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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】長距離夜行バスのシート構造
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/34 20060101AFI20231129BHJP
   B60N 2/16 20060101ALI20231129BHJP
   B60N 2/22 20060101ALI20231129BHJP
   B60N 3/06 20060101ALI20231129BHJP
   A47C 17/80 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60N2/34
B60N2/16
B60N2/22
B60N3/06
A47C17/80
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022097933
(22)【出願日】2022-06-17
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508069187
【氏名又は名称】有限会社タカギ
(73)【特許権者】
【識別番号】506199776
【氏名又は名称】株式会社高知駅前観光
(73)【特許権者】
【識別番号】518096700
【氏名又は名称】高知駅前トラベル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518096711
【氏名又は名称】高知駅前ハイヤー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幹人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 國利
(72)【発明者】
【氏名】梅原 章利
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6884120(JP,B2)
【文献】特開平07-067739(JP,A)
【文献】米国特許第4440439(US,A)
【文献】米国特許第2775996(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
B60N 3/06
A47C 7/00-74
A47C 17/80
B61D 33/00
B64D 11/00-06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の前支柱及び後支柱を有するフレーム内に、
それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを組付けてユニット化し、
一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置可能とするとともに、
前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とした長距離夜行バスのシート構造において、
前シートの座面を、座面クッションを載置する座面枠と、座面枠の下面に固定したスライドレールと、スライドレールを摺動可能に嵌合するレールガイドを上面に固定し、前支柱内に昇降可能に収納する一対の昇降部を左右両端に装着した支持体とから構成し、
昇降部を前支柱に沿って上昇させた上昇位置において、スライドレールをレールガイド内で摺動させて、前シートの座面を後シート方向に摺動させることにより、
前シートを後シートの上部空間に鉛直設置することを特徴とする長距離夜行バスのシート構造。
【請求項2】
座面枠の左右両端の下面に一対のスライドガイドを固定し、座面枠の下面のスライドガイドの内側の領域にスライドレールを固定した請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項3】
昇降部は、上下両端に車輪を装着し、前支柱内の中空凹部を走行可能とした請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項4】
前支柱内に昇降部の上昇位置を規制するストッパを設置した請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項5】
昇降部の上昇位置において、スライドガイドを摺動可能な一対のガイド台を前支柱の内側に向けて突設した請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項6】
昇降部の上昇位置において、スライドレールをレールガイド内で後シート方向に摺動させることにより、スライドガイドをガイド台上で摺動させて載置することにより、前シートの座面をガイド台で支持する請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項7】
前シートの座面をガイド台で支持することにより、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とした請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項8】
レールガイドの側壁内面に、スライドレールの抜け止め用突部を突設した請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項9】
鉛直設置時に、一対のシートの設置エリアを前シート及び後シート双方の専用エリアとして、それぞれ単独で利用可能とした請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項10】
鉛直設置時に、一対のシートの水平方向のスペースを開放し、該開放したスペースを利用して、一対のシートの背もたれをリクライニング可能とした請求項記載の長距離夜行バスのシート構造。
【請求項11】
フレームとして、左右一対の基材と、左右一対の桁材と、基材と桁材を所定高さを保持して連結する左右一対の前支柱及び後支柱を有するフレームを使用する請求項1,2,3,4,5,6,7,8,又は10記載の長距離夜行バスのシート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間に就寝を伴って長時間乗車をする長距離夜行路線バスや長距離夜行貸切バス等の長距離夜行バスにおいて、シート数を減らすことなく、かつ、周辺乗客、特には後席の乗客に気兼ねをすることなく、より快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を安定、かつ、安全に実現するシート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
バスは公共交通の一翼を担う重要な交通機関であり、日常生活の足として広く利用されている。従前は通勤・通学・買い物その他の日常生活を営むための短時間の乗車が殆どであり、同一の市町村内における頻繁な乗降や隣接市町村への乗車に留まっていた。これらの利用形態に加えて、近時は高速道路の全国的な整備拡充と相俟って、都市間交通の旗頭として長距離・長時間の乗車が飛躍的に増加してきている。そのため、昼間のみならず、時間の有効活用が可能な夜間を利用した長距離夜行路線バスが急速に普及し、移動手段として広く定着している。また、長距離夜行運行を伴う貸切バスもその利便性が評価されて広く普及している。
【0003】
図34に示すように、都市間交通としての長距離夜行路線バスや長距離夜行貸切バス等の長距離夜行バスBは、就寝を伴う夜間の長時間乗車に備えて、同乗者への気兼ねを軽減するため、一人掛け用シートSを相互に長手方向の通路7を介在させて幅方向に3列並列させた配置構造を採用した全長9m以上12m未満、幅2.5m未満の大型バス、中でも全長11mを超える大型バスが使用されることが多い。
【0004】
従前のような短時間の乗車や頻繁な乗降を繰り返す乗車形態では、乗車姿勢等が問題となることや周辺乗客に気遣いすることは比較的少ない。しかしながら、長時間の乗車、とりわけ夜間の就寝を伴う長距離夜行バスにおいては、就寝状態でリラックスした姿勢を取ることができるか、周辺乗客との関係等は快適性を左右し、疲労度や到着地での活動に影響する重要な要素であり、バスの利用度に直接的に影響する。
【0005】
移動手段としての長距離夜行バスBの不満点・改善点として、次のような事項が乗客から具体的に指摘されている。
・足を十分に伸ばすことができないこと。
・シートのリクライニングの角度が浅く、寝づらいこと。
・後席の乗客に迷惑となるため、限界までシートをリクライニングさせられないこと。
・限界までリクライニングさせたとしてもフラットな状態にはほど遠いこと。
・夜間就寝時において不自然な姿勢が長時間続くため、熟睡できず、足がむくんだり、血流障害を引き起こしてしまうおそれがあること。
・時間の有効活用が可能で、リーズナブルな価格ではあるが、肉体的負担が大きいこと。
・楽な姿勢で眠れないこと。
【0006】
就寝を前提として夜間に長時間乗車をする長距離夜行バスBを利用する乗客の主たる選択基準は、「運賃」,「快適性」(長時間乗車しても疲れが少ないこと),「運行スケジュール」である。中でも「快適性」については、夜間就寝を可能とするための負担の少ない姿勢を実現することが何より求められている。そのため、乗客からの要望は、夜間の就寝状態で後席の乗客に負担や我慢を強いたり気兼ねをすることなく、又自らも我慢を強いられることなくリラックスするため、よりフラットに近い状態までリクライニング可能なシートへの要望が最も多い。
【0007】
長距離夜行バスBは、高速道路の普及による走行可能距離の長距離化に起因して、他の交通機関に比べて割安な運賃,夜間に就寝して移動することによる時間の有効活用等が魅力となって急速な普及を続けている移動手段であり、現在では多数のバス会社が種々の路線を提供し、又同一路線における競合も激しくなっている。
【0008】
図32の長距離夜行バスBにおける乗客の選択基準の説明図に示すように、乗客Pが長距離夜行バスBを選択する際の基準は、運行スケジュールを別とすれば、大別して、運賃Fと快適性Cであり、快適性Cは専ら夜間就寝時の快適な睡眠C1の実現可否によって判断されている。この夜間就寝時の快適な睡眠C1は夜間の就寝状態で、足を伸ばせられるか,足を頭の高さと近い高さ位置に保持できるか,シートがフラットに近い状態となるか等々専らシート構造SCに起因している。また、運賃Fはバス会社の収益性E(図33参照)に影響を与える重要な要素であるが、長距離夜行バスBは既存の交通手段に比較して低価格であることが他の交通手段と差別化するための大きなセールスポイントのひとつであり、市場経済の下にバス会社間の熾烈な価格競争に曝されているのが現状である。
【0009】
そこで、長距離夜行バスBとして一般的に使用されている下記のバスを例として、快適性Cと収益性Eとの関係について図33に基づいて検証する。
バス全長 :11990mm
運転席後方仕切板~非常口ドア開放部までの長さ : 8530mm
運転席後方仕切板~後部隔壁までの長さ :10310mm
後方トイレ部分の寸法(横幅×長さ) : 1150mm×1700mm
室内幅寸法 : 2310mm
中央部分の室内高さ寸法(床面から天井) : 1800mm
両窓側部分の室内高さ寸法(床面から荷物棚) : 1550mm~1570mm
(1450mm)
シート数(幅方向×長さ方向) :3列×8~10列
=26席~28席
縦方向のシート間隔 :900mm~970mm
【0010】
収益性Eは、シート数N×乗車率Rによって決定されるため、収益性Eを向上させるには、シート数N,乗車率Rの一方又は双方を確保する必要がある。また、快適性Cを向上させるには、シートの快適性300を向上させて夜間就寝時の快適な睡眠310を実現する必要がある。
【0011】
シートのサイズや間隔に余裕を持たせ、特にはフラットに近い状態のシートを実現可能なリクライニング機構を装備することによってシートの快適性300を向上させることができれば、他社との差別化成功320となり、収益性Eを向上させる一方の要素である乗車率向上210を実現できる。しかしながら、シートの快適性300の向上は、リクライニング時の1シート当たり設置面積の拡大を必要とするため、シート数減330に繋がるため、収益性Eの悪化200を招くことともなる。
【0012】
一方、収益性Eを確保するために、シート数確保220を果たすと、1シート当たり設置面積が減少するため、シートの快適性実現困難230を来たし、快適性Cにおいて他社との差別化困難240となり、更に他社に劣ることともなる。その結果、客離れ250を招いて乗車率Rを確保することが困難となり、或いは運賃競争260を招いてしまう。その結果、収益性Eが悪化200してしまう。このように、収益性Eの追求と快適性Cの改善は相反する方向の課題であり、双方を同時に実現することは従来困難であった。
【0013】
現状の前後のシートSの間隔Dは図35(a)に示すように、900mm~970mm程度に留まるため、前席のシートSのリクライニング角度αは図35(b)に示すように120度程度が殆どであり、フラット(180度)になるものは存在せず、如何に足置き台や背もたれの構造を工夫したとしても快適な夜間就寝を可能とするシート構造SCを実現することができなかった。そのため、長時間乗車となる長距離夜行バスBでは、シートSをリクライニングさせて足を伸ばしたとしても、根本的なシート構造SCに起因して足先位置と頭部位置が水平とならず、足先を下方として斜めに着座することとなり、身体が下方向にずり落ちようとするため、睡眠が取りにくかったり、足がむくんでしまう。また、場合によってはエコノミークラス症候群を発症するのではないかとの不安を生じてしまう。
【0014】
加えて、後席の乗客BPは、前席の乗客FPがシートSをリクライニングさせることによって、活動が制約されることとなり、不快な思いをすることもあって、快適性Cが損なわれることとなる。近時はこのリクライニングが原因となって、乗客間の争いに発展することも複数件報告されている。
【0015】
仮に図35(a)に示す現状の900mm~970mm程度の前後のシートSの間隔Dを、図36(b)に示すように、1900mm~2000mm程度の前後のシートSの間隔D1に広げれば、図36(c)に示すように、後席の乗客に気兼ねすることなく、足を伸ばし、シートSをフラットに近い状態までリクライニングさせることも可能となり、シートSの快適性300を実現して他社との差別化成功320を実現して、収益性Eの一方の要因である乗車率Rを向上210させることができる。
【0016】
しかしながら、その場合は1シート当たり設置面積の拡大を招くこととなり、図36(a)に示す現状のシートSが長距離夜行バスBの長さ方向に6席設置可能なスペースに、図36(b)に示すように半数の3席しか設置することができない。そのため、長距離夜行バスBに設置可能なシート数は現状の27席から、図37の仮想配置図に示すように12席程度(3列×4列)にまで減少する。また、図38の仮想配置図に示すようにシートSの設置方向を長距離夜行バスBの長手方向に直交する方向に配置したとしても、設置可能なシート数は12席程度に留まる。そのため、シート数減330となってしまい、収益性Eの一方の要因であるシート数Nを確保できなくなり、結果として収益性Eが悪化200する。なお、図34図37図38において、Tはトイレ、EXは非常口である。
【0017】
前記したように現状27席程度の長距離夜行バスBを12座席で運行するとした場合、平均乗車率が80%としても、1便当たりの平均乗車人数は10人程度となり、利益を確保するためには運賃を大幅に引き上げる必要がある。しかしながら、所要時間等において有利な既存の交通手段や格安運賃航空機(LCC)に対抗するためには大幅な運賃値上げは競争力を失うため困難である。現在の運賃で、利益を獲得するためには、シート数は少なくとも27席程度は必要である。
【0018】
そこで、出願人の所在する高知市と東京間の長距離夜行バスBを例として売上額を検証した。シート数N:27席,乗車率R:80%,運賃F:12,000円とすると、売上想定額は[27席×12,000円×0.8=259,200円]である。ちなみに、燃料代,高速代,人件費,チケット販売手数料,車両の減価償却費等を含む製品製造原価による片道1便あたりの平均経費は187,000円程度必要であり、この経費を賄うためには[187,000円÷12,000円=15.6人]の乗車人数が必要となる。乗車率R:80%とするならば、[15.6人÷0.8=19.5人]、即ち、シート数Nとして最低20席のシート数が必要となる。
【0019】
仮に、快適性Cを実現するために前記したシート数12席で試算すると乗車人数は、[12席×0.8=9.6人]となる。前記した平均経費187,000円を9.6人で割ると[187,000円÷9.6人=19,480円]となり、製品製造原価による片道1便あたりの平均経費である187,000円を賄うためには運賃を約62.4%(7,480円)値上げする必要がある。そのため、快適性Cは向上するものの、運賃Fを大幅に値上げせざるを得ないため、長距離夜行バスBとして乗客から選択されることは困難である。
【0020】
なお、近時、一部のバス事業者が、夜間走行時の快適な睡眠を可能とするシート構造を採用したことを大きく謳って、シート数が極めて少ない長距離夜行バスを運行する例が見られるが、その実情は収益性Eを度外視した専ら宣伝的な運行に過ぎない。
【0021】
収益性Eのためにシート数Nの確保を優先すれば、快適性Cを確保することができず、乗車率Rの減少によって収益性Eが悪化することとなり、一方、快適性Cを重視すれば、シート数Nを確保することが困難となり、結果として収益性Eが悪化してしまう。よって、従来は収益性Eを維持できるだけのシート数Nを確保することによって収益性Eを犠牲とすることなく、快適性Cを向上させたシート構造、即ち、収益性Eと快適性Cの双方を満足させることのできるシート構造は提供されていなかった。
【0022】
上記した長距離夜行バスB事情に鑑み、本発明者らは十分なリクライニングを可能とするために必要なシートの設置スペース(バスの床面積)に着目し、同一の設置スペースを複数のシートで共用して利用することについての着想を得た。この着想に基づき鋭意研究の結果、特許文献1に示す、それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを所定のフレーム内に組付けてユニット化し、一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置可能とするとともに、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とした長距離夜行バスのシート構造の発明(以下、「文献1発明」という)を提供している。
【0023】
文献1発明によれば、一対のシートを鉛直方向に設置することによって、一対のシートの設置エリアを前シート及び後シート双方の専用エリアとして共用することが可能となり、シート数を犠牲とすることなく、夜間の就寝状態において一対のシートの背もたれをそれぞれ十分にリクライニングすることが可能となり、従来困難視されていた収益性Eと快適性Cを同時に達成することができる。即ち、シート数確保220をすることによって収益性Eを犠牲とすることなく、かつ、シートの快適性300を向上させることによって快適性Cを実現することが可能となる。これにより、他社との差別化を図って、乗車率向上210を実現させて乗客の増加を達成することができ、バス会社として収益性Eを向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特許第6884120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明者らは、文献1発明を夜間の就寝を伴って長時間乗車することを前提とする長距離夜行バスの実車に適用するために、文献1発明における一対のシートの水平設置時と鉛直設置時の相互の変位操作,水平設置時及び鉛直設置時の双方における一対のシートそれぞれへの進入及び離脱動作,シート周りの環境,身体の動作、特には就寝時の身体の動作の容易さ,頭上方向の上部空間の余裕等々について実車に基づいて多面的に検証し、試行錯誤を積み重ねた。その結果、営業車両として実際に運行するためには、実用性,快適性,安全性等の観点から一対のシートの構造に関し、新たに解決すべき3つの課題についての知見を得た。
【0026】
[第1の課題]
第1の課題は、実用性,快適性の観点からの鉛直設置時における一対のシートの上部空間の高さ寸法に関する知見に基づく。一対のシートを幅方向に3列並列させた長距離夜行バスの窓際の両側のシートの天井部にはエアコンのダクトや荷物棚が存在し、かつ、これらを撤去することができない。そのため、文献1発明の一対のシートは、床面と荷物棚間の室内高さ寸法を前提として鉛直設置を行う必要がある。
【0027】
就寝状態で乗客が寝返り等の身体の動静を行うためには、経験則に照らして580mm程度の高さ寸法の上部空間が存在することが望ましく、少なくとも一対のシートの幅寸法を超える高さ寸法の上部空間が存在しなければ窮屈この上なく、又身体を横たえたとしても寝返りすることも困難となる。ちなみに、前記した室内幅寸法2310mmの長距離夜行バスに一対のシートを幅方向に3列配置すると、その幅寸法は480mm程度となる。文献1発明によって前シートと後シートが就寝のためにフラットに近い状態となったとしても、そのままでは荷物棚等が存在する長距離夜行バスの構造上の制約によって上部空間の高さ寸法が不足し、快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を保持することが困難である。なお、幅方向に3列並列させた中央のシートは上部にエアコンのダクトや荷物棚が存在しないため、鉛直設置時における前シート及び後シートの上部空間の高さ寸法を十分に確保することが可能であるが、一対のシートとしては中央のシートと窓際の両側のシートと同一構成,同一サイズのシートを共通して用いることが汎用性に優れている。
【0028】
そのため、新たに文献1発明の第1の課題として、鉛直設置時において上部空間の高さ寸法に余裕がなく窮屈であるとの問題点を解消して、実用性,快適性を向上させるために、鉛直設置時における後シートの上部空間の高さ寸法(後シートの座面と前シートの裏面間の寸法)及び前シートの上部空間の高さ寸法(前シートの座面と荷物棚や天井間の寸法)の拡大を少しでも図ることが文献1発明を営業車両に適用する上で必要となる。
【0029】
[第2の課題]
文献1発明では、前シートの後脚と左右一対の基材とを起伏自在な左右一対の支持杆で連結し、後シートの両側に設置したガスシリンダ機構で支持杆を起立させることによって、前シートを前支柱に沿って上方に移動させた後、所定の位置で前支柱に装備した左右一対の固定杆を前シートの側面に連結して固定している(文献1の図19図22参照)。
【0030】
これらの支持杆やガスシリンダ機構等の前シートを上方に移動させる手段は、鉛直設置時において、後シートの両側の開口領域を閉塞する状態で存在することとなり、主として鉛直設置時の後シートへの乗客の進入及び離脱動作の障害となってしまう。更に、固定杆の存在は鉛直設置時における前シートへの進入及び離脱動作の障害ともなる。そのため、新たに文献1発明の第2の課題として、実用性,快適性を向上させるために、水平設置時や鉛直設置時において、後シートや前シートへの出入りの障害とならず、スムーズな出入りを実現するために、後シートや前シートの両側におけるフレームに後シートや前シートへ出入りするための開口領域を確保すること、換言すれば前記した開口領域を閉塞することなく前シートを上方に移動させる手段の開発が、文献1発明を営業車両に適用する上で必要となる。
【0031】
[第3の課題]
文献1発明では、鉛直設置時において、前シートの座面を前記した固定杆で前支柱に固定するとともに、リクライニングさせた背もたれを一対の後支柱間に架設した嵌合杆に載置して支持している(文献1の図10図18参照)。また、座面と背もたれを略フラット状とするためのカム機構を装備している(文献1の図24図25参照)。
【0032】
文献1発明において、固定杆の存在は鉛直設置時における前シートへの進入及び離脱動作の障害となり、嵌合杆の存在は水平設置時において後シートを所定角度リクライニングした際に頭上の視線に入り、閉塞感を与えてしまう。また、座面と背もたれを略フラット状とするためのカム機構は、その操作や姿勢保持の点において安定性に欠けている。そのため、新たに文献1発明の第3の課題として実用性,快適性,安全性等を向上させるために、鉛直設置時において、より簡単な操作で前シートや後シートの座面や、フラットにリクライニングさせた背もたれを安定、かつ、安全に固定する新たな手段の開発が、文献1発明を営業車両に適用する上で必要となる。
【0033】
そこで本発明は、文献1発明を実車に適用するに際して新たに知見を得た第1~第3の課題、特には第2の課題を解決することによって、より快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を安定、かつ、安全に実現するための長距離夜行バスのシート構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明者らは、第2の課題を解決するためには、支持杆やガスシリンダ機構等の文献1発明における前シートを上方に移動させる手段に代えて、水平設置時や鉛直設置時において、後シートや前シートへの出入りの障害とならず、スムーズな出入りを実現するために、後シートや前シートの両側におけるフレームに後シートや前シートへ出入りするための開口領域を確保すること、換言すれば前記した開口領域を閉塞することなく前シートを上方に移動させる手段の開発が必要であるとの知見を得た。この知見に立って、前シートの上昇や鉛直設置時における前シートや後シートへの乗客の進入及び離脱動作について研究を進める中で、前シートと後シートをユニット化するためのフレーム、なかでも前シートと関連の深い前支柱を利用することについての着想を得て本発明に想到した。
【0035】
本発明は、請求項1により、左右一対の前支柱及び後支柱を有するフレーム内に、それぞれ座面と背もたれを有する前シートと後シートからなる一対のシートを組付けてユニット化し、一対のシートを水平方向の略同列上に水平設置可能とするとともに、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とした長距離夜行バスのシート構造において、前シートの座面を、座面クッションを載置する座面枠と、座面枠の下面に固定したスライドレールと、スライドレールを摺動可能に嵌合するレールガイドを上面に固定し、前支柱内に昇降可能に収納する一対の昇降部を左右両端に装着した支持体とから構成し、昇降部を前支柱に沿って上昇させた上昇位置において、スライドレールをレールガイド内で摺動させて、前シートの座面を後シート方向に摺動させることにより、前シートを後シートの上部空間に鉛直設置する長距離夜行バスのシート構造を基本として提供する。
【0036】
請求項2により、座面枠の左右両端の下面に一対のスライドガイドを固定し、座面枠の下面のスライドガイドの内側の領域にスライドレールを固定した構成を提供する。
【0037】
請求項により、昇降部は、上下両端に車輪を装着し、前支柱内の中空凹部を走行可能とした構成を、請求項により、前支柱内に昇降部の上昇位置を規制するストッパを設置した構成を提供する。
【0038】
請求項により、昇降部の上昇位置において、スライドガイドを摺動可能な一対のガイド台を前支柱の内側に向けて突設した構成を、請求項により、昇降部の上昇位置において、スライドレールをレールガイド内で後シート方向に摺動させることにより、スライドガイドをガイド台上で摺動させて載置することにより、前シートの座面をガイド台で支持する構成を、請求項により、前シートの座面をガイド台で支持することにより、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とした構成を、請求項により、レールガイドの側壁内面に、スライドレールの抜け止め用突部を突設した構成を提供する。
【0039】
請求項により、鉛直設置時に、一対のシートの設置エリアを前シート及び後シート双方の専用エリアとして、それぞれ単独で利用可能とした構成を、請求項10により、鉛直設置時に、一対のシートの水平方向のスペースを開放し、該開放したスペースを利用して、一対のシートの背もたれをリクライニング可能とした構成を、請求項11により、フレームとして、左右一対の基材と、左右一対の桁材と、基材と桁材を所定高さを保持して連結する左右一対の前支柱及び後支柱を有するフレームを使用する構成を提供する。
【発明の効果】
【0040】
以上記載した本発明によれば、水平設置時における着座状態では、前シート及び後シートを組み付けたフレームに開口領域が形成されるとともに、開口領域を閉塞する障害物は存在しない。よって、乗客は前シート及び後シートにスムーズに進入し、離脱することができる。即ち、水平設置時において、乗客は自然な動作で楽に前シート及び後シートの座面に着座して乗車することができる。
【0041】
そして、前シートを後シートの上部空間に移動させる手段として、フレームを構成する前支柱を利用することとし、前シートの座面を構成する支持体の両端部に装着した昇降部を、前支柱の中空凹部内に昇降可能に収納することによって、前シートの座面を前支柱に沿って昇降させる。そのため、前シートを昇降させる手段によって、乗客が前シート及び後シートに進入し、離脱するための開口領域が閉塞されることがない。また、昇降部がストッパによって規制されることにより、所定の位置に上昇した前シートの座面を後シート方向に摺動させてガイド台で支持することにより、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置することが可能である。
【0042】
よって、鉛直設置時における就寝状態においても、前シート及び後シートを組み付けたフレームに開口領域が形成されるとともに、開口領域を閉塞する障害物は存在しない。そのため、乗客は前シート及び後シートにスムーズに進入し、離脱することができる。即ち、鉛直設置時においても、乗客は自然な動作で楽に前シート及び後シートに横臥,伏臥,仰臥等のそれぞれ任意の楽な姿勢で横たわって乗車することができる。
【0043】
本発明によれば、水平設置時及び鉛直設置時の双方において、後シートや前シートへの出入りの障害とならず、スムーズな出入りを実現するために、後シートや前シートの両側におけるフレームに後シートや前シートへ出入りするための開口領域を確保すること、換言すれば前記した開口領域を閉塞することなく前シートを上方に移動させることが可能となる。これにより、乗客は前シート及び後シートへの進入及び離脱動作をスムーズに行うことができる。その結果、長距離夜行バスの実用性,快適性を大幅に向上させることができ、多数のバス会社が種々の路線を提供し、又同一路線における競合も激しくなっている長距離夜行バス業界において他社との差別化を実現でき、乗車率の向上に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の基本概念図。
図2】本発明にかかるシート構造を採用したバスの側面図。
図3】水平設置時における一対のシートの側面概略図。
図4】前シートの動作説明図。
図5】前シートの動作説明図。
図6】前シートの動作説明図。
図7】鉛直設置時における一対のシートの側面概略図。
図8】鉛直設置時における一対のシートの側面概略図。
図9】水平設置時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
図10】鉛直設置時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
図11】前シートの上昇時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
図12】前シートの上昇完了時の支持体と前支柱との関係を示す要部説明図。
図13】前シートの上昇完了時の座面枠の摺動状態の要部説明図。
図14】鉛直設置時における前シートの要部正面図。
図15】鉛直設置時における前シートの要部背面図。
図16図14の要部拡大図。
図17】鉛直設置時における一対のシートの正面図。
図18】前シートの上昇完了時の座面の要部平面図。
図19】前シートの上昇完了時の座面枠の摺動状態の要部平面図。
図20】前シートの上昇完了時の座面枠の摺動完了後の要部平面図。
図21】背もたれ枠を座面枠に所定角度で固定した状態を示す要部説明図。
図22】背もたれ枠を座面枠に回動可能な状態を示す要部説明図。
図23】(a)(b)(c)座面連結板と背もたれ連結板の連結状態を示す説明図。
図24】(a)(b)前シートの背もたれの要部説明図。
図25】(a)(b)後シートの背もたれの要部説明図。
図26】後シートの縮小変更前の構造を示す要部説明図。
図27図26の斜視図。
図28】後シートの縮小変更途中の構造を示す要部説明図。
図29図28の斜視図。
図30】後シートの縮小変更後の構造を示す要部説明図。
図31図30の斜視図。
図32】長距離夜行バスにおける乗客の選択基準の説明図。
図33】従来の長距離夜行バスにおける快適性と収益性との関係図。
図34】従来のシートの配置を示す平面図。
図35】(a)従来のシートの間隔を示す説明図,(b)リクライニング時のシートの間隔を示す説明図。
図36】(a)従来のシートの間隔を示す説明図,(b)シートの間隔を広げた説明図,(c)シートの間隔を広げた場合のリクライニング時の説明図。
図37】従来のシートの間隔を広げた仮想配置図。
図38】従来のシートの間隔を広げた仮想配置図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明にかかる長距離夜行バスのシート構造の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明が対象とする長距離夜行バス1は、就寝を伴う夜間の長距離走行を伴うバスであれば特に限定はないが、主として都市間交通のために就寝を伴う夜間の長距離走行を伴う路線バス又は貸切バスを対象としている。図2は本発明にかかるシート構造を採用した長距離夜行バス1の一例を示す側面図であり、全長:11990mm,運転席後方仕切板~後部隔壁までの長さ:10310mm,室内幅寸法:2310mm,中央部分の室内高さ寸法:1800mm,両窓側荷物棚下部までの室内高さ寸法:1550mmの大型バスである。なお、本発明にかかる長距離夜行バス1は、そのサイズや乗車人数に限定があるわけではなく、中型、或いは小型のバスであってもよい。
【0046】
図3は本発明にかかる前シート10と後シート20からなる一対のシート30の水平設置時における側面概略図である。前シート10及び後シート20は、それぞれ座面11,21の後端部に所定角度で前後方向にリクライニング(傾倒)可能な背もたれ12,22を有している。また、座面11,21の前端部、具体的には後述する座面枠50,25の前端部に、それぞれ折り畳み可能な着座脚19,29と、それぞれ折り畳み・伸展可能で先端部にフットレスト機能を具備したレッグレスト13,23を垂下して装備している。
【0047】
前シート10及び後シート20からなる一対のシート30は、強度部材であるフレーム40に組付けてユニット化している。フレーム40は、それぞれ左右一対の基材41と桁材42を所定高さを保持して、それぞれ左右一対の前支柱43及び後支柱44で連結するとともに、左右一対の桁材42を前後方向に所定幅を保持して所定数の梁材で連結してなり、中空の略直方体状に構成している。
【0048】
本実施形態では図2に示す長距離夜行バス1の床面2に、フレーム40内に組付けた一対のシート30を相互に長手方向の通路を介在させて幅方向に、一方の窓側区域,中央区域,他方の窓側区域に3列並列させるとともに、長手方向に各列4組を設置した。また、最後部には5組目の一対のシート30を設置するスペースが残っていないため、前シート10及び後シート20と同一の構造の単独のシート5を一方の窓側のスペースを除いて、4組目の一対のシート30の後方に2席設置した。なお、他方の窓側区域の後部スペースにはトイレ(図示略)を設置している。よって、長距離夜行バス1におけるシート数は26席[2席(一対のシート30)×3列(幅方向)×4列(長手方向)+2席(単独のシート5)]とした。
【0049】
本発明は夜間走行時における就寝時間帯以外は、図3に示すように、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20を水平方向の略同列上に設置した状態とし、乗客は座面11,21に着座して乗車する(以下、この状態を「着座状態」という)。そして、夜間走行時における就寝時間帯は、図7図8に示すように、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20を鉛直方向の略同列上に設置し、背もたれ12,22を水平状態にリクライニングさせるとともにレッグレスト13,23を伸展させて、座面11,21、背もたれ12,22、レッグレスト13,23を水平な状態とし、乗客は就寝のため横臥,伏臥,仰臥等のそれぞれ任意の楽な姿勢で乗車する(以下、この状態を「就寝状態」という)。
【0050】
これにより、一対のシート30の設置エリアを前シート10及び後シート20双方の専用エリアとして、それぞれ単独で利用可能となる。即ち、前シート10及び後シート20の水平方向のスペースを開放し、該開放したスペースを利用して、後シート20や他の一対のシートに干渉することなく、前シート10の背もたれ12を水平状態にリクライニングし、レッグレスト13を伸展させることができる。同様に後シート20も後方に設置した一対のシート30の前シート10や他の一対のシートに干渉することなく、後シート20の背もたれ22を水平状態にリクライニングし、レッグレスト23を伸展させることができる。
【0051】
なお、水平方向の略同列上とは、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20間においても、又長距離夜行バス1内の幅方向及び長手方向に複数設置した一対のシート30間相互においても、前シート10の水平方向の前後に後シート20が存在し、又後シート20の水平方向の前後に前シート10が存在する状態、即ち、前シート10と後シート20が同一平面上の前後に位置している状態をいう(図2図3参照)。
【0052】
また、鉛直方向の略同列上とは、一対のシート30を構成する前シート10と後シート20間においても、又長距離夜行バス1内の幅方向及び長手方向に複数設置した一対のシート30間相互においても、前シート10の水平方向の前後に後シート20が存在せず、又後シート20の水平方向の前後に前シート10が存在しない状態、即ち、後シート20の略真上に前シート10が位置している状態、敷衍すれば、前シート10と後シート20が鉛直方向において、設置スペースの全部又は一部を共有して並存している状態をいう(図7図8参照)。
【0053】
本発明は、それぞれ座面11,21と背もたれ12,22を有する前シート10と後シート20からなる一対のシート30を所定のフレーム40内に組付けてユニット化し、一対のシート30を水平方向の略同列上に水平設置して着座状態とするとともに、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、一対のシート30を鉛直方向の略同列上に鉛直設置して就寝状態とする文献1発明によって提供された長距離夜行バスのシート構造を、営業車両として実際に運行するために要求される前記した第1~第3の課題を解決するものである。第1~第3の課題の要旨は次のとおりである。
第1の課題:鉛直設置時における一対のシート30の上部空間の高さ寸法を拡大すること。
第2の課題:鉛直設置時における一対のシート30へ出入りする開口領域を確保すること。
第3の課題:鉛直設置時における一対のシート30を安定、かつ、安全に固定すること。
【0054】
以下に、第1~第3の課題を解決するための本発明にかかる一対のシート30の実施形態を、水平設置時における着座状態から鉛直設置時における就寝状態に変位させる工程に従って、図に基づいて順次説明する。本発明は、前シート10を後シート20の上部空間に移動させる手段として、一対のシート30をユニット化するための必要部材である前支柱43を利用することを特徴の一つとしている。即ち、主として第2の課題を解決するために、前シート10の座面11を前支柱43に昇降可能に装着し、前シート10の座面11を、水平設置時の状態から前支柱43に沿って上昇させて後シート20の上部空間に鉛直設置するようにしている。
【0055】
[工程1/図3図7図10図14図17等]
図3は水平設置時における一対のシート30の側面概略図である。フレーム40内に組付けられた一対のシート30の前シート10及び後シート20は、それぞれ座面11,21の後端部を前支柱43,後支柱44に支持され、着座脚19,29を床面2に接地させるとともに、背もたれ12,22を所定角度で座面11,21に支持させている。この水平設置時において、乗客は前シート10及び後シート20にそれぞれ着座することができる。
【0056】
図7図8は鉛直設置時における一対のシート30の側面概略図である。フレーム40内に組付けられた一対のシート30の前シート10は後シート20の上部空間に移動するとともに、背もたれ12,22をリクライニングさせてフラットな状態にして固定されており、一対のシート30は鉛直方向の略同列上に鉛直設置されている。この鉛直設置時において、乗客は一対のシート30の前シート10及び後シート20にそれぞれ横臥,伏臥,仰臥等の任意の楽な姿勢で横たわって就寝することができる。
【0057】
図14は鉛直設置時における前シート10の要部正面図、図15はその要部背面図、図16図14の要部拡大図、図17は鉛直設置時における一対のシート30の正面図である。前シート10の座面11は、図14図17に示すように、クッション14を載置する座面枠50と、座面枠50の左右両端の下面に固定した一対のスライドガイド51と、座面枠50の下面のスライドガイド51の内側の領域に固定した左右一対のスライドレール52と、スライドレール52を摺動可能に嵌合したレールガイド53と、上面にレールガイド53を固定し、左右両端に一対の昇降部55aを有する支持体55とから構成されている。この就寝状態においては、前シート10の着座脚19は、座面枠50の下面に折り畳んで収納している(図14図17参照)。なお、15はステイであり、前シート10の伸展させたレッグレスト13を支持するものであって、不使用時は支持体55の上面凹部に収納されている。なお、図14図17において、前シート10の背もたれ12は図示を省略している。
【0058】
図9は水平設置時における、図10は鉛直設置時における支持体55と前支柱43との関係を示す要部説明図である。両図において支持体55以外の座面11を構成する部材の図示は省略している。両図に示すように、左右一対の前支柱43は、それぞれ開口部を相互に対面させた中空凹部43aを有し、上下両側端に車輪55bを装着した昇降部55aが中空凹部43a内を上下方向に走行可能である。
【0059】
図3図9に示す水平設置時において、前シート10の座面11は、後シート20側の基端部、具体的には支持体55を前支柱43の中空凹部43aに昇降可能に装着しており、座面11は前支柱43から前方の領域に位置している。なお、着座状態において、前シート10は適宜の手段でフレーム40の基材41や床面2に固定されている。
【0060】
[工程2/図4図10図11図18等]
図3図9に示す水平設置時から、図4の矢印Yに示すように前シート10の座面11を前支柱43に沿って上方に移動させるには、前シート10をフレーム40や床面2への固定から開放した後、着座脚19を折り畳んで座面11の下面に収納し、図10図11に示すように、前支柱43の中空凹部43a内で昇降部55aの車輪55bを走行させ、支持体55を前支柱43に沿って上昇させることにより、前シート10の座面11を前支柱43に沿って上方に上昇させる。なお、前シート10の移動手段は人力又は適宜の機械装置や補助手段を利用して行えばよく、その手段に限定はない。
【0061】
前支柱43の中空凹部43a内には、座面11を所定の高さ位置に案内するため、昇降部55aの上昇位置を規制するストッパ45が所定の箇所に設置されるとともに、前支柱43の背面の所定位置にはストッパ45に隣接してガイド台70が突設されている。ガイド台70の上面は前支柱43より幅広に形成されており、対面する前支柱43方向に向けて、即ち、前支柱43の内側に向けて突出している。
【0062】
前支柱43に沿って昇降部55aの車輪55bをストッパ45に衝接するまで走行させることにより、座面11は図4図10に示すように鉛直設置時における所定の高さまで上昇する。図18は所定高さまで上昇した座面11の要部平面図であり、座面11は前支柱43の前方向Mに位置しており、スライドガイド51はガイド台70と接していない。よって、所定高さまで上昇した状態の座面11はガイド台70に載置されておらず、未だ前支柱43に固定されていない。また、図4に示すように水平設置時と同様に前支柱43より前方に位置しており、未だ後シート20の鉛直方向の略同列上に位置していない。
【0063】
[工程3/図4図6図13図18図20等]
そこで、図4図18に示す昇降部55aの上昇位置において、スライドレール52を支持体55の上面に固定したレールガイド53内を摺動させて後方向U(後シート20方向)に摺動させる。なお、レールガイド53の対向する側壁内面には、レールガイド53内に嵌合するスライドレール52の抜け止め用突部53aが、それぞれ長手方向に突設されている(図16参照)。この左右一対の抜け止め用突部53aによって、スライドレール52の両側面を挟持している。
【0064】
昇降部55aの上昇位置において、ガイド台70の上面は、座面枠50の左右両端の下面に固定した一対のスライドガイド51と同じか、僅かに低い位置にあり、図19に示すようにスライドガイド51はガイド台70上を摺動可能である。そのため、支持体55は、スライドガイド51がガイド台70に当接し、或いは僅かな間隙を残す高さ位置までストッパ45によって規制されて上昇している。この状態から、図13図20に示すように座面11の座面枠50,座面枠50の上面に載置したクッション14,座面枠50の下面に固定したスライドレール52及びスライドガイド51が支持体55から、後方向U(後シート20方向)に所定長さだけ摺動するとともに、スライドガイド51がガイド台70上に載置される。これにより、座面11は図6の矢印X及び図20に示すように水平設置時における前支柱43より前方の位置から前支柱43の後方の位置に所定量だけ移動し、後シート20の鉛直方向の略同列上に位置することとなる。この状態において座面11はスライドガイド51を介してガイド台70によって所定の高さ位置に支持される。
【0065】
なお、スライドガイド51は長尺部材であり、ガイド台70に載置する構成でもよいが、安全性を高めるためスライドガイド51の下面に鍵状の係合部(図示略)を形成し、ガイド台70の後端部に係止し、或いは他の適宜の固定手段によって着脱可能に固定することが望ましい。一対のスライドガイド51は、座面枠50の摺動を案内するとともに、摺動後の座面枠50をガイド台70に安定して載置する作用を果たす。
【0066】
上記した本発明によれば、前支柱43を使用して前シート10を後シート20の上部空間に移動させることができ、文献1発明のように鉛直設置時において後シート20の両側の開口領域を閉塞する状態で存在するガスシリンダ機構等を必要としない。そのため、鉛直設置時において、下方に位置する後シート20の両側部に乗客の進入及び離脱動作の障害物が存在せず、後シート20へ乗客が出入りする開口領域を広く確保することできる。同様に上方に位置する前シート10の両側部にも障害物はなく、前シート10へ乗客が出入りする開口領域を広く確保することできる。よって、鉛直設置時における一対のシート30へ出入りする開口領域を閉塞することなく、前シート10を上方に移動させることができ、第2の課題を解決することができる。なお、本発明で開口領域を広く確保するとは、前支柱43と後支柱44の間に障害物が存在せず、乗客が容易に出入り可能な空間として確保されていることである。なお、鉛直設置時における前シート10への進入及び離脱は、後支柱44等の適宜の箇所に階段やステップ等の昇降手段(図示略)を付設して行う。
【0067】
[工程4/図21図23等]
次に、第3の課題を解決するために、前シート10を後シート20の上部空間に移動させた一対のシート30を安定、かつ、安全に固定する実施形態について工程4,工程5として説明する。即ち、前シート10及び後シート20の座面11,21と背もたれ12,22を所定の角度にリクライニングさせて固定する構成、特には鉛直設置時において、座面11,21と背もたれ12,22が水平状態となるように安定、かつ、安全に固定する実施形態について説明する。この構成は前シート10と後シート20において共通するため、本実施形態では前シート10を例として説明し、後シート20については前シート10との相違点についてのみ説明する。
【0068】
先ず、背もたれ12の背もたれ枠80を座面11の座面枠50に所定角度で固定可能に連結する構成について、図21図23に基づいて説明する。図21は背もたれ枠80を座面枠50に所定角度で固定した状態を示す要部説明図、図22は背もたれ枠80を座面枠50に回動可能な状態を示す要部説明図、図23(a)(b)(c)は座面連結板56と背もたれ連結板66の連結状態を示す説明図である。
【0069】
座面連結板56は所定形状、例えば矩形状の板材からなる強度部材であって、クッション14を装備する座面枠50の基端部の両側にそれぞれ突設されている。座面連結板56には、座面連結孔57が穿設されるとともに、その円周方向の外周の所定の位置に座面連結孔57より径小の基準固定孔58が穿設されている。背もたれ連結板66は座面連結板56と略同一形状の板材からなる強度部材であって、背もたれクッション81を装備する背もたれ枠80の基端部の両側にそれぞれ突設されている。背もたれ連結板66には、背もたれ連結孔67が穿設されるとともに、その円周方向の外周に背もたれ連結孔67より径小の複数の選択固定孔68(図示例では選択固定孔68a,68b,68cの3個)が円弧状に位置を異にして穿設されている。なお、複数の選択固定孔68の個数や配置角度は任意の個数や角度を選択すればよい。
【0070】
左右一対の座面連結板56の座面連結孔57間に連結杆59を挿通して座面連結板56を回動不能に固定するとともに、連結杆59の両端をそれぞれ左右一対の背もたれ連結板66の背もたれ連結孔67に連通させて、背もたれ連結板66を座面連結板56に対して回動可能に遊嵌する。そして、背もたれ連結孔67から突出した連結杆59の両端をキャップ59b等の適宜の手段で覆蓋する。背もたれ連結孔67は連結杆59より僅かに経大であり、背もたれ連結板66は連結杆59を中心として回動可能である。この状態では座面連結板56と背もたれ連結板66は固定されておらず、背もたれ枠80も座面枠50に固定されていない。
【0071】
座面連結板56に穿設した基準固定孔58と、背もたれ連結板66に穿設した複数の選択固定孔68とは、背もたれ連結板66が回動することによって、基準固定孔58に対して選択固定孔68を構成するそれぞれの選択固定孔68a,68b,68cが順次に対面して連通するものであり、この連通している基準固定孔58と選択固定孔68a(選択固定孔68b,68c)に第1固定ピン65を挿通することにより、座面連結板56と背もたれ連結板66を所定角度で固定すること、即ち座面枠50に対して背もたれ枠80を所定角度で固定することができる。
【0072】
連結杆59の略中央部に垂設したブラケット59aには、所定長さの棒状の回動杆61が回動可能に軸支されており、この回動杆61に所定間隔を空けて、左右一対の索条62の一端を固定するとともに、索条62の他端に左右一対の第1固定ピン65がそれぞれ弾性部材63を介在させて、座面連結板56の基準固定孔58に臨んで固定されている。そして、回動杆61の一端部にはストラップ64等の適宜の操作手段を連結している。第1固定ピン65は常時は弾性部材63に付勢されて、図21に示すように基準固定孔58及び基準固定孔58に対面している選択固定孔68a(68b,68c)に挿通されて、座面連結板56と背もたれ連結板66を所定角度で固定している(図21参照)。
【0073】
この図21に示す状態から、例えばストラップ64等の適宜の操作手段を操作して、矢印Zに示すように回動杆61を回動させることにより、索条62が弾性部材63に抗して回動杆61方向に引っ張られ、第1固定ピン65が選択固定孔68a(68b,68c)から抜落し、座面連結板56に対して背もたれ連結板66が連結杆59を軸として回動可能な状態となる(図22参照)。なお、この状態でも第1固定ピン65は座面連結板56の基準固定孔58内には挿通された状態を保持している。
【0074】
図23(a)は、水平設置時における着座状態の座面枠50と背もたれ枠80の位置関係(図3参照)を保持するため、基準固定孔58と選択固定孔68aに第1固定ピン65を挿通して座面連結板56と背もたれ連結板66を固定している。これにより、座面連結板56と背もたれ連結板66、即ち座面枠50と背もたれ枠80は着座姿勢に適した角度に保持される。
【0075】
図23(b)は、前シート10の上昇作業時において座面枠50と背もたれ枠80の位置関係(図4参照)を保持するため、基準固定孔58と選択固定孔68bに第1固定ピン65を挿通して座面連結板56と背もたれ連結板66とを固定している。これにより、背もたれ12が前シート10の上昇作業時の障害となることがない。また、水平設置時における着座状態において、前シート10及び後シート20の背もたれ12,22をリクライニングさせる際に選択固定孔68bを利用することができる。
【0076】
図23(c)は、鉛直設置時における就寝状態の座面枠50と背もたれ枠80の位置関係(図5図7参照)を保持するため、基準固定孔58と選択固定孔68cに第1固定ピン65を挿通して座面連結板56と背もたれ連結板66が略水平となるように固定している。これにより、座面連結板56と背もたれ連結板66、即ち、座面枠50と背もたれ枠80は就寝姿勢に適した略水平状態に保持される。
【0077】
[工程5/図6図8図24図25等]
前記した鉛直設置時において、前支柱43を利用して、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、スライドガイド51を介して座面枠50をガイド台70に載置する作業を行う前には、図23(c)に示すように座面連結板56と背もたれ連結板66を基準固定孔58と選択固定孔68cを連通させて第1固定ピン65で固定し、座面枠50と背もたれ枠80を略水平状態に保持する。或いは、座面枠50をスライドガイド51を介してガイド台70に載置する作業完了後に、背もたれ枠80を前記した作業によって水平状態に保持するようにしてもよい。これにより、座面枠50はガイド台70によって支持されるとともに、背もたれ枠80の基端部は座面枠50に略水平状態に保持されているものの、背もたれ枠80の先端部は開放された状態で後支柱44間に位置している。
【0078】
図24(a)(b)は、前シート10の背もたれ12の要部説明図であり、図に示すように、背もたれ12を構成する強度部材である背もたれ枠80の両側部の所定箇所には、操作杆82で伸縮操作可能な左右一対の第2固定ピン85を装備している。81は背もたれ枠80に装備するクッションである。図6に示すように、鉛直設置時において、第2固定ピン85と対面する後支柱44の内面には、それぞれ第2固定ピン85が進入可能な背もたれ固定孔83が穿設されており、図24(b)に示すように、操作杆82を操作して第2固定ピン85を伸長させて、前記背もたれ固定孔83に挿通することにより、背もたれ枠80を後支柱44に固定することができる。図24(a)は、操作杆82を操作して第2固定ピン85を縮小させて背もたれ枠80内に収納することにより、背もたれ枠80を後支柱44から開放することができる。更に、図7に示すように、前シート10のレッグレスト13を水平方向に繰り出して、ステイ15を使用して水平状態に保持している。これにより、前シート10の鉛直設置が完了する。なお、86は着座時における身体進退の動作や、鉛直設置時における背もたれ12の操作を補助するために握持するハンドルである。
【0079】
同様にして、後シート20の背もたれ枠90を水平状態に保持する。後シート20の座面連結板56と背もたれ連結板66の固定手段及びレッグレスト23の水平方向への保持手段は、前シート10と同一の構成であるため、その説明を省略する。なお、後シート20の背もたれ枠90を水平状態とした場合、背もたれ枠90は後支柱44間に位置しない。そこで、後シート20の背もたれ枠90の背面には、図25図8に示すように、回動自在な支持脚35を装備しており、鉛直設置時には背もたれ枠90から支持脚35を回動させて繰り出して、床面2に倒伏不能に設置することにより、背もたれ枠90の先端部を支持する。なお、91は背もたれ枠90に装備するクッション、96は着座時における身体進退の動作や、鉛直設置時における背もたれ22の操作を補助するために握持するハンドルである。
【0080】
図8に示す状態において、前シート10の座面枠50のスライドガイド51は、前支柱43に固着した強度部材であるガイド台70に載置されており、加えてスライドガイド51とガイド台70を係合させることによって、更に安定して載置することができる。また、背もたれ枠80の基端部は、背もたれ枠80に固着した背もたれ連結板66を介して、座面枠50に固着した座面連結板56と第1固定ピン65によって強固に固定されているとともに、背もたれ枠80の両側部に装備した第2固定ピン85によって後支柱44に強固に固定されている。そのため、前シート10は後シート20の鉛直方向に安定、かつ、安全に固定されている。
【0081】
同様に後シート20の座面枠25は、支持脚36によって床面2に支持されており、背もたれ枠90の基端部は背もたれ枠90に固着した背もたれ連結板66を介して、座面枠25に固着した座面連結板56と第1固定ピン65によって強固に固定されているとともに、背もたれ枠90の背面に装備した支持脚35によって床面2に支持されている。そのため、後シート20は前シート10の鉛直方向に安定、かつ、安全に固定されている。よって、本発明によれば第3の課題の「鉛直設置時における一対のシート30を安定、かつ、安全に固定すること」を達成することができる。
【0082】
[工程6/図1図8図26図31等]
図3に示す水平設置時の状態から、前シート10を前支柱43に沿って上昇させて後シート20の上部空間に変位させるとともに、前シート10及び後シート20の座面11,21と背もたれ12,22を水平状態に固定した図7に示す状態に基づき、第1の課題の原因となる鉛直設置時において、前シート10及び後シート20の上部空間の高さ寸法に余裕がなく窮屈であること、即ち、長距離夜行バス1の構造上、特に室内高さ寸法の制約から乗客が寝返り等の身体の動静を行うために必要な高さ寸法を確保することができず、快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を保持することが困難であることについて、具体的に検証する。
【0083】
前記した全長11990mm,室内幅寸法2310mmで幅方向に3列のシートを並列させた長距離夜行バス1を例にとると、窓際の両側のシートの天井部にはエアコンのダクトや荷物棚が存在するため、床面2と荷物棚間の室内高さ寸法H(図7参照)は、1550mm~1570mmのものが標準である。1550mmの室内高さ寸法H内に文献1発明のシートを設置する場合、鉛直設置時には後シートの座面21の上端から床面2までの高さ寸法H3(着座状態時の後シート20の高さ寸法,図7図17参照)を400mm(座面21の下面から床面2までの高さ寸法H4の280mm+座面21の高さ寸法H5の120mm)、後シート20の鉛直方向に移動させた前シート10の座面11の高さ寸法H6を120mmとすると、後シート20と前シート10の上部空間の高さ寸法H1+H2(図7参照)は1030mm(H-H4-H5-H6=1550mm-280mm-120mm-120mm)となる。この高さ寸法H1+H2の1030mmの空間を均等に利用すると、鉛直設置時における前シート10の上部空間の高さ寸法H2及び後シート20の上部空間の高さ寸法H1(図7参照)は、それぞれ515mm(1030÷2)となる。
【0084】
また、床面2と荷物棚間の室内高さ寸法Hが1450mmに留まる場合、他の寸法が同一とすると、前記した後シート20と前シート10の上部空間の高さ寸法H1+H2(図7参照)は930mm(1450mm-400mm-120mm)となる。この高さ寸法H1+H2の930mmの空間を均等に利用すると、鉛直設置時における前シート10の上部空間の高さ寸法H2及び後シート20の上部空間の高さ寸法H1(図7参照)は、それぞれ465mm(930÷2)となる。長距離夜行バス1の室内幅寸法2310mmに対して、フレームに組み付けられた一対のシートの幅寸法は480mm程度となるため、465mmの高さ寸法H1,H2は、前シート10及び後シート20の幅寸法よりも低くなってしまう。
【0085】
就寝状態で乗客が寝返り等の身体の動静を行うためには、経験則に照らして580mm程度の高さ寸法の上部空間が存在することが望ましく、少なくとも前シート10及び後シート20の幅寸法480mmを超える高さ寸法H1,H2の上部空間が存在しなければ身体を横たえることも困難となる。文献1発明によって前シート10と後シート20が就寝のためにフラットに近い状態となったとしても、そのままでは、上部空間の高さ寸法H1,H2が不足し、快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を保持することが困難である。なお、幅方向に3列並列させた中央のシートは上部にエアコンのダクトや荷物棚が存在しないため、床面2と天井間の高さ寸法は1800mmと余裕があり、鉛直設置時における前シート10及び後シート20の上部空間の高さ寸法として580mm以上を確保することが可能であるが、一対のシートとしては中央のシートと窓際の両側のシートと同一構成,同一サイズのシートを共通して用いることが汎用性に優れている。
【0086】
一方、後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3は、図3に示すような水平設置時における着座状態では、足裏を床面2に着けて座面に腰を下ろした姿勢を保持するために必要不可欠であるものの、鉛直設置時における就寝状態では、足裏を床面2に降ろす必要がないため、その必要性が薄い。具体的には、長距離夜行バス1の窓際側の床面2には、高さ130mm,幅140mmのヒータ用のエアコンダクト100が敷設されていることが多いため、後シート20の座面21の上端から床面までの寸法H3(着座状態時のシートの高さ寸法,図7図17参照)400mmから、座面21の高さ寸法H5の120mm及び前記したエアコンダクト100の高さ寸法130mmを除いた150mm(400mm-120mm-130mm=150mm)は、鉛直設置時には不要である。また、エアコンダクト100が床面2に設置されていない長距離夜行バス1では、後シート20の座面21の下端から床面までの寸法H4の280mm(H3-H5)を上部空間の拡大に利用することが可能である。よって、本発明は後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3を鉛直設置時には縮小変更可能として、縮小した寸法を後シート20の上部空間の高さ寸法H1及び前シート10の上部空間の高さ寸法H2の拡大に利用することにより第1の課題(鉛直設置時における一対のシート30の上部空間の高さ寸法を拡大すること)を解決することを特徴の一つとしている。
【0087】
以下に、第1の課題を解決する手段を図1図8図26図31に示す実施形態に基づいて説明する。図1は本発明の基本概念図、図8は鉛直設置時における一対のシート30の側面概略図、図26は後シート20の縮小変更前の構造を示す要部説明図、図27はその斜視図、図28は縮小変更途中の後シート20の構造を示す要部説明図、図29はその斜視図、図30は縮小変更後の後シート20の構造を示す要部説明図、図31はその斜視図である。図に示すように、後シート20の座面21において、クッション24を載置する座面枠25は、座面上枠26と、フレーム40の基材41に固定した座面下枠27とを起倒自在な座面脚28で連結して構成している。よって、座面脚28を起立状態とすることにより、座面上枠26と座面下枠27は一定距離離間し(図26図27参照)、一方、座面脚28を倒伏状態とすることにより座面上枠26と座面下枠27は接近する(図30図31参照)。
【0088】
座面脚28は、それぞれ下端を座面下枠27に回動自在に軸着するとともに、上端を座面上枠26に回動自在に軸着した左右一対の座面前脚28aと座面後脚28bとからなり、この左右一対の座面前脚28a及び座面後脚28bの中間部には、それぞれ鍔部28cを突設している。また、座面下枠27の所定箇所には、鍔部28cを着脱自在に支持する支持台座27aが突設されている。よって、座面脚28の起立時には、鍔部28cは支持台座27aに着座して座面上枠26を安定した角度で支持しており、座面21は乗客の体重に対する耐荷重性を保持している。
【0089】
左右一対の座面後脚28b間には脚連結杆37を架設するとともに、座面下枠27の所定箇所には座面脚28が起立し、鍔部28cが支持台座27aに着座している状態において、脚連結杆37を脱着自在に固定するC型部材等の適宜の固定手段33を装備している。よって、座面脚28の起立時には、脚連結杆37が固定手段33によって固定されている。そのため、この固定手段33及び前記した鍔部28cを支持する支持台座27aによって、座面21は乗客の体重を安定して支持するための着座状態の保持機能を有し、そのために必要な十分な耐荷重性を保持している。
【0090】
図7に示すように、鉛直設置時における就寝状態において、後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3を縮小変更するには、図28図29に示すように固定手段33から脚連結杆37を開放し、座面上枠26を前支柱43方向に回動させることにより、座面前脚28aと座面後脚28bは座面下枠27を起点として前支柱43方向に回動し、図30図31に示すように座面上枠26が座面下枠27に接近し、図8に示す状態となる。座面上枠26の前支柱43方向の端部には座面上枠26が座面下枠27に接近した際に座面上枠26を支持するための所定高さの支持脚36が垂設されており、この支持脚36が床面2に接地することにより、座面上枠26の回動が停止する。この支持脚36及び座面前脚28a及び座面後脚28bによって、座面21は乗客の体重を安定して支持するための十分な耐荷重性を保持している。
【0091】
このように鉛直設置時において座面上枠26を座面下枠27に接近させることによって、図7に示す後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3を、図8に示すように後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3αに縮小変更することができる。この縮小した分の寸法(H3-H3α)によって、鉛直設置時における後シート20の上部空間の高さ寸法H1(後シート20の座面21と前シート10の裏面間の寸法)を拡大することができる。あるいは、この縮小した分の寸法によって、前シート10の上昇位置を下げることにより、前シート10の上部空間の高さ寸法H2(前シート10の座面11と荷物棚や天井間の寸法)の拡大を図ることが可能である。この縮小した分の寸法(H3-H3α)は、鉛直設置時における後シート20の上部空間の高さ寸法H1と前シート10の上部空間の高さ寸法H2に均等に利用してもよいし、どちらか一方のみ、或いは両者に任意の配分割合で利用してもよい。
【0092】
そして、水平設置時には鉛直設置時と逆の手順によって、座面脚28を起立させることにより、図8に示す後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3αを、図7に示すように後シート20の座面21と床面2との間の高さ寸法H3に復帰させることができる。よって、本発明によれば第1の課題の「鉛直設置時における一対のシート30の上部空間の高さ寸法を拡大すること」を達成することができる。
【0093】
拡大幅を床面2と荷物棚間の高さ寸法が1550mmの長距離夜行バス1の実車に基づいて試算すると、長距離夜行バス1の窓側の両サイドには、前記したとおり、高さ寸法H8が130mmのエアコンダクト100が敷設されているため、本発明による縮小寸法H7は150mm(H3:400mm-H5:120mm-H8:130mm=H7:150mm)となる。この縮小寸法150mmを鉛直設置時における後シート20及び前シート10の上部空間の拡大のために均等に75mm(150mm×1/2)ずつ利用すると、それぞれの上部空間の高さ寸法H1,H2の515mmに拡大した高さ寸法H7(150mm)の1/2の75mmがそれぞれ加味されるため、上部空間の高さ寸法H1α,H2αは590mm(H1,H2:515mm+H7×1/2:75mm)となり(図8参照)、就寝状態で乗客が寝返り等の身体の動静を行うために必要な580mm程度を超える高さ寸法の上部空間を実現することができる。
【0094】
また、床面2と荷物棚間の高さ寸法Hが1450mmであって、鉛直設置時の後シート20及び前シート10の上部空間高さ寸法が465mmとなる長距離夜行バス1の実車の後方のエリアにおいて、前記した本発明による150mmの縮小寸法H7を鉛直設置時における後シート20及び前シート10の上部空間の拡大のために均等に75mm(150mm×1/2)ずつ利用すると、それぞれの上部空間の高さ寸法H1α,H2αは、前記465mmの高さ寸法に拡大した寸法H7(150mm)の1/2の75mmがそれぞれ加味されるため540mm(H1,H2:465mm+H7×1/2:75mm)となり、後シート20及び前シート10の幅寸法480mmを超える高さ寸法の上部空間を実現することができ、就寝状態での利用が可能となる。また、拡大幅を床面と荷物棚間の高さ寸法に関わらず、一対のシートを全て共通の構成とすることができ、汎用性を持たせることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上記載した本発明によれば、水平設置時における着座状態では、前シート及び後シートを組み付けたフレームに開口領域が形成されるとともに、開口領域を閉塞する障害物は存在しない。よって、乗客は前シート及び後シートにスムーズに進入し、離脱することができる。即ち、水平設置時において、乗客は自然な動作で楽に前シート及び後シートの座面に着座して乗車することができる。
【0096】
そして、前シートを後シートの上部空間に移動させる手段として、フレームを構成する前支柱を利用することとし、前シートの座面を構成する支持体の両端部に装着した昇降部を、前支柱の中空凹部内に昇降可能に収納することによって、前シートの座面を前支柱に沿って昇降させる。そのため、前シートを昇降させる手段によって、乗客が前シート及び後シートに進入し、離脱するための開口領域が閉塞されることがない。また、昇降部がストッパによって規制されることにより、所定の位置に上昇した前シートの座面を後シート方向に摺動させてガイド台で支持することにより、前シートを後シートの上部空間に移動させて、一対のシートを鉛直方向の略同列上に鉛直設置することが可能である。
【0097】
よって、鉛直設置時における就寝状態においても、前シート及び後シートを組み付けたフレームに開口領域が形成されるとともに、開口領域を閉塞する障害物は存在しない。そのため、乗客は前シート及び後シートにスムーズに進入し、離脱することができる。即ち、鉛直設置時においても、乗客は自然な動作で楽に前シート及び後シートに横臥,伏臥,仰臥等のそれぞれ任意の楽な姿勢で横たわって乗車することができる。
【0098】
本発明によれば、水平設置時及び鉛直設置時の双方において、後シートや前シートへの出入りの障害とならず、スムーズな出入りを実現するために、後シートや前シートの両側におけるフレームに後シートや前シートへ出入りするための開口領域を確保すること、換言すれば前記した開口領域を閉塞することなく前シートを上方に移動させることが可能となる。これにより、乗客は前シート及び後シートへの進入及び離脱動作をスムーズに行うことができる。その結果、長距離夜行バスの実用性,快適性を大幅に向上させることができ、多数のバス会社が種々の路線を提供し、又同一路線における競合も激しくなっている長距離夜行バス業界において他社との差別化を実現でき、乗車率の向上に寄与し得る。
【符号の説明】
【0099】
1…長距離夜行バス
2…床面
10…前シート
11…座面
12…背もたれ
13…レッグレスト
14…クッション
15…ステイ
19…着座脚
20…後シート
21…座面
22…背もたれ
23…レッグレスト
24…クッション
25…座面枠
26…座面上枠
27…座面下枠
27a…支持台座
28…座面脚
28a…座面前脚
28b…座面後脚
28c…鍔部
29…着座脚
30…一対のシート
33…固定手段
35,36…支持脚
37…脚連結杆
40…フレーム
41…基材
42…桁材
43…前支柱
43a…中空凹部
44…後支柱
45…ストッパ
50…座面枠
51…スライドガイド
52…スライドレール
53…レールガイド
53a…抜け止め用突部
55…支持体
55a…昇降部
55b…車輪
56…座面連結板
57…座面連結孔
58…基準固定孔
59…連結杆
59a…ブラケット
59b…キャップ
61…回動杆
62…索条
63…弾性部材
64…ストラップ
65…第1固定ピン
66…背もたれ連結板
67…背もたれ連結孔
68,68a,68b,68c…選択固定孔
70…ガイド台
80…(前シート10の)背もたれ枠
81…(背もたれ枠80の)クッション
82…操作杆
83…背もたれ固定孔
85…第2固定ピン
86…(背もたれ枠80の)ハンドル
90…(後シート20の)背もたれ枠
91…(背もたれ枠90の)クッション
96…(背もたれ枠90の)ハンドル
100…エアコンダクト
H,H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8…高さ寸法
M…前方向
U…後方向
【要約】      (修正有)
【課題】より快適な夜間就寝を可能とするためのリラックスした姿勢を安定、かつ、安全に実現するための長距離夜行バスのシート構造を提供することを目的とする。
【解決手段】左右一対の前支柱43及び後支柱44を有するフレーム40内に、それぞれ座面11,21と背もたれ12,22を有する前シート10と後シート20からなる一対のシート30を所定のフレーム40内に組付けてユニット化し、一対のシート30を水平方向の略同列上に水平設置可能とするとともに、前シート10を後シート20の上部空間に移動させて、一対のシート30を鉛直方向の略同列上に鉛直設置可能とした長距離夜行バスのシート構造において、前シート10の座面11を前支柱43に昇降可能に装着し、前シート10の座面11を前支柱43に沿って上昇させることにより、前シート10を後シート20の上部空間に鉛直設置する長距離夜行バスのシート構造を基本として提供する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11
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図15
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