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特許7392897炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20231129BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C21C7/00 R
C21C5/30 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023505466
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2022042138
(87)【国際公開番号】W WO2023095647
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2021193655
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】加▲瀬▼ 寛人
(72)【発明者】
【氏名】杉野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐貴
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181562(WO,A1)
【文献】特開2017-089001(JP,A)
【文献】特開2014-201770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00- 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬設備における精錬処理の開始前又は処理中の溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度の計測結果、前記精錬設備から排出される排ガスの流量及び成分濃度を含む精錬設備についての計測結果を含む実績情報と、前記精錬処理の条件と、が入力される入力部と、
前記精錬設備における吹錬反応に関するモデルのモデルパラメータと、前記実績情報と、前記精錬処理の条件と、が記憶されるデータベースから取得した過去の前記モデルパラメータを用いて、対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定するモデル決定部と、
決定された前記モデルパラメータを用いて、前記溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度を含む炉内の状態量を計算する炉内状態計算部と、
前記対象チャージの前記精錬処理の結果を含む前記実績情報を用いて、前記精錬処理における特定期間の始点から終点までの前記炉内の物質収支誤差及び熱収支誤差を表す項を含む評価関数に基づいて、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを計算するモデルパラメータ計算部と、を備え
前記熱収支誤差は、前記精錬処理における特定期間の始点から終点までの前記溶湯の温度の変化量についての計測値と計算値との差である、炉内状態推定装置。
【請求項2】
前記モデル決定部は、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータのうち、前記対象チャージの前記精錬処理の条件に類似する過去の前記精錬処理の前記モデルパラメータを平均することで、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定する、請求項1に記載の炉内状態推定装置。
【請求項3】
前記モデル決定部は、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータと、前記精錬処理における処理回数、処理日時、精錬設備の使用回数の少なくとも1つを含む精錬処理の条件との関係をモデル化し、前記モデルから前記対象チャージの前記精錬処理における前記パラメータを決定する、請求項1に記載の炉内状態推定装置。
【請求項4】
前記モデルパラメータは、前記炉内に投入される炭素量の特定期間の積算量、炉外に排出される炭素量の特定期間の積算量、前記炉内に投入される酸素量、前記炉外に排出される酸素量、前記溶湯中の各種金属不純物酸化に使用される酸素量及び前記炉内の熱量変化による溶湯温度変化量の特定期間の積算量の少なくとも1つを補正する係数又は定数項を含む、請求項1に記載の炉内状態推定装置。
【請求項5】
前記モデルパラメータは、前記炉内に投入される炭素量の特定期間の積算量、炉外に排出される炭素量の特定期間の積算量、前記炉内に投入される酸素量、前記炉外に排出される酸素量、前記溶湯中の各種金属不純物酸化に使用される酸素量及び前記炉内の熱量変化による溶湯温度変化量の特定期間の積算量の少なくとも1つを補正する係数又は定数項を含む、請求項2に記載の炉内状態推定装置。
【請求項6】
前記モデルパラメータは、前記炉内に投入される炭素量の特定期間の積算量、炉外に排出される炭素量の特定期間の積算量、前記炉内に投入される酸素量、前記炉外に排出される酸素量、前記溶湯中の各種金属不純物酸化に使用される酸素量及び前記炉内の熱量変化による溶湯温度変化量の特定期間の積算量の少なくとも1つを補正する係数又は定数項を含む、請求項3に記載の炉内状態推定装置。
【請求項7】
前記評価関数は、炭素収支バランスを示す項と、酸素収支バランスを示す項と、熱収支バランスを示す項と、の重み付き和で構成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の炉内状態推定装置。
【請求項8】
炉内状態推定装置が実行する炉内状態推定方法であって、
精錬設備における精錬処理の開始前又は処理中の溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度の計測結果、前記精錬設備から排出される排ガスの流量及び成分濃度を含む精錬設備についての計測結果を含む実績情報と、前記精錬処理の条件と、が入力される入力ステップと、
前記精錬設備における吹錬反応に関するモデルのモデルパラメータと、前記実績情報と、前記精錬処理の条件と、が記憶されるデータベースから取得した過去の前記モデルパラメータを用いて、対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定するモデル決定ステップと、
決定された前記モデルパラメータを用いて、前記溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度を含む炉内の状態量を計算する炉内状態計算ステップと、
前記対象チャージの前記精錬処理の結果を含む前記実績情報を用いて、前記精錬処理における特定期間の始点から終点までの前記炉内の物質収支誤差及び熱収支誤差を表す項を含む評価関数に基づいて、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを計算するモデルパラメータ計算ステップと、を含み、
前記熱収支誤差は、前記精錬処理における特定期間の始点から終点までの前記溶湯の温度の変化量についての計測値と計算値との差である、炉内状態推定方法。
【請求項9】
前記モデル決定ステップは、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータのうち、前記対象チャージの前記精錬処理の条件に類似する過去の前記精錬処理の前記モデルパラメータを平均することで、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定する、請求項8に記載の炉内状態推定方法。
【請求項10】
前記モデル決定ステップは、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータと、前記精錬処理における処理回数、処理日時、精錬設備の使用回数の少なくとも1つを含む精錬処理の条件との関係をモデル化し、前記モデルから前記対象チャージの前記精錬処理における前記パラメータを決定する、請求項8に記載の炉内状態推定方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の炉内状態推定方法によって推定される前記溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度に基づき、上吹き酸素の流量及び速度、上吹きランスの高さ、底吹きガスの流量、石灰、鉄鉱石等の副原料の投入量及び投入タイミング、前記溶湯をサンプリングするタイミング並びに吹錬を終了するタイミングの少なくとも1つを決定して精錬操業を行い、溶鋼を製造する、溶鋼製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法に関する。本開示は、特に、鉄鋼業の精錬設備における溶湯中及びスラグ中の成分濃度を推定する炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所では、予備処理設備、転炉及び二次精錬設備等の精錬設備において、高炉より出銑された溶銑の成分及び温度の調整を行う。転炉は炉内に酸素を吹き込むことによって溶湯中の不純物除去及び昇温を行うプロセスであり、鋼の品質管理及び精錬コスト合理化等の面で非常に重要な役割を担う。ここで、転炉における溶湯成分及び溶湯温度の制御では、例えば上吹き酸素の流量及び速度、上吹きランスの高さ、底吹きガスの流量等が操作量として用いられる。また、石灰、鉄鉱石等の副原料の投入量及び投入タイミング、溶湯をサンプリングするタイミング、吹錬を終了するタイミング等が操作量として用いられる。これらの操作量は、溶湯温度と溶湯成分及びスラグ成分等の炉内状態に応じて最適化されるべきである。炉内状態を高精度に推定し操作量を適正化するため、精錬処理中において連続的に計測可能な排ガス計測値を含む精錬設備についての計測情報を用いて、炉内の物質収支及び熱収支計算を行う方法が提案されている。この方法は、一般に、溶湯温度と溶湯成分及びスラグ成分を高精度かつリアルタイムに推定できるとされる。しかし、精錬設備における炉内耐火物の損耗、投入副原料の成分変動、計測精度の低下等の精錬設備環境の変動によって状態推定モデルの精度がしばしば劣化するという課題がある。
【0003】
このようなモデルの精度を保つためにモデルパラメータを最適化する手法として、例えば特許文献1は、転炉の独立したモデル式におけるパラメータの値を、過去の実績情報から処理条件が類似した実績を抽出して算出する方法を提案する。
【0004】
また、例えば特許文献2は、二次精錬設備における溶湯温度推定モデルの複数のパラメータを、熱収支がバランスするように設定した連立方程式の近似解を求めることにより決定する方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-036289号公報
【文献】特開2004-360044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1は、モデル式として、独立した物理反応モデル又は一次結合モデルを対象とする。そのため、特許文献1の技術は、炉内の物質収支及び熱収支計算に基づいた状態推定モデルのように、炉内反応量及び昇温量が複雑に作用し合うモデルへの適用が難しい。
【0007】
特許文献2では、複数のモデル式とパラメータが互いに作用し合うような温度推定モデル式に対して、熱収支がバランスするように設定した連立方程式の近似解を求める方法を提案する。しかし、特許文献2は、炉内の反応量算出において、排ガス計測値を含む計測情報を用いた炉内物質収支計算について記載していない。そのため、特許文献2の技術は、熱収支に加えて炉内物質収支が作用し合うようなモデルへの適用が難しい。
【0008】
そのため、炉内の物質収支及び熱収支が複雑に作用し合うようなモデルに対しても有効なモデルパラメータ決定方法が求められている。
【0009】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、溶湯中及びスラグ中の成分濃度を高精度かつ連続的に推定可能な炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本開示の一実施形態に係る炉内状態推定装置は、
精錬設備における精錬処理の開始前又は処理中の溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度の計測結果、前記精錬設備から排出される排ガスの流量及び成分濃度を含む精錬設備についての計測結果を含む実績情報と、前記精錬処理の条件と、が入力される入力部と、
前記精錬設備における吹錬反応に関するモデルのモデルパラメータと、前記実績情報と、前記精錬処理の条件と、が記憶されるデータベースから取得した過去の前記モデルパラメータを用いて、対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定するモデル決定部と、
決定された前記モデルパラメータを用いて、前記溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度を含む炉内の状態量を計算する炉内状態計算部と、
前記対象チャージの前記精錬処理の結果を含む前記実績情報を用いて、前記精錬処理における特定期間の始点から終点までの前記炉内の物質収支誤差及び熱収支誤差を表す項を含む評価関数に基づいて、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを計算するモデルパラメータ計算部と、を備える。
【0011】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記モデル決定部は、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータのうち、前記対象チャージの前記精錬処理の条件に類似する過去の前記精錬処理の前記モデルパラメータを平均することで、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定する。
【0012】
(3)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記モデル決定部は、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータと、前記精錬処理における処理回数、処理日時、精錬設備の使用回数の少なくとも1つを含む精錬処理の条件との関係をモデル化し、前記モデルから前記対象チャージの前記精錬処理における前記パラメータを決定する。
【0013】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記モデルパラメータは、前記炉内に投入される炭素量の特定期間の積算量、炉外に排出される炭素量の特定期間の積算量、前記炉内に投入される酸素量、前記炉外に排出される酸素量、前記溶湯中の各種金属不純物酸化に使用される酸素量及び前記炉内の熱量変化による溶湯温度変化量の特定期間の積算量の少なくとも1つを補正する係数又は定数項を含む。
【0014】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記評価関数は、炭素収支バランスを示す項と、酸素収支バランスを示す項と、熱収支バランスを示す項と、の重み付き和で構成される。
【0015】
(6)本開示の一実施形態に係る炉内状態推定方法は、
炉内状態推定装置が実行する炉内状態推定方法であって、
精錬設備における精錬処理の開始前又は処理中の溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度の計測結果、前記精錬設備から排出される排ガスの流量及び成分濃度を含む精錬設備についての計測結果を含む実績情報と、前記精錬処理の条件と、が入力される入力ステップと、
前記精錬設備における吹錬反応に関するモデルのモデルパラメータと、前記実績情報と、前記精錬処理の条件と、が記憶されるデータベースから取得した過去の前記モデルパラメータを用いて、対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定するモデル決定ステップと、
決定された前記モデルパラメータを用いて、前記溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度を含む炉内の状態量を計算する炉内状態計算ステップと、
前記対象チャージの前記精錬処理の結果を含む前記実績情報を用いて、前記精錬処理における特定期間の始点から終点までの前記炉内の物質収支誤差及び熱収支誤差を表す項を含む評価関数に基づいて、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを計算するモデルパラメータ計算ステップと、を含む。
【0016】
(7)本開示の一実施形態として、(6)において、
前記モデル決定ステップは、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータのうち、前記対象チャージの前記精錬処理の条件に類似する過去の前記精錬処理の前記モデルパラメータを平均することで、前記対象チャージの前記精錬処理における前記モデルパラメータを決定する。
【0017】
(8)本開示の一実施形態として、(6)において、
前記モデル決定ステップは、前記データベースに記憶された過去の前記モデルパラメータと、前記精錬処理における処理回数、処理日時、精錬設備の使用回数の少なくとも1つを含む精錬処理の条件との関係をモデル化し、前記モデルから前記対象チャージの前記精錬処理における前記パラメータを決定する。
【0018】
(9)本開示の一実施形態に係る溶鋼製造方法は、
(6)から(8)のいずれかの炉内状態推定方法によって推定される前記溶湯の温度及び成分濃度並びにスラグの成分濃度に基づき、上吹き酸素の流量及び速度、上吹きランスの高さ、底吹きガスの流量、石灰、鉄鉱石等の副原料の投入量及び投入タイミング、前記溶湯をサンプリングするタイミング並びに吹錬を終了するタイミングの少なくとも1つを決定して精錬操業を行い、溶鋼を製造する。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、溶湯中及びスラグ中の成分濃度を高精度かつ連続的に推定可能な炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示の一実施形態である炉内状態推定装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、データベースの構成例を示す図である。
図3図3は、本開示の一実施形態である炉内状態推定方法の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る炉内状態推定装置、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法が説明される。
【0022】
[炉内状態推定装置の構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る炉内状態推定装置1の構成を示す模式図である。本実施形態において、炉内状態推定装置1は、鉄鋼業における溶鋼を製造する設備の一部として用いられる。溶鋼を製造する設備は、精錬設備2と、炉内状態推定装置1を含む吹錬制御システムと、を備える。
【0023】
図1に示すように、精錬設備2は、転炉100、ランス102及びダクト104を備えている。ランス102は、転炉100内の溶湯101上に配置されている。ランス102の先端から下方の溶湯101に向けて高圧酸素が噴出される。この高圧酸素によって溶湯101内の不純物が酸化されてスラグ103内に取り込まれる(精錬処理)。ダクト104は、排ガス導煙用の煙道設備であって、転炉100の上部に設置されている。
【0024】
ダクト104の内部には、排ガス検出部105が配置されている。排ガス検出部105は、精錬処理に伴い排出される排ガスの流量及び成分濃度(例えばCO、CO、O、N、Ar等の濃度)を検出する。排ガス検出部105は、排ガス計測として、例えばダクト104内に設けられたベンチュリ管の前後の差圧に基づいてダクト104内の排ガスの流量を計測する。また、排ガス検出部105は、排ガス計測として、排ガス中の各成分の濃度[%]を計測する。排ガスの流量及び成分濃度は、例えば数秒周期で計測される。排ガス検出部105の検出結果を示す信号は制御端末10に送られる。
【0025】
転炉100内の溶湯101には、転炉100の底部に形成されている通気孔106を介して撹拌ガスが吹き込まれる。撹拌ガスは、Ar等の不活性ガスである。吹き込まれた撹拌ガスは、溶湯101を撹拌し、高圧酸素と溶湯101との反応を促進する。流量計107は、転炉100に吹き込まれる撹拌ガスの流量を計測する。吹錬開始直前及び吹錬後には、溶湯101の温度及び成分濃度の分析が行われる。また、溶湯101の温度及び成分濃度は、吹錬途中で一度又は複数回計測され、計測された温度及び成分濃度に基づいて高圧酸素の供給量(送酸量)及び速度(送酸速度)並びに撹拌ガスの流量(撹拌ガス流量)等が決められる。
【0026】
吹錬制御システムは、制御端末10、表示装置20及び炉内状態推定装置1を主な構成要素として備えている。制御端末10は、パーソナルコンピュータ又はワークステーション等の情報処理装置によって構成されてよい。制御端末10は、溶湯101の温度及び成分濃度が所望の範囲内になるように送酸量、送酸速度及び撹拌ガス流量を制御すると共に、送酸量、送酸速度及び撹拌ガス流量の実績値のデータを収集する。表示装置20は、例えば液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)又はCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイによって構成されてよい。表示装置20は、炉内状態推定装置1から出力された計算結果などを表示してよい。
【0027】
炉内状態推定装置1は、精錬設備2で処理されている溶湯101の温度及び成分濃度並びにスラグ103の成分濃度を推定する装置である。炉内状態推定装置1は、パーソナルコンピュータ又はワークステーション等の情報処理装置によって構成されている。炉内状態推定装置1は、入力部11、データベース12、モデルパラメータ計算部13、モデル決定部14、炉内状態計算部15及び出力部16を備えている。
【0028】
入力部11は、精錬設備2に関する各種の計測結果である実績情報(実績データ)などが入力される入力用インターフェースである。入力部11は、例えばキーボード、マウス、ポインティングディバイス、データ受信装置及びグラフィカルユーザインターフェース(GUI)等の少なくとも1つであってよい。本実施形態において、入力部11は、実績情報、パラメータ設定値等を外部から受け取り、その情報のデータベース12への書き込み及び炉内状態計算部15への送信を行う。入力部11には、制御端末10から実績情報が入力される。実績情報は、排ガス検出部105によって計測された排ガスの流量及び成分濃度についての情報、送酸量及び送酸速度の情報、撹拌ガス流量の情報、原料(主原料、副原料)投入量の情報、溶湯101の温度及び成分濃度並びにスラグ103の成分濃度等が含まれる。これらの情報は、後述する図2の実績情報における項目1~項目Mに対応する。また、入力部11は、例えば精錬設備2のオペレータなどによる手動でのデータ入力(手入力)が可能であってよい。手入力によって、モデル式(以下、単に「モデル」とも称される)のパラメータ設定値が入力され得る。本実施形態において、入力部11は、後述する精錬処理の条件及び操作量情報も受け取る。また、入力部11は、精錬処理の開始前又は処理中又は処理終了後に実績情報などを取得してよい。
【0029】
データベース12は、精錬設備2における吹錬反応に関するモデルの情報、精錬処理の実績情報及び炉内状態推定装置1の計算結果を記憶する。データベース12は、例えばメモリ及びハードディスクドライブ等の記憶装置で構成される。記憶装置はさらにコンピュータプログラムを記憶してよい。データベース12は、吹錬反応に関するモデルの情報として、モデル式及びモデル式のパラメータ(以下「モデルパラメータ」)を記憶している。モデルパラメータはモデルパラメータ計算部13によって計算される。また、データベース12には、入力部11に入力された各種情報、炉内状態計算部15により計算された吹錬実績における計算・解析結果が記憶されてよい。
【0030】
図2は、データベース12の構成例を示す図である。本実施形態において、データベース12は、N回(Nチャージ)の精錬処理における、条件、実績情報及び計算結果であるモデルパラメータをチャージの識別番号と関連付けて記憶する。Nは例えば2以上の整数である。図2の例において、最も左の欄はチャージの識別番号を示す。例えばN回目の精練処理において、データベース12は、過去のN-1回の精錬処理における実績情報及びモデルパラメータを記憶している。N回目の精練処理において、モデル決定部14が後述するようにモデルパラメータを決定する場合に、データベース12に記憶された過去のN-1回分の精錬処理の情報が候補として用いられる。また、N回目の精練処理が終了すると、N回目の精練処理における実績情報及び計算結果がデータベース12に追加される(図2の太枠部分参照)。その後に、N+1回目の精練処理において、モデル決定部14がモデルパラメータを決定する場合に、データベース12に記憶された過去のN回分の精錬処理の情報が候補として用いられる。
【0031】
モデルパラメータ計算部13、モデル決定部14及び炉内状態計算部15は、例えばCPU等の演算処理装置で構成される。モデルパラメータ計算部13、モデル決定部14及び炉内状態計算部15は、例えば演算処理装置がコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより実現されてよい。また、モデルパラメータ計算部13、モデル決定部14及び炉内状態計算部15は専用の演算装置又は演算回路を有していてよい。
【0032】
モデルパラメータ計算部13は、炉内の物質収支及び熱収支に基づいて、収支誤差が最小となるように吹錬反応に関するモデルのモデルパラメータを計算し、データベース12へ記憶する。モデルパラメータ計算部13は、1回の精錬処理が終了してから、その精錬処理の結果である実績情報を用いて物質収支及び熱収支の計算を行う。
【0033】
物質収支計算は、転炉100内への各成分の投入量及び転炉100からの各成分の排出量を計算するものである。各成分の投入量は、転炉100への主原料及び副原料投入量、ランス102からの供給酸素及び転炉100外からの巻き込み空気量から計算される。各成分の排出量は、排ガス流量及び排ガス成分濃度から計算される。
【0034】
熱収支計算は、転炉100の炉内における入熱量及び排出熱量を計算するものである。入熱量は、転炉100へ挿入される主原料の顕熱、炉内で生じる反応による反応熱、転炉100へ投入される副原料の溶解熱等から計算される。排出熱量は、炉体表面からの放熱、炉口部からの輻射熱、攪拌ガスによる抜熱、炉外に排出されるスラグ103、排出ガスの顕熱等から計算される。
【0035】
モデル決定部14は、データベース12に記憶されている過去のモデルパラメータを取得する。モデル決定部14は、過去のモデルパラメータを用いて、炉内状態計算部15で利用するモデルパラメータを決定し、炉内状態計算部15へ送信する。
【0036】
炉内状態計算部15は、モデル決定部14で決定されたモデルパラメータ、入力部11が収集した実績情報及びパラメータ設定値等に基づいて、溶湯101の温度及び成分濃度並びにスラグ103の成分濃度を含む転炉100内の状態量を計算(推定)する。推定された転炉100内の状態量は、出力部16へ送信される。
【0037】
出力部16は、炉内状態推定装置1によって計算された転炉100内の状態量を制御端末10に送信する。精錬処理において、炉内状態推定装置1から出力された計算結果に基づいて各種の操作量の決定及び操業条件の変更が行われる。また、出力部16は、炉内状態推定装置1で計算された情報を表示装置20へ送信する機能も有しており、炉内状態推定装置1から出力された計算結果を表示させることが可能である。
【0038】
このような構成を有する炉内状態推定装置1は、以下に説明する炉内状態推定方法の処理を実行することによって、溶湯101中の温度及び成分濃度並びにスラグ103中の成分濃度等を含む転炉100内の状態量を精度高く推定する。以下、図3に示すフローチャートを参照して、炉内状態推定方法を実行する際の炉内状態推定装置1の動作が説明される。
【0039】
[炉内状態推定方法]
図3は、本開示の一実施形態に係る炉内状態推定方法の処理を示すフローチャートである。図3に示すフローチャートは、精錬処理が開始される前の任意のタイミングで開始となる。つまり、精錬処理が開始される前の任意のタイミングで、炉内状態推定処理はステップS1の処理に進む。
【0040】
ステップS1の処理では、入力部11が精錬処理の条件を取得する。本実施形態において、精錬処理の条件は、精錬形態、副原料投入予定量、溶湯101及びスラグ103の成分濃度及び温度の目標値、処理回数、処理日時、炉、ランス及び計測機器を含む設備の使用回数などを含む。入力部11は、取得した精錬処理の条件を、データベース12及び炉内状態計算部15に送信する。これにより、ステップS1の処理が完了し、炉内状態推定処理はステップS2の処理に進む。ステップS1は「入力ステップ」の一部に対応する。ステップS1において入力されたデータは、モデル決定部14の処理で用いられる。
【0041】
ステップS2の処理では、モデル決定部14が、データベース12に記憶されている過去のモデルパラメータを用いて、精錬処理の条件に基づいて、炉内状態計算部15で利用するモデルパラメータを決定する。ステップS2は「モデル決定ステップ」に対応する。詳細に述べると、ステップS2の処理で決定されるモデルパラメータは、既にデータベース12に記憶されている過去の精錬処理に対応するモデルパラメータに基づいて計算又は選択によって得られる。上記のように、例えばN回目の精練処理において、モデル決定部14は、データベース12に記憶された過去のN-1回分の精錬処理の情報を用いてモデルパラメータを決定する。精錬処理結果が取得されるまでに時間がかかるなど、過去のN-1回分のモデルパラメータ又は精錬処理の条件のデータが揃っていない場合に、必要なモデルパラメータ又は精錬処理の条件のデータが揃った実績情報を抽出してモデルパラメータが決定されてよい。この例の場合におけるN回目の精練処理すなわち現在実行中の精練処理を、対象チャージの精練処理と称することがある。
【0042】
モデル決定部14は、例えばデータベース12に記憶されているモデルパラメータのうち、精錬処理の条件が対象チャージの条件と類似しているものを抽出し、抽出したモデルパラメータを平均することで決定する。モデル決定部14は、直近の所定数のチャージにおけるモデルパラメータだけを抽出して、すなわち古いモデルパラメータを抽出対象から除外して、平均化を行ってよい。対象チャージの精錬処理における条件と過去実績との類似度(Ds)は、例えば、以下の式(1)に示すようにユークリッド距離を計算することにより評価できる。
【0043】
【数1】
【0044】
ただし、kは精錬処理の条件数である。CAは過去の実績における条件を示す。CPは対象チャージの精錬処理における条件を示す。Gは各精錬処理の条件の重み付けをするためのパラメータである。精錬処理の条件としては、例えば、精錬処理日時、装入溶銑重量、装入スクラップ重量、溶銑温度、溶銑中のC、Si、Mn、Pを始めとする成分濃度、精錬炉及び上吹きランスの使用回数等が挙げられる。また、例えば直前に実施された精錬処理における処理後の溶湯温度及び処理後からの経過時間、持ち越されるスラグ重量及び成分、精錬処理開始前に投入される副原料銘柄毎の投入重量、スクラップ銘柄毎の投入重量等が挙げられる。これらの条件は、図2の精練処理の条件における項目1~項目Lに対応する。また、類似度を評価する場合に、使用されている精錬炉の形態、上吹きランスの形態、底吹きノズルの形態等が一致した実績のみが対象とされてよい。ここで、類似度は式(1)に示すユークリッド距離に限らず、シティブロック距離、ミンコフスキー距離、マハラノビス距離、コサイン類似度を始めとした、k次元ベクトル間の距離を評価する手法によっても評価できる。ここで、類似度が高いことは、計算したk次元ベクトル間の距離が短いことと同義である。過去の精錬処理の実績の抽出は、計算した類似度が設定した閾値より高い実績が抽出されてよいし又は類似度が高い上位任意数の過去実績が抽出されてよい。また、類似実績の抽出方法として、精錬処理の条件kそれぞれの項目について、計算対象処理の条件と過去実績の条件との差を計算し、k個の差がそれぞれ設定した閾値より小さい実績を抽出する方法でよい。
【0045】
また、モデル決定部14は、データベース12に記憶されているモデルパラメータと、精錬処理における処理回数、処理日時、炉、ランス及び計測機器を含む精錬設備の使用回数などを含む精錬処理の条件との関係をモデル化しておいてよい。そして、モデル決定部14は、対象チャージの精錬処理条件入力値からモデル計算により最適なパラメータを算出してよい。モデル決定部14は、決定したモデルパラメータを炉内状態計算部15に送信する。これにより、ステップS2の処理が完了し、炉内状態推定処理はステップS3の処理に進む。
【0046】
ステップS3及びステップS4の処理は、1回の精錬処理が開始するタイミングで開始されて、精錬処理中に任意の周期で繰り返し実施される。ステップS3の処理では、入力部11が精錬処理の操作量情報及び転炉100における計測情報を取得する。操作量情報は、例えば、ランス102の高さ、送酸速度、撹拌ガス流量、副原料の投入量等といった操作量の情報である。計測情報は、例えば排ガスの流量及び成分濃度等の計測値である。ここで、計測値は、計測された値そのものに限定されず、分析後の結果(分析値)も含んでよい。操作量情報、計測情報は任意の周期で収集される。操作量情報と計測情報との間に大きな時間遅れのある場合には、その遅れを考慮してデータを作成する。また、計測情報がノイズを多く含んでいる場合には、移動平均計算等の平滑化処理を行った値で計測値を置き換えてよい。ステップS3は「入力ステップ」の一部に対応する。ステップS3において入力されたデータは、炉内状態計算部15の処理で用いられる。
【0047】
ステップS4の処理では、炉内状態計算部15が、入力部11が取得した情報及びモデル決定部14が決定したモデルパラメータを有するモデルを用いて、転炉100内の状態量を計算する。状態量は、例えば溶湯101中の炭素濃度、スラグ103中のFeO濃度等が挙げられる。ステップS4は「炉内状態計算ステップ」に対応する。
【0048】
溶湯101中の炭素濃度は、例えば転炉100内に残存する炭素量を計算することで求められる。転炉100内に投入される炭素量及び転炉100外に排出される炭素量はそれぞれ以下に示す式(2)及び式(3)のように表すことができる。投入炭素量から排出炭素量を減算した転炉100内に残存する炭素量を、溶湯101中の炭素量に相当すると仮定することによって、溶湯101中の炭素濃度を計算することができる。ここで、溶湯101の入出炭素量は全装入量と比較して微少であると仮定している。また、以降断りがない限り、「%」及び各種流量は「mass%」及び流量原単位を表す。
【0049】
【数2】
【0050】
【数3】
【0051】
ここで、投入炭素量であるCin[%]は、主原料中の炭素量と投入副原料中の炭素量の和の溶湯101中の濃度換算値である。ρpig[%]は装入溶銑中の炭素濃度である。ρ Cscr[%]は装入スクラップ(銘柄i)中の炭素濃度である。ρ Caux[%]は投入副原料(銘柄j)中の炭素濃度である。Wpig[t]は装入溶銑重量である。W scr[t]は装入スクラップ(銘柄i)の重量である。W aux[t]は投入副原料(銘柄j)の投入積算重量である。Wcharge[t]は転炉100に装入された溶湯重量である。装入スクラップの銘柄i及び投入副原料の銘柄jにおける炭素濃度(ρ Cscr、ρ Caux)はデータベース12に記憶されており、炉内状態計算部15は、対象チャージで利用される銘柄についての情報を取得する。排出炭素量であるCout[%]は、排ガス中に含まれる炭素量の溶湯101中の濃度換算値である。VCO OG[Nm/t]、VCO2 OG[Nm/t]はそれぞれ排ガス中のCO、COの計算時刻までの積算流量である。
【0052】
スラグ103中のFeO濃度は、投入酸素量から排出酸素量を減算した量が転炉100内に残存する酸素量に相当すると仮定して計算できる。例えば、転炉100内に投入される酸素量及び転炉100外に排出される酸素量をそれぞれ以下に示す式(4)及び式(5)のように表すことができる。
【0053】
【数4】
【0054】
【数5】
【0055】
ここで、投入酸素量であるO in[Nm/t]は、ランス102からの上吹き酸素積算量VO2 blow[Nm/t]、投入副原料中の酸素積算量及び転炉100外から炉内に巻き込まれる空気中の酸素積算量の和である。ρ Oscr[%]は装入スクラップ(銘柄i)中の酸素含有量の換算値である。ρ Oaux[(Nm/t)/t]は投入副原料(銘柄j)中の酸素含有量の換算値である。装入スクラップの銘柄i及び投入副原料の銘柄jにおける酸素含有量(ρ Oaux、ρ Oaux)はデータベース12に記憶されており、炉内状態計算部15は、対象チャージで利用される銘柄についての情報を取得する。ρ Oscr[%]及びW aux[t]については、前チャージから持ち越したスラグ103の成分及び重量についての分析値又は計算値が含まれてよい。また、投入酸素量の計算において、例えば本実施例のように、排ガス計測としてN濃度、Ar濃度が得られない場合に、巻き込まれる空気中の酸素量は式(4)の第四項のように計算してよい。ここで、式(4)の第四項では、排ガス中のO、CO、CO以外の未分析排ガス量であるVrem OG[Nm/t]から底吹きガスの流量であるVbot[Nm/t]を減算した量が巻き込み空気中のN、Arに相当すると仮定している。
【0056】
排出酸素量であるO out[Nm/t]は排ガス中に含まれる酸素量から計算される。VO2 OG[Nm/t]は排ガス中のOの計算時刻までの積算流量である。VCO OG[Nm/t]、VCO2 OG[Nm/t]は、式(3)と同じである。投入酸素量から排出酸素量を減算した量が転炉100内に残存する酸素量である。転炉100内に残存する酸素は溶湯101中のSi、Mn、P等の金属不純物の酸化及び鉄の酸化に使用される。そのうち、金属不純物の酸化量については、データベース12に記憶されているモデルのうち不純物金属の酸化反応モデルを用いて計算される。例えば溶湯101中のSi酸化に使用される酸素量であるVO2 Si[Nm/t]は、以下に示す式(6)のように表される。
【0057】
【数6】
【0058】
ここで、ρpig Si[%]は装入溶銑中のSi濃度である。ρ Siscr[%]は装入スクラップ(銘柄i)中のSi濃度である。ρ Siaux[%]は投入副原料(銘柄j)中のSi濃度である。KSiはSiの酸化反応速度定数である。また、式(6)と同様に、Mn、P等の溶湯101中の各種金属不純物の酸化に使用される酸素量が計算できる。ここで、Si、Mn、P等の溶湯101中の各種金属不純物の酸化に使用される酸素量の合計が、VO2 met[Nm/t]であるとする。スラグ103中のFeO量は、投入酸素量から排出酸素量を減算した量からさらにVO2 metを減算した量に相当すると仮定して計算できる。
【0059】
1回の精錬処理(上記の対象チャージの精練処理)が終了するタイミングでステップS3及びステップS4の処理が終了し(ステップS5のYes)、炉内状態推定処理はステップS6の処理に進む。1回の精錬処理が終了していない場合に(ステップS5のNo)、炉内状態推定処理はステップS3及びステップS4の処理に戻る。
【0060】
ステップS6の処理では、入力部11が、精錬処理の結果を実績情報として取得する。本実施形態において、精錬処理の結果は、溶湯101の温度及び成分濃度、スラグ103の成分濃度並びに排ガスの流量及び成分濃度を含む。入力部11は、取得した精錬処理の結果を、データベース12に記憶する。これにより、ステップS6の処理が完了し、炉内状態推定処理はステップS7の処理に進む。ステップS6は「入力ステップ」の一部に対応する。ステップS6において入力されたデータは、モデルパラメータ計算部13の処理で用いられる。
【0061】
ステップS7の処理では、モデルパラメータ計算部13が炉内の物質収支及び熱収支に基づいて、収支誤差が最小となるように吹錬反応に関するモデルのモデルパラメータを計算し、データベース12へ記憶する。ステップS7は「モデルパラメータ計算ステップ」に対応する。上記のように、炉内状態計算部15がモデル決定部14によって決定されたモデルパラメータを用いて、対象チャージの精練処理における転炉100内の状態量を推定している。モデルパラメータ計算部13は、炉内状態計算部15が用いたモデルパラメータを、対象チャージの精練処理の結果(実績情報)を用いて補正する。そして、モデルパラメータ計算部13は、補正後のさらに正確なモデルパラメータを、データベース12へ記憶する。換言すると、対象チャージと関連付けられてデータベース12へ記憶されるモデルパラメータは、炉内状態計算部15が計算(推定)に用いたモデルのモデルパラメータではない。対象チャージと関連付けられてデータベース12へ記憶されるモデルパラメータは、モデルパラメータ計算部13によって対象チャージの精練処理の実績情報に基づいて計算(補正)されたモデルパラメータである。
【0062】
モデルパラメータ計算部13は、補正のための係数をモデルパラメータとして計算してよい。補正のための係数は、例えば排ガスの流量の計測値の補正係数A、排ガスの成分濃度の計測値の補正係数Bを含んでよい。補正のための係数は、例えば溶湯101の成分濃度の計測値の補正係数ΔC、溶湯101の温度の計測値の補正係数D、装入スクラップの炉内反応の歩留まりに関する定数E、投入される副原料の炉内反応の歩留まりに関する定数Fを含んでよい。補正のための係数は、溶湯101中の成分の酸化反応、スラグ103中の成分の還元反応、副原料の溶解などの炉内における各種反応に伴う昇熱及び吸熱量についての係数Hを含んでよい。また、補正のための係数は、ガス及びスラグ103の顕熱、炉口及び炉体からの放熱量などの熱ロスについての係数Iを含んでよい。
【0063】
モデルパラメータ計算部13は、例えば式(7)のような評価関数の変数として、上記のような係数を組み込み、評価関数を最小化するモデルパラメータを求めてよい。ここで、本実施形態においてモデルパラメータ計算部13は評価関数を最小化するが、適するモデルパラメータの場合に最大化するような評価関数が用いられてよい。つまり、モデルパラメータ計算部13は、評価関数を最小化又は最大化するモデルパラメータを求めてよい。
【0064】
【数7】
【0065】
inは転炉100内に投入される炭素量の特定期間の積算量である。Coutは排ガス等により転炉100外に排出される炭素量の特定期間の積算量である。O inは転炉100内に投入される酸素量である。O outは排ガス及びスラグ103の排出等により転炉100外に排出される酸素量である。VO2 metはSi、Mn、P等の溶湯101中の各種金属不純物酸化に使用される酸素量である。ΔTは転炉100内の反応により生じる反応熱、炉外に排出される排ガス及びスラグ103等による抜熱並びに炉体からの放熱及び炉口からの輻射放熱等を含む転炉100内の熱量変化による溶湯温度変化量の特定期間の積算量である。Tiniは精錬処理における特定期間の始点での溶湯101の温度の計測値である。また、[C]、VO2 FetO、Tfinはそれぞれ、精錬処理における特定期間の終点での溶湯101中の炭素量計測値、スラグ103中のFeO量計測値から計算されるFeO生成に使用された酸素量、溶湯101温度計測値である。σ 、σ 、σ は任意に設定可能な定数である。また、A~I及びΔCは図2の第1パラメータ~第Kパラメータに対応する。本実施形態において、モデルパラメータは、式(7)で用いられる上記の積算量及び酸素量の少なくとも1つを補正する係数又は定数項を含む。
【0066】
ただし、ΔRは、溶湯101中の成分の酸化反応、スラグ103中の成分の還元反応、副原料の溶解などの炉内における各種反応mについての反応量である。ΔLはガス及びスラグ103の顕熱、炉口及び炉体からの放熱量などの溶湯101における熱ロス経路nについての熱ロス量である。
【0067】
式(7)に示す評価関数Jは、以下の3つの項の重み付き和となっている。評価関数Jにおいて、第1項及び第2項が物質収支誤差を表す項であって、第3項が熱収支誤差を表す項である。第1項は、投入炭素量から排出炭素量を減算した転炉100内に残留する炭素量と、溶湯101中の炭素量計測値との差の2乗値である。この項が0になることは転炉100内で炭素収支バランスが保たれていることを示す。第2項は、投入酸素量から排出酸素量及び不純物金属酸化使用酸素量を減算した量とスラグ103中のFeO計測値から計算される溶湯101中の鉄酸化に使用される酸素量との差の2乗値である。この項が0になることは転炉100内で酸素収支バランスが保たれていることを示す。第3項は、精錬処理における特定期間の始点から終点までの溶湯101温度変化量計測値と、転炉100内の反応熱及び抜熱等から計算される溶湯101温度変化量計算値との差の2乗値である。この項が0近づくことは、転炉100内で熱収支バランスが保たれていることを示す。上記の式(7)に関する説明における「特定期間」は、3項のそれぞれで異なる期間を設定してよい。
【0068】
評価関数Jの各項の分母にある重み付け因子(σ 、σ 、σ )は例えばユーザーによって設定される。評価関数Jを制約条件のもとで最小化する非線形計画問題には多種のアルゴリズムが提案されており、公知の手法によってモデルパラメータを求める計算が実行されてよい。
【0069】
モデルパラメータ計算部13によって計算されたモデルパラメータは、データベース12に記憶され、次回以降の精錬処理における炉内状態推定処理に用いられる。これにより、ステップS7の処理が完了し、炉内状態推定処理は精錬処理における処理を完了する。
【0070】
上記の炉内状態推定方法の処理によって推定される溶湯101の温度及び成分濃度並びにスラグ103の成分濃度に基づいて、操作量を決定し、精錬操業が実施されて、良好な溶鋼が製造される。操作量として、最適な上吹き酸素の流量及び速度、上吹きランスの高さ、底吹きガスの流量、石灰、鉄鉱石等の副原料の投入量及び投入タイミング、溶湯をサンプリングするタイミング並びに吹錬を終了するタイミングの少なくとも1つが決定される。このように、上記の炉内状態推定方法によって計算された炉内状態に基づき、良好な溶鋼製造方法を実現することができる。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る炉内状態推定装置1、炉内状態推定方法及び溶鋼製造方法は、上記の構成及び工程によって、炉内の物質収支誤差及び熱収支誤差を表す項を含む評価関数に基づいてモデルパラメータを最適化してからデータベース12に記憶する。そして、精錬処理における炉内状態推定において、データベース12に蓄積された過去の最適化されたモデルパラメータを用いることができるため、溶湯101の温度及び成分濃度並びにスラグ103の成分濃度などの推定精度を向上させることができる。
【0072】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0073】
例えば、決定するモデルパラメータの種類及びモデルパラメータの数、最小化する評価関数の形は上記の実施形態で挙げたものに限らず、炉内の物質収支誤差及び熱収支誤差を最小化可能な形であれば同様の効果を発揮する。また、モデルは、上記の実施形態で式(2)~式(6)のように例示したものに限らず、溶湯温度推定モデル、スクラップ溶解モデル、副原料溶解・歩留まりモデル、脱炭効率モデル、脱燐モデル、FeOの生成還元モデルなどが用いられてよい。また、本実施形態では転炉100を対象とした炉内状態推定装置1及び炉内状態推定方法を示したが、二次精錬設備又は予備処理設備においても、炉内の物質収支及び熱収支を基に計算されるモデルパラメータ計算には有効である。
【符号の説明】
【0074】
1 炉内状態推定装置
2 精錬設備
10 制御端末
11 入力部
12 データベース
13 モデルパラメータ計算部
14 モデル決定部
15 炉内状態計算部
16 出力部
20 表示装置
100 転炉
101 溶湯
102 ランス
103 スラグ
104 ダクト
105 排ガス検出部
106 通気孔
107 流量計
図1
図2
図3