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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
H02M3/28 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022546310
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031760
(87)【国際公開番号】W WO2022050226
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020147424
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 正夫
(72)【発明者】
【氏名】三宅 佳郎
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-300734(JP,A)
【文献】特開2020-137322(JP,A)
【文献】特開2012-191775(JP,A)
【文献】特開2010-124567(JP,A)
【文献】特開平06-022546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力交流電圧を整流して、第1電圧として出力する整流回路と、
前記第1電圧を、帰還信号に基づいてスイッチングし、スイッチング電圧を生成するスイッチング回路と、
前記スイッチング電圧から、第2電圧を生成する出力回路と、
前記第1電圧と前記第2電圧とから前記帰還信号を生成する帰還回路と、を含み、
前記帰還回路は、
所定周期の搬送波であって、前記第1電圧の平均値に応じて波高が変化し、かつ、立ち上がりと立ち下がり少なくとも一方が非線形の搬送波を生成する搬送波生成回路と、
前記第1電圧と前記搬送波の電圧との比較結果に基づいたPWM信号であって、かつ、前記第2電圧に応じた波高を有するPWM信号を生成するPWM回路と、
前記PWM信号から前記帰還信号を生成するローパスフィルターと、を含み、
前記搬送波の非線形により、前記PWM信号は、前記第1電圧の値が大きいほど前記第1電圧の変化に応じたパルス幅の変化が大きい、スイッチング電源装置。
【請求項2】
前記非線形は、変域0≦t≦1の関数F(t^(1/2))に対応する形状を有する請求項1のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記出力回路は、
前記スイッチング電圧が入力され、交流電圧を出力するトランスと、
前記交流電圧を整流平滑化して、前記第2電圧を生成する整流平滑化回路と、を含む請求項1または2のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記搬送波は、立ち上がりまたは立ち下がりが非線形である鋸波、もしくは、少なくとも立ち上がりまたは立ち下がりの一方が非線形である三角波である請求項1乃至3のいずれかのスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記帰還回路は、
前記整流回路から前記第1電圧が入力される帰還信号生成回路と、
前記出力回路から前記第2電圧が入力されるセパレータと、を含み、
前記帰還信号生成回路は、入力された前記第1電圧及び前記セパレータからの出力に基づいて前記帰還信号を前記スイッチング回路に出力する請求項1乃至4のいずれかのスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記帰還回路は、入力された前記第1電圧に基づいて前記第1電圧の平均値を前記搬送波生成回路に出力する平均化回路を、さらに備える請求項1乃至5のいずれかのスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記搬送波生成回路から出力される前記搬送波の波高は、入力される前記第1電圧の平均値に比例する請求項1乃至6のいずれかのスイッチング電源装置。
【請求項8】
前記出力回路は、入力された前記スイッチング電圧に基づいて前記第2電圧の正側の電圧及び負側の電圧を出力するものであり、
前記帰還回路の前記PWM回路には、前記第2電圧の前記正側の電圧と前記負側の電圧の電位差に応じた電位差電圧が入力される請求項1乃至7のいずれかのスイッチング電源装置。
【請求項9】
前記PWM回路は、入力された前記電位差電圧に基づいて、前記PWM信号の波高を変更する請求項8のスイッチング電源装置。
【請求項10】
前記PWM回路から出力される信号は、前記電位差電圧と前記第1電圧の2乗の積を前記第1電圧の平均値で除算したものである請求項9のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等に使用されるスイッチング電源装置は、交流の商用電源を、より高い周波数でスイッチングしなおし、トランスを介して出力して、アイソレートされた直流電源を生成する。スイッチ電源装置では、交流電源を、整流および平滑化し、直流を生成して、スイッチングする。この整流および平滑化においてパルス状の電流が流れると、それによりスイッチング電源装置の力率が悪化する。この電流波形を制御して、力率を改善するため、通常、スイッチング電源装置にはPFC(Power Factor Correction)回路が設けられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-253957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PFC回路が設けられる構成では、スイッチング電源装置が大規模化する、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係るスイッチング電源装置は、入力交流電圧を整流して、第1電圧として出力する整流回路と、前記第1電圧を、帰還信号に基づいてスイッチングし、スイッチング電圧を生成するスイッチング回路と、前記スイッチング電圧から、第2電圧を生成する出力回路と、前記第1電圧と前記第2電圧とから前記帰還信号を生成する帰還回路と、を含み、前記帰還回路は、所定周期の搬送波であって、前記第1電圧の平均値に応じて波高が変化し、かつ、立ち上がりと立ち下がり少なくとも一方が非線形の搬送波を生成する搬送波生成回路と、前記第1電圧と前記搬送波の電圧との比較結果に基づいたPWM信号であって、かつ、前記第2電圧に応じた波高を有するPWM信号を生成するPWM回路と、前記PWM信号から前記帰還信号を生成するローパスフィルターとを含み、前記搬送波の非線形により、前記PWM信号は、前記第1電圧の値が大きいほど前記第1電圧の変化に応じたパルス幅の変化が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係るスイッチング電源装置の一例を示す図である。
図2】スイッチング電源装置における帰還信号生成回路の構成の一例を示す図である。
図3】搬送波の波形の一例を示す図である。
図4】スイッチング電源装置におけるSW回路等の構成の一例を示す図である。
図5】スイッチング電源装置の動作を説明するための図である。
図6】搬送波の波形の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るスイッチング電源装置1の構成を示す図である。このスイッチング電源装置1は、例えば商用の交流電源を直流電源に変換する電力変換装置であり、整流回路10、スイッチング(SW)回路20、出力回路30および帰還回路40を含む。
【0008】
整流回路10は、例えばダイオードブリッジであり、商用の交流電源5から出力される交流Vacを全波整流して、当該全波整流した電圧Vddを給電線11に出力する。電圧Vddは、抵抗分割等により分圧されて、信号Vinとして帰還回路40に供給される。また、整流回路10の出力端には平滑用のコンデンサーCが並列に接続される。
【0009】
SW回路20は、基準信号Vrefと帰還回路40から出力される帰還信号Fbとに基づいてスイッチング電圧Vswを生成する。
出力回路30は、スイッチング電圧Vswから、正側の電圧Dc_out(+)および負側のDc_out(-)を出力する。なお、本実施形態では、スイッチング電源装置1の出力を正側の電圧Dc_out(+)および負側のDc_out(-)としているが、どちらか一方の電圧のみを出力する構成としてもよい。
【0010】
帰還回路40は、セパレータ42と帰還信号生成回路44とを含む。セパレータ42は、例えば電圧Dc_out(+)およびDc_out(-)の電位差を、フォトカプラを介して信号Vfbとして出力する。フォトカプラを介するのは、入力側の交流Vacと出力側の電圧Dc_out(+)、Dc_out(-)との絶縁を図るためである。なお、信号Vfbは、電圧Dc_out(+)およびDc_out(-)の電位差に応じて、電位差が大きくなるほど小さくなる電圧であり、スイッチング電源装置1の負極性の出力電圧と言い換えられる。なお、信号Vfbは、電圧Dc_out(+)およびDc_out(-)に応じた直流電圧である。図1に示すように、帰還信号生成回路44は、整流回路10から入力される信号Vinとセパレータ42から出力される信号Vfbに基づいて帰還信号Fbをスイッチング回路20に出力する回路である。
【0011】
図2は、帰還信号生成回路44の構成の一例を示す図である。帰還信号生成回路44は、平均化回路441、搬送波生成回路443、PWM回路445と、ローパスフィルター447とを含む。
平均化回路441は、例えダイオードD0、抵抗素子RおよびコンデンサーC0を含み、リップルが残存する信号VinをコンデンサーC0によって平滑化する。すなわち、平均化回路441は、信号Vinにおける電圧の平均値を出力する。なお、平均化回路441から出力される信号をVavg1とする。つまり、平均化回路441は、整流回路10から入力される信号Vinに基づいて、信号Vinの平均値である信号Vavg1を搬送波生成回路443に出力する回路である。電圧の平均値とは、単位時間における当該電圧の積分値を当該単位時間で除した値であり、回路でいえば、コンデンサーC0の両端に現れる電圧をいう。
【0012】
搬送波生成回路443は、搬送波Scを出力する。搬送波Scの波形は、例えば図3に示されるように、1周期Tpにおいて電圧が上昇する部分T1と電圧が低下する部分T2とが繰り返される三角波である。部分T1では電圧が時間経過に対して非線形(非直線)で上昇し、部分T2では時間経過に対して電圧が線形(直線)で低下する。
本実施形態において、部分T1の特性は次式(1)の関数Fで表される。
V=F(t^(1/2))…(1)
すなわち、部分T1における電圧Vは、時間tの(1/2)乗、つまり平方根の関数で示される。
なお、関数Fの時間tについて、搬送波Scの1周期Tpの起点を0とし、終点を1として正規化した場合、非線形の部分T1は、変域0≦t≦1の一部において、関数F(t^(1/2))に対応する形状を有している、ということになる。
【0013】
また、搬送波生成回路443は、搬送波Scの波高Vsow(p-p)を、信号Vavg1の電圧に比例させる。このため、信号Vavg1の電圧がある値の場合に、搬送波Scが実線Aのように出力される状況において、信号Vavg1の電圧が高くなった場合には、搬送波Scが破線B1のように出力され、信号Vavg1の電圧が低くなった場合には、搬送波Scが破線B2のように出力される。
なお、搬送波Scの周波数(1/Tp)は、交流電源5の周波数は数十kHz~数百kHz程度である。また、波高はピークトゥピーク値で示される。
このような搬送波生成回路443は、例えば、搬送波Scの基本波形をメモリに記憶させておき、当該メモリから波形を繰り返して読み出すとともに、その波高Vsow(p-p)を、信号Vavg1の電圧に比例させて出力する構成により実現できる。また、搬送波生成回路443は、整流回路10の信号Vinの平均値に比例する波高を有する搬送波Scを出力する回路であるということもできる。
【0014】
PWM回路445は、コンパレーター445aとバッファ445bとを含む。
コンパレーター445aにおいて、正入力端(+)には信号Vinが供給され、負入力端(-)には搬送波Scが供給される。このため、コンパレーター445aは、信号Vinの電圧と搬送波Scの電圧とを比較し、当該比較の結果として、波高がほぼ一定の信号Vavg2を出力する。詳細には、コンパレーター445aは、信号Vinの電圧が搬送波Scの電圧以上であれば、信号Vavg2をHレベルで出力し、信号Vinの電圧が搬送波Scの電圧未満であれば、信号Vavg2をLレベルで出力する。信号Vagv2は、パルス幅変調された信号である。バッファ445bはレベルシフタであって、信号Vavg2のパルス形状を保ったまま、その波高を信号Vfbに変えた信号Vpwmを出力する。すなわち、PWM回路445は、入力された信号Vfbに基づいて、信号Vpwmの波高を変更する回路である。なお、信号Vpwmは、信号Vavg2をレベルシフトした信号であるので、信号Vavg2と同様にパルス幅変調された信号である。
【0015】
ローパスフィルター447は、パルス幅変調された信号Vpwmをアナログ電圧の帰還信号Fbに復調する。
【0016】
図4は、SW回路20および出力回路30の構成の一例を示す図である。SW回路20は、制御回路21、ドライバー25、26、スイッチSwHおよびSwLを含み、出力回路30は、トランス33および整流平滑化回路34を含む。
【0017】
制御回路21は、基準信号Vrefと帰還信号Fbとに基づいて信号Sw_HおよびSw_Lを出力する。
ドライバー25は、信号Sw_Hを増幅し、スイッチSwHの制御信号として出力する。ドライバー26は、信号Sw_Lを増幅して、スイッチSwLの制御信号として出力する。電圧Vddが出力される給電線11は、SW回路20におけるスイッチSwHの一端およびトランス33における一次側の一端に接続される。スイッチSwHの他端は、トランス33における一次側の他端およびスイッチSwLの一端に接続される。
スイッチSwHにおける一端および他端の間は、ドライバー25の出力信号がHレベルのときに導通し、当該出力信号がLレベルのときに絶縁する。同様に、スイッチSwLにおける一端および他端の間は、ドライバー26の出力信号がHレベルのときに導通し、当該出力信号がLレベルのときに絶縁する。
【0018】
トランス33の二次側には、整流平滑化回路34が設けられる。詳細には、整流平滑化回路34は、ダイオードD1、D2、コンデンサーC1およびC2を含む。トランス33における二次側の一端は、ダイオードD1のアノードに接続され、ダイオードD1のカソードは、電圧Dc_out(+)の出力端およびコンデンサーC1の一端に接続される。トランス33における二次側の他端は、ダイオードD2のカソードに接続され、ダイオードD2のアノードは、電圧Dc_out(-)の出力端およびコンデンサーC2の一端に接続される。トランス33における二次側の中性点は、コンデンサーC1の他端およびコンデンサーC2の他端に接続されて、一次側とは絶縁されて接地される。
【0019】
SW回路20における制御回路21は、基準信号Vrefの電圧と帰還回路40から出力される帰還信号Fbの電圧との差が小さくなるように、信号Sw_Hのデューティー比および信号Sw_Lのデューティー比を制御する。制御回路21は、帰還信号Fbの電圧が大きくなるほど、トランス33の一次側に掛かる電圧Vswのデューティ比が大きくなるよう、信号Sw_H及び信号Sw_Lのデューティ比を制御する。先述したように、信号Vfbは負極性であるので、出力電圧が高くなるほど電圧Vswのデューティ比は小さくなり、出力電圧が低くなるほど電圧Vswのデューティ比は大きくなる。この動作により、出力電圧は、所定の目標電圧に近づく。
【0020】
一般的なスイッチング電源装置において、具体的には出力信号の電圧がSW回路20に直接帰還される構成において、力率を低下させる要因は、交流電圧を整流および平滑化する手段にある。具体的には、図1でいえば整流回路10およびコンデンサーCである。スイッチング電源装置では、交流を整流および平滑化することで直流電圧に変換し、当該直流電圧をスイッチング回路によりスイッチングすることで出力電圧を安定化させるので、整流回路10およびコンデンサーCを省略することができない。
そこで、本実施形態に係るスイッチング電源装置1では、帰還回路40が、SW回路20への帰還信号Fbを次のような演算により生成している。
第1に、交流Vacを整流および平滑化した後の信号Vinの電圧を、二乗した信号(Vin^2)を生成する。
第2に、交流Vac(信号Vin)の電圧変動を吸収するために、信号(Vin^2)の電圧を信号Vinにおける電圧の平均値で除した信号(Vin^2/Vin平均値)を生成する。
第3に、出力電圧を示す信号Vfbと、信号(Vin^2/Vin平均値)とを乗算した信号{Vfb×(Vin^2/Vin平均値)}を求めて、当該乗算した信号をSW回路20への帰還信号Fbとして供給する。
【0021】
このように帰還回路40での演算には、乗算および除算が含まれる。乗算および除算は、本実施形態では、次のようにして実行される。
【0022】
パルス幅変調された信号は、入力信号Vinの電圧と搬送波の電圧とを比較して得られる二値信号である。パルス幅変調におけるゲインGは、次式(1)のように表すことできる。
G=Vout/Vin …(1)
式(1)において、Voutは、パルス幅変調された信号をローパスフィルターで復調することで得られるアナログ電圧である。
【0023】
また、ゲインGは、次式(2)のように表すこともできる。
G=Vpwm(p-p)/Vsow(p-p) …(2)
式(2)において、Vpwm(p-p)はパルス変調された信号における電圧の波高であり、Vsow(p-p)は上述したように搬送波における電圧の波高である。
つまり、パルス変調された信号における電圧の波高Vpwm(p-p)、または/および、搬送波における電圧の波高Vsow(p-p)を変化させると、パルス幅変調のゲインGを変化させることができる。
式(2)から判るように、ゲインGは、波高Vpwm(p-p)に比例し、波高Vsow(p-p)に反比例する。このため、波高Vpwm(p-p)の変化は乗算に相当し、波高Vsow(p-p)の変化は除算に相当する。
【0024】
パルス幅変調において、入力信号から出力信号(すなわち、パルス幅変調された信号をローパスフィルターで搬送波成分を除去した復調信号)への変換特性をリニアにするためには、搬送波の傾斜部分を直線にする必要がある。
逆にいえば、傾斜部分が直線ではなく、例えば、時間tで変化する関数F(t)にしたがって湾曲していると、パルス幅変調の変換特性は、当該関数F(t)の逆関数であるF-1(t)の特性にしたがうことになる。
このため、入力信号の電圧を二乗した信号を出力する場合、この傾斜部分を、関数F(t^2)の逆関数である関数F(t^(1/2))で表される形状とすればよいことになる。
【0025】
なお、搬送波の傾斜部分とは、搬送波のうち、異なる電圧レベルと比較したときに時間差が生じる部分であり、換言すれば、信号Vinの電圧が変化したときに、信号Vavg2のパルス幅の変化に主に寄与する部分である。具体的には、搬送波の傾斜部分とは、時間経過とともに電圧の上昇および急降下(または電圧の下降および急上昇)が繰り返される鋸波であれば、電圧の急降下(または急上昇)部分を除いた部分であり、電圧の上昇および下降が交互に繰り返される三角波であれば、その電圧の上昇および下降する部分である。鋸波における電圧の急上昇部分または急降下部分では、異なる電圧レベルと比較したときに時間差が十分に小さいので、ここでいう傾斜部分ではない。
【0026】
帰還信号Fbの電圧は、信号Vfbの電圧と、信号Vinにおける電圧の二乗値を当該信号Vinにおける電圧の平均値で除した値と、の積、すなわち{Vfb×(Vin^2/Vin平均値)}である。
本実施形態では、上記積のうち、(Vin^2)の項については、搬送波Scにおける部分T1の波形を関数F(t^(1/2))で表される形状とすることで求められる。(1/Vin平均値)の項については、搬送波Scの波高をVinの平均値に応じて変化させることで求められる。このため、コンパレーター445aから出力される信号Vavg2は、仮にローパスフィルターで復調されると、図5に示されるように、(Vin^2/Vin平均値)の電圧となる。
【0027】
なお、(Vin^2/Vin平均値)の瞬時値は、信号Vinの瞬時値に応じて変化する。また、(Vin^2/Vin平均値)の波高および形状とは、周期単位でみれば、ほぼ変化しない。具体的には、(Vin^2/Vin平均値)の波高については、信号Vinの信号レベル(平均電圧)の高低にかかわらず、おおよそ同じであり、かつ、(Vin^2/Vin平均値)の波形では、信号Vinの各周期におけるピーク付近で大きな値となる。
次に、上記積のうち、Vfbの項を乗じる点については、信号Vavg2の波高を、バッファ445bによって信号Vfbの電圧に変えることにより達成される。
信号Vavg2の波高を信号Vfbに応じて変えた信号Vpwmを、ローパスフィルター447で復調することにより、上記積で示される電圧を有する帰還信号FbがSW回路20に帰還される。帰還信号Fbは交流Vacの各周期における正と負のピーク付近で大きくなり、それに応じて電圧Vswのデューティ比も大きくなる。ピーク付近でトランス33の一次側により多くのエネルギーが供給され、結果として電源装置1の力率が改善される。
【0028】
従来において乗算および除算をアナログ演算で実行する場合には、トランジスターのベース・エミッタ間の電圧Vbeとコレクタ電流Icとの対数特性が用いられることが多い。具体的には、対数変換(log変換)すると、乗算が加算で、除算が減算で行えることを利用する。そして、
入力信号→対数変換→加算/減算→逆対数変換→出力信号
という手順を経ると、乗算/除算が可能になる。
しかしながら、トランジスターの電圧Vbeの絶対値が小さく、微小な変化でコレクタ電流Icが大きく変化するので、トランジスター自身の熱雑音やノイズの影響でダイナミックレンジを確保することが難しい。また、電圧Vbeが温度で変化しやすいので、温度の影響をキャンセルする工夫が必要となり、回路素子数の増加や専用IC化などのためにコストアップの要因になっている。
【0029】
これに対して、本実施形態では、二乗を含む乗算および除算の演算がパルス幅変調により実現されるので、上記トランジスターの対数特性を用いた構成と比較して、温度で変化する要素が少なく、また、回路構成の簡易化が図られる。
【0030】
上述した実施形態では、搬送波Scを図3に示されるような三角波としたが、搬送波Scの波形としては、図6に示されるような鋸波としてもよい。すなわち、図3において電圧の傾斜を伴って低下する部分T2をなくして、非線形で電圧が上昇する部分T1のみとしてもよい。換言すれば、非線形の部分T1は、変域0≦t≦1の全部において、関数F(t^(1/2))に対応する形状を有してもよい。
なお、電圧が非線形で上昇する部分については、時間経過とともに傾きが小さくなって、例えば図6に示されるように、信号Vinの電圧が高いほど、当該信号Vinの電圧の変化に対して、信号Vavg2のパルス幅の変化が大きくなればよい。
【0031】
また、図3または図6においては、搬送波Scにおいて電圧が時間経過とともに上昇する部分T1を非線形としたが、三角波または鋸波において電圧が時間経過とともに低下する部分T2を非線形としてもよい。制御回路21として、帰還信号Fbの電圧が大きくなるほど、トランス33の一次側に掛かる電圧Vswのデューティ比を小さくする回路を用いても良い。その場合、信号Vfbの項を正極性(出力電圧に比例する値)とし、(Vin^2/Vin平均値)の項を負極性(所定値から(Vin^2/Vin平均値)を減産した値)とすればよい。
【0032】
<付記>
上述した実施形態等から、例えば以下のような態様が把握される。
【0033】
本開示の態様(第1態様)に係るスイッチング電源装置は、入力交流電圧を整流して、第1電圧として出力する整流回路と、前記第1電圧を、帰還信号に基づいてスイッチングし、スイッチング信号を生成するスイッチング回路と、前記スイッチング電圧に基づいて、第2電圧を生成する出力回路と、前記第1電圧と前記第2電圧とから前記帰還信号を生成する帰還回路と、を含み、前記帰還回路は、所定周期の搬送波であって、前記第1電圧の平均値に応じて波高が変化し、かつ、立ち上がりと立ち下がり少なくとも一方が非線形の搬送波を生成する搬送波生成回路と、前記第1電圧と前記搬送波の電圧との比較結果に基づいたPWM信号であって、かつ、前記第2電圧に応じた波高を有するPWM信号を生成するPWM回路と、前記PWM信号から前記帰還信号を生成するローパスフィルターとを含み、前記搬送波の非線形により、前記PWM信号は、前記第1電圧の値が大きいほど前記第1電圧の変化に応じたパルス幅の変化が大きい。
この態様によれば、帰還信号を生成するに際の演算がパルス幅変調により実行されるので、トランジスターの対数特性を用いた構成と比較して、温度で変化する要素が少なく、また、回路構成の簡易化が図られる。
なお、信号Vinの電圧が第1電圧の一例であり、電圧Dc_out(+)またはDc_out(-)が第2電圧の一例である。また、信号VpwmがPWM信号の一例である。また、部分T1が搬送波の立ち上がりの一例であり、部分T2が搬送波の立ち下がりの一例である。
【0034】
第1態様の例(第2態様)において、前記非線形は、変域0≦t≦1の関数F(t^(1/2))に対応する形状を有する。この態様によれば、帰還信号を生成する際の二乗の演算を実行することができる。
【0035】
第1または第2態様の例(第3態様)において、前記出力回路は、前記スイッチング電圧を入力して、交流電圧を出力するトランスと、前記交流電圧を整流平滑化して、前記第2電圧を生成する整流平滑化回路と、を含む。
第1乃至第3のいずれかの態様の例(第4態様)において、前記搬送波は、立ち上がりまたは立ち下がりが非線形である鋸波、もしくは、少なくとも立ち上がりまたは立ち下がりの一方が非線形である三角波である。
【符号の説明】
【0036】
1…スイッチング電源装置、10…整流回路、20…スイッチング回路、30…出力回路、33…トランス、34…整流平滑化回路、40…帰還回路、44…帰還信号生成回路、443…搬送波生成回路、445…PWM回路、447…ローパスフィルター。
図1
図2
図3
図4
図5
図6