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特許7392747プレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】プレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/00 20060101AFI20231129BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B21D22/00
G01B11/24 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022021763
(22)【出願日】2022-02-16
(65)【公開番号】P2023104830
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2022004757
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛史
(72)【発明者】
【氏名】澄川 智史
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 雄司
(72)【発明者】
【氏名】新宮 豊久
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167793(WO,A1)
【文献】特開2020-146755(JP,A)
【文献】特開平8-243657(JP,A)
【文献】特許第4052211(JP,B2)
【文献】特開2012-250245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法であって、
前記形状変動に対応した所定の波長と所定の振幅の波形状を有する基準波形状ブランクモデルを生成する基準波形状ブランクモデル生成ステップと、
前記基準波形状ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準波形状ブランクプレス成形品形状として取得する基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準波形状ブランクモデルにおける波形状と振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類又は複数種類生成する周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップと、
前記周期ずれ波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状と一種類又は複数種類の前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得ステップと、を備えたことを特徴とするプレス成形解析方法。
【請求項2】
前記基準波形状ブランクモデル生成ステップにおいて生成する基準波形状ブランクモデルは、前記金属板から採取した実ブランクの形状を測定した測定結果に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形解析方法。
【請求項3】
前記乖離量取得ステップは、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準波形状ブランクプレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形解析方法。
【請求項4】
前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定ステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプレス成形解析方法。
【請求項5】
形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析装置であって、
前記形状変動に対応した所定の波長と所定の振幅の波形状を有する基準波形状ブランクモデルを生成する基準波形状ブランクモデル生成部と、
前記基準波形状ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準波形状ブランクプレス成形品形状として取得する基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部と、
前記基準波形状ブランクモデルにおける波形状と振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類又は複数種類生成する周期ずれ波形状ブランクモデル生成部と、
前記周期ずれ波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部と、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状と一種類又は複数種類の前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得部と、を備えたことを特徴とするプレス成形解析装置。
【請求項6】
前記基準波形状ブランクモデル生成部において生成する基準波形状ブランクモデルは、前記金属板から採取した実ブランクの形状を測定した測定結果に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とする請求項5に記載のプレス成形解析装置。
【請求項7】
前記乖離量取得部は、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準波形状ブランクプレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とする請求項5又は6に記載のプレス成形解析装置。
【請求項8】
前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定部をさらに備えたことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載のプレス成形解析装置。
【請求項9】
コンピュータを請求項5乃至8のいずれかに記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするプレス成形解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により自動車車体の衝突安全性の向上が進展する中で、昨今の二酸化炭素排出規制を受けて自動車の燃費向上を図るため、車体の軽量化も必要とされている。これら衝突安全性能と車体の軽量化を両立するために、従来よりさらに高強度な金属板が車体に採用されつつある。
【0003】
従来から、プレス成形品を得るためのブランクを採取する実際の金属板は、完全に平坦なものはなく、波形状(形状変動)を有している。
したがって、金属板から採取した実際のブランクもまた、必ずしも平坦であるとは限らず、形状変動を有する場合がある。
【0004】
このような波打ち形状の金属板から打ち抜きやせん断によって採取したブランクを用いて、車体部品にプレス成形した場合、プレス成形後に得られたプレス成形品は、その形状変動が影響して、目標となる寸法精度から外れることが危惧される。
【0005】
目標となる寸法精度から外れたプレス成形品を選別する技術として、例えば特許文献1、2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-047504号公報
【文献】特開2019-002834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または特許文献2に開示の技術は、プレス成形後の成形品同士の形状を比較するものであって、プレス成形前のブランクの形状変動によるプレス成形後のプレス成形品への影響を予測できるものではない。
従来は、ブランクの形状変動によるプレス成形品の形状への影響を予測することは行われておらず、また、プレス成形品のどの部位がブランクの形状変動の影響を受けやすいかを特定することも行われていなかった。
【0008】
さらに、ブランクは一つの金属板から複数採取されるので、同じ金属板から採取したブランクであっても、採取した位置の違いによって、個々のブランクで凹凸を呈する部位が変動する。
ブランクの形状変動(凹凸)に差異があれば、プレス成形後のプレス成形品の形状にも差異が生じる。したがって、ブランクの形状変動によるプレス成形品への影響を予測するにあたっては、個々のブランクの形状変動に差異があることも考慮する必要がある。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法、プレス成形解析装置及びプレス成形解析プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るプレス成形解析方法は、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測する方法であって、
前記形状変動に対応した所定の波長と所定の振幅の波形状を有する基準波形状ブランクモデルを生成する基準波形状ブランクモデル生成ステップと、
前記基準波形状ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準波形状ブランクプレス成形品形状として取得する基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準波形状ブランクモデルにおける波形状と振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類又は複数種類生成する周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップと、
前記周期ずれ波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップと、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状と一種類又は複数種類の前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得ステップと、を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記基準波形状ブランクモデル生成ステップにおいて生成する基準波形状ブランクモデルは、前記金属板から採取した実ブランクの形状を測定した測定結果に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記乖離量取得ステップは、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準波形状ブランクプレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定ステップをさらに備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(5)また、本発明に係るプレス成形解析装置は、形状変動のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形した際の前記ブランクの形状変動の影響を予測するものであって、
前記形状変動に対応した所定の波長と所定の振幅の波形状を有する基準波形状ブランクモデルを生成する基準波形状ブランクモデル生成部と、
前記基準波形状ブランクモデルを用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準波形状ブランクプレス成形品形状として取得する基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部と、
前記基準波形状ブランクモデルにおける波形状と振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類又は複数種類生成する周期ずれ波形状ブランクモデル生成部と、
前記周期ずれ波形状ブランクモデルを用いて、前記所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得する周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部と、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状と一種類又は複数種類の前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求める乖離量取得部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記基準波形状ブランクモデル生成部において生成する基準波形状ブランクモデルは、前記金属板から採取した実ブランクの形状を測定した測定結果に基づいて生成したブランクモデルであることを特徴とするものである。
【0016】
(7)また、上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、前記乖離量取得部は、
前記基準波形状ブランクプレス成形品形状における所定部位のスプリングバック量と、前記周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状における前記基準波形状ブランクプレス成形品形状の前記所定部位と同一部位のスプリングバック量との差を前記乖離量として取得することを特徴とするものである。
【0017】
(8)また、上記(5)乃至(7)のいずれかに記載のものにおいて、前記乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定部をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0018】
(9)また、本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを上記(5)乃至(8)のいずれかに記載のプレス成形解析装置として機能させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ブランクの形状変動がプレス成形品のスプリングバック後の形状に与える影響の大きい部位、具体的には、個々のブランクの形状変動(凹凸)に差異が生ずることでプレス成形品のスプリングバック後の形状が乖離しやすい部位とその乖離量を知ることができる。
また、乖離量と予め定めた閾値とに基づいて影響が特に大きいブランクの部位を特定することで、早急にその対策も採れるようになり、生産性の向上にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1に係るプレス成形解析方法の各ステップの説明図である。
図2】実施の形態1で対象とした部品の外観図である。
図3】周期的な波形状を有する基準波形状ブランクモデルの説明図である。
図4図4(a)は図3の基準波形状ブランクモデルを用いてプレス成形解析した基準波形状ブランクプレス成形品形状の説明図であり、図4(b)は図4(a)の変化量をブランク形状に対応させて示した図である。
図5図3の基準波形状ブランクモデルにおける波形状と振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデルの説明図である。
図6図6(a)は図5の周期ずれ波形状ブランクモデルを用いてプレス成形解析した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状の説明図であり、図6(b)は図6(a)の変化量をブランク形状に対応させて示した図である。
図7図4の基準波形状ブランクプレス成形品形状と図6の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの乖離量を示す図である。
図8】実施の形態2に係るプレス成形解析装置の説明図である。
図9】実施例に係る周期ずれ波形状ブランクモデルの説明図である。
図10図10(a)は図9の周期ずれ波形状ブランクモデルを用いてプレス成形解析した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状の説明図であり、図10(b)は図10(a)の変化量をブランク形状に対応させて示した図である。
図11図4の基準波形状ブランクプレス成形品形状と図10の周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状とを比較したときの乖離量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態1]
本実施の形態に係るプレス成形解析方法は、形状変動(凹凸の波形状)のある金属板から採取したブランクを用いてプレス成形(フォーム成形やドロー成形など)した際のブランクの形状変動の影響を予測するプレス成形解析方法であって、図1に示すように、基準波形状ブランクモデル生成ステップS1と、基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3と、周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップS5と、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7と、乖離量取得ステップS9と、を備えている。
図2に示すプレス成形品1を目標形状としてプレス成形する場合を例に挙げて、以下、各構成を詳細に説明する。なお、本実施形態では板厚1.2mmの1.5GPa級鋼板のブランクモデルを用いたが、これにこだわるものではない。
【0022】
<基準波形状ブランクモデル生成ステップ>
基準波形状ブランクモデル生成ステップS1は、金属板の形状変動、例えば凹凸の波形状に対応した形状の基準波形状ブランクモデル3(図3(a)参照)を生成するステップである。具体的な形状を以下に説明する。
【0023】
図3(a)に示す例は、所定の波長と所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであり、図3(a)における濃淡が凹凸を表現している。
図3(a)を白抜き矢印の方向から見た状態が図3(b)であり、その一部拡大図が図3(c)である。図3に示す例は、板厚1.2mmで、形状の凹凸の振幅が±1.0mm、凹凸の波長(図3(d)参照)が320mmである。なお、図3(e)に図3(a)の形状の凹凸部位を強調して示した。また、ブランクに設定する凹凸の開始位置や終了位置はブランクの端である必要はない。
【0024】
なお、基準波形状ブランクモデル生成ステップS1において生成する基準波形状ブランクモデル3は、形状変動のある金属板の所定位置から採取した実ブランクの形状を、例えばレーザ距離計による3次元形状測定器などによって測定し、測定結果に基づいて(例えば代表的な波長と振幅を設定に用いるなどして)生成するようにしてもよい。
【0025】
<基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップ>
基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3は、基準波形状ブランクモデル3を用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を基準波形状ブランクプレス成形品形状として取得するステップである。
【0026】
プレス成形解析は、通常、有限要素法(FEM)などのCAE解析が行われる。CAE解析による成形はフォーム成形でもドロー成形でもよいが、本実施の形態ではフォーム成形の場合を例に挙げて説明する。
なお、本説明の「プレス成形解析」とは、成形下死点の形状を取得する解析と、離型後、即ちスプリングバックした後の形状を取得する解析の双方を含むものとする。
【0027】
基準波形状ブランクモデル3を用いたプレス成形解析における離型後の形状である基準波形状ブランクプレス成形品形状5を図4(a)に示す。図4(a)では、形状に加えて成形下死点からの変化量を色の濃淡で示している。
ここで変化量とは、プレス成形方向において、プレス成形後に離型しスプリングバックした後のプレス成形品形状の各部位の高さから、成形下死点の形状の対応する部位の高さを差し引いた値であり、プレス成形方向のスプリングバック量に相当する。高さの差(変化量)が+(プラス)の場合は成形下死点形状より凸状となり、高さの差(変化量)が-(マイナス)の場合は成形下死点形状より凹み状となる。
図4(a)においては、成形下死点よりも凹み状になる部位の色を薄くし、凸状になる部位の色を濃くしている。また、図中に表示した数字は、+が凸方向への変化量、-が凹方向への変化量で、単位はmmである。
【0028】
本例においては、図4(a)に示すように、基準波形状ブランクプレス成形品形状5の左端部の変化量は4.5mmであり、底部は2.6mm、長手方向中央部は2.3mm、右端部は-2.5mmであった。
プレス成形前のブランク形状とスプリングバック後の変化量との対応関係を示すため、図4(b)に、各部位の変化量をブランク形状に対応させて示す。
【0029】
<周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップ>
周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップS5は、基準波形状ブランクモデル3における波形状と波長及び振幅が同じで周期がずれた波形状を有する周期ずれ波形状ブランクモデル7(図5(a)参照)を生成するステップである。具体的な形状を以下に説明する。
【0030】
図5(a)に示す例は、所定の波長と所定の振幅を有する周期的な波形状を有するブランクモデルであり、図5(a)における濃淡が凹凸を表現している。
図5(a)を白抜き矢印の方向から見た状態が図5(b)であり、その一部拡大図が図5(c)である。図5に示す例は、板厚1.2mmで、凹凸の振幅と波長が図3の基準波形状ブランクモデル3と同じであるが、波形状の周期が基準波形状ブランクモデル3よりも1/4波長分紙面右側にずれている(図5(d)、図5(e)参照)。
【0031】
<周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップ>
周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7は、周期ずれ波形状ブランクモデル7を用いて、所定の金型モデルでプレス成形したときのプレス成形解析を行い、離型後のプレス成形品形状を周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状として取得するステップである。
周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9を図6(a)に示す。図6(a)に示す、色や数値は図4(a)と同義である。
【0032】
本例においては、図6(a)に示すように、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9の左端部の変化量は3.8mmであり、底部は1.7mm、長手方向中央部は1.8mm、右端部は0.5mmであった。
図6(b)に、各部位の変化量をブランク形状に対応させて示す。
【0033】
<乖離量取得ステップ>
乖離量取得ステップS9は、基準波形状ブランクプレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9を比較し、両形状の乖離する部位と、乖離量とを求めるステップである。
【0034】
本実施の形態では、成形下死点におけるプレス成形品の形状を基準形状として、CAE解析により求めたプレス成形品の各部位における基準形状からの変化量(スプリングバック量)を求めて、ブランクを変更した場合の変化量を比較し、ブランクの変更による変化量の差を乖離量として求めた。
すなわち、乖離量取得ステップS9で求める乖離量とは、周期ずれ波形状ブランクモデル7を用いた周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9の変化量(図6)から、基準波形状ブランクモデル3を用いた基準波形状ブランクプレス成形品形状5の変化量(図4)を差し引いた値となる。したがって、変化量の差(乖離量)が+(プラス)の場合は、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9の当該部位は、基準波形状ブランクプレス成形品形状5に比べて凸形状となり、変化量の差(乖離量)が-(マイナス)の場合は、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9の当該部位は、基準波形状ブランクプレス成形品形状5に比べて凹み形状となる。
【0035】
上記のように求めた乖離量と、周期ずれ波形状ブランクモデル7の凹凸の波形状を対応させて、図7(a)、図7(b)に示す。なお、図中のMaxは凸形状の最大値であることを示し、Minは凹み形状の最大値(数値では最小)であることを示している。
図7(a)に示されるように、基準波形状ブランクプレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9の左端部の乖離量は-0.7mmであり、底部は-0.9mm、長手方向中央部は-0.5mm、右端部は3.0mmであった。したがって、同じ波長と振幅の波形状を有するブランクであっても、周期が1/4波長分ずれる変動があると、プレス成形品の右端部の形状に特に影響を与えることが分かった。
【0036】
なお、乖離量を求めた基準波形状ブランクプレス成形品形状5及び周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9について、逆成形解析によりブランクに展開して、前記乖離量に影響する基準波形状ブランクモデル3及び周期ずれ波形状ブランクモデル7の部位を特定してもよい。
【0037】
本実施の形態によれば、ブランクにおける形状変動がプレス成形品のスプリングバック後の形状に与える影響の大きい部位、具体的には、個々のブランクの形状変動(凹凸を呈する部位)に差異が生ずることでプレス成形品のスプリングバック後の形状が乖離しやすい部位とその乖離量を知ることができる。
また、要対策部位特定ステップを設けて乖離量と予め定めた閾値とに基づいてプレス成形品の良否を判定し、これによってブランクの良否を予測してもよい。
例えば、複数のプレス成形品を重ね合わせて接合して車体のメンバー類に組み立てる際など、特にフランジ部分の乖離量が大きいとプレス成形品同士の接合が困難になる。
そこで、乖離量に所定の閾値を設けておき、乖離量が閾値を超える部位を要対策部位として特定することで、金型の形状等による対策を講じることができるようになり、プレス成形品の生産性の向上にもつながる。
例えば、図7において、乖離量の閾値を±1.0mmとすると、プレス成形品形状の右端部がブランクの形状の変動の影響を受けやすい部位であると特定できるので、該当部分の金型の一部を修正するなどの対策をとることができる。
【0038】
なお、上記は周期ずれ波形状ブランクモデルを一種類だけ生成したものであったが、周期ずれ波形状ブランクモデルを複数種類生成してもよい。その場合、周期ずれ波形状ブランクモデルの波形状は、互いに周期がずれるようにする(波長及び振幅は波形状ブランクモデル及びすべての周期ずれ波形状ブランクモデルで共通とする)。
形状変動ブランクを想定したブランクモデルのパターンを増やすことで、実際のブランクの形状変動の差異をより具体的に考慮した解析が可能となる。
【0039】
また、上記の説明では、基準波形状ブランクプレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状9を比較するにあたり、プレス成形方向における成形下死点からの変化量(スプリングバック量)の差を乖離量としたが、本発明はこれに限らない。
例えば、プレス成形方向において、基準波形状ブランクモデル3を用いた場合の離型後(スプリングバック後)のプレス成形品形状の各部位の高さから、周期ずれ波形状ブランクモデル7を用いた場合の離型後(スプリングバック後)のプレス成形品形状の各部位の高さについて、直接差し引いた差を乖離量としてもよい。
もっとも、この場合は、二つのプレス成形品形状に共通する固定点を設定する必要があり、固定点の選び方によって、乖離量が変動する場合がある。
この点、本実施の形態のように、成形下死点形状との変化量同士を比較するようにすれば、安定した基準に基づいて乖離量を求めることができて好ましい。
【0040】
[実施の形態2]
実施の形態1で説明したプレス成形解析方法は、予め設定されたプログラムをコンピュータに実行させることで実現できる。そのような装置の一例であるプレス成形解析装置を本実施の形態で説明する。
本実施の形態に係るプレス成形解析装置11は、図8に示すように、PC(パーソナルコンピュータ)等のコンピュータによって構成され、表示装置13、入力装置15、記憶装置17、作業用データメモリ19及び演算処理部21を有している。
そして、表示装置13、入力装置15、記憶装置17及び作業用データメモリ19は、演算処理部21に接続され、演算処理部21からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
以下、図2に示すプレス成形品1を解析対象とし、本実施の形態に係るプレス成形解析装置の各構成について説明する。
【0041】
≪表示装置≫
表示装置13は、解析結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
【0042】
≪入力装置≫
入力装置15は、ブランクやプレス成形品等の表示指示や操作者の条件入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0043】
≪記憶装置≫
記憶装置17は、ブランク及びプレス成形品の形状ファイル33等の各種ファイルの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0044】
≪作業用データメモリ≫
作業用データメモリ19は、演算処理部21で使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0045】
≪演算処理部≫
演算処理部21は、図8に示すように、基準波形状ブランクモデル生成部23と、基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部25と、周期ずれ波形状ブランクモデル生成部27と、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部29と、乖離量取得部31と、を有し、CPU(中央演算処理装置)によって構成される。
また、要対策部位特定部をさらに有してもよい。
これらの各部は、CPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
演算処理部21における上記の各部の機能を以下に説明する。
【0046】
基準波形状ブランクモデル生成部23は、実施の形態1において説明した基準波形状ブランクモデル生成ステップS1を実行するものである。同様に、基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部25は基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3を、周期ずれ波形状ブランクモデル生成部27は周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップS5を、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部29は周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7を、乖離量取得部31は乖離量取得ステップS9を、要対策部位特定部は要対策部位特定ステップを、それぞれ実行する。
【0047】
本実施の形態に係るプレス成形解析装置11によれば、実施の形態1と同様に、ブランクにおける形状変動がプレス成形品の形状に与える影響の大きい部位、具体的には、個々のブランクにおける形状変動に差異が生ずることでプレス成形品のスプリングバック後の形状が乖離しやすい部位とその乖離量を知ることができる。
また、乖離量と予め定めた閾値とに基づいてプレス成形品の良否を判定し、これによってブランクの良否を予測できる。
さらに、乖離量が予め設定した閾値を超えた部位を、要対策部位として特定する要対策部位特定部を備えることで、ブランクの形状変動の影響が大きいと予測される場合に金型の形状による対策や成形品形状の変更による対策を講じる部位を特定できる。
【0048】
なお、上述したように、本実施の形態のプレス成形解析装置11における基準波形状ブランクモデル生成部23、基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部25、周期ずれ波形状ブランクモデル生成部27、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部29及び乖離量取得部31、さらに要対策部位特定部は、CPUが所定のプログラムを実行することで実現されるものである。
したがって、本発明に係るプレス成形解析プログラムは、コンピュータを、基準波形状ブランクモデル生成部23、基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部25、周期ずれ波形状ブランクモデル生成部27、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部29及び乖離量取得部31、さらに要対策部位特定部として機能させるもの、と特定することができる。
【実施例
【0049】
本発明の効果を確認するために、図1で説明したプレス成形解析方法を実施した。本実施例におけるCAE解析によるプレス成形は、上記実施の形態と同様にフォーム成形とした。なお、本実施例では板厚1.2mmの1.5GPa級鋼板のブランクモデルを用いた。
また、本実施例では、基準波形状ブランクモデル生成ステップS1及び基準波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS3を実施の形態1と同様に実施した。したがって、基準波形状ブランクモデル3及び基準波形状ブランクプレス成形品形状5は図3図4と同様であるので説明を省略し、周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップS5以降について以下、図9図11を用いて説明する。なお、図9図11において示している数値、濃淡、凸状、凹み状、Max、Minは上記の実施の形態1で示したものと同義である。
【0050】
図9(a)は本実施例の周期ずれ波形状ブランクモデル生成ステップS5で生成した周期ずれ波形状ブランクモデル35であり、図9(a)を白抜き矢印の方向から見た状態が図9(b)である。また、図9(b)の一部拡大図が図9(c)である。図9に示す例は、板厚、波形状(凹凸)の振幅と波長が図3の基準波形状ブランクモデル3と同じであるが、波形状の周期が基準波形状ブランクモデル3よりも1/2波長分ずれている(図9(d)、図9(e)参照)。
【0051】
図9の周期ずれ波形状ブランクモデル35を用いて周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得ステップS7を行って取得した周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37を図10(a)に示す。
図10(a)に示すように、周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37の左端部の変化量は-2.1mmであり、底部は1.9mm、長手方向中央部は1.6mm、右端部は2.8mmであった。
図10(b)に、各部位の変化量をブランク形状に対応させて示す。
【0052】
乖離量取得ステップS9において、基準波形状プレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37とを比較したときの乖離量と、周期ずれ波形状ブランクモデル35の凹凸形状を対応させて図11(a)、図11(b)に示す。
図11(a)に示されるように、基準波形状ブランクプレス成形品形状5と周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状37の左端部の乖離量は-6.6mmであり、底部は-0.7mm、長手方向中央部は-0.7mm、右端部は5.3mmであった。
【0053】
本例ではプレス成形品の左端部と右端部の乖離量が大きくなった。したがって、同じ波長と振幅の波形状を有するブランクであっても、周期が1/2波長分ずれる変動があると、プレス成形品の左端部と右端部の形状に特に影響を与えることが分かった。
そこで、当該部位に対応する金型を修正するなどの対策を講じ、安定して良好な形状のプレス成形品が製造できる。
【符号の説明】
【0054】
1 プレス成形品(目標形状)
3 基準波形状ブランクモデル
5 基準波形状ブランクプレス成形品形状
7 周期ずれ波形状ブランクモデル
9 周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状
11 プレス成形解析装置
13 表示装置
15 入力装置
17 記憶装置
19 作業用データメモリ
21 演算処理部
23 基準波形状ブランクモデル生成部
25 基準波形状ブランクプレス成形品形状取得部
27 周期ずれ波形状ブランクモデル生成部
29 周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状取得部
31 乖離量取得部
33 ブランク及びプレス成形品の形状ファイル
35 周期ずれ波形状ブランクモデル(実施例)
37 周期ずれ波形状ブランクプレス成形品形状(実施例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11