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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】静電植毛用フロック
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
D06M11/83
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019038080
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139256
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501070850
【氏名又は名称】小川峰株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593160105
【氏名又は名称】泉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169926
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康文
(72)【発明者】
【氏名】小川 映圭
(72)【発明者】
【氏名】古賀 裕子
(72)【発明者】
【氏名】福永 均
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮太
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167568(JP,A)
【文献】特開平10-309760(JP,A)
【文献】特開2014-210994(JP,A)
【文献】特開平08-238703(JP,A)
【文献】特開2019-019432(JP,A)
【文献】特開平08-309267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D06M10/00-11/84
D06M16/00
D06M19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で形成された短繊維の表面に、複数の不連続な島状金属粒体が形成された不連続金属層が設けられ、
前記短繊維が弾性伸縮可能な伸縮繊維である静電植毛用フロック。
【請求項2】
前記短繊維が、薄膜状フィルムを細く裁断して作製されたスリット糸を切断して形成され、
前記短繊維の一方側表面に、前記不連続金属層が蒸着により形成されている請求項1に記載の静電植毛用フロック。
【請求項3】
前記不連続金属層が前記短繊維と接触する短繊維側表面と反対側の表面に、薄膜状の樹脂で形成された薄膜樹脂層が形成されている請求項2に記載の静電植毛用フロック。
【請求項4】
誘電体で形成された短繊維の表面に、複数の不連続な島状金属粒体が形成された不連続金属層が設けられ、
前記短繊維が、薄膜状フィルムを細く裁断して作製されたスリット糸を切断して形成され、
前記短繊維の一方側表面に、前記不連続金属層が蒸着により形成され、
前記不連続金属層が前記短繊維と接触する短繊維側表面と反対側の表面に、薄膜状の樹脂で形成された薄膜樹脂層が形成されている静電植毛用フロック。
【請求項5】
前記島状金属粒体を形成する金属がスズまたはインジウムである請求項1から4のいずれか1項に記載の静電植毛用フロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電植毛加工に使用される静電植毛用フロックに関する。
【背景技術】
【0002】
静電植毛加工とはフロッキー加工とも言われ、誘電体で形成された短繊維である静電植毛用フロックを、高電圧が印加された電界中に設置して分極させることにより飛翔させ、予め静電植毛用フロックが飛翔する先に設置した植毛用基材の表面に、その静電植毛用フロックを接着剤等により接着させて植え付ける技術である。静電植毛加工後の静電植毛品は、その表面に植え付けられた静電植毛用フロックによって優れた外観や風合いを得ることができる。
【0003】
近年、静電植毛品の外観をさらに優れたものにするため、美しい金属光沢を有する金属薄膜層を備えた金銀糸等を静電植毛用フロックとして使用して静電植毛加工することが望まれている。しかしながら、金銀糸等が有する薄膜金属層は導電性を有するため、金銀糸等の繊維は導電性繊維となる。このような導電性繊維を静電植毛用フロックとして使用すると、静電植毛加工の際、高電圧が印加された電極間を飛翔する静電植毛用フロックにより、その電極間において短絡現象が発生する虞がある。短絡現象が発生した場合、静電植毛用フロックが損傷する可能性があることに加え、静電植毛用フロックが電界中において均一に分散して飛翔しなくなるため、金銀糸のような導電性繊維を静電植毛用フロックとして使用することが困難であった。
【0004】
このような導電性繊維を静電植毛用フロックとして使用する技術の従来例として、導電性繊維の表面全体を静電植毛加工に適した低い導電性を有するポリマー層で被覆して、それを静電植毛用フロックとして使用することにより、静電植毛加工を可能にするものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-210994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の如く、静電植毛品の外観をさらに優れたものにするため、金属光沢を有する金属薄膜層を備えた金銀糸等の導電性繊維を静電植毛用フロックとして使用して静電植毛加工を行おうとすると、上記特許文献1のように、導電性繊維を切断した短繊維の表面全体を静電植毛加工に適した低い導電性を有するポリマー層で被覆する必要があるため、静電植毛加工の作業工程が煩雑となる。また、短繊維の表面全体をポリマー層で被覆するので、金属薄膜層を備えた金銀糸等が有する優れた外観や風合いを損ねる虞がある。
【0007】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、金属薄膜層を備えた金銀糸等が有する優れた外観や風合いを損ねることなく静電植毛加工を行うことができ、かつ、金属薄膜層を備えた金銀糸等の静電植毛加工の作業の簡易化を図ることができる静電植毛用フロックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る静電植毛用フロックの特徴構成は、
誘電体で形成された短繊維の表面に、複数の不連続な島状金属粒体が形成された不連続 金属層が設けられ、
前記短繊維が弾性伸縮可能な伸縮繊維である点にある。
【0009】
本特徴構成によれば、短繊維の表面に、複数の不連続な島状金属粒体が形成された不連続金属層が設けられている。この不連続金属層は金属光沢を有するため、金属の種類に応じた独特の美しい輝きを有する。また、この不連続金属層は、短繊維の表面に形成された複数の隣り合う島状の金属が、互いに非電導な状態となるように形成されているので、本発明に係る静電植毛用フロックを静電植毛加工に使用した場合には、高電圧が印加された電極間を静電植毛用フロックが飛翔する際、その電界内における短絡現象の発生を防止することができる。よって、美観に優れた金属光沢を有する静電植毛用フロックを良好に静電植毛用基材に静電植毛加工することができる。
【0010】
そして、本特徴構成によれば、静電植毛加工の際、従来の金銀糸等の導電性繊維を静電 植毛用フロックとして静電植毛加工を行う場合のように、静電植毛用フロックの表面全体 を静電植毛加工に適した低い導電性を有するポリマー層で被覆するなどの必要がない。こ のように、静電植毛用フロックがポリマー層により被覆されないため、静電植毛用フロッ クの外観や風合いがポリマー層の被覆により損なわれることがなく、金属光沢を有する不 連続金属層を備えた金銀糸等が有する優れた外観や風合いを損ねることなく静電植毛加工 を行うことができる。また、上述の如く、静電植毛用フロックをポリマー層に被覆する作 業が必要ないため、金属光沢を有する金銀糸等の静電植毛加工の作業の簡易化を図ること ができる。
さらに、上記特徴構成によれば、静電植毛加工された静電植毛用フロックが、静電植毛加工後の 静電植毛用基材の表面において伸縮、湾曲するので、静電植毛加工後の静電植毛品の表面 をより柔らかい風合いにすることができる。また、不連続金属層は、短繊維の表面に複数 の島状金属粒体が不連続に形成されているため、そのような静電植毛用フロックが伸縮、 湾曲することに伴い、不連続金属層が短繊維から剥離することが抑制される。よって、静 電植毛用フロックの耐久性を低下させることなく、風合いを向上させることができる。
【0011】
本発明に係る静電植毛用フロックの更なる特徴構成は、
前記短繊維が、薄膜状フィルムを細く裁断して作製されたスリット糸を切断して形成され、
前記短繊維の一方側表面に、前記不連続金属層が蒸着により形成されている点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、例えば、薄膜状フィルムの一方側表面に対して、又は、薄膜状フィルムが切断された短繊維の一方側表面に対して蒸着により不連続金属層を形成することができるが、いずれの場合も薄膜状フィルムの表面に対して蒸着により不連続金属層の形成を行うことができるので、均一な厚みの不連続金属層を形成することができる。よって、光沢にむらがなく均一な美しい金属光沢を有する金銀糸等の静電植毛用フロックを作成することができる。
【0013】
本発明に係る静電植毛用フロックの更なる特徴構成は、
前記不連続金属層が前記短繊維と接触する短繊維側表面と反対側の表面に、薄膜状の樹脂で形成された薄膜樹脂層が形成されている点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、不連続金属層が短繊維と薄膜樹脂層との間に挟まれているので、静電植毛用フロックの静電植毛加工時、及び、静電植毛加工される前後において、静電植毛用フロック同士の接触の他、外部からの静電植毛用フロックへの接触により不連続金属層が破損することを防止することができる。これにより、不連続金属層が有する金属光沢の低下を防止することができる。
【0015】
本発明に係る静電植毛用フロックの特徴構成は、
誘電体で形成された短繊維の表面に、複数の不連続な島状金属粒体が形成された不連続金属層が設けられ、
前記短繊維が、薄膜状フィルムを細く裁断して作製されたスリット糸を切断して形成され、
前記短繊維の一方側表面に、前記不連続金属層が蒸着により形成され、
前記不連続金属層が前記短繊維と接触する短繊維側表面と反対側の表面に、薄膜状の樹脂で形成された薄膜樹脂層が形成されている点にある。
【0017】
前記島状金属粒体を形成する金属がスズまたはインジウムである点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、スズ及びインジウムは金属粒子間に空間を形成しやすい性質を有するため不連続金属層を容易に形成することができる。よって、金属光沢を有しつつも、非導電性の不連続金属層を容易に短繊維の表面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る静電植毛用フロックの断面図である。
図2】第1実施形態に係る静電植毛用フロック用いた静電植毛加工の一例を示す図である。
図3】第2実施形態に係る静電植毛用フロックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
本発明に係る静電植毛用フロックの実施形態を図面に基づいて説明する。図1に本実施形態に係る静電植毛用フロックとしての静電植毛用金銀糸1の断面図を示す。図2に静電植毛用フロックとしての静電植毛用金銀糸1を用いた静電植毛加工の一例を示す。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る静電植毛用金銀糸1は、誘電体で形成された短繊維2の表面に、複数の不連続な島状金属粒体3が形成された不連続金属層4が設けられている。具体的には、短繊維2は、薄膜状フィルムを細く裁断して作製されたスリット糸をさらに切断して形成され、短繊維2の一方側表面2aに、不連続金属層4が真空蒸着法により形成されている。
【0022】
本実施形態では、静電植毛用金銀糸1を製作するにあたり、不連続金属層4を薄膜状フィルムの表面に真空蒸着により形成してから、その薄膜状フィルムを細く裁断して不連続金属層4が形成された金銀糸としてのスリット糸を作製し、その金銀糸としてのスリット糸をさらに切断することにより短繊維2の表面に不連続金属層4が形成された静電植毛用金銀糸1を製作する。
【0023】
静電植毛用金銀糸1の形状について説明する。短繊維2の厚さ、つまり、薄膜状フィルムの厚さは、5μm以上25μmとすることが好ましく、より好ましくは6μm以上13μm以下である。厚さが5μmよりも薄い場合は、薄膜状フィルムの機械的強度が不足して、不連続金属層4を薄膜状フィルムに積層して形成することが困難になる可能性がある。また、厚さを25μmよりも厚くすると、静電植毛用金銀糸1の柔軟性が損なわれる虞がある。
【0024】
短繊維2の幅、つまり、静電植毛用金銀糸1の幅は、0.05~1.5mmであることが好ましい。このような幅の短繊維2を使用することにより、優れた飛翔性を得ることができ、静電植毛加工された後の静電植毛品の風合い等の品質を高品質に維持することができる。また、幅が0.05mmよりも狭い場合は、静電植毛用金銀糸1の機械的強度が不足して切断しやすくなる虞がある。また1.5mmよりも広い場合には、静電植毛用金銀糸1の柔軟性が損なわれる虞がある。
【0025】
短繊維2の長さ、つまり、静電植毛用金銀糸1の長さは、0.05~5mmであることが好ましく、さらに好ましくは、0.1~3mmである。このような長さの短繊維2を使用することにより、優れた飛翔性を得ることができ、静電植毛加工された後の静電植毛品の風合い等の品質を高品質に維持することができる。
【0026】
短繊維2の材質は、透明なポリエチレンテレフタレート(PET)により形成されている。これにより、植毛用基材の静電植毛用金銀糸1が植毛された植毛面に昇華転写プリントを行うことができる。その他、短繊維2の材質は、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は、セルロース繊維を含む材質からなる透明な合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで構成してもよい。なお、透明な合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムとは、合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムの一方面側に積層された不連続金属層4の金属光沢が合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムの他方面側からも充分に視認可能な程度の透明性を意味する。
【0027】
次に、短繊維2の一方側表面2aに形成された不連続金属層4について説明する。図1に示すように、本実施形態では、上述の如く、スリット糸を切断した短繊維2の一方側表面2aに、不連続金属層4が真空蒸着により形成されている。
【0028】
不連続金属層4を形成する金属としては、アルミニウム、亜鉛、白金、パラジウム、金、銀、銅、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、スズ及びインジウムなどの金属を使用することができるが、スズ及びインジウムは、蒸着の際に金属粒子間に空間を形成しやすく、不連続金属層4を形成しやすい性質を有するため、不連続金属層4を形成する金属として、スズ、インジウム、または、スズもしくはインジウムを含有する合金を使用することが好ましい。
【0029】
不連続金属層4の厚さは10nm以上100nm以下とすることが好ましい。そのように形成された不連続金属層4は、金属光沢を有しつつ、非導電性を有するので、静電植毛加工の際に高電圧が印加された電極間を飛翔する際、その電界内における短絡現象の発生を防止することができる。よって、金属光沢を有する静電植毛用金銀糸1を良好に静電植毛加工に使用することができる。
【0030】
つまり、不連続金属層4の厚さが10nmよりも薄い場合には、不連続金属層4から十分に金属光沢が発生せず、静電植毛用金銀糸1に金属の光輝性を付与することができない虞がある。また、不連続金属層4の厚さが100nmよりも厚い場合には、後述する不連続金属層4の表面の抵抗値が低下し、静電植毛加工の際に電極間において短絡現象が発生して、静電植毛用金銀糸1の静電植毛が困難になる虞がある。加えて、静電植毛用金銀糸1の柔軟性が損なわれる虞がある。
【0031】
不連続金属層4において形成されている複数の不連続な島状金属粒体3は、短繊維2の一方側表面2aに、10μm以下の粒子径で形成されている。具体的には、短繊維2の一方側表面2aに沿って広がる平面方向の長さが10μm以下の粒子径となっている。島状金属粒体3は互いに離間していてもよいし、一部が接触していてもよいが、不連続金属層4の表面の抵抗値は10~1013Ω・mであることが好ましい。この抵抗値の範囲よりも抵抗値が上がると、静電植毛用金銀糸1の飛翔性が低下する虞があり、抵抗値が下がると静電植毛の際に電極間において短絡現象が発生する虞がある。さらに好ましい不連続金属層4の表面の抵抗値は、10~10Ω・cmである。この抵抗値の範囲において、より良好な静電植毛用金銀糸1の飛翔性を得ることができ、かつ、より確実に短絡現象が発生することを防止することができる。
【0032】
また、不連続金属層4と短繊維2との間に、不連続金属層4の耐腐食性及び短繊維2との密着性等を向上させるためにアンカー層(図示せず)を形成してもよい。アンカー層は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂等の合成樹脂を、公知のコーティング方法で形成することができる。なお、アンカー層は、短繊維2を形成するために切断する前の薄膜状フィルムに対して、薄膜状フィルムにおいて不連続金属層4を積層する側の表面に、不連続金属層4の積層前に形成することができる。
【0033】
アンカー層の厚さは0.1μm以上3μm以下であるのが好ましい。この厚さが0.1μmよりも薄い場合には、不連続金属層4との剥離が発生し、剥離した箇所において不連続金属層4が腐食する虞がある。また、3μmよりも厚い場合には、静電植毛用金銀糸1の柔軟性が損なわれる虞がある。
【0034】
次に、本実施形態に係る静電植毛用金銀糸1を用いた静電植毛加工の一例を示す。上述の如く、静電植毛加工とは、静電植毛用金銀糸1を、高電圧が印加された電界中に設置し、静電植毛用金銀糸1を分極させることにより飛翔させ、静電植毛用金銀糸1が飛翔する先に設置した植毛用基材の表面に、静電植毛用金銀糸1を接着剤等により接着させて植え付ける技術である。
【0035】
本実施形態では、図2に示すように、高電圧が印加された電界中に設置した静電植毛用金銀糸1を、下方から上方へ飛翔させて上方に設けた植毛用基材6に植毛するアップ式静電植毛加工方法にて、静電植毛加工を行う例を示す。なお、静電植毛加工の方法としては、静電植毛用金銀糸1をどのように飛翔させるかによって、様々な公知の方法がある。例えば、高電圧が印加された電界中に設置した静電植毛用フロックを、上方から下方へ飛翔させて下方に設けた植毛用基材に植毛するダウン式静電植毛加工方法や、高電圧の印加により帯電した静電植毛用金銀糸1を送風機により植毛用基材に向けて飛翔させて植毛する送付式静電植毛加工方法等がある。
【0036】
図2に示すように、アップ式静電植毛加工方法では、上部には植毛用基材6と接続され、かつ、接地された上部電極5が配置されている。また、下部には高電圧発生装置8が接続された下部電極7が配置されている。静電植毛用金銀糸1は、下部電極7の電極上に置かれている。この状態で電極間に高電圧発生装置8により直流電圧を印加すると電極間に電界が形成され、下部電極7の電極上に置かれた静電植毛用金銀糸1は分極し、その両端に分極電荷が発生する。
【0037】
そうすると、静電植毛用金銀糸1は、電界方向へ配向しつつ、さらに誘導帯電されて、上部電極5の方向へのクーロン力が作用することになり、静電植毛用金銀糸1は上部電極5の方向に設置された植毛用基材6に向かって飛翔する。植毛用基材6の表面には予め接着剤(図示せず)が塗布されているので、植毛用基材6に向かって飛翔してくる静電植毛用金銀糸1が、植毛用基材6に植毛される。
【0038】
このような静電植毛加工において、本発明に係る静電植毛用フロックとしての静電植毛用金銀糸1は、不連続金属層4が形成されているので、高電圧が印加された電極間を静電植毛用金銀糸1が飛翔する際に、その電界内において短絡現象を発生させることなく、金属光沢を有する美観に優れた静電植毛用金銀糸1を良好に植毛用基材6に静電植毛加工することができる。
【0039】
また、本発明に係る静電植毛用金銀糸1は、不連続金属層4が形成されているので、従来の金銀糸等の導電性繊維を静電植毛用フロックとして静電植毛加工するときのように、静電植毛用フロックを、低導電性又は非導電性を有するポリマー層で被覆する等の作業が必要ないため、本発明に係る静電植毛用金銀糸1を使用することにより、静電植毛加工の作業の簡易化を図ることができる。
【0040】
〔第2実施形態〕
以下、本発明に係る静電植毛用フロックの第2実施形態を、図3に基づいて説明する。図3は、本実施形態に係る静電植毛用フロックとしての静電植毛用金銀糸10の断面図である。この第2実施形態に係る静電植毛用金銀糸10は、不連続金属層4が短繊維2と接触する短繊維側表面4aと反対側の表面である薄膜樹脂層側表面4bに、薄膜状の樹脂で形成された薄膜樹脂層9が形成されている点で上述の第1実施形態と異なるものである。
【0041】
薄膜樹脂層9の材質は、短繊維2と同様に、透明なポリエチレンテレフタレート(PET)により形成されている。これにより、植毛用基材6の静電植毛用金銀糸1が植毛された植毛面に昇華転写プリントを行うことができる。その他、薄膜樹脂層9の材質は、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は、セルロース繊維を含む材質からなる透明な合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで構成してもよい。なお、透明な合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムとは、合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムの一方面側に積層された不連続金属層4の金属光沢が合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムの他方面側からも充分に視認可能な程度の透明性を意味する。
【0042】
薄膜樹脂層9の厚さは、短繊維2と同様の理由により、短繊維2と同様に、5μm以上25μmとすることが好ましく、より好ましくは6μm以上13μm以下である。
【0043】
薄膜樹脂層9は、切断することにより短繊維2を形成する前の薄膜状フィルムに対して薄膜状フィルムの表面に不連続金属層4を形成した後に、不連続金属層4に対して、例えば、薄膜樹脂層9を形成する薄膜樹脂層用フィルムを接着剤等により接着することにより形成することができる。なお、薄膜樹脂層9を不連続金属層4に接着するために使用される接着剤は、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等、従来公知の接着剤が使用できる。
【0044】
また、薄膜樹脂層9と不連続金属層4との間に、不連続金属層4の耐腐食性及び短繊維2との密着性等を向上させるために保護樹脂層(図示せず)を形成してもよい。保護樹脂層は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂等の合成樹脂を、公知のコーティング方法で形成することができる。なお、保護樹脂層は、切断することにより短繊維2を形成する薄膜状フィルムに形成した不連続金属層4に薄膜樹脂層9を積層する前に、不連続金属層4の表面に形成することができる。
【0045】
保護樹脂層の厚さは0.1μm以上3μm以下であるのが好ましい。この厚さが0.1μmよりも薄い場合には、不連続金属層4との剥離が発生し、剥離した箇所において不連続金属層4が腐食する虞がある。また、3μmよりも厚い場合には、静電植毛用金銀糸10の柔軟性が損なわれる虞がある。
【0046】
なお、本実施形態においても上記第1実施形態と同様に、静電植毛用金銀糸10を製作するにあたり、不連続金属層4を薄膜状フィルムに真空蒸着により形成し、その不連続金属層4が短繊維2と接触する短繊維側表面4aと反対側の表面である薄膜樹脂層側表面4bに、薄膜状の樹脂で形成された薄膜樹脂層9を形成した後に、不連続金属層4と薄膜樹脂層9が形成された薄膜状フィルムを細く裁断して金銀糸であるスリット糸を作製し、そのスリット糸を切断することにより短繊維2に不連続金属層4と薄膜樹脂層9とが形成された静電植毛用金銀糸10が製作される。
【0047】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、短繊維2を非伸縮性の合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで形成したが、これに限らず、短繊維2を弾性伸縮可能な伸縮繊維で形成してもよい。例えば、短繊維2をポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム、合成ゴム等の弾性伸縮可能な伸縮繊維で形成してもよい。
【0048】
(2)上記実施形態では、不連続金属層4が短繊維2の一方側表面2aに形成されたが、これに限らず、不連続金属層4が、短繊維2の一方側表面2aに加えて、短繊維2の一方側表面2aに対向する他方側表面にも形成されていてもよい。また、不連続金属層4が一方側表面2a及び他方側表面以外の表面に形成されていてもよい。
【0049】
(3)上記実施形態では、真空蒸着法により不連続金属層4を形成したが、これに限らず、不連続金属層4をスパッタリング法により形成してもよい。
【0050】
(4)上記実施形態では、不連続金属層4を薄膜状フィルムに真空蒸着により形成してから、その不連続金属層4が形成された薄膜状フィルムを細く裁断してスリット糸を作製し、そのスリット糸を切断することにより静電植毛用金銀糸1を形成したが、これに限らず、薄膜状フィルムを細く裁断してスリット糸を作製し、そのスリット糸を切断して短繊維2を形成した後に、短繊維2の表面に不連続金属層4を形成することにより静電植毛用金銀糸1を形成してもよい。この場合、上記実施形態のようにスリット糸を切断して短繊維2を形成することに限らず、その他の単糸又は撚糸の繊維を切断して短繊維2を形成してもよい。単糸又は撚糸の繊維の繊度は、10dtex~3000dtexの繊維とすることができる。
【0051】
(5)上記実施形態では、短繊維2を、透明なポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルにより形成したが、これに限らず、短繊維2を、透明なナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は、セルロース繊維を含む材質からなる薄膜状の合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで構成してもよく、短繊維2を、不透明な、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は、セルロース繊維を含む材質からなる薄膜状の合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで構成してもよい。
【0052】
(6)上記実施形態では、薄膜樹脂層9を、透明なポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルにより形成したが、これに限らず、薄膜樹脂層9を、透明なナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は、セルロース繊維を含む材質からなる薄膜状の合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで構成してもよく、薄膜樹脂層9を、不透明な、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は、セルロース繊維を含む材質からなる薄膜状の合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムで構成してもよい。
【0053】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、金属薄膜層を備えた金銀糸等が有する優れた外観や風合いを損ねることなく静電植毛加工を行うことができ、かつ、金属薄膜層を備えた金銀糸等の静電植毛加工の作業の簡易化を図ることができる静電植毛用フロックを提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1、10 静電植毛用フロック(静電植毛用金銀糸)
2 短繊維
2a 一方側表面
3 島状金属粒体
4 不連続金属層
4a 短繊維側表面
4b 表面(薄膜樹脂層側表面)
9 薄膜樹脂層

図1
図2
図3