(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】抗S100A8/A9抗体とその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231129BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231129BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231129BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231129BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231129BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20231129BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231129BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P35/00
A61P35/04
A61P29/00
A61P11/00
C07K16/18
C12N15/13
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020516238
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016100
(87)【国際公開番号】W WO2019208290
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018087576
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28~29年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「がんの転移をターゲットとした新しい治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】阪口 政清
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 秀太
(72)【発明者】
【氏名】枝園 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博紀
(72)【発明者】
【氏名】木下 理恵
(72)【発明者】
【氏名】二見 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 恒太
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 幹生
(72)【発明者】
【氏名】近藤 英作
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山内 明
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/045070(WO,A1)
【文献】特表2015-533485(JP,A)
【文献】特表2012-507723(JP,A)
【文献】特開2011-047932(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046143(WO,A1)
【文献】Eur.J.Biochem.,2001年,Vol.268,pp.353-363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S100A8及びS100A9のヘテロダイマー
の受容体と前記ヘテロダイマーとの相互作用を遮断し、前記ヘテロダイマーに対して
親和性を有し、
該親和性がS100A8モノマー
及び/又はS100A9モノマーに対する
親和性よりも高い抗体又はその
抗原結合性断片を有効成分として含
み、該有効成分としての抗体又はその抗原結合性断片が、抗がん作用及び/あるいは抗炎症作用を有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
抗体又はその
抗原結合性断片が、S100A8及びS100A9のヘテロダイマーに対し、中和能を有し、S100A8モノマー及び/又はS100A9モノマーとは
親和性を有しない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記S100A8及びS100A9のヘテロダイマーの受容体が、EMMPRIN、NPTNβ、MCAM及びALCAMより選択されるいずれか1又は2以上である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗体又はその
抗原結合性断片が、モノクローナル抗体である、請求項
1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
モノクローナル抗体のサブクラスが、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4より選択されるいずれかである、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号7
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号8
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号9
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号22
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号23
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号24
に示すアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号10
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号11
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号12
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号25
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号26
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号27
に示すアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号13
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号14
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号15
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号28
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号29
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号30
に示すアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号16
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号17
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号18
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号31
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号32
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号33
に示すアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号19
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号20
に示すアミノ酸配列を含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号21
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号34
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号35
に示すアミノ酸配列を含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号36
に示すアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
医薬組成物が、抗がん剤又は抗炎症剤である、請求項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項12】
抗がん剤が、がんの転移抑制剤及び/又はがんの治療剤である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗がん剤の対象となるがんが、皮膚がん、肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がん、肺がん、腎がん、乳がん、子宮がん、胆管がん、食道がん、咽頭がん、胆道がん、膀胱がん、血液がん、リンパ腫、卵巣がん、前立腺がん、脳腫瘍、及び甲状腺がんから選択される1種又は複数種のがんである、請求項11又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗炎症剤の対象となる炎症性疾患が、肺線維症、肺障害(急性肺障害、慢性肺障害を含む)、全身性炎症反応症候群、慢性閉塞性肺疾患、老年性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、若年性突発性関節炎、炎症性関節炎、反応性関節炎、ぶどう膜炎関連関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、炎症性腸疾患、スキンストレス、膵島炎、腎炎(糸球体腎炎、腎盂腎炎を含む)、嚢胞性線維症、歯周炎、子宮頸管炎、腹膜炎、癌性腹膜炎、糖尿病性血管障害、感染症、心血管疾患、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、肺炎(間質性肺炎、特発性器質化肺炎を含む)、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、膿胸、子宮内膜炎、子宮筋層炎、付属器炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎、食道炎、胃食道逆流症、食道潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ストレス性潰瘍、ステロイド潰瘍、急性胃炎、慢性胃炎、感染性腸炎、急性大腸炎、虫垂炎、慢性腸炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、虚血性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、急性胆のう炎、慢性胆のう炎、胆管炎、肝炎、膠原病、粘膜障害、小腸粘膜障害、及び分類不能脊椎関節炎、敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、ネフローゼ症候群、急性腎障害、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、及びスティーブン・ジョンソン症候群から選択される1種又は複数種の炎症性疾患である、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S100A8及びS100A9のヘテロダイマー(以下、「S100A8/A9ヘテロダイマー」ともいう。)に対して抗原結合活性を有する抗体又はその抗体断片に関する。より詳しくは、S100A8/A9ヘテロダイマー、あるいは、S100A8/A9ヘテロダイマーとS100A8モノマー又はS100A9モノマーに対して抗原抗体反応する抗体又はその抗体断片に関する。更に本発明は前記抗体又はその抗体断片を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2018-87576号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
悪性腫瘍の転移制御は、がんの克服に直結する核心の課題だが、転移を制御する観点からの治療薬の開発はまだ多くない。
【0004】
S100タンパク質は細胞種特異的に発現し、2つのEF-handを持つカルシウム結合タンパク質であり、現在までに20種類のサブファミリーが確認されている。S100A8(MRP8、calgranulin A)はカルシウム結合タンパク質S100ファミリーの1つであり、通常はS100A9(MRP14、calgranulin B)と共発現する。S100A8/A9複合体(Calprotectin)は炎症時、体液に蓄積してリウマチ様関節炎(RA)、嚢胞性繊維症、クローン病、潰瘍性大腸炎、アレルギー性皮膚炎、感染などヒトの慢性炎症性疾患の発症に関与すると考えられている。
【0005】
S100A8/A9複合体は、例えば肺から分泌され、遠隔のがん細胞を誘引する機能、そしてがん細胞の定着と増殖に適した免疫抑制の環境を肺につくる機能を有する。臓器が発するS100A8/A9複合体(Soil signal)とがん細胞側のS100A8/A9受容体群(Soil sensor)の関係が、がんの転移制御機構に重要であり、S100A8/A9の受容体を発見したことが報告されている(非特許文献1-4)。S100A8/A9の受容体群として、EMMPRIN(エンプリン)、 NPTNα(neuroplastin-α)、NPTNβ、MCAM(M-cell adhesion molecule)、ALCAM等が公知である。これらの受容体はがん細胞側に発現し、S100A8/A9のシグナルをキャッチしてがん細胞を転移に向かわせる機能を有する。
【0006】
S100A8/A9の受容体のうち、エンプリンに着目した結合阻害による慢性炎症抑制剤又は癌転移抑制剤のスクリーニング方法について報告がある(特許文献1)。特許文献1では、エンプリンが特にS100A9の受容体であることが示されており、スクリーニングの結果、ヨモギエキス、トキエキス、オドリコソウエキス等がエンプリンとS100A9の結合を阻害することが開示されている。S100A8/A9の受容体のうち、NPTNに着目した結合阻害による細胞増殖抑制のスクリーニング方法について報告がある(特許文献2)。特許文献2では、スクリーニングの結果、ヨモギエキス、カンゾウエキス、ニンジンエキス等がNPTNとS100A8の結合を阻害することが開示されている。S100阻害薬とされる化合物については、がん・自己免疫疾患・炎症性疾患及び神経変性疾患などの治療に有用であることが報告されている(特許文献3)。また、S100A9は炎症性腸疾患のバイオマーカーとしての有用性も報告されている(特許文献4)。
【0007】
S100A9ポリクローナル抗体に関しては、免疫抑制状態にあるがん転移先臓器のイメーング剤としても有用であり(非特許文献5)、in vitroの実験において乳がん細胞の遊走を抑制するとの報告もある(非特許文献6)。さらにS100A8ポリクローナル抗体、S100A8ポリクローナル抗体とS100A9ポリクローナル抗体の併用は、マウスを用いたin vivo実験において尾静脈から投与したがん細胞の肺への移行を抑制したとの報告もある(非特許文献7)。上記のようにS100ファミリーは、がんの転移等に関係しており、S100A8及び/又はS100A9とその受容体との結合抑制が、慢性炎症の抑制やがんの転移を抑制すると考えられる。しかしながら、上記非特許文献5-7において用いられたS100A8ポリクローナル抗体やS100A9ポリクローナル抗体は、S100A8やS100A9それぞれを抗原として作製されたものであるが、S100A8/A9ヘテロダイマーとの反応性(抗原結合活性)については全く不明である。
【0008】
非特許文献8には、S100A8/A9ヘテロダイマーを作製し、精製したことが開示されている。より効果的に悪性腫瘍の転移を抑制しうる薬剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-47932号公報
【文献】特開2014-59210号公報
【文献】国際公開第WO2015/177367号
【文献】特開2016-217956号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Sumardika IW. et al., Oncol Res. 2017 Sep 18. doi: 10.3727/096504017X15031557924123.
【文献】Sakaguchi M. et al., J Invest Dermatol., 136(11):2240-2250, (2016).
【文献】Ruma IM. et al., Clin Exp Metastasis., 33(6):609-27, (2016).
【文献】Hibino T. et al., Cancer Res., 1;73(1):172-83, (2013).
【文献】Eisenblaetter M. et al., Theranostics., 15;7(9):2392-2401, (2017).
【文献】Yan Liu. et al., Neuro-Oncology, 15(7):891. 903, (2013).
【文献】Hiratsuka S. et al., Nat Cell Biol., 8(12):1369-75, (2006).
【文献】Futami J. et al., Biochem Biophys Rep., 19;6:94-100, (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、がん転移を効果的に抑制しうる物質又は炎症性疾患に対して有用な医薬組成物を提供することを課題とする。具体的には、S100A8/A9ヘテロダイマーに対して抗原結合活性を有する抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために、S100A8及びS100A9(以下、「S100A8/A9」と略記する場合がある。)とその受容体群(EMMPRIN、NPTNβ、MCAM及びALCAM)に着目し、鋭意研究を重ねた結果、S100A8/A9とその受容体群との相互作用を遮断することで、in vitro及びin vivoのいずれにおいてもがん転移を強く抑制し、又は炎症を軽減することを確認し、本発明を完成した。S100A8やS100A9それぞれを抗原として作製されたS100A8ポリクローナル抗体やS100A9ポリクローナル抗体と比べ、S100A8/A9ヘテロダイマーを抗原として作製された抗体が最も効果的にS100A8/A9とその受容体群との相互作用の遮断作用を有することが本発明において初めて見出された。
【0013】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.S100A8及びS100A9のヘテロダイマーに対して抗原結合活性を有する抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物。
2.抗体又はその抗体断片が、以下の(i)~(iii)より選択されるいずれかに対し、中和能を有する、前項1に記載の医薬組成物:
(i)S100A8及びS100A9のヘテロダイマー;
(ii)S100A8及びS100A9のヘテロダイマーとS100A8モノマー;
(iii)S100A8及びS100A9のヘテロダイマーとS100A9モノマー。
3.抗体又はその抗体断片が、モノクローナル抗体である、前項1又は2に記載の医薬組成物。
4.モノクローナル抗体のサブクラスが、IgG1、IgG
2
、IgG3及びIgG4より選択されるいずれかである、前項3に記載の医薬組成物。
5.抗体が、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含み、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16又は配列番号19に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号7、10、13、16又は19それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17又は配列番号20に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号8、11、14、17又は20それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18又は配列番号21に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号9、12、15、18又は21それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31又は配列番号34に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号22、25、28、31又は34それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32又は配列番号35に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号23、26、29、32又は35それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33又は配列番号36に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号24、27、30、33又は36それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、抗体又はその抗体断片を有効成分として含む、前項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
6.重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号7、あるいは配列番号7に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号8、あるいは配列番号8に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号9、あるいは配列番号9に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号22、あるいは配列番号22に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号23、あるいは配列番号23に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号24、あるいは配列番号24に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項5に記載の医薬組成物。
7.重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号10、あるいは配列番号10に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号11、あるいは配列番号11に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号12、あるいは配列番号12に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号25、あるいは配列番号25に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号26、あるいは配列番号26に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号27、あるいは配列番号27に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項5に記載の医薬組成物。
8.重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号13、あるいは配列番号13に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号14、あるいは配列番号14に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号15、あるいは配列番号15に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号28、あるいは配列番号28に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号29、あるいは配列番号29に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号30、あるいは配列番号30に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項5に記載の医薬組成物。
9.重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号16、あるいは配列番号16に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号17、あるいは配列番号17に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号18、あるいは配列番号18に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号31、あるいは配列番号31に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号32、あるいは配列番号32に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号33、あるいは配列番号33に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項5に記載の医薬組成物。
10.重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号19、あるいは配列番号19に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号20、あるいは配列番号20に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号21、あるいは配列番号21に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号34、あるいは配列番号34に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号35、あるいは配列番号35に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号36、あるいは配列番号36に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項5に記載の医薬組成物。
11.医薬組成物が、抗がん剤又は抗炎症剤である、前項1~10のいずれかに記載の医薬組成物。
12.抗がん剤が、がんの転移抑制剤及び/又はがんの治療剤である、前項11に記載の医薬組成物。
13.抗がん剤の対象となるがんが、皮膚がん、肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がん、肺がん、腎がん、乳がん、子宮がん、胆管がん、食道がん、咽頭がん、胆道がん、膀胱がん、血液がん、リンパ腫、卵巣がん、前立腺がん、脳腫瘍、及び甲状腺がんから選択される1種又は複数種のがんである、前項11又は12に記載の医薬組成物。
14.抗炎症剤の対象となる炎症性疾患が、肺線維症、肺障害(急性肺障害、慢性肺障害を 含む)、全身性炎症反応症候群、慢性閉塞性肺疾患、老年性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、若年性突発性関節炎、炎症性関節炎、反応性関節炎、ぶどう膜炎関連関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、炎症性腸疾患、スキンストレス、膵島炎、腎炎(糸球体腎炎、腎盂腎炎を含む)、嚢胞性線維症、歯周炎、子宮頸管炎、腹膜炎、癌性腹膜炎、糖尿病性血管障害、感染症、心血管疾患、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、肺炎(間質性肺炎、特発性器質化肺炎を含む)、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、膿胸、子宮内膜炎、子宮筋層炎、付属器炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎、食道炎、胃食道逆流症、食道潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ストレス性潰瘍、ステロイド潰瘍、急性胃炎、慢性胃炎、感染性腸炎、急性大腸炎、虫垂炎、慢性腸炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、虚血性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、急性胆のう炎、慢性胆のう炎、胆管炎、肝炎、膠原病、粘膜障害、小腸粘膜障害、分類不能脊椎関節炎、敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、ネフローゼ症候群、急性腎障害、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、及びスティーブン・ジョンソン症候群から選択される1種又は複数種の炎症性疾患である、前項11に記載の医薬組成物。
15.前項1~14のいずれかに記載の医薬組成物に有効成分として含まれる抗体又はその抗体断片。
【0014】
(A)S100A8及びS100A9のヘテロダイマーを抗原として作製された抗体又はその抗体断片。
(B)以下の(i)~(iii)より選択されるいずれかに対し、中和能を有する、前項(A)に記載の抗体又はその抗体断片:
(i)S100A8及びS100A9のヘテロダイマー;
(ii)S100A8及びS100A9のヘテロダイマーとS100A8モノマー;
(iii)S100A8及びS100A9のヘテロダイマーとS100A9モノマー。
(C)S100A8及びS100A9のヘテロダイマーを抗原として作製された抗体が、モノクローナル抗体である、前項(A)又は(B)に記載の抗体又はその抗体断片。
(D)モノクローナル抗体のサブクラスが、IgG1、IgG
2
、IgG3及びIgG4より選択されるいずれかである、前項(C)に記載の抗体又はその抗体断片。
(E)重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)及び重鎖可変領域3(CDR H3)を含む重鎖可変領域と、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を含む軽鎖可変領域を含む抗体又はその抗体断片であって、
重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16又は配列番号19に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号7、10、13、16又は19それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17又は配列番号20に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号8、11、14、17又は20それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18又は配列番号21に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号9、12、15、18又は21それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31又は配列番号34に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号22、25、28、31又は34それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32又は配列番号35に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号23、26、29、32又は35それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33又は配列番号36に示すアミノ酸配列、あるいは配列番号24、27、30、33又は36それぞれにつき、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項(A)~(D)のいずれかに記載の抗体又はその抗体断片。
(F)重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号7、あるいは配列番号7に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号8、あるいは配列番号8に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号9、あるいは配列番号9に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号22、あるいは配列番号22に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号23、あるいは配列番号23に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号24、あるいは配列番号24に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項(E)に記載の抗体又はその抗体断片。
(G)重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号10、あるいは配列番号10に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号11、あるいは配列番号11に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号12、あるいは配列番号12に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号25、あるいは配列番号25に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号26、あるいは配列番号26に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号27、あるいは配列番号27に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項(E)に記載の抗体又はその抗体断片。
(H)重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号13、あるいは配列番号13に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号14、あるいは配列番号14に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号15、あるいは配列番号15に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号28、あるいは配列番号28に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号29、あるいは配列番号29に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号30、あるいは配列番号30に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項(E)に記載の抗体又はその抗体断片。
(I)重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号16、あるいは配列番号16に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号17、あるいは配列番号17に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号18、あるいは配列番号18に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号31、あるいは配列番号31に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号32、あるいは配列番号32に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号33、あるいは配列番号33に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項(E)に記載の抗体又はその抗体断片。
(J)重鎖可変領域1(CDR H1)が、配列番号19、あるいは配列番号19に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域2(CDR H2)が、配列番号20、あるいは配列番号20に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
重鎖可変領域3(CDR H3)が、配列番号21、あるいは配列番号21に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域1(CDR L1)が、配列番号34、あるいは配列番号34に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域2(CDR L2)が、配列番号35、あるいは配列番号35に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含み、
軽鎖可変領域3(CDR L3)が、配列番号36、あるいは配列番号36に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、付加、置換、又は挿入されてなるアミノ酸配列のいずれかを含む、前項(E)に記載の抗体又はその抗体断片。
【0015】
(K)前項1~10のいずれかに記載の医薬組成物を用いることを特徴とするがんの転移抑制方法及び/又はがんの治療方法。
(L)がんが、皮膚がん、肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がん、肺がん、腎がん、乳がん、子宮がん、胆管がん、食道がん、咽頭がん、胆道がん、膀胱がん、血液がん、リンパ腫、卵巣がん、前立腺がん、脳腫瘍、及び甲状腺がんから選択される1種又は複数種のがんである前項(K)に記載のがんの転移抑制方法及び/又はがんの治療方法。
(M)前項1~10のいずれかに記載の医薬組成物を用いることを特徴とする炎症性疾患治療方法。
(N)炎症性疾患が、肺線維症、肺障害(急性肺障害、慢性肺障害を 含む)、全身性炎症反応症候群、慢性閉塞性肺疾患、老年性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、若年性突発性関節炎、炎症性関節炎、反応性関節炎、ぶどう膜炎関連関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、炎症性腸疾患、スキンストレス、膵島炎、腎炎(糸球体腎炎、腎盂腎炎を含む)、嚢胞性線維症、歯周炎、子宮頸管炎、腹膜炎、癌性腹膜炎、糖尿病性血管障害、感染症、心血管疾患、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、肺炎(間質性肺炎、特発性器質化肺炎を含む)、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、膿胸、子宮内膜炎、子宮筋層炎、付属器炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎、食道炎、胃食道逆流症、食道潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ストレス性潰瘍、ステロイド潰瘍、急性胃炎、慢性胃炎、感染性腸炎、急性大腸炎、虫垂炎、慢性腸炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、虚血性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、急性胆のう炎、慢性胆のう炎、胆管炎、肝炎、膠原病、粘膜障害、小腸粘膜障害、分類不能脊椎関節炎、敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、ネフローゼ症候群、急性腎障害、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、及びスティーブン・ジョンソン症候群から選択される1種又は複数種の炎症性疾患である前項(M)に記載の炎症性疾患治療方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医薬組成物に含有される、S100A8/A9ヘテロダイマーに対して抗原結合活性を有する抗体又はその抗体断片によれは、in vitroの系でS100A8/A9により誘導される炎症性サイトカインの発現を抑制し、S100A8/A9誘導性がん細胞の遊走を抑制し、さらにin vivoにおいても各種腫瘍細胞に対して転移抑制作用を示す。さらに、炎症性疾患に対しても有効に作用する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の抗S100A8/A9抗体作製用抗原であるS100A8/A9ヘテロダイマーの調製用発現ベクターの構造を示す図である。(参考例1)
【
図2】精製したS100A8/A9ヘテロダイマー、S100A8モノマー及びS100A9モノマーについて、SDS-PAGEを行い、CBB染色した結果を示す写真図である。(参考例1)
【
図3】精製したS100A8/A9ヘテロダイマー、S100A8モノマー及びS100A9モノマーについて、HPLC解析した結果を示す図である。(参考例1)
【
図4】精製したS100A8/A9ヘテロダイマー、S100A8モノマー及びS100A9モノマーについて、熱力学的安定性を示す図である。(参考例1)
【
図5】抗S100A8/A9抗体作製用ハイブリドーマから選抜した10クローンについて、S100A8/A9ヘテロダイマー、S100A8又はS100A9に対する中和能をELISA法にて確認した結果を示す図である。(実施例1)
【
図6】S100A8/A9により強く炎症性サイトカインが誘導されるヒトケラチノサイトを用いて、抗S100A8/A9抗体作製用ハイブリドーマから選抜した10クローンについて、TNF-α、IL-6及びIL-8の各発現抑制作用を確認した結果を示す図である。(実施例2)
【
図7】S100A8/A9誘導性がん細胞の走化性の評価について、走化性の測定概要を示す図である。(実施例3)
【
図8】B16-BL6(メラノーマ)、A549(肺がん)、MDA-MB-231(乳がん)の各がん細胞についてのS100A8/A9誘導性がん細胞の遊走能を、細胞走化性速さ(velocity)及び方向性(directionality)について確認した結果を示す図である。(実施例3)
【
図9】マウス乳がん4T1細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認するためのプロトコルを示す図である。(実施例4)
【
図10】
図9に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。各CTスキャンでの代表的なCT画像とCT画像から算出した腫瘍細胞の面積を陰性対象群と比較した結果を示す。(実施例4)
【
図11】ヒト乳がんMDA-MB-231細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認するためのプロトコルを示す図である。(実施例5)
【
図12】
図11に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。各CTスキャンでの代表的なCT画像とCT画像から算出した腫瘍細胞の面積を陰性対象群と比較した結果を示す。(実施例5)
【
図13】マウスメラノーマB16-BL6細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認するためのプロトコルを示す図である。(実施例6)
【
図14】
図13に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。各CTスキャンでの代表的な肺及びCT画像とCT画像から算出した面積を陰性対象群と比較した結果を示す。(実施例6)
【
図15】S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)のFabドメインにヒト IgG
2-Fc部分を融合させたキメラ抗体の構成を示す図である。(実施例8)
【
図16】マウスメラノーマB16-BL6細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9キメラ抗体(Chimeric-45)の肺転移抑制効果を確認するためのプロトコルを示す図である。(実施例9)
【
図17】
図16に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。各CTスキャンでの代表的な肺及びCT画像とCT画像から算出した面積を陰性対象群と比較した結果を示す。(実施例9)
【
図18】マウスメラノーマB16-BL6を右耳へ皮内投与して腫瘍が観察されたのちの抗S100A8/A9モノクローナル抗体による肺転移抑制効果を確認するためのプロトコルを示す図である。(実施例10)
【
図19】
図18に示したプロトコルによる試験の肺への転移結果を示す写真図である。(実施例10)
【
図20】
図18に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。肺に生じた径1mm以上のfoci数を示す図及び写真図である。(実施例10)
【
図21】特発性肺線維症患者の肺組織におけるS100A8及びS100A9の発現を示した免疫組織化学染色写真図である。(実施例11)
【
図22】ブレオマイシン気管内投与肺線維症モデルマウスにおける抗S100A8/A9モノクローナル抗体による肺傷害抑制効果を確認するためのプロトコルを示す図である。(実施例11)
【
図23】
図21に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。ブレオマイシン気管内投与肺線維症モデルマウスの体重変化を示す図である。(実施例11)
【
図24】
図21に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。CTスキャンでの代表的な肺及びCT画像を示す写真図である。(実施例11)
【
図25】
図21に示したプロトコルによる試験の結果を示す図である。ブレオマイシン気管内投与肺線維症モデルマウスにおける抗S100A8/A9モノクローナル抗体による改善効果を示す肺組織写真図である(実施例11)
【
図26】全身性炎症反応症候群・薬剤投与・放射線照射・手術・虚血性再潅流障害等による様々なストレスを受けた患者の肺にS100A8/A9の産生が亢進し、肺傷害が進行する様子、及び抗S100A8/A9抗体投与による肺組織の炎症・組織障害の予防、改善効果を模式化した図である。(実施例11)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、S100A8/A9ヘテロダイマーに対して抗原結合活性を有する抗体又はその抗体断片に関する。また、本発明は、抗S100A8/A9抗体その抗体断片を有効成分として含む医薬組成物に関する。なお、以下本明細書において、S100A8/A9ヘテロダイマーに対して抗原結合活性を有する抗体を「抗S100A8/A9抗体」という。
【0019】
本発明は、がん転移を効果的に抑制しうる、又は炎症性疾患に対して有効な抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片に関する。本発明の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片は、S100A8/A9ヘテロダイマーを抗原として作製された抗体に基づき、S100A8/A9ヘテロダイマーに対して抗原結合活性を有する。より詳しくは、本発明の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片は、S100A8/A9ヘテロダイマー、あるいは、S100A8/A9ヘテロダイマーとS100A8モノマー又はS100A9モノマーに対して抗原抗体反応する抗体又はその抗体断片である。
【0020】
本明細書において、抗体は最も広い意味で使用され、S100A8/A9ヘテロダイマーに対する抗原結合活性を示す限りは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体や多重特異性抗体も含まれる。さらに本発明は、その抗体断片を含む種々の抗体構造が含まれる。抗体断片としては抗体の抗原結合断片が挙げられる。
【0021】
本発明の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片は、重鎖可変領域(VH-CDR)及び/又は軽鎖可変領域(VL-CDR)又はその断片を含むことができる。抗体のクラスは、抗体の重鎖(H鎖)に備わる定常ドメイン又は定常領域のタイプのことをいい、例えばIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが挙げられる。本明細書における抗体のクラスは特に限定されないがIgGが最も好適である。IgGのサブクラスとしては、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4などが挙げられ、好適にはIgG1又はIgG2である。抗体断片は例えば、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2又はそれらの組合せを例示できる。
【0022】
本発明の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片は、ヒト抗体又はヒト化抗体であってもよい。ヒト抗体は、ヒト又はヒト細胞によって産生された抗体、又はヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体をいう。ヒト化抗体はキメラ抗体であってもよい。
【0023】
本発明の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片に含まれるVH-CDR及び/又はVL-CDRのアミノ酸配列は、例えば以下の配列番号で特定されるアミノ酸配列を含むことができる。例えば、重鎖可変領域1(CDR H1)には配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16又は配列番号19に示すアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。重鎖可変領域2(CDR H2)には配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17又は配列番号20に示すアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。重鎖可変領域3(CDR H3)には配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18又は配列番号21に示すアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。例えば、軽鎖可変領域1(CDR L1)には配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31又は配列番号34に示すアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。軽鎖可変領域2(CDR L2)領域には配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32又は配列番号35に示すアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。軽鎖可変領域3(CDR L3)には配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33又は配列番号36に示すアミノ酸配列のいずれかを含むことができる。本発明は、上記各領域のアミノ酸配列情報も権利範囲に包含される。上記アミノ酸配列の他、各々について1~複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加若しくは挿入されていてもS100A8/A9ヘテロダイマーに対する抗原結合活性を示す限りはそれらアミノ酸配列を含む抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片も本発明の権利範囲に包含される。
【0024】
本発明の抗S100A8/A9抗体は、上述のS100A8/A9ヘテロダイマーを抗原とし、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法によって作製することができる。例えばマウスやラット等の哺乳動物に抗原を免疫して作製することができる。上記S100A8/A9ヘテロダイマー抗原とアジュバントとを混合したものを免疫原として用いて動物を免疫することができる。アジュバントとしては、特に限定されないが、例えばフロイント完全アジュバント又はフロイント不完全アジュバント等が例示される。免疫の際の免疫原の投与法は、自体公知の方法、例えば皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射のいずれでもよいが、皮下注射又は腹腔内注射が好ましい。免疫は、1回又は適宜の間隔で複数回、好ましくは1週間ないし5週間の間隔で複数回行なってもよい。
【0025】
上記S100A8/A9ヘテロダイマー抗原を使用して、モノクローナル抗体も常法に従って作製することができる。上記S100A8/A9ヘテロダイマー抗原でマウスやラット等の哺乳動物を免疫し、当該動物からリンパ細胞を採取し、常法に従い、ミエローマ細胞と融合させハイブリドーマを作製し、抗S100A8/A9抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。作製したハイブリドーマについて、培養上清などについてELISA法などでS100A8/A9ヘテロダイマーへの結合性を確認し、抗体産生ハイブリドーマのクローニング操作を繰り返すことにより、目的のモノクローナルな抗体産生細胞を得ることができる。ヒト化抗体の作製方法は、自体公知の方法等を適用することができる。
【0026】
抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、定法に従いTotal RNAを精製し、続いてcDNAを合成することができる。得られたcDNAより完全長の重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)の抗体遺伝子をそれぞれのプライマーを用いてPCRを行ない増幅することによりそれぞれの遺伝子断片を取得することができる。得られた遺伝子断片を発現用ベクターにライゲーションすることにより、該抗体の遺伝子をクローニングすることができる。それら抗体のH鎖及びL鎖のアミノ酸配列は、それらをコードしているプラスミドベクターの塩基配列を確認し、それに基づいて該抗体のアミノ酸配列を決定することができる。得られたアミノ酸配列や塩基配列の情報を基にして、遺伝子組換えの手法により抗体を作製してもよいし、合成方法により抗体を作製してもよい。遺伝子組換えの手法により抗体を作製する場合は、例えば国際公開WO2017/061354号に記載の方法により作製することができる。
【0027】
遺伝子組換えの手法により抗体を作製する場合は、例えばCDR H1、CDR H2、CDR H3、CDR L1、CDR L2及びCDR L3を特定する各アミノ酸をコードする遺伝子情報を利用することができる。具体的なアミノ酸配列は、例えば、CDR H1では配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16又は配列番号19に示すアミノ酸配列のいずれかが挙げられる。CDR H2では配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17又は配列番号20に示すアミノ酸配列のいずれかが挙げられる。CDR H3では配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18又は配列番号21に示すアミノ酸配列のいずれかが挙げられる。例えば、CDR L1では配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31又は配列番号34に示すアミノ酸配列のいずれかが挙げられる。CDR L2では配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号32又は配列番号35に示すアミノ酸配列のいずれかが挙げられる。CDR L3では配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号33又は配列番号36に示すアミノ酸配列のいずれかが挙げられる。本発明は、上記特定されるCDR H1、CDR H2、CDR H3、CDR L1、CDR L2及びCDR L3を特定する各アミノ酸をコードする塩基配列情報やその相補鎖の塩基配列情報も包含される。本発明は前記塩基配列情報の他、1~複数個のヌクレオチドが置換、欠失、付加若しくは挿入された塩基配列であっても本発明の抗S100A8/A9抗体が作製可能な塩基配列である限りはそのような塩基酸配列情報も本発明の権利範囲に包含される。
【0028】
本発明の抗S100A8/A9抗体のスクリーニング方法及び抗体評価の確認方法は、後述の参考例、実施例及び実験例等において具体的に説明するが、例えば以下の方法を適用することもできる。
【0029】
上記抗体産生ハイブリドーマから、複数種のS100A8/A9中和抗体候補を発現するハイブリドーマを無血清培養へ馴化し、in vitro, in vivo実験のために大量調製することができる。各クローンの培養上清を回収し、抗体の精製を行うことができる。抗体の精製は自体公知の方法や今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーを行って抗体を回収することができ、具体的にはProtein A/Gを使ったアフィニティー精製が一般的で、動物種や抗体サブクラスごとに適したカラムを使用することができる。精製した抗体の純度検定は、自体公知の方法によることができるが、例えばCBB染色によることができる。
【0030】
本発明の抗S100A8/A9抗体の評価のため、S100A8/A9の受容体であるS100A8/A9吸着性デコイタンパク質製剤(exEMMPRIN-Fc, exNPTNβ-Fc, exMCAM-Fc, exRAGE-Fc, exALCAM-Fc)は、適宜調製することができる。
【0031】
本発明は、抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物、殊に、抗がん剤及び/又は抗炎症剤に関する。
【0032】
本発明の「抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む抗がん剤」は、具体的にはがんの転移抑制剤及び/又はがんの治療剤として用いられる。本発明の抗がん剤の対象となるがんは、例えば原発性がんとは異なる部位への転移が危惧されるがんであればよく特に限定されないが、具体的には皮膚がん(メラノーマ)、肺がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がん、肺がん、腎がん、乳がん、子宮がん、胆管がん、食道がん、咽頭がん、胆道がん、膀胱がん、血液がん、リンパ腫、卵巣がん、前立腺がん、脳腫瘍、及び甲状腺がんから選択される1種又は複数種のがんが挙げられる。特に好適には、皮膚がん(メラノーマ)、肺がん、及び乳がんが挙げられる。転移する部位についても特に限定されないが、例えば肺、肝臓、脳、骨などが挙げられ、特に肺への転移が挙げられる。例えば肺にできるがん(悪性腫瘍)では、例えば肺や気管支の細胞から発生するがんを「原発性肺がん」といい、皮膚がんや乳がん、大腸がんなどの体の他の部位から肺に「飛び火」してできたがんを、「転移性肺がん」という。原発性がんと転移性がんでは、治療方針、治療方法等が異なる。
【0033】
肺から分泌されるS100A8/A9に応答して、メラノーマの肺転移を強く誘導する事が考えられる。S100A8/A9の受容体群として、背景技術の欄でも説明したように、EMMPRIN、 NPTNα、NPTNβ、MCAM、ALCAM等が公知である。これらの受容体はがん細胞側に発現し、S100A8/A9のシグナルをキャッチして例えばメラノーマの肺転移に向かわせる機能を有する。ヒトメラノーマ、肺がん、乳がんにおけるS100A8/A9受容体群のプロファイリングを行ったところ、ヒトメラノーマではEMMPRINとMCAMが、肺がんではNPTNβが、乳がんではMCAMが高い発現を示した。
【0034】
本発明の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片の評価のために、がん細胞転移動物モデルを作製することができる。例えば、転移モデルには、例えばマウスにおける肺転移が報告されているがん細胞株として、B16-BL6(メラノーマ)、A549(肺がん)、MDA-MB-231(乳がん)等を使用することができる。メラノーマは黒色により転移の有無を容易に判定可能であるが、判定が困難な細胞の場合は、例えばGFP等のレポーター因子を安定発現する株等を作製するのも好適である。例えばB16-BL6細胞の肺転移モデルにおいて、S100A8/A9吸着性デコイタンパク質製剤(exEMMPRIN-Fc, exNPTNβ-Fc, exMCAM-Fc, exRAGE-Fc, exALCAM-Fc)は、いずれも優位な転移抑制能を示す。
【0035】
本発明の「抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む抗炎症剤」の対象となる炎症性疾患は、肺線維症、肺障害(急性肺障害、慢性肺障害を不含む)、全身性炎症反応症候群、慢性閉塞性肺疾患、老年性関節リウマチ、若年性関節リウマチ、若年性突発性関節炎、炎症性関節炎、反応性関節炎、ぶどう膜炎関連関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、炎症性腸疾患、スキンストレス、膵島炎、腎炎(糸球体腎炎、腎盂腎炎を含む)、嚢胞性線維症、歯周炎、子宮頸管炎、腹膜炎、癌性腹膜炎、糖尿病性血管障害、感染症、心血管疾患、自己免疫疾患、自己炎症性疾患、肺炎(間質性肺炎、特発性器質化肺炎を含む)、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、膿胸、子宮内膜炎、子宮筋層炎、付属器炎、卵管卵巣膿瘍、骨盤腹膜炎、強直性脊椎炎、乾癬、乾癬性関節炎、食道炎、胃食道逆流症、食道潰瘍、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ストレス性潰瘍、ステロイド潰瘍、急性胃炎、慢性胃炎、感染性腸炎、急性大腸炎、虫垂炎、慢性腸炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、虚血性大腸炎、急性膵炎、慢性膵炎、急性胆のう炎、慢性胆のう炎、胆管炎、肝炎、膠原病、粘膜障害、小腸粘膜障害、分類不能脊椎関節炎、敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、ネフローゼ症候群、急性腎障害、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、及びスティーブン・ジョンソン症候群から選択される1種又は複数種の炎症性疾患が挙げられる。特に好ましくは肺線維症、急性肺障害、慢性閉塞性肺疾患、肺炎(間質性肺炎、特発性器質化肺炎を含む)、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺真菌症、が挙げられる。
【0036】
本発明の「抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物」は、局所的に投与してもよいし、全
身的に投与してもよい。本発明に従って使用される抗体の製剤は、任意選択で医薬上許容される担体、賦形剤又は安定化剤とともに、所望の純度を有する抗体を混合することにより保存のために凍結乾燥製剤又は水溶性の形態で調製される。非経口投与用の製剤は、滅菌した水性の、又は非水性の溶液、懸濁液及び乳濁液を含んでいてもよい。非水性希釈剤の例とし
て、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油及び有機エステル組成物、例えば、エチルオレエートであり、これらは注射用に適している。水性担体には、水、アルコール性水性溶液、乳濁液、懸濁液、食塩水及び緩衝化媒体が含まれていてもよい。非経口的担体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、リンゲル乳酸及び結合油が含まれていてもよい。静脈内担体には、例えば、液体用補充物、栄養及び電解質(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)が含まれていてもよい。本発明の「抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物」はさらに、保存剤及び他の添加剤、例えば抗微生物化合物、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどを含むことができる。
【0037】
本発明の「抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物」は、治療されるべき特定の適応のために、必要に応じて2以上の活性化合物を含んでいてもよい。医薬組成物が抗がん剤の場合は、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものであり、自体公知の抗がん剤、今後開発される抗がん剤の他、例えば副作用を軽減可能な他の薬剤等を併用して用いることができる。医薬組成物が抗炎症剤の場合は、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものであり、自体公知の抗炎症剤、今後開発される抗炎症剤の他、例えば副作用を軽減可能な他の薬剤等を併用して用いることができる。
【0038】
本発明の「抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を有効成分として含む医薬組成物」は、治療上有効量の抗S100A8/A9抗体又はその抗体断片を含む。治療上有効量とは、必要な用量及び期間で、所望の治療結果を達成するのに有効な量をいう。治療上有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重や、個体において所望の反応を導く医薬の能力などの要因によって変動し得る。
【0039】
本発明の医薬組成物は、単回又は分割量を通常、24、12、8、6、4若しくは2時間ごとに又は任意の組合せで使用して、治療の開始後、通常、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39又は40日目に少なくとも1回、あるいはまた1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20週目に少なくとも1回、又はその任意の組合せで、一日当たり、約0.1~100mg/kg体重、例えば0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90又は100mg/kg体重の抗体量を一日当たりの用量として使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明を完成させるために行なった実験結果を参考例として示し、実施例において本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0041】
(参考例1)抗S100A8/A9抗体作製用S100A8/A9ヘテロダイマーの調製
本参考例では、以降の実施例で示す抗S100A8/A9抗体作製のための抗原としてのS100A8/A9ヘテロダイマーの調製について説明する。S100A8/A9ヘテロダイマーは、pET21へ全長S100A8及び全長S100A9を組みこんだ発現ベクター(
図1参照)を用いて大腸菌により作製し、精製した(非特許文献8参照)。比較例のために、全長S100A8又は全長S100A9をpET21へ組込み、上記と同手法により大腸菌により作製し、精製した(非特許文献8参照)。
【0042】
精製したS100A8/A9ヘテロダイマー及び比較例としてのS100A8モノマー、S100A9モノマーについてSDS-PAGEを行い、CBB染色した結果を
図2に示した。S100A8/A9ヘテロダイマーについてはS100A8とS100A9がほぼ同量で、高純度に精製されたことが確認された。さらにS100A8/A9ヘテロダイマーについて、HPLC解析した。その結果、S100A8、S100A9及びS100A8/A9の構造を比較した結果、S100A8/A9のみモノマーの存在が確認されず大半がダイマー構造であった(
図3参照)。一方、比較例として作製したS100A8及びS100A9はモノマーとダイマーの混合物であった(
図3参照)。
【0043】
図4では、天然に発生したS100A8/A9ヘテロダイマー(単に、「A8-A9 heterodimer」と略記)は熱力学的に安定であるが、S100A8(単に、「A8」と略記)とS100A9(単に、「A9」と略記)は各々ホモダイマーを形成するため、S100A8とS100A9を混合しても安定的なS100A8/A9のヘテロダイマーを作製することが困難であることを示している。本参考例の方法により調製されたS100A8/A9ヘテロダイマーは、安定性が高く、以降の実施例で作製するS100A8/A9ヘテロダイマー抗原として使用可能である。
【0044】
(実施例1)抗S100A8/A9モノクローナル抗体の作製
本実施例では、以下の実施例及び実験例で使用する抗S100A8/A9モノクローナル抗体の作製について説明する。本実施例の抗S100A8/A9モノクローナル抗体は、上記(参考例1で調製したS100A8/A9を抗原として作製した。
【0045】
(1)ハイブリドーマの作製
本実施例の抗S100A8/A9モノクローナル抗体は、上記(参考例1)で調製したS100A8/A9を抗原とし、モノクローナル抗体受託サービス、ジェノスタッフ(日本ジェネティクス)を利用して作製した。免疫動物はマウス(Balb/c)を用い、抗原の免疫にはTiter-MAXをアジュバンドとして用いた。従来法に従い免疫動物の脾臓とマウスミエローマ細胞(P3U1)を、ポリエチレングリコール(PEG1500)を用いて融合させ、ハイブリドーマを作製し、160クローンを得た。
【0046】
(2)ハイブリドーマのクローニング及び抗体の作製
上記得られた160クローンのハイブリドーマから、S100A8/A9ヘテロダイマー、S100A8又はS100A9を固相化してELISAスクリーニングを行ない、
図5に示す10クローンを選抜した。選抜したS100A8/A9中和抗体(
図5に示す「α-S100A8/A9 antibody」)候補を発現するハイブリドーマを無血清培養へ馴化し、in vitro及びin vivo実験のために大量調製した。各クローンの培養上清を回収し、Protein Gカラムにより精製を行い、すべてのクローンについて数ミリグラムのタンパク質を調製した。CBB染色による純度検定を行ったところ、目的タンパク質以外のバンドは全く検出されず、高純度で精製抗体が調製されていることを確認した。
【0047】
(3)モノクローナル抗体の反応性
上記(2)で選抜した10クローンについて、S100A8/A9ヘテロダイマー、S100A8又はS100A9に対する反応性及びサブクラスを確認し、表1に示した。
【表1】
【0048】
(実施例2)中和抗体のスクリーニング
本実施例では実施例1で作製して選抜した160クローンのハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体について、S100A8/A9誘導性炎症性サイトカインの産生量に及ぼす影響を確認した。S100A8/A9により強く炎症性サイトカインが誘導されるヒトケラチノサイトを用いて、各抗体のS100A8/A9シグナルの抑制効果を炎症性サイトカインのmRNA発現量を指標に評価した。具体的には、30 ng/mLの精製S100A8/A9と160クローンのハイブリドーマ培養上清1 mLからProtein Gカラムにより精製した各抗S100A8/A9モノクローナル抗体をケラチノサイト(NHK)へ添加し、37℃、3時間培養後の細胞を回収し、TNF-α、IL-6、IL-8の各mRNA発現量をリアルタイム定量PCR(qPCR)解析を行った。
【0049】
リアルタイム定量PCR(qPCR)解析は、LightCycler rapid thermal cycler system(ABI 7900HT; Applied Biosystems社)を用いて行った。以下の塩基配列からなるフォワード(Fwd)及びリバース(Rev) プライマーを用いて測定した。
TNFα測定用 Fwd:GACAAGCCTGTAGCCCATGT(配列番号1)
Rev:TCTCAGCTCCACGCCATT(配列番号2)
IL-6測定用 Fwd:CTTCCCTGCCCCAGTACC(配列番号3)
Rev:CTGAAGAGGTGAGTGGCTGTC(配列番号4)
IL-8測定用 Fwd:AGACAGCAGAGCACACAAGC(配列番号5)
Rev:AGGAAGGCTGCCAAGAGAG(配列番号6)
【0050】
上記の結果、選抜した10クローン(クローンNo.:26,42,45,85,108,213,219,235,258及び260)存在下でのS100A8/A9(単に、「A8/A9」と略記)誘導性炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6及びIL-8)の測定結果を
図6に示した。その結果から特に抑制力の高い抗体5種(S100A8(単に、「A8」と略記)に反応する抗体1種、S100A9(単に、「A9」と略記)に反応する抗体2種、S100A8/A9複合体(単に、「A8/A9」と略記)にのみ反応する抗体2種)を選抜した。また、
図6中の「α-S100A8/A9 antibody」は、抗S100A8/A9モノクローナル抗体を意味する。
【0051】
(実施例3)S100A8/A9誘導性がん細胞の走化性の評価
本実施例では実施例1で作製して選抜した160クローンのハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体について、微量細胞走化性測定装置TAXiScanTM(GEヘルスケア)を用いてS100A8/A9が誘導するがん細胞の走化性に及ぼす影響を確認した。ヒトメラノーマ、肺がん、乳がんにおけるS100A8/A9受容体群のプロファイリングを行ったところヒトメラノーマではEMMPRINとMCAMが、肺がんではNPTNβが、乳がんではMCAMが高い発現を示した。5種のS100A8/A9吸着性デコイタンパク質製剤(exEMMPRIN-Fc, exNPTNβ-Fc, exMCAM-Fc, exRAGE-Fc, exALCAM-Fc)はいずれも、S100A8/A9誘導性のがん細胞の遊走を優位に抑制する。特にexEMMPRIN-FcとexNPTNβ-Fcは、3種のがん細胞に共通して高い効果を示す。そこで、B16-BL6(メラノーマ)、A549(肺がん)、MDA-MB-231(乳がん)の各細胞について、本発明の抗S100A8/A9抗体に関しても、同様にS100A8/A9が誘導するがん細胞の走化性に及ぼす影響を確認した。
【0052】
B16-BL6(メラノーマ)、A549(肺がん)、MDA-MB-231(乳がん)の各がん細胞は、D/F培地(Thermo Fisher Scientific)に10%FBSを含む培地等を用いて培養した。測定の際には2×10
6 cells/mlの細胞をアッセイ用緩衝液(0.1% マウス血清/RPMI1640/25 mM HEPES)に懸濁した。一方のチャンバーにリガンド(S100A8/A9及び実施例1で作製したモノクローナル抗体)を加え、他のチャンバーには細胞を加え、各細胞の走化性を測定した。走化性の測定概要は
図7に示した。
【0053】
各細胞について、選抜した5クローン(クローンNo.:45,85,235,258及び260)存在下での遊走能を、細胞走化性速さ(velocity)及び方向性(directionality)について確認した(
図8)。なお、
図8中、「α-S100A8/A9 antibody」は、抗S100A8/A9モノクローナル抗体を意味する。その結果、クローンNo.45が特に強い遊走性抑制作用を示した。
【0054】
(実施例4)マウス乳がん4T1細胞尾静脈投与における肺転移抑制効果
マウス乳がん4T1細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認した。
【0055】
図9に示したプロトコルに従い、各群5匹のBalb/c nu/nuの尾静脈へ1×10
5 cellsのマウス乳がん4T1細胞と50μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.:45,85,235,258及び260)を各々同時に投与し、2週間後にCTスキャンを行った。代表的なCT画像とCT画像から算出した腫瘍細胞の面積を陰性対象群と比較した結果を
図10に示した。その結果、クローンNo.45において有意な肺転移抑制効果を確認した。
【0056】
(実施例5)ヒト乳がんMDA-MB-231細胞尾静脈投与における肺転移抑制効果
本実施例では抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認した。ヒト乳がんMDA-MB-231細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認した。MDA-MB-231細胞は、GFP安定発現株を作製した。
【0057】
図11に示したプロトコルに従い、各群5匹のBalb/c nu/nuの尾静脈へ1×10
5 cellsのヒト乳がんMDA-MB-231細胞と50μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.:45,85,235,258及び260)を各々同時に投与し、1ヶ月後にCTスキャンを行った。代表的なCT画像とCT画像から算出した腫瘍細胞の面積を陰性対象群と比較した結果を
図12に示した。
その結果、クローンNo.85, 258, 260において有意な肺転移抑制効果を確認した。MDA-MB-231細胞については、マウス肺転移がほとんど認められず、転移モデル作製にさらなる検討が必要と考えられた。
【0058】
(実施例6)マウスメラノーマB16-BL6尾静脈投与における肺転移抑制効果
マウスメラノーマB16-BL6細胞の肺転移モデルを用いて、抗S100A8/A9モノクローナル抗体の肺転移抑制効果を確認した。メラノーマは黒色により転移の有無を容易に判定することができる。
【0059】
図13に示したプロトコルに従い、各群5匹のBalb/c nu/nuの尾静脈へ1×10
5 cellsのマウスメラノーマB16-BL6細胞と50μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.:45,85,235,258及び260)を各々同時に投与し、1ヶ月後にCTスキャンを行った。代表的なマウス肺及びCT画像とCT画像から算出した面積を陰性対象群と比較した結果を
図14に示した。その結果、クローンNo.45,85,235,258において有意な肺転移抑制効果を確認し、特にクローンNo.45において強い転移抑制効果が認められた。
【0060】
(実施例7)選別した抗体の可変領域のアミノ酸配列
上記スクリーニングより選別した5種の抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.:45,85,235,258及び260)について、重鎖及び軽鎖の可変領域の配列を解析した。
VH-CDR
クローンNo.45:CDR H1 :SYWMQ (配列番号7)
クローンNo.45:CDR H2 :AIYPGDGDTRDTQKFKG (配列番号8)
クローンNo.45:CDR H3 :MAGYNYDNDY(配列番号9)
クローンNo.85:CDR H1 :SGYNWH (配列番号10)
クローンNo.85:CDR H2 :YIQYSGSTNYNPSLKS (配列番号11)
クローンNo.85:CDR H3 :ALRYDYSWFAY(配列番号12)
クローンNo.235:CDR H1 :NFWMN(配列番号13)
クローンNo.235:CDR H2 :QIYPGKSDTNYNGKFKG (配列番号14)
クローンNo.235:CDR H3 :WGAYYKYGGSYFDY(配列番号15)
クローンNo.258:CDR H1 :TASMGVS (配列番号16)
クローンNo.258:CDR H2 :HIYWDDDKRYNPSLKS (配列番号17)
クローンNo.258:CDR H3 :RPLGYFDV(配列番号18)
クローンNo.260:CDR H1 :NYGVH(配列番号19)
クローンNo.260:CDR H2 :VVWAGGSTNYNSALMS (配列番号20)
クローンNo.260:CDR H3 :ARDYYGYDGYFGA(配列番号21)
VL-CDR
クローンNo.45:CDR L1 :KASQDINKYIA (配列番号22)
クローンNo.45:CDR L2 :YTSTLQP (配列番号23)
クローンNo.45:CDR L3 :LQYDNLRT(配列番号24)
クローンNo.85:CDR L1 :KASQDVSTAVA (配列番号25)
クローンNo.85:CDR L2 :SASYRYT (配列番号26)
クローンNo.85:CDR L3 :QQHYSTPLT(配列番号27)
クローンNo.235:CDR L1 :SASQGISNYLN(配列番号28)
クローンNo.235:CDR L2 :YTSSLHS (配列番号29)
クローンNo.235:CDR L3 :QQYSKFPYT(配列番号30)
クローンNo.258:CDR L1 :KASQDINNYIS (配列番号31)
クローンNo.258:CDR L2 :YTSTLQP (配列番号32)
クローンNo.258:CDR L3 :LQYDNLLWT(配列番号33)
クローンNo.260:CDR L1 :KASQDINSYLT (配列番号34)
クローンNo.260:CDR L2 :RANRLVD (配列番号35)
クローンNo.260:CDR L3 :LQYDEFPLT(配列番号36)
【0061】
(実施例8)抗S100A8/A9キメラ抗体の作製
本実施例では、S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)のFabドメインにヒト IgG
2-Fc部分を融合させたキメラ抗体を作製した。S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)の重鎖及び軽鎖の可変領域の配列解析・CDR解析し、Human IgG
2の可変領域と組換えた配列を組み込んだCHO細胞用安定発現ベクターを作製し、ヒト IgG
2-Fc部分の遺伝子を組み合わせてCHO細胞に形質導入し、安定的に抗S100A8/A9キメラ抗体を作製した(
図15)。抗体は、国際公開WO2017/061354号に記載の方法により作製した。
【0062】
(実施例9)マウスメラノーマB16-BL6細胞尾静脈投与における肺転移抑制効果
マウスメラノーマB16-BL6細胞の肺転移モデルを用いて、実施例8で作製した抗S100A8/A9キメラ抗体の肺転移抑制効果を確認した。
【0063】
図16に示したプロトコルに従い、各群5匹のBalb/c nu/nuの尾静脈へ1×10
5 cellsのマウスメラノーマB16-BL6細胞と50μgの抗S100A8/A9キメラ抗体を同時に投与し、2週間後にCTスキャンを行った。代表的なマウス肺及びCT画像とCT画像から算出した面積を陰性対象群と比較した結果を
図17に示した。その結果、クローンNo.45の抗体は、ヒト IgG2-Fc部分を融合させたキメラ抗体としても有意に肺転移を抑制することが確認され、メラノーマの肺転移抑制剤としての有用性が立証された。
【0064】
(実施例10)マウスメラノーマB16-BL6細胞局所投与による肺転移抑制効果
本実施例では、実施例1で作製した抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)の肺転移抑制効果を確認した。
図18に示したプロトコルに従い、各群2匹のBalb/c nu/nuの右耳へ1×10
5 cellsのマウスメラノーマB16-BL6細胞を皮内投与した。13日経過後、約4-5 mmの腫瘍が観察された時点で0、10、50、100μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体を尾静脈内投与した。抗体投与1日後、右耳の腫瘍を部分切除し、メラノーマB16-BL6細胞の転移を誘導した。抗体投与20日経過後、肺への転移を観察した。その結果、投与濃度依存的に、肺転移の抑制が観察された(
図19)。腫瘍形成後の抗体投与でも投与量依存的に肺転移を抑制することが確認された。なお、
図19中、「α-S100A8/A9 antibody (Ab45)」は、抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)を意味する。
【0065】
図18に示したプロトコルに従い、各郡3匹のBalb/c nu/nuへ50μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)又は対照としてのIgGを投与し、20日経過後の肺Fociを確認したところ、明らかにクローンNo.45投与群において転移抑制効果が観察された(
図20)。
【0066】
0、10、50、100μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)投与群での肺Fociを観察した。その結果、10μgの投与群では肺Fociの数について、有意に減少が認められた(表2)。なお、下記表2中に示す、「α-S100A8/A9 antibody (Ab45)」は、抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)を意味する。
【0067】
【0068】
(実施例11)ブレオマイシン気管内投与肺線維症モデルにおける肺傷害抑制効果
図21に示すとおり、特発性肺線維症のヒト肺組織中で、S100A8及びS100A9タンパク質が発現していることを確認しているが、本実施例では実施例1で作製した抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)のブレオマイシン気管内投与肺線維症モデルにおける肺傷害抑制効果を確認した。
図22に示したプロトコルに従い、各群6~7匹のC57BL/6J雌(11週齢)の気管内へ20μg/匹のブレオマイシンを含むPBSを50μl投与し、急性肺障害モデルマウスを作製した。ブレオマイシン投与により、肺組織において、炎症に関与するタンパク質であるS100A8及びS100A9が急激に上昇することが観察された(
図22)。ブレオマイシン投与後2~3時間目に50μgの抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)を尾静脈内投与した。対照としてIgGを投与した。ブレオマイシン投与後21日経過までの、急性肺障害モデルマウスの体重の変化を観察したところ、IgG投与群に対して抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)投与群で、マウスの体重減少抑制効果が認められた(
図23)。さらに抗S100A8/A9モノクローナル抗体(クローンNo.45)投与群でブレオマイシン投与後21日目の肺障害の抑制効果が観察された(
図24)。肺障害はCTスキャンにより観察した。組織片の病理観察により確認したところ、肺組織の傷害・線維化について抑制効果が観察された(
図25)。
【0069】
全身性炎症反応症候群・薬剤投与・放射線照射・手術・虚血性再潅流障害等による様々なストレスを受けた患者の肺にS100A8及びS100A9の産生が亢進し、肺傷害が進行する様子、及び抗S100A8/A9抗体投与による肺組織の炎症・組織障害の予防、改善効果を模式化したものを
図26に示した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上詳述したように、本発明の抗S100A8/A9抗体は、がん細胞の転移を抑制する作用を有する。近年ではがん予防、診断及び治療等の向上により、がん患者の生存率は向上しているものと考えられる。抗がん剤治療においても、治療効果が高く副作用の少ない抗がん剤の使用や、複数の薬剤を組み合わせることで治療成績を向上させるなど、効果的な治療が開発されている。しかしながら、がん転移は治癒を目的とした治療が難しいという問題点が依然として残されている。
【0071】
このような状況下、本発明の本発明の抗S100A8/A9抗体によれば、がん細胞の転移を効果的に抑制することができ、がん治療成績の向上に大きく貢献し、産業上非常に有用である。さらに、本発明の抗S100A8/A9抗体は、種々の炎症性疾患に対しても奏功することから、かかる本発明の産業上の有用性は計り知れない。
【配列表】