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  • -アンモニア回収装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】アンモニア回収装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20231129BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20231129BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20231129BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20231129BHJP
   C02F 1/04 20230101ALI20231129BHJP
   C02F 3/28 20230101ALI20231129BHJP
   C02F 9/00 20230101ALI20231129BHJP
【FI】
C02F1/44 K
B01D61/14 500
B01D61/00 500
B01D61/58
C02F1/04 D
C02F3/28 Z
C02F9/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022082835
(22)【出願日】2022-05-20
【審査請求日】2022-05-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 令和4年3月9日 掲載アドレス https://stin-2.webex.com/stin-2/j.php?MTID=m7cefd85273ea207d04c1c53834f72ac9
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/窒素資源循環のための膜分離を利用した廃水からのアンモニア高効率分離回収の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】池田 博史
(72)【発明者】
【氏名】山川 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】新谷 卓司
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-061487(JP,A)
【文献】特表2014-512952(JP,A)
【文献】特開2018-015684(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104016477(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105859057(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
1/04
3/28 - 3/34
11/00 - 11/20
9/00 - 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア態窒素および有機態窒素と、水とを含有する被処理液を、第一正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、前記第一正浸透膜を透過した第一正浸透膜透過液と、前記第一正浸透膜を透過せず、前記被処理液に含まれる成分が濃縮された第一濃縮液とに分離する第一濃縮機構と、
前記第一濃縮機構で濃縮された前記第一濃縮液を、嫌気性微生物により嫌気性発酵させることで、前記有機態窒素を分解してメタンガスとアンモニア態窒素に転換させるとともに、嫌気性発酵させた後の嫌気性発酵処理液を、前記嫌気性微生物よりも小さい孔径を有する分離膜を用いて透過処理を行うことにより、前記分離膜を透過しない、前記嫌気性微生物を含む微生物含有液と、前記分離膜を透過した、アンモニア態窒素と、水とを含む分離膜透過液とに分離する嫌気性膜分離機構と、
前記嫌気性膜分離機構で分離された前記分離膜透過液を、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、前記第二正浸透膜を透過した第二正浸透膜透過液と、前記第二正浸透膜を透過せず、アンモニア態窒素の濃度が上昇した第二濃縮液に分離する第二濃縮機構と、
前記第二濃縮機構でアンモニア態窒素の濃度を上昇させた前記第二濃縮液を蒸留して、アンモニア態窒素が除去された缶出液と、前記第二濃縮液よりも高い濃度でアンモニア態窒素を含む留出ベーパとに分離する蒸留機構と
を備えていることを特徴とするアンモニア回収装置。
【請求項2】
前記第一濃縮機構で濃縮された前記第一濃縮液における、全窒素の濃度が3000ppm以下となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア回収装置。
【請求項3】
前記第二濃縮機構でアンモニア態窒素の濃度を上昇させた前記第二濃縮液における全窒素の濃度が15000ppm以下となるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア回収装置。
【請求項4】
前記第一濃縮機構において、前記第一正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、前記被処理液を、前記第一正浸透膜を介して第一駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行い、かつ、前記第一駆動溶液として、前記被処理液よりも浸透圧の高い溶液を使用し、
前記第二濃縮機構において、前記第二正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、前記分離膜透過液を、前記第二正浸透膜を介して第二駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行い、かつ、前記第二駆動溶液として、前記分離膜透過液よりも浸透圧の高い溶液を使用するように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアンモニア回収装置。
【請求項5】
前記第二濃縮液が、pH9.0以上となるようにpH調整された後、前記蒸留機構に供給されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア回収装置。
【請求項6】
前記第二濃縮液のpHを調整するためのpH調整機構を備えていることを特徴とする請求項に記載のアンモニア回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア回収装置に関し、詳しくは、アンモニア態窒素および有機態窒素を含有する被処理液からアンモニアを回収するためのアンモニア回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア態窒素や有機態窒素などを含有する工場排水は、窒素の総量規制に関する法律などにより、そのまま放出することができないのが実情である。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、メタン発酵法により、被処理物中の有機物を分解してメタン発酵処理水を得るメタン発酵工程と、好気性微生物の作用により、メタン発酵処理水中のアンモニアを酸化して硝酸とすると共に、有機物を分解して硝化処理水を得る工程と、硝化処理水を蒸発濃縮して、濃縮水と凝縮水とを得る蒸発濃縮工程と、を有する被処理物の処理方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、アンモニア濃度が窒素換算で10~10000ppm、Cl-濃度は1~50000ppm、CODは10~100000ppm、BODは10~10000ppmの被処理水の処理方法であって、好気性微生物の作用により、被処理水中のアンモニアを酸化して硝酸とすると共に、有機物を分解して硝化処理水を得る好気性微生物処理工程と、硝化処理水を蒸発濃縮して、濃縮水と凝縮水とを得る蒸発濃縮工程とを有し、蒸発濃縮工程に供する硝化処理水のpH値を8.5以上に調整するようにした被処理水の処理方法が開示されている。
【0005】
そして、上述の被処理物の処理方法によれば、有機物、アンモニア、および溶解性塩類を含有する被処理物を、低廉な設備コストおよび操業コストで処理することが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-62631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アンモニアは、肥料や、メラミン樹脂、合成繊維(ナイロン)などの原料として種々の用途に用いられているとともに、近年は、二酸化炭素を発生しない燃料としての用途にも着目されている。
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1の被処理物の処理方法は、好気性微生物の作用により、アンモニアを酸化して硝酸とするように構成されているので、アンモニアを回収することはできない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、アンモニア態窒素および有機態窒素と、水とを含む被処理液から、アンモニアを効率よく回収することが可能なアンモニア回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のアンモニア回収装置は、
アンモニア態窒素および有機態窒素と、水とを含有する被処理液を、第一正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、前記第一正浸透膜を透過した第一正浸透膜透過液と、前記第一正浸透膜を透過せず、前記被処理液に含まれる成分が濃縮された第一濃縮液とに分離する第一濃縮機構と、
前記第一濃縮機構で濃縮された前記第一濃縮液を、嫌気性微生物により嫌気性発酵させることで、前記有機態窒素を分解してメタンガスとアンモニア態窒素に転換させるとともに、嫌気性発酵させた後の嫌気性発酵処理液を、前記嫌気性微生物よりも小さい孔径を有する分離膜を用いて透過処理を行うことにより、前記分離膜を透過しない、前記嫌気性微生物を含む微生物含有液と、前記分離膜を透過した、アンモニア態窒素と、水とを含む分離膜透過液とに分離する嫌気性膜分離機構と、
前記嫌気性膜分離機構で分離された前記分離膜透過液を、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、前記第二正浸透膜を透過した第二正浸透膜透過液と、前記第二正浸透膜を透過せず、アンモニア態窒素の濃度が上昇した第二濃縮液に分離する第二濃縮機構と、
前記第二濃縮機構でアンモニア態窒素の濃度を上昇させた前記第二濃縮液を蒸留して、アンモニア態窒素が除去された缶出液と、前記第二濃縮液よりも高い濃度でアンモニア態窒素を含む留出ベーパとに分離する蒸留機構と
を備えていることを特徴としている。
【0011】
本発明のアンモニア回収装置においては、前記第一濃縮機構で濃縮された前記第一濃縮液における、全窒素の濃度が3000ppm以下となるように構成されていることが好ましい。
【0012】
また、前記第二濃縮機構でアンモニア態窒素の濃度を上昇させた前記第二濃縮液における全窒素の濃度が15000ppm以下となるように構成されていることが好ましい。
【0013】
また、前記第一濃縮機構において、前記第一正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、前記被処理液を、前記第一正浸透膜を介して第一駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行い、かつ、前記第一駆動溶液として、前記被処理液よりも浸透圧の高い溶液を使用し、
前記第二濃縮機構において、前記第二正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、前記分離膜透過液を、前記第二正浸透膜を介して第二駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行い、かつ、前記第二駆動溶液として、前記分離膜透過液よりも浸透圧の高い溶液を使用するように構成されていることが好ましい。
【0014】
また、前記第一および第二駆動溶液として、海水、無機塩溶解水、温度応答性イオン液体、および温度応答性ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0015】
また、前記第二濃縮液が、pH9.0以上となるようにpH調整された後、前記蒸留機構に供給されるように構成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記第二濃縮液のpHを調整するためのpH調整機構を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアンモニア回収装置は、上述のように、第一濃縮機構と、嫌気性膜分離機構と、第二濃縮機構と、蒸留機構とを備えており、第一濃縮機構では、第一正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、被処理液に含まれる成分を濃縮するようにしているので、蒸留などの相変化を伴う方法で濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図りつつ、被処理液を濃縮することができる。
【0018】
また、第一濃縮機構では、正浸透膜を使用して正浸透法により濃縮するようにしているので、逆浸透膜を用いて逆浸透法で濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図ることができる。
【0019】
また、第一濃縮機構で濃縮された第一濃縮液を、嫌気性微生物により嫌気性発酵させるようにしているので、有機態窒素を分解してメタンガスとアンモニア態窒素に転換させるとともに、嫌気性発酵させた後の嫌気性発酵処理液を、嫌気性微生物よりも小さい孔径を有する分離膜を用いて透過処理を行うことにより、分離膜を透過しない微生物含有液と、分離膜を透過したアンモニア態窒素と水とを含む分離膜透過液とに分離することが可能になり、アンモニア態窒素の回収率を向上させることができる。
【0020】
また、有機態窒素を分解してメタンガスに転換するようにしているので、発生したメタンガスを例えば発電設備のエネルギーとして有効に利用することができる。
【0021】
また、嫌気性発酵の場合、好気性発酵の場合には必要となるような曝気が不要
であることから、省エネルギーを図ることができる。
【0022】
さらに、第二濃縮機構では、嫌気性膜分離機構で分離された分離膜透過液を、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うようにしているので、水を正浸透膜透過液として分離して、アンモニア態窒素濃度の高い第二濃縮液を得ることができる。
【0023】
なお、第二濃縮機構でも、正浸透膜を使用して正浸透法により濃縮するようにしているので、逆浸透膜を用いて逆浸透法で濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図ることができる。
【0024】
さらに、蒸留機構では、第二濃縮機構でアンモニア態窒素の濃度を上昇させた第二濃縮液の蒸留が行われ、アンモニア態窒素を含まない缶出液と、第二濃縮液よりも高い濃度でアンモニア態窒素を含む留出ベーパとに分離されることから、高濃度のアンモニア態窒素(すなわちアンモニア)を含む留出ベーパを回収することができる。
【0025】
上述のように、第一濃縮機構と、嫌気性膜分離機構と、第二濃縮機構と、蒸留機構とを組み合わせた本発明のアンモニア回収装置によれば、省エネルギーを図りつつ、濃度の高いアンモニアを効率よく回収することが可能になる。
【0026】
また、第一濃縮機構で正浸透法により濃縮を行う場合、アンモニア態窒素や有機体窒素などに由来する全窒素の濃度が高くなりすぎると、後工程である嫌気性膜分離機構での生物処理の効率が低下する傾向があるが、第一濃縮機構で濃縮された第一濃縮液における、全窒素の濃度を3000ppm以下に抑えることにより、嫌気性膜分離機構での生物処理効率の低下を抑制することが可能になる。
【0027】
なお、嫌気性膜分離機構では、嫌気性微生物により嫌気性発酵させ、有機態窒素を分解してメタンガスとアンモニア態窒素に転換させることが可能になり、効率よくメタンガスとアンモニア態窒素を回収することが可能になる。
【0028】
また、本発明のアンモニア回収装置において、第二濃縮機構で正浸透法により濃縮された第二濃縮液中の全窒素(アンモニア態窒素)の濃度が15000ppm以下となるようにした場合、第二濃縮機構での濃縮速度の低下を抑制して、効率よく、アンモニア態窒素の濃縮を行うことができる。
【0029】
また、第一濃縮機構において、第一正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、被処理液を、第一正浸透膜を介して第一駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行い、かつ、第一駆動溶液として、被処理液よりも浸透圧の高い溶液を使用し、第二濃縮機構において、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、嫌気性膜分離機構における分離膜を透過した分離膜透過液を、第二正浸透膜を介して第二駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行い、かつ、第二駆動溶液として、上記分離膜透過液よりも浸透圧の高い溶液を使用するようにした場合、第一および第二濃縮機構において、効率のよい濃縮を行うことが可能になる。
【0030】
また、第一および第二駆動溶液として、海水、無機塩溶解水、温度応答性イオン液体、および温度応答性ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることにより、第一および第二濃縮機構において、確実に効率のよい濃縮を行うことが可能になる。
【0031】
さらに、本発明のアンモニア回収装置において、第二濃縮液を、pH9.0以上となるようにpH調整した後、蒸留機構に供給するようにした場合、アンモニア態窒素がNH3として遊離するため、蒸留機構でのアンモニア(アンモニア態窒素)の分離、回収を確実に行うことが可能になる。
【0032】
また、本発明の他のアンモニア回収装置において、第二濃縮液のpHを調整するためのpH調整機構を備えた構成とすることにより、容易かつ確実にpHを調整することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態にかかるアンモニア回収装置を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0035】
本願の実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、アンモニア態窒素および有機態窒素と、無機塩類と、水とを含有する被処理液からアンモニアを回収するために用いられるアンモニア回収装置である。なお、被処理液には、アンモニア態窒素および有機態窒素以外の有機物質が含まれていてもよい。
【0036】
また,本実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、被処理液からメタンガス(具体的にはメタンを主たる成分とし、発電用の燃料などに用いることが可能なバイオガス)を回収することができるように構成されている。
【0037】
図1に示すように、アンモニア回収装置100は、第一濃縮機構10と、嫌気性膜分離機構20と、第二濃縮機構30と、pH調整機構40と、蒸留機構50とを備えている。
【0038】
第一濃縮機構10は、アンモニア態窒素および有機態窒素と、無機塩類と、水とを含有する被処理液を、第一正浸透膜(Forward Osmosis膜(FO膜))を用いて透過処理を行うことにより、第一正浸透膜を透過した第一正浸透膜透過液と、第一正浸透膜を透過せず、被処理液に含まれる成分が濃縮された第一濃縮液とに分離するための機構である。
【0039】
本実施形態にかかるアンモニア回収装置100では、第一濃縮機構10において、第一正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、被処理液を、第一正浸透膜を介して第一駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行ようにしている。そして、第一駆動溶液として、被処理液よりも浸透圧の高い溶液を使用するようにしている。
【0040】
第一駆動溶液としては、海水、無機塩溶解水、温度応答性イオン液体、および温度応答性ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。なお、本実施形態では海水を使用している。
【0041】
第一濃縮機構10における濃縮は、正浸透膜法による濃縮であり、蒸留などの相変化を伴う方法で濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図りつつ、被処理液を所定の濃度まで濃縮することができる。また、上述のような第一駆動溶液を用いることにより、効率のよい濃縮を行うことができる。
【0042】
また、正浸透膜法による濃縮を行う第一濃縮機構10では、逆浸透膜を用いて逆浸透法により濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図ることができる。
【0043】
第一濃縮機構10としては、正浸透膜法による濃縮に用いられる、公知の種々の構成のものを用いることが可能である。
【0044】
なお、第一濃縮機構10で用いる第一正浸透膜としては、濃縮条件などを考慮して、公知の種々の正浸透膜から適切なものを選択して用いることが可能である。
【0045】
本実施形態では、被処理液として、アンモニア態窒素および有機態窒素と、無機塩類と、水とを含有する被処理液が、66.7Ton/hの割合で第一濃縮機構10に供給されるように構成されている。
【0046】
第一濃縮機構10に供給される、まだ処理が行われていない被処理液(66.7Ton/h)は、アンモニア態窒素および有機態窒素に由来する全窒素(TN)24.5kg/h、全炭素(TC)66kg/h、無機塩類に由来する総溶解固形物(TDS)93.3kg/hを含む。
【0047】
そして、第一濃縮機構10においては、第一正浸透膜を透過した、水を主たる成分とする第一正浸透膜透過液54.7Ton/hと、第一正浸透膜を透過せず、被処理液中に溶解している成分が濃縮された第一濃縮液12.0Ton/hが得られる。
【0048】
第一正浸透膜透過液54.7Ton/hは、全窒素(TN)0.5kg/hを含み、全炭素(TC)および総溶解固形物(TDS)を含まない。また、第一濃縮液は、全窒素(TN)24kg/h、全炭素(TC)66kg/h、総溶解固形物(TDS)93.3kg/hを含む。
【0049】
また、第一濃縮機構10で第一正浸透膜を使用して正浸透法により濃縮を行う場合、全窒素(TN))の濃度が高くなりすぎると、後工程である嫌気性膜分離機構20での生物処理の効率が低下する傾向があるので、第一濃縮機構10で濃縮された被処理液(第一濃縮液)における、全窒素(TN)の濃度を3000ppm以下に抑えることが望ましい。
【0050】
また、第一濃縮機構10で濃縮された被処理液(第一濃縮液)における、総溶解固形物(TDS)についても、15000ppm以下とすることが望ましい。
【0051】
なお、上記の第一濃縮液の全窒素(TN)の濃度は2000ppmとなり、無機塩類に相当する総溶解固形物(TDS)の濃度は約7800ppmとなる。
【0052】
また、嫌気性膜分離機構20は、第一濃縮機構10で濃縮された第一濃縮液を、嫌気性微生物により嫌気性発酵させることにより、被処理液に含まれる有機態窒素を分解してメタンガスとアンモニア態窒素に転換させるための機構である。
【0053】
なお、嫌気性膜分離機構20では、被処理液がアンモニア態窒素および有機態窒素以外の有機化合物を含有している場合にも、その多くをメタンガスに転換させることができる。したがって、メタンガスやアンモニア態窒素などの有価物質を効率よく回収することができる。
【0054】
また、嫌気性発酵の場合、好気性発酵の場合に必要な曝気が不要であることから、エネルギー消費を抑制することができる。
【0055】
なお、嫌気性膜分離機構20の具体的な構成には、特別の制約はなく、公知の種々の構成のものを採用することができる。
【0056】
本実施形態では、嫌気性膜分離機構20において、嫌気性発酵させた後の嫌気性発酵処理液を、嫌気性微生物よりも小さい孔径を有する分離膜を用いて透過処理を行うことにより、分離膜を透過しない、嫌気性微生物を含む微生物含有液(消化液)0.12Ton/hと、分離膜を透過した、アンモニア態窒素と、無機塩類と、水とを含む分離膜透過液11.88Ton/hと、バイオガス121m3/hが得られる。
【0057】
なお、嫌気性膜分離機構20における分離膜としては、嫌気性微生物よりも小さい孔径を有する、公知の種々の精密ろ過膜を用いることができる。
【0058】
分離膜を透過しない微生物含有液(消化液)0.12Ton/hは、全窒素(TN)0.2kg/h、全炭素(TC)0.35kg/h、総溶解固形物(TDS)0.9kg/hを含む。
【0059】
分離膜透過液11.88Ton/hは、全窒素(TN)23.8kg/h、全炭素(TC)0.65kg/h、総溶解固形物(TDS)92.4kg/hを含む。
【0060】
バイオガス121m3/hは、メタンと二酸化炭素をモル比約6:4で含む。なお、バイオガス121m3/hに含まれる、メタンと二酸化炭素に由来する炭素の合計量(全炭素TC)は65kg/hとなる。3
【0061】
第二濃縮機構30は、嫌気性膜分離機構20において分離された分離膜透過液を、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、主成分が水である第二正浸透膜透過液と、第二正浸透膜を透過せず、アンモニア態窒素の濃度が上昇した第二濃縮液とに分離する機構である。なお、第二濃縮機構30の具体的な構成に特別の制約はなく、公知の種々の構成のものを採用することが可能である。
【0062】
第二濃縮機構30で用いる第二正浸透膜としては、濃縮条件などを考慮して、公知の種々の正浸透膜から適切なものを選択して用いることができる。
また、条件によっては、第二正浸透膜として、上述の第一濃縮機構10において用いた第一正浸透膜と同じ正浸透膜を用いることが可能である。
【0063】
本実施形態にかかるアンモニア回収装置100では、第二濃縮機構30において、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うにあたり、嫌気性膜分離機構20において分離された分離膜透過液を、第二正浸透膜を介して第二駆動溶液と接触させた状態で透過処理を行うようにしている。そして、第二駆動溶液として、嫌気性膜分離機構20において分離された分離膜透過液よりも浸透圧の高い溶液を使用するようにしている。
【0064】
第二駆動溶液としては、海水、無機塩溶解水、温度応答性イオン液体、および温度応答性ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0065】
この第二濃縮機構30における濃縮も、上述の第一濃縮機構10における濃縮の場合と同様に、正浸透膜法による濃縮であり、蒸留などの相変化を伴う方法で濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図りつつ、被処理液を所定の濃度まで濃縮することができる。また、上述のような第二駆動溶液を用いることにより、効率のよい濃縮を行うことができる。
【0066】
また、正浸透膜法による濃縮を行う第二濃縮機構30では、逆浸透膜を用いて逆浸透法により濃縮する場合に比べて、省エネルギーを図ることができる。
【0067】
第二正浸透膜を透過した透過液(第二正浸透膜透過液)9.2Ton/hは、全窒素(TN)0.7kg/hを含み、全炭素(TC)および総溶解固形物(TDS)を含まない。
【0068】
また、第二正浸透膜を透過せず、アンモニア態窒素の濃度が上昇した第二濃縮液2.68Ton/hは、全窒素(TN)23.1kg/h、全炭素(TC)0.65kg/h、総溶解固形物(TDS)92.4kg/hを含む。
【0069】
なお、本発明の実施形態にかかるアンモニア回収装置100において、第二濃縮機構30で正浸透法により濃縮される第二濃縮液における全窒素(TN)の濃度を15000ppm以下とすることにより、第二濃縮機構30における濃縮速度(アンモニア態窒素含有水が第二正浸透膜を透過する速度)の低下を抑制して、効率のよい濃縮を行うことが可能になる。
【0070】
なお、上記の第二濃縮液の全窒素(TN)の濃度は8620ppmとなり、無機塩類に相当する総溶解固形物(TDS)の濃度は約34480ppmとなる。
【0071】
pH調整機構40は、第二濃縮機構30で濃縮された第二濃縮液に、アルカリを加えてpHの調整を行い、アンモニア態窒素を遊離させて、蒸留により分離を行うことができるようにするための機構である。
【0072】
pH調整機構40は、特に図示しないが、第二濃縮機構30で濃縮された第二濃縮液にアルカリ(本実施形態では48wt%のNaOH水溶液)を供給するための供給装置(例えばポンプ)と、pHを検出するための検出装置(例えばpHメータ)と、検出されるpHに連動してNaOH水溶液の供給量を制御するための制御手段を備えている。なお、pH調整機構40の具体的な構成に特別の制約はない。
【0073】
本実施形態にかかるアンモニア回収装置100においては、pH調整機構40により、第二濃縮機構30で濃縮された第二濃縮液2.68Ton/hに対して、48wt%のNaOH水溶液0.137Ton/hが添加され、pHが12に調整されるように構成されている。
【0074】
上述のように、pHを12に調整することにより、第二濃縮液中のアンモニア態窒素が遊離し、後述の蒸留機構50における蒸留により、アンモニアを分離、回収することが可能になる。
【0075】
48wt%のNaOH水溶液が0.137Ton/hの割合で添加されたpH調整後の第二濃縮液2.817Ton/hは、全窒素(TN)23.1kg/h、全炭素(TC)0.65kg/h、総溶解固形物(TDS)130.4kg/hを含む。
【0076】
なお、pH調整後の第二濃縮液において、総溶解固形物(TDS)が、pH調整前の第二濃縮液よりも増加しているのは、pH調整のためにNaOHが添加されたことによるものである。
【0077】
なお、本発明のアンモニア回収装置100において、蒸留機構50に供給される第二濃縮液のpH値に上限はないが、通常はpHを12程度とすることにより、アンモニア態窒素を確実に遊離させて、蒸留が可能な状態とすることができる。
【0078】
また、本実施形態にかかるアンモニア回収装置100を構成する蒸留機構50は、第二濃縮機構30で濃縮してアンモニア態窒素の濃度を上昇させた第二濃縮液(本実施形態ではpH調整が行われた後の第二濃縮液)を蒸留して、缶出液である水と、第二濃縮液よりも高い濃度でアンモニアを含む留出ベーパとに分離する機構である。
【0079】
この蒸留機構50では、第二濃縮機構30で正浸透膜を用いて濃縮を行った第二濃縮液(すなわち、正浸透膜を用いてそれ以上に濃縮を行うことが有利ではない濃度にまでアンモニア態窒素の濃度が高められた第二濃縮液)の蒸留が行われることになるので、エネルギーを適切に使用して、高濃度のアンモニアを回収することが可能になる。
【0080】
蒸留機構50には、アルカリ添加液(pH調整後の第二濃縮液)が2.817Ton/hの割合で供給される。なお、アルカリ添加液(pH調整後の第二濃縮液)2.817Ton/hは、上述のように、全窒素(TN)23.1kg/h、全炭素(TC)0.65kg/h、総溶解固形物(TDS)130.4kg/hを含んでいる。
【0081】
そして、蒸留機構50に供給された2.817Ton/hのアルカリ添加液は、蒸留機構50において蒸留され、蒸留塔の塔頂から回収される留出ベーパ0.038Ton/hと、蒸留塔の塔底からの缶出液(アンモニア態窒素を含まない水)2.78Ton/hとに分離される。
【0082】
なお、留出ベーパ0.038Ton/hは、全窒素(TN)23.1kg/hを含み、全炭素(TC)および総溶解固形物(TDS)を含まない。
【0083】
留出ベーパ中の全窒素(TN)23.1kg/hは、NH3換算で28kg/hとなる。したがって、留出ベーパ中のNH3濃度は74wt%となる。
【0084】
74wt%と高い濃度でNH3を含む留出ベーパは、そのままで用いることも可能であり、また、蒸留塔の後段に吸収装置を設け、NH3を水で吸収させて常温で保管しやすい濃度のアンモニア水溶液とすることも可能である。
【0085】
一方、缶出液2.78Ton/hは、全窒素(TN)を含まず、全炭素(TC)0.65kg/h、総溶解固形物(TDS)130.4kg/hを含む。この缶出液は、特に水処理を行うことなく、または、必要に応じて水処理を行った後、工場排水などとして系外に排出することができる。
【0086】
上述のように、蒸留機構50に供給されるpH調整後の第二濃縮液は、NH3が遊離しているので、蒸留により確実に分離することが可能で、効率よくアンモニアの回収を行うことができる。
【0087】
なお、本実施形態にかかるアンモニア回収装置100において、缶出液は全窒素(TN)を含んでいないが、アンモニアの回収率に大きな影響がなく、系外に排出された後の水処理に負担をかけない程度の全窒素(TN)は含まれていてもよい。
また、缶出液が全窒素(TN)を含んでいても問題のないような工程に送られる場合などには、缶出液がある程度の全窒素(TN)を含んでいることが許容される場合がある。
【0088】
上述のように、本発明の実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、第一濃縮機構10と、嫌気性膜分離機構20と、第二濃縮機構30と、pH調整機構40と、蒸留機構50とを適切に組み合わせた構成を備えているので、全体として十分な省エネルギーを図りつつ、濃度の高いアンモニアを効率よく回収することが可能で、かつ、安定した操業を継続して行うことが可能なアンモニア回収装置を提供することができる。
【0089】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
100 アンモニア回収装置
10 第一濃縮機構
20 嫌気性膜分離機構
30 第二濃縮機構
40 pH調整機構
50 蒸留機構
【要約】      (修正有)
【課題】アンモニア態窒素および有機態窒素を含む被処理液から、アンモニアを効率よく回収する回収装置を提供する。
【解決手段】アンモニア態窒素および有機態窒素とを含有する被処理水を、第一正浸透膜により、第一透過液と、透過しない第一濃縮液とに分離する第一濃縮機構10と、第一濃縮液を嫌気性発酵させ、有機態窒素を分解してメタンガスとアンモニア態窒素に転換させ、嫌気性発酵処理液を、分離膜を用いた透過処理を行うことにより、分離膜を透過しない微生物含有液と、透過した分離膜透過液とに分離する嫌気性膜分離機構20と、分離膜透過液を、第二正浸透膜を用いて透過処理を行うことにより、透過した第二正浸透膜透過液と、透過せず、アンモニア態窒素の濃度が上昇した第二濃縮液とに分離する第二濃縮機構30と、第二濃縮液を蒸留して、缶出液と、高い濃度でアンモニア態窒素を含む留出ベーパとに分離する蒸留機構50とを備えた構成とする。
【選択図】図1
図1