(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態を予測または制御するための方法
(51)【国際特許分類】
D21D 5/28 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
D21D5/28
(21)【出願番号】P 2020550918
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(86)【国際出願番号】 FI2018050887
(87)【国際公開番号】W WO2019110876
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-09-06
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】518361011
【氏名又は名称】ケミラ・オーワイジェイ
【氏名又は名称原語表記】Kemira Oyj
【住所又は居所原語表記】Energiakatu 4,FI-00180 HELSINKI,Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】コラリ、マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ピーロネン、マルヤッタ
(72)【発明者】
【氏名】ヨエンスー、イーリス
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02851466(EP,A1)
【文献】国際公開第2012/070644(WO,A1)
【文献】特開2010-100945(JP,A)
【文献】特開2004-017005(JP,A)
【文献】特開2002-242098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21D 1/00 - 99/00
C02F 1/00
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙もしくは板紙の製造プロセスの微生物の状態を予測する、または前記プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するための方法であって、少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパーにおいて上面レベルおよび持続時間を監視することを含み、
前記上面レベルが既定の持続時間の間に前記上面レベルについての既定の限度を満たさなかったという検出が、前記プロセスにおけるより高い微生物活性のリスクを示す、方法。
【請求項2】
前記上面レベルが、少なくとも2つの
パルプ貯蔵塔、損紙
貯蔵塔、または
損紙パルパーで監視され、
少なくとも2つの
パルプ貯蔵塔、損紙
貯蔵塔、または
損紙パルパーの前記上面レベルが前記既定の持続時間の間、前記上面レベルについての前記既定の限度を満たさなかったという検出が、前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔又は前記損紙パルパーにおけるより高い前記微生物活性のリスクの増加を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記上面レベルについての前記既定の限度、および前記既定の持続時間が、前記プロセスの、または前記プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙の、1つ以上の重要業績評価指標(KPI)から得られる履歴データとの関連で、前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔または
前記損紙パルパーから得られる履歴データに基づいて定義され、
前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔または
前記損紙パルパーから得られる前記履歴データが、前記プロセスの、または前記プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙の、少なくとも1つのKPIの履歴データとの関連で、前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔または前記
損紙パルパーの前記上面レベル、および前記上面レベルが前記上面レベルについての既定の限度を満たしていない時間の持続時間、を表す少なくとも1つの値を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロセスの前記KPIが、プロセスにおける、pH、ORP(酸化還元)、rH、酸素、溶存酸素、酸素消費量、微生物の量、微生物活性、バイオフィルムの量、または悪臭化合物の量から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロセスから得られる紙または板紙の前記KPIが、前記乾燥した紙もしくは板紙の微生物含有量(特に細菌胞子含有量)、または前記乾燥した紙もしくは板紙の品質欠陥の数から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの
パルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔もしくは
損紙パルパーの前記上面レベルおよび前記持続時間を監視することが、任意で設定された警報値を用いて、連続的に監視することに基づく、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記上面レベルについての前記既定の限度よりも上の前記上面レベルが、既定の持続時間の間に前記上面レベルについての既定の限度を満たさないという検出が、前記プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクを示す、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または
損紙パルパ
ーにおける前記上面レベルについての前記既定の限度は、30%である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または
損紙パルパ
ーにおける前記上面レベルについての前記既定の限度は、20%である、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
製紙プラントにおける製紙もしくは板紙の製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法であって、
a)前記プロセスの、または前記プロセスから得られる紙もしくは板紙の、少なくとも1つのKPIとの関連で、少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパーにおける上面レベルおよび持続時間を監視することと、
b)前記上面レベルと、前記持続時間と、前記KPIとの間の相関を決定することと、
c)前記プロセスにおけるより高い微生物活性のリスクを示す、前記上面レベルおよび前記持続時間についての限度を定義することと、
d)少なくとも1つの
パルプ貯蔵塔、損紙
貯蔵塔、または
損紙パルパーの上面レベルおよび持続時間を監視することであって、前記上面レベルが既定の持続時間の間に前記上面レベルについての既定の限度を満たさないという検出が、前記プロセスにおけるより高い微生物活性のリスクを示す、監視することと、
e)ステップdにおいてリスクの増加が示される場合、前記製紙プラント
における前記プロセスの少なくとも1つの特性を調整することと、を含む、方法。
【請求項11】
製紙プラントにおける製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法であって、
a)請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のように、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる前記乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測することと、
b)リスクが予測される場合、前記製紙プラント
における前記プロセスの少なくとも1つの特性を調整することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記製紙プラントの前記プロセスの少なくとも1つの特性を調整することは、以下の通り行われる、請求項
10または請求項
11に記載の方法:
a)より高い微生物活性の増加したリスクが予測される前記
パルプ貯蔵塔もしくは前記損紙貯蔵塔、および/または前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔もしくは
前記損紙パルパーの前もしくは後の任意のプロセスステップの中への殺生物剤供給量を増加する、
b)殺生物剤供給パルスの頻度を増加する、
c)より高い微生物活性の増加したリスクが予測される前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔または前記
損紙パルパーから内容物を出す、
d)前記
パルプ貯蔵塔、前記損紙貯蔵塔または前記損紙パルパーから内容物を出す頻度を調整する、または
e)項目a)~d)の任意の組み合わせを行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態を予測するため、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するための方法、および製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙などの水集約型のプロセスは、微生物学的な成長のために肥沃な環境を提供する。適切な制御がなければ、微生物の汚染物質は、粘性の堆積物(バイオフィルム)として抄紙機の表面上で成長する可能性があり、これは紙の品質欠陥(汚れたスポット、穴)をもたらすかまたはペーパーウェブを壊してクリーニングのために機械の停止を強いることになる。欠陥は、紙の最終ユーザから高くつく品質の苦情をもたらす可能性がある。追加的なクリーニングのための停止は、生産の損失をもたらし、紙製造のコスト効力を低下させることになる。水およびパルプ用の大容積の貯蔵塔は、微生物の激しい成長を支援し、例えば、プロセスpHを低下させる酸、悪臭を有する化合物、または熱耐性の細菌胞子を形成させる可能性がある。製品が食料または飲料の包装などの目的を意図している場合、最終的な紙製品または板紙製品における胞子の量は、可能な限り低くすべきである。微生物がもたらす可能性があるこれらの問題すべてに起因して、水集約型の製紙プロセスにおいて、しばしば殺生物剤処理が必要となる。現代の抄紙機または板紙抄紙機における水の容積は、数万立方メートルを超える可能性がある。したがって、殺生物剤のねらいは、通常、全体のプロセスの完全なシステム全体の殺菌ではなく、許容可能かつコスト効率のよいレベルで微生物の成長を制御して安定なプロセス状況を見つけることへの貢献である。
【0003】
抄紙機および板紙抄紙機における微生物制御の適用は、pHまたは溶存酸素などのパラメータについてのオンラインの監視を何年も利用してきた。しかしながら、塔内のパルプは均一に混合されていないため、容積が数千立方メートルである大きい損紙/貯蔵塔の内容物から代表的なサンプルを取ることはできない。そしてそれでも、1つの貯蔵塔または1つのパルパーだけの微生物の汚染が、下流プロセスで問題を生じ、汚染されたパルプが貯蔵を出てから20分~数時間以内に、最終製品の品質を崩壊させる場合がある。したがって、低品質な紙生産、またはプロセスの微生物の状態を回復するための計画外の機械の停止のリスクを減らす、貯蔵塔およびパルパーにおける微生物制御のための改善された方法についての必要性があることは明らかである。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、概して、製紙および板紙製造プロセスの微生物の状態を予測するための方法、ならびに該プロセスの予防制御のための方法に関する。本発明者らは、驚くべきことに、貯蔵塔もしくは損紙塔またはパルパーにおける表面レベルと時間との組み合わせを、微生物活性のリスク、特に、該塔における、およびそれによる下流プロセス全体に対する微生物活性の増加リスク、ならびに品質がより低い最終的な紙または板紙を生産するリスクを予測するために使用することができることを見出すことができた。
【0005】
本発明の第1の目的は、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するための方法である。本発明によると、該方法は、少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパーにおける表面レベルおよび持続時間を監視することを含み、表面レベルが既定の持続時間の間、表面レベルについての既定の限度を満たしていなかった(すなわち、既定の限度の上であった)という検出が、該プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクを示す。
【0006】
本発明の第2の目的および第3の目的は、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法である。該方法の特徴的な工程は、後述の態様<9>および<10>において与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】測定された塔レベル、およびより高い微生物活性のリスクを示す表面レベルについての既定の限度(「表面レベルについてのリスク限度」)の実施例を示す。
【
図2】測定された塔レベル、およびタイマーから時間数で記録された時間の実施例を示す。
【
図3】測定された塔レベル、および微生物活性の増加したリスクについての計算されたリスクレベルの実施例を示す。
【
図4a】測定された塔表面レベル、および既定のリスク限度。
【
図4b】測定された塔表面レベル、タイマーから日数で記録された時間、および既定の警戒時間(黒の水平な線)。
【
図5】測定された塔表面レベル、および微生物活性の増加したリスクについての計算されたリスクレベル(0=順調、1=注意、2=警戒)を示す。
【
図6a】13日間の実験期間中の、測定された塔表面レベルおよび最終的な板紙における胞子数のデータ(a)、ならびにタイマーからの時間(b)を示す。
【
図6b】13日間の実験期間中の、測定された塔表面レベルおよび最終的な板紙における胞子数のデータ(a)、ならびにタイマーからの時間(b)を示す。
【
図7a】第2の例示的な実験期間中の13日間の実験期間中の、測定された塔表面レベルおよび最終的な板紙における胞子数のデータ(a)、ならびにタイマーからの時間(b)を示す。
【
図7b】第2の例示的な実験期間中の13日間の実験期間中の、測定された塔表面レベルおよび最終的な板紙における胞子数のデータ(a)、ならびにタイマーからの時間(b)を示す。
【
図8a】第3の例示的な実験期間中の、測定された塔表面レベル、最終的な板紙における胞子数のデータ(a)、およびタイマーからの時間(b)を示す。
【
図8b】第3の例示的な実験期間中の、測定された塔表面レベル、最終的な板紙における胞子数のデータ(a)、およびタイマーからの時間(b)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(ティッシュペーパーを含む)製紙または板紙製造プロセスにおいて、パルプは貯蔵塔に(または損紙は損紙塔に)、該塔の上部を経由して入り、既存のパルプ容積の中への自由落下の結果として既存のパルプと部分的に混合する。パルプは、塔の下方の部分からさらなるプロセスステップへ持って行かれる。大きなパルプ塔内での混合は決して完全ではない。そのような塔内では、典型的に、速く流れるゾーン(例えば、新しいパルプが入るエリア)、遅く流れるゾーン、そしておそらくパルプの移動が最小限またはゼロであるゾーンまたはエリアもある。より遅く流れるゾーンにおけるパルプは、特に、微生物の成長に影響を受けやすく、また該塔内そして該塔の後のすべての下流プロセスステップにおいてより大きいスケールの微生物の汚染の源として機能する場合がある。
【0009】
通常、パルプが供給される塔またはタンクである、パルプ工場におけるパルプ貯蔵部ならびに抄紙機および板紙抄紙機におけるパルプまたは損紙貯蔵部は、塔/タンクの上方の部分から供給されて底の近くから出される。塔は、通常、塔の底に混合ブレードを有する。大きいパルプまたは損紙塔において、最下部の15~20%の容積のみを、これらのブレードによって効果的に混合することができるということがどちらかといえば一般的である。塔には、異なる大きさのものがあるが、典型的には、内側の高さに対する内側の径の比が1:1.5より小さい容器のような、上向きに立っているシリンダである。
【0010】
本関連において、用語「塔」は、特に示さない限り、パルプ貯蔵塔および損紙貯蔵塔の両方を含むように理解されるべきである。
【0011】
ここで、用語「パルプ」は、少なくともセルロース繊維および水、ならびにおそらく従来の製紙添加物を含むパルプ懸濁液を指す。パルプは、機械パルプ、化学パルプ、もしくは再生パルプ、またはその任意の組み合わせであってもよい。それらに加えて、損紙(損紙パルプ)は、その製造中のいずれかの段階で廃棄され、かつ新しい紙または板紙の製造における再使用のために損紙パルパー内で再パルプ化された、紙または板紙(コーティングありまたはコーティングなしの)を含む。
【0012】
パルプの製造および漂白において、濃度は、10重量%(水当たりの繊維)より高い場合があるが、一方、製紙または板紙製造プロセスにおいて、パルプまたは損紙貯蔵塔内のパルプ懸濁液の典型的な濃度は、10重量%未満である。損紙が収集されるパルパーおよび塔は、1~3重量%の濃度を有する場合がある。貯蔵塔の容積を減らすために、濃縮によって、パルプまたは損紙の濃度を4~10重量%、典型的には約6~8重量%に増加させてもよい。当該技術分野での従来の方法を使用して水を除去することによって、濃度を増加させてもよい。
【0013】
貯蔵塔もしくはパルパーから内容物を出す、または貯蔵塔もしくはパルパーの表面レベルを低下させるときの遅延(言い換えると、該塔におけるパルプの表面レベルが表面レベルについての既定の限度を超えているときの持続時間の延長)と、下流プロセスにおける、細菌または胞子などの微生物の汚染物質によってもたらされる問題のリスクの増加との間の相関を本発明者らは見出した。パルプの微生物学的な品質は、(塔の高さの)30~40%よりも上の表面レベルにおいて、特にレベルが該レベルよりも常に上であるとき、より悪い状態になり始めることを本発明者らは示した。パルプの微生物学的な品質は、時には塔の高さの約25%よりも上でさえ、またはより低い表面レベルでさえ、より悪い状態になり始める場合があり得る。塔内の表面レベルが、底のミキサーブレードによって影響を受ける容積よりも上であるとき、上部から該塔に入る入来パルプは、すべての既存のパルプとは十分に混合しないことになる。遅く流れるゾーンが形成されることになり、これは、該塔またはパルパー内の細菌の成長および胞子形成が増加する場合がある。
【0014】
遅くとも所定の持続時間に達するときに所定のレベルまで(またはそれよりも下に)塔表面レベルを低下させることは、下流の流れ、およびパルプもしくは製紙プロセスにおける次のプロセスステップにおける微生物の状態を制御するか、または生産される紙の品質を制御する効果的な方法であることが今回見出された。本方法は、微生物の予防制御および衛生管理を可能にし、したがって、低品質な最終的な紙または板紙によってもたらされる損失を減らす。また、本方法は、制御化学物質の大量の使用の必要性も減らすことができ(環境的および経済的態様)、また保守休止の必要性さえも減らすことができる(環境上のおよび経済的な態様)。さらなる利点は、微生物がプロセスもしくは最終製品の品質に何らかの問題をすでにもたらしているとき、またはプロセスにおける微生物制御が完全に制御できなくなっているときだけ作用するのではなく、プロセスの微生物の状態、および最終製品(パルプまたは紙)の品質を事前に達成することができることである。プロセスにおいて事前に、微生物の状態を予測し、かつ/または微生物の状態に影響を与えることができるようにしない限り、1つの場所で細菌によって激しく傷んだパルプは、他の流れまたは場所から分離されていない場合、すべての下流プロセスステップにおける微生物活性に影響を与えることになる。
【0015】
本関連において、表現「表面レベル」および「塔レベル」は、塔またはパルパー内の、パルプまたは他の繊維状の水性の集合体の表面レベルを指す。レベルは、該塔またはパルパーの内側の高さの百分率として与えられる。該表面レベルについてのいわゆる「リスク限度」は、少なくともプロセスに関与する塔またはパルパーのほとんどの表面レベルについての既定の限度として決定することができることを本発明者らは示してきた。表面レベルについてのリスク限度は、例えば、該塔またはパルパーにおけるミキサーの効力、構造設計、およびパルプ濃度に依存する。
【0016】
本発明によると、持続時間は、該塔またはパルパー内のパルプ懸濁液の表面レベルに関して測定される。持続時間の計算は、表面レベルが表面レベルについての既定の限度(表面レベルについてのリスク限度)を超える(よりも上の)ときに始まる。持続時間の記録は、塔表面レベルが再び表面レベルについての既定の限度を満たすまで続く。塔またはタンクにおけるパルプ懸濁液の表面レベルが既定のレベルよりも下のとき、持続時間はゼロである。
【0017】
典型的には、持続時間は、該塔内の表面レベルのオンライン情報を受信するタイマーを用いて測定される。タイマーは、表面レベルが表面レベルについての既定の限度を超えるときに時間を記録し始める。タイマーは、レベルが既定の表面レベルを満たすまでオンであって時間を計算している。塔またはタンク内の表面レベルが既定のレベルよりも下のとき、タイマーはオフであって時間を計算していない。記録された時間は、表面レベルが再び表面レベルについての既定の限度を超えるまでゼロのままである。
【0018】
本関連における塔またはパルパーについての既定の持続時間は、製紙プロセスの微生物の状態をより悪くする可能性がある、または該プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙の品質を低下する可能性があるレベルを超えている、該塔または該パルパー内でより高い微生物活性のリスクを示さないとみなされる時間である。既定の持続時間を超えている場合、より高い微生物活性についてのリスクが増加し得る。持続時間についての既定の限度は、例えば、該塔または該パルパー内のパルプの品質(特に、微生物学的な活性レベル)、全体のプロセス状態、および該プロセスから得ることができる紙または板紙の要件にも依存する。例えば、損紙の微生物含有量はしばしば新鮮なパルプよりも高いので、新しいパルプに対する貯蔵塔の持続時間についての既定の限度は、しばしば損紙塔における損紙についてのそれぞれの時間限度よりも長い。
【0019】
表面レベルについての既定の限度は、例えば、該塔または該パルパー内のパルプの品質(特に、微生物学的な活性レベル)、全体のプロセス状態、および該プロセスから得ることができる紙または板紙の要件にも依存する。表面レベルについてのリスク限度は、典型的には、例えば、該塔またはパルパーにおけるミキサーの効力、構造設計、およびパルプ濃度に依存する。
【0020】
塔表面レベルが、既定の時間(既定の持続時間)の間、「表面レベルについての既定の限度」としても述べられたリスク限度まで、またはリスク限度よりも下に低下していない場合(言い換えると、塔表面レベルが表面レベルについての既定の限度よりも上であった場合)、パルプが汚染されるリスクが増加すると考えられる。塔表面レベルが、既定の持続時間の間、既定の限度まで、または既定の限度よりも下に低下していない場合、遅く移動するパルプは、潜在的に汚染されている場合があり、そして塔またはパルパーが、次回に表面レベルについて該既定の限度まで、または該既定の限度より下に低下するとき、該汚染されたパルプが塔またはパルパーを出る場合がある。
【0021】
本発明によると、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するための方法は、少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパー内の表面レベルおよび持続時間を監視することを含む。表面レベルについての既定の限度よりも上の表面レベルが、既定の時間(既定の持続時間)の間、表面レベルについての既定の限度(「リスク限度」とも呼ぶことができる)を満たしていないという検出は、該プロセスにおけるより高い微生物活性のリスク(またはリスクの増加)を示す。言い換えると、塔が、既定の時間の間に、表面レベルについての既定の限度まで、もしくは既定の限度よりも下まで内容物を出していない、または低下していないという検出が、該プロセスにおけるより高い微生物活性のリスクまたはリスクの増加を示す。
【0022】
1つの場所におけるより高い微生物活性が、すべての下流プロセスステップにおける微生物活性を増加させる場合がある。製紙または板紙製造プロセスの間の胞子形成は、特に、衛生度の高い食料包装の最終使用において、結果として生じる紙または板紙の品質を損なう。さらに、プロセスにおける高い微生物活性は、完成した、乾燥した紙または板紙の品質を低下させて経済的な困難をもたらす可能性がある。そのような品質の問題は、製紙の化学作用を妨げるレベルまでプロセスpHを低下させる高い微生物活性によってもたらされる可能性がある。高い微生物活性は、最終的な乾燥した紙または板紙にくっつく、悪臭を有する化合物を産生する可能性がある。成長可能な細菌または菌の細胞によって機械の表面上で形成されるバイオフィルムは、結果として、実行可能性の問題および完成した紙または板紙における汚れたスポットを生じる可能性がある。
【0023】
本明細書において使用されるプロセスの微生物学的な状態は、成長可能な細菌の細胞の数、成長可能な菌の細胞の数、およびパルプ、損紙、または循環する水の中に存在する細菌の内生胞子の数を指す。また、本明細書において使用されるプロセスの微生物の状態は、機械の表面上の微生物によって形成されるバイオフィルムの量も指す。また、本明細書において使用されるプロセスの微生物の状態は、プロセスにおける揮発性脂肪酸(VFA)などの、生じ得る悪臭を放つ微生物の代謝産物の量も指す。また、本明細書において使用されるプロセスの微生物の状態は、プロセスのpHまたはORP(酸化還元)の変化などの、プロセス内の微生物によってもたらされる、生じ得る物理化学変化も指す。
【0024】
本関連におけるより高い微生物活性は、個々の製紙または板紙製造プロセスについて許容可能なレベルと比較したとき、以下のうちの1つ以上、すなわち、より多い数の微小生物(より多いとは少なくとも1ログ単位の変化を意味する)、より多い量のバイオフィルム、悪臭の化合物の形成、より低いpH(例えば、少なくとも0.2pH単位の変化)、より低い酸化還元(例えば、少なくとも40mVの変化)を意味する。個々の製紙または板紙製造プロセスについての許容可能なレベルは、例えば、入来する原材料の品質および種類、ならびに該プロセスから得られる乾燥した紙または板紙の要件に従って変化する。
【0025】
また、本開示は、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するための方法であって、少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパー内の表面レベルおよび持続時間を監視することを含む方法として記載することができる。塔の表面レベルが、既定の時間の間、表面レベルについての既定の限度まで、または既定の限度よりも下に低下していないという検出が、該プロセスにおけるより高い微生物活性のリスクの増加を示す。
【0026】
一実施形態において、表面レベルは、少なくとも2つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーにおいて監視される。表面レベルが、少なくとも2つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパー内で監視され、少なくとも2つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーの表面レベルが既定の時間の間、表面レベルについての既定の限度、すなわちいわゆる表面レベルについてのリスク限度を満たしていない(言い換えると、既定の限度よりも上であった)という検出は、該塔またはパルパーにおいてより高い微生物活性のリスクの増加を示す。微生物活性のより広い拡大または激しい増加は、下流プロセスにおいてより生じやすく、品質の問題についてのリスクが増加する。
【0027】
一実施形態において、塔またはパルパーの表面レベルについての既定の限度、および既定の時間は、該プロセス、または該プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙からの1つ以上の重要業績評価指標(KPI)から得られる履歴データに関して該塔またはパルパーから得られる履歴データに基づいて定義され、該塔またはパルパーから得られる履歴データは、該プロセスまたは該プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙の少なくとも1つの重要業績評価指標(KPI)の履歴データに関して時間の関数として該塔または該パルパーの表面レベルを表す少なくとも1つのデータセットを含む。
【0028】
データセットの収集の期間は、異なる製紙または板紙製造システムでは変化する。好ましくは、製紙または板紙製造システムからの履歴データは、少なくとも1週間の間収集される。データ収集時間が長くなるほど、より精密または正確な相関が利用可能になる。
【0029】
一実施形態において、パルプ貯蔵塔の表面レベルについての既定の限度は35%であり、好ましくは30%、より好ましくは25%または20%である。一実施形態において、損紙塔の表面レベルについての既定の限度は40%もしくは35%であり、好ましくは30%、より好ましくは25%または20%、さらにより好ましくは15%または10%ですらある。一実施形態において、パルパーの表面レベルについての既定の限度は30%であり、好ましくは20%である。
【0030】
一実施形態において、貯蔵塔における該時間についての既定の限度は3日間であり、好ましくは2日間である。一実施形態において、損紙塔における時間についての既定の限度は2日間であり、好ましくは1日間である。一実施形態において、パルパーにおける該時間についての既定の限度は24時間であり、好ましくは20時間である。別の実施形態において、該時間は18時間であり、好ましくは12時間である。
【0031】
一実施形態において、パルプ貯蔵塔の表面レベルについての既定の限度は30%であり、好ましくは20%であって、それぞれ、既定の限度は72時間であり、好ましくは36時間である。
【0032】
一実施形態において、損紙塔の表面レベルについての既定の限度は25%、好ましくは15%であって、それぞれ、既定の限度は40時間であり、好ましくは20時間である。
【0033】
一実施形態において、損紙塔の表面レベルについての既定の限度は40%であり、好ましくは35%であって、それぞれ、既定の限度は168時間であり、好ましくは120時間である。
【0034】
一実施形態において、パルパーの表面レベルについての既定の限度は30%であり、好ましくは20%であって、それぞれ、既定の限度は48時間であり、好ましくは24時間である。
【0035】
様々な容器内の表面レベルを示す、または測定する異なる測定が、製紙または板紙製造プロセスを含む産業において使用される。当業者は、表面レベルの測定が、例えば、測定される材料および/または塔、タンク、もしくはパルパーなどの容器の形状に応じて、別の方法で較正され得ることを理解している。容器の表面レベルは、例えば、(塔またはパルパーなどの)容器の高さの百分率として、または該容器の最大充填レベルの百分率として与えられてもよい。したがって、表面レベルの測定は、例えば、100%の表面レベルが容器の高さと等しいか、または100%の表面レベルが容器の最大充填レベルと等しいように較正されてもよい。
【0036】
上述の表面レベルは、塔の高さの百分率として与えられる。しかしながら、また、それらの百分率の値は、例えば、容器(塔もしくはタンクまたはパルパー)の最大充填レベルの百分率を示す百分率として提供される、異なる方法、または本開示の分野で使用される他の方法で表面レベルが較正されるときの状況について適用可能である。
【0037】
表面レベルを測定する測定技法は、本発明について本質的ではない。表面レベルの測定技法として、どの方法で表面レベルの測定が容器について較正されたかということは本質的でなく、容器内での表面レベルの百分率を示す方法は、産業においておよび当業者にとって周知である。例えば、数日間に結果として生じる紙または板紙の品質に関して、該塔またはパルパーにおける該パラメータ(すなわち、時間に関する表面レベル)を監視し、得られた情報をクラスター化し、そして値の相関を相互に結論付けることによって、該塔におけるより高い微生物活性のリスクまたはリスクの増加を示す、表面レベルについての既定の限度(「リスク限度」)および/または既定の持続時間を決定することができる。履歴データは、他の生産現場からのそれぞれのプロセスに由来するデータによって補間されてもよいが、表面レベルおよび時間についてのリスク限度の最終的な決定は、特定の塔またはパルパーに関するデータに基づくことが好ましい。
【0038】
一実施形態において、リスクレベルの計算は、タイマーからの値(すなわち、表面レベルが既定の表面レベルを満たしていないとき、または言い換えると表面レベルが該既定の表面レベルよりも上であるときの持続時間)と、表面レベルとの組み合わせに基づく。タイマーの値は、塔表面レベルからのオンライン情報に依存する。タイマーは、表面レベルが既定のリスク限度(安全限度)を超えたときに時間を記録し始める。持続時間の記録は、塔表面レベルが既定のリスク限度を満たすまで続く。タイマーは、塔表面レベルが表面レベルについての既定の限度の値を満たすときに0秒に時間をリセットする。表面レベルは、表面レベルが該既定のレベルと同じレベルかまたは該既定のレベルよりも低いときに表面レベルの既定の限度を満たすものとみなされる。塔またはタンク内のパルプ懸濁液の表面レベルが既定の表面レベルよりも下のとき、持続時間はゼロのままである。タイマーは、表面レベルがリスク限度(既定のリスク限度)を超えるときに時間を再び記録し始める。実用的な場合について、時として、タイマーからの値と表面レベルとの組み合わせに基づいて異なるリスクレベルを設定することが有用であり得る。記録された時間が既定の時間よりも下(未満)であるとき、リスクレベルはリスクレベル0であると定義される。記録された時間が既定の時間に近いとき、システム(例えば、PC、PLC)は注意を出す(リスクレベルは、例えば、リスクレベル1と呼ばれてもよい)。記録された時間が既定の時間を満たしたとき、システムは警報を出す(リスクレベル2)。
【0039】
リスクレベルの計算は、例えば、プログラマブルロジック(PLC)もしくは産業用PCまたは他の適切なシステムで行われてもよい。塔レベルセンサからの信号は、プログラマブルロジック(PLC)または産業用PCに接続されてもよい。リスクレベルは、システム(PLCまたは産業用PC)において連続的に計算されてもよい。
【0040】
一実施形態において、記録された時間が48時間、すなわち2日よりも少ないとき、リスクレベルは0である。リスクレベルが0であるとき、(許容可能なレベルと比較して)微生物活性についての増加したリスクがなく、予防の行動が必要ないと考えられる。記録された時間が2日よりも多いが2.2日よりも少ない場合、リスクレベルは1であって、それによって、システムは注意を与える。記録された時間が2.2日以上である場合、リスクレベルは2であって、それによって、システムは、微生物活性についての増加したリスクの警報を与え、予防の行動が必要である。
【0041】
一実施形態において、該プロセスの該KPIは、プロセスにおける、pH、ORP(酸化還元)、pH修正酸化還元(rH)、酸素、溶存酸素、酸素消費量、微生物の量、微生物活性、バイオフィルムの量、または悪臭化合物の量から選択される。一実施形態において、KPIは、デルタ、すなわち、塔の入口と出口との間の変化として定義され、例えば、KPIは、損紙塔においてデルタrHとして定義され、1単位未満となるべきである。
【0042】
酸化還元値は、pHおよび温度に依存する。このため、rH値の決定は、温度、pH、および酸化還元値の測定が関与する。rH値は、pHおよび酸化還元電位を用いて、式(1)を用いて決定(計算)されてもよい。
rH=2*pH+2*Eh*F/(c*R*T) (1)
式中、F=ファラデー定数(9.64853399×104Cmol-1、c=ln10、T=温度(K)、Eh=標準水素電極で測定された酸化還元電位、R=一般気体定数(8.314472JK-1mol-1)である。一実施形態において、rHは、式(1)を用いて決定される。
【0043】
一実施形態において、該プロセスから得られる紙または板紙の該KPIは、該乾燥した紙または板紙の微生物含有量である。一実施形態において、該プロセスから得られる紙または板紙の該KPIは、該乾燥した紙または板紙の品質欠陥の数である。一実施形態において、該プロセスから得られる紙または板紙の該KPIは、該プロセスから得られる該紙または板紙の細菌胞子数である。紙/板紙の品質欠陥の数は、該プロセスから得られる板紙の紙における、汚れたスポットまたは穴の、量または大きさとして測定されてもよい。
【0044】
一実施形態において、紙/板紙の品質欠陥の数は、該プロセスから得られる乾燥した紙または板紙の細菌胞子数として測定される。食料包装などの衛生度の高い用途について、細菌胞子数は、一般的に、国の法律によって、または板紙を最終的な包装へと変換する者からの要件によって規制される。生存する好気性細菌についての一般的な限度は、例えば、乾燥した板紙1グラムあたり最大1000CFUまたは最大250CFUである。
【0045】
デルタrH(酸化還元値のpH修正された変化)は、パルプ用の貯蔵塔、損紙塔、または損紙パルパーの前および後の水性の繊維懸濁液のrH値の差として測定される。よく機能するプロセスにおいて、値はゼロに近い。貯蔵塔の前および後のrH値の差が小さくなるほど、貯蔵塔内の微生物学的な状態がより良好になり、より高い微生物活性およびこれに続くプロセスの問題についてのリスクがより小さくなる。
【0046】
溶存酸素の濃度の測定は、それ自体として、または、例えば、酸素消費量データとの組み合わせのどちらにおいても、サンプル内の好気性微生物の量を決定するのに適切である。この微生物が栄養の供給を受けるものとすれば、微生物レベルが高くなるほど、微生物によって消費される酸素の量がより多くなる。好気性微生物が酸素を多く消費するほど、プロセスの状況を表すサンプルにおける溶存酸素の濃度がより低くなる。それゆえ、溶存酸素の測定は、直接的に、プロセスが好気性(酸素が存在する)かまたは嫌気性(酸素が存在しない)かを説明する。本発明の文脈において、本データは、表面レベルに関する最も重要な観測を支援する可能性がある。
【0047】
典型的に、パルプ化プロセスに由来するパルプの微生物含有量は、少量の生存する微生物を有するが、一方、損紙パルプにおける微生物の数は、十分な殺生物剤処理をしなければより高くなる場合がある。したがって、また、表面レベルについてのリスク限度および/または既定の持続時間ならびに他のパラメータの決定は、別々になされなければならないことが理解される。
【0048】
一実施形態において、少なくとも1つの塔もしくはパルパーの表面レベルおよび持続時間、または該プロセスもしくは該プロセスから得られる紙もしくは板紙の少なくとも1つのKPIを監視することは、任意で設定された警報値を用いて、連続的に監視することに基づく。連続的な監視は、警報の設定を可能にし、またそれによって予測の精度を増加させる。
【0049】
一実施形態において、1つ以上のさらなるKPIを測定することは、(該塔内の表面レベルに基づく、リスクまたはリスクの増加の指示によって開始される)単一の測定に基づく。
【0050】
製紙または板紙製造プロセスの微生物の状態を予測するための上述の方法の1つの利点は、例えば、殺生物剤の大量の使用をすることなく、または得られる紙または板紙の品質を損なうことなく、妥当で単純な測定を用いて予防的な微生物の制御を可能にすることである。信頼性のある予測は、プロセスパラメータの事前の適応を可能にし、環境上のおよび経済的な態様の観点から有益である。
【0051】
本発明の一実施形態によると、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法。方法は、
a)該プロセスまたは該プロセスから得られる紙もしくは板紙の少なくとも1つのKPIに関して少なくとも1つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーにおける表面レベルおよび持続時間を監視するステップと、
b)該表面レベルと、持続時間と、KPIとの間の相関を決定することによって、該プロセスの履歴データを収集するステップと、
c)該プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクまたはリスクの増加を示す、該表面レベルおよび該持続時間についての限度を定義するステップと、
d)少なくとも1つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーの表面レベルおよび持続時間を監視するステップであって、最初に既定の限度(いわゆるリスク限度)よりも上である表面レベルが既定の時間の間に既定の(リスク)限度を満たしていないという検出が、該プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクまたはリスクの増加を示す、ステップと、
e)ステップcで生成された指示が、増加したリスクを示す場合、製紙プラントのプロセスの少なくとも1つの特性を調整するステップと、を含む。
【0052】
本発明の一実施形態によると、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法は、
a)本明細書で記載するように、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または該プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するステップと、
b)リスクまたはリスクの増加が予測される場合、製紙プラントのプロセスの少なくとも1つの特性を調整するステップと、を含む。
【0053】
調整される特性は、例えば、殺生物剤供給などの化学処理、または該プロセスにおけるパルプの流れの変更とすることができる。
【0054】
一実施形態において、プロセスに対する以下の調整、すなわち
a)より高い微生物活性の増加したリスクが予測される塔、および/または該塔もしくはパルパーの前もしくは後の任意のプロセスステップへの殺生物剤供給量を増加する、または
b)殺生物剤供給パルスの頻度を増加する、または
c)より高い微生物活性の増加したリスクが予測される塔またはパルパーの内容物を出す、または
d)塔の内容物を出す頻度を調整する、または
e)項目a)~d)の任意の組み合わせ、のうちの1つ以上がなされる。
【0055】
殺生物剤または他の制御薬剤を、塔内のパルプもしくは繊維状の水性の集合体の中へと、またはプロセスステップ間のパルプの流れの中へと供給することができる。微生物の制御薬剤は、殺生物剤、還元性の化学物質、または酸化性の化学物質であってもよい。
【0056】
本発明は、次の非限定的な実施例によって以下に例示される。上述の記載において与えられる実施形態および実施例は、例示の目的のためだけであって、様々な変更および修正が本発明の範囲内で可能であるということが理解されるべきである。
【実施例】
【0057】
実施例1.板紙抄紙機の損紙塔におけるより高い微生物活性についてのリスクレベルのオンライン計算
履歴データの分析は、塔内の微生物活性の増加を防ぐために、本実施例で検討された損紙塔が1日に1回内容物を出すべきであることが示された。検討された塔のレベルについてのリスク限度は20%であり、また既定の時間は1日であった。
【0058】
塔レベルセンサからの信号は、プログラマブルロジック回路(PLC)または産業用PCに接続された。リスクレベルは、システム(PLCまたは産業用PC)において連続的に計算された。
【0059】
計算は、時間を秒、分、時間、または日で記録するタイマーに基づいた。タイマーは、1秒ごとに塔レベルのオンライン情報を得る。タイマーは、塔レベルが既定のリスク限度(20%以下)まで、またはそれよりも下に低下したとき、時間を0秒にリセットする。時間をゼロにリセットした後、タイマーは、レベルがリスク限度(
図1)を超えたとき、再び時間を記録し始める。
【0060】
記録された時間が既定の時間に近いとき、システム(例えば、PC、PLC)は、注意を出す。記録された時間が既定の時間を満たしたとき、システムは警戒(
図2)を出す。
-記録された時間が20時間未満である場合、リスクレベルは0である→微生物活性についてのリスクの増加はなく、必要とされる行動はない。
-記録された時間が20時間よりも多いが24時間未満である場合、リスクレベルは1である→注意、行動の準備(例えば、製紙装置を点検しに行く、殺生物剤プログラムの変更の準備の開始)
-記録された時間が24時間よりも多い場合、リスクレベルは2である→警報、微生物活性についての増加したリスク、行動が必要とされる
【0061】
図3は、測定された塔レベルおよびリスク限度(安全限度)を示す。
【0062】
実施例2.損紙塔におけるより高い微生物活性についてのリスクレベルのオンライン計算
背景:履歴データの分析は、塔内の微生物活性の増加、そしてさらには乾燥した板紙における品質の問題を防ぐために、損紙塔は、少なくとも既定の表面レベルまで、または既定の表面レベルよりも下まで2.2日ごとに内容物を出すべきであることを示していた。
●表面レベルについての既定のリスク限度:25%
●既定の時間:2.2日
【0063】
塔レベルセンサからの信号は、プログラマブルロジック(PLC)または産業用PCに接続された。リスクレベルは、システム(PLCまたは産業用PC)において連続的に計算された。
【0064】
リスクレベルの計算は、時間を、例えば、秒、分、時間、または日で記録するタイマーに基づいた。タイマーは、塔レベルからのオンライン情報を得る。タイマーは、塔レベルが既定のリスク限度まで、または既定のリスク限度よりも下(=例えば、本実施例の事例では、レベルが25%であるかまたはレベルが25%未満)に低下したとき、時間を0秒にリセットする。
図4aおよび
図4bに示すように、時間をゼロにリセットした後、タイマーは、レベルがリスク限度を超えたとき、再び時間を記録し始める。
【0065】
記録された時間が既定の時間に近いとき、システム(例えば、PC、PLC)は、注意を出す。記録された時間が既定の時間を満たしたとき、システムは警報を出す(
図5参照)。
●記録された時間が1.8日未満である場合、リスクレベルは0である→微生物活性についてリスクの増加はなく、必要とされる行動はない。
●記録された時間が1.8日よりも多いが2.2日未満である場合、リスクレベルは1である→注意
●記録された時間が2.2日よりも多い場合、リスクレベルは2である→警報、微生物活性についての増加したリスク、行動が必要とされる
【0066】
図4aは、測定された塔表面レベルおよび表面レベルについての既定のリスク限度(すなわち、既定の限度)を示す。
図4bは、測定された塔表面レベル、タイマーから日数で記録された時間、および既定の警報時間(黒の水平な線)を示す。
【0067】
図5は、測定された塔表面レベル、および微生物活性の増加したリスクについての計算されたリスクレベル(0=順調、1=注意、2=警戒)を示す。
【0068】
実施例3:板紙抄紙機の実施例:履歴データ、損紙塔のリスク限度および既定の時間に対する乾燥した最終製品の品質の分析
履歴データは、オンラインの塔レベル情報および乾燥した板紙からの細菌胞子数(実験室の分析結果)を含んだ。高品質な板紙は、少量の細菌胞子しか含まないようにするべきである。この工場では、胞子数についての最大限度は、1000CFU/gに設定されている。分析に基づいて次のパラメータが見出された。
●損紙塔レベルについてのリスク限度:25%
●既定の時間:2.2日
【0069】
【0070】
記録された時間が2.2日よりも少ないとき→最終製品における多い胞子数についてのリスクは低い(典型的な結果は、<1000CFU/g)
【0071】
記録された時間が2.2日よりも多いとき→最終製品における多い胞子数についてのリスクが評価された(1000CFU/gよりも多い)
【0072】
図6aは、測定された塔表面レベルおよび最終的な板紙における胞子数(CFU/g)のデータを示し、
図6bは、13日間の実験期間中のタイマーからの時間を示す。増加したリスクがある場合は2回だけであって(右側のチャートにおける色付きの区域)、ほとんどの期間は既定の時間が2.2よりも下であって、板紙における細菌含有量は1000CFU/gよりも下である。塔は定期的に80%を超える表面レベルになるので、貯蔵塔の最大表面レベル自体が重要パラメータではないということをデータは明らかに示しており、表面レベルが、パルプの遅く移動する(停滞)エリアが塔から出て行くほど低い値になる複数の瞬間があることがより重要である。これは、長期間パルプ量が貯蔵部内に保持され、そして微生物活性が増加し、パルプの品質を損なう状況と比較して、塔内での微生物活性をより低く維持することを可能にする。
【0073】
図7aは、測定された塔表面レベルおよび最終的な板紙における胞子数(CFU/g)のデータを示し、また
図7bは、13日間の実験期間中のタイマーからの時間を示す。既定の時間が2.2日を超えるので、ほとんどの時間は、リスクが増加している(チャート内の右側における色付きの区域)。この期間中、最終的な板紙のすべての測定されたサンプルは、胞子数1000CFU/gを超えており、このため、品質の目標を満たさなかった。この実験期間において、塔表面レベルは頻繁に60%よりも下であるので、貯蔵塔の最大表面レベル自体が重要なパラメータではないことをデータは明らかに示す。表面レベルが、パルプの遅く移動する(停滞する)エリアが塔から出るほど低い値になる瞬間が1回だけであることがより重要である。これは、ほとんどの時間、長期間貯蔵塔内に留まって微生物活性の増加を実証するパルプの遅く移動する量がある状況をもたらし、そしてこれが、品質の低下をもたらすことになる。
【0074】
図8aは、第3の例示的な実験期間中の、測定された、塔表面レベル、最終的な板紙における胞子数のデータ(7a))、およびタイマーからの時間(
図8b)を示す。既定の時間が2.2よりも下であるとき、最終的な乾燥した板紙における胞子含有量は、1000CFU/gよりも下である。
本発明は、以下の態様を含む。
<1>
製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測するための方法であって、少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパーにおいて表面レベルおよび持続時間を監視することを含み、前記表面レベルが既定の持続時間の間に前記表面レベルについての既定の限度を満たしていないという検出が、前記プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクを示す、方法。
<2>
前記表面レベルが、少なくとも2つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーで監視され、少なくとも2つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーの前記表面レベルが前記既定の時間の間、前記表面レベルについての前記既定の限度を満たしていないという検出が、前記塔においてより高い前記微生物活性のリスクの増加を示す、<1>に記載の方法。
<3>
前記表面レベルについての前記既定の限度、および前記既定の時間が、前記プロセス、または前記プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙からの1つ以上の重要業績評価指標(KPI)から得られる履歴データに関して前記塔またはパルパーから得られる履歴データに基づいて定義され、前記塔またはパルパーから得られる前記履歴データが、前記プロセスまたは前記プロセスから得られる乾燥した紙もしくは板紙の少なくとも1つのKPIの履歴データに関して、前記塔または前記パルパーの前記表面レベルおよび既定の限度時間を前記表面レベルが満たしていないときの持続時間を表す少なくとも1つの値を含む、<1>または<2>に記載の方法。
<4>
前記プロセスの前記KPIが、プロセスにおける、pH、ORP(酸化還元)、rH、酸素、溶存酸素、酸素消費量、微生物の量、微生物活性、バイオフィルムの量、または悪臭化合物の量から選択される、<3>に記載の方法。
<5>
前記プロセスから得られる紙または板紙の前記KPIが、前記乾燥した紙もしくは板紙の微生物含有量(特に細菌胞子含有量)、または前記乾燥した紙もしくは板紙の品質欠陥の数から選択される、<3>に記載の方法。
<6>
少なくとも1つの塔もしくはパルパーの前記表面レベルおよび前記時間、または前記プロセスもしくは前記プロセスから得られる紙もしくは板紙の少なくとも1つのKPIを監視することが、任意で設定された警報値を用いて、連続的に監視することに基づく、<1>~<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>
前記表面レベルについての前記既定の限度よりも上の前記表面レベルが、既定の持続時間の間に前記表面レベルについての既定の持続時間を満たしていないという検出が、前記プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクを示す、<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>
少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、またはパルパー、例えば損紙パルパーにおける前記表面レベルについての前記既定の限度は、30%(好ましくは20%)である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9>
製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法であって、
a)前記プロセスまたは前記プロセスから得られる紙もしくは板紙の少なくとも1つのKPIに関して少なくとも1つのパルプ貯蔵塔、損紙貯蔵塔、または損紙パルパーにおける表面レベルおよび持続時間を監視することと、
b)前記表面レベルと、前記持続時間と、前記KPIとの間の相関を決定することと、
c)前記プロセスにおいてより高い微生物活性のリスクを示す、前記表面レベルおよび前記持続時間についての限度を定義することと、
d)少なくとも1つの貯蔵塔、損紙塔、またはパルパーの表面レベルおよび持続時間を監視することであって、前記表面レベルが既定の時間の間に既定の限度を満たしていないという検出が、前記プロセスにおけるより高い微生物活性のリスクを示す、監視することと、
e)ステップcで生成された指示が、増加したリスクを示す場合、前記製紙プラントの前記プロセスの少なくとも1つの特性を調整することと、を含む、方法。
<10>
製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる乾燥した板紙もしくは紙の品質を制御するための方法であって、
a)<1>~<8>のいずれか1項に記載のように、製紙もしくは板紙製造プロセスの微生物の状態、または前記プロセスから得られる前記乾燥した板紙もしくは紙の品質を予測することと、
b)リスクが予測される場合、前記製紙プラントの前記プロセスの少なくとも1つの特性を調整することと、を含む、方法。
<11>
a)より高い微生物活性の増加したリスクが予測される前記塔、および/または前記塔もしくはパルパーの前もしくは後の任意のプロセスステップの中への殺生物剤供給量を増加する、
b)殺生物剤供給パルスの頻度を増加する、
c)より高い微生物活性の増加したリスクが予測される前記塔または前記パルパーから内容物を出す、
d)前記塔から内容物を出す頻度を調整する、または
e)項目a)~d)の任意の組み合わせを行う、<9>または<10>に記載の方法。