(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】液晶パネル及び光スイッチング素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20231129BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20231129BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20231129BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20231129BHJP
G02F 1/139 20060101ALI20231129BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1333 500
G02F1/1335
G02F1/1343
G02F1/139
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2023061072
(22)【出願日】2023-04-05
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2022066568
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518295945
【氏名又は名称】株式会社SteraVision
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】弁理士法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】上塚 尚登
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-238529(JP,A)
【文献】特開2004-286961(JP,A)
【文献】特開2001-028343(JP,A)
【文献】特開2021-184005(JP,A)
【文献】特開2020-106616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/1343
G02F 1/1335
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、
前記電極が、前記透明基板の内側の面に対して起立する起立面を有する透明スペーサを、前記起立面が対面するように複数配置し、対面する前記起立面にそれぞれ正極となる透明電極と負極となる透明電極を形成し、
前記正極となる透明電極と前記負極となる透明電極の間に、前記液晶が充填された液晶層を設けてなり、
前記液晶層における前記液晶はポリマー安定化ブルー相液晶であり、
前記液晶内のダイレクターからなる屈折率楕円体が、前記電極に電圧を加えて電界を生じさせた際に、前記電界の方向に沿って長軸となる特性を有し、
複数の前記透明スペーサは、前記透明基板の面内方向で所定の方向に延びる線状又は棒状に形成され、前記電界の方向に周期的に等間隔で配置され、
前記透明スペーサの前記電界の方向における幅と、前記液晶層の前記電界の方向における幅は、同一又は±50%の範囲内に形成されていることを特徴とする液晶パネル。
【請求項2】
一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、
前記電極が、前記透明基板の内側の面に対して起立する起立面を有する透明スペーサを、前記起立面が対面するように複数配置し、対面する前記起立面にそれぞれ正極となる透明電極と負極となる透明電極を形成し、
前記正極となる透明電極と前記負極となる透明電極の間に、前記液晶が充填された液晶層を設けてなり、
前記液晶層における前記液晶はポリマー安定化ブルー相液晶であり、
前記液晶内のダイレクターからなる屈折率楕円体が、前記電極に電圧を加えて電界を生じさせた際に、前記電界の方向に沿って長軸となる特性を有し、
複数の前記透明スペーサは、前記透明基板の面内方向で所定の方向に延びる線状又は棒状に形成され、前記電界の方向に周期的に等間隔で配置され、
前記透明スペーサの一方の電極と、当該透明スペーサに隣接する透明スペーサの一方の電極との間隔を周期とすると、前記周期を使用光の波長の1/2倍以上4倍以下に設定してなることを特徴とする液晶パネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液晶パネルであって、
前記透明スペーサの屈折率を、前記液晶に電界を印加したときの常光の屈折率と、異常光の屈折率との間の値としたことを特徴とする液晶パネル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液晶パネルであって、
前記透明電極が酸化亜鉛を主原料とする素材により形成されていることを特徴とする液晶パネル。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の液晶パネルであって、
前記透明スペーサと前記透明電極が、一対の前記透明基板の双方の内面に設けられ、一方の前記透明スペーサと他方の前記透明スペーサとの間に前記液晶層を設けてなることを特徴とする液晶パネル。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の液晶パネルであって、
前記透明スペーサと前記透明電極が、一方の前記透明基板の内面に設けられ、前記透明スペーサと他方の前記透明基板の内面との間に前記液晶層を設けてなることを特徴とする液晶パネル。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の液晶パネルであって、
前記透明スペーサの前記透明基板の面外方向の厚さは、一対の前記透明基板の間隔の70%以上95%以下に形成されていることを特徴とする液晶パネル。
【請求項8】
一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルを用いた光スイッチング素子であって、
前記液晶パネルは、前記電極が、前記透明基板の内側の面に対して起立する起立面を有する透明スペーサを、前記起立面が対面するように複数配置し、対面する前記起立面にそれぞれ正極となる透明電極と負極となる透明電極を形成し、
前記正極となる透明電極と前記負極となる透明電極の間に、前記液晶が充填された液晶層を設けてなり、
前記液晶層における前記液晶はポリマー安定化ブルー相液晶であり、
前記液晶内のダイレクターからなる屈折率楕円体が、前記電極に電圧を加えて電界を生じさせた際に、前記電界の方向に沿って長軸となる特性を有するものであり、
複数の前記透明スペーサは、前記透明基板の面内方向で所定の方向に延びる線状又は棒状に形成され、前記電界の方向に周期的に等間隔で配置され、
前記透明基板の一方の表面に透過型の回折部材を装着してなり、
前記回折部材は、複屈折を持つダイレクターが、所定の周期で一方向に回転軸を中心に回転するものであり、
前記回折部材のダイレクターの前記回転軸の方向を、前記透明電極の延設方向に向けて前記回折部材を前記透明基板に装着したことを特徴とする光スイッチング素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光スイッチング素子を積層した光スイッチング素子積層体であって、
前記光スイッチング素子の前記回折部材が装着された面を表面とし、他方の面を裏面としたときに、
前記光スイッチング素子の表面に、他の光スイッチング素子の裏面を装着してなることを特徴とする光スイッチング素子積層体。
【請求項10】
請求項9に記載の光スイッチング素子積層体であって、
積層された複数の前記光スイッチング素子に装着された前記回折部材は、
光の入射方向の上流側にある前記回折部材に比べて、下流側にある前記回折部材の偏向角度を大きく設定したことを特徴とする光スイッチング素子積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル、及びその液晶パネルを用いた光スイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車の自動運転技術の開発が進められており、その中でも自動車の周囲の障害物等を検出するセンサ技術の開発が重要となっている。また、ロボット分野における把持対象物の検出や、障害物の検出においてもセンサ技術の開発が重要となっている。
【0003】
このようなセンサ技術の一環として、レーザー光等の光ビームを用いてセンシングを行うLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging:ライダー)の開発に注目が集まっている。LiDARでは、光ビームを外部に出射して、その光ビームが障害物等に当たって反射された際に、その反射光を受光して出射光と反射光との時間遅延や位相差等を利用して障害物の検出を行っている。
【0004】
本願発明者は、このLiDARに用いることができる光スイッチング素子を提案している(特許文献1)。この特許文献1における光スイッチング素子は、ポリマー安定化ブルー相液晶を用いた液晶パネルの表面に偏光グレーティングを装着し、その両面に傾斜部材であるガラスウェッジを装着している。
【0005】
特許文献1における液晶パネルは、2枚のガラス基板の表面に薄膜状の透明電極を形成し、その透明電極の間にポリマー安定化ブルー相液晶を充填し、光照射により安定化させている。特許文献1における光スイッチング素子は、上記構成により、従来のネマティック液晶等よりも高速でスイッチングが可能なポリマー安定化ブルー相液晶を用いることで、高速なスイッチングを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者等は、特許文献1に記載の光スイッチング素子を用いたLiDARの開発を進めており、特に車載用のLiDARの実用化に向けて研究を続けている。車載用のLiDARは、電源が車両のバッテリーであるため、作動電圧がバッテリー電圧を超える場合は昇圧器等が必要となり、部品点数及び重量が増加するため好ましくない。
【0008】
特許文献1に記載の光スイッチング素子は、ポリマー安定化ブルー相液晶を採用することにより、高速なスイッチングを実現しているが、比較的高い作動電圧を必要としている。従って、車載用のLiDARの実用化のためには、作動電圧を低下させ、消費電力の低減を実現することが望まれている。
【0009】
本発明は、LiDAR、或いはロボット等のセンサ等に好適に用いることができ、従来よりも低い電圧で作動が可能な光スイッチング素子、及びその光スイッチング素子に用いられる液晶パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の液晶パネルは、一対の透明基板の間に電極及び液晶が保持された液晶パネルであって、前記電極が、前記透明基板の内側の面に対して起立する起立面を有する透明スペーサを、前記起立面が対面するように複数配置し、対面する前記起立面にそれぞれ正極となる透明電極と負極となる透明電極を形成し、前記正極となる透明電極と前記負極となる透明電極の間に、前記液晶が充填された液晶層を設けてなり、前記液晶内のダイレクターからなる屈折率楕円体が、前記電極に電圧を加えて電界を生じさせた際に、前記電界の方向に沿って長軸となる特性を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の液晶パネルは、透明電極が透明スペーサの起立面(の側壁)に設けられており、正負の透明電極の間に液晶層を有している。このため、電極に電圧を加える際の電界の方向を透明基板と平行にすることができる。従って、正極と負極との間の液晶に直接電圧を印加することができるので、少ない電力で液晶を作動させることができる。
【0012】
また、液晶内のダイレクターからなる屈折率楕円体が電界の方向に沿って長軸となる特性を有しているので、電極に電圧を印加することによって透明基板に入射される光にリターデーションを効率的に生じさせることができる。
【0013】
また、本発明の液晶パネルにおいて、前記液晶層における前記液晶をポリマー安定化ブルー相液晶としてもよい。当該構成により、従来のネマティック液晶等よりも高速でスイッチングが可能となる。
【0014】
また、本発明の液晶パネルにおいて、複数の前記透明スペーサは、前記透明基板の面内方向で所定の方向に延びる線状又は棒状に形成され、前記電界の方向に周期的に等間隔で配置されていてもよい。このような周期構造を有する液晶パネルを光が通過すると、0次、±1次、±2次・・・等の複数の光ビームが形成される。
【0015】
また、本発明の液晶パネルにおいて、前記透明スペーサの前記電界の方向における幅と、前記液晶層の前記電界の方向における幅は、同一又は±50%の範囲内に形成することができる。当該構成により、電界の方向において透明スペーサ及び透明電極からなる電極と液晶層を周期構造とすることができる。
【0016】
液晶ディスプレイ等の機器においては、ディスプレイに対して広い角度で画像が見えるようにするために、このような高次の光ビーム(±1次、±2次・・・等)を生じさせることが好ましい。しかしながら、LiDAR等の機器に用いる液晶パネルにおいては、高次の光ビームが発生すると光が拡散してしまい、当該用途にとっては不都合となる。
【0017】
本発明の液晶パネルでは、上記構成とすることにより、高次の光ビームの発生を抑制し、光が拡散しないようにしている。なお、本発明の液晶パネルにおいては、透明スペーサ及び透明電極の電界の方向における幅と、液晶層の電界の方向における幅は、照射される光の波長の1/4~2倍以内とすることが好ましい。
【0018】
また、本発明の液晶パネルにおいて、前記透明スペーサの一方の電極と、当該透明スペーサに隣接する透明スペーサ(次の透明スペーサ)の一方の電極との間隔を周期(
図2におけるW
5+W
6)とすると、前記周期を使用光の波長の1/2倍以上4倍以下に設定してもよい。このように、透明スペーサの構成を周期構造(一定の長さ)とすることにより、使用光が近赤外光であれば、液晶パネルをLiDAR用のスキャナに用いることができる。また、使用光が可視光であれば、液晶パネルをVR(Virtual Reality)用のゴーグル、車載用のヘッドアップディスプレイ、又は壁面やスクリーンに映像を投影するディスプレイ用に用いることができる。
【0019】
また、本発明の液晶パネルにおいて、前記透明スペーサの屈折率を、前記液晶に電界を印加したときの常光の屈折率と、異常光の屈折率との間の値とすることが好ましい。これにより、高次の光ビームの発生を抑制するとともに、液晶パネルに入射される入射光が斜めになった場合でも、屈折率コントラストが小さくなるので、透過する光の損失を大幅に小さくすることができる。
【0020】
また、上記各液晶パネルにおいて、前記透明電極が酸化亜鉛を主原料とする素材により形成されていることが好ましい。ここで、主原料とは、原料全体に占める質量%が50%以上である原料を言う。本発明の液晶パネルでは、起立面に透明電極が形成されているため、透明基板から入射された一部分の光が、透明スペーサのほぼ厚さ分と同じ長さの透明電極の内部を通過することになる。このため、透明電極の内部を通過する光の損失を抑えるために、ITOよりも透明性の高い酸化亜鉛を含む素材を用いることが好ましい。
【0021】
上記各液晶パネルの内部構成に関し、第一の態様は、前記透明スペーサと前記透明電極が、一対の前記透明基板の双方の内面に設けられ、一方の透明スペーサと他方の透明スペーサとの間に液晶層を設けたものとすることができる。第一の態様の液晶パネルは、液晶パネルに用いられる透明スペーサと透明電極を一対の透明基板のそれぞれに設けており、透明スペーサをエッチング等の加工で形成する際に、加工処理が容易となる。
【0022】
上記各液晶パネルの内部構成に関し、第二の態様は、前記透明スペーサと前記透明電極が、一方の前記透明基板の内面に設けられ、前記透明スペーサと他方の前記透明基板の内面との間に液晶層を設けたものとすることができる。第二の態様の液晶パネルは、透明スペーサと透明電極を一方の透明基板に設けており、他方の透明基板には設けていないため、構成を簡素化することができる。
【0023】
また、上記各液晶パネルにおいて、前記透明スペーサの厚さを、一対の前記透明基板の間隔の70%以上95%以下に形成してもよい。当該構成によれば、一対の透明基板に挟まれた液晶の多くの部分でダイレクターからなる屈折率楕円体に電界を生じさせることができる。この割合が70%未満であると、液晶パネルを光スイッチング素子に用いた際の性能が低くなる。逆に、この割合が95%を超えると、対面する透明スペーサ同士、或いは透明基板と透明スペーサが接触するおそれがあり、接触による傷の発生等のおそれがあるため好ましくない。
【0024】
本発明の光スイッチング素子は、上記各液晶パネルを用いたものであって、前記透明基板の一方の表面に透過型の回折部材を装着したものである。また、本発明の光スイッチング素子においては、前記回折部材のダイレクターの回転軸の方向を、前記透明電極の延設方向(±10°以内)に向けて、前記回折部材を前記透明基板に装着してもよい。当該構成とすることにより、入射される光の角度が各電極の延設方向に傾いた場合であっても、光の透過効率が変化しないものとすることができる。
【0025】
また、当該光スイッチング素子の前記回折部材が装着された面を表面とし、他方の面を裏面としたときに、前記光スイッチング素子の表面に、他の光スイッチング素子の裏面を装着することにより光スイッチング素子積層体とすることができる。
【0026】
また、当該光スイッチング素子積層体において、積層された複数の前記光スイッチング素子に装着された回折部材を、光の入射方向の上流側にある前記回折部材に比べて、下流側にある前記回折部材の偏向角度を大きく設定してもよい。当該構成により、出射光の出射角度を大きくして広範囲に出射光を照射することが可能となる。
【0027】
本発明の液晶パネル用基板の製造方法は、前記液晶パネル用基板の素材となる素材基板の表面にマスク層を形成するマスク層形成ステップと、前記マスク層の表面に所定のパターンとなるパターンレジスト層を形成するパターンレジスト層形成ステップと、前記パターンレジスト層の形状に前記マスク層をエッチングする第1エッチングステップと、前記素材基板を前記パターンの形状が所定の厚さとなるようにエッチングして透明基板の表面に起立する起立面を有する透明スペーサを形成する第2エッチングステップと、前記第2エッチングステップ後に前記マスク層を除去するマスク層除去ステップと、前記透明基板及び前記起立面を含む前記透明スペーサの表面に、透明電極を形成する電極膜を形成する透明電極形成ステップと、前記透明基板及び前記透明スペーサの平面部における前記電極膜をエッチングし、前記起立面における前記電極膜を残存させて前記透明電極を形成する選択スパッタエッチングステップを備えることを特徴とする。
【0028】
このような各ステップにより、素材基板から透明スペーサ及び透明基板を形成し、透明スペーサの起立面に電極膜を形成し、不要な部分の電極膜をエッチングして透明電極を形成することができる。なお、前記パターンレジスト層の除去は、前記第2エッチングステップにおいて行ってもよく、第1エッチングステップにおいてマスク層をエッチングした後に行ってもよく、第2エッチングステップ後のマスク層除去ステップにおいて行ってもよい。
【0029】
また、本発明の液晶パネル用基板の製造方法は、前記透明電極形成ステップにおいて、前記電極膜をAlドープZnOを原料としてALD技術で形成してもよい。ここで、ALD(Atomic Layer Deposition)技術とは、真空を利用した成膜技術であり、原子の性質である自己制御性を利用し、一層ずつ原子を堆積する技術を言う。このALD技術を用いてAlドープZnO(AZO)で成膜することにより、本発明の液晶パネル及び光スイッチング素子に好適な透明電極を形成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、LiDAR、或いはロボット等のセンサや、VR用のゴーグル、ヘッドアップディスプレイ、或いは投影用のディスプレイ等に好適に用いることができ、従来よりも低い電圧で作動が可能な液晶パネル、その液晶パネルを用いた光スイッチング素子及び液晶パネル用基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】(A)は本実施形態の光スイッチング素子の外観を示す説明図、(B)は
図1の光スイッチング素子の電極と回折部材のダイレクターとの関係を示す説明図。
【
図2】(A)は
図1の光スイッチング素子の断面の一部を示す説明図、(B)は
図1の光スイッチング素子の電極の状態を模式化した説明図。
【
図3】(A)は第一の実施形態の液晶パネルにおける電界の状態を示す説明図、(B)は液晶層の屈折率楕円体の模式化した状態を示す説明図。
【
図4】液晶と透明スペーサの屈折率の関係および電界の二乗と複屈折率差(屈折率楕円体の長軸(ne)と短軸(no)の屈折率差)を示すグラフ。
【
図5】第二の実施形態の液晶パネルの断面を示す説明図。
【
図6】(A)は
図1の光スイッチング素子を積層した積層体を示す説明図、(B)は(A)の積層体の断面を模式化した説明図。
【
図7】(A)~(G)は、本発明の液晶パネル用基板の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施形態の一例である液晶パネル、及び光スイッチング素子について、
図1~
図6を参照して説明する。
図1及び
図2(A)に示すように、第1の実施形態の光スイッチング素子1Aは、第1の実施形態の液晶パネル2Aと、液晶パネル2Aの光の入射方向の下流側に装着された回折部材3とを備えている。
【0033】
第1の実施形態の光スイッチング素子1Aは、
図2(A)に示すように、一対の透明基板4の間に液晶5が保持された液晶パネル2A内に、第1の実施形態の電極6Aが配置されている。光スイッチング素子1Aは、液晶パネル2Aの一方の面に回折部材3を装着し、さらに電極6Aに給電を行う給電電極7を装着したものとなっている。
【0034】
本実施形態では、透明基板4は石英ガラスを使用しており、液晶5にはポリマー安定化ブルー相液晶を用いている。このポリマー安定化ブルー相液晶は、電圧を加えた際にダイレクターからなる屈折率楕円体5aが電界の方向に沿って長軸となる性質を有している。ここで、屈折率楕円体5aの長軸方向は、電界の方向と概ね一致していればよく、液晶パネル2Aを通過する光にリターデーションを生じさせることができればよい。
【0035】
電極6Aは、一対の透明基板4の内側の面の双方に設けられており、透明スペーサ61及び透明電極62を備えている。透明スペーサ61は、透明基板4の面内方向で所定の方向に延びる線状又は棒状に形成され、透明基板4に対して起立する起立面61aを有しており、この起立面61aに透明電極62が形成されている。
【0036】
また、電極6Aは、これらの透明電極62及び起立面61aが対面するように複数配置されており、隣接する透明電極62は、それぞれ正極6Pとなる透明電極と負極6Mとなる透明電極を有する。本実施形態の液晶パネル2Aは、正極6Pとなる透明電極と負極6Mとなる透明電極との間に液晶5が充填された液晶層が設けられている。
【0037】
電極6Aに用いられている透明スペーサ61は、本実施形態では二酸化ゲルマニウム(GeO2)ドープ石英ガラスを用いている。透明電極62は、本実施形態では酸化亜鉛(ZnO)を主原料とし、AlやGaを添加した材料を用いている。本実施形態では、酸化亜鉛の含有率は98質量%であり、Alが2質量%でその他の添加物は入れていない。なお、Alの代わりにGaを添加したZnOを用いても良く、また、水素プラズマ処理をした純粋なZnOを用いても良い。
【0038】
また、回折部材3は、透過型の回折部材である偏光グレーティングを用いている。本実施形態において、回折部材3として、例えばエドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社の「Polarization Grating」を用いることができる。この「Polarization Grating」は、1/2波長板と同じ位相差をもちその光学軸が一定周期で回転している製品である。また、
図2(A)に示すように、透明基板4の外面には、透明基板4と屈折率が同一の光学接着剤層4aが設けられている。
【0039】
図2(A)に示すように、電極6Aは、正極6Pと負極6Mで構成される。これら正極6Pと負極6Mは、
図2(B)に示すように、透明基板4の面外方向(透明基板4の面を正面から見る方向)から見たときに、それぞれ櫛歯状となるように形成されている。また、正極6Pと負極6Mは、
図2(B)に示すように、透明基板4の面内方向(図において上下方向)に交互に配列されている。
【0040】
本願においては、電極6(
図1(B)参照)の構造を把握しやすくするために、各部材の厚さ方向の寸法を圧縮して図示している。例えば、
図2(A)においては、縦方向の縮尺を1とすると、横方向の縮尺は約1/6としている。
図3及び
図54においても同様である。また、電極6Aの正極6Pと負極6Mは、寸法的に肉眼で形状を識別することはできないが、
図2(B)においては、正極6Pと負極6Mの部分を拡大して形状が識別できるように図示している。
【0041】
図2(A)に示すように、第1の実施形態の液晶パネル2Aでは、正極6P、負極6Mの幅W
6及びこれらの電極の間隔W
5は、同一の長さとなるように形成されており、本実施形態では2μmに設定している。従って、本実施形態における複数の透明スペーサ61は、透明基板4の面内方向で電界の方向に周期的に等間隔で配置されている。
【0042】
ここで、透明スペーサ61に形成された正極6Pの一方の透明電極62と、これに隣接する透明スペーサ61に形成された負極6Mの一方の透明電極62との間隔、即ち、
図2(A)における液晶の間隔W
5と透明スペーサ61及び透明電極62の幅W
6を加算した間隔を周期とすると、この周期を使用光の波長の1/2倍以上4倍以下に設定することができる。
【0043】
このような周期構造においては、0次(入射した光がそのままの方向を保存して進む次数の光)の他、高次の次数(±1次、±2次、・・・)の光が発生する。本技術では、0次の光を使用し、高次の次数の光は不要光であり、できるだけ小さくする必要がある。
【0044】
一般的に、周期構造に光を入射した場合、その出射光は次式で与えられる。
sinθ=sinθo+m・λ/Λ (1)
ここで、θoは透明基板4の垂線となす角で定義した入射角度
θは透明基板4の垂線となす角で定義した出射角度
mは次数(0,±1,±2・・・)
λは真空中の波長
Λは透明スペーサの周期(W5+W6)
【0045】
周期(W5+W6)が使用光の波長(例えば1.55μm)に比べ1/2より小さい場合は、ほぼどんな入射角度θoの場合でも、式(1)より解がなくなり(sinθが1より大きくなる)、高次の次数(±1次、±2次、・・・)が発生しなくなり、望ましい性能が得られるがレジスト露光およびエッチング加工が極めて困難となるという不都合が発生する。また、間隔(W5+W6)が使用光の波長の4倍を超える場合は、不要次数(±1次、±2次、・・・)が発生し、損失が発生するという不都合がある。
【0046】
このような構成とすることにより、使用光に可視光(波長約0.3~0.7μm)を用いるときは、液晶パネル2AをVR(Virtual Reality)用のゴーグル、車載用のヘッドアップディスプレイ、又は壁面やスクリーンに映像を投影するディスプレイ用の液晶パネルに用いることができる。また、使用光に近赤外光(波長約0.7~2.5μm)を用いるときは、液晶パネル2AをLiDAR用のスキャナ、或いは他の物体検知センサ等に用いることができる。
【0047】
また、正極6P及び負極6Mの起立面61aの高さ(厚さ)H6は、4μm~16μmに設定しており、本実施形態では8μmとしている。この起立面61aの高さH6は、一対の透明基板4の間隔H5の70%以上に設定することが好ましく、本実施形態では80%としている。なお、起立面61aの透明基板4に対する角度は、本実施形態では90°にしているが、70°~90°の範囲内に設定すればよい。
【0048】
図2(B)に示すように、正極6Pと負極6Mには、櫛歯の根元の部分に給電電極7が接続されている。この給電電極7によって、正極6Pと負極6Mは、電圧が相対的に正と負になり、正極6Pと負極6Mの間に電界が生じる。この正極6Pと負極6Mは、外部のドライバー(図示省略)によって、ある時間で反転することでスイッチング動作が可能となっている。
【0049】
ここで、本実施形態の光スイッチング素子1Aにおける液晶パネル2Aと回折部材3のダイレクターDとの関係を
図1(B)に示す。回折部材3は、
図1(B)に示すように、複屈折を持つダイレクターDが、所定の周期で一方向に回転軸Aを中心に回転しているものであり、円偏光の光ビームを入射すると、円偏光の回転方向で出力する光ビームが右、左に偏向する機能を持っている。
【0050】
図1(B)に示すように、本実施形態の光スイッチング素子1Aにおいては、正極6Pと負極6Mが櫛歯状に形成されており、各電極の延びている延設方向と、ダイレクターDの回転軸Aが一致するように(±10°以内)、液晶パネル2Aと回折部材3を組み合わせている。当該構成とすることにより、入射される光の角度が図中のX方向(各電極の延設方向)に傾いた場合であっても、光の透過効率が変化しないものとすることができる。
【0051】
一方で、入射される光の角度が図中のY方向(電界の方向)に傾いた場合は、正極6P、負極6Mの幅W6及びこれらの電極の間隔W5の寸法からなる周期、さらに後で述べる液晶5と透明スペーサ61との屈折率差により透過効率が変化する。特に、印加電圧が高くなると、液晶5と透明スペーサ61との屈折率差が大きくなり、高次の光ビームが発生し、0次の光ビームの透過率の低下が大きくなる。
【0052】
光の角度がY方向に傾いた際の光の透過効率は、W6及びW5の寸法で決まる周期が小さいほど劣化が少ないが、レジスト露光、エッチング加工が困難となる。本願発明者等の検証によれば、正極6P、負極6Mの幅W6及びこれらの電極の間隔W5の寸法は、入射される光の波長の1/4~2倍以内とすることが好ましい。また、電界を印加しない場合の液晶屈折率(ni)と透明スペーサ61との屈折率差を0.05以内にすることが望ましい。さらには電界を印加した時の液晶の屈折率楕円体の常光(no)と異常光(ne)の間の屈折率に透明スペーサ61との屈折率差を設定することが好ましい。
【0053】
このように、正極6P、負極6Mの幅W6及びこれらの電極の間隔W5は小さい方が良いが、現状では製造技術上の限界等の理由から、現実的な値として、幅W6及びW5は0.2μm~6μmの範囲となる。また、起立面61aの高さH6は、高い方が低電圧化できるため高い方がよいが、こちらも製造技術上の理由から、高さH6は2μm~25μmの範囲となる。また、この起立面61aの高さH6は、一対の透明基板4の間隔H5の70%以上とすることが好ましく、本実施形態では84%としている。
【0054】
次に、
図3を参照して、第1の実施形態の液晶パネル2Aにおける電界の状態について説明する。
図3は液晶パネル2Aの電極に電圧を印加した状態の電界の等高線と方向を示す説明図である。
【0055】
図3に示すように、電極6Aの正極6P及び負極6Mに電圧を印加すると、正極6Pと負極6Mの間には、図中の矢印に示すように、正極6Pから負極6Mの方向に電界が生じる。この電界の方向は、正極6Pと負極6Mの間では透明基板4と平行となり、透明基板4の面内方向と一致している。また、図において左側に位置する電極6Aと右側に位置する電極6Aとの間に液晶5が介在しているが、この電極6Aの間の液晶5にも透明基板4と平行な電界が生じている。
【0056】
このように、液晶5には、透明基板4と平行な方向に電界が作用する。本実施形態においては、液晶5にはポリマー安定化ブルー相液晶を用いており、
図3(B)に示すように、電界を作用させることで液晶5内の屈折率楕円体5aを透明基板4と平行に配列させることができる。この状態で液晶パネル2Aに光を照射すると、液晶5の作用によって、液晶パネル2Aを通過する光にリターデーションを効率的に生じさせることができる。
【0057】
一方で、正極6P及び負極6Mの間に電界を作用させない状態では、液晶中の屈折率楕円体5aは側面視で球状の屈折率楕円体(図示省略)となり、光学的にアイソトロピック(等方性)な媒質となり、液晶パネル2Aに光が照射されても、液晶パネル2Aを通過する光にはリターデーションは生じない。
【0058】
このように、正極6P及び負極6Mの間の電界のオンオフにより、動作が高速なポリマー安定化ブルー相液晶をスイッチングすることができる。従って、本実施形態の電極6Aを用いた液晶パネル2Aによって、高速にスイッチングが可能な光スイッチング素子1Aを形成することができる。なお、ここでは、便宜上、電極6Aを正極6Pと負極6Mとしているが、実際は正と負は時間的に逆転する交番電圧で制御するため、正極6Pと負極6Mが交互に入れ替わる。
【0059】
また、第1の実施形態の液晶パネル2Aでは、透明スペーサ61に二酸化ゲルマニウムドープ石英ガラスを用いて、その屈折率を液晶層の屈折率の所定の範囲となるように調整している。これにより、入射光が斜めになった場合でも、屈折率コントラストが小さくなるので、±1次、±2次の高次の光に結合することなく、透過する0次の光の損失を小さくすることができる。
【0060】
具体的には、透明スペーサ61の屈折率を、液晶の屈折率である以下のno(E)からne(E)の間の値になるように調整している。ここで、no(E)は電界を印加したときの常光の屈折率であり、ne(E)は電界を印加したときの異常光の屈折率であり、以下の式で表される。
no(E)=ni-Δnind(E)/3 (2A)
ne(E)=ni+2Δnind(E)/3 (2B)
【0061】
但し、niは、電界を印加しないときの屈折率であり、Δnind(E)は拡張カー効果(extended Kerr effect)の影響を考慮した両屈折率の差であり、以下の式で表される。
Δnind(E)=ΔnS(1-exp[-(E/Es)2]) (3)
ここで、ΔnSは飽和屈折率変化であり、Esは飽和電界を表す。
【0062】
図4(A)は、電界が印加されていないときの液晶5の屈折率と、電界を印加した時のn
o(E)及びn
e(E)の変化を表したグラフである。
図4(B)のグラフは、縦軸がn
o(E)とn
e(E)の屈折率差Δnであり、横軸が印加される電圧の二乗の値である。一般にブルー相液晶に電界(E)を印加した場合、屈折率差Δnは小さい電圧の領域ではEの二乗に比例して屈折率差が変化するカー効果が支配的である。
【0063】
しかしながら、大きな電圧の領域では、常光(n
o)、異常光(n
e)の屈折率の飽和により、
図4(B)に示すように、屈折率差Δnも飽和的な傾向を示す。このため、本実施形態においては、大きな電圧におけるn
o(E)及びn
e(E)の屈折率を正確に導き出すために(3)式を用いており、透明スペーサ61の屈折率を、
図4(A)のn
oとn
eの間の値となるように、石英ガラスにドープする物質及びドープ量を調整している。ここでは、石英ガラスに二酸化ゲルマニウムをドープしている。
【0064】
なお、第1の実施形態における電極6Aは、例えば、石英ガラスの一方の面に二酸化ゲルマニウムをドープした層を形成し、電極の形状にエッチング処理を行い、その表面に酸化亜鉛を付着させ、エッチング処理で不要な酸化亜鉛を除去することにより形成することができる。あるいは、電極6Aは、最初から二酸化ゲルマニウムをドープした石英ガラスを用いてもよい。
【0065】
次に、
図5を参照して、本発明の第2の実施形態の光スイッチング素子1B、液晶パネル2B及び電極6Bについて説明する。第2の実施形態の液晶パネル2Bでは、電極6Bが透明基板4の一方にのみ固定されている点が上記第1の実施形態の電極6Aと相違している。なお、第1の実施形態と同様の構成には、同様の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0066】
第2の実施形態の電極6Bは、
図5に示すように、図の右側の透明基板4の内面に透明スペーサ61及び透明電極62が設けられており、図の左側の透明基板4の内面には電極6Bは設けられていない。図の左側の透明基板4の内面と透明スペーサ61との間には液晶5が充填されている。
【0067】
第2の実施形態の電極6Bは、第1の実施形態の電極6Aと同様に、正極6Pと負極6Mが設けられ、その間に液晶層が形成されており、これらの構成は
図2(B)と同様である。また、正極6P及び負極6Mの起立面61aの高さ(厚さ)H
6は、4μm~16μmに設定しており、本実施形態では16μmとしている。この起立面61aの高さH
6は、一対の透明基板4の間隔H
5の70%以上に設定することが好ましく、本実施形態では80%としている。
【0068】
この第2の実施形態の電極6Bにおいても、第1の実施形態とほぼ同様に、正極6Pと負極6Mの間では電界の方向が透明基板4と平行となり、透明基板4の面内方向と一致する電界を生じさせることができる。
【0069】
次に、
図6を参照して、光スイッチング素子積層体10について説明する。光スイッチング素子積層体10は、
図1に示す光スイッチング素子1Aを複数枚積層したものとなっている。本実施形態では、8枚の光スイッチング素子1Aを積層しているが、積層する枚数は、角度分解能(スイッチする最小偏向角度)と最大偏向角度等に応じて適宜選択する。
【0070】
図6(B)は、
図6(A)の光スイッチング素子積層体10の液晶パネル2Aの断面を模式的に表した図である。
図6(B)に示すように、光スイッチング素子1Aは、液晶パネル2Aの一方の面に透過型の回折部材3を装着している。
【0071】
本実施形態の光スイッチング素子積層体10は、回折部材3を装着した面を表面とし、他方の件を裏面としたときに、表面を光の入射方向の下流側に配置し、この表面に他の光スイッチング素子1Aの裏面を装着することにより形成している。
【0072】
本実施形態においては、光の入射方向の上流側に設けられた回折部材3の偏光角度に比べて、下流側に設けられた回折部材3の偏向角度を大きく設定している。例えば、光の入射方向の上流側の回折部材3の偏光角度を0.1°とし、2番目の回折部材3の偏光角度を0.2°として、下流側に2倍ずつ偏光角度が増加する構成となっている。
【0073】
回折部材3について、このように光の入射方向の上流側から下流側に向けて偏光角度を変化させることにより、出射光の出射角度を大きくして広範囲に出射光を照射することが可能となる。なお、本構造は1次元の光スイッチング素子であるが、これを2組用い90°回転させて配置することで2次元の光スイッチング素子が実現可能である。
【0074】
本実施形態の光スイッチング素子1A及び光スイッチング素子1Bは、共に10V以下程度の電圧で作動が可能となっている。これは、ハイブリッド車、電気自動車及び内燃機関を有する通常車両においては、昇圧器等を用いることなく作動させることができるため、車載用のLiDARに好適な光スイッチング素子となる。
【0075】
なお、上記実施形態においては、液晶5としてポリマー安定化ブルー相液晶を用いているが、これに限らず、電圧を加えた際に屈折率楕円体5aが電界の方向に沿って長軸となる特性を有する液晶であれば、他の素材により形成された液晶を用いてもよい。
【0076】
また、上記実施形態において、透明スペーサ61に二酸化ゲルマニウム(GeO2)ドープ石英ガラスを用いているが、これに限らず、五酸化二リン(P2O5)や二酸化チタン(TiO2)等、石英ガラスの屈折率を上昇させるドーパントを用いてもよい。また、上記実施形態において、透明電極62にAl添加の酸化亜鉛(ZnO)を用いているが酸化亜鉛にGaなど他の添加物を含む物質としてもよい。あるいは、可視光の波長域では、ZnOの代わりにITO(Indium Tin Oxide)を用いてもよい。
【0077】
次に、本発明の液晶パネル用基板の製造方法について、
図7を参照して説明する。本実施形態の液晶パネル用基板の製造方法は、液晶パネル2A又は液晶パネル2Bと同様の構成を有する液晶パネルに用いることが可能な基板40(
図7(G)参照)を製造する方法である。本実施形態における基板40は、上記実施形態における透明基板と透明スペーサを一体として形成するものとなっている。
【0078】
本実施形態の製造方法は、透明基板及び透明スペーサの素材となる素材基板41の表面にマスク層42を形成するマスク層形成ステップと、マスク層の表面に所定の透明スペーサのパターンとなるパターンレジスト層43を形成するパターンレジスト層形成ステップと、パターンレジスト層43の形状にマスク層42をエッチングする第1エッチングステップと、素材基板41をパターンの形状が所定の厚さとなるようにエッチングして透明基板4表面に起立する起立面61aを有する透明スペーサ61を形成する第2エッチングステップと、第2エッチングステップ後にマスク層42を除去するマスク層除去ステップと、透明基板4及び起立面61aを含む透明スペーサ61の表面に、透明電極を形成する電極膜44を形成する透明電極形成ステップと、透明基板4及び透明スペーサ61の平面部における電極膜44をエッチングし、起立面61aにおける電極膜44を残存させて透明電極62を形成する選択スパッタエッチングステップを備えている。
【0079】
まず、マスク層形成ステップでは、
図7(A)に示すように、素材基板41の表面にマスク層42を形成する。本実施形態では、素材基板41の素材に石英ガラスを用いている。また、マスク層42の素材としてクロム(Cr)を用いている。素材基板41の表面へのマスク層42の形成は、一般に用いられているスパッタリングの手法を用いている。或いは、マスク層42の形成を公知の電子ビーム蒸着により形成することもできる。マスク層42の素材としては、クロム(Cr)の他、タングステンシリサイド(WSix)等の他の金属も使用可能である。
【0080】
次に、パターンレジスト層形成ステップでは、
図7(B)に示すように、マスク層42の表面に透明スペーサ61のパターンとなるパターンレジスト層43を形成する。パターンレジスト層43は、公知の感光性膜を用いたフォトレジスト等の手法により形成することができる。本実施形態では、パターンレジスト層43の素材にノボラック系樹脂を用いているが、市販のフォトレジストを用いることができる。
【0081】
次に、
図7(C)に示す第1エッチングステップを行う。この第1エッチングステップでは、RIE(Reactive Ion Etching)という手法を用いてパターンレジスト層43の形状にマスク層42を形成する。エッチング処理は、例えば、塩素系ガスを減圧下での放電によりプラズマ状態にし、発生したイオンや中性ラジカル等の活性種とエッチング対象のマスク層42との反応によりマスク層42を所望の形状にエッチングする処理である。このエッチング処理は、クロム皮膜を除去可能なエッチング液を用いた処理であってもよい。
【0082】
次に、
図7(D)に示す第2エッチングステップを行う。この第2エッチングステップでは、エッチング処理を行ってパターンレジスト層43を除去すると共に素材基板41を透明スペーサ61に必要な厚さとなるようにエッチングする。本実施形態では、第2エッチングステップにおいては、公知の反応性イオンエッチングRIE(Reactive Ion Etching)という手法を用いている。第2エッチングステップにおいて、フッ素系ガスを用いたRIEを用いることにより、効率よく素材基板41の加工を行うことができる。
【0083】
次に、
図7(E)に示すように、マスク層除去ステップによってマスク層42を除去することで、素材基板41から透明基板4と透明スペーサ61を形成する。マスク層42の除去は、クロム皮膜を除去可能なエッチング処理により行う。
【0084】
次に、
図7(F)に示す透明電極形成ステップを行う。本実施形態では、この透明電極形成ステップにおいて、マスク層除去ステップにおいてマスク層42が除去された透明基板4と透明スペーサ61の表面に、ALD技術を用いてAZO(AlドープZnO)の皮膜である電極膜44を形成している。この電極膜44は、本実施形態では透明電極62として使用できるように、30~40nmの厚さに形成している。
【0085】
次に、
図7(G)に示す選択スパッタエッチングステップを行う。本実施形態では、透明基板4及び透明スペーサ61の平面部における電極膜44をエッチングし、起立面61aにおける電極膜44を残存させて透明電極62を形成する。本実施形態における選択スパッタエッチングステップは、ドライエッチングにおいて、活性種を透明基板4及び透明スペーサ61の表面の法線方向から照射し、透明スペーサ61の起立面61aには活性種が接触しないようにエッチングを行っている。
【0086】
当該処理により、透明基板4及び透明スペーサ61の表面の電極膜44のみが除去され、透明スペーサ61の起立面の電極膜44が残り、この電極膜44が透明電極62となる。このように、本実施形態の製造方法においては、選択スパッタエッチングステップによって効率よく透明スペーサ61に透明電極62を形成することができる。
【0087】
なお、上記実施形態においては、パターンレジスト層43の除去は、第2エッチングステップにおいて行っているが、これに限らず、第1エッチングステップ又はマスク層除去ステップにおいて行ってもよい。
【符号の説明】
【0088】
1A,1B…光スイッチング素子
2A,2B…液晶パネル
3…回折部材
4…透明基板
4a…光学接着剤層
40…基板
41…素材基板
42…マスク層
43…パターンレジスト層
44…電極膜
5…液晶(液晶層)
5a…屈折率楕円体
6A,6B…電極
6P…正極
6M…負極
61…透明スペーサ
61a…起立面
62…透明電極
7…給電電極
10…光スイッチング素子積層体