(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】弦楽器用板材
(51)【国際特許分類】
G10D 3/22 20200101AFI20231129BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20231129BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20231129BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20231129BHJP
G10C 3/06 20060101ALI20231129BHJP
G10D 1/00 20200101ALI20231129BHJP
G10D 1/08 20060101ALI20231129BHJP
G10D 3/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G10D3/22
B32B3/24
B32B5/02 A
B32B5/24 101
G10C3/06 100
G10D1/00
G10D1/08
G10D3/02
(21)【出願番号】P 2022133656
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2017232001の分割
【原出願日】2017-12-01
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】松田 亜寿美
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智矢
(72)【発明者】
【氏名】小林 和幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 康敬
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-057894(JP,A)
【文献】実開昭56-134090(JP,U)
【文献】特開昭63-060743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 3/22
B32B 3/24
B32B 5/02
B32B 5/24
G10C 3/06
G10D 1/00
G10D 1/08
G10D 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1繊維層と、
前記第1繊維層の両面側に積層される一対の第1基材層と、
前記一対の第1基材層の外面側に積層される一対の第2繊維層と
を備え、
前記第1繊維層及び前記第2繊維層がそれぞれ、繊維とバインダーとを有し、
前記繊維が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維であり、
前記第1基材層が、木材層である弦楽器用板材。
【請求項2】
前記第1繊維層の平均厚さ及び前記第2繊維層の平均厚さは、前記第1基材層の平均厚さよりも小さい請求項1に記載の弦楽器用板材。
【請求項3】
前記弦楽器用板材の平均厚さは1.5mm以上である請求項1又は請求項2に記載の弦楽器用板材。
【請求項4】
前記第1基材層の平均厚さは1mm以上であり、前記第1繊維層の平均厚さは70μm以上であり、前記第2繊維層の平均厚さは70μm以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の弦楽器用板材。
【請求項5】
前記一対の第2繊維層に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分が同じである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の弦楽器用板材。
【請求項6】
前記一対の第2繊維層は同じ厚さである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の弦楽器用板材。
【請求項7】
前記一対の第1基材層の形成材料及び厚さは同じである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の弦楽器用板材。
【請求項8】
前記第1基材層の木理方向と前記第1繊維層における前記繊維の配向方向とが一致する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の弦楽器用板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器用板材に関する。
【背景技術】
【0002】
弦楽器等の楽器には振動を伝播するための振動板として板材が用いられている。この板材は、例えば木材によって構成される。しかしながら、この木材によって構成される板材は、湿度の変化に起因して変形しやすく、この変形によって音響特性が低下するおそれがある。
【0003】
このような問題に鑑みて、今日では「弦楽器トップ部材」(特開2001-356759号公報参照)が発案されている。この公報に記載のトップ部材は、木材層と、この木材層の両面側に積層される一対の複合材料層とを備え、この一対の複合材料層が織物状のカーボン繊維を含んでいる。このトップ部材は、前記一対の複合材料層がカーボン繊維を含むことによって強度及び耐候性を高めることができ、これによりトップ部材の変形を抑えることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記公報に記載のトップ部材のようにカーボン繊維を含む複合材料層によって木材を補強すると、トップ部材の強度及び耐候性は一定程度高めることはできる一方、振動特性が木材とかけ離れたものとなるおそれがある。そのため、このトップ部材によると、音響特性が低下して、奏者が所望する音色を発し難くなるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、強度及び耐候性を高めつつ、木材の振動特性に近い振動特性を発揮することができる楽器用板材及び楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、第1繊維層と、前記第1繊維層の両面側に積層される一対の第1基材層と、前記一対の第1基材層の外面側に積層される一対の第2繊維層とを備え、前記第1繊維層及び前記第2繊維層がそれぞれ、繊維とバインダーとを有し、前記繊維が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維であり、前記第1基材層が、木材層である弦楽器用板材である。なお、楽器用板材における「外面側」とは、第1繊維層を基準とした厚さ方向の外側を意味する。
【0008】
前記第1繊維層の平均厚さ及び前記第2繊維層の平均厚さは、前記第1基材層の平均厚さよりも小さいとよい。
【0009】
前記弦楽器用板材の平均厚さは1.5mm以上であるとよい。
【0010】
前記第1基材層の平均厚さは1mm以上であり、前記第1繊維層の平均厚さは70μm以上であり、前記第2繊維層の平均厚さは70μm以上であるとよい。
【0011】
前記一対の第2繊維層に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分が同じであるとよい。
【0012】
前記一対の第2繊維層は同じ厚さであるとよい。
【0013】
前記一対の第1基材層の形成材料及び厚さは同じであるとよい。
【0014】
前記第1基材層の木理方向と前記第1繊維層における前記繊維の配向方向とが一致するとよい。
【0015】
なお、本発明において、「主成分」とは、質量換算で最も含有量の多い成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る弦楽器用板材は、第1繊維層が繊維とバインダーとを有し、前記繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維であるので、前記第1繊維層によって強度を高めることができる。また、当該弦楽器用板材は、前記第1繊維層が前述の構成を有するので、この第1繊維層は不透水性に優れる。そのため、当該弦楽器用板材は、前記第1繊維層によって水分が第1基材層まで到達することを妨げることができ、これにより耐候性を高めることができる。さらに、本発明者らの知見によると、前記第1繊維層が繊維とバインダーとを有し、前記繊維が前記種類の繊維であることで、この第1繊維層の減衰率を木材の減衰率に近づけることができる。そのため、当該弦楽器用板材は、木材の振動特性に近い振動特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図2】
図1の楽器用板材を備える弦楽器を示す模式的斜視図である。
【
図3】
図1の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図4】
図1及び
図3の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図5】
図1、
図3及び
図4の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図6】
図1、
図3~
図5の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図7】
図1、
図3~
図6の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図8】
図1、
図3~
図7の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【
図9】
図1、
図3~
図8の楽器用板材とは異なる実施形態に係る楽器用板材を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0019】
[第一実施形態]
<楽器用板材>
図1の楽器用板材1は、第1繊維層2と、第1繊維層2の一方の面側に積層される第1基材層3とを備える。第1繊維層2及び第1基材層3は直接積層されている。当該楽器用板材1は、第1繊維層2及び第1基材層3の2層構造体である。第1繊維層2は、繊維とバインダーとを有し、前記繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維である。第1基材層3は、木材を主成分とする木材層である。当該楽器用板材1は、第1基材層3が木材層であるので、当該楽器用板材1の振動特性を木材の振動特性により近づけやすい。また、当該楽器用板材1は、第1基材層3が木材層であるので、全体のコストを抑えやすい。
【0020】
当該楽器用板材1は、第1繊維層2が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維とそのバインダーとを有しており、この第1繊維層2の弾性率は第1基材層3の弾性率よりも高い。そのため、当該楽器用板材1は、木材からなる楽器用板材に比べて全体の厚さを小さくしても十分な強度を有する。従って、当該楽器用板材1は、従来の木材からなる板材よりも厚さを小さくすることで、軽量化を図ることができる。
【0021】
当該楽器用板材1の平均厚さの下限としては、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。当該楽器用板材1の平均厚さが前記下限より小さいと、当該楽器用板材1の強度が不十分となるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点における厚さの平均値をいう。
【0022】
(第1繊維層)
第1繊維層2は、厚さが略均一な板状に形成されている。第1繊維層2は不透水性を有する。第1繊維層2は、第1基材層3に積層されて、第1基材層3の第1繊維層2との積層面側の強度を高める。また、第1繊維層2は、第1基材層3に水分が到達することを抑制し、これにより第1基材層3による水分の吸収を抑える。
【0023】
第1繊維層2の平均厚さは第1基材層3の平均厚さよりも小さい。第1繊維層2の平均厚さの下限としては、50μmが好ましく、70μmがより好ましい。前記平均厚さが前記下限より小さいと、第1繊維層2による強度向上効果が十分に得られないおそれがある。
【0024】
第1繊維層2は、前述のようにポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維と、そのバインダーとを有する。第1繊維層2は、前記繊維のうちの2種以上を含んでいてもよいが、第1繊維層2全体の振動特性の均一化を図る点では、前記繊維のうちのいずれか1種のみを含むことが好ましい。また、第1繊維層2において、前記繊維は厚さ方向と略垂直な1方向に沿って配向していることが好ましい。当該楽器用板材1は、例えば第1基材層3の木理方向と第1繊維層2における前記繊維の配向方向とを一致させることで1方向の強度を高めやすい。一方、当該楽器用板材1は、例えば第1基材層3の木理方向と第1繊維層2における前記繊維の配向方向とを交差させることで異方性をコントロールすることができ、繊維の配向方向に沿った所望の方向の強度を効果的に高めることができると共に、振動特性を調整しやすい。
【0025】
前記アラミド繊維としては、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。ポリアリレート繊維としては、例えばクラレ社の「ベクトラン」(登録商標)等が挙げられる。超高分子量ポリエチレン繊維としては、例えば東洋紡社の「ダイニーマ」(登録商標)等が挙げられる。ポリエチレンナフタレート繊維としては、例えば帝人社の「テオネックス」(登録商標)等が挙げられる。また、前記ガラス繊維としては、例えばE-ガラス繊維、T-ガラス繊維、D-ガラス繊維等が挙げられる。
【0026】
前記バインダーとしては、メラミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、前記バインダーとしてはエポキシ樹脂が好ましい。前記バインダーがエポキシ樹脂であることによって、このエポキシ樹脂を第1基材層3の第1繊維層2との積層面側に含浸させつつ硬化させることで、第1繊維層2及び第1基材層3を強固に接着することができると共に、第1基材層3への水分の透過を抑制しやすい。
【0027】
第1繊維層2は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維を熱硬化性樹脂中に含浸させた上、この熱硬化性樹脂を半硬化させることで得られたシート状のプリプレグから形成されることが好ましい。このように、第1繊維層2が前記プリプレグから形成されることによって、第1繊維層2の強度及び第1繊維層2と第1基材層3との接着強度を容易かつ確実に高めることができる。なお、第1繊維層2がシート状のプリプレグから形成される場合、第1繊維層2は1枚のプリプレグから形成されてもよく、複数枚のプリプレグの積層体から形成されてもよい。
【0028】
第1繊維層2の繊維の配向方向におけるヤング率の下限としては、50GPaが好ましく、100GPaがより好ましい。一方、第1繊維層2の繊維の配向方向におけるヤング率の上限としては、600GPaが好ましい。前記ヤング率が前記下限に満たないと、第1繊維層2の剛性が不十分となり、第1繊維層2による強度向上効果が十分に得られないおそれがある。逆に、前記ヤング率が前記上限を超えると、第1繊維層2が硬くなり過ぎて当該楽器用板材1が振動し難くなるおそれがある。
【0029】
第1繊維層2の比重の上限としては、2.2が好ましい。第1繊維層2の比重が前記上限を超えると、当該楽器用板材1の軽量化を十分に促進できないおそれがある。
【0030】
なお、第1繊維層2は、前記繊維及びバインダー以外のその他の成分を含んでいてもよい。第1繊維層2に含まれるその他の成分としては、例えば可塑剤、架橋剤、硬化触媒、発泡剤、整泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0031】
(第1基材層)
第1基材層3は厚さが略均一な板状に形成されている。第1基材層3は、第1繊維層2の一方側の略全面に積層される。第1基材層3を形成する木材としては、例えばスプルース等の針葉樹や、ローズウッド、メープル、シデ等の広葉樹が挙げられる。第1基材層3は、前記木材を主成分とする単板であってもよく、スプルース、ローズウッド、メープル、シデ等を突き板として用いた合板であってもよい。
【0032】
第1基材層3の平均厚さの下限としては、0.8mmが好ましく、1mmがより好ましい。前記平均厚さが前記下限より小さいと、強度が不十分となるおそれがある。
【0033】
第1基材層3の第1繊維層2の積層面側には、第1繊維層2のバインダーが含浸していることが好ましい。このように、第1基材層3の第1繊維層2の積層面側に前記バインダーが含浸していることによって、第1基材層3及び第1繊維層2の接着強度を高めることができると共に、第1基材層3の第1繊維層2の積層面側の空隙を前記バインダーで封止することで、第1基材層3の吸水性をより低く抑えることができる。
【0034】
第1基材層3の第1繊維層2の積層面を基準とする前記バインダーの平均含浸深さの下限としては、0.01mmが好ましく、0.05mmがより好ましい。前記平均含浸深さが前記下限に満たないと、第1基材層3の微細な空隙を十分に封止することができないおそれがある。なお、「バインダーの平均含浸深さ」とは、厚さ方向に切断したの任意の断面において抽出した任意の10点におけるバインダーの含浸深さの平均値をいう。
【0035】
<製造方法>
当該楽器用板材1の製造方法は、第1基材層3を用意する工程(基材層用意工程)と、第1基材層3に第1繊維層2を積層する工程(積層工程)とを有する。
【0036】
(積層工程)
前記積層工程は、第1基材層3に第1繊維層2の形成材料を重ね合わせる工程(重ね合わせ工程)と、重ね合わせ後の第1繊維層2の形成材料を第1基材層3と接着する工程(接着工程)とを有する。
【0037】
〈重ね合わせ工程〉
前記重ね合わせ工程では、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維を熱硬化性樹脂中に含浸させた半硬化状態のシート状のプリプレグを第1基材層3の表面に重ね合わせる。
【0038】
〈接着工程〉
前記接着工程では、前記重ね合わせ工程で重ね合わせた第1基材層3を前記プリプレグ側に熱プレスする。これにより、前記熱硬化性樹脂を第1基材層3に含浸させつつ硬化させることができ、第1繊維層2及び第1基材層3を強固に接着すると共に、この熱硬化性樹脂によって第1基材層3の空隙を封止することで、第1基材層3の吸水性をより低く抑えることができる。
【0039】
<弦楽器>
図2の弦楽器11は、響板12を有する中空状のボディ13と、響板12の外面側に設けられ複数の弦14を支持するブリッジ15と、ブリッジ15の外面に設けられるサドル16と、ボディ13に連結され、響板12の一端側から延出するネック17と、ネック17の一端側に設けられるヘッド18とを主として備える。複数の弦14は、ヘッド18に設けられる複数のペグ19に一端側が巻きつけられて係止され、かつ他端側がサドル16を介してブリッジ15に支持された上、複数のピン20に係止されている。また、響板12は、ネック17の他端とブリッジ15との間に響孔21を有する。当該弦楽器11は、響板12として
図1の楽器用板材1を備える。当該楽器用板材1は、第1基材層3が響板12の外面側を構成する。弦楽器11は、弦14の振動をボディ13に共鳴させて所定の音量を得るアコースティックギターとして構成されている。
【0040】
<利点>
当該楽器用板材1は、第1繊維層2が繊維とバインダーとを有し、前記繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維であるので、前記第1繊維層2によって強度を高めることができる。また、当該楽器用板材1は、第1繊維層2が前述の構成を有するので、この第1繊維層2は不透水性に優れる。そのため、当該楽器用板材1は、第1繊維層2によって水分が第1基材層3まで到達することを妨げることができ、これにより耐候性を高めることができる。特に、当該楽器用板材1は、第1基材層3の外面側に化粧用の塗工層等の他の層を積層して用いられることがある。この場合、当該楽器用板材1は、第1基材層3への水分の到達を第1基材層3の両面側で妨げることができるので、耐候性をより的確に高めることができる。さらに、本発明者らの知見によると、前記第1繊維層2が繊維とバインダーとを有し、前記繊維が前記種類の繊維であることで、この第1繊維層2の減衰率を木材の減衰率に近づけることができる。そのため、当該楽器用板材1は、木材の振動特性に近い振動特性を発揮することができる。
【0041】
また、当該楽器用板材1は、第1繊維層2の一方の面側に第1基材層3が積層されるので、この第1基材層3が外面側を構成するよう楽器に組み込まれることで、この楽器の外観を木質調にすることができる。
【0042】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材1を容易かつ確実に製造することができる。また、当該楽器用板材の製造方法は、第1繊維層2の形成材料として、前述のプリプレグを用いることで、第1基材層3と第1繊維層2との接着強度を高めつつ、第1基材層3の吸水性をより的確に抑えることができる。
【0043】
当該弦楽器11は、当該楽器用板材1を響板12として備えるので、響板12の強度及び耐候性を高めつつ、音響特性の低下を抑制することができる。
【0044】
[第二実施形態]
<楽器用板材>
図3の楽器用板材31は、第1繊維層2と、第1繊維層2の両面側に積層される一対の第1基材層3とを備える。第1繊維層2及び一対の第1基材層3の具体的構成としては、
図1の楽器用板材31と同様とすることができる。
【0045】
一対の第1基材層3は、第1繊維層2に直接積層されている。当該楽器用板材31は、第1繊維層2及び一対の第1基材層3の3層構造体である。
【0046】
一対の第1基材層3は、当該楽器用板材31の両側の最外層を構成している。一対の第1基材層3の形成材料(一対の第1基材層3を形成する木材)は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。一対の第1基材層3の形成材料が同じであることによって、特定の木材の振動特性を強調することができる。また、一対の第1基材層3の形成材料が同じであることで、当該楽器用板材31の製造コストを抑えることができる。また、当該楽器用板材31の反りを抑制する観点からは、第1繊維層2を中心として厚さ方向両側における各層の材料及び厚さを対称とすることが好ましい。そのため、この観点からも一対の第1基材層3の形成材料は同じであることが好ましく、また一対の第1基材層3の厚さは等しいことが好ましい。
【0047】
一対の第1基材層3の木理は同一方向に配向していてもよく、異なる方向に配向していてもよい。但し、剛性の異方性を高める点からは一対の第1基材層3の木理の配向方向は同一であることが好ましい。また、この場合、一対の第1基材層3の木理の配向方向と、第1繊維層2の繊維の配向方向は全て等しいことが好ましい。一方、剛性の異方性を弱める点からは、一対の第1基材層3の木理の配向方向は、第1繊維層2の繊維の配向方向と異なっていることが好ましい。
【0048】
当該楽器用板材31の平均厚さの下限としては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。当該楽器用板材31の平均厚さの下限としては、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。
【0049】
<製造方法>
当該楽器用板材1の製造方法は、一対の第1基材層3を用意する工程(基材層用意工程)と、第1繊維層2の両面側に一対の第1基材層3を積層する工程(積層工程)とを有する。
【0050】
(積層工程)
前記積層工程は、第1繊維層2の形成材料の両面側に一対の第1基材層3を重ね合わせる工程(重ね合わせ工程)と、重ね合わせ後の第1繊維層2の形成材料を一対の第1基材層3と接着する工程(接着工程)とを有する。
【0051】
〈重ね合わせ工程〉
前記重ね合わせ工程では、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維を熱硬化性樹脂中に含浸させた半硬化状態のシート状のプリプレグの両面側に一対の第1基材層3を重ね合わせる。
【0052】
〈接着工程〉
前記接着工程では、前記重ね合わせ工程で重ね合わせた一対の第1基材層3を前記プリプレグの両面側に熱プレスする。これにより、前記熱硬化性樹脂を一対の第1基材層3の内面側に含浸させつつ硬化させることができ、一対の第1基材層3及び第1繊維層2を強固に接着すると共に、この熱硬化性樹脂によって第1基材層3の空隙を封止することで、一対の第1基材層3の吸水性をより低く抑えることができる。
【0053】
<利点>
当該楽器用板材31は、振動特性への影響が小さい厚さ方向の中心部に第1繊維層2を配置することで、一対の第1基材層3を形成する木材の振動特性を保ちつつ強度及び耐候性を高めやすい。また、当該楽器用板材31は、最外層として一対の第1基材層3を備えるので、木質調の外観を呈することができる。さらに、当該楽器用板材31は、最外層として一対の第1基材層3を備えるので、従来の木材からなる板材と同様の方法で弦楽器等に容易に組み込むことができる。
【0054】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材31を容易かつ確実に製造することができる。
【0055】
[第三実施形態]
<楽器用板材>
図4の楽器用板材41は、第1繊維層2と、第1繊維層2の両面側に積層される一対の第1基材層3と、一対の第1基材層3の外面側に積層される一対の第2繊維層42とを備える。第1繊維層2及び一対の第1基材層3の具体的構成としては、
図3の楽器用板材31と同様とすることができる。
【0056】
一対の第1基材層3は第1繊維層2に直接積層されている。また、一対の第2繊維層42は一対の第1基材層3に直接積層されている。つまり、当該楽器用板材41は、
図3の楽器用板材31の外面に一対の第2繊維層42が積層されている。当該楽器用板材41は、第1繊維層2、一対の第1基材層3及び一対の第2繊維層42の5層構造体である。
【0057】
(第2繊維層)
一対の第2繊維層42は、当該楽器用板材41の最外層を構成している。一対の第2繊維層42は、繊維とバインダーとを有する。前記繊維は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維である。また、前記バインダーとしては、前述のメラミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂を用いることができる。つまり、一対の第2繊維層42は、第1繊維層2と同様の繊維及びバインダーを含む構成とすることができる。一対の第2繊維層42は、第1繊維層2と同様のその他の成分を含んでもよい。一対の第2繊維層42は、第1繊維層2と同様のプリプレグから形成することができる。一対の第2繊維層42のバインダーは一対の第1基材層3の外面側に含浸していることが好ましい。第1基材層3の第2繊維層42の積層面を基準とする前記バインダーの平均含浸深さとしては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。
【0058】
第2繊維層42は、厚さが略均一な板状に形成されている。第2繊維層42は不透水性を有する。第2繊維層42は、第1基材層3の外面の略全面に積層される。第2繊維層42は、第1基材層3の外面に積層されて、第1基材層3の外面側の強度を高める。また、第2繊維層42は、第1基材層3に水分が到達することを抑制し、これにより第1基材層3による水分の吸収を抑える。
【0059】
第2繊維層42の平均厚さは第1基材層3の平均厚さよりも小さい。一対の第2繊維層42の平均厚さ、繊維の配向方向におけるヤング率及び比重としては、
図1の楽器用板材1の第1繊維層2と同様とすることができる。
【0060】
一対の第2繊維層42に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分は同じであることが好ましい。一対の第2繊維層42に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分が同じであることによって、当該楽器用板材41の製造コストを抑えることができる。また、当該楽器用板材41の反りを抑制する観点からは、第1繊維層2を中心として厚さ方向両側における各層の材料及び厚さを対称とすることが好ましい。そのため、この観点からも一対の第2繊維層42に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分が同じであることが好ましい。また、前記観点から、一対の第2繊維層42の厚さは等しいことが好ましく、一対の第1基材層3の形成材料及び厚さは同じであることが好ましい。
【0061】
当該楽器用板材41の平均厚さの下限としては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。当該楽器用板材41の平均厚さの下限としては、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。
【0062】
<製造方法>
当該楽器用板材41の製造方法は、一対の第1基材層3を用意する工程(基材層用意工程)と、第1繊維層2の両面側に一対の第1基材層3を積層する工程(第1積層工程)と、一対の第1基材層3の外面側に一対の第2繊維層42を積層する工程(第2積層工程)とを有する。
【0063】
当該楽器用板材の製造方法における基材層用意工程及び第1積層工程については、
図3の楽器用板材31と同様の手順で行うことができる。前記第2積層工程では、一対の第1基材層3の外面に一対の第2繊維層42を直接積層してもよく、一対の第1基材層3の外面に接着剤を用いて一対の第2繊維層42を積層してもよい。一対の第1基材層3の外面に一対の第2繊維層42を直接積層する方法としては、例えば一対の第2繊維層42を形成するプリプレグを一対の第1基材層3の外面に重ね合わせ(重ね合わせ工程)、この重ね合わせ状態で一対の第2繊維層42を一対の第1基材層3側に熱プレスする(接着工程)方法が挙げられる。当該楽器用板材の製造方法は、第1積層工程を第2積層工程の前に行ってもよく、第1積層工程を第2積層工程後に行ってもよく、第1積層工程及び第2積層工程を同時に行ってもよい。
【0064】
<利点>
当該楽器用板材41は、一対の第1基材層3の外面側に一対の第2繊維層42を備えるので、一対の第2繊維層42によって全体の厚さを調節しやすい。当該楽器用板材41は、一対の第1基材層3の両面側に第1繊維層2及び第2繊維層42が積層されるので、一対の第1基材層3を第1繊維層2及び第2繊維層42で挟み込むことで一対の第1基材層3の両面側の強度を高めることができる。また、当該楽器用板材41は、一対の第1基材層3の両面側に第1繊維層2及び第2繊維層42が積層されるので、第1繊維層2及び一対の第2繊維層42によって水分が一対の第1基材層3まで到達することを容易かつ確実に妨げることができ、これにより耐候性を高めることができる。さらに、当該楽器用板材41は、一対の第2繊維層42が繊維とバインダーとを有し、前記繊維が前記種類の繊維であるので、一対の第2繊維層42の減衰率を木材の減衰率に近づけることができる。そのため、当該楽器用板材41は、木材の振動特性に近い振動特性を発揮することができる。
【0065】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材41を容易かつ確実に製造することができる。
【0066】
[第四実施形態]
<楽器用板材>
図5の楽器用板材51は、第1繊維層2と、第1繊維層2の両面側に積層される一対の第1基材層3と、一対の第1基材層3の外面側に積層される一対の第2繊維層42と、一対の第2繊維層42の外面側に積層される一対の第2基材層53とを備える。第1繊維層2、一対の第1基材層3及び一対の第2繊維層42の具体的構成としては、
図4の楽器用板材41と同様とすることができる。
【0067】
一対の第1基材層3は第1繊維層2に直接積層されている。一対の第2繊維層42は一対の第1基材層3に直接積層されている。また、一対の第2基材層53は一対の第2繊維層42に直接積層されている。つまり、当該楽器用板材51は、
図4の楽器用板材41の外面に一対の第2基材層53が積層されている。当該楽器用板材51は、第1繊維層2、一対の第1基材層3、一対の第2繊維層42及び一対の第2基材層53の7層構造体である。
【0068】
(第2基材層)
一対の第2基材層53は、当該楽器用板材51の最外層を構成している。一対の第2基材層53は木材を主成分とする木材層である。一対の第2基材層53の形成材料としては、
図1の楽器用板材1の第1基材層3と同様とすることができる。一対の第2基材層53は、
図1の楽器用板材1の第1基材層3と同様、単板であってもよく、合板であってもよい。
【0069】
第2基材層53は、厚さが略均一な板状に形成されている。第2基材層53の平均厚さは、第1繊維層2及び第2繊維層42のそれぞれの平均厚さよりも大きい。第2基材層53は、第2繊維層42の外面の略全面に積層される。第2基材層53の平均厚さとしては、
図1の楽器用板材1の第1基材層3と同様とすることができる。第2基材層53の第2繊維層42の積層面側には、第2繊維層42のバインダーが含浸していることが好ましい。第2基材層53の第2繊維層42の積層面を基準とする前記バインダーの平均含浸深さとしては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。
【0070】
一対の第2基材層53の形成材料は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。また、一対の第2基材層53の形成材料が同じである場合、この形成材料は、一対の第1基材層3の形成材料と同じであることがより好ましい。一対の第2基材層53の形成材料が同じであることによって、特定の木材の振動特性を強調することができる。また、一対の第2基材層53の形成材料が同じであることで、当該楽器用板材51の製造コストを抑えることができる。また、当該楽器用板材51の反りを抑制する観点からは、第1繊維層2を中心として厚さ方向両側における各層の材料及び厚さを対称とすることが好ましい。そのため、この観点からも一対の第2基材層53の形成材料は同じであることが好ましく、また一対の第2基材層53の厚さは等しいことが好ましい。
【0071】
一対の第2基材層53の木理は同一方向に配向していてもよく、異なる方向に配向していてもよい。但し、剛性の異方性を高める点からは一対の第2基材層53の木理の配向方向は同一であることが好ましい。この場合、一対の第2基材層53の木理の配向方向は、一対の第1基材層3の木理の配向方向と同一であることが好ましく、第1繊維層2及び一対の第2繊維層42の繊維の配向方向とも同一であることがより好ましい。一方、剛性の異方性を弱める点からは、一対の第2基材層53の木理の配向方向は、一対の第1基材層3の木理の配向方向、第1繊維層2の繊維の配向方向及び一対の第2繊維層42の繊維の配向方向と異なっていることが好ましい。
【0072】
当該楽器用板材51の平均厚さの下限としては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。当該楽器用板材51の平均厚さの下限としては、1.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。
【0073】
<製造方法>
当該楽器用板材51の製造方法は、一対の第1基材層3及び一対の第2基材層53を用意する工程(基材層用意工程)と、第1繊維層2の両面側に一対の第1基材層3を積層する工程(第1積層工程)と、一対の第1基材層3の外面側に一対の第2繊維層42を積層する工程(第2積層工程)と、一対の第2繊維層42の外面側に一対の第2基材層53を積層する工程(第3積層工程)とを有する。
【0074】
当該楽器用板材の製造方法における基材層用意工程、第1積層工程及び第2積層工程については、
図4の楽器用板材41の製造方法と同様の手順で行うことができる。前記第3積層工程では、一対の第2繊維層42の外面に一対の第2基材層53を直接積層してもよく、一対の第2繊維層42の外面に接着剤を用いて一対の第2基材層53を積層してもよい。一対の第2繊維層42の外面に一対の第2基材層53を直接積層する方法としては、例えば一対の第2繊維層42を形成するプリプレグの外面に一対の第2基材層53を重ね合わせ(重ね合わせ工程)、この重ね合わせ状態で一対の第2基材層53を一対の第2繊維層42側に熱プレスする(接着工程)方法が挙げられる。当該楽器用板材の製造方法において、第1積層工程、第2積層工程及び第3積層工程を行う順番は特に限定されるものではない。また、当該楽器用板材の製造方法は、第1積層工程、第2積層工程及び第3積層工程を同時に行うことも可能である。
【0075】
<利点>
当該楽器用板材51は、一対の第2繊維層42の外面側に一対の第2基材層53を備えるので、一対の第2基材層53によって全体の厚さを調節しやすい。当該楽器用板材51は、振動特性への影響が小さい厚さ方向の中心側に第1繊維層2及び一対の第2繊維層42を配置することで、木材の振動特性を保ちつつ強度及び耐候性を高めることができる。また、当該楽器用板材51は、最外層として一対の第2基材層53を備えるので、木質調の外観を呈することができる。さらに、当該楽器用板材51は、最外層として一対の第2基材層53を備えるので、従来の木材からなる板材と同様の方法で弦楽器等に容易に組み込むことができる。
【0076】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材51を容易かつ確実に製造することができる。
【0077】
[第五実施形態]
<楽器用板材>
図6の楽器用板材61は、第1繊維層2と、第1繊維層2の一方の面側に積層される第1基材層63とを備える。第1繊維層2及び第1基材層63は直接積層されている。当該楽器用板材61は、第1繊維層2及び第1基材層63の2層構造体である。第1繊維層2は、繊維とバインダーとを有し、前記繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維である。第1基材層63は、合成樹脂を主成分とする多孔質層である。当該楽器用板材61における第1繊維層2としては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0078】
(第1基材層)
第1基材層63は厚さが略均一な板状に形成されている。第1基材層63は、第1繊維層2の一方の側の略全面に積層される。第1基材層63の第1繊維層2の積層面側には、第1繊維層2のバインダーが含浸していることが好ましい。第1基材層63の第1繊維層2の積層面を基準とする前記バインダーの平均含浸深さとしては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。
【0079】
第1基材層63はハニカム構造(多管状構造、多室状構造)を有していてもよい。第1基材層63がハニカム構造を有していることで、軽量化を促進できる場合がある。
【0080】
第1基材層63の平均厚さは第1繊維層2の平均厚さよりも大きい。第1基材層63の平均厚さの下限としては、100μmが好ましく、0.8mmがより好ましく、1mmがさらに好ましい。前記平均厚さが前記下限に満たないと、当該楽器用板材61の厚さが小さくなり過ぎて、弦楽器の響板等として用い難くなるおそれがある。
【0081】
第1基材層63は、例えば合成樹脂の発泡体によって構成される。前記合成樹脂としては、例えばポリメタクリルイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリイミド、メラミン樹脂等が挙げられる。中でも、前記合成樹脂としては、耐熱性に優れると共に比較的強度が高く、気泡率を高くして軽量化を図りやすいポリメタクリルイミドが好ましい。
【0082】
第1基材層63が合成樹脂の発泡体によって構成される場合、第1基材層63に含まれる複数の気泡は、独立気泡であることが好ましい。第1基材層63の気泡が、複数の独立気泡が連結された連結気泡である場合、例えば第1基材層63に前述のプリプレグを積層することで第1繊維層2を形成した場合、連結気泡にプリプレグの熱硬化性樹脂が浸入することで第1基材層63の振動特性が不均一になりやすい。これに対し、第1基材層63の気泡が独立気泡である場合、前記熱硬化性樹脂を第1基材層63に略均一に含浸させることができるので、第1基材層63の振動特性の均一化を図りやすい。
【0083】
第1基材層63のヤング率の下限としては、50MPaが好ましい。一方、第1基材層63のヤング率の上限としては、200MPaが好ましい。前記ヤング率が前記下限に満たないと、第1基材層63の剛性が不十分となり、ひいては当該楽器用板材61の剛性を十分に高められないおそれがある。逆に、前記ヤング率が前記上限を超えると、第1基材層63が硬くなり過ぎて当該楽器用板材61が振動し難くなるおそれがある。
【0084】
<製造方法>
当該楽器用板材61の製造方法は、第1基材層63を用意する工程(基材層用意工程)と、第1基材層63に第1繊維層2を積層する工程(積層工程)とを有する。当該楽器用板材の製造方法における基材層用意工程及び積層工程については、
図1の楽器用板材1の製造方法と同様の手順で行うことができる。
【0085】
<利点>
当該楽器用板材61は、第1繊維層2によって強度を高めることができる。また、当該楽器用板材61は、第1繊維層2によって水分が第1基材層63まで到達することを妨げることができ、これにより耐候性を高めることができる。特に、当該楽器用板材61は、第1基材層63の外面側に化粧用の塗工層等の他の層を積層して用いられることがある。この場合、当該楽器用板材61は、第1基材層63への水分の到達を第1基材層63の両面側で妨げることができるので、耐候性をより的確に高めることができる。さらに、当該楽器用板材61は、前記第1繊維層2が繊維とバインダーとを有し、前記繊維が前記種類の繊維であることで、この第1繊維層2の減衰率を木材の減衰率に近づけることができる。そのため、当該楽器用板材61は、木材の振動特性に近い振動特性を発揮することができる。
【0086】
当該楽器用板材61は、第1基材層63が合成樹脂を主成分とする多孔質層であることによって、振動特性のバラつきを抑え、品質の均一化を促進することができる。また、当該楽器用板材61は、第1基材層63が合成樹脂を主成分とする多孔質層であるので、例えば合成樹脂の種類や気泡径、気泡率等を調整することで振動特性を幅広く調整することができる。さらに、当該楽器用板材61は、第1基材層63が合成樹脂を主成分とする多孔質層であることで、軽量化を促進することができる。
【0087】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材61を容易かつ確実に製造することができる。
【0088】
[第六実施形態]
<楽器用板材>
図7の楽器用板材71は、第1繊維層2と、第1繊維層2の両面側に積層される一対の第1基材層63とを備える。第1繊維層2及び一対の第1基材層63の具体的構成としては、
図6の楽器用板材61と同様とすることができる。
【0089】
一対の第1基材層63は、第1繊維層2に直接積層されている。当該楽器用板材71は、第1繊維層2及び一対の第1基材層63の3層構造体である。
【0090】
一対の第1基材層63は、当該楽器用板材71の両側の最外層を構成している。一対の第1基材層63の主成分は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。一対の第1基材層63の主成分が同じであることによって、特定の振動特性を強調することができる。また、一対の第1基材層63の主成分が同じであることで、当該楽器用板材71の製造コストを抑えることができる。また、当該楽器用板材71の反りを抑制する観点からは、第1繊維層2を中心として厚さ方向両側における各層の材料及び厚さを対称とすることが好ましい。そのため、この観点からも一対の第1基材層63の主成分は同じであることが好ましく、また一対の第1基材層63の厚さは等しいことが好ましい。
【0091】
<製造方法>
当該楽器用板材71の製造方法は、一対の第1基材層63を用意する工程(基材層用意工程)と、第1繊維層2の両面側に一対の第1基材層63を積層する工程(積層工程)とを有する。当該楽器用板材の製造方法における基材層用意工程及び積層工程については、
図3の楽器用板材31の製造方法と同様の手順で行うことができる。
【0092】
<利点>
当該楽器用板材71は、振動特性への影響が小さい厚さ方向の中心部に第1繊維層2を配置することで、一対の第1基材層63の振動特性を保ちつつ強度及び耐候性を高めることができる。また、当該楽器用板材71は、一対の第1基材層63が合成樹脂を主成分とする多孔質層であることで、軽量化を促進しつつ、当該楽器用板材71の厚さを大きくすることができる。
【0093】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材71を容易かつ確実に製造することができる。
【0094】
[第七実施形態]
<楽器用板材>
図8の楽器用板材81は、第1繊維層2と、第1繊維層2の両面側に積層される一対の第1基材層63と、一対の第1基材層63の外面側に積層される一対の第2繊維層82とを備える。第1繊維層2及び一対の第1基材層63の具体的構成としては、
図7の楽器用板材71と同様とすることができる。
【0095】
一対の第1基材層63は第1繊維層2に直接積層されている。また、一対の第2繊維層82は一対の第1基材層63に直接積層されている。つまり、当該楽器用板材81は、
図7の楽器用板材71の外面に一対の第2繊維層82が積層されている。当該楽器用板材81は、第1繊維層2、一対の第1基材層63及び一対の第2繊維層82の5層構造体である。
【0096】
(第2繊維層)
一対の第2繊維層82は、当該楽器用板材81の最外層を構成している。一対の第2繊維層82は、繊維とバインダーとを有する。前記繊維は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維である。また、前記バインダーとしては、前述のメラミン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂が挙げられる。つまり、一対の第2繊維層82は、第1繊維層2と同様の繊維及びバインダーを含む構成とすることができる。一対の第2繊維層82は、第1繊維層2と同様のその他の成分を含んでもよい。一対の第2繊維層82は、第1繊維層2と同様のプリプレグから形成することができる。一対の第2繊維層82のバインダーは一対の第1基材層63の外面側に含浸していることが好ましい。第1基材層63の第2繊維層82の積層面を基準とする前記バインダーの平均含浸深さとしては、
図1の楽器用板材1と同様とすることができる。
【0097】
第2繊維層82は、厚さが略均一な板状に形成されている。第2繊維層82は不透水性を有する。第2繊維層82は、第1基材層63の外面の略全面に積層される。第2繊維層82は、第1基材層63の外面に積層されて、第1基材層63の外面側の強度を高める。また、第2繊維層82は、第1基材層63に水分が到達することを抑制し、これにより第1基材層63による水分の吸収を抑える。
【0098】
第2繊維層82の平均厚さは、第1基材層63の平均厚さよりも小さい。一対の第2繊維層82の平均厚さ、繊維の配向方向におけるヤング率及び比重は
図1の楽器用板材1の第1繊維層2と同様とすることができる。
【0099】
一対の第2繊維層82に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分は同じであることが好ましい。一対の第2繊維層82に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分が同じであることによって、当該楽器用板材81の製造コストを抑えることができる。また、当該楽器用板材81の反りを抑制する観点からは、第1繊維層2を中心として厚さ方向両側における各層の材料及び厚さを対称とすることが好ましい。そのため、この観点からも一対の第2繊維層82に含まれる繊維の主成分及びバインダーの主成分が同じであることが好ましい。また、前記観点から、一対の第2繊維層82の厚さは等しいことが好ましく、一対の第1基材層63の形成材料及び厚さも同じであることが好ましい。
【0100】
<製造方法>
当該楽器用板材81の製造方法は、一対の第1基材層63を用意する工程(基材層用意工程)と、第1繊維層2の両面側に一対の第1基材層63を積層する工程(第1積層工程)と、一対の第1基材層63の外面側に一対の第2繊維層82を積層する工程(第2積層工程)とを有する。当該楽器用板材の製造方法における基材層用意工程、第1積層工程及び第2積層工程については、
図4の楽器用板材41の製造方法と同様の手順で行うことができる。
【0101】
<利点>
当該楽器用板材81は、一対の第1基材層63の外面側に一対の第2繊維層82を備えるので、一対の第2繊維層82によって全体の厚さを調節しやすい。当該楽器用板材81は、一対の第1基材層63の外面側に一対の第2繊維層82を備えるので、木材に近い振動特性を維持し、かつ適切な厚さに調節しつつ、全体の軽量化を図りやすい。特に、当該楽器用板材81は、一対の第1基材層63の外側に一対の第2繊維層82を備えるので、両面側の強度を高めると共に、木材により近い振動特性を発揮することができる。また、当該楽器用板材81は、一対の第2繊維層82が一対の第1基材層63の外面側に配設されており、第1基材層63の両面側に第1繊維層2及び第2繊維層82が積層されているので、第1繊維層2及び一対の第2繊維層82によって水分が一対の第1基材層63まで到達することを容易かつ確実に妨げることができ、これにより耐候性を高めることができる。
【0102】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材81を容易かつ確実に製造することができる。
【0103】
[第八実施形態]
<楽器用板材>
図9の楽器用板材91は、第1繊維層2と、第1繊維層2の両面側に積層される一対の第1基材層63と、一対の第1基材層63の外面側に積層される一対の第2繊維層82と、一対の第2繊維層82の外面側に積層される一対の第2基材層93とを備える。第1繊維層2、一対の第1基材層63及び一対の第2繊維層82の具体的構成としては、
図8の楽器用板材81と同様とすることができる。
【0104】
一対の第1基材層63は第1繊維層2に直接積層されている。一対の第2繊維層82は一対の第1基材層63に直接積層されている。また、一対の第2基材層93は一対の第2繊維層82に直接積層されている。つまり、当該楽器用板材91は、
図8の楽器用板材81の外面に一対の第2基材層93が積層されている。当該楽器用板材91は、第1繊維層2、一対の第1基材層63、一対の第2繊維層82及び一対の第2基材層93の7層構造体である。
【0105】
(第2基材層)
一対の第2基材層93は、当該楽器用板材91の最外層を構成している。一対の第2基材層93は合成樹脂を主成分とする多孔質層である。一対の第2基材層93は、合成樹脂の発泡体によって構成されてもよいし、ハニカム構造(多管状構造、多室状構造)を有していてもよい。一対の第2基材層93の主成分としては、
図6の楽器用板材61の第1基材層63と同様とすることができる。一対の第2基材層93が合成樹脂の発泡体によって構成される場合、一対の第2基材層93に含まれる複数の気泡は、独立気泡であることが好ましい。第2基材層93の平均厚さは、第1繊維層2及び第2繊維層82のそれぞれの平均厚さよりも大きい。一対の第2基材層93のヤング率及び平均厚さは、一対の第1基材層63と同様とすることができる。
【0106】
第2基材層93は、厚さが略均一な板状に形成されている。第2基材層93は、第2繊維層82の外面の略全面に積層される。
【0107】
一対の第2基材層93の主成分は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。一対の第2基材層93の主成分が同じであることによって、特定の振動特性を強調することができる。また、一対の第2基材層93の主成分が同じであることで、当該楽器用板材91の製造コストを抑えることができる。また、当該楽器用板材91の反りを抑制する観点からは、第1繊維層2を中心として厚さ方向両側における各層の材料及び厚さを対称とすることが好ましい。そのため、この観点からも一対の第2基材層93の主成分は同じであることが好ましく、また一対の第2基材層93の厚さは等しいことが好ましい。
【0108】
<製造方法>
当該楽器用板材91の製造方法は、一対の第1基材層63及び一対の第2基材層93を用意する工程(基材層用意工程)と、第1繊維層2の両面側に一対の第1基材層63を積層する工程(第1積層工程)と、一対の第1基材層63の外面側に一対の第2繊維層82を積層する工程(第2積層工程)と、一対の第2繊維層82の外面側に一対の第2基材層93を積層する工程(第3積層工程)とを有する。
【0109】
当該楽器用板材の製造方法における基材層用意工程、第1積層工程、第2積層工程及び第3積層工程については、
図5の楽器用板材51の製造方法と同様の手順で行うことができる。
【0110】
<利点>
当該楽器用板材91は、一対の第2繊維層82の外面側に一対の第2基材層93を備えるので、一対の第2基材層93によって全体の厚さを調節しやすい。また、当該楽器用板材91は、一対の第2基材層93の主成分が一対の第1基材層63の主成分と同じである場合、一対の第1基材層63及び一対の第2基材層93の主成分に対応する特定の振動特性を維持しやすい。また、当該楽器用板材91は、一対の第2基材層93の主成分を一対の第1基材層63の主成分と同じにすること、より詳しくは一対の第2基材層93を一対の第1基材層63と同一の構成とすることで、製造コストを低減することができる。
【0111】
当該楽器用板材の製造方法は、当該楽器用板材91を容易かつ確実に製造することができる。
【0112】
[その他の実施形態]
なお、本発明に係る楽器用板材及び楽器は、前記態様の他、種々の変更、改変を施した態様で実施することができる。例えば当該楽器用板材は、第1繊維層と第1基材層との間、第1基材層と第2繊維層との間、第2繊維層と第2基材層との間、第2基材層の外面等に樹脂層、木材層等の他の層を有していてもよい。
【0113】
当該楽器用板材は、前記他の層として、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維以外の繊維とそのバインダーとを有する繊維層を有していてもよい。
【0114】
当該楽器用板材は、基材層(第1基材層及び第2基材層)の外面側に化粧用の塗工層を備えていてもよい。当該楽器用板材は、基材層を繊維層(第1繊維層又は第2繊維層)と塗工層とで挟み込むことによって、この基材層への水分の到達を両面側から妨げることができるので、耐候性をより的確に高めることができる。
【0115】
当該楽器用板材は、第1繊維層の両面側に一対の第1基材層が積層される場合、一方の第1基材層が木材層で、他方の第1基材層が合成樹脂を主成分とする多孔質層であってもよい。また、当該楽器用板材は、一対の第2繊維層の外面側に一対の第2基材層が積層される場合、一方の第2基材層が木材層で、他方の第2基材層が合成樹脂を主成分とする多孔質層であってもよい。
【0116】
当該楽器用板材は、第1繊維層の両面側に一対の第1基材層、一対の第2繊維層、一対の第2基材層等、1又は複数対の繊維層及び/又は基材層が積層される場合、対をなす基材層及び/又は繊維層の成分は異なっていてもよい。より詳しくは、対をなす基材層がいずれも木材層である場合、これらの木材層を形成する木材の種類は異なっていてもよく、対をなす基材層がいずれも多孔質層である場合、これらの多孔質層に含まれる合成樹脂は異なっていてもよい。また、対をなす繊維層の繊維の種類及び/又はバインダー成分は異なっていてもよい。さらに、当該楽器用板材は、第1繊維層の両面側に一対の第1基材層、一対の第2繊維層、一対の第2基材層等、1又は複数対の繊維層及び/又は基材層が積層される場合、対をなす基材層及び/又は繊維層の厚さは相違していてもよい。
【0117】
当該楽器用板材は、第1繊維層の外面側に基材層及び繊維層を交互に備えることで8層以上の積層体として構成されてもよい。これにより、当該楽器用板材は、所望の厚さや振動特性を実現しやすい。また、当該楽器用板材は、第1繊維層の外面側に基材層及び繊維層を交互に備える場合、第1繊維層の両側に積層される基材層及び繊維層の層数は等しいことが好ましい。さらに、当該楽器用板材は、第1繊維層を基準として対称に配置される各層の主成分及び厚さが同一であることが好ましい。これにより、当該楽器用板材は、反りを防止して、品質を高めることができる。
【0118】
前記第1基材層及び第2基材層が、合成樹脂を主成分とする多孔質層である場合、これらの第1基材層及び第2基材層の気泡は、例えばマイクロバルーン等の気泡形成粒子によって形成されてもよい。
【0119】
前記第1繊維層及び第2繊維層は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維を熱可塑性樹脂中に含浸させたプリプレグから形成されてもよい。また、前記第1繊維層及び第2繊維層は、必ずしもプリプレグから形成される必要はなく、例えばバインダー樹脂及び有機溶媒を含む樹脂組成物中に前記繊維を分散した塗布液の塗布及び加熱によって形成されてもよい。また、前記第1繊維層及び第2繊維層は、接着剤を用いて前記繊維を基材層に接着することによって形成されてもよい。
【0120】
第1繊維層及び第2繊維層に含まれるポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維又はガラス繊維は剛性を高める点、並びに第1繊維層及び第2繊維層の減衰率を木材の減衰率に近づける点からは厚さ方向と略垂直な1方向に沿って配向していることが好ましい。但し、第1繊維層及び第2繊維層に含まれる前記繊維は、剛性の異方性が強く必要とされない場合には必ずしも1方向に配向していなくてもよい。
【0121】
第1繊維層及び第2繊維層に含まれる繊維として炭化ケイ素(SiC)繊維、ボロン繊維等も使用することができる。これらの繊維によっても十分な補強効果を得ることができる。
【0122】
当該弦楽器は、
図1の楽器用板材1に代えて、
図3~
図9の楽器用板材31、41、51、61、71,81,91を響板として備えていてもよい。また、当該弦楽器は、
図1の楽器用板材1又は
図6の楽器用板材61を響板として備える場合、必ずしも第1基材層3,63を外面側に配置する必要はなく、第1繊維層2を外面側に配置し、この第1繊維層2を意匠層として用いてもよい。
【0123】
当該弦楽器としては、前述のアコースティックギターに限られるものではなく、例えばエレクトリックアコースティックギター、ヴァイオリン、チェロ、マンドリン等であってもよい。また、当該楽器用板材は、ボディの裏面側に配設される響板として用いられてもよい。
【0124】
また、当該楽器用板材は、前述の弦楽器の他、響板を備える弦楽器以外の楽器に用いられてもよい。例えば当該楽器用板材は、鍵盤楽器や打楽器等に用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上説明したように、本発明に係る弦楽器用板材は、強度及び耐候性を高めつつ、木材の振動特性に近い振動特性を発揮することができるので、音響特性に優れる弦楽器用板材として適している。
【符号の説明】
【0126】
1、31、41、51、61、71,81,91 楽器用板材
2 第1繊維層
3,63 第1基材層
11 弦楽器
12 響板
13 ボディ
14 弦
15 ブリッジ
16 サドル
17 ネック
18 ヘッド
19 ペグ
20 ピン
21 響孔
42,82 第2繊維層
53,93 第2基材層