(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】キャリアガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20231129BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20231129BHJP
C03B 17/06 20060101ALI20231129BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/087
C03B17/06
B32B17/10
(21)【出願番号】P 2022173042
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2019514514の分割
【原出願日】2018-04-24
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017088071
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 敦己
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006801(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194693(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175215(WO,A1)
【文献】特開2006-036626(JP,A)
【文献】特開2016-183091(JP,A)
【文献】特開2015-034122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 17/06
B32B 17/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラスであって、
板厚0.1~1.2mmの平板形状であり、
ガラス中の鉄含有量が、Fe
2O
3換算で45~130質量ppmであり、
且つ波長308nmにおける板厚方向の透過率が71~81%であり、
ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 55~65%、Al
2O
3 15~23%、B
2O
3 0~3%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~0.20%未満、MgO 2.5~6%、CaO 0.1~10%、SrO 0.3~3.16%、BaO
0.1~13%を含有することを特徴とするキャリアガラス。
【請求項2】
ガラス組成中のLi
2O+Na
2O+K
2Oの含有量が0.20質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のキャリアガラス。
【請求項3】
β-OH値が0.20/mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャリアガラス。
【請求項4】
常温から5℃/分の速度で昇温し、500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のキャリアガラス。
【請求項5】
液相温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のキャリアガラス。
【請求項6】
高温粘度10
2.5dPa・sの粘度における温度が1700℃以下であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のキャリアガラス。
【請求項7】
キャリアガラスと有機樹脂基板とを積層させたガラス樹脂積層体であって、
キャリアガラスが、請求項1~6の何れかに記載のキャリアガラスであることを特徴とするガラス樹脂積層体。
【請求項8】
有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラスの製造方法であって、
ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO
2 55~65%、Al
2O
3 15~23%、B
2O
3 0~3%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~0.20%未満、MgO 2.5~6%、CaO 0.1~10%、SrO 0.3~3.16%、BaO
0.1~13%、Fe
2O
3 45~130質量ppm、As
2O
3 0~0.010%未満、Sb
2O
3 0~0.010%未満を含有し、且つ波長308nmにおける板厚方向の透過率が71~81%であるガラスが得られるように、ガラスバッチを調合する調合工程と、調合されたガラスバッチに対して、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1~1.2mmの平板形状に成形する成形工程と、を有することを特徴とするキャリアガラスの製造方法。
【請求項9】
MgO導入原料とCaO導入原料由来の鉄含有量が、Fe
2O
3換算で30~70質量ppmになるように、ガラスバッチを調合することを特徴とする請求項8に記載のキャリアガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアガラス及びその製造方法に関し、具体的には、有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の電子デバイスは、薄型で動画表示に優れ、消費電力も少ないことから、携帯電話のディスプレイ等の用途に使用されている。現在、有機ELディスプレイの基板には、ガラス板が広く使用されている。
【0003】
近年、基板として有機樹脂基板を用いて、可撓性を有する有機ELディスプレイを作製することが注目されている。しかし、有機樹脂基板は、可撓性を有するため、半導体膜を直接成膜することが困難である。そこで、キャリアガラス上に有機樹脂基板を積層させた状態で、有機樹脂基板上に半導体膜を成膜する工程が必要になる。
【0004】
この用途のキャリアガラスには、下記の特性(1)、(2)が要求される。
(1)熱処理工程で成膜された半導体膜中にアルカリイオンが拡散する事態を防止するため、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないこと、
(2)生産性に優れること、例えば溶融性、清澄性、耐失透性に優れること。
【0005】
また、有機樹脂基板を用いた有機ELディスプレイは、主にスマートフォン等のモバイル端末に使用されるため、高解像度が要求される。このため、ディスプレイ駆動用の薄膜トランジスタには、LTPS(Low Temperature Poly-silicon)や酸化物半導体が使用される。
【0006】
一般的に、有機樹脂基板は、耐熱性が低いため、LTPSを作製する高温の熱処理工程等でその機能を維持できない。しかし、キャリアガラスで保持すると、一部の樹脂(例えば、ポリイミド等の耐熱性樹脂)では、その機能を損なわずに熱処理することが可能になる。
【0007】
このような事情から、この用途のキャリアガラスには、(3)耐熱性が高いことも要求される。具体的には、600℃程度の熱処理で寸法変化が生じ難いことが要求される。なお、LTPSを作製する高温の熱処理工程等でキャリアガラスが寸法変化すると、有機樹脂基板上に高精細のトランジスタ構造を作製し難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、有機樹脂基板上に半導体膜を成膜した後に、キャリアガラスと有機樹脂基板を分離する時には、波長308nmのレーザーが用いられる。よって、キャリアガラスには、上記要求特性(1)~(3)に加えて、(4)レーザーの利用効率を高めるために、波長308nmにおける透過率が高いことも要求される。
【0010】
波長308nmにおける透過率は、ガラス中の不純物である鉄の影響を大きく受ける。つまりガラス中に存在するFe3+は、波長308nm付近に吸収を示すため、その含有量が多いと、波長308nmにおける透過率が低下してしまう。よって、要求特性(4)を満たすためには、ガラス中に存在するFe3+の含有量を極力低減することが重要になる。
【0011】
しかし、Fe2O3は、清澄剤として作用する成分である。Fe2O3の含有量を極端に低減すると、清澄効果が不十分になるため、泡不良が発生し易くなり、キャリアガラスの生産性が低下してしまう。特に、耐熱性を高めるためにキャリアガラスを高歪点化すると、溶融温度が高くなり、その問題が顕在化し易くなる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、波長308nmにおける透過率が高く、しかも生産性(特に清澄性)に優れるキャリアガラスを創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、ガラス中の鉄含有量を厳密に規制すると共に、紫外域における透過率を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のキャリアガラスは、有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラスであって、板厚0.1~1.2mmの平板形状であり、ガラス中の鉄含有量が、Fe2O3換算で45~130質量ppmであり、且つ波長308nmにおける板厚方向の透過率が71~81%であることを特徴とする。ここで、「波長308nmにおける板厚方向の透過率」は、数式1により算出される内部透過率を指し、例えば、島津製作所社製UV-3100PCにより測定可能である。「~換算」とは、表記の酸化物とは価数が異なる酸化物であっても、表記の酸化物に換算した上で取り扱うことを意味する。
【0014】
[数1]
logTin=log(I1/I0)-logR
logTin:内部透過率(%)
I0:入射した光の強度(%)
I1:特定の光路長を透過した後の光の強度(%)
R:反射による光の減衰率(%)
【0015】
また、本発明のキャリアガラスは、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0.20質量%未満であることが好ましい。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。
【0016】
また、本発明のキャリアガラスは、β-OH値が0.20/mm以下であることが好ましい。ここで、「β-OH値」は、FT-IRを用いて下記数式2により算出した値である。
【0017】
[数2]
β-OH値 = (1/X)log(T1/T2)
X:板厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0018】
また、本発明のキャリアガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO2 55~65%、Al2O3 15~23%、B2O3 0~7%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.20%未満、MgO 0~6%、CaO 0.1~10%、SrO 0~10%、BaO 0~13%、Fe2O3 60~130ppm、As2O3 0~0.010%未満、Sb2O3 0~0.010%未満を含有することが好ましい。
【0019】
また、本発明のキャリアガラスは、常温から5℃/分の速度で昇温し、500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率が20ppm以下であることが好ましい。ここで、「熱収縮率」は、以下のように算出したものである。まず試料の所定箇所に直線状のマーキングを記入した後、この試料をマーキングに対して垂直に折り、2つのガラス片に分割する。次に、一方のガラス片のみに所定の熱処理(常温から5℃/分の速度で昇温し、500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温)する。その後、熱処理を施したガラス片と、未熱処理のガラス片を並べて、接着テープTで両者を固定してから、マーキングのずれを測定する。マーキングのずれを△L、熱処理前の試料の長さをL0とした時に、△L/L0(単位:ppm)の式により熱収縮率を算出する。
【0020】
また、本発明のキャリアガラスは、液相温度が1300℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定することにより算出可能である。
【0021】
また、本発明のキャリアガラスは、高温粘度102.5dPa・sの粘度における温度が1700℃以下であることが好ましい。ここで、「高温粘度102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。
【0022】
本発明のガラス樹脂積層体は、キャリアガラスと有機樹脂基板とを積層させたガラス樹脂積層体であって、キャリアガラスが、上記のキャリアガラスであることが好ましい。
【0023】
本発明のキャリアガラスの製造方法は、有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラスの製造方法であって、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO2 55~65%、Al2O3 15~23%、B2O3 0~7%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.20%未満、MgO 0~6%、CaO 0.1~10%、SrO 0~10%、BaO 0~13%、Fe2O3 45~130質量ppm、As2O3 0~0.010%未満、Sb2O3 0~0.010%未満を含有し、且つ波長308nmにおける板厚方向の透過率が71~81%であるガラスが得られるように、ガラスバッチを調合する調合工程と、調合されたガラスバッチに対して、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1~1.2mmの平板形状に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を成形する方法である。
【0024】
また、本発明のキャリアガラスの製造方法は、MgO導入原料とCaO導入原料由来の鉄含有量(合量)が、Fe2O3換算で30~70質量ppmになるように、ガラスバッチを調合することが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のキャリアガラスにおいて、板厚は0.1~1.2mmであり、好ましくは0.2~1.0mm、0.3~0.7mm、特に0.4~0.6mmである。板厚が小さ過ぎると、可撓性が高まるため、キャリアガラスとしての機能を発揮し難くなる。一方、板厚が大き過ぎると、波長308nmにおける板厚方向の透過率が低下し易くなる。なお、板厚は、ガラス製造時の流量や板引き速度等で調整可能である。
【0026】
Fe2O3は、1600℃付近の高温度域において清澄効果を発揮する成分であるが、紫外域での透過率を低下させる成分である。本発明のキャリアガラスにおいて、ガラス中の鉄含有量は、Fe2O3換算で45~130質量ppmであり、好ましくは60~125質量ppm、80~120質量ppm、特に90~110質量ppm、特に95~105質量ppmである。ガラス中の鉄含有量が少な過ぎると、泡不良が発生し易くなり、キャリアガラスの生産性が低下してしまう。一方、ガラス中の鉄含有量が多過ぎると、波長308nmにおける透過率が低下するため、波長308nmのレーザーにより、キャリアガラスと有機樹脂基板を分離し難くなる。
【0027】
本発明のキャリアガラスにおいて、波長308nmにおける板厚方向の透過率が71~81%であり、好ましくは71~79%、72~78%、73~77%、特に74~76%である。波長308nmにおける板厚方向の透過率が低いと、波長308nmのレーザーにより、キャリアガラスと有機樹脂基板を分離し難くなる。一方、波長308nmにおける板厚方向の透過率が高いと、Fe2O3による清澄効果を享受し難くなる。
【0028】
本発明のキャリアガラスにおいて、β-OH値は、好ましくは0.20/mm以下、0.16/mm以下、0.13/mm以下、0.12/mm以下、0.10/mm以下、特に0.10/mm未満である。β-OH値が大き過ぎると、耐熱性が低下し易くなる。一方、β-OH値が小さ過ぎると、溶融性が低下し易くなる。よって、β-OH値は、好ましくは0.01/mm以上、特に0.02/mm以上である。
【0029】
β-OH値を低下させる方法として、以下の(1)~(7)の方法があり、その中でも、(1)~(4)の方法が有効である。(1)低水分量の原料を選択する。(2)ガラスバッチ中にCl、SO3等の乾燥剤を添加する。(3)加熱電極による通電加熱を行う。(4)小型溶融炉を採用する。(5)炉内雰囲気中の水分量を低下させる。(6)溶融ガラス中でN2バブリングを行う。(7)溶融ガラスの流量を多くする。
【0030】
本発明のキャリアガラスにおいて、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量は、好ましくは0.20質量%未満、0.10質量%未満、0.08質量%未満、特に0.06質量%未満である。一方、Li2O、Na2O及びK2Oを少量導入すると、溶融ガラスの電気抵抗率が低下して、加熱電極による通電加熱でガラスを溶融し易くなる。よって、Li2O、Na2O及びK2Oの合量及び個別の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上、特に0.05質量%以上である。なお、半導体膜への影響と電気抵抗率の低下とを総合的に考慮すると、Li2O、Na2O及びK2Oの内、Na2Oを優先的に導入することが好ましい。
【0031】
本発明のキャリアガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO2 55~65%、Al2O3 15~23%、B2O3 0~7%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.20%未満、MgO 0~6%、CaO 0.1~10%、SrO 0~10%、BaO 0~13%、Fe2O3 60~130ppm、As2O3 0~0.010%未満、Sb2O3 0~0.010%未満を含有することが好ましい。
【0032】
SiO2は、ガラス骨格を形成すると共に、歪点を高める成分である。SiO2の含有量は、好ましくは55~65%、58~65%、特に59~62%である。SiO2の含有量が少ないと、歪点や耐酸性が低下し易くなり、また密度が高くなり易い。一方、SiO2の含有量が多いと、高温粘度が高くなって、溶融性が低下し易くなるとに加えて、ガラス成分のバランスが崩れて、クリストバライト等の失透結晶が析出し、液相温度が高くなり易い。
【0033】
Al2O3は、歪点を高める成分であり、更にヤング率を高める成分である。Al2O3の含有量は、好ましくは15~23%、16~22%、17~22%、18~22%、18.6~21%、特に19.2~21%である。Al2O3の含有量が少ないと、歪点や比ヤング率が低下し易くなる。一方、Al2O3の含有量が多いと、ムライトや長石系の失透結晶が析出して、液相温度が高くなり易い。
【0034】
B2O3は、溶融性と耐失透性を高める成分である。B2O3の含有量は、好ましくは0~7%、0~6%、0.1~3.0%未満、0.3~2%、特に0.5~0.75%である。B2O3の含有量が少ないと、溶融性が低下し易くなり、また液相温度が高くなり易い。更に耐バッファードフッ酸性(耐BHF性)が低下し易くなる。一方、B2O3の含有量が多いと、歪点、比ヤング率が低下し易くなる。なお、歪点を可及的に高めたい場合、B2O3の含有量は0~1.0%未満、特に0~0.50%未満が好ましい。
【0035】
Li2O、Na2O及びK2Oの好適な含有範囲は、既述の通りである。
【0036】
MgOは、溶融性やヤング率を高める成分である。MgOの含有量は、好ましくは0~6%、0.01~6%、1~6%、2~5%、2.5~4.5%、特に3~4%である。MgOの含有量が少ないと、ヤング率と溶融性が低下し易くなる。一方、MgOの含有量が多いと、ムライト等のMg、Ba由来の失透結晶及びクリストバライトの失透結晶が析出し易くなると共に、歪点が低下し易くなる。
【0037】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。またCaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。更にヤング率を高める成分である。そして、CaOは、上記Mgを含む失透結晶の析出を抑制する効果を有する。CaOの含有量は、好ましくは0.1~10%、1~9%、2~8%、3~7%、3.5~6%、特に3.5~5.5%である。CaOの含有量が少ないと、上記効果を享受し難くなる。一方、CaOの含有量が多いと、アノーサイトの失透結晶が析出し易くなると共に、密度が上昇し易くなる。
【0038】
SrOは、分相を抑制し、また耐失透性を高める成分である。更に歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。一方、SrOの含有量が多いと、長石系の失透結晶が析出し易くなり、かえって耐失透性が低下し易くなる。更に密度が高くなったり、ヤング率が低下したりする傾向にある。よって、SrOの含有量は、好ましくは0~10%、0~8%、0~3%、0.1~2%、特に0.5~1.0%未満である。
【0039】
BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、ムライト系やアノーサイト系の失透結晶の析出を抑制する効果が高い成分である。BaOの含有量は、好ましくは0~13%、0.1~12%、1~11%、5~10.7%、特に8~10.5%である。BaOの含有量が少ないと、ムライト系やアノーサイト系の失透結晶が析出し易くなる。一方、BaOの含有量が多いと、密度が増加したり、ヤング率が低下し易くなると共に、高温粘度が高くなり過ぎて、溶融性が低下し易くなる。
【0040】
アルカリ土類金属酸化物は、高歪点、耐失透性、溶融性を高めるために非常に重要な成分である。アルカリ土類金属酸化物が少ないと、歪点が上昇するが、Al2O3系の失透結晶の析出を抑制し難くなり、また高温粘性が高くなって、溶融性が低下し易くなる。一方、アルカリ土類金属酸化物が多いと、溶融性が改善されるが、歪点が低下し易くなり、また高温粘性の低下による液相粘度の低下を招く虞がある。よって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量(MgO、CaO、SrO及びBaOの合量)は、好ましくは16~22%、17~20%、17.5~19.5%、特に18~19.3%である。
【0041】
質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3は、各種失透結晶の析出を抑制して、液相粘度を低下させるために重要な成分比率である。質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が小さくなると、ムライトの液相温度が高くなり易い。一方、質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3が大きくなると、アルカリ土類金属酸化物が相対的に多くなり、長石系やアルカリ土類金属を含む失透結晶が析出し易くなる。よって、質量%比(MgO+CaO+SrO+BaO)/Al2O3は、好ましくは0.75~1.40、0.80~1.20、0.84~1.15、0.94~1.13、特に0.94~1.05である。
【0042】
Fe2O3の好適な含有範囲は、既述の通りである。
【0043】
As2O3、Sb2O3は、バーナーの燃焼炎による加熱を行わず、加熱電極による通電加熱でガラスを溶融する場合に、ガラスを着色させる成分であり、それらの含有量は、それぞれ0.010%未満、特に0.0050%未満が好ましい。
【0044】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分をガラス組成中に添加してもよい。なお、上記成分以外の他成分の含有量は、本発明の効果を的確に享受する観点から、合量で5%以下、特に3%以下が好ましい。
【0045】
ZnOは、溶融性を高める成分であるが、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。ZnOの含有量は、好ましくは0~5%、0~3%、0~0.5%、特に0~0.2%である。
【0046】
P2O5は、歪点を高める成分であるが、P2O5を多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。P2O5の含有量は、好ましくは0~1.5%、0~1.2%、特に0~1%である。
【0047】
TiO2は、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であると共に、ソラリゼーションを抑制する成分であるが、TiO2を多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。よって、TiO2の含有量は、好ましくは0~3%、0~1%、0~0.1%、特に0~0.02%である。
【0048】
Y2O3、Nb2O5、La2O3には、歪点、ヤング率等を高める働きがある。しかし、これらの成分の含有量が多過ぎると、密度、原料コストが増加し易くなる。よって、Y2O3、Nb2O5、La2O3の含有量は、各々0~3%、0~1%、0~0.10%未満、特に0~0.05%未満が好ましい。
【0049】
Clは、乾燥剤として作用し、β-OH値を低下させる成分である。よって、Clを導入する場合、好適な下限含有量は0.001%以上、0.003%以上、特に0.005%以上である。しかし、Clの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなる。よって、Clの好適な下限含有量は0.5%以下、0.2%以下、特に0.08%以下である。なお、Clの導入原料として、塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属酸化物の塩化物、或いは塩化アルミニウム等を使用することができる。
【0050】
SO3は、乾燥剤として作用し、β-OH値を低下させる成分である。よって、SO3を導入する場合、好適な下限含有量は0.0001%以上、特に0.0005%以上である。しかし、SO3の含有量が多過ぎると、リボイル泡が発生し易くなる。よって、SO3の好適な下限含有量は0.05%以下、0.01%以下、0.005%以下、特に0.001%以下である。
【0051】
SnO2は、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、歪点を高める成分であり、また高温粘性を低下させる成分である。SnO2の含有量は0~1%、0.001~1%、0.05~0.5%、特に0.1~0.3%が好ましい。SnO2の含有量が多過ぎると、SnO2の失透結晶が析出し易くなる。なお、SnO2の含有量が0.001%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0052】
ガラス特性を著しく損なわない限り、SnO2以外の清澄剤を使用してもよい。具体的には、CeO2、F、Cを合量で例えば1%まで添加してもよく、Al、Si等の金属粉末を合量で例えば1%まで添加してもよい。
【0053】
本発明のキャリアガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0054】
歪点は、好ましくは720℃超、730℃以上、740℃以上、特に750~850℃である。歪点が低いと、半導体膜の成膜工程で、キャリアガラスが熱収縮し易くなるため、有機ELディスプレイを高精細化し難くなる。
【0055】
常温から5℃/分の速度で昇温し、500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温した時の熱収縮率は、好ましくは20ppm以下、18ppm以下、15ppm以下、12ppm以下、特に1~10ppmである。熱収縮率が大きいと、半導体膜の成膜工程で、キャリアガラスが熱収縮し易くなるため、有機ELディスプレイを高精細化し難くなる。
【0056】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数は、好ましくは35×10-7/℃以上、特に38×10-7~41×10-7/℃である。30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数が低過ぎると、有機樹脂基板の熱膨張係数と整合せず、有機樹脂基板の剥離やキャリアガラスの反りが発生し易くなる。ここで、「30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値を指す。
【0057】
液相温度は、好ましくは1300℃以下、1280℃以下、1260℃以下、特に1100~1240℃である。液相温度が高いと、オーバーフローダウンドロー法等での成形時に失透結晶が発生して、キャリアガラスの生産性が低下し易くなる。
【0058】
液相温度における粘度は、好ましくは104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.2dPa・s以上、特に105.5~107.0dPa・sである。液相温度における粘度が低いと、オーバーフローダウンドロー法等での成形時に失透結晶が発生して、キャリアガラスの生産性が低下し易くなる。
【0059】
高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、好ましくは1700℃以下、1680℃以下、1660℃以下、1640℃以下、1630℃以下、特に1540~1620℃である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が高いと、ガラスバッチの溶解が困難になり、キャリアガラスの製造コストが高騰する。
【0060】
比ヤング率は、好ましくは29.5GPa/g・cm-3超、30GPa/g・cm-3以上、30.5GPa/g・cm-3以上、31GPa/g・cm-3以上、31.5GPa/g・cm-3以上、特に32GPa/g・cm-3以上である。比ヤング率が高いと、キャリアガラスが自重で撓み易くなる。
【0061】
本発明のキャリアガラスは、板厚中央部に成形合流面を有すること、つまりオーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス表面になるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができる。またオーバーフローダウンドロー法は、薄いガラス板を成形し易いという利点も有している。
【0062】
本発明のガラス樹脂積層体は、キャリアガラスと有機樹脂基板とを積層させたガラス樹脂積層体であって、キャリアガラスが、上記のキャリアガラスであることが好ましい。またキャリアガラスと有機樹脂基板は接着剤で一体化されていることが好ましい。本発明のガラス樹脂積層体の技術的特徴は、本発明のキャリアガラスの技術的特徴と重複する。本明細書では、便宜上、その重複部分について詳細な説明を省略する。
【0063】
本発明のキャリアガラスの製造方法は、有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラスの製造方法であって、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO2 55~65%、Al2O3 15~23%、B2O3 0~7%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.20%未満、MgO 0~6%、CaO 0.1~10%、SrO 0~10%、BaO 0~13%、Fe2O3 45~130質量ppm、As2O3 0~0.010%未満、Sb2O3 0~0.010%未満を含有し、且つ波長308nmにおける板厚方向の透過率が71~81%であるガラスが得られるように、ガラスバッチを調合する調合工程と、調合されたガラスバッチに対して、加熱電極による通電加熱を行うことにより、溶融ガラスを得る溶融工程と、得られた溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー法により板厚0.1~1.2mmの平板形状に成形する成形工程と、を有することを特徴とする。本発明のキャリアガラスの製造方法の技術的特徴の一部は、本発明のキャリアガラスの技術的特徴と重複する。本明細書では、便宜上、その重複部分について詳細な説明を省略する。
【0064】
キャリアガラスの製造工程は、一般的に、溶融工程、清澄工程、供給工程、攪拌工程、成形工程を含む。溶融工程は、ガラス原料を調合したガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程である。清澄工程は、溶融工程で得られた溶融ガラスを清澄剤等の働きによって清澄する工程である。供給工程は、各工程間に溶融ガラスを移送する工程である。攪拌工程は、溶融ガラスを攪拌し、均質化する工程である。成形工程は、溶融ガラスを平板形状のガラスに成形する工程である。なお、必要に応じて、上記以外の工程、例えば溶融ガラスを成形に適した状態に調節する状態調節工程を攪拌工程後に取り入れてもよい。
【0065】
上記のように、波長308nmにおける板厚方向の透過率を71~79%に規制するためには、ガラス中の鉄含有量を制御することが重要になる。そこで、本発明のキャリアガラスの製造方法では、MgO導入原料とCaO導入原料由来の鉄含有量が、Fe2O3換算で30~70質量ppm、40~60質量ppm、45~55質量ppm、特に50~55質量ppmになるように、ガラスバッチを調合することが好ましい。その理由は下記の通りである。
【0066】
ガラス中へのFe2O3の主な導入源(混入源)は、MgO導入原料、CaO導入原料、Al2O3導入原料、特にMgO導入原料とCaO導入原料の二種である。そして、MgO導入原料には、一般的に、酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウムが用いられる。CaO導入原料には、一般的に、炭酸カルシウムが用いられる。Al2O3導入原料には、一般的に、酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムが用いられる。
【0067】
MgO導入原料とCaO導入原料は、天然由来の原料であるため、製造ロットによって、鉄含有量の変動が大きく、キャリアガラスの連続生産において、鉄含有量が変動する一因になる。よって、上記のようにMgO導入原料とCaO導入原料から混入する鉄含有量を厳密に制御すれば、波長308nmにおける板厚方向の透過率を所定範囲内に規制し易くなる。一方、MgO導入原料とCaO導入原料から混入する鉄含有量が少な過ぎると、後述の通り、清澄効果を発揮し難くなる。なお、MgO導入原料とCaO導入原料は、天然由来の原料であるため、鉄含有量が少ないものでも低価格である。よって、ガラス中の鉄含有量を低減する上で、これらの導入原料を選別することは、コスト的な観点からも好ましい。
【0068】
低アルカリガラスを作製する場合、Al2O3導入原料には、一般的に、低ソーダ処理された原料が用いられる。そして、低ソーダ処理の際には、原料中に鉄が不可避的に混入する。このため、低アルカリガラスを作製する場合、Al2O3導入原料には、鉄が不可避的に混入する。Al2O3導入原料として、低ソーダ処理された原料と低Na2O処理されていない原料と組み合わせることも可能であるが、この場合、ガラス中のアルカリ混入量が変動するため、加熱電極の通電加熱条件や半導体膜の特性に対して、悪影響を及ぼすリスクが生じ、現実的ではない。以上の点を勘案すると、Al2O3導入原料中の鉄量を制御することは困難であると言える。
【0069】
更に、Al2O3導入原料は、難溶性であるため、溶融初期段階ではあまり溶解せず、Al2O3導入原料中のFe2O3は、溶融終期段階で溶融ガラスに導入されるため、清澄剤として有効に機能しない。そして、Fe2O3等の多価酸化物は、溶融ガラスの光学的塩基性度が高い程、高価数イオンの割合が多くなり、清澄効果を発揮し易くなる。以上の点を総合的に勘案すれば、MgO導入原料とCaO導入原料から導入されるFe2O3は、Al2O3導入原料から混入するFe2O3よりも、清澄効果を発揮し易いと言える。なお、溶融ガラス中にMgO、CaOが導入されると、溶融ガラスの光学的塩基性度が高くなる。
【0070】
低アルカリガラスは、一般的に、バーナーの燃焼加熱により溶融されている。バーナーは、通常、溶融窯の上方に配置されており、燃料として化石燃料、具体的には重油等の液体燃料やLPG等の気体燃料等が使用されている。燃焼炎は、化石燃料と酸素ガスと混合することにより得ることができる。
【0071】
しかし、バーナーの燃焼加熱では、溶融ガラス中に多くの水分が混入するため、キャリアガラスのβ-OH値が上昇し易くなる。そこで、本発明のキャリアガラスの製造方法では、ガラスバッチに対して加熱電極による通電加熱を行うことが好ましい。このようにすれば、溶融窯の壁面に設置された加熱電極による通電加熱により、溶融窯の底面から溶融窯上面に向かって、溶融ガラスの温度が低下するため、溶融窯内の溶融ガラスの液表面上に、固体状態のガラスバッチが多く存在するようになる。結果として、固体状態のガラスバッチに付着した水分が蒸発し、原料起因の水分量の増加を抑制することができる。更に加熱電極による通電加熱を行うと、溶融ガラスを得るための質量当たりのエネルギー量が低下すると共に、溶融揮発物が少なくなるため、環境負荷を低減することができる。
【0072】
本発明のキャリアガラスの製造方法では、バーナーの燃焼加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行うことが更に好ましい。バーナーによる燃焼加熱を行うと、化石燃料の燃焼時に生じる水分が、溶融ガラス中に混入し易くなる。よって、バーナーによる燃焼加熱を行わない場合、溶融ガラスのβ-OH値を低減し易くなる。なお、「バーナーの燃焼加熱を行わず、加熱電極による通電加熱を行う」とは、加熱電極による通電加熱だけでガラスバッチを連続溶融することを指すが、例えば、溶融窯の立ち上げ時にバーナーの燃焼加熱を行う場合、溶融窯の特定箇所に対して局所的、且つ補助的にバーナーの燃焼加熱を行う場合は除かれる。
【0073】
加熱電極による通電加熱は、溶融窯内の溶融ガラスに接触するように、溶融窯の底部又は側部に設けられた加熱電極に交流電圧を印加することにより行うことが好ましい。加熱電極に使用する材料は、耐熱性と溶融ガラスに対する耐食性を備えるものが好ましく、例えば、酸化錫、モリブデン、白金、ロジウム等が使用可能である。特に、モリブデンは、耐熱性が高く、溶融窯内への設置の自由度が高いため、好ましい。
【0074】
低アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物の含有量が少ないため、電気抵抗率が高い。このため、加熱電極による通電加熱を低アルカリガラスに適用する場合、溶融ガラスだけでなく、溶融窯を構成する耐火物にも電流が流れて、その耐火物が早期に損傷する虞がある。これを防ぐため、炉内耐火物として、電気抵抗率が高いジルコニア系耐火物、特にジルコニア電鋳レンガを使用することが好ましく、また上記の通り、溶融ガラス中に電気抵抗率を低下させる成分(Li2O、Na2O、K2O等)を少量導入することも好ましい。なお、ジルコニア系耐火物中のZrO2の含有量は、好ましくは85質量%以上、特に90質量%以上である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0076】
表1、2は、本発明の実施例(試料No.1~17)を示している。なお、表中で「N.A.」は、未測定であることを意味する。
【0077】
【0078】
【0079】
まず表中のガラス組成、β-OH値になるように、調合したガラスバッチをジルコニア電鋳レンガで構築された小型試験溶融炉に投入した後、バーナーの燃焼炎による加熱を行わず、モリブデン電極による通電加熱を行うことにより、1600~1650℃で溶融して、溶融ガラスを得た。続いて、溶融ガラスをPt-Rh製容器を用いて清澄、攪拌した後、ジルコン成形体に供給し、オーバーフローダウンドロー法により0.5mm厚の平板形状に成形した。得られたガラス板について、30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数α、β-OH値、熱収縮率(Compaction rate)、波長308nmにおける板厚方向の内部透過率(Transmittance at 308nm)、歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Ts、104.5ポアズの粘度における温度、104.0ポアズの粘度における温度、103.0ポアズの粘度における温度、102.5ポアズの粘度における温度、液相温度TL及び液相温度における粘度logηTLを評価した。なお、MgO導入原料とCaO導入原料由来の鉄含有量は、当該原料を適切な酸で溶解した後、ICP発光分光分析装置により当該原料中の鉄量を測定し、ガラス組成に応じて計算したものである。
【0080】
30~380℃の温度範囲における平均熱膨張係数αは、ディラトメーターで測定した値である。
【0081】
β-OH値は、上記の方法によって測定した値である。
【0082】
熱収縮率は、以下のように算出したものである。まず試料の所定箇所に直線状のマーキングを記入した後、この試料をマーキングに対して垂直に折り、2つのガラス片に分割する。次に、一方のガラス片のみに所定の熱処理(常温から5℃/分の速度で昇温し、保持時間500℃で1時間保持し、5℃/分の速度で降温)する。その後、熱処理を施したガラス片と、未熱処理のガラス片を並べて、接着テープTで両者を固定してから、マーキングのずれを測定する。マーキングのずれを△L、熱処理前の試料の長さをL0とした時に、△L/L0(単位:ppm)の式により熱収縮率を算出する。
【0083】
波長308nmにおける板厚方向の内部透過率は、島津製作所社製UV-3100PCにより測定した値である。
【0084】
歪点Ps、徐冷点Ta、軟化点Tsは、ASTM C336及びC338の方法に基づいて測定した値である。
【0085】
高温粘度104.5dPa・s、104.0dPa・s、103.0dPa・s及び102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0086】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶(初相)の析出する温度を測定した値である。
【0087】
液相粘度log10ηTLは、液相温度TLにおけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0088】
表1、2から明らかなように、試料No.1~17は、β-OH値が0.15/mm以下、ガラス中の鉄含有量がFe2O3換算で85~110質量ppmであり、且つ波長308nmにおける板厚方向の内部透過率が73~78%であった。よって、試料No.1~17は、有機樹脂基板を搬送するためのキャリアガラスとして好適であると考えられる。