(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20231129BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B28B1/30 101
B32B27/00 L
(21)【出願番号】P 2022114189
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2017198378の分割
【原出願日】2017-10-12
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重野 健斗
(72)【発明者】
【氏名】柴田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中谷 充晴
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/145865(WO,A1)
【文献】特表2017-505250(JP,A)
【文献】特開2015-033811(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145864(WO,A1)
【文献】特開2014-082500(JP,A)
【文献】特開2010-195015(JP,A)
【文献】特開2000-117900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
B32B 27/00
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の少なくとも片方の面に離型層を設けた離型フィルムであって、
前記離型層の表面の領域表面平均粗さ(Sa)が7nm以下であり、
かつ前記離型層の表面のジヨードメタン接触角θ1と前記離型フィルムをトルエン浸漬した後の離型層の表面のジヨードメタン接触角θ2の差(θ1-θ2)が絶対値として3.0°以下であり、
かつ前記離型層の表面のナノインデンテーション試験により測定される弾性率が4.0GPa以上であり、
前記離型層は、離型剤組成物の硬化物であり、
前記離型剤組成物は6官能以上のウレタンアクリレートおよびシリコーン系成分を含み、
離型剤組成物中におけるシリコーン系成分の、6官能以上のウレタンアクリレートおよび前記シリコーン系成分の合計質量に対する質量割合は、0.2~5質量%であり、
シリコーン系成分は、反応性官能基を有するポリオルガノシロキサンであり、
前記反応性官能基は、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、マレイミド基、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、水酸基から選ばれる少なくとも1種であり、
前記離型層の表面の最大突起高さ(Rp)が50nm以下であり、
フィルム基材の前記離型層とは反対側の面における領域表面平均粗さ(Sa)が5~50nmであり、最大突起高さ(Rp)が30~1000nmである、
セラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
【請求項2】
前記反応性官能基を有するポリオルガノシロキサンにおける反応性官能基は、(メタ)アクリロイル基である請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
【請求項3】
以下の測定方法により算出されるカール評価において、各角部の高さの総和が50mm未満である、請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム;
カール評価
離型フィルムを200×200mmに裁断した後、基材がガラス板側となるように、離型フィルムを平坦なガラス板の上に載置し、次いで、100×100mmのガラス板を離型フィルムの離型層上の中央に載置した後、下側のガラス板の上面から離型フィルムの各角部頂点までの高さを測定する。
【請求項4】
離型層の厚さが、0.2~2μmである請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
【請求項5】
フィルム基材が、無機粒子を実質的に含有していない第1の層及び無機粒子を含有する第2の層を有し、第1の層の上に離型層が設けられており、前記第2の層は、フィルム基材の反対表面を形成し、前記第2の層が含有する無機粒子がシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子であり、無機粒子の合計が第2の層中に5000~15000ppm含有されている請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートを製造するために使用する離型フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板といった積層セラミック製品を製造するには、セラミックグリーンシートを成型し、得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することが行われている。
【0003】
セラミックグリーンシートは、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを離型フィルム上に塗工することにより成型される。離型フィルムとしては、フィルム基材にポリシロキサン等のシリコーン系化合物が剥離処理されたものが使用されている。この離型フィルムには、当該離型フィルム上に成型した薄いセラミックグリーンシートを当該離型フィルムから破断等することなく剥離できる剥離性が要求される。
【0004】
近年、電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板の小型化および多層化が進み、セラミックグリーンシートの超薄膜化が進んでいる。セラミックグリーンシートが超薄膜化して、その乾燥後の厚みが、例えば1μm以下となると、セラミックスラリーを塗工し乾燥させたときに、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生し易くなる。また、成型したセラミックグリーンシートを離型フィルムから剥離するときに、セラミックグリーンシートの強度低下による破断等の不具合が発生し易くなる。
【0005】
前者の問題を解決するために、特許文献1には、キャリアフィルム(離型フィルム)として、セラミックスラリーの塗布面におけるJIS B0601で定義される最大高さRmaxが0.2μm以下の表面を有するものを使用することが提案されている。しかしながら、特許文献1のように最大高さRmaxを規定した離型フィルムを使用しても、薄膜化したセラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生することを効果的に防止することはできなかった。また、薄膜化したセラミックグリーンシートを離型フィルムから剥離するときに、セラミックグリーンシートが破断する等の不具合は依然としてあった。
【0006】
また、主として活性エネルギー線硬化性成分の硬化物によって、離型層の表面が高平滑となり、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生することを効果的に防止・抑制することができるとともに、離型層がシリコーン系成分またはその硬化物を含有し、離型層の弾性率が4.0GPa以上であると、離型フィルムからセラミックグリーンシートを正常に剥離することができると提案されている(特許文献2、参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献2のように表面特性、弾性率の離型フィルムを使用しても、グリーンシートの塗布や、さらにその上に電極を形成する際、それらのスラリーの溶剤により離型層が浸食され、グリーンシートの剥離力が重剥離化してグリーンシートが破断したり、グリーンシートが剥がれないなどの問題が依然として存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-203822号公報
【文献】国際公開第2013/145865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生することを防止・抑制するとともに、セラミックグリーンシート成型時のセラミックスラリーの溶剤や、電極形成時の電極用スラリーの溶剤などの耐溶剤性に優れることで、超薄膜のセラミックグリーンシートを製造する場合であっても、剥離性にも優れたセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は以下の構成よりなる。
1. フィルム基材の少なくとも片方の面に離型層を設けた離型フィルムであって、前記離型層の表面の領域表面平均粗さ(Sa)が7nm以下であり、かつ前記離型層の表面のジヨードメタン接触角θ1と前記離型フィルムをトルエン浸漬した後の離型層の表面のジヨードメタン接触角θ2の差(θ1-θ2)が絶対値として3.0°以下であり、かつ前記離型層の表面のナノインデンテーション試験により測定される弾性率が4.0GPa以上であるセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
2. 離型層が、(メタ)アクリル酸エステルおよびシリコーン系成分を含む離型剤組成物の硬化物であり、前記離型層の表面の最大突起高さ(Rp)が50nm以下であり、フィルム基材の前記離型層とは反対側の面における領域表面平均粗さ(Sa)が5~50nmであり、かつ最大突起高さ(Rp)が30~1000nmである上記第1記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
3. 離型剤組成物中におけるシリコーン系成分の、(メタ)アクリル酸エステルおよび前記シリコーン系成分の合計質量に対する質量割合は、0.2~5質量%である上記第2に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
4. シリコーン系成分は、反応性官能基を有するポリオルガノシロキサンである上記第2または第3に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム
5. (メタ)アクリル酸エステルは、3官能以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である上記第2~第4のいずれかに記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
6. 離型層の厚さが、0.2~2μmである上記第1~第5のいずれかに記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
7. フィルム基材が、無機粒子を実質的に含有していない第1の層及び無機粒子を含有する第2の層を有し、第1の層の上に離型層が設けられており、前記第2の層は、フィルム基材の反対表面を形成し、前記第2の層が含有する無機粒子がシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子であり、無機粒子の合計が第2の層中に5000~15000ppm含有されている上記第1~第6のいずれかに記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、主として(メタ)アクリル酸エステルの硬化物によって、離型層の表面が高平滑となり、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生することを効果的に防止・抑制することができる。また、セラミックグリーンシート形成時の離型層がシリコーン系成分またはその硬化物を含有するとともに、離型層表面のジヨードメタン接触角θ1と前記離型フィルムをトルエン浸漬した後の離型層表面のジヨードメタン接触角θ2の差(θ1-θ2)が絶対値として3.0°以下であることで、セラミックグリーンシート製造工程で使用されるスラリーの溶剤により浸食されることなく、また、離型層の弾性率が上記のように規定されることによって、当該セラミックグリーンシート製造用離型フィルムからセラミックグリーンシートを常に正常に剥離することができる。
【0012】
従って、本発明に係るセラミックグリーンシート製造用離型フィルムによれば、離型層の表面が高平滑となり、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生することを効果的に防止・抑制することができ、さらにはセラミックグリーンシートとの剥離性にも優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る離型フィルムの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るセラミックグリーンシート製造用離型フィルム(以下、単に「離型フィルム」という場合がある。)1は、フィルム基材13と、フィルム基材13の第1の層11の表面111(
図1では上面)の上に積層された離型層14とを備えて構成される。そして、基材フィルム13は、基材フィルム13の第1の層11の表面111と反対側の表面を形成する第2の層12が存在することが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る離型フィルム1におけるフィルム基材13としては、特に制限はなく、従来公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このようなフィルム基材13としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0016】
また、このフィルム基材13においては、その第1の層11の表面111に設けられる離型層14との密着性を向上させる目的で、第1の層11の表面111に、酸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0017】
フィルム基材13の厚さは、通常10~250μmであればよく、好ましくは15~100μmであり、特に好ましくは20~50μmである。
【0018】
フィルム基材13の第1の層11の表面111における領域表面平均粗さ(Sa)は、2~40nmであることが好ましく、特に5~30nmであることが好ましい。また、フィルム基材13の第1の層11の表面111における最大突起高さ(Rp)は、10~500nmであることが好ましく、特に30~300nmであることが好ましい。フィルム基材13の第1の層11の表面111における領域表面平均粗さ(Sa)および最大突起高さ(Rp)を上記の範囲に設定することで、離型層14の表面における領域表面平均粗さ(Sa)および最大突起高さ(Rp)を後述する範囲内におさめることが容易となる。
【0019】
一方、フィルム基材13の第2の層12の表面112(第1の層の表面と反対側の面;
図1では下面;「裏面」という場合がある。)における領域表面平均粗さ(Sa)は、5~50nmであり、10~30nmであることが好ましい。また、フィルム基材13の第2の層12の表面112における最大突起高さ(Rp)は、30~1000nmであり、50~300nmであることが好ましい。
【0020】
フィルム基材13の第2の層12の表面112の領域表面平均粗さ(Sa)が5nm以上であると、当該第2の層の表面が平滑過ぎることがなく、離型フィルム1の巻き取り時にフィルム基材13の第2の層12の表面112と高平滑な離型層14とがブロッキングを起こすおそれがなく好ましい。一方、フィルム基材13の第2の層12の表面112の領域表面平均粗さ(Sa)が50nm以下であると、基材13の第2の層12の表面112の最大突起高さ(Rp)を上記の好ましい低い範囲におさめることが容易となり好ましい。
【0021】
フィルム基材13の第2の層12の表面112における最大突起高さ(Rp)が1000nm以下であると、セラミックグリーンシート成型後に巻き取ったときに、当該セラミックグリーンシートに密着するフィルム基材13の第2の層12の表面112の突起形状がセラミックグリーンシートに転写されることがなく、セラミックグリーンシートに部分的に薄くなるようなことがなく、当該セラミックグリーンシートを積層してコンデンサを作製したときに、短絡による不具合が生じるおそれがなく好ましい。一方、フィルム基材13の第2の層12の表面112の最大突起高さ(Rp)が30nm以上であると、フィルム基材13の第2の層12の表面112の凹凸が均一になり過ぎず、当該第2の層12の表面112が平坦になり過ぎないため、離型層14を形成する工程等で、フィルム基材13がロールに接する面で空気を巻き込みやすくなる。その結果、搬送しているフィルム基材13が蛇行することがなく、また、ロール状に巻き取る際に巻きずれを生じたりすることがなく好ましい。
【0022】
また、フィルム基材13の第2の層12の表面112における領域表面平均粗さ(Sa)および最大突起高さ(Rp)を上記のような範囲とすると、巻取り時の巻きずれを効果的に抑制することができるため、巻き取り張力を高める必要がなく、それにより、巻き取り張力に起因する巻き芯部の変形を抑制することが可能となる。
【0023】
なお、フィルム基材13の第1の層11の表面111と逆の面(第2の層12の表面112)に、後述する離型層14と同じ層を設けたり、または離型層14とは異なる層を設けたりしてもよい。
【0024】
フィルム基材13の第1の層11の表面111の最大突起高さ(Rp)と第2の層12の表面112の最大突起高さ(Rp)のいずれもが上記の好ましい範囲にあるフィルムを得るために、フィルム基材13として、フィルム基材13の第1の層の表面の最大突起高さ(Rp)と、第2の層12の表面112の最大突起高さ(Rp)とが異なる、すなわち表裏異粗度のものを使用してもよいし、第1の層11の表面111の最大突起高さ(Rp)と、第2の層12の表面112の最大突起高さ(Rp)とが実質的に同一の、すなわち表裏同粗度のものを使用してもよい。
【0025】
上記フィルム基材は、単層であっても2層以上の多層であっても構わないが、少なくとも片面には実質的に無機粒子を含まない第1の層を有することが好ましい。2層以上の多層構成からなる積層フィルムの場合は、実質的に無機粒子を含有しない第1の層の離型層とは反対側には、粒子などを含有することができる第2の層を有することが好ましい。積層構成としては、離型層を塗布する側の層を第1の層、その反対面の層を第2の層、これら以外の芯層を第3の層とすると、厚み方向の層構成は離型層/第1の層/第2の層、あるいは離型層/第1の層/第3の層/第2の層等の積層構造が挙げられる。当然ながら第3の層は複数の層構成であっても構わない。また、第2の層には粒子を含まないこともできる。その場合、フィルムをロール状に巻き取るための滑り性付与するため、第2の層上には粒子とバインダーを含んだコート層を設けることが好ましい。
【0026】
本発明におけるフィルム基材において、離型層を塗布する面を形成する第1の層は、実質的に無機粒子を含有しないことが好ましい。ここで、第1の層上に後述のアンカーコート層などを設ける場合は、コート層に実質的に無機粒子を含まないことが好ましく、コート層積層後の領域表面平均粗さ(Sa)が前記範囲に入ることが好ましい。本発明において、「無機粒子を実質的に含有しない」とは、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に無機粒子をフィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。
【0027】
本発明におけるフィルム基材において、離型層を塗布する面の反対面を形成する第2の層は、フィルムの滑り性や空気の抜けやすさの観点から、粒子を含有することが好ましく、特にシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子を用いることが好ましい。含有される粒子含有量は、第2の層中に粒子の合計で5000~15000ppm含有することが好ましい。シリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子の合計が5000ppm以上の場合には、フィルムをロール状に巻き上げるときに、空気を均一に逃がすことができ、巻き姿が良好で平面性良好により、超薄層セラミックグリーンシートの製造に好適なものとなる。また、シリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子の合計が15000ppm以下の場合には、滑剤の凝集が生じにくく、粗大突起ができないため、超薄層のセラミックグリーンシート製造時に品質が安定し好ましい。
【0028】
上記第2の層に含有する粒子としては、シリカ及び/又は炭酸カルシウム以外に不活性な無機粒子及び/又は耐熱性有機粒子などを用いることができる。透明性やコストの観点からシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子を用いることがより好ましいが、他に使用できる無機粒子としては、アルミナ-シリカ複合酸化物粒子、ヒドロキシアパタイト粒子などが挙げられる。また、耐熱性有機粒子としては、架橋ポリアクリル系粒子、架橋ポリスチレン粒子、ベンゾグアナミン系粒子などが挙げられる。またシリカ粒子を用いる場合、多孔質のコロイダルシリカが好ましく、炭酸カルシウム粒子を用いる場合は、ポリアクリル酸系の高分子化合物で表面処理を施した軽質炭酸カルシウムが、滑剤の脱落防止の観点から好ましい。
【0029】
上記第2の層に添加する粒子の平均粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下が好ましく、0.5μm以上1.0μm以下が特に好ましい。粒子の平均粒子径が0.1μm以上であれば、離型フィルムの滑り性が良好であり好ましい。また、平均粒子径が2.0μm以下であれば、離型層表面の粗大粒子によるセラミックグリーンシートにピンホールが発生するおそれがなく好ましい。
【0030】
上記第2の層には素材の異なる粒子を2種類以上含有させてもよい。また、同種の粒子で平均粒径の異なるものを含有させてもよい。
【0031】
なお、粒子の平均粒子径の測定方法は、加工後のフィルムの断面の粒子を透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察を行い、凝集していない粒子100個を観察し、各粒子の最大径を粒子径とし、その平均値をもって平均粒子径とする方法で行う。
【0032】
第2の層に粒子を含まない場合は、第2の層上に粒子を含んだコート層で易滑性を持たせることが好ましい。本コート層は、特に限定されないが、フィルムの製膜中に塗工するインラインコートで設けることが好ましい。第2の層に粒子を含まず、第2の層上に粒子を含むコート層を有する場合、コート層の表面は、上述の第2の層の領域表面平均粗さ(Sa)と同様の理由により、領域表面平均粗さ(Sa)が5~50nmの範囲であることが好ましい。
【0033】
上記離型層を設ける側の層である第1の層には、ピンホール低減の観点から、滑剤などの粒子の混入を防ぐため、再生原料などを使用しないことが好ましい。
【0034】
上記離型層を設ける側の層である第1の層の厚み比率は、基材フィルムの全層厚みの20%以上50%以下であることが好ましい。20%以上であれば、第2の層などに含まれる粒子の影響をフィルム内部から受けづらく、領域表面平均粗さSaが上記の範囲を満足することが容易であり好ましい。基材フィルムの全層の厚みの50%以下であると、第2の層における再生原料の使用比率を増やすことができ、環境負荷が小さくなり好ましい。
【0035】
また、経済性の観点から上記第1の層以外の層(第2の層もしくは前述の第3の層)には、50~90質量%のフィルム屑やペットボトルの再生原料を使用することができる。この場合でも、第2の層に含まれる滑剤の種類や量、粒径ならびに領域表面平均粗さ(Sa)は、上記の範囲を満足することが好ましい。
【0036】
また、後に塗布する離型層などの密着性を向上させたり、帯電を防止するなどのために第1の層及び/または第2の層の表面に製膜工程内の延伸前または一軸延伸後のフィルムにコート層を設けてもよく、コロナ処理などを施すこともできる。
【0037】
本実施形態に係る離型フィルム1における離型層14は、(メタ)アクリル酸エステルおよびシリコーン系成分を含む離型剤組成物(以下「離型剤組成物」という。)を硬化させた硬化物である。かかる離型剤組成物によれば、主として(メタ)アクリル酸エステルの硬化物によって、フィルム基材13の第1の層11の表面111に存在する突起相互間の凹部分を効果的に埋めて、得られる離型層14の表面を高平滑化することができ、また、シリコーン系成分またはその硬化物によって、離型層14の表面に適度な剥離性を付与することができる。さらに、離型フィルム1の製造の際に、活性エネルギー線の照射によって離型剤組成物の塗膜を硬化させることができるため、たとえば熱硬化性の離型剤組成物を用いた場合と比べ、基材の縮みや変形といったダメージの発生を抑制することができる。
【0038】
なお、従来のシリコーン樹脂系離型剤は、フィルム基材13の表面形状に追従し易く、離型剤組成物のような平滑化効果は得られない。従来より、特定の樹脂フィルム、特にポリエステル系フィルムにおいては、表面の易滑性や機械的強度を付与するために充填材の添加が必須であるが、フィルムの製膜方法の改良により、かかる充填材に起因した高さの高い突起の密度を小さくすることには限界があった。これに対し、上記のように(メタ)アクリル酸エステルの硬化物によって離型層14の表面を高平滑化することにより、離型層14の表面における高さの高い突起の密度を低減し、高度に平滑な表面を有する離型フィルム1を得ることができる。また、従来のシリコーン樹脂系離型剤によって形成した離型層は、弾性率が低く変形し易いため、成型したセラミックグリーンシートを剥離する際に、離型層が変形してセラミックグリーンシートに追従し、それにより剥離力が増大して、セラミックグリーンシートを正常に剥離できないことがある。
【0039】
離型剤組成物の(メタ)アクリル酸エステルは、本発明の効果を妨げることなく、活性エネルギー線の照射によって硬化する成分であれば特に制限されず、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよいし、それらの混合物であってもよい。この(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレート系化合物とは、アクリレート系化合物およびメタクリレート系化合物の両方を意味する。他の類似用語も同様である。離型層14の主成分が(メタ)アクリル酸エステル系成分の硬化物であると、当該離型層14において、セラミックスラリーのはじきが発生し難くなる。
【0040】
(メタ)アクリレート系化合物としては、多官能の(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリレートオリゴマーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリレートオリゴマーから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、さらには、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。3官能以上であることで、離型剤組成物の硬化性が優れたものとなり、また、得られる離型層14の表面の剥離性がより優れたものとなる。更に好ましくは6官能以上、特に好ましくは7官能以上、最も好ましくは9官能以上である。官能基数に特に上限はないが、20以下であることが好ましい。20以下とすることで、分子間の架橋反応よりも分子内反応が進行しやすくなり、架橋密度向上の効果が得られなくなるおそれがなく好ましい。
【0041】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエーテルアクリレート系オリゴマー、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマー、シリコーンアクリレート系オリゴマー等が挙げられる。
【0043】
ポリエステルアクリレート系オリゴマーは、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0044】
エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、エポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。
【0045】
ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0046】
ポリエーテルアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0047】
上記の多官能(メタ)アクリレートモノマーおよび多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、それぞれ1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、多官能(メタ)アクリレートモノマーと多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとを組み合わせて用いることもできる。
【0048】
離型剤組成物において、(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
離型剤組成物のシリコーン系成分は、本発明の効果を妨げることなく、離型層14の表面に所望の剥離性を付与することができるものであれば特に制限されず、ポリオルガノシロキサン、好ましくは反応性官能基を有するポリオルガノシロキサン、特に好ましくは反応性官能基を有するポリジメチルシロキサンが使用されるが、(メタ)アクリル酸エステルとの相溶性があるポリジメチルシロキサンの組み合わせが好ましいものといえる。相溶性に劣る組み合わせの場合、ポリオルガノシロキサンが離型層表面に遊離し活性エネルギー硬化性成分との反応性が低下するため、優れた離型性を示すように見えるが、セラミックコンデンサグリーンシート製造工程及び電極印刷工程に用いると、それらスラリーの希釈溶剤によりポリオルガノシロキサンが浸食され、セラミックコンデンサグリーンシート製造用離型フィルムを剥離する際、重剥離や剥離不能となる。一方、完全に相溶した場合、ポリオルガノシロキサンが表面に遊離する量が極端に低下し、剥離力が低下しない。適度な相溶性となることで、ポリオルガノシロキサンの反応性官能基が、活性エネルギー線硬化性樹脂と反応して、ポリオルガノシロキサン(シリコーン系成分)が架橋構造に組み込まれ、固定されることとなる。これにより、離型層14中のシリコーン系成分が、離型層14上に成型されたセラミックグリーンシートに転着することが抑制される。
【0050】
離型剤組成物のシリコーン系成分としてのポリオルガノシロキサンとバインダーである(メタ)アクリル酸エステルとの相溶性を調整する方法としては、シリコーン主鎖であるポリジメチルシロキサンと比べ、バインダーである(メタ)アクリル酸エステルとの相溶性に優れるアクリル主鎖の側鎖にポリジメチルシロキサンが付加されたタイプを選定する方法が挙げられる。また、シリコーン主鎖であるポリジメチルシロキサンであっても、適切な極性を持つポリオルガノシロキサンを選択することでバインダーとの適度な相溶性を達成できる。ポリオルガノシロキサンの極性は、例えばBYKコーティング・インキ用添加剤カタログ(2016.06(第44版))などを参考にすることができる。
【0051】
離型剤組成物のシリコーン系成分の主鎖がポリオルガノシロキサンの場合、反応性官能基は、ポリオルガノシロキサンの片末端に導入されていてもよいし、両末端に導入されていてもよいし、側鎖に導入されていてもよい。反応性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、マレイミド基、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、水酸基等が挙げられ、中でも、上記(メタ)アクリル酸エステルの硬化時(活性エネルギー線照射時)に同時に硬化が可能である(メタ)アクリロイル基、ビニル基およびマレイミド基が好ましい。これらの反応性官能基は、ポリオルガノシロキサン1分子中に、少なくとも2つ以上導入されていることが好ましい。また、これらの反応性官能基は、ポリオルガノシロキサン1分子中に、2種以上導入されていてもよい。
【0052】
本発明で用いる主鎖がポリオルガノシロキサンである離型剤としては、市販のものを用いることもできる。市販されているものとしては、BYK-UV3505, BYK-UV3575, BYK-UV3500(BYK社製)などが例として挙げられる。本発明では、使用するバインダー種によって、相溶性を向上させるために適切なポリオルガノシロキサン種を選定することが好ましい。
【0053】
離型剤組成物のシリコーン系成分の主鎖がアクリルの場合、一分子内に(メタ)アクリロイル基とポリオルガノシロキサン基を有する紫外線硬化型アクリル共重合ポリマーを用いることが好ましい。
【0054】
離型剤として、一分子内に(メタ)アクリロイル基とポリオルガノシロキサン基を有する紫外線線硬化型アクリル共重合ポリマーを用いる場合、ポリジメチルシロキサンに代表されるシリコーン系オイルなどと比べて、アクリル部位を多く有するためバインダー成分との相溶性が向上し、離型層加工工程にてバインダー成分と離型剤の硬化性が良くなり未反応の離型剤が少なくなるため好ましい。さらに、一分子内に(メタ)アクリロイル基とポリオルガノシロキサン基を有する紫外線硬化型アクリル共重合ポリマーを用いることで、バインダー成分と離型剤の間で架橋構造が形成されるだけでなく、水素結合やファンデルワールス力などの分子間相互作用も形成されるため、有機溶剤によって離型層が浸食されるおそれがなく好ましい。本明細書中では、一分子内に(メタ)アクリロイル基とポリオルガノシロキサン基を有する紫外線線硬化型アクリル共重合ポリマーは、以下(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーンとも表記することがある。
【0055】
本発明で用いる紫外線硬化型アクリル共重合ポリマーは、市販のものを用いることもできる。市販されているものとしては、GL-02R、GL-04R(以上、共栄社化学社製)、8SS-723(大成ファインケミカル社製)、TA37-400A(日立化成社製)などが例として挙げられる。
【0056】
なお、離型剤組成物において、シリコーン系成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
離型剤組成物中におけるシリコーン系成分の、(メタ)アクリル酸エステルおよびシリコーン系成分の合計質量に対する質量割合は、0.2~5質量%であることが好ましく、特に1.0~2.5質量%であることが好ましい。また、離型層表面のジヨードメタン接触角θ1と前記離型フィルムをトルエン浸漬した後の離型層表面のジヨードメタン接触角θ2の差(θ1-θ2)が絶対値として3.0°以下になるような組成とシリコーン系成分の質量割合を上記の範囲にすることで、離型層14の表面にセラミックスラリーをはじくことなく塗布することができ、かつ、形成されたセラミックグリーンシートを破断させることなく容易に剥離することができ、離型層14が剥離性に優れたものとなる。シリコーン系成分の質量割合が0.2質量%以上であると、離型層14が十分な剥離性能を発揮できて好ましい。一方、シリコーン系成分の質量割合が5質量%以下であると、離型層14が硬化し易く、また、離型層14の弾性率が高くなり好ましい。さらには、離型層14の表面にセラミックスラリーを塗布したときに、セラミックスラリーをはじきにくく好ましい。また、離型層14が硬化し易くなり、剥離性においても好ましい。
【0058】
離型剤組成物中に含まれる固形分の全質量に占める(メタ)アクリル酸エステルおよびシリコーン系成分の合計質量の質量割合は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステルおよびシリコーン系成分の合計質量の質量割合が、上記範囲にあることで、形成される離型層14の表面を高平滑とし、かつ、離型剤組成物の十分な硬化性を得ることがより容易となる。
【0059】
ここで、離型剤組成物に対して照射する活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、離型剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。このように光重合開始剤を含有することにより、(メタ)アクリル酸エステル(およびシリコーン系成分)を効率良く硬化させることができ、また重合硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0060】
光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、(2,4,6-トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2-ベンゾチアゾール-N,N-ジエチルジチオカルバメート等が挙げられる。特に、表面硬化性に優れるとされる、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オンが好ましく、中でも2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オンが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
光重合開始剤は、(メタ)アクリル酸エステルおよび活性エネルギー線硬化性を有するシリコーン系成分(例えば、反応性官能基として(メタ)アクリロイル基、ビニル基またはマレイミド基を有するポリオルガノシロキサン)の合計100質量部に対して、1~20質量部、特に3~15質量部の範囲の量で用いられることが好ましい。
【0062】
離型層14を構成する離型剤(離型剤組成物を含む)は、必要に応じて、シリカ、帯電防止剤、染料、顔料その他の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、(メタ)アクリル酸エステルおよびシリコーン成分の合計100質量部に対して、0.1~50質量部の範囲の量で用いられることが好ましい。
【0063】
離型層14の厚さは、0.2~2μmであることが好ましく、特に0.5~1.5μmであることが好ましい。離型層14の厚さが0.5μm未満であると、離型層の硬化時に酸素阻害が発生し、十分な弾性率が得られないため、不活性ガス環境下で硬化させることが好ましい。一方、離型層14の厚さが2μmを超えると、離型層14の硬化収縮により離型フィルム1にカールが発生し易くなるおそれがある。また、離型フィルム1をロール状に巻き取った際に、基材13の第2の層の表面とブロッキングが発生し易いために、巻き取り不良が生じたり、巻き出し時の帯電量が増大して、異物が付着し易くなったりするおそれがある。
【0064】
離型層14は、基材13の第1の層の表面に、離型剤および所望により希釈剤等を含有する離型剤溶液を塗布した後、必要に応じて乾燥し、活性エネルギー線の照射により硬化させることで形成することができる。シリコーン系成分の反応性官能基が熱により反応するものである場合には、このときの乾燥により反応を起こさせ、シリコーン系成分を架橋構造に組み込むことができる。離型剤溶液の塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等が使用できる。
【0065】
活性エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられる。活性エネルギー線の照射量は、エネルギー線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で50~1000mJ/cm2が好ましく、特に100~500mJ/cm2が好ましい。また、電子線の場合には、10~500kGy程度が好ましい。
【0066】
上記活性エネルギー線の照射により、離型剤組成物中の(メタ)アクリル酸エステルは硬化する。また、離型剤組成物中のシリコーン系成分が活性エネルギー線硬化性の反応性基を有する場合には、当該シリコーン系成分も硬化する。これにより、高平滑で、セラミックスラリーがはじき難く、かつセラミックグリーンシートの剥離性に優れた離型層14が形成される。
【0067】
本実施形態に係る離型フィルム1において、セラミックスラリーが成型される面である離型層14の表面(
図1では上面)における領域表面平均粗さ(Sa)は8nm以下であり、かつ最大突起高さ(Rp)は50nm以下である。本明細書における領域表面平均粗さ(Sa)および最大突起高さ(Rp)は、非接触表面形状計測システム(菱化システム社製、VertScan R550H-M100)を使用して測定した値とする。
【0068】
離型層14の表面の領域表面平均粗さ(Sa)および最大突起高さ(Rp)を上記のような範囲とすることで、離型層14の表面を十分に高平滑なものにすることができ、例えば厚さ1μm未満の薄膜セラミックグリーンシートを当該離型層14の表面に成型したときにも、薄膜セラミックグリーンシートにはピンホールや厚みむら等の欠陥が発生しにくく、良好なシート成型性が示される。また、離型層14の表面の領域表面平均粗さ(Sa)および最大突起高さ(Rp)を上記のような範囲とすることで、セラミックグリーンシートの剥離性も優れたものとなり、例えば厚さ1μm未満の薄膜セラミックグリーンシートを離型層14から剥離するときにも、セラミックグリーンシートは破断し難い。これらの優れた効果は、特許文献1のように離型層14の最大高さ(Rmax)を規定するだけでは得られない。
【0069】
離型層14の表面特性は、ポリオルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸エステルが紫外線照射により硬化する際に、(メタ)アクリル酸エステルの硬化物の架橋構造に組み込まれて固定されるが、(メタ)アクリル酸エステルとの相性が悪いと十分に固定されず、セラミックスラリー塗布時や、電極印刷工程後に重剥離化するなどの問題が発生する。そのため、離型層の表面121のジヨードメタン接触角θ1と前記離型フィルムをトルエン浸漬した後の離型層の表面121のジヨードメタン接触角θ2の差(θ1-θ2)が絶対値として3.0°以下であることが必要となる。(メタ)アクリル酸エステルとシリコーン系成分の相性が良いとジヨードメタン接触角θ2の差(θ1-θ2)の絶対値が3.0以下となり、セラミックグリーンシート製造工程に依存せず、一定した剥離力が得られるため好ましい。
【0070】
離型層14の表面の領域表面平均粗さ(Sa)は、好ましくは7nm以下であり、特に好ましくは5nm以下である。また、離型層14の表面の最大突起高さ(Rp)は、好ましくは50nm以下であり、特に好ましくは30nm以下である。
【0071】
離型層14のナノインデンテーション試験により測定される弾性率は、4.0GPa以上であり、好ましくは4.2GPa以上である。離型層14の弾性率が4.0GPa以上であることにより、離型層14が変形し難くなるため、離型層14からセラミックグリーンシートを剥離する際に、離型層14がセラミックグリーンシートに追従し難くなり、それにより、セラミックグリーンシートを正常に剥離することができる。一方、離型層14の弾性率が4.0GPa以上であると、離型層14からセラミックグリーンシートを剥離する際に、離型層14が変形するおそれがなくセラミックグリーンシートに追従しにくくなるため、剥離力が低減し、セラミックグリーンシートを正常に剥離できて好ましい。上記のような高い弾性率は、離型層14の形成に離型剤組成物を使用し、(メタ)アクリル酸エステルの種類および配合量を適宜に選択、設定することによって好ましく達成することができる。
【0072】
なお、本明細書における離型層の弾性率の測定は、23℃の雰囲気下、ナノインデンテーション試験により行われる。具体的には、アルミニウム製の台座に接着したガラス板上に、10mm×10mmサイズに裁断した離型フィルム1の基材の裏面側を2液系エポキシ接着剤で固定し、微小硬度評価装置を使用(試験例では、MTS社製の「NanoIndenter SA2」を使用)して行う。
【0073】
セラミックグリーンシートの製造工程で上記のような離型フィルム1を使用することにより、得られるセラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生することを効果的に防止・抑制することができるとともに、離型フィルム1からセラミックグリーンシートを剥離するときにも、セラミックグリーンシートが破断する等の不具合が発生することを効果的に防止・抑制することができる。
【0074】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0075】
例えば、上記のように、基材13と離型層14との間や、基材13の第2の層12の表面112には、他の層が存在していてもよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0077】
(積層フィルムX1)
基材13の第一の層11の表面111に実質的に無機粒子を含有していない、厚み31μmの二軸配向ポリエステルフィルムを使用した。第1の層の表面の領域表面平均粗さ(Sa)は2nm、最大突起高さ(Rp)は25nm、第2の層の表面の領域表面平均粗さ(Sa)は28nm、最大突起高さ(Rp)は740nmであった。
【0078】
(積層フィルムX2)
厚み25μmのポリエステルフィルム(東洋紡エステル(登録商標)フィルムE5101、東洋紡社製)を使用した。E5101は、フィルム中に無機粒子を含有した構成になっている。積層フィルムX2の第1の層の表面の領域表面平均粗さ(Sa)は24nm、最大突起高さ(Rp)は770nm、第2の層の表面の領域表面平均粗さ(Sa)は24nm、最大突起高さ(Rp)は770nmであった。
【0079】
(実施例1)
積層フィルムX1の第1の層の表面111に以下に示す組成の塗布液を、ワイヤーバーを用いて乾燥後の離型層膜厚が0.8μmになるように塗工し、90℃で15秒乾燥した後、紫外線照射機(ヘレウス社製、LC6B、Hバルブ)を用いて、積算光量が70mJ/cm2の紫外線を照射することでセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。得られた離型フィルムにセラミックスラリーを塗工し、離型層表面粗さ、弾性率、トルエン浸漬前後の接触角変化、カール、ブロッキング性、スラリー塗工性、剥離性などを評価したところ、良好な評価結果が得られた。
イソプロピルアルコール 59.40質量部
メチルエチルケトン 19.80質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 19.00質量部
(製品名:A-DPH、新中村化学工業社製、固形分100質量%)
(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーン 1.00質量部
(製品名:GL-04R、共栄社化学社製、固形分20%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0080】
(実施例2)
(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーンをアクリロイル基含有ポリジメチルシロキサン(製品名:BYK-UV3505、ビッグケミー・ジャパン社製)に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
【0081】
(実施例3)
(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーンをアクリロイル基含有変性ポリジメチルシロキサン(製品名:BYK-UV3575、ビッグケミー・ジャパン社製)に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
【0082】
(実施例4)
(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーンをシリコーン変性UV硬化型剥離剤(製品名:TA37-400A、日立化成社製)に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
【0083】
(実施例5)
下記に示す組成の塗布液に変更し、膜厚が2μmになるように塗工した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
イソプロピルアルコール 60.00質量部
メチルエチルケトン 20.00質量部
3官能アクリレート 19.00質量部
(製品名:A-TMMT-3、新中村化学工業社製、固形分100質量%)
アクリロイル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン 0.20質量部
(製品名:BYK-UV3500、ビッグケミージャパン社製、固形分100%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0084】
(実施例6)
下記に示す組成の塗布液に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
イソプロピルアルコール 60.00質量部
メチルエチルケトン 20.00質量部
10官能ウレタンアクリレート 19.00質量部
(製品名:UV1700B、日本合成化学工業社製、固形分100質量%)
アクリロイル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン 0.20質量部
(製品名:BYK-UV3500、ビッグケミージャパン社製、固形分100%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0085】
(実施例7)
下記に示す組成の塗布液に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
イソプロピルアルコール 59.40質量部
メチルエチルケトン 19.80質量部
10官能ウレタンアクリレート 19.00質量部
(製品名:UV1700B、日本合成化学工業社製、固形分100質量%)
(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーン 1.00質量部
(製品名:GL-04R、共栄社化学社製、固形分20%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0086】
(実施例8)
下記に示す組成の塗布液に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
イソプロピルアルコール 59.85質量部
メチルエチルケトン 19.95質量部
10官能ウレタンアクリレート 19.00質量部
(製品名:UV1700B、日本合成化学工業社製、固形分100質量%)
アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーン 0.40質量部
(製品名:8SS-723、大成ファインケミカル社製、固形分50%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0087】
(実施例9)
下記に示す組成の塗布液に変更した以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
イソプロピルアルコール 59.40質量部
メチルエチルケトン 19.80質量部
15官能ウレタンアクリレート 19.00質量部
(製品名:8UX-015A、大成ファインケミカル社製、固形分100質量%)
(メタ)アクリロイル基含有共重合アクリルシリコーン 1.00質量部
(製品名:GL-04R、共栄社化学社製、固形分20%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0088】
(実施例10)
離型層の膜厚が0.5μmになるように塗工した以外は、実施例7と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
【0089】
(実施例11)
離型層の膜厚が0.2μmになるように塗工した以外は、実施例7と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
【0090】
(実施例12)
基材13として積層フィルムX2を用いた以外は、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。
【0091】
(比較例1)
下記に示した組成である塗布液に変更した以外は、実施例1と同様にして超薄層セラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。比較例1ではバインダーとして用いたジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとアクリロイル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの相溶性が悪いためか、離型層表面付近の耐溶剤性が悪くなった。
イソプロピルアルコール 60.00質量部
メチルエチルケトン 20.00質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 19.00質量部
(製品名:A-DPH、新中村化学工業社製、固形分100質量%)
アクリロイル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン 0.20質量部
(製品名:BYK-UV3500、ビッグケミー・ジャパン社製、固形分100%)
α-アミノアルキルフェノン 0.80質量部
(製品名:IRGACURE907、BASF社製、有効成分100%)
【0092】
(比較例2)
剥離剤層の厚さを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。比較例2では離型層厚みが薄く、ラジカル重合特有の表面硬化阻害が顕著に発生したためか、離型層の弾性率が低くなった。そのため、剥離力が重くなった。
【0093】
(比較例3)
剥離剤組成物Cにおける(メタ)アクリル酸エステルとシリコーン系成分の質量割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを作製した。比較例3ではシリコーン系成分の質量割合が多いため、離型層の弾性率が低下し、離型層表面の耐溶剤性も悪化した。そのため、剥離力が重くなった。
【0094】
(比較例4)
熱硬化付加反応型シリコーン(製品名:KS-847H、信越化学工業社製,固形分濃度30%)100質量部をトルエンで希釈し、これに白金触媒(信越化学工業社製,CAT-PL-50T)2質量部を混合し、固形分が5.0質量%の剥離剤溶液を調製した。得られた剥離剤溶液を、形成される剥離剤層の乾燥後の厚さが0.3μmとなるように、実施例1と同じ基材の一方の面(第1の層の表面)に均一に塗布し、140℃で1分間乾燥させて剥離剤層を形成し、これを剥離フィルムとした。比較例4ではシリコーン系成分が主体であるため、離型層の弾性率が顕著に低く、耐溶剤性も顕著に悪くなった。そのため、剥離力が重すぎて剥離できなかった。
【0095】
〔試験例1〕(離型層の厚さ測定)
実施例および比較例で得られた離型フィルムの離型層の厚さ(μm)を、反射式膜厚計(フィルメトリックス社製,F20)を使用して測定した。具体的には、実施例および比較例で得られた離型フィルムを100×100mmに裁断した後、測定する側の面の反対面が吸引ステージ側となるように離型フィルムを膜厚計に設置し、離型層表面の10ヵ所について膜厚を測定し、その平均値を離型層の厚さとした。結果を表1に示す。
【0096】
〔試験例2〕(表面粗さの測定)
非接触表面形状計測システム(菱化システム社製、VertScan R550H-M100)を用いて、下記の条件で測定した値である。領域表面平均粗さ(Sa)は、5回測定の平均値を採用し、最大突起高さ(Rp)は7回測定し最大値と最小値を除いた5回の最大値を使用した。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:10倍
・0.5×Tubeレンズ
・測定面積 936μm×702μm
(解析条件)
・面補正: 4次補正
・補間処理: 完全補間
【0097】
〔試験例3〕(弾性率測定)
実施例および比較例で得られた離型フィルムを10mm×10mmサイズに裁断し、次いで、アルミニウム製の台座に接着したガラス板上に、裁断した離型フィルムの基材裏面を2液系エポキシ接着剤で固定した。そして、微小硬度評価装置(MTS社製,NanoIndenter SA2)を使用して、圧子の最大押し込み深さ100nm、歪速度0.05sec-1、変位振幅2nm、振動周波数45Hz、23℃の雰囲気下にてナノインデンテーション試験を行い、上記離型フィルムの離型層の弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
〔試験例4〕(離型層の接触角変化評価)
実施例および比較例で得られた離型フィルムについて、25℃、50%RHの条件下で接触角計(協和界面科学社製、全自動接触角計 DM-701)を用いて、静置した離型フィルムの離型層表面上にジヨードメタン(液滴量0.9μL)の液滴を作成しその接触角を測定した。接触角は離型フィルム上に滴下後30秒後の接触角を採用し、5回測定した値の平均値を採用した。
次いで、測定に用いる離型フィルムを5cm×5cmの大きさに切り取り、液温25℃のトルエン30mLが入ったガラス製のトレーの中に、離型層表面を下にして5分間浸漬させた。浸漬した離型フィルムを取り出し離型層表面を上にして15分間風乾した後、25℃で1晩真空乾燥させた。こうして得たトルエン浸漬後の離型フィルムを前記接触角の測定方法と同様の方法にて測定した。
前記方法にて測定したトルエン浸漬前の初期の離型層表面のジヨードメタン接触角をθ1、トルエン浸漬後の離型層表面のジヨードメタン接触角をθ2とした時の、θ1-θ2の絶対値の値をトルエン浸漬前後の接触角変化の値とした。以下の基準で接触角変化の評価を行った。
◎:|θ1―θ2| < 1.0°
○:1.0°≦ |θ1―θ2| < 2.0°
△:2.0°≦ |θ1―θ2| ≦ 3.0°
×:|θ1―θ2|> 3.0°
【0099】
〔試験例5〕(カール評価)
実施例および比較例で得られた離型フィルムを200×200mmに裁断した後、基材がガラス板側となるように、離型フィルムを平坦なガラス板の上に載置した。次いで、100×100mmのガラス板を離型フィルムの離型層上の中央に載置した後、下側のガラス板の上面から離型フィルムの各角部頂点までの高さを測定し、以下の判断基準でカールを評価した。結果を表1に示す。
○…各角部の高さの総和が50mm未満
△…各角部の高さの総和が50mm以上、100mm未満
×…各角部の高さの総和が100mm以上
【0100】
〔試験例6〕(ブロッキング性評価)
実施例および比較例で得られた離型フィルムを、幅400mm、長さ5000mのロール状に巻き上げた。この離型フィルムロールを40℃、湿度50%以下の環境下に30日間保管し、離型フィルムロールそのままの状態での外観を目視にて観察し、以下の判断基準でブロッキング性を評価した。結果を表1に示す。
○…ロール状に巻き上げたときから変化がなかった(ブロッキング無し)
△…幅方向における半分以下の領域にて、フィルム同士の密着に起因する色目の変化が見られた(ブロッキング若干有り)
×…幅方向における過半の領域にわたって、フィルム同士の密着に起因する色目の変化が見られた(ブロッキング有り)
【0101】
〔試験例7〕(スラリー塗工性評価(ピンホール評価))
下記、材料からなる組成物を攪拌混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを分散質とするビーズミルを用いて30分間分散し、セラミックスラリーを得た。
トルエン 76.3質量部
エタノール 76.3質量部
チタン酸バリウム(富士チタン社製 HPBT-1) 35.0質量部
ポリビニルブチラール 3.5質量部
(積水化学社製 エスレック(登録商標)BM-S)
DOP(フタル酸ジオクチル) 1.8質量部
次いで得られた離型フィルムサンプルの離型面にアプリケーターを用いて乾燥後のスラリーが0.8μmの厚みになるように塗布し90℃で1分乾燥後、離型フィルムを剥離し、セラミックグリーンシートを得た。
得られたセラミックグリーンシートのフィルム幅方向の中央領域において25cm2の範囲でセラミックスラリーの塗布面の反対面から光を当て、光が透過して見えるピンホールの発生状況を観察し、下記基準で目視判定した。測定は5回実施し、その平均値を採用した。
◎:ピンホールの発生なし
○:ピンホールの発生がほぼなし(目安:ピンホールが測定面積当たり2個以下)
△:ピンホールの発生があり(目安:ピンホールが測定面積当たり5個以下)
×:ピンホールの発生が多数あり
【0102】
〔試験例8〕(剥離性評価)
下記、材料からなる組成物を攪拌混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを分散質とするビーズミルを用いて60分間分散し、セラミックスラリーを得た。
トルエン 38.3質量部
エタノール 38.3質量部
チタン酸バリウム(富士チタン社製 HPBT-1) 64.8質量部
ポリビニルブチラール 6.5質量部
(積水化学社製 エスレック(登録商標)BM-S)
DOP(フタル酸ジオクチル) 3.3質量部
次いで得られた離型フィルムサンプルの離型面にアプリケーターを用いて乾燥後のスラリーが10μmの厚みになるように塗布し90℃で2分乾燥しセラミックグリーンシートを離型フィルム上に成型した。得られたセラミックグリーンシート付き離型フィルムを除電機(キーエンス社製、SJ-F020)を用いて除電した後に、剥離試験機(協和界面科学社製、VPA-3)を用いて、30mmの幅で剥離角度90度、剥離速度10m/minで剥離した。剥離はセラミックグリーンシート面を固定し、離型フィルム面を引っ張る方向で剥離した。この時の剥離時にかかる応力を測定し剥離力とした。以下の基準でセラミックグリーンシートの剥離性の評価を行った。
◎:剥離力が2.0mN/mm2以下の非常に軽い力で剥離できた。
○:剥離力が2.0mN/mm2よりも大きく、3.0mN/mm2以下の比較的軽い力で剥離できた。
△:剥離力が3.0mN/mm2よりも大きく、4.0mN/mm2以下の軽い力で剥離できた。
×:剥離力が4.0mN/mm2よりも大きい力を必要であった。
【0103】
【0104】
【0105】
表1、2から明らかなように、実施例で得られた離型フィルムは、離型層表面による欠陥も、基材裏面による欠陥もなく、また、セラミックグリーンシートの剥離性も優れていた。
【0106】
表1、2に示すように、(メタ)アクリル酸エステルとシリコーン系成分の組み合わせによって、トルエン浸漬前後のジヨードメタンの接触角変化|θ1-θ2|の値に違いが見られた。実施例1~12では、トルエン浸漬前後のジヨードメタンの接触角変化|θ1-θ2|は3.0°以下であり、セラミックグリーンシート加工時の有機溶剤による離型層の浸食がなく、低い力で剥離することができた。一方で比較例2~4は離型層表面の弾性率が低かった。また、比較例1、3、4は、トルエン浸漬前後のジヨードメタンの接触角変化|θ1-θ2|が3.0°よりも大きく、セラミックグリーンシート加工時の有機溶剤によって離型層が浸食され、剥離する力が増大した。
【0107】
セラミックグリーンシートの上に内部電極を印刷したところ、実施例1~12は、内部電極付きセラミックグリーンシートを剥離する力に変化は見られなかった。一方で、比較例1~4では、内部電極付きセラミックグリーンシートを満足に剥離できないか、または、剥離する力が増大した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のセラミックグリーンシート製造用離型フィルムは、特に厚さ1μm以下の薄膜セラミックグリーンシートを成型するのに好適である。
【符号の説明】
【0109】
1 : 離型フィルム
11 : 第1の層
12 : 第2の層
13 : フィルム基材
14 : 離型層
111 : 第1の層の表面
112 : 第2の層の表面
121 : 離型層の表面