(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両用制動システム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20231129BHJP
B60T 8/26 20060101ALI20231129BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20231129BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/26 H
B60T8/1755 C
B60L7/24 D
(21)【出願番号】P 2021064587
(22)【出願日】2021-04-06
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深沢 司
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 直樹
(72)【発明者】
【氏名】竹田 倫彦
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059296(JP,A)
【文献】特開2006-246614(JP,A)
【文献】特開2019-137203(JP,A)
【文献】特開2000-062590(JP,A)
【文献】特開2019-064556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60T 7/12-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪と後輪とのいずれか一方に回生制動力を付与する回生制動装置と、
前記前輪と前記後輪との各々にそれぞれ摩擦制動力を加える摩擦制動装置と、
前記回生制動装置と前記摩擦制動装置との少なくとも一方を制御することにより、前記車両に加えられる制動力を制御する回生協調制御装置と
を含む車両用制動システムであって、
前記回生協調制御装置が、前記回生制動力が許容回生制動力に達した後に、前記摩擦制動装置の制御により、前記一方に加えられる摩擦制動力を増加させることなく前記前輪と後輪との他方に加えられる摩擦制動力を、前記回生制動力で決まる実制動力配分線上の制動力より小さい第1摩擦制動力まで増加させ、その後、前記一方に加えられる摩擦制動力と前記他方に加えられる摩擦制動力とを増加させて、前記実制動力配分線に近づけるものである車両用制動システム。
【請求項2】
前記実制動力配分線が、前記一方に加えられる制動力に対する前記他方に加えられる制動力の比率が第1設定値である線であり、
前記回生協調制御装置が、前記第1摩擦制動力を、前記回生制動力に前記第1設定値より小さい第2設定値を掛けた値に決定するものある請求項1に記載の車両用制動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生制動装置を備えた車両用制動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前輪に回生制動力を付与可能な回生制動装置を備えた車両用制動システムが記載されている。本車両用制動システムにおいて、前輪の回生制動力が出力可能な回生制動力である許容回生制動力に達した後に、後輪の摩擦制動力が、実制動力配分線(基準特性)に達するまで増加させられ、その後、基準特性に沿って、前輪の摩擦制動力と後輪の摩擦制動力とが増加させられる(特許文献1の段落[0075]、[0076]、
図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、車両用制動システムを備えた車体の前後方向の姿勢の変化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両用制動システムにおいては、前輪側と後輪側との一方の側に加えられる回生制動力が許容回生制動力に達した後に、他方の側の摩擦制動力が、実制動力配分線に達する制動力より小さい制動力まで増加させられ、その後、一方の側の摩擦制動力と他方の側の摩擦制動力とが実制動力配分線に近づくように増加させられる。それにより、特許文献1に記載の場合に比較して、車体の前後方向の姿勢の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明に係る車両用制動システムの全体を概念的に示す図である。
【
図2】上記車両用制動システムの摩擦ブレーキ装置を概念的に示す図である。
【
図3】上記車両用制動システムのブレーキECUの記憶部に記憶されたブレーキ力制御プログラムを表すフローチャートである。
【
図4】(a)上記車両用制動システムを搭載した車両の姿勢の変化を示す図である。(b)上記車両用制動システムにおける前後制動力配分線を示す図である。
【
図5】(a)従来の車両用制動システムを搭載した車両の姿勢の変化を示す図である。(b)従来の車両用制動システムにおける前後制動力配分線を示す図である。
【発明の実施形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態である車両用制動システムについて図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0008】
本車両用制動システムが搭載された車両について説明する。
本車両はハイブリッド車両である。ハイブリッド車両において、駆動輪としての左右前輪2FL,2FRは、駆動用の電動モータである駆動用モータ6とエンジン8とを含む駆動装置10によって駆動される。駆動装置10の駆動力はドライブシャフト12,14を介して左右前輪2FL,2FRに伝達される。駆動装置10には、駆動用モータ6、エンジン8に加えて、バッテリ20,モータジェネレータ22,電力変換装置24,動力分割機構26等を含む。動力分割機構26には、駆動用モータ6、モータジェネレータ22、エンジン8が連結され、これらの制御により、出力部材28に駆動用モータ6の駆動トルクと駆動用モータ6の駆動トルクとの少なくとも一方が伝達される。出力部材28に伝達された駆動力は、減速機、差動装置を介してドライブシャフト12,14に伝達される。
【0009】
電力変換装置24はインバータ等を含むものである。電力変換装置24における電流制御により、少なくとも、駆動用モータ6にバッテリ20から電気エネルギが供給されて回転させられる回転駆動状態と、回生制動により発電器として機能することによりバッテリ20に電気エネルギを充電する充電状態とに切り換えられる。充電状態においては、左右前輪2,4に回生制動トルクが加えられる。本実施例において、電力変換装置24、駆動用モータ6、バッテリ20等により回生制動装置30が構成される。電力変換装置24は、コンピュータを主体とするハイブリッドECU34によって制御される。
【0010】
摩擦制動装置としての液圧制動装置36は、
図2に示すように、左右前輪2FL,2Frに設けられた液圧ブレーキ40FL,40FRのブレーキシリンダ42FL,42FR、左右後輪44RL,44RR(
図2等に参照)に設けられた液圧ブレーキ50RL,50RRのブレーキシリンダ52RL,52RR、動力式液圧源54、マニュアル式液圧源としてのマスタシリンダ56、ブレーキシリンダ42FL,42FR,52RL,52RRの液圧を制御可能な液圧制御アクチュエータ58等を含む。
以下、車輪位置を表す符号FL,FR,RL,RRは、車輪位置を特定する必要がない場合、総称する場合には省略する。
【0011】
マスタシリンダ56は、2つの加圧ピストン62a、62bを備えたタンデム式のものである。2つの加圧ピストンの一方である加圧ピストン62bには、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル60が連携させられ、ブレーキペダル60の操作により、加圧ピストン62a、62bの各々の前方の加圧室にそれぞれ液圧が発生させられる。加圧ピストン62a、62bが後退端位置にある場合には、加圧室はマスタリザーバ63に連通させられる。
また、マスタシリンダ56の加圧室には、それぞれ、マスタ通路64a、64bを介して左右前輪2FL,2FRのホイールシリンダ42FL,42FRに接続される。マスタ通路64a、64bには、それぞれ、常開の電磁開閉弁であるマスタ遮断弁66a、66bが設けられる。マスタ通路64a,64bには、また、マスタシリンダ圧センサ68a,68bが設けられる。
【0012】
動力式液圧源54は、ポンプ70と、ポンプモータ72とを備えたポンプ装置とアキュムレータ74とを含む。ポンプ70は、マスタリザーバ63の作動液を汲み上げて吐出するものであり、吐出した作動液は、アキュムレータ74に蓄えられる。アキュムレータ74に蓄えられた作動液の液圧であるアキュムレータ圧は、アキュムレータ圧センサ76によって検出される。ポンプモータ72は、アキュムレータ圧センサ76の検出値であるアキュムレータ圧が設定範囲内に保たれるように制御される。動力式液圧源54は共通通路92に接続される。
【0013】
一方、左右前輪2FL,2FRのブレーキシリンダ42FL,42FR、左右後輪44RL,44RRのブレーキシリンダ52RL,52RRは、それぞれ、個別通路90FL,90FR,90RL,90RRを介して共通通路92に接続される。
個別通路90FL,90FR,90RL,90RRには、それぞれ、保持弁94FL,94FR,94RL,94RRが設けられ、ブレーキシリンダ42FL,42FR,52RL,52RRとマスタリザーバ63との間には、それぞれ、減圧弁96FL,96FR,98RL,98RRが設けられる。
【0014】
保持弁94は、常閉の電磁リニア弁であり、左右前輪2FL,2FRのブレーキシリンダ42FL,42FRに対して設けられた減圧弁96は常閉の電磁リニア弁であり、左右後輪44RL,44RRのブレーキシリンダ52RL,52RRに対して設けられた減圧弁98は常開の電磁リニア弁である。
これら保持弁94、減圧弁96,98は、ソレノイドへの供給電流の連続的な制御により、差圧を制御し、それにより、ホイールシリンダ42,52の各々の液圧を個別に制御可能とされる。
本実施例において、マスタ遮断弁66a,66b、保持弁94、減圧弁96,98等により液圧制御アクチュエータ58が構成される。
【0015】
共通通路92には、各個別通路90が接続されるとともに、動力式液圧源54が接続される。動力式液圧源54の液圧は、保持弁94によって制御されて、ホイールシリンダ42,52に供給される。
【0016】
なお、上述のマスタ通路64a、64bは、それぞれ、個別通路90FL,90FRの保持弁94FL、94FRの下流側に接続される。
また、マスタ通路64aには、ストロークシミュレータ110がシミュレータ制御弁112を介して接続される。シミュレータ制御弁112は常閉の電磁開閉弁である。
【0017】
さらに、動力式液圧源54とマスタリザーバ63との間には、開放弁114が設けられ、動力式液圧源54の液圧が過大になることが防止される。
【0018】
液圧制動装置36は、コンピュータを主体とするブレーキECU120によって制御される。
ブレーキECU120の入出力部には、マスタシリンダ圧センサ68a、68b、アキュムレータ圧センサ74に加えて、ブレーキペダル60のストロークを検出するストロークセンサ122、ブレーキペダル60が操作されたことを検出するブレーキスイッチ123、左右前輪2、左右後輪44の各々に設けられたホイールシリンダ42,52の液圧をそれぞれ個別に検出するホイールシリンダ圧センサ124、左右前輪2、左右後輪44の各々に設けられ、それぞれ、車輪の回転速度を検出する車輪速度センサ126等が接続されるとともに、液圧制御アクチュエータ58、動力式液圧源54等が接続される。
また、ブレーキECU120とハイブリッドECU34とは、互いに通信可能とされている。
【0019】
以上のように構成された車両用制動システムにおいて、制動要求が出された場合には回生協調制御が行われる。
ブレーキスイッチ123がONになった場合、または、図示しないカメラやレーダ等により本車両用制動システムが搭載された車両Vhである自車両の周辺の物体が検出され、自車両と周辺物体との相対位置関係に基づいてブレーキを作動させる必要があると検出された場合、車輪2,44の駆動スリップが過大になった場合等には、制動要求が出される。
【0020】
ブレーキECU120において、要求総制動力FSが取得される。要求総制動力FSは、ストロークセンサ122,マスタシリンダ圧センサ68a,68bの検出値等に基づいて取得される場合、自車両と周辺の物体との相対位置関係に基づいて取得される場合、駆動スリップ等に基づいて取得される場合等がある。
【0021】
ハイブリッドECU34において、駆動用モータ6の回転数等やバッテリ20の充電量等に基づいて取得されたその時点において許容される回生制動力の値(許容回生制動力Fdz)が取得され、ブレーキECU120に供給される。ブレーキECU120において、許容回生制動力Fdzと要求総制動力FSとが比較され、許容回生制動力Fdzが要求総制動力FS以上である場合には、要求総制動力FSが要求回生制動力Fdtとされて、ハイブリッドECU34に供給される。回生制動装置30において、電力変換装置24に流れる電流等に基づいて取得される実際に出力された回生制動力である実回生制動力Fdxが要求回生制動力Fdtに近づくように、電力変換装置24が制御される。許容回生制動力Fdzが要求総制動力FS以上である間、実回生制動力Fdxが増加させられる。実回生制動力Fdxは、ブレーキECU120に供給される。
【0022】
それに対して、要求総制動力FSが許容回生制動力Fdzより大きくなると、要求総制動力FSから許容回生制動力Fdzまたは実回生制動力Fdxを引いた値に基づいて要求摩擦制動力Fptが決定され、液圧制動力としての摩擦制動力が加えられる。液圧制動装置36においては、前輪2の液圧ブレーキ40の液圧と後輪44の液圧ブレーキ50の液圧とが、それぞれ、マスタ遮断弁66a、66bの閉状態において、動力式液圧源54の液圧を利用して、保持弁94、減圧弁96,98の制御により制御される。ホイールシリンダ圧センサ124によって検出されたホイールシリンダ42,52の実際の液圧である実液圧が、要求摩擦制動力Fptに対応する要求液圧に近づけられ、実液圧に対応する実摩擦制動力が要求摩擦制動力Fptに近づけられる。
【0023】
要求総制動力FSが許容回生制動力Fdzより大きくなった場合において、回生制動装置30において、実回生制動力Fdxが許容回生制動力Fdzに近づくように制御される場合には、許容回生制動力Fdzと実回生制動力Fdxとはほぼ同じであると考えることができる。その場合には、要求摩擦制動力Fptは、要求総制動力FSから許容回生制動力Fdzを引いた値に基づいて取得されても、要求総制動力FSから実回生制動力Fdxを引いた値に基づいて取得されてもよい。それに対して、要求総制動力FSが許容回生制動力Fdzより大きくなった場合において、実回生制動力Fdxと許容回生制動力Fdzとがほぼ同じであるとは限らない場合には、要求総制動力FSから実回生制動力Fdxを引いた値に基づいて要求摩擦制動力Fptが取得されるようにすることが望ましい。
【0024】
図4,5において、実線が理想制動力配分線を示し、破線が実制動力配分線を示す。理想制動力配分線とは、前輪と後輪とが同時にロックする場合の、前輪に加えられる制動力である前輪制動力FFr(本実施例においては、回生制動力と摩擦制動力との和)と後輪に加えられる制動力である後輪制動力FRr(本実施例においては、摩擦制動力)との配分比を表すものである。実制動力配分線とは、例えば、車両において設計された前輪制動力と後輪制動力との配分比を表すものであり、理想制動力配分線より後輪制動力が小さい領域に設定される。なお、実制動力配分線は、車両において設計された前輪液圧制動力と後輪液圧制動力との配分比をいうことが多い。また、実制動力配分線の勾配、すなわち、前輪制動力FFrに対する後輪制動力FRrの比率(本実施例においては、前輪制動力の変化量ΔFFrに対する後輪制動力の変化量ΔFRrの比率に同じ)は、設定値βとされることが多い。
FRr/FFr=β
ΔFRr/ΔFFr=β
【0025】
従来の車両用制動システムにおいては、
図5(b)に示すように、(1)要求総制動力FSが許容回生制動力Fdz以下である間、前輪摩擦制動力Fpf、後輪摩擦制動力Fprは0で、回生制動力Fdが増加させられ、前輪制動力FFrが増加させられる(初期)。(2)回生制動力Fdが許容回生制動力Fdzに達すると、実制動力配分線に達するまで、後輪摩擦制動力Fprが増加させられる。後輪摩擦制動力Fprは、実回生制動力Fdxに比率βを掛けた値β*Fdxまで増加させられる(中期)。(3)その後、前輪制動力FFr(Fpf+Fdz)と後輪摩擦制動力FRr(=Fpr)とが実制動力配分線に沿って増加させられる(後期)。
【0026】
従来の車両用制動システムが搭載された車両Vh´は、
図5(a)に示すように、(1)初期において、前輪制動力FFrの増加によりノーズダイブ姿勢となり、(2)中期において、後輪制動力FRrの増加により、大きなスクワット姿勢となる。また、それに起因して、ノーズダイブ姿勢となる。このように、従来の車両用制動システムにおいては、要求総制動力が回生制動力によって充たされる状態から、要求総制動力が回生制動力と摩擦制動力とにより充たされる状態に変わる場合の、車両Vh´の(車体の)前後方向の姿勢の変化が大きくなるという問題があった。
【0027】
そこで、本実施例においては、回生協調制御において、車両の前後方向の姿勢の変化を抑制するために、(2)中期において、後輪摩擦制動力の増加量を従来の場合に比較して小さくし、その後、前輪摩擦制動力と後輪摩擦制動力との両方を緩やかな勾配で増加させて、前輪制動力FFrと、後輪制動力FRrとを実制動力配分線に近づけるようにした。
【0028】
ブレーキECU120においては、
図3のフローチャートで表される回生協調制御プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップにおいても同様とする)において、制動要求があるか否かが判定される。判定がYESである場合には、S2において、要求総制動力FSが取得され、S3において、要求総制動力FSが増加傾向にあるか否かが判定される。判定がYESである場合には、S4以降が実行される。S4以降は、要求総制動力FSが増加している場合に実行されるのである。
【0029】
S4において、許容回生制動力Fdzが取得され、S5において、許容回生制動力Fdzが要求総制動力FSより小さいか否かが判定される。判定がNOである場合には、要求総制動力FSが回生制動力Fdにより充たされるため摩擦制動力を加える必要性は低い。そのため、S6において、要求摩擦制動力Fptが0とされ、要求回生制動力Fdtが要求総制動力FSとされる。以下、S1~6の実行により、回生制動力Fdが増加し、前輪制動力FFrが増加する。
【0030】
それに対して、S5の判定がYESとなると、S7において、実回生制動力Fdxが取得され、要求総制動力FSから実回生制動力Fdxを引いた値に基づいて要求摩擦制動力Fptが取得され、実回生制動力Fdxに比率γを掛けた値である第1摩擦制動力(γ*Fdx)が取得される。比率γは、
図4,5の破線が示す実制動力配分線の勾配(前輪制動力FFrに対する後輪制動力FRrの比率、FRr/FFr)βより小さい値である(γ<β)。そして、S8において、要求摩擦制動力Fptが第1摩擦制動力(γ*Fdx)より小さいか否かが判定される。
【0031】
S8の判定がYESである場合には、S9において、要求前輪摩擦制動力Fpftが0とされ、要求後輪摩擦制動力Fprtが要求摩擦制動力Fptとされる。前輪摩擦制動力が増加させられることなく、実後輪摩擦制動力Fprxが増加させられることにより、要求摩擦制動力Fptに近づけられ、第1摩擦制動力(γ*Fdx)に近づけられる。後輪制動力を先に大きくすることにより、早期に前輪がロックし難くするためである。
【0032】
要求摩擦制動力Fptが第1摩擦制動力(γ*Fdx)に達し、実後輪摩擦制動力Fprxが第1摩擦制動力(γ*Fdx)に達すると、S8の判定がNOとなる。実後輪摩擦制動力Fprxは、
図4(b)の実線2pに示すように、実制動力配分線上の値(β*Fdx)より小さい値(γ*Fdx)まで増加させられる。
【0033】
次に、S10において、前輪制動力FFrに対する後輪制動力FRrの比率(FRr/FFr)がβより小さいか否かが判定される。前輪制動力FFr、後輪制動力FRrが、実制動力配分線より後輪制動力FRrが小さい領域にある場合には、比率(FRr/FFr)はβより小さくなる。すなわち、S10において、前輪制動力FFr、後輪制動力FRrが、実制動力配分線より後輪制動力が小さい領域にあるか否かが判定されるのである。
【0034】
S10が最初に実行される場合には、判定はYESとなり、S11において、要求前輪摩擦制動力Fpft,要求後輪摩擦制動力Fprtが、これらの増加量ΔFpft,ΔFprtの比率(ΔFprt/ΔFpft)が比率(勾配)εとなり、かつ、これら要求前輪摩擦制動力Fpft,要求後輪摩擦制動力Fprtの和が要求摩擦制動力Fptとなる大きさに決定される。実前輪摩擦制動力Fpfx,実後輪摩擦制動力Fprxは、それぞれ、要求前輪摩擦制動力Fpft、要求後輪摩擦制動力Fprtに近づけられ、
図4(b)の実線2qに示すように、増加させられる。
【0035】
本実施例において、
図4(b)が示すように、比率εは比率βより大きいが、例えば、一点鎖線が示す直線rの勾配αより小さい値とすることができる。比率εは、前輪制動力FFr、後輪制動力FRrが実制動力配分線に近づき、かつ、車体のピッチレイトを抑制し得る値に設定される。
また、前輪摩擦制動力の増加量は0より大きい。そのため、従来の車両用制動システムにおける場合のように、前輪摩擦制動力が0に保持された状態で後輪摩擦制動力が実制動力配分線に達するまで増加させられる場合に比較して、前輪制動力FFr、後輪制動力FRrが、実制動力配分線に緩やかに近づけられる。
【0036】
そのうちに、前輪制動力FFr、後輪制動力FRrが実制動力配分線に達すると、S10の判定がNOとなり、S12において、要求前輪摩擦制動力Fpft,要求後輪摩擦制動力Fprtが、これらの増加量ΔFprt、ΔFpftの比率(ΔFprt/ΔFpft)がβとなり、かつ、これら要求前輪摩擦制動力Fpft,要求後輪摩擦制動力Fprtの和が要求摩擦制動力Fptとなるように、要求前輪摩擦制動力Fpft,要求後輪摩擦制動力Fprが決定される。実前輪摩擦制動力Fpfx,実後輪摩擦制動力Fprxは、それぞれ、要求前輪摩擦制動力Fpft、要求後輪摩擦制動力Fprtに近づけられる。それにより、前輪制動力FFr、後輪制動力FRrが実制動力配分線に沿って増加する。
【0037】
以上のように、本実施例においては、
図4(b)に示すように、(1)実回生制動力Fdxが許容回生制動力Fdzに達した後に、(2)後輪摩擦制動力Fprが、実線2pに示すように、実制動力配分線上の値より小さい値(γ*Fdx)まで増加させられる。その後、実線2qが示すように、前輪摩擦制動力Fpfと後輪摩擦制動力Fprとが、予め定められた勾配εで増加させられ、実制動力配分線に近づけられる。その結果、
図4(a)に示すように、本車両用ブレーキシステムが搭載された車両Vhは、(1)ノーズダイブ姿勢になった後に、(2)スクワット姿勢になるが、後輪摩擦制動力Fprの増加に起因する車体の傾きを小さくすることができ、その後の傾きが緩やかになる。それにより、要求総制動力FSが回生制動力Fdによって充たされる状態から、要求総制動力FSが回生制動力Fdと摩擦制動力Fpとにより充たされる状態に変わる場合の、車両Vhの前後方向の姿勢の変化を抑制することができる。
【0038】
以上のように、ブレーキECU120、ハイブリッドECU34の
図3のフローチャートで表される回生協調制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により回生協調制御装置が構成される。また、第1設定値がβに対応し、第2設定値がγに対応し、第3設定値がαに対応する。なお、第1摩擦制動力は、γ*Fdzとすることもできる。
【0039】
なお、本車両用制動システムは、ハイブリッド車両に限らず、プラグインハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車両等に搭載することもできる。
また、ハイブリッドECU34とブレーキECU120とを別個に設けることは不可欠ではなく、1つのECUとすることができる。
さらに、摩擦制動装置の構造は問わない。液圧ブレーキに代えて電動ブレーキを備えたものとすることもできる。いずれにしても、少なくとも前輪側と後輪側とで、個別に摩擦ブレーキ力の制御が可能であればどのような構成のものであってもよい。
その他、本発明は、上記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0040】
30:回生制動装置 34:ハイブリッドECU 36:液圧制動装置 40,50:液圧ブレーキ 42,52:ホイールシリンダ 54:動力式液圧源 58:液圧制御アクチュエータ 94:保持弁 96,98:減圧弁 120:ブレーキECU
【特許請求可能な発明】
【0041】
(1)車両の前輪と後輪とのいずれか一方に回生制動力を付与する回生制動装置と、
前記前輪と前記後輪との各々にそれぞれ摩擦制動力を加える摩擦制動装置と、
前記回生制動装置と前記摩擦制動装置との少なくとも一方を制御することにより、前記車両に加えられる制動力を制御する回生協調制御装置と
を含む車両用制動システムであって、
前記回生協調制御装置が、前記回生制動力が許容回生制動力に達した後に、前記摩擦制動装置の制御により、前記一方に加えられる摩擦制動力を増加させることなく前記前輪と後輪との他方に加えられる摩擦制動力を、前記回生制動力で決まる実制動力配分線上の制動力より小さい第1摩擦制動力まで増加させ、その後、前記一方に加えられる摩擦制動力と前記他方に加えられる摩擦制動力とを増加させて、前記実制動力配分線に近づけるものである車両用制動システム。
【0042】
一方に加えられる制動力と他方に加えられる制動力とを、他方に加えられる摩擦制動力を増加させることにより実制動力配分線に近づける場合に比較して、一方に加えられる摩擦制動力と他方に加えられる摩擦制動力との両方を増加させることにより、実制動力配分線に近づける場合の方が、車体の前後方向の姿勢の変化を抑制することができる。
【0043】
また、最初に後輪摩擦制動力をある程度大きくした後に、前輪摩擦制動力と後輪摩擦制動力との両方を増加させるため、前輪の早期ロックを良好に抑制しつつ、車両の前後方向の姿勢の変化を抑制することができる。
【0044】
回生制動力である実回生制動力と許容回生制動力とがほぼ同じである場合には、回生制動力で決まる実制動力配分線上の制動力と、許容回生制動力で決まる実制動力配分線上の制動力とはほぼ同じ大きさとなる。
【0045】
(2)前記実制動力配分線が、前記一方に加えられる制動力に対する前記他方に加えられる制動力の比率が第1設定値である線であり、
前記回生協調制御装置が、前記第1摩擦制動力を、前記回生制動力に前記第1設定値より小さい第2設定値を掛けた値に決定するものである(1)項に記載の車両用制動システム。
【0046】
一方に加えられる制動力は回生制動力と摩擦制動力とを含み、他方に加えられる制動力は摩擦制動力を含む。
【0047】
(3)前記回生協調制御装置が、前記一方に加えられる摩擦制動力と前記他方に加えられる摩擦制動力とを、前記一方に加えられる摩擦制動力の増加量に対する前記他方に加えられる摩擦制動力の増加量の比率が前記第1設定値より大きく、前記第1設定値より大きい第3設定値より小さい値に保持された状態で、増加させる(2)項に記載の車両用制動システム。
【0048】
第3設定値は、
図4(b)の破線sの勾配の値としたり一点鎖線rの勾配の値としたりすること等ができる。
なお、一方に加えられる摩擦制動力と他方に加えられる摩擦制動力とは、直線的に増加させるのではなく、段階的に増加させたり、曲線的に増加させたりしてもよい。
【0049】
(4)前記摩擦制動装置が、前記前輪に加えられる摩擦制動力を制御可能な前輪制動装置と、前記後輪に加えられる摩擦制動力を制御可能な後輪制動装置とを含み、
前記回生協調制御装置が、前記回生制動力が許容回生制動力に達した場合に、前記前輪制動装置と前記後輪制動装置との他方を制御することにより、前記他方に加えられる摩擦制動力を前記第1摩擦制動力まで増加させるものである(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の車両用制動システム。
【0050】
(5)車両の前輪と後輪とのいずれか一方に回生制動力を付与する回生制動装置と、
前記前輪と前記後輪との各々にそれぞれ摩擦制動力を加える摩擦制動装置と
を含む車両用制動システムにおいて前記回生制動装置と前記摩擦制動装置との少なくとも一方を制御することにより、前記車両に加えられる制動力を制御する回生協調制御方法であって、
前記回生制動力を許容回生制動力まで増加させる第1工程と、
前記回生制動力が前記許容回生制動力に達した後に、前記一方に加えられる摩擦制動力を増加させることなく前記前輪と後輪との他方に加えられる摩擦制動力を、前記回生制動力で決まる実制動力配分線上の制動力より小さい第1摩擦制動力まで増加させる第2工程と、
前記他方に加えられる摩擦制動力が前記第1摩擦制動力に達した後に、前記一方に加えられる摩擦制動力と前記他方に加えられる摩擦制動力とを増加させて、前記実制動力配分線に近づける第3工程と
を含む回生協調制御方法。
【0051】
S5,6が第1工程に対応し、S8,9が第2工程に対応し、S10,11が第3工程に対応する。