(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】経時安定性に優れた抗微生物性を有する金属微粒子含有分散液
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20231129BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20231129BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231129BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/102
B22F1/00 K
B22F1/00 L
(21)【出願番号】P 2023547056
(86)(22)【出願日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2023012418
【審査請求日】2023-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2022059323
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簾 聡太朗
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】小坂 泰啓
(72)【発明者】
【氏名】小金井 章子
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-026615(JP,A)
【文献】特開2017-137472(JP,A)
【文献】特開2009-221505(JP,A)
【文献】特開2020-147840(JP,A)
【文献】特開2020-063487(JP,A)
【文献】特開2014-008506(JP,A)
【文献】特開2020-169387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00
B22F 1/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸,アスコルビン酸の誘導体及び還元性多価フェノールの少なくとも1種から成る安定化剤、及び金属微粒子、並びに酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂を含有し、前記安定化剤が金属微粒子100質量部に対して、150質量部以上の量で含有することを特徴とする分散液。
【請求項2】
前記金属微粒子由来の金属イオン濃度が100ppm以下である請求項1記載の分散液。
【請求項3】
前記金属微粒子の含有量が0.001~10質量%である請求項1又は2記載の分散液。
【請求項4】
前記安定化剤の含有量が0.0015~15質量%である請求項1
又は2記載の分散液。
【請求項5】
前記金属微粒子表面が、前記安定化剤によって被覆されている請求項1
又は2記載の分散液。
【請求項6】
前記金属微粒子が、銅又は銅化合物、或いは銀又は銀化合物から成る請求項1
又は2記載の分散液。
【請求項7】
前記分散剤及びバインダー樹脂の酸性官能基が、カルボキシル基である請求項1
又は2記載の分散液。
【請求項8】
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂,ポリエステル樹脂及びセルロース樹脂の何れかである請求項1
又は2記載の分散液。
【請求項9】
前記金属微粒子表面が、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルによって更に被覆されている請求項1
又は2記載の分散液。
【請求項10】
請求項1
又は2記載の分散液から成る被膜を有することを特徴とする抗微生物性成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸等で被覆された金属微粒子、分散剤及び/又はバインダー樹脂を含有する、経時安定性に優れた抗微生物性を有する分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
銀や銅等の金属微粒子を有効成分とする抗菌性や、抗ウイルス性等を有する材料として、分散媒中に金属微粒子を分散させて成る分散液や、分散媒で希釈した塗料用のバインダー樹脂に金属微粒子を含有させて成る塗料分散液、或いは熱可塑性樹脂に溶融混錬させたり、熱硬化性樹脂に金属微粒子を含有させて成る樹脂組成物等、種々の形態で提供されている。
例えば、下記特許文献1には、一価の銅化合物微粒子と、還元剤と、分散媒を含有し、pH6以下であることを特徴とする抗ウイルス組成物が記載されている。また下記特許文献2には、銅粒子及び銅化合物粒子の少なくともいずれか一方を酸化物粒子に担持した、平均二次粒子径が80nm~600nmの銅担持酸化物と、平均二次粒子径が1μm~15μmの硫酸バリウムと撥水性の樹脂バインダーとを有する抗ウイルス性塗膜が記載されている。
【0003】
しかしながら、金属微粒子は凝集しやすく、均一に分散させることは困難であり、特に、分散液を抗ウイルス組成物として利用する場合や、さらに塗料用のバインダー樹脂と混合してコーティングされた抗ウイルス性塗膜として用いる場合において、金属微粒子が有する抗ウイルス性を効率よく発現することが困難であった。
金属微粒子の分散性が向上された分散液として、本発明者等により、脂肪酸で被覆された金属微粒子を含有する分散液が提案されている(特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5194185号公報
【文献】特開2015-205998号公報
【文献】特開2017-128809号公報
【文献】特開2018-100255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献3及び4に記載された金属微粒子含有分散液においては、金属微粒子表面が脂肪酸及び/又は該脂肪酸のエステル化合物によって被覆されることで、金属微粒子の凝集を防止し、金属微粒子が分散媒中に均一分散することが可能になる。
しかしながら、金属微粒子を、ある特定の分散剤や塗料用などのバインダー樹脂と混合させて用いる場合に、分散液の調製直後には金属微粒子が有する優れた抗ウイルス性等を発現可能であったが、この分散液を長期間保管した場合には抗ウイルス性等の金属微粒子が有する効果が得られないという問題が生じる場合があった。このような問題を解決するために本発明者等が鋭意研究を行ったところ、金属微粒子が有する効果の消失は、分散剤やバインダー樹脂がカルボキシル基のような酸性官能基を有する場合に生じ、これは金属微粒子が酸性官能基と共存することによって、金属微粒子のイオン化に起因することが判明した。
【0006】
従って本発明の目的は、酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂を含有する分散液において、金属微粒子のイオン化が有効に抑制され、金属微粒子が有する優れた抗微生物性を長期にわたって安定して発現可能な分散液に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、アスコルビン酸,アスコルビン酸の誘導体及び還元性多価フェノールの少なくとも1種から成る安定化剤、及び金属微粒子、並びに酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂を含有し、前記安定化剤を金属微粒子100質量部に対して、150質量部以上の量で含有することを特徴とする分散液が提供される。
【0008】
本発明の分散液においては、
(1)前記金属微粒子由来の金属イオン濃度が100ppm以下であること、
(2)前記金属微粒子の含有量が0.001~10質量%であること、
(3)前記安定化剤の含有量が0.0015~15質量%であること、
(4)前記金属微粒子表面が、前記安定化剤によって被覆されていること、
(5)前記金属微粒子が、銅又は銅化合物、或いは銀又は銀化合物から成ること、
(6)前記分散剤及びバインダー樹脂の酸性官能基が、カルボキシル基であること、
(7)前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂,ポリエステル樹脂及びセルロース樹脂の何れかであること、
(8)前記金属微粒子表面が、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルによって更に被覆されていること、
が好適である。
【0009】
本発明によれば更に、上記分散液から成る被膜を有することを特徴とする抗微生物性成形体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分散液は、金属微粒子の表面が、アスコルビン酸,アスコルビン酸の誘導体及び還元性多価フェノールの少なくとも1種から成る安定化剤によって被覆されていることにより、カルボキシル基などの酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂を含有する分散液であっても、金属微粒子のイオン化が有効に抑制され、金属微粒子が有する優れた抗微生物性を長期にわたって発現することが可能になる。
また金属微粒子表面が、上記安定化剤、或いは更に脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルで被覆されていることにより、金属微粒子は分散液中で凝集することなく均一に分散可能となるため、例えば、塗料組成物として塗膜を形成した場合にも、塗膜に優れた抗微生物性を付与することが可能となる。
【0011】
本発明の分散液の上述した効果は、後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち、例えば、L-アスコルビン酸等の安定化剤を含有する分散液は、そのゼータ電位の変位から明らかなように、金属銅微粒子の表面に安定化剤が被覆されていると考えられ、これにより酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂と混合させ分散液(実施例1~11)として、3日間経過後でも、金属銅微粒子のイオン化が抑制され、優れた抗微生物性が発現されている。
これに対して、安定化剤が配合されていない場合(比較例1~2、7~8、13)、アスコルビン酸を配合しているとしてもその量が少ない場合(比較例3、9)、或いは安定化剤を配合しているとしても、アスコルビン酸又はその誘導体、或いは還元性多価フェノール以外の安定化剤を配合した場合(比較例4~6、10~12)では、経時により抗微生物性が発現されていないことが明らかである。
また
図1に示すように、本発明の塗料分散液(実施例6)では、調製から3か月経過後でもXRD測定により金属銅由来の回折ピークが検出され、つまり金属銅が存在していることが明らかであるのに対し、比較例7,10,11の塗料分散液においては、金属銅の回折ピークは検出されず、金属銅微粒子が消失してしまっていることがわかる。
【0012】
なお、本明細書において、抗微生物性とは、抗ウイルス性、抗カビ性、抗菌性等を総称するものであり、ウイルス等を不活性化させる効果をいうものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1及び比較例1,4,5で得られた酸性官能基を有する分散剤を含む分散液と、さらにバインダー樹脂Aとして酸性官能基を有するアクリル系樹脂エマルジョンとを混合した塗料分散液(実施例6及び比較例7,10,11)について、調製から3か月経過後のX線回折(XRD)のチャートを示す図である。
【
図2】実施例1及び比較例1で得られた分散液と、さらにバインダー樹脂Aとして酸性官能基を有するアクリル系樹脂エマルジョンとを混合した塗料分散液(実施例6及び比較例7)について、調製直後及び3日経過後のX線回折(XRD)のチャートを示す図である。
【
図3】実施例1及び比較例1で得られた分散液と、バインダー樹脂Aとして酸性官能基を有するアクリル系樹脂エマルジョンとを混合した塗料分散液(実施例6及び比較例7)について、調製直後及び3日経過後の外観変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(分散液)
本発明の分散液において、抗微生物性を示す有効成分は金属微粒子であり、この金属微粒子から発生する活性酸素の酸化力によって、ウイルス等の微生物の蛋白質を変性および分解すると共に、金属微粒子が蛋白質のチオール基と反応することによって蛋白質を変性させ、ウイルス等を不活性化できると考えられるが、この金属微粒子は、分散液中にカルボキシル基等の酸性官能基を有する分散剤やバインダー樹脂が存在すると、経時により金属微粒子とこの酸性官能基が反応して、金属イオン化を生じてしまい、所期の抗微生物性を得ることができない。
本発明においては、酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂を含有する分散液であっても、アスコルビン酸,アスコルビン酸の誘導体及び還元性多価フェノールの少なくとも1種から成る還元性を有する安定化剤が、金属微粒子100質量部に対して、150質量部以上の量で含有されていることが重要であり、これにより金属微粒子のイオン化抑制効果を発現することが可能となる。
金属微粒子に対する安定化剤の好適な含有量は、分散液が酸性基を有する分散剤のみを含有する分散液の場合には、金属微粒子100質量部に対して安定化剤を150~8000質量部、好適には200~6000質量部、さらに好ましくは300~2000質量部の範囲で含有することができ、分散液が酸性基を有するバインダー樹脂を含有する塗料分散液である場合には、金属微粒子100質量部に対して安定化剤を150~20000質量部、好適には200~17000質量部、さらに好ましくは200~15000質量部の範囲で含有することができる。
尚、安定化剤の含有量の上限については、金属微粒子表面の被覆に使用されなかった余剰の安定化剤が分散液中に均一に分散可能である限りその制限はないが、分散液中の安定化剤の含有量が15質量%以下、さらに8質量%以下、特に6質量%以下の範囲となるように含有されていることが好適であり、これにより分散媒として水や水系溶媒を用いた場合にも、安定化剤を均一に分散させることが可能になると共に、経済性の点からも好適である。さらに安定化剤の含有量が過剰になると、分散液あるいは塗料分散液を塗布して得られる塗膜の外観を損なうため、上記範囲が好適である。
本発明の分散液においては、還元性を有する安定化剤によって金属微粒子表面が被覆保護されることで、金属微粒子と分散剤及び/又は樹脂バインダーの酸性官能基との反応を抑制、つまり金属微粒子のイオン化を抑制して、長期にわたって金属微粒子の状態を安定的に維持することが可能となる。
【0015】
[金属微粒子]
本発明の分散液において、抗微生物性を発現する有効成分である金属微粒子としては、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル等の金属及びこれらの金属化合物を例示できるが、優れた抗微生物性を発現可能な銅又は銀、或いはこれら金属の化合物であることが好ましく、特に銅又は銅化合物、中でも銅又は一価銅化合物であることが優れた抗ウイルス性の点から好ましい。
金属微粒子は、10~500nm、特に10~200nmの範囲の平均一次粒径を有することが好適である。金属微粒子の平均一次粒子が上記範囲にあることにより、優れた抗微生物性能を効率よく発現することが可能になる。すなわち、このように平均一次粒径の小さい金属微粒子は、金属微粒子の酸素との接触率が高いことから、効率よく活性酸素を発生することができ、優れた抗微生物性能を発現することが可能になる。また金属微粒子粉末は、上記平均一次粒径を有する一次粒子から成り、平均二次粒子径が100nm~500μm、特に100nm~100μmの範囲にあることが好適であり、これにより、粉末状態で得られた金属微粒子を容易に分散媒に分散させることができると共に、バインダー樹脂と混合させ塗料分散液にした際の塗工性等の取扱い性にも優れている。
尚、本明細書でいう平均一次粒径とは、金属微粒子と金属微粒子との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均をとったものをいい、平均二次粒径は、金属微粒子同士がパッキングした状態の粒子とし、その平均をとったものをいう。また、一次粒子径の測定は走査型電子顕微鏡(SEM)、二次粒子径は動的光散乱(DLS)により測定することができる。
【0016】
本発明で用いる金属微粒子は、その表面が、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルで被覆されていることがさらに好適である。これにより、上述した安定化剤で被覆されていることと相俟って、金属微粒子の凝集及び酸化が更に抑制され、優れた抗微生物性及び分散性を得ることができる。
金属微粒子表面を被覆する脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n-デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等を例示することができ、これらは複数種の組み合わせであってもよいが、特にパルミチン酸、ステアリン酸であることが好適である。
金属微粒子表面を被覆するエステル化合物は、後述する本発明の金属微粒子粉末の製造方法における原料である脂肪酸及びポリオールに由来するエステル化合物であることが好適であるが、原料由来以外のエステル化合物を配合することもでき、これらは異なるエステル化合物であってもよいが、好適には、原料由来のエステル化合物と同種のものであることが望ましい。
金属微粒子表面を被覆する好適なエステル化合物としては、上記脂肪酸のエステル化合物と後述するポリオールとのエステル化合物、例えばこれに限定されないが、ジエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジステアレート、プロピレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリプロピレングリコールジステアレート等を挙げることができる。
【0017】
金属微粒子は、分散液中に0.001~10質量%、好ましくは0.002~5質量%、特に0.05~1質量%の量で含有されていることが好適である。
また前述した通り、本発明の分散液において、金属微粒子と分散剤及び/又はバインダー樹脂の酸性官能基との反応による金属微粒子のイオン化が抑制されていることから、分散液中の金属微粒子由来の金属イオン濃度は100ppm以下、特に60ppm以下に低減されている。
【0018】
[安定化剤]
本発明に用いる安定化剤は、アスコルビン酸,アスコルビン酸の誘導体及び還元性多価フェノールの少なくとも1種から成る安定化剤であり、金属微粒子のイオン化を抑制可能な還元性を有すると共に、金属微粒子表面に容易に被覆可能な低分子量のものであることが好適である。また後述するように分散液の溶媒が水や水系溶媒の場合、水溶性を示すものであることが好適である。
【0019】
アスコルビン酸又はその誘導体としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸-2-グルコシド、2-o-メチルアスコルビン酸、3-o-メチルアスコルビン酸、2-o-エチルアスコルビン酸、3-o-エチルアスコルビン酸、アスコルビン酸-6-パルミテート、アスコルビン酸-6-ステアラート、アスコルビン酸二パルミチン酸エステル、6-o-パルミトイルアスコルビン酸-2-o-リン酸、6-o-アシル-2-o-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、アスコルビン酸-2-リン酸、アスコルビン酸-2-リン酸ナトリウム、アスコルビン酸-2-硫酸、アスコルビン酸-2-硫酸カリウム、アスコルビン酸-2-硫酸バリウム、アスコルビン酸-2-硫酸エステル二ナトリウム、アスコルビン酸-2-リン酸エステル三ナトリウム等を例示できる。
また還元性を有する多価フェノールとしては、レゾルシノール、アルキルレゾルシノール、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシノール等の多価フェノールを例示できる。
本発明においては上記安定化剤の中でも、金属微粒子への被覆性、還元性及び水溶性の観点から、L-アスコルビン酸を好適に使用することができる。
【0020】
[酸性官能基を有する分散剤]
本発明においては、分散液中における金属微粒子の分散性を向上させるために分散剤を含有することが望ましい。本発明の金属微粒子は、上述した安定化剤で被覆されていることから、金属微粒子のイオン化が抑制されているので、酸性官能基を有する分散剤を用いる場合に特に好適である。
すなわち、分散剤は、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性の官能基を少なくとも有することが好ましく、また上記酸性官能基と共に、アミノ基、イミノ基、アンモニウム塩基、塩基性窒素原子を有する複素環基等の塩基性官能基を有するスターポリマー構造や、くし型ポリマー構造を有する湿潤分散剤であってもよい。
分散剤は、酸価が3~100mgKOH/g、好ましくは4~30mgKOH/g、特に5~20mgKOH/gの範囲にあることが好適である。上記範囲よりも酸価が小さい場合は、分散液の保存安定性が上記範囲にある場合に比して低下するおそれがあり、一方上記範囲よりも酸価が大きい場合は、上記範囲にある場合に比して塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0021】
本発明における分散剤は、重量平均分子量が1,000以上であることが好適である。分散剤の重量平均分子量が1,000未満の場合は、酸性官能基、或いは酸性官能基及び塩基性官能基の十分な立体障害を受けられない。また、これらの官能基が結合する側鎖又は主鎖骨格は、特に制限されず、ポリエステルやポリアクリル、ポリエーテル、ポリオキシアルキレン等から成ることができる。
上記分散剤の酸性官能基、或いは酸性官能基及び塩基性官能基が、金属微粒子に強固に吸着することにより、金属微粒子に極性が与えられて、金属微粒子同士が電荷により反発すると共に、金属微粒子表面にある程度の長さの修飾基が存在することによって立体障害を形成し、その結果、金属微粒子は溶媒中で凝集や沈降することなく、均一に分散することが可能になると考えられる。
本発明の金属微粒子含有分散液に好適に使用できる分散剤としては、これに限定されないが、DISPERBYK-102、180、182、184、190、191、192、193、194N、199、2060、2061、2090、2095、2096、2155、154(ビック・ケミー社製)、Sokalan CP9、Lupasol FG、Pluronic PE6400、Pluronic PE6800、Lutropur MSA、Sokalan PA110S、Sokalan CP12S、Sokalan CP13S、Sokalan VA 64P、Lupasol HF、Plurafac LF300,Pluronic RPE1740、Pluronic RPE3110、Degressal SD40(BASF社製)、SC-0505K、AFB-1521、SC-1015F、AKM-0531、AKM-1511-60(日油社製)を挙げることができ、その中でも特に、DISPERBYK-102、190、2060、が好適である。
【0022】
分散剤は、金属微粒子100質量部に対して、50~1000質量部、特に100~500質量部の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも分散剤の量が少ない場合には、金属微粒子の分散性が上記範囲にある場合に比して劣るようになり、一方上記範囲よりも分散剤の量が多くても更なる効果の向上は望めず、経済性に劣るおそれがある。
【0023】
[酸性官能基を有するバインダー樹脂]
本発明の分散液においては、バインダー樹脂を含有することにより、塗膜を形成可能な分散液(以下、バインダー樹脂を含有する場合には「塗料分散液」ということがある)とすることができる。本発明の金属微粒子は、上述した安定化剤で被覆されていることから、バインダー樹脂が酸性官能基を有する場合でも金属微粒子のイオン化が抑制されているので、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性の官能基を有するバインダー樹脂を用いる場合に特に好適である。
バインダー樹脂としては、従来から塗料として使用されていた、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂等を例示することができるが、本発明の分散液は、水性分散液であることが好適であることから、水分散性又は水溶性の、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂を好適に使用することができる。
本発明においては電子線硬化型の樹脂を使用することもできるが、特に、硬化剤を使用しない自己架橋型のアクリル系樹脂を好適に使用することができる。
バインダー樹脂は、金属微粒子100質量部に対して5000~100000質量部の量で添加することが好適である。
【0024】
<アクリル樹脂>
水分散性又は水溶性のアクリル樹脂としては、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性官能基を有するエチレン性不飽和モノマーを乳化重合して成るアクリル樹脂エマルジョンを例示できる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーや、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-アクリルアミドプロパンスルホン酸等のスルホン酸含有エチレン性不飽和モノマー、2-ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル等のリン酸基含有エチレン性不飽和モノマーを例示することができる。これらの中でも、カルボキシル基含有エチレン不飽和モノマーから成るアクリル樹脂エマルジョンであることが好適である。
またアクリル樹脂エマルジョンは、上記エチレン性不飽和モノマーの他、(メタ)アクリル酸アルキルエステルエステルや水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを含有することもできる。
【0025】
アクリル樹脂の酸価は、3~100mgKOH/gの範囲にあることが好適である。上記範囲よりも低い場合には、分散液の保存安定性が低下するおそれがあると共に、塗膜形成する場合には、十分な硬化性を得ることができないおそれがあり、一方上記範囲よりも高いと重合安定性が低下すると共に、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
アクリル樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、10000~50000の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも小さい場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜を形成する場合に十分な塗膜強度が得られないおそれがあり、一方上記範囲よりも大きい場合には、上記範囲にある場合に比して塗料安定性に低下するおそれがある。
またアクリル樹脂エマルジョンには、アクリル樹脂の分散性を向上するために、アンモニア類、アミン類、或いはアルカリ金属などの塩基性化合物を添加して、カルボン酸の一部が中和されていてもよい。
【0026】
<ポリエステル樹脂>
水分散性又は水溶性のポリエステル樹脂としては、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性官能基を含有するポリエステル樹脂であり、これらの成分は、ポリエステル樹脂分散体の表面に配位されたものであってもよいが、上記酸性官能基を有するモノマーを共重合成分として、ポリエステル樹脂骨格中に存在するものであることが好適である。
このようなモノマーとしては、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物、5-スルホイソフタル酸,4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸等のスルホン酸含有モノマーの金属塩等を例示できる。
また酸性官能基を有するビニル系モノマーをポリエステル樹脂にグラフト重合させたアクリル樹脂変性ポリエステル樹脂でもよい。
【0027】
前記酸性官能基を有するモノマーと組み合わせてポリエステル樹脂を形成するモノマーとしてはポリエステル樹脂の重合に通常用いられるものであれば特に限定されない。
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸等の3価以上の多価カルボン酸等を挙げることができ、これらの中から1種または2種以上を選択して使用できる。
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類等の脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等の3価以上のポリアルコール等を挙げることができ、これらの中から1種または2種以上を選択して使用できる。
【0028】
ポリエステル樹脂の酸価は、3~100mgKOH/gの範囲にあることが好適である。上記範囲よりも低い場合には、上記範囲にある場合に比して分散液の保存安定性が低下するおそれがあると共に、塗膜形成する場合には十分な硬化性を得ることができないおそれがある。一方上記範囲よりも多い場合には、上記範囲にある場合に比して重合安定性が低下すると共に、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、5000~30000の範囲にあることが好適である。上記範囲よりも小さい場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜を形成する場合に十分な塗膜強度が得られないおそれがあり、一方上記範囲よりも大きい場合には、上記範囲にある場合に比して塗料安定性に低下するおそれがある。
【0029】
<セルロース樹脂>
セルロース樹脂としては、セルロース及び/又はセルロース誘導体を例示でき、セルロース誘導体としては、セルロースの水酸基の一部又は全部がエーテル化されたセルロースエーテル、セルロースの水酸基の一部又は全部がエステル化されたセルロースエステル等を挙げることができる。
このようなセルロース樹脂としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセロースエステルを挙げることができ、これらの中から1種または2種以上を選択して使用できる。
これらの中でも、酸性官能基を有することが好適であることから、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロースを好適に使用できる。
セルロース樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、10000~200000の範囲にあることが好適である。
【0030】
[分散媒]
本発明の分散液において、金属微粒子を分散させる分散媒としては以下の溶媒を使用することができ、後述する金属微粒子粉末を回収した後に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、蒸留水、イオン交換水、純水等の各種水溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等のポリオール系溶剤等に分散させて用いることができる。これら分散媒の中でも、水溶媒、又は水系の混合溶媒等を好適に使用することができ、特に水、又は水とアルコール等の両親媒性の有機溶剤との混合溶媒等を好適に使用することができる。
【0031】
本発明の分散液においては、上述した種々の分散媒中に、金属微粒子が凝集や沈降することなく、長期にわたって均一に分散可能であるが、抗微生物性と分散性のバランスの観点から、分散液中に10質量%以下の量、特に0.001~1質量%の量で金属微粒子を含有することが好ましい。
【0032】
[その他]
本発明の分散液においては、上記金属微粒子、酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂、安定化剤及び溶媒以外に、酸化防止剤、界面活性剤、硬化剤、触媒、重合開始剤等、必要に応じて他の成分を含有することもできる。
例えば、分散液が、バインダー樹脂としてカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を有する塗料分散液である場合には、カルボキシル基と反応可能な官能基を有するアミノ樹脂やレゾール型フェノール樹脂等の硬化剤を公知の処方で含有することもできる。
【0033】
(分散液の製造方法)
本発明の分散液は以下の製造方法によって調製することができる。
(1)第一工程
脂肪酸金属塩をポリオールに添加し、これを加熱することにより、脂肪酸及び/又はこの脂肪酸とポリオールのエステル化合物が表面に被覆された金属微粒子を含むポリオール溶液を調製する。加熱温度は、用いる脂肪酸金属塩の分解開始温度未満の温度であり、加熱混合の時間は、60~360分であることが好適である。加熱温度が脂肪酸金属塩の分解開始温度以上であると、脂肪酸及び/又はエステル化合物が金属微粒子に被覆されず、金属微粒子は酸化されるおそれがある。尚、分解開始温度は、JIS K 7120により定義されている。
【0034】
脂肪酸金属塩の配合量は、ポリオール当たり0.1~5質量%の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも脂肪酸金属塩の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して十分な抗微生物性を分散液に付与することができないおそれがある。一方上記範囲よりも脂肪酸金属塩の量が多い場合には上記範囲にある場合に比して、経済性が劣る。
ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンを挙げることができ、後述する低沸点溶媒との組み合わせで適宜選択する。
【0035】
(2)第二工程
次いで、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属微粒子を含むポリオール溶液と低沸点溶媒とを混合し、混合液を調製する。
低沸点溶媒は、ポリオールに対して10~200質量%の量で添加することが好ましい。
低沸点溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等の低沸点溶媒を例示することができるが、エステル系溶媒が好ましく、中でも、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルイソブチルケトンを好適に使用できる。低沸点溶媒は、ポリオールと相溶しないことが重要であり、ポリオールと低沸点溶媒の溶解度パラメータ(Sp値)の差が3以上となるように組み合わせることが好ましい。
好適には、ポリオールとしてジエチレングリコール(Sp値:12.6)を用いた場合には、低沸点溶媒として酢酸ブチル(Sp値:8.4)を用いることが望ましい。
【0036】
(3)第三工程
上記混合液を、0~40℃の温度で30~120分間静置することにより、ポリオール及び低沸点溶媒を相分離させる。混合液が相分離されると、混合液中に存在していた過剰な脂肪酸金属塩、遊離脂肪酸又は脂肪酸のエステル化合物、或いは不純物が低沸点溶媒側に抽出され、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属微粒子はポリオール中に沈殿した状態で残存する。
前述した第一工程で、金属微粒子には脂肪酸とポリオールのエステル化合物が充分に被覆されていることから、低沸点溶媒にエステル化合物をあえて配合する必要はないが、第一工程での被覆量によっては、配合することもできる。
次いで、相分離された混合液から低沸点溶媒を除去することにより、ポリオール中に脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属微粒子を含む溶液が得られる。
低沸点溶媒の除去は、デカンテーション、抽出等の、従来公知の分離方法によって行うことができる。
またポリオールから金属微粒子粉末の回収は、膜分離、遠心分離、デカンテーション等、従来公知の分離方法により行うことができ、これに限定されないが、膜分離によることが好適である。
分離された金属微粒子は、水、或いは酢酸ブチルやヘキサン等の低沸点溶媒で十分洗浄した後、40~50℃で60~360分加熱乾燥して水分を十分に除去することにより、脂肪酸及びエステル化合物の被覆量が0.1~20質量%である乾燥状態の金属微粒子粉末を得ることができる。
【0037】
(4)第四工程
水等の分散媒に、必要により前述した分散剤を添加して混合した後、上記金属微粒子粉末を添加して混合する。分散剤は、金属微粒子100質量部に対して50~1000質量部の量で添加することが好適である。この際、超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等を用いて金属微粒子が均一に分散されるように分散処理を施すことが好ましい。
次いで、L-アスコルビン酸等の安定化剤を、金属微粒子100質量部に対して150質量部以上の量で添加した後、更に混合・分散処理を行うことにより、金属微粒子及び安定化剤、分散剤を含有する分散液を得ることができる。
【0038】
(5)第五工程
本発明の分散液において、さらに酸性官能基を含有するバインダー樹脂を含有する塗料分散液とする場合には、上述した第四工程で調製された分散液と、バインダー樹脂及び必要により硬化剤とを均一混合することにより調製する。バインダー樹脂は、金属微粒子100質量部に対して5000~100000質量部の量で添加することが好適である。
【0039】
(第二の製造方法)
低沸点溶媒中に、安定化剤を含有する金属微粒子の製造方法は上述した製造方法の他、以下の方法によっても調製することができる。
すなわち、上述した第一の製造方法における第一の工程において、脂肪酸金属塩に代えて、脂肪酸及び金属化合物の組み合わせを添加する以外は第一の製造方法と同様に行うことにより、脂肪酸及び/又は該脂肪酸のエステル化合物で被覆した金属微粒子の分散液を調製し、次いで上述した第二工程~第四工程を経ることにより、更に安定化剤を含有する金属微粒子分散液を得ることができる。
【0040】
(他の製造方法)
上記第一の製造方法及び第二の製造方法によれば、L-アスコルビン酸等の安定化剤を含有する金属微粒子含有分散液を効率よく製造することができるが、以下の方法によっても安定化剤を含有する金属微粒子粉末を製造することができる。
すなわち、前述した第一の製造方法の第一工程で得られた脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属微粒子を含むポリオール溶液をそのまま使用し、この溶液から回収した金属微粒子を使用してもよい。その場合、過剰の脂肪酸金属塩、或いは遊離の脂肪酸又はエステル化合物の他、不純物のためにポリオール分散液の粘度が大きく、そのまま低沸点溶媒を除去することが困難なので、エタノール等で希釈して粘度を下げてから溶媒を除去する。
また脂肪酸金属塩を不活性雰囲気下で加熱して還元した後、前述した安定化剤、或いは安定化剤とエステル化合物を添加して、これを粉砕混合することによって、少なくとも安定化剤で被覆された金属微粒子粉末、或いは安定化剤とエステル化合物で被覆された金属微粒子粉末を製造し、これと酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂とを溶媒に混合して調製することもできる。
【0041】
(分散液の用途)
本発明の分散液は、不織布や樹脂フィルム或いは繊維製品等の基材に噴霧してそのまま使用することもでき、上記基材表面に本発明の分散液からなる被膜を形成した成形体とすることができる。またバインダー樹脂を含有する塗料分散液とし、これを上記基材に塗工した後、焼付乾燥して被膜(塗膜)を形成して成る成形体とすることもできる。更に上記塗料分散液からフィルム、シート、不織布、繊維等の成形体を直接成形して使用することもできる。
【実施例】
【0042】
<金属銅ナノ粒子の合成>
ジエチレングリコールに対してステアリン酸銅(II)2.5質量%を加え、加熱攪拌した。190℃に達した時点から2時間加熱した後、110℃まで冷却し、酢酸ブチルを加え約1分間攪拌した。その後、静置しジエチレングリコール層と酢酸ブチル層を分離させ、酢酸ブチル層を除去し、金属銅微粒子を含むジエチレングリコール溶液を得た。このジエチレングリコール分散液を孔径10μmメンブレンフィルターで吸引濾過し、水洗後、50℃で2時間乾燥されることで金属銅微粒子粉末を得た。
【0043】
<金属銅微粒子及び分散剤を含む、分散液の作製>
(実施例1)
蒸留水に、分散剤としてDIPERBYK-190(ビック・ケミー社製、酸価10mgKOH/g)を金属銅微粒子100質量部に対して100質量部になるように加えて攪拌した。次いで、上記で作製した金属銅微粒子粉末を金属銅成分が0.1質量%になるように添加し、10分間超音波処理を行った。その後、L-アスコルビン酸を金属銅微粒子100質量部に対して1000質量部になるように添加し、さらに10分間超音波処理を行うことで、アスコルビン酸含有金属銅微粒子分散液を得た。
【0044】
(実施例2)
L-アスコルビン酸の割合を金属銅微粒子100質量部に対して200質量部に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0045】
(実施例3)
L-アスコルビン酸の割合を金属銅微粒子100質量部に対して500質量部に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0046】
(実施例4)
L-アスコルビン酸を、3-o-エチル-L-アスコルビン酸に変更し、金属銅微粒子100質量部に対して6000質量部加えた以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0047】
(実施例5)
L-アスコルビン酸を、還元性を有する多価フェノールであるピロガロールに変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0048】
(比較例1)
L-アスコルビン酸を加えなかった以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0049】
(比較例2)
L-アスコルビン酸およびDISPERBYK-190を加えなかった以外は、実施例1と同様に分散液を作製した
【0050】
(比較例3)
L-アスコルビン酸の割合を金属銅微粒子100質量部に対して100質量部に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0051】
(比較例4)
L-アスコルビン酸をクエン酸に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0052】
(比較例5)
L-アスコルビン酸をホスフィン酸ナトリウム1水和物に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0053】
(比較例6)
L-アスコルビン酸をD-マルトース1水和物に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
【0054】
<ゼータ電位測定方法>
ゼータ電位は、大塚電子(株)社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ-2000ZSを用いた。測定には、標準セルユニットを用い、測定電圧60Vで実施した。L-アスコルビン酸を加えなかった比較例1と比べて、ゼータ電位の絶対値が変化すれば、L-アスコルビン酸が金属銅微粒子表面に作用していることを示している。実施例1~5、比較例1~6について測定した。結果を表1に示す。
【0055】
<分散液の外観評価>
安定化剤を用いない場合では、時間経過とともに水色に変化する現象が確認されるが、これは、分散液中の金属銅微粒子がイオン化している、すなわち、抗微生物性能が失われていることを意味している。そこで、本願の安定化剤を併用することにより金属銅微粒子のイオン化が抑制可能かどうかを、以下の方法で確認した。
作製した分散液を室温で3日間静置して、分散液の色味を目視で確認した。分散液の色味が水色に変化していないものを〇(金属銅微粒子が維持されている)、色味が水色に変化したものを×(金属銅微粒子がイオン化している)とした。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
<金属銅微粒子、分散剤及びバインダー樹脂を含む、塗料分散液の作製>
(実施例6~10)
バインダー樹脂Aとして酸性官能基を有するアクリル系樹脂エマルジョン4mlと、実施例1~5で作製した分散液1mlをそれぞれ混合することで、金属銅微粒子、分散剤及びバインダー樹脂を含む、塗料分散液を得た。
【0058】
(比較例7~12)
バインダー樹脂Aとして酸性官能基を有するアクリル系樹脂エマルジョン4mlと、比較例1~6で作製した分散液1mlをそれぞれ混合することで、金属銅微粒子、分散剤及びバインダー樹脂を含む、塗料分散液を得た。
【0059】
(実施例11)
バインダー樹脂B(自己架橋型アクリル酸エステル乳化重合物)の固形分に対して金属成分濃度が0.1質量%になるように、実施例1の金属銅微粒子分散液4.0質量%と、バインダー樹脂B8.9質量%、純水86.6質量%、アスコルビン酸0.5質量%をそれぞれ混合して塗料分散液を作製した。
【0060】
<X線回折測定>
実施例6及び比較例7,10,11で得られた塗料分散液について、それぞれ調製から、3か月経過後のX線回折(XRD)によるチャートを
図1に示す。実施例6からなる塗料分散液は3か月経過後でも金属銅微粒子が存在していることがわかる。
また実施例6及び比較例7で得られた塗料分散液について、調製直後及び3日経過後のX線回折によるチャートを
図2に示す。L-アスコルビン酸を添加しない以外は実施例6と同様の比較例7の塗料分散液は、3日経過後には既に金属銅微粒子の回折ピークは検出されなかった。
【0061】
<塗料分散液の外観評価>
安定化剤を用いない場合では、時間経過とともに水色に変化する現象が確認された。これは、塗料分散液中の金属銅微粒子がイオン化している、すなわち、抗微生物性能が失われていることを意味している。
そこで、本願の安定化剤を併用するにより金属銅微粒子のイオン化が抑制可能かどうかを、以下の方法で確認した。
作製した塗料分散液を室温で3日間静置した。続いて遠心分離により、塗料分散液中に含まれる金属銅微粒子を完全に沈降させた。その後、塗料分散液の色味を目視で確認した。塗料分散液の色味が水色に変化していないものを〇(金属銅微粒子成分が維持されている)、色味が水色に変化したものを×(金属銅微粒子成分がイオン化している)とした。実施例6~11、比較例7~12についてそれぞれ確認した。結果を表2に示すと共に、実施例6及び比較例7の塗料分散液の調製直後及び3日経過後の写真を
図3に示した。
【0062】
<塗料分散液中の金属イオン濃度測定>
作製した塗料分散液を室温で3日間静置した。続いて遠心分離により、塗料分散液中に含まれる金属銅微粒子を完全に沈降させた。その後、上澄み液1mlを量り取り、るつぼに加えた。次に、るつぼを(株)デンケン社製卓上マッフル炉KDF P90/90Gを用いて、600℃で1時間加熱し、有機物を分解した。続いて、るつぼに蒸留水4mlと硝酸1ml加え、120℃で1時間ホットプレートにて加熱を行った。加熱終了後、20mlメスフラスコを用いてメスアップを行い、0.45μmメンブレンフィルターを用いて処理液をろ過した。ろ液中に含まれる金属濃度をThermo Fisher Scientific(株) iCAP PRO series ICP-OESを用いて測定を行った。実施例6~11、比較例7~12を用いてそれぞれ作製した塗料分散液について測定を行い、その結果を表2に示す。
【0063】
<塗料分散液中における金属銅微粒子の結晶構造の測定>
作製した塗料分散液を室温で3日間静置した。続いて遠心分離により、塗料分散液中に含まれる金属銅微粒子を完全に沈降させた。(株)リガク社製X線回折装置 Smart Labを用いて、回収した固形分中に含まれる、金属銅微粒子の結晶構造を測定した。金属銅微粒子に由来する回折ピークが確認できたものを〇(金属銅微粒子の結晶構造が維持されている)、金属銅微粒子に由来する回折ピークが確認できないものを×(金属銅微粒子の結晶構造を有しない)とした。実施例6~11、比較例7~12を用いてそれぞれ作製した塗料分散液について確認した。結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
<抗ウイルス性評価>
実施例11で作製した塗料分散液を未加工の不織布に対して刷毛塗りした後、80℃の乾燥機で5分間乾燥させた。その後、150℃の乾燥機で3分間乾燥させ、金属銅微粒子が固定化された不織布(成形体)を得た。
【0066】
(比較例13)
バインダー樹脂B(自己架橋型アクリル酸エステル乳化重合物)の固形分に対して金属成分濃度が0.1質量%になるように、比較例1の金属銅微粒子分散液4.0質量%と、バインダー樹脂B8.9質量%、純水87.1質量%をそれぞれ混合して塗料分散液(比較例13)を作製した。作製した塗料分散液を未加工の不織布に対して刷毛塗りした後、80℃の乾燥機で5分間乾燥させた。その後、150℃の乾燥機で3分間乾燥させ、金属銅微粒子が固定化された不織布(成形体)を得た。
【0067】
<不織布の抗ウイルス性評価方法>
JIS L 1922 に準じた試験方法で実施した。
(1)宿主細胞にウイルスを感染させ、培養後、遠心分離により細胞残渣を除去したものをウイルス懸濁液とする。
(2)上記(1)のウイルス懸濁液を滅菌蒸留水で10倍希釈したものを試験ウイルス懸濁液とする。
(3)不織布の試験片0.4gに試験ウイルス懸濁液0.2mlを接種する。
(4)25℃2時間放置後、SCDLP培地20mlを加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、検体からウイルスを洗い出す。
(5)プラーク測定法にてウイルス感染価を測定し、抗ウイルス活性値を算出する。
(6)抗ウイルス活性値が3.0以上であれば、そのウイルスに対して十分な抗ウイルス性があると判断できる。
【0068】
バインダー樹脂Bを含む塗料分散液(実施例11と比較例13)の外観評価として、作製直後および7日間保管後の結果を表3に示す。作製直後は、実施例11と比較例13のいずれも色味の変化は確認されなかったが、室温下で7日間保管したものでは、実施例11の塗料分散液は色味の変化を生じなかったが、一方、比較例13の塗料分散液では色味の変化が確認された。
【0069】
【0070】
表3に記載した作製直後、および7日間保管後の塗料分散液を用いて、それぞれ不織布に塗布し、得られた不織布の抗ウイルス性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0071】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の分散液は、繊維製品等に直接塗布或いは含浸させることにより、紙製品、マスク、ウエットティッシュ、エアコンフィルター、空気清浄機用フィルター、衣服、作業服、カーテン、カーペット、自動車用部材、包装部材、鮮度保持材、シーツ、タオル、バスマット、おむつカバー、ぬいぐるみ、スリッパ、靴インソール、ワイパーなどの掃除用品等の繊維製品に抗微生物性を有する被膜を付与することが可能になる。
また分散液の分散媒として水系溶媒を用いることにより、水系の組成物の希釈剤として使用することや、或いは分散液中にバインダー樹脂を含有することにより、抗微生物性の塗膜を表面に有する成形品を得ることができる。
更に、医療用具、医療用具の包装フィルム、廃棄容器、ゴミ袋、介護施設或いは病院や学校などの公共施設の壁材や床材、ワックスコート材、吐しゃ物の処理用具などに使用することができる。
更にまた、衛生製品以外にも、フィルム、金属板、ガラス板、船舶用塗料、熱交換器フィン、或いは食器等のセラミックス製品、ゴム製品、蛇口等の金属製品、加湿器用添加剤、液体洗剤、イオン吸着剤、消臭剤など各種用途に適用可能である。
【要約】
本発明は、金属微粒子、酸性官能基を有する分散剤及び/又は酸性官能基を有するバインダー樹脂を含有する分散液に関するものであり、アスコルビン酸,アスコルビン酸の誘導体及び還元性多価フェノールの少なくとも1種から成る安定化剤を、前記金属微粒子100質量部に対して150質量部以上の量で含有することにより、金属微粒子のイオン化が有効に抑制され、金属微粒子が有する優れた抗微生物性を長期にわたって安定して発現可能な分散液を提供できる。