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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】塩素含有灰の脱塩洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/80 20220101AFI20231129BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20231129BHJP
【FI】
B09B3/80
B09B101:30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020032490
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133322
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】山口 淑子
(72)【発明者】
【氏名】高馬 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】矢島 達哉
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-080199(JP,A)
【文献】特開2017-148720(JP,A)
【文献】特開2008-055395(JP,A)
【文献】特開2004-358288(JP,A)
【文献】特開2021-053582(JP,A)
【文献】特開2002-239530(JP,A)
【文献】特開2005-224672(JP,A)
【文献】特開平06-134470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有灰を水スラリーにして撹拌洗浄し、塩素分が溶出した水を脱水して、塩素を低減した灰を回収する脱塩洗浄方法であって、該スラリーに高分子凝集剤を添加して該スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が50wt%以下になるように撹拌洗浄し、該撹拌洗浄したスラリーを、静置沈降工程を経ずにベルトフィルターに送って脱水することを特徴とする塩素含有灰の脱塩洗浄方法。
【請求項2】
上記撹拌洗浄において、上記スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が10wt%以下になるように撹拌洗浄する請求項1に記載する塩素含有灰の脱塩洗浄方法。
【請求項3】
塩素含有灰に3~5倍量の水を加えてスラリーにする請求項1または請求項2に記載する塩素含有灰の脱塩洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有灰をスラリーにして脱塩洗浄する際に、スラリー中の灰を過粉砕することなく粒度分布を制御することによって、濾過性に優れた灰スラリーにして連続ろ過を可能にした脱塩洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛灰や塩素バイパスダストなどの塩素含有灰は、脱塩することによってセメントの原料に利用される。塩素化合物は大部分が水溶性であるため、塩素含有灰の脱塩方法として水洗が用いられる場合が多い。具体的には、塩素含有灰を撹拌洗浄槽に入れて水スラリーにし、撹拌洗浄して塩素分を溶出させたスラリーを濾過し脱水して塩素分を含む水を除去することによって脱塩している。
【0003】
上記スラリーの濾過処理において、スラリーの固体濃度が希薄であるほど濾過性が低下するので、従来の脱塩システムでは、撹拌洗浄槽の次に沈降槽を設け、撹拌洗浄後のスラリーを沈降槽に導き、ここでスラリー中の灰を沈降させて上澄み水を除去し、スラリーを濃縮した後に、濾過工程に送る構成を採用している。
【0004】
しかし、従来の上記脱塩システムでは、撹拌洗浄槽でスラリーを撹拌し続けるためにスラリー中の灰が過粉砕され、粒径0.045mm未満の微粒子の割合が多い。このような微粒子は水切れが悪く、しかも沈降槽に長時間静置されることによって層状の堆積層を形成し、濾過性をさらに低下させている。
【0005】
洗浄スラリーの濾過性を改善するため次のような方法が知られている。(イ)加圧粒状化してから濾過する方法(特許文献1)、(ロ)比較的粗粒な灰のスラリーでベルトフィルター表面をプレコートしてから微粒灰スラリーを濾過する方法(特許文献2)、(ハ)洗浄スラリーに高分子凝集剤を加えて凝集フロックを沈降分離させて初期濃縮スラリーを形成し、該初期濃縮スラリーを加水した後に湿式サイクロンを用いて細粒スラリーと粗粒スラリーに分離し、該細粒スラリーに高分子凝集剤を加えて細粒凝集フロックを沈降 分離させて細粒濃縮スラリーを形成し、該細粒濃縮スラリーを脱水洗浄して脱塩する方法(特許文献3)、(ニ)洗浄灰と粗粒な無機粉体を混合して粒度調整する方法(特許文献4)、(ホ)薬剤を添加してスラリーの粘性増加を抑制し、スラリーの流動性と脱水性を高める方法(特許文献5)。また、(ヘ)焼却灰に含まれる塩素は細粒物に多いことから、粒径0.5mm未満の細粒子と粒径0.5mm以上の粗粒子に篩分けして脱塩処理する方法が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-148720号公報
【文献】特許第4095929号公報
【文献】特許第5761544号公報
【文献】特開2004-358288号公報
【文献】特開2013-91029号公報
【文献】特許第5561326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記(イ)(ロ)の方法は装置の改良が大がかりになるとともに、飛灰によって性状が大きく異なるので十分な効果が得られない場合がある。上記(ハ)の方法は設備が大がかりであり、上記(ニ)の方法は無機粉体を混合することによって見かけ上の粒度は調整されるが、微細な灰は残るので濾過性は根本的には解決されない。上記(ホ)の方法は薬剤添加によって濾過性はある程度改善されるが、根本的な解決にはならない。また上記(ヘ)の方法は、濾過性は殆ど改善されない。
【0008】
本発明は、従来の脱塩処理における上記問題を解決した脱塩洗浄方法を提供するものであり、装置の大掛かりな改良を必要とせず、濾過性に優れた処理能力の高い脱塩洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成によって従来の問題を解決した脱塩洗浄方法に関する。
〔1〕塩素含有灰を水スラリーにして撹拌洗浄し、塩素分が溶出した水を脱水して、塩素を低減した灰を回収する脱塩洗浄方法であって、該スラリーに高分子凝集剤を添加して該スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が50wt%以下になるように撹拌洗浄し、該撹拌洗浄したスラリーを、静置沈降工程を経ずにベルトフィルターに送って脱水することを特徴とする塩素含有灰の脱塩洗浄方法。
〔2〕上記撹拌洗浄において、上記スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が10wt%以下になるように撹拌洗浄する上記[1]に記載する塩素含有灰の脱塩洗浄方法。
〔3〕塩素含有灰に3~5倍量の水を加えてスラリーにする上記[1]または上記[2]に記載する塩素含有灰の脱塩洗浄方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の脱塩洗浄方法は、塩素含有灰を水スラリーにして撹拌洗浄し、塩素分が溶出した水を脱水して、塩素を低減した灰を回収する脱塩洗浄方法であって、該スラリーに高分子凝集剤を添加して該スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が50wt%以下になるように撹拌洗浄した後に、該撹拌洗浄したスラリーを、静置沈降工程を経ずにベルトフィルターに送って脱水することを特徴とする塩素含有灰の脱塩洗浄方法である。
【0011】
上記塩素含有灰のスラリー(以下、塩素含有灰スラリーと云う)は、例えば、飛灰やセメント工場の塩素バイパスダストなどから回収される塩素含有灰を水に分散してpH6~10前後に調整したスラリーである。pH調整剤として硫酸が添加されたスラリーや、脱塩処理後の廃水汚泥を塩素含有灰と共にスラリーにしたものなども、本発明の塩素含有灰スラリーに含まれる。
【0012】
本発明の脱塩洗浄方法は、上記塩素含有灰スラリーを撹拌槽で撹拌洗浄する際に、スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が50wt%以下になるように撹拌洗浄する。撹拌洗浄した上記スラリーを濾過脱水するときに、脱水完了までの濾過時間は該スラリーに含まれる粒径0.045mm未満の微粒子の割合によって大きく異なることが見出された。
【0013】
図1に示す例では、灰Aについて、スラリーに含まれる粒径0.045mm未満の微粒子の割合が(イ)2wt%未満、(ロ)50wt%、(ハ)100wt%であるときの濾過時間は、(イ)は13秒、(ロ)は335秒、(ハ)は823秒であり、スラリーに含まれる粒径0.045mm未満の微粒子の割合によって濾過時間が大幅に異なる。
【0014】
スラリーに含まれる粒径0.045mm未満の微粒子の割合はスラリーの撹拌時間に依存している。図2に示す例では、灰Aについて、粒径0.045mm未満の微粒子の割合は、300分の撹拌時間では12wt%であり、15分の撹拌時間では6wt%である。また、灰Bについては、粒径0.045mm未満の微粒子の割合は、300分の撹拌時間では27wt%であり、15分の撹拌時間では2wt%である。
【0015】
本発明は、上記知見に基づき、塩素含有灰スラリーの撹拌洗浄において、スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合が50wt%以下、好ましくは10wt%以下になるように撹拌時間を制御する。撹拌時間が長すぎると過粉砕になり、0.045mm未満の微粒子の割合が増加する。この撹拌時間および撹拌速度などは撹拌洗浄槽の仕様に従って定めればよい。
【0016】
図1に示すように、粒径0.045mm未満の微粒子の割合が少ないほど濾過時間は短縮されるので、スラリー中の粒径0.045mm未満の微粒子の割合は50wt%以下が好ましく、10wt%以下がより好ましい。
【0017】
また、撹拌洗浄の際に、高分子凝集剤を添加することによって微細粒子が凝集して粒径0.045mm以上の粒子になりやすいので、粒径0.045mm未満の微粒子の割合を抑制することができる。
【0018】
本発明の脱塩洗浄方法では、上記撹拌洗浄した後に、該撹拌洗浄したスラリーを、静置沈降工程を経ずにベルトフィルターに送って脱水する。従来の脱塩設備は、塩素含有灰スラリーの撹拌洗浄槽と沈降槽を有しており、撹拌洗浄した塩素含有灰スラリーを沈降槽に導いて該沈降槽でスラリーを静置して沈降させ、上澄み水を除去し、堆積したスラリー汚泥をベルトフィルターに送り、移送しながら脱水している。
【0019】
ここで、静置沈降処理と濾過処理の関係を検討すると、静置時間によって濾過時間が異なり、静置時間に比例して濾過時間が長くなることが見出された。図3に示すように、スラリーを静置せずに濾過した場合(静置0時間)と、72時間静置して濾過した場合を比較すると、灰Aについて、静置しないときの濾過時間は12秒であるが、72時間静置した後の濾過時間は22秒である。また灰Bについて、静置しないときの濾過時間は7秒であるが、72時間静置後の濾過時間は10秒であり、灰Aおよび灰Bの何れの場合も静置後の濾過時間が長くなる。
【0020】
スラリーを静置せずに濾過すると、灰粒子がスラリー中に分散した状態で濾過されるので、スラリーの水分が抜けやすいが、スラリーを長時間静置すると、図4に示すように、沈降汚泥の上側に粘土状の堆積層が形成されるのが観察される。スラリーの水分がこの堆積層を通過し難くなるため濾過時間が長くなると思われる。
【0021】
本発明の脱塩洗浄方法は、上記知見に基づき、塩素含有灰スラリーを撹拌洗浄した後に、スラリーの静置沈降工程を経ずにベルトフィルターに導入し、移送しながら濾過脱水する。スラリーの静置沈降工程を経ずに濾過脱水することによって、従来の沈降後の脱水よりも濾過脱水時間を短縮することができる。また、本発明の脱塩洗浄方法は、静置沈降工程を経ずにベルトフィルターに導入して脱水するので、脱水工程の負担が過大にならないように、スラリーを調製するときの水分量は塩素含有灰の3~5倍量が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の脱塩方法によれば、濾過時間が短く、塩素含有灰の脱塩処理を迅速に進めることができ、脱塩設備の処理能力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1の結果を示す灰Aの濾過時間のグラフ。
図2】実施例2の結果を示す撹拌時間と粒径の依存性を示すグラフ。
図3】実施例3の結果を示す静置時間と濾過時間の依存性を示すグラフ。
図4】静置沈降した汚泥の状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を示す。なお、粒径0.045mm未満の微粒子の割合はJIS Z8801-1試験用ふるい規格にある公称目開き45μmのふるいにて分級したときの篩下の灰重量と灰の全重量の割合から算出した。

【0025】
〔実施例1〕
粒径0.045mm未満の微粒子の割合を、(イ)2wt%未満、(ロ)50wt%、(ハ)100wt%に調整した灰Aを用い、固形分濃度約90g/Lの3種類のスラリーを調製した。これらのスラリーを振とう器に入れ、15分若しくは300分間振とうし、スラリーの水分が50wt%以下になるまで濾過脱水した。この濾過時間を図1に示した。図示するように、スラリー(イ)の濾過時間は13秒、スラリー(ロ)の濾過時間は335秒、スラリー(ハ)の濾過時間は823秒であった。
【0026】
〔実施例2〕
灰Aと灰Bについて、おのおの粒径0.2~1.0mmの灰を用い、固形分濃度約90g/Lのスラリーを調製し、同一の撹拌洗浄槽を用い、15分間撹拌した場合と300分撹拌した場合の粒径0.045mm未満の微粒子の割合を調べた。この結果を図2に示した。図示するように、灰Aについて、粒径0.045mm未満の微粒子の割合は、300分の撹拌時間では12wt%であり、15分の撹拌時間では6wt%であった。灰Bについては、粒径0.045mm未満の微粒子の割合は、300分の撹拌時間では27wt%であり、15分の撹拌時間では2wt%であった。
【0027】
〔実施例3〕
実施例2と同様の15分間撹拌した灰Aのスラリー、灰Bのスラリーについて、容器に入れ、0時間(静置なし)または72時間静置し、スラリーの水分が50wt%以下になるまで濾過脱水した。この濾過時間を図3示した。図示するように、灰Aについて、静置しないときの濾過時間は約12時間であり、72時間静置した後の濾過時間は22秒であった。灰Bについて、静置しないときの濾過時間は7秒であり、72時間静置後の濾過時間は10秒であった。また、灰Aについて、72時間静置した試料の沈降汚泥の状態を図4に示す。図示するように、沈降汚泥の上側に粘土状の堆積層が観察された。静置しない試料は沈降汚泥がみられず、灰粒子がスラリー中に分散した状態であった。
図1
図2
図3
図4