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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】畜肉処理用製剤
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/08 20060101AFI20231129BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20231129BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20231129BHJP
   A23B 4/06 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
A23B4/08 A
A23B4/08 B
A23B4/08 D
A23L13/00 A
A23L13/40
A23B4/06 501B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020210962
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022097803
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】519250992
【氏名又は名称】株式会社FDJ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大和 敏彦
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-179907(JP,A)
【文献】特開2012-019706(JP,A)
【文献】特開平07-322853(JP,A)
【文献】特開2007-061091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/08
A23L 13/00
A23L 13/40
A23B 4/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍畜肉を改質する畜肉処理用製剤において、
前記冷凍畜肉は、加熱処理されていない食用肉であって、
アルカリ味を抑えるための調味料及びpH調整剤として使用される有機酸塩と、
加工デンプンと、
焼成カルシウムと、
を含む畜肉処理用製剤。
【請求項2】
前記有機酸塩は、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1つである
請求項1に記載の畜肉処理用製剤。
【請求項3】
さらに、炭酸塩のアルカリ剤を含む
請求項1または2に記載の畜肉処理用製剤。
【請求項4】
前記加工デンプンは、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプン、アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプンの中から選ばれる少なくとも1つである
請求項1ないし3のうち何れか1項に記載の畜肉処理用製剤。
【請求項5】
さらに、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルタミン酸ナトリウム、核酸の中から選ばれる少なくとも1つを含む
請求項1ないし4のうち何れか1項に記載の畜肉処理用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍畜肉の食感や風味を改良する畜肉処理用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
畜肉の利用においては、本来は冷凍工程を経ない精肉が、最も素材そのものの風味、肉組織のジューシーさ、食感などを保っていて、嗜好性が良いとされている。一方で、冷凍肉が広く利用されている。冷凍肉では、長期間の冷凍により肉の組織内の水分が氷結晶となって成長し、組織を傷つけ、解凍時には肉汁として溶出するため、肉自体が乾燥し食感が悪くなる。味の点でも良好な肉の味を持つ肉汁が排出されてしまい、本来の肉の旨味を失うことが多い。
【0003】
このような問題を解決するために、冷凍畜肉には、畜肉処理用製剤を添加することがある。畜肉処理用製剤には、アルカリ剤を使用したものがある。この種の畜肉処理用製剤は、アルカリ剤によってpHを上げることで、保水力を高め、冷凍により劣化した肉の食感を改良することができる。特許文献1の畜肉処理用製剤は、グルコン酸、乳酸カルシウム、および、アルカリ剤を使用することで肉の繊維感のある食感を維持しつつ、異風味、金属味などのアルカリ味を発生させないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5882792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷凍畜肉では、より精肉に近い食感や風味が求められているところ、特許文献1のような配合比を調整するだけでは、食感やアルカリ異風味の発生を抑制しきることは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための畜肉処理用製剤は、冷凍畜肉を改質する畜肉処理用製剤において、前記冷凍畜肉は、加熱処理されていない食用肉であって、アルカリ味を抑えるための調味料及びpH調整剤として使用される有機酸塩と、加工デンプンとを含む。
上記畜肉処理用製剤において、前記有機酸塩は、例えば、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1つである。
【0007】
上記畜肉処理用製剤において、さらに、炭酸塩のアルカリ剤を含むものであってもよい。
上記畜肉処理用製剤において、前記加工デンプンは、例えば、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプン、アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプンの中から選ばれる少なくとも1つである。
【0008】
上記畜肉処理用製剤において、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルタミン酸ナトリウム、核酸の中から選ばれる少なくとも1つを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷凍工程を経ない畜肉の風味や食感に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】豚肩ロース肉の調理工程を説明する工程図。
図2】牛肉の調理工程を説明する工程図。
図3】鶏肉の調理工程を説明する工程図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明が適用され畜肉処理用製剤について説明する。
本発明が適用された畜肉処理用製剤は、冷凍畜肉を改質するものであって、冷凍前または冷凍畜肉を解凍した後に添加される。その後、畜肉は、そのまま加熱処理されて使用される。または、その後、再度冷凍保存され、流通後、解凍加熱処理して使用される。このような畜肉処理用製剤は、冷凍畜肉を改質することで、冷凍工程を経ない精肉の風味や食感に近づけることができる。
【0012】
本発明が適用された畜肉処理用製剤は、有機酸塩と、加工デンプンと、焼成カルシウムとを含んでいる。
畜肉の保水性は、筋タンパク質の状態に左右され、pH5付近で保水性は最小となり、それより酸性側、あるいはアルカリ側にすることで保水性が上がる。畜肉の保水性向上や食感改良に使われる素材の一つとして、焼成カルシウムがある。また、アルカリ剤としては、焼成カルシウムに加えて、炭酸水素ナトリウム(重曹)など炭酸塩のアルカリ剤も併用できる。
【0013】
焼成カルシウムは、水に溶けると強いアルカリ性を示す。アルカリ性になる過ぎると、肉のタンパク質が分解して異風味、金属味などのアルカリ味が生じることから、焼成カルシウムに種々の有機酸塩を組み合わせることで、緩衝作用により、強アルカリに行き過ぎることを抑えることができる。本発明が適用された畜肉処理用製剤では、強アルカリ剤、有機酸塩の組み合わせで、pHを制御しつつ、ここに、調味料としての効果をもつ有機酸塩を使用することで、pHの変化を適切な範囲に制御して保水性を維持しつつ、肉をアルカリ処理したときに生じるアルカリ味が感じられないように調味のバランスをとるようにしている。
【0014】
ここで、有機酸塩は、味の付与または味質の調整など味覚の向上または改善のため調味料として使用される有機酸塩であって、食品衛生法の中で調味料として表示できるものが使用される。また、有機酸塩には、pH調整剤としていわゆるバッファー機能のために使用されるものもある。ここで使用される有機酸塩としては、少なくとも調味料機能を有するものが選ばれ、さらに好ましくは調味料機能とpH調整機能を合わせもつものが選ばれる。具体的には、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1つが好ましく、この中でも、特に、焼成カルシウムで処理した畜肉の異風味やアルカリ味が感じられないように調味し、かつ、適度なバッファー機能をもつものとして、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウムの3種の中から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0015】
なお、調味のバランスのために、塩化ナトリウム(食塩)、塩化カリウム、グルタミン酸ナトリウム、核酸(5´-リボヌクレオチドナトリウムなど)を併用してもよい。
焼成カルシウムは、アルカリ剤として使用され、一例として、貝殻焼成カルシウムが好ましい。なお、アルカリ剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)などの炭酸塩のアルカリ剤を併用してもよい。
【0016】
また、焼成カルシウムと有機酸塩を組み合わせて保水性と味の点で改善を図った場合でても、加熱調理するときのドリップの溶出を抑える必要がある。冷凍畜肉は、冷凍の過程で氷結晶が成長して肉の組織を傷つけ、解凍時にドリップがでてしまうこと、また、解凍後にアルカリ処理や調味液処理で肉組織に水分を抱かせたとしても、肉の組織が傷付いてしまっているので最終的に加熱調理したときに、かなりのドリップ(肉汁)が流出して、食感と味の低下を招く。本発明が適用された畜肉処理用製剤では、水と親和性がある加工デンプンを併用することで、保水力を向上、ドリップの流出を抑制している。
【0017】
ここで、加工デンプンとしては、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプン、アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプンなどの中から選ばれる少なくとも1つが好ましく、この中でも、特に、酢酸デンプンとリン酸架橋デンプンが好ましい。
【0018】
以上のように構成される畜肉処理用製剤は、粉で直接畜肉と混合しても良いし、事前に水で溶いてから混合してもよい。また、タンブリング、インジェクションといった添加方法で加えてもよい。この後、畜肉は、冷凍保存され、解凍して加熱処理して使用される。
【0019】
本発明が適用された実施例1の畜肉処理用製剤は、下記表1に示す構成を備えている。
【0020】
【表1】
【0021】
すなわち、実施例1における畜肉処理用製剤は、有機酸塩として、グルコン酸カリウムおよびリンゴ酸ナトリウムを使用し、調味のバランスのために、核酸を併用している。また、加工デンプンとして、酢酸デンプンを使用している。ここで使用する焼成カルシウムは、貝殻焼成カルシウムである。
【0022】
ここでは、米国産豚肩ロース肉(チルド)を用いて豚ステーキ(トンテキ)を調理した。その工程図を図1に示す。そして、豚肩ロース肉に対して、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%の畜肉処理用製剤と、0.3質量%の食塩および0.1質量%の白こしょうを肉重量の10質量%の水に溶かして豚肩ロース肉と混合した。なお、比較のため、製剤を添加せず食塩と白こしょうのみを肉重量の10質量%の水に溶かして肉と混合したコントロールを用意した。
【0023】
まず、豚肩ロース肉を20mm厚にスライスし、原料肉重量を計量し(工程1)、ジャガードを使用してテンダライズする(工程2)。すなわち、味付けをし易くする目的で、針状の刃を刺し通すことによって肉の筋を切断する。次いで、豚肩ロース肉に対して、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%の畜肉処理用製剤と、0.3質量%の食塩および0.1質量%の白こしょうを肉重量の10質量%の水に溶かしたものを添加し、常圧、5rpm、25分の条件でタンブリング処理をする(工程3)。これにより、豚肩ロース肉と畜肉処理用製剤が混合される。コントロールとしては、製剤を添加せず食塩と白こしょうのみを肉重量の10重量%の水に溶かして加え同様の処理(工程3)を行なった。
【0024】
この後、タンブリング処理後の豚肩ロース肉は、1枚ずつ小分けにされ、肉重量に対して6.65質量%のラードを添加し(工程4)、脱気を60秒行って真空包装する(工程5)。これにより、豚肩ロース肉の肉組織に対して畜肉処理用製剤が吸収される。
【0025】
次いで、90℃で20分間,中心温度が75℃以上となるようにスチーム処理を行い(工程6)、その後、-30℃で1時間急速冷凍し(工程7)、冷凍品を作成した(工程8)。
【0026】
調理時には、袋のまま流水解凍し(工程9)、フライパンで、中火、片面1分20秒ずつの条件で焼成する(工程10)。そして、調理後の豚肩ロース肉の重量を測定する(工程11)。その後、試食を行い肉の食感確認を行った(工程12)。試食時のパネラは、10人である。
【0027】
試食では、食感、歩留まりを比較した。歩留まり(%)は、(加熱後の重量(工程11))÷(処理前の原料肉重量(工程1))×100で算出した。その結果を、下記の表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、畜肉処理用製剤を添加した場合は、コントロールより歩留まりが向上しており、また、畜肉処理用製剤の分量が多いほど、柔らかくジューシーな風味や食感が得られ、歩留まりが向上することを確認できる。
【0030】
本発明が適用された実施例2,3および比較例1,2の畜肉処理用製剤は、下記表3に示す構成を備えている。
【0031】
【表3】
【0032】
すなわち、実施例2,3の畜肉処理用製剤は、有機酸塩として、クエン酸三ナトリウムおよびリンゴ酸ナトリウムを使用し、調味のバランスのために、グルタミン酸ナトリウムおよび核酸を併用している。また、加工デンプンとして、酢酸デンプンを使用している。比較例1,2では、一般に保水力があるとされるトレハロースを酢酸デンプンの代わりに使用している。
【0033】
ここでは、米国産冷凍牛肉をスライスし牛丼の具のようなものを調理した。その工程図を図2に示す。そして、冷凍牛肉に対して、2.0質量%の畜肉処理用製剤を、肉重量の20質量%の水に溶かして牛肉と混合した。なお、比較のため、肉重量の20質量%の水のみを牛肉に加えたコントロールを用意した。
【0034】
冷凍牛肉を解凍し(工程21)、スライサで1.5mm厚にスライスし(工程22)、切片をポリエチレン製の袋に振り分け(工程23)、各袋の原料肉重量を計量する(工程24)。そして、原料肉に対して2.0質量%の畜肉処理用製剤を計量し(工程25)、原料肉に対して20質量%の水で溶解分散させる(工程26)。そして、原料肉の入った袋に水に溶解した畜肉処理製剤を入れて充填し、真空包装し(工程27)、ショックフリーザーで急速冷凍する(工程28)。コントロールとしては製剤を添加せず肉重量の20質量%の水のみを牛肉に加えて同様の処理(工程27、28)を行った。
【0035】
調理時には、袋のまま流水解凍し(工程29)、トレイおよび金網上において2分間液切りをした(工程30)。
一方、調味のため、処理後の肉重量に対して30%の調味液を計量し(工程31)、肉に配合し(工程32)、鍋に入れ中火で6分加熱する(工程33)。そして、袋詰めして水槽中で冷却する(工程34)。トレイおよび金網上に開封し、2分間液切りを行う(工程35)。そして、調理後の肉の重量を測定する(工程36)。その後、試食を行い食感を確認した(工程37)。試食時のパネラは、10人である。
【0036】
試食では、食感、歩留まりを比較した。歩留まり(%)は、(加熱後の重量(工程36))÷(処理前の原料肉重量(工程24))×100で算出した。その結果を、下記の表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
表4より、実施例2,3の畜肉処理用製剤を添加した場合は、コントロールを添加した場合より柔らかくジューシーな風味や食感が得られ、歩留まりが向上することを確認できる。また、酢酸デンプンの分量が多いほど、ジューシーであり、歩留まりが向上することを確認できる。また、比較例1,2では、酢酸デンプンに代わってトレハロースを使用しているため、実施例2,3よりもジューシーさや歩留まりが低下していることが確認できる。
【0039】
本発明が適用された実施例4,5,6の畜肉処理用製剤は、下記表5に示す構成を備えている。
【0040】
【表5】
【0041】
すなわち、実施例4,5,6の畜肉処理用製剤は、有機酸塩として、クエン酸三ナトリウムおよびリンゴ酸ナトリウムを使用し、調味のバランスのために、グルタミン酸ナトリウムおよび核酸を併用している。また、加工デンプンとして、実施例4ではリン酸架橋デンプンを使用し、実施例5,6では酢酸デンプンを使用している。さらに、アルカリ剤として、焼成カルシウムの他に、実施例4では炭酸水素ナトリウム(重曹)を添加し、実施例5では炭酸水素ナトリウム(重曹)および炭酸ナトリウムを添加している。
【0042】
そして、ここでも、米国産冷凍牛肉を図2に示すように調理した。その後、試食を行い食感を確認した。試食時のパネラは、10人である。
試食では、食感、歩留まりを比較した。歩留まり(%)は、(加熱後の重量(工程36))÷(処理前の原料肉重量(工程24))×100で算出した。その結果を、下記の表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
表6より、実施例4,5,6の畜肉処理用製剤を添加した場合は、コントロールより柔らかくジューシーな風味や食感が得られ、歩留まりが向上することを確認できる。また、加工デンプンとしては、リン酸架橋デンプンを使用しても酢酸デンプンを使用しても、ほぼ同等なジューシーさや歩留まりとなることを確認することができる。
【0045】
本発明が適用された実施例7,8および比較例3の畜肉処理用製剤は、下記表7に示す構成を備えている。
【0046】
【表7】
【0047】
すなわち、実施例7の畜肉処理用製剤は、有機酸塩として、グルコン酸カリウムおよびリンゴ酸ナトリウムを使用し、加工デンプンとして、酢酸デンプンを使用し、アルカリ剤として、焼成カルシウムを添加している。実施例8の畜肉処理用製剤は、有機酸塩として、クエン酸三ナトリウムおよびリンゴ酸ナトリウムを使用し、加工デンプンとして、酢酸デンプンを使用し、アルカリ剤として、焼成カルシウムの他に、炭酸水素ナトリウム(重曹)および炭酸ナトリウムを添加している。比較例3の畜肉処理用製剤は、有機酸塩として、グルコン酸カリウムを使用し、加工デンプンを使用せず、アルカリ剤としても、強アルカリの焼成カルシウムを使用せず、炭酸ナトリウムを添加しているだけである。
【0048】
ここでは、冷凍鶏肉(もも肉)をオーブンで調理した。その工程図を図3に示す。そして、実施例7と実施例8については、冷凍鶏肉に対して、1.0質量%の畜肉処理用製剤と、0.3質量%の食塩および0.1質量%の白こしょうを肉重量の22.5質量%の水に溶かして鶏肉と混合した。また、比較例3については、冷凍鶏肉に対して、0.3質量%の畜肉処理用製剤と、0.3質量%の食塩および0.1質量%の白こしょうを肉重量の22.5質量%の水に溶かして鶏肉と混合した。なお、比較のため、製剤を添加せず食塩と白こしょうのみを肉重量の22.5質量%の水に溶かして肉と混合したコントロールを用意した。
【0049】
冷凍鶏肉を解凍し、肉重量を計量する(工程51)。そして、鶏肉に対して畜肉処理用製剤、食塩、白こしょうを溶解した液を加えてタンブリング処理する(20rpm、30分)(工程52)。コントロールとしては、製剤を添加せず食塩と白こしょうのみを肉重量の22.5重量%の水に溶かして加え同様の処理を行なった。次いで、ショックフリーザーで急速冷凍する(工程53)。そして、翌日以降に解凍する(工程54)。その後、200℃、14分、芯温80℃以上の条件で焼成処理を行う(工程55)。そして、調理後の鶏肉の重量を測定する(工程56)。その後、試食を行い肉の食感確認を行った(工程57)。試食時のパネラは、10人である。
【0050】
試食では、食感、歩留まりを比較した。歩留まり(%)は、(加熱後の重量(工程56))÷(処理前の原料肉重量(工程51))×100で算出した。その結果を、下記の表8に示す。
【0051】
【表8】
【0052】
表8より、実施例7,8の畜肉処理用製剤を添加した場合は、コントロールを添加した場合より柔らかくジューシーな風味や食感が得られ、歩留まりが向上することを確認できる。また、加工デンプンや強アルカリの焼成カルシウムを含まない比較例3よりも、ジューシーであり、歩留まりが向上することを確認できる。
【0053】
以上のような畜肉処理用製剤は、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)焼成カルシウムを使用してアルカリ性にすることで、保水性を上げ、これに伴うアルカリ味を有機酸塩を組み合わせることで、緩衝作用により、アルカリ味が感じられないようにすることができる。加えて、加工デンプンを使用して、調理時のドリップの流出を抑制できる。これにより、冷凍工程を経ない畜肉の風味や食感に近づけることができる。
【0054】
(2)有機酸塩として、調味料として使用される、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1つを使用することで、アルカリ味を効果的に抑えることができる。
【0055】
(3)焼成カルシウムに炭酸塩のアルカリ剤を併用することで、アルカリに行き過ぎないようにpHを調整することができる。
(4)加工デンプンは、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプン、アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプンの中から選ばれる少なくとも1つを使用することで、効果的に調理時のドリップの流出を抑制できる。
【0056】
(5)塩化ナトリウム(食塩)、塩化カリウム、グルタミン酸ナトリウム、核酸の中から選ばれる少なくとも1つを併用することで、調味バランスをとることができる。
なお、上記実施形態は、さらに、以下のように適宜変更して実施することもできる。
【0057】
・調味バランスをとるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルタミン酸ナトリウム、核酸以外の調味料を添加してもよい。
・加工デンプンとしては、酢酸デンプン、ヒドロキシプロピル化デンプン、アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン以外のものを使用してもよい。
【0058】
・アルカリ剤として、炭酸塩以外のものを使用してもよい。
・有機酸塩としては、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム以外のものであってもよい。
【0059】
・冷凍畜肉としては、牛肉、豚肉、鶏肉以外の、ラム肉、マトン肉などの食用肉であってもよい。
図1
図2
図3