(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231129BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/10 ZYW
(21)【出願番号】P 2022153060
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】原 英之
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154304(JP,A)
【文献】特開2020-168955(JP,A)
【文献】特開2018-197048(JP,A)
【文献】特開2019-093765(JP,A)
【文献】特開2008-044561(JP,A)
【文献】特開2008-049918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する走行経路と前記自車両との前記自車両の幅方向の距離である横偏差と、前記自車両から前記自車両の進行する向きに延びる第1直線と前記自車両及び前記走行経路上の位置を通る第2直線とのなす角である方位偏差との少なくともいずれかを取得する偏差取得部と、
前記走行経路に応じたポテンシャルを含み前記自車両のヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて、前記自車両の第1ヨーレートを決定する第1ヨーレート決定部と、
前記横偏差又は前記方位偏差、前記横偏差又は前記方位偏差の積算値、及び前記横偏差又は前記方位偏差の変化量の少なくともいずれかに比例する値を、前記自車両の第2ヨーレートに決定する第2ヨーレート決定部と、
前記第1ヨーレート及び前記第2ヨーレートを合算した合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定するヨーレート制御部と、
を有
し、
前記偏差取得部は、前記走行経路の複数の経路点のうちの前記自車両の現在位置に最も近い最近経路点を含む近接範囲内の複数の経路点を近似する近接近似関数上の位置と前記自車両との前記横偏差、又は前記近接近似関数上の位置と前記自車両とを通る前記第2直線と前記第1直線とのなす角である前記方位偏差を取得し、
前記第2ヨーレート決定部は、前記最近経路点の前記横偏差又は前記方位偏差、前記横偏差又は前記方位偏差の積算値、及び前記横偏差又は前記方位偏差の変化量の少なくともいずれかに比例する値を、前記第2ヨーレートに決定し、
前記偏差取得部は、前記走行経路の複数の経路点のうちの前記最近経路点を含まない前方範囲内の複数の経路点の各々と前記自車両の前記幅方向の前記横偏差、及び前記前方範囲内の各経路点と前記自車両とを通る前記第2直線と前記第1直線とのなす角である前記方位偏差を取得し、
前記第1ヨーレート決定部は、前記前方範囲内の前記横偏差及び前記方位偏差に応じたポテンシャルを含む前記コスト関数を最小化する値を求めて、前記第1ヨーレートを決定し、
前記偏差取得部は、前記自車両からの距離が所定値以上であり前記自車両の速度に比例する最小距離以上、前記最小距離よりも大きい前方距離以下の前記前方範囲内の各経路点を示す座標を前記自車両から近い順に並べたデータ列を近似する前方近似関数の不一致度を示す損失項及び前記前方距離に比例する利得項を含み、前記前方距離をパラメータとする関数を最小化する前記前方距離を決定する操舵制御装置。
【請求項2】
前記近接範囲内の各経路点を示す座標を前記自車両から近い順に並べたデータ列を近似する前記近接近似関数の係数の時間推移を表す状態方程式と、前記近接範囲内の各経路点の座標を観測量とし、前記観測量と前記係数との関係を記述する観測方程式とを含むカルマンフィルタを用いて前記係数を更新する係数更新部をさらに有し、
前記偏差取得部は、更新された前記係数で表される前記近接近似関数に前記近接範囲内の複数の経路点のうちのいずれかの座標又は原点の座標を入力して求まる位置と、前記自車両との前記横偏差又は前記方位偏差を取得する、
請求項
1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記第2ヨーレート決定部は、前記横偏差又は前記方位偏差と比例ゲインとの
第一積
と、前記横偏差又は前記方位偏差の積算値と積分ゲインとの
第二積
と、前記横偏差又は前記方位偏差の変化量と微分ゲインとの
第三積
との和を、前記第2ヨーレートに決定する、
請求項
2に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の操舵角を制御する操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
目標経路に沿って走行するように操舵制御する技術が知られている。特許文献1には、車両が目標経路上を走行するのに必要な操舵の制御目標量にしたがって車両の操舵を行わせる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、操舵の指示を出力してから実際に操舵角が変化するまでの応答遅れや、車両の状態変化及び周辺環境から受ける外乱によって、目標経路に沿って走行するような制御目標量を入力しても、自車両の位置が走行経路からずれてしまうことがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、走行経路に対する自車両の追従性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、自車両が走行する走行経路と前記自車両との前記自車両の幅方向の距離である横偏差と、前記自車両から前記自車両の進行する向きに延びる第1直線と前記自車両及び前記走行経路上の位置を通る第2直線とのなす角である方位偏差との少なくともいずれかを取得する偏差取得部と、前記走行経路に応じたポテンシャルを含み前記自車両のヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて、前記自車両の第1ヨーレートを決定する第1ヨーレート決定部と、前記横偏差又は前記方位偏差、前記横偏差又は前記方位偏差の積算値、及び前記横偏差又は前記方位偏差の変化量の少なくともいずれかに比例する値を、前記自車両の第2ヨーレートに決定する第2ヨーレート決定部と、前記第1ヨーレート及び前記第2ヨーレートを合算した合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定するヨーレート制御部と、を有する操舵制御装置を提供する。
【0007】
前記偏差取得部は、前記走行経路の複数の経路点のうちの前記自車両の現在位置に最も近い最近経路点を含む近接範囲内の複数の経路点を近似する近接近似関数上の位置と前記自車両との前記横偏差、又は前記近接近似関数上の位置と前記自車両とを通る前記第2直線と前記第1直線とのなす角である前記方位偏差を取得し、前記第2ヨーレート決定部は、前記最近経路点の前記横偏差又は前記方位偏差、前記横偏差又は前記方位偏差の積算値、及び前記横偏差又は前記方位偏差の変化量の少なくともいずれかに比例する値を、前記第2ヨーレートに決定してもよい。
【0008】
前記偏差取得部は、前記走行経路の複数の経路点のうちの前記最近経路点を含まない前方範囲内の複数の経路点の各々と前記自車両の前記幅方向の前記横偏差、及び前記前方範囲内の各経路点と前記自車両とを通る前記第2直線と前記第1直線とのなす角である前記方位偏差を取得し、前記第1ヨーレート決定部は、前記前方範囲内の前記横偏差及び前記方位偏差に応じたポテンシャルを含む前記コスト関数を最小化する値を求めて、前記第1ヨーレートを決定してもよい。
【0009】
前記偏差取得部は、前記自車両からの距離が所定値以上であり前記自車両の速度に比例する最小距離以上、前記最小距離よりも大きい前方距離以下の前記前方範囲内の各経路点を示す座標を前記自車両から近い順に並べたデータ列を近似する前方近似関数の不一致度を示す損失項及び前記前方距離に比例する利得項を含み、前記前方距離をパラメータとする関数を最小化する前記前方距離を決定してもよい。
【0010】
前記前方近似関数の係数の時間推移を表す状態方程式と、前記前方範囲内の各経路点を示す座標を観測量とし、前記観測量と前記係数との関係を記述する観測方程式とを含むカルマンフィルタを用いて前記係数を更新する係数更新部をさらに有し、前記偏差取得部は、前記更新された係数で表される前記前方近似関数上の位置と前記自車両との前記横偏差及び前記方位偏差と、前記前方近似関数の曲率とを取得し、前記第1ヨーレート決定部は、前記横偏差、前記方位偏差及び前記曲率を用いて生成される前記ポテンシャルを含む前記コスト関数を最小化する前記第1ヨーレートを決定してもよい。
【0011】
前記近接範囲内の各経路点を示す座標を前記自車両から近い順に並べたデータ列を近似する前記近接近似関数の係数の時間推移を表す状態方程式と、前記近接範囲内の各経路点の座標を観測量とし、前記観測量と前記係数との関係を記述する観測方程式とを含むカルマンフィルタを用いて前記係数を更新する係数更新部をさらに有し、前記偏差取得部は、更新された前記係数で表される前記近接近似関数に前記近接範囲内の複数の経路点のうちのいずれかの座標又は原点の座標を入力して求まる位置と、前記自車両との前記横偏差又は前記方位偏差を取得してもよい。
【0012】
前記第2ヨーレート決定部は、前記横偏差又は前記方位偏差と比例ゲインとの積、前記横偏差又は前記方位偏差の積算値と積分ゲインとの積、及び前記横偏差又は前記方位偏差の変化量と微分ゲインとの積の和を、前記第2ヨーレートに決定してもよい。
【0013】
前記ヨーレート制御部は、前記自車両が前記走行経路に沿って走行していれば、前記合算ヨーレートを用いて前記指示操舵角を決定し、前記自車両が前記走行経路に沿って走行していなければ、前記第1ヨーレートのみを用いて前記指示操舵角を決定してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、走行経路に対する自車両の追従性を高められるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る操舵制御装置が実行する処理の概要を説明するための図である。
【
図3】操舵制御装置の構成を説明するための図である。
【
図4】指示操舵角を決定する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[操舵制御装置1が実行する処理の概要]
従来、車両が走行経路上を走行するのに必要な指示操舵角にしたがって車両の操舵を行わせる制御が知られている。しかしながら、操舵の指示を出力してから実際に操舵角が変化するまでの応答遅れや、車両の状態及び周辺状況の変化等の外乱によって、走行経路上を走行するのに必要な指示操舵角を入力しても、自車両の位置が走行経路からずれてしまうことがあった。
【0017】
そこで、実施の形態に係る操舵制御装置は、走行経路に沿って走行させる制御と、外乱の影響を低減する制御とを組み合わせることにより、走行経路の経路点に沿って走行し、外乱の影響を低減する指示操舵角を決定する。以下、操舵制御装置が実行する処理の概要を説明する。
図1は、実施の形態に係る操舵制御装置1が実行する処理の概要を説明するための図である。操舵制御装置1は、自動運転車両である自車両に搭載されている。
【0018】
操舵制御装置1の第1ヨーレート決定部124は、ドライバモデルに基づく制御により走行経路に沿って走行させるための第1ヨーレート(以下「前方ヨーレート」と言う。)を決定する。前方ヨーレートを決定する際に、自車両の現在位置に近い経路点に沿って走行させるようにすると、近い経路点に近づこうとしてしまうため、前方ヨーレートの変化が大きくなってしまう。そこで、第1ヨーレート決定部124は、走行経路上の最近経路点を含まない前方範囲内の複数の経路点を近似する前方近似関数を用いて前方ヨーレートを決定する。前方近似関数は、例えば二次関数、三次関数又はスプライン曲線であるが、これに限定するものではない。本実施の形態においては、前方近似関数が二次関数である場合を説明する。
【0019】
図2は、前方範囲FRを説明するための図である。本実施の形態においては、自車両3の後輪軸を中心とする座標系を用いており、自車両3の進行方向Xは縦軸で示され、進行方向Xは紙面下から上を正とする。また、自車両3の幅方向Yは横軸で示され、幅方向Yは紙面右から左を正とする。
図2の黒丸は自車両3の走行経路の経路点である。最近経路点NPは、自車両3が走行する走行経路の複数の経路点のうちの自車両3の現在位置に最も近い経路点である。
【0020】
第1ヨーレート決定部124は、最小距離Lmin以上前方距離L以下の前方範囲FR内の複数の経路点を近似する前方近似関数FFに応じたポテンシャルを含み、前方ヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する前方ヨーレートを決定する。このように、第1ヨーレート決定部124は、前方範囲FR内の自車両3の経路点を参照することで、前方ヨーレートの変化を小さくできる。
【0021】
ところで、前方範囲FR内の経路点を使うことで前方ヨーレートの変化を小さくできるが、外乱の影響を受けると、自車両3から近い経路点と自車両3の近接横偏差d2が大きくなりやすい。そこで、操舵制御装置1の第2ヨーレート決定部125は、PID(Proportional-Integral-Differential)制御に基づく外乱の影響を低減するための第2ヨーレート(以下「近接ヨーレート」と言う。)を決定する。第2ヨーレート決定部125は、近接近似関数KFと自車両3の幅方向Y軸との交点KPと、自車両3との幅方向Yにおける距離である近接横偏差d2に基づく近接ヨーレートを決定する。
【0022】
近接近似関数KFは、最近経路点NPを含む近接範囲PR内の複数の経路点を近似する関数である。近接近似関数KFは、例えば二次関数、三次関数又はスプライン曲線であるが、これに限定するものではない。本実施の形態においては、近接近似関数KFが二次関数である場合を説明する。近接範囲PRの上限値は例えば最小距離Lminであるが、これに限定するものではなく、自車両3の長さに所定値を加えた値であってもよい。所定値は適宜定めればよい。第2ヨーレート決定部125は、近接横偏差d2に比例する値を近接ヨーレートに決定する。第2ヨーレート決定部125は、近接横偏差d2に比例する近接ヨーレートを決定するので、外乱によって生じた近接横偏差d2を小さくできる。その結果、第2ヨーレート決定部125は、外乱による影響を低減することができる。
【0023】
操舵制御装置1のヨーレート制御部126は、前方ヨーレートと近接ヨーレートを合算した合算ヨーレートを用いて、指示操舵角を決定する。ECU(Electronic Control Unit)2は、自車両3を制御する制御装置であり、指示操舵角に従って自車両3の操舵角を制御する。これにより、ECU2は、経路点に沿って自車両3を走行させながら、自車両3の状態及び周辺状況の変化等の外乱の影響を低減できるので、自車両3の走行経路に対する追従性を向上できる。
【0024】
[操舵制御装置1の構成]
図3は、操舵制御装置1の構成を説明するための図である。自車両3は、操舵制御装置1の他に、ECU2及びセンサ群4を搭載している。
【0025】
ECU2は、自車両3を制御する制御装置である。ECU2は、操舵制御装置1が決定したヨーレートになるように、自車両3の操舵輪の角度(操舵角)を制御する。
【0026】
センサ群4は、自車両3の状態を検出するセンサである。センサ群4は、自車両3の位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)受信機を含み、自車両3の位置を検出する。また、センサ群4は、自車両3の状態として、ヨーレートを検出するセンサを含み、ヨーレートを検出する。
【0027】
操舵制御装置1は、記憶部11及び制御部12を備える。記憶部11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを記憶する。
【0028】
制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、第1係数更新部121、第2係数更新部122、偏差取得部123、第1ヨーレート決定部124、第2ヨーレート決定部125及びヨーレート制御部126としての機能を実現する。
【0029】
第1係数更新部121は、前方範囲FR内の複数の経路点を近似する前方近似関数FFの係数を更新する。第1係数更新部121は、前方近似関数FFの係数の係数を更新する際に、前方範囲FRの下限値である最小距離Lminと、最小距離Lminよりも大きい上限値である前方距離Lを決定する。第1係数更新部121は、自車両3からの距離が所定値以上の自車両3の速度Vに比例する最小距離Lminを決定する。具体的には、第1係数更新部121は、下記式(1)を用いて最小距離Lminを決定する。
【0030】
Lmin=A+VΔτ…(1)
Aは、自車両3の前面から後輪軸までの距離である。Δτは、指示操舵角を出力してから実際に操舵角が変化するまでにかかる応答遅れ時間であり、具体的な値は1秒であるが、これに限定するものではなく、実験などにより適宜定めればよい。なお、第1係数更新部121は、最小距離Lminが所定の値を超えたら、最小距離Lminを所定の値にする。所定の値は、例えば15メートル以上20メートル以下の範囲で適宜定めればよいが、これに限定するものではない。
【0031】
第1係数更新部121は、前方近似関数FFの不一致度を示す損失項及び前方距離Lに比例する利得項を含み、前方距離Lをパラメータとする関数を最小化する値を求めて前方距離Lを決定する。具体的には、第1係数更新部121は、以下の式(2)を用いて前方距離Lを決定する。
【数1】
aは定数であり、実験などにより適宜定めればよい。式(2)の第1項は、前方近似関数FFの不一致度を示す損失項である。式(2)の第2項は、aを係数とする前方距離Lに比例する利得項である。なお、第1係数更新部121は、自車両3から所定距離以内の走行経路の曲率又は自車両3が走行する道路の曲率が小さいほどaを大きくしてもよい。
【0032】
第1係数更新部121は、最小距離Lminから前方距離Lの上限値Lmaxまでの値を式(2)に代入して、式(2)が最小になる値を前方距離Lとして決定する。上限値Lmaxは、適宜定めればよく、具体的な値は100メートルであるが、150メートルであってもよく、これらに限定するものではない。これにより、第1係数更新部121は、前方近似関数FFの不一致度を小さくしながら、前方距離Lをできるだけ大きくすることができる。第1係数更新部121は、最小距離Lmin以上、決定した前方距離L以下の範囲を前方範囲FRとして決定する。
【0033】
第1係数更新部121は、前方範囲FR内の各経路点を示す座標を自車両から近い順に並べたデータ列を近似する前方近似関数FFの係数を更新する。例えば、第1係数更新部121は、前方近似関数FFの係数の時間推移を表す状態方程式と、前方範囲FR内の各経路点を示す座標を観測量とし、観測量と係数との関係を記述する前方観測方程式とを含むカルマンフィルタを用いて前方近似関数FFの係数を更新する。状態方程式は下記式(3)で表され、前方観測方程式は下記式(4)で表される。
【数2】
【0034】
式(3)及び(4)において、ノイズの項は省略している。式(4)のNは、前方範囲FRに含まれる経路点の数である。なお、前方範囲FRの前方距離Lが変化すると、前方範囲に含まれる経路点の数も変化する。そのため、Nは、前方距離Lが上限値Lmaxのときに前方範囲FRに含まれる経路点の数である。なお、前方範囲FRに含まれている経路点の数が、Nよりも小さい場合、経路点の数以降のXiを0にする。具体例を挙げると、第1係数更新部121は、Nが400であるときに、前方範囲FRに含まれている経路点の数が300であれば、300番目のX300から400番目のX400までのXiを0にする。
【0035】
偏差取得部123は、更新された係数で表される前方近似関数FF上の前方範囲FR内の位置と、自車両3との横偏差である前方横偏差d1を取得する。例えば、偏差取得部123は、前方近似関数上の前方範囲FR内の位置と進行方向X軸上の位置との距離である前方横偏差d1を取得する。また、偏差取得部123は、自車両3から自車両3の進行する向きに延びる第1直線と、自車両3及び走行経路上の位置を通る第2直線とのなす角である方位偏差を取得する。具体的には、偏差取得部123は、自車両3及び前方近似関数FF上の位置を通る第2直線とのなす角である方位偏差を取得する。偏差取得部123は、前方近似関数FFの曲率を取得してもよい。例えば、偏差取得部123は、前方近似関数FFを複数の区間に分割し、各区間の曲率を取得する。
【0036】
第1ヨーレート決定部124は、前方近似関数FFに応じたポテンシャルを含み自車両3の前方ヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて、自車両3の前方ヨーレートを決定する。前方近似関数FFに応じたポテンシャルは、前方近似関数FF上の位置を基準とし、前方横偏差d1、方位偏差及び前方近似関数FFの曲率を用いて生成される車線ポテンシャルである。車線ポテンシャルは、前方横偏差d1及び方位偏差で示される位置が最小値になり、前方横偏差d1に比例する引力ポテンシャルである。車線ポテンシャルは、第1ヨーレート決定部124が生成してもよいし、自車両3に搭載された他の装置が生成してもよい。
【0037】
第1ヨーレート決定部124は、車線ポテンシャル及び自車両3周辺に存在する障害物に応じた障害物ポテンシャルを少なくとも含み前方ヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて前方ヨーレートを決定する。障害物ポテンシャルは、障害物と自車両3が接触する接触リスクを示す斥力ポテンシャルである。具体的には、第1ヨーレート決定部124は、車線ポテンシャル及び障害物ポテンシャルに応じた接触リスクを含むコスト関数を最小化する前方ヨーレートを決定する。
【0038】
第2係数更新部122は、近接範囲PR内の各経路点を近似する近接近似関数KFの係数を更新する。例えば、第2係数更新部122は、近接範囲PR内の各経路点を示す座標を自車両3から近い順に並べたデータ列を近似する近接近似関数KFの係数を更新する。具体的には、第2係数更新部122は、近接近似関数KFの係数の時間推移を表す状態方程式と、近接範囲PR内の各経路点の座標を観測量とし、観測量と係数との関係を記述する近接観測方程式とを含むカルマンフィルタを用いて近接近似関数KFの係数を更新する。状態方程式は、上述した式(3)で表され、近接観測方程式は、下記式(5)で表される。
【数3】
【0039】
式(5)おいて、ノイズの項は省略している。なお、近接近似関数KFの係数の更新に用いられる状態方程式は、前方近似関数FFの係数の更新に用いられる状態方程式と同じ式で表されるが、第1係数更新部121は、前方近似関数FFの係数の更新用の状態方程式を用い、第2係数更新部122は、近接近似関数KFの係数の更新用の状態方程式を用いている。
【0040】
偏差取得部123は、更新された係数で表される近接近似関数KF上の位置と、自車両3との近接横偏差d2を取得する。例えば、偏差取得部123は、近接近似関数KFに原点のX座標(0)を入力して求まる位置と自車両3との距離を近接横偏差d2として取得する。近接近似関数KFに原点のX座標(0)を入力して求まる位置は、近接近似関数KFと幅方向Y軸との交点KPである(
図2参照)。また、偏差取得部123は、原点のX座標(0)に替えて、近接近似関数KFに近接範囲PR内の複数の各経路点のうちのいずれかのX座標を入力して求まる位置と、自車両3との幅方向Yにおける距離を近接横偏差d2として取得してもよい。
【0041】
第2ヨーレート決定部125は、PID制御に基づき、偏差取得部123が取得した近接横偏差d2を小さくする近接ヨーレートを決定する。例えば、第2ヨーレート決定部125は、近接横偏差d2、近接横偏差d2の積算値、及び近接横偏差d2の変化量の少なくともいずれかに比例する値を、自車両3の近接ヨーレートに決定する。具体的には、第2ヨーレート決定部125は、近接横偏差d2と比例ゲインとの積、近接横偏差d2の積算値と積分ゲインとの積、及び近接横偏差d2の変化量と微分ゲインとの積の和を、近接ヨーレートに決定する。
【0042】
ヨーレート制御部126は、前方ヨーレート及び近接ヨーレートを合算した合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定する。例えば、ヨーレート制御部126は、自車両3が走行経路に沿って走行していれば、合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定する。ヨーレート制御部126は、自車両3が走行経路に沿って走行していなければ、前方ヨーレートのみを用いて指示操舵角を決定する。ヨーレート制御部126は、決定した指示操舵角をECU2に入力する。ECU2は、指示操舵角になるように自車両3の操舵輪の角(操舵角)を制御する。
【0043】
[指示操舵角を決定する処理]
図4は、指示操舵角を決定する処理の一例を示すフローチャートである。
図4のフローチャートは、自車両3が走行している間、所定間隔で実行される。所定間隔は、例えば50ミリ秒であるが、これに限定するものではない。
【0044】
[指示操舵角を決定する処理]
第1係数更新部121は、前方距離Lを決定する(ステップS1)。例えば、第1係数更新部121は、最小距離Lminから前方距離Lの上限値Lmaxまでの値のうちの、式(2)が最小になる値を前方距離Lとして決定する。
【0045】
第1係数更新部121は、最小距離Lmin以上、前方距離L以下の前方範囲FR内の各経路点を近似する前方近似関数FFの第1係数を更新する(ステップS2)。例えば、第1係数更新部121は、前方近似関数FFの第1係数の時間推移を表す状態方程式(式(3))と、前方範囲FR内の各経路点を示す座標を観測量とし、観測量と係数との関係を記述する前方観測方程式(式(4))とを含むカルマンフィルタを用いて前方近似関数FFの第1係数を更新する。
【0046】
偏差取得部123は、前方近似関数FF上の位置と自車両3との幅方向Yの距離である前方横偏差d1を取得する(ステップS3)。具体的には、偏差取得部123は、係数が更新された前方近似関数FF上の前方範囲FR内の各位置と自車両3との前方横偏差d1及び方位偏差と、前方近似関数FFの曲率とを取得する。
【0047】
第1ヨーレート決定部124は、前方ヨーレートを決定する(ステップS4)。例えば、第1ヨーレート決定部124は、前方近似関数FFに応じた車線ポテンシャルを含み自車両3の前方ヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて、自車両3の前方ヨーレートを決定する。具体的には、第1ヨーレート決定部124は、前方横偏差d1、方位偏差、及び前方近似関数FFの曲率を用いて生成される車線ポテンシャルを含むコスト関数を最小化する前方ヨーレートを決定する。
【0048】
第2係数更新部122は、自車両3の走行モードが、走行経路に沿って走行する経路追従モードであるか否かを判定する(ステップS5)。第2係数更新部122は、自車両3の走行モードが経路追従モードであれば(ステップS5でYes)、近接範囲PR内の各経路点を近似する近接近似関数KFの第2係数 を更新する(ステップS6)。具体的には、第2係数更新部122は、近接近似関数KFの係数の時間推移を表す状態方程式(式(3))と、近接範囲PR内の各経路点の座標を観測量とし、観測量と係数との関係を記述する近接観測方程式(式(5))とを含むカルマンフィルタを用いて近接近似関数KFの係数を更新する。
【0049】
偏差取得部123は、近接近似関数KFの係数を更新したら、前方範囲FR内の経路点に対応する近接横偏差d2を取得する(ステップS7)。例えば、偏差取得部123は、係数が更新された近接近似関数KFに原点のX座標(0)を入力して求まる位置である交点KP(
図2参照)と自車両3との近接横偏差d2を取得する。
【0050】
第2ヨーレート決定部125は、近接横偏差d2を用いて近接ヨーレートを決定する(ステップS8)。具体的には、第2ヨーレート決定部125は、近接横偏差d2と比例ゲインとの積、近接横偏差d2の積算値と積分ゲインとの積、及び近接横偏差d2の変化量と微分ゲインとの積の和を、近接ヨーレートに決定する。
【0051】
ヨーレート制御部126は、前方ヨーレート及び近接ヨーレートを合算して、合算ヨーレートを算出する(ステップS9)。そして、ヨーレート制御部126は、合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定する(ステップS10)。ヨーレート制御部126は、自車両3の走行モードが経路追従モードでなければ(ステップS5でNo)、前方ヨーレートのみで指示操舵角を決定する(ステップS11)。
【0052】
(変形例)
上記の実施の形態においては、横偏差を用いて第2ヨーレートを決定した。これにかぎらず、操舵制御装置1は、方位偏差を用いて第2ヨーレートを決定してもよい方位偏差を用いる場合、偏差取得部123は、最近経路点と自車両とを通る第2直線と第1直線とのなす角である方位偏差を取得する。第2ヨーレート決定部125は、最近経路点NPと自車両3の方位偏差と比例ゲインとの積、当該方位偏差の積算値と積分ゲインとの積、及び当該方位偏差の変化量と微分ゲインとの積の和を、近接ヨーレートに決定する。
【0053】
[操舵制御装置1の効果]
以上説明したとおり、操舵制御装置1は、自車両3が走行する走行経路に応じたポテンシャルを含み自車両3の前方ヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する前方ヨーレートを決定するとともに、横偏差、横偏差の積算値、及び横偏差の変化量の少なくともいずれかに比例する値を近接ヨーレートに決定する。そして、操舵制御装置1は、前方ヨーレート及び近接ヨーレートを合算した合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定する。
【0054】
コスト関数は自車両3がポテンシャルの中心を走行するときに小さくなるので、操舵制御装置1は、走行経路と自車両の幅方向の横偏差が大きいほど大きな前方ヨーレートを決定する。また、操舵制御装置1は、近接ヨーレートによって、外乱によって生じた横偏差を小さくできる。そして、操舵制御装置1は、前方ヨーレート及び近接ヨーレートを合算することにより、走行経路の経路点に沿って走行し、外乱の影響を低減する指示操舵角を決定できる。その結果、自車両3の位置の走行経路からのずれを低減して、走行経路に対する自車両の追従性を向上させることができる。
【0055】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0056】
1 操舵制御装置
11 記憶部
12 制御部
121 第1係数更新部
122 第2係数更新部
123 偏差取得部
124 第1ヨーレート決定部
125 第2ヨーレート決定部
126 ヨーレート制御部
2 ECU
3 自車両
4 センサ群
【要約】 (修正有)
【課題】走行経路に対する自車両の追従性を高める。
【解決手段】操舵制御装置1は、自車両3が走行する走行経路の経路点と自車両3との自車両3の幅方向の距離である横偏差、又は自車両3から自車両3の進行する向きに延びる第1直線と自車両3及び経路点を通る第2直線とのなす角である方位偏差を取得する偏差取得部123と、横偏差又は方位偏差に応じたポテンシャルを含み自車両3のヨーレートをパラメータとするコスト関数を最小化する値を求めて、自車両3の第1ヨーレートを決定する第1ヨーレート決定部124と、横偏差又は方位偏差、横偏差又は方位偏差の積算値、及び横偏差又は方位偏差の変化量の少なくともいずれかに比例する値を、自車両3の第2ヨーレートに決定する第2ヨーレート決定部125と、第1ヨーレート及び第2ヨーレートを合算した合算ヨーレートを用いて指示操舵角を決定するヨーレート制御部126と、を有する。
【選択図】
図3