送信部からの前記電磁波の透過性を有する基材と、前記送信方向における前記基材の後面に形成され、かつ前記送信部からの前記電磁波の透過性を有するアンダーコート層と、前記送信方向における前記アンダーコート層の後面に、銅により帯状に形成され、通電により発熱するとともに、前記アンダーコート層を介して前記基材に密着されたヒータ部と、前記送信部からの前記電磁波の透過性を有し、かつ前記ヒータ部を覆うSiO2 被膜とを備える。
【0013】
上記の構成によれば、SiO2 被膜は、ヒータ部を保護し、同ヒータ部が他部材との接触により傷付くのを抑制する。また、SiO2 被膜は、ヒータ部を絶縁し、ヒータ部と他部材との間で電流が流れるのを遮断する。
【0014】
上記SiO2 被膜は、従来の樹脂製の保護膜よりも高いバリヤ性を有している。空気中の水分は、SiO2 被膜を透湿しにくい。水分は、ヒータ部を形成する銅に接触しにくい。従って、銅が、水分との接触により、イオン化して酸化する現象(銅の腐食)が起こりにくい。その結果、ヒータ部の電気抵抗値、ひいては融雪機能が、銅の腐食により影響を受けることが抑制される。
【0015】
上記の銅の腐食抑制が、金属酸化物であるSiO2 によってなされる。SiO2 被膜では、樹脂製の保護膜とは異なり、銅イオンが樹脂中に拡散し、原子間の結合を切断することで樹脂の酸化劣化を進行させる現象(銅害)が起こらない。従って、SiO2 被膜のヒータ部等に対する密着力が低下して剥離する現象が起こりにくい。剥離した箇所に空気が入り込み、電磁波の透過性、ひいては電磁波センサの検出性能が影響を受けることが抑制される。
【0016】
上記電磁波センサカバーにおいて、前記SiO2 被膜は、前記ヒータ部に加え、前記アンダーコート層のうち、前記ヒータ部が形成されていない領域を、前記送信方向における後方から覆っていることが好ましい。
【0017】
上記の構成によるように、アンダーコート層のうちヒータ部が形成されていない領域もSiO2 被膜による被覆の対象とされることにより、ヒータ部のみが被覆の対象とされる場合に比べ、空気中の水分がヒータ部を形成する銅に対し、一層接触しにくくなる。そのため、ヒータ部のみが被覆の対象とされる場合に比べ、銅の腐食及び銅害がより一層抑制される。
【0018】
上記電磁波センサカバーにおいて、前記送信方向における前記SiO2 被膜よりも後方には、前記送信部から送信された前記電磁波の反射を抑制する反射抑制層が形成されていることが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、電磁波センサの送信部から送信された電磁波が反射抑制層に照射された場合、反射されることを抑制される。この抑制の分、カバー本体部を通過する電磁波の量が多くなる。
【0020】
上記電磁波センサカバーにおいて、前記SiO2 被膜と前記反射抑制層との間には、前記送信部からの前記電磁波の透過性を有し、かつ前記ヒータ部を保護するとともに絶縁する保護膜が、樹脂材料により形成されていることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、保護膜はヒータ部を保護する。そのため、SiO2 被膜のみによってヒータ部を保護する場合に比べ、保護膜が加わる分、ヒータ部を保護する性能が高くなり、同ヒータ部27の耐久性が一層高められる。
【0022】
また、保護膜はヒータ部を絶縁する。そのため、SiO2 被膜のみによってヒータ部を絶縁する場合に比べ、保護膜が加わる分、ヒータ部の絶縁性能が一層高くなる。
【発明の効果】
【0023】
上記電磁波センサカバーによれば、空気中の水分がヒータ部に接触することに起因して融雪機能及び検出機能が低下するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態における近赤外線センサカバーによってカバーが構成された近赤外線センサの側断面図。
図2図1におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図。
図3】第2実施形態における近赤外線センサカバーを、近赤外線センサとともに示す側断面図。
図4図3におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、電磁波センサカバーを車両用の近赤外線センサカバーに具体化した第1実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0026】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、図1及び図2では、近赤外線センサカバーにおける各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。この点は、第2実施形態を示す図3及び図4についても同様である。
【0027】
図1に示すように、車両10の前端部には、前方監視用の近赤外線センサ11が設置されている。近赤外線センサ11は、900nm等の波長を有する近赤外線IRを車両10の前方へ向けて送信し、かつ先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された近赤外線IRを受信する。
【0028】
なお、上述したように、近赤外線センサ11が車両10の前方に向けて近赤外線IRを送信することから、近赤外線センサ11による近赤外線IRの送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。近赤外線IRの送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、近赤外線IRの送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0029】
近赤外線センサ11の外殻部分の後半部はケース12によって構成され、前半部分はカバー17によって構成されている。ケース12は、筒状をなす周壁部13と、周壁部13の後端部に形成された底壁部14とを備えている。ケース12の全体は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料によって形成されている。ケース12内であって、底壁部14よりも前方には、近赤外線IRを送信する送信部15と、近赤外線IRを受信する受信部16とが配置されている。
【0030】
近赤外線センサ11におけるカバー17は、近赤外線センサカバー21によって構成されている。近赤外線センサカバー21は、筒状をなす周壁部22と、周壁部22の前端部に形成された板状のカバー本体部23とを備えている。
【0031】
カバー本体部23は、上記ケース12の前端部を塞ぐ大きさに形成されている。カバー本体部23は、送信部15及び受信部16を前方から覆っている。
図2に示すように、カバー本体部23の骨格部分は、基材24によって構成されている。基材24は、近赤外線IRの透過性を有する透明な樹脂材料によって形成されている。ここでの透明には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。基材24はPC(ポリカーボネート)によって形成されている。基材24は、そのほかにも、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等によって形成されてもよい。
【0032】
基材24の前面には、近赤外線IRの透過性を有するとともに、基材24よりも高い硬度を有するハードコート層25が積層されている。ハードコート層25は、基材24の前面に公知の表面処理剤を塗布することにより形成されている。表面処理剤としては、例えば、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤、無機系ハードコート剤、有機無機ハイブリッド系ハードコート剤等が挙げられる。また、ハードコート剤として、紫外線(UV)の照射によって硬化されるタイプが用いられてもよいし、熱が加えられることによって硬化されるタイプが用いられてもよい。
【0033】
基材24の後面には、アンダーコート層26を介してヒータ部27が形成されている。アンダーコート層26は、ヒータ部27の基材24に対する密着性を高めるための層であり、上記ハードコート層25と同様の材料によって形成されている。
【0034】
ヒータ部27は、銅により帯状に形成されており、通電により発熱する。ヒータ部27は、銅をアンダーコート層26に対し、スパッタリングすることによって形成されている。ヒータ部27は、所定のパターンで、例えば、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う直線部の端部同士を連結する複数の連結部とを備える配線パターンで配線されている。
【0035】
ヒータ部27の後面及び側面には、SiO2 (二酸化ケイ素)からなる被膜(SiO2 被膜31)が形成されている。このSiO2 被膜31により、ヒータ部27が覆われている。第1実施形態では、ヒータ部27に加え、アンダーコート層26のうち、ヒータ部27が形成されていない領域もまた後方からSiO2 被膜31によって覆われている。SiO2 被膜31は、アクリル、ウレタン系等の塗膜からなる従来の保護膜に比べ、バリヤ性が高いという特徴を有している。SiO2 被膜31は、50nm以上の膜厚を有している。
【0036】
SiO2 被膜31の後面には、透明な薄膜からなる反射抑制層(ARコートとも呼ばれる)32が形成されている。反射抑制層32は、例えば、MgF2 (フッ化マグネシウム)等の誘電体が用いられて、真空蒸着、スパッタリング、WETコーティング等が行なわれることによって形成されている。
【0037】
なお、反射抑制層32は単層の薄膜によって構成されてもよいし、多層の薄膜によって構成されてもよい。後者の場合、多数の薄膜として、屈折率や厚みが互いに異なるものが用いられてもよい。このようにすると、広範囲での波長について、近赤外線IRの反射を低減することができる。
【0038】
また、反射抑制層32として、TiO2 (二酸化チタン)、SiO2 等の金属酸化物を積層したものが用いられてもよい。
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
【0039】
近赤外線センサ11が設置された車両10において、送信部15から近赤外線IRが送信されると、その近赤外線IRは、カバー本体部23の後面に照射される。この際、照射された近赤外線IRが、カバー本体部23の後面で反射されることは、反射抑制層32によって抑制される。
【0040】
反射抑制層32を透過した近赤外線IRは、SiO2 被膜31、アンダーコート層26、基材24及びハードコート層25を順に透過する。上記のようにして、カバー本体部23を透過した近赤外線IRは、先行車両、歩行者等を含む物体に当たって反射される。反射された近赤外線IRは、再びカバー本体部23におけるハードコート層25、基材24、アンダーコート層26、SiO2 被膜31及び反射抑制層32を順に透過する。カバー本体部23を透過した近赤外線IRは、受信部16によって受信される。近赤外線センサ11では、送信した近赤外線IRと受信した近赤外線IRとに基づき、上記物体が認識されるとともに、車両10と同物体との距離、相対速度等が検出される。
【0041】
上述したように、反射抑制層32で近赤外線IRの反射が抑制される分、カバー本体部23を透過する近赤外線IRの量が多くなる。カバー本体部23は、近赤外線IRの透過の妨げとなりにくい。近赤外線IRのうち、カバー本体部23によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。そのため、近赤外線センサ11は、上記認識機能及び検出機能を発揮しやすい。
【0042】
ここで、基材24が、ヒータ部27よりもSP値(溶解度パラメータ)の高いPCによって形成されている。PCとヒータ部27とは相溶しにくく、両者の密着性が低い。
しかし、第1実施形態では、基材24とヒータ部27との間にアンダーコート層26が形成されている。そのため、このアンダーコート層26により、ヒータ部27の基材24に対する密着性が高められる。ヒータ部27が基材24に直接接触した状態で形成される場合よりも、ヒータ部27を基材24に密着させ、基材24からのヒータ部27の剥離を抑制できる。
【0043】
また、ヒータ部27を覆うSiO2 被膜31は、ヒータ部27を保護し、同ヒータ部27が他部材との接触により傷付くのを抑制する。そのため、SiO2 被膜31による保護がない場合に比べ、ヒータ部27の耐久性を高めることができる。
【0044】
また、SiO2 被膜31は、ヒータ部27を絶縁し、ヒータ部27と他部材との間で電流が流れるのを遮断する。
さらに、近赤外線センサカバー21では、ハードコート層25が、カバー本体部23の耐衝撃性を高める。従って、カバー本体部23の前面に飛び石等により傷が付くのをハードコート層25によって抑制できる。また、ハードコート層25は、カバー本体部23の耐候性を高める。従って、太陽光、風雨、温度変化等が原因で、カバー本体部23が変質したり劣化したりするのをハードコート層25によって抑制できる。
【0045】
一方、ヒータ部27は、通電されると発熱する。この熱の一部は、カバー本体部23の前面に伝達される。そのため、カバー本体部23の前面に雪が付着しても、その雪は、ヒータ部27から伝わる熱によって溶かされる。降雪時でも近赤外線センサ11に、上記認識機能及び検出機能を発揮させることができる。
【0046】
ところで、上記SiO2 被膜31は、従来の樹脂製の保護膜よりも高いバリヤ性を有している。空気中の水分は、SiO2 被膜31を透湿しにくい。水分は、ヒータ部27を形成している銅に接触しにくい。従って、銅が、水分との接触により、イオン化して酸化する現象(銅の腐食)が起こりにくい。その結果、ヒータ部27の電気抵抗値、ひいては融雪機能が、銅の腐食により影響を受けるのを抑制できる。
【0047】
水分が銅に付着するのを抑制する上記効果は、少なくともヒータ部27をSiO2 被膜31によって覆うことによって得ることができる。第1実施形態では、アンダーコート層26のうちヒータ部27が形成されていない領域もSiO2 被膜31による被覆の対象とされている。ヒータ部27のみが被覆の対象とされる場合に比べ、空気中の水分がヒータ部27に一層接触しにくくなる。そのため、ヒータ部27のみが被覆の対象とされる場合に比べ、銅の腐食及び銅害をより一層抑制できる。
【0048】
上記のように銅の腐食抑制が、金属酸化物であるSiO2 によって形成されている。SiO2 被膜31では、樹脂製の保護膜とは異なり、銅イオンが樹脂中に拡散し、原子間の結合を切断することで樹脂の酸化劣化を進行させる現象(銅害)が起こらない。従って、SiO2 被膜31のヒータ部27等に対する密着力が低下して剥離する現象が起こりにくい。剥離した箇所に空気が入り込み、近赤外線IRの透過性、ひいては近赤外線センサ11の検出性能が影響を受けるのを抑制できる。
【0049】
(第2実施形態)
次に、電磁波センサカバーを近赤外線センサカバーに具体化した第2実施形態について、図3及び図4を参照して説明する。
【0050】
第2実施形態では、図3に示すように、近赤外線センサカバー41が近赤外線センサ11とは別に設けられている。より詳しくは、近赤外線センサ11は、送信部15及び受信部16が組み付けられたケース12と、ケース12よりも前方に配置されて、送信部15及び受信部16を前方から覆うカバー18とによって構成されている。カバー18は、例えば、PC、PMMA、COP、樹脂ガラス等によって形成されており、近赤外線の透過性を有している。
【0051】
近赤外線センサカバー41は、板状のカバー本体部43と、カバー本体部43の後面から後方へ突出する取付け部44とを備えている。カバー本体部43は、カバー18よりも前方に位置しており、送信部15及び受信部16を、前方からカバー18を介して間接的に覆っている。近赤外線センサカバー41は、取付け部44において車両10に固定されている。
【0052】
近赤外線センサカバー41は、第1実施形態における近赤外線センサ11のカバー17と同様、送信部15及び受信部16を前方から覆う機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
【0053】
そのために、第2実施形態の近赤外線センサカバー41は、図4に示すように第1実施形態と同様に、ハードコート層25、基材24、アンダーコート層26、ヒータ部27、SiO2 被膜31及び反射抑制層32を備えている。
【0054】
近赤外線センサカバー41の構成は、以下の点で上記近赤外線センサカバー21の構成と異なっている。
・基材24が、その前部を構成する前基材45と、後部を構成する後基材46とに分割されている。
【0055】
・前基材45及び後基材46の間に加飾層47が設けられている。
・SiO2 被膜31と反射抑制層32との間に、近赤外線IRの透過性を有し、かつヒータ部27を保護するとともに絶縁する保護膜33が樹脂材料によって形成されている。
【0056】
前基材45及び後基材46は、第1実施形態における基材24と同様の樹脂材料によって形成されており、近赤外線IRの透過性を有している。前基材45の後面は凹凸形状をなしている。後基材46の前面は、後基材46の後面に対応した形状である凸凹状に形成されている。
【0057】
加飾層47は、近赤外線センサカバー41を装飾するための層である。加飾層47は、近赤外線IRの透過率が高く、かつ可視光の透過率が低い材料によって形成されている。例えば、加飾層47は、黒色、青色等の濃色を有する有色加飾層によって構成されてもよい。また、加飾層47は、インジウム(In)等の金属材料からなり、金属光沢を有する光輝加飾層によって構成されてもよい。さらに、加飾層47は、上記有色加飾層と光輝加飾層との組み合わせによって構成されてもよい。加飾層47は、前基材45の後面と、後基材46の前面とに対応した形状に形成されていて、凹凸状をなしている。
【0058】
保護膜33は、アクリル、ウレタン系等の塗料をSiO2 被膜31の後面の全面に塗布し、これに紫外線を照射して、又は熱を加えて硬化させることにより形成されている。
上記以外の構成は、第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0059】
第2実施形態では、送信部15から近赤外線IRが送信されると、その近赤外線IRが、カバー本体部43における反射抑制層32、保護膜33、SiO2 被膜31、アンダーコート層26、後基材46、加飾層47、前基材45及びハードコート層25を順に透過する。
【0060】
車外の物体に当たって反射された近赤外線IRは、再びカバー本体部43におけるハードコート層25、前基材45、加飾層47、後基材46、アンダーコート層26、SiO2 被膜31、保護膜33及び反射抑制層32を順に透過する。カバー本体部43を透過した近赤外線IRは受信部16によって受信される。
【0061】
従って、第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。そのほかにも第2実施形態では、次の作用及び効果が得られる。
・カバー本体部43に対し前方から可視光が照射されると、その可視光はハードコート層25及び前基材45を透過し、加飾層47で反射される。車両前方から近赤外線センサカバー41を見ると、ハードコート層25及び前基材45を通して、その前基材45の後方に加飾層47が位置するように見える。このように、加飾層47によって近赤外線センサカバー41が装飾され、同近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0062】
特に、加飾層47は、前基材45の後面の形状と、後基材46の前面の形状とに対応するように、凹凸状に形成されている。そのため、車両10の前方からは、加飾層47が立体的に見える。近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えがさらに向上する。
【0063】
・可視光の加飾層47での上記反射は、近赤外線センサ11よりも前方で行われる。加飾層47は、近赤外線センサ11を覆い隠す機能を発揮する。そのため、近赤外線センサカバー41よりも前方からは、近赤外線センサ11が見えにくい。従って、近赤外線センサ11が近赤外線センサカバー41を通して透けて見える場合に比べて意匠性が向上する。
【0064】
・樹脂製の保護膜33を追加したことにより、次の効果が得られる。
保護膜33はヒータ部27を保護する。そのため、SiO2 被膜31のみによってヒータ部27を保護する場合に比べ、保護膜33が加わる分、ヒータ部27を保護する性能が高くなり、同ヒータ部27の耐久性を一層高めることができる。
【0065】
また、保護膜33はヒータ部27を絶縁する。そのため、SiO2 被膜31のみによってヒータ部27を絶縁する場合に比べ、保護膜33が加わる分、ヒータ部27の絶縁性能を一層高めることができる。
【0066】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0067】
<カバー本体部23,43について>
・SiO2 被膜31は、少なくともヒータ部27を覆うものであればよい。従って、アンダーコート層26のうち、ヒータ部27が形成されていない領域におけるSiO2 被膜31の形成が省略されてもよい。
【0068】
・ハードコート層25は、基材24よりも高い硬度を有するハードコートフィルムによって構成されてもよい。ハードコートフィルムとしては、PC、PMMA等の透明な樹脂材料からなるフィルム基材上に、上記表面処理剤を塗布することにより形成されたものを用いることができる。
【0069】
・近赤外線センサ11のカバー17として機能する第1実施形態の近赤外線センサカバー21における基材の構成が、近赤外線センサ11とは別に設けられる第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成に適用されてもよい。また、第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成が、第1実施形態の近赤外線センサカバー21における基材の構成に適用されてもよい。
【0070】
・第2実施形態における保護膜33が省略されてもよい。また、第1実施形態において、SiO2 被膜31と反射抑制層32との間に、第2実施形態と同様の樹脂製の保護膜33が形成されてもよい。
【0071】
・カバー本体部23,43におけるハードコート層25及び反射抑制層32の少なくとも一方は、適宜省略可能である。
・第2実施形態における後基材46に可視光カット顔料が配合されてもよい。また、加飾層47の後面に黒押さえ塗膜が形成される場合には、その黒押さえ塗膜に可視光カット顔料が配合されてもよい。
【0072】
<電磁波センサカバーの適用対象について>
・送信部15及び受信部16が近赤外線センサカバー21,41によって覆われる近赤外線センサ11としては、900nmの波長以外に、例えば1550nmの波長の近赤外線IRを送信及び受信するものであってもよい。
【0073】
・第2実施形態において、後基材46に代えて押さえ塗膜が設けられてもよい。
・電磁波センサカバーは、電磁波センサの送信部及び受信部を、同送信部からの電磁波の送信方向における前側から覆うカバー本体部を備えるものであれば、電磁波センサの種類に拘わらず適用可能である。電磁波センサは、電磁波として近赤外線に代えて、例えばミリ波を送信及び受信するものであってもよい。
【0074】
・電磁波センサカバーは、電磁波センサが車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に設置された場合にも適用可能である。この場合、電磁波センサは、車両10の後方に向けて電磁波を送信する。電磁波センサカバーは、電磁波の送信方向における送信部15及び受信部16の前方、すなわち、送信部15及び受信部16に対し車両10の後方となる箇所に配置される。
【0075】
同様に、上記電磁波センサカバーは、電磁波センサが車両10の斜め前側部や斜め後側部に設置された場合にも適用可能である。
・電磁波センサカバーは、電磁波センサが、車両10とは異なる種類の乗物、例えば、電車、航空機、船舶等の乗物に搭載された場合にも適用可能である。
【0076】
・第2実施形態の近赤外線センサカバー41は、エンブレム、オーナメント、マーク等、車両10を装飾する機能を有する車両用外装品に具体化されてもよい。
【符号の説明】
【0077】
11…近赤外線センサ(電磁波センサ)
15…送信部
16…受信部
21,41…近赤外線センサカバー(電磁波センサカバー)
23,43…カバー本体部
24…基材
26…アンダーコート層
27…ヒータ部
31…SiO2 被膜
32…反射抑制層
33…保護膜
45…前基材(基材)
46…後基材(基材)
IR…近赤外線(電磁波)
図1
図2
図3
図4