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特許7393003筋電装置、筋電測定方法、プログラムおよび記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】筋電装置、筋電測定方法、プログラムおよび記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/389 20210101AFI20231129BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20231129BHJP
   A61B 5/276 20210101ALI20231129BHJP
   A61B 5/296 20210101ALI20231129BHJP
   A61B 5/397 20210101ALI20231129BHJP
【FI】
A61B5/389
A61B5/256 220
A61B5/276 200
A61B5/296
A61B5/397
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020513469
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019016047
(87)【国際公開番号】W WO2019198828
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018078033
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】山崎 弘嗣
(72)【発明者】
【氏名】コスタ ガルシア, アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】イトコネン, マティ, サカリ
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二郎
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0172722(US,A1)
【文献】特開2017-169791(JP,A)
【文献】特開2017-018205(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105105724(CN,A)
【文献】特表2013-500108(JP,A)
【文献】特開2008-086361(JP,A)
【文献】特開2004-057704(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0108889(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/24-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性の基材と、行列状に配置された複数の電極と、伸縮性回路基板とを備えた筋電装置であって、
前記基材の第一面には前記複数の電極が露出しており、
前記基材の第二面には前記伸縮性回路基板が設けられており、
前記複数の電極は、前記基材に設けられた開口部を通じ前記伸縮性回路基板と電気的に接続されており、
前記伸縮性回路基板は、行列状に配置された配線を有し、電気回路的にシリアルに接続されており、前記複数の電極の全ての組み合わせについて電極間の電位差に基づく筋電信号をシリアル化して外部に出力する、筋電装置。
【請求項2】
前記伸縮性回路基板は有機トランジスタ素子を備えており、
前記筋電信号は、前記有機トランジスタ素子によって増幅される、請求項1に記載の筋電装置。
【請求項3】
前記伸縮性回路基板は、増幅回路とA/D変換回路をさらに備える、請求項2に記載の筋電装置。
【請求項4】
前記伸縮性回路基板は、有機薄膜光起電装置をさらに備える、請求項2または3に記載の筋電装置。
【請求項5】
前記伸縮性回路基板は、伸縮性エラストマーで形成された基板及び伸縮性導体を含み、
任意の方向に15%以上伸長または収縮する、請求項1からのいずれか1項に記載の筋電装置。
【請求項6】
前記伸縮性回路基板の表面には、伸縮性の防水層が設けられている、
請求項1からのいずれか1項に記載の筋電装置。
【請求項7】
伸縮性の基材と、前記基材の第一面に露出している行列状に配置された複数の電極と、前記基材の第二面に設けられた伸縮性回路基板とを備えた筋電装置が行う筋電測定方法であって、
前記伸縮性回路基板が前記複数の電極の全ての組み合わせについて電極間の電位差に基
づく筋電信号をシリアル化して外部に出力するステップを含む、
ことを特徴とする筋電測定方法。
【請求項8】
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を出力するステップでは、電極間から取得した信号から独立な成分を抽出することで、表層筋の筋電信号、および中層筋または深層筋の筋電信号を出力する、
請求項に記載の筋電測定方法。
【請求項9】
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を出力するステップでは、前記複数の電極のうち、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号を表面筋電の信号として出力し、隣接する電極とは異なる電極の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号を深部筋電の信号として出力する、
請求項またはに記載の筋電測定方法。
【請求項10】
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を増幅回路によってさらに増幅して出力する際に、前記複数の電極のうち、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号の増幅率と、隣接する電極とは異なる電極の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号の増幅率とは、異なる、
請求項からのいずれか1項に記載の筋電測定方法。
【請求項11】
請求項から10のいずれか1項に記載の筋電測定方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋電位を測定するための筋電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筋電位は、運動制御の最終出力であり、脳・神経系の様々な変化が如実に表れる。筋電解析によりこのような変化を捉えることで、動作の熟練度や運動麻痺からの回復具合などを定量化することができる。このような手法は、リアルタイムフィードバックによる効率的なリハビリや高齢者の転倒危険度計測など、日常生活や臨床現場などに適用することでより有用なシステムへ発展可能である。
【0003】
日常生活や臨床現場へ適用する際の課題として、操作性の問題がある。たとえば、良質な筋電測定を行うためには、筋肉を特定して電極を正しく設置する必要がある。しかしながら、設置に時間がかかる。また、計測に必要な筋肉位置などの知識が求められるため、リハビリ現場での設置や患者本人による設置は困難である。
【0004】
従来の筋電装置として、次のような提案がある。特許文献1,2は、被験者が装着可能な筒状の装置であり、装置を被験者に固定する固定部と、生体電位を計測する計測部と、固定部を所定の位置に固定したときに計測部が所望の計測位置に配置される大きさで固定部と計測部の間に形成された位置調整部とを備える生体電位計測装置が開示される。しかしながら、このような装置であっても固定部を所定の位置に固定する必要があり、正しい位置に固定されなければ正確な計測は行えない。
【0005】
また、特許文献3は、体肢の広い範囲の筋電信号を、体動による体肢の変形や着脱操作にかかわらずに正しく検出することを目的として、環状の装着バンドと、装着バンドに配置された複数の筋電検出部と、隣り合う筋電検出部を接続する接続ケーブルであって、隣り合う筋電検出部間の距離変化に対応して屈曲形状が変化する屈曲部を有する接続ケーブルとを備える筋電センサを開示する。しかしながら、この装置は大がかりであり、日常での手軽な計測には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-83186号公報
【文献】特開2016-83187号公報
【文献】特開2016-131689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような従来技術の課題を考慮し、本発明は、専門的な知識が無い者であっても容易に使用でき、臨床現場や日常生活での使用に適した筋電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、伸縮性の基材と、複数の電極と、伸縮性回路基板とを備えた筋電装置であって、
前記基材の第一面には前記複数の電極が露出しており、
前記基材の第二面には前記伸縮性回路基板が設けられており、
前記複数の電極は、前記基材に設けられた開口部を通じ前記伸縮性回路基板と電気的に接続されており、
前記伸縮性回路基板は、前記複数の電極間の電位差に基づく筋電信号を出力することを特徴とする。
【0009】
このように基材だけでなく回路基板も伸縮性としたことで、本態様に係る筋電装置は、身体の動きに応じて自由に伸縮する。また、装置自体の厚さが薄くなり、身に着けたときに邪魔にならない。基材を筒状としたり、ファスナーやボタンなどの締結部により部材の端部を締結して筒状としたりすることで、胴体、手、脚などに装着して利用することができる。なお、本態様における伸縮性の基材は、例えば、布(織布および不織布を含む)、ゴムシート、紙(植物繊維および/または合成樹脂繊維(例えばポリプロピレン繊維)製)であってよい。
【0010】
また、本態様において、前記伸縮性回路基板は有機トランジスタ素子を備えており、前記筋電信号は、前記有機トランジスタ素子によって増幅されることも好ましい。このように検出回路が出力した筋電信号をすぐに増幅することにより、モーションノイズによる影響を最小限とすることができる。また、このように検出回路が出力した筋電信号をすぐに増幅することにより、本態様に係る筋電装置は、微弱な筋電信号も拾うことができるため、表層筋(浅層筋)からの表面筋電の信号だけでなく、中層筋や深層筋からの深部筋電の信号も計測することができる。
【0011】
また、本態様において、前記伸縮性回路基板は、増幅回路とA/D変換回路をさらに備えることも好ましい。増幅回路は有機トランジスタ素子から出力される筋電信号を増幅し、A/D変換回路は、増幅された前記筋電信号をデジタル信号に変換する。このように増幅後の筋電信号をデジタル信号とすることで、ノイズに対してより頑強となる。
【0012】
また、本態様において、前記伸縮性回路基板は、有機薄膜光起電装置をさらに備えることも好ましい。有機薄膜起電装置を電源として利用することで、バッテリーが不要となる。
【0013】
本態様において、電極は複数設けられる。伸縮性回路基板は、複数の電極の間の電位差に基づいて筋電信号を出力する。ここで、「複数の電極の間」とは、複数の電極の任意の組み合わせの間であってもよいし、その一部(たとえば、隣接する電極の間)でもよい。電極の数は特に限定されないが、数が多いほど電極の密度が高くなり、測定対象の筋肉からの電極のずれを気にすることなく装着が可能になる。また、高密度な筋電情報により、より多くの情報を引き出すことが可能となる。
【0014】
本態様において、前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されてもよい。そして、前記伸縮性回路基板は、前記複数の電極のうち、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号を出力してもよいし、前記複数の電極の全ての組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号を出力してもよい。中層筋や深層筋は、表層筋とは異なる方向に走っている。本発明の実施態様に係る筋電装置において、電極間から取得した信号から独立な成分を抽出することで、表層筋のみならず、中層筋や深層筋の筋電信号(活動信号)も得ることができる。独立な成分の抽出は、例えば、独立成分分析等の手法により行えばよい。
【0015】
本態様において、前記伸縮性回路基板は、伸縮性エラストマーで形成された基板及び伸縮性導体を含み、任意の方向に15%以上伸長または収縮することが好ましい。この程度の伸縮性を有することにより、例えば、衣服として身体に装着することができる。
【0016】
本態様において、前記伸縮性回路基板の表面には、伸縮性の防水層(撥液層)が設けられていることも好ましい。防水層を有することで、水洗いが可能になる。また、防水層も伸縮性を有することで、装置全体の伸縮性が損なわれない。
【0017】
本発明は、上述の筋電装置を用いた筋電測定方法として捉えることもできる。また、本発明は、これらの方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムとして捉えることもできる。また、本発明は、当該コンピュータプログラムを非一時的に記憶したコンピュータ可読記憶媒体として捉えることもできる。
【0018】
本発明の一態様に係る筋電測定方法は、
伸縮性の基材と、前記基材の第一面に露出している複数の電極と、前記基材の第二面に設けられた伸縮性回路基板とを備えた筋電装置が行う筋電測定方法であって、
前記伸縮性回路基板は、前記複数の電極間の電位差に基づく筋電信号を出力するステップを含む、ことを特徴とする。
【0019】
本態様に係る筋電測定方法は、有機トランジスタ素子によって前記筋電信号を増幅するステップをさらに含んでもよい。
【0020】
本態様に係る筋電測定方法は、前記有機トランジスタ素子から出力される筋電信号を増幅回路によってさらに増幅し、増幅後の筋電信号をA/D変換回路によってデジタル信号に変換するステップをさらに含んでもよい。
【0021】
本態様に係る筋電測定方法において、
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を出力するステップでは、前記複数の電極のうち、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号を出力してもよい。
【0022】
本態様に係る筋電測定方法において、
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を出力するステップでは、前記複数の電極の任意の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号を出力してもよい。
【0023】
本態様に係る筋電測定方法において、
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を出力するステップでは、電極間から取得した信号から独立な成分を抽出することで、表層筋の活動信号(筋電信号)、および中層筋または深層筋の活動信号(筋電信号)を得てもよい。
【0024】
本態様に係る筋電測定方法において、
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を出力するステップでは、前記複数の電極のうち、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号の出力により表面筋電の信号を得、それとは異なる電極の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号の出力により、深部筋電の信号を得てもよい。
【0025】
本態様に係る筋電測定方法において、
前記複数の電極は、前記伸縮性回路基板上に、列状に配置されており、
前記筋電信号を増幅回路によってさらに増幅して出力する際に、
前記複数の電極のうち、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号の増幅率と、
それとは異なる電極の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号の増幅率は、異なっていてもよい。
【0026】
本発明の一態様に係るコンピュータプログラムは、上述した筋電測定方法の少なくとも一部のステップをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0027】
本発明の一態様に係るコンピュータ可読記憶媒体は、上述のコンピュータプログラムを非一時的に記憶したコンピュータ可読記憶媒体である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、専門的な知識が無い者であっても容易に使用でき、臨床現場や日常生活での使用に適した筋電装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る筋電装置の構成を示す図。
図2】実施形態に係る筋電装置の構成を示す図。
図3】実施形態に係る伸縮性回路基板の回路構成を示す図。
図4】実施形態に係る伸縮性回路基板の構成を示す図。
図5】実施形態に係る伸縮性回路基板の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施形態)
本発明の実施形態に係る筋電装置(筋電計;筋電計測装置)は、多数の電極を有し、電極間の電位差に基づく筋電信号を高密度に取得することで、電極の配置が適当であっても所望の筋電信号を取得可能とする。また、装具自体に筋電信号の増幅やデジタル変換を行うための回路を設けることで、ノイズによる影響を最小限とする。また、この回路を伸縮性のある薄膜基板で構成することで、装具を装着したときの煩わしさを解消し、常用も可能とする。また、回路基板に防水性を持たせることで、水洗いも可能とする。
【0031】
以下では、図面を参照しながら、この発明を実施するための形態を説明する。以下では、上腕に巻き付けて上腕二頭筋、上腕三頭筋、上腕筋などの筋電位を測定するための筋電装置1を説明するが、測定対象部位は上腕に限られず、人体の任意に部位であって構わない。
【0032】
図1A,1Bおよび図2は、本実施形態に係る筋電装置1の構成を示す図である。図1Aは、被験者の筋肉に接触させる側(内側)の面(第一面)の筋電装置1の構成を示し、図1Bは、図1Aと反対側(外側)の面(第二面)の筋電装置1の構成を示す。図2は、筋電装置1の使用する際の状態を示す図である。
【0033】
図に示すように、本実施形態に係る筋電装置1は、布基材2と、内側の面に配置された複数の電極3と、外側の面に配置された複数の伸縮性回路基板6を設けられる。
【0034】
布基材2は、平ゴムやタック編み生地などの伸縮性の高い布・生地からなる。布基材2は、測定部位に巻き付けたときに、電極3の位置がずれない程度の力で被験者を締め付けて電極3の位置を固定する。上腕に巻き付けて固定するために、布基材2の縁部にはファスナー4a,4bが設けられる。本実施形態では上腕に巻き付けて使用することを想定するので、布基材2は、円筒状にした際の周方向に相当する辺(ファスナー4a,4bが設けられない側の辺)が180mm、軸方向に相当する辺(ファスナー4a,4bが設けられる側の辺)が100mm程度の大きさを有する。本実施形態では、布基材2は、周方向が180mmから200mmあるいは230mmまで伸張する。
【0035】
ファスナー4a,4bは筋電装置1を上腕に巻き付けて円筒状に固定するために用いられる。本実施形態では、ファスナー(線ファスナー)を利用しているが、面ファスナーやボタンなどを用いて固定してもよいし、布基材2を円筒状に形成しても構わない。
【0036】
電極3は、布基材2の内側の面に表面が露出するように設けられる。電極3は、1列あたり5個の列状に配置され、5列分で合計20個が配置される。後述するように、本実施形態に係る筋電装置1は、各列の隣接する電極間の電位差を筋電信号として出力するので、1列あたり4チャンネル、合計で20チャンネルの出力が得られる。電極3は、金属製であってもよいし、導電性繊維を布基材2に編み込んだものでもよいし、導電性インクを布基材2に塗布(印刷)したものでもよい。
【0037】
電極3と伸縮性回路基板6は、布基材2に設けられた開口部5を通じて、通信線によって電気的に接続される。
【0038】
伸縮性回路基板6は、布基材の外側の面に設けられる。本実施形態では、電極3の1列に対応して1つの伸縮性回路基板6が設けられる。伸縮性回路基板6は、電極間の電位差の基づく筋電信号を検出し、増幅およびデジタル変換し、増幅後のデジタル筋電信号をシリアル化して外部に出力する。伸縮性回路基板6は、伸縮性および防水性を有する。複数の伸縮性回路基板6は、電気回路的にシリアルに接続されており、各伸縮性回路基板6が検出する筋電信号をシリアル化して、通信用回路基板7に出力する。通信用回路基板7は、例えば、有線通信または無線通信により、筋電信号を外部のコンピュータに出力する。通信用回路基板7も、伸縮性回路基板6と同様に伸縮性及び防水性を有する。
【0039】
図3は、伸縮性回路基板6の回路構成を示す。伸縮性回路基板6は、列状に配置された複数の電極のうちの隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号を増幅する有機トランジスタ素子61、増幅された筋電信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路62、デジタル化されたそれぞれの筋電信号を外部に出力する出力回路63を備える。伸縮性回路基板6は、有機トランジスタ素子61とA/D変換回路62の間に、有機トランジスタ素子61によって増幅された筋電信号をさらに増幅する増幅回路を備えてもよい。また、伸縮性回路基板6は、有機薄膜太陽電池(有機薄膜光起電装置)64も備え、有機トランジスタ素子61、A/D変換回路62、出力回路63に電力を供給する。伸縮性回路基板6は、マイクロコンピュータを備え、当該マイクロコンピュータがプログラムを実行することによって本明細書中で説明される信号処理の少なくとも一部を実施しても構わない。
【0040】
伸縮性回路基板6の各回路は、防水性(撥液性)を有するフレキシブルなシートデバイスとして構成される。図4を参照して回路の構成を説明する。図に示すように、回路は、防水層35、基板10、電子デバイス層20、防水層30、ガスバリア層40が順に積層されて形成される。
【0041】
基板10は、伸縮性エラストマー、たとえばポリイミドからなる。ポリイミド層は、耐熱性や柔軟性などに比較的優れているため、薄膜電子デバイスに好適に使用できる。さらに、ポリイミド層は、ガスバリア性にも比較的優れているため、ガスバリア層として好適に使用できる。例えば、三井化学株式会社製のVICT-BnpやVICT-Cなどの透明ポリイミドは、光透過性(光の透過率)に比較的優れているため、高い光透過性が要求される太陽電池などに好適に使用できる。
【0042】
電子デバイス層20は、トランジスタ(有機トランジスタ素子)61、A/D変換回路62、出力回路63、太陽電池(有機薄膜太陽電池)64に応じて異なる構成を有する。図4には、太陽電池の場合の構成を記載している。この場合、電子デバイス層は、活性層(光電変換を行う光電変換層)23と、上下方向において活性層23を挟む上部電極(第1電極)25および下部電極(第2電極)21とを有する層を使用した。活性層(光電変換を行う光電変換層)23と、上下方向において活性層23を挟む上部電極(第1電極)25および下部電極(第2電極)21とを有する層を使用した。具体的には、発明者らは、下部電極21、電子輸送層22、活性層23、ホール輸送層24、及び、上部電極25がその順番で積層された電子デバイス層20を使用した。発明者らは、酸化亜鉛(ZnO)からなる厚さ30nmの層を電子輸送層22として使用し、PEDOT:PSSからなる厚さ10nmの層をホール輸送層24として使用し、酸化インジウムスズ(ITO)からなる厚さ90nmの層(透明電極)を下部電極21として使用し、銀(Ag)からなる厚さ100nmの層を上部電極25として使用した。そして、発明者らは、PNTz4T、PTzNTz、PTB7-Th、等のポリマー系有機物からなる厚さ130nmの層を活性層23として使用した。
【0043】
また、電子デバイス層20は、太陽電池以外の半導体デバイス層であってよく、たとえば、有機電気化学トランジスタ、有機電界効果トランジスタ、集積回路、センサ類とその検出回路、発電デバイス、照明デバイス、表示デバイス、蓄電デバイスなどであってもよい。半導体層は、有機材料、酸化物材料、アモルファスシリコン等の半導体材料を用いて形成されてよい。有機半導体材料がフレキシブル性や塗布性などから好適であるが、CIGSやCISなどの化合物半導体材料、あるいはペロブスカイト化合物材料などを用いてもよい。
【0044】
電子デバイス層20の表面には、撥液性(撥水性)に比較的優れた防水層30が塗布される。同様に、基板10の下側には防水層35が塗布される。なお、防水層35は、基板10と電子デバイス層20の間に設けられてもよい。
【0045】
防水層30、35は、耐熱性や柔軟性などに比較的優れている、完全フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素化樹脂共重合体、等のフッ素樹脂からなるフッ素樹脂層を用いることが好適である。さらに、フッ素樹脂層は、撥液性にも比較的優れているため、防水層として好適に使用できる。そして、非晶質性のフッ素樹脂は、光透過性に比較的優れているため、高い光透過性が要求される太陽電池などに好適に使用できる。一実施形態では、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のテフロン(登録商標) AF1600(非晶質性のフッ素樹脂)からなる厚さ360nmの層を、防水層30として用いる。
【0046】
防水層30、35を設けた時点で、熱処理あるいは乾燥処理を行うことが好ましい。例えば、ホットプレートを用いて、100℃の温度で30分間加熱する。これにより、防水層30は乾燥し電子デバイス層20に固定される。なお、加熱しなくても防水層30は自然感応によって固定されるため、加熱処理は省略してもよい。
【0047】
最後に、防水層30の表面に、ガスバリア性に比較的優れたガスバリア層40を形成する。KISCO株式会社製のパリレンなどのパラキシレン系ポリマー(芳香族炭化水素系樹脂)からなるパラキシレン系ポリマー層は、耐熱性、ガスバリア性、柔軟性、等に比較的優れているため、薄膜電子デバイスのガスバリア層として好適に使用できる。さらに、パラキシレン系ポリマー層は、凹凸追随性にも比較的優れているため、凹凸がある表面に均一に形成しやすい。一実施形態では、KISCO株式会社製のパリレンからなる厚さ1μmの層を、ガスバリア層40として用いる。KISCO株式会社製のパリレンには、dix-C、dix-D、dix-N、dix-HR、dix-SR、dix-NR、dix-SF、dix-CF、等がある。例えば、dix-SRからなるガスバリア層40を、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)により形成するとよい。
【0048】
以上のように、電子デバイス層20の上に防水層30を設け、さらにその上にガスバリア層40を有することで、電子デバイスの機能や伸縮性を損なうことなく、酸素や水蒸気に対する耐久性を向上させるだけでなく、水に対する耐久性も向上させることができる。これにより、電子デバイスの水洗い(洗濯)も可能となる。なお、防水層30とガスバリア層40の配置は逆にして、電子デバイス層20の上にガスバリア層40を設け、さらにその上に防水層30を設けても同様の効果が得られる。
【0049】
伸縮性回路基板6に伸縮性を持たせるために、例えば、マイクロメートル寸法の銀フレーク粉とフッ素ゴムとフッ素界面活性剤を混ぜて作製した伸縮性導体のペースト(導電性ペースト)を用いるとよい。また、伸縮性回路基板6に伸縮性を持たせるために、伸縮性回路基板6を伸縮させたり曲げたりしても電子デバイス層の面にひずみが係らない構造を採用することが好ましい。具体的には、各層の厚みやヤング率を適切に設計することで、構造体のひずみの中間位置が電子デバイス層と一致するようにする。なお、ひずみ中間位置とは、変形において面にストレスが加わらない位置である。このように構成することで、伸縮性回路基板6は、任意の方向に対して15%以上伸長あるいは収縮させても、機能を損なうことなく動作できる。
【0050】
本発明の一態様に係る伸縮性回路基板6について、図5を参照して構成を説明する。伸縮性回路基板6は、弾性を有する第1基材層11と、第1基材層11上に設けられた第1電極層31と、第1電極層31上に設けられた半導体層41と、半導体層41上に設けられた第2電極層50と、第2電極層上に設けられ、弾性を有する第2基材層70とを備える。第1基材層11と第1電極層31の間に弾性のない基材層12を設け、第2電極層50と第2基材層70の間に封止層60を設けてもよいが、基材層12および封止層60は省略してもよい。伸縮性回路基板6の厚さ方向において、一方の面101からの距離bが
【数1】

によって表される面が、前記厚さ方向において前記第1電極層31の中心と前記第2電極層50の中心との間に位置する。ここで、
nは、伸縮性回路基板6が備える層の数を示し、
Eiは、伸縮性回路基板6が備える層のうち、伸縮性回路基板6の前記一方の面の側からi番目の層の弾性率を示し、
ti及びtjは、それぞれi番目の層の厚さ及びj番目の層の厚さを示す。
【0051】
図5には7層構造(n=7)の伸縮性回路基板6を示しているが、上述のように基材層12および封止層60を省略して5層構造としてもよい。また、伸縮性回路基板6は5層構造や7層構造に限られず、任意の層数の構造として構わない。
【0052】
また、最外層であるE1とEnの弾性率が各々1GPa以下であることがより好適である。また、最外層の次の層である弾性のない基材層12と、封止層60は異なる材料による多層構造であってもよい。
【0053】
このようにして作製された伸縮性回路基板6は、布基材2の表面に接着剤で貼り付けたり、縫い付けたりして固定される。半導体層41として耐熱性の材料を用いた場合には、伸縮性回路基板6は布基材2にアイロンなどで加熱接着させることができる。
【0054】
本実施形態に係る筋電装置1は、電極が多数配置されているため測定対象の筋肉からの電極のズレを気にすることなく装着することが可能となる。また、高密度な筋電情報からはロコモティブシンドロームなどの運動系疾患の予測が可能である。
【0055】
また、有機トランジスタ素子を電極と一体化して装具に設けたことで、ノイズに対する耐性が向上する。筋電は動きながら計測するのが一般的であるため、微弱な筋電信号をモーションノイズから守るには、検出直後の筋電信号を増幅することが効果的である。
【0056】
また、電極は、伸縮性回路基板6と機械的に接続されていると、さらに好ましい。電極が、伸縮性回路基板6と電気的かつ機械的に接続されている場合、筋電装置の人体への密着度が向上するため、モーションノイズのさらなる低減が期待でき、また、微弱な筋電信号も検出しやすくなるため、表層筋(浅層筋)、中層筋および深層筋からの表面筋電および深部筋電の網羅的な計測が可能となる。
【0057】
また、伸縮性回路基板6は防水層を有しているため、水分に対する耐性もあり、洗濯が可能になる。筋電装置1は直接肌に触れる必要があるため、衛生面も考慮して洗濯ができることは有効である。
【0058】
(変形例)
上記の実施形態において、筋電信号は、列状に並べられた複数の電極のうちの隣接する電極間の電位差に基づく信号のみを取得している。しかしながら、より多くの電極の組み合わせについて電位差に基づく筋電信号を取得してもよい。例えば、1つの列に含まれる複数の電極の全ての組み合わせの電位差に基づいて筋電信号を取得してもよい。上述の例だと、1列に5個の電極があるので1列あたり10チャンネルの出力が得られ、5列で合計50チャネルの出力が得られる。あるいは、複数の電極の全ての組み合わせに基づく筋電信号を取得してもよい。上述の例では、合計で25個の電極があるので300チャネルの出力が得られる。異なる列に属する電極間の電位差を取得するためには、マトリクス状に配線を配置すればよい。
【0059】
上記の実施形態では、取得した筋電信号を有線通信で出力してもよいし無線通信で出力してもよい。また、筋電装置1に記憶装置(メモリ)を持たせ、測定した筋電信号を格納しておき、後から任意のタイミングで外部に出力するようにしても構わない。
【0060】
上記の実施形態では、伸縮性回路基板6を、電極の列に対応させて個別に設けているが、これら複数の回路を1つの基板として形成しても構わない。
【0061】
上記の実施形態では、ファスナー等によって装具を筒状に固定する形態であるが、サポータやシャツなどの形状であってもよい。
【0062】
上記の実施形態では、上腕を測定対象としているが、前腕、手指、頸部、胸部、腹部、背部、上肢、下肢など任意の筋肉を対象としてもよい。また、表面筋電だけでなく、深部筋や、心電、胃電位、腸電位などの計測にも同様に適用可能である。
【0063】
中層筋や深層筋の計測の場合、表層筋と異なり、筋繊維の走る方向を目で確認して筋電装置を装着することは困難である。そこで、上記の実施形態では、電極間から取得した信号から独立成分分析の手法等により独立な成分を抽出することで、表層筋のみならず、中層筋や深層筋の活動信号も得ることが可能である。
【0064】
上記の実施形態において、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号の出力により表面筋電の信号を得られる向きに本発明の筋電装置を装着した場合、それとは異なる電極の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号の出力により、深部筋電の信号を得てもよい。電極間の電位差に基づく筋電信号は、計測の目的に応じて種々の増幅率で増幅して出力してよい。深部筋電の信号は、表面筋電の信号と比較して微弱である。そこで、上記の実施態様において、隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号をある一定の増幅率で増幅させて出力した場合、それとは異なる電極の組み合わせの間の電位差に基づく筋電信号は、前記隣接する電極間の電位差に基づく筋電信号の増幅率よりも高い増幅率で増幅させて出力させてもよい。
【0065】
上記の実施形態の構成は、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で、適宜変更して構わない。上記の実施形態における、具体的なパラメータは一例に過ぎず、要求に応じて適宜変更して構わない。
【符号の説明】
【0066】
1:筋電装置 2:布基材 3:電極 4:ファスナー 5:開口部
6:伸縮性回路基板 61:有機トランジスタ素子 62:アナログ・デジタル変換回路63:有機薄膜太陽電池 7:通信用回路基板
図1
図2
図3
図4
図5