(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】リスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/0639 20230101AFI20231129BHJP
G06Q 10/105 20230101ALI20231129BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20231129BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G06Q10/0639
G06Q10/105
G16H50/30
A61B5/16 110
(21)【出願番号】P 2021527356
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010240
(87)【国際公開番号】W WO2020255494
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019111762
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【氏名又は名称】中村 聡延
(74)【代理人】
【識別番号】100131015
【氏名又は名称】三輪 浩誉
(72)【発明者】
【氏名】北出 祐
【審査官】永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151979(JP,A)
【文献】特開2017-111559(JP,A)
【文献】特開2018-166233(JP,A)
【文献】特許第6376628(JP,B1)
【文献】特開2017-099527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0058376(US,A1)
【文献】特開2018-140162(JP,A)
【文献】特開2016-207165(JP,A)
【文献】特許第6472152(JP,B1)
【文献】国際公開第2011/136253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16H 50/30
A61B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出する抽出手段と、
前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求める演算手段と、
前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とするリスク推定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記要因情報に加えて、前記対象者の前記就業ストレスの変化をもたらす業務に係る情報を示す業務情報から、前記特徴量を求めることを特徴とする請求項1に記載のリスク推定装置。
【請求項3】
抽出手段、演算手段及び推定手段を備えるリスク推定装置におけるリスク推定方法であって、
前記抽出手段が、対象者の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出し、
前記演算手段が、前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求め、
前記推定手段が、前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定する
ことを特徴とするリスク推定方法。
【請求項4】
コンピュータに、
対象者の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出し、
前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求め、
前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定する
リスク推定方法を実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体に関し、特に、例えば休離職や生産性低下等の企業のリスクを推定するリスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置で用いられる技術として、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。即ち、特許文献1に記載の技術では、従業員の個人情報、職歴、昇格等の従業員の人事情報に基づく時系列データに対して、フィルタリングを施して得られる就業時間、職種異動、職種期間、勤務地の平均数等に係る特徴から特徴ベクトルが生成される。そして、該特徴ベクトルが、離職リスクを予測する予測モデルに入力されることにより、離職リスクが予測される。その他関連する技術として、特許文献2乃至5及び非特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6246776号
【文献】特開2019-13737号公報
【文献】特開2018-171124号公報
【文献】特開2016-207165号公報
【文献】特開平10-80412号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】中島嘉樹・辻川剛範・大西祥史、「全期間及び短期間双方の生体信号の使用による長期ストレスレベル認識精度の向上」、第32回人工知能学会全国大会(The 32nd Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence)、2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、人事情報に現れない、就業に起因する身体的及び/又は心理的な負荷(即ち、就業ストレス)によるリスクを推定することができないという技術的問題点がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、就業ストレスによる休離職や生産性等に係るリスクを推定することができるリスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリスク推定装置の一の態様は、対象者の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出する抽出手段と、前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求める演算手段と、前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定する推定手段と、を備える。
【0008】
本発明のリスク推定方法の一態様は、抽出手段、演算手段及び推定手段を備えるリスク推定装置におけるリスク推定方法であって、前記抽出手段が、対象者の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出し、前記演算手段が、前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求め、前記推定手段が、前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定する。
【0009】
本発明のコンピュータプログラムの一の態様は、コンピュータに、上述したリスク推定方法の一の態様を実行させる。
【0010】
本発明の記録媒体の一の態様は、上述したコンピュータプログラムの一の態様が記録された記録媒体である。
【発明の効果】
【0011】
上述したリスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体のそれぞれの一の態様によれば、就業ストレスによる休離職や生産性等に係るリスクを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るリスク推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係るCPU内で実現される機能ブロックを示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係るリスク度推定手段の一具体例を示す概念図である。
【
図4】第1実施形態に係るリスク推定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係るCPU内で実現される機能ブロックを示すブロック図である。
【
図7】第2実施形態に係るリスク推定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】変形例に係るCPU内で実現される機能ブロックを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
リスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、リスク推定装置1を用いて、リスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体の実施形態について説明する。
【0014】
<第1実施形態>
リスク推定装置1の第1実施形態について
図1乃至
図4を参照して説明する。
【0015】
(構成)
先ず、第1実施形態に係るリスク推定装置1のハードウェア構成について
図1を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係るリスク推定装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、リスク推定装置1は、CPU(Central Processing Unit)11、RAM(Random Access Memory)12、ROM(Read Only Memory)13、記憶装置14、入力装置15及び出力装置16を備えている。CPU11、RAM12、ROM13、記憶装置14、入力装置15及び出力装置16は、データバス17を介して相互に接続されている。
【0017】
CPU11は、コンピュータプログラムを読み込む。例えば、CPU11は、RAM12、ROM13及び記憶装置14のうちの少なくとも一つが記憶しているコンピュータプログラムを読み込んでもよい。例えば、CPU11は、コンピュータで読み取り可能な記録媒体が記憶しているコンピュータプログラムを、図示しない記録媒体読み取り装置を用いて読み込んでもよい。CPU11は、ネットワークインタフェースを介して、リスク推定装置1の外部に配置される不図示の装置からコンピュータプログラムを取得してもよい(つまり、読み込んでもよい)。CPU11は、読み込んだコンピュータプログラムを実行することで、RAM12、記憶装置14、入力装置15及び出力装置16を制御する。当該実施形態では特に、CPU11が読み込んだコンピュータプログラムを実行すると、CPU11内には、対象者(ここでは、従業員)の就業ストレスによる休離職や生産性等に係るリスク(以降、適宜“企業リスク”と称する)の推定を行うための論理的な機能ブロックが実現される。つまり、CPU11は、企業リスクの推定を行うためのコントローラとして機能可能である。尚、CPU11内で実現される機能ブロックの構成については、後に
図2を参照しながら詳述する。
【0018】
RAM12は、CPU11が実行するコンピュータプログラムを一時的に記憶する。RAM12は、CPU11がコンピュータプログラムを実行している際にCPU11が一時的に使用するデータを一時的に記憶する。RAM12は、例えば、D-RAM(Dynamic RAM)であってもよい。
【0019】
ROM13は、CPU11が実行するコンピュータプログラムを記憶する。ROM13は、その他に固定的なデータを記憶していてもよい。ROM13は、例えば、P-ROM(Programmable ROM)であってもよい。
【0020】
記憶装置14は、リスク推定装置1が長期的に保存するデータを記憶する。記憶装置14は、CPU11の一時記憶装置として動作してもよい。記憶装置14は、例えば、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、SSD(Solid State Drive)及びディスクアレイ装置のうちの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0021】
入力装置15は、リスク推定装置1のユーザからの入力指示を受け取る装置である。入力装置15は、例えば、キーボード、マウス及びタッチパネルのうちの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0022】
出力装置16は、リスク推定装置1に関する情報を外部に対して出力する装置である。例えば、出力装置16は、リスク推定装置1に関する情報を表示可能な表示装置であってもよい。
【0023】
次に、CPU11内で実現される機能ブロックの構成について
図2を参照して説明する。
図2は、CPU11内で実現される機能ブロックを示すブロック図である。
【0024】
図2に示すように、CPU11内には、企業リスクを推定するための論理的な機能ブロックとして、特徴量入力手段111、特徴量正規化手段112、モデル学習手段113及びリスク度推定手段114が実現される。また、記憶装置14内には、生理情報記憶手段141、正解データ記憶手段142及びモデル記憶手段143が実現される。
【0025】
生理情報記憶手段141は、企業リスクを推定する対象者に係る生理情報を記憶する。ここで「生理情報」は、対象者(即ち、人間)の神経系や内臓系等の活動状況を示す情報である。「生理情報」としては、皮膚電気活動、皮膚温度、加速度(即ち、体動)、体温、脈拍、呼吸、心拍数、温度及び表情などが一例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、対象者の生理情報は、例えばカメラ、ウェアラブルセンサ、スマートフォン等の既存の各種センサ又はセンサに準ずる機器により取得されてよい。
【0026】
生理情報記憶手段141は更に、生理情報に基づいて推定された対象者の内面を示す内面情報を記憶する。ここで「対象者の内面」とは、対象者の精神や心理に関する面をいう。「対象者の内面を示す内面情報」は、精神面や心理面の状態(例えば喜、怒、哀、楽、不安、緊張、憂鬱等)を示す情報や、精神面や心理面の状態の程度に係る指標値(例えばストレス値、不安度、緊張度等)を示す情報である。企業リスク(即ち、就業ストレスによる休離職や生産性等に係るリスク)の推定に好適な内面情報の一例として「ストレスレベル」が挙げられる。生理情報に基づいて内面情報を推定する方法には、例えば非特許文献1等の既存の技術を適用可能であるので、その詳細な説明は省略する。
【0027】
特徴量入力手段111は、生理情報記憶手段141に記憶されている生理情報及び内面情報から、一の対象者に係る生理情報及び内面情報を取得する。ここで、特徴量入力手段111は、該一の対象者の就業中において、該一の対象者の就業ストレスの変化をもたらすと推定される要因に係る生理情報及び内面情報の統計量である要因情報を、上記生理情報及び内面情報として取得する。尚、「要因」とは、就業ストレスの変化に直接又は間接的に影響を及ぼす事象である。このような「要因」は、例えば該一の対象者本人、又は、該一の対象者と同業種若しくは同職種の従事者からのヒアリングをもとに列挙できる。「要因情報」は、その要因の状態を具体化した数値データである。
【0028】
具体的には、企業のリスク度が、例えば要因Ai(i=1,…,n)により決定されるとすると、特徴量入力手段111は、要因Ai(i=1,…,n)の統計値である要因情報Bi(i=1,…,n)を、上記一の対象者に係る生理情報及び内面情報として、生理情報記憶手段141より抽出する。
【0029】
特徴量正規化手段112は、先ず、特徴量入力手段111により抽出された一の対象者に係る生理情報及び内面情報(例えば、要因情報Bi(1,…,n))から、後述する学習モデルを用いた企業リスクの推定に適用可能な所定の時間単位(例えば1分、1時間、1日等)の特徴量を求める。特徴量は、所定の時間単位における生理情報及び内面情報各々の値の、例えば最大値、最小値、平均値、偏差値、変化量等として求められる。特徴量正規化手段112は、更に、求められた特徴量のうちダイナミックレンジが比較的大きい特徴量については、例えばフロアリング等の既存の手法による正規化を行う。
【0030】
モデル学習手段113は、企業リスクを推定可能な学習モデルを構築する。具体的には、モデル学習手段113は、正解データ記憶手段142に予め記憶されている正解付きの学習用データを用いた機械学習(所謂、教師あり学習)により、企業リスクを推定可能な学習モデルを構築する。構築された学習モデルは、例えば
図3に示すような、1層以上の中間層を有するニューラルネットワーク構造を有していてよい。モデル学習手段113により構築された学習モデルは、モデル記憶手段143に記憶される。尚、学習モデルの構築方法には、既存の各種態様を適用可能であるので、その詳細な説明は省略する。
【0031】
リスク度推定手段114は、特徴量正規化手段112により求められた特徴量を、モデル記憶手段143に記憶されている学習モデルに入力することにより、上記一の対象者についての企業リスクを示すリスク度を推定する。
【0032】
(動作)
次に、リスク推定装置1の動作について
図4のフローチャートを参照して説明を加える。
【0033】
図4において、先ず、特徴量入力手段111は、生理情報記憶手段141に記憶されている生理情報及び内面情報から、一の対象者に係る生理情報及び内面情報を取得する(ステップS101)。
【0034】
次に、特徴量正規化手段112は、特徴量入力手段111により抽出された一の対象者に係る生理情報及び内面情報から、所定の時間単位の特徴量を求める(ステップS102)。続いて、特徴量正規化手段112は、求められた特徴量のうちダイナミックレンジが比較的大きい特徴量について正規化を行う(ステップS103)。
【0035】
次に、リスク度推定手段114は、特徴量正規化手段112により求められた特徴量を、モデル記憶手段143に記憶されている学習モデルに入力することにより、上記一の対象者についての企業リスクを示すリスク度を推定する(ステップS104)。
【0036】
(技術的効果)
少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少していく中で、近年人手不足が顕在化してきている。企業経営側の人間には従業員を1人1人の特性に合わせて適正な部門に適正に配置して生産性を高める必要に迫られている。しかしながら、有効な手立てが確立されていないのが現状である。特に、離職率の高い業種では人材確保が喫緊の経営課題となっており、従業員の休離職による損失は甚大である。加えて、休離職者が出た際の周りの人間によるサポート、新たな人材の確保及び教育の時間的、金銭的コストは非常に大きい。そのため、企業経営者、マネージメント層には従業員に対する様々なリスク(例えば休離職、生産性低下などのリスク)を早い段階で予測し、対策を取ることが求められている。
【0037】
ところで、一般的に休離職者は、休離職になる直前に休暇が増えると言われている。休暇情報をウォッチすることで休離職を予測可能と考えられるが、予測できるのは休暇が増え出した時点、即ち、休離職者が休離職の意志を固めて行動に出る直前であることが多い。また、慢性的にストレスが積み重なって休離職に至る場合は、休暇等の具体的な行動に現れないことも多い。
【0038】
当該リスク推定装置1では、上述の如く、対象者の生理情報及び内面情報から求められた特徴量に基づいてリスク度が推定される。ここで、対象者の生理情報及び内面情報は、該対象者の就業に起因する身体的及び/又は心理的な負荷(即ち、就業ストレス)を反映したものであると言える。対象者の就業ストレスの変化は、例えば休暇の急増等の具体的な行動が起こるよりも早く表れると考えられる。従って、当該リスク推定装置1によれば、対象者の就業ストレスによる休離職や生産性等のリスクである企業のリスクを比較的早期に推定することができる。
【0039】
当該リスク推定装置1では特に、特徴量入力手段111により、取得された一の対象者に係る生理情報及び内面情報のうち、就業ストレスの変化をもたらすと推定される要因に係る生理情報及び内面情報が抽出される。このように構成すれば、対象者の就業ストレスの変化をもたらすと推定される要因とは関係のない生理情報及び内面情報(即ち、リスク度を推定する上ではノイズとなる情報)を除外することができ、当該リスク推定装置1により推定されたリスク度の信頼性を向上することができる。
【0040】
尚、第1実施形態における「特徴量入力手段111」、「特徴量正規化手段112」及び「リスク度推定手段」は、夫々、後述する付記における「抽出手段」、「演算手段」及び「推定手段」の一例に相当する。第1実施形態における「生理情報及び内面情報」は、後述する付記における「身体精神情報」の一例に相当する。
【0041】
<第2実施形態>
リスク推定装置1に係る第2実施形態について
図5乃至
図7を参照して説明する。第2実施形態では、動作が一部異なる以外は、上述した第1実施形態と同じである。従って、第2実施形態について、第1実施形態と重複する説明を省略するとともに、図面上における共通箇所には同一の符号を付して示し、基本的に異なる点について、
図5乃至
図7を参照して説明する。
【0042】
(構成)
図5に示すように、記憶装置14内には、生理情報記憶手段141、正解データ記憶手段142及びモデル記憶手段143に加えて、業務情報記憶手段144が実現される。業務情報記憶手段144は、対象者の就業ストレスの変化をもたらす業務に係る情報を示す業務情報を記憶する。業務情報には、業務的負荷と密接に関連する客観的な情報が含まれる。具体的には、業務情報には、例えば、(i)労働時間、残業時間、休暇等の勤怠情報、(ii)労働量に関する統計量(例えば、倉庫労働者であれば移動量(移動距離)や担当する荷物の総量、コールセンタのオペレータであれば受電数や通話時間)、等の客観的な統計情報が含まれてよい。
【0043】
何が、業務情報に該当するかを判断するために、例えば
図6に示すような因果ループ図を用いることが望ましい。
図6は、コールセンタにおける離職リスクと、それに至る要因の因果関係を表した因果ループ図の一例である。例えば、クレームの電話があった場合、オペレータの業務量が増加するので、「クレーム電話」と「業務量」とは正の関係にある。他方で、クレームの電話があった場合、ノルマの達成は遠のくので、「クレーム電話」と「ノルマ達成」とは負の関係にある。
図6では、正の関係を実線矢印で表し、負の関係を破線矢印で表している。このような因果ループ図を用いれば、離職リスクの遠因を明らかにすることができ、業務情報としてどのような情報をウォッチすればよいかを比較的容易に知ることができる。即ち、リスク度として離職リスクを求めるとすると、要因としてクレーム電話、業務量、ノルマ達成、休暇、ストレスがあり、各々の要因情報の一例として、クレーム電話の数、労働時間、ノルマ達成率、休暇の数、ストレスレベルであったとすると、特徴量入力手段111は生理情報記憶手段141、業務情報記憶手段142から各々の統計量を抽出する。そして、特徴量正規化手段112にて所定の単位に前記統計量を計算し、正規化等を行ってモデル学習手段113に入力する特徴量を求める。そして、リスク度推定手段114にて特徴量正規化手段112にて求められた特徴量をモデル記憶手段143に記憶された学習モデルに入力することにより、離職リスクを算出することができる。
【0044】
(動作)
次に、リスク推定装置1の動作について
図7のフローチャートを参照して説明を加える。
【0045】
図7のステップS101の処理の後、特徴量入力手段111は、業務情報記憶手段144から、一の対象者に係る業務情報を取得する(ステップS201)。
【0046】
次に、特徴量正規化手段112は、ステップS101の処理において、特徴量入力手段111により抽出された一の対象者に係る生理情報及び内面情報から、所定の時間単位の特徴量を求めるとともに、ステップS201の処理において取得された業務情報から、学習モデルを用いた企業リスクの推定に適用可能な所定の時間単位の特徴量を求める(ステップS202)。
【0047】
(技術的効果)
当該リスク推定装置1によれば、上述の如く、対象者の生理情報及び内面情報に加えて、業務情報から求められた特徴量に基づいてリスク度が推定される。このように構成すれば、例えば対象者の就業ストレスに顕著な変化が表れる前において企業リスクの増加を検知したり、生理情報及び内面情報から求められる特徴量を補完及び/又は補強して、推定されるリスク度の信頼性を向上したりすることができる。
【0048】
<変形例>
図8に示すように、CPU11内には、特徴量入力手段111、特徴量正規化手段112及びリスク度推定手段114が実現される一方で、特徴量入力手段111、特徴量正規化手段112及びリスク度推定手段114以外の機能ブロックが実現されなくてもよい。つまり、学習モデルが、当該リスク推定装置1とは異なる装置により構築されてもよい。
【0049】
<付記>
以上説明した実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
【0050】
(付記1)
付記1に記載のリスク推定装置は、対象者の就業中の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出する抽出手段と、前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求める演算手段と、前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定する推定手段と、を備えることを特徴とするリスク推定装置である。
【0051】
(付記2)
付記2に記載のリスク推定装置は、前記演算手段は、前記要因情報に加えて、前記対象者の前記就業ストレスの変化をもたらす業務に係る情報を示す業務情報から、前記特徴量を求めることを特徴とする付記1に記載のリスク推定装置である。
【0052】
(付記3)
付記3に記載のリスク推定方法は、対象者の就業中の生理情報、及び、前記生理情報に基づいて推定された前記対象者の内面を示す内面情報の少なくとも一方を含む身体精神情報のうち前記対象者の就業ストレスの変化をもたらす要因に係る身体精神情報の統計量である要因情報を抽出し、前記要因情報から所定時間単位の特徴量を求め、前記特徴量を所定の学習モデルに入力することにより、前記対象者の休離職及び生産性の少なくとも一方に係るリスク度を推定することを特徴とするリスク推定方法である。
【0053】
(付記4)
付記4に記載のコンピュータプログラムは、コンピュータに、付記3に記載のリスク推定方法を実行させるコンピュータプログラムである。
【0054】
(付記5)
付記5に記載の記録媒体は、付記4に記載のコンピュータプログラムが記録された記録媒体である。
【0055】
本発明は、請求の範囲及び明細書全体から読み取るこのできる発明の要旨又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うリスク推定装置、リスク推定方法、コンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術思想に含まれる。
【0056】
この出願は、2019年6月17日に出願された日本出願特願2019-111762を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0057】
1…リスク推定装置、111…特徴量入手手段、112…特徴量正規化手段、113…モデル学習手段、114…リスク度推定手段、141…生理情報記憶手段、142…正解データ記憶手段、143…モデル記憶手段、144…業務情報記憶手段